(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067159
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】習熟レベル判定装置、習熟レベル判定方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 19/00 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
G09B19/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177007
(22)【出願日】2022-11-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】506142716
【氏名又は名称】株式会社Z会
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 淳
(72)【発明者】
【氏名】上田 倫也
(57)【要約】
【課題】判定器による習熟レベルの判定結果である判定レベルの精度を知ることができる習熟レベル判定装置を提供する。
【解決手段】習熟レベル判定装置は、習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データを学習データとし各問題に専属して習熟レベルを判定する各判定器を学習する判定器学習部と、各問題に専属する各判定器によりテストデータに基づいて判定された判定レベル毎にラベル分布を生成する問題・判定レベル毎ラベル分布生成部と、ラベルが付与されていない所定の解答者における所定の問題の答案データに基づいて専属する判定器により習熟レベルを判定する習熟レベル判定部と、所定の問題における判定レベルに対応するラベル分布のばらつき度合いを示す指標に基づいて所定の解答者における習熟レベル判定の終了判定を実行する終了判定部を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データを学習データとし、各問題に専属して習熟レベルを判定する各判定器を学習する判定器学習部と、
習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データのうち、学習データを含まない答案データをテストデータとし、問題毎に、各問題に専属する各判定器により、テストデータに基づいて判定された習熟レベル(以下、判定レベル)毎に、テストデータに付与されているラベルの分布(以下、ラベル分布)を生成する問題・判定レベル毎ラベル分布生成部と、
ラベルが付与されていない所定の解答者における所定の問題の答案データに基づいて、専属する判定器により習熟レベルを判定する習熟レベル判定部と、
所定の問題における判定レベルに対応するラベル分布のばらつき度合いを示す指標に基づいて所定の解答者における習熟レベル判定の終了判定を実行する終了判定部を含む
習熟レベル判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の習熟レベル判定装置であって、
ラベル分布のばらつき度合いとは、ラベル分布の分散である
習熟レベル判定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の習熟レベル判定装置であって、
解答者Rが、問題1、…、問題Kについて回答し、問題k(k=1、…、K)の答案データに対する判定器kの判定レベルに対応するラベル分布をXkとするとき、X1、…、XKの平均値(X1+…+XK)/Kの平均値E((X1+…+XK)/K)および分散V((X1+…+XK)/K)をそれぞれ、累積の平均値、累積の分散と呼ぶものとし、
終了判定部は、
複数の問題における判定レベルに対応する複数のラベル分布の累積の分散が所定の閾値よりも低い場合に、習熟レベル判定を終了と判定する
習熟レベル判定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の習熟レベル判定装置であって、
解答者Rが、問題1、…、問題Kについて回答し、問題k(k=1、…、K)の答案データに対する判定器kの判定レベルに対応するラベル分布をXkとするとき、X1、…、XKの平均値(X1+…+XK)/Kの平均値E((X1+…+XK)/K)および分散V((X1+…+XK)/K)をそれぞれ、累積の平均値、累積の分散と呼ぶものとし、 終了判定部は、
複数の問題における判定レベルに対応する複数のラベル分布から得られる累積の平均値と累積の分散を用いて計算した所定の信頼区間に整数値が1つのみ含まれる場合に、習熟レベル判定を終了と判定する
習熟レベル判定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の習熟レベル判定装置であって、
解答者Rが、問題1、…、問題Kについて回答し、問題k(k=1、…、K)の答案データに対する判定器kの判定レベルに対応するラベル分布をXkとするとき、X1、…、XKの平均値(X1+…+XK)/Kの平均値E((X1+…+XK)/K)および分散V((X1+…+XK)/K)をそれぞれ、累積の平均値、累積の分散と呼ぶものとし、 所定の解答者における所定の問題の判定レベルに対応するラベル分布の平均二乗誤差が最も小さい問題、または累積の平均値の値に最も近い判定レベルのラベル分布の平均二乗誤差が最も小さい問題を所定の解答者に対して次に出題する問題と設定する出題順最適化部を含む
習熟レベル判定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の習熟レベル判定装置であって、
終了判定部は、
所定の問題における最小、または最大の判定レベルに対応するラベル分布の平均値、およびばらつき度合いを示す指標を他の判定レベルに対応するラベル分布と近似するように補正する
習熟レベル判定装置。
【請求項7】
習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データを学習データとし、各問題に専属して習熟レベルを判定する各判定器を学習する判定器学習部と、
習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データのうち、学習データを含まない答案データをテストデータとし、問題毎に、各問題に専属する各判定器により、テストデータに基づいて判定された習熟レベル(以下、判定レベル)毎に、テストデータに付与されているラベルの分布(以下、ラベル分布)を生成する問題・判定レベル毎ラベル分布生成部と、
ラベルが付与されていない所定の解答者における所定の問題の答案データに基づいて、専属する判定器により習熟レベルを判定し、判定レベルに対応するラベル分布の統計指標を生成して出力する習熟レベル判定部を含む
習熟レベル判定装置。
【請求項8】
請求項7に記載の習熟レベル判定装置であって、
解答者Rが、問題1、…、問題Kについて回答し、問題k(k=1、…、K)の答案データに対する判定器kの判定レベルに対応するラベル分布をXkとするとき、X1、…、XKの平均値(X1+…+XK)/Kの平均値E((X1+…+XK)/K)および分散V((X1+…+XK)/K)をそれぞれ、累積の平均値、累積の分散と呼ぶものとし、
習熟レベル判定部は、
判定レベルに対応するラベル分布の統計指標として、累積の平均値と累積の分散を生成して出力する
習熟レベル判定装置。
【請求項9】
習熟レベル判定装置が実行する習熟レベル判定方法であって、
習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データを学習データとし、各問題に専属して習熟レベルを判定する各判定器を学習するステップと、
習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データのうち、学習データを含まない答案データをテストデータとし、問題毎に、各問題に専属する各判定器により、テストデータに基づいて判定された習熟レベル(以下、判定レベル)毎に、テストデータに付与されているラベルの分布(以下、ラベル分布)を生成するステップと、
ラベルが付与されていない所定の解答者における所定の問題の答案データに基づいて、専属する判定器により習熟レベルを判定するステップと、
所定の問題における判定レベルに対応するラベル分布のばらつき度合いを示す指標に基づいて所定の解答者における習熟レベル判定の終了判定を実行するステップを含む
習熟レベル判定方法。
【請求項10】
コンピュータを請求項1から8の何れかに記載の習熟レベル判定装置として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解答者の習熟レベルを判定する習熟レベル判定装置、習熟レベル判定方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に、網羅的な学習データを必要とせず、現在の学力を精度よく推定する学力推定用モデルを生成することができる学力推定用モデル生成装置が開示されている。特許文献1の学力推定用モデル生成装置は、予め定めた複数の問題からなる問題群に解答した複数人の解答者が各問題を正解または不正解したことを示す正誤情報を教師データとして、決定木を生成する決定木生成部と、生成された決定木の末端である葉ノードが示す分類結果のエントロピーが所定値以下である場合に該当する葉ノードを消去する枝刈部と、葉ノード消去後の決定木の新たな末端のそれぞれを何れかの解答者が属するカテゴリとするカテゴリ生成部を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、学力を推定するモデルによる学力推定はどの程度信頼できるか分からないという課題があった。
【0005】
そこで本発明では、判定器による習熟レベルの判定結果である判定レベルの精度を知ることができる習熟レベル判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の習熟レベル判定装置は、判定器学習部と、問題・判定レベル毎ラベル分布生成部と、習熟レベル判定部と、終了判定部を含む。
【0007】
判定器学習部は、習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データを学習データとし、各問題に専属して習熟レベルを判定する各判定器を学習する。問題・判定レベル毎ラベル分布生成部は、習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データのうち、学習データを含まない答案データをテストデータとし、問題毎に、各問題に専属する各判定器により、テストデータに基づいて判定された習熟レベル(以下、判定レベル)毎に、テストデータに付与されているラベルの分布(以下、ラベル分布)を生成する。習熟レベル判定部は、ラベルが付与されていない所定の解答者における所定の問題の答案データに基づいて、専属する判定器により習熟レベルを判定する。終了判定部は、所定の問題における判定レベルに対応するラベル分布のばらつき度合いを示す指標に基づいて所定の解答者における習熟レベル判定の終了判定を実行する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の習熟レベル判定装置によれば、判定器による習熟レベルの判定結果である判定レベルの精度を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の習熟レベル判定装置の機能構成を示すブロック図。
【
図2】実施例1の習熟レベル判定装置の判定器学習動作を示すフローチャート。
【
図3】実施例1の習熟レベル判定装置のラベル分布生成動作を示すフローチャート。
【
図4】問題毎、判定レベル毎に生成されたラベル分布の例を示す図。
【
図5】実施例1の習熟レベル判定装置の終了判定動作を示すフローチャート。
【
図6】終了判定に累積の分散を用いる例について説明する図。
【
図7】終了判定に信頼区間を用いる例について説明する図。
【
図8】実施例1の習熟レベル判定装置の出題順最適化動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例0011】
以下、
図1を参照して、実施例1の習熟レベル判定装置の機能構成を説明する。同図に示すように、本実施例の習熟レベル判定装置1は、判定器学習部100と、判定器記憶部105と、問題・判定レベル毎ラベル分布生成部110と、ラベル分布記憶部115と、習熟レベル判定部120と、終了判定部125と、出題順最適化部130を含む。以下、
図2を参照して、習熟レベル判定装置1の判定器学習動作を説明する。
【0012】
<判定器学習動作>
判定器学習部100は、習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データを学習データとし、各問題に専属して習熟レベルを判定する各判定器を学習する(S100)。判定器記憶部105は学習された各判定器を記憶する(S105)。
【0013】
≪答案データ≫
答案データとして、例えば英作文の問題、英語の読解問題などが考えられる。答案は英語以外の教科であってもよい。例えば、数学、国語、社会、理科の問題に対する答案であってもよい。
【0014】
≪習熟レベル≫
習熟レベルは、例えばレベル1(低評価)~レベル5(高評価)の5段階とすることができる。この他にも、A+~A-,B+~B-,C+~C-,D+~D-,Fの13段階としてもよいし、1~10の10段階としてもよいし、0~100点満点の方式としてもよい。以下の実施例においては、レベル1(低評価)~レベル5(高評価)の5段階の例を用いて説明する。
【0015】
≪習熟レベルの評価対象≫
習熟レベルの評価対象は、その教科全体に対する評価であってもよいし、その教科の特定の出題分野に対する評価であってもよい。例えば英作文の問題を出題する場合、習熟レベルとして英作文能力全般についてを評価対象としてもよいし、例えば出題範囲が決められている(特定の文法規則等を使用することが決められている)場合には、該当する出題範囲の英作文能力のみを評価対象としてもよい。
【0016】
≪ラベル付与≫
ラベル付与は、例えば教師、添削者が答案データ毎に習熟レベルを判断し、これを付与することにより実行すればよい。
【0017】
≪学習データ≫
習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による大量の答案データである。後述するテストデータと同じ内容のデータであるが、用途が異なるためテストデータと重複したデータを用いないようにする必要がある。運用上は、ラベルを付与した大量の答案データを所定の割合で分割し、一方を学習データ、他方をテストデータとすればよい。
【0018】
≪判定器の学習≫
判定器は、上述のラベル(習熟レベル)付き答案データを学習データとして教師あり学習によって学習されるモデルであり、前述したように各問題に専属する判定器として学習されるものとする。例えば問題1~Xの計X問の英作文の問題が出題されたものとすると、問題1に専属する判定器1、問題2に専属する判定器2、…、問題Xに専属する判定器Xがそれぞれ学習される。
【0019】
≪判定レベル≫
判定器により判定された習熟レベルを「判定レベル」とも呼称する。
【0020】
≪判定器の判定動作の例≫
例えば、N題の自由英作文の問題が出題された場合、判定器n(n=1、…、N)は、英作文問題nについての解答者Pの答案を入力とし、解答者Pの英作文能力全般についての習熟レベルを判定し、判定レベル(例えば5段階評価の3)を出力する。
【0021】
例えば、M題の分詞構文を使った短い英作文が出題された場合、判定器m(m=1、…、M)は、英作文問題mについての解答者Qの答案を入力とし、解答者Qの分詞構文に関する英作文能力の習熟レベルを判定し、判定レベル(例えば5段階評価の4)を出力する。
【0022】
以下、
図3、
図4を参照して、習熟レベル判定装置1のラベル分布生成動作を説明する。
【0023】
<ラベル分布生成動作>
問題・判定レベル毎ラベル分布生成部110は、習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による答案データのうち、学習データを含まない答案データをテストデータとし、問題毎に、各問題に専属する各判定器により、テストデータに基づいて判定された習熟レベル(以下、判定レベル)毎に、テストデータに付与されているラベルの分布(以下、ラベル分布とも呼称する)を生成する(S110)。ラベル分布記憶部115は、生成されたラベル分布を記憶する(S115)。
【0024】
≪テストデータ≫
習熟レベルをラベルとして付与した複数の解答者による大量の答案データであり、前述した学習データと同じ内容のデータであるが、用途が異なるため学習データと重複したデータを用いないようにする必要がある。学習データを用いて学習した各判定器が出力する判定レベルとテストデータに付与されているラベルとの差分を評価することにより、各判定器の精度を評価することができる。
【0025】
≪ラベル分布≫
前述したようにラベル分布は、問題毎、判定レベル毎に生成される。ラベル分布の例を
図4に示した。例えばテストデータのうち問題1についての複数の解答者の答案データを判定器1により習熟レベル判定した場合、判定レベル3についてのラベル分布は、レベル1のラベルが付与された答案4件、レベル2のラベルが付与された答案18件、レベル3のラベルが付与された答案100件、レベル4のラベルが付与された答案17件、レベル5のラベルが付与された答案4件という分布になっている。この事例において、判定器1は、レベル1、2のラベルが付与された答案22件について、過大と考えられる判定をしており、レベル3のラベルが付与された答案100件(全143件)について適正と考えられる判定をしており、レベル4、5のラベル付与された答案21件について過小と考えられる判定をしていることになる。上述のラベル分布は値がばらついており、このばらつきが少ないほど判定器の性能が高いことを示す。例えば問題2についての判定器2のレベル3についてのラベル分布は、レベル3のラベルが付与された答案が135件(全160件)あり、判定器1のレベル3についてのラベル分布よりもばらつきが少ない。
【0026】
以下、
図5、
図6、
図7を参照して、習熟レベル判定装置1の終了判定動作を説明する。
【0027】
<終了判定動作>
習熟レベル判定部120は、ラベルが付与されていない所定の解答者における所定の問題の答案データに基づいて、専属する判定器により習熟レベルを判定する(S120)。
【0028】
終了判定部125は、所定の問題における判定レベルに対応するラベル分布のばらつき度合いを示す指標に基づいて所定の解答者における習熟レベル判定の終了判定を実行する(S125)。ラベル分布のばらつき度合いとは、例えばラベル分布の分散である。
【0029】
≪終了判定の事例1≫
例えば、終了判定部125は、ラベル分布の分散が所定の閾値よりも低い場合に、習熟レベル判定を終了と判定することができる。
【0030】
例えば、所定の解答者Rにおいて問題1、問題2を順に解いた答案データ(ラベル未付与)について、判定器1、判定器2がそれぞれ解答者Rの習熟レベルを判定したところ、問題1の判定レベルが3、問題2の判定レベルが2になったものとする。この場合、これらに対応するラベル分布のばらつき度合いを表す分散の値はそれぞれ、0.47、0.28となる(
図4の網掛け部を参照)。分散に対して設定する閾値を例えば0.3とすれば、判定器2が条件を満たすことになり、判定器2が出力した判定レベル2を解答者Rの習熟レベル判定結果として出力し、習熟レベル判定を終了とする。この場合、解答者Rは習熟レベル判定のために問題3を解かなくてよいため、解答者Rの負担を軽減することができる。
【0031】
≪終了判定の事例2≫
以下、解答者Rが、問題1、…、問題Kについて回答し、問題k(k=1、…、K)の答案データに対する判定器kの判定レベルに対応するラベル分布をXkとするとき、X1、…、XKの平均値(X1+…+XK)/Kの平均値E((X1+…+XK)/K)および分散V((X1+…+XK)/K)をそれぞれ、累積の平均値、累積の分散と呼ぶものとする。
【0032】
例えば、終了判定部125は、複数の問題における判定レベルに対応する複数のラベル分布の累積の分散が所定の閾値よりも低い場合に、習熟レベル判定を終了と判定することもできる。例えば
図6に示すように、解答者Rの問題1の答案データに対する判定器1の判定レベルが3(対応するラベル分布X
1の平均値E(X
1)=2.99、分散V(X
1)=0.47)、解答者Rの問題2の答案データに対する判定器2の判定レベルが2(対応するラベル分布X
2の平均値E(X
2)=2.16、分散V(X
2)=0.28)、解答者Rの問題3の答案データに対する判定器3の判定レベルが3(対応するラベル分布X
3の平均値E(X
3)=2.95、分散V(X
3)=0.39)である場合に、問題2までの累積の分散は、
【数1】
である。また、問題3までの累積の分散は、
【数2】
である。従って、閾値=0.20と設定すれば、解答者Rの習熟レベル判定は問題2で終了と判定される。閾値=0.15と設定すれば、解答者Rの習熟レベル判定は問題3で終了と判定される。閾値=0.10と設定すれば、解答者Rの習熟レベル判定は問題3以降も続行される。解答者Rの習熟レベル判定結果として累積の平均値を用いることができる。例えば、問題2で習熟レベル判定が終了した場合、
【数3】
であり、問題3で習熟レベル判定が終了した場合、
【数4】
である。
【0033】
≪終了判定の事例3≫
また、例えば、終了判定部125は、複数の問題における判定レベルに対応する複数のラベル分布から得られる累積の平均値と累積の分散を用いて計算した所定の信頼区間(T%信頼区間、例えばT=95)に整数値が1つのみ含まれる場合に、習熟レベル判定を終了と判定することもできる。例えば
図7に示すように、問題1の判定レベル3、問題2の判定レベル2にそれぞれ対応するラベル分布から得られる累積の平均値と累積の分散を用いて計算した95%信頼区間は[1.98,3.18]であり、95%信頼区間に整数値が2つ(レベル2、レベル3)含まれるため、判定レベルが2であるか3であるか未だ定まっていないものと捉えることができる。この場合、終了判定部125は習熟レベル判定を終了と判定しない。一方、問題1~3の各判定レベルに対応するラベル分布から得られる累積の平均値と累積の分散を用いて計算した95%信頼区間は[2.30,3.10]であり、95%信頼区間に整数値が1つ(レベル3)のみ含まれるため、判定レベルが3に定まったと捉えることができる。この場合、終了判定部125は習熟レベル判定を終了と判定してよい。
【0034】
≪終了判定の事例4≫
終了判定部125は、所定の問題における最小、または最大の判定レベルに対応するラベル分布の平均値、およびばらつき度合いを示す指標を他の判定レベルに対応するラベル分布と近似するように補正してもよい。最小、または最大の判定レベルとは、例えば判定レベル1~5とした場合の判定レベル1、5のことである。判定レベル1、判定レベル5のラベル分布は、片側にしか分布がなく、いわゆるベルカーブ形状とならない。例えば判定レベル1のラベル分布は、ラベル2、3などにも分布があるがラベル0、ラベル-1などが設定されていないため分布の左側が存在しない。判定レベル5のラベル分布についても同様であり、ラベル6、7などが設定されていないため分布の右側が存在しない。
【0035】
例えば終了判定部125は、存在しない片側の分布を擬似的に生成して合成することによって、該当のラベル分布の平均値、およびばらつき度合いを示す指標を、他の判定レベルに対応するラベル分布と近似するように補正してもよい。
【0036】
また、例えば最小の判定レベルよりも小さい整数値のラベル、最大の判定レベルよりも大きい整数値のラベルをダミーラベルとして用意しておき、人手で付与しておいてもよい。
【0037】
以下、
図8、
図9を参照して、習熟レベル判定装置1の出題順最適化動作を説明する。
【0038】
<出題順最適化動作>
出題順最適化部130は、所定の解答者における所定の問題の判定レベルに対応するラベル分布の平均二乗誤差が最も小さい問題を所定の解答者に対して次に出題する問題と設定する(S130)。
【0039】
例えば解答者Rの問題1における判定器1の判定レベルが3であった場合、解答者Rの判定レベルは最終的に3と結論される可能性が高い。このとき、例えば
図9に示すように、各問題(問題2~4)の判定レベル3におけるラベル分布の最小二乗誤差は、それぞれ0.19、0.39、0.57となっており(同図の網掛け部を参照)、問題2の最小二乗誤差が最小であることから、問題2は、判定レベル3に属する解答者の判定において優れているということができる。
【0040】
従ってこの場合、出題順最適化部130は、解答者Rにおける問題1の判定器1による判定レベル3に対応するラベル分布の平均二乗誤差が最も小さい問題2を解答者Rに対して、問題1に続いて、次に出題する問題と設定すればよい。同図の事例の場合、問題1→問題2→問題3→問題4の順で出題される。
【0041】
2つ目の問題以降、過去に解答してきた問題の累積の平均値の値に最も近い判定レベルのラベル分布の平均二乗誤差が最も小さい問題を、次に出題する問題として設定してもよい。
【0042】
≪変形例1≫
実施例1の終了判定部125を省略し、習熟レベル判定部120が最終的な出力を行う構成に変形してもよい(この変形例では、習熟レベル判定部120Aと呼称する)。この場合、習熟レベル判定部120Aは、ラベルが付与されていない所定の解答者における所定の問題の答案データに基づいて、専属する判定器により習熟レベルを判定し、判定レベルに対応するラベル分布の統計指標を生成して出力する。
【0043】
ラベル分布の統計指標とは、例えば前述した累積の平均値、累積の分散である。この変形例では終了判定部125が省略されているものの、習熟レベル判定部120Aが、ラベル分布の統計指標として例えば累積の平均値、累積の分散を出力するため、評価者は出力された累積の分散の値を参照して、習熟レベル判定の終了/継続の何れかを判断することができる。評価者は、習熟レベル判定を終了すると判断した場合に、累積の平均値に基づいて解答者の習熟レベルを判定することができる。
【0044】
<補記>
本発明の装置は、例えば単一のハードウェアエンティティとして、キーボードなどが接続可能な入力部、液晶ディスプレイなどが接続可能な出力部、ハードウェアエンティティの外部に通信可能な通信装置(例えば通信ケーブル)が接続可能な通信部、CPU(Central Processing Unit、キャッシュメモリやレジスタなどを備えていてもよい)、メモリであるRAMやROM、ハードディスクである外部記憶装置並びにこれらの入力部、出力部、通信部、CPU、RAM、ROM、外部記憶装置の間のデータのやり取りが可能なように接続するバスを有している。また必要に応じて、ハードウェアエンティティに、CD-ROMなどの記録媒体を読み書きできる装置(ドライブ)などを設けることとしてもよい。このようなハードウェア資源を備えた物理的実体としては、汎用コンピュータなどがある。
【0045】
ハードウェアエンティティの外部記憶装置には、上述の機能を実現するために必要となるプログラムおよびこのプログラムの処理において必要となるデータなどが記憶されている(外部記憶装置に限らず、例えばプログラムを読み出し専用記憶装置であるROMに記憶させておくこととしてもよい)。また、これらのプログラムの処理によって得られるデータなどは、RAMや外部記憶装置などに適宜に記憶される。
【0046】
ハードウェアエンティティでは、外部記憶装置(あるいはROMなど)に記憶された各プログラムとこの各プログラムの処理に必要なデータが必要に応じてメモリに読み込まれて、適宜にCPUで解釈実行・処理される。その結果、CPUが所定の機能(上記、…部、…手段などと表した各構成要件)を実現する。
【0047】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。また、上記実施形態において説明した処理は、記載の順に従って時系列に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力あるいは必要に応じて並列的にあるいは個別に実行されるとしてもよい。
【0048】
既述のように、上記実施形態において説明したハードウェアエンティティ(本発明の装置)における処理機能をコンピュータによって実現する場合、ハードウェアエンティティが有すべき機能の処理内容はプログラムによって記述される。そして、このプログラムをコンピュータで実行することにより、上記ハードウェアエンティティにおける処理機能がコンピュータ上で実現される。
【0049】
上述の各種の処理は、
図10に示すコンピュータの記録部10020に、上記方法の各ステップを実行させるプログラムを読み込ませ、制御部10010、入力部10030、出力部10040などに動作させることで実施できる。
【0050】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。具体的には、例えば、磁気記録装置として、ハードディスク装置、フレキシブルディスク、磁気テープ等を、光ディスクとして、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD-RAM(Random Access Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD-R(Recordable)/RW(ReWritable)等を、光磁気記録媒体として、MO(Magneto-Optical disc)等を、半導体メモリとしてEEP-ROM(Electrically Erasable and Programmable-Read Only Memory)等を用いることができる。
【0051】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0052】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記録媒体に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0053】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、ハードウェアエンティティを構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。