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  • 特開-焼結鉱の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067239
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/16 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
C22B1/16 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177155
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 義之
(72)【発明者】
【氏名】小堀内 類
(72)【発明者】
【氏名】永山 祐起
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA33
4K001CA37
4K001CA39
(57)【要約】
【課題】バラ物の湧水や流動化の発生を事前に予防でき、湧水や流動化による操業停止や設備破損などの問題を防止できる焼結機の製造方法を提案する。
【解決手段】粉鉱石、副原料、固体燃料および成品焼結鉱の微粉部分を含む焼結鉱製造用原料に、水分を添加して混合造粒することにより、擬似粒子である造粒焼結原料を製造し、ドワイトロイド型焼結機で焼成して成品焼結鉱を得る焼結鉱の製造方法において、焼結鉱製造用原料の成分濃度、含水分率を測定したのち、その成分濃度、含水分率をもとに前記焼結鉱製造用原料へ薬剤を投入し、原料の流動状態を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉鉱石、副原料、固体燃料および成品焼結鉱の微粉部分を含む焼結鉱製造用原料に、水分を添加して混合造粒することにより、擬似粒子である造粒焼結原料を製造し、ドワイトロイド型焼結機で焼成して成品焼結鉱を得る焼結鉱の製造方法において、前記焼結鉱製造用原料の成分濃度、含水分率を測定したのち、その成分濃度、含水分率をもとに前記焼結鉱製造用原料へ薬剤を投入し、原料の流動状態を制御することを特徴とする、焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記焼結鉱製造用原料のAl成分濃度を測定し、前記焼結鉱製造用原料の流動化限界含水分率を推定することを特徴とする、請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記焼結鉱製造用原料の含水分率を測定し、凝集または分散性能を有する薬剤を投入することを特徴とする、請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記焼結鉱製造用原料のAl成分濃度を測定し、前記焼結鉱製造用原料の流動化限界含水分率を推定するとともに、前記焼結鉱製造用原料の含水分率を測定し、凝集または分散性能を有する薬剤を投入することを特徴とする、請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱製造用原料に、水分を添加して混合造粒することにより、擬似粒子である造粒焼結原料を製造し、ドワイトロイド型焼結機で焼成して成品焼結鉱を得る焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄等に供される鉄鉱石、石炭、石灰石等のいわゆる「バラ物」は載貨重量が最大数十万トンの船舶によって輸送されるため、その量的規模の大きさから露天で貯蔵される場合が多い。そのため、大雨などが起こると水分が大幅に上昇して流動化し、コンベアや中間貯蔵槽での輸送速度や排出速度の調整が困難となる。はなはだしい場合は中間貯蔵槽において振動フィーダーなどの排出装置を停止してもバラ物が高速で流れ出す「噴出し」と呼ばれる現象が起こり、操業停止に至る場合があった。
【0003】
バラ物の輸送や貯蔵中の流動化に対しては、たとえば、特許文献1では、高分子凝集剤や水分吸着剤を添加することと、高分子凝集剤や水分吸着剤を添加するとともに他の部位のバラ物を混ぜることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-23374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の従来の技術は、湧水や流動化などが発生した場合に高分子凝集剤や水分吸着剤を添加するものであり、バラ物をバケットを用いて移動する際にはバケットを止めて対処出来るため有効である。ところが、中間貯蔵槽において振動フィーダーなどの排出装置を停止してもバラ物が高速で流れ出す「噴出し」と呼ばれる現象が発生する。この現象に対しては、湧水や流動化などが発生した時点で中間貯蔵槽の排出部が運転不能の状態となり、復旧のための操業停止や設備破損などの弊害を避けられないという課題があった。あるいは、湧水や流動化などによる操業停止や設備破損を完全に回避するためには高価な高分子凝集剤や水分吸着剤を予防のための過剰な添加を必要とするという課題が有った。また、特許文献1が提案する他の部位のバラ物を混ぜる方法に関しても、降雨が長期に亘ったり、流動化し易い微粉を多く用いたりするような、貯蔵物が全体的に流動する場合には適用できないという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、上述した課題を解決して、バラ物の湧水や流動化の発生を事前に予防でき、湧水や流動化による操業停止や設備破損などの問題を防止できる焼結機の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来技術が抱えている前述の課題を解決し、前記の目的を実現するために、焼結鉱製造用原料の成分濃度および含水分率に基づき、焼結鉱製造用原料の流動状態を制御する技術を想到し、以下に述べる新規な焼結鉱の製造方法を開発するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、粉鉱石、副原料、固体燃料および成品焼結鉱の微粉部分を含む焼結鉱製造用原料に、水分を添加して混合造粒することにより、擬似粒子である造粒焼結原料を製造し、ドワイトロイド型焼結機で焼成して成品焼結鉱を得る焼結鉱の製造方法において、前記焼結鉱製造用原料の成分濃度、含水分率を測定したのち、その成分濃度、含水分率をもとに前記焼結鉱製造用原料へ薬剤を投入し、原料の流動状態を制御することを特徴とする、焼結鉱の製造方法である。
【0009】
なお、前記のように構成される本発明に係る焼結鉱の製造方法においては、
(1)前記焼結鉱製造用原料のAl成分濃度を測定し、前記焼結鉱製造用原料の流動化限界含水分率を推定すること、
(2)前記焼結鉱製造用原料の含水分率を測定し、凝集または分散性能を有する薬剤を投入すること、および
(3)前記焼結鉱製造用原料のAl成分濃度を測定し、前記焼結鉱製造用原料の流動化限界含水分率を推定するとともに、前記焼結鉱製造用原料の含水分率を測定し、凝集または分散性能を有する薬剤を投入すること、
がより好ましい解決手段となるものと考えられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る焼結鉱の製造方法によれば、焼結鉱製造用原料の成分濃度、含水分率を測定したのち、その成分濃度、含水分率をもとに前記焼結鉱製造用原料へ薬剤を投入し、原料の流動状態を制御することで、バラ物の湧水や流動化の発生を事前に予防でき、湧水や流動化による操業停止や設備破損などの問題を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】高炉製銑法の主原料である焼結鉱の製造プロセスの概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本発明に係る焼結鉱の製造方法の開発過程について>
発明者らは、焼結鉱製造用原料の含水分率を測定し、所定の水分率、たとえば13%を超える場合は他のロットの焼結鉱製造用原料に切り替えたり、予め高水分が予測された場合には他の水分の低い原料と混合したりすることで流動化による吹き出しを事前に予防した。ところが、長期の降雨の場合には水分の低い原料を確保する事は容易でなく、水切り乾燥のために原料供給が滞った。そこで、水分率が13%を超えた場合には流動化を抑制する薬剤を使用する事により、長期の降雨でも安定して原料が供給出来るようにした。
【0013】
近年は原料銘柄が多様化し、同じ水分量でも流動化の程度が異なる事があった。当初は流動化の差は比重や粒面粗度によるものと考え、銘柄毎に水分率の閾値を設定することで対処したが、安価な銘柄では同一ロット内でも比重や粒面粗度が変動することがあり、過剰な量の薬剤を使用せざるを得なかった
【0014】
発明者らは、原料の銘柄毎に水分率の閾値を設定する方法では過剰な薬剤使用が避けられないと考え、銘柄によらず、成分濃度(T.Fe、CaO、SiO、MgO、Al)から流動化限界含水分率を推定することとした。これにより、特に安価な銘柄で同一ロット内でも比重や粒面粗度が変動する場合も、成分濃度を測定することにより原料性状の変化を把握する事が可能となり、過剰であった薬剤使用量が適正化された。
【0015】
流動化限界含水分率の多い銘柄を観察したところ、脈石部分が薄片状に剥離する銘柄に流動化限界含水分率が高い傾向が有ることに気付いた。薄片上に剥離する部分をX線回折により分析したところ、カオリナイトが多く検出された。カオリナイトは、単体では粘土として磁器の材料などに用いられるものであるが、鉄鉱石の中に脈石として含有されることがあり、その含有量は鉄鉱石の銘柄によって異なり、また、同じ銘柄でも含有量が変動することがある。
【0016】
カオリナイトはSi-O四面体の層とAl-O八面体の層が1層ずつ交互に重なった構造から、薄片状に剥離する性質とともに、層の間に水を保持する能力を持つと考えられた。このことから、他の石英などの脈石成分にくらべて、より多くの水分が内部に吸収され表面に露出する水分が減少することとなり、流動化を抑制することが予想された。カオリナイトは前記の構造であるために、他の脈石鉱物に比べてAlの比率が高いという特徴がある。そこで、発明者は原料の成分濃度の内、Alのみを用いて流動化限界含水分率を推定する事が出来るのではないかと着想し、本発明を完成した。
【0017】
<本発明に係る焼結鉱の製造方法について>
本発明は、焼結鉱製造用原料の成分濃度の内、特にAl濃度が流動化限界含水分率におよぼす影響が大きいことを明らかとし、Al濃度に着目して流動化限界含水分率を推定するとともに、含水分率を測定し、推定した流動化限界含水分率と測定した含水分率をもとに前記焼結鉱製造用原料へ薬剤を投入し、原料の流動状態を制御することにより、原料の銘柄や粒度が変化したり降雨が長期に亘ったりするような条件でも、湧水や流動化の発生を事前に予防した。
【0018】
高炉製銑法の主原料である焼結鉱の製造プロセスの概要を図1に示す。焼結鉱製造用原料である鉄鉱石や製鉄ダストなどの鉄含有原料、石灰石やドロマイトなどの含CaO原料、粉コークスや無煙炭などの含炭素原料、といったいわゆる「バラ物」は、多くの場合、露天で降雨の影響を受ける貯蔵ヤードで貯蔵される。その後、ベルトコンベアにより中間貯蔵槽に輸送される。その後、焼結鉱製造用原料は中間貯蔵槽から所定量排出され、造粒機で造粒された後、焼結機のパレット上に装入されて焼結され、焼結鉱となる。中間貯蔵槽から焼結機までは屋根やカバーにより降雨の影響を受けない構造である。
【0019】
<本発明に係る焼結鉱の製造方法の課題および効果について>
中間貯蔵槽において振動フィーダーなどの排出装置を停止してもバラ物が高速で流れ出す「噴出し」と呼ばれる現象に対しては、湧水や流動化などが発生した時点で中間貯蔵槽の排出部が運転不能の状態となる。そのため、復旧のための操業停止や設備破損などの弊害を避けられないという課題があった。
この課題に対して、本発明では、焼結鉱製造用原料の成分濃度、含水分率を測定したのち、その成分濃度、含水分率をもとに前記焼結鉱製造用原料へ薬剤を投入し、原料の流動状態を制御することにより、湧水や流動化の発生を、事前に予防した。
【0020】
湧水や流動化などによる操業停止や設備破損を完全に回避するためには高価な高分子凝集剤や水分吸着剤を予防のための過剰な添加を必要とするという課題が有った。
この課題に対して、本発明では、焼結鉱製造用原料の成分濃度から流動化限界含水分率を推定するとともに、含水分率を測定し、推定した流動化限界含水分率と測定した含水分率をもとに前記焼結鉱製造用原料へ薬剤を投入し、原料の流動状態を制御することにより、必要十分な薬剤使用量で湧水や流動化の発生を、事前に予防した
【0021】
また、特許文献1が提案する他の部位のバラ物を混ぜる方法に関しても、降雨が長期に亘ったり、流動化し易い微粉を多く用いたりするような、貯蔵物が全体的に流動する場合には適用できないという課題があった。
【0022】
焼結鉱製造用原料の水分を測定した上で高分子凝集剤や水分吸着剤を用いて流動化を防止するにあたっては、焼結鉱製造用原料によって流動化に至る水分量が異なるため高分子凝集剤や水分吸着剤を用いても流動化したり、過剰な高分子凝集剤や水分吸着剤を使用したりする事が避けられなかった。
この課題に対して、本発明では、焼結鉱製造用原料の成分濃度の内、特にAl濃度が流動化限界含水分率におよぼす影響が大きいことを明らかとし、Al濃度に着目して流動化限界含水分率を推定するとともに、含水分率を測定し、推定した流動化限界含水分率と測定した含水分率をもとに前記焼結鉱製造用原料へ薬剤を投入し、原料の流動状態を制御することにより、原料の銘柄や粒度が変化したり降雨が長期に亘ったりするような条件でも湧水や流動化の発生を、事前に予防した。
【実施例0023】
<比較例1>
焼結鉱製造用原料の含水分率(質量%)を測定した。該含水分率が13質量%を超える時は、焼結鉱製造用原料の使用を停止し、乾燥または他の含水分率が低い焼結鉱製造用原料との混合を実施した。その結果、焼結工程の操業停止は4回/年であった。
【0024】
<比較例2>
焼結鉱製造用原料の含水分率(質量%)を測定した。該含水分率が13質量%を超える時は、高分子凝集剤を、焼結鉱製造用原料に含まれる水の質量に対して1.6質量%添加した。その結果、焼結工程の操業停止は2回/年であった。
【0025】
<実施例1>
あらかじめ、各種の焼結鉱製造用原料サンプルの成分濃度(t.Fe、CaO、SiO、MgO、Al)と水分13質量%でのフロー値(JIS-R5201に準拠した流動性の指標)を測定した。
焼結鉱製造用原料の成分濃度(t.Fe、CaO、SiO、MgO、Al)と含水分率(質量%)を測定し、焼結鉱製造用原料の成分濃度が最も近い焼結鉱製造用原料サンプルのフロー値を選定した。該フロー値が14cm未満である場合は、高分子凝集剤を、焼結鉱製造用原料に含まれる水の質量に対して1.0質量%添加した。該フロー値が14cm以上16cm未満である場合は、高分子凝集剤を、焼結鉱製造用原料に含まれる水の質量に対して1.2質量%添加した。該フロー値が16cm以上である場合は、高分子凝集剤を、焼結鉱製造用原料に含まれる水の質量に対して1.4質量%添加した。その結果、焼結工程の操業停止は1回/年であった。
【0026】
<実施例2>
焼結鉱製造用原料のAl含有量(質量%)と含水分率(質量%)を測定した。
焼結鉱製造用原料に含まれる水の質量に対して下記の式で表わされる量の高分子凝集剤を添加した。その結果、焼結工程の操業停止は0回/年となり、高分子凝集剤を添加量も焼結鉱製造用原料に含まれる水の質量に対して0.4質量%相当に低減した。
(式)
焼結鉱製造用原料に含まれる水の質量に対しての高分子凝集剤の添加量(質量%)
=0.8×(1-3×Al含有量÷水分率)
ただし、式の値が0未満である場合は0とする。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、バラ物の湧水や流動化の発生を事前に予防でき、湧水や流動化による操業停止や設備破損などの問題を防止する用途に好適に利用することができる。
図1