(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067171
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】タイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20240510BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20240510BHJP
B29K 105/24 20060101ALN20240510BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
B29K105:24
B29L30:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177029
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋平
【テーマコード(参考)】
4F202
4F203
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AH20
4F202AR04
4F202AR12
4F202CA21
4F202CB01
4F202CP01
4F202CP03
4F202CP04
4F203AA45
4F203AB03
4F203AH20
4F203AM32
4F203AR04
4F203AR11
4F203AR12
4F203DA11
4F203DB01
4F203DC01
4F203DL11
4F203DN26
(57)【要約】
【課題】ベアー及びスピューが抑制されうるタイヤ製造方法の提供。
【解決手段】タイヤの製造方法は、
(1)キャビティに向けて開口するベントを含むプラグ46を有しており、このベントの開口58がスリット状であって幅が0.050mm以下であるモールドに、ローカバーを投入する工程、
(2)このモールドを閉じる工程、
(3)ローカバーを加圧及び加熱し、開口58に向けてローカバーを進行させ、モールドのキャビティ面とローカバーとの間に存在するエアーをベントを通じて排出させ、ローカバーの表面にあるゴム組成物のトルクを大きくする工程、
並びに
(4)ローカバーを開口に到達させる工程
を含む。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)プラグとこのプラグを収容するホールとを有しており、上記プラグがキャビティに向けて開口するベントを有しており、上記ベントの開口がスリット状であって幅が0.050mm以下であるモールドに、ローカバーを投入する工程、
(2)上記モールドを閉じる工程、
(3)上記ローカバーを加圧及び加熱し、上記開口に向けて上記ローカバーを進行させ、上記モールドのキャビティ面と上記ローカバーとの間に存在するエアーを上記ベントを通じて排出させ、上記ローカバーの表面にあるゴム組成物のトルクを下記数式で算出されるM10と同じか又はこれよりも大きくする工程、
並びに
(4)上記ローカバーを上記開口に到達させる工程
を備えた、タイヤの製造方法。
M10 = M0 + (M100 - M0) * 0.10
(この数式において、M0は上記ゴム組成物の加硫曲線における最小トルクを表し、M100はこの加硫曲線における最大トルクを表す。)
【請求項2】
上記工程(2)において上記モールドが閉じてから、上記工程(4)において上記ローカバーが上記開口に到達するまでの時間が、60秒以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記工程(1)において、上記プラグの直径Dpと上記キャビティ面のプロファイルのうち上記ホールが位置する箇所の曲率半径Rhとの比(Dp/Rh)が0.50以下であるモールドに、上記ローカバーが投入される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記工程(1)において、上記曲率半径Rhが30mm以下であるモールドに、上記ローカバーが投入される、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
上記工程(1)において、上記モールドの周方向に対するその長さ方向の角度が45°以上135°以下である開口を有するモールドに、上記ローカバーが投入される、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、タイヤの製造方法を開示する。詳細には、本明細書は、タイヤの改良された加硫工程を開示する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの加硫工程に、モールドが用いられている。この加硫工程では、予備成形されたローカバー(グリーンタイヤ)が、モールドに投入される。このローカバーは、モールドとブラダー(又は中子)とによって形成されるキャビティにおいて、加圧されつつ加熱される。加圧と加熱とにより、ローカバーのゴム組成物がキャビティ内を流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤが得られる。
【0003】
特開2018-114668公報には、ベントを有するモールドが開示されている。このベントは、キャビティと外気とを連通する。加硫工程において、モールドのキャビティ面とローカバーとの間のエアーは、このベントを通じて排出される。この排出により、ベアーが抑制されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベントには、ローカバーのゴム組成物が流入する。流入は、ゴムのスピューを招来する。このスピューは、タイヤと一体である。スピューは、タイヤの外観及び性能を阻害する。スピューの除去には、手間がかかる。
【0006】
スピューが生じにくいモールドが、種々提案されている。これらのモールドには、エアーの排出不良、タイヤの外観不良等の問題がある。
【0007】
本出願人の意図するところは、ベアー及びスピューが抑制されうるタイヤ製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書は、タイヤの製造方法を開示する。この製造方法は、
(1)プラグとこのプラグを収容するホールとを有しており、このプラグがキャビティに向けて開口するベントを有しており、このベントの開口がスリット状であって幅が0.050mm以下であるモールドに、ローカバーを投入する工程、
(2)このモールドを閉じる工程、
(3)ローカバーを加圧及び加熱し、開口に向けてこのローカバーを進行させ、モールドのキャビティ面とローカバーとの間に存在するエアーをベントを通じて排出させ、ローカバーの表面にあるゴム組成物のトルクを下記数式で算出されるM10と同じか又はこれよりも大きくする工程、
並びに
(4)このローカバーを開口に到達させる工程
を含む。
M10 = M0 + (M100 - M0) * 0.10
この数式において、M0はゴム組成物の加硫曲線における最小トルクを表し、M100はこの加硫曲線における最大トルクを表す。
【発明の効果】
【0009】
この製造方法では、ベントを通じてエアーが排出されるので、タイヤにベアーが生じにくい。この製造方法では、ベントへのゴム組成物の流入が抑制されるので、タイヤにスピューが生じにくい。この製造方法により、高品質なタイヤが得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るタイヤ製造方法に適したモールドの一部が示された概略図である。
【
図2】
図2は、
図1のII-II線に沿った拡大断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のモールドのセグメントが示された左側面図である。
【
図5】
図5は、
図3のセグメントの一部が示された拡大正面図である。
【
図6】
図6は、
図5のVI-VI線に沿った拡大断面図である。
【
図7】
図7は、
図6のセグメントの一部が示された分解拡大図である。
【
図8】
図8は、
図7のセグメントのプラグが示された拡大斜視図である。
【
図11】
図11は、
図1のモールドが使用されたタイヤ製造方法が示されたフローチャートである。
【
図12】
図12は、
図11の方法で製造されるタイヤの、トレッド用ゴム組成物の加硫曲線が示された、グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面が参照されつつ、タイヤ製造方法の好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0012】
図1及び2に、タイヤ用モールド2が示されている。
図2において、矢印Xはモールド2の径方向を表し、矢印Yはモールド2の軸方向を表す。このモールド2は、下プレート4、上プレート6、一対のサイドウォールプレート8、コンテナリング10、複数のセクターシュー12及び複数のセグメント14を有している。
図1では、便宜上、上プレート6の図示が省略されている。下プレート4は、リング状の形状を有する。上プレート6は、ディスク状の形状を有する。それぞれのサイドウォールプレート8は、実質的にリング状の形状を有する。
【0013】
図1に示されるように、コンテナリング10は、筒状である。
図2に示されるように、コンテナリング10は、内周面16を有している。この内周面16は、軸方向に対して傾斜している。内周面16は、下に向かうに従って径方向外側に向かう形状を、有している。内周面16は、複数のレール18を有している。
【0014】
図1に示されるように、セクターシュー12の平面形状は、実質的に扇形である。
図2に示されるように、セクターシュー12は、内周面20及び外周面22を有している。
図1では、複数のセクターシュー12が周方向に沿って並んでいる。セクターシュー12の数は、通常3以上20以下である。本実施形態では、セクターシュー12の数は、9である。
【0015】
外周面22は、軸方向に対して傾斜している。外周面22は、下に向かうに従って径方向外側に向かう形状を、有している。
図2に示されるように、外周面22は溝24を有している。図示は省略されるが、この溝24は、いわゆる蟻溝である。この蟻溝24は、アンダーカット形状を有している。外周面22は、コンテナリング10の内周面16と当接している。蟻溝24には、レール18が嵌まっている。蟻溝24とレール18との引っかかりにより、セクターシュー12のコンテナリング10からの離脱が阻止されている。蟻溝24は、レール18に対して擦動可能である。従ってセクターシュー12は、コンテナリング10に対して擦動可能である。
【0016】
図1では、複数のセグメント14がリング状に配置されている。これらのセグメント14により、キャビティが形成されている。セグメント14の数は、通常3以上20以下である。セグメント14の数は、セクターシュー12の数と一致している。従って本実施形態では、セグメント14の数は、9である。モールド2が、互いにサイズの異なる複数種のセグメント14を有してもよい。
【0017】
それぞれのセグメント14の平面形状は、実質的に扇形である。
図2に示されるように、セグメント14は、キャビティ面26と背面28とを有している。背面28は、セクターシュー12の内周面20に当接している。セグメント14は、セクターシュー12に固定されている。固定は、ボルト等の図示されない手段によって達成されている。セクターシュー12とセグメント14との間に、他の部材(ホルダー等)が介在してもよい。
【0018】
モールド2が開かれた状態では、セクターシュー12は
図2に示された位置よりも径方向外側にあり、コンテナリング10は
図2に示された位置よりも上方にある。モールド2の閉動作では、コンテナリング10が、徐々に下降する。コンテナリング10の内周面16にその外周面22が押されたセクターシュー12は、径方向内側に向かって、徐々に移動する。この移動により、セクターシュー12とこれに隣接するセクターシュー12との距離が、徐々に小さくなる。セクターシュー12の移動に伴い、セグメント14が、径方向内側に向かって徐々に移動する。この移動により、セグメント14とこれに隣接するセグメント14との距離が、徐々に小さくなる。コンテナリング10の下降が終了した時点で、セグメント14が隣接するセグメント14と当接し、キャビティが形成される。セグメント14が隣接するセグメント14と当接したときが、モールド2が閉じたときである。
【0019】
閉じているモールド2が開かれるとき、コンテナリング10が徐々に上昇する。蟻溝24とレール18とは引っかかっているが、セクターシュー12には重力がかかっているので、このセクターシュー12は上昇しない。セクターシュー12は、コンテナリング10と擦動しつつ、径方向外側に向かって、徐々に移動する。この移動により、セクターシュー12とこれに隣接するセクターシュー12との距離が、徐々に大きくなる。セクターシュー12の移動に伴い、セグメント14が、径方向外側に向かって徐々に移動する。この移動により、セグメント14とこれに隣接するセグメント14との距離が、徐々に大きくなる。
【0020】
図3-5に、セグメント14が示されている。
図5において、矢印Yはモールド2の軸方向を表し、矢印Zはモールド2の周径方向を表す。前述の通りセグメント14は、キャビティ面26と背面28とを有している。セグメント14はさらに、一対の側面30及び一対の端面32を有している。セグメント14の材質は、金属である。典型的な金属は、アルミニウム合金である。
【0021】
図3及び5に示されるように、キャビティ面26は、4つのメインリッジ34と、多数のサブリッジ36とを有している。それぞれのメインリッジ34は、周方向に延在している。このメインリッジ34は、タイヤのトレッドの周方向溝に対応する。それぞれのサブリッジ36は、周方向に対して傾斜している。このサブリッジ36は、タイヤのトレッドの横溝に対応する。これらのメインリッジ34及びサブリッジ36により、キャビティ面26に多数のリセス38が形成されている。それぞれのリセス38は、タイヤのトレッドのブロックに対応する。リセス38は雌であり、ブロックは雄である。ブロックには、リセス38の形状が転写される。
【0022】
図3に示されるように、セグメント14のキャビティ面26は、クラウン40と一対のショルダー42とに区画されうる。軸方向において、それぞれのショルダー42の長さLsは、クラウン40の長さLcの半分である。ショルダー42のプロファイルは、
図3の左側に向けて、凸である。クラウン40のプロファイルは、
図3の左側に向けて、わずかに凸である。プロファイルとは、リッジ等の凹凸が存在しないと仮定されたときのキャビティ面26の形状である。
【0023】
図6及び7に示されるように、セグメント14は、ホール44を有している。このホール44は、メインホール44aとサブホール44bとを含んでいる。メインホール44aは、ショルダー42(
図3も参照)において、キャビティ面26に開口している。サブホール44bは、メインホール44aから延びている。サブホール44bの内径は、メインホール44aの内径よりも小さい。サブホール44bは、メインホール44aをモールド2の外部と連通する。
【0024】
セグメント14はさらに、プラグ46を有している。プラグ46は、ホール44に収容されている。説明の便宜上、
図7では、プラグ46がホール44と分離されて示されている。プラグ46が、
図7において矢印A1で示される方向へ移動することで、プラグ46がメインホール44aに至る。プラグ46の外径は、サブホール44bの内径よりも大きい。従ってプラグ46は、サブホール44bには至っていない。本実施形態では、プラグ46は、メインホール44aに圧入されている。
【0025】
図8及び9に、プラグ46が示されている。このプラグ46は、概して円柱の形状を有している。プラグ46は、ボトム面48、トップ面50及びサイド面52を有している。このプラグ46はさらに、2つのチャンバー54と、6つのベント56とを有している。
【0026】
図9Bから明らかなように、それぞれのチャンバー54は、ボトム面48において開口している。それぞれのベント56は、チャンバー54からトップ面50に至っている。このベント56は、トップ面50において、開口58を有している。この開口58の形状は、スリット状である。
図6も併せて参照すれば明らかなように、ベント56は、モールド2のキャビティに向けて開口している。ベント56、チャンバー54及びホール44は、このキャビティをモールド2の外部と連通する。本実施形態では、開口58の数は6である。この数は、3以上12以下が好ましい。
【0027】
セグメント14が、チャンバー54を有さないプラグ46を含んでもよい。このプラグ46では、ベント56が、ボトム面48からトップ面50に至る。このセグメント14では、ベント56及びホール44が、キャビティをモールド2の外部と連通する。
【0028】
図10に、トップ面50が拡大されて示されている。
図10において矢印Woは、開口58の幅を表す。この幅Woは、0.050mm以下である。換言すれば、開口58は、極めて小さい幅Woを有している。
【0029】
図11に、このモールド2が使用されたタイヤ製造方法が示されている。この製造方法では、まず、予備成形工程によってローカバーが成形される(STEP1)。このローカバーは、多数の部品の集合である。ローカバーは、トレッド用部品、サイドウォール用部品等を含んでいる。それぞれの部品の材質は、未架橋のゴム組成物である。部品が、ゴム組成物と共に、コード、クロス、ワイヤ等を含んでもよい。
【0030】
モールド2が開いており、ブラダー(図示されず)が収縮している状態で、ローカバーがモールド2に投入される(STEP2)。ブラダーは、ローカバーの内側に位置する。次に、このモールド2が型締めされる(STEP3)。この型締めにより、複数のセグメント14がキャビティを形成する。
【0031】
次に、ブラダーが膨張し、ローカバーを加圧する(STEP4)。ローカバーは、ブラダーによってモールド2のキャビティ面26に押しつけられる。この状態のローカバーRcが、
図2に示されている。加圧と同時にローカバーRcは、加熱される(STEP5)。加圧(STEP4)及び加熱(STEP5)により、ゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤが得られる(加硫工程)。このタイヤは、トレッド及びサイドウォールを有している。このトレッドは、複数のセグメント14によって形成されたキャビティによって成形される。サイドウォールは、サイドウォールプレート8によって成形される。モールド2が型開きされ、タイヤが取り出される(STEP6)。
【0032】
ブラダーがローカバーRcを加圧する工程(STEP4)では、まずクラウン40において、ローカバーRcがキャビティ面26に当接する。ブラダーの膨張が継続することで、ショルダー42においても、ローカバーRcがキャビティ面26に徐々に近づく。ローカバーRcとキャビティ面26との間に存在するエアーは、ベント56、チャンバー54及びホール44を通じて排出される。この排出により、タイヤにベアーが発生することが、抑制される。
【0033】
前述の通り、開口58の幅Woは、極めて小さい。従って、ベント56を通過するエアーの圧力損失は、大きい。エアーは、ベント56から、徐々に排出される。従って、ショルダー42においてローカバーRcがキャビティ面26(又は開口58)に到達するまでに、長時間を要する。ローカバーRcの加熱(STEP5)は継続するので、ローカバーRcが開口58に到達するまでに、架橋反応が徐々に進行する。開口58に到達したローカバーRcのゴム組成物の架橋密度は、モールド2への投入(STEP2)がなされたときの架橋密度よりも大きい。開口58に到達したローカバーRcのゴム組成物の粘度は、モールド2への投入(STEP2)がなされたときの粘度よりも大きい。このゴム組成物は、ベント56に流入しにくい。従って、ベント56への流入に起因するスピューが、発生しにくい。
【0034】
本実施形態では、ローカバーRcのうちのトレッド用部品が、開口58に当接する。
図12は、このトレッド用部品のゴム組成物の加硫曲線が示されたグラフである。このグラフにおいて、横軸は加硫時間(min)であり、縦軸はトルク(N・m)である。このグラフにおいて、M0は加硫曲線における最小トルクを表し、M100は加硫曲線における最大トルクを表す。
【0035】
加硫曲線は、「JIS K 6300-2:2001」の規定に準拠して、振動式加硫試験機によって測定される。測定条件は、以下の通りである。
試験機:JSRトレーディング社のキュラストメーター
振動数:100回/min
振幅角:±1.0°
ダイ温度:160℃
【0036】
本実施形態では、ローカバーRcが開口58に到達した時点において、トレッド用部品のゴム組成物のトルクは、下記数式で算出されるM10と同じか又はこれよりも大きい。
M10 = M0 + (M100 - M0) * 0.10
トルクがM10と同じか又はこれよりも大きいゴム組成物は、ベント56に流入しにくい。
【0037】
ローカバーRcが開口58に到達した時点におけるトルクの調整は、
(1)キャビティ面26におけるホール44の位置
(2)ホール44の数
(3)各プラグ46における開口58の数
(4)各開口58の幅Wo
(5)各開口58の長さ
等が調整されることによってなされうる。本実施形態では、ホール44がショルダー42に形成され、かつ幅Woが0.050mm以下に調整されることで、M10と同じか又はこれよりも大きいトルクが達成される。
【0038】
より好ましくは、ローカバーRcが開口58に到達した時点におけるゴム組成物のトルクは、下記数式で算出されるM13と同じか又はこれよりも大きい。
M13 = M0 + (M100 - M0) * 0.13
【0039】
さらに好ましくは、ローカバーRcが開口58に到達した時点におけるゴム組成物のトルクは、下記数式で算出されるM15と同じか又はこれよりも大きい。
M15 = M0 + (M100 - M0) * 0.15
【0040】
タイヤの耐久性の観点から、ローカバーRcが開口58に到達した時点におけるゴム組成物のトルクは、下記数式で算出されるM30と同じか又はこれよりも小さいことが好ましい。
M30 = M0 + (M100 - M0) * 0.30
【0041】
ホール44の位置によっては、ローカバーRcのうちのトレッド用部品以外の部品が、開口58に当接しうる。この場合は、当該部品のゴム組成物の加硫曲線に基づき、M10、M13、M15及びM30が、算出される。サイドウォール用部品が開口58に当接する製造方法では、このサイドウォール部品のゴム組成物の加硫曲線に基づき、M10、M13、M15及びM30が算出される。
【0042】
前述の通り、開口58の幅Woは0.050mm以下である。スピューの抑制の観点から、開口58の幅Woは0.040mm以下がより好ましく、0.035mm以下が特に好ましい。ベアーの抑制の観点から、この幅Woは0.010mm以上が好ましく、0.015mm以上がより好ましく、0.020mm以上が特に好ましい。
【0043】
型締め(STEP3)が完了してから、ローカバーRcが開口58に到達するまでの時間は、60秒以上が好ましい。この時間が60秒以上である製造方法により、スピューの少ないタイヤが得られうる。この観点から、この時間は90秒以上がより好ましく、120秒以上が特に好ましい。ベアーの抑制の観点から、この時間は10分以下が好ましく、7分以下がより好ましく、5分以下が特に好ましい。
【0044】
図7において矢印Rhは、キャビティ面26のプロファイルPrのうちホール44が位置する箇所の曲率半径を表す。曲率半径Rhは30mm以下が好ましい。曲率半径Rhが30mm以下であるモールド2では、ベント56が効率よくエアーを排出する。この観点から、曲率半径Rhは25mm以下がより好ましく、20mm以下が特に好ましい。タイヤのトレッドからサイドウォールにかけてのプロファイルPrのうち、曲率半径が最も小さい箇所に、ホール44が位置することが好ましい。
【0045】
図7において矢印Dpは、プラグ46の直径を表す。この直径Dpと曲率半径Rhとの比(Dp/Rh)は、0.50以下が好ましい。プラグ46のトップ面50は、平坦である。一方、プロファイルPrは、曲線である。比(Dp/Rh)が0.50以下であるプラグ46が採用されたモールド2にて得られたタイヤでは、その輪郭がプロファイルPrから大幅には乖離しない。この観点から、比(Dp/Rh)は0.40以下がより好ましく、0.35以下が特に好ましい。ベアーの抑制の観点から、この比(Dp/Rh)は0.10以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.20以上が特に好ましい。直径Dpは、2.0mm以上15.0mm以下が好ましい。
【0046】
図9Aにおいて矢印Loは、最も長い開口58の長さを表す。長さLoと直径Dp(
図7参照)との比(Lo/Dp)は、0.50以上が好ましい。比(Lo/Dp)が0.50以上であるモールド2では、ベアーが抑制されうる。この観点から、比(Lo/Dp)は0.55以上がより好ましく、0.60以下が特に好ましい。プラグ46の強度の観点から、この比(Lo/Dp)は0.90以下が好ましく、0.85以下がより好ましく、0.80以下が特に好ましい。
【0047】
図13に、セグメント14の一部が拡大されて示されている。
図13では、プラグ46のコーナー60は、プロファイルPrよりも下方に位置している。このモールド2では、ゴム組成物が開口58に到達するまでの時間が、十分に大きい。従ってこのモールド2では、スピューが抑制されうる。
図13における矢印Hpは、プロファイルPrからのコーナー60の高さである。スピューの抑制の観点から、高さHpは0.00mm以上が好ましく、0.03mm以上がより好ましく、0.05mm以上が特に好ましい。タイヤの外観の観点から、高さHpは0.20mm以下が好ましい。
【0048】
図14は、
図5のセグメント14の一部が示された拡大正面図である。
図14には、メインリッジ34、サブリッジ36、リセス38及びプラグ46が示されている。
図14において矢印θは、モールド2の周方向(Z方向)に対する、開口58の長さ方向の角度を表す。角度θは、45°以上135°以下が好ましい。加硫工程では、ゴム組成物は、キャビティ面26に沿って軸方向(Y方向)に進行する。角度θが45°以上135°以下であるモールド2では、ゴム組成物の進行方向が、開口58の長さ方向と、概ね一致する。この開口58は、ベアーを抑制しうる。この観点から、角度θは60°以上120°以下がより好ましく、75°以上105°以下が特に好ましい。本実施形態では、角度θは、90°である。
【0049】
本実施形態では、ホール44は、セグメント14に形成されている。ホール44が、セグメント14以外のモールド部品に形成されてもよい。例えば、ホール44がサイドウォールプレート8に形成されてもよい。
【0050】
図15に、他の実施形態に係るタイヤ用モールドのプラグ62が示されている。
図15Aはこのプラグ62が示された平面図であり、
図15Bは
図15AのB-B線に沿った断面図であり、
図15Cは
図15AのC-C線に沿った断面図である。このモールドの、プラグ62以外の構成は、
図1-14に示されたモールド2の構成と同じである。
【0051】
このプラグ62は、概して円柱の形状を有している。プラグ62は、ボトム面64、トップ面66及びサイド面68を有している。このプラグ62はさらに、2つのチャンバー70と、4つの第一ベント72、4つの第二ベント74、及び4つの第三ベント76を有している。
【0052】
図15Bから明らかなように、それぞれのチャンバー70は、ボトム面64において開口している。それぞれの第一ベント72は、チャンバー70からトップ面66に至っている。この第一ベント72は、トップ面66において、第一開口78を有している。この第一開口78の形状は、スリット状である。それぞれの第二ベント74は、チャンバー70からトップ面66に至っている。この第二ベント74は、トップ面66において、第二開口80を有している。この第二開口80の形状は、スリット状である。それぞれの第三ベント76は、チャンバー70からトップ面66に至っている。この第三ベント76は、トップ面66において、第三開口82を有している。この第三開口82の形状は、スリット状である。第一開口78の長さは、第二開口80の長さよりも大きい。第二開口80の長さは、第三開口82の長さよりも大きい。
【0053】
図16に、トップ面66が拡大されて示されている。
図16において矢印W1は、第一開口78の幅を表す。この幅W1は、0.050mm以下である。換言すれば、第一開口78は、極めて小さい幅W1を有している。図示されていないが、第二開口80の幅は第一開口78の幅W1とほぼ同じであり、第三開口82の幅も第一開口78の幅W1とほぼ同じである。これらの開口78、80、82の幅が小さいので、第一ベント72、第二ベント74及び第三ベント76のそれぞれを通過するエアーの圧力損失は、大きい。エアーは、各ベントから、徐々に排出される。従って、ローカバーがプラグ62に到達するまでに、長時間を要する。プラグ62に到達したローカバーのゴム組成物の粘度は、大きい。このゴム組成物は、ベントに流入しにくい。従って、流入に起因するスピューが、発生しにくい。
【0054】
図16において矢印L1は、第一開口78の長さ表す。
図16から明らかなように、2つの第一開口78が、直線上に並んでいる。これらの第一開口78の長さの合計L1*2と、プラグ62の直径Dp(
図15A参照)との比(L1*2/Dp)は、0.50以上が好ましい。比(L1*2/Dp)が0.50以上であるモールドでは、ベアーが抑制されうる。この観点から、比(L1*2/Dp)は0.55以上がより好ましく、0.60以下が特に好ましい。プラグ62の強度の観点から、この比(L1*2/Dp)は0.90以下が好ましく、0.85以下がより好ましく、0.80以下が特に好ましい。
【0055】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態の開示である。
【0056】
[項目1]
(1)プラグとこのプラグを収容するホールとを有しており、上記プラグがキャビティに向けて開口するベントを有しており、上記ベントの開口がスリット状であって幅が0.050mm以下であるモールドに、ローカバーを投入する工程、
(2)上記モールドを閉じる工程、
(3)上記ローカバーを加圧及び加熱し、上記開口に向けて上記ローカバーを進行させ、上記モールドのキャビティ面と上記ローカバーとの間に存在するエアーを上記ベントを通じて排出させ、上記ローカバーの表面にあるゴム組成物のトルクを下記数式で算出されるM10と同じか又はこれよりも大きくする工程、
並びに
(4)上記ローカバーを上記開口に到達させる工程
を備えた、タイヤの製造方法。
M10 = M0 + (M100 - M0) * 0.10
(この数式において、M0は上記ゴム組成物の加硫曲線における最小トルクを表し、M100はこの加硫曲線における最大トルクを表す。)
【0057】
[項目2]
上記工程(2)において上記モールドが閉じてから、上記工程(4)において上記ローカバーが上記開口に到達するまでの時間が、60秒以上である、項目1に記載の製造方法。
【0058】
[項目3]
上記工程(1)において、上記プラグの直径Dpと上記キャビティ面のプロファイルのうち上記ホールが位置する箇所の曲率半径Rhとの比(Dp/Rh)が0.50以下であるモールドに、上記ローカバーが投入される、項目1又は2に記載の製造方法。
【0059】
[項目4]
上記工程(1)において、上記曲率半径Rhが30mm以下であるモールドに、上記ローカバーが投入される、項目3に記載の製造方法。
【0060】
[項目5]
上記工程(1)において、上記モールドの周方向に対するその長さ方向の角度が45°以上135°以下である開口を有するモールドに、上記ローカバーが投入される、項目1から4のいずれかに記載の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明された方法により、種々のタイヤが製造されうる。
【符号の説明】
【0062】
2・・・タイヤ用モールド
14・・・セグメント
26・・・キャビティ面
28・・・背面
30・・・側面
32・・・端面
34・・・メインリッジ
36・・・サブリッジ
38・・・リセス
40・・・クラウン
42・・・ショルダー
44・・・ホール
44a・・・メインホール
44b・・・サブホール
46・・・プラグ
54・・・チャンバー
56・・・ベント
58・・・開口
60・・・コーナー
62・・・プラグ
70・・・チャンバー
72・・・第一ベント
74・・・第二ベント
76・・・第三ベント
78・・・第一開口
80・・・第二開口
82・・・第三開口