(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067025
(43)【公開日】2024-05-16
(54)【発明の名称】中枢神経系モデルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/079 20100101AFI20240509BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240509BHJP
【FI】
C12N5/079
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023188376
(22)【出願日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2022176180
(32)【優先日】2022-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.PLURONIC
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】高井 義美
(72)【発明者】
【氏名】水谷 清人
(72)【発明者】
【氏名】宮田 宗明
(72)【発明者】
【氏名】亀山 武志
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 元
(72)【発明者】
【氏名】小牧 遼平
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QQ24
4B063QQ79
4B063QR04
4B063QS24
4B063QS33
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA30
(57)【要約】
【課題】本発明は、形態的及び/又は機能的に生体内の中枢神経系により近い形態を反映したin vitro中枢神経系モデルを提供することである。
【解決手段】中枢神経細胞前培養物に、中枢神経系グリア前駆細胞及び/又はニューロスフィアを播種して共培養することで、生体内の中枢神経系と同様に、複雑に分枝し極性化した中枢神経系グリア細胞と中枢神経細胞とが共存する中枢神経系モデルが得られる。また、中枢神経細胞を、所定の酸素濃度及び所定のグルコース濃度の条件で培養することで、シナプス機能障害及び神経細胞の変性を経て神経細胞の死に至る過程が生体内の中枢神経系により近い緩徐な態様で再現された中枢神経系モデルが得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経細胞を前培養することで、神経細胞前培養物を得る工程1と、
前記神経細胞前培養物に、中枢神経系グリア前駆細胞及びニューロスフィアからなる群より選択される共培養用細胞を播種する工程2と、
前記中枢神経細胞と前記共培養用細胞とを共培養することで、中枢神経細胞及び中枢神経系グリア細胞を含む中枢神経系モデルを得る工程3と、を含む、中枢神経系モデルの製造方法。
【請求項2】
前記中枢神経系グリア細胞がアストロサイトである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程1における前記前培養の時間と前記工程3における前記共培養の時間との合計が12日以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程2の前に、前記共培養用細胞を、血清濃度0~1.2v/v%の培地で培養することにより得る工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記工程3の後に、前記中枢神経細胞及び前記中枢神経系グリア細胞を含む共培養物を、3~7v/v%酸素雰囲気下、且つ、グルコース含有量が10~18mMの培地を用いた培養に供する工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記中枢神経細胞と前記共培養細胞とが、それぞれ異なる個体に由来するものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1の製造方法により得られる中枢神経系モデル。
【請求項8】
中枢神経細胞を、3~7v/v%酸素、且つ、グルコース含有量が10~18mMの培地を用いて培養する工程を含む、中枢神経系モデルの製造方法。
【請求項9】
前記工程において、前記培養を2~5時間行い、前記中枢神経系モデルをシナプス機能障害観察用モデルとして得る、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程において、前記培養を6時間以上行い、前記中枢神経系モデルを少なくとも中枢神経細胞死観察用モデルとして得る、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項8の製造方法により得られる中枢神経系モデル。
【請求項12】
請求項7又は11に記載の中枢神経系モデルと、前記中枢神経系モデルに含まれる細胞内に蓄積させた神経変性疾患の原因タンパク質とを含む、神経変性疾患の中枢神経系病態モデル。
【請求項13】
請求項11に記載の中枢神経系モデルに、神経変性疾患の予防又は治療薬の候補化合物を接触させる工程を含む、神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法。
【請求項14】
請求項12に記載の神経変性疾患の中枢神経系病態モデルに、神経変性疾患の予防又は治療薬の候補化合物を接触させる工程と、神経細胞変性作用を不活化する及び/又は前記原因タンパク質の毒性の増悪を軽減する化合物を選択する工程と、を含む、神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法。
【請求項15】
前記神経変性疾患の予防又は治療薬の候補化合物が、非NMDA型グルタミン酸受容体拮抗剤及び/NMDA型グルタミン酸受容体拮抗剤である、請求項13又は14のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経系モデルの製造方法に関する。より具体的には、本発明は、生体内の形態及び/又は機能をより忠実に反映できる中枢神経系モデルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病などの神経変性疾患で見られる神経細胞の変性と死を阻害する薬剤の創出のために、その病態を模倣するスクリーニング系として、神経細胞を用いたin vitroモデルが開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリハイドロキシエチルメタクリレートが基質上に細胞非接着性の微少領域を形成していることを特徴とする培養基質を用い、この培養基質上でグリア細胞を培養し、さらにこのグリア細胞の上で神経細胞を培養することで、生体外で神経細胞の形態制御を安定に行うことが開示されている。
【0004】
また、酸素及びグルコース欠乏が神経細胞に及ぼす影響を検討するin vitroの実験系として無酸素・無グルコース(Oxygen-Glucose Deprivation:OGD)培養法が汎用されている。OGD実験系は、虚血性脳損傷の病理学的変化を良好な再現性でシミュレートすることができるとされており、虚血耐性に関与する要因の研究に精力的に利用されてきた。
【0005】
例えば、OGD実験系の利用により、非特許文献1には、ストレス蛋白質HSPの遺伝子発現をはじめ各種の転写因子活性化及びそれに引き続く遺伝子発現が見出されたことが報告されており、非特許文献2には、免疫機能、とくにToll-like受容体を介した炎症起点、それに引き続く炎症抑制、免疫抑制が、耐性獲得脳で発現していることが報告されており、非特許文献3には、慢性低灌流脳において脳軟膜動脈吻合レベルでの血管適応現象が生じ、その後に加わる重度の虚血侵襲を軽減する作用があることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kitagawa K : CREB and cAMP response elementmediated gene expression in the ischemic brain.FEBJ J 274 : 3210―3217, 2007
【非特許文献2】Kariko K, Weissmann D, Welsh FA : Inhibition of Toll-like receptor and cytokine signaling―A unifying theme in ischemic tolerance. J Cereb Blood Flow Metab 24 : 1288―1304, 2004
【非特許文献3】Kitagawa K, Yagita Y, Sasaki T, Sugiura S, Omura-Matsuoka E, Mabuchi T, Matsushita K, Hori M : Chronic mild reduction of cerebral perfusion pressure induces ischemic tolerance in focal cerebral ischemia. Stroke 36 : 2270―2274, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
脳内において、神経細胞は種々のグリア細胞(アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトなど)と物理的及び機能的に相互作用しており、これらの相互作用がそれぞれの細胞の正常状態の構造及び機能の維持又は病態の増悪、若しくはこれらの両方に関与していることが知られている。したがって、病態を模倣した実験系を構築するためには、神経細胞とグリア細胞とが生体内に近い状態で共存している実験系を開発することが極めて重要である。生体内の中枢神経系グリア細胞は複雑に分枝し突起を伸展して極性化しており、その突起先端(perisynaptic astrocyte processes;PAPs)がシナプスと相互作用し三者間シナプスを形成している。この形態は、中枢細胞系の機能に大きく影響する。しかしながら、これまでの神経細胞を用いたin vitroモデルは、このような生体内に近い形態及び機能を十分再現できるには至っていない。
【0009】
また、OGD実験系は、虚血性脳損傷の病理学的変化をシミュレートするモデルとして有用ではあるが、慢性の低酸素・低グルコース状態を再現していないため、神経変性疾患において生体内でみられる、シナプスの変性から神経細胞死に至る緩徐な過程を詳細に観察することができない。
【0010】
このように、これまでの神経細胞のin vitroモデルは、形態的にも機能的にも生体内の中枢神経系を反映したものになっていないため、多数の突起を持つ正常アストロサイトの神経細胞保護作用や異常アストロサイトの神経障害機能の解析が困難であり、神経変性疾患の病態モデルとして未だ検討の余地がある。
【0011】
そこで、本発明の目的は、形態的及び/又は機能的に生体内の中枢神経系により近い形態を反映したin vitro中枢神経系モデルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討の結果、中枢神経細胞前培養物に、中枢神経系グリア前駆細胞及び/又はニューロスフィアを播種して共培養することで、生体内の中枢神経系と同様に、複雑に分枝し突起伸展が極性化した中枢神経系グリア細胞と中枢神経細胞とが共存する中枢神経系モデルが得られることを見出した。また、中枢神経細胞を、所定の酸素濃度及び所定のグルコース濃度の条件で培養することで、神経シナプス機能障害及び神経細胞の変性を経て神経細胞死に至る過程が生体内の中枢神経系により近い緩徐な態様で再現された中枢神経系モデルが得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。すなわち、本発明は、以下に掲げる態様の発明を提供する。
【0013】
項1. 中枢神経細胞を前培養することで、神経細胞前培養物を得る工程1と、
前記神経細胞前培養物に、中枢神経系グリア前駆細胞及びニューロスフィアからなる群より選択される共培養細胞調製工程共培養用細胞を播種する工程2と、
前記中枢神経細胞と前記共培養用細胞とを共培養することで、中枢神経細胞及び中枢神経系グリア細胞を含む中枢神経系モデルを得る工程3と、を含む、中枢神経系モデルの製造方法。(この方法を、以下において、「共培養法」とも記載する。)
項2. 前記中枢神経系グリア細胞がアストロサイトである、項1に記載の製造方法。
項3. 前記工程1における前記前培養の時間と前記工程3における前記共培養の時間との合計が12日以上である、項1又は2に記載の製造方法。
項4. 前記工程2の前に、前記共培養用細胞を、血清濃度0~1.2v/v%の培地で培養することにより得る工程(以下において、「共培養細胞調製工程」ともいう。)をさらに含む、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
項5. 前記工程3の後に、前記中枢神経細胞及び前記中枢神経系グリア細胞を含む共培養物を、3~7v/v%酸素雰囲気下、且つ、グルコース含有量が10~18mMの培地を用いた培養に供する工程(以下において、「Oxygen-Glucose Insufficiency Condition(OGIC)培養工程」ともいう。)をさらに含む、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
項6. 前記中枢神経細胞と前記共培養細胞とが、それぞれ異なる個体に由来するものである、項1~5のいずれかに記載の製造方法。
項7. 項1~6のいずれかの製造方法により得られる中枢神経系モデル。
項8. 中枢神経細胞を、3~7v/v%酸素、且つ、グルコース含有量が10~18mMの培地を用いて培養する工程を含む、中枢神経系モデルの製造方法。(この方法を、以下において、「Oxygen-Glucose Insufficiency Condition(OGIC)培養法」とも記載する。)
項9. 前記工程において、前記培養を2~5時間行い、前記中枢神経系モデルをシナプス機能障害観察用モデルとして得る、項8に記載の製造方法。
項10. 前記工程において、前記培養を6時間以上行い、前記中枢神経系モデルを少なくとも中枢神経細胞死観察用モデルとして得る、項8に記載の製造方法。
項11. 項8~10のいずれかの製造方法により得られる中枢神経系モデル。
項12. 項7又は11に記載の中枢神経系モデルと、前記中枢神経系モデルに含まれる細胞内に蓄積させた神経変性疾患の原因タンパク質とを含む、神経変性疾患の中枢神経系病態モデル。
項13. 項11に記載の中枢神経系モデルに、神経変性疾患の予防又は治療薬の候補化合物を接触させる工程を含む、神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法。
項14. 項12に記載の神経変性疾患の中枢神経系病態モデルに、神経変性疾患の予防又は治療薬の候補化合物を接触させる工程と、神経細胞変性作用を不活化する及び/又は前記原因タンパク質の毒性の増悪を軽減する化合物を選択する工程と、を含む、神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法。
項15. 前記神経変性疾患の予防又は治療薬の候補化合物が、非NMDA型グルタミン酸受容体拮抗剤及び/NMDA型グルタミン酸受容体拮抗剤である、項13又は14のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、形態的及び/又は機能的に生体内の中枢神経系により近い形態を反映したin vitro中枢神経系モデルが提供される。具体的には、本発明によれば、生体内の中枢神経系と同様に、複雑に分枝し極性化した中枢神経系グリア細胞と中枢神経細胞とが共存する中枢神経系モデル、及び/又は、シナプス機能障害及び神経細胞の変性を経て神経細胞の死に至る過程が生体内の中枢神経系により近い緩徐な態様で再現された中枢神経系モデルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】試験例1において、共培養法により得られた本発明の中枢神経系モデルのグリア細胞(アストロサイト)突起の写真である。
【
図2】試験例2において、共培養法により得られた本発明の中枢神経系モデルのグリア細胞(アストロサイト)突起の写真である。
【
図3】試験例6において、OGIC法により得られた本発明の中枢神経系モデルにおけるシナプスマーカー分子の蛍光抗体免疫染色結果を示す。
【
図4】試験例6において、OGIC法により得られた本発明の中枢神経系モデルにおける神経細胞死の経時的推移観察結果を示す。
【
図5】試験例7において、OGIC法により得られた本発明の中枢神経系モデルにおけるシナプスマーカー分子の蛍光抗体免疫染色結果を示す。
【
図6】試験例7において、OGIC法により得られた本発明の中枢神経系モデルにおける神経細胞死の経時的推移観察結果の蛍光抗体免疫染色結果を示す。
【
図7】試験例8において、OGIC法により得られた中枢神経系モデルに細胞死抑制剤を作用させた場合の細胞死抑制の観察結果を示す。
【
図8】試験例9において、OGIC法により得られた中枢神経系モデルに細胞死抑制剤を作用させた場合の細胞死抑制の観察結果の蛍光抗体免疫染色結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.共培養法
本発明の中枢神経系モデルの製造方法のうち、共培養法は、中枢神経細胞を前培養することで、神経細胞前培養物を得る工程1と;前記神経細胞前培養物に、中枢神経系グリア前駆細胞及びニューロスフィアからなる群より選択される共培養用細胞を播種する工程2と;前記中枢神経細胞と前記共培養用細胞とを共培養することで、中枢神経細胞及び中枢神経系グリア細胞を含む中枢神経系モデルを得る工程3と、を含むことを特徴とする。以下、本発明の中枢神経系モデルの製造方法(共培養法)について詳述する。
【0017】
1-1.工程1
工程1では、中枢神経細胞を前培養することで、神経細胞前培養物を得る。中枢神経細胞の由来動物としては特に限定されず、典型的には、任意の哺乳動物が挙げられ、より具体的には、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル等の非ヒト動物、及びヒトが挙げられ、好ましくはマウスが挙げられる。
【0018】
中枢神経細胞の由来組織としては、脳組織であればよく、例えば、大脳、小脳、脳幹の組織が挙げられる。これらの組織は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの組織の中でも、好ましくは大脳皮質及び海馬が挙げられ、より好ましくは、海馬が挙げられる。
【0019】
また、中枢神経細胞は、正常細胞であってもよいし、病変細胞であってもよい。病変細胞としては、神経変性疾患の原因タンパク質(例えば、アミロイドβ、αシヌクレイン、ハンチンチン、SOD1等)が蓄積した細胞、神経変性疾患の感受性遺伝子(例えば、APOE2、APOE3、APOE4等のアポリポ蛋白遺伝子多型、LRRK2、PARK2、HTT、SOD1等)が導入された細胞、腫瘍細胞等が挙げられる。これらの細胞は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
動物の脳組織から中枢神経細胞を分離する方法としては、酵素学的処理及び物理的処理等、公知の方法を適宜選択することができる。酵素学的処理において用いられる酵素としては、トリプシン、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、パパイン等が挙げられる。当該方法としては、好ましくは、酵素学的処理が挙げられ、より好ましくはトリプシンを用いた酵素学的処理が挙げられる。
【0021】
中枢神経細胞は、懸濁用培地中に懸濁させることができる。懸濁用培地としては特に限定されず、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Mini
mum Essential Medium (EMEM)培地、MEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium (DMEM)培地、
Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、Neur
obasal Medium(ライフテクノロジーズ)等が挙げられる。これらの培地は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの培地の中でも、好ましくはMEM培地が挙げられる。懸濁用培地は、さらに血清及び/又は抗生物質を含むことができ、血清の含有量としては、例えば5~15v/v%、好ましくは8~12v/v%が挙げられる。
【0022】
懸濁用の培地は、中枢神経細胞の前培養に用いる培地(前培養用培地)に交換させられることができる。前培養用培地としては特に限定されず、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Mediu
m (EMEM)培地、MEM培地、Dulbecco’s modified Eag
le’s Medium (DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 16
40培地、Fischer’s培地、Neurobasal Medium(ライフテク
ノロジーズ)等が挙げられる。これらの培地は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの培地の中でも、好ましくはNeurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)が挙げられる。
【0023】
前培養用培地は、血清を含んでいても含んでいなくてもよいが、好ましくは、血清を実質的に含んでいない。血清を実質的に含んでいないとは、血清の培地中の含有量が0~1v/v%、好ましくは0~0.1v/v%、最も好ましくは0v/v%であることをいう。
【0024】
前培養用培地は、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、B-27サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなどから選択される1以上の血清代替物、脂質、アミノ酸、
L-グルタミン、GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質(例えばゲンタマイシン等)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの添加物を含むことができる。これらの添加物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの添加物の中でも、好ましくはB-27サプリメント、GlutaMAX及び抗生物質(好ましくはゲンタマイシン)が挙げられる。
【0025】
中枢神経系の前培養は、好ましくは接着培養にて培養する。接着培養は、細胞を培養容器へ接着の状態で培養することである。接着の強度は、タッピング処理、ピペッティング処理等の人為的処理によらなければ、生存性を維持したまま細胞を剥離することができない程度であればよい。接着培養は、典型的には、細胞接着性のコーティング剤でコーティング処理された容器を用いて行うことができる。コーティング剤としては、細胞外マトリックス(例えばラミニン、テネイシン、フィブロネクチン、コラーゲン等)、アミノ酸重合体(ポリ-D-リジン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-オルニチン、ポリ-L-オルニチン)、ポリエチレンイミン等が挙げられる。これらの細胞接着性コーティング剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの細胞接着性コーティング剤の中でも、好ましくはアミノ酸重合体が挙げられ、より好ましくはポリ-D-リジン、ポリ-L-リジンが挙げられ、さらに好ましくはポリ-L-リジンが挙げられる。
【0026】
工程1の培養期間としては、好ましくは、工程3における共培養の時間との合計が12日以上(好ましくは14日以上、より好ましくは16日以上、さらに好ましくは19日以上、一層好ましくは23日以上、27日以上、又は30日以上、若しくはさらに35日以下、33日以下、29日以下、又は26日以下)となるように設定することができる。
【0027】
工程1の具体的な培養期間としては、例えば3日以上、好ましくは7日以上、より好ましくは8日以上、さらに好ましくは10日以上が挙げられる。工程1の培養期間の上限としては、例えば25日以下、好ましくは20日以下、より好ましくは19日以下、17日以下、15日以下、13日以下又は11日以下が挙げられる。
【0028】
工程1の培養期間中は、適宜、所望の中枢神経細胞の割合を高めるため等の観点で処理を行うことができる。このような処理として、培地交換が挙げられる。
【0029】
より具体的には、培養開始2時間後~2日後に、培地を交換することができ、この場合の培地交換は、交換前の培地の例えば50~100v/v%、好ましくは80~100v/v%、より好ましくは90~100v/v%を交換することができる。
【0030】
また、培養開始2~4日後に、DNA合成阻害剤(例えば、シトシンアラビノフラノシド(AraC)等)を添加することができ、この場合のDNA阻害剤の添加量としては、例えば培地中の終濃度で、0.1~3μM、好ましくは0.3~2μM、より好ましくは0.5~1.5μM、さらに好ましくは0.8~1.2μMが挙げられる。
【0031】
さらに、培養開始後6~8日後に、培地を交換することができ、この場合の培地交換は、交換前の培地の例えば5~70v/v%、好ましくは10~50v/v%、より好ましくは20~40v/v%、さらに好ましくは30~35v/v%を交換することができる。あるいは、培養開始後6~8日後に、培地を追加することができ、この場合の追加する培地の量は、追加前の培地の例えば10~60v/v%、好ましくは20~50v/v%、より好ましくは30~40v/v%を追加することができる。
【0032】
工程1の培養条件としては特に限定されないが、培養雰囲気の二酸化炭素濃度として、例えば1~10v/v%、好ましくは3~7v/v%、より好ましくは4~6v/v%が挙げられ、培養温度として、例えば36~38℃、好ましくは36.5~37.5℃が挙げられる。
【0033】
1-2.工程2
工程2では、工程1で得られた神経細胞前培養物に、中枢神経系グリア前駆細胞及びニューロスフィアからなる群より選択される共培養用細胞を播種する。
【0034】
中枢神経系グリア前駆細胞とは、中枢神経系グリア細胞の、細胞突起の伸展による高度に発達した細胞極性を未だ形成していないものをいう。中枢神経系グリア細胞としては、アストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトなどが挙げられ、好ましくはアストロサイトが挙げられる。ニューロスフィアは、神経幹細胞の球状の細胞塊である。
【0035】
また、共培養用細胞は、正常細胞であってもよいし、病変細胞であってもよい。病変細胞としては、神経変性疾患の原因タンパク質(例えば、アミロイドβ、αシヌクレイン、ハンチンチン、SOD1等)が蓄積した細胞、神経変性疾患の感受性遺伝子(例えば、APOE2、APOE3、APOE4等のアポリポ蛋白遺伝子多型、LRRK2、PARK2、HTT、SOD1等)が導入された細胞、腫瘍細胞等が挙げられる。これらの細胞は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
共培養細胞と、工程1における中枢神経細胞とは、同一の個体に由来していてもよいし、異なる個体に由来していてもよいが、好ましくは、異なる個体に由来しているものである。
【0037】
共培養用細胞の調製方法については、後述の「1-4.他の工程」で述べる通りである。
【0038】
工程2で用いる中枢神経細胞と播種する共培養細胞との比率としては特に限定されないが、例えば、中枢神経細胞の数を1とした場合の共培養細胞の相対数として、例えば0.125~1、好ましくは0.14~0.67、より好ましくは0.2~0.5、さらに好ましくは0.25~0.4が挙げられる。
【0039】
播種する共培養細胞の具体的な数としては特に限定されず、作製すべき中枢神経系モデルのスケールに応じて適宜設定すればよいが、例えば、24ウェルプレートを用いて作製する場合、1ウェル当たり、1×102個~1×106個、好ましくは1×103個~1×105が挙げられる。
【0040】
1-3.工程3
工程3では、工程2で共存させた中枢神経細胞と共培養用細胞とを共培養することで、中枢神経細胞及び中枢神経系グリア細胞を含む中枢神経系モデルを得る。
【0041】
工程3の共培養期間としては、好ましくは、工程1における培養の時間との合計が12日以上(好ましくは14日以上、より好ましくは16日以上、さらに好ましくは19日以上、一層好ましくは23日以上、27日以上、又は30日以上、若しくはさらに35日以下、33日以下、29日以下、又は26日以下)となるように設定することができる。
【0042】
工程3の具体的な共培養期間としては、例えば1日以上、好ましくは6日以上、より好ましくは11日以上、さらに好ましくは13日以上が挙げられる。工程3の共培養期間の上限としては、例えば25日以下、好ましくは20日以下、より好ましくは19日以下、17日以下、又は15日以下が挙げられる。
【0043】
工程3の培養条件としては特に限定されないが、培養雰囲気の二酸化炭素濃度として、例えば1~10v/v%、好ましくは3~7v/v%、より好ましくは4~6v/v%が挙げられ、培養温度として、例えば36~38℃、好ましくは36.5~37.5℃が挙げられる。
【0044】
1-4.他の工程
本発明の中枢神経系モデルの製造方法(共培養法)は、上記工程1~3に加えて、任意の他の工程を含むことができる。例えば、工程2の前に、工程2で用いる共培養用細胞を、血清濃度0~1.2v/v%の培地で培養することにより得る工程(以下において、「共培養細胞調製工程」とも記載する。);工程3の後に、前記中枢神経細胞及び前記中枢神経系グリア細胞を含む共培養物を、3~7v/v%酸素雰囲気下、且つ、グルコース含有量が10~18mMの培地を用いた培養に供する工程(以下において、「Oxygen-Glucose Insufficiency Condition(OGIC)培養工程」とも記載する。);細胞内に神経変性疾患の原因タンパク質を蓄積させるための処理を行う工程(以下において、「神経変性処理工程」とも記載する。);及び、中枢神経系モデルの細胞を固定する工程(以下において、「細胞固定工程」とも記載する。)が挙げられる。
【0045】
1-4-1.共培養細胞調製工程
共培養細胞調製工程は、ニューロスフィア調製工程を含み、場合により、さらに中枢神経系グリア前駆細胞調製工程を含む。
【0046】
1-4-1-1.ニューロスフィア調製工程
ニューロスフィア調製工程では、神経幹細胞を培養し、ニューロスフィアを得る。
【0047】
神経幹細胞の由来組織としては、大脳皮質及び/又は大脳基底核原基が挙げられ、好ましくは大脳基底核原基が挙げられる。
【0048】
神経幹細胞の由来組織から神経幹細胞を分離する方法としては、酵素学的処理及び物理的処理等、公知の方法を適宜選択することができる。物理的処理としては、例えばピペッティングが挙げられる。当該方法としては、好ましくは、物理的処理が挙げられ、より好ましくはピペッティングが挙げられる。
【0049】
ニューロスフィア調製工程において、神経幹細胞の培養に用いる培地としては特に限定されず、例えばIMDM培地、Medium 199培地、Eagle’s Minim
um Essential Medium (EMEM)培地、MEM培地、Dulbecco’s modified Eagle’s Medium (DMEM)培地、H
am’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、Neuro
basal Medium(ライフテクノロジーズ)等が挙げられる。これらの培地は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの培地の中でも、好ましくはMEM培地及びNeurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)が挙げられ、より好ましくは、Neurobasal Medium及びMEM培地の混合培地が挙げられる。さらに、当該混合培地の混合比率としては、Neurobasal Mediumの体積を1とした場合のMEM培地の相対体積として、例えば2~6、好ましくは3~5、より好ましくは3.5~4.5が挙げられる。
【0050】
ニューロスフィア調製工程において、神経幹細胞の培養に用いる培地は、血清を含んでいても含んでいなくてもよいが、好ましくは、血清を実質的に含んでいない。血清を実質的に含んでいないとは、血清の培地中の含有量が0~1v/v%、好ましくは0~0.1v/v%、最も好ましくは0v/v%であることをいう。
【0051】
ニューロスフィア調製工程において、神経幹細胞の培養に用いる培地は、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(ES細胞培養時のFBSの血清代替物)、N2サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、B-27サプリメント(Thermo Fisher Scientific)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオールグリセロールなど
から選択される1以上の血清代替物、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質(例えばゲンタマイシン等)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの添加物を含むことができる。これらの添加物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの添加物の中でも、好ましくはB-27サプリメント、GlutaMAX及び抗生物質(好ましくはゲンタマイシン)が挙げられる。
【0052】
ニューロスフィア調製工程において、神経幹細胞の培養に用いる培地は、神経栄養因子を含有していることが好ましい。神経栄養因子とは、運動ニューロンの生存と機能維持に重要な役割を果たしている膜受容体へのリガンドであり、例えば、Nerve Growth Factor (NGF)、Brain-derived Neurotrophic Factor (BDNF)、Neurotrophin 3 (NT-3)、Neurotrophin 4/5 (NT-4/5)、Neurotrophin 6 (NT-6)、basic FGF、acidic FGF、FGF-5、Epidermal Growth Factor (EGF)、Hepatocyte Growth Factor (HGF)、Insulin、Insulin Like Growth Factor 1 (IGF 1)、Insulin Like Growth Factor 2 (IGF 2)、Glia cell line-derived Neurotrophic Factor (GDNF)、TGF-b2、TGF-b3、Interleukin 6 (IL-6)、Ciliary Neurotrophic Factor (CNTF)およびLIF等が挙げられる。これらの神経栄養因子は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの神経栄養因子の中でも、好ましくはEGFが挙げられる。
【0053】
ニューロスフィア調製工程において、神経栄養因子の含有量としては特に限定されないが、例えば、0.01~0.3μg/mL、好ましくは0.03~0.2μg/mL、より好ましくは0.05~0.15μg/mL、さらに好ましくは0.08~0.12μg/mLが挙げられる。
【0054】
ニューロスフィア調製工程において、神経幹細胞の培養は、好ましくは浮遊培養にて培養する。浮遊培養は、細胞を培養容器へ非接着の状態で培養することである。浮遊培養は、工程1で述べたような細胞接着性のコーティング剤でコーティングされていない容器、又は、接着抑制剤(例えば、ポリヒドロキシエチルメタクリル酸(poly-HEMA)、非イオン性の界面活性ポリオール(Pluronic F-127等)等)によりコーティング処理された容器を使用して行うことができる。
【0055】
ニューロスフィア調製工程において、神経幹細胞の培養期間としては特に限定されないが、例えば4~10日、好ましくは6~9日、より好ましくは7~9日が挙げられる。
【0056】
ニューロスフィア調製工程において、神経幹細胞の培養期間中は、適宜、所望のニューロスフィアの生成を補助するため等の観点で処理を行うことができる。このような処理として、神経栄養因子の追加及び培地交換が挙げられる。
【0057】
より具体的には、1.5~2日に1度の頻度で、神経栄養因子を累加することができる。神経栄養因子の追加量としては、追加される神経栄養因子の量が、終濃度で、例えば、0.01~0.3μM、好ましくは0.03~0.2μM、より好ましくは0.05~0.15μM、さらに好ましくは0.08~0.12μMとなる濃度が挙げられる。
【0058】
また、培養開始6~7日に、培地を交換することができ、この場合の培地交換は、交換前の培地の例えば50~100v/v%、好ましくは80~100v/v%、より好ましくは90~100v/v%を交換することができる。
【0059】
ニューロスフィア調製工程における培養条件としては特に限定されないが、培養雰囲気の二酸化炭素濃度として、例えば1~10v/v%、好ましくは3~7v/v%、より好ましくは4~6v/v%が挙げられ、培養温度として、例えば36~38℃、好ましくは36.5~37.5℃が挙げられる。
【0060】
得られたニューロスフィアは、遠心操作等の固液分離法により回収することができる。また、回収したニューロスフィアは、工程2に供される場合は、工程1において挙げた組成の培地に分散させることができ、引き続いて中枢神経系グリア前駆細胞調製工程に供される場合は、後述の中枢神経系グリア前駆細胞調製工程で用いる培地に分散させることができる。
【0061】
1-4-1-2.中枢神経系グリア前駆細胞調製工程
中枢神経系グリア前駆細胞調製工程では、ニューロスフィア調製工程で得られたニューロスフィアを培養することで、ニューロスフィアをグリア前駆細胞へ分化させる。
【0062】
中枢神経系グリア前駆細胞調製工程において、ニューロスフィアの分化に用いる培地としては特に限定されず、例えば、ニューロスフィア調製工程において用いられる培地として挙げた培地から選択することができる。当該培地の中でも、好ましくはMEM培地及びNeurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)が挙げられ、より好ましくは、Neurobasal Medium及びMEM培地の混合培地が挙げられる。さらに、当該混合培地の混合比率としては、Neurobasal Mediumの体積を1とした場合のMEM培地の相対体積として、例えば2~20、好ましくは2.5~10、より好ましくは3~5が挙げられる。
【0063】
中枢神経系グリア前駆細胞調製工程において、ニューロスフィアの分化に用いる培地は、血清を含んでいても含んでいなくてもよいが、血清を含む場合の血清の量としては、例えば0.1~1.2v/v%、好ましくは0.5~1.2v/v%、より好ましくは0.8~1.1v/v%が挙げられる。
【0064】
中枢神経系グリア前駆細胞調製工程において、ニューロスフィアの分化に用いる培地は、ニューロスフィア調製工程において挙げた添加物を含むことができる。これらの添加物は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの添加物の中でも、好ましくはB-27サプリメント、GlutaMAX及び抗生物質(好ましくはゲンタマイシン)が挙げられる。
【0065】
中枢神経系グリア前駆細胞調製工程において、ニューロスフィアの分化に用いる培地は、神経栄養因子を含有していることが好ましい。神経栄養因子としては、ニューロスフィア調製工程において挙げたものを選択することができる。当該神経栄養因子の中でも、好ましくはEGFが挙げられる。
【0066】
中枢神経系グリア前駆細胞調製工程において、神経栄養因子の含有量としては特に限定されないが、例えば、0.01~0.3μg/mL、好ましくは0.03~0.2μg/mL、より好ましくは0.05~0.15μg/mL、さらに好ましくは0.08~0.12μg/mLが挙げられる。
【0067】
中枢神経系グリア前駆細胞調製工程において、ニューロスフィアの分化は、好ましくは接着培養にて培養することにより行う。
【0068】
中枢神経系グリア前駆細胞調製工程において、培養期間としては特に限定されないが、例えば1~3日が挙げられる。
【0069】
中枢神経系グリア前駆細胞調製工程における培養条件としては特に限定されないが、培養雰囲気の二酸化炭素濃度として、例えば1~10v/v%、好ましくは3~7v/v%、より好ましくは4~6v/v%が挙げられ、培養温度として、例えば36~38℃、好ましくは36.5~37.5℃が挙げられる。
【0070】
得られた中枢神経系グリア前駆細胞は、遠心操作等の固液分離法により回収することができる。また、回収した中枢神経グリア前駆細胞は、工程1において挙げた組成の培地に分散させることができ、工程2に供することができる。
【0071】
1-4-2.OGIC培養工程
OGIC培養工程では、工程3で得られた前記中枢神経細胞及び前記中枢神経系グリア細胞を含む共培養物を、3~7v/v%酸素雰囲気下、且つ、グルコース含有量が10~18mMの培地を用いた培養に供する。
【0072】
OGIC培養工程における詳細は、当該工程に供されるものが工程3で得られた共培養物であることを除いて、後述の2-1.のOGIC培養工程において述べる通りである。
【0073】
本発明の中枢神経系モデルの製造方法のうち共培養法がOGIC培養工程を含む場合、前記中枢神経細胞及び前記中枢神経系グリア細胞を含む中枢神経系モデルが、OGIC培養工程を経たものとして得られる。
【0074】
1-4-3.神経変性処理工程
神経変性処理工程では、細胞内に神経変性疾患の原因タンパク質を蓄積させるための処理を行う。
【0075】
当該処理の具体例としては、神経変性疾患の感受性遺伝子を導入する処理、神経変性疾患の感受性遺伝子のタンパク質を添加する処理、及び神経変性疾患の原因タンパク質を添加する処理が挙げられる。
【0076】
神経変性疾患の感受性遺伝子としては、例えば、APOE2、APOE3、APOE4等のアポリポ蛋白遺伝子多型、LRRK2、PARK2、HTT、SOD1等が挙げられる。これらの神経変性疾患の感受性遺伝子は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。神経変性疾患の感受性遺伝子を導入する処理は、上記工程2の前に行うことができる。
【0077】
神経変性疾患の感受性遺伝子のタンパク質としては、例えば、APOE2タンパク質、APOE3タンパク質、APOE4タンパク質等のアポリポ蛋白、LRRK2タンパク質、PARK2タンパク質、HTTタンパク質、SOD1タンパク質等が挙げられる。これらの神経変性疾患の感受性遺伝子のタンパク質は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。神経変性疾患の感受性遺伝子のタンパク質を添加する処理は、上記工程3の間に行うことができる。当該処理を行う期間としては、例えば0.5~2日、好ましくは0.5~1.5日が挙げられる。
【0078】
神経変性疾患の原因タンパク質としては、例えば、アミロイドβ、αシヌクレイン、ハンチンチン、SOD1等が挙げられる。これらの神経変性疾患の原因タンパク質は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。神経変性疾患の原因タンパク質を添加する処理は、上記工程3の後に行うことができる。当該処理を行う期間としては、例えば0.5~2日、好ましくは0.5~1.5日が挙げられる。
【0079】
1-4-4.細胞固定工程
細胞固定工程では、中枢神経系モデルの細胞を固定する。細胞の固定方法としては、
通常の細胞固定方法を用いることができる。例えば、パラホルムアルデヒド又はメタノールを用いた固定が挙げられる。
【0080】
2.Oxygen-Glucose Insufficiency Condition(OGIC)培養法
本発明の中枢神経系モデルの製造方法のうち、OGIC法培養法は、中枢神経細胞を、3~7v/v%酸素、且つ、グルコース含有量が10~18mMの培地を用いて培養する工程(以下において、「OGIC培養工程」とも記載する。)を含むことを特徴とする。以下、本発明の本発明の中枢神経系モデルの製造方法(OGIC法培養法)について詳述する。
【0081】
2-1.OGIC培養工程
OGIC培養工程において用いる中枢神経細胞は、上記1-1.で述べた工程1と同じ手法により得られた中枢神経細胞培養物であることが好ましい。
【0082】
OGIC培養工程において用いる培地は、グルコース含有量が10~18mMであることを限度として特に限定されない。グルコース含有量としては、好ましくは12~17mM、より好ましくは14~16mMが挙げられる。
【0083】
OGIC培養工程において用いる培地の、グルコース含有量以外の点については、上記1-1.で述べた工程1において用いられる培地と同じである。なお、グルコース含有量を上記範囲内に制御する方法としては、グルコースを含まない培地にグルコースを上記所定範囲内となるように添加する方法、及び、グルコースが上記所定範囲を超えて含まれる培地を、グルコースを含まない培地を用いてグルコース量が上記所定範囲内となるように希釈する方法が挙げられる。このようなグルコース量の制御は、上記1-1.で述べた工程1と同じ手法により得られた中枢神経細胞培養物(培養に用いられた培地を含んでいる)に対して直接行うことができる。なお、上記グルコース含有量を上記範囲内に制御する方法において、グルコースを含まない培地を用いて希釈する方法を採る場合、神経細胞死をより緩徐にする観点から、希釈に供される培地の例えば5~70v/v%、好ましくは10~50v/v%、より好ましくは20~40v/v%、さらに好ましくは30~35v/v%を、グルコースを含まない培地で交換することができる。
【0084】
さらに、OGIC培養工程において用いる培地は、溶存酸素が低減されていることが好ましい。溶存酸素の低減の程度としては、空気に接している培地に含まれる溶存酸素よりも低ければよい。溶存酸素を低減させるように制御する方法としては、空気に接している培地を、溶存酸素が低減するように処理した培地を用いて希釈する方法が挙げられる。溶存酸素が低減するように処理した培地の調製方法としては、培地を、酸素濃度が3~7v/v%(好ましくは4~6v/v%、より好ましくは4.5~5.5v/v%)の、例えば36~38℃(好ましくは36.5~37.5℃)の気相中で、例えば20~30時間(好ましくは22~28時間、より好ましくは23~26時間)インキュベートすることにより行うことができる。溶存酸素を低減する制御は、上記1-1.で述べた工程1と同じ手法により得られた中枢神経細胞培養物(培養に用いられた培地を含んでいる)に対して直接行うことができ、この場合、神経細胞死をより緩徐にする観点から、希釈に供される培地の例えば5~70v/v%、好ましくは10~50v/v%、より好ましくは20~40v/v%、さらに好ましくは30~35v/v%を、溶存酸素が低減するように処理した培地で交換することができる。
【0085】
OGIC培養工程においては、好ましくは、上記のグルコース量の制御と、溶存酸素を低減させる制御とを、同時に行うことができる。この場合、グルコースが上記所定範囲を超えて含まれる培地を、グルコースを含まず且つ溶存酸素が低減するように処理した培地を用いて希釈することができる。
【0086】
OGIC培養工程における培養時間としては特に制限されず、例えば、1.5時間以上、48時間以下が挙げられる。OGIC培養工程における培養時間は、好ましくは、得られる中枢神経系モデルを、神経細胞死までの過程のうちどの過程を模したモデルとして得ようとするかに応じて制御することができる。
【0087】
例えば、中枢神経系モデルをシナプス機能障害観察用モデル(つまり、シナプス機能障害観察専用モデル)として得る場合、培養時間としては、例えば1.5~5時間又は2~5時間、好ましくは2.5~4時間、より好ましくは2.5~3.5時間が挙げられる。
【0088】
また、中枢神経系モデルを少なくとも中枢神経細胞死観察用モデル(具体的には、中枢神経細胞死観察専用モデル又はシナプス機能障害観察用且つ中枢神経細胞死観察用モデル)として得る場合、培養時間としては、例えば6時間以上が挙げられる。また、中枢神経系モデルをシナプス機能障害観察用且つ中枢神経細胞死観察用モデルとして得る場合、培養時間としては、好ましくは20時間以上が挙げられる。これら培養時間はその上限において特に限定されないが、例えば48時間以下、36時間以下、30時間以下、又は24時間以下が挙げられる。
【0089】
2-2.他の工程
本発明の中枢神経系モデルの製造方法(OGIC培養法)は、上記OGIC培養工程に加えて、任意の他の工程を含むことができる。例えば、OGIC培養工程の前に、中枢神経細胞を調製する工程(以下において、「中枢神経細胞調製工程」とも記載する。);共培養用細胞を、血清濃度0~1.2v/v%の培地で培養することにより得る工程(以下において、「共培養細胞調製工程」ともいう。);神経細胞前培養物に、中枢神経系グリア前駆細胞及びニューロスフィアからなる群より選択される共培養用細胞を播種する工程(以下において、「共培養工程」とも記載する。);細胞内に神経変性疾患の原因タンパク質を蓄積させるための処理を行う工程(以下において、「神経変性処理工程」とも記載する。);及び、中枢神経系モデルの細胞を固定する工程(以下において、「細胞固定工程」とも記載する。)が挙げられる。
【0090】
2-2-1.中枢神経細胞調製工程
中枢神経細胞調製工程では、OGIC培養工程の前に、中枢神経細胞を調製する。中枢神経細胞調製工程の詳細は、上記1-1.の工程1で述べた内容と同じである。
【0091】
2-2-2.共培養細胞調製工程
共培養細胞調製工程は、ニューロスフィア調製工程を含み、場合により、さらに中枢神経系グリア前駆細胞調製工程を含む。共培養細胞調製工程の詳細は、上記1-4-1.の共培養細胞調製工程で述べた内容と同じである。
【0092】
2-2-3.共培養工程
共培養工程では、神経細胞前培養物に、中枢神経系グリア前駆細胞及びニューロスフィアからなる群より選択される共培養用細胞を播種し、共培養する。神経細胞前培養物としては、上記中枢神経細胞調製工程で得られたものを使用することができ、共培養用細胞としては、上記共培養用細胞調製工程で得られたものを使用することができる。共培養工程の詳細は、上記1-2.の工程2及び3で述べた内容と同じである。
【0093】
2-2-4.神経変性処理工程
神経変性処理工程では、細胞内に神経変性疾患の原因タンパク質を蓄積させるための処理を行う。
【0094】
当該処理の具体例としては、神経変性疾患の感受性遺伝子を導入する処理、神経変性疾患の感受性遺伝子のタンパク質を添加する処理、及び神経変性疾患の原因タンパク質を添加する処理が挙げられる。
【0095】
神経変性疾患の感受性遺伝子としては、上記1-4-3.の神経変性処理工程で述べた通りである。神経変性疾患の感受性遺伝子を導入する処理は、上記共培養工程の前に行うことができる。
【0096】
神経変性疾患の感受性遺伝子のタンパク質としては、上記1-4-3.の神経変性処理工程で述べた通りである。神経変性疾患の感受性遺伝子のタンパク質を添加する処理は、共培養工程の間に行うことができる。当該処理を行う期間としては、例えば0.5~2日、好ましくは0.5~1.5日が挙げられる。
【0097】
神経変性疾患の原因タンパク質としては、上記1-4-3.の神経変性処理工程で述べた通りである。神経変性疾患の原因タンパク質を添加する処理は、OGIC培養工程の前に行うことができる。当該処理を行う期間としては、例えば0.5~2日、好ましくは0.5~1.5日が挙げられる。
【0098】
2-2-5.細胞固定工程
細胞固定工程では、中枢神経系モデルの細胞を固定する。細胞の固定方法としては、通常の細胞固定方法を用いることができる。例えば、パラホルムアルデヒド又はメタノールを用いた固定が挙げられる。
【0099】
3.中枢神経系モデル
上記の中枢神経系モデルの製造方法により得られる本発明の中枢神経系モデルは、形態的及び/又は機能的に生体内の中枢神経系により近い形態を反映している。
【0100】
例えば、上記1.で述べた共培養法により得られる中枢神経モデルは、細胞が細胞突起を伸展させ高度に発達した細胞極性を形成しており、形態的に生体内の中枢神経系グリア細胞により近い形態を反映している。さらに、このように形態的に生体内の中枢神経系グリア細胞により近い形態を反映した中枢神経系モデルは、グリア細胞の機能分子群が突起先端(perisynaptic astrocyte processes;PAPs)に集積するため、機能的にも生体内の中枢神経系グリア細胞により近い態様を反映している。
【0101】
また、上記2.で述べたOGIC培養法により得られる中枢神経モデルは、神経細胞死への過程が緩徐となっており、機能的に生体内の中枢神経系グリア細胞により近い形態を反映している。神経細胞死への過程が緩徐であるとは、少なくとも、シナプス機能障害及び神経細胞死がいずれも観察できることをいい、好ましい形態においては、シナプス機能障害、神経細胞変性及び神経細胞死がいずれも観察できることをいう。
【0102】
さらに、上記1.で述べた共培養法において上記1-4-2.で述べたOGIC培養工程を含む場合、及び上記2.で述べたOGIC法において上記2-2-3.で述べた共培養工程を含む場合、得られる中枢神経モデルは、細胞が細胞突起を伸展させ高度に発達した細胞極性を形成しており、且つ、神経細胞死への過程が緩徐となっているため、形態的及び機能的に生体内の中枢神経系により近い形態を反映している。
【0103】
また、本発明の中枢神経系モデルは、当該中枢神経系モデルにおける細胞内に蓄積させた神経変性疾患の原因タンパク質を含む、神経変性疾患の中枢神経系病態モデルであってもよい。
【0104】
神経変性疾患としては、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症等が挙げられる。神経変性疾患の原因タンパク質としては、アミロイドβ、αシヌクレイン、ハンチンチン、SOD1等が挙げられる。
【0105】
神経変性疾患の中枢神経系病態モデルは、具体的には、上記1.で述べた共培養法において、神経幹細胞として病変細胞を用いた場合、共培養細胞として病変細胞を用いた場合、又は上記1-4-3.で述べた神経変性処理工程を行うことにより得られる中枢神経モデル、及び、上記2.で述べたOGIC培養法において、神経幹細胞として病変細胞を用いた場合、共培養工程を含み共培養細胞として病変細胞を用いた場合、又は上記2-2-4.で述べた神経変性処理工程を行うことにより得られる中枢神経モデルが挙げられる。
【0106】
4.神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法
4-1.OGIC培養法による中枢神経系モデルを用いる場合
上記2.のOGIC培養法により得られる中枢神経系モデルは、それ自体、シナプス機能障害観察用モデル又は中枢神経細胞死観察用モデルとして得ることができるため、神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニングに有用である。
【0107】
OGIC培養法により得られる中枢神経系モデルを用いる場合の本発明の神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法は、上記中枢神経系モデルに、神経変性疾患の予防又は治療薬の候補化合物を接触させる工程を含む。候補化合物を接触させるために、当該候補化合物を添加するタイミングとしては特に限定されないが、例えば、OGIC培養工程の直前又はOGIC培養工程中が挙げられる。
【0108】
4-2.神経変性疾患の中枢神経系病態モデルを用いる場合
上記3.で述べた神経変性疾患の中枢神経系病態モデルは、形態的及び/又は機能的に生体内の中枢神経系により近い形態を反映し、且つ、神経変性疾患の原因タンパク質が蓄積されているため、神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニングに有用である。
【0109】
当該中枢神経系病態モデルを用いる場合の本発明の神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニング方法は、上記神経変性疾患の中枢神経系病態モデルに、神経変性疾患の予防又は治療薬の候補化合物を接触させる工程と、神経細胞変性作用を不活化する及び/又は前記原因タンパク質の毒性の増悪を軽減する化合物を選択する工程と、を含む。
【0110】
4-3.候補化合物
神経変性疾患の予防又は治療薬の候補化合物としては特に限定されず、所望の化合物を任意に選択できる。好ましい候補化合物としては、非NMDA型グルタミン酸受容体拮抗剤及び/NMDA型グルタミン酸受容体拮抗剤が挙げられる。
【実施例0111】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0112】
[A]共培養法
試験例1
(1)中枢神経細胞の調製及び培養
24ウェルプレートの1ウェルあたり、以下のプロトコルで操作を行った。
【0113】
1.胎生18.5日のマウス海馬を単離しトリプシン(0.25%)を用いて細胞を分散させ、海馬神経細胞(初代培養細胞)を調製した。
2.調製した海馬神経細胞(初代培養細胞)6 x 104個を、750 μLの懸濁用培地(10v/v%ウシ胎児血清を含むMEM培地であって、最終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含有し、その他のサプリメントは不含有である)に懸濁した。
3.ポリ-L-リジンでコートしたカバーガラス(直径13 mm)上に懸濁液を全量播種し、5%(v/v) CO2気相下、37℃で、接着培養にて、3日間、10日間又は18日間培養した(工程1)。
4.なお、上記3.において、播種1日後に、懸濁用培地の全量を前培養用培地(無血清のNeurobasalであって、添加物として、B27、Glutamax、終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含有する)に交換し、播種2日後にシトシンアラビノフラノシド(AraC)を終濃度1.0 μMとなるように加え、中枢神経細胞以外の細胞の増殖を抑制した。さらに、播種7日後に前培養用培地の一部を交換した。具体的には、250 μLの培養上清をピペットで採取して廃棄し、新鮮な前培養用培地250 μLを加えた。これにより、培養物を得た。
【0114】
(2)ニューロスフィアの培養
1.胎生18.5日のマウス大脳基底核原基を単離しピペッティングにより細胞を分散させ、神経幹細胞(初代培養細胞)を調製した。
2.調製した神経幹細胞(初代培養細胞)2 x 105個を、10 mLの無血清培地(Neurobasal及びMEMを1:4(体積比)で含み、さらに、終濃度0.1 μg/mLのEGF、B-27、GlutaMAX、及び終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含む)に懸濁した。
3.浮遊細胞培養用の表面無処理培養器(直径10 cm)に播種し、5%(v/v) CO2気相下、37℃で、浮遊培養法により8日間培養した。この操作により、球状の細胞塊であるニューロスフィアを得た(共培養細胞調製工程のニューロスフィア調製工程)。
4.なお、上記3.において、2日に一度の頻度でEGF(終濃度0.1 μg/mL)を追加した。さらに、培養開始後7日目にニューロスフィアを遠心操作によって回収し、培地中においてピペッティング操作による分散を行った後、2 x 105個の細胞を、10 mLの無血清培地(Neurobasal及びMEMを1:4(体積比)で含み、さらに、終濃度0.1 μg/mLのEGF、B-27、GlutaMAX、及び終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含む)に懸濁し、表面無処理培養器(直径10 cm)に播種した。
5.得られたニューロスフィアを遠心操作によって回収し、培地(下記(3)の1.に記載の培地と同じ組成の培地)中においてピペッティング操作により培地中に分散させた。
【0115】
(3)ニューロスフィアからアストロサイト前駆細胞への分化
1.上記(2)により得られたニューロスフィアの2 x 105個の細胞を、10 mLの培地(Neurobasal及びMEMを1:4(体積比)で含み、さらに、1v/v%ウシ胎児血清、B-27、GlutaMAX、及び終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含む)に懸濁した。培地には終濃度0.1 μg/mLとなるようEGFを添加し、表面無処理培養器(直径10 cm)に播種し、5%(v/v) CO2気相下、37℃で、接着培養法により2日間培養した(共培養細胞調製工程の中枢神経系グリア前駆細胞調製工程)。
2.得られたアストロサイト前駆細胞培養物を遠心操作によって回収し、培地(Neurobasal及びMEMを1:4(体積比)で含み、さらに、B-27、GlutaMAX、及び終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含む)中においてピペッティング操作等による分散し懸濁させた。
【0116】
(4)中枢神経細胞とアストロサイト前駆細胞の二者共培養
24ウェルプレートの1ウェルあたり、以下のプロトコルで操作を行った。
【0117】
上記(1)により調製した中枢神経細胞の培養物(培養物中の細胞数は、およそ3.0 x 104個程度)上に、上記(3)で得られた懸濁させたアストロサイト前駆細胞を1 x 104個を播種し(工程2)、5%(v/v) CO2気相下、37℃で、2日間、7日間又は14日間共培養した。これにより、中枢神経系モデル(実施例1~7)を作製した(工程3)。
【0118】
(5)結果
得られた中枢神経系モデルのグリア細胞(アストロサイト)突起の写真を
図1に示し、更に、当該写真に基づいて細胞突起の伸展態様から生体内中枢神経系との類似度を評価しした結果を表1に示す。なお、表1において、「+」の符号は、細胞が細胞突起を伸展させ高度に発達した細胞極性を形成していることを示す。「+」の符号の数が大きい程、細胞突起の伸展度及び細胞極性の発達度合が高いことを示し、6個である場合、生体内中枢神経系と同程度に達していることを表す。また、「+」~「++++++」を6段階のVAS(ビジュアルアナログスケール)とし、「+」より悪い評価を、悪くなるごとに、「-」、「--」、「---」、「----」・・・と同様のスケールで1段階ずつ「-」の符号の数が増える表記により評価した。
【0119】
【0120】
表1及び
図1に示す通り、実施例1~7の中枢神経系モデルのいずれにおいても、細胞が細胞突起を伸展させ高度に発達した細胞極性を形成しており、形態的に生体内の中枢神経系により近い形態を反映していることが確認できた。特に、実施例4,7の中枢神経系モデルについては、細胞突起の伸展度及び細胞極性の発達度合が生体内中枢神経系と同程度に達しており、形態的に生体内の中枢神経系のような形態を反映していることが確認できた。さらに、このように形態的に生体内の中枢神経系により近い形態を反映した中枢神経系モデルは、アストロサイト機能分子群が突起先端(perisynaptic astrocyte processes;PAPs)に集積するため、機能的にも生体内の中枢神経系により近い形態を反映しているといえる。
【0121】
試験例2
試験例1の(3)を行わず、試験例1の(2)において、得られたニューロスフィアを分散させた培地を、無血清のNeurobasal(添加物として、B-27、GlutaMAX、終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含有する)に変更し、試験例1の(4)において、中枢神経細胞上に播種する細胞として、アストロサイト培養物の代わりに試験例1の(2)で得られたニューロスフィア培養物を用いたことを除いて、試験例1の実施例4と同様の操作を行って中枢神経系モデル(実施例8)を作製し、得られた中枢神経系モデルのグリア細胞(アストロサイト)突起の写真を
図2に示し、試験例1の(5)と同様に生体内中枢神経系との類似度を評価した結果を表2に示す。
【0122】
【0123】
表2及び
図2に示す通り、実施例8の中枢神経系モデルも、細胞突起の伸展度及び細胞極性の発達度合が生体内中枢神経系と同程度に達しており、形態的及び機能的に生体内の中枢神経系のような形態を反映していることが確認できた。
【0124】
試験例3
試験例1の(4)において、アストロサイト培養物上に、中枢神経細胞を播種して共培養したことを除いて、試験例1の実施例4と同様の操作を行って中枢神経系モデル(比較例1)を作製し、試験例1の(5)と同様に生体内中枢神経系との類似度を評価した。その結果を表3に示す。
【0125】
【0126】
表3が示す通り、その結果、アストロサイト細胞突起の伸展は確認できなかった。
【0127】
[B]Oxygen-Glucose Insufficiency Condition(OGIC)培養法
試験例4
(1)中枢神経細胞の調製及び培養
1.胎生18.5日のマウス海馬を単離しトリプシンにて細胞を分散させ、海馬神経細胞(初代培養細胞)を調製した。
2.調製した海馬神経細胞(初代培養細胞)6 x 104個を、750 μLの懸濁用培地(10v/v%ウシ胎児血清を含むMEM培地であって、最終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含有し、その他のサプリメントは不含有である)に懸濁した。
3.ポリ-L-リジンでコートしたカバーガラス(直径13 mm)上に懸濁液を全量播種し、5%(v/v) CO2気相下、37℃で、接着培養にて21日間培養した。
4.なお、上記3.において、播種1日後に、懸濁用培地の全量を前培養用培地(無血清のNeurobasal-A(25mMのグルコースを含有)であって、添加物として、B-27、GlutaMAX、終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含有する)に交換し、播種2日後にシトシンアラビノフラノシド(AraC)を終濃度1.0 μMとなるように加えた。さらに、播種7日後に培地の一部を交換した。具体的には、250 μLの培養上清をピペットで採取して廃棄し、新鮮な培地250 μLを加えた。これにより、培養物を得た。
【0128】
(2)OGIC処理
1.新たに培地(グルコース不含のNeurobasal-A(Thermo Fisher Scientific, A2477501))を用意し、5(v/v)% O2及び5(v/v)% CO2を含む気相下、37℃で24時間、インキュベーター内で静置することで、溶存酸素が低下するように調節した。その後、添加物として、B-27、GlutaMAX、終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを添加し、グルコース不含溶存酸素調節培地を調製した。
2.神経細胞播種後21日目の培養物(培養物中の細胞数は、およそ3.0 x 104個程度)から、300 μLの培養上清をピペットで採取して廃棄し、上記1.で得られた溶存酸素調節培地300 μLを加えた。これにより、中枢神経細胞の前培養用培地(25 mMのグルコース含有)のうち2/5体積量が、グルコース不含溶存酸素調節培地に置換されたため、培地中に含まれるグルコースは15 mMに調整された。
3.気相中のO2を5(v/v)%、又は10(v/v)%、CO2を5(v/v)%とし、37℃のインキュベーター内で3時間又は6時間培養した。これにより、中枢神経系モデル(実施例9)を作製した。
【0129】
(3)非OGIC処理1(OGD処理)
培地中のグルコース含有量を0mMとし、且つ、気相中のO2を0(v/v)% とし、培養時間を2時間としたことを除いて、上記(2)と同じ操作を行い、中枢神経系モデル(比較例2)を作製した。
【0130】
(4)非OGIC処理2
上記3.における気相中のO2を10(v/v)% としたことを除いて、上記(2)と同じ操作を行い、中枢神経系モデル(比較例3)を作製した。
【0131】
(5)非OGIC処理3
上記1.及び2.を行わないことによってグルコース含有量を25mMとし、且つ、上記3.における気相中のO2を21(v/v)% としたことを除いて、上記(2)と同じ操作を行い、中枢神経系モデル(比較例4)を作製した。
【0132】
(5)細胞死に至る過程の観察
得られた中枢神経系モデルについて、細胞死に至る過程が観察できるか否かを評価した。また、具体的に、シナプス機能障害及び神経細胞死それぞれについて観察できる(「○」評価)か否(「×」評価)かを評価した。結果を表4に示す。
【0133】
【0134】
表4が示す通り、中枢神経細胞をOGIC処理して得られた中枢神経系モデル(実施例9)によれば、培養時間を制御することで、シナプス機能障害と神経細胞死との両方を個別に観察することができたため、細胞死に至る過程の観察が可能であり、機能的に生体内の中枢神経系のような形態を反映していることが確認できた。
【0135】
なお、中枢神経細胞をOGIC処理して得られた中枢神経系モデル(実施例9)によれば、神経細胞の死に至る過程が生体内の中枢神経系により近い緩徐な態様で再現されているため、培養時間3時間でも総細胞数の20%程度しか神経細胞死が引き起こされておらず、これにより、細胞死の過程の現象であるシナプス機能障害の現象を単独で観察することができたといえる。
【0136】
一方、中枢神経細胞を非OGIC処理1(OGD処理)して得られた中枢神経系モデル(比較例2)では、神経細胞の死に至る過程が生体内の中枢神経系よりもはるかに急速な態様であるため、培養時間2時間の時点でも総細胞数の60%もの神経細胞死が引き起こされており、細胞死の過程の現象が観察できなかった。また、中枢神経細胞を非OGIC処理2,3して得られた中枢神経系モデル(比較例3,4)では、神経細胞死が観察できなかった。
【0137】
試験例5
(1)中枢神経細胞の調製及び培養
1.胎生18.5日のマウス海馬を単離しトリプシンにて細胞を分散させ、海馬神経細胞(初代培養細胞)を調製した。
2.調製した海馬神経細胞(初代培養細胞)3 x 104個を、500 μLの懸濁用培地(10v/v%ウシ胎児血清を含むMEM培地であって、最終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含有し、その他のサプリメントは不含有である)に懸濁した。
3.ポリ-L-リジンでコートしたカバーガラス(直径13 mm)上に懸濁液を全量播種し、5%(v/v) CO2気相下、37℃で、接着培養にて21日間培養した。
4.なお、上記3.において、播種1日後に、懸濁用培地の全量を前培養用培地(無血清のNeurobasal-A(25mMのグルコースを含有)であって、添加物として、B-27、GlutaMAX、終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを含有する)に交換し、播種2日後にシトシンアラビノフラノシド(AraC)を終濃度1.0 μMとなるように加えた。さらに、播種7日後に培地を追加した。具体的には、新鮮な培地250 μLを加えた。これにより、培養物を得た。
【0138】
(2)OGIC処理
1.新たに培地(グルコース不含のNeurobasal-A(Thermo Fisher Scientific, A2477501))を用意し、5(v/v)% O2及び5(v/v)% CO2を含む気相下、37℃で24時間、インキュベーター内で静置することで、溶存酸素が低下するように調節した。その後、添加物として、B-27、GlutaMAX、終濃度50 μg/mLのゲンタマイシンを添加し、グルコース不含溶存酸素調節培地を調製した。
2.神経細胞播種後21日目の培養物(培養物中の細胞数は、およそ8.0 x 103個程度)から、300 μLの培養上清をピペットで採取して廃棄し、上記1.で得られた溶存酸素調節培地300 μLを加えた。これにより、中枢神経細胞の前培養用培地(25 mMのグルコース含有)のうち2/5体積量が、グルコース不含溶存酸素調節培地に置換されたため、培地中に含まれるグルコースは15 mMに調整された。
3.気相中のO2を5(v/v)%、又は10(v/v)%、CO2を5(v/v)%とし、37℃のインキュベーター内で3時間、又は24時間培養した。これにより、中枢神経系モデル(実施例10)を作製した。
【0139】
(3)非OGIC処理1
上記1.及び2.を行わないことによってグルコース含有量を25mMとし、且つ、上記3.における気相中のO2を21(v/v)% としたことを除いて、上記(2)と同じ操作を行い、中枢神経系モデル(比較例5)を作製した。
【0140】
(4)非OGIC処理2
上記1.及び2.を行わないことによってグルコース含有量を25mMとし、且つ、上記3.における気相中のO2を10(v/v)% としたことを除いて、上記(2)と同じ操作を行い、中枢神経系モデル(比較例6)を作製した。
【0141】
(5)細胞死に至る過程の観察
得られた中枢神経系モデルについて、細胞死に至る過程が観察できるか否かを評価した。また、具体的に、シナプス機能障害及び神経細胞死それぞれについて観察できる(「○」評価)か否(「×」評価)かを評価した。結果を表5に示す。
【0142】
【0143】
表5が示す通り、中枢神経細胞をOGIC処理して得られた中枢神経系モデル(実施例10)によれば、培養時間を制御することで、シナプス機能障害と神経細胞死との両方を観察することができたため、細胞死に至る過程の観察が可能であり、機能的に生体内の中枢神経系のような形態を反映していることが確認できた。
【0144】
なお、中枢神経細胞をOGIC処理して得られた中枢神経系モデル(実施例10)によれば、神経細胞の死に至る過程が生体内の中枢神経系により近い緩徐な態様で再現されているため、培養時間3時間でも総細胞数の20%程度しか神経細胞死が引き起こされておらず、これにより、細胞死の過程の現象であるシナプス機能障害の現象を単独で観察することができたといえる。
【0145】
一方、中枢神経細胞を非OGIC処理1,2して得られた中枢神経系モデル(比較例5,6)では、神経細胞死が観察できなかった。
【0146】
試験例6
本試験例では、OGIC法により得られた中枢神経系モデルにおいて、神経細胞変性と、神経細胞死の経時的な推移との個別観察を行った。
【0147】
(1)OGIC処理3時間の中枢神経系モデルにおける神経細胞変性の観察
試験例4の(1)~(2)と同じ操作により、実施例9と同じ(但し、OGIC処理時間が3時間のもの)OGIC法による中枢神経系モデルを作製した。
得られた中枢神経系モデルに係る試料を、2重量%パラホルムアルデヒドを含むPB中に浸漬させ、37℃にて15分間、固定した(細胞固定工程)。その後、試料を0.25重量% Triton X-100を含むPBS中に浸漬させ、室温にて10分間反応させた。
【0148】
シナプスマーカー分子(興奮性シナプスマーカーであるニューラビン-II及び抑制性シナプスマーカーであるゲフィリン)に対する蛍光抗体免疫染色を行った。その後、顕微鏡観察を行った。結果を
図3に示す。なお、
図3においては、対照の結果も併せて示している。対照は非OGIC条件、すなわち、神経細胞播種後21日目の培養物(培養物中の細胞数は、およそ3.0 x 10
4個程度)から、300 μLの培養上清をピペットで採取して廃棄し、新鮮な培地(25 mMのグルコース含有)300 μLを加えた。その後、5%(v/v) CO
2気相下、37℃で、3時間培養した。
図3から明らかな通り、対照では神経細胞の樹状突起上にシナプスマーカー分子の強いシグナルが認められるのに対して、OGIC処理ではシナプスマーカー分子のシグナルの減少が認められた。したがって、
図3から明らかな通り、OGIC法により得られた中枢神経系モデルにおいて神経細胞変性を観察できたことが確認できた。
【0149】
(2)OGIC処理0.5~12時間の中枢神経系モデルにおける神経細胞死の経時的推移観察
試験例4の(1)~(2)に基づいて、OGIC法による中枢神経系モデルを作製した。なお、OGIC処理時間は、0.5時間、3時間、6時間、及び12時間とし、これら各時間におけるモデルの培養上清を回収し、上清中LDHの量をLDH Cytotoxicity Detection Kit (Takara, MK401)を用いて測定した。なお、培養上清中の細胞外に放出されるLDHは、死細胞の数の増加の指標となる。
【0150】
なお、OGIC処理前の培養上清を、比較対照として一部回収しておき、OGIC非処理の場合におけるLDHのバックグラウンド測定に用いた。具体的には、OGIC非処理の培養上清に、LDH測定のポジティブコントロールとして、10% Triton X-100を含むPBSを残存培地量の1/100体積量添加し、全ての細胞で人為的に細胞死を起こさせる操作を行った。
【0151】
ポジティブコントロールの培養上清のLDH量を100%とした場合の、OGIC法による中枢神経系モデルの培養上清のLDH量(%)を導出した。結果を
図4に示す。
図4においては、対照の結果も併せて示している。
図4に示す通り、OGIC処理0.5~12時間の中枢神経系モデルでは、経時的に、緩徐な神経細胞死が観察できた。なお、図示していないが、試験例4の(2)における培地中のグルコース及び気相注酸素の含量をいずれもゼロとしたことを除いて試験例4の(1)~(2)と同様の処理を行って得られる中枢神経系モデル(つまりOGD処理を行って得られる中枢神経系モデル)では、約2時間の時点で約60%の神経細胞死が認められるほどに細胞死が急速であり、細胞死の過程の現象が観察できなかった。
【0152】
試験例7
本試験例では、OGIC法により得られた中枢神経系モデルにおいて、神経細胞変性と、神経細胞死の経時的な推移との個別観察を行った。
【0153】
(1)OGIC処理3時間の中枢神経系モデルにおける神経細胞変性の観察
試験例5の(1)~(2)と同じ操作により、実施例10と同じ(但し、OGIC処理時間が3時間のもの)OGIC法による中枢神経系モデルを作製した。
得られた中枢神経系モデルに係る試料を、2重量%パラホルムアルデヒドを含むPB中に浸漬させ、37℃にて15分間、固定した(細胞固定工程)。その後、試料を0.25重量% Triton X-100を含むPBS中に浸漬させ、室温にて10分間反応させた。
【0154】
シナプスマーカー分子(興奮性シナプスマーカーであるニューラビン-II)に対する蛍光抗体免疫染色を行った。その後、顕微鏡観察を行った。結果を
図5に示す。なお、
図5においては、対照の結果も併せて示している。対照は非OGIC条件、すなわち、神経細胞播種後21日目の培養物(培養物中の細胞数は、およそ8.0 x 10
3個程度)から、300 μLの培養上清をピペットで採取して廃棄し、新鮮な培地(25 mMのグルコース含有)300 μLを加えた。その後、5%(v/v) CO
2気相下、37℃で、3時間培養した。
図5から明らかな通り、対照では神経細胞の樹状突起上にニューラビン-IIの強いシグナルが認められるのに対して、OGIC処理ではニューラビン-IIのシグナルの減少が認められた。したがって、
図5から明らかな通り、OGIC法により得られた中枢神経系モデルにおいて神経細胞変性を観察できたことが確認できた。
【0155】
(2)OGIC処理1.5~24時間の中枢神経系モデルにおける神経細胞死の経時的推移観察
試験例5の(1)~(2)に基づいて、OGIC法による中枢神経系モデルを作製した。なお、OGIC処理時間は、1.5時間、3時間、及び24時間とし、これら各時間におけるモデルを回収し、樹状突起マーカーであるMAP2に対する蛍光抗体免疫染色を行なった。その後、顕微鏡観察を行なった。結果を
図6に示す。なお、
図6においては、対照の結果も示している。
図6から明らかな通り、対照では神経細胞の樹状突起にMAP2の強いシグナルが認められるのに対して、OGIC処理1.5~24時間の中枢神経系モデルでは、経時的に、緩徐な神経細胞死が観察できた。
【0156】
試験例8
本試験例では、OGIC法により得られた中枢神経系モデルに細胞死抑制剤を作用させた場合の細胞死抑制を観察した。細胞死抑制剤としては、非NMDA型グルタミン酸受容体拮抗剤であるCNQX(6-シアノ-7-ニトロキノキサリン-2,3-ジオン)、又はNMDA型グルタミン酸受容体拮抗剤であるAPV(2-アミノ-5-ホスホノペンタン酸)を用いた。
【0157】
試験例4の(1)と同じ操作により、中枢神経培養物を得た。その後、試験例4の(2)を行う直前に、CNQX(最終濃度10μM)又はAPV(最終濃度100μM)を培地に添加した。その後試験例4の(2)に基づいてOGIC処理を6時間又は24時間行った。それらの中枢神経系モデルの上清を回収し、試験例6の(2)と同様にして上清中LDHの量を測定した。
【0158】
結果を
図7に示す。
図7では、OGIC法により得られた中枢神経系モデルの、細胞死抑制剤を作用させなかった場合の上清中LDHの量も併せて示している。
図7に示されるとおり、OGIC法により得られた中枢神経系モデル細胞死抑制剤を作用させることで、細胞死抑制が観察できた。つまり、OGIC法により得られた中枢神経系モデルが、神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニング系として有効であることが示された。
【0159】
試験例9
本試験例では、OGIC法により得られた中枢神経系モデルに細胞死抑制剤を作用させた場合の細胞死抑制を観察した。細胞死抑制剤としては、非NMDA型グルタミン酸受容体拮抗剤であるCNQX(6-シアノ-7-ニトロキノキサリン-2,3-ジオン)、又はNMDA型グルタミン酸受容体拮抗剤であるMK-801(10,11-ジヒドロ-5-メチル-5H-ジベンゾ[a,b]シクロヘプテン-5,10-イミン)を用いた。
【0160】
試験例5の(1)の2.における調製した海馬神経細胞(初代培養細胞)6 x 104個としたことを除いて、試験例5の(1)と同じ操作により、中枢神経培養物を得た。その後、試験例5の(2)を行う直前に、CNQX(最終濃度10μM)及びMK-801(最終濃度20μM)を培地に添加した。その後試験例5の(2)に基づいてOGIC処理を24時間行った。それらの中枢神経系モデルを回収し、試験例7の(2)と同様にして樹状突起マーカーであるMAP2に対する蛍光抗体免疫染色を行い、顕微鏡観察を行なった。
【0161】
結果を
図8に示す。
図8では、OGIC法により得られた中枢神経系モデルの、細胞死抑制剤を作用させなかった場合の結果も併せて示している。
図8に示されるとおり、OGIC法により得られた中枢神経系モデル細胞死抑制剤を作用させることで、細胞死抑制が観察できた。つまり、OGIC法により得られた中枢神経系モデルが、神経変性疾患の予防又は治療薬のスクリーニング系として有効であることが示された。