(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067250
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】核酸精製用組成物及び核酸精製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20240510BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20240510BHJP
【FI】
C12N15/10 110Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177170
(22)【出願日】2022-11-04
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】509233699
【氏名又は名称】株式会社ゴーフォトン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲窪 大治
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS15
4B063QS25
4B063QS39
(57)【要約】
【課題】簡便な操作で且つ低コストで夾雑物を十分に除去した核酸溶液を得る。
【解決手段】核酸を含む処理対象溶液に2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーと多孔質担体とを混合して核酸を精製する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーと多孔質担体とを含む、核酸精製用組成物。
【請求項2】
上記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーは、親水性側鎖、疎水性側鎖及び親水・疎水性側鎖からなる群から選ばれる側鎖を有することを特徴とする請求項1記載の核酸精製用組成物。
【請求項3】
上記多孔質担体の粒径が0.6~2.0mmであることを特徴とする請求項1記載の核酸精製用組成物。
【請求項4】
上記多孔質担体は活性炭であることを特徴とする請求項1記載の核酸精製用組成物。
【請求項5】
核酸を含む処理対象溶液と、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー及び多孔質担体とを混合して攪拌する工程と、
上記多孔質担体を溶液から分離して、核酸精製溶液を回収する工程とを含む、核酸精製方法。
【請求項6】
上記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーは、親水性側鎖、疎水性側鎖及び親水・疎水性側鎖からなる群から選ばれる側鎖を有することを特徴とする請求項5記載の核酸精製方法。
【請求項7】
上記多孔質担体の粒径が0.6~2.0mmであることを特徴とする請求項5記載の核酸精製方法。
【請求項8】
上記多孔質担体は活性炭であることを特徴とする請求項5記載の核酸精製方法。
【請求項9】
上記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーを0.025~3.2重量%の範囲で上記処理対象溶液に混合することを特徴とする請求項5記載の核酸精製方法。
【請求項10】
上記多孔質担体を0.00417~0.0833g/mlの範囲で上記処理対象溶液に混合することを特徴とする請求項5記載の核酸精製方法。
【請求項11】
上記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーと上記処理対象溶液とを混合した後、上記多孔質担体を混合することを特徴とする請求項5記載の核酸精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction: PCR)等の核酸増幅反応に好適な核酸抽出溶液を作製することができる核酸精製用組成物及び核酸精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物、動物、植物、ウイルスなどを含む試料からDNAを抽出する技術、或いは水や土壌などの環境試料からDNAを抽出する技術が知られている。試料からDNAを抽出するには、細胞やウイルスを破砕して細胞膜やエンベローブを構成する脂質やタンパク質、多糖類等とDNA等の核酸を分離する。細胞やウイルスに含まれていたDNAは、水性溶媒に溶解し、水溶液として抽出することができる。このとき、脂質やタンパク質、多糖類、或いは環境試料由来の物質が夾雑物として除去される。
【0003】
核酸を抽出する方法の代表的な例としては、フェノール/クロロホルム法(特許文献1:US5945515A)が挙げられる。フェノール/クロロホルム法では、先ず、界面活性剤を含む緩衝液中で細胞を破砕し、その後、フェノールとクロロホルムを1:1で混合した溶液を加える。フェノールは、タンパク質に対する変成作用を有するとともにタンパク質を不溶化する。そのため、細胞溶解液にフェノール/クロロホルム液を加えて良く攪拌した後、遠心分離することによって、DNA等の核酸を溶解した水層と、脂質などが溶解したフェノール層に分離するとともに、中間層に変性/不溶化したタンパク質が集積する。よって、水層を分離することによって、上述したような各種試料からDNA等の核酸が溶解した水溶液を得ることができる。
【0004】
また、フェノール/クロロホルムに代えて、グアニジン塩/界面活性剤(SDS等)を用いても、試料から同様に核酸を抽出することができる。試料から抽出したDNAは、回収した水層或いは更にクロロホルム抽出によって得られた水層に、酢酸ナトリウムとエタノールを加えて沈殿させることができる。
【0005】
また、核酸を抽出する技術としては、スピンカラム法(特許文献2:特開平2-289596号公報)や磁気ビーズ法(特許文献3:US6855499B1)が知られている。これらは、DNAがシリカに結合する性質を利用した方法である。スピンカラム法では、シリカメンブレンへDNAを吸着できるようにDNA溶解液を調整し、スピンカラムにセットされたシリカメンブレンに当該DNA溶解液を遠心処理によって通過させる。これによりシリカメンブレンにDNAが結合する。その後、シリカメンブレンに残存した夾雑物を洗浄し、シリカメンブレン結合したDNAを溶出することでDNAを精製することができる。また、磁気ビーズ法は、表面にシリカをコーティングした磁気ビーズを利用して、スピンカラム法と同様にしてビーズ表面のシリカにDNAを結合させる。磁気ビーズ法では、磁石を用いることで、表面にDNAを結合した磁性ビーズを容易に回収することができる。回収した磁性ビーズは夾雑物を洗浄し、その後、溶出液にDNAを溶出することでDNAを精製することができる。
【0006】
以上のようにして試料から抽出されたDNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction: PCR)等の核酸増幅反応の鋳型として使用したり、塩基配列決定反応に供されたり、酵素反応の基質として使用される。このように抽出されたDNAを利用するにあたり、より高純度なDNA溶液とするため、溶液に残存する夾雑物を活性炭により吸着する技術が幾つか知られている(特許文献4:特表2017-525383号公報、特許文献5:特表2004-535207号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US5945515A
【特許文献2】特開平2-289596号公報
【特許文献3】US6855499B1
【特許文献4】特表2017-525383号公報
【特許文献5】特表2004-535207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上述したDNA等の核酸抽出・精製方法は、夾雑物を除去するためにフェノールやクロロホルム或いはSDS等の界面活性剤を使用した煩雑な操作が必要であり、スピンカラムや磁気ビーズといった特殊な装置が必要であり、夾雑物を十分に除去した核酸溶液を得るには手間やコストがかかるといった問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、簡便な操作で且つ低コストで夾雑物を十分に除去した核酸溶液を得ることができる、核酸精製用組成物及び核酸精製方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した目的を達成するために本発明者らが鋭意検討した結果、活性炭等の多孔質担体を使用して夾雑物を除去するときに核酸もまた多孔質担体に吸着してしまうといった課題に直面し、MPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマーを利用することで当該課題を克服し、多孔質担体に対する核酸の吸着を抑制しながら多孔質担体により夾雑物を除去することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は以下を包含する。
【0011】
(1)2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーと多孔質担体とを含む、核酸精製用組成物。
(2)上記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーは、親水性側鎖、疎水性側鎖及び親水・疎水性側鎖からなる群から選ばれる側鎖を有することを特徴とする(1)記載の核酸精製用組成物。
(3)上記多孔質担体の粒径が0.6~2.0mmであることを特徴とする(1)記載の核酸精製用組成物。
(4)上記多孔質担体は活性炭であることを特徴とする(1)記載の核酸精製用組成物。
(5)核酸を含む処理対象溶液と、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー及び多孔質担体とを混合して攪拌する工程と、
上記多孔質担体を溶液から分離して、核酸精製溶液を回収する工程とを含む、核酸精製方法。
(6)上記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーは、親水性側鎖、疎水性側鎖及び親水・疎水性側鎖からなる群から選ばれる側鎖を有することを特徴とする(5)記載の核酸精製方法。
(7)上記多孔質担体の粒径が0.6~2.0mmであることを特徴とする(5)記載の核酸精製方法。
(8)上記多孔質担体は活性炭であることを特徴とする(5)記載の核酸精製方法。
(9)上記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーを0.025~3.2重量%の範囲で上記処理対象溶液に混合することを特徴とする(5)記載の核酸精製方法。
(10)上記多孔質担体を0.00417~0.0833g/mlの範囲で上記処理対象溶液に混合することを特徴とする(5)記載の核酸精製方法。
(11)上記2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマーと上記処理対象溶液とを混合した後、上記多孔質担体を混合することを特徴とする(5)記載の核酸精製方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る核酸精製用組成物及び核酸精製方法によれば、処理対象溶液に含まれる夾雑物を活性炭等の多孔質担体により除去しながらも、当該溶液に含まれる核酸の当該多孔質担体に対する吸着を抑制することができる。このため、本発明に係る核酸精製用組成物及び核酸精製方法によれば、極めて簡便且つ低コストに夾雑物を除去し、高純度の核酸を含む溶液を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る核酸精製方法の一例として示す、核酸精製の各工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る核酸精製用組成物及び核酸精製方法を詳細に説明する。
用語「核酸精製用組成物」における核酸精製用とは、核酸を含む処理対象溶液に対して使用され、核酸を精製する用途に用いられることを意味する。核酸を精製するとは、当該処理対象溶液に含まれる核酸以外の成分、例えば、タンパク質、脂質及び多糖類、或いは核酸抽出処理に際して使用された各種薬剤など(まとめて夾雑物と称する)を除去する処理を意味する。
【0015】
ここで、処理対象溶液とは、核酸抽出対象の細胞(微生物、動物細胞、植物細胞を含む)やウイルスを物理的に破砕及び/又は化学的に溶解した後の溶液を意味する。核酸抽出対象の細胞やウイルスは、自然界から単離したものを適当な培地や宿主内で培養/増殖したものでも良いし、自然界に存在する状態のものでも良い。後者は、土壌環境や水環境に存在する細胞由来の核酸(例えば、環境DNA(eDNA:environmental DNA))が抽出対象となり、土壌環境や水環境に含まれる各種の物質が夾雑物となる。
【0016】
核酸精製用組成物
本発明に係る核酸精製用組成物は、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー(以下、MPCポリマー)と多孔質担体とを含む。MPCポリマーと多孔質担体とは、それぞれ異なる試薬として組成物を構成することが好ましいが、MPCポリマーと多孔質担体とを含む単一の試薬として組成物を構成しても良い。
【0017】
MPCポリマーとは、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単位(MPC単位)と、所定の側鎖を有する疎水性単位との共重合体を意味する。MPCポリマーについては、A. Takahara, et al., Int. Symp. Nano-bio-Interfaces Rel. Mol. Molecular Mobility, Program and Abstracts Book, 25-26, (2009)にも詳述されているが、MPC単位は下記の構造である。
【0018】
【0019】
また、MPCポリマーにおいて、疎水性単位としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の各種モノアルキル(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン等の反応性官能基含有(メタ)アクリレート;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルブチルウレタン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルベンジルウレタン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルウレタン等のウレタン変性(メタ)アクリレートジエチルフマレート;アクリロニトリル等が挙げられる。この中でも疎水性単位としては、下記式で表されるアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0020】
【0021】
上記式においてR基はMPCポリマーの側鎖であり、親水性側鎖、疎水性側鎖、親水・疎水性側鎖のいずれかを示す。なお、MPCポリマーの分子中、R基は一種類の構造でも良いし、異なる複数の構造でもよい。R基は、特に限定されないが、水素、又は炭素数1~18のアルキル基を挙げることができる。
【0022】
核酸精製用組成物におけるMPCポリマーは、任意の濃度とすることができる。後述するように、処理対象溶液と混合したときに、所望の濃度となるよう、核酸精製用組成物におけるMPCポリマーの濃度を予め調整することができる。
【0023】
一方、多孔質担体とは、上述した夾雑物を吸着できる多孔質の材料から構成される。多孔質担体としては、特に限定されないが、活性炭担体、粘土担体、アガロース担体、デキストラン担体、ハイドロキシアパタイト担体、シリカゲル担体、ポリスチロール樹脂担体、ポリフェノール樹脂担体、ポリアクリル樹脂担体、ポリアルキル樹脂担体、ポリビニル樹脂担体等を挙げることができる。特に、多孔質担体としては活性炭担体を使用することが好ましい。上記多孔質担体の粒径は、特に限定されないが、0.6~2.0mmであることが好ましく、0.6~1.0mmであることが更に好ましい。多孔質の粒径がこの範囲であれば、夾雑物を十分に吸着でき、且つ、溶液からの分離も容易に行えるためである。
【0024】
多孔質担体として使用できる活性炭は、石炭やヤシ殻などの炭素物質を原料として高温でガスや薬品と反応させて作られる微細孔を有する炭素材料である。活性炭としては、粉末状や粒子状でも良く、これらの混合物でもよい。ただし、上述したように、活性炭を多孔質担体として使用する場合でも、その粒径が0.6~2.0mmであることが好ましく、0.6~1.0mmであることが更に好ましい。
【0025】
核酸精製方法
本発明に係る核酸精製方法は、上述した核酸精製用組成物を用いて、核酸を含む処理対象溶液から夾雑物を除去する方法である。ここで、核酸は、生体試料に含まれ得る核酸である限り、特に制限されない。核酸としては、例えばDNA、RNA等が挙げられる。特に、核酸は、土壌環境試料や水環境試料等に含まれる環境DNAであっても良い。
【0026】
すなわち、核酸を含む処理対象溶液とは、微生物、ウイルス、動物組織、動物細胞、植物組織及び植物細胞等の生物試料、微生物、ウイルス、動物細胞及び植物細胞等を培養した培養液、土壌環境試料や水環境試料等の環境試料に対して核酸抽出処理を行って得られる溶液を挙げることができる。本発明に係る核酸精製方法において、上記生物試料、上記培養液、上記環境試料からの核酸抽出処理には何ら限定されず、如何なる核酸抽出処理後の溶液も処理対象溶液として使用することができる。
【0027】
例えば、核酸抽出処理としては、有機溶剤や界面活性剤を用いて細胞や組織を溶解する処理、タンパク質分解酵素を用いて細胞や組織を溶解する処理、ホモジナイザー等の機器を用いて細胞や組織を破砕する処理等が挙げられる。
【0028】
核酸抽出処理に使用可能な界面活性剤の例としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤が挙げられる。陰イオン界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等を挙げることができる。また、非イオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸系非イオン界面活性剤、アルキルフェノール系非イオン界面活性剤等が挙げられる。脂肪酸系非イオン界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられ、より具体的には、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Polyoxyethylene sorbitan mono-laurate(例えば「Tween 20」等))、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(Polyoxyethylene sorbitan mono-palmitate(例えば、「Tween 40」等))、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(Polyoxyethylene sorbitan mono-stearate(例えば「Tween 60」等))、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Polyoxyethylene sorbitan monooleate (例えば「Tween 80」等))、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート(Polyoxyethylene sorbitan trioleate(例えば「Tween 85」等))等が挙げられる。アルキルフェノール系非イオン界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルが挙げられ、より具体的には、例えばポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether(例えば「Triton X-100」等))、ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル(Polyoxyethylene(8) octylphenyl ether(例えば「Triton X-114」等))、ポリオキシエチレン(40)オクチルフェニルエーテル(Polyoxyethylene(40) octylphenyl ether(例えば「Triton X-405」等))等が挙げられる。
【0029】
本発明に係る核酸精製方法では、このようにして得られた核酸を含む処理対象溶液に対して、上述した核酸精製用組成物を作用させる。核酸を含む処理対象溶液に対して上述した核酸精製用組成物を作用させることで、当該処理対象溶液に含まれる夾雑物や、核酸抽出処理に使用した界面活性剤などの化合物を除去して、核酸を精製することができる。具体的には、当該処理対象溶液とMPCポリマーと多孔質担体とを混合する。このとき、当該処理対象溶液とMPCポリマーと多孔質担体とを同時に混合しても良いが、当該処理対象溶液に対してMPCポリマーと多孔質担体とを別々に混合しても良い。
【0030】
処理対象溶液とMPCポリマーと多孔質担体とを同時に混合する形態では、処理容器に予めMPCポリマーと多孔質担体とを注入しておき、当該容器に処理対象溶液を加える方法や、処理容器に予め処理対象溶液を注入しておき、当該容器にMPCポリマーと多孔質担体とを加える方法が挙げられる。MPCポリマーと多孔質担体とを処理容器に注入或いは加える際、MPCポリマーと多孔質担体とは単一の試薬としても良いし、それぞれ異なる試薬としておいても良い。
【0031】
処理対象溶液に対してMPCポリマーと多孔質担体とを別々に混合する形態では、特に、先ず、処理対象溶液にMPCポリマーを混合しておき、その後、処理対象溶液に多孔質担体を混合する順序が特に好ましい。なお、処理対象溶液にMPCポリマーと多孔質担体とをこの順で混合する場合、処理容器にMPCポリマーを注入しておき、その後、当該容器に処理対象溶液を加えても良いし、或いは、処理容器に処理対象溶液を注入しておき、その後、当該容器にMPCポリマーを加えても良い。
【0032】
処理対象溶液に対してMPCポリマーを混合すると、処理対象溶液に含まれる核酸がMPCポリマーとの間で複合体を形成することが考えられる(参考文献:XiuBo Zhao et al., Plasmid DNA Complexation with Phosphorylcholine Diblock Copolymers and Its Effect on Cell Transfection, Langmuir 2008, 24, 13, 6881-6888)。核酸がMPCポリマーと複合体を形成することで、活性炭などの多孔質担体に対する核酸の吸着を防止することができる。すなわち、処理対象溶液に混合した活性炭などの多孔質担体は、核酸を吸着せず、核酸以外の夾雑物や核酸抽出処理で使用した界面活性剤などの化合物を主として吸着することができる。これにより、処理対象溶液から夾雑物や当該化合物を除去し、核酸を精製することができる。
【0033】
このとき、処理対象溶液に混合するMPCポリマーは、特に限定されないが、例えば、0.0125重量%~3.2重量%の範囲とすることができ、特に、0.025~3.2重量%の範囲とすることが好ましく、0.05~1.0重量%の範囲とすることが更に好ましく、0.05~0.8重量%の範囲とすることが特に好ましい。処理対象溶液に混合するMPCポリマー濃度をこの範囲とすることで、多孔質担体への核酸の吸着を防止しつつ、夾雑物や化合物を効果的に除去することができる。
【0034】
また、処理対象溶液に混合する多孔質担体は、0.00167~0.167g/mlの範囲とすることができ、0.00417~0.0833g/mlの範囲とすることが好ましく、0.00833~0.0417g/mlの範囲とすることがより好ましい。処理対象溶液に混合する多孔質担体の量をこの範囲とすることで、多孔質担体への核酸の吸着を防止しつつ、夾雑物や化合物を効果的に除去することができる。
【0035】
処理対象溶液に対してMPCポリマーと多孔質担体とを別々に混合する形態では、特に、処理対象溶液とMPCポリマーとを混合する際に攪拌することが好ましい。また、特に限定されないが、処理対象溶液とMPCポリマーとを攪拌しながら混合する処理時間(攪拌開始からの処理時間)を5秒~30分とすることができ、5秒~10分とすることがより好ましい。処理対象溶液とMPCポリマーとを攪拌しながらこの処理時間とすることで、処理対象溶液に含まれる核酸とMPCポリマーとの複合体を確実に形成することができ、多孔質担体に対する核酸の吸着をより確実に防止することができる。
【0036】
また、処理対象溶液に対してMPCポリマーと多孔質担体とを別々に混合する形態において、多孔質担体を処理対象溶液に加えるには、多孔質担体の分散液を添加する方法、粉末状の多孔質担体をそのまま添加する方法が挙げられる。特に、処理対象溶液と多孔質担体とを混合する際に攪拌することが好ましい。また、特に限定されないが、処理対象溶液と多孔質担体とを攪拌しながら混合する処理時間(攪拌開始からの処理時間)を5秒~30分とすることができ、5秒~10分とすることがより好ましい。処理対象溶液と多孔質担体とを攪拌しながらこの処理時間とすることで、処理対象溶液に含まれる夾雑物や化合物の多孔質担体への吸着形成することができ、多孔質担体に対する核酸の吸着をより確実に防止することができる。
【0037】
処理対象溶液とMPCポリマーと多孔質担体とを同時に混合する形態及び処理対象溶液に対してMPCポリマーと多孔質担体とを別々に混合する形態において、処理温度は、特に限定されないが、例えば0~37℃とすることができ、15~25℃とすることが好ましい。処理温度をこの条件とすることで、処理対象溶液に含まれる核酸とMPCポリマーとの複合体を確実に形成することができ、多孔質担体に対する核酸の吸着をより確実に防止することができる。
【0038】
次に、本発明に係る核酸精製方法では、処理対象溶液から多孔質担体を分離して、核酸精製溶液を回収する。処理対象溶液に分散した多孔質担体は、特に限定されず、一般的な固液分離処理により処理対象溶液から分離することができる。固液分離処理としては、例えば遠心分離、ろ過等が挙げられる。遠心分離の条件は、特に制限されないが、多孔質担体の質量から適宜決定することができる。また、ろ過の場合、多孔質担体の粒径に応じてフィルターのメッシュサイズを選択することができる。
【0039】
以上のようにして得られた核酸精製溶液は、多孔質担体に吸着した夾雑物や化合物が除去されるとともに、MPCポリマーを使用しなかった場合と比較して高濃度の核酸を含有することとなる。したがって、得られた核酸精製溶液は、核酸増幅反応や、核酸を基質とした酵素反応(制限酵素反応、ライゲーション反応等)、塩基配列決定反応等にそのまま利用することができる。すなわち、得られた核酸精製溶液に対して夾雑物や界面活性剤等の化合物を除去するための処理(例えば、エタノール沈殿や洗浄処理)を行うことなく、上述した各種反応に利用することができる。
【0040】
特に、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction: PCR)等の核酸増幅反応では、鋳型となる核酸量が少ないとDNAポリメラーゼによる核酸合成増幅反応が遅延するという問題や、反応液中に夾雑物や界面活性剤が含まれるとDNAポリメラーゼの活性を低下させるといった問題がある。しかしながら、本発明を適用して得られた核酸精製溶液は、夾雑物や界面活性剤等の化合物が除去されていながらも、MPCポリマーを使用しなかった場合と比較して高濃度の核酸を含有する。したがって、本発明を適用して得られた核酸精製溶液は、特に、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction: PCR)等の核酸増幅反応に好適に使用することができる。
【0041】
なお、核酸増幅反応としては、PCRに限定されず、例えばLAMP、SDA、NEAR、HAD、RCA、RPA等の等温核酸増幅反応でもよい。これらPCR以外の核酸増幅反応に対しても本発明を適用して得られた核酸精製溶液を利用することが好ましい。本発明を適用して得られた核酸精製溶液をいずれの核酸増幅反応に適用しても、核酸増幅反応の進行が阻害されることなく、目的の核酸領域を確実に増幅することができる。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
実施例1では、多孔質担体(本例では活性炭)とMPCポリマーとを併用して核酸を精製する系を検証した。本例では、フミン酸(夾雑物)又はSDS(界面活性剤)といったPCRに対する阻害物質の存在下において、PCRにおけるCt値に対する活性炭とMPCポリマーの効果を検証した。
【0044】
本例は、アルカリ-SDS法により核酸を抽出する系を模している。アルカリ-SDS法は、細胞を含むサンプルにNaOH(強アルカリ)とSDS(ドデシル硫酸ナトリウム、界面活性剤)を含む溶液を加えることで、細胞膜を溶解するとともに、タンパク質を変性させることでDNAを抽出する方法として一般的に用いられる。そして、本方法で使用するSDSは、PCRにおける阻害物質として働くことが知られており、従来はスピンカラム法などで分離、除去する必要のある化合物である。
【0045】
本例では、以下のように測定サンプルを調整した(
図1参照)。先ず、0.1M NaOH及び0.15M NaClを含む溶液に、阻害物質として0.1% SDS(ナカライテスク/10%-SDS溶液/30562-04)又は0.1% フミン酸(ナカライテスク18244-12)を加え、更に、MPCポリマーとして0.1% Lipidure
TM BL203(日油株式会社製)を加えた抽出液を準備した。そして、抽出液90μLに対して、サンプル溶液10μLを加えて攪拌した。なお、本例では、サンプル溶液として、レジオネラ遺伝子(LEG:遺伝子濃度は10
3copies/μL)を準備した。そして、10%(w/w)の活性炭(富士フイルム和光純薬/活性炭素,粉末/037-02115)分散液20μLを加えて攪拌した後、ろ過により活性炭を分離し、得られた溶液を測定サンプルとした。
【0046】
本例では、得られた測定サンプル5μL及びPCR試薬 20μLを用いて以下の条件でPCRを行い、Ct値を測定した。PCR試薬としてはレジオネラ属菌検出試薬(日本板硝子)を使用した。
【0047】
[PCR条件]
測定機器:PicoGene PCR1100(日本板硝子社製)
測定チップ:MCP2000(日本板硝子社製)
測定条件:PCR1100でのセット値
Hot Start 95℃,15sec.
Denature 95℃,3.5sec.
Annealing & Extension 60℃,7sec.
Cycle 45
なお、Ct値はPicoGene PCR1100内蔵アルゴリズムより計算した。
【0048】
また、比較例として、MPCポリマー、活性炭分散液、阻害物質を含まない以外は同様に調整した測定サンプルを使用して同試験を行った。結果を表1に示した。
【0049】
【0050】
<結果1>
表1から判るように、阻害物質が存在する場合に、活性炭が存在しないと、PCRは検出されない(Ct値が測定不能。実験番号3、5、7、9)。一方、阻害物質が存在しても、活性炭が存在すると、PCRは検出される(実験番号4、6、8、10)。このことから、本例において、活性炭によってPCRに対する阻害物質を除去できることが明らかとなった。
【0051】
しかし、阻害物質及びMPCポリマーが存在しない場合において、活性炭が存在する場合と存在しない場合とを比較すると、Ct値が、活性炭が存在しない場合には29.5(実験番号1)であり、活性炭が存在する場合には31.7(実験番号2)であることが判る。これは、MPCポリマーが存在しない条件下では、測定サンプルに含まれる鋳型となる核酸(レジオネラ由来)が活性炭に吸着されたため、PCRを検出するために必要なPCRのサイクル数が大幅に増加したことを意味している。
【0052】
より詳細には、活性炭の存在により、Ct値は31.7から29.5に減少している。すなわち、Ct値が約2減少している(サイクル数が2回減少している)。PCRではサイクル数1回で核酸の濃度が2倍になるため、サイクル数2回減少しているということは、鋳型となる核酸の濃度が4倍存在していることを意味する。すなわち、活性炭が存在しない場合と活性炭が存在する場合を比較すると、後者では前者に比べて核酸の約75%が活性炭に吸着され、Ct値が約2増加した、すなわちPCR検出のために2回分のサイクルが必要となったと解釈できる。
【0053】
<結果2>
一方、阻害物質であるフミン酸と活性炭が存在する場合に、MPCポリマーが存在/非存在で比較すると、MPCポリマーが存在しない場合のCt値は31.5(実験番号4)に対し、MPCポリマーが存在する場合は29.4(実験番号6)であった。このように、MPCポリマーが存在する場合には、少ないサイクル数でPCRの進行が検出されることから、MPCポリマーにより核酸の活性炭への吸着が抑制されたことが明らかとなった。実験番号1と2の比較の考察から、MPCポリマーが存在しない場合、MPCポリマーが存在する場合に対して核酸の約75%が活性炭に吸着されるが、MPCポリマーが存在する場合にはこの核酸の活性炭への吸着が抑制されること明らかとなった。
【0054】
〔実施例2〕
実施例2では、実施例1における0.1% LipidureTM BL203(日油株式会社製)に代えて、0.1% LipidureTM BL103、0.1% LipidureTM BL206、0.1% LipidureTM BL1002及び0.1% LipidureTM BL802を使用し、実施例1と同様にしてPCRにおけるCt値を測定した。結果を表2に示した。
【0055】
【0056】
表2に示すように、親水性側鎖を有するMPCポリマー、実施例1と異なる疎水性側鎖を有するMPCポリマー、親水・疎水性側鎖を有するMPCポリマーのいずれを使用しても、MPCポリマーを使用しない場合と比較してCt値が減少する傾向が見られた。これらの結果から、MPCポリマーにおける側鎖が親水性でも、疎水性でも、親水・疎水性でも、いずれの場合でも活性炭に対する核酸の吸着を抑制できることが明らかとなった。
【0057】
〔実施例3〕
実施例3では、MPCポリマーの使用量を変更した以外は、実施例1における実験番号10と同条件でPCRにおけるCt値を測定した。測定した結果を表3に示した。
【0058】
【0059】
表3に示したように、MPCポリマーの使用量が0.0125重量%~3.2重量%の範囲において、MPCポリマーを使用しなかった場合と比較してCt値が減少しており、活性炭に対する核酸の吸着を防止できていることが明らかとなった。また、特に、MPCポリマーの使用量を0.025~3.2重量%の範囲とした場合にはCt値が更に大きく減少しており、MPCポリマーの使用量を0.05~1.0重量%の範囲とした場合にはCt値が更に効果的に減少しており、MPCポリマーの使用量を0.05~0.8重量%の範囲とした場合にはCt値が最も効果的に減少していることが明らかとなった。
【0060】
〔実施例4〕
実施例4では、活性炭の使用量を変更した以外は、実施例1における実験番号10と同条件でPCRにおけるCt値を測定した。測定した結果を表4に示した。
【0061】
【0062】
表4に示したように、本例では活性炭の使用量を0.2mg~20mg(0.2mg/120μL~20mg/120μL=0.00167~0.167g/mL)としたが、本例の実験条件では活性炭の使用量を0.00417g/mL~0.0833g/mLの範囲としたときにCt値が減少しており、活性炭に対する核酸の吸着を防止できていることが明らかとなった。また、特に、活性炭の使用量を0.00833g/mL~0.0417g/mLとしたときに、Ct値が大きく減少することが明らかとなった。更に、活性炭の使用量を0.00833g/mL~0.0167g/mLとしたときに、Ct値が更に大きく減少することが明らかとなった。
【0063】
〔実施例5〕
実施例5では、使用する活性炭の種類(富士フイルム和光純薬/活性炭素,破砕状,0.2~1mm/034-18051)及び量を変更した以外は実施例1における実験番号10と同条件でPCRにおけるCt値を測定した。測定した結果を表5に示した。
【0064】
【0065】
表5に示したように、本例では活性炭の使用量を0.2mg~20mg(0.2mg/120μL~20mg/120μL=0.00167~0.167g/mL)としたが、本例の実験条件では活性炭の使用量を0.00417g/mL~0.167g/mLの範囲としたときにCt値が減少しており、活性炭に対する核酸の吸着を防止できていることが明らかとなった。また、特に、本実施例では、活性炭の使用量を0.00417g/mL~0.0417g/mLとしたときにCt値が大きく減少し、更に活性炭の使用量を0.00833g/mL~0.0167g/mLとしたときに、Ct値が更に大きく減少することが明らかとなった。
【0066】
実施例4と本実施例との結果から、傾向としては、単位重量あたりの表面積が大きい活性炭を使用したほうが、Ct値を低下させる効果が高いといえる。また、実施例4と本実施例との結果から、使用する活性炭が異なっても、0.00417~0.0833g/mlの範囲で使用した場合に、Ct値を低下させる効果が高いといことが判った。ただし、活性炭の種類や条件によっては、活性炭の使用量に最適な範囲が異なる場合があることが示された。