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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006713
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】船舶用省エネ装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 1/40 20060101AFI20240110BHJP
   B63B 1/08 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B63B1/40 Z
B63B1/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107869
(22)【出願日】2022-07-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】522268672
【氏名又は名称】曾 翌維
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曾 翌維
(57)【要約】      (修正有)
【課題】船舶への実施が容易且つ造波抵抗を顕著に低減できる船舶用省エネ装置を提供すること。
【解決手段】航海速力がFN(フルード数)0.13~0.5の排水量型船舶の船尾部に設置する付加部材を備え、前記付加部材が前記船尾部に密接に当接し、且つ前記船舶の船尾端のほぼ全幅にわたって分布され、前記付加部材は前記船尾部に密接に当接する箇所から延伸形成し、且つ前記付加部材の下方は水平面を呈し、前記水平面は満載計画喫水線面の上に位置し、前記満載計画喫水線から最大1.5%Lpp(垂線間長さ)の距離にあることを特徴とする、船舶用省エネ装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航海速力がFN(フルード数)0.13~0.7の排水量型船舶の船尾部に設置する付加部材を備え、
前記付加部材は前記船尾部に密接に当接し、前記船舶の船尾端に設置され、
前記付加部材は前記船尾部に密接に当接する箇所から延伸形成し、且つ前記付加部材の下方が水平面を呈し、
前記水平面の位置は満載計画喫水線面の上に位置し、前記満載計画喫水線の位置から最大1.5%Lpp(垂線間長さ)の距離にあることを特徴とする、
船舶用省エネ装置。
【請求項2】
前記付加部材は前記船舶の船尾端において船舶の幅方向にわたって形成され、
前記船尾部の幅に対する付加部材の幅は船尾部の幅3分の1から全幅である、
請求項1に記載の船舶用省エネ装置。
【請求項3】
前記付加部材において、前記水平面で船首に最も近い密接点から前記船舶から最も遠い前記水平面の端点までの前記水平面の延伸長さ範囲Lが、3%Lpp≦L≦20%Lppである、
請求項1に記載の船舶用省エネ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶への抵抗を低減させエネルギーを節約する船舶用省エネ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶による海上輸送はグローバルな経済活動を行う上で欠かせないものだが、世界的な海運需要の増加に伴い、船舶を航行するためのエネルギー需要も看過できなくなった。そのため、いかに船舶のエネルギー消費量を削減するかが長年の課題であり、船体抵抗の低減に着目し、省エネ効果を得る発明がすでに開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
船舶航行時、船体周辺に生じる波は船体抵抗の主要因の1つで、造波抵抗とも呼ばれる。船尾波は船速の上昇に伴い顕著に増大するが、同時に造波抵抗も増大し、船舶の航行を妨げ、船舶の航行により多くのエネルギーが必要となる。現在よく見られる解決手段としては、特許文献1のように船尾に付属物を装着する方法、又は船体に特殊な形状を設けて船体周辺の波の流れを良くする方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55-83677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のような船尾に装着する付属物を一般商船(航海速力がフルード数0.2~0.4の排水量型船舶)に応用した場合、前記付属物が基本的に喫水線の下に位置するため、比較的低速で航行すると、前記付属物を装着することで増加した摩擦抵抗が減少させた造波抵抗よりも大きくなる。したがって、付属物を船尾に装着することで得られる効果は、高速船に応用した場合ほど好ましくない。一方、船体に特殊な形状を設ける方法については、形状が複雑なため実現が困難、造波抵抗を低減させる効果が不十分、既存船舶への実施が容易でないなどの課題が存在する。
【0006】
本発明の目的は、前記先行技術の課題を鑑み、船舶への実施が容易且つ造波抵抗を顕著に低減できる船舶用省エネ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の船舶用省エネ装置は、航海速力がFN(フルード数)0.13~0.5の排水量型船舶の船尾部に設置する付加部材を備え、前記付加部材は前記船尾部に密接に当接し、且つ前記船舶の船尾端のほぼ全幅にわたって分布され、前記付加部材は前記船尾部に密接に当接する箇所から延伸形成され、且つ前記付加部材の下方は水平面を呈し、前記水平面は満載計画喫水線面の上に位置し、前記満載計画喫水線から最大1.5%Lpp(垂線間長さ)の距離にあることを特徴とする。
【0008】
本発明の船舶用省エネ装置によれば、本発明の付加部材は満載計画喫水線面上に設置されるため、船舶の形状抵抗をさらに増加させることなく、造波抵抗を低減できる。また、本発明は付加部材を装着することで造波抵抗を低減し、省エネ効果を得るものであり、船体形状を設計することに比べて実施しやすくで、任意な形状の船舶においても造波抵抗を低減する点でプラスの効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態の側面図である。
図2】本発明の実施形態の斜視図である。
図3】本発明の変形例の側面図である。
図4】本発明の変形例の斜視図である。
図5】周知のトランサムスターン型船舶の船尾部を示したものである。
図6】本発明の実施形態と比較例の航行時における全抵抗曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明を行う。
【0011】
図1は、本発明の実施形態の側面図である。図1に示すように、実施形態の船舶用省エネ装置1は付加部材10を船舶の船尾部2に装着することにより構成されている。実施形態の船舶用省エネ装置1は、付加部材10が船尾部2に密接に当接し、且つ船舶の船尾端2aのほぼ全幅に亘るよう構成されている。付加部材10は、船尾部2に密接に当接する箇所から船舶の外側に向かって延伸形成し、且つ付加部材10の下方は水平面11を呈している。水平面11の位置は満載計画喫水線WL面の上に位置し、満載計画喫水線WLとほぼ同じ高さ又は満載計画喫水線WLの位置から最大1.5%Lpp(垂線間長さ)の距離にある。
【0012】
付加部材10の水平面11の延伸長さ範囲Lは、図1に示す通りの範囲であってもよく、また、図2に示すように、船舶の船型及びその満載計画喫水線WLに応じて、付加部材10の設置位置や設置形式が異なるため、付加部材10の水平面11は必ずしも船尾端の下端の位置に合わせなくてもよい。したがって、水平面11の延伸長さ範囲Lは、水平面11で船首に最も近い密接点から船舶から最も遠い水平面11の端点までとすることができ、その範囲は3%Lpp≦L≦20%Lppの距離が好ましい。
【0013】
図2は、実施形態の斜視図である。図2に示すように、付加部材10は船舶の船殻曲面に合わせて密接に当接し、付加部材10は船尾端2aのほぼ全幅に亘るよう構成され、船尾部2とほぼ同じ幅となっている。しかし本発明の態様はこれに限らず、付加部材10は前記船舶の船尾端2aにおいて船舶の幅方向に設けられ、船尾部2の幅に対する付加部材10の幅は、船尾部2の幅3分の1から全幅までとすることができる。また、図1及び図2では、船尾部2への固定を強固にし、船尾波を完全に抑制するため、付加部材10と船舶の船殻曲面の境界部が船体両側へ延伸する様子が示されている。付加部材10が船体に密接する部分の形状や長さは、船体の曲面形状や付加部材10の大きさにより適宜設定されるため、本発明における船舶へ固定される態様は図面に示す例に制限されるものではない。当業者であればわかるように、本発明の実施において、水平面11を設け、造波抵抗を低減させる効果が得られるものであれば、様々な変更を行うことができ、図面及び実施形態の示す数値が唯一の制限条件ではない。
【0014】
本発明の実施形態は一般商船に適用され、また一般商船は通常、航海速力がフルード数0.2~0.4の排水量型船舶と定義されている。しかしフルード数を基準とした場合、本発明の実施形態を応用できる船舶の上下限はこれに制限されない。具体的には、本発明の実施形態はフルード数が0.13~0.5の船舶に適用することができる。
【0015】
また、付加部材10は、付加部材10の水平面11が満載計画喫水線WLより上に位置するよう設置されている。図1、2の実施形態では、水平面11が船尾端2aの下端点の位置に合わせるよう設置されているが、水平面11が満載計画喫水線WLより上に設置されていれば、これに限定されない。具体的に、図3及び図4を参照しながら説明する。図3は本発明の変形例の側面図であり、本変形例の構成は基本的に実施形態と同様の構成である。本変形例では、船尾端2aの下端が満載計画喫水線WLの下に位置しているため、付加部材10は、水平面11を船尾端2aの下端から設計満載喫水線WLの上の位置まで上に移動させるよう、設置されている。つまり、付加部材10の設置位置は、装着する船舶の満載計画喫水線WLに合わせ適宜設定される。
【0016】
[コンピュータを用いた数値波動水槽の分析及び検証]
以下、コンピュータを用いた数値波動水槽の分析及び検証によって、本実施形態について、その抵抗低減効果を一般的な船舶及び先行技術と比較する。前記数値波動水槽は熱流体解析(CFD)ソフトウェアにより構築されたものである。図6は、実施形態と比較例の航行時における全抵抗曲線図である。図6において、比較例1は船尾に付属物を装着していない周知の船舶(例えば、図5に示すような船舶)を表し、比較例2は特許文献1のような付属物の少なくとも一部が満載計画喫水線WLより下に位置する先行技術を表している。
【0017】
図6に示すように、本発明の実施形態は船速に関係なく、その全抵抗は付属物を装着していない比較例1及び付属物が喫水線の下に位置する比較例2より小さくなっている。
【0018】
また、比較例2のような付属物が喫水線の下に位置する先行技術の場合、造波抵抗はある程度低減できるものの、付属物が喫水線の下になければ作用しないため、前記付属物による形状抵抗が生じる。比較例2は高速航行時、抵抗低減のプラス効果がマイナスよりも大きくなるため、正味の抵抗低減効果を有するが、低速では造波抵抗の割合が減少し、マイナス効果がプラスより大きくなるため、かえって全抵抗が増加する。すなわち、比較例2などの周知構造において抵抗低減効果が得られるのは高速の場合に限られ、低速ではむしろ逆効果となるほか、実際の船舶航行時は常に高速状態ではないため、その全体的な効果は大幅に減少する。図6から明らかなように、低速区域において比較例2の全抵抗が比較例1より大きくなっているが、一方で実施形態は低速区域でも依然として抵抗低減効果を備えており、このことから本発明装置の全体的な抵抗低減効果がより優れたものであることが分かる。
【0019】
本発明の装置は船体後部を離れた波頭を抑制するもので、その作用メカニズムは船尾波から始まり、波の位置エネルギーを圧力エネルギーに変換し、船尾部に逆方向へ作用させて圧力回収効果を生み、抵抗を低減する。本発明はプラスの圧力回収のみを有し、マイナスの形状抵抗の増加はない。本発明は高速時に生じる抵抗低減効果が比較的優れているほか、低速又は喫水がやや低い低負荷状態において、小波が本発明装置と非接触又は略接触であるため、本発明装置は低速時にさらなる形状抗力を生じない。したがって、本発明は全ての船速域でプラス効果をもたらすほか、全体的な抵抗低減効果、実用性、省エネ効果に優れている。
【0020】
また、船体に特殊な形状を施す場合と比較すると、通常造船の技術分野では、船体形状により船体が受ける形状抵抗を低減しようとした場合、その形状が船尾部の圧力回復値を高めてしまう。船尾部の圧力が高いと、船尾造波から形成される抵抗が増加し、エネルギーの浪費に繋がる。船体形状の設計では、形状抵抗と造波抵抗が対立関係にあるため、設計上両者の間で妥協点を見つけるほかない。
【0021】
本発明の装置により、船体形状の設計は造波抵抗が増加してしまう問題を考慮せずに、形状抵抗を低減する目的を最大限達成することができる。本発明の装置により船尾部の圧力が高いために起こる船尾波の上昇を抑制し、圧力回収へ変換し、造波抵抗を低減する。よって、本発明の船舶用省エネ装置を使用した船舶形状の設計は、抵抗低減効果を最大限発揮するほか、全抵抗を低減することが可能である。
【0022】
また、本発明は喫水線より上に位置するため、喫水が浅い船舶にも本発明装置の設置施工ができるほか、船舶を入渠させる必要がないため、施工時間も短縮することができる。このように設置の難易度やコストが大幅に下がることで、実施しやすくなる。
【符号の説明】
【0023】
1:船舶用省エネ装置
2:船尾部
2a:船尾端
10:付加部材
11:水平面
WL:喫水線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航海速力がFN(フルード数)0.13~0.7の排水量型船舶の船尾部に設置された付加部材を備え、
前記付加部材は前記船尾部に密接に当接し、前記船舶の船尾端に設置され、
前記付加部材は前記船尾部に密接に当接する箇所から延伸形成し、且つ前記付加部材の下方が水平面を呈し、
前記水平面の位置は満載計画喫水線面の上に位置し、前記満載計画喫水線の位置から最大1.5%Lpp(垂線間長さ)の距離にあることを特徴とする、
船舶用省エネ装置。
【請求項2】
前記付加部材は前記船舶の船尾端において船舶の幅方向にわたって形成され、
前記船尾部の幅に対する付加部材の幅は船尾部の幅3分の1から全幅である、
請求項1に記載の船舶用省エネ装置。
【請求項3】
前記付加部材において、前記水平面で船首に最も近い密接点から前記船舶から最も遠い前記水平面の端点までの前記水平面の延伸長さ範囲Lが、3%Lpp≦L≦20%Lppである、
請求項1に記載の船舶用省エネ装置。