(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066899
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20240509BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176684
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】高野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】青木 洋一
(57)【要約】
【課題】弾性波共振器と外部との熱的な干渉を抑制することが可能な検出装置を提供する。
【解決手段】検出装置は、上面と、前記上面と対向する下面と、を有する基板10と、前記上面の実装エリアに設けられる弾性波共振器21と、前記実装エリアを囲み、前記実装エリアと外側とを熱的に分離する第1スリット14aと、前記第1スリットに囲まれた第1部分と、前記第1スリットの外側の第2部分と、を有し、前記上面に設けられたベタ導電体層からなる第1グランドパターンGaと、前記弾性波共振器の共振周波数に基づき、流体中の物質を検出する検出回路と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と、前記上面と対向する下面と、を有する基板と、
前記上面の実装エリアに設けられる弾性波共振器と、
前記実装エリアを囲み、前記実装エリアと外側とを熱的に分離する第1スリットと、前記第1スリットに囲まれた第1部分と、前記第1スリットの外側の第2部分と、を有し、前記上面に設けられたベタ導電体層からなる第1グランドパターンと、
前記弾性波共振器の共振周波数に基づき、流体中の物質を検出する検出回路と、
を備える検出装置。
【請求項2】
前記第1グランドパターンは、前記第1部分と前記第2部分とを電気的に接続するブリッジを有する請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記基板の内層に、平面視において前記第1グランドパターンと重なって設けられた第2グランドパターンと、
平面視において、前記ブリッジまたはその近傍に、前記第1グランドパターンと前記第2グランドパターンとを電気的に接続する、内部に金属層が設けられたコンタクトホールを備える請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
平面視において前記実装エリアと重なる前記下面に、前記弾性波共振器を駆動する電源回路または前記弾性波共振器を発振させる発振回路が設けられる請求項3記載の検出装置。
【請求項5】
前記電源回路または前記発振回路を囲み、前記電源回路または前記発振回路と外側とを熱的に分離する第2スリットとを有し、前記下面に設けられた第3グランドパターンを備える請求項4に記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置に関し、例えば弾性波共振器を有する検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
気体または液体等の流体内の特定物質を検出する検出装置として、弾性波共振器を用いる検出装置が知られている(例えば特許文献1)。プリント基板のグランドパターンにスリットを設けることが知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-115927号公報
【特許文献2】特開2019-140135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)等のBAW(Bulk Acoustic Wave)共振器またはSAW(Surface Acoustic Wave)共振器などの共振周波数は、QCM(Quartz Crystal Microbalance)を用いた共振器の共振周波数より高い。高周波特性を考慮すると、コプレーナ導波路のように、信号線を囲むようにグランドパターンを配置する構成となる。このため、弾性波共振器を搭載する基板の表面にグランドパターンが設けられる。また、グランドパターンを介し、弾性波共振器と弾性波共振器の外の回路等とが熱的に干渉しやすい。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、弾性波共振器と外部との熱的な干渉を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上面と、前記上面と対向する下面と、を有する基板と、前記上面の実装エリアに設けられる弾性波共振器と、前記実装エリアを囲み、前記実装エリアと外側とを熱的に分離する第1スリットと、前記第1スリットに囲まれた第1部分と、前記第1スリットの外側の第2部分と、を有し、前記上面に設けられたベタ導電体層からなる第1グランドパターンと、前記弾性波共振器の共振周波数に基づき、流体中の物質を検出する検出回路と、を備える検出装置である。
【0007】
上記構成において、前記第1グランドパターンは、前記第1部分と前記第2部分とを電気的に接続するブリッジを有する構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記基板の内層に、平面視において前記第1グランドパターンと重なって設けられた第2グランドパターンと、平面視において、前記ブリッジまたはその近傍に、前記第1グランドパターンと前記第2グランドパターンとを電気的に接続する、内部に金属層が設けられたコンタクトホールを備える構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、平面視において前記実装エリアと重なる前記下面に、前記弾性波共振器を駆動する電源回路または前記弾性波共振器を発振させる発振回路が設けられる構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記電源回路または前記発振回路を囲み、前記電源回路または前記発振回路と外側とを熱的に分離する第2スリットとを有し、前記下面に設けられた第3グランドパターンを備える構成とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、弾性波共振器と外部との熱的な干渉を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、実施例1における基板の平面図、
図1(c)は、
図1(a)および
図1(b)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)は、
図1(a)のチップ20付近の拡大図であり、
図2(b)は、チップ20のA-A断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1の検出装置を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、比較例1における基板の平面図である。
【
図5】
図5(a)および
図5(b)は、実施例1におけるスリット付近の拡大平面図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、実施例1におけるスリット付近の拡大平面図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、実施例1におけるスリット付近の拡大平面図である。
【
図8】
図8は、実施例1における基板の別の例の断面図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、実施例2における基板の平面図である。
【
図13】
図13は、実施例3の変形例1における基板の平面図である。
【
図14】
図14は、実施例3の変形例2における基板の拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例0014】
以下、実施例1の検出装置を説明する。
図1(a)は、多層基板である基板10の平面図である。
図1(b)は、多層基板である基板10における上から2層目の導電体層の平面図である。
図1(c)は、
図1(a)のA-A断面図である。
図1(a)および
図1(b)では、導電体層12aおよび12bをクロスハッチングにより図示し、コンタクトホール13aおよび13bを点線で図示している。なお、コンタクトホール13aおよび13bは、ビアホールまたはスルーホールである。コンタクトホール13aおよび13b内には金属層が設けられている。基板10の厚さ方向をZ方向、基板10の上面に平行な方向をX方向およびY方向とする。なお、弾性波共振器21と発振回路22とを接続する信号線路(配線)を図示し、それ以外の線路(配線)については省略した。
【0015】
検出装置の基板10は、多層の導電体層12a~12cを含み、この導電体層12a~12cの間を絶縁するために、複数の絶縁体層11aおよび11bが設けられ、両者は交互に積層されている。
図1(a)~
図1(c)では、導電体層12a~12cは3層であり、絶縁体層11aおよび11bは、2層である。基板10の導電体層12a~12cは、2層以上である。回路基板の規模により、導電体層の層数は4層以上となってもよい。この絶縁体層11aおよび11bには、導電体層12a~12c間を電気的に接続するために、内部に金属層が設けられたコンタクトホール13aおよび13bがそれぞれ設けられている。
【0016】
絶縁体層11aの上面に導電体層12aが設けられている。この導電体層12aは、ベタのグランドパターンGa、配線(図示してない)および信号用のパッドS1aおよびS2aなどを有する。導電体層12aのうちグランドパターンGaは、電磁シールドを目的として、絶縁体層11aの上面のほぼ全面に渡り設けられている。
【0017】
パッドS1a、S2aおよび配線などを、グランドパターンGaから電気的に絶縁するため、導電体層12aに開口16aが設けられる。また、水平方向(X方向およびY方向)の熱移動を抑制するため、導電体層12aにスリット14aが設けられる。さらには、下層の絶縁体層11bにチップを実装する場合は、導電体層12aにチップを実装するための開口部が設けられる場合もある。なお、このスリット14aおよび開口16aは、フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて、導電体層12aを除去して形成されている。
【0018】
導電体層12aの開口16aは、パッドS1aおよびS2aの周辺を囲んで形成される。この絶縁体層11aの上面には、チップ20が接着剤等により実装されている。チップ20の上面には、
図2に示すように、弾性波共振器21が設けられている。この弾性波共振器21は、例えばFBARである。弾性波共振器21とパッドS1aおよびS2aとはボンディングワイヤ24aおよび24bによりそれぞれ電気的に接続されている。
【0019】
図1(a)に示すように、四角の実線で囲んだエリアは、発振回路22が設けられる領域である。このエリアには、発振回路22を構成する複数の受動素子と、その受動素子に電気的に接続される配線が設けられる。グランドパターンGaは、この受動素子または配線と導通しないように、離間して設けられている。この発振回路22は、集積回路により構成されていてもよい。発振回路22の詳細の図示を省略している。
【0020】
発明のポイントであるスリット14aは、水平方向へ流れる熱移動の抑制を目的として設けられる。よって、スリット14aは、チップ20(すなわち弾性波共振器21)および開口16aを離間して囲むように設けられている。実施例2において後述するように、基板10の下面に、熱源となる電源回路または発振回路などが設けられている場合、スリット14aで囲まれた領域は、基板10の下面の電源回路または発振回路などで発生する熱を取り込むことができる。チップ20の下面にパッドが形成される場合には、パッドS1aおよびS2aはチップ20に重なるように形成される。
【0021】
絶縁体層11aの上面のほとんどは、グランドパターンGaを用いシールドされている。よって、基板10内からの、不要輻射などに起因するノイズまたは時間軸方向の信号波形のゆらぎ(ジッタ)は、グランドパターンGaにより、改善される。しかし、ベタのグランドパターンGaは、熱放射または横方向の熱伝導などの作用により、放熱性がよい。このため、少しの環境の影響(例えば風などの影響)により、弾性波共振器21が出力する検出信号にノイズまたはジッタが発生してしまう。
【0022】
しかも、チップ20の弾性波共振器21には、気体中の物質を検出するための感応膜が設けられている。この感応膜が形成された弾性波共振器21に、熱的な外乱が加わると、弾性波共振器の出力する信号にノイズまたはジッタが発生し、検出精度が低下する課題が発生する。例えば25℃の室温において平衡になった弾性波共振器21に、弾性波共振器21の温度を上昇または下降させる環境が影響すると、弾性波共振器のノイズまたはジッタの原因となる。
【0023】
そのため、弾性波共振器21が形成されたチップ20を、自己発熱により加熱、またはチップ20以外の部品により加熱もしくは冷却して、弾性波共振器21を一定の温度に維持することが重要である。例えば、25℃の室温に対して、弾性波共振器21の温度を40℃程度の高温に保持、または10℃程度の低温に保持する。これにより、熱外乱が加わっても、その熱による外乱を小さくできる。そこで、実施例1から3では、例えば、弾性波共振器21を40℃程度の高温に保持させることを考えた。
【0024】
実施例1から3では、グランドパターンGaの主な特質であるシールド性を維持しつつ、弾性波共振器21の温度を一定に保持するために、以下の3つの対策を施した。
【0025】
第1の対策:チップ20をスリット14aで囲む。
スリット14aは、
図1(c)に示すように、導電体層12aをライン状に絶縁体層11aまで取り除いた部分である。例えば、このスリット14aによりチップ20を完全に囲むと完全に横方向の熱伝導は分断される。
図1(a)に示す例では、スリット14aによりチップ20を囲むため、横方向の熱伝導のパスが少なくなる。よって、グランドパターンGaを介した横方向の熱伝導が抑制される。
【0026】
第2の対策:チップ20を含めた不要輻射対策(グランド対策)
スリット14aでチップ20を完全に囲むと、スリット14aの内側の領域17aに設けられたグランドパターンと、スリット14aの外側の領域17bに設けられたグランドパターンと、に分断される。すると、両者のグランドパターンのグランド電位が異なり、グランド電位が安定しない。
【0027】
そのため、スリット14aはチップ20を完全に囲まず、スリット14aを設けない部分、つまりブリッジ15aを設けている。
図1(a)では、上下(±Y)左右(±X)のスリット14aにブリッジ15aを1つずつ設けている。このブリッジ15aの個数は、任意である。また、コンタクトホール13a内の金属層は、導電体層12aを導電体層12aよりも下層にある導電体層12bに電気的に接続する。
【0028】
一方、領域17aおよび17bのグランドパターンGaは、ブリッジ15aにおいて、接続されている。このブリッジ15aの部分がネックとなり導電体層12aが絞られるため、抵抗成分が発生する。よって、コンタクトホール13aを分散させて設け、グランドパターンGaをグランド電位に固定している。これにより、弾性波共振器21の温度を一定に保持しつつ、不要輻射に関するノイズを抑制できる。
【0029】
第3の対策:基板10の下面のチップ20の領域に熱源を設置する。
詳細は、実施例2において説明する。
【0030】
続いて、
図1(b)は、3層の導電体層12a~12cを有する基板10の内、真ん中の導電体層12bを図示している。導電体層12bは、ベタのグランドパターンGbおよび配線S1bおよびS2bを含む。ベタのグランドパターンGb(第2グランドパターン)は絶縁体層11bの上面のほぼ全面に設けられている。グランドパターンGbは、基板10の内層に、平面視においてグランドパターンGaと重なって設けられている。
【0031】
グランドパターンGbと、配線S1bおよびS2bとの電気的分離のために、開口16bが設けられている。開口16bは、導電体層12bを、エッチング法を用い取り除くことにより形成される。
【0032】
2本の配線S1bおよびS2bの左端(-X端)は、チップ20と電気的に接続されたパッドS1aおよびS2aとコンタクトホール13aを介してそれぞれ電気的に接続されている。2本の配線S1bおよびS2bの右端(+X端)は、コンタクトホール13aを介して発振回路22を構成する素子と接続されている。そして、この2本の信号用の配線S1bおよびS2bとグランドパターンGbとでコプレーナ導波路を形成する。これにより、高周波特性が改善される。
【0033】
ベタのグランドパターンGcは絶縁体層11bの下面のほぼ全面に設けられている。グランドパターンGbとGcとは、絶縁体層11bを貫通するコンタクトホール13b内の金属層により電気的に接続されている。
【0034】
基板10は、FR4などのプリント基板を用いた積層基板である。絶縁体層11aおよび11bは、例えばガラスエポキシ樹脂である。なお、絶縁体層11aおよび11bは、セラミックでもよい。基板10は、プリプレグを用いた多層基板でもよい。導電体層12a~12cおよびコンタクトホール13aおよび13b内の金属層は、例えば銅からなる。ボンディングワイヤ24aおよび24bは、アルミニウムまたは金などからなる細線である。
【0035】
続いてチップ20の説明をする。
図2(a)は、
図1(a)で示すチップ20の拡大図であり、
図2(b)は、チップ20のA-A断面図である。
【0036】
チップ20は、開口16a内のパッドS1aとS2aとの間の絶縁体層11aの上面に接着剤37等により接合されている。チップ20が実装されるエリアは実装エリア27である。チップ20は、グランドパターンGa上に実装されていてもよい。チップ20には、上面側に弾性波共振器21が設けられている。ここでは、弾性波共振器21は、FBARである。この弾性波共振器21は、チップ20の基板31上にキャビティである空隙35を介し下部電極32が設けられ、この下部電極32と上部電極36で圧電層34を挟んでいる。圧電層34を挟み下部電極32と上部電極36とが重なる領域は弾性波が振動する共振領域38となる。平面視においてこの共振領域38は空隙35と重なる。さらに、上部電極36上に感応膜26が設けられている。感応膜26は、気体または液体内の特定の物質を選択して吸着させる。なお、後述する実施例3のように、感応膜26を備えない弾性波共振器がチップ20上に設けられてもよい。特定の物質が感応膜26に吸着されると、弾性波共振器21の共振周波数が低くシフトする。
【0037】
弾性波共振器21の右側(+X側)には、共振領域38から右(+X)に下部電極32が延在する。下部電極32上にボンディングワイヤ24aを接続するため金メッキされたパッド33aが設けられる。さらに、弾性波共振器21の左側(-X側)には、共振領域38から左(-X)に上部電極36が延在する。上部電極36上にボンディングワイヤ24bを接続するため金メッキされたパッド33bが設けられる。パッド33aおよび33bは、ボンディングワイヤ24aおよび24b、パッドS1a、S2a、コンタクトホール13a、配線S1bおよびS2bなどを介して発振回路22と電気的に接続される。
【0038】
チップ20の基板31は、シリコン基板、サファイア基板、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板である。下部電極32および上部電極36は、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの膜から複数種類を選択した積層膜である。
【0039】
圧電層34は、窒化アルミニウム(AlN)膜、酸化亜鉛(ZnO)膜、窒化ガリウム(GaN)膜、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜、チタン酸鉛(PbTiO3)膜、タンタル酸リチウム(LiTaO3)膜またはニオブ酸リチウム(LiNbO3)膜である。パッド33aおよび33bは、例えば金層等の金属層である。
【0040】
感応膜26は、例えば有機高分子材料等のポリマー、有機材料、無機材料または有機無機材料等の多孔質体、または有機材料および無機材料等の粉粒体である。ポリマーは、溶媒に溶かされたポリマーを塗布して乾燥させたものである。無機材料は、スパッタ法で成膜されたものである。
【0041】
図3は、実施例1の検出装置を示すブロック図である。
図3に示すように、基板10上に弾性波共振器21と発振回路22が設けられている。この発振回路22は弾性波共振器21を発振させる。
【0042】
検出回路40は、測定器41および算出器42を備えている。測定器41は、発振回路22が出力する発振信号の周波数を測定する。算出器42は、測定器41が測定した発振信号の周波数の変化量に基づき、気体内の特定の物質の濃度または気体内のにおい等を判定し検出する。このように、検出回路40は、弾性波共振器21の共振周波数に基づき、流体中の物質を判定し検出する。
【0043】
[比較例1:スリット14aが設けられない例]
図4は、比較例1における基板の平面図であり、上層の絶縁体層11aに設けられた導電体層12aおよびチップ20を示している。この比較例1では、スリット14aは設けられていない。その他の構成は実施例1と同じである。
【0044】
弾性波共振器21を動作させると、弾性波共振器21に電流が流れ発熱する。これを自己発熱という。自己発熱は、弾性波共振器21の電気抵抗に起因する発熱と、共振するときの機械的振動に起因する発熱とが原因と考えられる。弾性波共振器21が共振するときの機械的振動では、例えば、空気抵抗、または振動する圧電層34が固定端から受ける反作用力で、その振動を阻害する力が発生する。このため、機械的エネルギーの損失が生じる。これが、熱エネルギーに変換されるため、弾性波共振器21の温度が上昇する。弾性波共振器21では、この熱の発生が起きる。特に、FBARでは、高周波で振動し、機械的振動に起因する熱が顕著に生じる。このため、弾性波共振器21としてFBARを用いて、FBARの自己発熱を用いることが好ましい。
【0045】
また、弾性波共振器21の共振周波数は、QCM(Quartz Crystal Microbalance)を用いた共振器の共振周波数より2桁高く1GHz~5GHzである。このような高周波信号を扱う基板10では、不要輻射が発生してもベタのグランドパターンGaによりノイズを低減することができる。これにより、電磁界的な干渉を抑制し、位相雑音特性の向上など高周波特性を向上させる。
【0046】
しかし、導電体層12aは熱伝導率が高いため、熱が伝導しやすい。このため、矢印のように、熱50がグランドパターンGaを介し周囲に拡散する。このため、チップ20の温度は基板10上の周囲の状態に影響され、安定しない。弾性波共振器21の共振周波数は温度依存性が大きい。このため、熱50の拡散が大きいと、チップ20の温度の変動が大きくなる。これにより、弾性波共振器21の共振周波数が大きく変化してしまう。これにより、検出回路40の特定物質の検出精度が低下してしまう。
【0047】
一方、実施例1では、
図1(a)のように、導電体層12a(第1導電体層)により形成されたベタ導電体層であるグランドパターンGa(第1グランドパターン)には、弾性波共振器21を囲むスリット14a(第1スリット)を有する。グランドパターンGaは、スリット14aに囲まれた領域17a(第1部分)と、スリット14aの外側の領域17b(第2部分)と、を有する。領域17aは、実装エリア27の外側に設けられる。スリット14aと実装エリア27は、領域17aを挟んで離間している。このスリット14aにより、弾性波共振器21の自己発熱により発生した熱は、スリット14aで囲まれた領域17a内にとどまる。また、実施例2のような基板10の下面に設けられた発振回路22などの熱源もチップ20の温度上昇に寄与する。熱源からの熱は、スリット14aの内側にとどまる。よって、この温度上昇が所定の温度で平衡に達する。つまりチップ20の温度が室温よりも高い温度でほぼ一定となる。よって熱の外乱による弾性波共振器21の温度の上昇および下降を小さくでき、熱の影響による共振周波数の変化を小さくできる。よって、検出回路40の特定物質の検出精度を向上できる。
【0048】
以下、実施例1のいくつかの変形例を示す。
図5(a)から
図7(b)は、実施例1におけるスリット付近の拡大平面図である。
【0049】
図5(a)に示すように、グランドパターンGaは、弾性波共振器21を完全に囲むスリット14aを有する。スリット14aに囲まれた領域は、領域17aとして示し、スリット14aの外側の領域は、領域17bとして示した。この領域17aと17bとは、スリット14aにより完全に電気的、および熱的に分離していてもよい。この場合、領域17a内のグランドパターンGaは下層のグランドパターンGb(
図8)とコンタクトホール13aを介してグランド電位に接続される。このように、領域17aと領域17bは、独立にコンタクトホール13aおよびグランドパターンGbを介してグランド電位に接続される。このため、領域17aと17bとの間にインダクタンス成分が生じ、グランド電位が安定しない場合がある。
【0050】
図5(b)に示すように、ベタのグランドパターンGaは、領域17aと17bとを電気的に接続するブリッジ15aを有する。よって、ブリッジ15aを介し領域17aと領域17bは導通するため、領域17aと17bとの間のインダクタンス成分が減少し、グランド電位が安定する。さらに、領域17aと17bとは、コンタクトホール13aおよびグランドパターンGbを介し接続される。この経路もグランドレベルの強化に寄与する。領域17aと17bとの間の熱伝導を抑制するためには、ブリッジ15aの長さL1aは小さい方がよい。しかし、ブリッジ15aの長さL1aが小さいと、領域17aにおけるグランドパターンGaのグランドレベルが低下してしまう。これらの観点から、ブリッジ15aの長さL1aの合計は、スリット14aの長さL2aの合計の1/2倍以下が好ましく、1/5倍以下がより好ましく、1/50倍以上が好ましい。
【0051】
図6(a)を説明する。ここではスリット14aと隣のスリット14aとの間のブリッジ15aにコンタクトホール13xが設けられている。このブリッジ15aの部分は、グランドパターンGaの幅が絞られている部分であり、抵抗成分が発生しやすい。よって、ブリッジ15aにコンタクトホール13xを設け、下層のグランドパターンGbと電気的に接続する。これにより、領域17a、17bおよびブリッジ15aは、よりグランドレベルが強化される。よって不要輻射が浸入しても、ノイズの発生が抑制されるため、安定したグランド電位を確保できる。
【0052】
続いて、
図6(b)を説明する。コンタクトホール13xは、ブリッジ15aよりやや内側の領域17aとブリッジ15aよりやや外側の領域17bに設けられ、合計2つのコンタクトホール13xがブリッジ15aの両端に設けられている。ブリッジ15aを細くした場合、ブリッジ15aにコンタクトホール13xを設けにくい場合がある。このような場合には、コンタクトホール13aをブリッジ15aに設けることなくブリッジ15aの両側に設けてもよい。
【0053】
続いて
図7(a)、
図7(b)を説明する。
図7(a)のコンタクトホール13xは、ブリッジ15aの領域17a側に設けられ、
図7(b)は、ブリッジ15aの領域17b側に設けられている。
【0054】
図6(a)から
図7(b)のように、コンタクトホール13a内の金属層は、ブリッジ15aまたはその近傍のグランドパターンGaに、グランドパターンGaとグランドパターンGbとを電気的に接続する。これにより、安定したグランド電位を確保できる。なお、ブリッジ15aの近傍とは、例えば、ブリッジ15aの延伸方向に直交する方向にブリッジ15aの長さL1a以内の領域17cである。コンタクトホール13xの少なくとも一部が領域17cに位置すればよい。
【0055】
続いて、
図8を説明する。
図8に示すように、スリット14aでは、導電体層12aに加え絶縁体層11aが除去されている。例えば、プリント基板は、ガラス繊維、ガラスまたはアルミナなどの粉体が混入されている場合がある。これは、基板の熱伝導率を高めている。そのため、実施例1から3において、スリット14aでは、導電体層12aと絶縁体層11aとの両方が除去されていてもよい。
以上のように、スリット14aおよび14bを用い、横方向に逃げていく熱を抑止しつつ、ブリッジ15aおよび15bとコンタクトホール13aでグランド電位を維持し、さらには、裏面に熱源である回路を設けることで、弾性波共振器21を高温で維持できる。