(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067226
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】鍵盤楽器
(51)【国際特許分類】
G10H 1/34 20060101AFI20240510BHJP
G10B 3/12 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
G10H1/34
G10B3/12 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177124
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 憲造
(72)【発明者】
【氏名】水品 隆広
(72)【発明者】
【氏名】二村 渉
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478BD01
5D478BD05
(57)【要約】
【課題】リンク機構を備えていても押鍵時における鍵について、前後方向のバランスを取ることができる鍵盤楽器を提供する。
【解決手段】鍵盤楽器1のリンク機構30は、第1固定支点31を有する第1部材41と、一端側が第1固定支点31で軸支されている第1リンク部材310と、第1固定支点31より前側Fかつ下側Loに設けられる第2固定支点32を有する第2部材42と、一端側が第2固定支点32で軸支されている第2リンク部材320と、鍵操作に応じて第1固定支点31を中心に回転する第1リンク部材310の他端側と、鍵操作に応じて第2固定支点32を中心に回転する第2リンク部材320の他端側と、の間の距離が変わらないように固定している連結リンク部材35と、を有し、第2リンク部材320は、第2固定支点32よりも前側Fに設けられるカウンタウェイト60を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵と、前記鍵の下側に設けられるリンク機構と、を有し、
前記リンク機構は、
第1固定支点を有する第1部材と、
一端側が前記第1固定支点で軸支されている第1リンク部材と、
前記第1固定支点より前側かつ下側に設けられる第2固定支点を有する第2部材と、
一端側が前記第2固定支点で軸支されている第2リンク部材と、
鍵操作に応じて前記第1固定支点を中心に回転する前記第1リンク部材の他端側と、前記鍵操作に応じて前記第2固定支点を中心に回転する前記第2リンク部材の他端側と、の間の距離が変わらないように固定している連結リンク部材と、
を有し、
前記第2リンク部材は、前記第2固定支点よりも前側に設けられるカウンタウェイトを有する、
鍵盤楽器。
【請求項2】
前記連結リンク部材の前記第1リンク部材との連結点は、前記連結リンク部材の前記第2リンク部材との連結点よりも上側かつ前側に配置されている、
請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項3】
前記カウンタウェイトは、前記第2リンク部材における前記第2固定支点よりも前側に延在する取付杆に設けられる、請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項4】
前記カウンタウェイトは、カウンタウェイトケースに収容される、
請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項5】
前記カウンタウェイトケースの上面には、スイッチを備える基板が設けられ、
前記スイッチは、前記鍵と連動する押下領域により押下される、
請求項4に記載の鍵盤楽器。
【請求項6】
前記第1リンク部材及び前記第2リンク部材は、前記第1部材、前記第2部材及び前記連結リンク部材とボールジョイントにより連結される、請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項7】
前記鍵は、前記鍵の前後が球面ガイドによりガイドされる、請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項8】
鍵に設けられるハンマー押圧杆により回動する錘を有し、
前記カウンタウェイトは前側に設けられ、前記錘は後側に設けられる、請求項1乃至請求項7の何れかに記載の鍵盤楽器。
【請求項9】
前記カウンタウェイト及び前記錘は、前記鍵の押鍵時に同じ方向に揺動する、請求項8に記載の鍵盤楽器。
【請求項10】
前記錘はハンマー部材に設けられ、
前記カウンタウェイトは、前記リンク機構に設けられる、請求項8に記載の鍵盤楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子ピアノ等のアコースティックピアノ以外の鍵盤楽器であっても、アコースティックピアノに近い打鍵感覚を得るように工夫した鍵盤楽器が開示されている。例えば、特許文献1は、回動自在に支持される主ハンマーと接続し、当該ハンマーの錘の上方に副ハンマーが設けられる鍵盤楽器が開示されている。副ハンマーは、主ハンマーに対して回動自在に接続し、鍵をゆっくり打鍵した場合には主ハンマーに荷重を掛けずに軽い打鍵感覚とし、鍵を速く打鍵した場合には主ハンマーに荷重を掛けて重い打鍵感覚とするよう動作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鍵の打鍵感覚をグランドピアノに近い打鍵感覚とする場合等には、鍵にリンク機構を接続して動作させることがある。このようなリンク機構においては、押鍵時における鍵について、鍵の前後方向のバランスを取ることが難しいことがある。
【0005】
本発明は、リンク機構を備えていても押鍵時における鍵について、前後方向のバランスを取ることができる鍵盤楽器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の鍵盤楽器は、鍵と、前記鍵の下側に設けられるリンク機構と、を有し、前記リンク機構は、第1固定支点を有する第1部材と、一端側が前記第1固定支点で軸支されている第1リンク部材と、前記第1固定支点より前側かつ下側に設けられる第2固定支点を有する第2部材と、一端側が前記第2固定支点で軸支されている第2リンク部材と、鍵操作に応じて前記第1固定支点を中心に回転する前記第1リンク部材の他端側と、前記鍵操作に応じて前記第2固定支点を中心に回転する前記第2リンク部材の他端側と、の間の距離が変わらないように固定している連結リンク部材と、を有し、前記第2リンク部材は、前記第2固定支点よりも前側に設けられるカウンタウェイトを有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リンク機構を備えていても押鍵時における鍵について、前後方向のバランスを取ることができる鍵盤楽器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る鍵盤装置を含む鍵盤楽器の全体斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る鍵盤装置の白鍵、黒鍵及びリンク機構等の構造を模式的に示す、定常状態における左前側から見た斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る鍵盤装置の白鍵、黒鍵及びリンク機構等の構造を模式的に示す、定常状態における右後側から見た斜視図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る鍵盤装置の白鍵及び白鍵に対応するリンク機構であって、白鍵及びカウンタウェイトケースを断面として模式的に示す、定常状態における左側面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る鍵盤装置の白鍵及び白鍵に対応するリンク機構を模式的に示す、定常状態における右側面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る鍵盤装置の黒鍵及び黒鍵に対応するリンク機構であって、黒鍵及びカウンタウェイトケースを断面として模式的に示す、定常状態に置ける左側面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る鍵盤装置の黒鍵及び黒鍵に対応するリンク機構を模式的に示す、定常状態に置ける右側面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る鍵盤装置の白鍵及び白鍵に対応するリンク機構を模式的に示す、押鍵状態における、
図4に対応する左側面図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る鍵盤装置の白鍵を強打した場合のハンマー押圧杆と延出部材の動作を説明するための図であり、(a)は打鍵し始めの状態を示し、(b)は打鍵途中の状態を示す。
【
図10】本発明の実施形態に係る鍵盤装置の白鍵を弱く押した場合のハンマー押圧杆と延出部材の動作を説明するための図であり、(a)は打鍵し始めの状態を示し、(b)は打鍵途中の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
図1に示す鍵盤楽器1は、鍵2を含む鍵盤装置10(
図2参照)と、ケース11とを備える。なお、以下の説明においては、鍵2の鍵の前後方向FBにおける前を前側F、鍵の前後方向FBの後を後側Bとし、鍵2に向かって左を左側L、右を右側Rとする。鍵2の鍵の配列方向LRは、左右方向である。また、鍵盤楽器1の上下方向ULにおいて上を上側Up、下を下側Loとする。本実施形態の鍵盤楽器1は、電子ピアノについて示しているが、奏者(ユーザ)の押鍵操作に応じて発音する楽器であればその他の鍵盤楽器であってもよい。
【0010】
鍵盤楽器1は、演奏操作子として音高を指定する複数の鍵2を有し、鍵2の配列方向LR(左右方向)に長尺の平板状に形成される。鍵盤楽器1には、鍵2の後方側に各種設定の選択や決定を行う操作ボタンやダイヤルを含む操作パネル12が設けられる。鍵2は、白鍵21及び黒鍵22を有する。白鍵21及び黒鍵22は、鍵盤楽器1の左右方向に所定の順序で規則的に配列される。
【0011】
図2及び
図3は、複数の鍵2のうち、一の白鍵21と一の黒鍵22を備える鍵盤装置10について示す構造図である。白鍵21の下側に配置されるリンク機構30や略平板状のベース部材40等の構造は、鍵盤楽器1のケース11の内部に収納される。詳細は後述するが、白鍵21及び黒鍵22には、リンク機構30が接続されている。リンク機構30は、カウンタウェイト60を備えている。また、ハンマー部材50は、発音用のスイッチ70を押下するための押下領域50a2を備えている。鍵2は、リンク機構30と接続されることにより、グランドピアノの鍵に近い動特性を得ることができる。各白鍵21及び各黒鍵22に対応するリンク機構30、ハンマー部材50、カウンタウェイト60、スイッチ70等の構成は略同一であるため、これらの構成の説明は、
図2、
図3及び
図4~
図6に基づいて、主に白鍵21について説明する。
【0012】
リンク機構30は、第1固定支点31を有する第1部材41、長尺状の第1リンク部材310、連結リンク部材35(第1連結点351、第2連結点352)、長尺状の第2リンク部材320、第2固定支点32を有する第2部材42を備えている。なお、本実施形態におけるリンク機構30の第1リンク部材310、第2リンク部材320、連結リンク部材35、第1部材41における後述の連結ボール受41b及び第2部材42に設けられる後述の連結ボール32aは、樹脂材料により形成される。
【0013】
白鍵21は、押鍵される面を備える上面板21aを有する。上面板21aから下側Loには、左側Lの左側板21b、右側Rの右側板21c、及び、前側Fの前板21dと、後側Bの後板21eと、が設けられている。従って、白鍵21は、略シェル状に設けられる。
図1~
図6に示す白鍵21は、鍵盤楽器1において「ド」や「ファ」に配置される。従って、上面板21a及び右側板21cは、黒鍵22が配置可能なように上面視略鉤状に設けられる。
【0014】
白鍵21には、前板21d及び左側板21b、右側板21cの前側Fの一部が下側Loに向けて延び、先端部分が後側Bに突出するよう略鉤状とされる前脚21fが設けられる。また、左側板21b、右側板21cの後側Bの一部は、後板21eと共に下側Loに膨出している。
【0015】
白鍵21における前板21dと後板21eとの間には、左側板21b、右側板21cの一部が下側Loに延びるようにして、ハンマー押圧杆21hが設けられる。ハンマー押圧杆21hにおいて延設される左側板21b、右側板21cとの間における前側Fには、ハンマー押圧杆21hにおける左側板21b、右側板21cに亘る板状のハンマー押圧杆前板21h1が設けられる。
図4に示すように、ハンマー押圧杆前板21h1は、後側Bに折れ曲がってなる下端部分21h11を備える。下端部分21h11の下方は開放されている。換言すれば、ハンマー押圧杆21hの先端部分には、対向する左側板21b、右側板21cの下端部分からなる二股先端21h2が設けられている。
【0016】
ハンマー押圧杆21hと白鍵21の後板21eとの間には、連結リンク部材35が設けられる。連結リンク部材35は、白鍵21の上面板21aの下面から下側Loに向けて、平面部を左右方向とした一枚の略板状に延設される。連結リンク部材35は、上端からU字状にスリット35a1が設けられて板バネ35aが設けられる。
【0017】
板バネ35aの先端(上端)部分における後側Bには、後方に突出する突起35bが設けられている。連結リンク部材35の前側Fの上端部分には、突起35bと略対向する位置に、前方に突出する突起35cが設けられている。連結リンク部材35の突起35b,35c間における上端には、連結リンク部材35を左右方向に貫通する溝35dが設けられている。
【0018】
ここで、白鍵21の左側板21b、右側板21c間には、固定壁21g,21jと、嵌合リブ21kが設けられている。そして、連結リンク部材35は、突起35bが、白鍵21の固定壁21gの孔に嵌り、突起35cが固定壁21jの孔に嵌り、板バネ35aの弾発力により白鍵21に固定される。連結リンク部材35は、溝35dが嵌合リブ21kに嵌め込まれて、位置決めされている。なお、連結リンク部材35は、白鍵21と一体に設けても良い。本実施形態のように鍵2と連結リンク部材35を別部材とすることにより、組立て時の組立順序の自由度が増え、組立て易くすることもできる。
【0019】
連結リンク部材35には、上側部分に、鍵の配列方向LRに貫通する丸孔35eが設けられている。連結リンク部材35の右側面には、下方に膨出する膨出部分35f(
図3及び
図5参照)の下面から、連結ボール351aが突出して設けられている。連結ボール351aは、丸孔35eに対応する位置に配置されている。連結ボール351aは、すり割りが設けられた第1リンク部材310の他端側の連結カップ310bとボールジョイントの形式で連結する。なお、連結リンク部材35の右側面には、第1リンク部材310との干渉を回避するための溝35g(
図3及び
図5参照)が設けられている。連結された連結ボール351aと連結カップ310bは、連結点としての第1連結点351とされている。換言すると、第1リンク部材310の他端側は、連結リンク部材35の第1連結点351と回転可能に連結されている。
【0020】
また、連結リンク部材35の下端にも同様に、下側Loに突出する連結ボール352aが設けられている。連結ボール352aは、すり割りが設けられた第2リンク部材320の他端側の連結カップ320bとボールジョイントの形式で連結する。連結された連結ボール352aと連結カップ320bは、連結点としての第2連結点352とされている。換言すると、第2リンク部材320の他端側は、連結リンク部材35の第2連結点352と回転可能に連結されている。
【0021】
第1連結点351は、第2連結点352よりも上側Upかつ前側Fに配置されている。また、一枚の板状部材とされる連結リンク部材35の第1連結点351と第2連結点352の距離は、鍵操作において変わらない。
【0022】
ベース部材40の後側Bの上面には、平面側を鍵の配列方向LRに向けた略厚板状の第1部材41が設けられている。なお、ベース部材40は、ケース11の底板としてもよい。第1部材41は、鍵の配列方向LRに長い略四角柱状の上限ストッパ41aが設けられている。上限ストッパ41aは、後述のハンマー部材50の錘51の揺動動作における、錘51の上昇限のストッパである。上限ストッパ41aは、例えばフェルト等の弾性部材が適用される。
【0023】
第1部材41の上端には、上側Upに突設する連結ボール受41bが設けられている。連結ボール受41bは、二股状の略柱状に設けられ(
図3も参照)、この二股状に挟まれるようにして、第1リンク部材310の一端側に設けられる連結ボール310aがボールジョイントの形式で連結する。連結された連結ボール受41bと連結ボール310aは、第1固定支点31とされている。換言すると、第1リンク部材310の一端側は、第1部材41の第1固定支点31と回転可能に連結されている。
【0024】
連結ボール受41bは、後側Bにおける左側板21b、右側板21cの間に挿入される。連結ボール受41bの左右の側面には、夫々、半球状に突出する球面ガイド41cが設けられている。球面ガイド41cは、左側板21b、右側板21cの内側面と摺接する。球面ガイド41cは、鍵操作に応じた鍵の動きをガイドして、鍵の配列方向LRにおける白鍵21の横ブレを防ぐためのものである。
【0025】
一方、ベース部材40の前後方向FBの略中央である、第1部材41の前側Fには、第2部材42が設けられている。第2部材42は、ベース部材40上面に略平板状に延在する固定板42aと、固定板42aから立設する略板状の支柱42bとを有する。支柱42bは、板面を左右方向に向けるようにして設けられている。固定板42aには、上側Upに向けて連結ボール32aが突出して設けられている。一方、第2リンク部材320には、一端側に、すり割りが設けられた連結カップ320aが設けられている。連結ボール32aは、第2リンク部材320の一端側の連結カップ320aとボールジョイントの形式で連結する。連結された連結ボール32aと連結カップ320aは、第2固定支点32とされている。換言すると、第2リンク部材320の一端側は、第2部材42の第2固定支点32と回転可能に連結されている。
【0026】
第2固定支点32は、第1固定支点31より前側Fかつ下側Loに設けられている。第2固定支点32には、第2リンク部材320の一端側が回転可能に軸支されている。前述の通り、第2リンク部材320の他端側は、連結リンク部材35の第2連結点352と回転可能に連結される。連結リンク部材35は、鍵操作に応じて第1固定支点31を中心に回転する第1リンク部材310の他端側と、鍵操作に応じて第2固定支点32を中心に回転する第2リンク部材320の他端側と、の間の距離が変わらないように固定し、連結している。
【0027】
第2リンク部材320の連結カップ320aは、前後方向FBに長い第2リンク部材320の略中央部分の円弧状部分に設けられている。そして、第2リンク部材320は、連結カップ320a(第2固定支点32)よりも前側Fにカウンタウェイト60が設けられている。カウンタウェイト60は、第2リンク部材320における第2固定支点32よりも前側Fに延在する取付杆320cの先端に固定して設けられている。
【0028】
カウンタウェイト60は、前後方向FBに長い偏平の直方体状が縦向き(大きい平面が鍵の配列方向LR向き)に配置されている。カウンタウェイト60は、ベース部材40上に設けられるカウンタウェイトケース61の内部に収容されている。カウンタウェイトケース61は、カウンタウェイト60に接続される取付杆320cに対応して後側Bが開口されている。カウンタウェイトケース61の上面板61aは、カウンタウェイト60が上昇した状態に合わせて、前側Fから後側Bに下る傾斜状に設けられている。
【0029】
カウンタウェイトケース61の上面板61aの上面には、スイッチ70が設けられる基板71が配置されている。基板71は、上面板61aに倣って、前側Fから後側Bに向かって下るよう傾斜して配置されている。従って、スイッチ70の上面も同様に、前側Fから後側Bに向かって下るように傾斜して配置されている。なお、カウンタウェイトケース61、基板71は、
図2~
図8では一部を示しているが、鍵の配列方向LRに長い一体に設けることができる。
【0030】
第2部材42の支柱42bには、ハンマー部材50の支点53が設けられている。ハンマー部材50は、支点53に回転可能に固定される。すなわち、第2部材42は、ハンマー部材50を回転可能に軸支する支点53を有するハンマーホルダとされ、換言すれば、ハンマーホルダは、第2部材42と一体に設けられている。支点53の具体的構造は、例えば、第2部材42の支柱42bにねじ止めされた軸周りにハンマー部材50の軸孔が回転可能に軸支されている構造とすることができる。
【0031】
ハンマー部材50は、支点53の前側Fに延在する延出部材50aを有し、支点53の後側Bに接続杆50bを有する。延出部材50aと接続杆50bは、支点53において屈曲して設けられる。延出部材50aは、上側Upに凸円弧状に設けられる摺接領域50a1と、摺接領域50a1よりも前側Fに略平板状に延在する押下領域50a2と、を含む。
【0032】
摺接領域50a1は、ハンマー押圧杆21hに対応する位置に配置され、ハンマー押圧杆前板21h1の下端部分21h11の下面と摺接する。このようにして、ハンマー押圧杆21hは、延出部材50aの摺接領域50a1がハンマー押圧杆21hの二股先端21h2の間に接近・離間可能に設けられている。また、押下領域50a2は、ハンマー押圧杆21hよりも前側Fに突出して、スイッチ70の上面に当接してスイッチ70を押下する領域とされている。
【0033】
なお、延出部材50aは、ハンマーキャップを含むこともできる。具体的には、延出部材50aの全体又は一部を、エラストマーやシリコン樹脂等の弾性部材からなるハンマーキャップとすることもできる。この場合、このハンマーキャップに押下領域50a2を設けることができる。
【0034】
一方、ハンマー部材50の後側Bの接続杆50bの先端部(ハンマー部材50の一端側)には、幅広の板状に錘51が設けられる。錘51は、接続杆50bに接続される本体部分に複数枚の板状の錘板が固定して設けられている。
【0035】
第2部材42の前側Fのベース部材40上には、略柱状の前脚ガイド部材43が設けられる。前脚ガイド部材43は、角柱状のベース部材40上の基端部分43aと、基端部分43aよりも幅狭で白鍵21の左右の前脚21f間に配置される鍵ガイド43bと、が設けられている。鍵ガイド43bは、上下方向に長い略柱状に設けられ、その左右の各側面には、上下2箇所に球面ガイド43b1が設けられている。鍵ガイド43bの球面ガイド43b1は、前脚21fの内面と摺接することで鍵操作に応じた鍵の動きをガイドして、鍵の配列方向LRにおける白鍵21の横ブレを防ぐためのものである。
【0036】
鍵ガイド43bには、後側Bに突出する突出梁43b2が設けられている。突出梁43b2の下面には、フェルト等の弾性部材からなる上限ストッパ43cが設けられている。また、前脚ガイド部材43の基端部分43aの上面には、フェルト等の弾性部材からなる下限ストッパ43dが設けられている。上限ストッパ43cには、前脚21fの鉤状の部分の上面が当接して白鍵21の上昇が規制される。同様に、下限ストッパ43dには、前脚21fの鉤状の部分の下面が当接して白鍵21の下降が規制される。
【0037】
黒鍵22は、白鍵21と同様に、リンク機構30やハンマー部材50、スイッチ70等を備えている。よって、黒鍵22及び黒鍵22に関連するリンク機構30やハンマー部材50等については、
図6及び
図7に基づいて、同じ部材や同じ個所については同じ符号を付して説明を省略又は簡略化し、白鍵21と異なる構造について説明する。黒鍵22は、押鍵される面を備える上面板22aと、左側板22bと、右側板22cと、後板22eとを備える。黒鍵22の左側板22b及び右側板22cの前側Fの側面は、下側Loに延びて左右で対向する前脚22fとされている。黒鍵22には、左側板22b及び右側板22cの間から前脚22f間亘って前板22dが設けられている。黒鍵22においては、前脚22fと前板22dとでハンマー押圧杆22hが形成されている。すなわち、前板22dは、前脚22fの下端よりも上方の位置で前板22dの下端部分22h11が後側Bに折れ曲がり、下端部分22h11の下方は開放されている。よって、ハンマー押圧杆22hの下端である先端部分には、対向する前脚22fの下端部分からなる二股先端22h2が設けられている。なお、前脚22fの先端部分は、窄まった形状とされている。
【0038】
一方、第2部材42には、黒鍵22の前脚22f間において板面を左右方向に向けて配置されるガイド板423が挿入されるように設けられている。ガイド板423には、左右の両側面に夫々、上下2つの球面ガイド423aが設けられ、前脚22fの内面と摺接する。球面ガイド423aにより、黒鍵22はガイドされている。
【0039】
なお、黒鍵22の後側Bにおいては、白鍵21と同様に、連結ボール受41bに球面ガイド41cが設けられ、左側板22b及び右側板22cが下方に膨出した部分がガイドされる。また、黒鍵22には、白鍵21と同様に、連結リンク部材35の突起35bが嵌る孔を有する固定壁22gと、突起35cが嵌る孔を有する固定壁22jと、溝35dに嵌め込まれる嵌合リブ22kが設けられている。
【0040】
また、黒鍵22の前脚22fは、ハンマー押圧杆ともされている。黒鍵22の前脚22fは、先端(下端)に二股先端22faが設けられて、黒鍵22用のハンマー部材50における延出部材50aが接近・離間可能に設けられている。
【0041】
鍵2の動作は以下の通りである。ここでは、白鍵21を例にして説明する。白鍵21は、押鍵操作を行っていない
図2~
図5の定常状態では、ハンマー部材50の錘51が自重で下方に位置し、錘51と対向するベース部材40上に配置されるクッション44に錘51が当接している。一方、錘51と支点53を挟む反対側の延出部材50aは、上方に位置する。延出部材50aの摺接領域50a1は、ハンマー押圧杆前板21h1の下端部分21h11を押し上げて、前脚21fの鉤状の上面が上限ストッパ43cに当接している。
【0042】
図8に示すように、白鍵21を押すと、ハンマー部材50の錘51の自重に抗してハンマー押圧杆21h(具体的には、延出部材50aの摺接領域50a1に当接して摺接するハンマー押圧杆前板21h1の下端部分21h11の下面)により延出部材50aを押し下げる。すると、ハンマー部材50は支点53周りに回動し、錘51は上昇する。錘51が上昇すると、錘51と支点53を挟んだ反対側の延出部材50aの押下領域50a2は下方に下がり、スイッチ70の上面と当接してスイッチ70を押下する。このようにして、押下領域50a2は鍵2と連動し、押下領域50a2により各鍵2に対応するスイッチ70が押下され、各鍵2に対応する音が発音される。そして、錘51は上限ストッパ41aに当接し、前脚21fの下面は下限ストッパ43dに当接して、押鍵操作が完了する。なお、黒鍵22も同様に動作する。
【0043】
また、前述の通り、延出部材50aの摺接領域50a1は、ハンマー押圧杆21h,22hの二股先端21h2,22h2と接近・離間可能に設けられている。従って、鍵2(
図9では白鍵21)を強打した場合には、押し始めでは
図9(a)に示すように、摺接領域50a1と二股先端21h2の下端部分21h11の下面は当接しているが、
図9(b)に示す鍵2が下限に位置する前に、延出部材50aの慣性力により摺接領域50a1が下端部分21h11と離間して、鍵2を押し切るまえに押下領域50a2によりスイッチ70が押下される。すなわち、延出部材50aは、ハンマー押圧杆21h,22hに接触せずにスイッチ70を押下することが可能である。
【0044】
一方、鍵2を弱く押した場合には、
図10(a)に示す鍵2の押し始めであっても、
図10(b)に示す鍵2が下限に位置する前であっても、摺接領域50a1と下端部分21h11の下面が当接している。すなわち、鍵2のストロークの全範囲に亘って、摺接領域50a1と下端部分21h11の下面が当接する。このようにして、鍵盤楽器1(鍵盤装置10)では、鍵2の強打の際、鍵2のハンマー押圧杆21h,22hに押された延出部材50aが鍵2から離れ、放り投げられたようにスイッチ70をONさせることができ、グランドピアノのアクション動作に近い弾き心地を実現できる。そして、スイッチ70をONさせる際には、スイッチ70を構成するゴム材料の外側部材を潰すことになるが、押下領域50a2を備える延出部材50aがハンマー押圧杆21h,22hと離間するため、ゴム材料の外側部材を潰す感覚が演奏者の手に伝わりにくくなり、弾き心地を向上させることができる。
【0045】
本実施形態においては、鍵2(白鍵21、黒鍵22)を押すと、連結リンク部材35は、第1リンク部材310と第2リンク部材320とで規制されつつ、第1連結点351と第2連結点352の距離を固定した状態で上方及び下方に移動する。換言すれば、連結リンク部材35は、第1連結点351と第2連結点352とを連結する仮想リンク部材が回転しながら上方及び下方に移動する。すると、鍵2の前端部分だけではなく、鍵2の後端部分も上下に移動する。すなわち、鍵2は、鍵2の前端部分と後端部分を結んだ延長線上(鍵2の後方)に仮想回転中心が設定されて、グランドピアノに近い動特性を得ることができる。
【0046】
そして、第2リンク部材320における第2固定支点32よりも前側Fに設けられるカウンタウェイト60は、鍵2の下降に応じて上昇し、ハンマー部材50の上昇に応じて上昇する。カウンタウェイト60は、
図4、
図8からみて反時計回りに回動するのに対して、ハンマー部材50は時計回りに回動する。カウンタウェイト60により、鍵2に対する錘51の前後方向のバランス(押鍵時のバランス)や重量調整のしやすさを実現し、ハンマー部材50だけでなく、ハンマー部材50と接続する部材も利用して錘51と連動することができる。
【0047】
なお、本実施形態におけるリンク機構30では、第1リンク部材310及び第2リンク部材320は、第1部材41、第2部材42及び連結リンク部材35とボールジョイントにより連結される。換言すれば、第1固定支点31、第2固定支点32、第1連結点351、第2連結点352は、ボールジョイントにより回転自在に軸支されている。しかしながら、これらのボールジョイントによる軸支は、ボールジョイントに限られず、例えば軸部材と軸受けによって軸支されるよう構成することもできる。
【0048】
以上、本発明の実施形態によれば、鍵盤楽器1は、鍵2と、鍵2の下側に設けられるリンク機構30と、を有し、リンク機構30は、第1固定支点31を有する第1部材41と、一端側が第1固定支点31で軸支されている第1リンク部材310と、第1固定支点31より前側Fかつ下側Loに設けられる第2固定支点32を有する第2部材42と、一端側が第2固定支点32で軸支されている第2リンク部材320と、鍵操作に応じて第1固定支点31を中心に回転する第1リンク部材310の他端側と、鍵操作に応じて第2固定支点32を中心に回転する第2リンク部材320の他端側と、の間の距離が変わらないように固定している連結リンク部材35と、を有し、第2リンク部材320は、第2固定支点32よりも前側Fに設けられるカウンタウェイト60を有する。
【0049】
これにより、グランドピアノに近い鍵2の動特性を得ることができるリンク機構30を備えていても、カウンタウェイト60により、押鍵時における鍵2について、鍵2の前後方向のバランスを取ることができる。
【0050】
また、連結リンク部材35の第1リンク部材310との連結点である第1連結点351は、連結リンク部材35の第2リンク部材320との連結点である第2連結点352よりも上側Upかつ前側Fに配置されている。これにより、第1連結点351と第2連結点352の角度と移動量の設定により、グランドピアノに近い鍵2の移動量と回転角度を得ることができる。
【0051】
また、カウンタウェイト60は、第2リンク部材320における第2固定支点32よりも前側Fに延在する取付杆320cに設けられる。これにより、構造の大型化をせずに、カウンタウェイト60を設けることができ、ハンマー部材50だけでなく、ハンマー部材50と接続する部材も錘51と連動させることができる。
【0052】
また、カウンタウェイト60は、カウンタウェイトケース61に収容される。これにより、鍵盤楽器1の内部を省スペースとしても、カウンタウェイト60の上方に他の部材を配置し易くなり、よって鍵盤楽器1を小型とすることができる。
【0053】
また、カウンタウェイトケース61の上面には、スイッチ70を備える基板71が設けられ、スイッチ70は、鍵2と連動する押下領域50a2により押下される。これにより、鍵盤楽器1を電子鍵盤楽器とするための電子部品を容易に鍵盤楽器1のケース11に配置することができる。
【0054】
また、第1リンク部材310及び第2リンク部材320は、第1部材41、第2部材42及び連結リンク部材35とボールジョイントにより連結され、第1固定支点31、第2固定支点32及び第1連結点351、第2連結点352を構成する。これにより、各連結部分を有する部材を樹脂材料により作成し、すり割りを備えるカップ状の軸受けに連結ボールをはめ込むだけで簡単に組み立て作業を行うことができる。
【0055】
また、鍵2は、鍵2の前後が球面ガイド41c,43b1,42Baによりガイドされる。これにより、樹脂材料の射出成形により容易に設けることができる球面ガイド41c,43b1,42Baにより、製造上の誤差を容易に吸収しつつ確実に鍵2の動作を案内することができる。
【0056】
また、鍵盤楽器1は、鍵2に設けられるハンマー押圧杆21h,22hにより回動する錘51を有し、カウンタウェイト60は前側Fに設けられ、錘51は後側Bに設けられる。これにより、鍵盤楽器1では、適切な押鍵時の荷重特性を得る際に、錘51の重量や、カウンタウェイト60の重量を調整すればよいので、容易に目的の荷重特性を得ることができ、他の調整手段を設ける必要がなく、構造を簡略化することができる。
【0057】
また、カウンタウェイト60及び錘51は、鍵2の押鍵時に同じ方向に揺動する、すなわち、カウンタウェイト60と錘51は、同じ上方向に揺動する。これにより、押鍵時において、錘51の揺動動作も含めた前後のバランスを適切に取ることができる。
【0058】
また、錘51はハンマー部材50に設けられ、カウンタウェイト60は、リンク機構30に設けられる。これにより、リンク機構30に加えて錘51が接続される接続部材とされるハンマー部材50を含めて押鍵時の前後のバランスを取ることができる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1 鍵盤楽器 2 鍵
10 鍵盤装置
11 ケース 12 操作パネル
20a2 押下領域 21 白鍵
21a 上面板 21b 左側板
21c 右側板 21d 前板
21e 後板 21f 前脚
21g 固定壁 21h ハンマー押圧杆
21h1 ハンマー押圧杆前板 21h11 下端部分
21h2 二股先端 21j 固定壁
21k 嵌合リブ 22 黒鍵
22a 上面板 22b 左側板
22c 右側板 22d 前板
22e 後板
22f 前脚 22g 固定壁
22h ハンマー押圧杆 22h11 下端部分
22h2 二股先端 22j 固定壁
22k 嵌合リブ
30 リンク機構 31 第1固定支点
32 第2固定支点 32a 連結ボール
35 連結リンク部材 35a 板バネ
35a1 スリット 35b 突起
35c 突起 35d 溝
35e 丸孔 35f 膨出部分
35g 溝 40 ベース部材
41 第1部材 41a 上限ストッパ
41b 連結ボール受 41c 球面ガイド
42 第2部材 42Ba 球面ガイド
42a 固定板 42b 支柱
43 前脚ガイド部材
43a 基端部分 43b 鍵ガイド
43b1 球面ガイド 43b2 突出梁
43c 上限ストッパ 43d 下限ストッパ
44 クッション
50 ハンマー部材 50a 延出部材
50a1 摺接領域 50a2 押下領域
50b 接続杆 51 錘
53 支点 60 カウンタウェイト
61 カウンタウェイトケース 61a 上面板
70 スイッチ 71 基板
310 第1リンク部材 310a 連結ボール
310b 連結カップ 320 第2リンク部材
320a 連結カップ 320b 連結カップ
320c 取付杆 351 第1連結点
351a 連結ボール 352 第2連結点
352a 連結ボール
423 ガイド板 423a 球面ガイド