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特開2024-67016選択的に透過性又は半透過性の分離層を有する圧縮パッド、及びその圧縮パッドを有する電池セルスタックを製造するための方法
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  • 特開-選択的に透過性又は半透過性の分離層を有する圧縮パッド、及びその圧縮パッドを有する電池セルスタックを製造するための方法 図1
  • 特開-選択的に透過性又は半透過性の分離層を有する圧縮パッド、及びその圧縮パッドを有する電池セルスタックを製造するための方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067016
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】選択的に透過性又は半透過性の分離層を有する圧縮パッド、及びその圧縮パッドを有する電池セルスタックを製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/262 20210101AFI20240509BHJP
   H01M 50/211 20210101ALI20240509BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20240509BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20240509BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20240509BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240509BHJP
   H01M 10/6561 20140101ALI20240509BHJP
   H01M 10/6567 20140101ALI20240509BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20240509BHJP
【FI】
H01M50/262 E
H01M50/211
H01M50/204 401H
H01M10/613
H01M10/647
H01M10/625
H01M10/6561
H01M10/6567
H01M50/293
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187561
(22)【出願日】2023-11-01
(31)【優先権主張番号】10 2022 128 907.9
(32)【優先日】2022-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1, D-70435 Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100202647
【弁理士】
【氏名又は名称】寺町 健司
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク グラス
【テーマコード(参考)】
5H031
5H040
【Fターム(参考)】
5H031AA09
5H031CC01
5H031KK08
5H040AA03
5H040AA28
5H040AA36
5H040AS07
5H040AT04
5H040AT06
5H040AY05
5H040AY10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】圧縮パッド、及び電池セルパケットをハウジングに挿入するプロセスを容易にする電池セルモジュールを製造するための方法を提供する。
【解決手段】電池セルスタックのための圧縮パッド3であって、中に充填材料が提供されている内部空間と、内部空間を囲む表面とを備え、圧縮パッド3の表面の少なくとも一部分が、選択的に透過性又は半透過性の分離層を含む、圧縮パッド3が様々な実施形態で提供される。本発明による圧縮パッド3を備える電池セルモジュールを製造するための方法も提供される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルスタック(4)のための圧縮パッド(3)であって、
中に充填材料が存在する内部空間と、
前記内部空間を囲む表面であって、前記圧縮パッド(3)の前記表面の少なくとも一部分が、選択的に透過性又は半透過性の分離層を含む、表面と、を備える、圧縮パッド(3)。
【請求項2】
前記充填材料が、浸透プロセス後に弾性である物質を含む、請求項1に記載の圧縮パッド(3)。
【請求項3】
前記充填材料が、化学ポテンシャル間の差と、選択的に透過性又は半透過性の膜によって分離された相間の濃度差とを呈する、請求項1又は2に記載の圧縮パッド(3)。
【請求項4】
電池セルモジュールを製造するための方法であって、
電池セル(2)の配置を含む電池セルパケット(4)を提供するステップであって、請求項1又は2に記載の圧縮パッド(3)が、各2つの電池セル(2)の間に配置されている、提供するステップと、
前記電池セルパケット(4)をハウジング(1)に挿入するステップであって、前記電池セルパケット(4)が、前記ハウジング(1)内に前記電池セルパケット(4)のために提供された設置空間に比して小さい、挿入するステップと、
流体又はガス(5)を、前記流体又はガスが、前記圧縮パッド(3)の選択的に透過性又は半透過性の分離層と接触し、かつ前記分離層を通って、前記圧縮パッド(3)へと流れて、前記濃度差を等しくするように、前記ハウジング(1)へと導入するステップと、を含む、方法。
【請求項5】
前記流体(5)が冷却媒体である、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記圧縮パッド(3)及び/又は前記流体(5)が、ある物質を含有し、前記物質の濃度が、前記流体(5)中よりも前記圧縮パッド(3)中でより低い、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
ハウジング内部の電池セルスタック内に配置されており、流体又はガスが周りを流れる圧縮パッドの拡張を引き起こすための浸透の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池セルスタック(電池セルパケット)のための圧縮パッドに関する。本発明はまた、選択的に透過性又は半透過性の分離層を含む圧縮パッドを有する電池セルスタックを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の航続距離は、主として、電気自動車内に設置されたトラクション電池によって決定される。今日、電池セルモジュール(電池モジュールとも称される)からなり、その各々が、同じ様にいくつかの電池セルを含み、各々が、最も小さな自給型エネルギー貯蔵セルを代表する、適切なサイズの高電圧電池は、現代の電気自動車に電力供給するために使用される。例えば、Porsche Taycanのいくつかのモデルで使用されている2デッキ式のパフォーマンスバッテリープラス(Performance Battery Plus)は、各々が12個の個々の電池セルからなる33個のセルモジュールを備える。したがって、トラクション電池は、合計396個の電池セルを備え、リチウムイオン電池が電池セルとして使用されている。トラクション電池は、800ボルトのシステム電圧及び93.4kWhの総容量を有する。
【0003】
電池は、基本的に、中に複数のセルが並列に配置されている電池モジュールを使用して構築され、圧縮パッド(圧縮インサートとも称される)が2つのセルの間にそれぞれ配置される。電池セルの間に配置された圧縮パッドは、別の重要なタスク、すなわち、増加するセルの厚さ(膨張)に対する補償を提供することを実施する。膨張は、電池セル、特にリチウムイオンセルの体積の変化であり、この変化は、一方では、充電及び放電中に観察され得、他方では、電池セルの経年劣化によって、より遅い時間スケールで引き起こされる。膨張は、電池セル内部のアクティブ層における構造変化によって引き起こされ、これは、当該セルで発生するリチウムイオンの再配置から生じる。膨張は、特に、電池セルの設計に広く使用されている、パウチセルの場合に顕著である。上述のように、電池セル間に圧縮パッドを積み重ね方向に載置することは、当該パッドが圧縮によって電池モジュール内の電池セルの体積変化に等しくなるのを可能とする。
【0004】
圧縮可能なパッドはまた、電池セルパケットがハウジング(電池ハウジング又はモジュールハウジング)内にクランプ留めされることによって、電池セルパケット内に力を蓄積するように使用されることができる。良好なプレテンショニングを達成するために、電池セルパケットの外形寸法は通常、ハウジングの内部寸法とわずかに異なるに過ぎない。大きく圧縮され得る純粋な発泡性パッドが、圧縮パッドとして現在使用される。したがって、電池セルパケットは、その寸法を一時的に低減させるために設置中に過圧縮され、この過圧縮状態でハウジング内に押し込まれるが、これは電池セルスタックを挿入するプロセスを複雑にし、結果としてプロセスに関して比較的複雑にする。次に、特定の挿入力を使用して挿入プロセスが生じ、電池セルパケットが、挿入されたときに、ハウジングの内側に対して内部から押し付けられるので、電池セル又は圧縮パッドのいずれかが損傷され得る摩擦力ということになる。
【0005】
特許文献1は、当該ハウジングに互いに隣接して配置された電池ハウジング及び複数の電池セルを用いる電池のための典型的な製造プロセスを説明しており、組み立てプロセス中に圧縮され、組み立て後に拡張される、発泡性圧縮パッドが、2つの隣接する電池セルの間に配置される。
【0006】
電池のコンテキスト内で、特許文献2は、濡れたときに拡張する電極を分離するためのセパレータの使用を開示している。
【0007】
特許文献3は、複数の隣接して配置された電池セルを用いる電池を開示しており、弾性外皮により圧縮パッドとしても機能するヒートシンクが、各2つの隣接した電池セルの間に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0141307号明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第1197468号明細書
【特許文献3】国際公開第2021/233778号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
先行技術から公知の圧縮パッドに基づいて、本発明の目的は、圧縮パッド及び電池セルパケットをハウジングに挿入するプロセスを容易にする対応する製造方法を提供することであることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、独立請求項の主題によって達成される。更なる好ましい実施形態は、従属請求項に見出すことができる。
【0011】
本発明によれば、電池セルスタックのための圧縮パッドが、様々な実施形態で提供され、圧縮パッドは、中に充填材料が提供されている内部空間と、内部空間を囲む表面とを備え、圧縮パッドの表面の少なくとも一部分は、選択的に透過性又は半透過性の分離層を含み、分離層は、例えば、選択的に透過性又は半透過性の膜を含み得る。簡潔にするために、半透過性の分離層のみが以下で論じられるが、これは常に選択的に透過性の分離層を含むことができる。
【0012】
本発明は、圧縮パッドの特定の構造を用いる基礎のオブジェクトを達成する。圧縮パッドは、組み立て状態において、後の動作状態よりも小さい容積を有し、それらに圧力を能動的に印加する必要はない。言い換えれば、組み立て状態は圧縮パッドの非アクティブ化状態であると理解することができ、一方で動作状態では、本発明による圧縮パッドはアクティブ化状態である。圧縮パッドが組み立て状態にあると、ハウジング内のその設置空間に比してサイズが小さく、したがって、電池モジュール又は電池ハウジングに容易に挿入され得るセルスタックを構築することができる。
【0013】
本発明によると、浸透は、本発明による圧縮パッドを組み立て状態から動作状態へと遷移させるために使用される。この目的のために、本発明による圧縮パッドは、少なくとも一部分に、対応する膜などの半透過性の分離層を含む表面を有する。本発明による圧縮パッドはまた、半透過性の分離層で完全に覆われ得る。その機能モードを考慮すると、本発明による圧縮パッドはまた、浸透性圧縮パッドと称され得る。
【0014】
本発明による圧縮パッドは、適切なハウジング内に設置されるセルスタックに組み込まれ得る。本発明による圧縮パッドの動作状態へのアクティブ化又は遷移は、半透過性の分離層を溶媒と接触させることによってハウジング内で行われる。半透過性の分離層は、膜によって分離された相における1つ以上の物質の化学ポテンシャル間の濃度差又は差と、半透過性の分離層の内側と外側のそれらの異なる濃度とを等しくするために発明による圧縮パッドの内部に、当該分離層を通して溶媒が流れることができるように、当該溶媒に対して透過性であり得る。結果として、本発明による圧縮パッドは、体積を増加させ、それによって、電池セルに必要な圧力を蓄積して、電池セルをハウジング内にクランプ留めする。
【0015】
本発明による圧縮パッドの内部空間は、流入流体体積を収容することができ、その目的のために、例えば、分散された空洞を含むことができる。圧縮パッドの内部空間内への溶媒の初期の流れは、膜が溶媒で湿らされたときの分離した相の化学ポテンシャル又は濃度差に加えて、毛細管力によってドライブされ得る。溶媒が内部空間内に流れると、浸透圧が上昇し、これにより、より多くの溶媒が外側から半透過性分離層を通って圧縮パッドの内部空間内に流れることが可能になる。物質は、本発明による圧縮パッドの内部空間に追加的に提供されてもよく、これは初期の流入溶媒によって溶解され、溶媒の流入を更に強化する濃度勾配を作り出す。その場合、膜は、この物質に対して不透過性であり得る。本明細書のコンテキストでは、溶媒は、膜によって分離された相のうちの少なくとも1つの一部であり、膜を通過して、2つの相間の濃度差又は化学ポテンシャルの差を低減することができる流体であり得る。
【0016】
半透過性の分離層を含む圧縮パッドの表面の一部分は、特に、横方向断面で電池セルスタックを見るときに、例えば、立方体又はクッション形状の圧縮パッドの上側及び下側など、それで構築された電池セルスタックの内側の電池セルに対して置かれない圧縮パッドの領域であり得る。
【0017】
浸透プロセス、ひいては圧縮パッドの圧力蓄積はまた、流体が後の充填プロセスで電池内に導入される前に、組み立て中に周囲からのガスによって更にもたらされ得る。
【0018】
本発明による圧縮パッドの更なる実施形態によると、充填材料は、浸透プロセスの後に弾性である物質、例えばプラスチック、特に発泡性ポリマーなどの多孔性プラスチックを含むことができる。別の方法として、充填材料はエラストマーを含むことができ、これは溶媒が流れ得る穿孔を有することができる。浸透プロセスが行われる前に、充填材料は弾性である必要はないが、固体であることができ、又は弾性であることができるが、より大きな材料硬度を有することができる。
【0019】
本発明による圧縮パッドの更なる実施形態によれば、充填材料は、化学ポテンシャル間の差と、選択的に透過性又は半透過性の分離層によって分離された相間の濃度差を呈し得る。
【0020】
本発明によれば、電池セルモジュールを製造するための方法も提供され、当該方法はまた、当該電池セルモジュールの高レベルエンティティ、すなわち、電池を生成するために使用され得る。第1のステップでは、方法は、電池セルの配置を有する電池セルパケットの調製を含み、前述の実施形態のうちの1つによる浸透性圧縮パッドは、各2つの電池セルの間に配置される。電池セルは、例えば、パウチセルの形態であり得る。次のステップとして、方法は、電池セルパケットをハウジングに挿入するステップであって、電池セルパケットが、ハウジング内に電池セルパケットのために提供された設置空間に比して小さい、挿入するステップを含む。次いで、方法は、圧縮パッドの半透過性の分離層と接触し、分離層を通って、圧縮パッドの中へと流れて、濃度差を等しくするように、流体又はガスをハウジングの中へと導入するステップを含む。流体は、前述の溶媒とすることができる。
【0021】
本発明による製造方法の更なる実施形態によれば、流体は冷却媒体とすることができる。電池セルモジュール又は対応する電池は、直接冷却された電池セルモジュール又は直接冷却された電池とすることができる。これらは、冷却媒体が電池セルの周りを直接流れる冷却システムによって特徴付けられる。冷却媒体はまた、圧縮パッドの周りを直接流れる。したがって、このような実施形態では、電池モジュール又は電池の冷却媒体としても使用される流体が使用される。
【0022】
更なる実施形態によれば、圧縮パッド及び/又は流体は、物質を含有することができ、その濃度は、流体の中よりも圧縮パッドの中の方が低い。この場合、半透過性の分離層は、同時に、この物質に対して不透過性であり得る。これにより、濃度勾配が確立され、これは、本発明による圧縮パッドへの流体の流れを更にドライブする。
【0023】
本発明によれば、ハウジング内部の電池セルスタック内に、及び/又は流体若しくはガスがその周りを流れる間に配設される圧縮パッドの拡張を引き起こす浸透の使用も提示される。
【0024】
上述した特徴及び以下でこれから説明される特徴は、本発明の範囲を逸脱することなく、それぞれ指定された組み合わせ内で使用されるだけでなく、他の組み合わせ内で、又は単独で使用され得ることは言うまでもない。
【0025】
本発明の更なる利点及び構成は、説明及び添付の図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明による圧縮パッドを有する電池セルスタックの、組み立て状態のハウジングへの取り付けを図示する。
図2】動作状態にある圧縮パッドを用いる設置された電池セルスタックを用いるハウジングを図示する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、ハウジング1の中に挿入された直後の電池セルスタック4の略図である。示される実施例では、電池セルスタック4は、本発明による圧縮パッド3によって互いにそれぞれ分離される3つの電池セル2を備える。1つのこのような圧縮パッド3も、セルスタック4の各端に設けられる。圧縮パッド3は組み立て状態、すなわち、非拡張状態であるため、電池セルスタック4は、小さいサイズであり、特別な手段なしに比較的容易にハウジング1に挿入され得る。
【0028】
図2は、関連付けられた電池モジュール又は関連付けられた電池の動作中の電池セルスタック4を示す。ここで、圧縮パッド3は、流体5をハウジング1内に提供された液体冷却システム流路に通すことによってアクティブ化されている。流路は、ハウジング1の内壁と電池セル2及び圧縮パッド3の表面との間に形成され得、その結果、直接冷却された電池セルパケット4が提供される。流体5がハウジング1を通って流れると、流体5は圧縮パッド3の半透過性の分離層と接触して流れ、半透過性の分離層の内側及び外側の濃度差を等しくする。結果として、圧縮パッド3は体積を増加させ、それによって、電池セル2に必要な圧力を蓄積して、電池セルをハウジング1内にクランプ留めする。図2が例示するように、アクティブ化された圧縮パッド3を有する電池セルスタック4とハウジング1の内壁との間に軸方向の自由空間はもはや存在しない。
【0029】
上述のように、圧縮パッドは、流体を電池又は電池モジュールの冷却システムに別々に通すことによってアクティブ化され得る。別の方法として、液体冷却媒体は、別個のアクティブ化ステップを必要としないように、流体として機能することができる。この目的のために、冷却媒体は、半透過性の分離層を通して浸透を強化するための更なる添加剤を含むことができる。
図1
図2