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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067091
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】スライドドアを備えた車両構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 5/06 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
B60J5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176920
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】久我 亘
(57)【要約】
【課題】ベルトなどの所定の移動部材が、その下方側から上向きに進行してくる水に濡れて寒冷期に凍結することを適切に防止または抑制可能なスライドドアを備えた車両構造を提供する。
【解決手段】スライドドア11用の駆動力付与機構部Bは、スライドドア11に連結され、かつモータMを駆動源として移動するベルトまたはワイヤ状の移動部材6と、移動部材用ガイド7と、を備えており、スライドレール2とリアサイドアウタパネル15との相互間には隙間Cが形成されている、スライドドアを備えた車両構造Aにおいて、リアサイドアウタパネル15のうち、移動部材用ガイド7よりも下方であって、隙間Cに対面する部位または隙間Cよりも上方の部位には、車幅方向外方側に突出して車両前後方向に延びたビード部15aが設けられている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のリアサイドアウタパネルの外面側に取付けられて車両前後方向に延び、かつスライドドアが車両前後方向に移動可能となるように前記スライドドアの支持ガイドを行なうスライドレールと、
前記スライドドアを車両前後方向に移動させるための駆動力を前記スライドドアに付与するスライドドア用の駆動力付与機構部と、
を備えており、
前記駆動力付与機構部は、前記スライドドアに連結され、かつモータを駆動源として移動するベルトまたはワイヤ状の移動部材と、この移動部材の移動ガイドを行なう移動部材用ガイドと、を備えているとともに、これら移動部材および移動部材用ガイドのそれぞれの少なくとも一部は、前記スライドレールの上側に位置しており、
前記スライドレールと前記リアサイドアウタパネルとの相互間には、隙間が形成されている、スライドドアを備えた車両構造において、
前記リアサイドアウタパネルのうち、前記移動部材用ガイドよりも下方であって、前記隙間に対面する部位または前記隙間よりも上方の部位に設けられ、かつ車幅方向外方側に突出して車両前後方向に延びたビード部を、さらに備えている、
ことを特徴とする、スライドドアを備えた車両構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドドアを備えた自動車などの車両構造に関する。
【背景技術】
【0002】
スライドドアを備えた車両構造の一般的な具体例として、特許文献1,2に記載の車両構造がある。
これらの車両構造においては、車両側部に設けられた乗降用の開口部を開閉するためのスライドドアが具備されている。このスライドドアは、いわゆる自動開閉動作が可能であり、そのための手段として、スライドドアの支持ガイドを行なうためのスライドレール(センタスライドレール)の上に、スライドドア用の駆動力付与機構部を設けている。この駆動力付与機構部は、スライドドアを車両前後方向に移動させるための駆動力をスライドドアに付与するための機構部であり、スライドドアに連結部を介して連結され、かつモータを駆動源として移動するベルト(移動部材)と、このベルトの移動ガイドを行なうベルトガイド(移動部材用ガイド)とが組み合わされた構成である。
このような構成によれば、モータの駆動力を利用してベルトを移動させることにより、このベルトの移動に伴わせてスライドドアを車両前後方向に移動させ、スライドドアのいわゆる自動開閉動作が可能である。
【0003】
しかしながら、前記従来技術においては、次に述べるように、改善すべき余地があった。
【0004】
すなわち、前記したスライドドア用の駆動力付与機構部の各部や、その下側に位置するスライドレールは、雨水、雪、洗車用の水などにできる限り濡れないようにし、保護することが望まれる。
そのための対応手段として、スライドレールが取付けられている車両のリアサイドアウタパネルの外面に、駆動力付与機構部やスライドレールの略全域を覆うボディサイドカバーを取付けることが試みられている。ただし、このようなボディサイドカバーは、駆動力付与機構部やスライドレールの上側や外面側を覆うものの、このボディサイドカバーの内側領域の下部は水の進入が可能な開放状態となっているのが実情である。
一方、スライドレールは、車両のリアサイドアウタパネルの外面側に取付けられているものの、これらスライドレールとリアサイドアウタパネルとの相互間には、隙間が形成される場合がある。このため、車両走行時の跳ね水や、洗車用ホースからの噴射水などの水が、前記隙間に対してその下方側から進入して上向きに通過し、駆動力付与機構部のベルトが水に濡れる場合がある。このようなことが寒冷期に発生すると、ベルトの濡れた箇所が凍結し、スライドドアを開閉させることが困難となる虞がある。
これを防止するには、スライドレールなどの下方側からの水の進入を防止するための専用カバーを、さらに追加して設けることが考えられる。ところが、そのような手段によれば、部品点数が増加し、車両重量や製造コストの増加も招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-100081号公報
【特許文献2】特開2019-108740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、スライドドア用の駆
動力付与機構部を構成するベルトなどの移動部材が、スライドレールの下方側から上向きに進行してくる水に濡れ、寒冷期に凍結することを、構成が簡易な手段によって適切に防止または抑制することが可能なスライドドアを備えた車両構造を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0008】
本発明により提供されるスライドドアを備えた車両構造は、車両のリアサイドアウタパネルの外面側に取付けられて車両前後方向に延び、かつスライドドアが車両前後方向に移動可能となるように前記スライドドアの支持ガイドを行なうスライドレールと、前記スライドドアを車両前後方向に移動させるための駆動力を前記スライドドアに付与するスライドドア用の駆動力付与機構部と、を備えており、前記駆動力付与機構部は、前記スライドドアに連結され、かつモータを駆動源として移動するベルトまたはワイヤ状の移動部材と、この移動部材の移動ガイドを行なう移動部材用ガイドと、を備えているとともに、これら移動部材および移動部材用ガイドのそれぞれの少なくとも一部は、前記スライドレールの上側に位置しており、前記スライドレールと前記リアサイドアウタパネルとの相互間には、隙間が形成されている、スライドドアを備えた車両構造において、前記リアサイドアウタパネルのうち、前記移動部材用ガイドよりも下方であって、前記隙間に対面する部位または前記隙間よりも上方の部位に設けられ、かつ車幅方向外方側に突出して車両前後方向に延びたビード部を、さらに備えている、ことを特徴としている。
【0009】
このような構成によれば、たとえば車両走行時の跳ね水や、洗車用ホースからの噴射水などの水が、スライドレールとリアサイドアウタパネルとの相互間の隙間に対して、その下方側から上向きに進入したとしても、この水は前記ビード部に当たる。このため、前記水がそれ以上に上昇することが防止または抑制される作用が得られる。また、前記水の勢いが弱められるにも拘わらず、さらに前記水が上昇しようとする場合には、この水の進行方向を車幅方向外方側に変更させるなどの作用も得られる。このことにより、前記水が駆動力付与機構部の移動部材(たとえばベルト)に到達することは適切に防止または抑制される。その結果、移動部材が水に濡れ、寒冷期において凍結が発生することに起因してスライドドアの開閉が困難になる不具合を、適切に防止することが可能である。
本発明によれば、スライドレールとリアサイドアウタパネルとの相互間の隙間に、水が進入することを防止するための専用カバーを別途設ける必要はない。その一方、前記ビード部は、リアサイドアウタパネルをプレス成形する際に、このリアサイドアウタパネルに一体的に、かつ簡易に形成することが可能である。したがって、部品点数の増加を抑制し、車両重量や製造コストの増加も適切に抑制することができる。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るスライドドアを備えた車両構造の一例を示す要部概略側面図である。
図2図1のスライドドアを省略した状態での要部概略斜視図である。
図3】(a)は、図2のIIIa-IIIa断面図であり、(b)は、(a)の要部拡大断面図である。
図4図2のIV-IV断面図である。
図5図2のV-V断面図である。
図6図2においてボディサイドカバーを取り外した状態の要部概略斜視図である。
図7】(a)は、図6のVIIa-VIIa断面図であり、(b)は、図6のVIIb-VIIb断面図である。
図8図6の要部概略分解斜視図である。
図9図8においてスライドレールや駆動力付与機構部を取り外した状態(リアサイドアウタパネルおよび補強部材)の構成を示す要部概略斜視図である。
図10】(a)は、図2に示したスライドドアを備えた車両構造を車室内側から見た要部側面図(図7(a)の矢視Xの図に相当)であり、(b)は、(a)においてモータユニットを省略した状態の要部側面図であり、(c)は、(a)の要部分解側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1に示すスライドドアを備えた車両構造A(以下、「車両構造A」と適宜略称する)においては、車両1の側部に設けられた乗降用の開口部10を開閉すべく車両前後方向に往復移動可能とされたスライドドア11が具備されている。このスライドドア11の前部の上端部近傍ならびに下端部近傍、および後部の上下高さ方向中間部には、アッパローラ12a、ロアローラ12b、およびセンタローラとしての第1および第2のローラ51,52(詳細は図3図5を参照して後述する)が取付けられている。これらは、車体に設けられて車両前後方向に延びるアッパ、ロア、およびセンタのスライドレール14a,14b,2に支持されてこれらに沿って移動可能である。センタのスライドレール2は、本発明(請求項1)でいうスライドレールの具体例に相当し、他のスライドレール14a,14bは、それには該当しない。
【0014】
図2図8によく表われているように、車両構造Aは、スライドドア11を車両前後方向に移動可能とする手段として、前記したセンタのスライドレール2に加え、スライドドア用の駆動力付与機構部Bを備えている。また、これらに付属し、もしくは対応する部材・部分として、ボディサイドカバー3、補強部材4、およびビード部15aを備えている。これらの詳細を以下に説明する。
【0015】
スライドレール2は、車両1のリアサイドアウタパネル15の外面部に取付けられ、車両前後方向に延びている。ただし、図8によく表われているように、このスライドレール2の前部寄り領域は、乗降用の開口部10の後側縁部10aの曲面に沿った湾曲状である。図3および図4によく表われているように、スライドレール2は、底壁部20、側壁部21、および上側Π状部22を有し、かつ車幅方向外方側が開口した断面形状である。これに対し、スライドドア11に取付けられた屈曲状のアーム50には、スライドレール2内に嵌められた第1および第2のローラ51,52が取付けられている。第1のローラ51は、底壁部20上を転動可能(図3(b)の水平軸線La周りに回転可能)であり、スライドドア11の重量は第1のローラ51を介してスライドレール2によって受けられる。第2のローラ52は、上側Π状部22内を転動可能(図3(b)の鉛直軸線Lb周りに回転可能)であり、この第2のローラ52の存在によりスライドドア11の倒れは阻止される。
【0016】
スライドレール2のリアサイドアウタパネル15への取付けは、図4に示すように、ボルト・ナット9a,9bを利用したものであるが、リアサイドアウタパネル15には、ボルト・ナット9a,9bの締結箇所をスライドレール2側に部分的に膨出させた膨出部15bが形成されている。リアサイドアウタパネル15とスライドレール2との相互間には、隙間Cが形成されている。この隙間Cは、リアサイドアウタパネル15とスライドレール2との相互間の部分のうち、膨出部15bが形成されてボルト・ナット9a,9bの締結が図られた箇所では塞がっているものの、それ以外の部分では塞がっていない(図3
図5図7なども参照)。この隙間Cには、図3および図5の矢印N1で示すように、その下方側からたとえば車両走行時の跳ね水や、洗車用ホースからの噴射水などの水が進入する虞がある。
【0017】
なお、リアサイドアウタパネル15の内面部(車室内側)には、金属板製の補強部材4が重ねられて接合されている。この接合は、たとえばスポット溶接などの溶接である。スライドレール2の前記したボルト・ナット9a,9bの締結箇所には、補強部材4が重ねられており、スライドレール2の取付け箇所の強度が高められている。
補強部材4は、図9によく表われているように、リアサイドアウタパネル15に設けられた後述の開口部16に対応する開口部40が形成されたものであり、開口部16の周囲に対向配置される主領域41と、この主領域41の後方側に繋り、かつ車両前後方向に延びる延設領域42とを有している。これらのうち、延設領域42が、スライドレール2に対向配置され、前記したボルト・ナット9a,9bに対応したボルト挿通用の孔部43を有している。
【0018】
ボディサイドカバー3は、スライドレール2およびその上側に位置するスライドドア用の駆動力付与機構部Bの略全域を覆い、これらの保護および車両1の見栄え向上を図るのに役立つ。このボディサイドカバー3は、それらの内面部側に複数の係止用突起部30を先端部に有するブラケット脚部31(図3図5を参照)を有している。係止用突起部30をリアサイドアウタパネル15に設けられている複数の孔部15eに挿入・係止させることにより、リアサイドアウタパネル15へのボディサイドカバー3の取付けが図られている。
【0019】
図2図8において、スライドドア用の駆動力付与機構部Bは、スライドドア11をスライドレール2に沿わせて車両前後方向に移動させるための駆動力を、スライドドア11に付与する機構部である。この駆動力付与機構部Bは、ベルト6、ベルトガイド7、ベルトカバー68、および図10に示すモータMを含むモータユニット8を備えている。
これらのうち、ベルト6、ベルトガイド7は、本発明(請求項1)中の「移動部材」、「移動部材用ガイド」の具体例にそれぞれ相当する。
【0020】
ベルト6は、たとえば無端状のタイミングベルトである。
ベルトガイド7は、ベルト6を一定の軌跡で移動ガイドするためのものであり、図7によく表われているように、車両前後方向に延びるベルトガイド本体部70の上面部に、前側および後側のプーリ71a,71b、ならびに複数の中間プーリ71cが設けられた構成である。ベルト6は、前側および後側のプーリ71a,71b間に掛け廻され、それらの相互間において正逆両方向に循環移動可能である。
【0021】
ベルトガイド7は、リアサイドアウタパネル15の外面側であって、スライドレール2の上側に配され、固定されている。この固定手段としては、たとえばベルトガイド7の前後両端部に設けられたブラケット部76a,76bを、スライドレール2の前後両端部に設けられている他のブラケット部26a,26bにボルト締結手段するなどの手段が採用されている。また、ベルトガイド7の前後方向途中箇所には、上向き起立状のブラケット部76cが設けられ、このブラケット部76cが、リアサイドアウタパネル15および補強部材4に対し、ボルト9cおよびネジ孔部9dを利用して取付けられている。
【0022】
ベルトガイド7は、基本的には、既述したようにリアサイドアウタパネル15の外面側に取付けられているが、このベルトガイド7には、リアサイドアウタパネル15よりも車幅方向内方側(車室内側)に位置する補助領域72が設けられている(図7参照)。この補助領域72は、ベルトガイド7の他の部分から車幅方向内方側に部分的に突出し、リアサイドアウタパネル15の開口部16を車室内側に通過する領域である。この補助領域7
2の内部には、ベルト6の一部が進入しており、またベルト駆動用のプーリ71dが取付けられている。このプーリ71dが、図10で示すモータユニット8を利用して駆動回転されることにより、ベルト6は所定の経路で循環移動する。
【0023】
ベルト6には、このベルト6の移動に伴って車両前後方向に移動可能な連結部材67が取付けられており、かつこの連結部材67は、スライドドア11のアーム50にボルト締結手段などを介して連結されている。このため、ベルト6がモータユニット8を利用して移動されると、スライドドア11が車両前後方向に移動することとなる。
【0024】
モータユニット8は、モータM、このモータMによって適当な回転数で回転される回転駆動軸80、およびモータMやその付属品を一纏めに保持するユニットケース81を備えている。図10(c)によく表われているように、ユニットケース81は、たとえばボルト9eを利用して補強部材4の溶接ナット9fに螺合されるとともに、別のボルト9gを利用してベルトガイド7の補助領域72のネジ部9hに螺合され、補強部材4およびベルトガイド7の両者に取付けられる。モータユニット8の回転駆動軸80は、ベルト駆動用のプーリ71dに駆動連結される。
【0025】
図3および図4によく表われているように、ベルトガイド本体部70は、上壁部70a、起立壁部70b、補助壁部70c、および下壁部70dを備えている。上壁部70aは、車両前後方向に延びた略水平な帯板状である。起立壁部70bは、ベルト6の2つの並行部分の相互間に位置して上下高さ方向に起立する壁部であり、上壁部70aの下方に連続または断続的に設けられている。補助壁部70cは、ベルト6の上昇を阻止する役割を果たす。下壁部70dは、起立壁部70bの下端から車幅方向内方側に屈曲するように設けられた部位であり、車両前後方向に延びて一連に設けられている。この下壁部70dは、後述するように、ベルト6の水濡れを抑制する役割を果たす部位である。この下壁部70dは、たとえばベルトガイド7の略全長域にわたって連続的に設けられているが、これに代えて、たとえば後述するビード部15aに対応した箇所、すなわち開口部16よりも車両後方側の領域のみに設けられた構成とすることもできる。
【0026】
ベルトカバー68(移動部材用カバー)は、駆動力付与機構部Bのうち、ベルトガイド7およびベルト6の上側を覆う部材であり、たとえば樹脂製である。このベルトカバー68は、ベルトガイド7に固定して取付けられている。そのための手段として、図5によく表われているように、ベルトガイド7の上壁部70a上には、たとえば断面横向きL字状または断面コ字状の複数の追加上壁部70a’が車両前後方向に適当な間隔で設けられている。ベルトカバー68は、そのような複数の追加上壁部70a’に載せられる上向き凸状部68aを有しており、この上向き凸状部68aが、ピン状の係止クリップ90を利用して追加上壁部70a’に固定されている。
【0027】
ビード部15aは、リアサイドアウタパネル15にプレス加工を施すなどして形成された部位であって、リアサイドアウタパネル15の他の部位よりも車幅方向外方側に部分的に突出し、車両前後方向に延びている(図8図9も参照)。また、このビード部15aは、開口部16よりも車両後方側の位置に設けられており、開口部16の近傍部分、およびそれよりも車両前方側の位置には設けられていない。このことの意義については後述する。
【0028】
ビード部15aは、図3図5によく表われているように、ベルトガイド7よりも下方であって、スライドレール2とリアサイドアウタパネル15との相互間の隙間Cに対面する部位(隙間Cと同等高さの部位)、または隙間Cよりも上方の部位(ベルトガイド7とスライドレール2との相互間の高さの部位)に設けられている。好ましくは、ビード部15aは、隙間Cの最小幅s1の部分よりも車幅方向外方側に突出するサイズとされている
。これは、後述するようにビード部15aに対してその下方から上向きに水が進行してきた場合に、この水をより効果的に遮る作用を生じさせる。
【0029】
次に、前記した車両構造Aの作用について説明する。
【0030】
まず、スライドレール2や駆動力付与機構部Bは、ボディサイドカバー3によって覆われているため、これらに雨水などが直接掛かることは適切に防止され、それらの保護が図られる。ただし、ボディサイドカバー3の上部とリアサイドアウタパネル15との相互間には、微小な隙間が発生し得るため、この部分から図3(a)の矢印N2に示すように、雨水などが進入する虞がある。これに対し、駆動力付与機構部Bのベルト6やベルトガイド7の上側は、ベルトカバー68によって覆われているため、それらの部分が前記雨水などに濡れることもない。
【0031】
一方、スライドドア11のアーム50については、ボディサイドカバー3の下側を通す必要があるため、ボディサイドカバー3の下部の内側領域は開放領域とされる。このため、図3図5の矢印N1に示すように、たとえば車両走行時の跳ね水や、洗車用ホースからの噴射水などの水が、前記した開放領域から隙間C内に上向きに進入する虞がある。ただし、この水はビード部15aに当たる。このため、前記水は、それ以上の高さに上昇することが防止または抑制され、また水の勢いが弱められているにも拘わらず、さらに上向きに進行しようとする水については、その進行方向を車幅方向外方側に変更する作用が得られる。その結果、前記水がベルト6に掛かることは適切に抑制される。また、ベルトカバー68の下壁部70dは、ベルト6の下方をカバーしており、隙間Cを上向きに通過した水がベルト6に掛かることをより効果的に抑制する。
このようなことから、ベルト6が水に濡れ、寒冷期においてその箇所が凍結を生じることに起因してスライドドア11の開閉が困難になる不具合は、適切に防止される。
【0032】
ビード部15aは、図8図9を参照して既述したように、開口部16よりも車両後方側のみに設けられているが、これは、ビード部15aの長さを無駄に長くしないようにして、ビード部15aの形成を容易にしつつ、ベルト6の水濡れ防止を効果的に図る上で好ましい。本実施形態においては、開口部16の付近、およびそれよりも車両前方側には、ビード部15aが設けられていないがとくに不具合はない。なぜなら、開口部16の付近においては、ベルト6がベルトガイド7の補助領域72内に収容され、外部に露出した構成にはないため、この部分においてベルト6が水に濡れる可能性は低いからである。また、車両走行時や洗車時などにおいてはスライドドア11が閉められ、開口部16よりも車両前方側にスライドドア11が位置するため、ベルト6の前部側はスライドドア11に隠れ、水に濡れ難いからである。
【0033】
本発明によれば、ベルト6の水濡れ防止手段の1つとして、ビード部15aを設けており、その形成は容易である。また、隙間Cの下方から進行してくる水の上昇を阻止するための専用カバーを設ける必要はなく、部品点数の増加を抑制することが可能である。したがって、車両重量や製造コストの増加も適切に抑制することができる。
【0034】
その他、本実施形態によれば、スライドレール2、ベルトガイド7、モータユニット8の取付け箇所が、補強部材4を利用して効率よく補強されており、各部の歪み、これに起因する各部材間の相対的位置関係のズレなどが生じ難くなっている。このため、スライドドア11の開閉動作の円滑性、安定性、および信頼性を高めることが可能である。
【0035】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係るスライドドアを備えた車両構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0036】
上述の実施形態においては、本発明(請求項1)における移動部材および移動部材用ガイドが、ベルトおよびベルトガイドとされているが、これに限定されない。ベルトは、タイミングベルトに限らず、他の種類のベルト、たとえばチェーンベルトなどであってもよい。また、移動部材は、ベルトに代えて、ワイヤ状のもの(ワイヤそのもの、あるいはワイヤに類するもの)であってもよい。移動部材用ガイドは、移動部材の種類に応じてその構成を適宜変更可能である。
【0037】
ビード部は、上述した実施形態の図面においては、断面半円状の凸状に示されているが、その具体的な形状は限定されない。また、具体的な突出寸法も限定されないことは勿論のこと、車両前後方向の具体的な長さなども限定されない。上述の実施形態においては、ビード部が所定の開口部(開口部16)よりも車両後方側の位置に設けられているが、これに加えて、開口部の車両前方側などにも設けた構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0038】
A スライドドアを備えた車両構造
B スライドドア用の駆動力付与機構部
C 隙間
M モータ
11 スライドドア
15 リアサイドアウタパネル
15a ビード部
2 スライドレール
6 ベルト(移動部材)
7 ベルトガイド(移動部材用ガイド)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10