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特開2024-67170細胞培養装置及び細胞培養装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067170
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】細胞培養装置及び細胞培養装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240510BHJP
   G01N 27/30 20060101ALI20240510BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
G01N27/30 F
G01N27/30 A
C12M1/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177028
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】520487808
【氏名又は名称】シャープディスプレイテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立野 ちひろ
(72)【発明者】
【氏名】寺西 知子
(72)【発明者】
【氏名】井樋田 悟史
(72)【発明者】
【氏名】原 猛
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB10
(57)【要約】
【課題】測定感度を低下し難くする。
【解決手段】細胞培養装置10は、基板11と、基板11の主面11A上に設けられる配線12と、基板11の主面11A上に設けられ、一部が配線12と重畳する絶縁膜13と、絶縁膜13上に設けられ、一部が配線12と重畳する電極14と、を備え、絶縁膜13には、配線12及び電極14と重畳する位置にコンタクトホール13Aが設けられ、電極14のうち、少なくともコンタクトホール13Aと重畳する部分の表面には、溝部17が設けられている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の主面上に設けられる配線と、
前記基板の前記主面上に設けられ、一部が前記配線と重畳する絶縁膜と、
前記絶縁膜上に設けられ、一部が前記配線と重畳する電極と、を備え、
前記絶縁膜には、前記配線及び前記電極と重畳する位置にコンタクトホールが設けられ、
前記電極のうち、少なくとも前記コンタクトホールと重畳する部分の表面には、溝部が設けられている細胞培養装置。
【請求項2】
前記基板及び前記絶縁膜は、それぞれ透光性を有する絶縁材料からなり、
前記配線は、遮光性を有する導電材料からなり、
前記電極は、透光性を有する導電材料からなる請求項1記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記溝部は、深さが前記電極の厚みよりも小さい請求項1または請求項2記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記溝部は、深さが前記電極の厚みと同じとされ、
前記電極は、前記溝部により分割された複数の島状部を含む請求項1または請求項2記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記溝部は、前記電極の表面の全域にわたって設けられる請求項1または請求項2記載の細胞培養装置。
【請求項6】
基板の主面上に配線を設け、
前記基板の前記主面上に、一部が前記配線と重畳する絶縁膜を設け、
前記絶縁膜のうち、前記配線と重畳する位置にコンタクトホールを設け、
前記絶縁膜上に、一部が前記配線及び前記コンタクトホールと重畳する電極を設け、
前記電極のうち、少なくとも前記コンタクトホールと重畳する部分の表面に溝部を設ける細胞培養装置の製造方法。
【請求項7】
前記電極に、塩化鉄(III)を含むエッチング液を供給し、前記電極の表面をエッチングして前記溝部を設ける請求項6記載の細胞培養装置の製造方法。
【請求項8】
前記電極に、シュウ酸を含むエッチング液を供給し、前記電極の表面をエッチングして前記溝部を設ける請求項6記載の細胞培養装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、細胞培養装置及び細胞培養装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、微小電極を備えたマイクロウェルプレート等を用いた細胞外電位計測法は、細胞活動を非侵襲的かつリアルタイムで計測できることから、生物学的検体の様々な活動の記録に利用されている。例えば特許文献1には、アレイ状に配置され、細胞の活動によって発生する活動電位発生点の電位を検出する複数の読み出し電極と、絶縁部材と、参照電位を検出する参照電極と、読み出し電極による検出電位と参照電極による検出電位との電位差を得る増幅部と、を含み、該読み出し電極が、該読み出し電極に該絶縁部材が積層された被覆領域と、該読み出し電極に該絶縁部材が積層されていない開口領域とを有し、該読み出し電極が、該開口領域に、該読み出し電極の該絶縁部材との積層面を基準にして、高さが高い少なくとも1つの高部及び/又は高さが低い少なくとも1つの低部を有する電位測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-219244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電位測定装置では、読み出し電極は、スイッチを介して信号読み出し線に接続されている。読み出し電極は、直接的にはスイッチに接続されているが、その具体的な接続構造は不明である。一方、製造に際しては、電気化学的な酸化・還元サイクルの処理により、読み出し電極の表面が酸化・還元されることで、高部及び低部が形成される。電気化学的酸化還元サイクルの処理の仕方によっては、読み出し電極の仕上がりに差が生じる場合があり、場合によっては読み出し電極に開口が生じ、読み出し電極の一部が島状に孤立するおそれがある。その場合において、読み出し電極のうちのスイッチとは非接続の部分が島状になると、その島状部分では測定が不可能となり、測定感度が低下する、という問題があった。
【0005】
本明細書に記載の技術は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、測定感度を低下し難くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本明細書に記載の技術に関わる細胞培養装置は、基板と、前記基板の主面上に設けられる配線と、前記基板の前記主面上に設けられ、一部が前記配線と重畳する絶縁膜と、前記絶縁膜上に設けられ、一部が前記配線と重畳する電極と、を備え、前記絶縁膜には、前記配線及び前記電極と重畳する位置にコンタクトホールが設けられ、前記電極のうち、少なくとも前記コンタクトホールと重畳する部分の表面には、溝部が設けられている。
【0007】
(2)また、上記細胞培養装置は、上記(1)に加え、前記基板及び前記絶縁膜は、それぞれ透光性を有する絶縁材料からなり、前記配線は、遮光性を有する導電材料からなり、前記電極は、透光性を有する導電材料からなってもよい。
【0008】
(3)また、上記細胞培養装置は、上記(1)または上記(2)に加え、前記溝部は、深さが前記電極の厚みよりも小さくてもよい。
【0009】
(4)また、上記細胞培養装置は、上記(1)または上記(2)に加え、前記溝部は、深さが前記電極の厚みと同じとされ、前記電極は、前記溝部により分割された複数の島状部を含んでもよい。
【0010】
(5)また、上記細胞培養装置は、上記(1)から上記(4)のいずれかに加え、前記溝部は、前記電極の表面の全域にわたって設けられてもよい。
【0011】
(6)本明細書に記載の技術に関わる細胞培養装置の製造方法は、基板の主面上に配線を設け、前記基板の前記主面上に、一部が前記配線と重畳する絶縁膜を設け、前記絶縁膜のうち、前記配線と重畳する位置にコンタクトホールを設け、前記絶縁膜上に、一部が前記配線及び前記コンタクトホールと重畳する電極を設け、前記電極のうち、少なくとも前記コンタクトホールと重畳する部分の表面に溝部を設ける。
【0012】
(7)また、上記細胞培養装置の製造方法は、上記(6)に加え、前記電極に、塩化鉄(III)を含むエッチング液を供給し、前記電極の表面をエッチングして前記溝部を設けてもよい。
【0013】
(8)また、上記細胞培養装置の製造方法は、上記(6)に加え、前記電極に、シュウ酸を含むエッチング液を供給し、前記電極の表面をエッチングして前記溝部を設けてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本明細書に記載の技術によれば、測定感度を低下し難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態1に係る細胞培養装置の平面図
図2】実施形態1に係る細胞培養装置における図1のii-ii線断面図
図3】実施形態1に係る配線と電極との接続部位を示す平面図
図4】実施形態1に係る細胞培養装置における図3のiv-iv線断面図
図5】実施形態1に係る電極の表面を、電子顕微鏡等を用いて拡大して撮影した写真
図6】実施形態1に係る電極において、図5の写真に細胞及び軸索を書き加えた図
図7】実施形態1に係る電極のうち、コンタクトホールと重畳する部分を拡大した断面図
図8】実施形態1に係る細胞培養装置の製造方法において、配線を設けた状態を示す図1のii-ii線断面図
図9】実施形態1に係る細胞培養装置の製造方法において、絶縁膜にコンタクトホールを設けた状態を示す図1のii-ii線断面図
図10】実施形態1に係る細胞培養装置の製造方法において、電極を設けた状態を示す図1のii-ii線断面図
図11】実施形態1に係る細胞培養装置の製造方法において、電極に表面処理を行って溝部を設けた状態を示す図1のii-ii線断面図
図12】実施形態1に係る細胞培養装置の製造方法において、ウェルを設けた状態を示す図1のii-ii線断面図
図13】実施形態2に係る細胞培養装置における図4と同じ切断位置の断面図
図14】実施形態2に係る電極の表面を、電子顕微鏡等を用いて拡大して撮影した写真
図15】実施形態2に係る電極のうち、コンタクトホールと重畳する部分を拡大した断面図
図16】実施形態2に係る細胞培養装置の製造方法において、電極に表面処理を行って溝部を設けた状態を示す図2と同じ切断位置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項(例えば、ここで開示される細胞培養装置の構造)以外の事柄であって、本技術の実施に必要な事柄(例えば、培養対象の細胞、その細胞の培養技術、薬学的組成物のスクリーニング、および調製に関する一般的事項、ならびに、細胞培養装置の製造に係る微細加工技術に関する一般的事項)は、細胞学、生理学、医学、薬学、生化学、遺伝子工学、タンパク質工学、材料工学、半導体工学、超精密加工学、MEMS工学等の各分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
<実施形態1>
実施形態1に係る細胞培養装置10を図1から図11によって説明する。なお、各図面の一部にはX軸、Y軸及びZ軸を示しており、各軸方向が各図面で示した方向となるように描かれている。また、各図面においてZ軸方向は、細胞培養装置10の厚み方向と一致している。
【0018】
本実施形態に係る細胞培養装置10は、細胞CE(図6を参照)を培養しつつ、細胞CEの電気的活動において生じる電気信号(活動電位)を、非侵襲的に細胞CE外において記録するための装置である。本実施形態では、主として神経細胞のような軸索AXを有する細胞CEを培養するのに好ましく用いられる細胞培養装置10を例示する。
【0019】
細胞培養装置10は、図1及び図2に示すように、基板11と、配線12と、絶縁膜13と、電極14と、ウェル15と、を備える。基板11は、上記の配線12、絶縁膜13及び電極14等を支持する要素である。基板11は、測定対象である細胞CEを支持したり、細胞CEを播種・培養するためのステージともなり得る。本実施形態の基板11は、平板状をなしている。基板11の一対の主面のうち、上側の主面が細胞CEを培養する培養面を構成する第1主面11Aとされる。基板11の一対の主面のうち、下側の主面が培養面とは反対側の第2主面11Bとされる。基板11は、平面に視て方形状をなしている。なお、基板11の具体的な平面形状は、図1に示される方形以外にも適宜に変更可能である。基板11は、絶縁性材料によって構成されている。絶縁性材料としては、室温(例えば25℃)における体積抵抗率が107Ωcm以上(例えば、1010Ωcm以上、1012Ωcm以上、さらには1015Ωcm以上)の材料が挙げられ、例えば、上記体積抵抗率を有する有機材料または無機材料等であってよい。また基板11は、これに限定されるものではないが、第1主面11A側にある細胞CEを、基板11越しに第2主面11B側から観察することができるように、透光性を有する材料、例えば透明な材料によって構成されていることが好ましい。基板11は、より好ましくは無色透明であるとよい。
【0020】
このような基板11を構成する材料としては、例えば、各種のガラス、合成樹脂等が挙げられる。ガラスとしては、例えば、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等が好適例として挙げられる。必ずしもこれに限定されるものではないが、ガラスとして、酸化物換算によるアルカリ成分の含有が0.1質量%以下であって、アルカリイオンの溶出が高度に抑制されている無アルカリガラスを用いてもよい。合成樹脂としては、例えば、体積抵抗率が比較的高く(例えば、1010Ωcm以上、1012Ωcm以上、さらには1015Ωcm以上)、生体適合性を有するポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン、ポリウレタン等の合成樹脂が挙げられる。基板11の厚みに制限はないが、例えば、約0.2mm~1mm程度(一例として、0.5mm、0.7mm等)とすることが好適例として挙げられる。
【0021】
配線12は、図1及び図2に示すように、基板11の第1主面11A上に設けられている。配線12は、第1主面11A上に成膜された導電膜を、既知のフォトリソグラフィ法によりパターニングすることで、所定の配線パターンとして形成されている。導電膜からなる配線12の厚みは、例えば50nm~1000nmの範囲程度とされる。配線12は、X軸方向に沿って延在し、基板11におけるX軸方向についての一方(図1の左側)の端部から中央付近に至るまで配されている。配線12は、基板11におけるX軸方向についての中央付近では絶縁膜13により覆われるものの、基板11におけるX軸方向についての一方の端部付近では絶縁膜13により覆われずに露出する。配線12のうちのX軸方向についての両端部には、絶縁膜13の形成範囲内(基板11におけるX軸方向についての中央付近)に位置する第1端部12Aと、絶縁膜13の形成範囲外に位置する第2端部12Bと、が含まれる。配線12は、第1端部12Aを除いては、線幅(Y軸方向についての寸法)がほぼ一定とされる。第1端部12Aは、配線12の他の部分(第2端部12Bを含む)よりも拡幅されており、Y軸方向についての寸法が大きい。第1端部12Aは、平面に視て方形状をなしている。配線12は、複数が互いに並行する形で配されている。図1には、配線12が5本とされる場合が例示されているが、具体的な設置本数は図示以外にも適宜に変更可能である。複数の配線12には、X軸方向についての長さが異なる2種類が含まれており、相対的に長い配線12と、相対的に短い配線12と、がY軸方向について交互に並んで配されている。つまり、Y軸方向について隣り合う2つの配線12は、X軸方向についての長さが異なっている。これに伴い、複数の配線12に備わる複数の第1端部12Aは、平面に視て千鳥状に並んで配されている。
【0022】
配線12を構成する導電膜は、導電性を有する導電材料(導電性材料)からなる。かかる導電材料としては、金属材料、導電性樹脂材料、および導電性無機材料等であってよい。熱安定性と電気伝導性とに優れるとの観点からは、金属材料の使用が好ましい。導電膜に用いる金属材料としては、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、及びタングステン(W)等の中から選択されるいずれか1種類の金属やその金属を含む合金、いずれか2種以上を含む合金等によって構成するとよい。これらの元素を含む金属は、電気伝導性が高い点で、配線12を微細化した場合であっても抵抗率を低減できる。導電膜に用いる金属材料の好適例として、例えば、Au,Ag,Cu,W,Ti,Al,TaN(窒化タンタル),MoW(モリブデンタングステン合金)等が挙げられる。配線12は、基板11の第1主面11A上に設けられることから、導電膜の金属材料にTa,W,Mo,Ni,Ti等の相対的に高融点の金属を含ませるとよい。導電膜を、上層側から順に、W/TaN,Ti/Al/Ti,Cu/Ti等の積層構造として、下地(例えば基板)に対する密着性と低抵抗性とを両立するようにしてもよい。細胞CEに接触し得る部位に配される導電膜を構成する金属材料としては、細胞毒性の低いAu,Ti等が好適例として挙げられる。また、導電膜を、例えば低抵抗なMoW合金による単層構造とし、配線抵抗の低減を図ってもよい。本実施形態における配線12は、これらの中のいずれかの金属材料を含む導電膜によって構成されている。配線12を構成する導電膜に含まれる金属材料は、遮光性を有する。従って、配線12は、遮光性を有する。
【0023】
絶縁膜13は、図1及び図2に示すように、基板11の第1主面11A上に設けられ、一部が配線12に対して上層側に重畳して配されている。絶縁膜13は、基板11の一部を選択的に覆う範囲に設けられている。具体的には、絶縁膜13は、基板11のうちの中央側部分を覆うものの、外周側部分については覆わない。複数の配線12は、基板11のうちの中央側部分に配される部分(複数の第1端部12Aを含む)がそれぞれ絶縁膜13により覆われるので、隣り合う配線12の間で短絡が生じ難くなる。複数の配線12は、基板11のうちの外周側部分に配される部分(複数の第2端部12Bを含む)がそれぞれ絶縁膜13により覆われずに露出する。各配線12の露出部分である各第2端部12Bには、それぞれ測定装置(例えばプローバ等)に備わるプローブピン等を接触させることが可能となる。これにより、各配線12の電位を測定装置に出力することができる。また、絶縁膜13の厚みは、例えば300nm~1000nmの範囲程度とされる。
【0024】
絶縁膜13としては、基板11と同様の電気絶縁性を有する材料により構成することができ、細胞培養環境において安定な電気絶縁性を示す材料を特に制限なく使用することができる。絶縁膜13は、これに限定されるものではないが、複数の配線12を絶縁する点を考慮すると、例えば、窒化ケイ素(例えばSi34)、酸化ケイ素(例えばSiO2)、及び酸窒化ケイ素(例えばSi22O)等の無機材料により構成するとよい。なお、上記材料について括弧内には代表組成を示しているが、各材料の組成はこれに限定されない。それ以外にも、絶縁膜13は、アクリル樹脂及びポリイミド樹脂等の有機材料により構成してもよい。絶縁膜13は、これらのいずれかの材料からなる単層構造を有していてもよいし、これらのいずれか2種以上の材料からなる積層構造を有していてもよい。また、絶縁膜13は、これに限定されるものではないが、細胞CEを観察することができるように、透光性を有する材料、例えば透明な材料によって構成されていることが好ましい。絶縁膜13は、より好ましくは無色透明であるとよい。
【0025】
電極14は、図1及び図2に示すように、絶縁膜13上に設けられ、配線12と重畳して配されている。電極14は、絶縁膜13上に成膜された導電膜を、既知のフォトリソグラフィ法によりパターニングすることで、所定の電極パターンとして形成されている。導電膜からなる電極14の厚みは、例えば50nm~150nmの範囲程度とされる。電極14は、その一部が、配線12のうちの第1端部12Aと重畳して配されている。電極14は、平面に視て方形状をなしており、第1端部12AよりもX軸方向及びY軸方向についての各寸法(平面に視た外形寸法)がそれぞれ大きい。つまり、電極14は、第1端部12Aよりも大きな面積を有する。電極14は、第1端部12Aに対して平面に視て同心状に配されている。電極14のうちの中央側部分が、第1端部12Aに対して重畳する重畳部14Aとされる。これに対し、電極14のうちの外周側端部が、第1端部12Aとは非重畳の配置とされる非重畳部14Bとされる。電極14は、絶縁膜13の形成範囲内において複数が間隔を空けて配されている。複数の電極14は、平面に視て千鳥状に並んで配されており、その配列は複数の第1端部12Aの配列と整合している。
【0026】
電極14を構成する導電膜は、導電性を有する導電材料からなる。かかる導電材料としては、例えば導電性無機材料を用いることができる。導電性無機材料としては、酸化スズ(SnO2;酸化スズにSb(アンチモン),Ta,F(フッ素)等を添加したものを含む。)、酸化亜鉛(ZnO;酸化亜鉛にAl,Ga(ガリウム)等を添加したものを含む。)、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化インジウム亜鉛(Indium Zinc Oxide:IZO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(Indium Gallium Zinc Oxide:IGZO)等のバンドギャップが3eV以上の半導体酸化物(金属酸化物であり得る)が好適例として挙げられる。なお、この半導体酸化物は、透明であって、かつ、生体不活性であることが確認されている。特に、電極14を構成する導電膜として、基板11や絶縁膜13と同様に可視光に対して透明な材料を用いると、培養する細胞CEを基板11の第2主面11B側から基板11越しに観察する場合、電極14が観察の妨げとなることが避けられるので、好ましい。本実施形態における電極14は、例えばITOによって構成されている。このような材料を採用することで、細胞毒性が低く安定な導電膜を作製することができる。また、電極14を構成する導電膜の導電材料は、例えば導電性樹脂材料であってもよい。導電性樹脂材料としては、例えば導電性ポリアセチレン、導電性ポリチオフェン、導電性ポリアニリン、導電性ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等が好適例として挙げられる。
【0027】
ウェル15は、図1及び図2に示すように、絶縁膜13上に設けられている。ウェル15は、絶縁膜13の表面から立ち上がる壁であり、平面に視て略円環状をなしている。略円環状をなすウェル15の内部空間は、細胞CEを培養することが可能な領域、つまり細胞培養領域となっている。ウェル15は、細胞培養領域を画定していると言える。ウェル15は、細胞培養領域内に入れられる培養液等を、外部に漏れ出ないよう保持することができる。ウェル15は、絶縁膜13のうちの中央側部分上に配され、複数の電極14を全て取り囲んでいる。つまり、複数の電極14は、全てが細胞培養領域に配されている。また、ウェル15の高さは、細胞培養領域に入れられる培養液が外部に漏れ出さない程度であれば、どのような寸法であってもよい。
【0028】
ウェル15は、基板11と同様の電気絶縁性を有する材料により構成することができ、細胞培養環境において安定な電気絶縁性を示す材料を特に制限なく使用することができる。ウェル15は、これに限定されるものではないが、光硬化性樹脂材料、シリコーン、ガラス材料等からなる。ウェル15の材料をシリコーンとする場合、例えばジメチルポリシロキサン(dimethylpolysiloxane:PDMS)を用いることができる。また、ウェル15は、絶縁膜13の表面に固着される接着剤やテープ材により構成されてもよい。上記した材料のいずれをウェル15に用いる場合であっても、細胞毒性の低い材料を用いるのが好ましい。また、ウェル15は、これに限定されるものではないが、細胞CEを観察することができるように、透光性を有する材料、例えば透明な材料によって構成されていることが好ましい。ウェル15は、より好ましくは無色透明であるとよい。
【0029】
上記のような構成の細胞培養装置10は、実際に細胞CEを培養する前に、細胞培養領域内を減菌処理した後に、細胞培養領域内にコーティング材16が塗布されるようになっている。このコーティング材16に関して説明する。コーティング材16は、図2に示すように、絶縁膜13及び電極14上に設けられている。コーティング材16は、ウェル15により取り囲まれた細胞培養領域内に配されており、細胞CEを絶縁膜13や電極14の表面に接着するためのものである。コーティング材16は、細胞培養領域内において絶縁膜13及び電極14を表面処理することで設けられる。コーティング材16は、生体外で細胞CEを培養するための培地を構成する。コーティング材16は、細胞外マトリックス(Extracellular matrix:ECM)からなる。細胞外マトリックスは、細胞CEが嗜好性を示す細胞外基質であり、細胞CEとの親和性が高く、細胞CEの接着性を向上させることができる。細胞外マトリックスとしては、例えばコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ゼラチン等のタンパク質を用いることができる。このようなコーティング材16が細胞培養領域内に設けられることで、培養される細胞CEの成長を促進することができる。
【0030】
配線12、絶縁膜13及び電極14の詳しい構成について説明する。絶縁膜13のうち、配線12及び電極14の双方と重畳する位置には、図3及び図4に示すように、コンタクトホール13Aが設けられている。電極14は、コンタクトホール13Aを通して下層側にある配線12に対して電気的に接続されている。これにより、細胞培養領域において培養される細胞CEが発する電気信号が、電極14から配線12へと伝達されるようになっている。配線12に伝達された電気信号は、配線12のうち、絶縁膜13から露出した部分(第2端部12B)に接触されたプローブピン等を介して測定装置により測定される。コンタクトホール13Aは、配線12の第1端部12Aと、電極14と、の双方と平面に視て同心となる位置に配されている。コンタクトホール13Aは、第1端部12AよりもX軸方向及びY軸方向についての各寸法がそれぞれ小さい。従って、電極14の重畳部14Aの一部(中央側部分)が、コンタクトホール13Aを通して、配線12の第1端部12Aの一部(中央側部分)に対して直接的に接する。第1端部12Aは、配線12において電極14との接続を担うコンタクト部であると言える。電極14の重畳部14Aの残りの部分(外周側部分)は、非重畳部14Bと共に、絶縁膜13に対して上層側に積層される。電極14の非重畳部14Bは、配線12の第1端部12Aに対して平面に視て外側にはみ出した配置とされる。また、コンタクトホール13AにおけるX軸方向及びY軸方向についての各寸法は、例えば10μm~100μmの範囲程度とされる。また、コンタクトホール13Aは、絶縁膜13を既知のフォトリソグラフィ法によりパターニングすることで、所定のパターンとして形成されている。
【0031】
上記した構成の電極14のうち、少なくともコンタクトホール13Aと重畳する部分(重畳部14Aの中央側部分)の表面には、図4に示すように、溝部17が設けられている。溝部17は、電極14のうち、コンタクトホール13Aと重畳する部分に加えて、コンタクトホール13Aとは非重畳となる部分(重畳部14Aの外周側部分と非重畳部14Bの全域)の表面にも設けられている。つまり、溝部17は、電極14の表面の全域にわたって設けられている。
【0032】
溝部17の詳しい構成について図5から図7を用いて説明する。図5は、電極14の表面を、電子顕微鏡等を用いて拡大して撮影した写真である。図6は、図5の写真に細胞CE及び軸索AXを書き加えた図である。図7は、電極14のうち、コンタクトホール13Aと重畳する部分を拡大した断面図である。溝部17は、図5から図7に示すように、電極14の表面において無数が網目状に張り巡らされる形で設けられている。電極14の表面に張り巡らされる複数の溝部17は、相互に連通している。複数の溝部17における平面に視た経路は、ランダムなものとなっている。これらの溝部17は、深さが電極14の厚みよりも小さい。従って、本実施形態では、溝部17によって電極14の下層側にある配線12が露出することはない。つまり、溝部17は、電極14の下層側にある配線12に至る深さを有さない。なお、溝部17は、深さが一定とは限らず、電極14の表面上の位置に応じて変動し得る。また、溝部17は、溝幅が例えば数十nm程度とされる。
【0033】
このように、電極14のうち、少なくともコンタクトホール13Aと重畳する部分の表面には、溝部17が設けられているので、仮に溝部17が非形成の場合に比べると、表面積が大きくなっている。これにより、培養される細胞CEに対する電極14の接触面積が増加するので、測定装置により測定される電気信号の信号強度が十分に高くなり、結果として測定感度が良好になる。しかも、溝部17は、電極14のうち、少なくともコンタクトホール13Aと重畳する部分、つまり下層側の配線12と直接的に接する部分にある。電極14の表面に溝部17を設ける際には、深さにバラツキが生じ得るものであり、場合によっては溝部17が配線12に至る深さとなることがある。その場合、溝部17によって電極14が分割され、島状部が生じることもあり得る。そのような島状部が生じた場合であっても、島状部はコンタクトホール13Aを通して配線12と直接的に接することになるので、その島状部に接した細胞CEからの電気信号を配線12に有効に伝達することができる。これにより、島状部が生じることに起因して、測定感度が低下し難くなる。
【0034】
その上で、電極14は、一部である重畳部14Aが配線12と重畳しており、残りの部分である非重畳部14Bが配線12とは非重畳の配置となっている。これにより、培養される細胞CEが、電極14の非重畳部14Bの表面に存在していれば、その細胞CEを顕微鏡等を用いて観察する際に配線12が妨げとなり難くなる。特に、基板11、絶縁膜13及び電極14は、いずれも透光性を有しているので、配線12が遮光性を有していても、電極14の表面上にて培養される細胞CEを基板11越しに容易に観察することができる。
【0035】
また、溝部17の深さが電極14の厚みよりも小さいので、電極14の表面上にて培養される細胞CEの軸索AXを溝部17に沿って良好に成長させることができる。従って、神経細胞のような軸索AXを有する細胞CEを培養するのに好ましい。また、溝部17が電極14の表面の全域にわたって設けられているので、電極14の表面上にて培養される細胞CEの成長を、電極14の表面の全域にわたって促進させることができる。また、仮に電極14の一部のみに溝部17を設ける場合に比べると、製造が容易になる。
【0036】
本実施形態に係る細胞培養装置10は以上のような構造であり、続いて細胞培養装置10の製造方法を説明する。細胞培養装置10の製造に際しては、まず、基板11の第1主面11A上に配線12を構成する導電膜を成膜する。配線12が複数の導電膜の積層構造(例えばTi/Al/Ti)とされる場合は、複数の導電膜を連続的に成膜する。続いて、導電膜上にフォトレジスト膜を塗布したら、露光装置及びフォトマスクを用いてフォトレジスト膜を露光・現像する。現像されたフォトレジスト膜を介して導電膜をエッチングすることで、図8に示すように、導電膜がパターニングされて複数の配線12が形成される。その後、フォトレジスト膜がアッシングにより除去される。
【0037】
複数の配線12が設けられたら、基板11の第1主面11A上に絶縁膜13を成膜する。続いて、絶縁膜13上にフォトレジスト膜を塗布したら、露光装置及びフォトマスクを用いてフォトレジスト膜を露光・現像する。現像されたフォトレジスト膜を介して絶縁膜13をエッチングすることで、図9に示すように、絶縁膜13がパターニングされる。これにより、絶縁膜13は、基板11の中央側部分のみに選択的に残存する態様で設けられるとともに、複数の配線12における各第1端部12Aと重畳する位置に複数のコンタクトホール13Aが形成される。その後、フォトレジスト膜がアッシングにより除去される。
【0038】
絶縁膜13がパターニングされたら、絶縁膜13上に電極14を構成する導電膜を成膜する。本実施形態では、導電膜の材料としてITOを用いた場合を説明する。電極14を構成する導電膜の成膜に際しては、例えばスパッタリング法が用いられる。導電膜上にフォトレジスト膜を塗布したら、露光装置及びフォトマスクを用いてフォトレジスト膜を露光・現像する。現像されたフォトレジスト膜を介して導電膜をエッチングすることで、図10に示すように、導電膜がパターニングされる。これにより、複数の電極14が設けられる。複数の電極14は、アニール処理(加熱処理、結晶化処理)されることで、導電膜の材料であるITOの結晶化が促される。このアニール処理は、例えば150℃~250℃程度の温度環境で30分~60分程度にわたって行われる。
【0039】
絶縁膜13上に設けられた複数の電極14は、塩化鉄(III)を含むエッチング液を用いて表面処理(エッチング処理)される。表面処理に際しては、複数の電極14は、エッチング液である塩化鉄(III)水溶液に浸漬される。複数の電極14が塩化鉄(III)水溶液に浸漬される時間は、例えば60秒程度とされる。表面処理を終えた複数の電極14は、純水等によって洗浄される。表面処理された複数の電極14の表面には、図11に示すように、複数の溝部17が設けられる。設けられた溝部17は、電極14の表面の全域にわたって網目状に張り巡らされ、その深さは、電極14の厚みよりも小さくなる確実性が高くなっている(図5から図7を参照)。
【0040】
複数の電極14が設けられたら、図12に示すように、絶縁膜13上にウェル15を設ける。ウェル15を設けるための具体的な手法は、ウェル15の材料(光硬化性樹脂材料、シリコーン、ガラス材料、接着剤、テープ材等)に応じて異なる。以上のようにして細胞培養装置10が製造される。製造された細胞培養装置10を用いて細胞CEを培養するにあたっては、ウェル15により区画された各細胞培養領域内を減菌処理する。その後、細胞培養領域内にコーティング材16を塗布する(図2を参照)。余分なコーティング材を除去したのち、細胞培養領域内に培地を満たして細胞CEを播種し、細胞CEの培養を行いつつ、細胞CEからの電気信号を測定装置によって測定することができる。このように、本実施形態に係る細胞培養装置10によれば、細胞CEの培養と、細胞CEからの電気信号の測定と、を並行して行うことができるので、仮に細胞CEの培養を行うための専用装置と、細胞CEからの電気信号を測定するための専用装置と、を用いる場合に比べると、培養した細胞CEを移し替える必要がない。従って、細胞CEの移し替え作業が不要になるとともに、移し替えに伴って生じ得る細胞CEへのダメージを回避することができる。
【0041】
以上説明したように本実施形態の細胞培養装置10は、基板11と、基板11の第1主面(主面)11A上に設けられる配線12と、基板11の第1主面11A上に設けられ、一部が配線12と重畳する絶縁膜13と、絶縁膜13上に設けられ、一部が配線12と重畳する電極14と、を備え、絶縁膜13には、配線12及び電極14と重畳する位置にコンタクトホール13Aが設けられ、電極14のうち、少なくともコンタクトホール13Aと重畳する部分の表面には、溝部17が設けられている。
【0042】
電極14のうち、少なくともコンタクトホール13Aと重畳する部分の表面には、溝部17が設けられているので、仮に溝部17が非形成の場合に比べると、表面積が大きい。これにより、培養される細胞CEに対する電極14の接触面積が増加するので、測定感度が良好になる。しかも、溝部17は、電極14のうち、少なくともコンタクトホール13Aと重畳する部分にある。この構成によれば、仮に溝部17が配線12に至る深さとなり、電極14の一部が島状になった場合でも、その島状部が配線12に接することで、当該島状部による測定が有効になる。これにより、測定感度が低下し難くなる。その上で、電極14は、一部が配線12と重畳しており、残りの部分が配線12とは非重畳の配置となっている。これにより、培養される細胞CEが、電極14のうちの配線12とは非重畳となる部分の表面に存在していれば、その細胞CEを、顕微鏡等を用いて観察する際に配線12が妨げとなり難くなる。また、例えば配線12を基板11の第1主面11A上に複数設ける場合には、絶縁膜13によって配線12間の短絡を防ぐことができる。
【0043】
また、基板11及び絶縁膜13は、それぞれ透光性を有する絶縁材料からなり、配線12は、遮光性を有する導電材料からなり、電極14は、透光性を有する導電材料からなる。このように、基板11、絶縁膜13及び電極14がいずれも透光性を有しているので、配線12が遮光性を有していても、電極14の表面上にて培養される細胞CEを基板11越しに容易に観察することができる。
【0044】
また、溝部17は、深さが電極14の厚みよりも小さい。電極14の表面上にて培養される細胞CEの軸索AXを溝部17に沿って良好に成長させることができる。
【0045】
また、溝部17は、電極14の表面の全域にわたって設けられる。このような溝部17により、電極14の表面上にて培養される細胞CEの成長を、電極14の表面の全域にわたって促進させることができる。また、仮に電極14の一部のみに溝部17を設ける場合に比べると、製造が容易になる。
【0046】
また、本実施形態の細胞培養装置10の製造方法は、基板11の第1主面11A上に配線12を設け、基板11の第1主面11A上に、一部が配線12と重畳する絶縁膜13を設け、絶縁膜13のうち、配線12と重畳する位置にコンタクトホール13Aを設け、絶縁膜13上に、一部が配線12及びコンタクトホール13Aと重畳する電極14を設け、電極14のうち、少なくともコンタクトホール13Aと重畳する部分の表面に溝部17を設ける。
【0047】
このようにして製造された細胞培養装置10によれば、電極14のうち、少なくともコンタクトホール13Aと重畳する部分の表面には、溝部17が設けられているので、仮に溝部17が非形成の場合に比べると、表面積が大きい。これにより、培養される細胞CEに対する電極14の接触面積が増加するので、測定感度が良好になる。しかも、溝部17は、電極14のうち、少なくともコンタクトホール13Aと重畳する部分にある。この構成によれば、仮に溝部17が配線12に至る深さとなり、電極14の一部が島状になった場合でも、その島状部が配線12に接することで、当該島状部による測定が有効になる。これにより、測定感度が低下し難くなる。その上で、電極14は、一部が配線12と重畳しており、残りの部分が配線12とは非重畳の配置となっている。これにより、培養される細胞CEが、電極14のうちの配線12とは非重畳となる部分の表面に存在していれば、その細胞CEを、顕微鏡等を用いて観察する際に配線12が妨げとなり難くなる。また、例えば配線12を基板11の第1主面11A上に複数設ける場合には、絶縁膜13によって配線12間の短絡を防ぐことができる。
【0048】
また、電極14に、塩化鉄(III)を含むエッチング液を供給し、電極14の表面をエッチングして溝部17を設ける。電極14に、塩化鉄(III)を含むエッチング液を供給すると、電極14の表面がエッチングされることで、溝部17が設けられる。このようにして設けられた溝部17は、深さが電極14の厚みよりも小さくなる。これにより、電極14の表面上にて培養される細胞CEの軸索AXを溝部17に沿って良好に成長させることができる。
【0049】
<実施形態2>
実施形態2を図13から図16によって説明する。この実施形態2では、溝部117の構成等を変更した場合を示す。なお、上記した実施形態1と同様の構造、作用及び効果について重複する説明は省略する。
【0050】
本実施形態に係る電極114の表面に設けられる溝部117は、図13に示すように、深さが電極114の厚みと同じとされる。従って、本実施形態では、溝部117によって電極114の下層側にある配線112が部分的に露出する。つまり、溝部117は、電極114の下層側にある配線112に至る深さを有する。このような溝部117によって電極114は、分割されており、複数の島状部18を含んでいる。複数の島状部18は、溝部117によって物理的に相互に切り離されている。このように、電極114が複数の島状部18を含むことで、配線112の一部が溝部117を通して露出することになる。
【0051】
溝部117の詳しい構成について図14及び図15を用いて説明する。図14は、電極114の表面を、電子顕微鏡等を用いて拡大して撮影した写真である。図15は、電極114のうち、コンタクトホール113Aと重畳する部分を拡大した断面図である。溝部117は、図14及び図15に示すように、電極114の表面において無数が網目状に張り巡らされる形で設けられているが、上記した実施形態1に記載の溝部17(図5を参照)に比べると、網目が粗くなっている。溝部117によって生じた複数の島状部18は、平面に視た大きさ・形状がいずれもランダムになっているが、いずれも概ね曲面を有する平面形状となっている。溝部117の溝幅、つまり隣り合う島状部18の間の間隔は、例えば数十nm~数μmの範囲程度とされる。本実施形態に係る溝部117の溝幅は、実施形態1に記載した溝部17の溝幅よりも概して大きい。これにより、電極114の表面上にて培養される細胞CEを、複数の島状部18を隔てる溝部117に沿って面状に広がる形で良好に成長させることができる。複数の島状部18には、コンタクトホール113Aを通して配線112に直接的に接する島状部18が複数含まれている。配線112に直接的に接する島状部18が細胞CEに接していれば、その細胞CEからの電気信号を島状部18から配線112に伝達することができる。つまり、島状部18による測定が有効になる。これにより、電極114が複数の島状部18を含む構成であっても、測定感度が低下し難くなる。なお、溝部117は、深さが一定とは限らず、電極114の表面上の位置に応じて変動し得る。
【0052】
本実施形態に係る細胞培養装置110は以上のような構造であり、続いて細胞培養装置110の製造方法を説明する。実施形態1と同様の手順で、基板111の第1主面111A上に、配線112、絶縁膜113及び電極114を順次に設ける(図8から図10を参照)。なお、本実施形態において絶縁膜113上に設けられた複数の電極114に対して行われるアニール処理では、例えば220℃程度の温度環境で10分程度にわたって行われる。つまり、本実施形態では、複数の電極114に対して行われるアニール処理の処理時間が、実施形態1での処理時間(例えば40分)よりも大幅に短い。具体的には、例えば1/4程度とされる。従って、本実施形態では、電極114に含まれるITOの結晶化度合いが、実施形態1に比べると、低くなっている。
【0053】
絶縁膜113上に設けられた複数の電極114は、シュウ酸を含むエッチング液を用いて表面処理(エッチング処理)される。表面処理に際しては、複数の電極114は、エッチング液であるシュウ酸水溶液に浸漬される。複数の電極114がシュウ酸水溶液に浸漬される時間は、例えば50秒程度とされる。表面処理を終えた複数の電極114は、純水等によって洗浄される。つまり、本実施形態では、複数の電極114がエッチング液に浸漬される処理時間が、実施形態1での処理時間(例えば60秒)よりもやや短い。具体的には、例えば10秒程度短い。表面処理された複数の電極114の表面には、図16に示すように、複数の溝部117が設けられる。設けられた溝部117は、電極114の表面の全域にわたって網目状に張り巡らされ、その深さは、電極114の厚みと同じになる確実性が高くなっている(図14及び図15を参照)。
【0054】
本実施形態において、複数の電極114がエッチング液に浸漬される処理時間が実施形態1での処理時間よりも短いにもかかわらず、溝部117の深さが実施形態1よりも大きくなる理由について説明する。第1には、本実施形態では、エッチング液としてシュウ酸水溶液を用いていることが挙げられる。他にも、本実施形態では、アニール処理での処理時間が実施形態1よりも短いことから、電極114に含まれるITOの結晶化度合いが実施形態1よりも低く、エッチング液によるエッチングレートが高くなることも影響していると推考される。なお、本実施形態では、アニール処理及び表面処理での各処理時間が、実施形態1での各処理時間よりもいずれも短いから、細胞培養装置110の製造に要する時間の短縮化を図る上でも好適である。
【0055】
以上説明したように本実施形態の細胞培養装置110は、溝部117は、深さが電極114の厚みと同じとされ、電極114は、溝部117により分割された複数の島状部18を含む。電極114が複数の島状部18を含むことで、配線112の一部が溝部117を通して露出することになる。電極114の表面上にて培養される細胞CEを、複数の島状部18を隔てる溝部117に沿って面状に広がる形で良好に成長させることができる。
【0056】
また、本実施形態の細胞培養装置110の製造方法は、電極114に、シュウ酸を含むエッチング液を供給し、電極114の表面をエッチングして溝部117を設ける。電極114に、シュウ酸を含むエッチング液を供給すると、電極114の表面がエッチングされることで、溝部117が設けられる。このようにして設けられた溝部117は、深さが電極114の厚みと同じとなる。これに伴い、電極114は、溝部117により分割された複数の島状部18を含む構成となる。電極114が複数の島状部18を含むことで、配線112の一部が溝部117を通して露出することになる。電極114の表面上にて培養される細胞CEを、複数の島状部18を隔てる溝部117に沿って面状に広がる形で良好に成長させることができる。
【0057】
<他の実施形態>
本明細書が開示する技術は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されず、例えば次のような実施形態も技術的範囲に含まれる。
【0058】
(1)製造方法に関して、電極14,114に対して行われるアニール処理及び表面処理での各処理時間および処理温度は、実施形態1,2にて説明した時間や温度以外にも適宜に変更可能である。
【0059】
(2)製造方法に関して、電極14,114に対して行われる表面処理で用いられるエッチング液は、塩化鉄(III)水溶液やシュウ酸水溶液以外にも適宜に変更可能である。例えば、エッチング液として、塩酸と硝酸との混合溶液(王水系)を用いることも可能である。
【0060】
(3)溝部17,117の溝幅、深さ及び平面に視た経路等は、実施形態1,2での説明や図示以外にも適宜に変更可能である。
【0061】
(4)実施形態2において、島状部18の平面形状、平面に視た大きさ及び配列間隔等は、実施形態2での説明や図示以外にも適宜に変更可能である。
【0062】
(5)配線12,112における第1端部12Aの平面形状や平面に視た大きさは、図示以外にも適宜に変更可能である。例えば、第1端部12Aが円形等であってもよい。
【0063】
(6)電極14,114の平面形状や平面に視た大きさは、図示以外にも適宜に変更可能である。例えば、電極14,114が円形等であってもよい。
【0064】
(7)基板11,111の第1主面11A,111Aにおける絶縁膜13,113の具体的な形成範囲は、図示以外にも適宜に変更可能である。
【0065】
(8)絶縁膜13,113に設けられるコンタクトホール13A,113Aの具体的な平面形状や平面に視た大きさは、実施形態1,2での説明や図示以外にも適宜に変更可能である。例えば、コンタクトホール13A,113Aの平面形状が円形等であってもよい。
【0066】
(9)配線12,112及び電極14,114の具体的な設置数は、図示以外にも適宜に変更可能である。例えば配線12,112及び電極14,114が1つずつ設けられる構成でもよい。
【0067】
(10)ウェル15の具体的な設置数は、図示以外にも適宜に変更可能である。例えばウェル15が複数設けられてもよい。
【0068】
(11)ウェル15の具体的な平面形状は、図示以外にも適宜に変更可能である。例えばウェル15の平面形状が方形の環状(枠状)等であってもよい。
【0069】
(12)基板11,111、配線12,112、絶縁膜13,113及び電極14,114に用いる材料は、実施形態1,2にて説明した材料以外にも適宜に変更可能である。
【0070】
(13)基板11,111、絶縁膜13,113及び電極14,114は、透明な材料以外にも半透明な材料や不透明な材料(例えば遮光性を有する材料)により構成されてもよい。
【0071】
(14)配線12,112は、遮光性を有する材料以外にも透明な材料や半透明な材料により構成されてもよい。
【0072】
(15)細胞培養装置10,110は、付加的に、電極14,114を介して取得した活動電位に関する信号を処理する処理装置や、解析結果を表示するディスプレイ等を含んでいてもよい。この処理装置は、例えば、マイクロコンピュータによって構成することができ、電極14,114から得られた信号データを解析する解析プログラムを実行することにより、例えば、神経細胞に対しては、長期間にわたる活動電位の計測において、神経活動(スパイク)をカウントしたり、バーストを検出したり、さらには細胞間のネットワーク解析を行えるように構成されていてもよい。また、心筋等の筋肉細胞に対しては、細胞外電位の計測や心筋の収縮と弛緩とによる各種反応に関する応答電位データを解析できるものなどであってよい。
【符号の説明】
【0073】
10,110…細胞培養装置、11,111…基板、11A,111A…第1主面(主面)、12,112…配線、13,113…絶縁膜、13A,113A…コンタクトホール、14,114…電極、17,117…溝部、18…島状部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16