(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067195
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】全固体電池及び全固体電池用容器
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240510BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240510BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240510BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20240510BHJP
H01M 50/547 20210101ALI20240510BHJP
H01M 50/186 20210101ALI20240510BHJP
H01M 50/109 20210101ALI20240510BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20240510BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20240510BHJP
H01M 50/569 20210101ALI20240510BHJP
H01M 50/152 20210101ALI20240510BHJP
H01M 50/153 20210101ALI20240510BHJP
H01M 50/15 20210101ALI20240510BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M50/107
H01M50/547
H01M50/186
H01M50/109
H01M50/103
H01M4/70 A
H01M50/569
H01M50/152
H01M50/153
H01M50/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177072
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504249798
【氏名又は名称】有限会社日本トムセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】増田 俊平
(72)【発明者】
【氏名】古川 一揮
(72)【発明者】
【氏名】冨田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 將之
(72)【発明者】
【氏名】南野(水本) 朱美
【テーマコード(参考)】
5H011
5H017
5H029
5H043
【Fターム(参考)】
5H011AA09
5H011CC06
5H011FF03
5H011GG02
5H017AA04
5H017CC03
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE05
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AL18
5H029AM12
5H043AA19
5H043BA19
5H043CA13
5H043DA03
(57)【要約】
【課題】電池材料の特性測定を正確に行うことができる全固体電池及び全固体電池用容器を提供する。
【解決手段】本願の全固体電池は、作用極と、対極と、その間に配置された固体電解質層とを備え、前記固体電解質層は、平面視で、前記作用極及び前記対極よりも外方にはみ出し、前記作用極及び前記対極の周縁を周回する延在部を備え、前記固体電解質層の延在部の主面上に、平面視で前記作用極又は前記対極の周縁から等距離で周回する参照極を配置している。また、本願の全固体電池用容器は、前記本願の全固体電池を収容し密閉することができ、第1セルフレームと、第2セルフレームと、第3セルフレームとをこの順に備え、第1セルフレームは第1外部端子部に接続され、第2セルフレームは第2外部端子部に接続され、第3セルフレームは第3外部端子部に接続されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極と、対極と、前記作用極と前記対極との間に配置された固体電解質層とを含む全固体電池であって、
前記固体電解質層は、平面視で、前記作用極及び前記対極よりも外方にはみ出し、前記作用極及び前記対極の周縁を周回する延在部を備え、
前記固体電解質層の延在部の主面上に、平面視で前記作用極又は前記対極の周縁から等距離で周回する参照極を配置したことを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記作用極、前記対極及び前記固体電解質層が円形状に形成され、前記延在部及び前記参照極が環状に形成されている請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記作用極及び前記対極が、それぞれ集電板を更に備える請求項1に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記集電板が、円形状に形成されている請求項3に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記参照極が、集電板を更に備える請求項1に記載の全固体電池。
【請求項6】
前記集電板が、環状に形成されている請求項5に記載の全固体電池。
【請求項7】
前記参照極が、Li又はLi合金で形成されている請求項1に記載の全固体電池。
【請求項8】
前記作用極と、前記対極と、前記固体電解質層と、前記参照極とから構成される電池要素が電池容器に収納され、前記電池要素が加圧されている請求項1に記載の全固体電池。
【請求項9】
請求項1に記載された全固体電池を収容し密閉することができる全固体電池用容器であって、
第1セルフレームと、第2セルフレームと、第3セルフレームとをこの順に含み、
前記第1セルフレームは、中央部の上面に凹陥部が形成され、
前記第2セルフレームは、中央部に貫通口が形成され、
前記第1セルフレーム及び前記第2セルフレームは、前記全固体電池を収納する電池収納部を構成し、
前記第3セルフレームは、前記電池収納部の開口部を覆って、前記電池収納部を密閉可能であり、
前記第1セルフレームは、第1外部端子部に接続され、
前記第2セルフレームは、第2外部端子部に接続され、
前記第3セルフレームは、第3外部端子部に接続されていることを特徴とする全固体電池用容器。
【請求項10】
前記第1セルフレームと前記第3セルフレームとが、前記全固体電池を押圧可能に構成されている請求項9に記載の全固体電池用容器。
【請求項11】
前記第1セルフレームの上面には、前記凹陥部を取り囲んで環状凹溝が形成され、前記環状凹溝にはOリングが嵌め込まれている請求項9に記載の全固体電池用容器。
【請求項12】
前記第1セルフレームが、前記全固体電池の対極に接続され、前記第1外部端子部が、対極外部端子部として機能し、
前記第2セルフレームが、前記全固体電池の参照極に接続され、前記第2外部端子部が、参照極外部端子部として機能し、
前記第3セルフレームが、前記全固体電池の作用極に接続され、前記第3外部端子部が、作用極外部端子部として機能する請求項9に記載の全固体電池用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、全固体電池と、その全固体電池の電池材料の特性を正確に測定し得る全固体電池用容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極材料、負極材料、セパレータ、電解液などの電池材料の特性測定に用いることのできる電気化学特性測定用セルとして、例えば、正極、セパレータ、負極をこの順で積層してなる電池要素を電解液に浸漬した状態で密封できる特許文献1に記載のセル構成が提案されている。
【0003】
一方、全固体電池に関し、正極及び/又は負極の電位を正確に測定することができる電池構成として、正極と固体電解質層と負極とが積層され、前記固体電解質層と接続するように設けられた固体電解質部に第3の電極(参照極)を設ける特許文献2に記載の全固体電池の構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-248506号公報
【特許文献2】特開2013-20915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全固体電池における電池材料の特性測定では、リチウムイオン二次電池のように電解液を用いた電池での測定と異なり、特許文献2に記載されたように、参照極の配置が重要となる。しかし、特許文献2に記載された電池の構成では、参照極となるLiが作用極及び対極の周囲の一部分にしか存在しないため、例えば、作用極と対極との間で充電深度(SOC)に差が生じたような場合には、材料の特性を正確に測定することができなくなるという問題を生じる。
【0006】
本願は、上記問題を解決するものであり、全固体電池の電池材料の特性を正確に測定し得る全固体電池及びその全固体電池を収納して特性測定できる全固体電池用容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の全固体電池は、作用極と、対極と、前記作用極と前記対極との間に配置された固体電解質層とを含み、前記固体電解質層は、平面視で、前記作用極及び前記対極よりも外方にはみ出し、前記作用極及び前記対極の周縁を周回する延在部を備え、前記固体電解質層の延在部の主面上に、平面視で前記作用極又は前記対極の周縁から等距離で周回する参照極を配置したことを特徴とする。
【0008】
本願の全固体電池用容器は、前記本願の全固体電池を収容し密閉することができ、第1セルフレームと、第2セルフレームと、第3セルフレームとをこの順に含み、前記第1セルフレームは、中央部の上面に凹陥部が形成され、前記第2セルフレームは、中央部に貫通口が形成され、前記第1セルフレーム及び前記第2セルフレームは、前記全固体電池を収納する電池収納部を構成し、前記第3セルフレームは、前記電池収納部の開口部を覆って、前記電池収納部を密閉可能であり、前記第1セルフレームは、第1外部端子部に接続され、前記第2セルフレームは、第2外部端子部に接続され、前記第3セルフレームは、第3外部端子部に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願によれば、全固体電池の電池材料の特性測定を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の全固体電池を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の全固体電池用容器の外観図である。
【
図4】
図4は、
図3のII-II線の矢印方法から見た模式断面図である。
【
図5】
図5は、実施例の全固体電池の充放電曲線を示す図である。
【
図6】
図6A、Bは、実施例の全固体電池の仮想充放電曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(全固体電池)
本願の全固体電池の実施形態を説明する。本実施形態の全固体電池は、作用極と、対極と、前記作用極と前記対極との間に配置された固体電解質層とを備え、前記固体電解質層は、平面視で、前記作用極及び前記対極よりも外方にはみ出し、前記作用極及び前記対極の周縁を周回する延在部を備え、前記固体電解質層の延在部の主面上に、平面視で前記作用極又は前記対極の周縁から等距離で周回する参照極を配置したことを特徴とする。
【0012】
本実施形態の全固体電池では、前記固体電解質層が、平面視で、前記作用極及び前記対極よりも外方にはみ出し、前記作用極及び前記対極の周縁を周回する延在部を備え、前記固体電解質層の延在部の主面上に、平面視で前記作用極又は前記対極の周縁から等距離で周回する参照極を配置しているので、作用極と対極とが参照極により短絡することはなく、作用極と参照極との間の電位、及び、対極と参照極との間の電位が正確に測定できるので、全固体電池の電気化学特性を正確に把握することができる。
【0013】
また、実際の全固体電池に対し、貯蔵試験や充放電サイクル試験を実施すると、正極と負極の充電深度(SOC)に差が徐々に生じることがある。例えば、何らかの試験後に正極のSOCが、当初の設計のSOC状態から外れてしまい、SOCの調整が必要となった場合、例えばLi金属からなる参照極を仮負極とし、その仮負極とSOCの調整が必要となった正極との間で充放電装置により、正極に対し充電(Liの引き抜き)もしくは放電(Liの供給)を行うことで、正極のSOCの調整が可能となる。この際、本来の負極には、特に電流や電圧を印加するわけではないので、何も影響は与えない。このように、本実施形態の全固体電池では、電極のSOCの調整が可能となり、特に、本実施形態の全固体電池では、参照極が、電極(作用極又は対極)の周縁から等距離となるよう電極の周囲を周回しているので、SOCを調整したい電極を均一に修正可能となり、その結果、電池寿命を延ばすことができる。
【0014】
更に、本実施形態の全固体電池では、電気化学特性を正確に把握することができるため、電池の実使用時における電池の異常診断、充放電制御、寿命予測などが可能となり、電池の総合的な安全性、電池特性維持、長寿命化などを図ることができる。
【0015】
以下、本実施形態の全固体電池を図面に基づき説明する。
図1は、本実施形態の全固体電池を模式的に示す平面図であり、
図2は、
図1のI-I線の模式断面図である。
図1及び
図2において、本実施形態の全固体電池10は、円形状の作用極11と、円形状の対極12と、作用極11と対極12との間に配置された円形状の固体電解質層13とを備えている。また、固体電解質層13は、平面視で、作用極11及び対極12よりも外方にはみ出した環状の延在部13aを備え、その延在部13aの主面上に、平面視で作用極11の周縁から、内縁までの距離が全て等距離となる環状の参照極14が配置されている。また、作用極11及び対極12は、それぞれ円形の集電板15、16を備え、参照極14は、環状の集電板17を備えている。
【0016】
本実施形態の全固体電池10では、参照極14は、作用極11側の延在部13aの主面(
図2では上面)に形成されているが、対極12側の延在部13aの主面(
図2では下面)に形成してもよい。即ち、参照極14は、延在部13aの少なくとも一方の主面上に形成すればよく、延在部13aの両面に形成してもよい。また、参照極14は、延在部13aの少なくとも一方の主面上に形成すれば、更に、延在部13aの側面13bに形成してもよい。但し、参照極14を延在部13aの側面13bにのみ形成したのでは、参照極14からのリチウムの電極への供給量が減るため、参照極を用いることによる電極のSOCの調整が困難となる。
【0017】
本実施形態の全固体電池10では、上記のとおり、作用極11、対極12、固体電解質層13、及び集電板15、16は、それぞれ円形状に形成されているが、円形状に限定されず、矩形、楕円形等に形成してもよい。また、延在部13aは、上記のとおり、環状に形成されているが、枠状に形成してもよい。更に、参照極14は、上記のとおり、環状に形成されているが、平面視で作用極11又は対極12の周縁から参照極14の内縁までの距離が全て等距離となるよう電極の周囲を周回できれば、環状に限定されない。更に、集電板17は、環状に形成されているが、環状に限定されない。
【0018】
本実施形態の全固体電池10では、作用極11と、対極12と、固体電解質層13と、参照極14とから構成される電池要素は、図示しない電池容器に収納され、前記電池要素は、
図2の矢印方向から加圧されて使用される。
【0019】
次に、本実施形態の全固体電池の各構成部材について説明する。本実施形態の全固体電池の作用極と対極のうち、一方が正極として機能し、もう一方が負極として機能するが、以下では作用極を正極、対極を負極とした場合について説明する。
【0020】
<作用極(正極)>
作用極11を構成する正極は、正極活物質を含む正極合剤の成形体から形成できる。正極に用いられる正極活物質は、発電要素の正極成分として機能すれば、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、オリビン型複合酸化物など、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる材料が使用でき、これらを適宜混合して使用してもよい。例えば、LCO(LiCoO2、コバルト酸リチウム)と、硫化物系固体電解質と、導電助剤であるアセチレンブラックとを含有した正極合剤を円柱形状に成形した正極成形体(ペレット)を正極として用いることができる。
【0021】
<対極(負極)>
対極12を構成する負極は、負極活物質を含む負極合剤の成形体から形成できる。負極に用いられる負極活物質は、発電要素の負極成分として機能すれば、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、チタン酸リチウム;金属リチウム、リチウム合金;黒鉛、低結晶カーボンなどの炭素材料;SiOなどの酸化物など、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる材料が使用でき、これらを適宜混合して使用してもよい。例えば、LTO(Li4Ti5O12、チタン酸リチウム)と、硫化物系固体電解質と、導電助剤であるアセチレンブラックとを含有した負極合剤を円柱形状に成形した負極成形体(ペレット)を負極として用いることができる。
【0022】
<固体電解質層>
固体電解質層13は、固体電解質を円柱状に成形した成形体(ペレット)として用いることができる。固体電解質層13に用いられる固体電解質の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、水素化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが使用できるが、イオン伝導性の点から硫化物系固体電解質、特にアルジロダイト型の硫化物系固体電解質が好ましく用いられる。硫化物系固体電解質を用いる場合には、正極活物質との反応を防ぐために、正極活物質の表面をニオブ酸化物などのリチウムイオン伝導性材料で被覆することが好ましい。また、前述の、正極及び負極に含まれる固体電解質も特に限定されるものではなく、水素化物系固体電解質や酸化物系固体電解質などであってもよい。
【0023】
<延在部>
延在部13aは、固体電解質層13の延長部として設けることができ、その場合の延在部13aの幅は特に限定されないが、例えば、1~5mmとすればよい。
【0024】
<参照極>
参照極14は、Li又はLi合金で形成することができる。参照極14の電位は一定であるので、正極と参照極との電圧、及び、負極と参照極との電圧を測定することで、正極の電位及び負極の電位を正確に測定でき、全固体電池の電気化学特性を正確に把握することができる。
【0025】
<集電板>
集電板15、16、17は、例えば、Ni、Al、Cu、Ni-Cr合金、Ni-Sn合金などの金属板で形成できる。
【0026】
<電池容器>
本実施形態の全固体電池に用いる電池容器としては、例えば、コイン形容器、円筒形容器、角形容器等が挙げられる。
【0027】
(全固体電池用容器)
本願の全固体電池用容器の実施形態を説明する。本実施形態の全固体電池用容器は、前記本願の全固体電池を収容し密閉することができ、第1セルフレームと、第2セルフレームと、第3セルフレームとをこの順に備えている。前記第1セルフレームは、中央部の上面に凹陥部が形成され、前記第2セルフレームは、中央部に貫通口が形成され、前記第1セルフレーム及び前記第2セルフレームは、前記全固体電池を収納する電池収納部を構成し、前記第3セルフレームは、前記電池収納部の開口部を覆って、前記電池収納部を密閉可能である。また、前記第1セルフレームは、第1外部端子部に接続され、前記第2セルフレームは、第2外部端子部に接続され、前記第3セルフレームは、第3外部端子部に接続されている。
【0028】
本実施形態の全固体電池用容器は、前述の本願の全固体電池を収容し密閉することができるため、全固体電池の作用極と対極とが参照極により短絡することはなく、作用極と参照極との間の電位、及び、対極と参照極との間の電位が正確に測定できるので、全固体電池の電気化学特性を正確に把握することができ、電池性能を向上させるための基礎データの取得が容易となる。
【0029】
また、本実施形態の全固体電池用容器では、前述のとおり、全固体電池の電極のSOCの調整が容易となり、電池材料の特性の正確な測定が可能となる。
【0030】
更に、本実施形態の全固体電池用容器では、電気化学特性を正確に把握することができるため、電池の実使用時における電池の異常診断、充放電制御、寿命予測などが可能となり、電池の総合的な安全性、電池特性維持、長寿命化などを図ることができる。
【0031】
以下、本実施形態の全固体電池用容器を図面に基づき説明する。
図3は、本実施形態の全固体電池用容器の外観図であり、
図4は、
図3のII-II線の矢印方法から見た模式断面図である。
図4では、全固体電池用容器20に全固体電池10(但し、
図2に示した集電板15、16は除いてある。)を収納した状態を示すが、全固体電池用容器の密閉化前の状態を示している。
【0032】
図3及び
図4において、本実施形態の全固体電池用容器20は、第1セルフレーム21と、第1セルフレーム21の上に配置された第2セルフレーム22と、第2セルフレーム22の上に配置された第3セルフレーム23とを備えている。
【0033】
第1セルフレーム21は、所定の厚みの円板の形態を有しており、その平坦な上面の中央部には、所定深さの凹陥部21aが形成されている。凹陥部21aは、平面視円形をしており、その内壁は第1セルフレーム21の上面に対して垂直であり、その底面は水平面である。また、第1セルフレーム21の上面には、凹陥部21aを取り囲むようにして環状凹溝21bが形成され、環状凹溝21bには、例えば、フッ素樹脂製のOリング21cが嵌め込まれている。更に、第1セルフレーム21の外周部近傍には、厚み方向に貫通するねじ孔21dが、周方向に離れて、例えば、3箇所に形成されている。第1セルフレーム21には、導電性が必要であり、その材質は、機械的強度保持、防汚、防錆の観点からステンレス鋼が好適であるが、これに限定されない。また、第1セルフレーム21は、第1外部端子部24(後述)に接続されている。
【0034】
第2セルフレーム22は、所定の厚みの円板の形態を有しており、その中央部には、貫通口22aが形成されている。貫通口22aは、平面視円形をしており、その内壁は第2セルフレーム22の上下面に対して垂直である。また、第2セルフレーム22の上面には、貫通口22aを取り囲むようにして環状凹溝22bが形成され、環状凹溝22bには、例えば、フッ素樹脂製のOリング22cが嵌め込まれている。更に、第2セルフレーム22の外周部近傍には、厚み方向に貫通する透孔22dが、周方向に離れて、例えば、3箇所に形成されている。第2セルフレーム22には、導電性が必要であり、その材質は、機械的強度保持、防汚、防錆の観点からステンレス鋼が好適であるが、これに限定されない。また、第2セルフレーム22には、その側面から突出する集電用のボルト(第2外部端子部)25が取り付けられている。
【0035】
第1セルフレーム21の外径と第2セルフレーム22の外径は、ほぼ同程度の大きさであり、第1セルフレーム21と、第2セルフレーム22との間には、例えば、フッ素樹脂製の環状の絶縁シート26が配置されている。また、第1セルフレーム21の凹陥部21aと、第2セルフレーム22の貫通口22aとは、それぞれの外周が平面視で一致するように形成・配置されている。凹陥部21aと貫通口22aとにより、全固体電池10を収納する電池収納部27が形成されている。電池収納部27は、本実施形態では円筒状に形成されているが、収納される全固体電池10の外形形状に応じて、凹陥部21aと貫通口22aの形状を変更することにより、円筒状以外の形状に形成することもできる。また、電池収納部27の深さも、収納される全固体電池10の厚みや、全固体電池10と共に用いるスペーサ(後述)の厚みに応じて、適正なものに設定すればよい。更に、第1セルフレーム21のねじ孔21dと、第2セルフレーム22の透孔22dとは、上下で対応する位置に形成・配置されている。
【0036】
第3セルフレーム23は、第1セルフレーム21及び第2セルフレーム22の外径とほぼ同程度の外径を有し、所定の厚みを有する円板状の部材で形成されている。また、第3セルフレーム23には、第1セルフレーム21及び第2セルフレーム22に設けたねじ孔21d、透孔22dと対応させて、厚み方向に貫通する透孔23dが形成されている。第3セルフレーム23には、導電性が必要であり、その材質は、機械的強度保持、防汚、防錆の観点からステンレス鋼が好適であるが、これに限定されない。また、第3セルフレーム23には、その外周部近傍上面から突出する集電用のボルト(第3外部端子部)28が取り付けられている。
【0037】
第2セルフレーム22と、第3セルフレーム23との間には、例えば、フッ素樹脂製の環状の絶縁シート29が配置されている。これにより、第3セルフレーム23は、電池収納部27の開口部を覆って、後述するように、電池収納部27を密閉することができる。
【0038】
第1セルフレーム21と、第2セルフレーム22と、第3セルフレーム23とは、第1セルフレーム21のねじ孔21dに下方からワッシャ30を介してねじ込んで、上方にねじ軸部31aを突出させたボルト31に、透孔22d及び透孔23dを通すようにして、第1セルフレーム21、第2セルフレーム22、第3セルフレーム23をこの順に重ね、第3セルフレーム23の上面に突出したねじ軸部31aにワッシャ32を介してナット33を螺合させて、これを締め込むことにより組み合わされる。また、透孔22d及び透孔23dには、絶縁ブッシュ22e、23eが嵌入されており、ボルト31と、第2セルフレーム22及び第3セルフレーム23との絶縁が図られる。
【0039】
また、第1セルフレーム21とボルト31とは、電気的に接続されており、第3セルフレーム23の上面に突出したねじ軸部31aは、第1外部端子部24として機能する。
【0040】
次に、本実施形態の全固体電池用容器を用いた全固体電池の電気化学特性の測定方法について説明する。
【0041】
先ず、
図4に示すように、第1セルフレーム21のねじ孔21dにボルト31を通し、第1セルフレーム21の環状凹溝21bにOリング21cを配置する共に、第1セルフレーム21の外周部に環状の絶縁シート26を配置した後、更にその上にボルト31を第2セルフレーム22の透孔22dに通して、第1セルフレーム21と第2セルフレーム22とを重ねた状態で、第1セルフレーム21の凹陥部21aに、例えば、フッ素樹脂製の環状スペーサ18を配置する。環状スペーサ18は、その外周面が、凹陥部21aの内周面に接するように配置される。次に、環状スペーサ18の内側に円形状の対極12を配置する。環状スペーサ18と対極12の厚みは、ほぼ同一に設定されている。
【0042】
次に、環状スペーサ18の上に、例えば、フッ素樹脂製の環状スペーサ19を配置する。環状スペーサ19の環状部の幅は、環状スペーサ18の環状部の幅より小さく設定されている。続いて、環状スペーサ19の内側に円形状の固体電解質層13を配置する。環状スペーサ19と固体電解質層13の厚みは、ほぼ同一に設定されている。
【0043】
次に、固体電解質層13の、対極12よりも外方にはみ出した環状の延在部13aの上に、環状のリチウム金属からなる参照極14を配置する。続いて、参照極14の上に、例えば、端部にニッケル製のタブ17aを備えた環状のニッケル製の集電板17を配置する。その際、集電板17は参照極(リチウム金属)14を完全に覆うように、且つ、第2セルフレーム22に接するように配置する。次に、集電板17の上に、例えば、フッ素樹脂製の環状スペーサ34を配置し、タブ17aを第2セルフレーム22の内周面に押圧して接続する。
【0044】
次に、環状スペーサ34の内側を通して、固体電解質層13の上に円形状の作用極11を配置する。続いて、作用極11と環状スペーサ34の上に、作用極11を完全に覆い、且つ、環状スペーサ34の一部を覆う大きさの円形状の、例えば、ステンレス鋼製の押圧板35を配置する。次に、押圧板35の上に加圧バネ36を配置する。
【0045】
次に、第2セルフレーム22の環状凹溝22bにOリング22cを配置する共に、第2セルフレーム22の外周部に環状の絶縁シート29を配置した後、その上にボルト31を通して第3セルフレーム23を配置する。最後に、ナット32を締め込むことにより、第1セルフレーム21と、第2セルフレーム22と、第3セルフレーム23とが組み合わされ、押圧板35及び加圧バネ36の作用により、収納された全固体電池10を押圧状態にして、全固体電池用容器20を密閉できる。但し、全固体電池用容器20を密閉する機構は、本実施形態のボルトとナットによる締め付ける機構に限定されない。
【0046】
この状態で、第1セルフレーム21が全固体電池10の対極12に接続され、第1外部端子部24が対極外部端子部として機能し、第2セルフレーム22が全固体電池10の参照極14に接続され、第2外部端子部25が参照極外部端子部として機能し、第3セルフレーム23が全固体電池10の作用極11に接続され、第3外部端子部28が作用極外部端子部として機能する。
【0047】
上記のように準備された全固体電池用容器20は、図示しない充放電試験装置等と接続することにより、全固体電池10の電気化学特性を正確に測定することができる。
【実施例0048】
以下、実施例により本願の全固体電池及び全固体電池用容器を説明するが、本願は以下の実施例により限定はされない。
【0049】
<全固体電池の作製>
LiCoO2と、アセチレンブラックを5質量%の割合で加えた硫化物系固体電解質(Li6PS5Cl)とを、体積比で1:1の割合で混合して0.15gの正極合剤とし、これを圧縮成形して直径9mm、厚さ0.85mmの正極(作用極)を作製した。
【0050】
また、Li4Ti5O12と、アセチレンブラックを5質量%の割合で加えた硫化物系固体電解質(Li6PS5Cl)とを、体積比で1:1の割合で混合して0.10gの負極合剤とし、これを圧縮成形して直径9mm、厚さ0.85mmの負極(対極)を作製した。
【0051】
固体電解質層には、0.30gの硫化物系固体電解質(Li6PS5Cl)を直径16mm、厚さ1.05mmに圧縮成形したものを用いた。
【0052】
参照極には、内径11mm、幅4.5mm、厚さ0.15mmの環状のリチウム金属を用いた。
【0053】
作用極及び対極の集電板にはステンレス板を用い、参照極の集電板にはニッケル板を用いた。
【0054】
前記作用極、対極、固体電解質層、参照極を用い、
図2に示される全固体電池を内部に収容した
図4に示される全固体電池用容器を組み立てた。
【0055】
次に、前記全固体電池に対し、105℃の温度環境下で1.5mAの電流値で充放電を行い、作用極及び対極の参照極に対する電位を測定した。その結果を
図5に示す。
【0056】
図5から、これら電極の充放電時の電位は、有機電解液系のリチウムイオン二次電池で報告されている値と類似しており、それぞれの電位を正常に測定できていることが分かった。
【0057】
<正極及び負極のSOCの差の検知>
実際の全固体電池に対し、貯蔵試験や充放電サイクル試験を実施すると、正極と負極の充電深度(SOC)に差が徐々に生じることがある。その場合には、前述のとおり、正極と参照電極の間、又は、負極と参照極との間で充放電を行うことにより、SOCの調整が可能であるが、正極と負極のSOCに差が生じているか否かは、下記のように、全固体電池の充放電曲線の挙動(各電極の電圧)により検知できる。
【0058】
例えば、
図6A及び
図6Bに先の実施例で作製したLTO(チタン酸リチウム)/LCO(コバルト酸リチウム)三極セル(参照極はLi金属)の仮想充放電曲線を示す。先ず、
図6Aの充放電曲線から、放電末期においてLCO(正極)の電圧が急変しており、この場合、セル電圧の急落は、LCO(正極)の電圧の急変に起因していることが分かる。これは、正極のSOCが負極のSOCに比べて、低下していたことによるものと考えられる。
【0059】
一方、
図6Bの充放電曲線から、放電末期においてLTO(負極)の電圧が急変しており、この場合、セル電圧の急落は、LTO(負極)の電圧の急変に起因していることが分かる。これは、負極のSOCが正極のSOCに比べて、低下していたことによるものと考えられる。
【0060】
上記の例では、2種類のセルを用いて電極のSOCの差を説明したが、単一のセルの場合でも、貯蔵試験や充放電サイクル試験を実施することで、試験前と試験後の充放電曲線を比較することにより、正極と負極の充電深度(SOC)に差が生じているか否かを検知することができる。
【0061】
以上、本願の全固体電池及び全固体電池用容器の実施形態について説明したが、本願は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
10 全固体電池、11 作用極、12 対極、13 固体電解質層、14 参照極、15、16、17 集電板、18、19 環状スペーサ、20 全固体電池用容器、21 第1セルフレーム、22 第2セルフレーム、23 第3セルフレーム、24 第1外部端子部、25 第2外部端子部、26、29 絶縁シート、27 電池収納部、28 第3外部端子部、30、32 ワッシャ、31 ボルト、33 ナット、34 環状スペーサ、35 押圧板、36 加圧バネ