(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006712
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】燃料電池車
(51)【国際特許分類】
B60L 58/40 20190101AFI20240110BHJP
B60L 58/18 20190101ALI20240110BHJP
B60L 50/75 20190101ALI20240110BHJP
B60L 58/30 20190101ALI20240110BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20240110BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20240110BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20240110BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20240110BHJP
H01M 8/249 20160101ALI20240110BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20240110BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B60L58/40
B60L58/18
B60L50/75
B60L58/30
B60L58/12
H01M8/00 Z
H01M8/00 A
H01M8/04313
H01M8/04858
H01M8/249
H01M8/04537
H02J7/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107864
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深見 竜也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 研二
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】森 裕晃
【テーマコード(参考)】
5G503
5H125
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5G503AA05
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA08
5G503FA06
5H125AA01
5H125AC07
5H125AC12
5H125BC11
5H125BC28
5H125BD02
5H125BD07
5H125CA18
5H125CB02
5H125DD05
5H125EE22
5H125EE23
5H125EE27
5H125EE30
5H125EE32
5H125EE47
5H125EE48
5H125EE52
5H125EE55
5H126AA21
5H127AB04
5H127AB14
5H127AB29
5H127AC03
5H127BA02
5H127BA12
5H127BB02
5H127DB92
5H127DB99
5H127DC90
5H127DC96
5H127EE04
(57)【要約】
【課題】本明細書は、予め定められたエリアでは多くの水を排水しない燃料電池車を提供する。
【解決手段】本明細書が開示する燃料電池車は、燃料電池と、再充電が可能なバッテリと、燃料電池を制御する制御器を備える。制御器は、燃料電池の出力電力でバッテリを満充電相当のフル電圧まで充電するリセット処理を、予め定められたエリアの外で実行する。自車が予め定められたエリアにいるか否かは、例えばGPSを用いて判別できる。リセット処理を行うと燃料電池が大量の水を生成するが、本明細書が開示する燃料電池車では、予め定められたエリア(大量の排水が好ましくないエリア)ではリセット処理を行わない。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池車であって、
燃料電池と、
再充電が可能なバッテリと、
前記燃料電池を制御する制御器と、
を備えており、
前記制御器は、前記燃料電池の出力電力で前記バッテリを満充電相当のフル電圧まで充電するリセット処理を、予め定められたエリアの外で実行する、燃料電池車。
【請求項2】
前記制御器は、所定の車速閾値以下では前記リセット処理を禁止する、請求項1に記載の燃料電池車。
【請求項3】
前記制御器は、前記燃料電池車の振動または騒音が所定のノイズ閾値以下では前記リセット処理を禁止する、請求項1に記載の燃料電池車。
【請求項4】
前記制御器は、(1)前記燃料電池車のメインスイッチが入れられた後、(2)前記メインスイッチがオフされている期間が所定の放置時間を超えた後に前記メインスイッチが入れられた後、(3)電流積算値に基づく残容量推定処理を行った時間が所定の継続時間を超えた場合、の少なくとも1つの条件が成立したら前記リセット処理を開始する、請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池車。
【請求項5】
前記燃料電池と前記バッテリの少なくとも一方から電力供給を受ける走行用のモータを備えており、
前記バッテリは、前記モータの回生電力を蓄えることが可能な第1バッテリと第2バッテリを含んでおり、
前記燃料電池は前記第1燃料電池と第2燃料電池を含んでおり、
前記制御器は、前記第2バッテリの残容量が所定の残容量閾値を下回っているとき、前記第2バッテリと前記第2燃料電池を前記モータに接続し、前記第1バッテリと前記第1燃料電池を前記モータから切り離し、前記第1燃料電池を用いて前記第1バッテリに対して前記リセット処理を実行する、請求項1に記載の燃料電池車。
【請求項6】
前記制御器は、前記第1バッテリのリセット処理を完了した後、前記第1バッテリと前記第1燃料電池を前記モータに接続するとともに、前記第2バッテリと前記第2燃料電池を前記モータから切り離し、前記第1バッテリの残容量が前記残容量閾値を下回ったら、前記第2燃料電池を用いて前記第2バッテリに対して前記リセット処理を実行する、請求項5に記載の燃料電池車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、燃料電池とバッテリを備える燃料電池車に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車は、走行用のモータに電力を供給する燃料電池とバッテリを備える。バッテリは残容量が満充電容量を超えたり、逆に所定の下限値よりも低くなったりすると劣化が進む。それゆえ、バッテリを使用する場合には残容量の管理が重要である。バッテリの残容量はSOC(State Of Charge)とも呼ばれる。残容量(またはSOC)は、バッテリに蓄えられている電気容量(単位は[Ah])で表されることもあるが、満充電時の容量に対する現在の容量の割合(充電率)で表されることもある。
【0003】
バッテリの残容量を推定するのに、2通りの方法が知られている。一つは、バッテリの開放電圧から残容量を推定する方法(OCV法)である。別の一つは、バッテリに出入りする電流を積算する方法(電流積算法)である。OCV法は、バッテリの開放電圧(Open Circuit Voltage:OCV)と残容量の対応関係が概ね比例しており、開放電圧の変化に対して残容量の変化もある程度大きい場合に用いられる。一方、リン酸鉄系リチウムイオンバッテリなどの特定のタイプのバッテリは、残容量の変化に対して開放電圧があまり変化しない残容量範囲(プラトー領域と呼ばれる)を有しており、OCV法では残容量の推定誤差が大きくなる。そのようなバッテリには電流積算法が用いられる(例えば特許文献1)。
【0004】
電流積算法は、長時間用いると積算誤差が蓄積されるので残容量の推定誤差が大きくなる。電流積算法の推定誤差を正す方法として、バッテリの出力電圧が満充電に相当する電圧に達するまでバッテリを充電する方法が知られている(特許文献1)。以下では説明の便宜上、バッテリの満充電に相当するバッテリ電圧をフル電圧と称する。フル電圧時のバッテリの容量(フル容量)も既知である。
【0005】
バッテリの出力電圧がフル電圧に達するまでバッテリを充電し、そのときのバッテリの残容量(残容量初期値)としてフル容量(あるいは充電率100%)を設定する。以後は、電流積算法を用い、バッテリから放出された電流の積算値を残容量初期値(フル容量)から減じることで現在の残容量が求まる。以下では説明の便宜上、バッテリの出力電圧がフル電圧に達するまでバッテリを充電する処理(フル電圧時のバッテリの残容量初期値にフル容量(あるいは充電率100%)を設定することを含む)をリセット処理と称する。また、説明の便宜上、「バッテリの出力電圧がフル電圧に達するまでバッテリを充電する」ことを、簡単に「バッテリをフル電圧まで充電する」と表現する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先に述べたように、燃料電池車は燃料電池とバッテリを備える。それゆえ、燃料電池を用いてバッテリを充電し、リセット処理を行うことができる。バッテリをフル電圧まで充電するには相応の電力量を必要とする。燃料電池で大電力量を発生させると大量の水(水素と酸素の化学反応で生成される水)も生成される。燃料電池車が位置しているエリアによっては排水が好ましくない場合がある。本明細書は、燃料電池でバッテリのリセット処理を行う燃料電池車において、好ましくない場所では大量の排水を避けることのできる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示する第1の態様の燃料電池車は、燃料電池と、再充電が可能なバッテリと、燃料電池を制御する制御器を備える。制御器は、燃料電池の出力電力でバッテリを満充電相当のフル電圧まで充電するリセット処理を、予め定められたエリアの外で実行する。自車が予め定められたエリアにいるか否かは、例えばGPSを用いて判別できる。本明細書が開示する燃料電池車では、予め定められたエリア(大量の排水が好ましくないエリア)ではリセット処理を行わない。
【0009】
バッテリをフル電圧まで充電する際、燃料電池は大電力を生成するのでファンなどの補機の騒音も大きくなるおそれがある。そこで、制御器は、所定の車速閾値以下ではリセット処理を禁止するようにしてもよい。あるいは、制御器は、燃料電池車の振動または騒音が所定のノイズ閾値以下のときにはリセット処理を禁止するようにしてもよい。リセット処理は燃料電池車の車速が高い場合、あるいは、燃料電池車の振動または騒音が大きい場合に限って実行されることになり、リセット処理に起因して生じる騒音は車両の騒音に紛れる。
【0010】
本明細書が開示する第2の態様の燃料電池車では、制御器は、所定の条件が成立するとリセット処理を開始するようにしてもよい。例えば制御器は、(1)燃料電池車のメインスイッチが入れられた後、(2)メインスイッチがオフされている期間が所定の放置時間を超えた後にメインスイッチが入れられた後、(3)電流積算値に基づく残容量算出処理を行った時間が所定の継続時間を超えた場合、の少なくとも1つの条件が成立したらリセット処理を開始するようにするとよい。電流積算値の誤差が大きくなる前にリセット処理を行うことができる。
【0011】
燃料電池車は燃料電池とバッテリの少なくとも一方から電力供給を受ける走行用のモータを備えており、バッテリは、モータの回生電力を蓄えることが可能である場合が多い。リセット処理を行っている間、バッテリはフル電圧まで充電されるので回生電力を蓄える余裕がないおそれがある。本明細書は、リセット処理と回生電力の蓄積を両立する技術も提供する。
【0012】
本明細書が開示する第3の態様の燃料電池車は、上記した第1の態様の燃料電池車、または、第2の態様の燃料電池車において、次の構成が付加されていてもよい。すなわち、バッテリは回生電力を蓄積可能な第1バッテリと第2バッテリを含んでおり、燃料電池は第1燃料電池と第2燃料電池を含んでいる。制御器は、第2バッテリの残容量が所定の残容量閾値を下回っているとき、第2バッテリと第2燃料電池をモータに接続し、第1バッテリと第1燃料電池をモータから切り離し、第1燃料電池を用いて第1バッテリに対してリセット処理を実行する。第1燃料電池を使って第1バッテリのリセット処理を行っている間、回生電力は第2バッテリに蓄えることができる。
【0013】
制御器は、第1バッテリのリセット処理に続いて第2バッテリのリセット処理を行うようにするとよい。その場合、制御器は、第1バッテリのリセット処理を完了した後、第1バッテリと第1燃料電池をモータに接続するとともに第2バッテリと第2燃料電池をモータから切り離し、第1バッテリの残容量をモータ(あるいは別の電気デバイス)で消費し、第1バッテリの残容量が残容量閾値を下回ったら、第2燃料電池を用いて第2バッテリに対してリセット処理を実行する。そうすることで、第2バッテリのリセット処理の間は第1バッテリに回生電力を蓄えることができる。
【0014】
なお、残容量閾値は、エリアに応じて変えてもよい。例えば、街中ではブレーキが多用されるために大きな回生電力が期待できる。そのような場合は残容量閾値を低く設定する。そうすることで大きな回生電力を蓄積できる。逆に、信号の少ない地方の道路では大きな回生電力が期待できないため、残容量閾値を高めに設定してもよい。
【0015】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施例の燃料電池車のブロック図である。
【
図2】リセット処理を実行するか否かを判断する処理のフローチャートである。
【
図3】リセット処理のフローチャートである(1)。
【
図4】リセット処理のフローチャートである(2)。
【
図5】第2実施例の燃料電池車のブロック図である。
【
図6】第2実施例の燃料電池車の変形例のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施例)
図1に、第1実施例の燃料電池車2のブロック図を示す。燃料電池車2は、走行用の電気モータ(モータ4)で車輪6を駆動する。モータ4の出力軸は、デファレンシャルギア5を介して車輪6に連結されている。
【0018】
以下では、説明の便宜上、「燃料電池」を「FC」と表記することがある。「燃料電池12」は「FC12」と表記する。図中の「BT」、「FC」、「INV」、「M」は、それぞれ、バッテリ、燃料電池、インバータ、モータを意味する。
【0019】
燃料電池車2は、電源としてバッテリ11とFC12を備えている。バッテリ11とFC12の出力端はインバータ3に接続されている。インバータ3は、バッテリ11とFC12の少なくとも一方から供給される直流電力をモータ4の駆動に適した交流電力に変換する。
【0020】
FC12には、FC12を駆動するための補機13が付随する。補機13とは、FC12で発電を行うのに必要なデバイス群の総称であり、ファン、ポンプ、バルブ、改質器、冷却器などが含まれる。
【0021】
燃料電池車2は、冷凍機40を備えているトラックであり、大量の冷凍品を輸送することができる。冷凍機40を動かすための電力もバッテリ11またはFC12から供給される。冷凍機40は消費電力が大きいため、バッテリ11は大容量であり、FC12は大出力である。
【0022】
図1の点線は信号線を示している。FC12と補機13は制御器30によって制御される。モータ4は、インバータ3を介して制御器30に制御される。冷凍機40も制御器30によって制御される。
【0023】
冷凍機40の中に温度センサ41が備えられており、温度センサ41の計測値は制御器30に送られる。温度センサ41は、冷凍機40の中の温度を計測する。制御器30は、温度センサ41の計測値(すなわち冷凍機40の中の温度)が氷点下の所定の温度を維持するように、冷凍機40を制御する。
【0024】
バッテリ11の出力端には電圧センサ14と電流センサ16が備えられている。電圧センサ14はバッテリ11の出力電圧を計測し、電流センサ16はバッテリ11に出入りする電流を計測する。FC12の出力端には電圧センサ15と電流センサ17が備えられている。電圧センサ15はFC12の出力電圧を計測し、電流センサ17はFC12から出力される電流を計測する。電圧センサ14、15、電流センサ16、17の計測値は制御器30に送られる。
【0025】
制御器30は、電圧センサ15と電流センサ17の計測値を用いてFC12の出力が目標出力に追従するようにFC12と補機13を制御する。また、制御器30は、電圧センサ14と電流センサ16の計測値を用いてバッテリ11の状態をモニタする。
【0026】
燃料電池車2は、車速を計測する車速センサ7を備えており、車速センサ7の計測値も制御器30に送られる。燃料電池車2は、アクセルペダルの開度を計測するアクセルセンサ31とブレーキペダルの開度を計測するブレーキセンサ32を備えている。制御器30は、車速とアクセルペダル開度に基づいてモータ4に要求される出力(要求出力)を決定する。制御器30は、モータ4の出力が要求出力に追従するように、FC12、補機13、インバータ3を制御する。また、制御器30は、要求出力とバッテリ11の状態に応じてFC12の目標出力を決定する。
【0027】
ブレーキペダルが踏まれたときには、制御器30は、車速とブレーキペダル開度に基づいて目標制動力を決定する。目標制動力の一部はモータ4の逆駆動によって賄われる。目標制動力の残りは機械式ブレーキ8によって賄われる。制御器30は、モータ4が所定の制動力を発揮するように、インバータ3を制御する。モータ4の逆駆動により電力が生成される。別言すれば、モータ4は車両に制動力を加えると同時に車両の慣性エネルギを利用して発電する。走行用のモータ4の逆駆動で得られる電力は回生電力と呼ばれる。モータ4が生成した回生電力(交流)は、インバータ3で直流電力に変換された後にバッテリ11に送られる。すなわち、回生電力はバッテリ11に蓄えられる。制御器30は、モータ4の逆駆動による制動力と機械式ブレーキ8による制動力の合計が目標制動力に一致するように、機械式ブレーキ8を制御する。
【0028】
バッテリ11は再充電が可能であり、典型的には、リン酸鉄系リチウムイオンバッテリである。バッテリ11とFC12はインバータ3の直流端に並列に接続されている。FC12の応答周波数はモータ4に要求される応答周波数よりも低い。バッテリ11の出力の応答周波数はFC12とモータ4の応答周波数よりも高い。モータ4の要求出力が急に大きくなった場合、FC12の出力が増加するまでの間、要求出力の不足分はバッテリ11の出力で補われる。また、モータ4の要求出力が急に小さくなった場合、FC12の余剰の電力はバッテリ11に蓄えられる。先に述べたように、回生電力もバッテリ11に蓄えられる。冷凍機40の駆動や停止に伴う消費電力の急激な変化に対しても、FC12の出力の過不足分はバッテリ11が補う。
【0029】
バッテリ11は過充電を生じたり、残容量が極端に小さくなると劣化が進行する。そこで、バッテリ11の残容量を適切な範囲(適正範囲)に維持する必要がある。制御器30は、バッテリ11に出入りする電流を積算し、電流積算値からバッテリ11の残容量の増減を把握する。電流積算値からバッテリの残容量を推定する手法は電流積算法と呼ばれる。電流積算法を用いるには基準となる残容量初期値が必要となる。通常、バッテリの出力電圧が満充電に相当する電圧(フル電圧)に等しいときの残容量(フル容量)には既知の関係が成立する。そこで、制御器30は、バッテリ11の出力電圧がフル電圧に達するまでバッテリ11を充電し、そのときのバッテリ11の残容量(残容量初期値)としてフル容量を設定する。この処理をリセット処理と称する。リセット処理の後、制御器30は、バッテリ11に出入りする電流を積算し、リセット時に設定した残容量初期値(フル容量)から電流積算値を減算して時々刻々と変化する残容量を推定する。ここでは、バッテリ11から出力される電流を正値とし、バッテリ11に供給される電流は負値とする。バッテリ11に電流が供給されると残容量の推定値は増加する。
【0030】
なお、先に述べたように、「バッテリ11の出力電圧がフル電圧に達するまでバッテリ11を充電する」ことを単純に「バッテリ11をフル電圧まで充電する」と表記する場合がある。フル電圧は、バッテリ11の満充電に相当する電圧であり、予め定められている。
【0031】
制御器30は、残容量が適正範囲の下限値に近づいたらFC12の出力を大きくし、FC12の出力でバッテリ11を充電し、残容量を高める。また、制御器30は、残容量が適正範囲の上限値に近づいたら、FC12の出力を下げ、バッテリ11の電力でモータ4の出力や冷凍機40の出力を賄う。その結果、バッテリ11の残容量は下がる。
【0032】
電流積算法を長時間続けると、積算誤差が蓄積し、残容量の推定精度が下がる。そこで制御器30は、定期的にリセット処理を実行し、積算誤差を解消する。
【0033】
リセット処理を開始するトリガ(開始条件)としては、次のいくつかの条件が用いられる。(1)燃料電池車2のメインスイッチが入れられた直後。(2)メインスイッチがオフされている期間が所定の放置時間を超えた後にメインスイッチが入れられた直後。(3)電流積算値に基づく残容量推定処理を行った時間が所定の継続時間を超えた場合。(4)燃料電池車2の走行距離が所定の距離閾値を超えた場合。上記(1)から(4)の全ての開始条件を採用してもよいし、いずれかの開始条件だけを採用してもよい。制御器30は、上記(1)から(4)のうち、少なくとも1個の開始条件を採用し、リセット処理のトリガとする。
【0034】
また、燃料電池車2は、特定のエリアではリセット処理を行わない。すなわち、制御器30は、FC12の出力電力でバッテリ11を満充電相当のフル電圧まで充電するリセット処理を、予め定められたエリアの外で実行する。説明の便宜上、予め定められたエリアを禁止エリアと称する。禁止エリアとは、例えば、荷物の積み下ろしを行う場所などである。リセット処理ではFC12の出力でバッテリ11をフル電圧まで充電する。この充電には相応の電力が必要であり、FC12が相応の電力を生成すると水(酸素と水素の反応で生じる水)が大量に生成される。特に、燃料電池車2は冷凍機40を備えているため、大型のバッテリ11を搭載しており、大型のバッテリ11をフル電圧まで充電すると大量の水が生成される。
【0035】
燃料電池車2は、大量の排水が好ましくないエリアではリセット処理を行わない。リセット処理を実行するか否かを判断する処理のフローチャートを
図2に示す。
図2の処理は、制御器30が採用している開始条件が成立したら開始される。
【0036】
禁止エリアには、大量の排水が好ましくない範囲が設定されている。制御器30には記憶装置34が接続されており、記憶装置34に禁止エリアの情報(禁止エリアマップ)が格納されている。また、燃料電池車2はGPSレシーバ33を備えており、燃料電池車2の現在位置を特定することができる(
図2のステップS2)。制御器30は、GPSレシーバ33から取得した現在位置を記憶装置34に記憶された禁止エリアマップと照合し、燃料電池車2の現在位置が禁止エリア内か否かを判別する(ステップS3、S4)。制御器30は、前述した開始条件が成立し、かつ、燃料電池車2の現在位置が禁止エリア外である場合(ステップS4:YES)、リセット処理を開始するための別の条件をチェックする(ステップS5、S6)。
【0037】
制御器30は、所定の車速閾値以下ではリセット処理を禁止するようにしてもよい(ステップS5:NO)。あるいは、制御器30は、燃料電池車2の振動または騒音が所定のノイズ閾値以下ではリセット処理を禁止するようにしてもよい(ステップS6:NO)。車速は車速センサ7から取得することができる。また、燃料電池車2にはノイズセンサ35が備えられており、ノイズセンサ35によって、燃料電池車2の騒音あるいは振動の大きさを計測することができる。制御器30は、ノイズセンサ35の計測値をノイズ閾値と比較し、計測値がノイズ閾値以下の場合、リセット処理を禁止する(ステップS6:NO)。なお、燃料電池車2の騒音には、ラジオノイズが含まれてもよい。
【0038】
制御器30は、車両が禁止エリアの外に位置しており(ステップS4:YES)、車速が車速閾値を超えており(ステップS5:YES)、燃料電池車2の騒音あるいは振動の大きさがノイズ閾値を超えている場合(ステップS6:YES)、リセット処理を実行する(ステップS7)。いずれかの条件が満たされなければ、制御器30はリセット処理を実行しない。なお、ステップS5、S6の分岐判断処理はオプションであり、燃料電池車2に備えられることが好ましいが、備えていなくてもよい。
【0039】
なお、リセット処理のトリガが発生してからリセット処理が開始されるまでの期間は、制御器30は、FC12の目標出力をモータ4の要求出力にする。すなわち、可能な限りFC12でモータ4の要求電力を賄うことで、バッテリ11の残容量の低下を抑制する。ただし、モータ4の要求出力が急激に大きくなった場合などには、バッテリ11からモータ4に電力が供給される。
【0040】
トリガが発生してからリセット処理を終えるまでの期間以外では、制御器30は、FC12の目標出力を、モータ4の要求出力にバッテリ11の残容量調整分を加えた値に設定する。残容量調整分は、バッテリ11の残容量を目標容量の付近に保持するのに必要な電力に設定される。目標容量(バッテリ11の残容量の目標値)は、例えば、バッテリ11の残容量の適正範囲の中央値に設定される。なお、適正範囲の一例は、充電率で表すと40%から60%の間である。
【0041】
図3、4に、リセット処理のフローチャートを示す。制御器30は、FC12の出力を上げてバッテリ11をフル電圧まで充電する。制御器30は、リセット処理中のFC12の目標出力を、モータ4の要求出力にバッテリ許容最大電力を加えた値に設定する(ステップS12)。バッテリ許容最大電力は、バッテリ11に供給するのに許容される電力の最大値を意味する。バッテリ11に供給する電力をバッテリ許容最大電力に設定することで、リセット処理中にできるだけ早くバッテリ11を充電することができる。
【0042】
ただし、モータ4の要求出力が急激に大きくなった場合は、バッテリ11の充電に用いる予定の電力の一部はモータ4に供給される。FC12の出力が要求出力よりも小さい場合にはバッテリ11から電力が出力される。別言すれば、モータ4の要求出力を実現することがバッテリ11の充電よりも優先される。
【0043】
また、リセット処理中に回生電力が発生した場合、制御器30は、FC12の目標出力をバッテリ許容最大電力から回生電力を減じた値に設定する。回生電力もバッテリ11をフル電圧まで充電するのに用いられるが、FC12の目標出力を下げることで、バッテリ11にはバッテリ許容最大電力を超える電力が流れることが回避される。
【0044】
制御器30は、バッテリ11の出力電圧がフル電圧に達するまで充電を続ける(ステップS16)。ただし、フル電圧への充電中に、車両が禁止エリアの外へ出てしまった場合(ステップS13:YES)、車速が車速閾値を超えてしまった場合(ステップS14:YES)、または、車両ノイズがノイズ閾値を超えてしまった場合(ステップS15:YES)、制御器30は、リセット処理を中断する。
【0045】
リセット処理の中断中は、FC12の目標出力を、モータ4の要求出力にする。すなわち、可能な限りFC12でモータ4の要求電力を賄うことで、バッテリ11の残容量の低下を抑制する。ただし、モータ4の要求出力が急激に大きくなった場合などには、バッテリ11からモータ4に電力が供給される。なお、ステップS13からS15はオプションであり、採用されることが望ましいが、採用せずともよい。
【0046】
バッテリ11の出力電圧がフル電圧に達したら(ステップS16:YES)、制御器30はバッテリ11の残容量初期値としてフル容量を設定する(
図4、ステップS21)。以後、制御器30は、バッテリ11に出入りする電流の積算値を残容量初期値から減じて現在の残容量を推定する。
【0047】
先に述べたように、リセット処理を行っていないときには、制御器30は、FC12の目標出力を、モータ4の要求出力にバッテリ11の残容量調整分を加えた値に設定する。
【0048】
リセット処理においてバッテリ11をフル電圧まで充電した後、バッテリ11の残容量はフル容量になっている。それゆえ、制御器30は、バッテリ11をフル電圧まで充電した後は、FC12の目標出力に加味する残容量調整分として、比較的大きな負値を設定する。別言すれば、制御器30は、FC12の目標出力をモータ4の要求出力よりも下げる(ステップS22)。残容量調整分を大きな負値にすることで(FC12の目標出力を要求出力よりも下げることで)、バッテリ11の残容量がフル容量から目標容量に向けて速やかに減少する。
【0049】
FC12の目標出力にはモータ4の要求出力のほかに、他の電気デバイス(例えば冷凍機40)の消費電力も含まれ得るが、ここではFC12とバッテリ11から電力供給を受ける他の電気デバイスの消費電力については説明を省略する。(ステップS12とS22の「モータの要求出力」との表現は、厳密には、「FCとバッテリから電力供給を受ける全てのデバイス(モータを含む)の総消費電力」となる。)
【0050】
バッテリ11の残容量が目標容量まで下がったらリセット処理が終了する(ステップS23:YES、リターン)。以後、制御器30は、FC12の目標出力を、モータ4の要求出力に残容量調整分を加算した値に設定する。ここでの残容量調整分は、バッテリ11の残容量を目標容量の付近に保持するためにバッテリ11に供給すべき電力である。なお、残容量が大きい場合には、残容量調整分には負値が設定される。そうすると、FC12の出力だけでは要求出力を満たすことができず、バッテリ11からモータ4(インバータ3)へ電力が供給され、残容量が下がる。また、厳密には、FC12の目標出力には、FC12とバッテリ11から電力供給を受ける他の電気デバイスの消費電力が加えられる。
【0051】
リセット処理が終了した後は、バッテリ11の残容量が目標容量の近くに保持される。モータ4の回生電力はバッテリ11の充電に用いられる。
【0052】
なお、リセット処理以外における目標容量は、残容量の適正範囲の中央値から多少外れてもよい。多くの回生電力が期待されるエリアでは適正範囲の中央値よりも低い目標容量が設定される。多くの回生電力が期待できないエリアでは、適正範囲の中央値よりも高い目標容量が設定される。
【0053】
以上の通り、第1実施例の燃料電池車2は、大量の排水が好ましくなりエリア(禁止エリア)ではリセット処理を行わない。その結果、禁止エリアでは大量の排水が回避される。
【0054】
(第2実施例)
図5に、第2実施例の燃料電池車2aのブロック図を示す。第2実施例の燃料電池車2aは、バッテリとFCの組を2組備えている。
図5の第1バッテリ11と第1FC12は、
図1のバッテリ11とFC12に対応する。第1FC12には第1補機13が付随する。燃料電池車2aは、第1バッテリ11と第1FC12に加えて、第2バッテリ21と第2FC22を備えている。第2FC22には第2補機23が付随する。また、電圧センサ24は第2バッテリ21の出力電圧を計測し、電流センサ26は第2バッテリ21に出入りする電流を計測する。電圧センサ25は第2FC22の出力電圧を計測し、電流センサ27は第2FC22の出力電流を計測する。電圧センサ24、25、電流センサ26、27の計測値は制御器130に送られる。第2バッテリ21は第1バッテリ11と同じタイプで同容量のバッテリであり、リン酸鉄系リチウムイオンバッテリである。
【0055】
第1バッテリ11と第1FC12は並列に接続されており、第1バッテリ11と第1FC12は、第1リレー18を介してインバータ3(モータ4)に接続される。第1リレー18を開くと、第1バッテリ11と第1FC12はインバータ3(モータ4)から切り離される。
【0056】
第2バッテリ21と第2FC22は並列に接続されており、第2バッテリ21と第2FC22は、第2リレー28を介してインバータ3(モータ4)に接続される。第2リレー28を開くと、第2バッテリ21と第2FC22はインバータ3(モータ4)から切り離される。
【0057】
第2バッテリ21、第2FC22、電圧センサ24、25、電流センサ26、27、リレー18、28を除いて、第2実施例の燃料電池車2aの構成(
図5)は、第1実施例の燃料電池車2の構成(
図1)と同じである。
図1と
図5において同じ符号は同じ部品を表す。
図1で説明した部品については説明を省略する。
【0058】
リレー18、28は制御器130によって制御される。制御器130が第1リレー18を閉じ、第2リレー28を開くと、第2実施例の燃料電池車2aの電気的構造は、第1実施例の燃料電池車2の電気的構造と一致する。通常、制御器130は、第1リレー18と第2リレー28を閉じ、第1バッテリ11、第2バッテリ21、第1FC12、第2FC22の中の少なくとも1個の電源でモータ4を駆動する。
【0059】
第2実施例の燃料電池車2aにおけるリセット処理の開始条件(燃料電池車2aが所定の禁止エリア外に位置すること、燃料電池車2aのメインスイッチが入れられた直後であること、など)は、第1実施例の燃料電池車2の場合と同じである。
【0060】
先に述べたように、モータ4は制動時に車両の慣性エネルギを利用して発電する。モータ4の発電で得られた回生電力は、第1バッテリ11または第2バッテリ21に充電される。一方、リセット処理中にバッテリはフル容量まで充電される。フル容量まで充電されたバッテリでは回生電力を受け入れられない。第2実施例の燃料電池車2aは、2個のバッテリ11、21を使い分け、リセット処理と回生電力の蓄積を両立することができる。
【0061】
燃料電池車2aの制御器130は、第2バッテリ21の残容量が所定の残容量閾値を下回っているとき、第2リレー28を閉じて第2バッテリ21と第2FC22をインバータ3(モータ4)に接続する。さらに制御器130は、第1リレー18を開き、第1バッテリ11と第1燃料電池12をインバータ3(モータ4)から切り離し、第1FC12を用いて第1バッテリ11に対してリセット処理を実行する。このとき、第1FC12はインバータ3(モータ4)から切り離されているので、制御器130は、第1FC12の目標出力として、前述したバッテリ許容最大電力を設定する。なお、残容量閾値は、リセット処理の間に予想される回生電力に所定の安全マージンを加えた値に設定される。
【0062】
第1バッテリ11のリセット処理の間、第1バッテリ11と第1FC12はインバータ3(モータ4)からも第2バッテリ21と第2FC22からも切り離されている。それゆえ、第1バッテリ11のリセット処理は、モータ4、第2バッテリ21、第2FC22の運用に影響を及ぼさない。一方、第2バッテリ21の残容量は残容量閾値を下回っているので回生電力は第2バッテリ21に蓄積される。燃料電池車2aは、一方のバッテリに対してリセット処理を実行している間、回生電力を他方のバッテリに蓄えることができる。
【0063】
制御器130は、第1バッテリ11のリセット処理を完了した後、第1リレー18を閉じて第1バッテリ11と第1FC12をインバータ3(モータ4)に接続し、第2リレー28を開いて第2バッテリ21と第2FC22をインバータ3(モータ4)から切り離す。制御器130は、第1FC12の出力を下げ、第1バッテリ11の電力がモータ4の駆動に使われるようにする。この処理により、第1バッテリ11の残容量が下がる。
【0064】
制御器130は、第1バッテリ11の残容量が残容量閾値を下回ったら、第2FC22を用いて第2バッテリ21に対してリセット処理を実行する。第2FC22はインバータ3(モータ4)から切り離されているので、制御器130は、第2FC22の目標出力として、前述したバッテリ許容最大電力を設定する。第2バッテリ21に対してリセット処理を行っている間、回生電力は第1バッテリ11に蓄積される。
【0065】
上記の処理により、第1バッテリ11と第2バッテリ21に対して交互にリセット処理が実施される。一方のバッテリがリセット処理で充電されている間、回生電力は他方のバッテリに蓄えられる。
【0066】
残容量閾値は、燃料電池車2aが走行するエリアに応じて変えてもよい。例えば、街中ではブレーキが多用されるために大きな回生電力が期待できる。そのような場合は残容量閾値を低く設定する。そうすることでバッテリに大きな回生電力を蓄積できる。逆に、信号の少ない地方の道路では大きな回生電力が期待できないため、残容量閾値を高めに設定してもよい。
【0067】
(変形例)
図6に、第2実施例の変形例の燃料電池車2bのブロック図を示す。燃料電池車2bは、第2実施例の燃料電池車2aの第1リレー18の代わりに第1リレー18a、18bを備えており、第2リレー28の代わりに第2リレー28a、28bを備えている。第1リレー18a、18b、第2リレー28a、28bの配置以外は、燃料電池車2bの構成は第2実施例の燃料電池車2aの構成と同じである。
【0068】
第1リレー18aを開くと第1FC12がインバータ3(モータ4)から切り離される。第1リレー18aを閉じると第1FC12がインバータ3(モータ4)に接続される。第1リレー18bを開くと第1バッテリ11がインバータ3(モータ4)から切り離される。第1リレー18bを閉じると第1バッテリ11がインバータ3(モータ4)に接続される。
【0069】
第2リレー28aを開くと第2FC22がインバータ3(モータ4)から切り離される。第2リレー28aを閉じると第2FC22がインバータ3(モータ4)に接続される。第2リレー28bを開くと第2バッテリ21がインバータ3(モータ4)から切り離される。第2リレー28bを閉じると第2バッテリ21がインバータ3(モータ4)に接続される。
【0070】
第1リレー18a、18b、第2リレー28a、28bは、制御器130によって制御される。2個の第1リレー18a、18bを同時に開閉する場合、2個の第1リレー18a、18bは第2実施例の第1リレー18と同じ役割を果たす。2個の第2リレー28a、28bを同時に開閉する場合、2個の第2リレー28a、28bは第2実施例の第2リレー28と同じ役割を果たす。制御器130は、状況に応じて2個の第1リレー18a、18bの一方を開き、他方を閉じてもよい。制御器130は、状況に応じて2個の第2リレー28a、28bの一方を開き、他方を閉じてもよい。
【0071】
例えば、制御器130は、第1FC12で異常が検知された場合、第1リレー18bは閉じたまま第1リレー18aを開き、第1FC12をシステムから切り離す。あるいは、制御器130は、第1バッテリ11で異常が検知された場合、第1リレー18aは閉じたまま第1リレー18bを開き、第1バッテリ11をシステムから切り離す。第2FC22で異常が検知された場合、あるいは、第2バッテリ21で異常が検知された場合も同様である。
【0072】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。実施例の燃料電池車2、2aが備えるバッテリは、再充電可能なバッテリであればよく、そのタイプに制限はない。ただし、本明細書が開示する技術は、プラトー領域(残容量の変化に対してバッテリ出力電圧の変化が極めて小さい領域)を有するバッテリを搭載した燃料電池車に適している。プラトー領域を有するバッテリの残容量を推定するには電流積算法が適しており、本明細書が開示する技術は電流積算法の誤差を解消するリセット処理に関する技術だからである。
【0073】
フル電圧(満充電に相当するバッテリ出力電圧)とフル容量(バッテリがフル電圧を出力するときのバッテリ残容量)との関係には、バッテリの温度や内部抵抗がパラメータとして関わっていてもよい。バッテリの温度や内部抵抗も加味してフル電圧とフル容量の関係を特定することで、リセット処理時のバッテリ残容量の初期値(フル電圧のときのフル容量)をより正確に定めることができる。
【0074】
第1実施例の燃料電池車2は、リセット処理を禁止するスイッチ36(
図1参照)を備えていてもよい。スイッチ36は制御器30に接続されており、ユーザがスイッチ36をOFFにすると、制御器30は、いかなる場合であってもリセット処理を実行しない。ユーザがスイッチ36をONにすると、
図2-
図4のフローチャートに従ってリセット処理が実行可能となる。スイッチ36を備えることで、ユーザの判断でリセット処理を禁止することができる。第2実施例の燃料電池車2a、2bが、リセット処理を禁止するスイッチを備えていてもよい。
【0075】
あるいは、燃料電池車2、2a、2bは、燃料電池車のメインスイッチが入れられてから所定の距離を走行するまでは、リセット処理を禁止してもよい。所定の距離は、ナビゲーションシステム等を介してユーザが任意に設定可能であるとよい。
【0076】
第2実施例の燃料電池車2aは、2個のバッテリと2個のFCを備えている。本明細書が開示する技術は、3個以上のバッテリと3個以上のFCを備えていてもよい。その場合、いずれか2個のバッテリといずれか2個のFCが第2実施例の関係(2個のバッテリに対して交互にリセット処理が行われること)を満たしていればよい。
【0077】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0078】
2、2a:燃料電池車 3:インバータ 4:モータ 5:デファレンシャルギア 6:車輪 7:車速センサ 8:ブレーキ 11、21:バッテリ 12、22:燃料電池 13、23:補機 14、15、24、25:電圧センサ 16、17、26、27:電流センサ 18、28:リレー 30、130:制御器 31:アクセルセンサ 32:ブレーキセンサ 33:GPSレシーバ 34:記憶装置 35:ノイズセンサ 40:冷凍機 41:温度センサ