(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006722
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】通信装置
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
H04B7/06 956
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107886
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】阪口 啓
(72)【発明者】
【氏名】丸田 一輝
(72)【発明者】
【氏名】殷 越
(72)【発明者】
【氏名】前本 大輝
(72)【発明者】
【氏名】古山 卓宏
(72)【発明者】
【氏名】中田 恒夫
(57)【要約】
【課題】通信品質の悪化を抑制する技術を提供する。
【解決手段】空間相関係数導出部542は、第1位置における複数種類のCSIパラメータと、第2位置における複数種類のCSIパラメータとをもとに、第1位置と第2位置との間の空間相関係数を導出する。補間ウエイト導出部544は、空間相関係数をもとに第3位置における補間ウエイトを導出する。予測値導出部548は、補間ウエイトと、第1CSIと前記第2CSIとをもとに、第3位置におけるCSIの予測値を導出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のCSI(Channel State Information)パラメータが場所毎に示されるマップから、第1アンテナの第1位置における前記複数種類のCSIパラメータと、第2アンテナの第2位置における前記複数種類のCSIパラメータとを取得する第1取得部と、
前記第1取得部において取得した前記第1位置における前記複数種類のCSIパラメータと、前記第2位置における前記複数種類のCSIパラメータとをもとに、前記第1位置と前記第2位置との間の空間相関係数を導出する空間相関係数導出部と、
前記空間相関係数導出部において導出した前記空間相関係数をもとに第3位置における補間ウエイトを導出する補間ウエイト導出部と、
前記第1アンテナにおいて取得した瞬時の第1CSIと、前記第2アンテナにおいて取得した瞬時の第2CSIとを取得する第2取得部と、
前記補間ウエイト導出部において導出した前記補間ウエイトと、前記第2取得部において取得した前記第1CSIと前記第2CSIとをもとに、前記第3位置におけるCSIの予測値を導出する予測値導出部と、
前記予測値導出部において導出した前記CSIの予測値を使用して、前記第3位置における通信を実行する通信部と、
を備える通信装置。
【請求項2】
複数種類のCSI(Channel State Information)CSIパラメータが場所毎に取得され、2つの位置における前記複数種類のCSIパラメータをもとに、前記2つの位置の間の空間相関係数が導出され、前記空間相関係数が場所毎に示されるマップから、第1位置と第2位置との間の空間相関係数を取得する第1取得部と、
前記第1取得部において導出した前記空間相関係数をもとに第3位置における補間ウエイトを導出する補間ウエイト導出部と、
前記第1位置の第1アンテナにおいて取得した瞬時の第1CSIと、前記第2位置の第2アンテナにおいて取得した瞬時の第2CSIとを取得する第2取得部と、
前記補間ウエイト導出部において導出した前記補間ウエイトと、前記第2取得部において取得した前記第1CSIと前記第2CSIとをもとに、前記第3位置におけるCSIの予測値を導出する予測値導出部と、
前記予測値導出部において導出した前記CSIの予測値を使用して、前記第3位置における通信を実行する通信部と、
を備える通信装置。
【請求項3】
前記複数種類のCSIパラメータは、パス数、各パスの利得、各パスの遅延、到来方向を少なくとも含む請求項1または2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記通信部は、前記CSIの予測値を使用して、前記第3位置におけるリソース制御を実行する請求項1または2に記載の通信装置。
【請求項5】
前記マップは、複数の環境のそれぞれに対して保存されており、複数の前記マップのうちの1つを選択する選択部をさらに備える請求項1または2に記載の通信装置。
【請求項6】
前記第3位置におけるCSIの予測値は、前記第3位置の周囲における前記第1位置と前記第2位置以外の位置の値も反映して生成される請求項1または2に記載の通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信技術に関し、特に無線通信を実行する通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信においてはマルチパスの影響を受けて通信品質が悪化する。このような通信品質の悪化を抑制するために、周波数特性を含む電波マップが予め蓄積されており、移動情報をもとに予測された将来の走行位置における周波数特性を電波マップから取得して無線リソースの割当がなされる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
V2X(Vehicle-to-Everything)などの移動環境における無線通信では伝搬路が激しく変動する。また、直接波と反射波の合成により、受信点によってはそれらが逆位相で相殺され、受信レベルが激しく落ち込む瞬間が生じる。このような状況下においても通信品質の悪化を抑制することが求められる。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、通信品質の悪化を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の通信装置は、複数種類のCSI(Channel State Information)パラメータが場所毎に示されるマップから、第1アンテナの第1位置における複数種類のCSIパラメータと、第2アンテナの第2位置における複数種類のCSIパラメータとを取得する第1取得部と、第1取得部において取得した第1位置における複数種類のCSIパラメータと、第2位置における複数種類のCSIパラメータとをもとに、第1位置と第2位置との間の空間相関係数を導出する空間相関係数導出部と、空間相関係数導出部において導出した空間相関係数をもとに第3位置における補間ウエイトを導出する補間ウエイト導出部と、第1アンテナにおいて取得した瞬時の第1CSIと、第2アンテナにおいて取得した瞬時の第2CSIとを取得する第2取得部と、補間ウエイト導出部において導出した補間ウエイトと、第2取得部において取得した第1CSIと第2CSIとをもとに、第3位置におけるCSIの予測値を導出する予測値導出部と、予測値導出部において導出したCSIの予測値を使用して、第3位置における通信を実行する通信部と、を備える。
【0007】
本発明の別の態様もまた、通信装置である。この装置は、複数種類のCSI(Channel State Information)CSIパラメータが場所毎に取得され、2つの位置における複数種類のCSIパラメータをもとに、2つの位置の間の空間相関係数が導出され、空間相関係数が場所毎に示されるマップから、第1位置と第2位置との間の空間相関係数を取得する第1取得部と、第1取得部において導出した空間相関係数をもとに第3位置における補間ウエイトを導出する補間ウエイト導出部と、第1位置の第1アンテナにおいて取得した瞬時の第1CSIと、第2位置の第2アンテナにおいて取得した瞬時の第2CSIとを取得する第2取得部と、補間ウエイト導出部において導出した補間ウエイトと、第2取得部において取得した第1CSIと第2CSIとをもとに、第3位置におけるCSIの予測値を導出する予測値導出部と、予測値導出部において導出したCSIの予測値を使用して、第3位置における通信を実行する通信部と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システム、コンピュータプログラム、またはコンピュータプログラムを記録した記録媒体などの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のある態様によれば、通信品質の悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1に係る無線通信システムの構成を示す図である。
【
図2】
図1の無線通信システムでの処理の概要を示す図である。
【
図3】
図1の車両に搭載される通信装置の構成を示す図である。
【
図4】
図4(a)-(b)は、
図1の車両における位置の定義を示す図である。
【
図5】
図1の車両における位置と角度の定義を示す図である。
【
図6】
図4の処理部における処理の概要を示す図である。
【
図7】実施例2に係る無線通信システムでの処理の概要を示す図である。
【
図8】
図7の車両に搭載される通信装置の構成を示す図である。
【
図9】実施例3に係る無線通信システムでの処理の概要を示す図である。
【
図10】実施例4に係る無線通信システムでの処理の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施例1)
本発明の実施例を具体的に説明する前に、本実施例の概要を説明する。本実施例は、移動可能な車両に搭載された通信装置と、基地局装置との間で無線通信が実行される無線通信システムに関する。伝搬路が激しく変動する環境下においても、将来の伝搬路の状態を予測することができれば、伝搬路の特性が良好となるタイミングにあわせて、信号を伝送したり、無線リソースを制御したりできる。しかしながら、現実的には、伝搬路の情報のみを用いた予測は困難である。本実施例では、周波数特性を含むマップを予め蓄積しており、マップに蓄積された情報をもとに、伝搬路に関する2次の統計量を求めてから、2次の統計量を使ってウィナーフィルタにより予測値を求める。2次の統計量を使用するので、瞬時値を使用する場合と比較して、変化が緩やかにより、予測の精度が安定する。また、ウィナーフィルタにより予測値を求めるので、高精度な無線リソース制御が可能になる。
【0012】
以下、本発明を好適な実施例をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施例は、発明を限定するものではなく例示であって、実施例に記述されるすべての特徴やその組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、無線通信システム1000の構成を示す。無線通信システム1000は、車両100、基地局装置200、ネットワーク300、サーバ400を含む。車両100は、移動可能であり、アンテナ510と総称される第1アンテナ510a、第2アンテナ510bを備える。ここでは、車両100の前側に第1アンテナ510aが設置され、車両100の後側に第2アンテナ510bが設置される。第1アンテナ510aと第2アンテナ510bとの間の距離は、無線通信システム1000において使用される周波数の半波長以上であることが好ましい。車両100には通信装置(図示せず)が搭載され、通信装置は第1アンテナ510aと第2アンテナ510bに接続される。通信装置は、アンテナ510を使用して、基地局装置200との間で無線通信を実行する。
【0014】
基地局装置200は、通信装置と無線通信を実行するとともに、ネットワーク300とも通信可能である。また、基地局装置200は、ネットワーク300を介して他の基地局装置200(図示せず)と通信可能である。このような接続によって、通信装置は、基地局装置200とネットワーク300と他の基地局装置200とを介して他の通信装置(図示せず)と通信可能である。そのため、無線通信システム1000に含まれる通信装置と基地局装置200の数は「1」に限定されない。本実施例においては、通信装置と基地局装置200との通信に着目する。ネットワーク300にはサーバ400が接続されており、サーバ400は基地局装置200と通信可能である。
【0015】
本実施例では、通信装置と基地局装置200との通信を開始する前に、マップが作成される。マップでは、複数種類のCSI(Channel State Information)パラメータが場所毎に示されている。ここでは、
図2を使用してマップの作成を説明する。
図2は、無線通信システム1000での処理の概要を示す。無線通信システム1000に含まれる基地局装置200、サーバ400は
図1と同じである。
【0016】
測定用車両102は、マップを作成するために使用する車両である。測定用車両102は車両100と同一であってもよい。測定用車両102には、測定装置(図示せず)とアンテナ(図示せず)が搭載される。測定装置は、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System)等の測位機能を有し、GNSSから受信した信号をもとに測定装置の位置、つまり測定用車両102の位置を測位する。
【0017】
測定装置は、アンテナを介して基地局装置200から定期的に送信される参照信号210を受信する。参照信号210は測定装置にとって既知の信号である。測定装置は、受信した参照信号210をもとに伝搬路特性を導出する。また、測定装置は、伝搬路特性をもとに、複数種類のCSIパラメータを導出する。CSIパラメータは、例えば、Frequency-Domain(FD)-SAGEアルゴリズム(B. H. Fleury, M. Tschudin, R. Heddergott, D. Dahlhaus and K. Ingeman Pedersen, "Channel parameter estimation in mobile radio environments using the SAGE algorithm," in IEEE Journal on Selected Areas in Communications, vol. 17, no. 3, pp. 434-450, March 1999, doi: 10.1109/49.753729.)により導出される。また、CSIパラメータは、ビームフォーマ法またはMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)等の到来方向推定技術(菊間信良,“アレーアンテナによる適応信号処理,”科学技術出版,1998年11月.)により導出されてもよい。CSIパラメータの導出方法はこれらに限定されない。複数種類のCSIパラメータは、パス数:L(1、・・・、l、・・・L)、各パスの利得:gl、各パスの遅延:τl、各パスの到来方向(方位角):θl、各パスの到来方向(仰角)φl等である。
【0018】
無線通信システム1000において複数の周波数帯(ミリ波,マイクロ波など)が使用される場合、CSIパラメータは周波数帯毎に導出される。また、測定用車両102は、移動するので、複数の場所のそれぞれにおいて、複数種類のCSIパラメータと位置情報との組合せを取得する。測定装置は、複数種類のCSIパラメータと位置情報との組合せを基地局装置200、ネットワーク300(図示せず)を介してサーバ400に送信する。サーバ400は、複数の場所のそれぞれにおける複数種類のCSIパラメータと位置情報との組合せをマップ410として記憶する。
【0019】
図3は、車両100に搭載される通信装置500の構成を示す。通信装置500は、通信部520、処理部530、測位部550を含む。処理部530は、第1取得部540、空間相関係数導出部542、補間ウエイト導出部544、第2取得部546、予測値導出部548を含む。
【0020】
測位部550は、GNSS等の測位機能を有し、GNSSから受信した信号をもとに測定装置の位置、つまり車両100の位置を測位する。測位部550は、測位した位置情報を処理部530に出力する。
【0021】
処理部530は、測位部550から位置情報を受けつける。
図4(a)-(b)は、車両100における位置の定義を示す。
図4(a)は、現在の車両100の状態を示す。前述のごとく、車両100の前側に第1アンテナ510aが設置され、車両100の後側に第2アンテナ510bが設置される。処理部530は、位置情報で示される車両100内の位置と、第1アンテナ510aの位置(以下、「第1位置」という)と第2アンテナ510bの位置(以下、「第2位置」という)との相対的な関係を保持する。そのため、処理部530は、位置情報から第1位置と第2位置とを導出する。
図4(a)では、第1位置が「A」と示され、第2位置が「B」と示される。第1位置と第2位置の間の位置、例えば第1位置と第2位置の間を2等分する位置(以下、「第3位置」という)は「P」と示される。
図4(b)は後述して、
図3に戻る。
【0022】
通信部520は、第1アンテナ510a、第2アンテナ510bに接続され、第1アンテナ510aと第2アンテナ510bの少なくとも1つを介して基地局装置200との無線通信を実行する。通信部520は、基地局装置200を介してサーバ400からマップ410を受信する。処理部530の第1取得部540は、マップ410から、第1位置「A」における複数種類のCSIパラメータと、第2位置「B」における複数種類のCSIパラメータとを取得する。前述のごとく、複数種類のCSIパラメータは、パス数、各パスの利得、各パスの遅延、到来方向を少なくとも含む。
【0023】
空間相関係数導出部542は、第1位置「A」における複数種類のCSIパラメータと、第2位置「B」における複数種類のCSIパラメータとをもとに、第1位置「A」と第2位置「B」との間の空間相関係数ρ
AB(x)を導出する。ここで、「x」は、位置「A」の位置情報を示す。
図5は、車両100における位置と角度の定義を示す。図面の左側が車両100の前側に相当する。第1位置「A」の位置情報を「x」と示す場合、第2位置「B」の位置情報は「x+Δx」と示される。
図3に戻る。
【0024】
空間相関係数導出部542は、あらかじめ取得・作成したマップ410からCSIの平均値を次のように導出する。
【数1】
【数2】
ここで、「x」は位置情報を示し、「θ」は方位角を示し、「φ」は仰角を示し、「t」は遅延を示し、「f」は周波数を示す。このCSIはマップ410に記憶したCSIパラメータから再構成したものであるが、任意の形式でかまわない。
【0025】
平面波近似を仮定すると、式(2)は次のように示される。
【数3】
そのため、空間相関係数ρ
AB(x)は次のように示される。
【数4】
ここで、「
*」は複素共役である。空間相関係数は、電力の到来角度分布、つまり2次統計量による表現である。
【0026】
補間ウエイト導出部544は、ウィナーフィルタにより、空間相関係数導出部542において導出した空間相関係数ρ
AB(x)をもとに第3位置「P」における補間ウエイトWを次のように導出する。
【数5】
α、βは規格化係数である。
【0027】
第2取得部546は、第1位置「A」の第1アンテナ510aにおいて取得した瞬時の第1CSIと、第2位置「B」の第2アンテナ510bにおいて取得した瞬時の第2CSIとを取得する。これらは次のように示される。
【数6】
ここで、「(.)
T」は行列の転置を意味する。式(6)は、例えば変調方式としてOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を用いるのであれば、サブキャリア毎に推定した瞬時のCSI(振幅および位相)である。瞬時の第1CSIと瞬時の第2CSIは、
図4(a)にも示される。
【0028】
予測値導出部548は、補間ウエイト導出部544において導出した補間ウエイトWと、第2取得部546において取得した第1CSIと第2CSIとをもとに、第3位置「P」におけるCSIの予測値を導出する。
【数7】
CSIの予測値は、
図4(a)にも示される。
【0029】
処理部530は、CSIの予測値を周波数領域に変換する。
図6は、処理部530における処理の概要を示す。横軸が周波数を示し、縦軸が強度を示す。ここでは、CSIの予測値が示される。処理部530はCSIの予測値のうち、しきい値以上となる周波数成分を特定する。処理部530は、特定した周波数成分において信号を送信することを通信部520に指示する。
【0030】
通信部520の処理を説明するために、ここでは
図4(b)も使用する。
図4(b)は
図4(a)に続く状態である。車両100が前側に向かって移動することによって、第2アンテナ510bが第3位置「P」に到達する。
図3の通信部520は、処理部530を介して測位部550から受けつけた位置情報をもとに、第2アンテナ510bが第3位置「P」に到達することを検出する。そのタイミングにおいて、通信部520は、処理部530に特定された周波数成分において信号を第2アンテナ510bから基地局装置200に送信する。つまり、通信部520は、予測値導出部548において導出したCSIの予測値を使用して、第3位置「P」における通信を実行する。特に、通信部520は、CSIの予測値を使用して、第3位置「P」におけるリソース制御を実行する。リソース制御により、強度が高い周波数成分にのみ信号が割り当てられる。
【0031】
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU(Central Processing Unit)、メモリ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、その他のLSI(Large Scale Integration)で実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ハードウエアとソフトウエアの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0032】
本実施例によれば、マップとして記憶した複数種類のCSIパラメータをもとに空間相関係数を導出するので、2次の統計量を使用できる。また、2次の統計量が使用されるので、瞬時値を使用する場合と比較して、変化が緩やかにより、予測の精度を安定させることができる。また、空間相関係数に対してウィナーフィルタを実行することによって予測値を求めるので、無線リソース制御を高精度化できる。また、無線リソース制御が高精度化されるので、通信品質の悪化を抑制できる。また、複数種類のCSIパラメータは、パス数、各パスの利得、各パスの遅延、到来方向を少なくとも含むので、伝搬路特性を正確に表現できる。
【0033】
(実施例2)
次に、実施例2を説明する。実施例2は、実施例1と同様に、移動可能な車両に搭載された通信装置と、基地局装置との間で無線通信が実行される無線通信システムに関する。実施例1では、位置毎のCSIパラメータがマップとしてサーバに記憶される。通信装置は、サーバから受信したCSIパラメータをもとに空間相関係数を導出し、空間相関係数をもとに補間ウエイト、CSIの予測値を順に導出する。一方、実施例2では、位置毎の空間相関係数がマップとしてサーバに記憶される。通信装置は、サーバから受信した空間相関係数をもとに補間ウエイト、CSIの予測値を順に導出する。以下では、実施例1との差異を中心に説明する。
【0034】
実施例2でも、実施例1と同様に、通信装置と基地局装置200との通信を開始する前に、マップが作成される。
図7は、無線通信システム1000での処理の概要を示す。これは、マップを作成するための処理を示し、無線通信システム1000に含まれる測定用車両102、基地局装置200、サーバ400は
図2と同様である。
【0035】
測定用車両102に搭載された測定装置は、測定装置の位置、つまり測定用車両102の位置を測位する。測定装置は、アンテナを介して基地局装置200から定期的に送信される参照信号210を受信する。測定装置は、受信した参照信号210をもとに伝搬路特性を導出し、導出した伝搬路特性をもとに複数種類のCSIパラメータを導出する。さらに、測定装置は、前述の空間相関係数導出部542と同様に、複数種類のCSIパラメータとをもとに空間相関係数を導出する。
【0036】
無線通信システム1000において複数の周波数帯(ミリ波,マイクロ波など)が使用される場合、空間相関関数は周波数帯毎に導出される。また、測定用車両102は、移動するので、複数の場所のそれぞれにおいて、空間相関関数と位置情報との組合せを取得する。測定装置は、空間相関関数と位置情報との組合せを基地局装置200、ネットワーク300(図示せず)を介してサーバ400に送信する。サーバ400は、複数の場所のそれぞれにおける空間相関関数と位置情報との組合せをマップ420として記憶する。
【0037】
図8は、車両100に搭載される通信装置500の構成を示す。通信装置500は、通信部520、処理部530、測位部550を含む。処理部530は、第1取得部540、補間ウエイト導出部544、第2取得部546、予測値導出部548を含む。
【0038】
測位部550は、
図3と同様の処理を実行する。通信部520は、第1アンテナ510a、第2アンテナ510bに接続され、第1アンテナ510aと第2アンテナ510bの少なくとも1つを介して基地局装置200との無線通信を実行する。通信部520は、基地局装置200を介してサーバ400からマップ420を受信する。処理部530の第1取得部540は、マップ420から、第1位置「A」と第2位置「B」との間の空間相関係数を取得する。これに続いて、補間ウエイト導出部544、第2取得部546、予測値導出部548、通信部520は、
図3と同じ処理を実行する。
【0039】
本実施例によれば、複数の場所のそれぞれにおける空間相関係数をマップとして記憶するので、マップの情報容量を削減できる。また、通信装置は空間相関係数を導出しなくてもよいので、CSIの予測値の導出期間を短縮できる。
【0040】
(実施例3)
次に、実施例3を説明する。実施例3は、これまでと同様に、移動可能な車両に搭載された通信装置と、基地局装置との間で無線通信が実行される無線通信システムに関する。実施例1では、位置毎のCSIパラメータがマップとしてサーバに記憶され、実施例2では、位置毎の空間相関係数がマップとしてサーバに記憶される。実施例3では、これらのマップがシナリオ別にサーバに記憶される。天候、車両の混雑度によって伝搬環境は異なる。そのため、天候、車両の混雑度等のシナリオ毎にマップが用意される。通信装置は、サーバから受信した空間相関係数をもとに補間ウエイト、CSIの予測値を順に導出する。以下では、これまでとの差異を中心に説明する。
【0041】
実施例3でも、これまでと同様に、通信装置と基地局装置200との通信を開始する前に、マップが作成される。
図9は、無線通信システム1000での処理の概要を示す。これは、マップを作成するための処理を示し、無線通信システム1000に含まれる測定用車両102、基地局装置200、サーバ400は
図2、
図7と同様である。
【0042】
測定用車両102に搭載された測定装置は、測定装置の位置、つまり測定用車両102の位置を測位する。測定装置は、アンテナを介して基地局装置200から定期的に送信される参照信号210を受信する。測定装置は、受信した参照信号210をもとに伝搬路特性を導出し、導出した伝搬路特性をもとに複数種類のCSIパラメータを導出する。測定装置は、複数種類のCSIパラメータと位置情報との組合せを基地局装置200、ネットワーク300(図示せず)を介してサーバ400に送信する。サーバ400は、複数の場所のそれぞれにおける複数種類のCSIパラメータと位置情報との組合せをマップ430として記憶する。マップ430は、複数の場所のそれぞれにおける空間相関係数と位置情報との組合せを記憶してもよい。その際、天候、混雑度等のシナリオについてのラベル付けがなされる。例えば、『「天候:雨天」かつ「混雑度:低」』、『「天候:快晴」かつ「混雑度:高」』、『「天候:快晴」かつ「混雑度:低」』のようなラベル付けがなされる。このようなラベル付けは人為的になされてもよいし、測定装置またはサーバ400においてなされてもよい。
【0043】
通信装置500は、センサ等の検出機能を備え、天候、混雑度等を検出する。検出機能については公知の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略する。また、通信部520が基地局装置200、ネットワーク300を介して情報サーバ(図示せず)にアクセスし、天候、混雑度等の情報を情報サーバから受信することによって、通信装置500は天候、混雑度等の情報を取得してもよい。情報サーバはサーバ400と同一であってもよいし、別であってもよい。
【0044】
処理部530には選択部(図示せず)が備えられる。選択部は、複数の環境のそれぞれに対して保存された複数種類のマップ430のうち、取得した天候、混雑度に対応した1つのマップ430を選択する。通信部520は、選択部において選択したマップ430をサーバ400から受信する。これに続く処理はこれまでと同様である。
【0045】
本実施例によれば、複数のシナリオのそれぞれに対するマップが記憶されるので、シナリオに合ったマップを使用できる。また、複数のシナリオのそれぞれに対するマップのうちの1つを選択してしようするので、CSIの予測値の精度を向上できる。また、CSIの予測値の精度が向上するので、通信品質の悪化を抑制できる。
【0046】
(実施例4)
次に、実施例4を説明する。実施例4は、これまでと同様に、移動可能な車両に搭載された通信装置と、基地局装置との間で無線通信が実行される無線通信システムに関する。測位には誤差がともなう。そのため、作成したマップには位置情報の不確定性が含まれる。位置情報の不確定性はCSIの予測値の精度を低下させる。実施例4に係る通信装置は、マップから取得した情報を周辺地点の2次統計量で加重平均して使用する。以下では、これまでとの差異を中心に説明する。
【0047】
図10は、無線通信システム1000での処理の概要を示す。無線通信システム1000は、車両100、基地局装置200を含む。実施例4におけるマップは、実施例1から3のいずれかと同じである。通信装置500の第1取得部540は、これまでと同様にマップからCSIパラメータを取得する。第1取得部540は、第3位置の周囲における第1位置と第2位置以外の位置におけるCSIパラメータも取得し、次のように加重平均を計算する。
【数8】
ここで、w
i,jは重み係数である。具体的には次のように示される。
【数9】
これに続く処理はこれまでと同様であるので、説明を省略する。
【0048】
加重平均は、到来角度分布、空間相関係数、CSIの予測値であってもよい。つまり、第3位置におけるCSIの予測値は、第3位置の周囲における第1位置と第2位置以外の位置の値も反映して生成される。
【0049】
本実施例によれば、周囲の位置の値も反映させて、CSIの予測値を導出するので、位置精度の不確定性を安定化できる。また、位置精度の不確定性が安定化されるので、CSIの予測値の精度を向上できる。また、CSIの予測値の精度が向上するので、通信品質の悪化を抑制できる。
【0050】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0051】
実施例1から4に係る通信装置500は、ウィナーフィルタを使用してCSIの予測値を導出している。しかしながらこれに限らず例えば、通信装置500は、加重平均を使用してCSIの予測値を導出してもよい。本変形例によれば、構成の自由度を向上できる。
【0052】
実施例1から4に係る通信装置500は、第3位置に対するCSIの予測値を導出している。しかしながらこれに限らず例えば、位置ではなく、空間を点群として表現し、それら点群をインデックスとした予測に拡張されてもよい。本変形例によれば、構成の自由度を向上できる。
【0053】
実施例1から4に係るマップは更新されてもよい。電力分布は長期間で見ると環境の変動等の影響により変化するので、これに追従するためである。例えば、定期的にマップが更新されてもよい。また、過去のマップの情報を蓄積しておき、平均化するなどして空間相関係数が算出されてもよい。本変形例によれば、環境の変動等に追従するので、マップの精度を向上できる。
【0054】
実施例1から4における基地局装置200または通信装置500がビームフォーミング機能を有する場合、ビーム方向(ビームインデックス(ID))もマップに記憶されてもよい。その際、通信装置500は、CSIの予測値を導出する差異に、ビームインデックス(ID)をマップから取得する。本変形例によれば、ビームフォーミング機能を使用するので、通信品質を改善できる。
【符号の説明】
【0055】
100 車両、 102 測定用車両、 200 基地局装置、 210 参照信号、 300 ネットワーク、 400 サーバ、 410,420,430 マップ、 500 通信装置、 510 アンテナ、 520 通信部、 530 処理部、 540 第1取得部、 542 空間相関係数導出部、 544 補間ウエイト導出部、 546 第2取得部、 548 予測値導出部、 550 測位部、 1000 無線通信システム。