(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066910
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】エポキシ化合物、エポキシ樹脂組成物及びエポキシ化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 401/14 20060101AFI20240509BHJP
C08G 59/26 20060101ALI20240509BHJP
C08G 59/42 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C07D401/14 CSP
C08G59/26
C08G59/42
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176702
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】507106180
【氏名又は名称】環テックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(71)【出願人】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】504119985
【氏名又は名称】片山 義博
(71)【出願人】
【識別番号】595067763
【氏名又は名称】重原 淳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】道信 剛志
(72)【発明者】
【氏名】チェン イェ
(72)【発明者】
【氏名】片山 義博
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】政井 英司
(72)【発明者】
【氏名】亀山 敏治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 惇
(72)【発明者】
【氏名】亀山 昂暉
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 立維
(72)【発明者】
【氏名】重原 淳孝
【テーマコード(参考)】
4C063
4J036
【Fターム(参考)】
4C063AA03
4C063BB08
4C063CC78
4C063DD71
4C063EE05
4J036AJ01
4J036AJ16
4J036BA01
4J036DB15
4J036HA12
4J036JA01
4J036JA05
4J036JA06
(57)【要約】
【課題】2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(PDC)を原料とするエポキシ化合物の提供。
【解決手段】本発明のエポキシ化合物は、下記一般式(I):
[式中、R
1は、その構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでもよい炭化水素系の二価残基を示す]
で表される化合物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】
[式中、R
1は、その構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでもよい炭化水素系の二価残基を示す]
で表される化合物。
【請求項2】
前記R1が、R2、R2-(OR2)a、又はR3-(O2C-R2-CO2R3)b(但し、R2及びR3は各々独立に、炭素数1~24の飽和又は不飽和炭化水素の二価残基を示し;a及びbは各々独立に、1~4の整数を示す)を示す、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記R1が、炭素数1~24の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記R1が、エチレン基である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物を含むエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
硬化剤を更に含む、請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記硬化剤が、4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸及び4-メチルフタル酸無水物から選ばれる、請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
接着剤組成物である、請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
下記一般式(I):
【化2】
[式中、R
1は、その構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでもよい炭化水素系の二価残基を示す]
で表される化合物の製造方法であって、
2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(2-pyrone-4,6-dicarboxylic acid)
【化3】
と、下記一般式(II)
【化4】
の化合物とを反応させること、
を含む、方法。
【請求項10】
前記一般式(II)
【化5】
の化合物が、エピクロロヒドリン
【化6】
と、下記一般式(III)
【化7】
の化合物とを反応させることにより得られる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
下記一般式(I):
【化8】
[式中、R
1は、その構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでもよい炭化水素系の二価残基を示す]
で表される化合物の製造方法であって、
2-ピロン-4,6-ジカルボン酸
【化9】
と、下記一般式(III)
【化10】
の化合物とを反応させて、下記一般式(IV)の化合物
【化11】
を得ること、及び
前記一般式(IV)の化合物と、エピクロロヒドリン
【化12】
とを反応させて、前記一般式(I)の化合物を得ること、
を含む、方法。
【請求項12】
請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物を100~130℃の温度で硬化させることを特徴とする、該組成物の硬化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PDC(2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(2-pyrone-4,6-dicarboxylic acid)(以下、PDCと称する)のエポキシ化合物、及びこれを含有するPDCのエポキシ樹脂組成物、並びにこのPDCのエポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物は、樹脂、接着剤、塗料、電気電子材料、医薬品等の原料として広く用いられている。なかでも、複数のエポキシ基を有するエポキシ化合物を含むエポキシ樹脂は、種々の硬化剤と反応させて硬化させることにより、機械特性、耐熱性、耐水性、耐薬品性、電気的特性等に優れた樹脂硬化物が得られる。
【0003】
近年、植物由来の原料や微生物により得られる植物由来樹脂が注目されている。これらの樹脂は、石油を原料としない、環境循環型の素材であり、焼却しても地球上の二酸化炭素を増大させず、また、焼却せずに埋設処理した場合は、微生物により分解されるため、環境破壊を招くことも少ない。このような樹脂としては、ポリ乳酸やポリヒドロキシ酪酸等があり、将来性のある素材として、各種成形材料への用途開発が進められている。しかしながら、これら植物由来樹脂においても、でんぷん、コーンスターチ等の食物を原料としている為、食物と競合する可能性がある。
【0004】
一方、植物成分であるリグニンは、芳香族高分子化合物として植物細胞壁に普遍的に含まれているバイオマス資源であるが、化学構造が多様な成分で構成されていることや複雑な高分子構造を持つために、有効な利用技術が確立されていない。そのため製紙工程で大量に生成するリグニンは有効利用されることなく、重油の代替え品として燃焼されている。しかしながら近年、リグニン等の植物芳香族成分が、加水分解や酸化分解、加溶媒分解などの化学的分解法、超臨界水や超臨界有機溶媒による物理化学的分解法などにより、数種の低分子混合物に変換され、更に機能性プラスチック原料や化学製品の原料となり得る単一の中間物質であるPDCに変換することが可能になった。そのことからリグニンを食物と競合しない植物由来樹脂の原料として有効利用する余地があるといえる。
【0005】
これまでに、リグニン由来の低分子混合物からバイオリアクターによりPDCを効率的に得る方法が報告されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
PDCを原料とするエポキシ化合物として、特許文献2には、PDCに特定のエポキシアルコールを反応させて得られるエポキシ化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-278549号公報
【特許文献2】特開2010-59095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の特許文献2に記載の方法では、エポキシアルコールとしてグリシドールを用いてPDCのエポキシ化合物を製造しているが、斯かる方法では製造コストが高く、工業的大量合成には実用的ではない。
【0009】
従って、本発明は、より低コストで製造することができ、工業的に利用可能なPDCのエポキシ化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、グリシドールよりも安価な原材料を用いることにより、PDCのエポキシ化合物を得ることが可能か鋭意検討した。当初、グリシドールと同様にエポキシド基を有するエピクロロヒドリンを用いてPDC誘導体の製造を試みたが、おそらくはエピクロロヒドリンが塩基性であるが故、酸性のPDCと直接反応させることはできなかった。そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、エピクロロヒドリンをジオールと反応させ、これをさらにPDCと反応させることにより、あるいは、PDCとジオールとを反応させて、さらにエピクロロヒドリンと反応させることによって、新規なPDCのエポキシ化合物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、(1)本発明は、下記一般式(I):
【化1】
[式中、R
1は、その構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでもよい炭化水素系の二価残基を示す]
で表される化合物を提供する。
【0012】
(2)本発明は、前記R1が、R2、R2-(OR2)a、又はR3-(O2C-R2-CO2R3)b(但し、R2及びR3は各々独立に、炭素数1~24の飽和又は不飽和炭化水素の二価残基を示し;a及びbは各々独立に、1~4の整数を示す)を示す、(1)に記載の化合物を提供する。
【0013】
(3)本発明は、前記R1が、炭素数1~24の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である、(1)に記載の化合物を提供する。
【0014】
(4)本発明は、前記R1が、エチレン基である、(3)に記載の化合物を提供する。
【0015】
(5)本発明は、(1)から(4)のいずれか一項に記載の化合物を含むエポキシ樹脂組成物を提供する。
【0016】
(6)本発明は、硬化剤を更に含む、(5)に記載のエポキシ樹脂組成物を提供する。
【0017】
(7)本発明は、前記硬化剤が、4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸及び4-メチルフタル酸無水物から選ばれる、(6)に記載のエポキシ樹脂組成物を提供する。
【0018】
(8)本発明は、接着剤組成物である、(6)又は(7)に記載のエポキシ樹脂組成物を提供する。
【0019】
(9)本発明は、下記一般式(I):
【化2】
[式中、R
1は、その構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでもよい炭化水素系の二価残基を示す]
で表される化合物の製造方法であって、
2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(2-pyrone-4,6-dicarboxylic acid)
【化3】
と、下記一般式(II)
【化4】
の化合物とを反応させること、
を含む、方法を提供する。
【0020】
(10)本発明は、前記一般式(II)
【化5】
の化合物が、エピクロロヒドリン
【化6】
と、下記一般式(III)
【化7】
の化合物とを反応させることにより得られる、(9)に記載の方法を提供する。
【0021】
(11)本発明は、下記一般式(I):
【化8】
[式中、R
1は、その構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでもよい炭化水素系の二価残基を示す]
で表される化合物の製造方法であって、
2-ピロン-4,6-ジカルボン酸
【化9】
と、下記一般式(III)
【化10】
の化合物とを反応させて、下記一般式(IV)の化合物
【化11】
を得ること、及び
前記一般式(IV)の化合物と、エピクロロヒドリン
【化12】
とを反応させて、前記一般式(I)の化合物を得ること、
を含む、方法を提供する。
【0022】
(12)本発明は、(6)に記載のエポキシ樹脂組成物を100~130℃の温度で硬化させることを特徴とする、該組成物の硬化方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、新規な生分解性エポキシ樹脂組成物を安価に製造することができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は、例えば接着剤等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エタン-1-オールのCDCl
3中での
1H NMR スペクトルを示す。
【
図2】
図2は、2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エタン-1-オールのCDCl
3中での
13C NMR スペクトルを示す。
【
図3】
図3は、2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エタン-1-オールのIRスペクトルを示す。
【
図4】
図4は、ビス(2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エチル) 2-オキソ-2H-ピラン-4,6-ジカルボン酸のCDCl
3中での
1H NMRスペクトルを示す。
【
図5】
図5は、ビス(2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エチル) 2-オキソ-2H-ピラン-4,6-ジカルボン酸のCDCl
3中での
13C NMRスペクトルを示す。
【
図6】
図6は、ビス(2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エチル) 2-オキソ-2H-ピラン-4,6-ジカルボン酸のIRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のPDCの新規エポキシ化合物は、下記一般式(I):
【化13】
[式中、R
1は、その構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでもよい炭化水素系の二価残基を示す]
で表される化合物である。
【0026】
上記一般式(I)中のR1は、R2、R2-(OR2)a、又はR3-(O2C-R2-CO2R3)b(但し、R2及びR3は各々独立に、炭素数1~24の飽和又は不飽和炭化水素の二価残基を示し;a及びbは各々独立に、1~4の整数を示す)であってもよい。好しくは、R1は、炭素数1~24の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基であり、より好ましくは、R1は、エチレン基である。
【0027】
本発明の一般式(I)で表されるエポキシ化合物は、例えば以下の2とおりの反応系により合成することができる。
【0028】
<反応系1>
ステップ1
式(II)の化合物の合成
エピクロロヒドリンを、下記一般式(III)
【化14】
の化合物と反応させ、下記一般式(II)の化合物を得る。
【化15】
【0029】
上記反応は、好ましくは、氷浴中の式(III)の化合物にエピクロロヒドリンを滴下し、ルイス酸触媒存在下で室温にして攪拌して反応させることで行う。反応時間は使用する出発材料の量などに応じて変動するが、好ましくは30分から5時間、より好ましくは1~3時間程度とする。ルイス酸としては、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウム、塩化鉄(III)などのハロゲン化鉄(III)、塩化亜鉛などのハロゲン化亜鉛、塩化スズ(II)などのハロゲン化スズ(II)、三フッ化ホウ素またはその錯体、具体的には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体などの三フッ化ホウ素エーテル錯体などが挙げられる。特に好ましいのは三フッ化ホウ素エーテル錯体である。
【0030】
次いで上記反応溶液を50~100℃、好ましくは70~90℃にまで昇温し、1~2時間攪拌する。その後反応溶液を室温にまで冷まし、塩基性にした溶媒に氷浴下で5~30分程度の時間をかけて滴下する。
【0031】
溶媒としては、出発原料をある程度溶解するものであり、かつ、反応を阻害しないものであれば特に制限は無いが、好適には、メタノール、エタノール,n―ブタノール、t-ブタノール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノンなどのケトン系溶媒、酢酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)水またはこれらの混合溶媒が挙げられる。特に好ましいのはテトラヒドロフラン(THF)である。
【0032】
塩基は使用する溶媒に依存して変えてよく、特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、リチウムテトラメチルシリルオキシド(TMSOLi)等が挙げられる。特に好ましいのは水酸化カリウムである。
【0033】
さらに10~60分程度反応溶液攪拌することで反応を完了させ、副産物をろ過あるいは遠心分離などにより除去し、例えば減圧蒸留などにより精製して目的の化合物(II)が得られる。
【0034】
ステップ2
一般式(I)のPDCのエポキシド化合物の合成
PDCと、下記一般式(II)
【化16】
の化合物とを、適当な有機溶媒中、縮合剤及び塩基性触媒の存在下、縮合反応させる。
【0035】
溶媒としては、出発原料をある程度溶解するものであり、かつ、反応を阻害しないものであれば特に制限は無いが、好適には、メタノール、エタノール,n―ブタノール、t-ブタノール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノンなどのケトン系溶媒、酢酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)水またはこれらの混合溶媒が挙げられる。特に好ましいのはテトラヒドロフラン(THF)である。
【0036】
縮合剤としては、N,N'‐ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1--エチル-3‐(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等が使用できる。脱水縮合剤の添加量はPDC 1モルに対して、1~3当量、好ましくは1.3~1.7当量である。特に好ましいのはN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)である。
【0037】
塩基性触媒としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、トリエチルアミンン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、Nーメチルピペリジン、2,2,6,6ーテトラメチル-N-メチルジピペリジン、ピリジン、N,Nージメチルアミノピリジン、N-メチルモルホリン、ナトリウムエトキシド等の塩基を存在させる。特に好ましいのはN,N’-ジメチルアミノピリジン(DMAP)である。
【0038】
縮合反応は氷浴中、上記縮合剤及び塩基性触媒を滴下しながら行うのが好ましい。次いで反応溶液を数分~数時間、例えば10分~2時間攪拌し、固形分をろ過あるいは遠心分離などにより除去し、洗浄して一般式(I)のPDCのエポキシド化合物が得られる。
【0039】
<反応系2>
ステップ1
式(IV)の化合物の合成
PDCと、下記一般式(III)
【化17】
の化合物とを、適当な有機溶媒中、縮合剤及び塩基性触媒の存在下、縮合反応させ、下記一般式(IV)の化合物を得る。
【化18】
【0040】
溶媒としては、出発原料をある程度溶解するものであり、かつ、反応を阻害しないものであれば、特に制限は無いが、好適には、メタノール、エタノール,n―ブタノール、t-ブタノール、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノンなどのケトン系溶媒、酢酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)水またはこれらの混合溶媒が挙げられる。特に好ましいのはテトラヒドロフラン(THF)である。
【0041】
縮合剤としては、N,N'‐ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1--エチル-3‐(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)等が使用できる。脱水縮合剤の添加量はPDC 1モルに対して、1~3当量、好ましくは1.3~1.7当量である。特に好ましいのはN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)である。
【0042】
塩基性触媒としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリメチルアミン、トリエチルアミンン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、Nーメチルピペリジン、2,2,6,6ーテトラメチル-N-メチルジピペリジン、ピリジン、N,Nージメチルアミノピリジン、N-メチルモルホリン、ナトリウムエトキシド等の塩基を存在させる。特に好ましいのはN,N’-ジメチルアミノピリジン(DMAP)である。
縮合反応は氷浴中、上記縮合剤及び塩基性触媒を滴下しながら行うのが好ましい。次いで反応溶液を数分~数時間、例えば10分~2時間攪拌し、固形分をろ過あるいは遠心分離などにより除去し、洗浄して一般式(I)のPDCのエポキシド化合物が得られる。
【0043】
ステップ2
一般式(I)のPDCのエポキシド化合物の合成
得られた一般式(IV)の化合物をエピクロロヒドリンと反応させて、前記一般式(I)の化合物を得る。
【化19】
【0044】
上記反応は、好ましくは、ルイス酸触媒存在下で室温で攪拌して反応させることにより行う。反応時間は使用する出発材料の量などに応じて変動するが、好ましくは30分から5時間、より好ましくは1~3時間程度とする。ルイス酸としては、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウム、塩化鉄(III)などのハロゲン化鉄(III)、塩化亜鉛などのハロゲン化亜鉛、塩化スズ(II)などのハロゲン化スズ(II)、三フッ化ホウ素またはその錯体、具体的には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体などの三フッ化ホウ素エーテル錯体などが挙げられる。特に好ましいのは三フッ化ホウ素エーテル錯体である。
【0045】
溶媒としては、出発原料をある程度溶解するものであり、かつ、反応を阻害しないものであれば、特に制限は無いが、好適には、メタノール、エタノール,n―ブタノール、t-ブタノール、THF、1,4-ジオキサン、水またはこれらの混合溶媒が挙げられる。特に好ましいのは1,4-ジオキサンである。塩基については使用する溶媒に依存して変えてよく、特に限定されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、リチウムテトラメチルシリルオキシド(TMSOLi)等が挙げられる。特に好ましいのは水酸化カリウムである。
【0046】
以上の通りにして、本発明のPDCのエポキシ化合物を得ることができる。
【0047】
PDCは、例えば、特開2005-278549号公報に記載の発酵法により、バニリン、シリンガアルデヒド、バニリン酸、シリンガ酸もしくはプロトカテク酸のようなリグニン等の植物由来の低分子化合物、又はその混合物から容易に得ることができる。
【0048】
本発明の組成物は、上記の方法によって得られた式(I)のエポキシ化合物を含み、好ましくは硬化剤を更に含む。硬化剤としては、種々の酸無水物やポリアミンが使用できるが、硬化を加温下で行う場合には、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、4-メチルフタル酸無水物、4-メチルシクロヘキサンジカルボン酸無水物、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、テトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物を使用することが好ましい。これらの中で、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、4-メチルフタル酸無水物、又は4-メチルシクロヘキサンジカルボン酸無水物がより好ましい。
【0049】
硬化剤は、式(I)のエポキシ化合物に対する当量比(硬化剤/エポキシ化合物)が、0.3~1.5の範囲内であって、組成物全体量において30~60質量%の範囲内で含まれていることが好ましい。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化は、本発明のエポキシ樹脂組成物を例えば接着剤と
して使用する場合には、該組成物をガラス、セラミックス、金属、耐熱性プラスチック等の材料間に介在させ、必要により最大50 MPaの圧力を加えて圧着しながら、100~130℃の比較的低い温度で、約10分間~約1時間、好ましくは約10~約30分間で行うことができる。
【0051】
硬化反応においては、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、アミド系化合物等の、一般的な硬化促進剤を添加してもよい。また、本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、反応性希釈剤、可塑剤、シリカ等の無機充填剤、難燃剤、離型剤、消泡剤、沈降防止剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、染料、顔料、着色剤等を配合することができる。
【0052】
本発明の組成物は、接着剤、コーティング剤、塗料、電気電子材料等に利用できる。また、本発明の接着剤組成物は、各種のガラス、セラミックス、金属、耐熱性プラスチック等に適用可能である。
【0053】
本発明の式(I)の化合物は、上記の組成物の主剤の他に、PDCを含む生分解性グリーンプラスチックス製造の原料として好適に使用できる。例えば、式(I)の化合物をジオール、ジカルボン酸又はジアミンとそれぞれ反応させて、ポリ(エステル-エーテル)、ポリ(エステル-エステル)、ポリ(エステル-アミン)を製造できる。
【実施例0054】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0055】
2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エタン-1-オールの合成
【0056】
【0057】
2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エタン-1-オールは国際公開第2013/051639号公報に記載の方法に従って合成した。具体的には、エピクロロヒドリン (7.8 mL, 0.10 mol) を氷浴中のエチレングリコール (5.6 mL, 0.10 mol) と三フッ化ホウ素エーテル錯体 (75 μL, 0.60 mmol) の混合溶液に20分以上かけて滴下した。混合溶液を室温で70分間攪拌した後、80℃に昇温して60分攪拌した。室温に冷却した後、水酸化カリウム(5.6 g, 0.10 mol)を溶解した1,4-ジオキサン(30 mL)溶液に氷浴下で15分以上かけて滴下した。混合溶液を室温でさらに30分間攪拌した後、副生成物をろ過で除去した。ろ液を減圧留去した後、減圧蒸留で最初に流出した成分を回収した。これをカラム精製(SiO2, 酢酸エチル:ヘキサン=1:1, v/v)して黄色粘性液体として目的物を得た (2.979 g, 25.2 %)。
1H NMR (400 MHz, Chloroform-d) δ 3.55 (dd, J = 11.6, 2.7 Hz, 1H), 3.44 (q, J = 4.6 Hz, 2H), 3.39 - 3.27 (m, 3H), 3.14 (dd, J = 11.6, 6.0 Hz, 1H), 2.90 (ddt, J = 5.7, 4.2, 2.8 Hz, 1H), 2.55 - 2.51 (m, 1H), 2.39 - 2.35 (m, 1H). 13C NMR (100 MHz, Chloroform-d) δ 72.73, 71.53, 61.42, 50.85, 44.11. IR (neat): ν = 3422, 3059, 3000, 2925, 2874, 1652, 1458, 1417, 1337, 1254, 1162, 1116, 1061, 1000, 974, 909, 890, 851, 758, 733, 647, 628, 596, 579, 562, 553, 540, 533, 522, 513, 501 cm-1.
【0058】
合成された2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エタン-1-オールの
1H NMR スペクトル、
13C NMR スペクトル及びIRスペクトルのデータを
図1、
図2及び
図3にそれぞれ示す。
【0059】
ビス(2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エチル) 2-オキソ-2H-ピラン-4,6-ジカルボン酸の合成
【0060】
【0061】
2-オキソ-2H-ピラン-4,6-ジカルボン酸 (PDC) (566.5 mg, 3.080 mmol)と2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エタン-1-オール (1.091 g, 9.240 mmol) のTHF (10 mL)溶液をアルゴン雰囲気下で50mLの丸底フラスコに入れた。N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド (DIC) (930.1 mg, 7.370 mmol)とN,N-ジメチルアミノピリジン (DMAP) (75.8 mg, 0.620 mmol) のTHF (10 mL)溶液を氷浴下に冷却した丸底フラスコ中の混合溶液へ滴下した。室温で30分攪拌後、ろ過して固体を除去した。ろ液を減圧留去した後、クロロホルムを加えた。その溶液を0.05 Mの塩酸水溶液、イオン交換水、塩水で洗浄した。有機層を回収した後、硫酸マグネシウムで乾燥させた。ろ過により硫酸マグネシウムを除去した後、ろ液を減圧留去した。カラムクロマトグラフィー(SiO2, ジクロロメタン/アセトン=6:1, v/v) により精製して黄色粘性液体として目的物を得た(563.8 mg, 47.7 %)。
1H NMR (400 MHz, Chloroform-d) δ 7.49 - 7.42 (m, 1H), 7.12 - 7.05 (m, 1H), 4.42 (dq, J = 6.9, 4.7 Hz, 4H), 3.78 (dddd, J = 18.9, 11.6, 5.4, 3.7 Hz, 6H), 3.33 (dddd, J = 11.8, 9.7, 7.7, 6.1 Hz, 2H), 3.08 (dddt, J = 8.9, 6.6, 4.8, 2.5 Hz, 2H), 2.72 (dtd, J = 8.7, 4.6, 1.9 Hz, 2H), 2.59 - 2.49 (m, 2H). 13C NMR (100 MHz, Chloroform-d) δ 162.39, 159.62, 158.93, 149.36, 142.95, 122.87, 108.53, 71.92, 71.88, 68.69, 65.78, 65.61, 50.81, 44.06, 43.98. IR (neat): ν = 3062, 3000, 2956, 2885, 2359, 2253, 1730, 1641, 1563, 1450, 1399, 1377, 1329, 1240, 1172, 1109, 1029, 997, 910, 856, 800, 777, 761, 727, 666, 648, 634, 626, 616, 578, 568, 556, 546, 532, 525, 517, 504 cm-1.
【0062】
合成されたビス(2-(オキシラン-2-イルメトキシ)エチル) 2-オキソ-2H-ピラン-4,6-ジカルボン酸の
1H NMR スペクトル、
13C NMR スペクトル及びIRスペクトルのデータを
図4、
図5及び
図6にそれぞれ示す。
前記硬化剤が、4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸及び4-メチルフタル酸無水物から選ばれる、請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物。