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特開2024-670033次元プリンタ用の3次元データ生成装置、方法およびプログラム、3次元構造物製造方法並びに管状組織の3次元構造物
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  • 特開-3次元プリンタ用の3次元データ生成装置、方法およびプログラム、3次元構造物製造方法並びに管状組織の3次元構造物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067003
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】3次元プリンタ用の3次元データ生成装置、方法およびプログラム、3次元構造物製造方法並びに管状組織の3次元構造物
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/386 20170101AFI20240509BHJP
   G09B 23/30 20060101ALI20240509BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20240509BHJP
   B29C 64/40 20170101ALI20240509BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240509BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240509BHJP
【FI】
B29C64/386
G09B23/30
B33Y50/00
B29C64/40
B33Y30/00
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185164
(22)【出願日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2022176036
(32)【優先日】2022-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100128451
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】黒川 暢
【テーマコード(参考)】
2C032
4F213
【Fターム(参考)】
2C032CA03
4F213AH63
4F213AR12
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL62
4F213WL85
4F213WL87
(57)【要約】
【課題】血管形状を保ちながら血管の薄さもある程度担保することができる3次元プリンタ用の3次元データを生成することができる3次元データ生成装置および方法並びにプログラムを提供する。
【解決手段】管状組織の内腔を撮影した3次元医用画像データを受け付ける3次元医用画像受付部11と、3次元医用画像データから管状組織の内腔を表す3次元画像データを抽出する内腔抽出部12と、管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定する厚さ設定部13と、厚さ設定部13において壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成する3次元データ生成部14とを備える。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状組織の内腔を撮影した3次元医用画像データを受け付ける3次元医用画像受付部と、
前記3次元医用画像データから前記管状組織の内腔を表す3次元画像データを抽出する内腔抽出部と、
前記管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、前記管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定する厚さ設定部と、
前記厚さ設定部において壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成する3次元データ生成部とを備えた3次元プリンタ用の3次元データ生成装置。
【請求項2】
前記厚さ設定部が、所定の関心領域に含まれる血管組織の壁厚を最も小さい厚さに設定し、前記関心領域に含まれる血管組織に連続する前記関心領域外の血管組織の壁厚を前記関心領域から離れるに連れて徐々に増加させる請求項1記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置。
【請求項3】
前記関心領域が、前記動脈瘤の領域である請求項2記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置。
【請求項4】
前記厚さ設定部が、前記管状組織の延伸方向に沿って該管状組織を分割し、該分割領域毎に異なる壁厚を設定する請求項1記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置。
【請求項5】
前記厚さ設定部が、予め設定された条件に基づいて前記分割領域を自動的に設定する請求項4記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置。
【請求項6】
前記厚さ設定部が、0.5mm以上2mm以下の範囲内にて前記壁厚を設定する請求項1記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置。
【請求項7】
前記3次元データ生成部が、前記3次元データに対して、医療機器を接続可能な接続部を付加する請求項1記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置。
【請求項8】
前記接続部が、ルアー(luer)型コネクタである請求項7記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置。
【請求項9】
前記3次元データ生成部が、前記3次元データに対して、前記管状組織を鉛直方向に支持する支持部および該支持部が接続される脚部を付加する請求項1記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置。
【請求項10】
管状組織の内腔を撮影した3次元医用画像データを受け付け、
前記3次元医用画像データから前記管状組織の内腔を表す3次元画像データを抽出し、
前記管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、前記管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定し、
前記壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成する3次元プリンタ用の3次元データ生成方法。
【請求項11】
管状組織の内腔を撮影した3次元医用画像データを受け付けるステップと、
前記3次元医用画像データから前記管状組織の内腔を表す3次元画像データを抽出するステップと、
前記管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、前記管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定するステップと、
前記壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成するステップとをコンピュータに実行させる3次元プリンタ用の3次元データ生成プログラム。
【請求項12】
請求項1に記載の3次元データ生成装置によって生成された3次元データに基づいて、3次元プリンタを用いて前記管状組織の3次元構造物を製造する3次元構造物製造方法。
【請求項13】
3次元プリンタによって形成された管状組織の3次元構造物であって、前記管状組織の壁厚が部分的に異なる厚さである管状組織の3次元構造物。
【請求項14】
前記管状組織の端部に、医療機器を接続可能な接続部が設けられている請求項13記載の管状組織の3次元構造物。
【請求項15】
前記接続部が、ルアー(luer)型コネクタである請求項14記載の管状組織の3次元構造物。
【請求項16】
前記管状組織を鉛直方向に支持する支持部および該支持部が接続される脚部を有する請求項13記載の管状組織の3次元構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元プリンタ用の3次元データを生成する3次元データ装置、方法およびプログラム、3次元構造物製造方法並びに管状組織の3次元構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、3次元プリンタ技術の進歩により比較的安価に一定のパフォーマンスの脳血管モデルが作成できるようになっている。一方で、脳血管モデルの作成方法、手順については標準的なものはない。
【0003】
3次元プリンタで用いる3次元データを作成するアプリケーションとして、Meshmixer(非特許文献1参照)が知られている。Meshmixerを用いることで、血管の管腔化が可能であり、血管壁3mm程度であれば内腔を担保したまま、血管内腔を正確に維持した管腔モデルが作成出来る。
【0004】
また、非特許文献2には、元の血管データを全周的に2mm拡大し、元の血管データを引き算することで、プリンタ出力時の血管内腔径を再現する方法が提案されている。
【0005】
また、非特許文献3には、ABS樹脂で動脈瘤モデルを作成し、その動脈瘤モデルをシリコンでコーティングした後、ABS樹脂を溶解することによって管腔状の動脈瘤モデルを作成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Taiki YUZAWA 著,“Autodesk Meshmixerでおこなう3Dスキャンデータ編集法”,パソコン工房,[令和4年10月28日検索],インターネット<URL:https://www.pc-koubou.jp/magazine/62892>
【非特許文献2】対馬 史泰 著,“血管モデル超短時間作成法の開発”,科学研究費助成事業 研究成果報告書,7版
【非特許文献3】豊山 弘之ら 著,“脳動脈瘤手術シミュレーションにおける3Dプリンタの有用性”,CI研究,2014年,36版,P.151-158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Flexible80Aのような比較的柔らかいレジン材料などを使用して0.5mmの厚さで血管モデルを作成する場合、血管壁が薄すぎるため、自重で血管モデルが垂れ下がり、正常な血管構造を担保出来ないモデルとなる。
【0008】
非特許文献1~非特許文献3には、上記の問題を解決する方法については何も提案されていない。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑み、血管形状を保ちながら血管の薄さもある程度担保することができる3次元プリンタ用の3次元データ生成装置、方法およびプログラム、3次元構造物製造方法並びに管状組織の3次元構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の3次元データ生成装置は、管状組織の内腔を撮影した3次元医用画像データを受け付ける3次元医用画像受付部と、3次元医用画像データから管状組織の内腔を表す3次元画像データを抽出する内腔抽出部と、管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定する厚さ設定部と、厚さ設定部において壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成する3次元データ生成部とを備える。
【0011】
本発明の3次元データ生成方法は、管状組織の内腔を撮影した3次元医用画像データを受け付け、3次元医用画像データから管状組織の内腔を表す3次元画像データを抽出し、管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定し、壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成する。
【0012】
本発明の3次元データ生成プログラムは、管状組織の内腔を撮影した3次元医用画像データを受け付けるステップと、3次元医用画像データから管状組織の内腔を表す3次元画像データを抽出するステップと、管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定するステップと、壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の3次元データ生成装置および方法並びにプログラムによれば、管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定し、その壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成するようにしたので、血管内腔の形状を保ちながら血管壁の薄さもある程度担保することができる3次元プリンタ用の3次元データを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の3次元プリンタシステムの一実施形態の概略構成を示すブロック図
図2】脳血管組織を表す管状の3次元画像データの一例を示す図
図3】分割領域が設定された中空状の3次元画像データを示す図
図4】接続部が付加された3次元画像データの一例を示す図である。
図5図1に示す3次元プリンタシステムを用いて作成された脳血管組織を表す構造物の一例および血管の壁厚を一定にして形成された脳血管組織を表す構造物の一例を示す図
図6】ルアー型コネクタ、支持部および橋脚部の一例を示す図
図7】支持部の接続面の設定方法の一例を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置の一実施形態を用いた3次元プリンタシステムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態の3次元プリンタシステム1の概略構成を示すブロック図である。
【0016】
本実施形態の3次元プリンタシステム1は、図1に示すように、3次元プリンタ用の3次元データ生成装置10(以下、単に3次元データ生成装置10という)と、3次元プリンタ20とを備える。
【0017】
3次元データ生成装置10は、3次元プリンタ20において3次元構造物を生成するために用いられる3次元データを生成する。本実施形態においては、3次元構造物として、脳血管組織の構造物を3次元プリンタ20において生成する。
【0018】
具体的には、3次元データ生成装置10は、3次元医用画像受付部11と、管状組織の内腔抽出部12と、管状組織の厚さ設定部13と、3次元データ生成部14とを備える。
【0019】
3次元医用画像受付部11は、脳血管組織(管状組織の内腔形状)を撮影した3次元医用画像データを受け付ける。3次元医用画像データとしては、たとえば磁気共鳴血管造影(MRA)やCT血管造影(CTA)によって撮影された3次元医用画像データを用いることができる。
【0020】
管状組織の内腔抽出部12は、3次元医用画像受付部11によって受け付けられた3次元医用画像データから脳血管組織(管状組織の内腔)を表す3次元画像データを抽出する。3次元医用画像データから脳血管組織を表す3次元画像データを抽出する方法としては、たとえば造影剤のボクセル値に基づく閾値処理を施すことによって、脳血管組織の領域以外の領域の3次元画像データを除去する方法があるが、これに限らず、その他の公知な手法を用いることができる。
【0021】
そして、管状組織の内腔抽出部12は、脳血管組織の領域の3次元画像データをSTL(Stereolithography)形式に変換した後、中空化処理を行って、脳血管組織を表す中空状(管状)の3次元画像データを生成する。図2は、脳血管組織を表す中空状の3次元画像データの一例を示す図である。中空化処理は、たとえば無料で配布されているMeshmixerなどのソフトウェアを用いて施すことができる。また、中空化処理としては、たとえば中空化処理を施す前の脳血管組織の領域の3次元画像データ全体に対して外周を広げる処理を施し、その処理を施した3次元画像データから処理前の3次元画像データを減算する処理を行うようにしてもよい。
【0022】
厚さ設定部13は、脳血管組織を表す中空状の3次元画像データに基づいて、脳血管組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定する。
【0023】
具体的には、厚さ設定部13は、中空状の3次元画像データをその延伸方向に沿って分割し、分割領域毎について異なる壁厚を設定する。図3は、分割領域が設定された中空状の3次元画像データを示す図である。図3に示す3次元画像データの延伸方向に直交する方向に示される線が分割領域の境界を示す線である。
【0024】
分割領域の設定については、ユーザが、マウスなどの入力部(図示省略)を用いて手動で設定入力するようにしてもよいし、自動的に設定するようにしてもよい。
【0025】
そして、厚さ設定部13は、分割領域毎に、たとえば0.5mm以上2mm以下の範囲内で壁厚を設定する。分割領域毎の壁厚は、中空状の3次元画像データの延伸方向について、徐々に(段階的に)増加させることが好ましく、たとえば0.01mm~0.1mmずつ増加させることが好ましい。
【0026】
具体的には、脳血管組織を表す中空状の3次元画像データに関心領域を設定し、その関心領域の脳血管組織の壁厚を最も小さい厚さに設定する。そして、その関心領域の脳血管組織に連続する関心領域外の分割領域の脳血管組織の壁厚を、関心領域から離れるに連れて徐々に増加させる。関心領域としては動脈瘤の領域とすることが好ましい。図3において矢印で示す部分が動脈瘤である。関心領域としては、動脈瘤に限らず、くも膜下出血領域、脳梗塞領域、脳動静脈奇形血管の領域、動脈の狭窄領域を関心領域としてもよい。
【0027】
厚さ設定部13が自動的に分割領域および分割領域毎の壁厚を設定する場合には、たとえば厚さ設定部13が、3次元画像データに基づいて、動脈瘤の領域を抽出する。動脈瘤の領域の抽出については、たとえばパターンマッチングなど公知な手法を用いることができる。
【0028】
続いて、厚さ設定部13は、動脈瘤の領域を中心として、1~5mmの長さ毎に分割して分割領域を設定する。そして、厚さ設定部13は、動脈瘤の領域の血管の壁厚を0.5mmに設定し、動脈瘤の領域からから離れるに連れて、分割領域毎に0.01mmずつ壁厚を増加させる。このように分割領域および分割領域の壁厚を設定することによって、50mmの血管がある場合には、1mmまで徐々に太くすることができる。脳から首の血管までは約10cmあるため、首に近い血管は1.5mm程度の厚さとすることができる。これにより、より実際の脳血管組織に近い壁厚に設定することができる。
【0029】
3次元データ生成部14は、厚さ設定部13において壁厚が設定されたSTL形式の脳血管組織を表す3次元画像データに対して、接続部Cおよび支持体(図示省略)を付加する。図4は、接続部Cが付加された3次元画像データの一例を示す図である。接続部Cは、脳血管組織の端部に付加されるものであり、たとえば3次元プリンタ20によって形成された脳血管組織の構造物内に液体を注入するためのホースなどが接続される部分である。
【0030】
そして、3次元データ生成部14は、STL形式の3次元画像データに基づいて、3次元プリンタ20において用いられるスライスデータからなる3次元データを生成し、その3次元データを3次元プリンタ20に出力する。
【0031】
3次元データ生成装置10は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)、半導体メモリ、ハードディスクおよび通信I/Fなどを備える。
【0032】
3次元データ生成装置10の半導体メモリまたはハードディスクには、本発明の3次元データ生成プログラムの一実施形態がインストールされている。CPUによって上記3次元データ生成プログラムが実行されることによって、上記各部の機能が実現される。なお、本実施形態においては、上記各部の機能を、3次元データ生成プログラムによって実現するようにしたが、3次元データ生成プログラムを複数のアプリケーションから構成するようにしてもよい。また、3次元データ生成プログラムの一部または全部の機能をASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)、その他の電気回路などのハードウェアから構成するようにしてもよい。
【0033】
3次元プリンタ20は、3次元データ生成装置10から出力されたスライスデータからなる3次元データを受信し、各スライスデータに基づいて、3次元の構造物を形成する。
【0034】
本実施形態においては、3次元プリンタ20は、たとえば弾力性のあるレジン材料を用いて脳血管組織を表す構造物を形成する。レジン材料としては、たとえばFlexible80Aを用いることができるが、その他の弾力性を有するレジン材料やシリコン材料を用いるようにしてもよい。
【0035】
図5Aは、本実施形態によって形成された脳血管組織を表す構造物の一例を示す図である。また、図5Bは、本実施形態のように脳血管組織の壁厚を部分的に異なるものとすることなく、壁厚を一定(0.5mm)にして形成された脳血管組織を表す構造物の一例を示す図である。
【0036】
図5Aおよび図5Bに示すように、本実施形態のように部分的に壁厚を異ならせた場合には、自重によって曲がることなく原型を維持することができるが、壁厚を一定(0.5mm)にした場合、自重によって変形し、原型を留めることができないことが分かる。
【0037】
すなわち、本実施形態の3次元プリンタシステム1によれば、血管形状を保ちながら血管の薄さもある程度担保することができる3次元プリンタ用の3次元データを生成することができる。
【0038】
また、本実施形態によって形成された脳血管組織を表す構造物によれば、たとえばカテーテル治療の練習などを適切に行うことができる。
【0039】
また、本実施形態においては、関心領域である脳動脈瘤の領域の壁厚を最も小さい厚さとしたので、実際の血管壁の厚さに近づけることができ、このような意味でも、カテーテル治療の練習などを適切に行うことができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、脳血管組織の構造物を形成するための3次元データを生成するようにしたが、脳血管組織に限らず、その他の頚部内頚動脈~総頚動脈、胸部~腹部大動脈、冠動脈など血管組織の構造物を形成するための3次元データを生成するようにしてもよい。心臓の血管組織の場合、狭窄領域を関心領域としてもよい。また、血管組織に限らず、大腸や小腸などのその他の管状組織でもよい。
【0041】
また、上記実施形態においては、接続部Cを設けるようにしたが、接続部Cとして、医療機器を接続可能な接続部を設けるようにしてもよい。具体的には、3次元データ生成部14が、管状組織を表す3次元データに対して、医療機器を接続可能な接続部を付加するようにしてもよい。この場合、接続部としては、ルアー(luer)型コネクタを用いることが好ましい。特に、オス型のルアー型コネクタを用いることが好ましい。このように、ルアー型コネクタを用いることによって、たとえばメス型のルアーバルブ構造を持ったシリンジなどの医療機器を接続することができ、管状組織の内腔に造影剤などを注入することができる。
【0042】
たとえば管状組織の内腔に、たとえば薄い濃度の造影剤を注入した場合には、ルアー型コネクタを経由してガイディングカテーテルなどを管状組織の内腔に挿入することができる。そして、3~5倍に希釈した造影剤が注入された管状組織の3次元構造物をX線撮影することによって、管状組織内のガイディングカテーテルの動きを観察することができる。これにより、ガイディングカテーテルの動きを見ながら、実際の人体へのガイディングカテーテルの挿入操作を行うことができる。
【0043】
図6は、脳血管組織の3次元データBDの端部に、オス型のルアー型コネクタLBを付加した例を示す図である。
【0044】
さらに、図6に示す実施例では、脳血管組織の3次元データBDに対して、脳血管組織の3次元構造物を鉛直方向に支持する支持部S1~S3およびその支持部S1~S3が接続される橋脚部P(本発明の脚部に相当する)を付加している。図6に示す例では、鉛直方向に延設された円柱形状の支持部S1~S3が3本設けられている。支持部S1~S3の一端は、脳血管組織の3次元データBDに接続され、他端は、橋脚部Pに接続される。橋脚部Pは、水平方向に延設される平板であって、支持部S1~S3が立設されるものである。
【0045】
上述したように支持部S1~S3および橋脚部Pを設けることによって、柔らかい脳血管組織の3次元構造物を、その形状が安定するように支持することができる。これにより、血管モデルが自立し、卓上で安定するため、上述したような造影剤の注入やガイディングカテーテルの挿入を容易に行うことができ、カテーテルによる治療シミュレーションを行い易くすることができる。
【0046】
次に、上述した橋脚部Pと支持部S1~S3の作成方法について説明する。
【0047】
まず、脳血管組織の3次元データBDを、患者が撮影台上に寝た状態で撮影された3次元医用画像データから生成した。そして、3次元医用画像データのX-Y平面(水平面)と脳血管組織の3次元データBDのX-Y平面は同じである。
【0048】
したがって、脳血管組織の3次元構造物と水平面の関係と、実際の脳血管組織と水平面との関係が同じになるように、3次元データ生成部14は、橋脚部Pとして、脳血管組織の3次元データBDのX-Y平面に平行な平板を生成する。
【0049】
また、1枚の平板を橋脚部Pとした場合、3次元プリンタ20によって脳血管組織の3次元構造物を作成する際に、サポート剤を十分に作成することができないため、3次元データ生成部14は、図6に示すように、複数の小さな平板を作成し、各平板のX-Y平面を維持したまま、平板同士の角を細い部材によって接合する。これにより、小さい平板間の隙間に、サポート剤を作成することができる。
【0050】
次に、橋脚部P上に、支持部S1~S3を鉛直方向に立設する。支持部S1~S3は、直径5mm~6mm程度とし、脳血管組織の3次元構造物が自重によって変形し易い箇所に設置する。本実施形態では、内頚動脈のC5portion、中大脳動脈M1-2分岐部、前大脳動脈のA2部分に設置した。
【0051】
また、本実施形態においては、支持部S1~S3が、脳血管組織の内腔を埋めないように、支持部S1~S3の脳血管組織との接続面を決定する。具体的には、支持部S1~S3が接続される脳血管組織の部分が、比較的真っ直ぐな直線状である場合には、その血管部分の接線が規定する平面を接続面とする。一方、支持部S1~S3が接続される脳血管組織の部分が、曲がっている場合には、図7に示すように、その曲がっている部分で交わる2本の血管B1,B2のそれぞれの接線が規定する2平面P1,P2を支持部Sの接続面とする。
【0052】
また、本実施形態においては、中大脳動脈に対して設置した支持部S2と前大脳動脈に接置した支持部S3同士も、同形の円柱で接続する。これにより、脳血管組織の3次元構造物を用いたシミュレーション中における変形を防止することができる。
【0053】
そして、本実施形態では、内頚動脈の近位側、中大脳動脈、前大脳動脈およびその他の血管の遠位端にオス型のルアー型コネクタを設けた。
【0054】
次に、上述したようにして作成された脳血管組織の3次元構造物を用いた術前脳血管内治療シミュレーションの実施例について説明する。
【0055】
術前脳血管内治療シミュレーションを行うために、血管造影装置(Alphenix(登録商標) Biplane(キヤノンメディカルシステムズ株式会社製)を使用した。脳血管組織の3次元構造物の内腔の視認性を上げるため、灌流液体として水道水を使用し、3.5倍に希釈した造影剤(イオパミロン(登録商標):バイエル薬品株式会社製)を使用した。血管内治療デバイスの潤滑性を上げるため、希釈造影剤の中に表面活性剤(ママレモン(登録商標)、ライオン株式会社製)を数滴混入した。
【0056】
そして、内頚動脈の近位端のルアー型コネクタに、OKAYII(登録商標)コネクタ(ニプロ株式会社製)を接続し、三方活栓(プレデューラ(登録商標)(株式会社トップ製)を取り付けた。次いで、三方活栓に延長チューブと三方活栓をつけ30mlのロックシリンジを2本取り付けた。眼動脈の遠位部には三方活栓のキャップを装着し、前大脳動脈、中大脳動脈の遠位部には100cmの延長チューブをとりつけ、その後端に10mlのロックシリンジを取り付けた。動脈瘤内に空気がプーリングされないように、脳血管組織の3次元構造物内に希釈造影剤を注入し、念入りにエア抜きを行った。
【0057】
そして、ガイディングカテーテルとして8Fr Fubuki XF(登録商標)90cm(ASAHI INTECC.CO.LTD製)中間カテーテルとしてphenom plus 120cm (Stryker, Kalamazoo製) マイクロカテーテルとしてphenom27 150cm(Stryker, Kalamazoo製)を使用した。
【0058】
そして、中大脳動脈M2 distal portionまでphenom 27を誘導し、M1水平部までphenom plusを誘導した。次いで、血栓回収用ステントであるTron FX(登録商標) 4mm×40mm(テルモ株式会社製)を模擬ステントとして使用し、マイクロカテーテルを微調整しながら、内頚動脈終末部よりより若干近位側からステントを展開した。
【0059】
3inchの高解像度の透視撮影でステントが完全展開され、動脈瘤が完全にカバーされていることを確認した。
【0060】
動脈瘤治療においては、ワーキングアングルを客観化し、実現、再現することが重要である。従来の血管モデルでは、卓上での固定方法は術者の裁量に任されるため、客観的な血管モデルの角度を決めることが困難であった。したがって、カテーテル操作で血管モデルがずれる問題があった。
【0061】
本実施形態の脳血管組織の3次元構造物によれば、X-Y平面に平行な平板を橋脚部Pとして設け、さらに橋脚部Pに円柱形状の支持部S1~S3を設けることによって、脳血管組織の位置関係を変えることなく、さらに自重に耐えることができる3次元構造物を作成することができた。
【0062】
また、カテーテルを挿入した際のvessel siftも再現可能となり、3次元構造物単体で卓上に設置可能となった。また、橋脚部Pにより血管同士が固定化され、サポート剤を取り外す際の破損頻度も低下させることができた。
【0063】
また、本実施形態の脳血管組織の3次元構造物によれば、オス型のルアー型コネクタを端部に形成するようにしたので、Yコネクタや延長チューブ、三方活栓のキャップを直接取り付けることができる。これにより、3次元構造物からの液体の漏出が低下し、簡素化した形でシミュレーションを行うことができた。
【0064】
すなわち、本実施形態の脳血管組織の3次元構造物によれば、卓上で単独で使用することができ、客観的なワーキングアングルを作成し、より簡便に血管内治療シミュレーションを行うことができた。
【0065】
また、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階でその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。たとえば実施形態に示される全構成要素を適宜組み合わせても良い。このような、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることはもちろんである。
【0066】
本発明に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0067】
(付記1)
本発明の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置は、管状組織の内腔を撮影した3次元医用画像データを受け付ける3次元医用画像受付部と、3次元医用画像データから管状組織の内腔を表す3次元画像データを抽出する内腔抽出部と、管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定する厚さ設定部と、厚さ設定部において壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成する3次元データ生成部とを備える。
【0068】
(付記2)
付記1記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置において、厚さ設定部は、所定の関心領域に含まれる血管組織の壁厚を最も小さい厚さに設定し、関心領域に含まれる血管組織に連続する関心領域外の血管組織の壁厚を関心領域から離れるに連れて徐々に増加させることができる。
【0069】
(付記3)
付記2記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置において、関心領域は、動脈瘤の領域とすることができる。
【0070】
(付記4)
付記1から付記3いずれかに記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置において、厚さ設定部は、管状組織の延伸方向に沿って該管状組織を分割し、該分割領域毎について異なる壁厚を設定することができる。
【0071】
(付記5)
付記4記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置において、厚さ設定部は、予め設定された条件に基づいて分割領域を自動的に設定することができる。
【0072】
(付記6)
付記1から付記5いずれかに記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置において、厚さ設定部は、0.5mm以上2mm以下の範囲内にて壁厚を設定することができる。
【0073】
(付記7)
付記1から付記6いずれかに記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置において、3次元データ生成部は、3次元データに対して、医療機器を接続可能な接続部を付加することができる。
【0074】
(付記8)
付記7記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置において、接続部は、ルアー(luer)型コネクタとすることができる。
【0075】
(付記9)
付記1から付記8記載の3次元プリンタ用の3次元データ生成装置において、3次元データ生成部は、3次元データに対して、管状組織を鉛直方向に支持する支持部およびその支持部が接続される脚部を付加することができる。
【0076】
(付記10)
本発明の3次元プリンタ用の3次元データ生成方法は、管状組織の内腔を撮影した3次元医用画像データを受け付け、3次元医用画像データから管状組織の内腔を表す3次元画像データを抽出し、管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定し、壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成する。
【0077】
(付記11)
本発明の3次元プリンタ用の3次元データ生成プログラムは、管状組織の内腔を撮影した3次元医用画像データを受け付けるステップと、3次元医用画像データから管状組織の内腔を表す3次元画像データを抽出するステップと、管状組織の内腔を表す3次元画像データに基づいて、管状組織の壁厚を部分的に異なる厚さに設定するステップと、壁厚が設定された3次元画像データに基づいて、3次元プリンタにおいて用いられる3次元データを生成するステップとをコンピュータに実行させる。
【0078】
(付記12)
本発明の3次元構造物の製造方法は、付記1から付記9のいずれかに記載の3次元データ生成装置によって生成された3次元データに基づいて、3次元プリンタを用いて管状組織の3次元構造物を製造する。
【0079】
(付記13)
本発明の管状組織の3次元構造物は、3次元プリンタによって形成された管状組織の3次元構造物であって、管状組織の壁厚が部分的に異なる厚さである。
【0080】
(付記14)
付記13記載の管状組織の3次元構造物においては、管状組織の端部に、医療機器を接続可能な接続部を設けることができる。
【0081】
(付記15)
付記14記載の管状組織の3次元構造物において、接続部は、ルアー(luer)型コネクタとすることができる。
【0082】
(付記16)
付記13から付記15いずれかに記載の管状組織の3次元構造物においては、管状組織を鉛直方向に支持する支持部およびその支持部が接続される脚部を有することができる。
【符号の説明】
【0083】
1 3次元プリンタシステム
10 3次元データ生成装置
11 3次元医用画像受付部
12 内腔抽出部
13 厚さ設定部
14 3次元データ生成部
20 3次元プリンタ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7