(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067202
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】プーリおよびベルト式の無段変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 9/12 20060101AFI20240510BHJP
F16H 55/49 20060101ALI20240510BHJP
F16H 55/56 20060101ALI20240510BHJP
C23C 8/18 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
F16H9/12 B
F16H55/49
F16H55/56
C23C8/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177086
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】植松 紀之
(72)【発明者】
【氏名】川頭 諭
【テーマコード(参考)】
3J031
3J050
【Fターム(参考)】
3J031AB03
3J031BA04
3J031BA07
3J031BC02
3J031BC08
3J031CA02
3J050AA02
3J050BA03
3J050BB07
3J050CA02
3J050CC04
3J050CD09
3J050CE05
3J050DA03
(57)【要約】
【課題】固定ボスの内周面の耐摩耗性が向上されたプーリを提供すること。
【解決手段】駆動プーリ110は、Vベルト130と接触する固定シーブ面111Sを有する固定シーブ111と、固定シーブ111から右方に向けて延び、かつ、円筒状に形成された固定ボス116と、Vベルト130と接触しかつ固定シーブ面111Sと対向する位置に配置された可動シーブ面112Sを有し、固定シーブ111に対して接近および離反が可能な可動シーブ112と、可動シーブ112から右方に向けて突出し、且つ円筒状に形成され、かつ、固定ボス116に外嵌して固定ボス116の外周面116Bに沿って摺動する可動ボス117と、を備え、固定ボス116にはクランク軸68が挿入され、固定ボス116の内周面116Aには酸化被膜が形成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト式の無段変速機に用いられるプーリであって、
前記プーリは、
駆動ベルトと接触する固定シーブ面を有する固定シーブと、
前記固定シーブから第1の方向に向けて延び、かつ、円筒状に形成された固定ボスと、
前記駆動ベルトと接触しかつ前記固定シーブ面と対向する位置に配置された可動シーブ面を有し、前記固定シーブに対して接近および離反が可能な可動シーブと、
前記可動シーブから前記第1の方向に向けて延び、且つ円筒状に形成され、かつ、前記固定ボスに外嵌して前記固定ボスの外周面に沿って摺動する可動ボスと、を備え、
前記固定ボスにはシャフトが挿入され、
前記固定ボスの内周面には酸化被膜が形成されている、プーリ。
【請求項2】
前記可動ボスに貫通形成され、かつ、前記可動シーブの移動をガイドするトルクカム溝と、
前記トルクカム溝に挿入されたガイドピンと、
前記固定ボスに形成され、かつ、前記ガイドピンが固定されたピン孔と、を備え、
前記ピン孔を区画する前記固定ボスの他の内周面には前記酸化被膜が形成されている、請求項1に記載のプーリ。
【請求項3】
前記固定ボスの外周面には前記酸化被膜が形成されている、請求項1または2に記載のプーリ。
【請求項4】
前記可動ボスの内周面には前記酸化被膜が形成されている、請求項3に記載のプーリ。
【請求項5】
前記酸化被膜は、四酸化三鉄(Fe3O4)を含む、請求項1または2に記載のプーリ。
【請求項6】
請求項1または2に記載のプーリと、
前記固定シーブ面と前記可動シーブ面とに挟まれた前記駆動ベルトと、を備えたベルト式の無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式の無段変速機に用いられるプーリおよびプーリを備えたベルト式の無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動二輪車等の車両に用いられる変速機として、ベルト式の無段変速機(Continuously Variable Transmission)が知られている。ベルト式の無段変速機は、駆動プーリと、従動プーリと、駆動プーリおよび従動プーリに巻きかけられたVベルト(駆動ベルト)とを備えてる。駆動プーリおよび従動プーリは、それぞれ、固定シーブと、固定シーブに対して接近および離反が可能な可動シーブとを備えてる。例えば、特許文献1には、クランク軸に設けられた駆動プーリと、従動軸に設けられた被動プーリ(従動プーリに相当)と、駆動プーリおよび被動プーリに巻きかけられたVベルトとを備えたVベルト無段変速機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、駆動プーリおよび従動プーリは、駆動ベルトが接触する固定シーブ面を有する固定シーブと、円筒状の固定ボスと、駆動ベルトが接触する可動シーブ面を有し、かつ固定ボスの外径側を摺動し固定シーブに対して接近および離反可能な可動シーブとを備えている。駆動プーリの固定ボスは、固定シーブに突き当てて配置されている。また、従動プーリの固定ボスは、固定シーブと一体に形成され、固定シーブから突出する。ここで、駆動プーリおよび従動プーリの固定ボスの外周を可動シーブが軸方向に移動するため、例えば高周波焼き入れの後に硬質クロムメッキを施すことで、固定ボスの強度と摺動に対する耐摩耗性を高めていた。しかしながら、硬質クロムメッキおよび高周波焼き入れの性質上、固定ボスの内周面を硬化させることが難しく、固定ボスの内周面の耐摩耗性が低いという問題があった。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、固定ボスの内周面の耐摩耗性が向上されたプーリおよびそれを備えたベルト式の無段変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るプーリは、ベルト式の無段変速機に用いられるプーリであって、前記プーリは、駆動ベルトと接触する固定シーブ面を有する固定シーブと、前記固定シーブから第1の方向に向けて延び、かつ、円筒状に形成された固定ボスと、前記駆動ベルトと接触しかつ前記固定シーブ面と対向する位置に配置された可動シーブ面を有し、前記固定シーブに対して接近および離反が可能な可動シーブと、前記可動シーブから前記第1の方向に向けて延び、且つ円筒状に形成され、かつ、前記固定ボスに外嵌して前記固定ボスの外周面に沿って摺動する可動ボスと、を備え、前記固定ボスにはシャフトが挿入され、前記固定ボスの内周面には酸化被膜が形成されている。
【0007】
本発明に係るプーリによると、シャフトが挿入される固定ボスの内周面には酸化被膜が形成されている。このため、固定ボスの内周面の摺動性および耐摩耗性は比較的高くなっている。これにより、例えばシャフト等に力が加わって固定ボスの内周面とシャフトとが擦れ合うことがあっても、固定ボスの内周面の摩耗を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、固定ボスの内周面の耐摩耗性が向上されたプーリを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る自動二輪車の側面図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るエンジンユニットの断面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る駆動プーリの断面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る従動プーリの断面図である。
【
図5】
図5は、一実施形態に係る従動プーリのトルクカム溝周辺の構造を示す断面図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る低速時の従動プーリの平面図である。
【
図7】
図7は、一実施形態に係る高速時の従動プーリの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るプーリおよびプーリを備えたベルト式の無段変速機の実施形態について説明する。ここでは、ベルト式の無段変速機を備えた所謂スクータータイプの自動二輪車を例に挙げて説明するが、本発明の自動二輪車は、所謂スクータータイプの自動二輪車に限定されない。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0011】
図1は、自動二輪車10の側面図である。以下の説明では特に断らない限り、前、後、左、右、上、下は、それぞれ自動二輪車10の運転者から見た前、後、左、右、上、下を意味するものとする。図面に付した符号F、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を表す。
【0012】
図1に示すように、自動二輪車10は、エンジンユニット50を備えている。
【0013】
図2に示すように、エンジンユニット50は、エンジン60と、後述するクランク軸68を収容するクランクケース61と、ベルト式の無段変速機100(以下、CVT100という)と、CVT100を収容する変速機ケース70と、を備えている。本実施形態では、エンジン60とCVT100とが一体となってエンジンユニット50を構成しているが、エンジン60とCVT100とは別々であってもよい。
【0014】
図2に示すように、エンジン60は、単一の気筒を備えた単気筒エンジンである。エンジン60は、クランクケース61から前方に延び、クランクケース61に結合されたシリンダブロック62と、シリンダブロック62の前部に接続されたシリンダヘッド63と、シリンダヘッド63の前部に接続されたシリンダヘッドカバー64とを備えている。シリンダブロック62の内部には、シリンダ65が形成されている。
【0015】
図2に示すように、シリンダ65内には、ピストン66が摺動自在に収容されている。ピストン66は、コンロッド67を介してクランク軸68に連結されている。クランク軸68は左方および右方に延びており、クランクケース61に支持されている。クランク軸68の駆動力は、CVT100を介して後輪44(
図1参照)に伝達される。クランク軸68は、シャフトの一例である。
【0016】
本実施形態では、クランクケース61、シリンダブロック62、シリンダヘッド63、およびシリンダヘッドカバー64は別体であり、互いに組み立てられている。しかし、これらは必ずしも別体でなくてもよく、適宜に一体化されていてもよい。例えば、クランクケース61とシリンダブロック62とが一体的に形成されていてもよく、シリンダブロック62とシリンダヘッド63とが一体的に形成されていてもよい。また、シリンダヘッド63とシリンダヘッドカバー64とが一体的に形成されていてもよい。
【0017】
クランクケース61の具体的構成は何ら限定されないが、ここでは、クランクケース61は、複数の部材から構成されている。ただし、クランクケース61は単一の部材から構成されていてもよい。ここでは、クランク軸68を収容するケース、CVT100を収容するケースをそれぞれクランクケース61、変速機ケース70と称する。クランクケース61および変速機ケース70は、必ずしも互いに独立した部材である必要はなく、一つの部材がクランクケース61および変速機ケース70の一部または全部を構成していてもよい。例えば、クランクケース61を構成している部材の一部が変速機ケース70の一部を構成していてもよい。
【0018】
図2に示すように、CVT100は、駆動側のプーリである駆動プーリ110と、従動側のプーリである従動プーリ120と、駆動プーリ110および従動プーリ120に巻き掛けられたVベルト130と、を備えている。Vベルト130は、駆動ベルトの一例である。
【0019】
図2に示すように、駆動プーリ110は、固定シーブ111と、可動シーブ112と、固定シーブ111に突き当てて配置された固定ボス116と、可動シーブ112から右方に向けて延びる可動ボス117と、を有している。本実施形態の駆動プーリ110では、右方は第1の方向の一例である。固定シーブ111および可動シーブ112は、クランク軸68の左端部に取り付けられており、駆動プーリ110はクランク軸68と共に回転する。固定シーブ111は、可動シーブ112よりも左方、すなわち外方に位置している。固定シーブ111は、クランク軸68の軸方向に移動不能である。可動シーブ112は、クランク軸68の軸方向に移動可能である。可動シーブ112は、固定シーブ111に対して接近および離反が可能に構成されている。固定シーブ111と可動シーブ112とにより、Vベルト130を支持するV型のベルト溝が形成されている。
【0020】
図3に示すように、固定シーブ111は、円盤状に形成されている。固定シーブ111は、Vベルト130と接触する固定シーブ面111Sを有する。固定シーブ面111Sは、径方向内側から径方向外側に行くに従って外方(ここでは左方)に傾斜している。固定ボス116は、固定シーブ111から右方に向けて延びる。固定ボス116は、固定シーブ111の中心部分に配置されている。固定ボス116は、固定シーブ111のうち固定シーブ面111Sが形成された表面111Fに配置されている。固定ボス116は、表面111Fから右方に向けて突出する。固定ボス116は、円筒状に形成されている。固定ボス116は、例えば、炭素鋼から形成されている。固定ボス116には、クランク軸68が挿入される。固定ボス116の内周面116Aには、酸化被膜が形成されている。このため、例えば、クランク軸68と固定ボス116の内周面116Aとの間に起こり得るフレッチング摩耗が抑制され、クランク軸68のがたつきや焼き付き等を抑制することができる。また、固定ボス116の外周面116Bには、酸化被膜が形成されている。
【0021】
固定ボス116の内周面116Aおよび外周面116Bに形成された酸化被膜は、例えば、固定ボス116を構成する金属由来の酸化物を含む。酸化被膜は、例えば、四酸化三鉄(Fe3O4)を含む。酸化被膜は、例えば、ガス軟窒化処理(Gas Soft Nitridization)を施した後に、スチーム処理を施すことによって形成される。酸化被膜が形成された面の最大高さRzは、例えば、1μm~12.5μm(例えば1μm~3.2μm)である。最大高さRzは、JIS B 0601:2013に基づいて測定される値である。また、固定ボス116の内周面116Aおよび外周面116Bと酸化被膜との間には、ガス軟窒化処理由来の化合物(例えばFe3NやFe4N)が存在し得る。
【0022】
図3に示すように、可動シーブ112は、円盤状に形成されている。可動シーブ112は、Vベルト130と接触する可動シーブ面112Sを有する。可動シーブ面112Sは、径方向内側から径方向外側に行くに従って外方(ここでは右方)に傾斜している。可動シーブ面112Sは、固定シーブ面111Sと対向する位置に配置されている。Vベルト130は、可動シーブ面112Sと固定シーブ面111Sとに挟まれている。可動ボス117は、可動シーブ112に接続されている。可動ボス117は、可動シーブ112と一体的に形成されている。可動ボス117は、可動シーブ112の中心部分に設けられている。可動ボス117は、可動シーブ112のうち可動シーブ面112Sの反対側(ここでは右側)に位置する裏面112Rに配置されている。可動ボス117は、裏面112Rから右方に向けて突出する。可動ボス117は、円筒状に形成されている。可動ボス117は、固定ボス116に外嵌して固定ボス116の外周面116Bに沿って摺動する。
【0023】
図2に示すように、従動プーリ120は、固定シーブ121と、可動シーブ122と、固定シーブ121から左方に向けて突出する固定ボス126と、可動シーブ122から左方に向けて突出する可動ボス127と、を有している。本実施形態の従動プーリ120では、左方は第1の方向の一例である。固定シーブ121および可動シーブ122は、メイン軸72に取り付けられており、従動プーリ120は遠心クラッチ150の係合後にメイン軸72と共に回転する。固定シーブ121は、可動シーブ122よりも右方、すなわち内方に位置している。固定シーブ121は、メイン軸72の軸方向に移動不能である。可動シーブ122は、固定ボス126の外周に沿ってメイン軸72の軸方向に移動可能である。可動シーブ122は、固定シーブ121に対して接近および離反が可能に構成されている。固定シーブ121と可動シーブ122とにより、Vベルト130を支持するV型のベルト溝が形成されている。メイン軸72は、ギア機構74を介して後輪を回転可能に支持する後輪軸76に接続されている。
【0024】
図4に示すように、固定シーブ121は、円盤状に形成されている。固定シーブ121は、Vベルト130と接触する固定シーブ面121Sを有する。固定シーブ面121Sは、径方向内側から径方向外側に行くに従って外方(ここでは右方)に傾斜している。固定ボス126は、固定シーブ121に連結されている。固定ボス126は、例えば、溶接により固定シーブ121に固定されている。固定ボス126は、固定シーブ121の中心部分に設けられている。固定ボス126は、固定シーブ121のうち固定シーブ面121Sが形成された表面121Fに配置されている。固定ボス126は、表面121Fから左方に向けて突出する。固定ボス126は、円筒状に形成されている。固定ボス126には、メイン軸72が挿入される。ここでは、メイン軸72はシャフトの一例である。固定ボス126の内周面126Aには、酸化被膜が形成されている。固定ボス126の外周面126Bには、酸化被膜が形成されている。形成された酸化被膜は、固定ボス116の内周面116A等に形成された酸化被膜と同様である。
【0025】
図5に示すように、従動プーリ120は、可動ボス127に貫通形成されたトルクカム溝118と、トルクカム溝118に挿入されたガイドピン128と、固定ボス126に形成されたピン孔129とを備えている。トルクカム溝118には、ガイドピン128が挿入される。トルクカム溝118は、可動シーブ122の移動をガイドする。トルクカム溝118は、Vベルト130を挟み込む推力を発生させて、Vベルト130からの駆動力を後輪軸76に伝達する。
図6に示すように、トルクカム溝118は、可動ボス127の周方向に延びる。トルクカム溝118は、略長円形状に形成されている。可動シーブ122は、トルクカム溝118に沿って固定シーブ121に対してメイン軸72の軸方向に相対的に移動することができる。可動シーブ122は、トルクカム溝118に沿って固定シーブ121に対して相対回転することができる。
【0026】
図5に示すように、ガイドピン128には、ガイドローラー128Gが取り付けられている。ガイドローラー128Gは、ガイドピン128の周りに回転可能に設けられている。ガイドローラー128Gは、ガイドピン128がトルクカム溝118に沿って円滑に移動するための部材である。ガイドローラー128Gは、ガイドピン128とトルクカム溝118との位置ずれを抑制する部材である。ピン孔129は、固定ボス126を径方向に貫通する。ピン孔129には、ガイドピン128が挿入されている。ガイドピン128は、ピン孔129に固定されている。ガイドピン128は、固定ボス126のうちピン孔129を区画する内周面126Cに固定されている。固定ボス126のうちピン孔129を区画する内周面126Cには、固定ボス116の内周面116A等に形成された酸化被膜と同様の酸化被膜が形成されている。酸化被膜は、内周面126Cの全体に亘って形成されているとよい。内周面126Cは、他の内周面の一例である。内周面126Cは、内周面126Aおよび外周面126Bに接続している。内周面126Cは、固定ボス116の径方向に延びる面である。
【0027】
図4に示すように、可動シーブ122は、円盤状に形成されている。可動シーブ122は、Vベルト130と接触する可動シーブ面122Sを有する。可動シーブ面122Sは、径方向内側から径方向外側に行くに従って外方(ここでは左方)に傾斜している。可動シーブ面122Sは、固定シーブ面121Sと対向する位置に配置されている。Vベルト130は、可動シーブ面122Sと固定シーブ面121Sとに挟まれている。可動ボス127は、可動シーブ122に連結されている。可動ボス127は、例えば、溶接により可動シーブ122に固定されている。可動ボス127は、可動シーブ122の中心部分に設けられている。可動ボス127は、可動シーブ122の貫通孔部分の内周面に溶接などで固定されている。可動ボス127は、可動シーブ122から左方に向けて突出する。可動ボス127は、円筒状に形成されている。可動ボス127は、固定ボス126に外嵌して固定ボス126の外周面126Bに沿って摺動する。可動ボス127の内周面127Aには、固定ボス116の内周面116Aに形成された酸化被膜と同様の酸化被膜が形成されている。なお、固定シーブ121と可動シーブ122とは、固定シーブ121の固定ボス126に形成されたピン孔129と、可動シーブ122の可動ボス127に形成されたトルクカム溝118とにガイドピン128およびガイドローラー128Gとを取り付けることによって両者の位相差が定められている。
【0028】
図6に示すように、自動二輪車10の低速時には、例えば、可動シーブ122は固定シーブ121に最も接近している。このとき、ガイドピン128は、トルクカム溝118の最も左側に位置する。そして、可動シーブ122がトルクカム溝118に沿って左方に移動することで、CVT100の減速比が変更される。
図7に示すように、自動二輪車10の高速時には、例えば、可動シーブ122は固定シーブ121から最も離反している。このとき、ガイドピン128は、トルクカム溝118の最も右側に位置する。そして、可動シーブ122がトルクカム溝118に沿って右方に移動することで、CVT100の減速比が変更される。なお、可動シーブ122がトルクカム溝118に沿ってメイン軸72の軸方向に移動するときには、ガイドピン128が挿入されたピン孔129を区画する内周面126Cには外力が加わるため内周面126Cは摩耗しやすいが、上述のように内周面126Cには、酸化被膜が形成されているため耐摩耗性が高く、内周面126Cの摩耗を抑制することができる。これにより、ガイドピン128がピン孔129に対して傾くことが抑制される。
【0029】
図2に示すように、変速機ケース70は、クランクケース61の左方に配置されている。変速機ケース70は、クランクケース61に固定されたケース本体80と、ケース本体80に着脱可能に固定されたカバー82とを備えている。ケース本体80は、CVT100を収容している。すなわち、ケース本体80は、駆動プーリ110、従動プーリ120およびVベルト130を収容している。ケース本体80における駆動プーリ110の左方には、開口81が形成されている。カバー82は、ケース本体80の開口81を覆う。
【0030】
以上のように、本実施形態の駆動プーリ110によると、クランク軸68が挿入される固定ボス116の内周面116Aには酸化被膜が形成されている。このため、固定ボス116の内周面116Aの摺動性および耐摩耗性は比較的高くなっている。これにより、例えばクランク軸68等に力が加わって固定ボス116の内周面116Aとクランク軸68とが擦れ合うことがあっても、固定ボス116の内周面116Aの摩耗を抑制することができる。
【0031】
本実施形態の従動プーリ120は、可動ボス127に貫通形成され、かつ、可動シーブ122の移動をガイドするトルクカム溝118と、トルクカム溝118に挿入されたガイドピン128と、固定ボス126に形成され、かつ、ガイドピン128が固定されたピン孔129と、を備え、ピン孔129を区画する固定ボス126の内周面126Cには酸化被膜が形成されている。上記態様によれば、可動シーブ122がトルクカム溝118に沿って移動するとき、トルクカム溝118に挿入されたガイドピン128には可動シーブ122からの外力が加わるため、ピン孔129を区画する固定ボス126の内周面126Cとガイドピン128とが擦れ合うことがあり得る。ここで、内周面126Cには酸化被膜が形成されており、内周面126Cの摺動性および耐摩耗性は比較的高いため、内周面126Cの摩耗を抑制することができる。
【0032】
本実施形態の従動プーリ120では、固定ボス126の外周面126Bには酸化被膜が形成されている。上記態様によれば、固定ボス126の外周面126Bの摺動性および耐摩耗性は酸化被膜の存在により比較的高くなっている。これにより、可動シーブ122が固定シーブ121に対して摺動するときに固定ボス126の外周面126Bの摩耗を抑制することができる。
【0033】
本実施形態の従動プーリ120では、可動ボス127の内周面127Aには酸化被膜が形成されている。上記態様によれば、可動ボス127の内周面127Aの摺動性および耐摩耗性は酸化被膜の存在により比較的高くなっている。これにより、可動シーブ122が固定シーブ121に対して摺動するときに固定ボス126の外周面126Bおよび可動ボス127の内周面127Aの摩耗を抑制することができる。
【0034】
本実施形態の駆動プーリ110および従動プーリ120では、酸化被膜は、四酸化三鉄(Fe3O4)を含む。四酸化三鉄を含む酸化被膜は、耐摩耗性および摺動性に優れると共に、比較的安価に形成することができるため、コストの低減を実現することができる。
【0035】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【0036】
上述した実施形態では、固定ボス116の内周面116A等には酸化被膜が形成されていたが、これに限定されない。酸化被膜の形成に代えて、固定ボス116の内周面116A等に、公知の表面処理が施されることによって内周面116A等の耐摩耗性および摺動性が向上されていてもよい。
【0037】
上述した実施形態では、ガイドピン128にはガイドローラー128Gが取り付けられていたが、ガイドピン128にはガイドローラー128Gが取り付けられていなくてもよい。この場合、トルクカム溝118に挿入されたガイドピン128が可動ボス127に対して直接摺動する。
【符号の説明】
【0038】
10 自動二輪車
68 クランク軸
72 メイン軸
100 CVT(ベルト式の無段変速機)
110 駆動プーリ
111 固定シーブ
111S 固定シーブ面
112 可動シーブ
112S 可動シーブ面
116 固定ボス
116A 内周面
116B 外周面
117 可動ボス
118 トルクカム溝
120 従動プーリ
121 固定シーブ
121S 固定シーブ面
122 可動シーブ
122S 可動シーブ面
126 固定ボス
126A 内周面
126B 外周面
126C 内周面(他の内周面)
127 可動ボス
127A 内周面
128 ガイドピン
129 ピン孔
130 Vベルト(駆動ベルト)