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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006720
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂を含む摺動性物品
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20240110BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240110BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20240110BHJP
   F16H 55/17 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08L59/00
C08K7/02
C08L1/00
F16H55/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107878
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】楠本 紗良
【テーマコード(参考)】
3J030
4J002
【Fターム(参考)】
3J030BC01
4J002AB012
4J002CB001
4J002CH023
4J002FA042
4J002FD010
4J002FD012
4J002FD040
4J002FD050
4J002FD090
4J002FD160
4J002FD203
4J002GB00
4J002GG01
4J002GL00
4J002GM00
4J002GM02
4J002GM05
(57)【要約】
【課題】摺動性物品に求められる耐久性を維持しつつ摺動性及び静音性が高度に両立されており、且つリサイクル性にも優れる摺動性物品及びその製造方法の提供。
【解決手段】互いに摺動可能に構成された第1の部材と第2の部材とを有する物品であって、第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、第2の部材が、ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の樹脂組成物、又はポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の樹脂組成物であって第1の樹脂組成物中の微細セルロース繊維の含有率(A1)に対する第2の樹脂組成物中の微細セルロース繊維の含有率(A2)の比(A2/A1)が0.5以下である第2の樹脂組成物、で構成されており、微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm以下である、物品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに摺動可能に構成された第1の部材と第2の部材とを有する物品であって、
前記第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、
前記第2の部材が、ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の樹脂組成物で構成されており、
前記微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm以下である、物品。
【請求項2】
互いに摺動可能に構成された第1の部材と第2の部材とを有する物品であって、
前記第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、
前記第2の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の樹脂組成物で構成されており、
前記微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm以下であり、
前記第1の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A1)に対する、前記第2の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A2)の比(A2/A1)が0.5以下である、物品。
【請求項3】
前記比(A2/A1)が、0.05以上0.5以下である、請求項2に記載の物品。
【請求項4】
前記第1の樹脂組成物が、前記微細セルロース繊維を1~20質量%含む、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項5】
前記第1の樹脂組成物中の前記ポリアセタール樹脂及び前記第2の樹脂組成物中の前記ポリアセタール樹脂の各々が、190℃、荷重2.16kgfでのメルトマスフローレート(MFR)1.5g/10分~50g/10分を有する、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項6】
前記第1の樹脂組成物及び/又は前記第2の樹脂組成物が、表面処理剤を更に含む、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項7】
前記表面処理剤が、ポリエチレングリコールである、請求項6に記載の物品。
【請求項8】
前記第1の樹脂組成物の曲げ弾性率に対する前記第2の樹脂組成物の曲げ弾性率の比が、0.5~0.9である、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項9】
前記第1の樹脂組成物の曲げ弾性率が、3000MPa~8000MPaである、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項10】
前記第1の部材及び前記第2の部材がギアであり、前記物品がギアシステムである、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項11】
前記第1の部材及び前記第2の部材が軸受けであり、前記物品がダンパーである、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項12】
前記第1の部材と前記第2の部材とが直接摺動するように構成されている、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項13】
請求項1に記載の物品の製造方法であって、
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の混合成分の溶融混合物である第1の樹脂組成物を成形して前記第1の部材を得る工程、及び
ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の混合成分の溶融混合物である第2の樹脂組成物を成形して前記第2の部材を得る工程、
を含む、方法。
【請求項14】
請求項2に記載の物品の製造方法であって、
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の混合成分の溶融混合物である第1の樹脂組成物を成形して前記第1の部材を得る工程、及び
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の混合成分の溶融混合物である第2の樹脂組成物を成形して前記第2の部材を得る工程、
を含む、方法。
【請求項15】
前記第1の混合成分が、前記第1の部材及び/又は前記第2の部材の溶融処理物であるリサイクル材を含み、並びに/或いは、
前記第2の混合成分が、前記第2の部材の溶融処理物であるリサイクル材を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の混合成分及び/又は前記第2の混合成分が、前記第1の部材及び/又は前記第2の部材の溶融処理物であるリサイクル材を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の混合成分及び/又は前記第2の混合成分における前記リサイクル材の含有率が、5質量%~100質量%である、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
第1の部材と第2の部材とを有する摺動性物品を用いて再生樹脂組成物を製造する方法であって、
前記第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、
前記第2の部材が、
ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の樹脂組成物で構成されており、又は、
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の樹脂組成物で構成されており、且つ前記第1の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A1)に対する、前記第2の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A2)の比(A2/A1)が0.5以下であり、
前記再生樹脂組成物が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含み、
前記微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm以下であり、
前記方法が、
前記第1の樹脂組成物と、前記第2の樹脂組成物と、追加樹脂組成物とで構成される混合成分を混合して前記再生樹脂組成物を得る工程を含み、
前記混合成分が、
前記再生樹脂組成物の目標組成Tを決定し、
前記混合成分中の前記第1の樹脂組成物と前記第2の樹脂組成物との質量比率Rを決定し、
前記第1の樹脂組成物の成分組成データA1と、前記第2の樹脂組成物の成分組成データB1とを取得し、
前記質量比率R、前記成分組成データA1、及び前記成分組成データB1に基づいて、前記目標組成Tを満たすのに必要な、前記追加樹脂組成物の成分組成及び前記混合成分中の質量比率を決定する、
ことによって得られる、方法。
【請求項19】
第1の部材と第2の部材とを有する摺動性物品を用いて再生樹脂組成物を製造する方法であって、
前記第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、
前記第2の部材が、
ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の樹脂組成物で構成されており、又は、
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の樹脂組成物で構成されており、且つ前記第1の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A1)に対する、前記第2の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A2)の比(A2/A1)が0.5以下であり、
前記再生樹脂組成物が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含み、
前記微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm以下であり、
前記方法が、
前記第1の樹脂組成物と、前記第2の樹脂組成物とで構成される混合成分を混合して前記再生樹脂組成物を得る工程を含み、
前記混合成分が、
前記第1の樹脂組成物の成分組成データA1と、前記第2の樹脂組成物の成分組成データB1とを取得し、
前記再生樹脂組成物の目標組成Tを決定し、
前記成分組成データA1、及び前記成分組成データB1に基づいて、前記目標組成Tを満たすのに必要な、前記混合成分中の前記第1の樹脂組成物と前記第2の樹脂組成物との質量比率Rを決定する、
ことによって得られる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂を含む摺動性物品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的特性、熱的特性、電気的特性、摺動性、成形性等において優れ、主に構造材料や機構部品等として電気機器、自動車部品、精密機械部品等に広く使用されている。例えば、機械的特性と摺動性との両立というポリアセタール樹脂の利点を生かし、ギアシステム、ダンパー等の摺動性物品へのポリアセタール樹脂の適用があり得る。摺動性物品には、繰返しの摺動に耐える高い耐久性が求められるところ、樹脂系物品の耐久性向上には、樹脂中への充填剤の添加が有用である。
【0003】
充填剤としては、従来、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイ等の無機充填剤が用いられてきたが、樹脂系物品に対する小型化及び環境負荷低減の要求から、より軽量且つ低環境負荷である有機充填剤の活用が望まれている。有機充填剤としては、有機繊維、中でもセルロースが有望であり得る。特許文献1には、ポリアセタール樹脂に特定のセルロースパウダーを配合したポリアセタール樹脂組成物、特許文献2には、ポリアセタール樹脂に特定のアスペクト比と平均繊維長を有する微細セルロース繊維を配合したポリアセタール樹脂組成物、特許文献3には、変性パルプと熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物、特許文献4には、セルロースナノファイバーと、特定範囲のHLB値を有する表面処理剤と、ポリアセタール樹脂であってよい熱可塑性樹脂とを含むセルロースナノファイバー樹脂組成物、がそれぞれ記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/119810号
【特許文献2】国際公開第2012/049926号
【特許文献3】国際公開第2016/148233号
【特許文献4】国際公開第2019/208313号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3に記載される組成物は、セルロースを充填剤として含むことで優れた剛性を有し得るが、セルロースが粗大であることに起因して靭性は十分でなく、成形体に負荷が掛かる条件下でのクラック発生という課題があった。一方、特許文献4に記載される技術によれば、セルロースナノファイバー、及び親水性セグメントと疎水性セグメントとを有してよい表面処理剤を用いることで、セルロースナノファイバーが熱可塑性樹脂中で良好に分散し、樹脂組成物の剛性及び靭性が向上され得る。
【0006】
しかし、摺動性物品において、繰返しの摺動に耐える高い耐久性を確保するために靭性を向上させると、摺動による部材間の摩擦により、摺動性が低下したり、ノイズが顕著になる場合がある。特許文献1~4に記載される技術はいずれも、耐久性を確保しつつ、摺動性及び静音性にも優れる摺動性物品を提供し得るものではなかった。
【0007】
また、摺動性物品を構成する複数の部材は、凝着摩耗低減のために通常は互いに異なる材料で構成されている。近年、環境問題への関心の高まりから樹脂系物品のリサイクルが求められているが、部材間で構成材料が異なると、これら部材を一括して(すなわち互いに分離せずに)リサイクルすることがプロセス上困難であり、又は一括でリサイクルできても生成物に所望の物性を満足させることが困難であるという問題もあった。
【0008】
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、摺動性物品に求められる耐久性を維持しつつ摺動性及び静音性が高度に両立されており、且つリサイクル性にも優れる摺動性物品及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の項目も包含する。
[1] 互いに摺動可能に構成された第1の部材と第2の部材とを有する物品であって、
前記第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、
前記第2の部材が、ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の樹脂組成物で構成されており、
前記微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm以下である、物品。
[2] 互いに摺動可能に構成された第1の部材と第2の部材とを有する物品であって、
前記第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、
前記第2の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の樹脂組成物で構成されており、
前記微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm以下であり、
前記第1の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A1)に対する、前記第2の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A2)の比(A2/A1)が0.5以下である、物品。
[3] 前記比(A2/A1)が、0.05以上0.5以下である、上記項目2に記載の物品。
[4] 前記第1の樹脂組成物が、前記微細セルロース繊維を1~20質量%含む、上記項目1~3のいずれかに記載の物品。
[5] 前記第1の樹脂組成物中の前記ポリアセタール樹脂及び前記第2の樹脂組成物中の前記ポリアセタール樹脂の各々が、190℃、荷重2.16kgfでのメルトマスフローレート(MFR)1.5g/10分~50g/10分を有する、上記項目1~4のいずれかに記載の物品。
[6] 前記第1の樹脂組成物及び/又は前記第2の樹脂組成物が、表面処理剤を更に含む、上記項目1~5のいずれかに記載の物品。
[7] 前記表面処理剤が、ポリエチレングリコールである、上記項目6に記載の物品。
[8] 前記第1の樹脂組成物の曲げ弾性率に対する前記第2の樹脂組成物の曲げ弾性率の比が、0.5~0.9である、上記項目1~7のいずれかに記載の物品。
[9] 前記第1の樹脂組成物の曲げ弾性率が、3000MPa~8000MPaである、上記項目1~8のいずれかに記載の物品。
[10] 前記第1の部材及び前記第2の部材がギアであり、前記物品がギアシステムである、上記項目1~9のいずれかに記載の物品。
[11] 前記第1の部材及び前記第2の部材が軸受けであり、前記物品がダンパーである、上記項目1~9のいずれかに記載の物品。
[12] 前記第1の部材と前記第2の部材とが直接摺動するように構成されている、上記項目1~11のいずれかに記載の物品。
[13] 上記項目1に記載の物品の製造方法であって、
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の混合成分の溶融混合物である第1の樹脂組成物を成形して前記第1の部材を得る工程、及び
ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の混合成分の溶融混合物である第2の樹脂組成物を成形して前記第2の部材を得る工程、
を含む、方法。
[14] 上記項目2に記載の物品の製造方法であって、
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の混合成分の溶融混合物である第1の樹脂組成物を成形して前記第1の部材を得る工程、及び
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の混合成分の溶融混合物である第2の樹脂組成物を成形して前記第2の部材を得る工程、
を含む、方法。
[15] 前記第1の混合成分が、前記第1の部材及び/又は前記第2の部材の溶融処理物であるリサイクル材を含み、並びに/或いは、
前記第2の混合成分が、前記第2の部材の溶融処理物であるリサイクル材を含む、上記項目13に記載の方法。
[16] 前記第1の混合成分及び/又は前記第2の混合成分が、前記第1の部材及び/又は前記第2の部材の溶融処理物であるリサイクル材を含む、上記項目14に記載の方法。
[17] 前記第1の混合成分及び/又は前記第2の混合成分における前記リサイクル材の含有率が、5質量%~100質量%である、上記項目15又は16に記載の方法。
[18] 第1の部材と第2の部材とを有する摺動性物品を用いて再生樹脂組成物を製造する方法であって、
前記第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、
前記第2の部材が、
ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の樹脂組成物で構成されており、又は、
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の樹脂組成物で構成されており、且つ前記第1の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A1)に対する、前記第2の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A2)の比(A2/A1)が0.5以下であり、
前記再生樹脂組成物が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含み、
前記微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm以下であり、
前記方法が、
前記第1の樹脂組成物と、前記第2の樹脂組成物と、追加樹脂組成物とで構成される混合成分を混合して前記再生樹脂組成物を得る工程を含み、
前記混合成分が、
前記再生樹脂組成物の目標組成Tを決定し、
前記混合成分中の前記第1の樹脂組成物と前記第2の樹脂組成物との質量比率Rを決定し、
前記第1の樹脂組成物の成分組成データA1と、前記第2の樹脂組成物の成分組成データB1とを取得し、
前記質量比率R、前記成分組成データA1、及び前記成分組成データB1に基づいて、前記目標組成Tを満たすのに必要な、前記追加樹脂組成物の成分組成及び前記混合成分中の質量比率を決定する、
ことによって得られる、方法。
[19] 第1の部材と第2の部材とを有する摺動性物品を用いて再生樹脂組成物を製造する方法であって、
前記第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、
前記第2の部材が、
ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の樹脂組成物で構成されており、又は、
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の樹脂組成物で構成されており、且つ前記第1の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A1)に対する、前記第2の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A2)の比(A2/A1)が0.5以下であり、
前記再生樹脂組成物が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含み、
前記微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm以下であり、
前記方法が、
前記第1の樹脂組成物と、前記第2の樹脂組成物とで構成される混合成分を混合して前記再生樹脂組成物を得る工程を含み、
前記混合成分が、
前記第1の樹脂組成物の成分組成データA1と、前記第2の樹脂組成物の成分組成データB1とを取得し、
前記再生樹脂組成物の目標組成Tを決定し、
前記成分組成データA1、及び前記成分組成データB1に基づいて、前記目標組成Tを満たすのに必要な、前記混合成分中の前記第1の樹脂組成物と前記第2の樹脂組成物との質量比率Rを決定する、
ことによって得られる、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、摺動性物品に求められる耐久性を維持しつつ摺動性及び静音性が高度に両立されており、且つリサイクル性にも優れる摺動性物品及びその製造方法が提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0012】
≪摺動性物品≫
本発明の一態様は、互いに摺動可能に構成された第1の部材と第2の部材とを有する物品を提供する。
一態様においては、第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、第2の部材が、ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の樹脂組成物で構成されている。第2の樹脂組成物は、微細セルロース繊維以外の充填剤(例えば、後述の無機充填剤及び/又は有機充填剤)を含むことができ、又は当該充填剤を含まないことができる。
別の一態様においては、第1の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の樹脂組成物で構成されており、第2の部材が、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の樹脂組成物で構成されている。この場合の一態様において、第1の樹脂組成物中の微細セルロース繊維の含有率(A1)に対する、第2の樹脂組成物中の前記微細セルロース繊維の含有率(A2)の比(A2/A1)は0.5以下である。
一態様において、微細セルロース繊維の平均繊維径は1000nm以下である。
【0013】
摺動性物品においては、互いに摺動する複数の部材の材料組成、特に樹脂種が共通していると、部材間の凝着摩耗が大きく摺動性及び静音性が悪化し易いことから、通常は、複数の部材間の樹脂種を互いに異ならせる方が有利である。しかし近年、環境問題への関心の高まりから樹脂系物品のリサイクルが求められており、当該複数の部材を共通の材料組成とすることがリサイクル効率の点で望ましい。本実施形態の摺動性物品は、第1及び第2の部材がポリアセタール樹脂を含む点で共通の材料組成を有することから、これら部材を一括に(すなわち互いに分離せず)リサイクルした際にもポリアセタール樹脂本来の利点が保持されたリサイクル材を得ることができる。
【0014】
本実施形態において、第1及び第2の部材は、ポリアセタール樹脂を含む点で共通の材料組成を有するが、微細セルロース繊維の含有率が互いに異なっている。ポリアセタール樹脂は、比較的低摩擦係数であること、成形性に優れ成形体の表面平滑性が良好であること、剛性及び靭性に優れ耐摩耗性が良好であることから、本来的に摺動性に優れる。また微細セルロース繊維は、軽量性及び機械特性向上効果に優れるとともに、樹脂中に微分散して低異方性の成形体を形成し得る。ポリアセタール樹脂は本質的に優れた剛性及び靭性を有するところ、ポリアセタール樹脂に充填剤として微細セルロース繊維を組み合わせることは、従来の充填剤(特に無機充填剤)で生じ得る不都合を招来せずに剛性及び靭性を更に向上させ得る点で有利である。
【0015】
より具体的には、微細セルロース繊維は、一般的な無機充填剤と比べて軟質であるとともに、ポリアセタール樹脂と良好に親和して当該ポリアセタール樹脂中に均一に分散できる。このような微細セルロース繊維は、部材の表面平滑性を損なわない他、繰返しの摺動時に部材から脱落し難いため、繰返し摺動時の摺動性低下の主たる原因である表面粗さ増大及び摩耗粉発生を招来し難い。例えば、無機充填剤であるガラス繊維は、粗大であるとともに成形体中で配向し易いことから、成形体の表面平滑性を悪化させて摺動性及び静音性を悪化させたり、成形体の異方性を増大させて当該成形体の特定部位への応力集中による破損を招来したりするという問題を有する。また無機充填剤は、成形体摩耗時に摩耗粉となって脱落し易く、成形体の更なる摩耗の促進による摺動性及び静音性の悪化の一因となり得る。充填剤として微細セルロース繊維を用いることは、摺動性物品の摺動性及び静音性を高度に両立させる上で有利である。一態様において、各部材は、微細セルロース繊維以外の充填剤を、本質的に含まないか、含むとしてもその量が本発明の効果を損なわない程度の量であってよい。
【0016】
本実施形態の摺動性物品においては、第1の部材が微細セルロース繊維を含むとともに、第2の部材が微細セルロース繊維を含まず又は第1の部材よりも少量の微細セルロース繊維を含むことで、第1の部材と第2の部材との物性(一態様において、剛性)が異なることができる。これにより、第1及び第2の部材の材料組成の共通性、すなわちこれら部材がポリアセタール樹脂を含むことによるリサイクル性の利点を得るとともに、これら部材間の凝着摩耗を少なくして摺動性物品の良好な摺動性及び静音性を得ることができる。
【0017】
本実施形態の摺動性物品が有する部材を構成する樹脂組成物は、一態様において以下の成分を含むことができる。以下、各成分の好適例について説明する。
【0018】
<ポリアセタール樹脂>
ポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基(-OCH2-)を主たる構成単位とする高分子化合物であり、実質的にオキシメチレン単位の繰返しのみからなるポリアセタールホモポリマー、及びオキシメチレン単位と他のモノマー単位とを含有するポリアセタールコポリマーが代表的である。ポリアセタール樹脂は、分岐形成成分及び/又は架橋形成成分を共重合することにより分岐構造及び/又は架橋構造が導入された共重合体、オキシメチレン基の繰返しからなる重合体部位と他の重合体部位とを有するブロック共重合体又はグラフト共重合体等も包含する。
【0019】
一般に、ポリアセタールホモポリマーとしては、無水ホルムアルデヒド、及び、トリオキサン(ホルムアルデヒドの環状三量体)、テトラオキサン(ホルムアルデヒドの環状四量体)等のホルムアルデヒド環状オリゴマーから選ばれる1種以上のモノマーの重合により製造されたものが挙げられる。通常、重合末端をエステル化することにより、熱分解に対して安定化される。
【0020】
また、ポリアセタールコポリマーは、一般的に、ホルムアルデヒド及び/又は一般式(CH2O)n[式中、nは3以上の整数を示す]で表されるホルムアルデヒドの環状オリゴマー(例えば上述のトリオキサン)と、環状エーテル及び/又は環状ホルマール等のコモノマー(例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3-ジオキソラン、及び1,4-ブタンジオールホルマール等のグリコール若しくはジグリコールの環状ホルマール等)とを共重合することによって製造されたものが挙げられる。通常、加水分解によって末端の不安定部分を除去して熱分解に対して安定化される。
【0021】
さらに、ポリアセタールコポリマーとして、ホルムアルデヒドの単量体及び/又は環状オリゴマーと、単官能グリシジルエーテルと、を共重合させて得られる、分岐を有するポリアセタールコポリマー;ホルムアルデヒドの単量体及び/又は環状オリゴマーと、多官能グリシジルエーテルと、を共重合させて得られる、架橋構造を有するポリアセタールコポリマー等も挙げられる。
【0022】
ポリアセタール樹脂としては、両末端若しくは片末端に水酸基等の官能基を有する化合物、例えば、ポリアルキレングリコールの存在下、ホルムアルデヒドの単量体及び/又は環状オリゴマーを重合して得られる、ブロック成分を有するポリアセタールホモポリマー;両末端若しくは片末端に水酸基等の官能基を有する化合物、例えば水素添加ポリブタジエングリコールの存在下、ホルムアルデヒドの単量体及び/又は環状オリゴマーと、環状エーテル及び/又は環状ホルマールと、を共重合させて得られるブロック成分を有するポリアセタールコポリマーも挙げられる。
【0023】
ポリアセタール樹脂は、好ましくは、上記したようなポリアセタールコポリマーであり、より好ましくは、構成単位が、オキシメチレン単位(-OCH2-)とオキシエチレン単位(-OC25-)とを含むポリアセタールコポリマー(以下、オキシエチレン単位含有コポリマーともいう。)である。オキシエチレン単位含有コポリマーは、ホルムアルデヒド及び/又は一般式(CH2O)n[式中、nは3以上の整数を示す]で表されるホルムアルデヒドの環状オリゴマー(例えば上述のトリオキサン)と、エチレングリコール若しくはその環状ホルマールと、任意にその他の成分とを共重合することによって製造できる。樹脂組成物が後述のポリエチレングリコールを含む場合、上記のオキシエチレン単位含有コポリマーは、そのオキシエチレン単位の寄与によって当該ポリエチレングリコールとの親和性が良好であることでポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維との親和性を向上させ微細セルロース繊維をポリアセタール樹脂中に高分散させる点で特に有利である。
【0024】
オキシエチレン単位含有コポリマーにおいて、一般式(CH2O)で表されるオキシメチレン単位と一般式(CH2CH2O)で表されるオキシエチレン単位との合計数に対するオキシエチレン単位の数の比率(本開示で、エチレン比ともいう。)は、ポリエチレングリコールによる効果を良好に得る観点、及び樹脂組成物の寸法安定性の観点から、下限が、好ましくは0.3%、又は0.4%であり、樹脂組成物の耐熱性及び機械強度の観点から、上限が、好ましくは1.8%、又は1.7%、又は1.6%、又は1.5%である。一態様において、第1の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂及び/又は第2の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂の、好ましくは、第1の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂及び第2の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂のエチレン比が上記範囲内である。
【0025】
ポリアセタール樹脂は、好ましくは、トリオキサン99.9~90質量%と単官能環状エーテル0.1~10質量%との共重合体である。当該共重合体においては、アルコキシ末端基と炭素数が少なくとも2個のヒドロキシアルコキシ末端基との合計が、全末端基の、好ましくは70~99モル%である。末端基数は、公知の方法(具体的には赤外吸収スペクトル法又は核磁気共鳴法、より具体的には特開平5-98028号公報、特開2001-11143号公報等に記載された方法)を利用して測定することができる。
【0026】
また、ポリアセタール樹脂の、ISO1133に準拠して190℃及び荷重2.16kgf(21.2N)の条件下で測定されるメルトマスフローレート(MFR)は、下限が、好ましくは1.5g/10分、又は4g/10分、又は7g/10分であり、上限が、好ましくは50g/10分、又は40g/10分、又は35g/10分、又は30g/10分である。MFRを上記範囲内とすることで、成形流動性を確保しつつ、微細セルロース繊維による補強効果を最大化できる。一態様においては、第1の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂及び/又は第2の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂の、好ましくは、第1の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂及び第2の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂の、MFRが上記範囲内である。
【0027】
一態様において、第1の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂と、第2の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂とは同質である。本開示で、同質とは、(1)第1の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂と第2の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂との構成モノマーの種類が同じであること、(2)第2の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂のMFRが第1の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂のMFR±5g/10分以内にあること、(3)第2の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂の重量平均分子量が第1の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂の重量平均分子量±10%以内にあること、及び(4)第2の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂の曲げ弾性率が第1の樹脂組成物中のポリアセタール樹脂の曲げ弾性率±10%以内にあること、の少なくとも1つを満たすことを意味する。
【0028】
第1の樹脂組成物100質量%中、ポリアセタール樹脂の含有率は、一態様において、60質量%以上、又は70質量%以上、又は80質量%以上であってよく、99質量%以下、又は95質量%以下、又は90質量%以下であってよい。
【0029】
第2の樹脂組成物100質量%中、ポリアセタール樹脂の含有率は、一態様において、50質量%以上、又は55質量%以上、又は60質量%以上であってよく、100質量%以下、又は95質量%以下、又は90質量%以下であってよい。
【0030】
<微細セルロース繊維>
[繊維径]
微細セルロース繊維は、セルロース繊維原料を乾式又は湿式の微細化法により解繊した微細なセルロース繊維を指す。一態様において、微細セルロース繊維の数平均繊維径は、微細セルロース繊維による物性向上効果を良好に得る観点から、1000nm以下であり、好ましくは、2nm以上、又は4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上であり、好ましくは、900nm以下、又は800nm以下、又は700nm以下、又は600nm以下、又は500nm以下、又は400nm以下、又は300nm以下、又は200nm以下である。
【0031】
微細セルロース繊維の数平均繊維長(L)/数平均繊維径(D)比は、微細セルロース繊維を含む樹脂組成物の機械的特性を少量の微細セルロース繊維で良好に向上させる観点から、好ましくは、30以上、又は50以上、又は80以上、又は100以上、又は120以上、又は150以上である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下、又は3000以下、又は2000以下、又は1000以下である。
【0032】
一態様において、本開示の微細セルロース繊維の数平均繊維径(D)、数平均繊維長(L)、及びL/D比は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて以下の手順で測定される値である。微細セルロース繊維の水分散液をtert-ブタノールで置換し、0.001~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本の繊維状物質が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本の繊維状物質の長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロース繊維について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
【0033】
[結晶多形]
セルロースの結晶多形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。微細セルロース繊維の結晶多型がI型、又はII型であると繊維の力学物性(強度、寸法安定性)が高く、微細セルロース繊維を樹脂に分散した際の樹脂組成物の強度、寸法安定性が高いため好ましい。
【0034】
[結晶化度]
微細セルロース繊維の結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、微細セルロース繊維を樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%以上、又は65%以上、又は70%以上、又は75%以上であり、最も好ましくは80%以上である。微細セルロース繊維の結晶化度について上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0035】
ここでいう結晶化度は、微細セルロース繊維がセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
【0036】
また結晶化度は、微細セルロース繊維がセルロースII型結晶である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0とこの面間隔におけるベースライン(2θ=8°及び15°を結ぶ線)のピーク強度h1から、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =(h0-h1) /h0 ×100
【0037】
[重合度]
微細セルロース繊維の重合度は、好ましくは100以上、又は150以上、又は200以上、又は300以上、又は400以上、又は450以上であり、好ましくは3500以下、又は3300以下、又は3200以下、又は3100以下、又は3000以下である。
【0038】
加工性と機械的特性発現との観点から、微細セルロース繊維の重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0039】
微細セルロース繊維の重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
なお、化学修飾された微細セルロース繊維の重合度に関しては、化学修飾基の存在により正確な算出ができない場合がある。この場合においては化学修飾微細セルロース繊維の原料である化学修飾する直前の微細セルロース繊維、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料の重合度を化学修飾された微細セルロース繊維の重合度とみなしてよい。
【0040】
[Mw/Mn]
一態様において、微細セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは100000以上、又は120000以上、又は150000以上、又は180000以上、又は200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは6以下、又は5.6以下、又は5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、微細セルロース繊維のセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性の微細セルロース繊維、及び微細セルロース繊維と樹脂とを含む樹脂組成物が得られる。微細セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は、セルロース繊維原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下、又は400000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は1.7以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース繊維原料を選択すること、セルロース繊維原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース繊維原料を選択すること、セルロース繊維原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。セルロース繊維原料のMw及びMw/Mnの各々は一態様において上記範囲内であってもよい。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の、乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、剪断、ずり、摩擦等の、機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、酵素処理、再生セルロース化、加水分解処理等を例示できる。
なお、化学修飾された微細セルロース繊維のMw,Mn,Mw/Mnに関しては、化学修飾基の存在により正確な算出ができない場合がある。この場合においては化学修飾微細セルロース繊維の原料である化学修飾する直前の微細セルロース繊維、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のMw,Mn,Mw/Mnを化学修飾された微細セルロース繊維のMw,Mn,Mw/Mnとみなしてよい。
【0041】
ここでいう微細セルロース繊維の重量平均分子量及び数平均分子量とは、微細セルロース繊維を塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
【0042】
[アルカリ可溶分]
微細セルロース繊維のミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、及びリグニン等の酸不溶成分が存在する。ヘミセルロースはマンナン、キシラン等の糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。またリグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。
【0043】
微細セルロース繊維が含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。
【0044】
一態様において、微細セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、溶融混練時の微細セルロース繊維の機械強度保持、及び黄変抑制の点から、微細セルロース繊維100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下である。上記含有率は、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
【0045】
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。なお、化学修飾された微細セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率に関しては、化学修飾基の存在により正確に算出することができない場合がある。この場合、化学修飾された微細セルロース繊維の原料である化学修飾する直前の微細セルロース繊維、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のアルカリ可溶多糖類含有率を微細セルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率とみなしてよい。
【0046】
[酸不溶成分]
微細セルロース繊維が含み得る酸不溶成分は、植物(例えば木材)を溶媒抽出した脱脂試料を硫酸処理した後に残存する不溶成分として当業者に理解される。酸不溶成分は具体的には芳香族由来のリグニンであるが、それに限定されない。
【0047】
一態様において、微細セルロース繊維中の酸不溶成分平均含有率は、微細セルロース繊維の耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、微細セルロース繊維100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
【0048】
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。なお、化学修飾された微細セルロース繊維の酸不溶成分平均含有率に関しては、化学修飾基の存在により正確に算出することができない場合がある。この場合、化学修飾された微細セルロース繊維の原料である化学修飾する直前の微細セルロース繊維、又は、化学修飾する直前のセルロース繊維原料のアルカリ可溶多糖類含有率を化学修飾された微細セルロース繊維の酸不溶成分平均含有率とみなしてよい。
【0049】
[熱分解温度]
微細セルロース繊維の熱分解開始温度(TD)は、溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は250℃以上、又は260℃以上、又は270℃以上、又は275℃以上、又は280℃以上、又は285℃以上である。熱分解開始温度は高いほど好ましいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、320℃以下、又は310℃以下、又は300℃以下であってもよい。
【0050】
微細セルロース繊維の1wt%重量減少時の温度(T1%)は、溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、230℃以上、又は240℃以上、又は250℃以上、又は260℃以上、又は270℃以上、又は275℃以上、又は280℃以上、又は285℃以上、又は290℃以上である。T1%は高いほど好ましいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、330℃以下、又は320℃以下、又は310℃以下であってもよい。
【0051】
微細セルロース繊維の250℃重量減少率(T250℃)は溶融混練時の熱劣化を回避し、機械強度を発揮できるという観点から、一態様において好ましくは、15%以下、又は12%以下、又は10%以下、又は8%以下、又は6%以下、又は5%以下、又は4%以下、又は3%以下である。T250℃は低いほど好ましいが、微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば、0.1%以上、又は0.5%以上、又は0.7%以上、又は1.0%以上であってもよい。
【0052】
本開示で、TDとは、窒素フロー下の熱重量(TG)分析における、横軸が温度、縦軸が重量残存率%のグラフから求めた値である。微細セルロース繊維を窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、つづいて、そのまま450℃まで昇温速度:10℃/minで昇温する。150℃(水分がほぼ除去された状態)での重量(重量減少量0wt%)を起点として、1wt%重量減少時の温度(T1%)と2wt%重量減少時の温度(T2%)とを通る直線を得る。この直線と、重量減少量0wt%の起点を通る水平線(ベースライン)とが交わる点の温度をTDと定義する。
【0053】
1%重量減少温度(T1%)は、上記TDの手法で昇温を続けた際の、150℃の重量を起点とした1重量%重量減少時の温度である。
【0054】
微細セルロース繊維の250℃重量減少率(T250℃)は、TG分析において、微細セルロース繊維を250℃、窒素フロー下で2時間保持した時の重量減少率である。微細セルロース繊維を窒素フロー100ml/min中で、室温から150℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、150℃で1時間保持した後、150℃から250℃まで昇温速度:10℃/minで昇温し、そのまま250℃で2時間保持する。250℃に到達した時点での重量W0を起点として、2時間250℃で保持した後の重量をW1とし、下記式より求める。
250℃重量変化率(%):(W1-W0)/W0×100
【0055】
[多孔質シート]
結晶多形、結晶化度、重合度、Mw、Mn、Mw/Mn、アルカリ可溶多糖類平均含有率、酸不溶成分平均含有率、TD、T1%、T250℃、及び後述するDS、DSs、DS不均一比、DS不均一比の変動係数の測定は測定サンプルの形態によって数値が大きく変動することがある。安定した再現性のある測定をするために、測定サンプルは歪みのない多孔質シートを用いる。多孔質シートの作製方法は以下のとおりである。
【0056】
まず、固形分率が10質量%以上の微細セルロース繊維の濃縮ケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行う。微細セルロース繊維固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整する。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過する。濾過物はろ紙から剥離させずに、ろ紙と共により大きなろ紙2枚の間に挟み、かつ、そのより大きなろ紙の縁をおもりで押さえつけながら、150℃のオーブンにて5分間乾燥させる。その後、ろ紙を剥離して歪みの少ない多孔質シートを得る。このシートの透気抵抗度Rがシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用する。
透気抵抗度Rの測定方法は23℃、50%RHの環境で1日静置した多孔質シートサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定する。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出する。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0057】
[樹脂中の微細セルロース繊維の測定]
樹脂組成物中の微細セルロース繊維の各種物性(数平均繊維長、数平均繊維径、L/D比、結晶化度、結晶多形、重合度、Mw、Mn、Mw/Mn、アルカリ可溶多糖類平均含有率、酸不溶成分平均含有率、TD、T1%、T250℃、及び後述するDS、DSs、DS不均一比、DS不均一比の変動係数)は以下の方法で分析する。樹脂組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に樹脂組成物中の樹脂成分を溶解させ、微細セルロース繊維を分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒をtert-ブタノールに置換する。その後、微細セルロース繊維tert-ブタノールスラリーを前記手法と同様の測定法を用いて分析し、樹脂組成物中の微細セルロース繊維の各種物性を算出する。
【0058】
(化学修飾)
微細セルロース繊維は、化学修飾された微細セルロース繊維(化学修飾微細セルロース繊維ともいう)であってよい。微細セルロース繊維は、修飾化剤によって例えばセルロース繊維原料の段階、解繊処理中、又は解繊処理後に化学修飾されたものであっても良いし、分散体としてのスラリーの調製中又はその後、或いは乾燥・造粒工程中又はその後に化学修飾されてもよい。
化学修飾微細セルロース繊維として、例えば硝酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、ホウ酸エステル等の無機エステル化物、アセチル化、プロピオニル化等の有機エステル化物、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のエーテル化物、セルロースの一級水酸基を酸化してなるTEMPO酸化物等が挙げられる。化学修飾は1種類又は2種類以上修飾基を含んでいても良い。
【0059】
微細セルロース繊維の修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、例えば、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤等が挙げられる。好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化であり、特に好ましくはアセチル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、カルボン酸ビニルエステル、及びカルボン酸が好ましい。
【0060】
[酸ハロゲン]
酸ハロゲン化物は、下記式で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってよい。
1-C(=O)-X
(式中、R1は炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~24のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基を表し、XはCl、Br又はIである。)
酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。尚、酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として働くと同時に副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物;が挙げられるが、これに限定されない。
【0061】
[酸無水物]
酸無水物としては、任意の適切な酸無水物類を用いることができる。例えば、
酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;
シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸無水物;
安息香酸、4-メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;
二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、無水1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸、及び、無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等;
3塩基以上の多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。
尚、酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0062】
[カルボン酸ビニル]
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式:
R-COO-CH=CH2
{式中、Rは、炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基のいずれかである。}で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。カルボン酸ビニルエステルによるエステル化反応のとき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上を添加しても良い。
【0063】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
【0064】
1~3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0065】
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0066】
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
【0067】
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0068】
[カルボン酸]
カルボン酸としては、下記式で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R-COOH
(式中、Rは、炭素数1~16のアルキル基、炭素数2~16のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を表す。)
【0069】
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、メタクリル酸、クロトン酸、オクチル酸、安息香酸、及び桂皮酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0070】
これらカルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸が、反応効率の観点から好ましい。
尚、カルボン酸の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0071】
これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、及び酢酸からなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
【0072】
[DS]
微細セルロース繊維が化学修飾(例えばアシル化等の疎水化によって)されている場合、微細セルロース繊維の樹脂中での分散性は良好である傾向があるが、本開示の微細セルロース繊維は、非置換又は低置換度であっても樹脂中で良好な分散性を示すことができる。微細セルロース繊維がエステル化微細セルロース繊維である場合、アシル置換度(DS)は、熱分解開始温度が高い、エステル化微細セルロース繊維及びこれを含む樹脂組成物を得ることができる点で、好ましくは、0.1以上、又は0.2以上、又は0.25以上、又は0.3以上、又は0.5以上であり、エステル化微細セルロース繊維中に未修飾のセルロース骨格が残存するため、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高い熱分解開始温度を兼ね備えた、エステル化微細セルロース繊維及びこれを含む樹脂組成物を得ることができる点で、好ましくは、2.0以下、又は1.8以下、又は1.5以下、又は1.2以下、又は1.0以下、又は0.8以下、又は0.7以下、又は0.6以下、又は0.5以下である。
【0073】
化学修飾微細セルロース繊維の修飾基がアシル基の場合、アシル置換度(DS)は、エステル化微細セルロース繊維の反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する。エステル化微細セルロース繊維のDSは、後述するエステル化微細セルロース繊維の固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線置換度
DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
【0074】
固体NMRによるエステル化微細セルロース繊維のDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化微細セルロース繊維について13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
【0075】
[DSs/DSt]
化学修飾微細セルロース繊維の繊維全体の修飾度(DSt)(これは上記のアシル置換度(DS)と同義である。)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)は、好ましくは1.05以上である。DS不均一比の値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、樹脂との複合化時の樹脂との親和性の向上、及び樹脂組成物の寸法安定性の向上が可能である。DS不均一比は、より好ましくは、1.1以上、又は1.2以上、又は1.3以上、又は1.5以上、又は2.0以上であり、化学修飾微細セルロース繊維の製造容易性の観点から、好ましくは、30以下、又は20以下、又は10以下、又は6以下、又は4以下、又は3以下である。
【0076】
DSsの値は、エステル化微細セルロース繊維の修飾度に応じて変わるが、一例として、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。
【0077】
化学修飾微細セルロース繊維のDS不均一比の変動係数(CV)は、小さいほど、樹脂組成物の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。上記変動係数は、好ましくは、50%以下、又は40%以下、又は30%以下、又は20%以下である。上記変動係数は、例えば、セルロース繊維原料を解繊した後に化学修飾を行って化学修飾微細セルロース繊維を得る方法(すなわち逐次法)ではより低減され得る一方、セルロース繊維原料の解繊と化学修飾とを同時に行う方法(すなわち同時法)では増大され得る。この作用機序は明確になっていないが、同時法では、解繊の初期に生成した細い繊維において化学修飾がより進行しやすく、そして、化学修飾によってセルロースミクロフィブリル間の水素結合が減少すると解繊がさらに進行する結果、DS不均一比の変動係数が増大すると考えられる。
【0078】
DS不均一比の変動係数(CV)は、化学修飾微細セルロース繊維の水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDSt及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)から、下記式で算出できる。
DS不均一比=DSs/DSt
変動係数(%)=標準偏差σ/算術平均μ×100
【0079】
DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、多孔質シートをX線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO-C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
【0080】
<微細セルロース繊維を得る工程>
[原料]
微細セルロース繊維は、天然セルロース及び再生セルロースから選ばれる各種セルロース繊維原料から得られるものであってよい。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(綿、竹、麻、バガス、ケナフ、コットンリンター、サイザル、ワラ等)から得られる非木材パルプ、動物(ホヤ類等)や藻類、微生物(酢酸菌等)が産生するセルロース繊維集合体を使用できる。再生セルロースとしては、再生セルロース繊維(ビスコース、キュプラ、テンセル等)、セルロース誘導体繊維、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸等を使用できる。これらの原料は、必要に応じて、グラインダー、リファイナー等の機械力による叩解、フィブリル化、微細化等によって、繊維径、繊維長、フィブリル化度等を調整したり、酵素や薬品等を用いて漂白、精製し、セルロース以外の成分(リグニン等の酸不溶成分、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、等)の含有率を調整したりすることができる。
【0081】
[アルカリ可溶分、及び酸不溶成分]
セルロース繊維原料は、アルカリ可溶分、及び硫酸不溶成分(リグニン等)を含有するため、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程を経て、アルカリ可溶分及び硫酸不溶成分を減らしても良い。他方、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程はセルロースの分子鎖を切断し、重量平均分子量、及び数平均分子量を変化させてしまうため、セルロース繊維原料の精製工程及び漂白工程は、微細セルロース繊維の重量平均分子量、及び重量平均分子量と数平均分子量との比が適切な範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
【0082】
また、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程及び漂白工程によって微細セルロース繊維が低分子量化すること、及びセルロース繊維原料が変質してアルカリ可溶分の存在比率が増加することが懸念される。アルカリ可溶分は耐熱性に劣るため、セルロース繊維原料の精製工程及び漂白工程は、セルロース繊維原料に含有されるアルカリ可溶分の量が一定の値以下の範囲となるようにコントロールされていることが望ましい。
【0083】
[化学修飾]
一態様において、セルロース繊維原料は化学修飾されてよく、硝酸エステル、硫酸エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、ホウ酸エステル等の無機エステル化物、アセチル化、プロピオニル化等の有機エステル化物、メチルエーテル、ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシプロピルエーテル、ヒドロキシブチルエーテル、カルボキシメチルエーテル、シアノエチルエーテル等のエーテル化物、セルロースの一級水酸基を酸化してなるTEMPO酸化物等をセルロース繊維原料として使用できる。
【0084】
[微細化方法]
微細セルロース繊維は、セルロース繊維原料を機械的に乾式、又は湿式で微細化することで得られる。この微細化処理は単独の装置を1回以上用いても良いし、複数の装置をそれぞれ1回以上用いても良い。
微細化に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高圧又は超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、ボールミル、振動ミル、ビーズミル、コニカルリファイナー、ディスク型リファイナー、1軸、2軸又は多軸の混練機・押出機等を使用することができる。
【0085】
一態様において、微細セルロース繊維はセルロース繊維原料を水並びに/又は他の媒体(例えば、有機溶媒、無機酸、塩基及び/若しくはイオン液体)中に分散させて、微細化処理により微細化することによって調製できる。
【0086】
微細化処理における水並びに/又は他の媒体の合計使用量は、セルロース繊維原料を分散できる有効量であればよく、特に制限はないが、セルロース繊維原料に対して、好ましくは1質量倍以上、又は10質量倍以上、又は50質量倍以上であり、好ましくは10000質量倍以下、又は5000質量倍以下、又は2000質量倍以下、又は1000質量倍以下である。
【0087】
微細セルロース繊維が液体に分散してなる微細セルロース繊維スラリーを、制御された乾燥条件で乾燥させることにより、乾燥体を調製してもよい。乾燥機としては、特に限定はされないが、ニーダー、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、プロペラミキサー、リボンミキサー、単軸又は二軸のスクリュー押出機、バンバリーミキサー、凍結乾燥機、棚乾燥機、スプレー噴霧乾燥機、流動層乾燥機等が挙げられる。
【0088】
微細セルロース繊維スラリーの液体媒体としては、水並びに/又は他の媒体(例えば、有機溶媒、無機酸、塩基及び/若しくはイオン液体)を好適に使用できる。
微細セルロース繊維スラリー中の微細セルロース繊維の濃度は、乾燥時のプロセス効率の観点から、好ましくは、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、5質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上、又は20質量%以上、又は25質量%以上であり、スラリーの粘度の過度な増大、及び凝集による固化を回避して良好な取扱い性を保持する観点から、好ましくは、60質量%以下、又は55質量%以下、又は50質量%以下、又は45質量%以下、又は40質量%以下、又は35質量%以下である。例えば、微細セルロース繊維の製造は希薄な分散液中で行われることが多いが、このような希薄分散液を濃縮することで、スラリー中の微細セルロース繊維濃度を前記好ましい範囲に調整してもよい。濃縮には、吸引ろ過、加圧ろ過、遠心脱液、加熱等の方法を用いることができる。
微細セルロース繊維以外の成分、例えば分散剤は、微細セルロース繊維スラリーの乾燥前、乾燥中、及び/又は乾燥後に添加してよい。分散剤の添加様式は特に限定されない。
【0089】
第1の樹脂組成物中の微細セルロース繊維の含有率は、微細セルロース繊維による物性向上効果を良好に得る観点から、一態様において、1質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上であり、樹脂中の微細セルロース繊維の分散性を良好にする観点から、一態様において、20質量%以下、又は18質量%以下、又は16質量%以下である。
【0090】
一態様において、第2の樹脂組成物は微細セルロース繊維を含まない。
別の一態様においては、第1の樹脂組成物中の微細セルロース繊維の含有率(A1)に対する、第2の樹脂組成物中の微細セルロース繊維の含有率(A2)の比(A2/A1)が0.5以下である。比(A2/A1)は、第1の部材と第2の部材との物性差による摺動性及び静音性の両立の利点を良好に得る観点から、好ましくは、0.5以下、又は0.45以下、又は0.4以下である。比(A2/A1)は、一態様において、0超、又は0.05以上、又は0.1以上、又は0.15以上である。第2の樹脂組成物中の微細セルロース繊維の含有率は、第2の樹脂組成物の物性向上の観点から、一態様において、1質量%以上、又は3質量%以上、又は5質量%以上であり、第1の部材と第2の部材との物性差による摺動性及び静音性の両立の利点を良好に得る観点から、一態様において、20質量%以下、18質量%以下、又は16質量%以下、又は14質量%以下である。
【0091】
<表面処理剤>
一態様において、樹脂組成物は表面処理剤を含んでよい。表面処理剤は、アセタール樹脂中での微細セルロース繊維の分散性を向上させることに寄与する。表面処理剤は、1種の物質でも2種以上の物質の混合物であってもよい。後者の場合、本開示の特性値(例えば融点、分子量、SP値)は、当該混合物の値を意味する。
【0092】
[両親媒性分子]
一態様において、表面処理剤は親水性セグメント及び疎水性セグメントを同一分子内に有する(すなわち両親媒性分子である)ことが、樹脂中に微細セルロース繊維をより均一に分散させる観点で更に好ましい。
【0093】
親水性セグメントは、親水性構造を含むことによって、微細セルロース繊維との良好な親和性を示す部分である。親水性構造としては、水酸基、チオール基、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸基、ボロン酸基、シラノール基、ソルビタン及びショ糖等の糖類に由来する基、グリセリンに由来する基、-OM、-COOM、-SO3M、-OSO3M、-HMPO4、及び-M2PO4(但し、Mはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。)で表される基、並びに、1~3級アミン及び4級アンモニウム塩等を有する。上記4級アンモニウム塩のカウンターアニオンとしては、水酸化物イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン、並びに、硝酸イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェート、及びテトラフルオロボレート等からなる群から選ばれる1つ以上の親水性基が挙げられる。
【0094】
親水性セグメントとしては、ポリエチレングリコールのセグメント、4級アンモニウム塩構造を含む繰り返し単位が含まれるセグメント、ポリビニルアルコールのセグメント、ポリビニルピロリドンのセグメント、ポリアクリル酸のセグメント、カルボキシビニルポリマーのセグメント、カチオン化グアガムのセグメント、ヒドロキシエチルセルロースのセグメント、メチルセルロースのセグメント、カルボキシメチルセルロースのセグメント、ポリウレタンのソフトセグメント(具体的にはジオールセグメント)等を例示できる。非イオン系のポリオキシエチレン誘導体は特に好ましく、ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長は、3以上、又は5以上、又は10以上、又は15以上であってよい。鎖長が長いほど微細セルロース繊維との親和性が高まるが、樹脂成形体の所望の特性(例えば機械特性)とのバランスの観点から、ポリオキシエチレン鎖長は、60以下、又は50以下、又は40以下、又は30以下、又は20以下であってよい。
【0095】
疎水性セグメントとしては、炭化水素を有するセグメント、炭素数3以上のアルキレンオキシド単位を有するセグメント(例えば、PPGブロック)、ポリマー構造を含むセグメント等を例示できる:
炭化水素を有するセグメントとしては、アルキル型、アルケニル型、アルキルエーテル型、アルケニルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、アルケニルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型等が好ましい。疎水基のアルキル鎖、又はアルケニル鎖の炭素数(アルキルフェニル、又はアルケニルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)は、好ましくは、5以上、又は10以上、又は12以上、又は16以上である。
【0096】
ポリマー構造を含むセグメントとしては、アクリル系ポリマー、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリヘキサメチレンアジパミド(6,6ナイロン)、ポリヘキサメチレンアゼラミド(6,9ナイロン)、ポリヘキサメチレンセバカミド(6,10ナイロン)、ポリヘキサメチレンドデカノアミド(6,12ナイロン)、ポリビス(4‐アミノシクロヘキシル)メタンドデカン等の、炭素数4~12の有機ジカルボン酸と炭素数2~13の有機ジアミンとの重縮合物、ω-アミノ酸(例えばω-アミノウンデカン酸)の重縮合物(例えば、ポリウンデカンアミド(11ナイロン)等)、ε-アミノカプロラクタムの開環重合物であるポリカプラミド(6ナイロン)、ε-アミノラウロラクタムの開環重合物であるポリラウリックラクタム(12ナイロン)等の、ラクタムの開環重合物を含むアミノ酸ラクタム、ジアミンとジカルボン酸とから構成されるポリマー、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、疎水性シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂等が好ましい。
【0097】
一態様として、両親媒性分子として、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれも使用可能である。表面処理剤は、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等であってもよい。微細セルロース繊維との親和性の点で、カチオン性界面活性剤、及びノニオン系イオン系界面活性剤が好ましく、耐熱性の観点でノニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0098】
[表面処理剤の構造]
両親媒性分子の構造は特に限定されないが、親水性セグメントをA、疎水性セグメントをBとしたときに、AB型ブロック共重合体、ABA型ブロック共重合体、BAB型ブロック共重合体、ABAB型ブロック共重合体、ABABA型ブロック共重合体、BABAB型共重合体、AとBを含む3分岐型共重合体、AとBを含む4分岐型共重合体、AとBを含む星型共重合体、AとBを含む単環状共重合体、AとBを含む多環状共重合体、AとBを含むかご型共重合体、等が挙げられる。
【0099】
表面処理剤の構造は、好ましくはAB型ブロック共重合体、ABA型トリブロック共重合体、AとBを含む3分岐型共重合体、又はAとBを含む4分岐型共重合体であり、より好ましくはABA型トリブロック共重合体、3分岐構造体(すなわちAとBを含む3分岐型共重合体)、又は4分岐構造体(すなわちAとBを含む4分岐型共重合体)である。微細セルロース繊維との良好な親和性を確保するために、表面処理剤の構造は上記構造であることが望ましい。
【0100】
[親水性高分子]
一態様において、表面処理剤は、親水性高分子であることが好ましい。親水性高分子としては、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、カチオン化グアガム、水溶性ポリウレタン、4級アンモニウム塩構造を含むポリマー、アミド、アミン等からなる群から選択される1種以上を使用することができる。なお本開示で、「水溶性」とは、23℃で100gの水に対して0.1g以上溶解することを意味する。中でも、セルロース誘導体、ポリアルキレングリコールがより好ましい。セルロース誘導体はセルロース系物質であることからセルロースとの親和性が高い一方で、熱可塑性樹脂でもあることから、樹脂組成物中でのセルロースの分散安定性向上効果が高く好ましい。
【0101】
ポリアルキレングリコールは炭素数2~4のアルキレンオキサイドの付加等により得られる。ポリアセタール樹脂に対して微細セルロース繊維を高分散させる効果が特に高いため剛性及び靭性に優れる樹脂組成物を得ることができる点で、炭素数2のポリエチレングリコールが好ましい。オキシアルキレンの繰り返し数は、高温条件下での剛性(高温剛性)を高くする点において、好ましくは、3以上、又は5以上、又は10以上、又は15以上、20以上、又は30以上、又は40以上、又は50以上、又は60以上、又は70以上、又は80以上、又は85以上、又は90以上、又は100以上であり、加工性の観点から、好ましくは、1000以下、又は900以下、又は800以下、又は700以下、又は600以下、又は550以下、又は500以下である。
【0102】
ポリアセタール樹脂組成物中のポリエチレングリコールの量は、ポリアセタール樹脂組成物の高温剛性を高くする観点で、好ましくは、0.1質量部以上、又は1質量部以上、又は2質量部以上、又は3質量部以上、又は4質量部以上、又は5質量部以上であり、負荷下(例えば引張時)における樹脂組成物の靭性を向上させる観点で、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は50質量部以下、又は20質量部以下、又は10質量部以下である。
【0103】
[融点]
表面処理剤の融点は、微細セルロース繊維の周囲を表面処理剤がより均一にコーティングでき、微細セルロース繊維を樹脂中でより均一に分散させることができる点で、300℃以下、又は250℃以下、又は200℃以下、又は150℃以下、又は100℃以下、又は80℃以下、又は70℃以下であってよく、-100℃以上、又は-50℃以上であってよい。上記融点は、示差走査熱量測定(DSC)で測定される値である。
【0104】
[分子量]
表面処理剤の数平均分子量は、微細セルロース繊維の周囲を表面処理剤がより均一にコーティングでき、微細セルロース繊維を樹脂中でより均一に分散させることができる点で、100以上、又は500以上、又は1000以上、又は2000以上であってよく、50000以下、又は20000以下であってよい。表面処理剤の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィを用い、標準ポリスチレン換算で求められる値である。なお、化学式を完全に同定できる低分子の表面処理剤については、計算による求められる値である。
【0105】
[SP値]
表面処理剤としては、溶解パラメーター(SP値)が7.25以上であるものがより好ましい。表面処理剤がこの範囲のSP値を有することで、微細セルロース繊維の樹脂中での分散性が向上する。
【0106】
SP値は、Fodersの文献(R.F.Foders:Polymer Engineering & SCienCe,vol.12(10),p.2359-2370(1974))によると、物質の凝集エネルギー密度とモル分子量の両方に依存し、またこれらは物質の置換基の種類及び数に依存していると考えられ、上田らの文献(塗料の研究、No.152、OCt.2010)によると、既存の主要な溶剤についてのSP値(Cal/Cm31/2が公開されている。
【0107】
表面処理剤のSP値は、実験的には、SP値が既知の種々の溶剤に表面処理剤を溶解させたときの、可溶と不溶の境目から求めることができる。例えば、SP値が異なる各種溶剤(10mL)に、表面処理剤1mLを室温においてスターラー撹拌下で1時間溶解させた場合に、全量が溶解するかどうかで判断可能である。例えば、表面処理剤がジエチルエーテルに可溶であった場合は、その表面処理剤のSP値は7.25以上となる。
【0108】
[含有率]
樹脂組成物において、微細セルロース繊維100質量部に対する表面処理剤の量は、微細セルロース繊維をポリアセタール樹脂中に良好に分散、及び分散させる観点から、好ましくは、5質量部以上、又は10質量部以上、又は20質量部以上であり、ポリアセタール樹脂への表面処理剤の移行を抑制する観点から、好ましくは、100質量部以下、又は70質量部以下、又は50質量部以下である。
【0109】
樹脂組成物において、表面処理剤の量は当業者に一般的な方法で容易に確認する事が出来る。確認方法は限定されないが、以下の方法を例示できる。樹脂組成物の破断片を用い、樹脂を溶解させる溶媒に破断片を溶解させたときの、可溶分1(樹脂及び表面処理剤)と不溶分1(微細セルロース繊維及び表面処理剤)を分離する。可溶分1を、樹脂を溶解させないが表面処理剤を溶解させる溶媒で再沈殿させ、不溶分2(樹脂)と可溶分2(表面処理剤)に分離する。また、不溶分1を表面処理剤溶解性溶媒に溶解させ、可溶分3(表面処理剤)と不溶分3(微細セルロース繊維)に分離する。可溶分2、可溶分3を濃縮(乾燥・風乾・減圧乾燥等)させることで表面処理剤の定量が可能である。濃縮後の表面処理剤について、前述の方法によって同定及び分子量の測定を行うことができる。
【0110】
<摺動剤成分>
一態様において、樹脂組成物は摺動剤成分を含んでよい。摺動剤成分は、ポリアセタール樹脂及び表面処理剤とは異なる物質である。一態様においては、表面処理剤が本開示の意味における水溶性を有し、摺動剤成分が当該水溶性を有さない。
【0111】
樹脂組成物における摺動剤成分の含有率は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、好ましくは、0.01質量部以上、又は0.5質量部以上、又は1.0質量部であり、好ましくは、5質量部以下、又は4質量部以下、又は3質量部以下である。上記範囲の含有率によれば、摺動性物品の摩耗量を抑制できる。一般的な充填剤(例えばガラス繊維等)を用いた場合、充填剤表面に摺動剤成分が偏在し、摺動剤分子が多数積層する構造となることで、充填剤が脱落し易くなり、摺動性物品の耐久性及び静音性が低下し、摺動性についても充填剤の脱落によって却って低下する場合がある。一方、本開示の微細セルロース繊維の表面積は一般的な充填剤と比べて顕著に大きいことから、微細セルロース繊維表面には、摺動剤成分が偏在しにくく、したがって積層しにくい。これにより、摺動性物品の良好な耐久性、摺動性及び静音性が得られると推測される。
【0112】
摺動剤成分の量がポリアセタール樹脂100質量部に対し、5質量部以下である場合、樹脂成形体における層剥離及びシルバーストリークスの発生がより良好に抑制される。また、摺動剤成分の量がポリアセタール樹脂に対して0.01質量部以上である場合、摩耗量低減のより顕著な効果が得られる。
【0113】
摺動剤成分としては、例えば、下記一般式(1a)、(1b)又は(1c)で表わされる構造を有する化合物が挙げられる。
[R11-(A1-R12)x-A2-R13]y・・・(1a)
3-R11-A4・・・(1b)
14-A5・・・(1c)
ここで、式(1a)及び(1b)中、R11、R12及びR13は、各々独立して、炭素数1~7000のアルキレン基、置換若しくは非置換の炭素数1~7000のアルキレン基の少なくとも1個の水素原子が炭素数6~7000のアリール基で置換された置換アルキレン基、炭素数6~7000のアリーレン基、又は炭素数6~7000のアリーレン基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1~7000の置換若しくは非置換のアルキル基で置換された置換アリーレン基である。
【0114】
また、式(1c)中、R14は、炭素数1~7000のアルキル基、置換若しくは非置換の炭素数1~7000のアルキル基の少なくとも1個の水素原子が炭素数6~7000のアリール基で置換された置換アルキル基、炭素数6~7000のアリール基、又は炭素数6~7000のアリール基における少なくとも1個の水素原子が炭素数1~7000の置換若しくは非置換のアルキル基で置換された置換アリール基である。
【0115】
これらの基は二重結合、三重結合、又は環状構造を含む基でもよい。
【0116】
また、式(1a)中、A1及びA2は、各々独立して、エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、チオアミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、アゾ結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ウレタン結合、チオウレタン結合、スルフィド結合、ジスルフィド結合、又はトリスルフィド結合である。
【0117】
また、式(1b)、(1c)中、A3、A4及びA5は、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、スルホ基、アミジン基、アジ基、シアノ基、チオール基、スルフェン酸基、イソシアニド基、ケテン基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、ニトロ基、又はチオール基である。
【0118】
微小荷重摺動時の摩耗特性の観点から、摺動剤成分における上記一般式(1a)、(1b)、(1c)で表わされる構造を以下の範囲内とすることが好ましい。
【0119】
すなわち、R11、R12、R13、R14における炭素数は、好ましくは2~7000であり、より好ましくは3~6800であり、さらに好ましくは4~6500である。
式(1a)中、xは1~1000の整数を示し、1~100の整数が好ましい。yは1~1000の整数を示し、1~200の整数が好ましい。
【0120】
式(1a)中、好ましいA1及びA2は、各々独立して、エステル結合、チオエステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、エーテル結合、及びウレタン結合であり、より好ましいA1及びA2は、各々独立して、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレイド結合、イミン結合、尿素結合、ケトキシム結合、エーテル結合、及びウレタン結合である。
【0121】
式(1b)及び(1c)中、好ましいA3、A4及びA5は、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、アジ基、シアノ基、チオール基、イソシアニド基、ケテン基、イソシアネート基、及びチオイソシアネート基であり、より好ましいA3、A4及びA5は、各々独立して、ヒドロキシル基、アシル基(例えばアセチル基)、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、シアノ基、イソシアニド基、ケテン基、及びイソシアネート基である。
【0122】
具体的には、摺動剤成分として、特に限定されないが、例えば、アルコール、アミン、カルボン酸、ヒドロキシ酸、アミド、エステル、ポリオキシアルキレングリコール、シリコーンオイル、並びにワックス、からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が例示される。
【0123】
アルコールとしては、炭素数が6~7000の飽和又は不飽和の1価又は多価のアルコール類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、ミリスチルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、ベヘニルアルコール、メリシルアルコール、ヘキシルデシルアルコール、オクチルドデシルアルコール、デシルミリスチルアルコール、デシルステアリルアルコール、ユニリンアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トレイトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、アラビトール、リビトール、キシリトール、ソルバイト、ソルビタン、ソルビトール、マンニトールが挙げられる。
【0124】
これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数11以上のアルコールが好ましい。より好ましくは炭素数12以上のアルコールであり、さらに好ましくは炭素数13以上のアルコールである。特に好ましいのはこれらの中でも飽和アルコールである。
【0125】
これらの中では、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく使用可能であり、ベヘニルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが特に好ましく使用可能である。
【0126】
アミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。
【0127】
一級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロパンアミン、ブタンアミン、ペンタンアミン、ヘキサンアミン、へプタンアミン、オクタンアミン、シクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、アニリン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルアミン等が挙げられる。
【0128】
二級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、N-メチルエチルアミン、ジフェニルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ピペリジン、N,N-ジメチルピペラジン等が挙げられる。
【0129】
三級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等が挙げられる。
【0130】
特殊なアミンとしては、特に限定されないが、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノロピルアミン、N-アミノエチルピペラジン等が挙げられる。これらの中でも、ヘキサンアミン、ヘプタンアミン、オクタンアミン、テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルピペラジン、ヘキサメチレンジアミンがより好ましく使用可能であり、これらの中でも、ヘプタンアミン、オクタンアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンが特に好ましく使用可能である。
【0131】
カルボン酸としては、炭素数が6~7000の飽和又は不飽和の1価又は多価の脂肪族カルボン酸類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ウンデシル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ナノデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコン酸、モンタン酸等、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、メリシン酸、ラクセル酸、ウンデシレン酸、エライジン酸、セトレイン酸、ブラシジン酸、ソルビン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキドン酸、ネルボン酸、エルカ酸、プロピオール酸、ステアロール酸等が挙げられる。
【0132】
これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数10以上の脂肪酸が好ましい。より好ましくは炭素数11以上の脂肪酸であり、さらに好ましくは炭素数12以上の脂肪酸である。特に好ましいのはこれらの中でも飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸の中ではパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、アジピン酸、セバシン酸等が、工業的にも容易に入手可能であり、更に好ましい。
【0133】
また、かかる成分を含有してなる天然に存在する脂肪酸又はこれらの混合物等でもよい。これらの脂肪酸はヒドロキシ基で置換されていてもよく、合成脂肪族アルコールであるユニリンアルコールの末端をカルボキシル変性した合成脂肪酸でもよい。
【0134】
ヒドロキシ酸としては特に限定されないが、例えば、脂肪族ヒドロキシ酸、芳香族ヒドロキシ酸が挙げられる。脂肪族ヒドロキシ酸としては、特に限定されないが、例えば、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシブタン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシドデカン酸、ヒドロキシトリデカン酸、ヒドロキシテトラデカン酸、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシヘキサデカン酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシノナデカン酸、ヒドロキシイコサン酸、ヒドロキシドコサン酸、ヒドロキシテトラドコサン酸、ヒドロキシヘキサドコサン酸、ヒドロキシオクタドコサン酸や乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、等が挙げられ、これらの異性体であってもよい。
【0135】
芳香族ヒドロキシ酸としては特に限定されないが、例えば、モノヒドロキシ安息香酸誘導体としてサリチル酸、クレオソート酸(ホモサリチル酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸)、バニリン酸、シリング酸、ジヒドロキシ安息香酸誘導体としてピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸、トリヒドロキシ安息香酸誘導体として、没食子酸、フェニル酢酸誘導体として、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、ケイヒ酸やヒドロケイヒ酸誘導体として、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸が挙げられ、これらの異性体であってもよい。これらの中では、脂肪族ヒドロキシ酸がより好ましく、脂肪族ヒドロキシ酸の中でも炭素数が5から30の脂肪族ヒドロキシ酸が更に好ましく、炭素数8から28の脂肪族ヒドロキシ酸が特に好ましい。
【0136】
アミドとしては、炭素数が6~7000の飽和又は不飽和の1価又は多価の脂肪族アミド類が好ましい。具体的な例としては特に限定されないが、例えば、1級アミドとしてヘプタンアミド、オクタンアミド、ノナンアミド、デカンアミド、ウンデカンアミド、ラウリルアミド、トリデシルアミド、ミリスチルアミド、ペンタデシルアミド、セチルアミド、ヘプタデシルアミド、ステアリルアミド、オレイルアミド、ノナデシルアミド、エイコシルアミド、セリルアミド、ベヘニルアミド、メリシルアミド、ヘキシルデシルアミド、オクチルドデシルアミド、ラウリン酸アマイド、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
【0137】
2級アミドの例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N-オレイルパルミチン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-ステアリルオレイン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アマイド、などの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
【0138】
3級アミドの例としては、以下に限定されるものではないが、例えば、N,N-ジステアリルアジピン酸アミド、N,N-ジステアリルセバシン酸アミド、N,N-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N-ジオレイルセバシン酸アミド、N,N-ジステアリルイソフタル酸アミドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
【0139】
これらの中でも、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、N-ステアリルステアリン酸アマイドがより好ましく使用可能である。
【0140】
これらの中でも、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイドが好ましく使用可能である。これらの中でも、摺動性の効率の観点から、炭素数10以上のアミドが好ましい。より好ましくは、炭素数11以上のアミドであり、さらに好ましくは炭素数13以上のアミドである。特に好ましいのはこれらの中でも飽和脂肪族アミドである。
【0141】
エステルとしては、上述のアルコールとカルボン酸、又はヒドロキシ酸とが反応してエステル結合を形成している反応生成物などが好ましい。
【0142】
具体的な例としては特に限定されないが、例えば、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、ステアリン酸2-エチルヘキシル、べへニン酸モノグリセライド、2-エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸コレステリル、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、ステアリン酸メチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシルペンタエリスリトールモノオレエート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸イソトリデシル、2-エチルヘキサン酸トリグリセライド、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールモノラウレート、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールジステアレート、エチレングリコールモノオレエート、エチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンジオレエート等が挙げられる。
【0143】
これらの中でもミリスチン酸セチル、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレートが好ましく使用可能であり、ミリスチン酸セチル、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールジステアレートが特に好ましく使用可能である。
【0144】
ポリオキシアルキレングリコールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、以下の第1~第3のポリオキシアルキレングリコールが挙げられる。
【0145】
第1のポリオキシアルキレングリコールは、アルキレングリコールをモノマーとする重縮合物である。このような重縮合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのブロックコポリマー、ランダムコポリマー等が挙げられる。これらの重縮合物の重合度の好ましい範囲は5~2500、より好ましい範囲は10~2300である。
【0146】
第2のポリオキシアルキレングリコールは、第1のポリオキシアルキレングリコールで挙げた重縮合物と脂肪族アルコールとのエーテル化合物である。このようなエーテル化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコールオレイルエーテル(エチレンオキサイド重合度5~500)、ポリエチレングリコールセチルエーテル(エチレンオキサイド重合度5~500)、ポリエチレングリコールステアリルエーテル(エチレンオキサイド重合度5~300)、ポリエチレングリコールラウリルエーテル(エチレンオキサイド重合度5~300)、ポリエチレングリコールトリデシルエーテル(エチレンオキサイド重合度5~300)、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル(エチレンオキサイド重合度2~1000)、ポリエチレングリコールオキチルフェニルエーテル(エチレンオキサイド重合度4~500)等が挙げられる。
【0147】
第3のポリオキシアルキレングリコールは、第1のポリオキシアルキレングリコールで挙げた重縮合物と高級脂肪酸とのエステル化合物である。このようなエステル化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレングリコールモノラウレート(エチレンオキサイド重合度2~300)、ポリエチレングリコールモノステアレート(エチレンオキサイド重合度2~500)、ポリエチレングリコールモノオレート(エチレンオキサイド重合度2~500)等が挙げられる。
【0148】
ワックスとしては、特に限定されないが、例えば、シュラックワックス、蜜ろう、鯨ろう、セラックろう、ウールろう、カルバナワックス、木ろう、ライスワックス、キャンデリラワックス、はぜろう、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型が挙げられる。
【0149】
これらの中でもカルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型がより好ましく使用可能であり、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型が特に好ましく使用可能である。
【0150】
これらの中でも摺動剤成分としては、アルコール、アミン、カルボン酸、エステル、1価又は2価のアミンとカルボン酸とからなるアミド化合物、並びにワックスからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
【0151】
本実施形態の樹脂組成物に用いる摺動剤成分のパラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型は、特に限定されないが、ポリオレフィンワックスの酸化反応により酸性基を導入したり、ポリオレフィンを酸化分解したり、ポリオレフィンワックスに無機酸、有機酸或いは不飽和カルボン酸などを反応させてカルボキシル基やスルホン酸基などの極性基を導入したり、ポリオレフィンワックス重合時に酸性基を持つモノマーを導入する方法により得られる。
【0152】
これらは、酸化変性型或いは酸変性型ポリオレフィンワックスなどの名称で市販されており、容易に入手することができる。
【0153】
ポリオレフィンワックスとしては、以下に限定されるものではないが、例えばパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、特殊モノマー変性型などが挙げられる。
【0154】
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、ポリプロピレン-ブテン共重合体、ポリブテン、ポリブタジエンの水添物、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタアクリル酸エステル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等などが挙げられる。
【0155】
摺動剤成分としては摺動性改良効果の観点からパラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスの酸変性物、ポリエチレン(高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体の酸変性物が好ましい。
【0156】
摺動剤成分は、特に、酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンを含む変性ワックスであることが好ましい。
【0157】
上記摺動剤成分は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態において、摺動剤成分は、摺動性物品(すなわち成形体)から分離することで分子構造や分子量、融点、酸価、粘度などを算出することが可能である。
【0158】
成形体における摺動剤成分は、成形体を溶解後ろ別などの操作を行い単離したのちに、摺動剤成分を再結晶化や再沈殿などの操作で精製することが可能である。摺動剤成分について1H-NMRや13C-NMRや二次元NMR、MALDI-TOF MSなど各種測定を行うことにより、繰り返し構造や分岐構造、各種官能基の位置情報などの分子構造を決定することができる。
【0159】
摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、酸価は0~85mg-KOH/gの範囲であることが好ましい。酸価の好ましい下限は特にないが、0mg-KOH/g以上であることが好ましい。酸価のより好ましい上限は83mg-KOH/gであり、さらに好ましくは80mg-KOH/gであり、よりさらに好ましくは75mg-KOH/gである。酸価を上述の範囲とすることで、乾燥時の変色性を抑制し、微小荷重の高温摺動時の耐摩耗性が良好となる傾向にある。摺動剤成分の酸価はJIS K0070に準拠した方法により測定できる。
【0160】
摺動剤成分の酸価は、例えば特開2004-75749号公報の実施例1又は2に記載の方法、市販の高密度ポリエチレンを酸素雰囲気下で熱分解することで、酸性基の導入量、及び/又は極性基の導入量を調整又は制御する方法、等によって制御可能である。また摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、市販品を使用することも可能である。
【0161】
摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、140℃の溶融粘度は、樹脂組成物の溶融混練時の加工性の観点から、好ましくは、1mPa・s以上、又は20mPa・s以上、又は25mPa・s以上、又は30mPa・s以上、又は50mPa・s以上であり、上限は、好ましくは、3000mPa・s以下、又は2850mPa・s以下、又は2800mPa・s以下、又は2700mPa・s以下、又は2650mPa・s以下、又は2000mPa・s以下である。
【0162】
摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、180℃の溶融粘度は、好ましくは、100mPa・s以上、又は110mPa・s以上、又は140mPa・s以上、又は160mPa・s以上、又は300mPa・s以上であり、好ましくは、2900mPa・s以下、又は2850mPa・s以下、又は2800mPa・s以下、又は2700mPa・s以下、又は2650mPa・s以下、又は2000mPa・s以下、又は1600mPa・s以下である。
【0163】
摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、溶融粘度を上記範囲内とすることで、本実施形態の摺動性物品の構成材料である樹脂組成物の溶融混練時に、樹脂ペレットが完全溶融となり、混練が十分に行われる傾向にある。
【0164】
摺動剤成分が酸変性ポリエチレン及び/又は酸変性ポリプロピレンである場合、140℃及び180℃の溶融粘度はブルックフィールド粘度計により測定できる。
【0165】
一態様において、摺動剤成分は潤滑油である。潤滑油は、以下に限定されるものではないが、樹脂成形体の摩擦・摩耗特性を向上させ得る物質であればよく、例えば、エンジンオイルやシリンダーオイルなどの天然オイル、或いは、パラフィン系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル PS32など)やナフテン系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル NS90Sなど)やアロマ系オイル(出光興産株式会社製 ダイアナプロセスオイル AC12など)などの合成炭化水素、シリコーン系オイル(信越化学株式会社製 G30シリーズなど)(ポリジメチルシロキサンに代表されるシリコーンオイルや、シリコーンガム、変性シリコーンガム)を挙げることができ、一般に市販されている潤滑油の中から適宜に選んで、そのまま、或いは、所望により適宜に配合して用いればよい。これらの中でもパラフィン系オイル及びシリコーン系オイルが摺動性の観点からも優れ、かつ工業的にも容易に入手可能であり好ましい。これら潤滑油は、単独で用いても、組み合わせて用いても構わない。
【0166】
潤滑油の分子量は、潤滑油の摺動性が良好である点で、好ましくは、100以上、又は400以上、又は500以上であり、潤滑油の分散が良好となり耐摩耗性が向上する点で、好ましくは、500万以下、又は200万以下、又は100万以下である。潤滑油の融点は、成形体表面に存在する潤滑油の流動性が維持され、アブレッシブ摩耗を抑制することにより、摺動性物品の耐摩耗性が向上する点で、好ましくは、-50℃以上、又は-30℃以上、又は-20℃以上であり、ポリアセタール樹脂と容易に混練し、潤滑油の分散性が向上する点で、好ましくは、50℃以下、又は30℃以下、又は20℃以下である。好ましい態様において、上記融点は潤滑油の流動点の2.5℃低い温度である。上記流動点はJIS K2269に準拠して測定することができる。
【0167】
ポリアセタール樹脂100質量部に対する、潤滑油の含有率は、耐摩耗性及び摺動性を向上させ又は安定させる観点から、好ましくは、0.1質量部以上、又は0.2質量部以上、又は0.3質量部以上であり、樹脂の軟化を抑制することで高トルクギア等の用途にも耐えうる樹脂組成物の良好な強度を得る観点から、好ましくは、5.0質量部以下、又は4.5質量部以下、又は4.2質量部以下である。
【0168】
摺動性物品においては、部材の表層近傍における摺動剤成分の分散状態が摺動特性に大きな影響を与えるため、摺動剤成分の重量平均分子量は重要である。一態様において、摺動剤成分の重量平均分子量の好ましい下限量は、500であり、より好ましくは600であり、特に好ましくは、700である。また、摺動剤成分の重量平均分子量の好ましい上限量は特に限定されないが、取扱いの容易さから、100000が目安である。本実施形態の摺動性物品において、摺動剤成分の重量平均分子量を上述の範囲とすることで、繰返しの摺動に耐える良好な耐摩耗性が得られる。
【0169】
摺動剤成分の分子量分布の下限は特に限定されないが、摺動時の摩擦係数の安定性の観点から、1.0に近いことが目安である。また摺動剤成分の分子量分布の上限は、好ましくは、9.0、又は8.5、又は8.0、又は7.5である。
【0170】
摺動剤成分の重量平均分子量は、重量平均分子量1000以下の場合は、液体クロマトグラフ/質量分析により測定され、重量平均分子量が1000を超える場合は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィにより測定された標準ポリスチレン等の換算の重量平均分子量で表される。
【0171】
摺動剤成分の融点は、摺動性物品の高温条件下での耐摩耗性を向上させる観点から、好ましくは、40℃以上、又は45℃以上、又は50℃以上、又は80℃以上であり、加工時の樹脂中への摺動剤成分の良好な分散の観点から、好ましくは、150℃以下、又は140℃以下、又は135℃以下、又は130℃以下である。摺動剤成分の融点は、JIS K 7121に準拠した方法(DSC法)により測定できる。
【0172】
<追加の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、上記した成分の他に追加の成分を更に含んでよい。追加の成分としては、熱安定剤、ギ酸捕捉剤、耐候安定剤、離型剤、潤滑剤、導電剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、染顔料、顔料、無機充填剤、有機充填剤等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いてよい。
【0173】
[熱安定剤]
(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
熱安定剤は、一態様においてヒンダードフェノール系酸化防止剤等であってよい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3’-メチル-5’-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-テトラデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、1,4-ブタンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,2-ビス[3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、N,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド]、1,3,5-トリス[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、4-[[4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ジ-t-ブチルフェノール等が挙げられる。
【0174】
好ましくは、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[メチレン‐3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,2-ビス[3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、N,N’-ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド]等であり、これらの中でも、窒素含有ヒンダードフェノール系酸化防止剤が、ポリアセタール樹脂の熱安定性向上の観点から特に好ましい。
【0175】
また、上記観点から、窒素含有ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、ヒドラジン構造を含むことが好ましい。これらを踏まえ、窒素含有ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、長期連続成形時におけるモールドデポジット性、及び成形品外観に一層優れ、成形機滞留後の色差変化が一層少なくなる観点から、1,2-ビス[3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオニル]ヒドラジンがより好ましい。
【0176】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の融点は、ポリアセタール樹脂組成物の熱安定性を一層向上させる観点から、50℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましく、225℃以上が一層好ましく、また、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。なお本開示において、融点は、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分で測定される値である。
【0177】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物中のヒンダードフェノール系酸化防止剤の量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~3質量部、より好ましくは0.02~1.5質量部、更に好ましくは0.03~2質量部含む。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の量が上記範囲であることは、成形性に優れたポリアセタール樹脂組成物を得る観点から有利である。
【0178】
(窒素含有化合物)
熱安定剤は、一態様において窒素含有化合物であってよい。窒素含有化合物は、ポリアセタール樹脂の熱安定性に加え、ポリアセタール樹脂の色調、加工時の臭気抑制、及び機械的特性の向上にも寄与し得る。窒素含有化合物としては、前述の窒素含有ヒンダードフェノール系酸化防止剤、及び、アミノトリアジン化合物、グアナミン化合物、尿素誘導体、ヒドラジド化合物、アミド化合物(例えばアクリルアミド重合体)、ポリアミド等が挙げられ、これらは、各々を単独、或いは2種以上併用して用いることができる。好ましい態様において、窒素含有化合物は、窒素含有ヒンダードフェノール系酸化防止剤、アミノトリアジン化合物、グアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
【0179】
上記アミノトリアジン化合物としては、例えば、メラミン、2,4-ジアミノ-sym-トリアジン、2,4,6-トリアミノ-sym-トリアジン、N-ブチルメラミン、N-フェニルメラミン、N,N-ジフェニルメラミン、N,N-ジアリルメラミン、ベンゾグアナミン(2,4-ジアミノ-6-フェニル-sym-トリアジン)、アセトグアナミン(2,4-ジアミノ-6-メチル-sym-トリアジン)、2,4-ジアミノ-6-ブチル-sym-トリアジン等が挙げられる。
【0180】
上記グアナミン化合物としては、脂肪族グアナミン系化合物(モノグアナミン類、アルキレンビスグアナミン類等)、脂環族グアナミン系化合物(モノグアナミン類等)、芳香族グアナミン系化合物[例えば、モノグアナミン類(ベンゾグアナミン及びその官能基置換体等)、α-又はβ-ナフトグアナミン及びそれらの官能基置換誘導体、ポリグアナミン類、アラルキル又はアラルキレングアナミン類等]、ヘテロ原子含有グアナミン系化合物[例えば、アセタール基含有グアナミン類、テトラオキソスピロ環含有グアナミン類(CTU-グアナミン、CMTU-グアナミン等)、イソシアヌル環含有グアナミン類、イミダゾール環含有グアナミン類等]等が挙げられる。
【0181】
上記尿素誘導体としては、例えば、N-置換尿素、尿素縮合体、エチレン尿素、ヒダントイン化合物、ウレイド化合物等が挙げられる。
上記N-置換尿素としては、例えば、アルキル基等の置換基を有するメチル尿素、アルキレンビス尿素、アリール置換尿素が挙げられる。
上記尿素縮合体としては、例えば、尿素とホルムアルデヒドの縮合体等が挙げられる。
上記ヒダントイン化合物としては、例えば、ヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、5,5-ジフェニルヒダントイン等が挙げられる。
上記ウレイド化合物としては、例えば、アラントイン等が挙げられる。
【0182】
上記ヒドラジド化合物は、カルボン酸(含芳香族、及び/又は含脂環)とヒドラジンとの反応により合成されるカルボン酸モノ/又はジヒドラジド化合物、或いはアルキル基置換モノ/又はジヒドラジド化合物であってよい。カルボン酸モノ/又はジヒドラジド化合物を構成するカルボン酸としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸等が挙げられ、飽和又は不飽和であってよい。モノカルボン酸の例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸が挙げられる。ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタリン酸、サリチル酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、ピルビン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、アコニット酸、アミノ酸、ニトロカルボン酸等が挙げられる。また不飽和カルボン酸の例としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸等が挙げられる。これらカルボン酸を用いて合成されるカルボン酸モノ(ジ)ヒドラジド化合物としては、例えば、カルボジヒドラジン、シュウ酸モノ(ジ)ヒドラジド、マロン酸モノ(ジ)ヒドラジド、コハク酸モノ(ジ)ヒドラジド、グルタル酸モノ(ジ)ヒドラジド、アジピン酸モノ(ジ)ヒドラジド、セバシン酸モノ(ジ)ヒドラジド、ラウリン酸モノ(ジ)ヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、プロピオン酸モノヒドラジド、ラウリン酸モノヒドラジド、ステアリン酸モノヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフタリン酸ジヒドラジド、p-ヒドロキシベンゾイックヒドラジン、p-ヒドロキシベンゾイックヒドラジン、1,4-シクロへキサンジカルボン酸ジヒドラジン、アセトヒドラジド、アクリロヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ベンゾヒドラジド、ニコチノヒドラジド、イソニコチノヒドラジド、イソブチルヒドラジン、オレイン酸ヒドラジド等が挙げられる。これらカルボン酸の中でも、アジピン酸、セバシン酸、ラウリン酸等のジカルボン酸が好ましく、アジピン酸モノ(ジ)ヒドラジド、セバシン酸モノ(ジ)ヒドラジド、及びラウリン酸モノ(ジ)ヒドラジドが、最も好ましいカルボン酸ヒドラジド化合物である。
【0183】
これらカルボン酸ヒドラジド化合物の中でも、モノヒドラジド化合物とジヒドラジド化合物の含有率が特定の範囲にある時、とりわけ、長時間連続成形時に発生する炭化物及び変性物の発生抑制と、金型汚染抑制とが可能である。カルボン酸モノヒドラジド化合物とカルボン酸ジヒドラジド化合物との合計100質量%に対する、カルボン酸モノヒドラジド化合物の含有率は、0.0001~1.0質量%の範囲であることが好ましい。上記含有率は、より好ましくは0.0001~0.5質量%、更に好ましくは0.0001~0.1質量%の範囲である。
【0184】
カルボン酸モノヒドラジド化合物の上記含有率の調整方法としては、カルボン酸ジヒドラジド化合物にモノヒドラジド化合物を添加し調整する方法、及び、前述のカルボン酸とヒドラジンの反応により合成する際、その合成反応条件を調整する方法が挙げられる。カルボン酸とヒドラジンとの合成反応条件を調整する方法では、合成反応時に中間体としてモノヒドラジド化合物が生成する。このモノヒドラジド化合物を洗浄除去することにより、モノヒドラジド化合物の含有率を調整する事が可能である。
【0185】
上記アミド化合物としては、例えば、イソフタル酸ジアミド等の多価カルボン酸アミド、アントラニルアミド、ポリアクリルアミド重合体が挙げられる。
上記アクリルアミド重合体としては、第一級アミド基が30~70mol%であり、0.1~10μmの平均粒子径を有する粒子状のものが好ましい。中でも、好ましいアクリルアミド重合体は、架橋型アクリルアミド重合体で且つ平均粒子径が10μm以下のものである。更に好ましくは、平均粒子径が5μm以下のアクリルアミド重合体であり、最も好ましくは、架橋型で平均粒子径が3μm以下のアクリルアミド重合体である。
【0186】
ポリアミドとしては、ジアミンとジカルボン酸とから誘導されるポリアミド;アミノカルボン酸、必要に応じてジアミン及び/又はジカルボン酸を併用して得られるポリアミド;ラクタム、必要に応じてジアミン及び/又はジカルボン酸との併用により誘導されるポリアミドが含まれる。また、2種以上の異なったポリアミド形成成分により形成される共重合ポリアミドも含まれる。
【0187】
ポリアミドの融点は、好ましくは240℃以上、より好ましくは245℃以上、更に好ましくは250℃以上である。融点が240℃以上のポリアミドを用いることにより、モールドデポジット性、及び成形機内滞留後の色差変化に一層優れるポリアセタール樹脂組成物が得られる。
【0188】
融点が240℃以上のポリアミドとしては、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド66/6T、ポリアミド66/6I/6T等が挙げられる。
これらポリアミドの中でも、ポリアミド66、ポリアミド66/6T、ポリアミド66/6I/6Tが好ましく、より好ましいのはポリアミド66である。
【0189】
窒素含有化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。ポリアセタール樹脂組成物中、ポリアセタール樹脂100質量部に対する窒素含有化合物の量は、色調、熱安定性の維持、加工時の臭気の抑制、及び機械的特性の観点より、好ましくは、0.001質量部以上、又は0.005質量部以上、又は0.01質量部以上であり、金型へのモールドデポジットを予め抑制する点より、好ましくは、3質量部以下、又は2質量部以下、又は1質量部以下、又は0.7質量部以下、又は0.5質量部以下、又は0.3質量部以下である。
【0190】
[ギ酸捕捉剤]
ギ酸捕捉剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の、水酸化物、無機酸塩、カルボン酸塩又はアルコキシドが挙げられる。例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはバリウム等の水酸化物;上記金属の、炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩、さらには層状複水酸化物が挙げられる。
【0191】
上記カルボン酸塩のカルボン酸としては、10~36個の炭素原子を有する飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、これらのカルボン酸は水酸基で置換されていてもよい。飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジミリスチン酸カルシウム、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウム、(ミリスチン酸-パルミチン酸)カルシウム、(ミリスチン酸-ステアリン酸)カルシウム、(パルミチン酸-ステアリン酸)カルシウム、12ヒドロキシステアリン酸カルシウムが挙げられ、中でも好ましくは、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウム、12-ヒドロキシジステアリン酸カルシウムが挙げられる。
ギ酸補捉剤は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0192】
[耐候安定剤]
耐候安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、シュウ酸アニリド系化合物、及びヒンダードアミン系光安定剤からなる群より選択される少なくとも1種が好ましいものとして挙げられる。
【0193】
上記ベンゾトリアゾール系化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル]ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3,5-ジ-イソアミル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3,5-ビス-(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらの化合物はそれぞれ1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0194】
前記シュウ酸アリニド系化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、2-エトキシ-2’-エチルオキザリックアシッドビスアニリド、2-エトキシ-5-t-ブチル-2’-エチルオキザリックアシッドビスアニリド、2-エトキシ-3’-ドデシルオキザリックアシッドビスアニリド等が挙げられる。これらの化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0195】
上記ヒンダードアミン系光安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、4-アセトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルエトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-フェノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(エチルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(シクロヘキシルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-カーボネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-オキサレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-マロネート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、ビス-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-アジペート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-テレフタレート、1,2-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-エタン、α,α’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-p-キシレン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルトリレン-2,4-ジカルバメート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ヘキサメチレン-1,6-ジカルバメート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ベンゼン-1,3,4-トリカルボキシレート、1-[2-{3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}ブチル]-4-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物、等が挙げられる。上記ヒンダードアミン系光安定剤は、それぞれ1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0196】
中でも好ましい耐候安定剤は、2-[2’-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-アミルフェニル]ベンゾトリアゾール、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート、ビス-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバケート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物である。
【0197】
[離型剤及び潤滑剤]
離型剤及び潤滑剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アルコール、脂肪酸及びそれらのエステル(すなわちアルコールの脂肪酸エステル)、平均重合度が10~500であるオレフィン化合物、及びシリコーンが好ましいものとして挙げられる。離型剤及び潤滑剤は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0198】
[熱可塑性樹脂]
熱可塑性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーネート樹脂、及び未硬化のエポキシ樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂は1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
また、熱可塑性樹脂としては、上述した樹脂の変性物も含まれる。
【0199】
[熱可塑性エラストマー]
熱可塑性エラストマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーが挙げられる。熱可塑性エラストマーは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0200】
[染顔料]
染顔料としては、以下に限定されるものではないが、例えば、無機系顔料及び有機系顔料、メタリック系顔料、蛍光顔料等が挙げられる。
無機系顔料は、樹脂の着色用として一般的に使用されているものであってよく、以下に限定されるものではないが、例えば、硫化亜鉛、酸化チタン、硫酸バリウム、チタンイエロー、コバルトブルー、燃成顔料、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等が挙げられる。
有機系顔料としては、以下に限定されるものではないが、例えば、縮合アゾ系、イノン系、モノアゾ系、ジアゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、複素環系、ペンノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ペリレン系、ジオキサジン系、フタロシアニン系等の顔料が挙げられる。
染顔料は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0201】
染顔料の添加割合は所望の色調により大幅に変わるため一概に規定することは難しいが、一般的には、ポリアセタール樹脂100質量部に対して、0.05~5質量部の範囲で用いられる。
【0202】
[無機充填剤及び有機充填剤]
無機充填剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、繊維状、粉粒子状、板状又は中空状の充填剤が用いられる。
繊維状充填剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば:ガラス繊維;炭素繊維;シリコーン繊維;シリカ・アルミナ繊維;ジルコニア繊維;窒化硼素繊維;窒化硅素繊維;硼素繊維;チタン酸カリウム繊維;ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属繊維;等の無機質繊維が挙げられる。また、繊維長の短いウィスカー類、例えばチタン酸カリウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等も含まれる。
粉粒子状充填剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば:タルク;カーボンブラック;シリカ;石英粉末;ガラスビーズ;ガラス粉;珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイト等の珪酸塩;酸化鉄、酸化チタン、アルミナ等の金属酸化物;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩;炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩;炭化珪素;窒化硅素;窒化硼素;各種金属粉末;等が挙げられる。
板状充填剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マイカ、ガラスフレーク、各種金属箔が挙げられる。
中空状充填剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、金属バルーン等が挙げられる。
【0203】
有機充填剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、芳香族ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機繊維状充填剤が挙げられる。
【0204】
上記の無機又は有機の充填剤は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用して使用してもよい。これらの充填剤としては、表面処理された充填剤、表面処理されていない充填剤の何れも使用可能であるが、ポリアセタール樹脂組成物を用いて得られる成形体の表面平滑性及び機械的特性の観点から、表面処理剤による表面処理の施された充填剤の使用の方が好ましい場合がある。表面処理剤としては、特に限定されず、従来公知の表面処理剤が使用可能である。表面処理剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、シラン系、チタネート系、アルミニウム系、ジルコニウム系等の各種カップリング処理剤、樹脂酸、有機カルボン酸、有機カルボン酸塩、界面活性剤等が使用できる。具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリスステアロイルチタネート、ジイソプロポキシアンモニウムエチルアセテート、n-ブチルジルコネート等が挙げられる。
【0205】
≪樹脂組成物の製造≫
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂組成物の構成成分を溶融混合することで製造できる。溶融混合は、溶融混練装置(例えば、一軸又は多軸の押出機、ロール、バンバリーミキサー等)を用いた溶融混練であってよい。混合成分が微細セルロース繊維を含む場合の押出機としては、微細セルロース繊維の分散性を向上させる目的で、同方向回転二軸押出機を用いることが好ましい。ポリアセタール樹脂中へ微細セルロース繊維を高度に分散させるためには、押出機のせん断でセルロースを解繊して微細セルロース繊維を得る方法よりも、予め解繊(一態様において繊維径が10~1000nmに解繊)された微細セルロース繊維とポリアセタール樹脂とを溶融混練する方法が好ましい。
【0206】
一態様において、第1の部材はポリアセタール樹脂及び微細セルロース繊維を含み、第2の部材はポリアセタール樹脂を含むとともに微細セルロース繊維を含み又は含まない。ポリアセタール樹脂及び微細セルロース繊維を含む樹脂組成物は、例えば、単軸又は二軸押出機を用いてポリアセタール樹脂、微細セルロース繊維及び任意にその他の成分の混合物を溶融混練した後、(1)ストランド状に押出し水浴中で冷却固化させてペレット状成形体を形成し、又は(2)棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体を形成し、又は(3)Tダイより押出してシート又はフィルム状の成形体を形成することにより製造できる。ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない樹脂組成物は、例えば、微細セルロース繊維を投入しない他は上記と同様の方法で製造できる。
【0207】
樹脂組成物は、ペレット、シート、繊維、板、棒等の形態を有してよいが、運搬性、及び後工程の容易性の観点からペレットが好ましい。好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、形状は押出加工時のカット方式により異なってよい。例えば、アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの好ましいペレット直径は、1mm以上3mm以下である。円柱状ペレットの好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
【0208】
≪樹脂組成物の特性≫
<曲げ弾性率>
第1の樹脂組成物の曲げ弾性率は、摺動性物品の良好な耐久性を得る観点から、好ましくは、3000MPa以上、又は4000MPa以上、又は5000MPa以上であり、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば、20000MPa以下、又は15000MPa以下、又は12000MPa以下、又は10000MPa以下、又は8000MPa以下、又は7000MPa以下であってよい。本開示の曲げ弾性率は、ISO179に準拠して測定される値である。
【0209】
第2の樹脂組成物の曲げ弾性率は、一態様において第1の樹脂組成物よりも低い。第2の樹脂組成物の曲げ弾性率は、摺動性物品の良好な耐久性を得る観点から、好ましくは、2000MPa以上、又は2500MPa以上、又は3000MPa以上であり、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば15000MPa以下、又は12000MPa以下、又は10000MPa以下、又は7000MPa以下である。
【0210】
第1の樹脂組成物の曲げ弾性率に対する第2の樹脂組成物の曲げ弾性率の比は、摺動性物品の良好な耐久性を得る観点から、一態様において0.5~0.9であってよく、好ましくは、0.5以上、又は0.55以上、又は0.6以上、好ましくは、0.9以下、又は0.85以下、又は0.8以下である。曲げ弾性率、すなわち剛性が2つの部材のうち一方において他方よりも低い場合には、摺動性物品の摺動時の接触面圧力を低くできるため、摩耗量低減という利点が得られる。
【0211】
<高温時の剛性>
微細セルロース繊維を含む樹脂組成物(すなわち、第1の樹脂組成物、及び、第2の樹脂組成物が微細セルロース繊維を含む場合の当該第2の樹脂組成物)は、高温での摺動性物品の摺動時(例えばギア噛合い時)の負荷による変形を抑制するため、高温剛性が高いことが好ましい。具体的には、樹脂組成物の120℃における貯蔵弾性率は、摺動性物品の摺動時の変形を抑制する観点で、好ましくは、800MPa以上、又は1000MPa以上、又は1300MPa以上、又は1500MPa以上、又は1700MPa以上である。上限は特に限定されないが、靭性を維持する観点より、3000MPa以下であることが望ましい。
【0212】
また、微細セルロース繊維を含む樹脂組成物については、微細セルロース繊維10質量%配合時の、23℃における貯蔵弾性率に対する120℃における貯蔵弾性率の比が0.4以上であるような成分組成(すなわちポリアセタール樹脂組成物の構成成分の種類及び量)を有することが望ましい。この指標は、微細セルロース繊維の組成物中における分散性の指標である。分散性が高いほど、上記比が大きくなる傾向にある。例えば、微細セルロース繊維を含まないポリアセタール樹脂組成物の場合、23℃における貯蔵弾性率に対する120℃における貯蔵弾性率の比は、0.3にも満たない。また、微細ではないセルロース(例えばセルロースパウダー)を配合した場合も、上記比は0.4に満たない。より少量の微細セルロース繊維で組成物の高温剛性を高める観点より、23℃における貯蔵弾性率に対する120℃における貯蔵弾性率の比は、好ましくは0.4以上、又は0.5以上である。上限は特にないが、加工性の観点より、好ましくは1.5以下である。
【0213】
上記貯蔵弾性率は、10mm幅、4mm厚みのISO多目的試験片を用い、固体粘弾性測定装置を用いて、測定温度範囲0℃~150℃(昇温速度:2℃/分)、引張モード、振動周波数10Hz、静的負荷歪0.5%、動的負荷歪0.3%の条件で測定したときの貯蔵弾性率である。なお、23℃及び120℃の温度は、その前後の測定温度をそれぞれの温度に内挿計算して算出される。
【0214】
≪摺動性物品の製造方法≫
本発明の一態様はまた、本開示の摺動性物品の製造方法を提供する。一態様において、摺動性物品の製造方法は、
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の混合成分の溶融混合物である第1の樹脂組成物を成形して第1の部材を得る工程、及び
ポリアセタール樹脂を含み且つ微細セルロース繊維を含まない第2の混合成分の溶融混合物である第2の樹脂組成物を成形して第2の部材を得る工程、
を含む。この場合、一態様においては、第1の混合成分が、第1の部材及び/又は第2の部材の溶融処理物であるリサイクル材を含み、並びに/或いは、
第2の混合成分が、第2の部材の溶融処理物であるリサイクル材を含む。
【0215】
また別の一態様において、摺動性物品の製造方法は、
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第1の混合成分の溶融混合物である第1の樹脂組成物を成形して第1の部材を得る工程、及び
ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む第2の混合成分の溶融混合物である第2の樹脂組成物を成形して第2の部材を得る工程、
を含む。この場合、第1の混合成分及び/又は第2の混合成分が、第1の部材及び/又は第2の部材の溶融処理物であるリサイクル材を含む。
【0216】
第1の混合成分及び/又は第2の混合成分におけるリサイクル材の含有率は、好ましくは、5質量%以上、又は10質量%以上、又は15質量%以上であり、好ましくは、100質量%以下、又は95質量%以下、又は90質量%以下である。
【0217】
一態様において、リサイクル材は、第1の部材及び/又は第2の部材を回収し、顆粒状又は粉末状に粉砕した後、溶融混合に供することによって、混合成分中に含めることができる。
【0218】
樹脂組成物の成形は、型を用い又は用いない従来公知の方法(例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、発泡成形、回転成形、ガスインジェクション成形等)で実施できる。本実施形態の摺動性物品は、一態様において射出成形品であり、また一態様において削り出し品(好ましくは丸棒成形体からの切削加工品)である。射出成形品は、前述の方法で得られた樹脂組成物(例えば樹脂ペレット)を、所望の部材形状の金型を備えた射出成形機に投入し成形を行うことで、所望形状の部材として得る事が出来る。また、丸棒成形体からの切削加工品は、例えば、樹脂ペレットを押出成形機に投入し、丸棒押出しを行うことで、丸棒状の成形体を得た後、この丸棒を所望の部材形状に切削する事で所望形状の部材として得ることができる。いずれの成形方法においても、樹脂組成物からの部材の成形は当業者の技術常識に基づいて適宜実施できる。射出成形、又は丸棒成形体からの切削加工によれば、金型表面温度、射出速度、保圧等を制御する事で肉厚の部材でもボイドが発生しにくい傾向にある。より好ましい成形方法は、量産性や生産性という点で、射出成形である。典型的な態様において、部材は、歯幅の寸法が例えば2~50mmであるような肉厚のギアである。
【0219】
本実施形態の摺動性物品における第1の部材と第2の部材とは、グリース等の摩擦低減剤を介し又は介さずに配置されてよい。摩擦低減剤は、各部材における少なくとも他の部材との噛合面に対して塗布されてよい。摩擦低減剤の使用により摺動性物品の摺動性、耐久性、及び静音性が更に向上し得る。摩擦低減剤としては、従来公知のものを種々使用できるが、幅広い温度環境でも優れた摺動性を得る観点から、好ましくは、基油、増稠剤、添加剤を含む。一態様において、摩擦低減剤は:鉱油、ポリα-オレフィン油、及びアルキルポリフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも一種を80質量%以上の割合で含有する基油;増稠剤、及び、融点又は軟化点が70~130℃の範囲にある炭化水素系ワックス3~10質量%を含んでよい。増稠剤としては、カルシウム石けん、リチウム石けん、リチウムコンプレックス石けん、カルシウムコンプレックス石けん、アルミニウムコンプレックス石けん、ウレア、PTFE、ベントン、フタロシアニン、インダンスレン、シリカゲル等が挙げられる。
【0220】
一方、一態様において、第1の部材と第2の部材とは直接摺動するように、すなわち、第1の部材と第2の部材との間に別の成分(典型的には上記の摩擦低減剤)が介在しない状態で摺動するように構成されている。摩擦低減剤等の別の成分が存在しない場合、使用後の部材のリサイクル時にこのような別の成分の除去が不要であるためプロセス効率において有利である。本実施形態の摺動性物品によれば、摩擦低減剤を使用しない場合にも良好な摺動性、耐久性、及び静音性が得られることから、一態様に係る摺動性物品においては摩擦低減剤不使用である。
【0221】
≪摺動性物品の用途≫
摺動性物品は、自動車部品、電気・電子部品、建材、生活関係部品・化粧関係部品・医用関係部品等、各種用途における摺動性物品であることができる。
【0222】
自動車部品としては、インナーハンドル、フェーエルトランクオープナー、シートベルトバックル、アシストラップ、各種スイッチ、ノブ、レバー、クリップ等の内装部品、メーター、コネクター等の電気系統部品、オーディオ機器、カーナビゲーション機器等の車載電気・電子部品、ウインドウレギュレーターのキャリアープレートに代表される、金属と接触する部品、ドアロックアクチェーター部品、ミラー部品、ワイパーモーターシステム部品、燃料系統の部品等の機構部品等が挙げられる。
【0223】
電気・電子部品としては、ポリアセタール樹脂成形品で構成され、かつ金属接点が多数存在する機器の部品又は部材、例えば、オーディオ機器、ビデオ機器、又は、電話機、コピー機、ファクシミリ、ワードプロセサー、コンピューター等のOA機器、玩具類の部品又は部材、具体的には、シャーシ、ギア、レバー、カム、プーリー、軸受け等が挙げられる。
【0224】
更に、照明器具、建具、配管、コック、蛇口、トイレ周辺機器部品等の建材・配管部品、ファスナー類、文具、リップクリーム・口紅容器、洗浄器、浄水器、スプレーノズル、スプレー容器、エアゾール容器、一般的な容器、注射針のホルダー等の広範な生活関係部品・化粧関係部品・医用関係部品に好適に使用される。
これらの中でも、高温環境下に置かれ且つ高い負荷が掛かる用途であるギアに、より好ましく使用可能である。
【0225】
好適な態様においては、第1の部材及び第2の部材がギアであり、物品がギアシステムであり、又は、第1の部材及び第2の部材が軸受けであり、物品がダンパーである。
【0226】
<ギアシステム>
一態様においては、部材がギアであり、摺動性物品がギアシステムである。本実施形態のギアは、機械的強度、耐久性、摺動性及び静音性に優れるため、様々な態様で使用できる。特に、歯車として、以下に制限されないが、例えば、はすば歯車、平歯車、内歯車、ラック歯車、やまば歯車、すぐばかさ歯車、はすばかさ歯車、まがりばかさ歯車、冠歯車、フェースギア、ねじ歯車、ウォームギア、ウォームホイールギア、ハイポイドギア、及びノビコフ歯車が挙げられる。また、上記のはすば歯車や平歯車等は、シングル歯車、2段歯車、又は、駆動モータから多段に組み合わせ、回転ムラをなくして減速するような構造を有する組合せ歯車であってもよい。
【0227】
一態様に係るギアシステムは、従動ギアと該従動ギアに噛合する駆動ギアとを備え、従動ギア及び駆動ギアのうち、一方が第1の部材、他方が第2の部材である。ギアシステムは、駆動ギアを駆動する駆動源(例えばモータ)を更に備えてよい。
【0228】
本実施形態のギアは、従来のギアと比較して、顕著に優れた耐久性、及び一態様においては更に静音性を保持できる観点から、例えば自動車、電動車全般の電動パワーステアリング(EPS)システムに適用することができる。電動車としては、以下に制限されないが、例えば、シニア四輪、バイク及び電動二輪車が挙げられる。また、本実施形態のギアは、その優れた摺動性及び耐久性から、例えばカム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギア、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、ガイド、アウトサート成形の樹脂部品、インサート成形の樹脂部品、シャーシ、トレー及び側板等にも使用できる。
【0229】
一態様において、ギアシステムは、車両のステアリングコラムに用いられ、従動ギアとしてのウォームホイール及び駆動ギアとしてのウォームを含むギア機構と、駆動源としてのモータとを備えてよい。又は、一態様において、ギアシステムは、車両のステアリングギアに用いられ、従動ギアとしてのピニオン及び駆動ギアとしてのラックを含むギア機構と、駆動源としてのモータとを備えてよい。
【0230】
従動ギア及び/又は駆動ギアは、金属製芯金の少なくとも外周面に一体化されていてもよい。従動ギアは、金属製芯金を伴わずにギアシステムに組み込まれてよく、又は、シャフトに取り付けられた金属製芯金の外周面に一体化されてなる形状でギアシステムに組み込まれてよい。金属製芯金の材質は、ステンレス、鉄、鋼、アルミ、真鍮、チタン合金、ニッケル合金、銅合金、アルミ合金、ステンレス合金等であってよい。芯金の少なくとも外周面へのギアの一体化は、当業者に公知の方法で行うことができるが、好ましくは、インサート射出成形である。
【0231】
ギアシステムを構成するギアは、摩擦低減剤を介し又は介さずに互いに噛合している。摩擦低減剤の使用によりギアシステムの耐久性及び静音性は向上するが、本実施形態のギアシステムは、摩擦低減剤不使用でも所望の耐久性及び静音性を得ることができる。摩擦低減剤不使用はギアシステムのリサイクル性において有利である。
【0232】
一態様において、ギアシステムのギア機構は、ラックとピニオンとで構成されるラック・アンド・ピニオン機構、又はウォームとウォームホイールとで構成されるウォームギア機構である。ピニオン及びウォームホイールは通常円筒歯車であり、ギアシステムが良好な摺動性及び耐久性を有するためにはこれらが良好な機械的強度、寸法精度及び表面平滑性を有することが特に重要である。一態様においては、高摺動性及び高耐久性を得る観点から、ピニオン又はウォームホイールが第1の部材であることが好ましい。
【0233】
≪摺動性物品の特性≫
<摺動面の算術平均表面粗さSa>
摺動性物品の各部材における他の部材との摺動面の算術平均表面粗さSaは、好ましくは3.0μm以下である。このような低い算術平均表面粗さSaは摺動性物品の高摺動性(したがって静音性)及び高耐久性において有利である。算術平均表面粗さSaとは、ISO25178に準拠した測定方法で得られる値であり、算術平均表面粗さRaを面に拡張して得ることができる。算術平均表面粗さRaは、JISB0031に準拠し、樹脂成形体である部材の表面(部材の表面は、摺動性物品の形状に基づいて当業者によって特定できる。)における粗さ曲線を計測し、粗さ曲線の平均線方向で基準長さだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線の方向をX軸、縦倍率の方向をY軸とし、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、下記式(2)によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
【数1】
【0234】
また、算術平均表面粗さSaとは、算術平均表面粗さRaを面に拡張したものであり下記式(3)で表される。
【数2】
【0235】
算術平均表面粗さSaの上限は0.9μmであることが好ましく、より好ましくは0.8μm、さらにより好ましくは0.7μm、最も好ましくは0.6μmである。算術平均表面粗さSaの下限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、0.1μmであることが好ましい。表面粗さは、共焦点顕微鏡(例えばOPTELICS(登録商標) H1200、レーザーテック(株)社製)等の市販の顕微鏡装置を用いて測定する事が出来る。
【0236】
<真円度>
摺動性物品がギアシステム、部材がギアである場合、当該ギアの真円度は、400μm以下であることが好ましい。実使用環境において、真円度が小さい方が、ギアの寸法均一性が高くなり、特定の歯に大きな荷重がかかること(応力集中)が起こりにくくなり、耐久性が向上しやすい。真円度の上限は好ましくは400μm、より好ましくは300μm、さらにより好ましくは200μm、最も好ましくは100μmである。真円度の下限は特に制限されないが、実際の製造上の観点から、例えば、1μmであってもよい。なお真円度は、画像寸法測定器((株)キーエンス製IM-6000)により試験歯車の各歯先を測定し、LSC法(最小二乗中心法によって、偏差の二乗和が最小となる円に同心で外接する円と内接する円との半径差を誤差とする方法)で測定値の誤差をμm単位で表したときの、ギアの全ピッチ誤差(μm)として得られる値である。この数値が小さいほど、真円度が高いと判断できる。本実施形態の摺動性物品においては、異方性の小さい部材を形成し得る樹脂組成物を用いていることにより、樹脂組成物から部材を形成する際の収縮の異方性が小さい。このような低異方性の部材であるギアは、成形時の収縮が均一であることで優れた(すなわち小さい値の)真円度を有し得る。
【0237】
<トルク>
本実施形態の摺動性物品、特にギアシステムは、トルクが大きい使用環境においても優れた耐久性を示すことから、一態様において、トルク0.05N・m以上で使用される。好ましくは、0.1N・m以上、又は0.5N・m以上、又は1.0N・m以上、又は2.0N・m以上である。本実施形態の摺動性物品の使用時のトルクの上限は特に限定されないが、耐久性の観点から、好ましくは、100N・m以下、又は50N・m以下、又は30N・m以下、又は20N・m以下である。
【0238】
<ギアの作動回転数>
摺動性物品がギアシステムである場合、ギアが適用される駆動源の作動回転数によってその耐久性が大きく変動し、高作動回転数の使用環境下では劣化しやすい傾向がある。本実施形態のギアシステムは、優れた耐久性を有することから、より高作動回転数の駆動源に適用された場合にも優れた性能を示す。一態様において、駆動源はモータである。駆動源の作動回転数の上限は、好ましくは、15000rpm以下、又は10000rpm以下、又は5000rpm以下である。作動回転数の下限は特に制限されないが、本実施形態のギアシステムは良好な耐久性を有することから、例えば、10rpm以上、又は30rpm以上、又は50rpm以上、又は80rpm以上であることができる。
【0239】
<ギアのモジュール>
摺動性物品がギアシステムである場合、ギアのモジュールは、0.3以上であってよい。モジュールとは、ギアの基準円直径を歯数で除した値であり、歯車の大きさを表す。モジュールの大きさによってギアの耐久性は大きく変動する。本実施形態のギアは幅広いモジュール設計に亘って優れた性能を示す。モジュールの上限は、好ましくは、又は5.0以下、又は2.0以下、又は1.0以下である。モジュールの下限は特に制限されないが、ギアの良好な耐久性の観点から、例えば、0.3以上であることが好ましい。
【0240】
≪再生樹脂組成物の製造≫
本発明の一態様はまた、第1の部材と第2の部材とを有する摺動性物品を用いて再生樹脂組成物を製造する方法を提供する。再生樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂と微細セルロース繊維とを含む。第1の部材、第2の部材及び摺動性物品の具体的態様は、前述と同様であってよく説明を繰り返さない。再生樹脂組成物は、本開示の第1の混合成分、及び/又は微細セルロース繊維を含む場合の第2の混合成分の、一部又は全部として用いてよい。
【0241】
一態様に係る再生樹脂組成物の製造方法は、
第1の樹脂組成物と、第2の樹脂組成物と、追加樹脂組成物とで構成される混合成分を混合して再生樹脂組成物を得る工程を含む。この態様では、混合成分が、
再生樹脂組成物の目標組成Tを決定し、
混合成分中の第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物との質量比率Rを決定し、
第1の樹脂組成物の成分組成データA1と、第2の樹脂組成物の成分組成データB1とを取得し、
質量比率R、成分組成データA1、及び成分組成データB1に基づいて、目標組成Tを満たすのに必要な、追加樹脂組成物の成分組成及び混合成分中の質量比率を決定する、
ことによって得られてよい。
【0242】
再生樹脂組成物の目標組成Tは、再生樹脂組成物の用途に応じて任意に設計してよい。
質量比率Rは、摺動性物品の第1及び第2の部材から回収された第1及び第2の樹脂組成物の量に応じて定まる値であってよいし、目的に応じて設定した値であってもよい。
【0243】
第1の樹脂組成物の成分組成データA1と、第2の樹脂組成物の成分組成データB1は、各樹脂組成物を樹脂溶解性溶媒にて可溶分と不溶分とに分離した後、各画分の化学分析により取得してよい。一例として、ヘキサフルオロイソプロパノールでポリアセタールを溶解させ、ろ過抽出して、可溶分と不溶分とを分離する。ポリアセタールを含む可溶分は、赤外分光(IR)及びゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて構造及び分子量を特定する。また、不溶分は、赤外分光(IR)、核磁気共鳴(NMR)、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC―MS)、液体クロマトグラフィ質量分析(LC―MS)等を用いて構成成分を特定する。例えば、不溶分が微細セルロース繊維である場合、[実施例]の項に記載の方法を用いて形状及び構造を特定することができる。
【0244】
質量比率R、成分組成データA1、及び成分組成データB1に基づいて、目標組成Tを満たすのに必要な、追加樹脂組成物の成分組成及び混合成分中の質量比率を決定する。追加樹脂組成物の組成は特段限定されず、例えば、ポリアセタール系樹脂を含み、且つ、任意に、微細セルロース繊維、微細セルロース繊維以外の充填剤(例えば、後述の無機充填剤及び/又は有機充填剤)、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、光安定剤、紫外線吸収剤、摺動剤、顔料等のうち1つ以上を含むものを使用できる。
【0245】
別の一態様に係る再生樹脂組成物の製造方法は、
第1の樹脂組成物と、第2の樹脂組成物とで構成される混合成分を混合して再生樹脂組成物を得る工程を含む。この態様では、混合成分が、
第1の樹脂組成物の成分組成データA1と、第2の樹脂組成物の成分組成データB1とを取得し、
再生樹脂組成物の目標組成Tを決定し、
成分組成データA1、及び成分組成データB1に基づいて、目標組成Tを満たすのに必要な、混合成分中の第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物との質量比率Rを決定する、
ことによって得られてよい。
【0246】
第1の樹脂組成物の成分組成データA1と、第2の樹脂組成物の成分組成データB1との取得の手順は前述と同様であってよい。
再生樹脂組成物の目標組成Tは、当該再生樹脂組成物の用途に応じて設計してよいが、本態様においては、目標組成Tが、第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物との混合によって達成され得る範囲内となるように決定される。このような目標組成Tを満たすのに必要な、混合成分中の第1の樹脂組成物と第2の樹脂組成物との質量比率Rを、成分組成データA1及び成分組成データB1に基づいて決定してよい。
【実施例0247】
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0248】
≪評価方法≫
<ポリアセタール樹脂>
[MFR]
ポリアセタール樹脂のメルトマスフローレート(MFR)を、ISO1133(荷重2.16kgf・シリンダー温度190℃)に準拠して測定した。
【0249】
<微細セルロース繊維>
[多孔質シートの作製]
まず、濃縮ケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。微細セルロース繊維固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過した。濾過物はろ紙から剥離させずに、ろ紙と共により大きなろ紙2枚の間に挟み、かつ、そのより大きなろ紙の縁をおもりで押さえつけながら、150℃のオーブンにて5分間乾燥させた。その後、ろ紙を剥離して歪みの少ない多孔質シートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0250】
[Mw]
多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N-ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。微細セルロース繊維を溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC-8120
カラム:TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N,N-ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
なお、アセチル化微細セルロース繊維については、アセチル化する前の原料の重量平均分子量(Mw)を採用した。
【0251】
[平均繊維径、L/D]
濃縮ケーキをtert-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×3分間で分散させ、オスミウム蒸着したシリコン基板上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型電子顕微鏡(日立ハイテク社製、Regulus8220)で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロース繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロース繊維の短径(D)及び長径(L)を測定し、100本のセルロース繊維の加算平均を算出した。
【0252】
[置換度(DS)]
多孔質シートの5か所のATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000~600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
【0253】
得られたIRスペクトルより、IRインデックスを、下記式:
IRインデックス= H1730/H1030
に従って算出した。式中、H1730及びH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、各測定場所の平均置換度をIRインデックスより下記式に従って算出し、その平均値をDSとした。
DS=4.13×IRインデックス
【0254】
<樹脂組成物>
[多目的試験片の作製]
ペレット形状の樹脂組成物を第1の樹脂組成物として用い、射出成形機を用いて、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形した。成形は、JIS K7364-2に準拠した条件で行った。
【0255】
[曲げ弾性率]
上記で得た多目的試験片を用い、ISO179に準拠して測定した。
【0256】
<部材及び摺動性物品>
[摩擦係数]
上記で得た多目的試験片(第1の部材として)について、往復動摩擦摩耗試験機(東洋精密(株)製AFT-15MS型)、及び相手材料として、ペレット形状の樹脂組成物を第2の樹脂組成物として用い、これを射出成形して形成した直径5mmの球(第2の部材として)を先端に有するピンを用い、温度23℃、湿度50%、線速度30mm/秒、往復距離10mm、荷重19.6N、往復回数10000回にて、ピンの当該先端を多目的試験片表面に当接させて往復摺動試験を実施した。往復回数9500~10000回の摩擦係数平均値を、摩擦係数とした。摩擦係数が小さい方が摺動性に優れる。
【0257】
[摩耗量]
摩耗量は、上記摺動試験後のサンプル(すなわち第1の部材)の摩耗量(摩耗体積)を、3次元白色光干渉型顕微鏡(ContourGT-X、ブルカー社製)を用いて測定した。摩耗量の数値が低い方が、耐摩耗性、したがって耐久性に優れる。
【0258】
[静音性]
上記往復摺動試験において、測定中の摺動音を以下の通り評価した。
◎:軋み音なし
〇:小さい軋み音が発生
×:軋み音が発生
【0259】
(ピンの傷つき性)
上記往復摺動試験において、試験後のピン先端の球(すなわち第2の部材)の状態を以下の通り評価した。
◎:ほとんど摩耗しておらず、わずかに先端が摩耗されたのみであった
〇:先端が少し摩耗された
×:凝着摩耗による歪な形状となった
【0260】
≪使用材料≫
<ポリアセタール樹脂>
[ポリアセタール樹脂(a-1)]
ジャケット付き2軸パドル型連続重合反応機((株)栗本鐵工所製、径2B、L/D=14.8)を80℃に調整し、下記に示す重合条件(供給速度)にて原料等を供給してポリアセタールコポリマーを重合した。
得られた粗ポリマーの不安定末端基を下記に示す末端安定化条件で除去し、1,3-ジオキソランに由来するコモノマー成分の含有量が4mol%のポリアセタールコポリマー(ポリアセタール樹脂(a-1))を得た。
【0261】
(重合条件)
以下に示す供給速度で反応機に原料を供給した。
・トリオキサン(主モノマー):3500gr/hr
・1,3-ジオキソラン(コモノマー):28.8gr/hr
・メチラール(低分子量アセタール化合物):2.4gr/hr
・シクロヘキサン(有機溶媒):6.5g/hr
・三フッ化ホウ素-ジ-n-ブチルエーテラート(重合触媒):0.15g/hr(トリオキサン1molに対して、三フッ化ホウ素が、0.2×10-4molとなるように供給速度を設定した。)
なお、重合触媒のみ上記の他の成分と別ラインにてフィードした。
【0262】
(末端安定化条件)
重合反応機から排出された粗ポリアセタールコポリマーを、トリエチルアミン水溶液(0.5質量%)中に浸漬し、その後、常温で1hr攪拌を実施した後、遠心分離機でろ過し、窒素下で120℃×3hr乾燥した。
次に、200℃に設定されたベント付の2軸押出機(L/D=40)に供給し、末端安定化ゾーンに、0.8質量%トリエチルアミン水溶液を、窒素の質量に換算して20質量ppmになるように液添し、90kPaで減圧脱気しながら安定化させ、ペレタイザーにてペレット化した。その後100℃で2hr乾燥を行い、ポリアセタール樹脂(a-1)を得た。
【0263】
[ポリアセタール樹脂(a-2)及び(a-3)]
1,3-ジオキソランの添加量を表1のように変更した以外は、ポリアセタール樹脂a-1と同様にし、ポリアセタール樹脂(a-2)及び(a-3)を得た。
【0264】
[ポリアセタール樹脂(a-4)]
MFRが1.7g/10分になるよう重合触媒と連鎖移動剤の量を変更した以外は、ポリアセタール樹脂(a-3)の調製と同様にし、ポリアセタール樹脂(a-4)を得た。
ポリアセタール樹脂の特性値を表1に纏める。
【0265】
<微細セルロース繊維>
[微細セルロース繊維(b-1)]
一軸撹拌機(アイメックス社製 DKV-1 φ125mmディゾルバー)を用いジメチルスルホキサイド(DMSO)中でコットンリンターパルプを500rpmにて1時間、常温で攪拌した。続いて、ホースポンプでビーズミル(アイメックス社製 NVM-1.5)にフィードし、DMSOのみで120分間循環運転させ、解繊スラリーを得た。
【0266】
そして、解繊スラリー100質量部に対し、酢酸ビニル11質量部、炭酸水素ナトリウム1.63質量部をビーズミル装置内へ加えた後、60分間さらに循環運転を行い、疎水化微細セルロース繊維スラリーを得た。
【0267】
循環運転の際、ビーズミルの回転数は2500rpm、周速12m/sとした。ビーズはジルコニア製、φ2.0mmを用い、充填率は70%とした(このときのビーズミルのスリット隙間は0.6mm)。また、循環運転の際は、摩擦による発熱を吸収するためにチラーによりスラリー温度を40℃に温度管理した。
【0268】
得られた疎水化微細セルロース繊維スラリーに、純水を、解繊スラリー100質量部に対し、192質量部加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度、同量の純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返した。
【0269】
得られた疎水化微細セルロース繊維の水分散体(固形分率:10質量%)を公転・自転方式の攪拌機(EME社製 V-mini300)を用いて約40℃で真空乾燥させることにより、疎水化微細セルロース繊維である微細セルロース繊維(b-1)のウェットケーキを得た。
【0270】
得られた、疎水化微細セルロース繊維ウェットケーキを用いて、特性を評価したところ、以下の結果が得られた。
DS:0.96、平均繊維径:65nm、L/D:450、Mw:34万
【0271】
[微細セルロース繊維(b-2)]
一軸撹拌機(アイメックス社製 DKV-1 φ125mmディゾルバー)を用いジメチルスルホキサイド(DMSO)中でコットンリンターパルプを500rpmにて1時間、常温で攪拌した。続いて、ホースポンプでビーズミル(アイメックス社製 NVM-1.5)にフィードし、DMSOのみで120分間循環運転させ、解繊スラリーを得た。公転・自転方式の攪拌機を用いて約40℃で真空乾燥させることにより、微細セルロース繊維(b-2)のウェットケーキを得た。特性を評価したところ、以下の結果が得られた。
DS:0、平均繊維径:71nm、L/D:220、Mw:25万
微細セルロース繊維の特性値を表2に纏める。
【0272】
<表面処理剤>
ポリエチレングリコール(PEG6000 三洋化成工業株式会社製)
【0273】
<その他成分>
タルク:平均粒径4μm 竹原工業 (株)製
ガラス繊維:平均繊維径10μm 旭ファイバーグラス(株)製
熱安定剤:メラミン(試薬)
酸化防止剤:イルガノックス1010(BASFジャパン株式会社製)
ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
【0274】
≪樹脂組成物の調製≫
<樹脂組成物A1~A13、B1~B6>
二軸押出機(東芝機械(株)製TEM-26SS押出機(L/D=48、ベント付き)を用いて、200℃にシリンダー温度を設定し、表3に示す成分を一括混合し、押出機メインスロート部より定量フィーダーより供給して、押出量15kg/時間、スクリュー回転数250rpmの条件で樹脂混練物をストランド状に押出し、ストランドバスにて急冷し、ストランドカッターで切断し、ペレット形状の樹脂組成物を得た。
【0275】
≪摺動性物品の作製≫
<実施例1~15、比較例1~8>
各樹脂組成物を表4に示す組み合わせで用いて摺動性物品を作製し、評価に供した。評価結果を表4に示す。
【0276】
【表1】
【0277】
【表2】
【0278】
【表3】
【0279】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0280】
本発明の一態様に係る摺動性物品は広範な用途に適用可能であるが、特に、摺動性と静音性との高度な両立が求められる用途に好適に適用され得る。