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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067180
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】残存型枠
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/02 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
E02D29/02 309
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177046
(22)【出願日】2022-11-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-12
(71)【出願人】
【識別番号】320013953
【氏名又は名称】松井建材有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100181571
【弁理士】
【氏名又は名称】栗本 博樹
(72)【発明者】
【氏名】森 有央
【テーマコード(参考)】
2D048
【Fターム(参考)】
2D048AA81
(57)【要約】
【課題】間伐材を利用した残存型枠として、木材間からのコンクリートやモルタルの漏れを防ぐとともに、従来のコンクリート製残存型枠に対して、コンクリート部材の量を軽減するとともにコンクリートを木材間の連結に利用する。
【解決手段】未乾燥の木材から生成された複数の略同一寸法の角材若しくはタイコ材に所定の押圧力を加えて着接する板状の連続体と、前記角材若しくはタイコ材の背面側に、長手方向に所定の密度で略等間隔に埋め込まれたジベルと、前記板状の連続体に着接して打設され、前記ジベルによって硬化時に前記板状の連続体と一体になるコンクリート板と、を備えた残存型枠。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打設時の型枠のうち、コンクリート硬化後に残存させる残存型枠であって、
未乾燥の木材から生成された複数の略同一寸法の角材若しくはタイコ材を同一方向で、長手方向に並列に並べて、異なる木材間で対峙する長手方向切断面を所定の押圧力によって着接する板状の木材の連続体と、
該板状の木材の連続体の一方の面における角材若しくはタイコ材の切断面に、長手方向に所定の密度で略等間隔に埋め込まれたジベルと、
前記板状の木材の連続体の前記一方の面に打設され、前記ジベルによって硬化時に前記板状の木材の連続体と一体になるコンクリート板と、
を備えた残存型枠。
【請求項2】
前記コンクリート板の重量が前記板状の木材の連続体の重量と比較して、略同一若しくは前記コンクリート板の重量が大きい請求項1の残存型枠。
【請求項3】
前記コンクリート板が前記板状の木材の連続体に着設していない周辺部を有する請求項1若しくは請求項2の残存型枠。
【請求項4】
前記コンクリート板が内部に用心線材を備えた請求項1の残存型枠。
【請求項5】
前記コンクリート板が、前記残存型枠として、打設されるコンクリートと連結のための継鉄筋を備えた請求項1の残存型枠。
【請求項6】
請求項1の残存型枠を用いて、築造されたコンクリート構造物。
【請求項7】
未乾燥の木材から生成された複数の略同一寸法の角材若しくはタイコ材を同一方向で、長手方向に並列に並べて、異なる木材間で対峙する長手方向切断面を所定の押圧力によって着接し、板状の木材の連続体にする過程と、
該板状の木材の連続体の一方の面の角材若しくはタイコ材の切断面に、長手方向に所定の密度で略等間隔にジベルを埋め込む過程と、
前記板状の木材の連続体の前記一方の面上に四方を囲む堰板を設ける過程と、
前記堰板内に生コンクリートを投入する過程と、
を備えた残存型枠の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物を築造する際の型枠の内、コンクリート打設後に残存する型枠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート構造物築造に関して、高品質で均一な出来高の要求や現場における技術者、高度な技能を有する作業員の不足等から、二次製品の活用が頻繁に行われている。一方、集中豪雨によって発生する土砂災害の要因として人工林への間伐等の手入れ不足が指摘されている。間伐材の利用促進として、山留のコンクリート構造物の築造に際して、間伐材を利用し、景観等を配慮した残存型枠が利用されるようになってきている。
【0003】
間伐材を残存型枠として利用する工法としては、所定の木材を横方向に内側に均一な面を形成するように積上げ、縦材を内外何れかに設け、コンクリートを打設することを繰り返し、打設面を上昇させながら構造物を構築するものがある。砂防堰堤などの工法として用いられる。
【0004】
間伐材を残存型枠に用いることによって、木材の保温、保湿効果などコンクリートの長期養生に繋がり、コンクリート構造物として強度の確保の他、ライフサイクルの長期化や景観形成、間伐材の利用などの治山効果などの優れた効果がある一方で、型枠の組立てに多くの人材を要することや同一品質の材料の確保や縦材を内側に配置した場合の構造物の断面不足が生じるなどの課題がある。
【0005】
上記間伐材を利用した残存型枠の施工法に関しては、図7に示す通りである。
1)床掘13を実施
2)基礎コンクリート14を打設、支持部材アンカー16、縦材18を設置、支持部材15の設置
3)横木材17を積み上げ設置
4)コンクリート11の打設
5)既存コンクリート12打設面を上記2)の基礎コンクリート面として、上方への繰返し施工
【0006】
間伐材を利用した残存型枠として、複数の丸太材による型枠ユニットを貫通孔によって連結させた残存型枠に係る発明(特開平08-246481)によって、木材を積層する労力は緩和させることができたが、積層する木材間からのモルタルの漏れや高コストで背面側の補強材による断面の不足が課題となる。更に、表面側を丸太化粧面のパネル状にして、現場の作業の省力化を図る残存型枠に関する発明(特開2004-263543)が提案されている。複数の太鼓落し材の接面に凹凸によるさねはぎ加工を施し、型枠設置手間の省力化やモルタルの漏れがないなどの改良を加えられているが、高コストや断面の不足が課題となる。
従来工法は、型枠用材料として間伐材を使用することを主眼に置いていた。一方で、上記発明には、型枠の組立てに多くの人材を要することや同一品質の材料の確保などに改善点が認められるが、変形が少なく、モルタルの漏れがない型枠とするためには、使用する木材やその加工などにコストを要するなどの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08-246481号公報
【特許文献2】特開2004-263543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、間伐材を利用した残存型枠として、木材間からのコンクリートやモルタルの漏れを防ぐとともに、従来のコンクリート製残存型枠に対して、コンクリート部材の量を軽減するとともに、コンクリートを木材間の連結に利用する。その結果、複合材料による一体的なパネルとして、コンクリート製の残存型枠と同様な設置手間によって、コンクリート構造物を築造する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
コンクリート打設時の型枠のうち、コンクリート硬化後に残存させる残存型枠であって、
未乾燥の木材から生成された複数の略同一寸法の角材若しくはタイコ材を同一方向で、長手方向に並列に並べて、異なる木材間で対峙する長手方向切断面を所定の押圧力によって着接する板状の木材の連続体と、
該板状の木材の連続体の一方の面における角材若しくはタイコ材の切断面に、長手方向に所定の密度で略等間隔に埋め込まれたジベルと、
前記板状の木材の連続体の前記一方の面に打設され、前記ジベルによって硬化時に前記板状の木材の連続体と一体になるコンクリート板と、
を備えた残存型枠。
【0010】
前記コンクリート板の重量が前記板状の木材の連続体の重量と比較して、略同一若しくは前記コンクリート板の重量が大きい請求項1の残存型枠。
【発明の効果】
【0011】
一般に、木材は、伐採時の生木を製材し、乾燥させて、構造材、造作材等として用いられる。乾燥過程が必要な理由は、木材の乾燥収縮による変形にある。木材は、概ね含水率30%以下になると乾燥収縮を起こし、反りや曲げが生じるとされている。一方、コンクリートは、生コンクリートの水和反応によって水分は失われていき、実務上は28日程度の経過によって所定の強度に達するとされているが、養生期間は、長い程大きな強度を確保できる。また、コンクリートにおいても、硬化段階の自己収縮、その後の乾燥収縮などによって変形は生じるが、木材の乾燥収縮と比較して極めて小さい。木材とコンクリートを複合材として利用した場合、コンクリートと木材の接面付近では、コンクリートの水和反応による水分の消失の進行は比較的遅くなり、一方、木材も硬化中のコンクリートによって乾燥が遅滞する。
本発明の複合材料による残存型枠の木材とコンクリートと接面付近では、製造過程から残存型枠として利用する過程において、木材に変形は生じるが、木材とコンクリートと接面における付着力、木材に埋め込まれたジベル及び製造過程で加えられた所定の押圧力によって、変形は最小限のものとなる。
【0012】
数1によって、木材とコンクリートの複合部材による残存型枠に使用する板状の連続体の木材1本について、本発明の効果を説明する。数1(1)、(5)は、木材とコンクリート板の着接面を表す図である。数1(1)は、単位木材について、長手方向の乾燥収縮を示すものであり、収縮前の状態を実線で示したものに対して、破線は収縮後の状態を示している。木材の乾燥収縮に関しては、一般に、繊維方向の乾燥収縮率は、年輪の半径方向と比較して小さく、数1(1)に記載する収縮率は、間伐材に使用されるスギ、ヒノキを対象に用いられる数値である。本図では、乾燥収縮が生じた状態について、乾燥前の状態に対して仮想的に矢印で示す圧縮力を負荷した状態であることを示すものである。
数1(2)は、この複合部材の断面図であり、断面の下方のハッチ部は、コンクリート板の断面を示している。木材のコンクリート板との着接面では、木材の収縮に対してコンクリートからの付着力は木材に引張力を作用させ、収縮前の長さを維持しようとするが、木材の上面では乾燥収縮によって、数1(2)に示すような反りが生じる。この反りによる変形を軽減するのが数1(3)に示すジベルである。コンクリート板に埋め込まれたジベルは、数1(4)に示すように木材の上部に対して、コンクリート板を基礎にして引張力を木材の中央部に作用させ、変形への抵抗力を生じうる。
【0013】
【数1】
【0014】
数1(5)は、短手方向の乾燥収縮を模式的に示すものである。本例の場合、タイコ材を対象に年輪の半径方向の乾燥収縮率を記載している。この場合も仮想的に短手方向に圧縮力が作用しているのと想定する。この収縮に関して、複数の木材における乾燥収縮の影響として、木材間に生じる間隙の発生やそれに伴うコンクリート板への引張力などが起こり得るが、前記のジベルによって、影響は軽減される。しかし、半径方向の乾燥収縮率は大きく、また短手方向の均等な収縮であれば、数1(6)の状態であるが、木材は、一本の角材であってもその採取され木の部位によって乾燥率が異なり、均等でない収縮が長手若しくは短手方向に生じた場合、数1(7)のような正面から見た反りや曲げが起こり得る。これらに対して、数1(8)に示すように木材の短手方向に圧縮力を作用させた状態で生コンクリートを打設してコンクリート板を製造すると、コンクリート板の脱型当初には短手方向に引張力が作用するが、木材の乾燥が進むに従って木材の引張力は消滅する方向に働く。更に詳細を実施例5で説明する。
以上、木材に埋め込まれたジベルと押圧力によってコンクリート板と着設された木材の板状の連続体によるパネルは、極めて安定した状態の複合材料の残存型枠として利用し得る。安定した状態とは、全体形状の安定性とコンクリート板へのクラック等の発生に対するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の木材としてタイコ材を用いた残存型枠に係る説明図である。(実施例1)
図2図2は、本発明の木材として角材を用いた残存型枠に係る説明図である。詳細説明図である。(実施例2)
図3図3は、本発明の残存型枠を用いたコンクリート構造物の施工方法に係る説明図である。(実施例3)
図4図4は、本発明の残存型枠に係る連結具及び継鉄筋の説明図である。(実施例3)
図5図5は、板状の連続体の周辺部にコンクリート板が着接していない残存型枠の説明図である。(実施例4)
図6図6は、本発明の残存型枠の製造方法係る説明図である。(実施例5)
図7図7は、従来の間伐材を用いたコンクリート構造物の築造に係る説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において、木材に関し、角材とは、概ね7.5cm以上の厚みと幅を有する製材である。タイコ材とは、丸太の芯から略同じ位置の2つの平行な切断面(以下、タイコ落とし面ともいう。)を有する製材であり、本発明において用いられるタイコ材はタイコ落とし面に長手方向に垂直に切断面を有する製材を用いている。特にその切断面が木材の芯付近であると、一本の丸太から2本の同規格のタイコ材を確保でき、無駄なく効率的に木材を利用できる。本発明において、残存型枠に用いられる複合材として、正面側は木材の連続体側であり、背面側はコンクリート板側であって、現場で打設するコンクリートと一体となって機能する。従って、前記タイコ材の場合、正面側には、丸太面が現れ、背面側にはタイコ落とし面に対して垂直な切断面が現れる。本発明に関する実施例は、木材の長手方向を水平方向にした残存型枠として、使用されているが、長手方向は水平方向に限定されるものではない。
【0017】
本発明において、未乾燥の木材とは、通常建築材料等として用いられる含水率15%から20%の製材に対して、切り出して間もない生木を含めて、含水率20%以上の木材で、主として土木・建築材料としてほぼ使用されることのない含水率30%以上の木材をいう。含水率については、(木材重量-乾燥時重量)/(乾燥時重量)で計算される乾燥後の重量に対してどの程度の水分を含んでいるかの示す指標である。木材中に残留する水分には、細胞間に存在する自由水と細胞壁内に存在する結合水があり、木材の乾燥は、自由水の脱水から始まり、細胞壁内の結合水が失われる過程による。細胞壁内には約30%程度の含水率に相当する水分が存在するとされていて、細胞壁内の水分が失われることによって、乾燥収縮が起こり、割れ、反りが生じる。前記未乾燥の木材とは、建築材料等として用いられる程度に達していない乾燥段階の木材であり、含水率が30%以上の木材とは、乾燥収縮前の木材である。
【0018】
本明細書においては、木材の比重について、間伐が必要になる樹木として、スギやヒノキが代表であり、その乾燥時の比重は0.4(スギ:0.38、ヒノキ:4.1)前後とされているが、生木は、1.0程度とされている。従って、本明細書における重量計算に用いる未乾燥の木材については、比重は、1.0としている。一方、コンクリートの比重に関しては、無筋のコンクリートとして一般に用いられる2.3を用いる。
【実施例0019】
図1は、木材としてタイコ材21を用いた実施例を示している。図1(1)は正面図で、生コンクリートを投入する型枠としては、コンクリート投入面の反対側の面を示すものである。図1(2)は、右側面図であり、図1(3)は、背面図である。図1(4)が(2)のA-Aの位置で木材の連続体2とコンクリート板3の接面を背面側から示し、図1(5)が(4)に示すC-Cの位置の右側断面図を表し、図1(6)が(2)に示すB-Bの背面断面を表している。
図1(1)及び(2)に示す通り、木材は、先述の一本の丸太から2本確保できる同規格のタイコ材を用い、最上段と最下段のタイコ材を除き、隣接するタイコ材とタイコ落とし面の両面を接する状態で連続体を形成している。本例では、7本のタイコ材を用いて連続体を形成している。構造図では、表わせないが、図上の最上段の上面及び最下段の下面からは、圧縮力を作用させた状態で生コンクリートを硬化させて製造されたパネルであるが、詳細は実施例5で示す。
【0020】
図1(4)及び(5)に示す通り、それぞれのタイコ材21の短手方向の中央部には、長手方向に略等間隔に埋め込まれたジベル4がある。ジベルの両先端位置は、木材及びコンクリート板3の中央部より深くなっており、木材とコンクリートとの一体性を強いものにしている。ジベルの配置に関しては、本例ではタイコ材1本に4箇所で、概ね28箇所/mの配置となっている。
図1(6)に示すコンクリート板3の内部に配置されたものは、メッシュ状に鉄線を組んだコンクリート板内補強線材31であり、コンクリート板内の用心鉄筋の役割を有する。図1(1)、(3)、(6)に示すコンクリート板上面に設置されたものは、吊り具32であり、現場において、この型枠を吊り上げ、クレーン等によって所定の位置に載置するためのものである。本例においては、吊り具のアンカーとして、コンクリート板内補強線材に連結させている。図の吊り具は、残存型枠1を釣っている状態を示すものであるが、残存型枠の製作時、運搬時、設置後においては、図1(6)に示す、凹みに収まるよう設計されている。
図1(3)の残存型枠の上部及び下部にもうけられた連結受具34は、残存型枠間を連結する連結具33に対するもので、詳細は実施例3で説明する。
【0021】
本実施例における諸元を示すと、木材部分は、長さ1.0m、幅14cm、平均厚さ9.1cmのタイコ材21を7本用い、1.0m×0.98mで上下に凹凸のある表面を形成する木材の板状の連続体2である。長さ1.0mの両端部には、木口が現れ、0.98m幅の両端部には長手方向の切断面で板目が現れ、ジベルを設置する背面には、柾目が現れる連続体である。背面側のコンクリート板3は、厚さ6cmで18N/mmの無筋コンクリートを用いている。ジベルとして、直径6mm×長さ110mmのビスを28本用いている。コンクリート板内補強線材31については、直径6mmの鉄線を15cm~17cmの間隔のメッシュとした。吊り具32等については、実施例2で説明する。
【実施例0022】
図2に木材として角材22を用いた実施例を示す。図2(1)の正面図では、長さ1.0m、幅9cmの角材を11本用いて連接した木材の連続体2の状況を示している。図2(2)の底面図では、厚さ7.5cmの角材と厚さ6cmのコンクリート板3の着接状況が確認できる。ジベル4として、直径6mm×長さ90mmのビスをジベル4として33本用いている。図2(1)(2)の左右端部の隅切り部に関しては、隅角の弱点保護、型枠として曲線施工を容易にするための加工である。
【0023】
本発明における木材の連続体2とコンクリート板3の複合部材について、仮設材料として、吊り工程が不可欠で且つ吊り具32をコンクリート板に設置していることに勘案した制約条件に関して数2及び数3に示す。残存型枠1として、木材の長手方向を水平方向にして用いるか、鉛直方向にするかによって異なる。水平方向の場合で検討する。数2(1)は、木材の連続体とコンクリート板の重心における重力と吊り具からの引張力の関係を模式的表示したものである。数2(1)におけるWとWは、それぞれの重心に作用する重力であり、e×Wとe×Wは、吊り具による引張力Fの作用線と両部材の重心を結ぶ線分の交点を支点にしたモーメント示すもので、e×W<e×Wの場合の木材の連続体とコンクリート板の状況を数2(2)に示し、e×W>e×Wの場合を数2(3)に示している。木材の含水率が高い場合、木材に埋め込まれたジベルの剪断抵抗及び付着面における剪断抵抗は、一定程度見込むことができるのに対して、木材に埋め込まれたジベルの引張抵抗及び木材とコンクリート板の付着面における引張抵抗は極めて低く、吊り工程において数2(2)の状態を維持できるようにすることが望ましい。木材の単位体積重量はコンクリートと比較して小さいため、コンクリート板の内部に引張力の作用線が存在する場合、必ずe>eであり、e×W<e×Wを確保するためW<Wは必要条件である。特に、含水率に関しては、後記の数3に示すように、最大178%になり、ジベルと木材繊維による抵抗力に関して、剪断抵抗は想定されるが、引張抵抗の低いことは、先述の通りである。従って、本発明のパネルに関して、型枠としての設置時における安全性を考慮して、木材の連続体の重量は、コンクリート板の重量以下とする。
【0024】
【数2】
【0025】
数3において、木材の含水率と木材の単位体積重量の関係について示す。数4において、本発明におけるコンクリート板に要求されるコンクリートの引張強度に関する検討を示す。数3に示す通り、「0017」記載の含水率は、木材に含む水分重量を乾燥時の木材重量で除した値である。そこで、「0018」記載の通り、木材の乾燥時の比重(単位体積重量と同値とする。)0.4とし、生木の比重1.0とする。木材重量は、変化することなく、木材の乾燥時の体積である0.95は、数1に記載の乾燥収縮率である長手方向0.2~0.3%、短手方向2~3%から算出したものである。含水率30%以下で、含水率に応じた直線的な変化とし、含水率30%以上では、体積は変化しないものとしている。数3の表では、含水率30%で木材の体積を1としている。
【0026】
【数3】
【0027】
【数4】
【0028】
前記の18N/mmの無筋コンクリートとは、許容圧縮応力度が18N/mmである。本発明に係る残存型枠である複合パネルは、仮設時に吊り工程があり、実施例1及び2では、吊り金具からの引張力がコンクリート板に作用する。数4(1),(2)については、木材の連続体の平均厚さである9.1cm、幅1m、高さ1mで、数3の想定される最大重量の比重1の木材の連続体に対して、コンクリート板の厚さ6cmと4cmの場合における幅1m、高さ1mのコンクリート板に生じる最大引張応力を、コンクリート板の幅×厚さの断面に均等に作用するものとして算出したものである。木材の連続体としては、高さ1mの場合、6cm厚さのコンクリート板の場合、37kN/mで、4cm厚さのコンクリート板の場合、45kN/mである。所定強度に達したコンクリートの許容引張応力に関しては、一般に圧縮応力度の1/10程度とする場合もある。本例の場合、未乾燥木材との複合部材であり、コンクリートの水和反応が遅れることも想定され、仮設材料として規格強度に達していない場合もあるため、仮に所定強度の1/100程度であるとして、試算したのが、短期の許容引張応力度で180kN/mであり、数4(1),(2)の場合では十分な断面力を有すると推定される。また、数4(3),(4)については、木材及びコンクリート厚さが数4(1),(2)と同じ正方形の複合パネルについて、高さの限界について試算したものである。厚さ6cmのコンクリート板の場合、4.8mであり、厚さ4cmのコンクリート板の場合、4mである。この高さ限界の試算は、正方形パネルでの試算であるが、断面力の算定であり、幅1mの矩形パネルでの高さ限界も同じである。このような、材料として生じる引張力については、複合パネルとして脱型の時期、養生期間、出荷時期等、更に実証が必要である。
また、「0023」に示すように、本発明のパネルに関して、型枠としての設置時における安全性を考慮して、木材の連続体の重量は、コンクリート板の重量以下とする。このことに関しては、数4(2)、(4)に示すように本例の木材の連続体に関しては、比重1の場合、コンクリート厚さは概ね4cm以上が必要になる。
【実施例0029】
本発明の残存型枠1による施工に係る実施例を図3によって、説明する。図3(1)は、本発明の残存型枠によるコンクリート構造物の施工段階のうち、下段の残存型枠1施工後、背面に生コンクリートを打設し、該生コンクリートが硬化した状態12を示すものである。下段の残存型枠の上部には、連結受具34である埋込ナットが4箇所/1枚設置されている。詳細図は、図4(1)に示す通りである。図3(2)では、前記下段の残存型枠に連設される上段の残存型枠が載置されるとともに、前記の下段の連結受具と上段型枠の下方に設置された連結受具を跨設し、両段の連結受具に螺合する連結ボルト35の貫入孔を有する連結具33が取り付けられ、前記連結ボルトの締結によって、下段の残存型枠と上段の残存型枠が連結されている。詳細図として、図4(1)から4(4)に示す通りである。図4(2-1)については、図4(2)に示す平鋼を加工した連結具で充分な支持力を得られない場合の山形鋼を加工した連結具を示すものである。力学的な検討に関しては、後述する。図3(2)の工程の後、生コンクリートが投入され、上方へと工程が進められる。本例の下段と上段の残存型枠について、下方から上方への配置が千鳥形状になっているのは、コンクリート構造物として高さ方向に残存型枠の端部が連続した切れ目とならないための工夫を加えている。そのため、連結受具を型枠中心からも端部境界も対称な位置にしている。残存型枠左右の端部の切れ目が問題にならない場合の直列配置を図3(3)に示す。また、残存型枠中央部に突設する継鉄筋36は、残存型枠と打設コンクリートをつなぐ役割を有するもので、図3に示すように本残存型枠を鉛直方向に設置する場合など前面勾配によって必要になる。構造に関する詳細は、図4(5)及び(6)に示すとおりであり、端部加工された継鉄筋に螺合する継鉄筋受具37を設けて、継鉄筋を設置している。
【0030】
上記工程において、仮設材として必要な主たる力学的な検討に関して、下記の数5に示すが、上段の残存型枠が載置された状態を示すのが、数5(1-1)及び(1-2)であり、生コンクリートが投入された段階を示すのが、数5(2)及び(3)である。なお、数5では、平易に現すため連結具33として図4(2-1)に示す山形鋼を用いたものとするが、4(2)の平鋼の加工部材を含め、想定される力の大きさに対応する部材でよい。数5(1-1)は、連結具33を設置後、上段残存型枠の転倒防止や風荷重など横方向荷重を検討する必要がある場合を示すものである。特に図上のaの荷重の場合、M点を支点とするモーメントのつり合いを図る圧縮力を一点鎖線で示す連結具断面での検討しなければならない。数5(1-2)は、上記荷重aに加えて、上段残存型枠の重量を加えた、M点を支点とするモーメントを検討する必要がある。
生コンクリートを投入後に関しては、数5(2)に示すように、本図上のM点を支点とする下段残存型枠のコンクリート板の断面における引張力と、数5(3)に示すM点を支点とするつり合いを確保するための連結具断面における引張力の両方を検討する必要がある。
【0031】
【数5】
【実施例0032】
実施例3に示した本発明の残存型枠1によるコンクリート構造物に関して、コンクリート構造物表面における本残存型枠の端部に生じる切れ目について言及したが、この点が課題となる場合について、採用されるべき残存型枠を図5に示す。図5(1)に示すように木材に関しては、図1の残存型枠と同じ木材の連続体2を用いている。しかし、コンクリート板3に関して、図5(2)及び(3)に示すように、前記連続体の背面を全て覆うことなく、端部を残す構造になっている。これによって、残存型枠設置後に背面打設する生コンクリートは、コンクリート構造物の表面に達し、コンクリート構造物としての切れ目のない構造物になる。なお本図では、継鉄筋受具の表示は省略している。また、本図は残存型枠の四方の端部全てについて、生コンクリートが前記連続体へ到達するが、上段への残存型枠の載置や連結具33の設置等施工性を勘案する場合、本例のように木材の長手を水平方向にする場合、左右の端部のみに処理を施す残存型枠がある。
【実施例0033】
本発明に係る残存型枠の製造方法について、図6に示す。本残存型枠を製造する装置は、該残存型枠の厚さとなる木材21とコンクリート板3の厚さを合計した長さ以上の深さを有した矩形の残存型枠製造用型枠38を用いる。木材の長手方向を挟んで対峙する両辺の固定枠と、木材の長さを有し、木材の側面に接する一方の固定した枠に対して、他方の対峙する辺には、木材の側面から所定の圧力を作用させることができる木材加圧装置23に支持された堰板である枠を備えたものである。図6(1)は、前記型枠に木材を載置し、ジベル4としてのビスを埋め込み、加圧した状態を示すものである。図6(2)は、図6(1)のA-A断面に示す生コンクリート11打設後の状態を表すものである。
【0034】
【数6】
【0035】
数6については、木材加圧装置において、加えるべき力についての検討をしたものである。木材は、含水率によって、強度及びヤング係数は大きく異なるとされている。乾燥した木材のヤング係数については10,000N/mm程度であるとのデータはあるが、未乾燥の木材に関してのデータは極めて少ない。含水率100%を超える木材に関しては根拠にできるものはない状態である。従来使用されなかったためである。数6は、ヤング係数100N/mmとして、最大乾燥率3%に対して、仮に1/6程度の収縮を見込んだ場合の変形に相当する圧力から算出したものである。通常状態で国内における木材の含水率は、15%程度と言われており、数3の過程の30%からの収縮率を1/2とし、木材の押圧による負担を1/3程度とした場合の数値算定である。になる。但し、計算上は仮定が多く、今後更に含水率、乾燥収縮率、ヤング係数等のデータを整え、加圧装置の圧力を設定すべきである。
また、本例の残存型枠製造用型枠38では、木材加圧装置23に支持された堰板を含めて、前記木材の連続体の前記一方の面全体に前記コンクリート板が着設する形状の残存型枠を製造するが、前記木材の連続体の前記一方の面上の周辺を除く四方の位置に堰板を設けることによって、実施例3に示す残存型枠を製造することはできる。
【符号の説明】
【0036】
1 残存型枠、11 生コンクリート、12 打設後硬化したコンクリート、13 床掘、14 基礎コンクリート、15 支持部材、16 支持部材アンカー、17 横木材、18 縦材
2 木材の連続体、21 タイコ材、22 角材、23 木材加圧装置
3 コンクリート板、31 コンクリート板内補強線材、32 吊り具、33 連結具、34 連結受具、35 連結ボルト、36 継鉄筋、37 継鉄筋受具、38 残存型枠製造用型枠
4 ジベル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7