(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067149
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】管状火炎を用いたα-アルミナを含むアルミナ粒子の製法
(51)【国際特許分類】
C01F 7/30 20220101AFI20240510BHJP
【FI】
C01F7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022176986
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】308010365
【氏名又は名称】カヤク・ジャパン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門脇 範人
(72)【発明者】
【氏名】一宮 聖
(72)【発明者】
【氏名】村田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】福井 里望
(72)【発明者】
【氏名】鴇田 淳哉
(72)【発明者】
【氏名】荻 祟
(72)【発明者】
【氏名】平野 知之
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB06
4G076AB07
4G076AB08
4G076BA31
4G076BA38
4G076BB01
4G076BB08
4G076CA02
4G076CA40
4G076FA02
4G076FA05
(57)【要約】
【課題】高精度に制御して短時間で製造が可能な、火炎法を用いたα-アルミナを含むアルミナ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】α-アルミナを含有するアルミナ粒子の製造方法であって、アルミニウム塩および還元剤を溶媒に溶解させた原料液の液滴を管状火炎に導入し粒子化することを含み、管状火炎の形成に、空気である助燃ガスにメタンである気体燃料を混合させた混合ガスを用い、空気内の酸素とメタンの比率が2.40未満の条件で管状火炎を形成させる製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-アルミナを含有するアルミナ粒子の製造方法であって、
アルミニウム塩および還元剤を溶媒に溶解させた原料液の液滴を管状火炎に導入し粒子化することを含み、
前記管状火炎の形成に、空気である助燃ガスにメタンである気体燃料を混合させた混合ガスを用い、空気内の酸素とメタンの比率が2.40未満の条件で前記管状火炎を形成させる、製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム塩が、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、または硫酸アルミニウムである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒が、有機溶剤または水を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤が、エタノール、イソプロパノール、またはアセトンである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記還元剤が、尿素またはグリシンである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記アルミナ粒子のX線回折法(XRD)で求めたα-アルミナのピーク強度(2θ:43°)のδ-アルミナのピーク強度(2θ:46°)に対する比(α/δ)が、0.5倍以上である、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状火炎を用いたα-アルミナを含むアルミナ粒子の製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
α-酸化アルミニウム(α-アルミナ)は、一般的に硬く、化学安定性、機械的強度が良いなどの優れた諸性質を持っていることから現在、研磨材、触媒担体、セラミック材料など幅広い産業分野で用いられている無機材料の一つである。
【0003】
α-アルミナは、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウムやベーマイトなどの前駆体を1000~1200℃の熱にて熱分解させ、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナといった遷移アルミナを経て得ることができる。一般的な工業的製造方法としても、ギブサイト等の水酸化アルミニウムやベーマイトによる熱分解が主流であるが、1100℃以上の高温で時間をかける必要がある。
【0004】
現状、α-アルミナを含むアルミナ粒子を得るためには、1000~1250℃に焼成する必要がある。通常の焼成炉にて、α-アルミナを合成する場合では、多くのエネルギーが必要となるほか、焼成温度までの時間や焼成時間といった時間的コストも多くかかるという問題がある。
【0005】
一方、火炎を用いた噴霧熱分解法による気相燃焼合成では、焼成温度まで待つ必要もなく火炎形成がなされれば合成が可能となる。火炎形成は、燃料ガスや酸素、空気などと着火源があれば一瞬で形成できることから時間的コストがかからない。また、前駆体水溶液が噴霧されてから微粒子が捕集されるまで時間的コストも大きくかからない。火炎を用いた微粒子合成法である噴霧熱分解法で用いられる従来の火炎は、燃料と酸素を別々の流路にて形成する拡散火炎や噴霧された原料液滴をパイロット火炎を用いて連続的に着火する噴霧火炎であるが、火炎状態が不安定な乱流火炎であった。
【0006】
噴霧熱分解法による気相燃焼合成は、支持炎内に前駆体となる金属塩の溶液を噴霧させることにより、火炎の熱エネルギーや溶媒の燃焼エネルギーにより金属酸化物を得る方法である。この火炎法は、装置が簡便かつ純度の高いものが得られる方法である。通常の噴霧熱分解法に用いられるバーナーは、二流体ノズルにより液体燃料を噴霧し、噴霧火炎を形成するものであったが、特許文献1において高温領域が均一に幅広く分布しており制御がしやすい管状火炎を形成するバーナーによる微粒子合成が提案されている。
【0007】
乱流火炎は、安定な火炎ではなく高精度に制御して微粒子合成を行うことは困難である。一方、管状火炎は、高温領域が均一に幅広く分布しており制御がしやすく微粒子合成が行える特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した従来のα-アルミナを含むアルミナ粒子の製造方法における欠点を解消し、高精度に制御して短時間で製造が可能な、火炎法を用いたα-アルミナを含むアルミナ粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討をした結果、管状火炎の形成に用いる混合ガス中の酸素とメタンの比率を特定範囲内に制御し、前駆体となるアルミニウム塩および還元剤を溶媒に溶解させた前駆体溶液を管状火炎に噴霧することで、α-アルミナを含有するアルミナ粒子を短時間で製造できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は
(1)α-アルミナを含有するアルミナ粒子の製造方法であって、
アルミニウム塩および還元剤を溶媒に溶解させた原料液の液滴を管状火炎に導入し粒子化することを含み、前記管状火炎の形成に、空気である助燃ガスにメタンである気体燃料を混合させた混合ガスを用い、空気内の酸素とメタンの比率が2.40未満の条件で前記管状火炎を形成させる製造方法、
(2)前記アルミニウム塩が、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、または硫酸アルミニウムである、(1)に記載の製造方法、
(3)前記溶媒が有機溶剤または水を含む、(1)に記載の製造方法、
(4)前記有機溶剤が、エタノール、イソプロパノール、またはアセトンである、(3)に記載の製造方法、
(5)前記還元剤が、尿素またはグリシンである、(1)に記載の製造方法、
(6)前記アルミナ粒子のX線回折法(XRD)で求めたα-アルミナのピーク強度(2θ:43°)のδ-アルミナのピーク強度(2θ:46°)に対する比(α/δ)が、0.5倍以上である、(1)に記載の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0012】
乱流火炎は、温度分布が不均一である一方、管状火炎は、高温領域が広く均一な火炎を形成可能であることから、本発明のα-アルミナを含むアルミナ粒子の製造方法により、焼成を実施するよりも短時間で製造が可能となりながら、従来の乱流火炎の際には得ることのできなかったα-アルミナを含有するアルミナ粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に対する比較例および本発明を適用したα-アルミナを含有するアルミナ粒子の製法において、火炎状態、エタノール量、メタン量、空気量、酸素とメタン比を各種変更して得られたアルミナ粒子のX線回折装置による分析結果を示す図である。
【
図2】拡散火炎(A)と管状火炎(B)それぞれの装置概要である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の製造方法を詳細に説明する。本発明は、管状火炎を用いたα-アルミナを含有するアルミナ粒子の製法に関するものである。本発明のα-アルミナを含有するアルミナ粒子の製法は、管状火炎を用いることにより、従来の電気炉等による焼成にかかる時間を低減し、また、従来の乱流火炎の際には得ることのできなかったα-アルミナを得ることができるという利点がある。
【0015】
本発明のα-アルミナを含有するアルミナ粒子の製造方法は、アルミニウム塩および還元剤を溶媒に溶解させた原料液の液滴を管状火炎に導入し粒子化することを含み、前記管状火炎の形成に、空気である助燃ガスにメタンである気体燃料を混合させた混合ガスを用い、空気内の酸素とメタンの比率が2.40未満の条件で前記管状火炎を形成させることを特徴とする。
【0016】
本発明において、α-アルミナの前駆体となるアルミニウム塩として、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム等が用いられ得るが、好ましくは、硝酸アルミニウムが用いられる。
【0017】
本発明において、還元剤として、尿素、グリシン等が用いられ得るが、好ましくは、尿素が用いられる。
【0018】
本発明において、アルミニウム塩を溶解させる溶媒は、有機溶剤または水を含むものを使用することができ、有機溶剤として、エタノール、イソプロパノール、アセトン等が用いられ得るが、好ましくは、エタノールが用いられる。
【0019】
本発明の製造方法において用いる管状火炎は、燃焼室内に吹き込まれる予混合ガスにより発生する旋回気流にて形成される管状の火炎である。
【0020】
本発明の製造方法においては、例えば、
図2(B)に示されるような装置を使用して、α-アルミナの前駆体となるアルミニウム塩を溶媒に溶解させた前駆体溶液(原料液)の液滴を管状火炎に噴霧して導入し、得られた粒子を捕集することで、α-アルミナを含有するアルミナ粒子が得られる。
【0021】
管状火炎の形成には、空気である助燃ガスにメタンである気体燃料を混合させた混合ガスを用いることができ、例えば、メタン量として、22.3L/min以上が用いられ得るが、好ましくは、27.0L/min以上であり、空気内酸素量として、53.3L/min以上が用いられ得るが、好ましくは54.7L/min以上である。酸素とメタンの比率として、2.40未満が用いられるが、好ましくは、2.03以下であり、より好ましくは2.03以下1.66以上である。上記の範囲内であると、所望のα-アルミナを含有するアルミナ粒子が得られる。火炎は、量論比から離れるほど伸びるためO2/CH4比が量論比を外れ、小さくなるほど火炎が伸びる。その分捕集機に影響がある場合がある。
【実施例0022】
本発明を、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。以下に実施例を示す。なお、拡散火炎および管状火炎を用いたアルミナ粒子の製造は、それぞれ、
図2の(A)および(B)に示される装置を用いておこなった。
(実施例1)
硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬工業(株)製)7.5gと尿素(和光純薬工業(株))3.0gをエタノール140mLと水60mLを混合したエタノール水に加え調製した前駆体溶液をメタン量27.0L/min、空気量261.0L/min(酸素量:54.7L/min)にて予混合させ着火し、形成されてある管状火炎内に噴霧し捕集機にて回収した。
(実施例2)
硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬工業(株)製)37.5gと尿素(和光純薬工業(株))15gをエタノール140mLと水60mLを混合したエタノール水に加え調製した前駆体溶液をメタン量27.0L/min、空気量261.0L/min(酸素量:54.7L/min)にて予混合させ着火し、形成されてある管状火炎内に噴霧し捕集機にて回収した。
(実施例3)
硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬工業(株)製)37.5gと尿素(和光純薬工業(株))15gをエタノール20mLと水180mLを混合したエタノール水に加え調製した前駆体溶液をメタン量27.0L/min、空気量261.0L/min(酸素量:54.7L/min)にて予混合させ着火し、形成されてある管状火炎内に噴霧し捕集機にて回収した。
(実施例4)
硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬工業(株)製)37.5gと尿素(和光純薬工業(株))15gをエタノール140mLと水60mLを混合したエタノール水に加え調製した前駆体溶液をメタン量32.4L/min、空気量256.2L/min(酸素量:53.7L/min)にて予混合させ着火し、形成されてある管状火炎内に噴霧し捕集機にて回収した。
(比較例1)
硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬工業(株)製)7.5gと尿素(和光純薬工業(株))15gをエタノール100mLと水100mLを混合したエタノール水に加え調製した前駆体溶液をメタン量5.0L/min、空気量10.0L/minにて着火し、形成されてあるブンゼンバーナーの拡散火炎内に噴霧し捕集機にて回収した。
(比較例2)
硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬工業(株)製)37.5gをエタノール140mLと水60mLを混合したエタノール水に加え調製した前駆体溶液をメタン量27.0L/min、空気量261.0L/min(酸素量:54.7L/min)にて予混合させ着火し、形成されてある管状火炎内に噴霧し捕集機にて回収した。
(比較例3)
硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬工業(株)製)37.5gと尿素(和光純薬工業(株))15gをエタノール140mLと水60mLを混合したエタノール水に加え調製した前駆体溶液をメタン量22.2L/min、空気量266.4L/min(酸素量:55.8L/min)にて予混合させ着火し、形成されてある管状火炎内に噴霧し捕集機にて回収した。
【0023】
実施例および比較例で得られたアルミナ粒子について、リガク製X線回折装置を用いて、XRDピークを検出して、2θ=43°(α-アルミナピーク)、46°(δ-アルミナピーク)の最大強度を算出し、強度によりα-アルミナピーク強度/δ-アルミナピーク強度としてα/δ比を求めた。
【0024】
上述の実施例および比較例の製造条件およびα/δ比を表1に示す。また、得られたアルミナ粒子のX線回折装置による分析結果を
図1に示す。
【0025】
【0026】
表1、
図1の結果から明らかなように、比較例1においては、拡散火炎を用いているので管状火炎よりも熱損失が大きく噴霧された前駆体液滴に与えられるエネルギー量が少ないことから、α-アルミナの生成は確認できない結果であった。これに対し、管状火炎を用いた実施例1では、α-アルミナの生成が確認された。比較例2においては、還元剤を含んでいない前駆体溶液を噴霧させたが、酸化剤でもある硝酸アルミニウムとの酸化還元反応による熱発生がないことからα-アルミナが生成しない結果となった。また、比較例3においては、酸素とメタン比を変え、酸素過多とした火炎状態では、α-アルミナが生成しないことが確認された。そして、酸素とメタン比が2.03となる実施例2、3の火炎状態では、α-アルミナが確認され、また、酸素とメタン比が1.66とメタン過多の火炎状態では、α-アルミナの生成が確認された。
【0027】
本発明の製造方法によれば、α/δ比が0.5倍以上あるようなα-アルミナを含有するアルミナ粒子を製造することができる。