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特開2024-66915毛のスタイリング力向上用組成物、毛のスタイリング料および毛のスタイリング料の製造方法
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  • 特開-毛のスタイリング力向上用組成物、毛のスタイリング料および毛のスタイリング料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066915
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】毛のスタイリング力向上用組成物、毛のスタイリング料および毛のスタイリング料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20240509BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20240509BHJP
   A61Q 5/04 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q5/06
A61Q5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176715
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000226415
【氏名又は名称】物産フードサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】澤 桃子
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄輝
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA122
4C083AC102
4C083AC122
4C083AC132
4C083AC432
4C083AC482
4C083AD042
4C083AD092
4C083AD211
4C083AD212
4C083BB53
4C083CC32
4C083CC34
4C083DD27
4C083EE25
(57)【要約】
【課題】 毛のスタイリング力を向上する技術を提供する。
【解決手段】 下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする毛のスタイリング力向上用組成物;(ア)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の水飴、(ウ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる還元水飴、(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴。本発明によれば、毛のスタイリングにおいて、毛の形状形成あるいは毛の形状維持をより容易にすることができる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする、毛のスタイリング力向上用組成物;
(ア)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の水飴、
(ウ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴。
【請求項2】
下記(オ)~(ク)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする、毛のスタイリング力向上用組成物;
(オ)糖組成が、単糖が30質量%未満、三糖以上が25質量%以上かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(カ)糖組成が、単糖が30質量%未満、三糖以上が25質量%以上かつ五糖以上が50質量%未満の水飴、
(キ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる還元水飴、
(ク)デキストロース当量が35超55以下の水飴。
【請求項3】
下記(ケ)~(シ)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする、毛のスタイリング力向上用組成物;
(ケ)糖組成が、単糖が1~10質量%、二糖が60~85質量%、三糖以上が7質量%以上の還元水飴、
(コ)糖組成が、単糖が1~10質量%、二糖が60~85質量%、三糖以上が7質量%以上の水飴、
(サ)デキストロース当量が40以上50以下の水飴を還元してなる還元水飴、
(シ)デキストロース当量が40以上50以下の水飴。
【請求項4】
下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上を含有する、毛のスタイリング料;
(ア)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の水飴、
(ウ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる還元水飴、
(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴。
【請求項5】
下記(オ)~(ク)から選択されるいずれか1以上を含有する、毛のスタイリング料;
(オ)糖組成が、単糖が30質量%未満、三糖以上が25質量%以上かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴、
(カ)糖組成が、単糖が30質量%未満、三糖以上が25質量%以上かつ五糖以上が50質量%未満の水飴、
(キ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる還元水飴、
(ク)デキストロース当量が35超55以下の水飴。
【請求項6】
下記(ケ)~(シ)から選択されるいずれか1以上を含有する、毛のスタイリング料;
(ケ)糖組成が、単糖が1~10質量%、二糖が60~85質量%、三糖以上が7質量%以上の還元水飴、
(コ)糖組成が、単糖が1~10質量%、二糖が60~85質量%、三糖以上が7質量%以上の水飴、
(サ)デキストロース当量が40以上50以下の水飴を還元してなる還元水飴、
(シ)デキストロース当量が40以上50以下の水飴。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の毛のスタイリング力向上用組成物を原料として配合する工程を有する、毛のスタイリング料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛のスタイリング力向上用組成物、毛のスタイリング料および毛のスタイリング料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主として美容目的で、頭髪や睫毛をカールさせることが行われている。頭髪であれば、巻き毛に限らず波状(ウェーブ状)や直毛状といった所望の形状にして、望みの髪型を形成することが行われている。事業者が施術するパーマネントウェーブを除き、個人が行う頭髪のスタイリングは、水で濡らしたりヘアアイロンやコテ等で加熱することにより毛内の水素結合を切断し、所望の形状に設定した状態で乾燥させたり冷却することにより水素結合を再結合させる手法が採られるのが通常である。個人が行う睫毛のスタイリングは、ビューラーという器具でカールさせるのが一般的であるが、近年ではホットビューラーを用いて睫毛にも加熱冷却の手法が用いられることもある。
【0003】
係る毛のスタイリングにおいては、毛の形状形成や形状維持がより容易にできることが求められる。一般に、スタイリングの前後あるいは最中に用いられるスタイリング料にも、毛の形状を形成する機能(形状形成能)や維持する機能(形状維持能)が期待されており、それを実現するために、種々の成分ないし組成が研究開発されている。例えば、特許文献1には、エリスリトールやソルビトール、マルチトールの水溶液を毛髪に塗布して乾燥させた後、ヘアアイロンで巻き毛を形成すると、セット力やキープ力が高い値となることが開示されている(実施例1~9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2018-097304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、還元水飴は単糖および多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)のうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物であり、その原料である水飴もまた、単糖および多糖のうち2種以上を含む混合物である。また、これらのうちでも、糖化の程度が低い中糖化や低糖化のもの(中~低糖化還元水飴、中~低糖化水飴)は、三糖以上の糖アルコールないし糖を比較的多く含む混合物である。
【0006】
この点、特許文献1には、エリスリトールやソルビトール、マルチトールといった単一化合物がセット力・キープ力を高めることが記載されているに過ぎず、重合度が互いに異なる糖または糖アルコールの混合物がセット力・キープ力を高めることは、記載も示唆もされていない。また、エリスリトールやソルビトールは単糖、マルチトールは二糖の糖アルコールであるところ、特許文献1には、三糖以上の糖アルコールや糖がセット力・キープ力を高めることも、記載も示唆もされていない。すなわち、特許文献1には、還元水飴が毛の形状形成能や形状維持能を向上することは、記載も示唆もされていない。特に、中~低糖化の還元水飴や水飴が毛の形状形成能や形状維持能を向上することは、記載も示唆もされていない。
【0007】
このように、係る先行技術を鑑みても、毛のスタイリング力(本発明においては、「毛の形状形成能」および「毛の形状維持能」をまとめて、またはそのうちのいずれかを指して「毛のスタイリング力」という。)を向上する技術は十分に供給されている状況ではない。本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、毛のスタイリング力を向上する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、所定の還元水飴ならびにその原料である水飴が、毛のスタイリング力を向上させることを見出した。また、所定の還元水飴ならびにその原料である水飴が、毛のスタイリング力を向上させつつも、形状形成した毛において柔らかく優れた感触を実現できることを見出した。そこで、これらの知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0009】
(1)本発明に係る毛のスタイリング力向上用組成物の第1の態様は、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする;
(ア)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴(低糖化還元水飴)、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の水飴(低糖化水飴)、
(ウ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる還元水飴(低糖化還元水飴)、
(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴(低糖化水飴)。
【0010】
(2)本発明に係る毛のスタイリング力向上用組成物の第2の態様は、下記(オ)~(ク)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする;
(オ)糖組成が、単糖が30質量%未満、三糖以上が25質量%以上かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴(中糖化還元水飴)、
(カ)糖組成が、単糖が30質量%未満、三糖以上が25質量%以上かつ五糖以上が50質量%未満の水飴(中糖化水飴)、
(キ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる還元水飴(中糖化還元水飴)、
(ク)デキストロース当量が35超55以下の水飴(中糖化水飴)。
【0011】
(3)本発明に係る毛のスタイリング力向上用組成物の第3の態様は、下記(ケ)~(シ)から選択されるいずれか1以上を有効成分とする;
(ケ)糖組成が、単糖が1~10質量%、二糖が60~85質量%、三糖以上が7質量%以上の還元水飴(還元麦芽糖水飴)、
(コ)糖組成が、単糖が1~10質量%、二糖が60~85質量%、三糖以上が7質量%以上の水飴(麦芽糖水飴)、
(サ)デキストロース当量が40以上50以下の水飴を還元してなる還元水飴(還元麦芽糖水飴)、
(シ)デキストロース当量が40以上50以下の水飴(麦芽糖水飴)。
【0012】
(4)本発明に係る毛のスタイリング料の第1の態様は、下記(ア)~(エ)から選択されるいずれか1以上を含有する;
(ア)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の還元水飴(低糖化還元水飴)、
(イ)糖組成が、五糖以上が50質量%以上の水飴(低糖化水飴)、
(ウ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴を還元してなる還元水飴(低糖化還元水飴)、
(エ)デキストロース当量が10以上35以下の水飴(低糖化水飴)。
【0013】
(5)本発明に係る毛のスタイリング料の第2の態様は、下記(オ)~(ク)から選択されるいずれか1以上を含有する;
(オ)糖組成が、単糖が30質量%未満、三糖以上が25質量%以上かつ五糖以上が50質量%未満の還元水飴(中糖化還元水飴)、
(カ)糖組成が、単糖が30質量%未満、三糖以上が25質量%以上かつ五糖以上が50質量%未満の水飴(中糖化水飴)、
(キ)デキストロース当量が35超55以下の水飴を還元してなる還元水飴(中糖化還元水飴)、
(ク)デキストロース当量が35超55以下の水飴(中糖化水飴)。
【0014】
(6)本発明に係る毛のスタイリング料の第3の態様は、下記(ケ)~(シ)から選択されるいずれか1以上を含有する;
(ケ)糖組成が、単糖が1~10質量%、二糖が60~85質量%、三糖以上が7質量%以上の還元水飴(還元麦芽糖水飴)、
(コ)糖組成が、単糖が1~10質量%、二糖が60~85質量%、三糖以上が7質量%以上の水飴(麦芽糖水飴)、
(サ)デキストロース当量が40以上50以下の水飴を還元してなる還元水飴(還元麦芽糖水飴)、
(シ)デキストロース当量が40以上50以下の水飴(麦芽糖水飴)。
【0015】
(7)本発明に係る毛のスタイリング料の製造方法は、本発明に係る毛のスタイリング力向上用組成物を原料として配合する工程を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、毛のスタイリングにおいて、毛の形状形成をより容易にすることができる。あるいは、毛の形状維持を、より容易にすることができる。本発明によれば、所定の還元水飴や水飴を原料として配合するという簡便な方法により、優れたスタイリング力を有する毛のスタイリング料を得ることができる。本発明の有効成分である所定の還元水飴や水飴は、従来食品として用いられるほど安全性が高い物質であるから、安全性への懸念を全く生むことなく、毛のスタイリング力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例で用いた材料を示す表である。
図2】(I)は、各種の多価アルコールを固形分で3質量%含有するへアウォーターを用いて加熱冷却によりカール形成した毛髪におけるセット力を示す棒グラフである。(II)は、同毛髪を1時間保存したときのセット保持力を示す棒グラフである。
図3】(I)は、各種の多価アルコールまたは糖を固形分で5質量%含有する水溶液を用いて加水乾燥によりカール形成した毛髪におけるセット力を示す棒グラフである。(II)は、同毛髪を1時間保存したときのセット保持力を示す棒グラフである。
図4】(I)は、低糖化還元水飴またはPEG-32を固形分で1質量%含有する水溶液を用いて加水乾燥によりカール形成した毛髪におけるセット力を示す棒グラフである。(II)は、同毛髪を30分保存したときのセット保持力を示す棒グラフである。
図5】各種の多価アルコールまたは水溶性高分子を含有する水性ポマードを用いて加水乾燥によりカール形成した毛髪を、1時間保存したときのセット保持力を示す棒グラフである。
図6】各種の多価アルコールまたは糖を固形分で3質量%含有する水溶液を用いて加熱冷却によりカール形成した毛髪における「仕上がりの感触(柔らかさ)」を官能評価した結果を示す図である。(I)は、各パネルの採点結果およびその平均値(評価点)を示す表である。(II)は、評価点を示す棒グラフである。
図7】(I)は、中糖化還元水飴を固形分で0~7質量%含有する水溶液を用いて加水乾燥によりカール形成した毛髪におけるセット力を示す棒グラフである。(II)は、同毛髪を1時間保存したときのセット保持力を示す棒グラフである。
図8】(I)は、低糖化還元水飴を固形分で0~10質量%含有する水溶液を用いて加水乾燥によりカール形成した毛髪におけるセット力を示す棒グラフである。(II)は、同毛髪を1時間保存したときのセット保持力を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0019】
本発明において、「(毛の)スタイリング」は、頭髪やまつ毛といった体毛を望みの形状にすることをいう。
【0020】
本発明において、「毛のスタイリング力」は、毛の形状をつくる機能(形状形成能)、および、毛の形状を維持する機能(形状維持能)、またはそのうちのいずれかの機能をいう。
【0021】
本発明において、「毛のスタイリング料」は、毛の形状形成や形状維持を目的に含んで、毛に接触させるものをいう。毛のスタイリング料は、「スタイリング剤」と呼ばれる場合もあり、このうち特に頭髪用のものは「ヘアスタイリング剤」や「整髪料」、「整髪剤」などと呼ばれる場合もある。
【0022】
毛のスタイリング料の製品種別は、例えば化粧品や医薬部外品、医薬品などを例示することができるが、いずれであってもよい。また、毛のスタイリング料の剤型は、例えば液状、泡状、粉末状、ゲル状、ゾル状、ワックス状、ペースト状、クリーム状、固形状などを例示することができるが、いずれであってもよい。毛のスタイリング料のより具体的な製品剤型としては、頭髪用であれば、例えばポマード、チック、ヘアリキッド、へアオイル、セットローション、へアスプレー、へアウォーター、へアブロー、へアウォーター、へアトニック、へアクリーム、ヘアフォーム、ヘアジェル、ヘアワックス、グリース、へアローションなどを例示することができ、睫毛用であれば、「マスカラ」や「マスカラ下地」などを例示することができるが、いずれであってもよい。
【0023】
本発明は、毛のスタイリング力向上用組成物、毛のスタイリング料および毛のスタイリング料の製造方法を提供する。その第1の態様では、低糖化還元水飴(上記(ア)、(ウ))および/または低糖化水飴(上記(イ)、(エ))を用いることを特徴としている。第2の態様では、中糖化還元水飴(上記(オ)、(キ))および/または中糖化水飴(上記(カ)、(ク))を用いることを特徴としている。第3の態様では、還元麦芽糖水飴(上記(ケ)、(サ))および/または麦芽糖水飴(上記(コ)、(シ))を用いることを特徴としている。
【0024】
水飴は、デンプンを酸や酵素などで加水分解(糖化)して得られる物質であり、単糖(ブドウ糖)および多糖(オリゴ糖やデキストリンなど)の混合物である。水飴は、糖化の程度により高糖化水飴、中糖化水飴および低糖化水飴に分けられる場合がある。また、水飴のうち、特に、二糖(麦芽糖、マルトース)の含有割合が多いものを麦芽糖水飴(麦芽水飴とも呼ばれる)という場合がある。本発明においては、麦芽を用いて製造されたか否かを問わず、マルトースの含有割合が多い水飴を麦芽糖水飴という。
【0025】
還元水飴は、水飴を還元して得られる糖アルコールであるから、還元水飴もまた、単糖の糖アルコールおよび多糖(二糖、三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールのうち、2種以上の糖アルコールを含む混合物である。還元水飴も、糖化の程度により高糖化還元水飴、中糖化還元水飴および低糖化還元水飴に分けられる場合がある。また、還元水飴のうち、麦芽糖水飴を還元して得られるものを還元麦芽糖水飴という場合がある。還元麦芽糖水飴も還元水飴の一種であり、二糖の糖アルコールを多く含むが、単糖およびその他の多糖(三糖、四糖または五糖以上)の糖アルコールをも含む混合物である。
【0026】
低糖化の還元水飴または水飴の糖組成として、具体的には、(ア)(イ)五糖以上を50質量%以上含有する糖組成、(ス)三糖以上を67質量%以上および五糖以上を50質量%以上含有する糖組成、あるいは、(セ)単糖を1~10質量%、二糖を6~21質量%、三糖を7~23質量%、四糖を5~13質量%および五糖以上を50~82質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0027】
中糖化の還元水飴または水飴の糖組成として、具体的には、(オ)(カ)単糖を30質量%未満、三糖以上を25質量%以上かつ五糖以上を50質量%未満含有する糖組成、(ソ)単糖を30質量%未満、三糖以上を35質量%以上かつ五糖以上を50質量%未満含有する糖組成、(タ)単糖を2~10質量%、二糖を15~55質量%、三糖を15~65質量%、四糖を1~15質量%および五糖以上を1~38質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0028】
還元麦芽糖水飴または麦芽糖水飴の糖組成として、具体的には、(ケ)(コ)単糖を1~10質量%、二糖を60~85質量%、三糖以上を7質量%以上含有する糖組成、(チ)単糖を1~10質量%、二糖を60~85質量%、三糖を5~20質量%かつ四糖以上を2~20質量%含有する糖組成、(ツ)単糖を1~10質量%、二糖を60~85質量%、三糖を5~20質量%、四糖を1~10質量%かつ五糖以上を1~10質量%含有する糖組成を例示することができる。
【0029】
なお、本発明において、糖組成とは、糖の総質量に占める各糖の質量割合を百分率で示すものをいう。すなわち、糖の総質量を100とした場合の、各糖の質量百分率である。
【0030】
糖組成は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて確認することができる。すなわち、水飴または還元水飴を試料としてHPLCに供してクロマトグラムを得る。当該クロマトグラムにおいて、全ピークの面積の総和が「糖の総質量」に、各ピークの面積が「各糖の質量」に相当する。よって、試料における各糖の質量百分率は、検出された全ピークの面積の総和に対する各ピークの面積の割合として算出することができる。HPLCの条件は、定法に従って適宜設定することができるが、下記条件を例示することができる。
《HPLCの条件》
カラム;MCI GEL CK04S(10mm ID x 200mm)
溶離液;高純水
流速;0.4mL/分
注入量;20μL
カラム温度;65℃
検出;示差屈折率検出器RI-10A(島津製作所)
【0031】
水飴の糖化の程度の指標は、一般に、デキストロース当量(Dextrose Equivalent値;DE)が用いられる。DEは、試料中の還元糖をブドウ糖として測定したときの、当該還元糖の全固形分に対する割合(百分率)である。DEの最大値は100で、固形分の全てがブドウ糖であることを意味し、DEが小さくなるほど少糖類や多糖類が多いことを意味する。
【0032】
還元水飴は、水飴を還元して製造することから、還元水飴の糖化の程度は、水飴の糖化の程度に準じる。すなわち、原料水飴の糖化の程度が高いほど還元水飴の糖化の程度が高く、原料水飴の糖化の程度が低いほど還元水飴の糖化の程度は低い。
【0033】
すなわち、低糖化水飴のDEとしては、(エ)10以上、12以上、14以上、30以下、32以下、35以下を例示することができる。同様に、低糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、(ウ)10以上、12以上、14以上、30以下、32以下、35以下を例示することができる。
【0034】
また、中糖化水飴のDEとしては、(ク)32以上、33以上、34以上、35以上、35超、36以上、37以上、45以下、46以下、47以下、48以下、49以下、50未満、50以下、51以下、52以下、53以下、54以下、55以下を例示することができる。同様に、中糖化還元水飴の原料水飴のDEとしては、(キ)32以上、33以上、34以上、35以上、35超、36以上、37以上、45以下、46以下、47以下、48以下、49以下、50未満、50以下、51以下、52以下、53以下、54以下、55以下を例示することができる。
【0035】
また、麦芽糖水飴のDEとしては、(シ)35以上、35超、36以上、37以上、38以上、39以上、40以上、45以下、46以下、47以下、48以下、49以下、50未満、50以下、51以下、52以下、53以下、54以下、55以下を例示することができる。同様に、還元麦芽糖水飴の原料水飴のDEとしては、(サ)35以上、35超、36以上、37以上、38以上、39以上、40以上、45以下、46以下、47以下、48以下、49以下、50未満、50以下、51以下、52以下、53以下、54以下、55以下を例示することができる。
【0036】
なお、水飴のDEは、下記の方法により測定することができる。
《DEの測定方法》
試料2.5gを正確に量り、水で溶かして200mLとする。この液10mLを量り、1/25mol/L ヨウ素溶液(注1)10mLと1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液(注2)15mLを加えて20分間暗所に放置する。次に、2mol/L塩酸(注3)を5mL加えて混和した後、1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液(注4)で滴定する。滴定の終点近くで液が微黄色になったら、デンプン指示薬(注5)2滴を加えて滴定を継続し、液の色が消失した時点を滴定の終点とする。水を用いてブランク値を求め、次式1によりDEを求める。
(注1)1/25mol/L ヨウ素溶液:ヨウ化カリウム20.4gとヨウ素10.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注2)1/25mol/L 水酸化ナトリウム溶液:水酸化ナトリウム3.2gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注3)2mol/L 塩酸:水750mLに塩酸150mLをかき混ぜながら徐々に加える。
(注4)1/25mol/L チオ硫酸ナトリウム溶液:チオ硫酸ナトリウム20gを2Lのメスフラスコに入れ、少量の水で溶解後、標線まで水を加える。
(注5)デンプン指示薬:可溶性デンプン5gを水500mLに溶解し、これに塩化ナトリウム100gを溶解する。
【0037】
本発明において、還元水飴や水飴は、市販されているものをそのまま用いてもよく、当業者に公知の方法に従って製造して用いてもよい。市販の低糖化還元水飴としては、例えば、「アクアオール#2」、「スイートNT」、「エスイーP」、「エスイー30」および「エスイー100」(以上、物産フードサイエンス)、「PO-10」、「PO-20」(以上、三菱商事ライフサイエンス)などを、市販の中糖化還元水飴としては、例えば、「アクアオール#1」、「スイートOL」、「スイートG3」、「エスイー57」および「エスイー58」(以上、物産フードサイエンス)などを、市販の還元麦芽糖水飴としては、例えば、「スイートG2」、「エスイー20」、および「マルビット」(以上、物産フードサイエンス)などを例示することができる。
【0038】
還元水飴の公知の製造方法としては、水飴(原料糖)に水素を添加する還元反応を挙げることができる。水素添加による還元反応は、例えば、40~75質量%の原料糖水溶液を、還元触媒と併せて高圧反応器中に仕込み、反応器中の水素圧を4.9~19.6MPa、反応液温を70~180℃として、混合攪拌しながら、水素の吸収が認められなくなるまで反応を行なえばよい。その後、還元触媒を分離し、イオン交換樹脂処理、必要であれば活性炭処理等で脱色脱塩した後、所定の濃度まで濃縮すれば、高濃度の還元水飴を作ることができる。
【0039】
還元水飴や水飴は、毛に接触させることにより用いる。接触させるタイミングは、例えば、スタリングの前やスタイリングの後、スタイリングの最中などを例示することができるが、いずれであってもよい。なお、形状形成能の向上を目的とする場合は、スタイリングの前や最中に毛に接触させることが好ましい。水飴/還元水飴は、水などの各種溶媒に溶解させたり、各種の剤型のスタイリング料に混合して用いてもよい。接触させる態様としては、例えば、水飴/還元水飴またはこれを含む組成物を、毛に塗布や噴霧、浸漬等することが例示されるが、その剤型や使用量などに応じて、適宜、常法により行うことができる。
【0040】
本発明において、「毛のスタイリング力を向上する」とは、毛の形状形成能および形状維持能、またはそのうちのいずれかの機能を高めることをいう。
【0041】
毛のスタイリング力が向上したか否かは、例えば、毛のスタイリング力向上用組成物を接触させた毛と接触させていない毛とで、同様に形状形成(例えば、巻き毛(カール))を行い、その後の形状を比較することにより確認することができる。これにより、前者の方がカールの程度が強い(あるいは、張力を与えずに測定した毛全体の長さがより短い)場合は、本組成物により毛の形状形成能(すなわち毛のスタイリング力)が向上したと判断することができる。あるいは、形状形成後の毛を同条件下で一定時間保管した後に形状を比較し、前者の方が形状変化の程度(例えば、張力を与えずに測定した毛全体の長さの変化)が小さければ、本組成物により毛の形状維持能(すなわち毛のスタイリング力)が向上したと判断することができる。
【0042】
還元水飴や水飴を、スタイリング料を製造する通常の工程において原料として配合することにより、スタイリング力が向上した毛のスタイリング料をつくることができる。還元水飴は多価アルコールであることから、グリセリンや1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンチレングリコール等の従来配合される他の多価アルコールと同様に扱って、毛のスタイリング料を製造することができる。水飴も、少なくとも水溶性であり糖である点で還元水飴と共通することから、還元水飴と同様に扱って、毛のスタイリング料を製造することができる。毛のスタイリング料は、還元水飴や水飴を配合する他は、製品の種別や剤型、他の原料成分の種類や配合量、所望の使用感などに応じて、適宜、当業者に公知の手法によりつくることができる。
【0043】
後述する実施例に示すように、還元水飴や水飴は、加熱冷却によるスタイリングであっても、水に濡らした後乾燥させる(加水乾燥による)スタイリングであっても毛のスタイリング力を向上できる。また、水溶液のみならず、アルコールや界面活性剤、油性成分、防腐剤、香料など、化粧品や医薬部外品に汎用される他の配合成分の共存下であっても毛のスタイリング力を向上できる。したがって、本発明において、毛のスタイリング料は、その使用態様や配合成分、剤型は問われない。すなわち、毛のスタイリング料には、所定の還元水飴や水飴を配合するほか、本発明の特徴を損なわない限り他の成分(例えば、染料、顔料、界面活性剤、溶媒、分散媒、他の多価アルコール、防腐剤、キレート剤、pH調整剤、ソルビトール等の他の糖類、着色剤、動植物エキス、ビタミン類、無機塩類、有機塩類、可溶化剤、殺菌剤、保湿剤、酸化防止剤、湿潤剤、紫外線吸収剤、増粘剤、香料、カチオンポリマー、清涼剤、冷感剤、油剤など)が配合されてよい。
【0044】
還元水飴や水飴の使用量もまた、所望の毛の形状や使用感、対象となる毛の質や量、製品の剤型や種別、他の原料成分の種類や配合量などに応じて適宜設定することができる。
【0045】
例えば、低糖化の還元水飴および/または水飴を含む組成物であれば、その総質量を100質量%として、低糖化還元水飴/低糖化水飴の固形分濃度の下限は、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.03質量%以上、0.04質量%以上または0.05質量%以上を例示することができる。また、上限は、30質量%以下、29質量%以下、28質量%以下、27質量%以下、26質量%以下、25質量%以下、24質量%以下、23質量%以下、22質量%以下、21質量%以下、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下または11質量%以下を例示することができる。
【0046】
あるいは、低糖化還元水飴および/または低糖化水飴の使用量(固形分)の下限として、例えば、毛10gに対して、1mg以上、2mg以上、3mg以上または4mg以上を例示することができる。また、上限としては、例えば、毛10gに対して、2400mg以下、2200mg以下、2000mg以下、1800mg以下、1600mg以下、1400mg以下、1200mg以下、1000mg以下または900mg以下の使用量を例示することができる。
【0047】
また、例えば、中糖化の還元水飴および/または水飴を含む組成物であれば、その総質量を100質量%として、中糖化還元水飴/中糖化水飴の固形分濃度の下限は、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.7質量%以上、0.8質量%以上、0.9質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、2.5質量%以上、3質量%以上、3.5質量%以上、4質量%以上または4.5質量%以上を例示することができる。また、上限は、30質量%以下、29質量%以下、28質量%以下、27質量%以下、26質量%以下、25質量%以下、24質量%以下、23質量%以下、22質量%以下、21質量%以下、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9質量%以下または8質量%以下を例示することができる。
【0048】
あるいは、中糖化還元水飴および/または中糖化水飴の使用量(固形分)の下限として、例えば、毛10gに対して、10mg以上、20mg以上、30mg以上、40mg以上、50mg以上、60mg以上、70mg以上、80mg以上、90mg以上、100mg以上、150mg以上、200mg以上、250mg以上、300mg以上、350mg以上または400mg以上を例示することができる。また、上限としては、例えば、毛10gに対して、2400mg以下、2200mg以下、2000mg以下、1800mg以下、1600mg以下、1400mg以下、1200mg以下、1000mg以下、900mg以下、800mg以下、700mg以下または600mg以下の使用量を例示することができる。
【0049】
また、例えば、還元麦芽糖水飴および/または麦芽糖水飴を含む組成物であれば、その総質量を100質量%として、還元麦芽糖水飴/麦芽糖水飴の固形分濃度の下限は、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.7質量%以上、0.8質量%以上、0.9質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上、2質量%以上、2.5質量%以上、3質量%以上、3.5質量%以上、4質量%以上または4.5質量%以上を例示することができる。また、上限は、30質量%以下、29質量%以下、28質量%以下、27質量%以下、26質量%以下、25質量%以下、24質量%以下、23質量%以下、22質量%以下、21質量%以下、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下、10質量%以下、9質量%以下または8質量%以下を例示することができる。
【0050】
あるいは、還元麦芽糖水飴および/または麦芽糖水飴の使用量(固形分)の下限として、例えば、毛10gに対して、10mg以上、20mg以上、30mg以上、40mg以上、50mg以上、60mg以上、70mg以上、80mg以上、90mg以上、100mg以上、150mg以上、200mg以上、250mg以上、300mg以上、350mg以上または400mg以上を例示することができる。また、上限としては、例えば、毛10gに対して、2400mg以下、2200mg以下、2000mg以下、1800mg以下、1600mg以下、1400mg以下、1200mg以下、1000mg以下、900mg以下、800mg以下、700mg以下または600mg以下の使用量を例示することができる。
【0051】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例0052】
<試験方法>試験は、特段の記載のない限り下記の方法により行った。
[1]材料
毛髪は人毛黒髪(根元揃え、1束あたり約10g、約30cm)(ビューラックス)の毛束を用いた。毛束をラウレス硫酸ナトリウム10質量%水溶液で予洗いし、ドライヤーで温風乾燥させた後、25℃、湿度50%の環境下に一晩以上置くことにより調温調湿して、試験用毛束とした。
【0053】
その他の材料は図1に示す市販品を用いた。水飴および還元水飴については、その糖組成および(原料糖の)DE値も図1に示す。なお、低糖化還元水飴および低糖化水飴の平均分子量は、PEG-32の平均分子量と同程度である。
【0054】
[2]毛の形状形成能の評価
試験開始前の試験用毛束の長さをL0とし、カール形成直後の試験用毛束の長さをL1とした。下記の式2によりセット力を算出した。すなわち、セット力は、カール形成により短くなった毛髪長さの程度を示す値であり、当該値が大きいほど毛の形状形成能が高いといえる。
式2:セット力=100-(L1/L0)×100
【0055】
[3]毛の形状維持能の評価
試験開始前の試験用毛束の長さをL0とし、カール形成直後の試験用毛束の長さをL1とした。カール形成後の試験用毛束を25℃、湿度70%の環境下に保存し、保存開始から30分後または1時間後に、毛束の長さを測定した。その際の長さをLnとして、下記の式3によりセット保持力を算出した。すなわち、セット保持力は、カール形成による毛髪長さ変化量について、カール形成直後に対する保存後の割合を百分率で示す値であり、当該値が大きいほど毛の形状維持能が高いといえる。
式3:セット保持力=(L0-Ln)/(L0-L1)×100
【0056】
<実施例1>形状形成能および形状維持能の評価:加熱冷却によるスタイリング
[1]へアウォーターの調製
表1の(1)の材料を秤量して合わせ、80℃で加温溶解して第1相とした。表1の(2)の材料を秤量して合わせ、70℃程度まで加温溶解した後、第1相に混合した。これを40℃程度まで放冷した後、表1の(3)のエタノールを混合して、試料1~6のへアウォーターを調製した。なお、加熱の際に水分が蒸発するため、適宜水を加えて最終の合計量が100重量部となるようにした。試料1~6は、各種の多価アルコールを固形分で3質量%含有するへアウォーターである。
【表1】
【0057】
[2]カール形成および評価
試験用毛束10gあたり約1.2gのへアウォーター(試料1~6)を手で塗布し、なじませた後、ドライヤーで冷風を2分間当てて乾燥させた。直径26mmのカール用ロッドを有するヘアアイロンを180℃に調温し、毛先を除く毛束の中央付近をロッドに2回転分巻き付けて、8秒間熱を加えることにより、カール形成を行った。このヘアアイロンによる加熱処理は、毛束を5gごとに分けてロッドに巻き付けて行った。試料1~5のへアウォーターを用いた毛束を、それぞれ試料1~6として、試験方法[2]および[3]に記載の方法によりセット力およびセット保持力(保存開始から1時間後)を算出した。その結果を図2に示す。
【0058】
図2に示すように、試料1(中糖化還元水飴)、試料2(低糖化還元水飴)および試料3(還元麦芽糖水飴)は、試料5(PEG-32)および試料6(PEG-400)と比較して、セット力およびセット保持力のいずれもが、顕著に大きかった。試料4(グリセリン)は、セット保持力は比較的大きいものの、セット力は最も小さかった。すなわち、中糖化還元水飴、低糖化還元水飴または還元麦芽糖水飴を配合したへアウォーターを用いてカール形成した毛髪は、他の多価アルコールを配合した場合と比較して、高いセット力と高いセット保持力とを兼ね備えていた。この結果から、中~低糖化の還元水飴または還元麦芽糖水飴は、毛のスタイリングにおいて、形状形成能および形状維持能を向上できることが明らかになった。
【0059】
<実施例2>形状形成能および形状維持能の評価:加水乾燥によるスタイリング
[1]塗布液の調製
表2の材料を秤量してよく混合し、試料1~5の塗布液を調製した。試料1は水であり、試料2~5は各種の多価アルコールまたは糖を固形分で5質量%含有する水溶液である。
【表2】
【0060】
[2]カール形成および評価
試験用毛束10gあたり8gの塗布液(試料1~5)を手で塗布し、なじませた。直径25mmのカール用ロッドに毛束を巻き付け、その巻き付けた状態で40℃の環境下に2時間置くことにより乾燥させて、カール形成を行った。試料1~5の塗布液を用いた毛束を、それぞれ試料1~5とした。続いて、試験方法[2]に記載の方法によりセット力を算出した。また、試料2、3および5については、試験方法[3]に記載の方法によりセット保持力(保存開始から1時間後)を算出した。それらの結果を図3に示す。
【0061】
図3に示すように、セット力は、試料2(低糖化還元水飴)および試料3(低糖化水飴)において、試料1(水)、試料4(ソルビトール)および試料5(グリセリン)と比較して顕著に大きかった。また、セット保持力も試料2および試料3において、試料5と比較して顕著に大きかった。すなわち、低糖化還元水飴または低糖化水飴を配合した塗布液を用いてカール形成した毛髪は、他の多価アルコールを配合した場合と比較して、高いセット力および高いセット保持力を有していた。この結果から、低糖化還元水飴および低糖化水飴は、毛のスタイリングにおいて、形状形成能および形状維持能を向上できることが明らかになった。
【0062】
<実施例3>形状形成能および形状維持能の評価:加水乾燥によるスタイリング
[1]塗布液の調製
表3の材料を秤量してよく混合し、試料1~3の塗布液を調製した。試料1は水であり、試料2は低糖化還元水飴を、試料3はPEG-32を固形分で各1質量%含有する水溶液である。
【表3】
【0063】
[2]カール形成および評価
調製した塗布液を用いて、実施例2[2]に記載の方法で加水乾燥によりカール形成を行った。試料1~3の塗布液を用いた毛束をそれぞれ試料1~3として、試験方法[2]に記載の方法によりセット力を算出した。また、試料2および試料3については、試験方法[3]に記載の方法によりセット保持力(保存開始から30分後)を算出した。それらの結果を図4に示す。
【0064】
図4に示すように、セット力は、試料2(低糖化還元水飴)において、試料1(水)および試料3(PEG-32)と比較して顕著に大きかった。また、セット保持力も試料2の方が試料3よりも大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を配合した塗布液を用いてカール形成した毛髪は、PEG-32を配合した場合と比較して、セット力およびセット保持力のいずれも大きかった。この結果から、低糖化還元水飴は、毛のスタイリングにおいて、形状形成能および形状維持能を向上できることが明らかになった。
【0065】
<実施例4>形状形成能および形状維持能の評価:加水乾燥によるスタイリング
[1]水性ポマードの調製
表4の(1)の材料を秤量して合わせ、85℃で加温溶解して第1相とした。表4の(2)の材料を秤量して合わせ、80℃で加温溶解して第2相とした。表4の(3)の材料を秤量して合わせ、第3相とした。第1相を攪拌しながら、第2相を徐々に加えて混合した。これを500回転/分で5分間攪拌した後、60℃程度まで放冷し、第3相を混合した。50℃程度まで放冷した後、表4の(4)の香料を混合して、試料1~5の水性ポマードを調製した。なお、加熱の際に水分が蒸発するため、適宜水を加えて最終の合計量が100重量部となるようにした。試料1~3は、各種の多価アルコールを5質量%、試料4はPEG-400を1質量%、試料5は(VP/VA)コポリマーを0.25質量%およびグリセリンを5質量%(いずれも固形分濃度で)、それぞれ含有する水性ポマードである。PEG-400および(VP/VA)コポリマーは平均分子量が大きく粘度が高いため、実際的な使用濃度として、それぞれ1質量%および0.25質量%を設定した。
【表4】
【0066】
[2]カール形成および評価
塗布液(試験用毛束10gあたり8gを塗布)に代えて、調製した水性ポマード(試験用毛束10gあたり0.6gを塗布)を用いて、実施例2[2]に記載の方法で加水乾燥によりカール形成を行った。試料1~5の水性ポマードを用いた毛束をそれぞれ試料1~5として、試験方法[3]に記載の方法によりセット保持力(保存開始から1時間後)を算出した。その結果を図5に示す。
【0067】
図5に示すように、試料1(低糖化還元水飴)のセット保持力は、試料2(グリセリン)、試料3(PEG-32)、試料4(PEG-400)および試料5((VP/VA)コポリマー)と比較して顕著に大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を配合した水性ポマードを用いてカール形成した毛髪は、他の多価アルコールや水溶性高分子を配合した場合と比較して、高いセット保持力を有していた。この結果から、低糖化還元水飴は、毛のスタイリングにおいて、形状維持能を向上できることが明らかになった。
【0068】
<実施例5>毛の感触の評価:加熱冷却によるスタイリング
[1]へアウォーターの調製
表5に示す配合で、実施例1[1]に記載の方法により試料1~4のへアウォーターを調製した。試料1~4は、各種の多価アルコールまたは糖を固形分で3質量%含有するへアウォーターである。
【表5】
【0069】
[2]カール形成および評価
調製したへアウォーターを用いて、実施例1[2]に記載の方法で加熱冷却によりカール形成を行った。試料1~4のへアウォーターを用いた毛束を、それぞれ試料1~4とした。カール形成後の毛束を放冷した後、3名の分析型パネル(甲、乙、丙)によりカール部分を手で触って官能評価を行った。評価項目は「仕上がりの感触(柔らかさ)」とし、1~5点の5段階で各パネルが絶対評価で採点した。採点結果は、試料ごとに全パネルによる評点の平均値を求め、小数点第3位を四捨五入して評価点とした。下記の採点基準に示すように、評価点の点数が高いほど好ましいといえる。その結果を図6に示す。
≪採点基準≫
1点:感触が悪い(硬い、ごわつく)⇔感触が良い(やわらかい):5点(点数が大きいほどカール部分が柔らかく感触が良い。点数が小さいほどカール部分が硬いあるいはごわついて感触が悪い。)
【0070】
図6に示すように、試料1(中糖化還元水飴)、試料2(低糖化還元水飴)および試料3(低糖化水飴)は、試料4(PEG-32)と比較して評価点が顕著に大きかった。すなわち、中~低糖化還元水飴または低糖化水飴を配合したへアウォーターを用いてカール形成した毛髪は、PEG-32を配合した場合と比較して、仕上がりの感触が柔らかくて良かった。この結果から、中~低糖化還元水飴および低糖化水飴は、毛のスタイリング力を向上しつつ、スタイリング後の毛の柔らかさや感触の良さも実現できることが明らかになった。
【0071】
<実施例6>配合量の検討:中糖化還元水飴
[1]塗布液の調製
表6の材料を秤量してよく混合し、試料1~5の塗布液を調製した。試料1は水であり、試料2はグリセリンを固形分で5質量%含有する水溶液である。試料3~5は中糖化還元水飴を固形分で1~7質量%含有する水溶液である。
【表6】
【0072】
[2]カール形成および評価
調製した塗布液を用いて、実施例2[2]に記載の方法で加水乾燥によりカール形成を行った。試料1~5の塗布液を用いた毛束をそれぞれ試料1~5とした。続いて、試料1、4および5について試験方法[2]に記載の方法によりセット力を算出した。また、試料2~5について、試験方法[3]に記載の方法によりセット保持力(保存開始から1時間後)を算出した。それらの結果を図7に示す。
【0073】
図7に示すように、セット力は、試料4および試料5のいずれも、試料1と比較して顕著に大きかった。また、セット保持力も試料3~5のいずれも、試料2よりも顕著に大きかった。すなわち、中糖化還元水飴を1~7質量%配合した塗布液を用いてカール形成した毛髪(中糖化還元水飴を毛髪10g当り80~560mg塗布してカール形成した毛髪)は、いずれもセット力ないしセット保持力が大きかった。この結果から、中糖化還元水飴は、その使用量にかかわらず、毛のスタイリング力を向上できることが明らかになった。
【0074】
<実施例7>配合量の検討:低糖化還元水飴
[1]塗布液の調製
表7の材料を秤量してよく混合し、試料1~8の塗布液を調製した。試料1は水であり、試料2はグリセリンを固形分で5質量%含有する水溶液である。試料3~8は低糖化還元水飴を固形分で0.05~10質量%含有する水溶液である。
【表7】
【0075】
[2]カール形成および評価
調製した塗布液を用いて、実施例2[2]に記載の方法で加水乾燥によりカール形成を行った。試料1~8の塗布液を用いた毛束をそれぞれ試料1~8とした。続いて、試料1および3~8について試験方法[2]に記載の方法によりセット力を算出した。また、試料2~8について試験方法[3]に記載の方法によりセット保持力(保存開始から1時間後)を算出した。それらの結果を図8に示す。
【0076】
図8に示すように、セット力は、試料3~8のいずれも、試料1と比較して顕著に大きかった。また、セット保持力も試料3~8のいずれも、試料2よりも顕著に大きかった。すなわち、低糖化還元水飴を0.05~10質量%配合した塗布液を用いてカール形成した毛髪(低糖化還元水飴を毛髪10g当り4~800mg塗布してカール形成した毛髪)は、いずれもセット力およびセット保持力が大きかった。この結果から、低糖化還元水飴は、その使用量にかかわらず、毛のスタイリング力を向上できることが明らかになった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8