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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066938
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】光学システムおよび検体分析装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/06 20060101AFI20240509BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240509BHJP
   G01N 15/1429 20240101ALI20240509BHJP
   G01N 15/14 20240101ALI20240509BHJP
   G01N 15/1434 20240101ALI20240509BHJP
【FI】
G02B21/06
G01N21/64 F
G01N15/14 K
G01N15/14 C
G01N15/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176767
(22)【出願日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】桑名 卓也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 岳史
(72)【発明者】
【氏名】山田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】田川 礼人
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA02
2G043DA05
2G043EA01
2G043EA14
2G043HA01
2G043HA09
2G043JA03
2G043KA02
2G043KA05
2G043KA09
2G043LA01
2G043LA02
2G043NA01
2G043NA02
2H052AC34
2H052AF02
2H052AF14
2H052AF21
2H052AF25
(57)【要約】
【課題】小型化を実現可能な光学システムおよび検体分析装置を提供する。
【解決手段】光学システム100は、光を出射する光源111と、回折光学素子114により生じた複数の回折光が分布する照明光を照射する照射光学系ISと、細胞を含む試料を流すフローセル101と、照明光の照射により、フローセル101を流れる細胞から生じた光を受光する受光部123、133、143と、を備え、他の回折光に対する相対強度が10倍以下である0次回折光を含む照明光をフローセル101の細胞が通る位置に照射する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を出射する光源と、
前記光が入射する回折光学素子を含み、前記回折光学素子により生じた複数の回折光が分布する照明光を照射する照射光学系と、
前記照射光学系により照明光が照射される位置に細胞を含む試料を流すフローセルと、
前記照明光学系による前記照明光の照射により、前記フローセルを流れる前記細胞から生じた光を受光する受光部と、を備え、
前記照明光は、他の回折光に対する相対強度が10倍以下である0次回折光を含み、
前記照射光学系は、前記0次回折光を含む照明光を前記フローセルの細胞が通る位置に照射する、
光学システム。
【請求項2】
前記照射光学系は、前記回折光学素子から生じた照明光を前記フローセルに集光し、
前記相対強度は、前記照明光の集光面における前記0次回折光の光量と前記他の回折光の光量の比の値である、
請求項1に記載の光学システム。
【請求項3】
前記他の回折光の光量は、前記他の回折光によって形成される複数のスポットのうち少なくともいくつかのスポットの光量の代表値である、
請求項2に記載の光学システム。
【請求項4】
前記代表値は、最大値、平均値、中央値または最頻値である、
請求項3に記載の光学システム。
【請求項5】
前記回折光学素子に入射する入射光の強度をL0、前記0次回折光の強度をL1、前記0次回折光以外の他の回折光の強度をL2、前記回折光学素子から生じる前記0次回折光の前記入射光の強度に対する比率をR1、前記回折光学素子の回折効率をR2、前記照明光に含まれる前記他の回折光の数をNとすると、
前記0次回折光の強度L1は、以下の式(1)で表され、
前記他の回折光の強度L2は、以下の式(2)で表され、
前記相対強度は、L1/L2により表される、
請求項1に記載の光学システム。
L1=L0×R1 …(1)
L2=(L0-L1)×R2/N …(2)
【請求項6】
前記0次回折光は、前記照明光に含まれる他の回折光に対する相対強度が1倍以下である、
請求項1に記載の光学システム。
【請求項7】
前記照明光における1つの前記回折光が含まれる領域および前記回折光が含まれない領域を含む格子状の複数の領域に対する前記0次回折光以外の他の回折光が含まれる領域の個数の比率は、0.3%以上2%以下である、
請求項1に記載の光学システム。
【請求項8】
前記フローセルの前記試料の流れ方向における前記照明光の長さは、前記照明光における1つの前記回折光が含まれる領域を1ピクセルとした場合、300ピクセル以上である、
請求項1に記載の光学システム。
【請求項9】
前記受光部は、前記フローセルを流れる前記細胞から生じた散乱光を受光する、
請求項1に記載の光学システム。
【請求項10】
前記受光部は、前記フローセルを流れる前記細胞から生じた蛍光を受光する、
請求項1に記載の光学システム。
【請求項11】
前記照射光学系は、他の光源から出射された他の光を前記照明光に整合させる整合光学素子をさらに備え、
前記照明光により前記細胞から生じた光と前記他の光により前記細胞から生じた光を分離する分離光学素子と、
前記分離光学素子により分離された前記他の光に基づく前記光を受光する他の受光部と、をさらに備える、
請求項1に記載の光学システム。
【請求項12】
細胞を含む検体と試薬とを混合し、試料を調製する試料調製部と、
光を出射する光源と、
前記光が入射する回折光学素子を含み、前記回折光学素子により生じた複数の回折光が分布する照明光を照射する照射光学系と、
前記照射光学系により照明光が照射される位置に細胞を含む試料を流すフローセルと、
前記照射光学系による前記照明光の照射により、前記フローセルを流れる前記細胞から生じた光を受光する受光部と、
前記受光部からの信号に基づいて前記細胞を分類する制御部と、を備え、
前記照明光は、複数の他の回折光に対する相対強度が10倍以下である0次回折光を含み、
前記照射光学系は、前記0次回折光を含む照明光を前記フローセルの細胞が通る位置に照射する、
検体分析装置。
【請求項13】
前記照射光学系は、前記回折光学素子から生じた前記回折光を前記フローセルに集光する集光レンズを備える、
請求項12に記載の検体分析装置。
【請求項14】
前記受光部は、前記フローセルを流れる前記細胞から生じた散乱光を受光する、
請求項12に記載の検体分析装置。
【請求項15】
前記受光部は、前記フローセルを流れる前記細胞から生じた蛍光を受光する、
請求項12に記載の検体分析装置。
【請求項16】
前記照射光学系は、他の光源から出射された他の光を前記照明光に整合させる整合光学素子をさらに備え、
前記照明光により前記細胞から生じた光と前記他の光により前記細胞から生じた光を分離する分離光学素子と、
前記分離光学素子により分離された前記他の光に基づく前記光を受光する他の受光部と、をさらに備える、
請求項12に記載の検体分析装置。
【請求項17】
前記検体は、血液、髄液、骨髄液および体腔液のいずれかである、
請求項12に記載の検体分析装置。
【請求項18】
前記試薬は、溶血剤を含む、
請求項12に記載の検体分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学システムおよび検体分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる細胞の分類を正確かつ高速に行う手法として、以下の特許文献1には、ゴーストサイトメトリー(登録商標)と呼ばれる手法が記載されている。この手法では、パターン化された構造化光照明が細胞を含む試料に照射され、細胞から生じた光の情報が機械学習分類器に入力されることにより、細胞の分類が行われる。例えば、図15に示す光学系のように、構造化光照明は、回折光学素子DOE-1、DOE-2を使用して生成され、対物レンズ1004および蛍光フィルム1001を介して細胞を含む試料に照射される。回折光学素子DOE-1、DOE-2によって生成された構造化照明は、解析に必要な細胞由来のシグナルに及ぼすノイズの影響を抑えるために、150mmの焦点距離を有するレンズ1002を使用して結合イメージ面に照明され、結合イメージ面に配置される空間フィルタにより0次および多次の回折光を含む回折パターンが遮断される。回折パターンが遮断された構造化照明は150mmの焦点距離を有するレンズ1003によって中継され、対物レンズ1004および蛍光フィルム1001を通して試料に照射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2021-530715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成では、解析に必要な細胞由来のシグナルに及ぼすノイズの影響を抑えるために、回折パターンを遮断する構成を設けているため、光学システムが大型化するとの問題が生じる。具体的には、特許文献1の構成では、回折パターンを遮断する空間フィルタを配置するために2つのレンズ1002、1003が必要である。2つのレンズ1002、1003は、焦点距離を考慮し300mmの間隔をあけて配置され、光学システムの大型化の要因となっていた。
【0005】
かかる課題に鑑み、本発明は、小型化を実現可能としつつ、解析に必要な細胞由来のシグナルに及ぼすノイズの影響を抑えた光学システムおよび検体分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光学システム(100)は、光を出射する光源(111)と、光が入射する回折光学素子(114)を含み、回折光学素子(114)により生じた複数の回折光が分布する照明光を照射する照射光学系(IS)と、照射光学系(IS)により照明光が照射される位置に細胞を含む試料を流すフローセル(101)と、照射光学系(IS)による照明光の照射により、フローセル(101)を流れる細胞から生じた光を受光する受光部(123、133、143)と、を備え、照明光は、他の回折光に対する相対強度が10倍以下である0次回折光を含み、照射光学系(IS)は、0次回折光を含む照明光をフローセル(101)の細胞が通る位置(R)に照射する。
【0007】
この光学システムによれば、0次の回折光を遮断するための構成が不要になるため、小型の光学システムを構成しつつ、解析に必要な細胞由来のシグナルに及ぼすノイズの影響を抑えることができる。
【0008】
本発明の検体分析装置(1)は、細胞を含む検体と試薬とを混合し、試料を調製する試料調製部(21)と、光を出射する光源(111)と、光が入射する回折光学素子(114)を含み、回折光学素子(114)により生じた複数の回折光が分布する照明光を照射する照射光学系(IS)と、照射光学系(IS)により照明光が照射される位置に細胞を含む試料を流すフローセル(101)と、照射光学系(IS)による照明光の照射により、フローセル(101)を流れる細胞から生じた光を受光する受光部(123、133、143)と、受光部(122、133、143)からの信号に基づいて細胞を分類する制御部(10)と、を備え、照明光は、複数の他の回折光に対する相対強度が10倍以下である0次回折光を含み、照射光学系(IS)は、0次回折光を含む照明光をフローセル(101)の細胞が通る位置(R)に照射する。
【0009】
この検体分析装置によれば、0次の回折光を遮断するための構成が不要になるため、検体分析装置の小型化を実現しつつ、解析に必要な細胞由来のシグナルに及ぼすノイズの影響を抑えることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学システムおよび検体分析装置の小型化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態1に係る、検体分析装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施形態1に係る、訓練前および訓練後のAIアルゴリズムを示す模式図である。
図3図3は、実施形態1に係る、光学システムの構成を模式的に示す図である。
図4図4は、実施形態1に係る、フローセルおよび照明光を模式的に示す図である。
図5図5は、実施形態1に係る、照明光に含まれる回折光の分布パターンを模式的に示す図である。
図6図6は、実施形態1に係る、実験においてリンパ球に基づいて取得された検出信号を示す図である。
図7図7は、実施形態1に係る、実験において好中球に基づいて取得された検出信号を示す図である。
図8図8は、実施形態1に係る、照明光の長さを変化させた場合の分類性能の実験結果を示す図である。
図9図9は、比較例および実施形態1に係る、相対強度に対応する検出信号のシミュレーション結果を示す図である。
図10図10は、実施形態1に係る、相対強度に対応する検出信号のシミュレーション結果を示す図である。
図11図11は、実施形態1に係る、他の回折光のスポット比率を変化させた場合の回折光学素子の性能のシミュレーション結果を示す図である。
図12図12は、実施形態2に係る、光学ユニットの構成を模式的に示す図である。
図13図13は、実施形態3に係る、検体処理システムの構成を模式的に示す側面図である。
図14図14は、実施形態3に係る、他の検体分析装置が備える光学システムの構成を模式的に示す図である。
図15図15は、従来技術に係る光学システムを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態1>
図1は、検体分析装置1の構成を示すブロック図である。
【0013】
検体分析装置1は、制御部10と、演算部11と、記憶部12と、表示部13と、入力部14と、搬送部15と、読取部16と、通信部17と、測定部20と、を備える。
【0014】
制御部10は、CPUにより構成される。演算部11は、GPUにより構成される。記憶部12は、ROM、RAM、SSD、HDDなどにより構成される。制御部10は、検体分析装置1の各部が出力する信号を受信し、検体分析装置1の各部を制御する。
【0015】
また、制御部10は、細胞の分析のために記憶部12に記憶されたプログラムを実行し、測定部20で得られた検出信号に基づいて、演算部11にAIアルゴリズムによる細胞の分析を行わせる。この場合のAIアルゴリズムは、深層学習アルゴリズムである。より詳細には、演算部11は、学習済みのニューラルネットワークで構成されるAIアルゴリズム32(図2参照)を実行し、測定部20で得られた検出信号に基づいて細胞の分類結果を取得する。
【0016】
なお、演算部11は、学習済みのニューラルネットワークから構成されるAIアルゴリズム32による解析を行う前に、訓練前のニューラルネットワークで構成されるAIアルゴリズム31(図2参照)を実行して、訓練データを用いた学習を行い、学習済みのニューラルネットワークから構成されるAIアルゴリズム32(図2参照)を生成するようにしてもよい。
【0017】
なお、図1では、制御部10が検体分析装置1の各部の制御を行い、演算部11がAIアルゴリズム32による細胞の分類を行ったが、一つの制御部10により、検体分析装置1の各部の制御とAIアルゴリズム32による細胞の分類を行ってもよい。
【0018】
表示部13は、液晶ディスプレイにより構成される。入力部14は、キーボード、マウス、およびタッチパネルを含むポインティングデバイスにより構成される。なお、表示部13の液晶ディスプレイと入力部14のタッチパネルが一体的に構成されてもよい。読取部16は、バーコードリーダにより構成される。読取部16は、検体容器に付されたラベルからバーコードを読み取り、検体IDを取得する。搬送部15は、検体容器を保持した検体ラックを搬送し、読取部16の読み取り位置に搬送する。通信部17は、イーサネット規格に基づく通信インターフェースである。制御部10は、通信部17を介して他の装置と通信を行うことができる。
【0019】
測定部20は、試料調製部21、流体調整部22、光学システム100、増幅器23、およびA/Dコンバータ24、を備える。
【0020】
試料調製部21は、検体容器から検体を吸引するピペットと、検体と試薬とを混合して試料を調製するチャンバと、を含んで構成される。検体分析装置1に供される検体は、細胞を含む検体であればよく、例えば、血液、髄液、骨髄液および体腔液などである。検体と混合される試薬は、赤血球を溶血させるための溶血剤と、細胞の所定部位を染色するための蛍光色素を含む。流体調整部22は、シース液を貯蔵する容器と、試料やシース液を吸引するためのシリンジを含んで構成される。流体調整部22は試料やシース液を光学システム100に供給し、光学システム100での試料の流れを調整する。光学システム100は、流体調整部22により供給された試料を測定し、細胞の特徴を反映したアナログ信号を出力する。増幅器23は、光学システム100から出力されたアナログ信号を増幅する。A/Dコンバータ24は、増幅器23によって増幅されたアナログ信号をデジタル信号である検出信号に変換する。
【0021】
図2は、訓練前のAIアルゴリズム31および訓練後のAIアルゴリズム32を示す模式図である。
【0022】
図2の上段に示すように、訓練前のAIアルゴリズム31を訓練するために用いられる訓練用の検出信号41は、例えば特定の細胞を検体分析装置1によって測定して得られた検出信号である。この検出信号に対して、他の分析装置により取得された細胞の種別(図2の上段の例では「細胞A」)が対応付けられる。
【0023】
AIアルゴリズム31は、多層の中間層を含むニューラルネットワークにより構成される。この場合のニューラルネットワークは、例えば、畳み込み層を有する畳み込みニューラルネットワークである。AIアルゴリズム31は、入力層31aと、出力層31bと、中間層31cと、を有する。1つの細胞から得られるアナログ信号を所定のサンプリング周期でサンプリングして得られた検出信号のデータ群が入力層31aに入力され、細胞の種別に対応するラベル値が出力層31bに入力されることにより、AIアルゴリズム31が訓練される。このような訓練があらかじめ繰り返し実行されることにより、訓練後のAIアルゴリズム32が生成される。
【0024】
図2の下段に示すように、訓練後のAIアルゴリズム32も、入力層32aと、出力層32bと、中間層32cと、を有する。被検者の検体に基づいて取得された検出信号42は、入力層32aに入力される。これにより、出力層32bから、検出信号42に対応する細胞の種別に関する分類情報43が出力される。分類情報43は、対象細胞が、複数の種別の各々に該当する確率を含む。さらに、演算部11が演算したこれらの確率を含む演算結果に基づいて、制御部10は最も確率が高い種別(図2の下段の例では「細胞A」)を、対象細胞の種別と判定し、判定結果を表示部13に表示させる。
【0025】
このようなAIアルゴリズム31の訓練およびAIアルゴリズム32を用いた分類は、後述する3つの受光部123、133、143(図3参照)のうちの1つ以上の受光部によって個々の細胞毎に得られる検出信号のデータ群を、入力データとして入力層32aに入力することにより行われる。具体的には、受光部123、133、143のいずれか1つから得られる検出信号を用い、個々の細胞について得られる検出信号からn個のデータ群を得る場合、1つの細胞に対応してAIアルゴリズム31、32に入力される検出信号のデータ数はn個となり、入力層31a、32aのノードの数もn個となる。また例えば、3つの受光部123、133、143(図3参照)のそれぞれから得られる3つの検出信号のデータ群を入力データとして入力層31a、32aに入力する場合、3つの検出信号から3n個のデータ群を得ることになり、入力層31a、32aのノードの数も3n個となる。
【0026】
図3は、光学システム100の構成を模式的に示す図である。図3には、便宜上、互いに直交するX、Y、Z軸が付記されている。Z軸正方向は、フローセル101における試料の流れ方向である。
【0027】
光学システム100は、フローセル101と、光源111と、照射光学系ISと、集光レンズ121、131、141と、光学フィルタ122、132、142と、受光部123、133、143と、を備える。照射光学系ISは、コリメータレンズ112と、シリンドリカルレンズ113A、113Bと、回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)114と、集光レンズ115と、を備える。照射光学系ISは、照明光をフローセル101に照射する。
【0028】
光源111は、例えば、半導体レーザ光源である。光源111は、X軸正方向に所定の波長λ10の光を出射する。波長λ10は、例えば、405nmである。光源111のファスト軸方向およびスロー軸方向は、それぞれ、Y軸方向およびZ軸方向に平行である。
【0029】
コリメータレンズ112は、Y軸およびZ軸に対して湾曲する曲面を有し、光源111から出射された光の広がり角を小さくする。
【0030】
シリンドリカルレンズ113Aは、X-Y平面に平行な方向のみに湾曲するレンズ面を有し、このレンズ面の母線はZ軸に平行である。シリンドリカルレンズ113Aは、光源111から出射された光をファスト軸方向に収束させて、ファスト軸方向の光の広がりを略平行な状態に調整する。すなわち、シリンドリカルレンズ113Aは、光源111から出射された光を、ファスト軸方向にのみ平行光化する作用を有する。
【0031】
シリンドリカルレンズ113Bは、X-Z平面に平行な方向のみに湾曲するレンズ面を有し、このレンズ面の母線はY軸に平行である。シリンドリカルレンズ113Bは、光源111から出射された光をスロー軸方向に収束させて、スロー軸方向の光の広がりを略平行な状態に調整する。すなわち、シリンドリカルレンズ113Bは、光源111から出射された光を、スロー軸方向にのみ平行光化する作用を有する。
【0032】
光源111から出射されコリメータレンズ112およびシリンドリカルレンズ113A、113Bを透過した光が、X軸方向に見て略真円の形状となるよう、コリメータレンズ112およびシリンドリカルレンズ113A、113Bが配置される。これにより、回折光学素子114に入射する光は、略真円の形状となる。
【0033】
回折光学素子114には、入射する光に回折作用を付与するための溝や傾斜などによる複雑な凹凸形状の回折パターンが形成されている。回折光学素子114は、例えば特許第5849954号公報の記載に基づいて作製することができる。回折光学素子114は、シリンドリカルレンズ113B側から入射するX軸方向の光をX軸方向に対して回折させて、互いに進行方向が相違する複数の回折光を生じさせる。複数の回折光は、入射する光を分光したものになる。複数の回折光の回折次数は、互いに異なっている。集光レンズ115は、回折光学素子114から生じた複数の回折光をフローセル101に集光する。回折光学素子114で生じた互いに進行方向が異なる複数の回折光は、フローセル101に集光されて照明光を形成する。照明光に含まれる複数の回折光のうち、回折光学素子114の法線方向に0次回折光が生じ、回折光学素子114の法線方向とは異なる方向に、0次回折光以外の他の回折光が生じる。0次回折光以外の他の回折光の強度は互いにほぼ同じとなる。一方、0次回折光の強度は、回折光学素子114の設計にもよるが他の回折光の強度と同等にはならない。ここで光の強度とは、照明光の集光面における各回折光の光量(mW)を意味する。
【0034】
フローセル101には、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球および単球などの細胞を含む試料が流れる。フローセル101を流れる細胞に照明光が照射され、照明光中の各々の回折光が照射された細胞の部位から前方散乱光、側方散乱光および蛍光が生じる。前方散乱光は、X軸正方向に生じ、側方散乱光および蛍光は、X軸方向に交わる方向(例えば、Y軸方向)に生じる。ここでは、細胞を染色する蛍光色素に波長λ10の光が照射されると、この蛍光色素から波長λ11の蛍光が生じる。
【0035】
集光レンズ121は、細胞から生じた前方散乱光を受光部123に集光する。光学フィルタ122は、波長λ10の光のみを透過するよう構成されている。受光部123は、光学フィルタ122を透過した前方散乱光を受光して、受光強度に応じた検出信号を出力する。受光部123は、光電子増倍管(PMT)である。
【0036】
集光レンズ131は、細胞から生じた側方散乱光を受光部133に集光する。光学フィルタ132は、波長λ10の光のみを透過するよう構成されている。受光部133は、光学フィルタ132を透過した側方散乱光を受光して、受光強度に応じた検出信号を出力する。受光部133は、光電子増倍管(PMT)である。
【0037】
集光レンズ141は、細胞から生じた蛍光を受光部143に集光する。光学フィルタ142は、波長λ11の光のみを透過するよう構成されている。受光部143は、光学フィルタ142を透過した蛍光を受光して、受光強度に応じた検出信号を出力する。受光部143は、光電子増倍管(PMT)である。受光部123、133、143は、光電子増倍管(PMT)に替えて、フォトダイオードを用いてもよい。
【0038】
図4は、フローセル101および照明光を模式的に示す図である。図4には、図3と同様のX、Y、Z軸が付記されている。
【0039】
フローセル101の内部には、試料が流れる流路101aがZ軸に平行に形成されている。流路101aに試料とともにシース液を流すことで、試料に含まれる細胞はシース液に包まれて流路101aの中心領域CEを通過する。集光レンズ115により集光された照明光は、流路101aの中心領域CEに位置する所定の照射範囲Rに照射される。照射範囲Rには、一度に1つの細胞のみが位置付けられるように、言い換えれば2つ以上の細胞が照射範囲Rを同時に通過しないように、試料の濃度や、試料の流速などが調整される。
【0040】
図4の下段には、回折光学素子114の試作品(AGC株式会社)で生成した照明光を暗室に照射してカメラ(Basler AG,acA3800)で撮像して得られた画像が示されている。
【0041】
図4の照明光の画像において、黒い部分は光が含まれない範囲を示しており、白い点は光を含む範囲を示している。照明光の画像の中央付近の白い点は、回折光学素子114で生じた0次回折光を示している。照明光の画像の他の白い点は、回折光学素子114で生じた0次回折光以外の他の回折光を示している。本実施形態の回折光は、0次回折光、+1~+300次回折光および-1~-300次回折光を含んでおり、合計601個の白い点として照明光の画像に示される。図4の照明光の画像に示すように各回折光が分布するよう、回折光学素子114には回折パターン(ステップや溝)などが形成されている。
【0042】
図5は、照明光に含まれる回折光の分布パターンを模式的に示す図である。
【0043】
図5は、0次回折光のスポットの直径と同じ長さの辺をもつ複数のマス目によって照射範囲Rを格子状に区画したイメージを表している。中央のハッチングで示したマス目は、0次回折光のスポットが含まれる領域を示しており、黒いマス目は、0次回折光以外の他の1つの回折光のスポットが含まれる領域を示している。白いマス目は、回折光のスポットが含まれない領域を示している。図5には、照射範囲Rを通る細胞を破線の円形として示している。図4の照明光の画像に含まれる回折光のスポットの直径は約1μmであるため、この場合、それぞれのマス目のサイズは1×1μmである。細胞の大きさは10μm程度である。
【0044】
照射範囲R(図4参照)における照明光のサイズおよびY軸方向またはZ軸方向の長さは、格子状の各領域を1ピクセルとした場合、ピクセル数で表すことができる。図5に示す例では、フローセル101の試料の流れ方向(Z軸方向)における照明光の長さはpx1(ピクセル)であり、照明光の短手方向(Y軸方向)の長さはpx2(ピクセル)であり、照明光のサイズはpx1×px2(ピクセル)である。
【0045】
照明光を構成する複数の回折光が所定のパターンで分布するように回折光学素子114が設計される。所定のパターンは、ここではランダムなパターンとしている。なお、パターンとしては、特定のパターンの繰り返しが全くないものでもよく、特定のパターンが繰り返す周期性があってもよい。ただし、細胞の部位全体が少なくとも1回は照明光に露光されるよう、Y軸方向の長さが1ピクセルでZ軸方向に延びた領域には、少なくとも1つの他の回折光が配置されることが好ましい。
【0046】
測定時にフローセル101の流路101aに試料が流されると、試料中の細胞が、照射光の照射範囲RをZ軸正方向に移動する。このとき、流体調整部22により流速はほぼ一定となるよう調整される。Z軸正方向に流れる細胞に照明光に含まれる回折光が照射されると、回折光が照射された細胞の部分から前方散乱光および側方散乱光が生じる。また、蛍光色素によって染色された細胞に回折光が照射されると、回折光が照射された蛍光色素から蛍光が生じる。受光部123は、細胞に照射された1または複数の回折光により生じた前方散乱光を受光し、受光部133は、細胞の位置に照射された1または複数の回折光により生じた側方散乱光を受光し、受光部143は、染色された細胞の所定部位の位置に照射された1または複数の回折光により生じた蛍光を受光する。
【0047】
細胞がZ軸正方向に流れることに合わせて、細胞に照射される回折光の数がかわることや、各回折光があたる細胞の部位が変化することで、細胞から生じる前方散乱光や側方散乱光、蛍光の強度が経時的に変化する。このため、各受光部123、133、143の検出信号も時系列で変化する。演算部11は、これらの検出信号に基づいて、AIアルゴリズム32により細胞を分類する。
【0048】
特許文献1に例示されるような従来の装置では、図15を参照して説明したように、回折光学素子から生じる0次および多次の回折光を含む回折パターンをレンズ1002、1003と空間フィルタによって遮断していたが、この構成が光学システムの小型化の制約となっていた。これに対し、発明者らが検討を重ねた結果、他の回折光に対する相対強度が10倍以下である0次回折光を含んだ照明光を細胞に照射する構成とすることで、AIアルゴリズムによる細胞分類を可能としつつ、装置の小型化を実現可能であることを見出した。
【0049】
ここで、0次回折光以外の他の少なくとも一つの回折光に対する0次回折光の相対強度をRIとし、相対強度RIの算出方法について説明する。
【0050】
以下、回折光学素子114に入射する入射光の強度をL0とする。0次回折光の強度をL1とする。0次回折光以外の他の回折光の強度をL2とする。なお、光の強度L0、L1、L2は、光パワーメータを用いて測定したり、ビームプロファイラやカメラを用いて照明光を撮像し、撮像された光に対応する複数の画素の輝度値を積算することで得ることができる。強度L2は、複数の他の回折光の強度が実質的に同一の場合、例えば3%以下のバラつきである場合、いずれか一つの他の回折光の強度とすることができる。あるいは、実質的に同一ではない場合、複数の他の回折光のうちいくつかの平均値、中央値、最頻値または最大値などの代表値を用いてもよい。
【0051】
また、回折光学素子114から生じる0次回折光の強度L1の入射光の強度L0に対する比率をR1とする。回折光学素子114の回折効率をR2とする。照明光に含まれる他の回折光の数をNとする。比率R1、R2は回折光学素子の特性値である。Nは、0次回折光以外の他の回折光によって形成される照明光の点(スポットともいう)の数である。0次回折光の強度L1は、以下の式(11)で表され、他の回折光の強度L2は、以下の式(12)で表される。
【0052】
L1=L0×R1 …(11)
L2=(L0-L1)×R2/N …(12)
【0053】
相対強度RIは、以下の式(13)で表される。
【0054】
RI=L1/L2=N×R1/(R2-R1×R2) …(13)
【0055】
この式(13)から、相対強度RIは、光の強度L1、L2を実際に測定して得られる測定値から求めることもできるし、回折光学素子114の特性値R1、R2およびスポットの数Nから求めることもできる。
【0056】
照明光における1つのスポットを1ピクセルとした場合のスポットを形成可能な全領域の面積をS(単位はピクセル数)とし、全領域の面積のうち他の回折光によって形成される照明光の点(スポット)が形成された面積の比率をスポット比率RS(単位は%(個/ピクセル数))とする。スポット比率RSは、言い換えれば、照明光における1つの回折光が含まれる領域および回折光が含まれない領域を含む格子状の複数の領域(図5参照)に対する他の回折光が含まれる領域の個数の比率である。この場合、スポット数Nは、以下の式(14)で表される。
【0057】
N=S×RS/100 …(14)
【0058】
上記式(11)~(14)によれば、以下のことが言える。
【0059】
入射光に対する0次回折光の比率R1を小さくすることにより、相対強度RIを小さくできる。比率R1は、例えば、3%未満であることが好ましい。
【0060】
回折光学素子114の回折効率R2を大きくすることにより、相対強度RIを小さくできる。回折効率R2は、例えば、60%以上であることが好ましい。
【0061】
照明光に含まれるスポット数Nを小さくすることにより、相対強度RIを小さくできる。言い換えると、照明光の面積Sを小さくする、または、スポット比率RSを小さくすることで、スポット数Nを減少させることにより、相対強度RIを小さくできる。面積Sを形成するY軸方向およびZ軸方向の長さは、例えば、それぞれ59ピクセルおよび999ピクセルに設定される。面積Sを構成するZ軸方向の長さの好ましい範囲については、追って図8を参照して説明する。スポット比率RSは、例えば、0.3%以上2%以下に設定されることが好ましい。スポット比率RSの好ましい範囲については、追って図11を参照して説明する。
【0062】
ただし、相対強度RIが10倍以下を実現できれば、好ましい範囲は上記に限らない。
【0063】
以下、図6~10を参照して、相対強度RIが10倍以下となる場合に、0次回折光の影響を効果的に抑制できることについて説明する。
【0064】
まず、AIアルゴリズムによる細胞分類性能を維持しつつ、光学システムとして許容可能な相対強度RIについて、発明者が試作した装置(以下、実施例という)を用いて検討した。実施例に係る回折光学素子114としては、先に図4の下段で照明光の画像を示した試作品を用いた。この回折光学素子114の試作品を含む照射光学系ISの仕様は以下とした。
【0065】
【表1】
【0066】
回折光学素子114の試作品は、入射光を透過して出射する透過型の構成とした。0次回折光の入射光に対する強度の比率R1は0.1%であった。回折光学素子114の回折効率R2は0.7であった。照明光のサイズは、試料の流れる方向が999ピクセル、試料の流れに直交する方向が59ピクセルであった。他の回折光のスポット比率RSは1.09%であった。そして、他の回折光に対する0次回折光の相対強度RIは0.93倍であった。
【0067】
図6、7は、適正な照明光の強度を検討するために行った実験において取得された検出信号を示すグラフである。
【0068】
白血球の分類を行う場合、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球および単球などの細胞からの光により検出信号が得られるが、リンパ球に基づく検出信号の強度が最も小さく、好中球に基づく検出信号の強度が最も大きい。このため、リンパ球の検出信号をノイズと区別して取得できるよう、0次回折光を含む照明光の強度はある程度大きく設定しつつ、好中球に基づく光によって受光部が飽和しないよう、照明光の強度をある程度以上には大きくしないことが必要となる。以下、発明者らは、実施例の装置で白血球を測定する実験を行った。この実験では、リンパ球および好中球を含むコントロール血液(streck社製、CD-Chex Plus、品番213367)を検体として用い、この検体に含まれる複数種類の細胞に対して、照明光の照射により各細胞から生じた側方散乱光に基づく検出信号を受光部133により取得した。また、検体に対してリンパ球および好中球の細胞種を特定するための蛍光標識を行い、蛍光に基づく検出信号を受光部143により取得した。
【0069】
図6に示すグラフでは受光部133が飽和するときの検出信号の値を1.0として、検出信号の相対値を縦軸に示し、測定時間[μsec]を横軸に示している。図6の上段のグラフは、リンパ球を実際に測定したときに得られた検出信号を示している。図6の下段のグラフは、図6の上段のグラフを拡大表示したものである。図6の下段のグラフにおいて、2つの一点鎖線の範囲は、検出信号に重畳するノイズが略含まれる範囲である。ノイズ範囲の上限値すなわちノイズの閾値は、例えば、グラフの左端付近のノイズ領域において、ベースライン(0)にノイズの2SDの値(0.00856)を加算した値に設定される。図6の下段のグラフにおいて、破線で囲まれた部分は、ノイズを除く検出信号のうち、最も小さい検出信号である。したがって、破線で囲んだ部分は、照明光に含まれる0次回折光以外の他の回折光の1つに基づく検出信号と見なすことができる。この検出信号の値は約0.02である。
【0070】
受光部133の感度や照明光の強度を小さくした場合、リンパ球の検出信号がノイズの閾値を下回り、リンパ球の検出信号とノイズの検出信号とを区別できなくなる。そこで、図6では、リンパ球の検出信号をノイズと区別して取得できるレベルに、受光部133の照明光の強度が設定されている。具体的には、破線で囲まれた他の回折光の1つに基づく検出信号が、ノイズの閾値を僅かに超えるように、受光部133の感度および照明光の強度が設定されている。
【0071】
図7の上段のグラフは、好中球を実際に測定したときに得られた検出信号を示している。この場合の検出信号は、図6のリンパ球の検出時と同様の受光部133の感度および照明光の強度で取得されている。図7の上段のグラフにおいて、破線で囲まれた部分は、ノイズを除く検出信号のうち、最も小さい検出信号である。したがって、破線で囲んだ部分は、照明光に含まれる回折光の1つに基づく好中球の検出信号と見なすことができる。この検出信号の値は約0.1である。
【0072】
ここで、上述したように、この実験で用いた実施例に係る回折光学素子114における0次回折光の相対強度RIは0.93倍であることから、照明光に含まれる0次回折光に基づく検出信号の値は、他の回折光の1つに基づく検出信号の値と同程度である。また、この場合の受光部133が飽和するときの検出信号の値は1.0である。したがって、0次回折光に基づく検出信号の値が、0.1から1.0の範囲であれば、受光部133の飽和を防ぐことが可能である。すなわち、図7の上段のグラフに対して0次回折光の相対強度RIが10倍の0次回折光を想定すると、図7の下段のグラフにおいて点線で示すように、0次回折光に基づく検出信号が1.0付近まで伸びる。しかしながら、このときの0次回折光に基づく検出信号は、受光部133が飽和するときの値(1.0)以下であるため、受光部133の飽和は回避される。
【0073】
以上のように、図6、7に示した実験によれば、白血球の分類において、相対強度RIを10倍以下に設定することにより、検出信号が最も小さいリンパ球の場合および検出信号が最も大きい好中球の場合のいずれにおいても、検出信号をノイズと区別でき、受光部133が飽和することを回避できる。
【0074】
なお、この実験では、側方散乱光に基づく受光部133の検出信号について検討したが、前方散乱光および蛍光に基づく検出信号についても同様である。すなわち、前方散乱光を受光する受光部123の検出信号と、蛍光を受光する受光部143の検出信号とにおいても、相対強度RIが10倍以下に設定されることにより、リンパ球および好中球のいずれにおいても、検出信号をノイズと区別でき、受光部133の飽和を回避できる。
【0075】
次に、図8を参照して、照明光のZ軸方向の長さを変化させた場合のAIアルゴリズムの分類性能に関する実験結果について説明する。
【0076】
この実験では、実施例に係る装置を用いた。試作品の回折光学素子114の他の回折光のスポット比率RSは1.09%であった。回折光学素子114の0次回折光の相対強度RIは0.93倍であった。好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球および単球を含む試料をフローセル101に流し、Z軸方向の長さが999ピクセルである照明光をフローセル101に照射し、側方散乱光に基づく受光部133の検出信号を用いて、各細胞をAIアルゴリズム32により分類した。細胞ごとに分類結果の正解および不正解を判定してF値を取得し、分類性能として各細胞のF値の平均を取得した。また、Z軸方向の長さが999ピクセルである照明光に対応する検出信号全体から、Z軸方向の長さが100、200、300、400、500、600、および700ピクセルである照明光に対応する検出信号を抽出し、抽出した検出信号ごとに上記のF値およびF値の平均を取得した。
【0077】
図8は、照明光の長さを変化させた場合の分類性能を示すグラフである。図8のグラフにおいて、縦軸は分類性能を示し、横軸は照明光のZ軸方向の長さ(抽出した検出信号に対応する照明光の長さ)を示している。図8の下段の表は、図8の上段のグラフの詳細を示している。
【0078】
図8のグラフに示すように、この実施例で用いた光学システムによれば、相対強度RIを1倍以下とすることにより、AIアルゴリズムによる細胞分類性能として、Z軸方向の長さが100ピクセル以上の全ての例で95%以上の正答率を達成できた。照明光のZ軸方向の長さが大きくなるにつれて、分類性能が上がっている。この理由としては、照明光のZ軸方向の長さが長くなるほど、取得できる検出信号の情報量が多くなり、より正確に細胞を分類できるためと考えられる。また、照明光のZ軸方向の長さが300ピクセルを超えるときの分類性能は、長さが100または200ピクセルであるときの分類性能に比べて、一段階大きく、また分類性能の変化が小さくなっている。したがって、照明光のZ軸方向の長さは、300ピクセル以上に設定することがより好ましい。
【0079】
なお、この実験では、側方散乱光に基づく受光部133の検出信号を用いた場合の照明光の長さについて検討したが、前方散乱光および蛍光に基づく検出信号を用いた場合についても同様である。すなわち、前方散乱光を受光する受光部123の検出信号を用いた場合と、蛍光を受光する受光部143の検出信号を用いた場合とにおいても、照明光のZ軸方向の長さは、300ピクセル以上に設定するのが好ましいことが想定される。
【0080】
次に、細胞分類性能を維持するための相対強度RIの許容範囲をシミュレーションにより確認した。図9、10は、相対強度RIが異なる場合の検出信号の波形の違いを検討したシミュレーション結果を示すグラフである。シミュレーションでは、0次回折光の相対強度RIを46倍、10倍、5倍、1倍に変化させた。
【0081】
このシミュレーションでは、まず、図4の下段に示される画像と同じ回折光の分布パターンを画素値によって再現したマップを作成した。具体的には、表計算ソフトを用いて、図5に示すようなマス目状のマップを作成し、図4の画像の白い光点に対応するマス目には1、黒い領域には0を入力した。0次回折光に対応するマス目には、相対強度RIに応じて、46、10、5、または1を入力した。次に、このマップに、予め作成したビーズ画像を重ね、重なった範囲のマス目の画素値とビーズ画像の画素値の内積を計算し、これを検出信号の値とした。この計算を、ビーズ画像の位置を1ステップごとに1ピクセルずつ左から右に移動させる毎に繰り返し、検出信号の時系列の波形を作成した。図9、10の各グラフでは、検出信号が時系列に沿って変化する波形が示されている。各グラフにおいて、縦軸は検出信号の強度を示しており、横軸は、経過時間に対応する経過ステップ数を示している。グラフの左端および右端は、それぞれ、ビーズが照射範囲Rの左端および右端に位置付けられたときに取得される検出信号を示している。すなわち、横軸の経過時間は、Z軸正方向に移動する細胞の位置に対応する。
【0082】
図9の上段のグラフは、0次回折光の相対強度RIを46倍とした場合の検出信号、すなわち、0次回折光の強度値を46、その他の回折光の強度値を1とした場合の検出信号を示している。この場合、0次回折光により生じた光の強度が他の回折光により生じた光の強度よりも顕著に大きいため、0次回折光がビーズに照射されるタイミングで、顕著に強度が高い検出信号が検出されている。このように顕著に強度が高い検出信号を検出するように検出器および後段の増幅器やA/D変換回路を構成すると、検出信号をアナログ信号からサンプリングしてデジタル信号に変換する際に、他の回折光による強度の低い検出信号の信号分解能が大きく低下してしまう。具体的には、デジタル信号の全階調が256階調の場合、高値側の5-256階調は0次回折光による検出信号でしか用いられず、他の回折光による検出信号は、低値側の1-5階調といった極めて狭い階調のみを用いることになる。したがって、0次回析光の他の回折光を用いたAIアルゴリズムによる細胞の分類が難しくなってしまう。
【0083】
図9の下段のグラフは、相対強度RIを10倍とした場合の検出信号、すなわち、0次回折光の強度値を10、その他の回折光の強度値を1とした場合の検出信号を示している。この場合、図9の上段のグラフと比較して、0次回折光により生じた光の強度と他の回折光により生じた光の強度との差が縮まっている。このように10倍程度の相対強度の検出信号を検出するように検出器および後段の増幅器やA/D変換回路を構成すると、検出信号をアナログ信号からサンプリングしてデジタル信号に変換する際にも、他の回折光による強度の低い検出信号の信号分解能は一定程度保たれる。具体的には、デジタル信号の全階調が256階調の場合、高値側の26-256階調は0次回折光による検出信号でしか用いられないが、他の回折光による検出信号は、低値側の1-25階調といった階調を用いることができる。0次回析光の他の回折光に対して、25階調程度の信号分解能があれば、AIアルゴリズムにより、一定以上の精度で細胞を分類することが可能になる。
【0084】
図10の上段のグラフは、相対強度RIを5倍とした場合の検出信号、すなわち、0次回折光の強度値を5、その他の回折光の強度値を1とした場合の検出信号を示している。この場合、図9の下段のグラフと比較して、さらに0次回折光により生じた光の強度と他の回折光により生じた光の強度との差が縮まっている。このように5倍程度の相対強度の検出信号を検出するように検出器および後段の増幅器やA/D変換回路を構成すると、デジタル信号の全階調が256階調の場合、高値側の51-256階調は0次回折光による検出信号でしか用いられないが、他の回折光による検出信号は、低値側の1-50階調といった階調を用いることができる。したがって、AIアルゴリズムにより、より高い精度で細胞を分類することが可能になる。
【0085】
図10の下段のグラフは、相対強度RIを1倍とした場合の検出信号、すなわち、0次回折光および他の回折光の強度値を1とした場合の検出信号を示している。このように1倍程度の相対強度の検出信号を検出するように検出器および後段の増幅器やA/D変換回路を構成すると、デジタル信号の全階調が256階調の場合、他の回折光による検出信号は、256階調の全て用いることができる。したがって、AIアルゴリズムにより、さらに高い精度で細胞を分類することが可能になる。
【0086】
次に、図11を参照して、他の回折光のスポット比率RSを変化させた場合の回折光学素子114の性能のシミュレーション結果について説明する。
【0087】
このシミュレーションでは、測定対象をビーズの蛍光画像とし、0次回折光の相対強度RIを1倍とした。他の回折光のスポット比率RSとして、0.1%、0.3%、0.5%、0.7%、1%、2%および3%とした。各スポット比率RSにおいて、互いに異なる分布パターンの照射光を生じさせる1000種類の回折光学素子114を用いて、測定対象(ビーズ)と照明光の分布パターンとから、蛍光に基づく受光部143の検出信号を生成した。生成した検出信号と照明光の分布パターンとから元のビーズの画像(蛍光画像)を復元し、検出信号の信号量に対応する指標として、PSNR(ピーク信号対雑音比)を算出した。PSNRは、どの程度精度良くビーズの画像を復元できるかを示す指標であり、PSNRが高い検出信号を用いることにより、ゴーストサイトメトリー(登録商標)においてより精度よく細胞分類を行うことが期待できる。
【0088】
図11は、スポット比率RSごとのPSNRの最大値を示すグラフである。図11のグラフにおいて、横軸はスポット比率RSを示し、縦軸は1000種類の回折光学素子114に基づくPSNRの最大値である。
【0089】
図11のグラフに示すように、スポット比率RSが0.3%以上2%以下であるときのPSNRの最大値は、PSNRが0.1%または3%であるときのPSNRの最大値よりも顕著に大きくなった。このことから、PSNRが最大値となる回折光学素子114を用いる場合、スポット比率RSを0.3%以上2%以下に設定することにより、検出信号の信号量を効果的に高めることができ、精度良くビーズの画像を復元できることが分かる。また、スポット比率RSを1%に設定すると、PSNRの最大値を最も高く設定できた。このため、スポット比率RSは、0.3%以上2%以下に設定されることが好ましく、1%であることがさらに好ましい。
【0090】
<実施形態1による光学システムおよび検体分析装置の効果>
図3に示したように、照射光学系ISは、光源111からの光が入射する回折光学素子114を含み、回折光学素子114により生じた0次回折光を含む複数の回折光が所定の分布パターンで分布する照明光(図4、5参照)をフローセル101に照射する。受光部123、133、143は、0次回折光を含む複数の回折光を含む照明光の照射により、フローセル101を流れる細胞から生じた光を受光する。照射光学系ISは0次および多次の回折光を遮断する構成を備えない。
【0091】
0次および多次の回折光を遮断する構成を設けないことによる小型化の効果について説明する。特許文献1の細胞分析装置では、0次および多次の回折光を含む回折パターンの遮断のために回折光学素子と対物レンズの間でいったん構造化照明を結像させるための2つのレンズを設けている。特許文献1で用いられている2つのレンズの焦点距離はそれぞれ150mmである。つまり、特許文献1では、回折光学素子と対物レンズの間の2つのレンズ間の距離だけで300mmを確保する必要がある。一方、発明者らの試作による実験機では、図3に示す回折光学素子114と集光レンズ115の間の距離は約20mmであり、特許文献1の光学系に比べてDOEと対物レンズの間の距離を1/15以下に短縮することができた。また、特許文献1のレンズ間距離が300mmであるのに対して、実験機の光学系全体のX軸方向のサイズが約350mmであることからも、大幅な小型化が実現できたことがいえる。
【0092】
<実施形態2>
実施形態2の光学システム100は、回折光学素子114を経由しない他の光が細胞に照射されたときに生じる光を受光する構成をさらに備える。
【0093】
図12は、実施形態2に係る、光学システム100の構成を模式的に示す図である。
【0094】
実施形態2の光学システム100は、図3に示した実施形態1の光学システム100と比較して、光源151と、コリメータレンズ152と、光源153と、コリメータレンズ154と、ダイクロイックミラー155と、シリンドリカルレンズ156と、ダイクロイックミラー157と、ダイクロイックミラー124、134、144と、光学フィルタ125、135、145と、受光部126、136、146と、ビームストッパ116と、を備える。ダイクロイックミラー157は、照射光学系ISに含まれる。以下、実施形態1との違いについて説明する。
【0095】
光源151、153は、例えば、半導体レーザ光源である。光源151は、Y軸負方向に所定の波長λ20の光を出射し、光源153は、X軸正方向に所定の波長λ30の光を出射する。波長λ20は、例えば642nmであり、波長λ30は、例えば488nmである。コリメータレンズ152、154は、それぞれ、光源151、153から出射された光を平行光に変換する。ダイクロイックミラー155は、光源151からの波長λ20の光を透過し、光源153からの波長λ30の光を反射する。ダイクロイックミラー155により、光源151、153からの光の光軸が一致させられる。
【0096】
シリンドリカルレンズ156は、ダイクロイックミラー155からの光をZ軸方向に収束させ、フローセル101の位置において扁平形状にする。ダイクロイックミラー157は、光源111からの波長λ10の光を透過し、光源151からの波長λ20の光および光源153からの波長λ30の光を反射する。ダイクロイックミラー157により、光源151、153からの光の光軸と、回折光学素子114からの照明光の中心軸とが一致させられる。
【0097】
集光レンズ115は、光源111、151、153からの光を、フローセル101の流路101aに集光する。集光レンズ115は、波長λ10、λ20、λ30の光に対して色収差を抑制するよう構成される。光源151、153からの光は、シリンドリカルレンズ156の作用により、Z軸方向の幅が小さい扁平形状でフローセル101の流路101aに照射される。
【0098】
フローセル101を流れる細胞に光源151、153からの光が照射されると、光が照射された細胞の部位から前方散乱光、側方散乱光および蛍光が生じる。ここでは、細胞を染色する他の蛍光色素に波長λ30の光が照射されると、他の蛍光色素から波長λ31の光が生じることが想定されている。
【0099】
集光レンズ121は、細胞から生じた波長λ20の前方散乱光を受光部126に集光する。ダイクロイックミラー124は、波長λ10の前方散乱光を反射し、波長λ20の前方散乱光を透過する。ビームストッパ116は、細胞に照射されずにフローセル101を透過した波長λ20の光を遮断し、細胞から生じた波長λ20の前方散乱光を通過させる。光学フィルタ125は、波長λ20の光のみを透過するよう構成されている。受光部126は、光学フィルタ125を透過した波長λ20の前方散乱光を受光して、受光強度に応じた検出信号を出力する。受光部126は、例えば、フォトダイオード(PD)である。
【0100】
集光レンズ131は、細胞から生じた波長λ10の側方散乱光を受光部133に集光し、細胞から生じた波長λ20の側方散乱光を受光部136に集光する。ダイクロイックミラー134は、波長λ10の側方散乱光を反射し、波長λ20の側方散乱光を透過する。光学フィルタ135は、波長λ20の光のみを透過するよう構成されている。受光部136は、光学フィルタ135を透過した波長λ20の側方散乱光を受光して、受光強度に応じた検出信号を出力する。受光部136は、例えば、フォトダイオード(PD)である。
【0101】
集光レンズ141は、細胞から生じた波長λ11の蛍光を受光部143に集光し、細胞から生じた波長λ31の蛍光を受光部146に集光する。ダイクロイックミラー144は、波長λ11の蛍光を反射し、波長λ31の蛍光を透過する。光学フィルタ145は、波長λ31の光のみを透過するよう構成されている。受光部146は、光学フィルタ145を透過した波長λ31の蛍光を受光して、受光強度に応じた検出信号を出力する。受光部146は、例えば、光電子増倍管(PMT)である。
【0102】
実施形態2では、受光部126、136、146の検出信号に基づいて、試料ごとにスキャッタグラムやヒストグラムを生成し、生成したスキャッタグラムやヒストグラムに基づいて細胞を分類する。
【0103】
<実施形態2による光学システムおよび検体分析装置の効果>
図12に示したように、照射光学系ISは、光源151、153(他の光源)から出射された他の光を照明光に整合させるダイクロイックミラー157(整合光学素子)をさらに備えている。光学システム100は、照明光により細胞から生じた光と他の光により細胞から生じた光を分離するダイクロイックミラー124、134、144(分離光学素子)と、ダイクロイックミラー124、134、144(分離光学素子)により分離された他の光に基づく光を受光する受光部126、136、146(他の受光部)と、をさらに備える。
【0104】
この構成によれば、光源151、153から出射された他の光による細胞の光学情報をさらに取得できるため、検体分析装置1は、多様な分析を行うことができる。
【0105】
図12に示したように、光源151、153と、光源151、153からの光により細胞から生じた光を受光するための構成とが、光源111と、光源111からの光により細胞から生じた光を受光するための構成の隙間に配置されている。したがって、実施形態2の光学システム100によれば、上記2種類の構成を備えつつ、光学システム100を小型に構成できる。
【0106】
光源111からの光と光源151、153からの光とが、フローセル101の流路101aに同時に照射されることにより、1つの試料を用いて、受光部123、133、143の検出信号と、受光部126、136、146の検出信号とを同時に取得できる。また、これらの検出信号を同時に取得できるため、受光部123、133、143の検出信号に基づくAIアルゴリズム32による分析と、受光部126、136、146の検出信号に基づくスキャッタグラムやヒストグラムによる分析とを同時に行うことができる。よって、2種類の分析にかかる時間を短くできる。
【0107】
<実施形態3>
実施形態2では、光源111からの光により細胞から生じた光を受光する構成と、光源151、153からの光により細胞から生じた光を受光する構成とが、1つの検体分析装置1の光学システム100に配置された。これに対し、実施形態3では、これら2つの構成が別々の検体分析装置に配置され、これら2つの検体分析装置と他の分析装置とが、搬送装置により接続される。
【0108】
図13は、検体処理システム5の構成を模式的に示す側面図である。
【0109】
検体処理システム5は、検体分析装置1、2と、塗抹標本作製装置3と、搬送装置4と、を備える。
【0110】
実施形態3の検体分析装置1は、実施形態1の検体分析装置1と同様の構成である。検体分析装置2は、実施形態2の検体分析装置2から、光源111からの光により細胞から生じた光を受光する構成が省略されたものである。検体分析装置2は、実施形態2の検体分析装置1と比較して、光学システム100に代えて光学システム300を備える。光学システム300については、追って図14を参照して説明する。塗抹標本作製装置3は、血液検体から塗抹標本を作製する装置である。搬送装置4は、検体分析装置1、2および塗抹標本作製装置3に跨がって配置されており、検体ラック201に保持された検体容器202を各装置に搬送する。
【0111】
搬送装置4は、オペレータにより搬送装置4の右端に置かれた検体ラック201を左方向に搬送して、検体分析装置1、2および塗抹標本作製装置3の前方に検体容器202を位置付ける。
【0112】
検体分析装置1は、検体容器202に付されたラベルから、読取部16(図1参照)によりバーコードを読み取る。検体分析装置1は、検体容器202内の検体を測定し、検出信号に基づいてAIアルゴリズム32による細胞の分類を行う。検体分析装置2は、検体容器202に付されたラベルから、読取部16によりバーコードを読み取る。検体分析装置2は、検体容器202内の検体を測定し、検出信号に基づいてスキャッタグラムやヒストグラムに基づく細胞の分類を行う。塗抹標本作製装置3は、検体容器202に付されたラベルからバーコードを読み取り、検体容器202内の検体から塗抹標本を作製する。搬送装置4の左端まで搬送された検体ラック201は、オペレータにより取り出される。
【0113】
図14は、検体分析装置2が備える光学システム300の構成を模式的に示す図である。
【0114】
光学システム300は、図12に示した実施形態2の光学システム100と比較して、光源111、コリメータレンズ112、シリンドリカルレンズ113A、113B、回折光学素子114、ダイクロイックミラー157、光学フィルタ122、132、142、受光部123、133、143およびダイクロイックミラー124、134、144が省略されている。また、光源151は、X軸正方向に光を出射し、光源153はY軸正方向に光を出射し、光源151、153からの光の進行方向は、ダイクロイックミラー155によりX軸正方向に整合される。
【0115】
<実施形態3による光学システムおよび検体分析装置の効果>
実施形態3によれば、検体ラック201に保持された検体容器202が、搬送装置4により、検体分析装置1、2および塗抹標本作製装置3に供給される。これにより、必要に応じて検体を各装置に円滑に供給できるため、検体分析装置1、2による検体の分析および塗抹標本の作製を迅速に行うことができる。
【0116】
<変更例>
上記実施形態1~3において、回折光学素子114が集光作用を有してもよい。この場合、例えば、回折光学素子114に形成された回折パターン自体が集光作用を有してもよく、回折光学素子114の入射面に回折光を生じさせる回折パターンが形成され、回折光学素子114の出射面にレンズ作用を有するパターンやフレネルレンズが形成されてもよい。回折光学素子114が集光作用を有する場合、集光レンズ115が省略されてもよい。
【0117】
上記実施形態1~3において、回折光学素子114は、透過型の回折光学素子であったが、反射型の回折光学素子であってもよい。
【0118】
上記実施形態1~3において、検体分析装置1の演算部11は、受光部123、133、143の検出信号に基づいてAIアルゴリズム32により細胞を分類したが、これに限らず、受光部123、133、143の検出信号のパターンと、あらかじめ記憶部12に記憶したパターンとを照合することにより細胞を分類してもよい。
【0119】
本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0120】
1 検体分析装置
10 制御部
21 試料調製部
100 光学システム
101 フローセル
111 光源
114 回折光学素子
115 集光レンズ
123、133、143 受光部
124、134、144 ダイクロイックミラー(分離光学素子)
126、136、146 受光部(他の受光部)
151、153 光源(他の光源)
157 ダイクロイックミラー(整合光学素子)
IS 照射光学系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15