(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067252
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
G21D 3/12 20060101AFI20240510BHJP
F01K 9/00 20060101ALI20240510BHJP
F22D 1/32 20060101ALI20240510BHJP
F22D 1/28 20060101ALI20240510BHJP
F22D 11/00 20060101ALI20240510BHJP
G21D 3/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
G21D3/12 F
F01K9/00 F
F22D1/32 Z
F22D1/28 B
F22D11/00 C
G21D3/00 D
G21D3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177173
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】一戸 崇宏
(57)【要約】
【課題】急激な負荷上昇や電力供給量の急激な低下に対応して、急速に原子力発電プラントの発電電力を増加させることができる、原子力発電プラントの制御方法を提供する。
【解決手段】制御方法は、原子力発電プラントから供給する電力の低下又は負荷の増加に応じて、発電電力を一時的に増加させる負荷応答運転を行うか否かを判定するステップと、負荷応答運転を行うと判定すると、蒸気タービンから抽気する蒸気の抽気量を低下させるステップと、負荷応答運転を行うと判定すると、外部電源を起動するステップと、外部電源を前記電力系統に接続する接続タイミングを判定するステップと、接続タイミングが到来すると外部電源を前記電力系統に接続するステップと、抽気量を戻すタイミングを判定するステップと、戻すタイミングが到来すると、原子炉の出力が規定値よりも上昇しないように前記抽気量を戻すステップと、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉と、前記原子炉により直接発生させた蒸気又は前記原子炉の熱との熱交換により間接的に発生させた蒸気により駆動する蒸気タービンと、を備え、前記蒸気タービンの駆動により発電した発電電力を電力系統へ供給する原子力発電プラントの制御方法であって、
前記原子力発電プラントから供給する電力の低下又は負荷の増加に応じて、前記発電電力を一時的に増加させる負荷応答運転を行うか否かを判定するステップと、
前記負荷応答運転を行うと判定すると、前記蒸気タービンから抽気する蒸気の抽気量を低下させるステップと、
前記負荷応答運転を行うと判定すると、外部電源を起動するステップと、
前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップと、
前記接続するタイミングが到来すると、前記外部電源を前記電力系統に接続するステップと、
前記抽気量を戻すタイミングを判定するステップと、
前記抽気量を戻すタイミングが到来すると、前記原子炉の出力が規定値よりも上昇しないように前記抽気量を戻すステップと、
を有する制御方法。
【請求項2】
前記原子力発電プラントは、前記蒸気タービンが排出した蒸気から復水を生成する復水器と、前記復水器が生成した復水を加熱及び脱気する脱気器と、を備え、
前記抽気量を低下させるステップでは、
前記蒸気タービンの後段に設けられた前記復水器から前記脱気器に供給する前記復水の流量を調節する復水量調節弁の開度を所定の開度に低下させる、
請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記原子力発電プラントは、前記蒸気タービンが排出した蒸気から生成される復水を、前記蒸気タービンから抽気した前記蒸気により加熱する加熱器を備え、
前記抽気量を低下させるステップでは、
前記蒸気タービンから前記加熱器へ抽気する前記蒸気の抽気量を調節する抽気量調節弁の開度を所定の開度に低下させる、
請求項1に記載の制御方法。
【請求項4】
前記抽気量を低下させるステップでは、
前記復水量調節弁の開度を低下させることにより、前記復水の流量を30~50%に低下させる、
請求項2に記載の制御方法。
【請求項5】
前記抽気量を戻すステップでは、
前記復水量調節弁を、前記抽気量を低下させる前の開度よりも所定値だけ大きい回復開度で開いた状態を維持する、
請求項2に記載の制御方法。
【請求項6】
前記抽気量を戻すステップでは、
前記脱気器の水位が前記抽気量を低下させる前の水位に戻るまで、前記復水量調節弁の前記回復開度を維持する、
請求項5に記載の制御方法。
【請求項7】
前記抽気量を低下させるステップでは、前記復水量調節弁を所定の第1開度まで急閉し、
前記抽気量を戻すステップでは、前記復水量調節弁を所定の第2開度まで、前記原子炉の出力が規定値よりも上昇しない速度で開ける、
請求項2に記載の制御方法。
【請求項8】
前記負荷応答運転を行うか否かを判定するステップでは、
前記電力系統の周波数が所定値以下に低下すると前記発電電力を増加させると判定する、
請求項1又は請求項2に記載の制御方法。
【請求項9】
前記外部電源は同期式の発電機であって、
前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップでは、
前記発電機の回転数が所定値以上となると前記電力系統に接続すると判定する、
請求項1又は請求項2に記載の制御方法。
【請求項10】
前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップでは、
前記蒸気の抽気量を低下させることにより一時的に上昇した前記蒸気タービンによる前記発電電力が低下するまでに前記電力系統に接続すると判定する、
請求項1又は請求項2に記載の制御方法。
【請求項11】
前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップでは、
前記脱気器の水位が下限値に達するまでに前記電力系統に接続すると判定する、
請求項2に記載の制御方法。
【請求項12】
前記抽気量を戻すタイミングを判定するステップでは、
前記脱気器の水位が下限値に達すると、前記抽気量を戻すと判定する、
請求項2に記載の制御方法。
【請求項13】
前記抽気量を戻すタイミングを判定するステップでは、
前記外部電源の前記電力系統への接続が完了すると、前記抽気量を戻すと判定する、
請求項1又は請求項2に記載の制御方法。
【請求項14】
前記外部電源を起動するステップでは、
前記抽気量を低下させるステップによって前記抽気量を低下させる制御を開始してから所定時間だけ待機した後に前記外部電源を起動し、
前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップでは、
前記抽気量を低下させる制御を継続できる所定の制限時間が経過するまでに前記電力系統に接続すると判定する、
請求項1又は請求項2に記載の制御方法。
【請求項15】
前記抽気量の低下を開始した後の前記原子力発電プラントの出力を調整するステップ、をさらに有し、
前記調整するステップでは、
前記蒸気タービンによる前記発電電力と、前記外部電源が供給する電力の和が所定の目標値となるように、前記蒸気タービンへ供給する蒸気流量を調整する蒸気加減弁の開度および/又は前記外部電源の出力を制御する、
請求項1又は請求項2に記載の制御方法。
【請求項16】
前記外部電源は、原子力発電プラントの非常用発電機である、
請求項1又は請求項2に記載の制御方法。
【請求項17】
原子炉と、前記原子炉により直接発生させた蒸気又は前記原子炉の熱との熱交換により間接的に発生させた蒸気により駆動する蒸気タービンと、を備え、前記蒸気タービンの駆動により発電した発電電力を電力系統へ供給する原子力発電プラントの制御装置であって、
前記原子力発電プラントから供給する電力の低下又は負荷の増加に応じて、前記発電電力を一時的に増加させる負荷応答運転を行うか否かを判定する手段と、
前記負荷応答運転を行うと判定すると、前記蒸気タービンから抽気する蒸気の抽気量を低下させる手段と、
前記負荷応答運転を行うとの判定に基づいて起動された外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定する手段と、
前記抽気量を戻すタイミングを判定する手段と、
前記抽気量を戻すタイミングが到来すると、前記原子炉の出力が規定値よりも上昇しないように前記抽気量を戻す手段と、
を有する制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は増加しており、電力系統の周波数の不安定化が避けられない状況となっている。例えば、発電システムにおいて、急激な負荷上昇や電力供給量の低下が生じた場合、発電システムからの電力供給が直ぐには追い付かないため、一時的に系統周波数が低下する。系統周波数が低下すると、発電システム側に急激な出力増加要求がなされる。この出力増加要求に対する、負荷等の変動直後の短期的な負荷応答のことをプライマリレスポンスと呼び、その状態を維持する負荷応答のことをセカンダリレスポンスと呼ぶ。一般に原子力発電プラントは急激な出力変動に対応する機能を有しておらず、これまでは、火力発電所がプライマリレスポンス及びセカンダリレスポンスを担ってきた。従って、全発電電力量に占める火力発電の割合を一定以上下げることができず、社会の脱炭素化に限界が生じている。
【0003】
特許文献1には、ボイラや原子炉等の蒸気発生源で発生した高温高圧の蒸気で蒸気タービンを駆動して発電を行う汽力プラントにおいて、脱気器へ供給する復水の流量を急減させることで、蒸気タービンからの抽気蒸気を減らし、その分、蒸気タービンの出力を上昇させる復水絞り運転が開示されている。しかし、復水絞り運転による出力上昇は一時的なものであって、その状態を維持することができない。また、原子力発電プラントは火力発電所と違い、原子炉の定格出力を超えて運転することができないという制限があるため、原子炉出力を上昇させて蒸気タービンへ供給する蒸気量を増大させることにより、復水絞り運転によって一時的に増大した出力が低下した後の出力を補うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子力発電プラントにおいても、急激な負荷上昇や電力供給量の急激な低下に対応して、急速に発電電力を増加させる運転を行うことが求められている。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができる制御方法及び制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の制御方法は、原子炉と、前記原子炉により直接発生させた蒸気又は前記原子炉の熱との熱交換により間接的に発生させた蒸気により駆動する蒸気タービンと、を備え、前記蒸気タービンの駆動により発電した発電電力を電力系統へ供給する原子力発電プラントの制御方法であって、前記原子力発電プラントから供給する電力の低下又は負荷の増加に応じて、前記発電電力を一時的に増加させる負荷応答運転を行うか否かを判定するステップと、前記負荷応答運転を行うと判定すると、前記蒸気タービンから抽気する蒸気の抽気量を低下させるステップと、前記負荷応答運転を行うと判定すると、外部電源を起動するステップと、前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップと、前記接続するタイミングが到来すると、前記外部電源を前記電力系統に接続するステップと、前記抽気量を戻すタイミングを判定するステップと、前記抽気量を戻すタイミングが到来すると、前記原子炉の出力が規定値よりも上昇しないように前記抽気量を戻すステップと、を有する。
【0008】
本開示の制御装置は、原子炉と、前記原子炉により直接発生させた蒸気又は前記原子炉の熱との熱交換により間接的に発生させた蒸気により駆動する蒸気タービンと、を備え、前記蒸気タービンの駆動により発電した発電電力を電力系統へ供給する原子力発電プラントの制御装置であって、前記原子力発電プラントから供給する電力の低下又は負荷の増加に応じて、前記発電電力を一時的に増加させる負荷応答運転を行うか否かを判定する手段と、前記負荷応答運転を行うと判定すると、前記蒸気タービンから抽気する蒸気の抽気量を低下させる手段と、前記負荷応答運転を行うとの判定に基づいて起動された外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定する手段と、前記抽気量を戻すタイミングを判定する手段と、前記抽気量を戻すタイミングが到来すると、前記原子炉の出力が規定値よりも上昇しないように前記抽気量を戻す手段と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
上述の制御方法及び制御装置によれば、急激な負荷上昇や電力供給量の急激な低下に対応して、急速に原子力発電プラントの発電電力を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る原子力発電プラントの一例を示す系統図である。
【
図2】実施形態の負荷応答運転に関する系統周波数および出力の経時的変化の一例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る負荷応答運転の制御について説明する図である。
【
図4】実施形態に係る負荷応答運転の制御の一例を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態に係る原子力発電プラントの他の例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下、本開示の負荷応答制御について図面を参照して説明する。
(構成)
図1は、実施形態に係る原子力発電プラントの一例を示す系統図である。
本実施形態の原子力発電プラント1は、原子炉10と、蒸気発生器12と、蒸気タービン20と、発電機50と、外部電源70と、制御装置100等を備える。原子炉10と蒸気発生器12は、一次冷却水を循環させる流路11によって接続され、この流路11を、原子炉10を冷却する一次冷却水が循環する。蒸気発生器12は、流路11を循環する一次冷却水と、蒸気タービン20を流通する二次冷却水(復水)とを熱交換させて、二次冷却水を加熱し、蒸気を発生させる。
【0012】
蒸気タービン20は、高圧蒸気タービン21と、主蒸気止め弁22と、蒸気加減弁23と、湿分分離器24と、湿分分離加熱器25,26と、低圧蒸気タービン27と、再熱蒸気止め弁28と、インターセット弁29と、復水器30と、復水ポンプ31と、脱気器水位制御弁32と、低圧第1給水加熱器33と、低圧第2給水加熱器34と、低圧第3給水加熱器35と、低圧第4給水加熱器36と、脱気器37と、主給水ポンプ38と、給水ブースターポンプ39と、高圧第6給水加熱器3Aと、を備える。
【0013】
蒸気発生器12と高圧蒸気タービン21とは、主蒸気管L1を介して接続されている。蒸気発生器12が発生させた蒸気は、蒸気管L1を通じて高圧蒸気タービン21へ供給される。主蒸気管L1には、主蒸気止め弁22と、蒸気加減弁23とが設けられている。主蒸気止め弁22を閉にすることで、蒸気発生器12から高圧蒸気タービン21への蒸気の供給が遮断される。蒸気加減弁23の開度を調整することにより、蒸気発生器12から高圧蒸気タービン21へ供給される蒸気の流量が制御される。
【0014】
高圧蒸気タービン21の出口側と湿分分離器24は、蒸気管L2を介して接続される。湿分分離器24は、高圧蒸気タービン21が排気した蒸気に含まれる湿分を分離する。分離後の蒸気は湿分分離加熱器25へ供給され、分離された水分はドレン管L21を介して脱気器37へ供給される。湿分分離加熱器25は、蒸気管L3を介して高圧蒸気タービン21と接続されている。湿分分離加熱器25では、高圧蒸気タービン21から蒸気管L3を通じて供給される蒸気によって、湿分分離器24から供給される蒸気が再加熱されるとともに湿分が分離される。分離された水分や湿分分離加熱器25での熱交換によって冷却され凝縮した水分はドレン管L22を介して高圧第6給水加熱器3Aへ供給される。湿分分離加熱器25にて湿分の分離と加熱が行われた後の蒸気は、湿分分離加熱器26へ供給される。湿分分離加熱器26は、蒸気管L4を介して蒸気発生器12と接続されている。湿分分離加熱器26では、蒸気管L4を通じて供給される蒸気によって湿分分離加熱器25から供給される蒸気が加熱されるとともに湿分が分離される。分離された水分や湿分分離加熱器26での熱交換によって冷却され凝縮した水分はドレン管L23を介して高圧第6給水加熱器3Aへ供給される。
【0015】
湿分分離加熱器26にて湿分分離と加熱が行われた後の蒸気は、蒸気管L5を介して低圧蒸気タービン27へ供給される。蒸気管L5には、再熱蒸気止め弁28と、インターセット弁29が設けられている。再熱蒸気止め弁28を閉にすることで、低圧蒸気タービン27への蒸気の供給が遮断される。インターセット弁29の開度を調整することにより、低圧蒸気タービン27へ供給される蒸気の流量が制御される。低圧蒸気タービン27は、発電機50と連結されている。低圧蒸気タービン27は、湿分分離加熱器26から供給された蒸気によって回転駆動され、発電機50を駆動する。発電機50の駆動により発電した電力は電力系統60へ供給される。電力系統60には、系統周波数を計測する周波数計61が設けられている。
【0016】
低圧蒸気タービン27の回転駆動に用いられた蒸気は復水器30へ供給される。復水器30は、低圧蒸気タービン27から排出された蒸気を水に戻す。復水器30と蒸気発生器12とは、復水ラインL6によって接続されている。復水ラインL6には、復水ポンプ31、脱気器水位制御弁32、低圧第1給水加熱器33、低圧第2給水加熱器34、低圧第3給水加熱器35、低圧第4給水加熱器36、脱気器37、主給水ポンプ38、給水ブースターポンプ39、高圧第6給水加熱器3Aが、復水器30から蒸気発生器12へ向けてこの順で設けられている。復水器30で生成された復水は、復水ポンプ31によって、低圧第1給水加熱器33、低圧第2給水加熱器34、低圧第3給水加熱器35、低圧第4給水加熱器36へ順に送出される。低圧第1給水加熱器33は抽気管L7を介して低圧蒸気タービン27と接続されている。低圧第1給水加熱器33に送出された復水は、抽気管L7を通じて供給される抽気蒸気によって加熱される。低圧第1給水加熱器33で加熱された復水は、低圧第2給水加熱器34へ供給される。低圧第2給水加熱器34は抽気管L8を介して低圧蒸気タービン27と接続されている。低圧第2給水加熱器34に送出された復水は、抽気管L8を通じて供給される抽気蒸気によって加熱され、低圧第3給水加熱器35へ供給される。同様に、低圧第3給水加熱器35と低圧第4給水加熱器36はそれぞれ抽気管L9,L10を介して低圧蒸気タービン27と接続されており、低圧第3給水加熱器35と低圧第4給水加熱器36に送出された復水は、それぞれ抽気管L9,L10を通じて供給される抽気蒸気によって加熱される。低圧第2給水加熱器34で加熱された復水は、低圧第3給水加熱器35へ供給され、低圧第3給水加熱器35で加熱された復水は、低圧第4給水加熱器36へ供給される。低圧第4給水加熱器36で加熱された復水は、脱気器37へ供給される。
【0017】
脱気器37は、高圧蒸気タービン21と抽気管L11を介して接続されている。脱気器37では、ドレン管L21を介して脱気器37へ供給された水分と、低圧第4給水加熱器36から供給された復水とを抽気管L11を通じて供給された抽気蒸気によって加熱し、脱気する。脱気された復水は、脱気器37にて貯留される。脱気器水位制御弁32は、脱気器37にて貯留される復水の水位を調整する。脱気器水位制御弁32は、例えば、空気作動弁であり、急閉することができる。また、脱気器37には、貯留される水位を計測する水位計371が設けられている。
【0018】
脱気器37と蒸気発生器12の間には、復水流れ方向の上流側から順に、主給水ポンプ38、給水ブースターポンプ39、高圧第6給水加熱器3Aが設置されている。主給水ポンプ38と給水ブースターポンプ39は、脱気器37からの復水を、高圧第6給水加熱器3Aを介して蒸気発生器12へ送出する。高圧第6給水加熱器3Aは、抽気管L12を介して高圧蒸気タービン21と接続されている。高圧第6給水加熱器3Aは、ドレン管L22、L23を介して供給された水分と脱気器37から供給された復水とを、抽気管L12を通じて供給された抽気蒸気によって加熱する。加熱後の復水(上述した二次冷却水)は、蒸気発生器で一次冷却水と熱交換することで加熱され蒸気となる。蒸気となった復水は、これまでに説明した経路を経て循環し、発電機50を駆動する。
【0019】
外部電源70は、原子力発電プラント1に外部からの電力供給が停止したときに発電を行う、例えば、同期式のディーゼル発電機である。原子力発電プラント1では、非常時に安全系設備を動作させるための電源として、非常用のディーゼル発電機が、冗長性を考慮して複数台設けられている。これらのディーゼル発電機は大容量であり、普段は使用されていない。本実施形態では、これらの非常用電源を外部電源70として活用する。外部電源70は、非常時に原子力発電プラント1の安全系設備に電力を供給するだけでなく、遮断器72を閉じることにより、電源線71を介して電力系統60に接続(併入)することができるように構成されている。
【0020】
制御装置100は、原子力発電プラント1を制御する。例えば、主蒸気止め弁22、蒸気加減弁23、再熱蒸気止め弁28と、インターセット弁29、脱気器水位制御弁32、復水ポンプ31、主給水ポンプ38、給水ブースターポンプ39は制御装置100と接続されており、制御装置100によって制御される。制御装置100は、データ取得部101と、判定部102と、制御部103と、記憶部104と、を備える。
【0021】
データ取得部101は、各種の入力インタフェースやスイッチ、ボタン、キーボード等の入力装置を含んで構成される。データ取得部101は、周波数計61、水位計371、外部電源70等と接続され、周波数計61が計測した電力系統60の系統周波数、水位計371が計測した脱気器37の水位、外部電源70の稼働状況を示す情報(例えば、同期式発電機の回転数など)を取得する。また、データ取得部101は、入力装置を用いてユーザが入力した情報を取得する。データ取得部101は、取得した各種の情報を記憶部104に記録する。
【0022】
判定部102は、データ取得部101が取得した情報を用いて、負荷応答運転を実行するか否かを判定する。ここで、負荷応答運転とは、電力系統60の周波数変動や電力需要変動に対応できるように原子力発電プラント1の出力を制御する運転である。具体的には、電力系統60に接続された負荷が上昇するか、原子力発電プラント1から電力系統60へ供給する電力が低下したときに急速に出力を増加させる運転である。例えば、判定部102は、周波数計61が計測した電源周波数が所定の閾値以上低下すると、負荷応答運転を実行すると判定する。
【0023】
制御部103は、判定部102が負荷応答運転を実行すると判定すると、原子力発電プラント1を制御し、負荷応答運転を実行する。負荷応答運転は、短期的な負荷応答であるプライマリレスポンスと、プライマリレスポンスによる出力増加を維持するセカンダリレスポンスから構成される。例えば、制御部103は、後述する復水絞り運転により出力を増加させる(プライマリレスポンス)。続いて、制御部103は、外部電源70を起動させて電力系統60に併入することにより出力増加状態を維持する(セカンダリレスポンス)。また、制御部103は、時間を計測するタイマを有している。
記憶部104は、データ取得部101が取得した情報、負荷応答運転に必要な閾値などを記憶している。
【0024】
制御装置100は、コンピュータで構成される。制御装置100は、データ取得部101に含まれる入力インタフェース、判定部102や制御部103の機能を実現するためのプログラムが記憶されている外部記憶装置と、このプログラムを実行するCPUと、CPUの実行結果等が展開される主記憶装置と、を有して構成される。記憶部104は、この場合の外部記憶装置および主記憶装置に対応する。制御装置100は、負荷応答運転以外の制御も行うが、本明細書では他の制御に関する機能の説明を省略する。
【0025】
次に
図2、
図3を参照して、本実施形態に係る負荷応答運転について説明する。
図2は、実施形態の負荷応答運転に関する系統周波数および出力の経時的変化の一例を示す図である。
図2の上
図G21は負荷応答運転時の電力系統60の系統周波数の推移を示し、下
図G22は負荷応答運転時の原子力発電プラント1の出力の推移を示している。上
図G21の縦軸は電力周波数(Hz)、横軸は時間を示す。下
図G22の縦軸は発電電力(W)、横軸は時間を示す。上
図G21と下
図G22の縦軸の同じ位置は同じ時刻を示している。電力系統60の周波数が時刻t1に定格の周波数よりも閾値Δf以上低下すると、判定部102が負荷応答運転を実行すると判定する。すると、制御部103が、プライマリレスポンスを開始する(時刻t1)。プライマリレスポンスを開始すると、急速に出力がΔL(w)増加する。以下で説明するようにプライマリレスポンスでは、例えば、復水絞り運転(脱気器水位制御弁32を絞って脱気器37へ供給される復水の流量を低下させる運転)を行うが、この運転は一定の時間(例えば、5分以内)だけ実行することができる。復水絞り運転が実行できなくなるとΔLだけ増加した出力が低下してしまう。そこで、制御部103は、復水絞り運転を行うことができる時間内(例えば、時刻t2)に外部電源70を活用したセンカンダリレスポンスを開始する。プライマリレスポンスによってΔLだけ出力が増加すると、センカンダリレスポンスでは、この出力増加ΔL分を維持できるように出力制御が行われる。これにより、急激な負荷上昇や電力供給量の低下が補償される。また、上
図G21に示すように、プライマリレスポンス、セカンダリレスポンスによる原子力発電プラント1の出力増加によって、系統周波数は回復する。
【0026】
図3は、実施形態に係る負荷応答運転の制御について説明する図である。
図3の上
図G31は発電機50の出力変動を示し、下
図G32は外部電源70の出力変動を示している。上
図G31,G32の縦軸は出力変動の大きさ及び方向(上昇するか低下するか)を示し、横軸は時間を示す。制御部103は、時刻t1に復水絞り運転を開始する。復水絞り運転とは、脱気器水位制御弁32の開度を所定の開度まで急閉させることによって、復水器30から、低圧第1給水加熱器33~低圧第4給水加熱器36を介して脱気器37に供給される復水の流量を低下させる運転である。低圧第1給水加熱器33~低圧第4給水加熱器36を流れる復水の流量が低下すると、加熱器33~36の復水を加熱する抽気蒸気の流量が自然と減少する。加熱器33~36は、復水によって蒸気を冷やして水に戻す装置である。加熱器33~36では、低圧蒸気タービン27からの抽気蒸気が冷やされて水になると体積が減り、新たな蒸気が低圧蒸気タービン27から引っ張られて抽気が供給されるというプロセスが自動的に連続して繰り返されており、これにより低圧蒸気タービン27からの抽気蒸気が加熱器33~36へ供給される仕組みとなっている。脱気器水位制御弁32の急閉により、復水の流量が減ると、加熱器33~36において水に戻る蒸気の量が減るため、低圧蒸気タービン27から引っ張られる抽気量が減る。低圧蒸気タービン27から抽気される抽気蒸気の量が減少すれば、低圧蒸気タービン27の蒸気が増加するため、低圧蒸気タービン27の出力が増加する。これにより、発電機50の発電量も増加する。しかし、復水器30から脱気器37へ供給される復水の流量が低下すると、脱気器37の水位が低下する。脱気器37の水位が低下しすぎると、主給水ポンプ38、給水ブースターポンプ39が渦を吸い込んで損傷するおそれがある。なお、脱気器37の水位が低下しすぎない程度に下げた状態で維持すると、供給される復水の流量が一定となり、抽気蒸気の流量も一定となるため、低圧蒸気タービン27の出力増加につながらない。また、脱気器37の水位を低下した状態で維持すると、その間に出力を増加させなければならない場合に「復水絞り運転」による対応ができなくなるため好ましくない。従って、脱気器37の水位が低下しすぎる前に脱気器水位制御弁32を開いて復水流量を増加させて脱気器37の水位を回復させなければならない。また、このとき急速に脱気器37へ供給する復水の流量を増加させると、低圧蒸気タービン27からの抽気蒸気が増加する。結果的に蒸気タービン20(低圧蒸気タービン27)が蒸気発生器12から飲み込む蒸気量が増え、原子炉10の定格出力を上回る可能性がある。原子炉の出力は、定格出力を上回らないように制御することが法令等で定められている。従って、制御部103は、原子炉出力が定格出力を上回らないように復水流量を戻し、緩やかに脱気器37の水位を回復させることによって、プライマリレスポンスを終了させる。例えば、制御部103は、時刻t3にゆっくりと脱気器水位制御弁32をプライマリレスポンス開始時の開度よりも所定の開度だけ大きく開き、その開度をしばらく維持することにより、原子炉出力に影響を与えない速度で水位の回復を図る。
【0027】
復水絞り運転により時刻t1にプライマリレスポンスが開始されると、制御部103は、セカンダリレスポンスの準備を開始する。具体的には、
図3の下
図G32に示すように、所定時間T1だけ待機した後に外部電源70を起動する。時間T1待機するのは、この間に系統周波数が通常範囲に復旧する可能性があるためである。待機中に系統周波数が元に戻った場合には、セカンダリレスポンスを中止することができる。また、外部電源70を起動し、電力系統60に接続できるような状態となるまでは数分間を要するため、プライマリレスポンスが開始されると外部電源70を起動し、セカンダリレスポンスに備える。外部電源70を起動し、ディーゼル発電機の回転数が所定値に達すると、電力系統60に併入する(セカンダリレスポンス)。電力系統60への併入は、脱気器37の水位が下限値に達する前に実施することが望ましい。
図3上
図G31の時刻t3とは、例えば、脱気器37の水位が下限値に低下する前までのある時刻であり、外部電源70の併入後のある時刻(又は実際に併入する前であっても、外部電源70が併入可能な状態となっている時刻)である。外部電源70の併入後は、発電機50の出力(復水絞り運転を終えて復水の流量を戻しているので出力は低下傾向となる。)と外部電源70の出力の合計が、プライマリレスポンス実行時の発電機50の出力が維持できるように(負荷と等しくなるように)、ディーゼル発電機へ投入する燃料を調整する等して外部電源70の出力を制御する。これにより、従来は火力発電所が担っていた電力系統60の急速な周波数変動や負荷変動に対応する負荷応答運転を、原子力発電プラント1においても実施することができる。
【0028】
(動作)
図4は、実施形態に係る負荷応答運転の制御の一例を示すフローチャートである。
データ取得部101が、周波数計61から系統周波数を取得する(ステップS1)。データ取得部101は、系統周波数を判定部102へ出力する。次に判定部102が負荷応答運転を行うか否かを判定する(ステップS2)。判定部102は、系統周波数が、定格の周波数から所定値Δf以上低下していれば、負荷応答運転を行うと判定し、そうでなければ負荷応答運転を行わないと判定する。判定部102が、負荷応答運転を行わないと判定した場合(ステップS2;No)、
図4のフローチャートを終了する。
【0029】
判定部102が、負荷応答運転を行うと判定した場合(ステップS2;Yes)、制御部103が負荷応答運転を実行する。まず、制御部103は、抽気量を低下させる(ステップS3)。例えば、制御部103は、脱気器水位制御弁32の開度を所定の開度まで急閉させる復水絞り運転を行うことによって、復水器30から脱気器37へ供給される復水の流量を急閉前の30~50%に低下させる。すると、低圧蒸気タービン27から抽気される蒸気の抽気量が自然と低下し、蒸気タービン20を流れる蒸気の流量が増大する。これにより、蒸気タービン20の出力が上昇し、発電機50の出力が上昇する(プライマリレスポンス)。また、脱気器水位制御弁32の急閉により、脱気器37の水位は徐々に低下する。次に外部電源70を起動する(ステップS4)。例えば、制御部103又は運転員は、原子力発電プラント1の非常用発電機を起動する。外部電源70は、抽気量を低下させる制御が開始されてから所定時間(例えば30秒)だけ待機した後に起動してもよい。この待機中に系統周波数が回復すれば外部電源起動せずに抽気量をゆっくりと戻して負荷応答運転を終了してもよい。
【0030】
次に制御部103は、外部電源70を電力系統60に接続するタイミングを判定する(ステップS5)。例えば、制御部103は、外部電源70が電力系統60に接続できる状態となると、電力系統60に接続すると判定する。具体的には、制御部103は、外部電源70の回転数が安定して、系統周波数に応じた同期速度以上となると電力系統60に接続すると判定する。また、例えば、制御部103は、抽気量の低下により一時的に上昇した発電電力が低下するまで(例えば、抽気量低下の開始から最長で5分後まで)に起動した外部電源70を電力系統に接続すると判定する。より具体的には、制御部103は、脱気器37の水位が下限値に達するまでに、外部電源70を電力系統60に接続すると判定する。これは、脱気器37の水位が下限値に達すると脱気器水位制御弁32の開度を戻し始めるのでそれまでには外部電源70を電力系統60に接続し、蒸気タービン20の出力低下に備えるためである。外部電源70を電力系統60に接続しないと判定した場合(ステップS5;No)、接続するタイミングが到来するまで待機する。外部電源70を電力系統60に接続すると判定すると(ステップS5;Yes)、外部電源70を電力系統60に接続する(ステップS6)。例えば、制御部103又は運転員は、遮断器72を閉じて外部電源70を電力系統60に接続する。次に、原子力発電プラント1の出力を調整する(ステップS7)。例えば、制御部103又は運転員は、蒸気タービン20による発電電力と、外部電源70が供給する電力の和が所定の目標値となるように、外部電源70の出力を制御する。外部電源70を電力系統60に接続し、出力の調整を行うことがセカンダリレスポンスに対応する。
【0031】
次に制御部103は、抽気量を戻すタイミングを判定する(ステップS8)。例えば、制御部103は、データ取得部101が水位計371から取得した脱気器37の復水の水位が下限値に達すると、抽気量を戻すと判定する。あるいは、制御部103は、外部電源70の電力系統60への接続が完了すると、抽気量を戻すと判定する。接続の完了は、運転員が接続完了信号を制御装置100に入力してもよいし、例えば、制御部103が遮断器72の開閉状態を検知して判断してもよい。又は、実際に接続せずとも外部電源70が接続可能な回転数となると、制御部103は、抽気量を戻すと判定してもよい。抽気量を戻すと判定しない場合(ステップS8;No)、抽気量を戻すタイミングが到来するまで待機する。抽気量を戻すと判定すると(ステップS8;Yes)、制御部103は、抽気量を戻す制御を行う(ステップS9)。ここで、ステップS3で所定の開度まで低下させた脱気器水位制御弁32の開度を急速に開いて、脱気器37の水位を回復させようとすると抽気量が増え、その結果、蒸気発生器12から蒸気タービン20へ引っ張られる蒸気量が増大し、このことで原子炉10の定格出力を上回る可能性がある。そこで、制御部103は、脱気器水位制御弁32の開度を所定の開度までゆっくり開いて、脱気器37の水位をゆっくりと回復させる。脱気器37の水位をゆっくりと回復させることにより、蒸気発生器12から蒸気タービン20へ引っ張られる蒸気量の増大を抑え、原子炉10の出力上昇を抑えることができる。例えば、制御部103は、脱気器水位制御弁32を、ゆっくりと抽気量を低下させる前の開度よりも所定値だけ大きい水位回復用の開度で開き、その状態を維持することにより、脱気器37の水位をゆっくりと回復させる。そして、制御部103は、脱気器37の水位が抽気量を低下させる前の水位に戻るまで、水位回復用の開度を維持する。脱気器37の水位が元に戻ると、制御部103は、脱気器水位制御弁32の開度を、抽気量を低下させる前の開度に戻す。
【0032】
上記の説明では、脱気器水位制御弁32の開度を調整することによる復水絞り運転によってプライマリレスポンスを実行することとしたが、
図5に示すように、原子力発電プラント1´を、抽気管L7~L12にそれぞれ抽気量調節弁40~45を設ける構成とし、制御部103は、ステップS3にて抽気量調節弁40~45の開度を所定の開度まで低下させることによって蒸気タービン20からの抽気量を低下させ、ステップS9では、原子炉10の出力上昇を招かないように抽気量調節弁40~45の開度をゆっくりと元の開度に戻すように制御してプライマリレスポンスを実行してもよい。また、ステップS7では、外部電源70に加えて蒸気加減弁23の開度を調整することにより(原子炉10の出力上昇を招かない範囲で)蒸気タービン20の出力を調整してもよい。
【0033】
(効果)
一般に原子力発電プラントでは、原子炉の出力を定格出力以内に抑えなければならないために蒸気発生器から蒸気タービンへ供給する蒸気を増大させることによって出力増加を図ることができず、そのため、急激な負荷や系統周波数の変動に対応する負荷応答運転(プライマリレスポンス、セカンダリレスポンス)を実施することができない。これに対し、本実施形態では、原子力発電プラント1、1´に備えられた非常用発電機を活用し、これと復水絞り運転とを組み合わせることで、負荷応答運転を実現することができる。
【0034】
上記の実施形態では、原子力発電プラント1が加圧水型炉(PWR:Pressurized Water Reactor)の場合を例に説明を行ったが、本実施形態の制御方法および制御装置は、沸騰水型炉(BWR:Boiling Water Reactor)にも適用することができる。即ち、原子力発電プラント1は、原子炉10により加熱された一次冷却水と熱交換を行って間接的に発生させた蒸気により蒸気タービン20を駆動する構成(PWR)に代えて、原子炉内で直接発生させた蒸気により蒸気タービン20を駆動する構成(BWR)を有していてもよい。
【0035】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0036】
<付記>
各実施形態に記載の制御方法及び制御装置は、例えば以下のように把握される。
【0037】
(1)第1の態様に係る制御方法は、原子炉と、前記原子炉により直接発生させた蒸気又は前記原子炉の熱との熱交換により間接的に発生させた蒸気により駆動する蒸気タービンと、を備え、前記蒸気タービンの駆動により発電した発電電力を電力系統へ供給する原子力発電プラントの制御方法であって、前記原子力発電プラントから供給する電力の低下又は負荷の増加に応じて、前記発電電力を一時的に増加させる負荷応答運転を行うか否かを判定するステップと、前記負荷応答運転を行うと判定すると、前記蒸気タービンから抽気する蒸気の抽気量を低下させるステップと、前記負荷応答運転を行うと判定すると、外部電源を起動するステップと、前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップと、前記接続するタイミングが到来すると、前記外部電源を前記電力系統に接続するステップと、前記抽気量を戻すタイミングを判定するステップと、前記抽気量を戻すタイミングが到来すると、前記原子炉の出力が規定値よりも上昇しないように前記抽気量を戻すステップと、を有する。
これにより、急激な負荷上昇や電力供給量の急激な低下に対応して、急速に原子力発電プラントの発電電力を増加させる負荷応答運転を行うことができる。
【0038】
(2)第2の態様に係る制御方法は、(1)の制御方法であって、前記原子力発電プラントは、前記蒸気タービンが排出した蒸気から復水を生成する復水器と、前記復水器が生成した復水を加熱及び脱気する脱気器と、を備え、前記抽気量を低下させるステップでは、前記蒸気タービンの後段に設けられた前記復水器から前記脱気器に供給する前記復水の流量を調節する復水量調節弁(脱気器水位制御弁32)の開度を所定の開度に低下させる。
これにより、負荷応答運転のうちプライマリレスポンスを実行することができる。
【0039】
(3)第3の態様に係る制御方法は、(1)~(2)の制御方法であって、前記原子力発電プラントは、前記蒸気タービンが排出した蒸気から生成される復水を、前記蒸気タービンから抽気した前記蒸気により加熱する加熱器を備え、前記抽気量を低下させるステップでは、前記蒸気タービンから前記加熱器へ抽気する前記蒸気の抽気量を調節する抽気量調節弁の開度を所定の開度に低下させる。
これにより、負荷応答運転のうちプライマリレスポンスを実行することができる。
【0040】
(4)第4の態様に係る制御方法は、(2)の制御方法であって、前記抽気量を低下させるステップでは、前記復水量調節弁の開度を低下させることにより、前記復水の流量を30~50%に低下させる。
これにより、負荷応答運転のうちプライマリレスポンスを実行することができる。
【0041】
(5)第5の態様に係る制御方法は、(2)の制御方法であって、前記抽気量を戻すステップでは、前記復水量調節弁を、前記抽気量を低下させる前の開度よりも所定値だけ大きい回復開度で開いた状態を維持する。
これにより、原子炉出力の増加を抑えつつ、脱気器の水位を回復させることができる。
【0042】
(6)第6の態様に係る制御方法は、(5)の制御方法であって、前記抽気量を戻すステップでは、前記脱気器の水位が前記抽気量を低下させる前の水位に戻るまで、前記復水量調節弁の前記回復開度を維持する。
これにより、プライマリレスポンスを終了させ、負荷応答運転前の運転状態に戻すことができる。
【0043】
(7)第7の態様に係る制御方法は、(2)の制御方法であって、前記抽気量を低下させるステップでは、前記復水量調節弁を所定の第1開度まで急閉し、前記抽気量を戻すステップでは、前記復水量調節弁を所定の第2開度まで、前記原子炉の出力が規定値よりも上昇しない速度で開ける。
これにより、原子炉出力の増加を抑えつつ、プライマリレスポンスを実行することができる。
【0044】
(8)第8の態様に係る制御方法は、(1)~(7)の制御方法であって、前記負荷応答運転を行うか否かを判定するステップでは、前記電力系統の周波数が所定値以下に低下すると前記発電電力を増加させると判定する。
これにより、負荷応答運転を実行するか否かを判定することができる。
【0045】
(9)第9の態様に係る制御方法は、(1)~(8)の制御方法であって、前記外部電源は同期式の発電機であって、前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップでは、前記発電機の回転数が所定値以上となると前記電力系統に接続すると判定する。
これにより、外部電源を電力系統に接続し、セカンダリレスポンスを実行することができる。
【0046】
(10)第10の態様に係る制御方法は、(1)~(9)の制御方法であって、前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップでは、前記蒸気の抽気量を低下させることにより一時的に上昇した前記蒸気タービンによる前記発電電力が低下するまでに前記電力系統に接続すると判定する。
これにより、蒸気発生器12の出力増加によるセカンダリレスポンスの実行ができない原子力発電プラントにおいてもセカンダリレスポンスを実行することができる。
【0047】
(11)第11の態様に係る制御方法は、(1)~(10)の制御方法であって、前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップでは、前記脱気器の水位が下限値に達するまでに前記電力系統に接続すると判定する。
これにより、脱気器の水位が低下することによって発生する下流に設けられたポンプの故障を回避することができる。
【0048】
(12)第12の態様に係る制御方法は、(1)~(11)の制御方法であって、前記抽気量を戻すタイミングを判定するステップでは、前記脱気器の水位が下限値に達すると、前記抽気量を戻すと判定する。
これにより、脱気器の水位が低下することによって発生する下流に設けられたポンプの故障を回避することができる。
【0049】
(13)第13の態様に係る制御方法は、(1)~(12)の制御方法であって、前記抽気量を戻すタイミングを判定するステップでは、前記外部電源の前記電力系統への接続が完了すると、前記抽気量を戻すと判定する。
これにより、プライマリレスポンスにより一時的に上昇した出力を維持することができる。
【0050】
(14)第14の態様に係る制御方法は、(1)~(13)の制御方法であって、前記外部電源を起動するステップでは、前記抽気量を低下させるステップによって前記抽気量を低下させる制御を開始してから所定時間だけ待機した後に前記外部電源を起動し、前記外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定するステップでは、前記抽気量を低下させる制御を継続できる所定の制限時間(例えば、脱気器37の水位が下限に達するまでの時間)が経過するまでに前記電力系統に接続すると判定する。
これにより、系統の負荷変動などがごく短期間で終わった場合には、プライマリレスポンスのみで対応し、無暗に外部電源の起動を行うことを防ぐことができる。また、プライマリレスポンスを継続できる時間内に外部電源による出力補償に切り替えることで、負荷応答運転にて要求された出力を維持することができる。
【0051】
(15)第15の態様に係る制御方法は、(1)~(14)の制御方法であって、前記抽気量の低下を開始した後の前記原子力発電プラントの出力を調整するステップ、をさらに有し、前記調整するステップでは、前記蒸気タービンによる前記発電電力と、前記外部電源が供給する電力の和が所定の目標値となるように、前記蒸気タービンへ供給する蒸気流量を調整する蒸気加減弁の開度および/又は前記外部電源の出力を制御する。
これにより、プライマリレスポンスにより一時的に上昇した出力を維持することができる。
【0052】
(16)第16の態様に係る制御方法は、(1)~(15)の制御方法であって、前記外部電源は、原子力発電プラントの非常用発電機である。
原子力発電プラントに備えられた、普段は使用しない、複数台の大容量の非常用発電機を有効に活用することができる。
【0053】
(17)第17の態様に係る制御装置は、原子炉と、前記原子炉により直接発生させた蒸気又は前記原子炉の熱との熱交換により間接的に発生させた蒸気により駆動する蒸気タービンと、を備え、前記蒸気タービンの駆動により発電した発電電力を電力系統へ供給する原子力発電プラントの制御装置であって、前記原子力発電プラントから供給する電力の低下又は負荷の増加に応じて、前記発電電力を一時的に増加させる負荷応答運転を行うか否かを判定する手段と、前記負荷応答運転を行うと判定すると、前記蒸気タービンから抽気する蒸気の抽気量を低下させる手段と、前記負荷応答運転を行うとの判定に基づいて起動された外部電源を前記電力系統に接続するタイミングを判定する手段と、前記抽気量を戻すタイミングを判定する手段と、前記抽気量を戻すタイミングが到来すると、前記原子炉の出力が規定値よりも上昇しないように前記抽気量を戻す手段と、を有する。
【符号の説明】
【0054】
1、1´・・・原子力発電プラント、10・・・原子炉、12・・・蒸気発生器、21・・・高圧蒸気タービン、22・・・主蒸気止め弁、23・・・蒸気加減弁、24・・・湿分分離器、25、26・・・湿分分離加熱器、27・・・低圧蒸気タービン、28・・・再熱蒸気止め弁、29・・・インターセット弁、30・・・復水器、31・・・復水ポンプ、32・・・脱気器水位制御弁、33・・・低圧第1給水加熱器、34・・・低圧第2給水加熱器、35・・・低圧第3給水加熱器、36・・・低圧第4給水加熱器、37・・・脱気器、371・・・水位計、38・・・主給水ポンプ、39・・・給水ブースターポンプ、3A・・・高圧第6給水加熱器、40~45・・・抽気量調節弁、50・・・発電機、60・・・電力系統、61・・・周波数計、70・・・外部電源、71・・・電源線、72・・・遮断器、100・・・制御装置、101・・・データ取得部、102・・・判定部、103・・・制御部、104・・・記憶部、L1~L5・・・蒸気管、L6・・・復水ライン、L7~L12・・・抽気管