(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067050
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】熱転写インクリボン用樹脂組成物およびそれを含む熱転写インクリボン
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20240510BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20240510BHJP
B41M 5/395 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L57/00
B41M5/395 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176827
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北口 貴之
(72)【発明者】
【氏名】杉原 崇嗣
【テーマコード(参考)】
2H111
4J002
【Fターム(参考)】
2H111AA26
2H111BA03
2H111BA34
2H111BA50
2H111BA53
2H111BA61
2H111BA78
4J002BA00X
4J002CF04W
4J002CF05W
4J002CF06W
4J002FD020
4J002FD090
4J002GB00
4J002GC00
4J002GH00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】極性の異なるPETフィルムおよびPPフィルムへの密着性に優れ、また、耐アルコール擦過性を有する画像を形成することが可能な熱転写インクリボン用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂とテルペン系樹脂とを含み、質量比(ポリエステル樹脂/テルペン系樹脂)が50/50~95/5であり、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が35℃以上であることを特徴とする熱転写インクリボン用樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂とテルペン系樹脂とを含み、
質量比(ポリエステル樹脂/テルペン系樹脂)が50/50~95/5であり、
ポリエステル樹脂のガラス転移温度が35℃以上であることを特徴とする熱転写インクリボン用樹脂組成物。
【請求項2】
テルペン系樹脂がテルぺンフェノール樹脂であることを特徴とする請求項1記載の熱転写インクリボン用樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分が、芳香族ジカルボン酸を80モル%以上含有することを特徴とする請求項1または2記載の熱転写インクリボン用樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分が、1,2-プロパンジオールまたは2-メチル-1,3プロパンジオールを40モル%以上含有することを特徴とする請求項1または2記載の熱転写インクリボン用樹脂組成物。
【請求項5】
ポリエステル樹脂の数平均分子量が10000以下であることを特徴とする請求項1または2記載の熱転写インクリボン用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1または2記載の熱転写インクリボン用樹脂組成物を含有するインク層を含む熱転写インクリボン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱転写インクリボンに用いる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱転写記録方式による画像形成は、高画質であり、経時劣化が少なく、またサーマルプリンタは、取り扱いが簡便であり、メンテナンスに優れるなどの理由から、流通配送用のバーコードラベル、衣料用タグ、食品や医薬品用の内容表示ラベル、家電・電子機器の銘板ラベルなど、様々な分野で採用されている。
しかしながら、画像が形成されるフィルム基材においては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)などの、極性などの化学的性質が著しく異なる材料が使用されているため、基材ごとにインクリボンを選択する必要があった。また転写された画像は、基材に付着した汚れをアルコールを染み込ませた布で落とす際に、擦り取られることがあり、耐アルコール擦過性が劣ることがあった。
【0003】
熱転写記録に使用されるインクリボンは、一般的に、耐熱・滑性層をコーティングしたベースフィルムとインク層で構成されている。
インク層を構成するバインダー成分は、ワックスタイプ、ワックスレジンタイプ、レジンタイプの3種類に大別され、耐久性を必要とする用途では、レジンタイプが主に使用されている。例えば、特許文献1のバインダー成分は、結晶性のポリエステル樹脂を用いることで、耐アルコール性を含む耐久性を向上させている。また特許文献2のバインダー成分は、ポリエステル樹脂とスチレン樹脂を併用することで、低極性から高極性基材への密着性および耐久性を付与している。
【0004】
しかしながら、特許文献1の、結晶性ポリエステル樹脂を用いたバインダーは、極性の低いPPフィルムに対する密着性について全く考慮されたものではなく、また、アルコール擦過性に対して、不十分なものであった。さらに結晶性ポリエステル樹脂の結晶化速度が遅いため、熱転写インクリボンは、巻き取った際に、ブロッキングが生じる懸念もあった。また特許文献2のバインダーは、PETフィルムに対する密着性は優れるものの、PPなどのオレフィン基材に対しては十分に満足するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-338128号公報
【特許文献2】特開2018-47696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような問題点を解決し、極性の異なるPETフィルムおよびPPフィルムへの密着性に優れ、また、耐アルコール擦過性を有する画像を形成することが可能な熱転写インクリボン用樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリエステル樹脂と特定の樹脂を含む樹脂組成物が前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリエステル樹脂とテルペン系樹脂とを含み、
質量比(ポリエステル樹脂/テルペン系樹脂)が50/50~95/5であり、
ポリエステル樹脂のガラス転移温度が35℃以上であることを特徴とする熱転写インクリボン用樹脂組成物。
(2)テルペン系樹脂がテルぺンフェノール樹脂であることを特徴とする(1)記載の熱転写インクリボン用樹脂組成物。
(3)ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分が、芳香族ジカルボン酸を80モル%以上含有することを特徴とする(1)または(2)記載の熱転写インクリボン用樹脂組成物。
(4)ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分が、1,2-プロパンジオールまたは2-メチル-1,3プロパンジオールを40モル%以上含有することを特徴とする(1)または(2)記載の熱転写インクリボン用樹脂組成物。
(5)ポリエステル樹脂の数平均分子量が10000以下であることを特徴とする(1)または(2)記載の熱転写インクリボン用樹脂組成物。
(6)上記(1)または(2)記載の熱転写インクリボン用樹脂組成物を含有するインク層を含む熱転写リボン。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱転写インクリボン用樹脂組成物は、優れた耐アルコール擦過性と、PETフィルムおよびPPフィルムへの密着性とを有する画像を形成することができ、熱転写インクリボンのインク層バインダや接着層として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱転写インクリボン用樹脂組成物は、ポリエステル樹脂とテルペン系樹脂とを含む。
【0010】
<ポリエステル樹脂>
本発明の樹脂組成物を構成するポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分とグリコール成分を含む共重合体である。
【0011】
ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3官能以上の多塩基酸などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4′-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ヒドロキシ-イソフタル酸などが挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸や、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。
脂環式ジカルボン酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸およびその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物などが挙げられる。
3官能以上の多塩基酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水べンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0012】
ポリエステル樹脂の多価カルボン酸成分は、形成された画像における耐アルコール擦過性を向上させる観点や、熱転写インクリボンのインク層におけるブロッキングを抑制する観点、すなわち、耐ブロッキング性の観点から、芳香族ジカルボン酸を含有することが好ましく、多価カルボン酸成分における芳香族ジカルボン酸の含有量は、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。
【0013】
ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としては、脂肪族グリコール、脂環族グリコール、エーテル結合含有グリコール、3官能以上の多価アルコールなどが挙げられる。
脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、2,2-ブチルエチルプロパンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3プロパンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオールなどが挙げられる。
脂環族グリコールとしては、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコールなどが挙げられる。
エーテル結合含有グリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリヘキシレングリコール、ポリノナンジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタン)ジオールなどが挙げられる。
3官能以上の多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
また、グリコールとして、2,2-ビス[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのようなビスフェノール類(ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体)や、ビス[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンのようなビスフェノール類(ビスフェノールSのエチレンオキシド付加体)なども挙げられる。
【0014】
グリコール成分は、形成された画像における耐アルコール擦過性の観点から、1,2-プロパンジオールや2-メチル-1,3プロパンジオールを含有することが好ましく、グリコール成分における含有量は40モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることが最も好ましい。
【0015】
ポリエステル樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、多価カルボン酸成分およびグリコール成分以外の他の成分が共重合されてもよい。なお、他の成分の共重合割合は、ポリエステル樹脂の50モル%未満であることが好ましい。
【0016】
他の成分として、例えば、乳酸、オキシラン、グリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、2-ヒドロキシ-2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシ吉草酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、4-(β-ヒドロキシ)エトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどが挙げられる。
【0017】
また、ポリエステル樹脂は、モノカルボン酸、モノアルコールなどを構成成分として含有してもよい。
モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4-ヒドロキシフェニルステアリン酸などが挙げられる。
モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2-フェノキシエタノールなどが挙げられる。
【0018】
<ポリエステル樹脂の特性>
本発明におけるポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が35℃以上であることが必要であり、40℃以上であることが好ましく、45℃以上であることがより好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が35℃未満であると、形成された画像は、耐アルコール擦過性に劣るものとなり、また、インク層は、耐ブロッキング性に劣るものとなる。
ポリエステル樹脂のガラス転移温度を制御する方法としては、芳香族成分の含有量や分子量を調整する方法などが挙げられる。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量は、10000以下であることが好ましく、9000以下であることがより好ましく、8000以下であることがさらに好ましい。
ポリエステル樹脂の数平均分子量が10000を超えると、形成された画像は、視認性(印字性)が劣ることがある。
【0020】
ポリエステル樹脂の分子量を制御する方法としては、重縮合時において、所定の溶融粘度で重合を終了する方法、一旦分子量の高いポリエステルを製造した後、解重合剤を添加する方法、さらに単官能カルボン酸や単官能アルコールを予め添加する方法などが挙げられる。本発明では、上記のいかなる方法によって分子量を制御してもよいが、3官能以上の成分がポリエステルの末端だけではなく、分子鎖の中に配列していることが好ましい。
なお、解重合剤としてアルコール成分を用いる場合は、ポリエステル末端に水酸基を付与することができ、酸成分を用いる場合は、ポリエステル末端に酸価を付与することができる。このような解重合剤成分としては、エチレングリコール、ブタンジオール、トリメチロールプロパン、イソフタル酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0021】
<ポリエステル樹脂の製造方法>
次に、ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
まず、多価カルボン酸およびグリコールなどのモノマーの組み合わせを適宜選択し、これらを公知の重合法で重合して、ポリエステル樹脂を得ることができる。つまり、原料モノマーを反応缶に投入した後、エステル化反応をおこなった後、公知の方法で所望の分子量に達するまで重縮合させることにより、ポリエステル樹脂を製造することができる。
エステル化反応は、例えば、180℃以上の温度において4時間以上行なわれる。
【0022】
重縮合反応は、一般的には、130Pa以下の減圧下、220~280℃の温度下で、重合触媒を用いて行なわれる。
重合触媒としては、テトラブチルチタネ-トなどのチタン化合物や、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛などの金属の酢酸塩や、三酸化アンチモンや、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物や、2-スルホ安息香酸無水物、o-スルホ安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、ベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸メチル、5-スルホイソフタル酸、これらの塩等の有機スルホン酸系化合物などが挙げられる。
なお、重合触媒の使用量は、少量では反応が遅く、過多では得られるポリエステル樹脂の色調が低下するため、酸成分1モルに対し、0.1~20×10-4モルであることが好ましい。
【0023】
解重合をおこなう場合、反応温度は160~280℃であることが好ましく、160~220℃であることがより好ましく、反応時間は0.5~5時間であることが好ましい。
【0024】
本発明におけるポリエステル樹脂は、必要に応じて、また本発明の効果を損なわない範囲において、リン酸等の熱安定剤、ヒンダードフェノール化合物のような酸化防止剤、タルクやシリカ等の結晶核剤、滑剤、酸化チタン等の顔料、充填剤、帯電防止剤、発泡剤、架橋剤等の従来公知の添加剤を含有していてもよい。また、難燃性を付与するため、臭素系難燃剤、金属水酸化物、三酸化アンチモン等の金属酸化物、リン酸塩、硼酸塩、金属硫化物、アンモニウム塩、有機窒素系難燃剤、ケイ素系難燃剤、リン系難燃剤等を含有していてもよい。
【0025】
<テルペン系樹脂>
本発明の樹脂組成物を構成するテルペン系樹脂としては、テルペン成分の重合体であるテルペン樹脂、テルペン成分と芳香族成分との共重合体である芳香族変性テルペン樹脂、テルペン成分とフェノール成分との共重合体であるテルペンフェノール樹脂、またこれらの樹脂を水素添加処理して得られる水添テルペン樹脂、水添芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペンフェノールなどを使用することができる。
テルペン成分としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、α-テルピネンなどが挙げられる。芳香族成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニルトルエンなどが挙げられる。フェノール成分としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、ビスフェノールA等が挙げられる。
これらのテルペン系樹脂は、例えばヤスハラケミカル社より「YSレジン」、「YSポリスター」の商品名で市販されており、容易に入手することができる。
【0026】
上記テルペン系樹脂の中でも、形成される画像とPPフィルムとの密着性の観点から、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂が好ましく、テルペンフェノール樹脂がより好ましい。
【0027】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、ポリエステル樹脂とテルペン系樹脂とを含有するものであり、質量比(ポリエステル樹脂/テルペン系樹脂)が50/50~95/5であることが必要であり、60/40~93/7であることが好ましく、70/30~90/10であることがより好ましい。ポリエステル樹脂の比率が95質量%を超えると、形成される画像は、PPフィルムに対する密着性が劣るものとなり、50質量%未満では、PETフィルムに対する密着性や、耐アルコール擦過性が劣るものとなる。
【0028】
ポリエステル樹脂とテルペン系樹脂とを混合する方法としては、[1]所定量を一括して有機溶剤に溶解する方法、[2]予めそれぞれの樹脂を有機溶剤で溶解し、溶液同士で混合する方法、[3]それぞれの樹脂を溶融混練した後、得られた樹脂組成物を有機溶剤で溶解する方法等が挙げられ、[1]の方法が、作業性やコストの理由から好ましい。
有機溶剤としては、特に限定はされず、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソなどの芳香族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチルなどのエステル系溶剤、セロソルブアセテート、メトキシアセテートなどのアセテート系溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0029】
本発明の樹脂組成物に、顔料や染料などを添加して、インクを製造することができる。顔料や染料は、要求される色調により特に限定はされず、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アニリンブラック、アゾ系染顔料、フタロシアニン、キナクリドン、アントラキノン、キノフタロン、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄、酸化コバルト、酸化アルミ、酸化亜鉛などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、可塑剤を含有することにより、形成された画像の印字性(視認性)や、PETフィルム、PPフィルムへの密着性を向上させることができる。
可塑剤としては公知のものを使用することができ、フタル酸エステル化合物、アジピン酸エステル化合物、リン酸エステル化合物などが挙げられる。
フタル酸エステル化合物としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジアリル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジ-n-へキシル、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソデシルなどが挙げられる。
アジピン酸エステル化合物としては、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジ-n-ヘキシル、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジメチルグリコール、アジピン酸ジエチルグリコール、アジピン酸ジブチルグリコール、アジピン酸ジブチルジグリコールなどが挙げられる。
リン酸エステル化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ-2-エチルヘキシル、リン酸トリフェニル、リン酸トリブトキシエチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェニル、リン酸-2-エチルヘキシルジフェニルなどが挙げられる。
【0031】
また、本発明の樹脂組成物は、目的に応じて性能をさらに向上させるために、ワックス、シリコーンオイル、その他添加剤などを含有してもよい。
ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、ライスワックス、木ロウ、蜜ロウ、セレシンワックス、ポリエチレンワックス、エステルワックスなどが挙げられる。
シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。
【0032】
<熱転写インクリボン>
本発明の熱転写インクリボンは、本発明の転写インクリボン用樹脂組成物を含有するインク層を含むものである。
本発明の樹脂組成物と、顔料や染料とを含む有機溶媒溶液を、例えば、各種ベースフィルムに対してコーティングし、乾燥させて有機溶媒の除去をおこなうことで、各種ベースフィルム上に本発明の樹脂組成物からなるインク層が形成された熱転写インクリボンを得ることができる。
前記ベースフィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルムなどが挙げられる。
樹脂組成物等を含む有機溶媒溶液をベースフィルムにコーティングする方法としては、特に限定されるものではなく、リバースロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法またはスプレーコート法などの公知の方法を用いることができる。
【実施例0033】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0034】
1.評価方法
(1)ポリエステル樹脂の構成
NMR測定装置(日本電子社製JNM-LA400型)にて、1H-NMR測定を行い、得られたチャートの共重合成分のピークの積分強度から樹脂組成を求めた。なお、測定溶媒として、重水素化トリフルオロ酢酸を用いた。
【0035】
(2)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、DiamondDSC、検出範囲:-50℃~200℃)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中の、低温側ベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度を求め、ガラス転移温度とした。
【0036】
(3)ポリエステル樹脂の数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
[送液ユニット]:島津製作所社製LC-10ADvp
[紫外-可視分光光度計]:島津製作所社製SPD-6AV、検出波長:254nm
[カラム]:Shodex社製KF-803 1本、Shodex社製KF-804 2本を直列に接続して使用
[溶媒]:テトラヒドロフラン
[測定温度]:40℃
【0037】
(4)印字性
実施例、比較例で得られた熱転写インクリボンのインク層形成面とPETフィルム(ユニチカ社製、厚さ50μm)またはOPPフィルム(フタムラ化学社製FOS、厚さ60μm)とを重ね合わせ、小型熱プレス機(林機械製作所社製SG-1300)を用い、温度130℃、圧力0.05MPaの条件下で熱転写を行った。この時、小型プレス機の上面熱板に金属角棒を取り付け、上面熱板のみを130℃に加温し、熱転写インクリボンのインク層非形成面が金属角棒と接するように熱転写を行った。得られた転写画像を、下記の基準で評価した。
〇:PETフィルムとOPPフィルムのいずれにおいても、加熱部分のみ転写
△:PETフィルムとOPPフィルムのいずれにおいても、非加熱部分にもわずかに転写
【0038】
(5)密着性
実施例、比較例で得られた熱転写インクリボンのインク層形成面とPETフィルム(ユニチカ社製、厚さ50μm)またはOPPフィルム(フタムラ化学社製FOS、厚さ60μm)とを重ね合わせ、小型熱プレス機(林機械製作所社製SG-1300)を用い、温度130℃、圧力0.05MPaの条件下で全面転写を行った。この時、小型プレス機の上面熱板のみを130℃に加温し、熱転写インクリボンのインク層非形成面が上面熱板と接するように全面転写を行った。得られた全面転写画像に対して碁盤目剥離試験を行った。具体的には、全面転写画像の表面に、1mm間隔で100個のマス目ができるように碁盤目状の切り込みを入れ、転写画像に粘着テープ(ニチバン社製「エルパックLP-24」)を貼り付け、一気に引き剥がしたときの転写画像の剥離状態を、下記の基準で評価した。
◎:転写画像が100/100残存
〇:転写画像が95/100~99/100残存
△:転写画像が75/100~94/100残存
×:転写画像が75/100未満残存
【0039】
(6)耐アルコール擦過性
(4)で得られた転写画像に、エタノールを含ませた綿棒を用いて、毎秒1往復の速度で50往復した時の転写画像の状態を、下記の基準で評価した。
◎:PETフィルムとOPPフィルムのいずれにおいても、転写画像に剥がれがみられなかった
〇:PETフィルムとOPPフィルムのいずれにおいても、転写画像に僅かな剥がれがみられた
△:PETフィルムとOPPフィルムのいずれにおいても、転写画像に少しの剥がれがみられた
×:PETフィルムとOPPフィルムのいずれにおいても、転写画像がすべて剥がれた
【0040】
(7)耐ブロッキング性
実施例、比較例で得られた熱転写インクリボンのインク層形成面とPETフィルム(ユニチカ社製、厚さ50μm)とを重ね合わせ、2kg/cm2の荷重をかけ40℃で24時間保持した後、PETフィルムを剥がしたときの状態を、下記の基準で評価した。
◎:PETフィルムを剥がす際の抵抗がなく、熱転写インクリボンからPETフィルムにインク層が転写していなかった
〇:PETフィルムを剥がす際に少し抵抗はあるが、熱転写インクリボンからPETフィルムにインク層が転写していなかった
△:PETフィルムを剥がす際に抵抗があり、熱転写インクリボンからPETフィルムにインク層が僅かに転写していた
×:PETフィルムを剥がす際に抵抗があり、熱転写インクリボンからPETフィルムにインク層が広範囲で転写していた
【0041】
2.原料
(1)ポリエステル樹脂の原料として下記のものを使用した。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
ADA:アジピン酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
PG:1,2-プロパンジオール
MPD:2-メチル-1,3-プロパンジオール
【0042】
(2)ポリエステル樹脂の調製
ポリエステル樹脂(A)
テレフタル酸37g(50モル%)、イソフタル酸37g(50モル%)、エチレングリコール21g(77モル%)、ネオペンチルグリコール27g(58モル%)を反応器に仕込み、系内を窒素に置換した。そして、これらの原料を1000rpmで撹拌しながら、反応器を240℃で加熱し、溶融させた。反応器内温度が240℃に到達してから、4時間エステル化反応を進行させた。
続いて、重合触媒としてテトラブチルチタネート0.03gを加え、系内の圧力を徐々に減圧し、1時間後に20Paとした。この条件下でさらに重合反応を続け、4時間後に系内を窒素ガスで常圧にし、系内の温度を下げ、230℃になったところでエチレングリコール3g(10モル%)を添加し、230℃で1時間解重合反応を行い、ポリエステル樹脂(A)を得た。その結果を表1に示す。
【0043】
ポリエステル樹脂(B~J)
使用するモノマーの種類と仕込み量を表1のように変更した以外は、ポリエステル樹脂(A)と同様に、ポリエステル樹脂(B~J)を調製した。
【0044】
【0045】
(3)テルペン系樹脂
T1:テルペンフェノール樹脂(ヤスハラケミカル社製、YSポリスターN125)
T2:芳香族変性テルペン樹脂(ヤスハラケミカル社製、YSレジンTO105)
【0046】
(4)スチレン樹脂
T3:スチレン樹脂(ヤスハラケミカル社製、YSレジンSX100)
【0047】
実施例1
ポリエステル樹脂(A)とテルペン系樹脂(T1)を、質量比(A/T1)が80/20となるように、メチルエチルケトンに溶解し、熱転写インクリボン用樹脂組成物の溶液を作製した。
さらにカーボンブラック(ビルラカーボン社製、Raven 2350 Ultra」)を、質量比((A+T1)/カーボンブラック)が70/30となるように樹脂組成物の溶液に加え、ガラスビーズおよびペイントシェーカー(セイワ技研社製)を用いて2時間分散し、固形分濃度20質量%のインクを作製した。
離型PETフィルム(ユニチカ社製、ユニピールTR1、厚さ38μm)の離型処理面に、卓上型コーティング装置(安田精機社製、フィルムアプリケーターNo.542-AB型、バーコータ装着)を用いて、乾燥後の膜厚が2μmとなるようにインクをコーティングし、熱風乾燥機で100℃、30秒間乾燥し、PETフィルムにインク層が形成された熱転写インクリボンを作製した。
【0048】
実施例2~15、比較例1~4
ポリエステル樹脂の種類、テルペン系樹脂の種類、質量比を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、熱転写インクリボン用樹脂組成物の溶液、インク、熱転写インクリボン作製した。なお、比較例4では、テルペン系樹脂をスチレン樹脂に変更した。
【0049】
樹脂組成物の構成と、熱転写リンクリボンから得られた画像の評価結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
実施例1~15の本発明の樹脂組成物を含むインクは、印字性に優れ、密着性、耐アルコール擦過性、耐ブロッキング性のバランスに優れる画像を転写できるものであった。
【0052】
比較例1のインクは、樹脂組成物がテルペン系樹脂を含有しないため、転写された画像は、極性の低いOPPフィルムに対する密着性が劣るものであった。
比較例2のインクは、樹脂組成物におけるポリエステル樹脂の含有量が50質量%未満であったため、転写された画像は、PETフィルムに対する密着性や耐アルコール擦過性に劣るものであった。
比較例3のインクは、樹脂組成物を構成するポリエステル樹脂のガラス転移温度が35℃未満であったため、転写された画像は、耐アルコール擦過性や耐ブロッキング性に劣るものとなった。
比較例4のインクは、ポリエステル樹脂とともに樹脂組成物を構成する樹脂がスチレン系樹脂であったため、転写された画像は、極性の低いOPPフィルムに対する密着性が劣るものであった。