(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006723
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 19/10 20060101AFI20240110BHJP
H01Q 15/14 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
H01Q19/10
H01Q15/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107889
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 翔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔
(72)【発明者】
【氏名】岩上 健一
【テーマコード(参考)】
5J020
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020AA06
5J020BA01
5J020BA07
5J020BC12
5J020BC13
5J020DA02
5J020DA03
5J020DA04
(57)【要約】
【課題】利得を増大可能なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置は、反射板を有する反射器と、前記反射器の前記反射板と対向して設けられる部分反射板と、前記反射板と前記部分反射板との間の空間に電波を放射する一次放射器とを含むEBG(Electromagnetic Band Gap:電磁バンドギャップ)構造のアンテナ装置であって、前記反射器は、前記反射板の端部のうちの少なくとも一部に配置され、前記反射板に対して傾斜して前記部分反射板に向かって延在する傾斜部をさらに有し、前記傾斜部の上端の前記反射板に対する高さは、前記反射板に対する前記部分反射板の高さの半分以上の高さである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射板を有する反射器と、
前記反射器の前記反射板と対向して設けられる部分反射板と
前記反射板と前記部分反射板との間の空間に電波を放射する一次放射器と
を含むEBG(Electromagnetic Band Gap:電磁バンドギャップ)構造のアンテナ装置であって、
前記反射器は、前記反射板の端部のうちの少なくとも一部に配置され、前記反射板に対して傾斜して前記部分反射板に向かって延在する傾斜部をさらに有し、
前記傾斜部の上端の前記反射板に対する高さは、前記反射板に対する前記部分反射板の高さの半分以上の高さである、アンテナ装置。
【請求項2】
前記傾斜部は、平面視で少なくとも前記反射板の外縁のうちの対向する二辺に設けられる、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記傾斜部の前記反射板に対する傾斜角度は、30度から60度の範囲内の角度である、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記一次放射器は、スロットアンテナであり、
前記傾斜部は、前記反射板の端部のうちの前記スロットアンテナの短手方向の延長上に位置する部分に配置される、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記反射板は、開口部を有し、
前記一次放射器は、前記開口部を通じて前記反射板と前記部分反射板との間の空間に電波を放射する、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記傾斜部の上端は、前記部分反射板まで延在している、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記傾斜部の傾斜面の高さが所定高さになる点の前記傾斜部と前記一次放射器とを結ぶ方向における位置と、前記一次放射器の放射部の中心との間の平面視における距離は、前記電波の波長をλとすると、(n+1/4)λ±λ/8(nは1以上の整数)であり、
前記所定高さは、前記反射板に対する前記部分反射板の高さの半分の高さである、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記部分反射板は、平面視で前記反射板と重なる位置に配置される第1FSS(Frequency Selective Surface)構造部を有し、
前記第1FSS構造部は、前記電波の波長をλとすると、平面視で一辺が0.7λ以上の矩形形状を有する、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記第1FSS構造部の外縁と、前記傾斜部とは、平面視で重なる部分を有する、請求項8に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
前記部分反射板は、平面視で前記傾斜部と重なる部分の領域内に設けられる誘電体を有し、
前記誘電体の厚さtは、次式(1)で表される、請求項1に記載のアンテナ装置。
【数1】
ここで、nは1以上の整数、λは前記電波の波長、εrは、波長λにおける前記誘電体の比誘電率、dxは、前記傾斜部の傾斜面の高さが所定高さになる点の前記傾斜部と前記一次放射器とを結ぶ方向における位置と、前記一次放射器の放射部の中心との間の平面視における距離であり、前記所定高さは、前記反射板に対する前記部分反射板の高さの半分の高さである。
【請求項11】
前記部分反射板は、平面視で前記傾斜部と重なる位置に配置される第2FSS(Frequency Selective Surface)構造部を有する、請求項1に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロ波を放射するための主反射器と、この主反射器の開口部に配置され、複数の金属小体からなる副反射パターンが形成された支持基板と、を設け、上記副反射パターンは、磁界方向の中央部の金属小体同士を所定の第1間隙で配置し、この中央部の金属小体の外側の金属小体同士を上記第1間隙よりも小さい第2間隙で配置するようにしたマイクロ波用アンテナがある。主反射器の底面と内側面との間には、傾斜部が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、主反射器の底面と内側面との間(主反射器の縁端の底部)には、傾斜部が設けられているが、傾斜部の高さについて特段の記載はない。傾斜部の高さが十分に高くないと、支持基板の複数の副反射パターンの間に向けて反射する反射波が十分に得られず、マイクロ波用アンテナの利得が十分に得られない。
【0005】
そこで、利得を増大可能なアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態のアンテナ装置は、反射板を有する反射器と、前記反射器の前記反射板と対向して設けられる部分反射板と、前記反射板と前記部分反射板との間の空間に電波を放射する一次放射器とを含むEBG(Electromagnetic Band Gap:電磁バンドギャップ)構造のアンテナ装置であって、前記反射器は、前記反射板の端部のうちの少なくとも一部に配置され、前記反射板に対して傾斜して前記部分反射板に向かって延在する傾斜部をさらに有し、前記傾斜部の上端の前記反射板に対する高さは、前記反射板に対する前記部分反射板の高さの半分以上の高さである。
【発明の効果】
【0007】
利得を増大可能なアンテナ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態のアンテナ装置の構成の一例を示す斜視図である。
【
図2】アンテナ装置の構成の一例を示す平面図である。
【
図3】
図1及び
図2におけるA-A矢視断面の構成の一例を示す図である。
【
図4】部分反射板の構成の一例を示す斜視図である。
【
図5】部分反射板の下面側の構成の一例を示す図である。
【
図6】EBGモードと伝搬モードの一例を示す図である。
【
図8】アンテナ装置の最大利得の周波数特性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図9A】アンテナ装置の指向性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図9B】アンテナ装置の指向性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図10】比較用のアンテナ装置の最大利得の周波数特性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図11A】比較用のアンテナ装置の指向性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図11B】比較用のアンテナ装置の指向性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図12】実施形態の第1変形例のアンテナ装置の断面構造の一例を示す図である。
【
図13】実施形態の第2変形例のアンテナ装置の断面構造の一例を示す図である。
【
図14】実施形態の第3変形例のアンテナ装置の平面構造の一例を示す図である。
【
図15】実施形態の第4変形例のアンテナ装置の平面構造の一例を示す図である。
【
図16】
図15におけるB-B矢視断面の構成の一例を示す図である。
【
図17】EBGモードの電波及び伝搬モードの電波の電界分布の一例を示す図である。
【
図18】実施形態の第4変形例のアンテナ装置の最大利得の周波数特性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図19A】実施形態の第4変形例のアンテナ装置の指向性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図19B】実施形態の第4変形例のアンテナ装置の指向性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図20】実施形態の第5変形例のアンテナ装置の平面構造の一例を示す図である。
【
図21】
図20におけるC-C矢視断面の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示のアンテナ装置を適用した実施形態について説明する。以下では、同一の要素に同一の号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
【0010】
以下では、XYZ座標系を定義して説明する。X軸に平行な方向(X方向)、Y軸に平行な方向(Y方向)、Z軸に平行な方向(Z方向)は、互いに直交する。また、以下では、説明の便宜上、-Z方向側を下側又は下、+Z方向側を上側又は上と称す場合がある。また、平面視とはXY面視することをいう。また、以下では構成が分かりやすくなるように各部の長さ、太さ、厚さ等を誇張して示す場合がある。また、平行、直角、直交、水平、垂直、上下等の文言は、実施形態の効果を損なわない程度のずれを許容するものとする。
【0011】
また、以下の説明で、「電波」とは電磁波の一種であり、一般的に、3THz以下の電磁波は電波と呼ばれている。以下では、屋外の基地局又は中継局から放射された電磁波を「電波」と呼び、電磁波一般について言及するときは「電磁波」と呼ぶ。また、以下では、「ミリ波」又は「ミリ波帯」というときは、30GHz~300GHzの周波数帯域に加えて、24GHz~30GHzの準ミリ波帯も含むものとする。
【0012】
実施形態のアンテナ装置は、一例として基地局として屋外の構造物等に固定的に取り付けられ、電波の透過量の調整を行うことで、所定の周波数の電波を透過させて出力する装置である。
【0013】
実施形態のアンテナ装置が放射する電波は、第五世代移動通信システム(5G)等のミリ波帯や、Sub-6を含む1GHz~40GHzの周波数帯域の電波であると好適である。また、実施形態のアンテナ装置が放射する電波は、LTE(Long Term Evolution)、LTE-A(LTE-Advanced)、又はUMB(Ultra Mobile Broadband)であってもよい。また、実施形態のアンテナ装置が放射する電波は、IEEE802.11(Wi-Fi(登録商標))、IEEE802.16(WiMAX(登録商標))、IEEE802.20、UWB(Ultra-Wideband)、Bluetooth(登録商標)、又はLPWA(Low Power Wide Area)等であってもよい。電波の周波数が高くなるにつれて、反射や回折による伝搬損失が大きくなり、高い利得のアンテナ装置が求められる。このため、実施形態のアンテナ装置は、比較的高い周波数を扱う通信に、より好適である。以下では、特に断らない限り、一例としてミリ波帯とSub-6の電波を用いて説明する。
【0014】
<実施形態>
図1は、実施形態のアンテナ装置100の構成の一例を示す斜視図である。
図2は、アンテナ装置100の構成の一例を示す平面図である。
図3は、
図1及び
図2におけるA-A矢視断面の構成の一例を示す図である。
【0015】
<アンテナ装置100の構成>
アンテナ装置100は、反射器110、部分反射板120、及びスロットアンテナ130を含む。スロットアンテナ130は、一次放射器の一例である。以下では、
図1乃至
図3に加えて、
図4及び
図5を用いて説明する。
図4は、部分反射板120の構成の一例を示す斜視図である。
図5は、部分反射板120の下面側の構成の一例を示す図である。
【0016】
アンテナ装置100は、
図3に示す反射器110の反射板111の反射面111Aと、部分反射板120の下面120Aとの間の高さhが、アンテナ装置100が通信に用いる電波の波長λの略1/2に相当する距離に設定されている。このため、反射器110及び部分反射板120は、スロットアンテナ130から放射され、反射板111と部分反射板120との間でZ方向に伝搬する電波に対しては共振器として振る舞う。共振器はカットオフ周波数を有するため、アンテナ装置100は、EBG(Electromagnetic Band Gap:電磁バンドギャップ)構造のアンテナ装置である。なお、高さhについては、アンテナ装置100が通信に用いる電波の波長λの1/2に対して、例えば±5%~±10%程度の誤差は許容される。
【0017】
また、スロットアンテナ130から放射された電波の一部は、反射器110及び部分反射板120の共振器で共振せずに、反射器110及び部分反射板120の間で±X方向に伝搬することがシミュレーション結果で分かっている。アンテナ装置100は、反射器110及び部分反射板120の間で±X方向に伝搬する電波を反射器110の傾斜部112で+Z方向に反射して、部分反射板120を通じて+Z方向に放射する。このようにすることで、アンテナ装置100の利得を向上させる。なお、ここでは、一例として、スロットアンテナ130は、XZ平面内で伝搬する電波を放射する構成である。
【0018】
<反射器110の構成>
反射器110は、反射板111と、2つの傾斜部112とを有する。反射板111は、平面視における反射器110の中央部に設けられる板状の部分であり、上面が反射面111Aである。反射面111Aは、XY平面に平行な平坦面である。反射板111は、スロットアンテナ130から放射されて、部分反射板120の下面120Aで反射された電波を+Z方向に反射するために設けられている。
【0019】
2つの傾斜部112は、平面視で矩形状の反射板111の±X方向側の端部に設けられており、傾斜面112Aを有する。すなわち、2つの傾斜部112は、平面視で反射板111の外縁のうちの対向する二辺に設けられている。2つの傾斜部112は、X方向において互いに傾斜面112A同士を向き合わせるように配置されるが、一例として2つの傾斜部112の形状は等しい。
【0020】
傾斜面112Aは、傾斜部112の下端側の反射面111Aと同じ高さの位置から上端まで延在しており、電波を反射する反射面として機能する。2つの傾斜部112の傾斜面112Aは、スロットアンテナ130から放射されて、反射板111と部分反射板120との間を+X方向及び-X方向に伝搬する電波を+Z方向に反射するために設けられている。傾斜部112は、XZ断面が三角形状でY方向に延在する柱状の部分である。傾斜部112の上端は、部分反射板120の下面120Aに接しており、部分反射板120を支持している。
【0021】
このような傾斜部112は、反射板111の端部のうちの少なくとも一部に配置され、反射板111に対して傾斜して部分反射板120に向かって延在していればよい。反射板111の端部のうちの少なくとも一部に傾斜部112が配置されることで、反射板111と部分反射板120との間を±X方向に伝搬する電波を+Z方向に反射できるからである。なお、反射板111の±Y方向側の端部には開口部が設けられていてもよく、又は、反射板111の±Y方向側の端部の少なくとも一部を覆う壁部が設けられていてもよい。
【0022】
ここでは、一例として、反射板111と、2つの傾斜部112とが一体的に形成されている形態について説明する。反射器110は、少なくとも反射面111Aと傾斜面112Aとが金属で形成されていればよいが、ここでは反射器110の全体が金属製である形態について説明する。ただし、反射器110は、樹脂等の絶縁体製であって、反射面111A及び傾斜面112Aに金属箔等が形成されている構成であってもよい。また、反射器110は、板金を折り曲げて反射面111A及び傾斜面112Aを有するように形成された金属板で構成されてもよい。反射器110が金属製である場合には、例えば、アルミニウム、鉄、銅、ステンレス鋼、又は真鍮等を用いることができる。
【0023】
また、スロットアンテナ130から放射されて、反射板111と部分反射板120との間を+X方向及び-X方向に伝搬する電波を+Z方向に効率的に反射可能にするために、傾斜部112の上端の反射板111に対する高さは、反射板111に対する部分反射板120の高さhの半分以上の高さであればよい。より具体的には、傾斜部112の上端の反射板111の反射面111Aに対する高さは、反射板111の反射面111Aに対する部分反射板120の下面120Aの高さhの半分以上の高さであればよい。
【0024】
傾斜部112の上端の反射板111に対する高さをh/2以上にすることによって、スロットアンテナ130から放射されて反射板111と部分反射板120との間を+X方向及び-X方向に伝搬する電波を傾斜面112Aで+Z方向に効率的に反射することができ、アンテナ装置100の利得を向上させることができる。なお、ここでは傾斜面112Aが傾斜部112の下端側の反射面111Aと同じ高さの位置から部分反射板120の下面120Aまで延在する形態について説明するが、傾斜面112Aの上端は、反射板111に対する部分反射板120の高さhの半分以上の高さまで延在していれば、部分反射板120の下面120Aよりも低くてもよい。この場合に、X方向における傾斜部112よりも外側に、例えばYZ平面に平行な壁部が設けられていてもよい。
【0025】
傾斜面112Aの傾斜角度αは、一例として45度であるが、30度から60度の範囲内の角度であればよい。傾斜角度αは、XZ平面内において、XY平面に平行な反射面111Aに対する傾斜面112Aの角度である。角度αをこのような範囲内の角度に設定することで、反射板111と部分反射板120との間を+X方向及び-X方向に伝搬する電波を+Z方向に効率的に反射できる。
【0026】
また、ここでは、傾斜部112の上端で部分反射板120を支持する形態について説明するが、部分反射板120は、傾斜部112とは別に設けられる支柱等によって支持されていてもよい。また、反射板111と、2つの傾斜部112とは、別体として設けられていて、相対位置が固定されている構成であってもよい。
【0027】
<部分反射板120>
部分反射板120は、基板121、及び、FSS(Frequency Selective Surface)構造部122を有する。FSS構造部122は、第1FSS構造部の一例である。
【0028】
基板121は、絶縁体製の基板であり、上面にはFSS構造部122が設けられている。基板121は、一例として、可撓性を有しないリジッド基板である。可撓性とは、外観で分かる程度に物体が折れずに曲がる性質である。基板121は、リジッド基板である場合には、例えば、ガラス布にエポキシ樹脂等を含浸させたプリプレグとコア材とを貼り合わせた基板、PTFE(polytetrafluoroethylene)等のフッ素樹脂製の基板、又はガラス板等を用いることができる。基板121の下面は、部分反射板120の下面120Aであり、反射器110の反射板111の反射面111Aに対向する対向面である。下面120Aは、XY平面に平行な平坦面である。
【0029】
FSS構造部122は、基板121の上面に配置される複数の導体部122Aと、基板121の下面に配置される1つの導体部122Bとを有する。FSS構造部122は、平面視で反射板111と重なる位置に配置される。ここでは、一例として、FSS構造部122は、平面視で反射板111と重なるが傾斜部112とは重ならない位置に配置される形態について説明するが、例えば、FSS構造部122の±X方向側の外縁が、傾斜部112と重なる部分を有していてもよい。
【0030】
各導体部122Aは、一例として平面視で矩形状の導体パターンである。導体部122Bは、平面視で複数の導体部122Aと重なる位置に配置され、各導体部122Aと重なる部分に矩形状の開口部が形成された導体パターンである。導体部122A及び122Bは、一例として、銅、ニッケル、又は金等の金属薄膜で形成可能である。
【0031】
導体部122Bの開口部のX方向及びY方向の長さは、導体部122AのX方向及びY方向の長さよりも長い。このため、平面視で各導体部122Aは、導体部122Aの複数の開口部の内部に位置する。
図4に抜き出して拡大して示す1つの導体部122Aに対応する部分(1つの導体部122Aと、導体部122Bのうちの1つの開口部を囲む部分)とは、FSSセルを構成する。FSS構造部122は、複数のFSSセルが周期的に配列された周期構造を有する。
【0032】
導体部122AのX方向の数Nx、及び、Y方向の数Nyは、導体部122Bの開口部のX方向の数、及び、Y方向の数と等しい。ここでは、一例として、Nx=5、Ny=5である。Nx及びNyは、FSS構造部122のX方向及びY方向の長さを0.7λ以上に設定する際に、導体部122A及び122BのX方向及びY方向の長さ及びピッチに応じて、適切な数に設定すればよい。導体部122Aのピッチは、X方向及びY方向で隣り合う導体部122A同士の中心同士の間隔であり、導体部122Aのピッチは、X方向及びY方向で隣り合う導体部122A同士の中心同士の間隔である。λは、アンテナ装置100が通信に用いる電波の波長である。なお、導体部122A及び122BのX方向及びY方向の長さは、λ/2以下であればよく、λ/4以下であることが好ましく、λ/8程度であってもよい。
【0033】
FSS構造部122は、所定の周波数帯域の電波を透過し、所定の周波数帯域以外の周波数の電波を遮断する性質を有する。所定の周波数帯域は、アンテナ装置100が放射する電波の周波数を含む周波数帯域に設定されており、反射板111と部分反射板120との間の共振器において共振する電波の共振周波数を含む周波数帯域である。FSS構造部122は、+Z方向側に透過する電波の電力が適切な値になり、且つ-Z方向側に反射する電波の反射時の位相が略180度となるように構成されており、反射器110と部分反射板120との間の共振器で共振する電波を少しずつ(部分的に)+Z方向に透過する。反射時の位相が略180度になるとは、一例として、反射時の位相が180度±30度になることをいう。また、EBG構造は高さhが半波長であるため帯域が狭いが、FSS構造部122を用いることで、共振させながら帯域を広げることができる。スロットアンテナ130が放射する電波の周波数が5GHzであるのに対して、FSS構造部122が部分反射器によって共振する周波数帯は、一例として、5GHz付近で500MHzの帯域である。また、部分反射板の透過量は+Z方向に透過する量が小さいほど利得が大きなアンテナとなり、一例では5GHz付近で-1.3dBから-2dBの透過量である。なお、給電部は、一例として、スロットアンテナ130の長手方向に沿った縁の近傍に設ければよい。
【0034】
なお、一例として、X方向において隣り合う導体部122A同士のピッチPxは、一例として、8mmである。ピッチPxは、X方向において隣り合う導体部122Aの中心同士の間隔である。また、Y方向において隣り合う導体部122A同士のピッチPyは、一例として、8mmである。ピッチPyは、Y方向において隣り合う導体部122Aの中心同士の間隔である。導体部122AのX方向及びY方向の長さは、一例として、ともに7.3mmである。なお、ピッチPxとピッチPyは異なっていてもよい。また、導体部122AのX方向及びY方向の長さは、異なっていてもよい。
【0035】
また、導体部122Bの開口部のX方向及びY方向の長さは、一例として、ともに6.5mmである。また、一例として、基板121の厚さは1.6mmであり、比誘電率は3であり、誘電損失tanδは0.01である。導体部122A及び122Bとして用いる金属は一例として銅であり、厚さは35μmである。
【0036】
このような構成のFSS構造部122は、アンテナ装置100が出力する電波の自由空間における波長をλとすると、平面視で一辺が0.7λ以上の矩形形状を有する構成であればよい。ここでは、一例として、複数の導体部122Aが基板121の上面に設けられる領域のX方向及びY方向の長さよりも、基板121の下面(部分反射板120の下面120A)に導体部122BのX方向及びY方向の長さの方が長いため、導体部122BのX方向及びY方向の長さが0.7λ以上であればよい。FSS構造部122のX方向及びY方向の長さを0.7λ以上に設定することで、FSS構造部122を含まないアンテナ装置に比べて、最大利得を3dB以上増大させることができる。
【0037】
<スロットアンテナ130>
スロットアンテナ130は、一例として、反射板111の平面視における中央部に設けられるスロット(細長い開口部)によって実現される。一例として、スロットアンテナ130の長手方向は、Y方向であり、短手方向(平面視で長手方向と垂直な方向)は、X方向である。
【0038】
スロットアンテナ130は、図示を省略する給電点に電力が供給されることによって電磁界を励振し、偏波方向がX方向の電波を+Z方向に放射する。このときに、電波はスロットアンテナ130を含むXZ平面内で広がるように伝搬するため、反射器110と部分反射板120との間で共振するモード(以下、EBGモードと称す)の成分と、反射器110と部分反射板120との間で±X方向に伝搬するモード(以下、伝搬モードと称す)の成分とが生じる。スロットアンテナ130は、±X方向に伝搬する伝搬モードの成分が生じやすい。スロットアンテナ130から放射されて共振する電波の周波数は、一例として、5GHzである。
【0039】
なお、ここでは、一次放射器として反射器110の反射板111に設けられたスロットアンテナ130を用いる形態について説明するが、反射板111には開口部が設けられていて、開口部の下方にスロットアンテナ130が配置されていてもよい。このような構成については、
図13を用いて後述する。また、ここでは、一次放射器としてスロットアンテナ130を用いる形態について説明するが、一次放射器はスロットアンテナ以外のアンテナであってもよく、例えばパッチアンテナであってもよい。
【0040】
<EBGモードと伝搬モード>
図6は、EBGモードと伝搬モードの一例を示す図である。
図6において、+Z方向を向く白抜きの破線の矢印は、EBGモードの電波の伝搬方向を示し、破線の+X方向の矢印は、ある瞬間におけるEBGモードの電波の偏波方向を示す。EBGモードの電波は、反射器110と部分反射板120との間の共振器で共振し、FSS構造部122によって電波の透過量の調整が行われて、所定の周波数の成分が部分反射板120を透過して+Z方向に出力される。
図6において、反射器110と部分反射板120との間に細かいドットで示す楕円の領域は、EBGモードの電波の共振が主体的に生じている領域を示す。EBGモードの電波は、反射器110と部分反射板120との間の共振器で共振することで、同相の電波が平面視で球状に広がるため、グレーで示す楕円の領域で共振が生じる。
【0041】
また、
図6において、傾斜面112Aに向かって±X方向を向く白抜きの一点鎖線の矢印と、傾斜面112Aから+Z方向を向く白抜きの一点鎖線の矢印とは、伝搬モードの電波の伝搬方向を示し、白抜きの一点鎖線の矢印に垂直な実線の矢印は、ある瞬間における伝搬モードの電波の偏波方向を示す。伝搬モードの電波は、反射器110と部分反射板120との間で±X方向に伝搬し、傾斜面112Aで+Z方向に反射され、部分反射板120の±X方向側の端部の基板121のみの部分(FSS構造部122が設けられていない部分)を通過して、+Z方向に出力される。
【0042】
スロットアンテナ130から反射器110と部分反射板120との間の空間に放射される電波は、EBGモードの成分が主体的であり、伝搬モードの成分は割合が少ない。しかしながら、伝搬モードの成分を傾斜面112Aで+Z方向に反射させることによって、部分反射板120から+Z方向に出力される電波を増やすことができるので、アンテナ装置100の利得を向上させることができる。また、FSS構造部122の±X方向側の外縁が、傾斜部112と重なる部分を有する場合には、反射器110に部分反射板120を取り付ける際のX方向のずれを吸収しやすい構造が得られる。
【0043】
なお、上述のようなFSS構造部122を有する部分反射板120の代わりに、FSS構造部122を有さずに、基板121の厚さをアンテナ装置100が出力する電波の波長λの電気長λeの略1/4に設定した部分反射板を用いてもよい。電気長λeは、基板121の比誘電率によって決まる長さである。この場合の基板121の材質としては、比誘電率が比較的大きい誘電体を用いることが好ましい。波長の短縮効果が大きく、小型化等に寄与するとともに、部分反射板での透過量が小さいために共振器で共振する電波が強くなり利得を大きくすることができるからである。
【0044】
厚さがλe/4の基板121で構成される部分反射板を用いることにより、部分反射板の下面で反射されるEBGモードの電波と、部分反射板の内部において部分反射板120の上面で反射されるEBGモードの電波とが同位相になり、部分反射板での透過量を小さくすることができる。部分反射板の下面で反射される際に、EBGモードの電波の位相は180度進む。また、部分反射板の下面から内部に伝搬して上面で反射されるEBGモードの電波は、部分反射板の下面で反射される電波に比べて、経路がλe/2だけ長くなる。このため、FSS構造部122を有さずに基板121の厚さをλe/4に設定した部分反射板を用いても、EBGモードの電波が反射器110と部分反射板との間の共振器で共振する状態を実現できる。このような部分反射板を含む場合でも、アンテナ装置100は、EBG構造のアンテナ装置である。
【0045】
<傾斜面112Aの位置>
図7は、傾斜面112Aの位置の一例を示す図である。
図7では、
図6と同様に、破線の矢印は、ある瞬間におけるEBGモードの電波の偏波方向を示し、実線の矢印は、ある瞬間における伝搬モードの電波の偏波方向を示す。EBGモードの電波の偏波方向と、伝搬モードの電波の偏波方向とは、同じ瞬間におけるものである。また、
図7では、スロットアンテナ130のX方向における中心130CをX座標がゼロの点として、傾斜面112AのX方向における位置を説明する。
【0046】
最終的にアンテナ装置100の部分反射板120から+Z方向に放射される電波の利得を向上させるには、部分反射板120の上面からの高さが等しい位置において、EBGモードの電波の偏波方向(1)と、FSS構造部122の+X方向側から放射される伝搬モードの電波の偏波方向(2)と、FSS構造部122の-X方向側から放射される伝搬モードの電波の偏波方向(3)とが同一である必要がある。EBGモードの電波と、伝搬モードの電波とは、同一位相であれば電波は強め合って利得を向上させることができるが、逆位相であれば弱め合うため利得が低下するからである。
【0047】
ここで、部分反射板120の厚さを無視して部分反射板120の上面におけるEBGモードの電波の偏波方向(1)と、伝搬モードの電波の偏波方向(2)及び(3)とについて検討する。
【0048】
EBGモードの電波は、スロットアンテナ130から+Z方向に放射されて、部分反射板120の上面に到達するまでに、高さh(距離h)だけ伝搬する。ここで、高さhは、h=λ/2である。すなわち、EBGモードの電波は、スロットアンテナ130から+Z方向に放射されて、部分反射板120の上面に到達するまでに、λ/2だけ伝搬する。
【0049】
ここで、スロットアンテナ130のX方向における中心130Cから、±X方向に電波の波長λの1/4の距離の位置を+X1、-X1とする。反射器110と部分反射板120との間でスロットアンテナ130よりも+X方向に伝搬する伝搬モードの電波は、+X1の位置では偏波方向(2A1)を有し、電波がさらに+X方向に伝搬すると偏波方向(2A2)を有し、+X2の位置では傾斜面112Aで反射されるため、-Z方向の偏波方向(2A3)と、反射された電波の偏波方向(2A4)とを有することになる。
【0050】
同様に、反射器110と部分反射板120との間でスロットアンテナ130よりも-X方向に伝搬する伝搬モードの電波は、-X1の位置では偏波方向(3A1)を有し、電波がさらに-X方向に伝搬すると偏波方向(3A2)を有し、-X2の位置では傾斜面112Aで反射されるため、+Z方向の偏波方向(3A3)と、反射された電波の偏波方向(3A4)とを有することになる。
【0051】
反射板111の反射面111Aに対する傾斜面112Aの高さがh/2になる点Sで+Z方向に反射されてアンテナ装置100から+Z方向に放射される伝搬モードの電波の偏波方向(2)及び(3)が、EBGモードの電波の偏波方向(1)と同一方向になるためには、部分反射板120の上面において、伝搬モードの電波と、EBGモードの電波との伝搬距離の差がnλになればよい。なお、nは1以上の整数である。
【0052】
伝搬モードの電波は、傾斜面112Aの高さがh/2になる点Sで反射されてから、+Z方向にλ/4だけ伝搬する。このため、伝搬距離の差をnλにするには、伝搬モードの電波が、X方向において、スロットアンテナ130の中心130Cから点Sまで伝搬する距離dxは、(n+1/4)λであればよい。スロットアンテナ130の中心130Cから点Sまで伝搬する距離dxを(n+1/4)λに設定することで、伝搬モードの電波は、スロットアンテナ130の中心130Cから点Sを経て部分反射板120の上面に到達するまでに距離(n+1/2)λだけ伝搬することになり、伝搬距離の差がnλになる。なお、アンテナ装置100は、+X方向側の傾斜面112Aで反射される経路と、-X方向側の傾斜面112Aで反射される経路とで、伝搬距離の差nλのnの値が異なる構成であってもよい。
【0053】
伝搬モードの電波とEBGモードの電波との伝搬距離の差がnλになれば、部分反射板120の表面において、伝搬モードの電波とEBGモードの電波とは同位相になり、EBGモードの電波の偏波方向(1)と、伝搬モードの電波の偏波方向(2)及び(3)とは等しくなる。この結果、EBGモードの電波と、伝搬モードの電波とは、強め合う関係になる。このようなEBGモードの電波と、伝搬モードの電波との位相の関係は、部分反射板120の表面から+Z方向に離れても保持される。
【0054】
なお、反射面111Aに対する傾斜面112Aの高さがh/2になる点Sで反射される伝搬モードの電波の偏波方向(2)及び(3)について説明したが、反射面111Aに対する傾斜面112Aの高さがh/2より低い点では、X方向の伝搬距離が短くなるとともに、+Z方向の伝搬距離が長くなるため、合計の伝搬距離は同一である。また、反射面111Aに対する傾斜面112Aの高さがh/2より高い点においても同様であり、合計の伝搬距離は同一である。スロットアンテナ130の中心130Cに対する傾斜部112の位置を説明するには、高さがh/2になる点Sを用いるのが最も分かりやすいため、ここでは一例として、高さがh/2になる点Sを用いて説明している。
【0055】
また、ここでは傾斜面112Aの傾斜角度αが45度の場合について説明したが、傾斜角度αが45度以外の角度であっても同様であり、X方向において、スロットアンテナ130の中心130Cから点Sまでの距離dxが(n+1/4)λになる関係を有するように、傾斜部112を配置すればよい。傾斜角度αは、30度から60度の範囲内で設定され得る。
【0056】
<シミュレーション結果>
図8は、アンテナ装置100の最大利得の周波数特性のシミュレーション結果の一例を示す図である。横軸は周波数(GHz)を示し、縦軸はアンテナ装置100の最大利得(dBi)を示す。高さh=30mm、X方向におけるスロットアンテナ130の中心130Cから±X方向側の傾斜面112Aの点Sまでの距離dxを79mm、傾斜角度αを45度、導体部122AのX方向及びY方向の数Nx及びNyをともに21個に設定した。これらの値は、反射器110と部分反射板120との共振器の共振周波数を5GHzに設定する場合の値である。また、反射器110は、X方向の長さが200mm、Y方向の長さが400mmの完全導体とした。
【0057】
このような条件で、電磁界シミュレーションを行ったところ、
図8に示すように、アンテナ装置100の最大利得(Max Gain)は5GHzで最大値(約16.5dBi)を取った。
【0058】
図9A及び
図9Bは、アンテナ装置100の指向性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図9AにはXZ面での指向性を示し、
図9BにはYZ面での指向性を示す。
図9A及び
図9Bにおける約±10度の方向に示す実線は、メインローブの半値幅を示しており、
図9Aでは18.2度、
図9Bでは28.6度である。指向性については、比較用のアンテナ装置の結果と比較して後述する。
【0059】
図10は、比較用のアンテナ装置の最大利得の周波数特性のシミュレーション結果の一例を示す図である。横軸は周波数(GHz)を示し、縦軸は比較用のアンテナ装置の最大利得(dBi)を示す。比較用のアンテナ装置は、反射器110の傾斜部112を除去し、反射板111をXZ平面に沿って平面視で拡大した構成を有する。
【0060】
アンテナ装置100と同一条件で電磁界シミュレーションを行ったところ、
図10に示すように、比較用のアンテナ装置の最大利得(Max Gain)は5.2GHzで最大値(約15.5dBi)を取った。これは、アンテナ装置100の最大利得(Max Gain)よりも約1dB低い値であった。すなわち、アンテナ装置100は、傾斜部112を有することで、最大利得(Max Gain)を約1dB改善できたことが分かった。
【0061】
【0062】
図9Aに示すアンテナ装置100のXZ平面の指向性は、
図11Aに示す比較用のアンテナ装置のXZ面での指向性に比べると、サイドローブが低減されるとともに、メインローブが大きくなったことが分かった。より具体的には、メインローブは、比較用のアンテナ装置の13.9dBiからアンテナ装置100では16.7dBiまで増大し、サイドローブ比は-11.5dBから-16.9dBに減少した。
図9A及び
図11Aではサイドローブ比のレベルを円で示す。これは、伝搬モードの電波が+Z方向に効率的に反射され、アンテナ装置100の利得が増えたためと考えられる。
【0063】
また、
図9Bに示すアンテナ装置100のYZ平面の指向性は、
図11Bに示す比較用のアンテナ装置のYZ面での指向性に比べて、メインローブ及びサイドローブの形状及びサイズは略同一であり、傾斜部112を追加した影響は、YZ平面での指向性には生じていないことを確認できた。なお、
図9B及び
図11Bにおいてもサイドローブ比のレベルを円で示す。
【0064】
なお、ここでは、一例として、X方向において、スロットアンテナ130の中心130Cから点Sまでの距離dxが(n+1/4)λになる関係を有するように、傾斜部112を配置する形態について説明した。しかしながら、傾斜部112の位置は、このような位置に限られない。一例として、X方向において、スロットアンテナ130の中心130Cから点Sまでの距離dxが(n+1/4)λ±λ/8になる関係を有していれば、部分反射板120の+Z方向側において、EBGモードの電波の位相と、伝搬モードの電波の位相とを略同位相にすることができ、アンテナ装置100の利得を向上できることが確認できた。EBGモードの電波の位相と、伝搬モードの電波の位相との差が±45度以内であれば、略同位相として考えられるからである。
【0065】
<効果>
以上のように、アンテナ装置100は、反射板111を有する反射器110と、反射器110の反射板111と対向して設けられる部分反射板120と、反射板111と部分反射板120との間の空間に電波を放射するスロットアンテナ130とを含むEBG構造のアンテナ装置100である。反射器110は、反射板111の端部のうちの少なくとも一部に配置され、反射板111に対して傾斜して部分反射板120に向かって延在する傾斜部112をさらに有し、傾斜部112の上端の反射板111に対する高さは、反射板111に対する部分反射板120の高さの半分以上の高さである。このため、スロットアンテナ130から放射された電波のうち、EBGモードではなく伝搬モードになった成分を傾斜部112で効率的に部分反射板120に向けて反射できる。
【0066】
したがって、利得を増大可能なアンテナ装置100を提供できる。また、反射器110に傾斜部112を追加することで利得を増大可能なアンテナ装置100を実現できるので、アンテナ装置100の小型化及び低価格化を図ることができる。また、傾斜部112の位置に応じて、部分反射板120を透過するEBGモードの電波と、傾斜部112で反射されて部分反射板120を透過する電波との分布を設定できるので、利得を設定可能なアンテナ装置100を提供できる。
【0067】
また、傾斜部112は、平面視で少なくとも反射板111の外縁のうちの対向する二辺に設けられるので、スロットアンテナ130から放射されて、二辺に向かう方向に伝搬する伝搬モードの電波を効率的に部分反射板120に向けて反射できる。したがって、二辺に向かう方向に伝搬する伝搬モードの電波を効率的に反射することで利得を増大可能なアンテナ装置100を提供できる。
【0068】
また、傾斜部112の反射板111に対する傾斜角度αは、30度から60度の範囲内の角度であるので、伝搬モードの電波の傾斜部112での効率的な反射と、小型化とを両立可能なアンテナ装置100を提供できる。
【0069】
また、一次放射器はスロットアンテナ130であり、傾斜部112は、反射板111の端部のうちのスロットアンテナ130の短手方向の延長上に位置する部分に配置される。スロットアンテナ130から放射される電波は、スロットアンテナ130の短手方向に伝搬するため、反射板111の端部のうちのスロットアンテナ130の短手方向の延長上に位置する部分に傾斜部112を配置することで、伝搬モードの電波を確実に部分反射板120に向けて反射でき、より効率的に利得を増大可能なアンテナ装置100を提供できる。
【0070】
また、傾斜部112の上端は、部分反射板120まで延在しているので、反射器110と部分反射板120との間の空間のすべての伝搬モードの電波を反射可能で、利得をさらに増大可能なアンテナ装置100を提供できる。
【0071】
また、傾斜部112の傾斜面112Aの高さが所定高さになる点SのX方向における位置と、スロットアンテナ130の放射部の中心との間の平面視における距離dxは、電波の自由空間における波長をλとすると、(n+1/4)λ±λ/8(nは1以上の整数)であり、所定高さは、反射板111に対する部分反射板120の高さhの半分の高さ(h/2)である。このため、部分反射板120から+Z方向に放射されるEBGモードの電波と伝搬モードの電波とを同位相にすることができ、より効果的に利得を増大可能なアンテナ装置100を提供できる。なお、X方向は、傾斜部112とスロットアンテナ130とを結ぶ方向である。
【0072】
また、部分反射板120は、平面視で反射板111と重なる位置に配置されるFSS構造部122を有し、FSS構造部122は、スロットアンテナ130が放射する電波の自由空間における波長をλとすると、平面視で一辺が0.7λ以上の矩形形状を有する。このため、EBGモードの電波が反射器110と部分反射板120との間の空間で共振する共振器を実現でき、部分反射板120を+Z方向に透過するEBGモードの電波の放射面の面積を増大させて、より効果的に利得を増大可能なアンテナ装置100を提供できる。また、EBG構造は高さhが半波長であるため帯域が狭いが、FSS構造部122を用いることで帯域を広げることができ、アンテナ装置100の広帯域化を図ることができる。
【0073】
また、アンテナ装置100は、FSS構造部122の外縁と、傾斜部112とが平面視で重なる部分を有する場合には、反射器110に部分反射板120を取り付ける際のX方向のずれを吸収しやすい構成のアンテナ装置100を提供できる。
【0074】
<第1変形例>
図12は、実施形態の第1変形例のアンテナ装置100M1の断面構造の一例を示す図である。
図12に示す断面は、
図3に示す断面に相当する。
【0075】
アンテナ装置100M1は、+X方向側の傾斜部112の傾斜角度αが30度に設定されている点が、
図3に示すアンテナ装置100と異なる。その他の構成は、
図3に示すアンテナ装置100と同様である。
【0076】
アンテナ装置100M1は、+X方向側の傾斜部112と、-X方向側の傾斜部112との傾斜角度が異なる。このため、+X方向側の傾斜部112の点SのX方向における位置と、スロットアンテナ130の放射部の中心130Cとの間の距離dx1と、-X方向側の傾斜部112の点SのX方向における位置と、スロットアンテナ130の放射部の中心130Cとの間の距離dx2とが異なる。
【0077】
このように、2つの傾斜部112の傾斜角度が異なっていても、スロットアンテナ130から放射された電波のうち、伝搬モードになった成分を傾斜部112で効率的に部分反射板120に向けて反射できる。したがって、利得を増大可能なアンテナ装置100M1を提供できる。また、小型化及び低価格化を図ることができるとともに、利得を設定可能なアンテナ装置100M1を提供できる。
【0078】
<第2変形例>
図13は、実施形態の第2変形例のアンテナ装置100M2の断面構造の一例を示す図である。
図13に示す断面は、
図3に示す断面に相当する。
【0079】
アンテナ装置100M2は、反射器110の反射板111がスロットアンテナ130の代わりに開口部111Bを有し、反射板111の下方に、スロットアンテナ130を有する導波管140が配置されている。アンテナ装置100M2は、反射器110と、部分反射板120と、スロットアンテナ130を有する導波管140とを含む構成である。
【0080】
反射板111の開口部111Bは、平面視でスロットアンテナ130の開口よりも大きく、かつ、導波管140は、平面視で開口部111B内にスロットアンテナ130が含まれるように配置されている。導波管140は、図示しない部材等によって、反射器110等に固定すればよい。スロットアンテナ130は、開口部111Bを通じて反射板111と部分反射板120との間の空間に電波を放射する。
【0081】
また、スロットアンテナ130の中心130Cから点Sまでの距離dxが(n+1/4)λ±λ/8になる関係を有することで、部分反射板120の+Z方向側において、EBGモードの電波の位相と、伝搬モードの電波の位相とを略同位相にすることができる。
【0082】
このようなアンテナ装置100M2においても、アンテナ装置100と同様に、スロットアンテナ130から放射され、開口部111Bを通じて反射器110と部分反射板120との間の空間に放射された電波のうち、伝搬モードになった成分を傾斜部112で効率的に部分反射板120に向けて反射できる。したがって、利得を増大可能なアンテナ装置100M2を提供できる。また、導波管140を薄型にすることにより、アンテナ装置100M2の小型化を図ることができる。
【0083】
<第3変形例>
図14は、実施形態の第3変形例のアンテナ装置100M3の平面構造の一例を示す図である。
図14に示す平面構造は、
図2に示す平面構造に相当する。
【0084】
アンテナ装置100M3は、
図2に示すアンテナ装置100に対して、反射板111の±Y方向の端部に設けられる2つの傾斜部113を追加するとともに、
図2に示すスロットアンテナ130の代わりに、2つのスロットアンテナ130A及び130Bを反射器110の反射板111に設けた構成を有する。
【0085】
スロットアンテナ130Aは、
図2に示すスロットアンテナ130を少し-X方向側に移動させたものであり、長手方向がY方向で、短手方向がX方向であり、
図2に示すスロットアンテナ130と同様に電波を放射する。
【0086】
スロットアンテナ130Bは、スロットアンテナ130Aの+X方向側に設けられ、長手方向がX方向で、短手方向がY方向である。スロットアンテナ130Bは、図示を省略する給電点に電力が供給されることによって電磁界を励振し、偏波方向がY方向の電波を+Z方向に放射する。このときに、電波はスロットアンテナ130Bを含むYZ平面内で広がるように伝搬するため、反射器110と部分反射板120との間で共振するEBGモードの成分と、反射器110と部分反射板120との間で±Y方向に伝搬する伝搬モードの成分とが生じる。スロットアンテナ130Bは、±Y方向に伝搬する伝搬モードの成分が生じやすい。
【0087】
±Y方向に伝搬する伝搬モードの電波は、傾斜部113で+Z方向に反射され、部分反射板120のFSS構造部122とは重なっていない部分から+Z方向に放射される。
【0088】
アンテナ装置100M3では、スロットアンテナ130Aから放射される電波のうちのEBGモードになる電波と、スロットアンテナ130Bから放射される電波のうちのEBGモードになる電波とが、反射器110の反射板111と部分反射板120との間で共振して部分反射板120の+Z方向に放射される。
【0089】
また、アンテナ装置100M3では、スロットアンテナ130Aから放射される電波のうちの伝搬モードになる電波が傾斜部112で+Z方向に反射されて部分反射板120の+Z方向に放射される。また、スロットアンテナ130Bから放射される電波のうちの伝搬モードになる電波が傾斜部113で+Z方向に反射されて部分反射板120の+Z方向に放射される。
【0090】
アンテナ装置100M3は、2つのスロットアンテナ130A及び130Bと、2組の傾斜部112及び113とを含むことで、1つのアンテナ装置100M3で直交する2つの偏波を放射することが可能である。なお、2つのスロットアンテナ130A及び130Bから放射される電波の周波数は異なっていてもよい。電波の周波数が異なる場合には、アンテナ装置100M3が通信可能な帯域をさらに広げることができる。
【0091】
<第4変形例>
図15は、実施形態の第4変形例のアンテナ装置100M4の平面構造の一例を示す図である。
図15に示す平面構造は、
図2に示す平面構造に相当する。
図16は、
図15におけるB-B矢視断面の構成の一例を示す図である。
図16に示す断面は、
図3に示す断面に相当する。
【0092】
アンテナ装置100M4は、部分反射板120の上面のうちの傾斜部112と重なる部分に配置される誘電体150を含む点が、
図2及び
図3に示すアンテナ装置100と異なる。その他の構成は、
図2及び
図3に示すアンテナ装置100と同様である。
【0093】
ここで、
図15及び
図16を用いてアンテナ装置100M4の構成、作用、及び効果について説明する前に、
図17を用いて、EBGモードの電波及び伝搬モードの電波の分布と利得の関係について説明する。
図17は、部分反射板120の上面におけるEBGモードの電波及び伝搬モードの電波の電界分布の一例を示す図である。
【0094】
図17(A)~(C)において、色が濃い部分ほど電界が強く、色が薄い部分ほど電界が弱いことを表す。また、
図17(A)~(C)において、X方向における中心にある同心円状の電界分布はEBGモードの電波の電界分布を示し、EBGモードの電界分布の±X方向側にあるY方向に長い楕円状の電界分布は、伝搬モードが傾斜部112で反射され+Z方向に放射される電波の電界分布を示す。EBGモードの電界分布の広がり方は部分反射板120の設計によって変化する。
【0095】
EBGモードの電波と、伝搬モードの電波との分布は、一例として
図17(A)に示すように、EBGモードの電波の電界分布の±X方向側に、隣接するように伝搬モードの電波の電界分布が存在することが理想的である。この場合に、
図17(B)に示すように、EBGモードの電波の電界分布と伝搬モードの電波の電界分布とが重複すると、実効面積が増えずに利得の向上に繋がりにくい。また、
図17(C)に示すように、伝搬モードの電波の電界分布がEBGモードの電波の電界分布から孤立した島のように離れた場合、実効面積は増えるため利得の向上は期待できるが、サイドローブの発生といった特性劣化の要因となる。このため、
図17(A)に示すように、伝搬モードの電波の電界分布がEBGモードの電波の電界分布の±X方向側に隣接するような位置関係が理想的である。
【0096】
このようなEBGモードの電波の電界分布と伝搬モードの電波の電界分布との関係を実現するには、X方向における傾斜部112の位置を設計段階で制御可能にすればよく、特に、FSS構造部122に近づけることができると、理想的な位置関係を実現しやすくなる。
【0097】
このような観点から、アンテナ装置100M4は、部分反射板120の上面のうちの傾斜部112と重なる部分に誘電体150を配置している。傾斜部112で+Z方向に反射される伝搬モードの電波が誘電体150を透過すると、誘電体150の比誘電率に応じた波長の短縮効果によって電気長が延長される。このため、誘電体150を含まないアンテナ装置100(
図1乃至
図6参照)に比べて、2つの傾斜部112の間のX方向における距離を短くすることができる。
【0098】
このような場合に、部分反射板120を+Z方向に透過したEBGモードの電波と、部分反射板120及び誘電体150を透過した伝搬モードの電波とを同位相にする誘電体150の厚さtは、次式(1)で表される。なお、傾斜部112の傾斜面112Aの高さがh/2になる点Sと、スロットアンテナ130の中心130Cとの間のX方向の距離をdx、nは1以上の整数、λは電波の波長、εrは、波長λにおける誘電体150の比誘電率とする。なお、式(1)における±λ/8√εrは、±45度の位相差の範囲内を同位相として扱うことを意味する。
【0099】
【0100】
また、式(1)を変形すると、距離dxは次式(2)で表される。
【0101】
【0102】
すなわち、誘電体150を設けることで、スロットアンテナ130の中心130Cとの間のX方向の距離dxをt(√εr-1)だけ短くすることができる。なお、2つの誘電体150は同一のものであり、2つの傾斜部112は、
図16に示すXZ断面において、スロットアンテナ130の中心130Cを通るZ軸に平行な軸に対して線対称な形状を有するため、2つの誘電体150の配置は、スロットアンテナ130の中心130Cを通るZ軸に平行な軸に対して対称である。なお、アンテナ装置100M4は、+X方向側の傾斜面112Aで反射される経路と、-X方向側の傾斜面112Aで反射される経路とで、伝搬距離の差nλのnの値が異なる構成であってもよい。この場合には、2つの誘電体150の配置は、スロットアンテナ130の中心130Cを通るZ軸に平行な軸に対して非対称になる。
【0103】
<シミュレーション結果>
図18は、アンテナ装置100M4の最大利得の周波数特性のシミュレーション結果の一例を示す図である。横軸は周波数(GHz)を示し、縦軸はアンテナ装置100M4の最大利得(dBi)を示す。高さh=30mm、X方向におけるスロットアンテナ130の中心130Cから±X方向側の傾斜面112Aの点Sまでの距離dxを65mm、傾斜角度αを45度、導体部122AのX方向及びY方向の数Nx及びNyをともに13個、2つの誘電体150の厚さtを17mmに設定した。これらの値は、反射器110と部分反射板120との共振器の共振周波数を5GHzに設定する場合の値である。
【0104】
このような条件で、電磁界シミュレーションを行ったところ、
図18に示すように、アンテナ装置100M4の最大利得(Max Gain)は5GHzで最大値(約15.3dBi)を取った。
【0105】
図19A及び
図19Bは、アンテナ装置100M4の指向性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
図19AにはXZ面での指向性を示し、
図19BにはYZ面での指向性を示す。
図19A及び
図19Bにおける約±15度の方向に示す実線は、メインローブの半値幅を示しており、
図19Aでは26.8度、
図9Bでは28.5度である。
【0106】
図19Aに示すアンテナ装置100M4のXZ平面の指向性は、
図9Aに示すアンテナ装置100のXZ面での指向性に比べると、サイドローブが少し大きいが、
図11Aに示す比較用のアンテナ装置よりもメインローブが大きくなったことが分かった。メインローブは、15.3dBiであり、サイドローブ比は-12.2dBであった。
図19Aではサイドローブ比のレベルを円で示す。
【0107】
また、
図19Bに示すアンテナ装置100M4のYZ平面の指向性は、
図9Bに示すアンテナ装置100のYZ面での指向性と同様であるが、メインローブが少し小さいことを確認できた。メインローブは、15.7dBiであり、サイドローブ比は-20.4dBであった。
図19Bではサイドローブ比のレベルを円で示す。
【0108】
以上のように、式(2)に基づいて、EBGモードの電波の電界分布と伝搬モードの電波の電界分布との位置関係を決定すれば、伝搬モードの電波の電界分布とEBGモードの電波の電界分布との実効面積を効果的に増大でき、効果的に利得を向上させることができる。なお、誘電体150は、+X方向側又は-X方向側のいずれか一方のみに配置されてもよい。
【0109】
<第5変形例>
図20は、実施形態の第5変形例のアンテナ装置100M5の平面構造の一例を示す図である。
図20に示す平面構造は、
図2に示す平面構造に相当する。
図21は、
図20におけるC-C矢視断面の構成の一例を示す図である。
図21に示す断面は、
図3に示す断面に相当する。
【0110】
アンテナ装置100M5は、部分反射板120の上面のうちの傾斜部112と重なる部分に配置されるFSS構造部160を含む点が、
図2及び
図3に示すアンテナ装置100と異なる。FSS構造部160は、第2FSS構造部の一例である。その他の構成は、
図2及び
図3に示すアンテナ装置100と同様である。
【0111】
FSS構造部160は、透過する電波の位相を進める、又は、位相を遅延させることが可能な複数のセル160Cを有する。
図22A及び
図22Bは、セル160Cの一例を示す図である。
図22A及び
図22Bには、
図4の拡大部分と同様に、部分反射板120の基板121のうちの1つのセル160Cに対応する部分を抜き出して示す。なお、FSS構造部160は、一例として、基板121の下面(-Z方向側の表面)には、導体を有さない。ただし、FSS構造部160は、基板121の下面(-Z方向側の表面)に導体を有し、基板121の上面(+Z方向側の表面)には、導体を有さない構成であってもよい。また、FSS構造部160は、基板121の下面と上面の両方に導体を有する構成であってもよい。
【0112】
図22Aに示すセル160Cは、基板121の上面(+Z方向側の表面)に形成される矩形状の金属箔である。このようなセル160Cは、-Z方向側から入射して透過する電波の位相を遅らせる。
【0113】
図22Bに示すセル160Cは、基板121の上面(+Z方向側の表面)に形成される矩形環状(矩形額状)の金属箔である。このようなセル160Cは、-Z方向側から入射して透過する電波の位相を進める。なお、
図22A及び
図22Bに示すセル160Cは、一例として、銅、ニッケル、又は金等の金属薄膜で形成可能である。
【0114】
FSS構造部160は、
図22A又は
図22Bに示すセル160CをX方向及びY方向に周期的に配列した構成を有する。
図22A及び
図22Bに示すセル160Cが電波に与える位相変化量は、一例として±45度である。セル160Cが電波に与える位相変化量が±45度の場合に、電波の透過率は約50%である。位相変化量を±45よりも絶対値で大きくすることは可能であるが、電波の透過率がさらに低下するため、一例として位相変化量が±45度の範囲内であれば、比較的利用しやすい。
【0115】
伝搬モードの電波は、部分反射板120を透過するとともにFSS構造部160を透過して+Z方向に放射される。FSS構造部160を透過する際に電波の位相が進行又は遅延するため、実質的に変形例4のアンテナ装置100M4と同様に経路長が短くなる又は長くなる効果が得られる。このため、FSS構造部122を透過するEBGモードの電波と、FSS構造部160を透過する伝搬モードの電波とが同位相になるようにするために、アンテナ装置100(
図1乃至
図6参照)に比べて、2つの傾斜部112の間の距離を長く又は短くすることができる。EBGモードの電波の電界分布と伝搬モードの電波の電界分布との位置関係を制御することができる。
【0116】
具体的には、次のようにして傾斜部112の位置を決めればよい。FSS構造部122を透過する電波にFSS構造部122が与える位相変化量がφ(rad)であり、FSS構造部160が電波に与える位相変化量がδ(rad)の場合に、X方向において、スロットアンテナ130の中心130Cから次式(3)で表される距離dxの点に、点Sが位置するように傾斜部112を配置すればよい。点Sは、反射面111Aに対する傾斜面112Aの高さがh/2になる点である。
dx=(n+1/4+φ/2π+δ/2π)λ (3)
【0117】
δが正(δ>0)の場合には、FSS構造部160は、
図22Bに示すセル160Cを含み、透過する電波の位相を進める。δが負(δ<0)の場合には、FSS構造部160は、
図22Aに示すセル160Cを含み、透過する電波の位相を遅らせる。
【0118】
変形例5によれば、設計段階においてEBGモードの電波の電界分布と伝搬モードの電波の電界分布との位置関係を制御することで、伝搬モードの電波の電界分布とEBGモードの電波の電界分布との実行面積を効果的に増大でき、効果的に利得を向上させることができるアンテナ装置100M5を提供できる。なお、FSS構造部160は、+X方向側又は-X方向側のいずれか一方のみに配置されてもよい。また、+X方向側と-X方向側のFSS構造部160は、形状が異なっていて、電波に与える位相変化量が異なっていてもよい。
【0119】
以上、本開示の例示的なアンテナ装置について説明したが、本開示は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0120】
100、100M1、100M2、100M3、100M4、100M5 アンテナ装置
110 反射器
111 反射板
111A 反射面
111B 開口部
112 傾斜部
112A 傾斜面
113 傾斜部
120 部分反射板
120A 下面
121 基板
122 FSS構造部(第1FSS構造部の一例)
130、130A、130B スロットアンテナ
130C 中心
140 導波管
150 誘電体
160 FSS構造部(第2FSS構造部の一例)
160C セル