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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067093
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/511 20060101AFI20240510BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C23C16/511
H05H1/46 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176925
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100143960
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 早百合
(72)【発明者】
【氏名】田中 一平
(72)【発明者】
【氏名】吉本 悠里
(72)【発明者】
【氏名】篠田 健太郎
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA05
2G084BB02
2G084BB05
2G084BB07
2G084BB12
2G084BB14
2G084BB27
2G084CC04
2G084CC06
2G084CC08
2G084CC16
2G084CC33
2G084DD24
2G084DD38
2G084DD40
2G084DD42
2G084DD44
2G084DD51
2G084DD56
2G084DD62
2G084EE01
2G084FF23
2G084HH05
2G084HH06
2G084HH09
2G084HH22
2G084HH28
2G084HH30
2G084HH32
2G084HH35
2G084HH36
2G084HH45
2G084HH52
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA28
4K030FA02
4K030JA01
4K030KA05
4K030KA16
4K030KA18
(57)【要約】
【課題】被加工材料の処理表面に対する成膜処理を従来よりも高速に行い、且つ、従来よりも広範囲に均一で高品質な皮膜を形成できる成膜装置を提供すること。
【解決手段】成膜装置1は処理容器2、ガス供給部5、導入部材22、マイクロ波供給部9、電圧印加部20、接続部材、シース拡大電極30、絶縁部材24、及び漏洩抑制部材4を備える。シース拡大電極30は、導入部材22の周囲に配置される。電圧印加部20は被加工材料8の処理表面10に沿うシース層を拡大させる正のバイアス電圧をシース拡大電極30へ印加する。絶縁部材24は、シース拡大電極30と処理容器2との間に配置され、シース拡大電極30と処理容器2とを電気的に絶縁する。漏洩抑制部材4は被加工材料8とは電気的に絶縁した位置に配置され、絶縁部材24と当接する当接面と、当接面から絶縁部材24から離れる側に延びる絶縁部を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する被加工材料を収容する処理容器と、
前記処理容器にガスを供給するガス供給部と、
前記被加工材料の周囲に設け、且つマイクロ波を導入する導入部材と、
前記被加工材料の処理表面に沿ってプラズマを発生させるための前記マイクロ波を前記導入部材から前記被加工材料へ供給するマイクロ波供給部と、
前記導入部材の周囲に配置されたシース拡大電極と、
前記被加工材料の前記処理表面に沿うシース層を拡大させる正のバイアス電圧を前記シース拡大電極へ印加する電圧印加部と、
前記被加工材料を前記電圧印加部の接地電位と同電位に電気的に接続する接地部材と、
前記シース拡大電極と前記処理容器との間に配置され、前記シース拡大電極と前記処理容器とを電気的に絶縁する絶縁部材と、
前記被加工材料とは電気的に絶縁した位置に配置され、前記絶縁部材と当接する当接面と、前記当接面から前記絶縁部材から離れる側に延びる絶縁部とを有する漏洩抑制部材と
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記絶縁部は、前記当接面において、前記被加工材料を囲む環状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記絶縁部の前記当接面に垂直な方向における第一長さは、前記マイクロ波の波長又は前記マイクロ波の波長の偶数倍の長さの1/4である第二長さの±1mmの範囲の長さであることを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記漏洩抑制部材の前記当接面の外径の1/2が30mm以上、且つ前記処理容器から離隔して配置される長さであることを特徴とする請求項2又は3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記絶縁部は、前記当接面から前記絶縁部材から離れる側に延びる凹部であり、
前記漏洩抑制部材には、前記絶縁部と、前記処理容器内の空間とを連通する貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記漏洩抑制部材の前記当接面には、外径が互いに異なる複数の前記絶縁部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記絶縁部材の外径は、前記漏洩抑制部材の前記当接面の外径よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MVP法(Microwave sheath-Voltage combination Plasma法、高密度励起プラズマ法)を用い、被加工材料の処理表面に皮膜を形成する成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材等の導電性を有する被加工材料の処理表面に膜を形成する装置が知られている。例えば特許文献1に記載の成膜装置は、マイクロ波供給部、負電圧印加部、負電圧印加端子部材、及び補助電極を備える。マイクロ波供給部は、導電性を有する被加工材料の処理表面に沿ってプラズマを生成させる。負電圧印加部は、被加工材料の処理表面に沿うシース層を拡大させる負のバイアス電圧を被加工材料に印加する。マイクロ波供給口は、マイクロ波供給部から供給されるマイクロ波を拡大されたシース層へ伝搬させる。負電圧印加端子部材は、マイクロ波供給口に対して突出して配置された被加工材料に、負電圧印加部によって印加される負のバイアス電圧を印加させる。補助電極は、マイクロ波供給口側と反対側に形成されるシース層の厚みを拡大させる。補助電極は、GNDに接続され、又は正電圧印加部から供給される正の電圧が印加され、且つ突出して配置された被加工材料の外側の周囲に配置される。成膜装置は、マイクロ波供給口側とは反対側のシース層の厚みを拡大させてプラズマの密度の減衰を低減し、成膜速度の低下を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-69685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の成膜装置は、被加工材料に負のバイアス電圧が印加されているため、ダイヤモンド等の導電性が比較的低い材料の皮膜を形成すると、成膜装置内に異常放電(所謂アーキング現象)が発生し、良好な品質の皮膜を形成できない。
【0005】
本発明の目的は、被加工材料の処理表面に対する成膜処理を従来よりも高速に行い、且つ、従来よりも広範囲に均一で高品質な皮膜を形成できる成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1の成膜装置は導電性を有する被加工材料を収容する処理容器と、前記処理容器にガスを供給するガス供給部と、前記被加工材料の周囲に設け、且つマイクロ波を導入する導入部材と、前記被加工材料の処理表面に沿ってプラズマを発生させるための前記マイクロ波を前記導入部材から前記被加工材料へ供給するマイクロ波供給部と、前記導入部材の周囲に配置されたシース拡大電極と、前記被加工材料の前記処理表面に沿うシース層を拡大させる正のバイアス電圧を前記シース拡大電極へ印加する電圧印加部と、前記被加工材料を前記電圧印加部の接地電位と同電位に電気的に接続する接地部材と、前記シース拡大電極と前記処理容器との間に配置され、前記シース拡大電極と前記処理容器とを電気的に絶縁する絶縁部材と、前記被加工材料とは電気的に絶縁した位置に配置され、前記絶縁部材と当接する当接面と、前記当接面から前記絶縁部材から離れる側に延びる絶縁部とを有する漏洩抑制部材とを備える。成膜装置は、マイクロ波供給部がマイクロ波を供給し、電圧印加部によりバイアス電圧を印加することで、被加工材料表面にマイクロ波の伝搬をさせ、被加工材料近傍に高密度プラズマの生成する、公知のMVP法(Microwave sheath-Voltage combination Plasma法、高密度励起プラズマ法)を用いた成膜処理を実施できる。成膜装置は、接地部材により被加工材料の電位を接地電位とすることで、アーキング現象の発生を抑制し、高品質な皮膜を形成できる。成膜装置は、漏洩抑制部材を備えるので、絶縁部材の端面から処理容器内にマイクロ波が漏洩することを低減できる。故に成膜装置は、マイクロ波の漏洩に起因して、意図しない部分でプラズマ放電が生じたり、絶縁部材が損傷することでシース拡大電極と処理容器との絶縁を保てなくなる事態が生じたりすることを抑制できる。成膜装置は、シース拡大電極に正のバイアス電圧を印加することで、被加工材料の処理表面に形成されるシース層の厚みを拡大させ、処理表面に均一な皮膜を形成できる。
【0007】
本発明の請求項2の成膜装置の前記絶縁部は、前記当接面において、前記被加工材料を囲む環状に形成されている。請求項2の成膜装置は、絶縁部が加工材料を囲む環状に形成されていない場合に比べ、被加工材料周りの周方向に亘って、絶縁部材の端面から処理容器内にマイクロ波が漏洩することを低減できる。
【0008】
本発明の請求項3の成膜装置の前記絶縁部の前記当接面に垂直な方向における第一長さは、前記マイクロ波の波長又は前記マイクロ波の波長の偶数倍の長さの1/4である第二長さの±1mmの範囲の長さである。請求項3の成膜装置では、絶縁部材から絶縁部に伝搬されて後に跳ね返るマイクロ波の位相は、絶縁部材中を伝搬するマイクロ波の位相の逆付近となる。故に成膜装置は、絶縁部材中を伝搬するマイクロ波を、絶縁部材から絶縁部に伝搬されて後に跳ね返るマイクロ波により打ち消すことで、絶縁部材の端面から処理容器内にマイクロ波が漏洩することを低減できる。
【0009】
本発明の請求項4の成膜装置の前記漏洩抑制部材の前記当接面の外径の1/2が30mm以上、且つ前記処理容器から離隔して配置される長さである。請求項4の成膜装置は、漏洩抑制部材の当接面の外径の1/2が30mm未満である場合に比べ、絶縁部材の端面から処理容器内にマイクロ波が漏洩することを低減できる。
【0010】
本発明の請求項5の成膜装置の前記絶縁部は、前記当接面から前記絶縁部材から離れる側に延びる凹部であり、前記漏洩抑制部材には、前記絶縁部と、前記処理容器内の空間とを連通する貫通孔が形成されている。請求項5の成膜装置は、成膜処理を行う時、大気等の意図しないガスが絶縁部に残ることを抑制し、処理容器内の排気時間を短縮できる。
【0011】
本発明の請求項6の成膜装置の前記漏洩抑制部材の前記当接面には、外径が互いに異なる複数の前記絶縁部が形成されている。請求項6の成膜装置は、漏洩抑制部材の当接面に被加工材料の周りを囲む一重の絶縁部が形成されている場合に比べ、絶縁部材の端面から処理容器内にマイクロ波が漏洩することを抑制できる。
【0012】
本発明の請求項7の成膜装置の前記絶縁部材の外径は、前記漏洩抑制部材の前記当接面の外径よりも大きい。請求項7の成膜装置は、絶縁部材の外径が漏洩抑制部材の当接面の外径以下である場合に比べ、絶縁部材の端面から処理容器内にマイクロ波が漏洩することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】成膜装置1の概略構成を示す図である。
図2】導入部材22、被加工材料8、シース拡大電極30の配置を示す図である。
図3】漏洩抑制部材4の斜視図である。
図4】漏洩抑制部材4の斜視図である。
図5】漏洩抑制部材4の断面図である。
図6】評価試験条件を示す表である。
図7】評価試験条件と結果とを示す表である。
図8】成膜装置1における電界強度(V/m)と絶縁部42の第一長さD2(mm)との関係を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図9】成膜装置1における電界強度(V/m)と絶縁部42の幅D1(mm)との関係を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図10】成膜装置1における電界強度(V/m)と漏洩抑制部材4の当接面41の外径D4の1/2(mm)との関係を示すシミュレーション結果を示すグラフである。
図11】変形例の漏洩抑制部材54の斜視図である。
図12】変形例の導入部材22、被加工材料8、シース拡大電極130の配置を示す図である。
【0014】
図面を参照し本発明の一実施形態の成膜装置1を説明する。以下説明は、図中に矢印で示す左右、前後、及び上下を使用する。成膜装置1は、特開2004-47207号公報に開示されたMVP法を用い、被加工材料8の処理表面10に皮膜を形成可能な装置である。本実施形態の被加工材料8は、棒状であり、例えば、穴加工用ドリルである。被加工材料8の材質は、皮膜が形成される領域である処理表面10が導電性を有していれば、特に限定されるものではなく、例えば、超硬K10である。超硬K10は、JIS B 4053:2013に記載される分類に基づく超硬合金である。被加工材料8は、セラミクス、又は樹脂に導電性の材料がコーティングされたものでもよいし、表面にスパッタリング法等により金属膜が成膜されたものでもよい。処理表面10は、被加工材料8の表面のうちの皮膜を形成する対象とする領域である。処理表面10は、被加工材料8の用途に応じて設定される。例えば、被加工材料8がドリルであれば、処理表面10にはドリルの溝部が設定される。例えば、被加工材料8がエンドミルであれば、処理表面10にはエンドミルの刃部が設定される。
【0015】
図1及び図2の如く、成膜装置1は、処理容器2、導入部材22、カバー23、シース拡大電極30、絶縁部材24、漏洩抑制部材4、DC電源15、正電圧パルス発生部16、真空ポンプ3、圧力調整バルブ7、リーク弁33、ガス供給部5、放射温度計29、制御部6、及びマイクロ波供給部9を備える。
【0016】
処理容器2は、ステンレス等の金属製であり、気密構造の容器である。処理容器2は、接地電位(GND)に電気的に接続される。処理容器2は、導入部材22、カバー23、シース拡大電極30、絶縁部材24、漏洩抑制部材4を収容する。導入部材22は、処理容器2の底面の中央部に設けられる。
【0017】
導入部材22は、石英等のマイクロ波を透過する誘電体等の部材で形成され、マイクロ波供給部9が発振したマイクロ波を処理容器2内に供給する。導入部材22は、処理容器2内へ向けて突出する突出部221と、突出部221を支持する基部222とを有する。突出部221は、突出部221の上面である導入面224から下方に凹む凹部223が形成されている。凹部223は、マイクロ波の導入方向J、即ち上方に沿う向きに長い。凹部223の外周は、被加工材料8の外周よりもやや大きい。被加工材料8の下端部が凹部223に挿入されると、被加工材料8の下端部は、突出部221によって周囲が覆われる。導入方向Jに沿った方向、即ち上下方向おける被加工材料8の延設範囲は、突出部221の延設範囲と一部が重なる。これにより被加工材料8は、導入部材22によって支持される。被加工材料8は、被加工材料8の長手方向が、マイクロ波の導入方向Jと一致する姿勢で処理容器2の内側に配置される。成膜装置1は、凹部223内に被加工材料8を支持する治具を設けてもよい。被加工材料8の上端には、電極14が接続される。被加工材料8の上端は、マイクロ波の導入方向Jの端部であり、被加工材料8の内の導入部材22から最も離れた部分である。電極14は接地電位(GND)と電気的に接続される。即ち、被加工材料8の電位は、処理容器2と同電位の接地電位である。電極14は、被加工材料8の上端よりも下方で被加工材料8と接続されてもよい。
【0018】
カバー23は、金属製であり、処理容器2と電気的に接続されている。カバー23は、処理容器2と一体であって処理容器2がカバー23の役割を果たしていてもよい。カバー23は、マイクロ波の導入方向J以外の方向において基部222の外周表面を覆うことで、マイクロ波が被加工材料8の径方向に伝播することを防ぐ。被加工材料8の径方向とは、被加工材料8の軸線Kから離れる方向に放射状に延びる方向である。軸線Kは上下方向に延びる。カバー23は、導入部材22を透過したマイクロ波パルスの伝播方向を上方向に限定する。
【0019】
シース拡大電極30は、導入部材22の突出部221の周囲を囲って、導入部材22の周囲に配置される筒状の電極である。シース拡大電極30は、金属材料から形成され、ガスは透過しない。シース拡大電極30は、正電圧パルス発生部16と電気的に接続し、正のバイアス電圧パルスが印加される。シース拡大電極30の上下方向の長さは、シース拡大電極30が処理容器2内に収まる範囲であればよく、シース拡大電極30の上下方向の長さは5(mm)以上が好ましい。シース拡大電極30の上下方向の長さが5(mm)未満の場合、プラズマがシース拡大電極30を乗り越えて、導入面224よりも下方で皮膜が形成される可能性がある。シース拡大電極30の上端31の位置が、処理表面10の導入部材22側における下端と同じ位置になることを考慮して、シース拡大電極30の上下方向の長さD6が設定される。本実施形態のシース拡大電極30の上端31は、導入部材22の突出部221の導入面224よりも上下方向で上側に配置される。これにより導入面224はシース拡大電極30と被加工材料8に囲まれるため原料ガスが到達しにくくなり、成膜工程における導入面224の汚れ付着を防止できる。シース拡大電極30の下端部は、基部222を覆うカバー23よりも上に位置する。
【0020】
絶縁部材24は、カバー23とシース拡大電極30の下端部との間に設けられる。絶縁部材24は、突出部221の周囲を囲い、且つマイクロ波パルスの導入方向Jに厚みを有する円板状である。絶縁部材24は、シース拡大電極30とカバー23及び処理容器2とを電気的に絶縁する。絶縁部材24の厚みは、マイクロ波パルスの波長の1/4以下であり、電力の印加によって絶縁破壊が起きない厚さであり、実施例では厚さ0.125(mm)である。この構成により、導入部材22を透過するマイクロ波パルスがカバー23とシース拡大電極30との間にある絶縁部材24を透過して、導入方向Jとは異なる方向に処理容器2内へ漏れ出すことが抑制される。なお、実施例において絶縁部材24はポリイミドを用いたが、これに限るものではない。
【0021】
漏洩抑制部材4は、被加工材料8とは電気的に絶縁された位置に配置される。漏洩抑制部材4は、上下方向に延び且つ中央部に空洞47を有する筒状である。漏洩抑制部材4は、空洞47に被加工材料8及びシース拡大電極30を配置する。漏洩抑制部材4とシース拡大電極30は電気的に同電位となるよう配置されていてもよい。被加工材料8の下端部の外周は、導入部材22及び漏洩抑制部材4によって囲まれる。漏洩抑制部材4は、少なくとも他の部材に対し露出する表面が、ステンレス等の導電性を有する材料で形成される。本実施形態の漏洩抑制部材4は、全体がステンレスで形成される。漏洩抑制部材4は、内側鍔部45、外側鍔部46、絶縁部材24と当接する当接面41と、内周面44とを有する。内側鍔部45は、漏洩抑制部材4の下端部において、軸線K側に向かって突出する。外側鍔部46は、漏洩抑制部材4の下端部において、軸線Kから離れる側、即ち径方向に突出する。本実施形態の当接面41は、漏洩抑制部材4の下面である。当接面41には、絶縁部材24から離れる側、即ち上側に凹んだ凹部である絶縁部42が形成される。絶縁部42は当接面41において、被加工材料8を囲む環状に形成されており、絶縁部42の表面は導電性を有する。
【0022】
当接面41に垂直な方向における絶縁部42の第一長さD2は、第二長さの±1(mm)の範囲の長さである。第一長さD2は、絶縁部42の上下方向の長さである。第二長さは、導入部材22から処理容器2内に導入されるマイクロ波の波長、又はマイクロ波の波長の偶数倍の長さの1/4である。例えば、マイクロ波の周波数が2.45(GHz)である場合、マイクロ波の波長は約122(mm)である。この場合、第一長さD2は、例えば、マイクロ波の波長の1/4である30.5(mm)の±1(mm)の範囲、即ち、29.5(mm)から31.5(mm)の範囲であることが好ましい。この場合絶縁部42は、マイクロ波が絶縁部材24から処理容器2の内部の空間に漏洩することを防止するチョーク構造として機能する。
【0023】
当接面41において、被加工材料8の径方向における、絶縁部42の幅D1は、マイクロ波の波長の7/60以下の範囲内にあることが好ましい。例えば、マイクロ波の周波数が2.45(GHz)である場合、絶縁部42の幅D1は、14(mm)以下であることが好ましい。
【0024】
絶縁部材24の外径D5は、漏洩抑制部材4の当接面41の外径D4よりも大きい。当接面41の全面は絶縁部材24と当接する。当接面41の外側輪郭は、平面視円状である。当接面41の外径D4は、マイクロ波の波長の1/2以上であることが好ましい。例えば、マイクロ波の周波数が2.45(GHz)である場合、当接面41の外径D4の1/2、即ち当接面41の外側輪郭の半径は、30(mm)以上、且つ、処理容器2から離隔して配置される長さであることが好ましい。当接面41の平面形状が円形以外の場合、当接面41の外周において最も被加工材料8に近い位置と被加工材料8の中心との距離が30(mm)以上であることが好ましい。平面視円状の当接面41の外側輪郭の中心が、被加工材料8の中心と異なる場合も、当接面41の外周において最も被加工材料8に近い位置と被加工材料8の中心との距離が30(mm)以上であることが好ましい。
【0025】
内周面44は、漏洩抑制部材4の内側鍔部45の内周面である。内周面44は、シース拡大電極30と当接する。漏洩抑制部材4には、絶縁部42と、処理容器2内の空間とを連通する貫通孔43が形成されている。貫通孔43は、漏洩抑制部材4の上面に、平面視円状に形成される。貫通孔43は、絶縁部42の上端から上方に延びる。
【0026】
電圧印加部20は、被加工材料8の処理表面10に沿うシース層を拡大させる正のバイアス電圧をシース拡大電極30へ印加する。シース拡大電極30と漏洩抑制部材4が電気的に同電位となるよう配置されている場合は、漏洩抑制部材4へ正のバイアス電圧を印加してもよい。電圧印加部20はDC電源15及び正電圧パルス発生部16を備える。DC電源15は、制御部6の指示に従い、正電圧パルス発生部16に正のバイアス電圧を供給する。DC電源15の負極は、接地電位(GND)に電気的に接続されている。正電圧パルス発生部16は、DC電源15から供給された正のバイアス電圧をパルス化する。このパルス化の処理は、正電圧パルス発生部16が制御部6の指示に従い、正のバイアス電圧パルスの大きさ、周期、及びデューティ比を制御する処理である。正正のバイアス電圧は、例えば、+300~+390(V)の範囲のバイアス電圧である。成膜装置1の電圧印加部20は、正電圧パルス発生部16を備えず、DC電源15から、連続する正のバイアス電圧をシース拡大電極30に印加してもよい。真空ポンプ3は、圧力調整バルブ7を介して処理容器2の内部を真空排気可能なポンプである。
【0027】
ガス供給部5は、処理容器2の内部に成膜用の原料ガスを供給する。ガス供給部5は、例えばマスフローコントローラ(MFC)が用いられる。原料ガスは、例えばCH、C等の炭化水素系と水素ガス(H)とを含み、不活性ガスは、例えば窒素ガス(N)などを含む。ガス供給部5の制御により、適度に混合されて処理容器2内に供給される。図示しないが、処理容器2内には不活性ガスも供給されてもよい。
【0028】
放射温度計29は、処理容器2の側壁に設けられた窓27の外側近傍の位置に配置される。放射温度計29は、制御部6に電気的に接続される。放射温度計29は赤外線を受信し、受信した赤外線の強度を算出する。放射温度計29は、算出した赤外線の強度から被加工材料8の表面温度を算出し、被加工材料8の温度情報を制御部6に出力する。
【0029】
制御部6は、装置全体の制御を司る。制御部6は、CPU、ROM、及びRAM等を含む。制御部6は、マイクロ波供給部9と電圧印加部20とに制御信号を出力してマイクロ波パルスの印加電力と正電圧パルスの印加電圧を制御する。制御部6は、放射温度計29から入力された出力温度が予め設定された上限温度以下であることを確認したのち、正電圧パルス発生部16及びマイクロ波パルス制御部11に制御信号を出力する。制御部6は、上限温度以上の場合は制御信号の出力を停止し、自然冷却によって上限温度以下になる迄待機する。制御部6は、バイアス電圧パルスの印加タイミング、及び供給電圧と、マイクロ波発振器12から発生されるマイクロ波パルスの供給タイミング、及び供給電力とを制御する。制御部6は、ガス供給部5に流量制御信号を出力して原料ガス及び不活性ガスの供給を制御する。処理容器2は処理容器2内の圧力を表す圧力信号を出力する真空計26を有する。制御部6は、真空計26から入力される圧力信号に基づいて、圧力調整バルブ7、リーク弁33に制御信号を出力して、処理容器2内の圧力を制御する。
【0030】
マイクロ波供給部9は、被加工材料8の処理表面10に沿ってプラズマを発生させるためのマイクロ波を導入部材22から被加工材料8へ供給する。マイクロ波供給部9は、マイクロ波パルス制御部11、マイクロ波発振器12、マイクロ波電源13、アイソレータ17、チューナー18、導波管19、及び同軸導波管21を備える。マイクロ波パルス制御部11は制御部6の指示に従い、マイクロ波電源13にパルス信号を供給する。マイクロ波電源13は、制御部6の指示に従い、マイクロ波発振器12へ電力を供給する。マイクロ波発振器12は、制御部6の指示に従いパルス化した2.45(GHz)のマイクロ波を発振しアイソレータ17にマイクロ波パルスを供給する。マイクロ波パルスはマイクロ波発振器12からアイソレータ17、チューナー18、導波管19、同軸導波管21及び導入部材22を経由し、被加工材料8の処理表面10に供給される。なお、本実施形態のマイクロ波発振器12は、パルス化したマイクロ波を発振したが、これに限らずパルス化しないマイクロ波を連続出力してもよい。
【0031】
アイソレータ17は、マイクロ波の反射波がマイクロ波発振器12へ戻ることを防ぐ。チューナー18は、マイクロ波の反射波が最小になるようにチューナー18前後のインピーダンスを整合する。同軸導波管21は、図示しない同軸導波管変換器を介し、導波管19から上方に円柱状に突設され、基部222と底面と勘合する。同軸導波管21の軸心は、導入部材22に支持された被加工材料8の軸線Kと一致する。
【0032】
上記成膜装置1を用いてMVP法を行う場合に生じる表面波励起プラズマについて説明する。通常、表面波励起プラズマを発生させる場合、ある程度以上の電子(イオン)密度におけるプラズマと、プラズマに接する誘電体との界面に沿ってマイクロ波が供給される。供給されたマイクロ波は、プラズマと誘電体との界面に電磁波のエネルギーが集中した状態で表面波として伝播される。その結果、界面に接するプラズマは高エネルギー密度の表面波によって励起され、さらに増幅される。これにより高密度プラズマが生成されて維持される。ただし、この誘電体を導電性の被加工材料8に換えた場合、被加工材料8は表面波の導波路としては機能せず、好ましい表面波の伝播及びプラズマ励起を生ずることはできない。
【0033】
一方、プラズマに接する物体の表面近傍には、本質的に単一極性の荷電粒子層、所謂シース層が形成される。物体が、接地電位に接続された被加工材料8の場合、シース層とは電子密度が低い層、即ち、正極性であって、マイクロ波の周波数帯においては比誘電率ε≒1の層である。このため、被加工材料8の下端部の周囲にシース拡大電極30を設け、被加工材料8を接地電位に接続し、シース拡大電極30に、接地電位よりも高い正のバイアス電圧を印加することで、被加工材料8の処理表面10に沿って形成されるシース層のシース厚さが厚くなり、即ちシース層が拡大する。このシース層が、プラズマとプラズマに接する物体との界面に表面波を伝播させる誘電体として作用する。尚、シース拡大電極30に印加される正のバイアス電圧は、接地電位との電位差が、プラズマの生成に必要な電位差よりも低くなるように設定した電圧である。
【0034】
故に、被加工材料8の一端に近接して配置された導入部材22から被加工材料8の他端に向けて、被加工材料8の処理表面10に沿ってマイクロ波が供給され、被加工材料8及び導入部材22の周囲に配置されたシース拡大電極30に正のバイアス電圧が印加され、且つ被加工材料8が接地電位に接続されることによって、マイクロ波はシース層とプラズマとの界面に沿って表面波として伝搬する。この結果、被加工材料8の処理表面10に沿って表面波に基づく高密度励起プラズマが発生する。この高密度励起プラズマが、上記表面波励起プラズマである。
【0035】
上記実施形態の成膜装置1を用いたMVP法では、導入部材22に密着させて被加工材料8を配置し、被加工材料8の処理表面10に沿ってシース層が形成される。被加工材料8を接地電位に接続し、被加工材料8の下端部が配置される導入部材22の周囲にシース拡大電極30を配置して正のバイアス電圧を印加することにより拡大されたシース層に沿って、表面波として伝搬するマイクロ波によって高密度プラズマが生成される。このプラズマの密度が高いので、被加工材料8は高速成膜される。被加工材料8は、同軸導波管21の中心導体と対向して配置されるので、マイクロ波が上方向に効率よく伝搬する。
【0036】
MVP法を用いた成膜処理を簡単に説明する。作業者又は自動搬送機は、被加工材料8を処理容器2の凹部223に挿入して、被加工材料8を処理容器2にセットした後、被加工材料8の上端に電極14を接続して、被加工材料8を接地電位に接続し、処理容器2を密閉する。制御部6は、真空ポンプ3を起動させた後、圧力調整バルブ7を全開に設定し、真空計26から入力される圧力信号に基づいて、処理容器2の内部が、所定の真空度になる迄排気する。
【0037】
制御部6は、ガス供給部5、圧力調整バルブ7を制御して、処理容器2に不活性ガス及び原料ガスを、処理容器2内の圧力が所定値になる迄供給する。制御部6は、放射温度計29から入力された出力温度が上限温度以下の条件で、マイクロ波発振器12を制御して、2.45(GHz)のマイクロ波電力でマイクロ波パルスを生成して、生成されたマイクロ波パルスをアイソレータ17、チューナー18、導波管19、同軸導波管21及び導入部材22を介して被加工材料8の処理表面10に供給する。マイクロ波の周波数は0.3~50(GHz)の周波数であればよく、例えば、2.45(GHz)である。マイクロ波はパルス状のマイクロ波パルスの他、連続するマイクロ波でもよい。
【0038】
成膜装置1は、被加工材料8の表面のうち、シース拡大電極30の上端31よりも処理容器2内に突出する処理表面10に皮膜を形成する。炭化水素系ガスを原料ガスとする場合、プラズマによって、グラファイト、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ(CNT)等、様々な構造の炭化物が生成される。被加工材料8に付着したグラファイト、CNTは水素プラズマによって選択的にエッチングされるため、被加工材料8の表面にはダイヤモンド薄膜が形成される。ダイヤモンドは導電性がなく、従来技術のように被加工材料8に負のバイアス電圧を印加した場合、ダイヤモンドの表面に電荷がたまる。このため、貯まった電荷と被加工材料8の電位差によって異常放電(アーキング現象)が発生し、ダイヤモンド皮膜を破壊する。本実施形態の成膜装置1は被加工材料8の電位を接地電位とすることで、貯まった電荷との電位差を小さくしアーキング現象の発生を抑制できるので、ダイヤモンド皮膜の破壊を防止し、高品質なダイヤモンド皮膜を形成できる。
【0039】
制御部6は、処理容器2内に残留している原料ガス及び不活性ガスを真空ポンプ3ですみやかに排気させたのち、圧力調整バルブ7を全閉動作させる。その後、制御部6は、リーク弁33を開放し処理容器2の内部の圧力が外気圧と同じになった場合には、液晶ディスプレイ(LCD)等の報知部に成膜終了である旨を報知し、成膜処理を終了する。作業者又は自動搬送機は、被加工材料8から電極14を取り外し、処理表面10に皮膜が形成された被加工材料8を処理容器2から取り出す。
【0040】
図6及び図7を参照し、評価試験結果を説明する。被加工材料8は、直径10(mm)、全長が85(mm)で溝長50(mm)の超硬K10製切削工具とした。漏洩抑制部材4を備えない成膜装置1を比較例とし、漏洩抑制部材4を備える成膜装置1を実施例とした。処理表面10として被加工材料8の先端から50(mm)までの領域を設定した。図6の如く、成膜装置1のマイクロ波発振器12が発振するマイクロ波は、ピーク電力が500~1000(W)、周波数が1(kHz)、デューティ比が50%に制御した。バイアス電圧パルスは、周波数が1kHz、ピーク電圧の値が200~390(V)に制御した。ガス流量は、Hが200(sccm)、CHが2(sccm)で供給され、圧力が1(kPa)に制御された。比較例と、実施例との各々について、同一の条件で試験を行い、絶縁部材24付近で漏洩されたマイクロ波由来のプラズマの発生の有無を目視で確認した。図7において白丸は、プラズマの発生が確認されなかった場合を示し、バツ印はプラズマの発生が確認された場合を示す。
【0041】
図7の如く、比較例では、マイクロ波のピーク電力が500W、且つ、バイアス電圧パルスのピーク電圧の値が370V又は390Vの条件と、マイクロ波のピーク電力が1000W、且つ、バイアス電圧パルスのピーク電圧の値が370Vの条件との各々でプラズマの発生が確認された。比較例のその他の条件では、プラズマの発生が確認されなかった。一方実施例では、何れの条件でも、プラズマの発生が確認されなかった。以上より、漏洩抑制部材4を配置することで、マイクロ波の漏洩が抑制できることが確認された。
【0042】
図8から図10を参照し、漏洩抑制部材4の構造が絶縁部材24からマイクロ波が漏洩することが効果に与える影響の確認するシミュレーション結果を説明する。シミュレーターには有限要素解析ソフトのCOMSOL(登録商標) Multiphysics 6.0を用い、RFモジュールを使用した。マイクロ波の周波数を2.45(GHz)とし、周波数領域の解析を行った。モデル中では被加工材料8、導入部材22、及び絶縁部材24の比誘電率、非透磁率、及び導電率を設定した。プラズマは圧力を50(Pa)、プラズマ密度を1E17(1/m)、電子温度を2(eV)として算出した誘電率と導電率を使用した。漏洩抑制部材4の構造の内、絶縁部42の第一長さD2(mm)、絶縁部42の幅D1(mm)、及び当接面41の外径D4の1/2(mm)の各々について、プラズマが発生しない条件をシミュレーション結果に基づき判断した。プラズマ放電を維持するために必要な最小電界強度は、絶縁破壊電圧の半分とされており、公知文献(Analysis of hydrogen plasma in a microwave plasma chemical vapor deposition reactor、G. Shivkumar et al.、Journal of Applied Physics 119、 113301 、2016)から、1.33(kPa)の条件で7500(V/m)である条件を採用した。即ち、電界強度が7500(V/m)以下となる条件であれば、プラズマは発生しないことが想定される。絶縁部42の第一長さD2(mm)、絶縁部42の幅D1(mm)、及び当接面41の外径D4の1/2(mm)の各々の値を変えた場合の電界強度を公知のシミュレーターを用いて計算した。絶縁部42の内径は36(mm)、漏洩抑制部材4の高さD3は32.6(mm)とした。図8図10にある太線は電界強度の閾値7500(V/m)を示す。
【0043】
図8に示す電界強度(V/m)と絶縁部42の第一長さD2(mm)とに関するシミュレーションでは、絶縁部42の幅D1を8(mm)、及び当接面41の外径D4の1/2を36(mm)に設定した。図8の如く、絶縁部42の第一長さD2が29.6(mm)の条件では、電界強度が7124(V/m)であり、30.6(mm)の条件では、電界強度が1944(V/m)であり、31.6(mm)の条件では、電界強度が3233(V/m)であり、何れの場合も7500(V/m)を下回った。絶縁部42の第一長さD2が28.6(mm)の条件では、電界強度が12367(V/m)であり、絶縁部42の第一長さD2が32.6(mm)の条件では、電界強度が8431(V/m)であり、何れも7500(V/m)を超えた。以上より、絶縁部42の第一長さD2(mm)が、第二長さの±1(mm)の範囲にある場合に、絶縁部材24から漏洩したマイクロ波に起因するプラズマの発生を好適に抑制できることが示唆された。
【0044】
図9に示す電界強度(V/m)と絶縁部42の幅D1(mm)とに関するシミュレーションでは、絶縁部42の第一長さD2を30.6(mm)、及び当接面41の外径D4の1/2を36(mm)に設定した。図9の如く、絶縁部42の幅D1が12(mm)以下の条件では、電界強度が7500(V/m)を下回り、絶縁部42の幅D1が1(mm)以上の条件では絶縁部42の幅D1と、電界強度とは単調増加傾向が確認された。絶縁部42の幅D1が14(mm)の条件では、電界強度が7543(V/m)であり、絶縁部42の幅D1が16(mm)では、8697(V/m)であった。以上より、絶縁部42の幅D1が14(mm)以下である場合に、絶縁部材24から漏洩したマイクロ波に起因するプラズマの発生を好適に抑制できることが示唆された。
【0045】
図10に示す電界強度(V/m)と漏洩抑制部材4の当接面41の外径D4の1/2(mm)とに関するシミュレーションでは、絶縁部42の第一長さD2を30.6(mm)、絶縁部42の幅D1を8(mm)に設定した。図10の如く、当接面41の外径D4の1/2が28(mm)以上の条件では当接面41の外径D4の1/2と、電界強度とは単調減少傾向が確認された。当接面41の外径D4の1/2が29(mm)以下の条件では、電界強度が7500(V/m)を上回り、当接面41の外径D4の1/2が29(mm)の条件では、電界強度が8136(V/m)であり、当接面41の外径D4の1/2が30(mm)では、7452(V/m)であった。以上より、漏洩抑制部材4の当接面41の外径D4の1/2が30(mm)以上、且つ処理容器2から離隔して配置される長さである場合に、絶縁部材24から漏洩したマイクロ波に起因するプラズマの発生を好適に抑制できることが示唆された。
【0046】
図11及び図12を参照して変形例の成膜装置1を説明する。図11及び図12では、上記実施形態の成膜装置1と同様の構成には同じ符号を付与している。変形例の成膜装置1は、導入部材22とシース拡大電極30と漏洩抑制部材4とに替えて、導入部材122とシース拡大電極130と漏洩抑制部材54とを備える点で上記実施形態の成膜装置1と互いに異なり、他の構成は上記実施形態の成膜装置1と互いに同じである。以下、導入部材122とシース拡大電極130と漏洩抑制部材54とについて説明する。変形例の導入部材122は、処理容器2内へ向けて突出する突出部225と、突出部225を支持する基部222とを有する。突出部225は、突出部225の上面である導入面226から下方に凹む凹部227が形成されている。凹部228は、マイクロ波の導入方向J、即ち上方に沿う向きに長い。凹部227の外周は、被加工材料8の外周よりもやや大きい。シース拡大電極130は、上端131が導入部材122の導入面226よりも下方にある。シース拡大電極130の上端131が導入面226よりも突出方向の下方側にある場合、突出方向における上端131の位置から導入面226の位置までの範囲において、被加工材料8は突出部225に覆われるので皮膜は形成されないが、導入面226から上側には十分な品質の皮膜を形成できる。シース拡大電極130は、上端131が上下方向において導入部材122の導入面226と同じ位置でもよい。
【0047】
漏洩抑制部材54は、被加工材料8とは電気的に絶縁された位置に配置される。漏洩抑制部材54は、上下方向に延び且つ中央部に空洞47を有する筒状である。空洞47に被加工材料8及びシース拡大電極130を配置する。漏洩抑制部材54は、絶縁部材24と当接する当接面51と、上記実施形態と同様の内周面44とを有する。漏洩抑制部材54は、少なくとも表面が、ステンレス等の導電性を有する材料で形成される。本実施形態の漏洩抑制部材54は、全体がステンレスで形成される。本実施形態の当接面51は、漏洩抑制部材54の下面である。当接面51には、絶縁部材24から離れる側、即ち上側に凹んだ凹部である絶縁部52、53が形成される。絶縁部52、53は当接面41において、被加工材料8を囲む環状に形成されている。絶縁部52、53は、外径が互いに異なる。絶縁部52、53の幅及び第一長さは、互いに同じである。漏洩抑制部材54は、絶縁部52、53の各々について、処理容器2と連通させる貫通孔が形成されてもよい。
【0048】
上記実施形態において、成膜装置1、処理容器2、漏洩抑制部材4、ガス供給部5、被加工材料8、電極14、マイクロ波供給部9、処理表面10、導入部材22、絶縁部材24、シース拡大電極30、当接面41、絶縁部42、及び貫通孔43は各々、本発明の成膜装置、処理容器、漏洩抑制部材、ガス供給部、被加工材料、接地部材、マイクロ波供給部、処理表面、導入部材、絶縁部材、シース拡大電極、当接面、絶縁部、及び貫通孔の一例である。電圧印加部20は本発明の電圧印加部の一例である。変形例の導入部材122、シース拡大電極130、漏洩抑制部材54、及び当接面51は、本発明の導入部材、シース拡大電極、漏洩抑制部材、及び当接面の一例である。絶縁部52、53は、本発明の複数の絶縁部の一例である。
【0049】
上記実施形態の成膜装置1は、処理容器2、ガス供給部5、マイクロ波供給部9、シース拡大電極30、電圧印加部20、電極14、絶縁部材24、及び漏洩抑制部材4を備える。ガス供給部5は、処理容器2にガスを供給する。処理容器2は、導電性を有する被加工材料8を収容する。導入部材22は、処理容器2の周囲に設け、且つマイクロ波を導入する。マイクロ波供給部9は、被加工材料8の処理表面10に沿ってプラズマを発生させるためのマイクロ波を導入部材22から被加工材料8へ供給する。シース拡大電極30は、導入部材22の周囲に配置される。電圧印加部20は、被加工材料8の処理表面10に沿うシース層を拡大させる正のバイアス電圧をシース拡大電極30へ印加する。電極14は、被加工材料8を電圧印加部20の接地電位と同電位に電気的に接続する。絶縁部材24は、シース拡大電極30と処理容器2との間に配置され、シース拡大電極30と処理容器2とを電気的に絶縁する。漏洩抑制部材4は、被加工材料8とは電気的に絶縁した位置に配置され、絶縁部材24と当接する当接面41と、当接面41から絶縁部材24から離れる側に延びる絶縁部42とを有する。成膜装置1は、マイクロ波供給部9がマイクロ波を供給し、電圧印加部20によりバイアス電圧を印加することで、被加工材料8の処理表面10にマイクロ波の伝搬をさせ、被加工材料8近傍に高密度プラズマの生成する、公知のMVP法を用いた成膜処理を実施できる。成膜装置1は、電極14により被加工材料8の電位を接地電位とすることで、アーキング現象の発生を抑制し、高品質な皮膜を形成できる。成膜装置1は、漏洩抑制部材4を備えるので、絶縁部材24の端面から処理容器2内にマイクロ波が漏洩することを低減できる。故に成膜装置1は、マイクロ波の漏洩に起因して、意図しない部分でプラズマ放電が生じたり、絶縁部材24が損傷することでシース拡大電極30と処理容器2との絶縁を保てなくなる事態が生じたりすることを抑制できる。成膜装置1は、シース拡大電極30に正のバイアス電圧を印加することで、被加工材料8の処理表面10に形成されるシース層の厚みを拡大させ、処理表面10に均一な皮膜を形成できる。
【0050】
絶縁部42は、当接面41において、被加工材料8を囲む環状に形成されている。成膜装置1は、絶縁部42が被加工材料8を囲む環状に形成されていない場合に比べ、被加工材料8周りの周方向に亘って、絶縁部材24の端面から処理容器2内にマイクロ波が漏洩することを低減できる。
【0051】
絶縁部42の当接面41に垂直な方向における第一長さD2は、マイクロ波の波長又はマイクロ波の波長の偶数倍の長さの1/4である第二長さの±1(mm)の範囲の長さである。成膜装置1では、絶縁部材24から絶縁部42に伝搬されて後に跳ね返るマイクロ波の位相は、絶縁部材24中を伝搬するマイクロ波の位相の逆付近となる。故に成膜装置1は、絶縁部材24中を伝搬するマイクロ波を、絶縁部材24から絶縁部42に伝搬されて後に跳ね返るマイクロ波により打ち消すことで、絶縁部材24の端面から処理容器2内にマイクロ波が漏洩することを低減できる。
【0052】
漏洩抑制部材4の当接面41の外径の1/2が30(mm)以上、且つ処理容器2から離隔して配置される長さである。成膜装置1は、被加工材料8から当接面41の外径の1/2が30(mm)未満である場合に比べ、絶縁部材24の端面から処理容器2内にマイクロ波が漏洩することを低減できる。
【0053】
絶縁部42は、当接面41から絶縁部材24から離れる側に延びる凹部である。漏洩抑制部材4には、絶縁部42と、処理容器2内の空間とを連通する貫通孔43が形成されている。成膜装置1は、成膜処理を行う時、大気等の意図しないガスが絶縁部42に残ることを抑制し、処理容器2内の排気時間を短縮できる。
【0054】
絶縁部材24の外径D5は、漏洩抑制部材4の当接面41の外径D4よりも大きい。成膜装置1は、絶縁部材24の外径D5が漏洩抑制部材4の当接面41の外径D4以下である場合に比べ、絶縁部材24の端面から処理容器2内にマイクロ波が漏洩することを抑制できる。
【0055】
シース拡大電極30は、導入部材22の導入面224の周囲を囲う。故に導入面224から被加工材料8に導入されるマイクロ波がシース拡大電極30の外側に漏れることがなく、成膜装置1は、広範囲に均一で高品質な皮膜を高速に形成できる。導入部材22の周囲をシース拡大電極30が囲う部分には成膜されない。故に、シース拡大電極30の上端31の位置を設定することにより、成膜装置1は、処理表面10に確実に成膜処理を行うことができる。被加工材料8の電位を接地電位としたことで、成膜装置1は導電性の低い皮膜を形成する場合に問題となるアーキング現象の発生を抑制できる。故に成膜装置1は、ダイヤモンド等の導電性の低い皮膜であっても、広範囲に均一で高品質に、且つ高速に形成できる。
【0056】
変形例の漏洩抑制部材54の当接面41には、外径が互いに異なる複数の絶縁部52、53が形成されている。成膜装置1は、当接面41に被加工材料8の周りを囲む一重の絶縁部42が形成されている場合に比べ、絶縁部材24の端面から処理容器2内にマイクロ波が漏洩することを抑制できる。
【0057】
本発明の成膜装置は上記実施形態の他に種々変更できる。下記変形例は矛盾がない範囲で適宜組み合わされてもよい。被加工材料8は接地されなくてもよい。漏洩抑制部材4は、少なくとも表面が導電性を有すればよく、例えば、表面に導電性コーティングを行ったセラミクス等でもよい。絶縁部材24及び漏洩抑制部材4の平面形状は各々リング状でなくてもよい。導入部材22、シース拡大電極30、130、漏洩抑制部材4、54の形状、大きさ、及び配置は各々適宜変更されてよい。漏洩抑制部材4の当接面41は、絶縁部材24の下面と当接してもよい。マイクロ波の導入方向Jは、上方でなくてもよく、マイクロ波の導入方向Jに応じて各部材の配置は変更されてよい。
【0058】
漏洩抑制部材4の絶縁部42の形状及び大きさは、導入部材22、シース拡大電極30、及び絶縁部材24の構成、並びに被加工材料8の皮膜形成条件等を考慮して適宜変更されてよい。絶縁部は、当接面41から絶縁部材24から離れる側に延びる凹部の他、セラミクス等の絶縁材料で形成された、当接面41から絶縁部材24から離れる側に延びる絶縁層であってもよい。漏洩抑制部材4の絶縁部42は、当接面41において被加工材料8を囲む環状に形成されなくてもよく、当接面41において被加工材料8周りの周方向の一部に円状、円弧状及び線分状等の任意の形状に形成されてもよい。漏洩抑制部材4の絶縁部42の当接面41に垂直な方向における第一長さD2は、第二長さの±1(mm)の範囲の長さでなくてもよい。漏洩抑制部材に絶縁部が複数形成されている場合、一の絶縁部が、漏洩抑制部材の当接面において被加工材料8を囲む環状に形成されなくてもよく、他の絶縁部が円弧状又は線分状に形成されてもよいし、各絶縁部の第一長さは互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。漏洩抑制部材4の当接面41の外径D4の1/2は30(mm)未満でもよい。漏洩抑制部材4は、絶縁部42と処理容器2内の空間とを連通する貫通孔43が形成されなくてもよい。貫通孔43の配置、形状、数は適宜変更されてよい。被加工材料8の周りを囲む複数の絶縁部が形成される場合、絶縁部の数は適宜変更されてよい。絶縁部材24の外径D5は、漏洩抑制部材4の当接面41の外径D4以下でもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 :成膜装置
2 :処理容器
4 :漏洩抑制部材
5 :ガス供給部
8 :被加工材料
9 :マイクロ波供給部
10 :処理表面
11 :マイクロ波パルス制御部
12 :マイクロ波発振器
13 :マイクロ波電源
14 :電極
15 :DC電源
17 :アイソレータ
18 :チューナー
19 :導波管
20 :電圧印加部
21 :同軸導波管
22 :導入部材
24 :絶縁部材
30 :シース拡大電極
41 :当接面
42 :絶縁部
43 :貫通孔
44 :内周面
45 :内側鍔部
46 :外側鍔部
47 :空洞
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12