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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067255
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】体液測定方法及び体液測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/06 20240101AFI20240510BHJP
   G01N 21/51 20060101ALI20240510BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20240510BHJP
   G01N 33/04 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
G01N15/06 E
G01N21/51
G01N33/49 K
G01N33/04
G01N33/49 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177181
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大野 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛晃
(72)【発明者】
【氏名】梅原 敬弘
(72)【発明者】
【氏名】塚田 順一
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
【Fターム(参考)】
2G045AA02
2G045BB10
2G045CA02
2G045CA11
2G045CA25
2G045CB17
2G045FA14
2G059AA01
2G059BB06
2G059BB13
2G059CC16
2G059DD13
2G059EE02
2G059GG02
2G059HH01
2G059HH02
2G059KK01
(57)【要約】
【課題】必要とする体液の小量化及び利用する装置のコンパクト化を図った上で体液の所定の血球の密度を安定的に計測可能な体液測定方法及び体液測定装置を提供する。
【解決手段】血液又は生乳からなる体液の所定の血球10の密度を計測する体液測定方法において、体液を希釈した希釈サンプル11が入れられた透光性を有する容器12に、交流電流に直流電流を重ね合わせた電流が通電されて発光した発光ダイオード13の光Lを照射して、希釈サンプル11に入射させる工程Aと、希釈サンプル11に入射し希釈サンプル11内で散乱した光Lをフォトダイオード14で検出して第1の電気信号に変換する工程Bと、第1の電気信号を交流増幅し復調した第2の電気信号を基に、体液の所定の血球10の密度を求める工程Cとを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液又は生乳からなる体液の所定の血球の密度を計測する体液測定方法において、
前記体液を希釈した希釈サンプルが入れられた透光性を有する容器に、交流電流に直流電流を重ね合わせた電流が通電されて発光した発光ダイオードの光を照射して、前記希釈サンプルに入射させる工程Aと、
前記希釈サンプルに入射し該希釈サンプル内で散乱した光をフォトダイオードで検出して第1の電気信号に変換する工程Bと、
前記第1の電気信号を交流増幅し復調した第2の電気信号を基に、前記体液の前記所定の血球の密度を求める工程Cとを有することを特徴とする体液測定方法。
【請求項2】
請求項1記載の体液測定方法において、前記容器は側壁及び底部を有し、前記発光ダイオードの光は、前記容器の前記側壁に照射され、前記フォトダイオードは、前記希釈サンプル内で散乱し前記容器の前記底部から該容器外に出る光を受光することを特徴とする体液測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の体液測定方法において、前記体液及び前記所定の血球は、それぞれ人の血液及び赤血球であり、前記体液を、200倍以上2000倍以下の希釈率で希釈して前記希釈サンプルを調製することを特徴とする体液測定方法。
【請求項4】
請求項3記載の体液測定方法において、前記体液は前記容器内で希釈液と混合されて希釈されることを特徴とする体液測定方法。
【請求項5】
請求項1又は2記載の体液測定方法において、前記体液及び前記所定の血球は、それぞれ乳用牛の生乳及び白血球であり、
前記工程Aの前に、前記体液を10倍以上100倍以下の希釈倍率で希釈した中間サンプルを遠心分離して、前記所定の血球を沈降させる工程αと、前記中間サンプルの沈降分画を得る工程βと、前記沈降分画を希釈して、前記工程αにおける希釈前の前記体液の容量に対し2倍以上10倍以下の容量の前記希釈サンプルを得る工程γとを有することを特徴とする体液測定方法。
【請求項6】
請求項5記載の体液測定方法において、前記工程αで、前記体液を前記容器内で希釈し、前記中間サンプルを前記容器に入れた状態で遠心分離し、前記工程βで、前記中間サンプルの前記沈降分画以外の分画を前記容器から取り除き、前記工程γで、前記沈降分画に前記容器内で希釈液を加えることを特徴とする体液測定方法。
【請求項7】
血液又は生乳からなる体液の所定の血球の密度を計測する体液測定装置において、
前記体液を希釈した希釈サンプルが入れられた透光性を有する容器に照射する光を、通電されて発生させる発光ダイオードと、
前記発光ダイオードに交流電流に直流電流を重ね合わせた電流を通電する電源回路と、
前記容器に照射され前記希釈サンプル内で散乱する光を検出し第1の電気信号に変換するフォトダイオードと、
前記第1の電気信号を交流増幅し復調して得た第2の電気信号を基に、前記体液の前記所定の血球の密度を算出する演算手段とを備えることを特徴とする体液測定装置。
【請求項8】
請求項7記載の体液測定装置において、前記容器は側壁及び底部を有し、前記発光ダイオードの光は、前記容器の前記側壁に照射され、前記フォトダイオードは、前記容器の下方の光を受光することを特徴とする体液測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液中の赤血球の密度又は生乳中の白血球の密度を測定する体液測定方法及び体液測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中の赤血球の密度が小さい場合、貧血の可能性があり、血液中の赤血球密度が大きい場合、多血症(赤血球増加症)の可能性がある。多血症には、骨髄異常により赤血球が増加する真性多血症、下痢や熱中症等に伴う脱水症状により赤血球の濃度が高くなる相対性多血症、及び、喫煙習慣や飲酒習慣のある中年男性に多いストレス性多血症が存在する。これらの症状の診断には、血液中の赤血球の体積分率であるヘマトクリット値の測定が有用である。
【0003】
ヘマトクリット値の測定法として、遠心分離法及びコールタ(Coulter)カウンタ法が挙げられる。遠心分離法は、毛細管に充填された血液に遠心力を与えて血液中の赤血球を沈殿させ、沈殿した赤血球の体積を計測する。コールタカウンタ法(引用文献1参照)は電解質溶液中に血液を分散させて赤血球の数を計測するものであり、正確な計測が可能である。
【0004】
また、乳用牛の乳房炎は搾乳量の減少に直結することから、乳房炎を発症初期に診断して早期治療に結び付けられれば、酪農家の損害額を抑制できる。乳房炎の発症により生乳中の白血球の密度が大きくなる現象を利用した乳房炎の診断法として、化学発光法、CMT(California Mastitis Test)法及び電気伝導法等がある。化学発光法は、ルミノールを含む試薬、触媒混合液及び生乳を所定の割合で正確に混合する操作等、一般的な酪農家にとって難度が高い操作を要する。これに対し、CMT法及び電気伝導法は難度が高い操作を必要としないため、酪農家が実施する観点において好適である。なお、引用文献2には、CMT法の変形例であるP.L.テスター法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-265563号公報
【特許文献2】特開平5-223814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ヘマトクリット値の測定法において、遠心分離法は、1回の測定に100μL(マイクロリットル)以上の血液を要し、採血量を微量(例えば、数μL)にできないという課題があり、コールタカウンタ法は、使用する装置の小型化ができないという課題がある。
また、乳房炎の診断法において、CMT法は症状が進んだ乳房炎しか検出できず、電気伝導法は乳房による診断のバラつきが大きく正確性に欠けるという課題がある。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、必要とする体液の小量化及び利用する装置のコンパクト化を図った上で体液の所定の血球の密度を安定的に計測可能な体液測定方法及び体液測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う第1の発明に係る体液測定方法は、血液又は生乳からなる体液の所定の血球の密度を計測する体液測定方法において、前記体液を希釈した希釈サンプルが入れられた透光性を有する容器に、交流電流に直流電流を重ね合わせた電流が通電されて発光した発光ダイオードの光を照射して、前記希釈サンプルに入射させる工程Aと、前記希釈サンプルに入射し該希釈サンプル内で散乱した光をフォトダイオードで検出して第1の電気信号に変換する工程Bと、前記第1の電気信号を交流増幅し復調した第2の電気信号を基に、前記体液の前記所定の血球の密度を求める工程Cとを有する。
【0009】
前記目的に沿う第2の発明に係る体液測定装置は、血液又は生乳からなる体液の所定の血球の密度を計測する体液測定装置において、前記体液を希釈した希釈サンプルが入れられた透光性を有する容器に照射する光を、通電されて発生させる発光ダイオードと、前記発光ダイオードに交流電流に直流電流を重ね合わせた電流を通電する電源回路と、前記容器に照射され前記希釈サンプル内で散乱する光を検出し第1の電気信号に変換するフォトダイオードと、前記第1の電気信号を交流増幅し復調して得た第2の電気信号を基に、前記体液の前記所定の血球の密度を算出する演算手段とを備える。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明に係る体液測定方法は、体液を希釈した希釈サンプルが入れられた透光性を有する容器に発光ダイオードの光を照射して、希釈サンプルに入射させる工程Aと、希釈サンプルに入射し希釈サンプル内で散乱した光をフォトダイオードで検出して第1の電気信号に変換する工程Bと、第1の電気信号を交流増幅し復調した第2の電気信号を基に、体液の所定の血球の密度を求める工程Cとを有するので、複雑な回路を用いることなく、大量な体液を要さずに、体液の所定の血球の密度を計測でき、必要とする体液の小量化及び利用する装置のコンパクト化を図ることが可能である。更に、同体液測定方法は、発光ダイオードが、交流電流に直流電流を重ね合わせた電流が通電されて、発光するので、フォトダイオードの光の検出精度を上げることができ、結果として、体液の所定の血球の密度を安定的に計測可能である。
第2の発明に係る体液測定装置は、同体液測定方法に対応することから、同体液測定装置についてもこれと同様のことが言える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施の形態に係る体液測定方法で用いられる液体測定装置の説明図である。
図2】(A)、(B)はそれぞれ、発光ダイオードに通電される電流及び発光ダイオードが発生させる光の説明図である。
図3】血液の赤血球の密度を計測するための流れを示すフロー図である。
図4】生乳の白血球の密度を計測するための流れを示すフロー図である。
図5】(A)、(B)はそれぞれ、第1、第2の実験の計測結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1図3図4に示すように、本発明の一実施の形態に係る体液測定方法は、人の血液又は乳用牛の生乳からなる体液の所定の血球10の密度を計測する方法であって、体液を希釈した希釈サンプル11が入れられた透光性を有する容器12に、交流電流に直流電流を重ね合わせた電流が通電されて発光した発光ダイオード13の光Lを照射して、希釈サンプル11に入射させる工程Aと、希釈サンプル11内に入射し希釈サンプル内で散乱した(反射された)光Lをフォトダイオード14で検出して第1の電気信号に変換する工程Bと、第1の電気信号を交流増幅し復調した第2の電気信号を基に、体液の所定の血球(以下、単に「血球」とも言う)10の密度を求める工程Cとを有する。以下、詳細に説明する。
【0013】
当該体液測定方法により導出する体液の血球10とは、体液が血液であれば赤血球であり、体液が生乳であれば白血球である。そのため、本実施の形態では、血液の赤血球の密度又は生乳の白血球の密度のいずれかが求められる。
本実施の形態では、側壁及び底部を有する容器12が採用されている。容器12の具体例として、横断面矩形(正方形を含む)で平坦な底面を有する一般的な形状の蛍光測定用キュベットや、横断面円形で底部が半球状の一般的な形状のガラス試験管が挙げられる。
【0014】
容器12は、発光ダイオード13の光Lが照射される領域及び希釈サンプル11内で散乱した光Lがフォトダイオード14に向けて進む領域が透光性を有すればよく、容器12全体が透光性を有する必要はない。勿論、容器12全体が透光性を有していてもよい。
容器12には1mL以上5mL以下の希釈サンプル11が入れられる。容器12内の希釈サンプル11が1mL未満であると、体液の血球10の密度を安定的に計測できなくなる。
【0015】
一方、容器12内の希釈サンプル11を多くするには、多くの体液が必要となる上、希釈サンプル11が5mLを超える場合、希釈サンプル11の増加が体液の血球10の密度の計測の正確性に寄与することは望めない。従って、容器12内に入れられる希釈サンプル11の量は、1mL以上5mL以下が好ましい。
【0016】
本実施の形態において、容器12は、図1に示すように、軸心が鉛直となるように配され、発光ダイオード13は、発光ダイオード13の光Lが水平に進んで容器12の側壁に照射されるように配される。発光ダイオード13には、図2(A)に示すように、交流電流に直流電流を重ね合わせた電流を発光ダイオード13に通電する電源回路15が接続されている。
【0017】
発光ダイオード13に通電される電流は一定の周期(以下、「周期T」とする)で強弱を繰り返し、電流の強さを縦軸とし時間軸を横軸にすると、発光ダイオード13に通電される電流の波形は周期Tとなる。本実施の形態では、発光ダイオード13に常に正の(順方向で)電流が与えられ、電源回路15から発光ダイオード13に対して負の(逆方向で)電流が与えられないようにしている。
【0018】
発光ダイオード13は、通電されて、可視域から近赤外域の領域(450nm以上1000nm以下)の波長の光を発生させる。当該領域の波長は赤血球や白血球の直径と同程度又はそれより短いものとなる。発光ダイオード13が発生させる光Lは、図2(B)に示すように、発光ダイオード13に通電される電流の強弱の周期Tと同周期で強弱を繰り返す波形となり、当該波形の周波数は100Hz~2000Hzである。ここで、図2(A)、(B)には、正弦波の例を記載しているが、これに限定されないのは言うまでもなく、例えば、方形波(矩形波)であってもいいし、三角波であってもよい。
【0019】
発光ダイオード13の光Lが容器12の側壁に照射されると、図1に示すように、その光Lは容器12の側壁を通過して容器12内の希釈サンプル11に入射する。希釈サンプル11に入射した光Lは、希釈サンプル11内の血球10に当たって散乱し、希釈サンプル11から出て容器12の底部を通過し容器12外に出る。この光Lの散乱をMie散乱と言う。
【0020】
フォトダイオード14は、希釈サンプル11内で血球10により散乱し容器12の底部から容器12外に出る光Lを受光する位置に設けられている(即ち、フォトダイオード14は容器12の下方の光を受光する)。フォトダイオード14が容器12の底部から容器12外に出る光Lを受光するために、容器12の下方にフォトダイオード14を配置してもよいが、容器12の下方以外の場所にフォトダイオード14を配置し、光学部材を用いて容器12の底部から容器12外に出る光Lをフォトダイオード14に受光させるようにしてもよい。
【0021】
なお、図1では、血球10で散乱する光Lについて、鉛直に散乱する光Lのみを記載しているが、実際には、鉛直以外の方向(例えば、水平)に散乱する光Lも存在することは言うまでも無い。
本実施の形態において、容器12は、発光ダイオード13の光Lが照射される側壁、及び、血球10で散乱しフォトダイオード14に向かう光Lが通過する底部を含む全体が透光性を有する。
【0022】
フォトダイオード14は受光する光Lを受光する光Lの強さに応じた大きさの第1の電気信号に変換し出力する。フォトダイオード14が受光する光Lは周期Tで強弱を繰り返すことから、フォトダイオード14から出力される第1の電気信号も周期Tで強弱を繰り返す。
フォトダイオード14には、フォトダイオード14から出力される第1の電気信号の強さを交流増幅する増幅回路16が接続され、増幅回路16には、増幅回路16が交流増幅した電気信号を復調して第2の電気信号を得る検波回路17が接続されている。第2の電気信号は、第1の電気信号の振幅に比例した大きさの直流電気信号であり、フォトダイオード14が検出した光の強さに相当する。
【0023】
検波回路17から出力される第2の電気信号は、データロガによって構成可能な記録器18に記憶され、記録器18には演算回路19が接続されている。演算回路19は、記録器18に記憶された第2の電気信号からフォトダイオード14が検出した光の強さを求め、求めた光の強さを基にして、希釈サンプル11の基となった体液の血球10の密度を算出する。
【0024】
体液の血球10の密度は、フォトダイオード14が検出した光の強さを変数とする一次関数によって導出でき、演算回路19には予め当該一次関数が設定されている。演算回路19は当該一次関数を用いて体液の血球10の密度を算出する。本実施の形態では、第2の電気信号(フォトダイオード14が検出した光の強さ)を基に体液の血球10の密度を算出する演算手段20が、増幅回路16、検波回路17、記録器18及び演算回路19によって構成されている。
【0025】
ここで、発光ダイオード13に直流電流のみを通電する場合、発光ダイオード13に直流電流に交流電流を加えた電流を通電する場合に比べて増幅回路16での増幅処理の安定性が低下し、結果として、体液の血球10の密度の算出精度が低下すること、並びに、交流電流に直流電流を重ね合わせた電流を発光ダイオード13に与えることによって、体液の血球10の密度を安定的に算出可能なことを確認している。そこで、本実施の形態では、交流電流に直流電流を重ね合わせた電流を発光ダイオード13に与えるようにしている。
【0026】
また、発光ダイオード13の光Lを容器12の側壁に照射するようにし、フォトダイオード14が容器12の底部から容器12外に出る光Lを受光するようにしているのも、体液の血球10の密度を安定して算出可能なことを実験的検証により確認したことによる。容器12として蛍光測定用キュベット(4つの側壁が透明なキュベット)を利用した場合、発光ダイオード13の光Lを容器12の側壁に照射し、フォトダイオード14が容器12の側壁から容器12外に出る光Lを受光するようにしてもよい。
【0027】
次に、体液から希釈サンプル11を生成し、希釈サンプル11から体液の血球10の密度を計測するまでの各工程について説明する。まず、血液の赤血球の密度を計測する場合について説明する。
【0028】
<希釈サンプルの調製処理>
図3に示すように、生理食塩水等の希釈液を入れた容器12に検体から採取した血液を加えて血液を希釈し、希釈サンプル11を調製(作成)する(工程0)。即ち、血液は容器12内で希釈液と混合されて希釈される。血液を希釈した希釈サンプル11を用いることで、採取される血液の量を少なくすることができる。
その後、希釈サンプル11が入った容器12を所定の位置に固定する。
【0029】
体液が人の血液である場合、血液は200倍以上2000倍以下の希釈率で希釈して希釈サンプル11を調製するのが好ましい。希釈倍率が2000倍を超えると、希釈サンプル11の赤血球の濃度が小さくなることによって、血液の赤血球の濃度を安定的に導出することができないためである。また、上述したように希釈サンプル11は1mL以上5mL以下が望ましいところ、希釈倍率が200倍未満になると、所定量の希釈サンプル11を得る為に必要な血液量が増加することになり好ましくない。
【0030】
<赤血球の密度の算出処理>
電源回路15から発光ダイオード13への通電により発生させた発光ダイオード13の光を、希釈サンプル11が入れられた容器12の側壁に照射して、容器12の側壁を通過させ、希釈サンプル11に入射させる(工程A)。希釈サンプル11に入射し希釈サンプル11内の赤血球に当たって散乱し、容器12の底部から容器12外に出た光Lをフォトダイオード14で検出して第1の電気信号に変換する(工程B)。
【0031】
演算手段20が第1の電気信号を交流増幅し復調した第2の電気信号を基に、血液の赤血球の密度を求める(工程C)。
従って、希釈サンプル11の調製から希釈サンプル11を用いた血液の赤血球の密度の導出までの処理を一つの容器12によって行うことができる。
【0032】
次に、生乳の白血球の密度を計測する処理について説明する。
【0033】
<希釈サンプルの調製処理>
図4に示すように、検体から採取した生乳を入れた容器12(容器12は体液が入れられて発光ダイオード13の光Lが照射されるものを意味する)又は容器12とは異なる容器(以下、特に記載しない限り、容器12又は容器12とは異なる容器を、単に「容器」とも言う)に生理食塩水等の希釈液を加えて生乳を希釈した中間サンプルを調製し、中間サンプルが入った容器を遠心分離機で遠心分離して、白血球を容器内で沈降させる(工程α)。生乳が乳用牛の生乳の場合、生乳の希釈液による希釈倍率は10倍以上100倍以下が好ましい。希釈倍率が10倍未満の場合、光散乱測定の誤差要因となるカゼインや脂肪顆粒を後述する工程βで効率的に除去することができず、希釈倍率が100倍を超える場合、中間サンプルの量が一般的な遠心分離機で遠心分離できる量を超えることとなる。
【0034】
遠心分離終了後、遠心分離機から容器を取り出し、容器12内の中間サンプルの沈降分画以外の分画をスポイト等で取り除き、容器内に沈降分画のみが残るようにして沈降分画を得る(工程β)。
沈降分画とそれ以外の分画は目視で判別可能である。沈降分画以外の分画には、光の散乱の利用による白血球の密度の導出に誤差を生じさせるカゼインや脂肪顆粒が含まれている。工程α、βによってカゼイン及び脂肪顆粒が中間サンプルから取り除かれる。
【0035】
次に、沈降分画のみが残った容器内に生理食塩水等の希釈液を加えて沈降分画を希釈し、希釈サンプル11を得る(工程γ)。ここで、生乳が乳用牛の生乳の場合、工程αにおける希釈前の生乳の容量に対し2倍以上10倍以下の容量にしたものを希釈サンプル11とするのが好ましい。乳用牛の生乳において、白血球の正常な密度の範囲の下限値及び上限値を安定して計測するには、元々の生乳の容量に対し希釈サンプル11が2倍以上10倍以下の容量に希釈されるのが好適であることから、そのような倍率となるように希釈している。
【0036】
生乳ベースの希釈サンプル11を調製した後、当該希釈サンプル11に対し、血液ベースの希釈サンプル11に対する工程A、B、Cと同様の工程(図4参照)を経て、生乳の白血球の密度を算出する。ここで、工程Aにおいて発光ダイオード13の光Lが照射される容器12に蛍光測定用キュベットを用いる場合、工程αの遠心分離では、通常、容器12とは異なる容器が使用される。蛍光測定用キュベットは横断面矩形であるところ、一般的な遠心分離機はそのような形状のものを対象とした設計になっていないためである。そのため、工程Aにおける容器12に蛍光測定用キュベットを採用する場合、蛍光測定用キュベットとは異なる容器(例えば、ガラス試験管)を工程α、β、γで用いて希釈サンプル11を調製し、調製した希釈サンプル11を蛍光測定用キュベットに入れ換え、工程A、B、Cがなされる。
【0037】
これに対し、工程Aで発光ダイオード13の光Lが照射される容器12として一般的なガラス試験管、即ち、遠心分離に対応可能な容器12を利用する場合、工程Aで使用する容器12を工程α、β、γでも使用して希釈サンプル11を得ることができる。即ち、生乳についても、希釈サンプル11の調製から希釈サンプル11を用いた生乳の白血球の密度の導出までの処理を一つの容器12によって行うことができる。
【0038】
また、ここまで説明した体液測定方法に利用される本発明の一実施の形態に係る体液測定装置50は、人の血液又は乳用牛の生乳からなる体液の所定の血球10の密度を計測する装置であって、図1に示すように、体液を希釈した希釈サンプル11が入れられ、図示しない支持部材によって固定された容器12に照射する光Lを、通電されて発生させる発光ダイオード13と、発光ダイオード13に交流電流に直流電流を重ね合わせた電流を通電する電源回路15と、容器12に照射され希釈サンプル11内で散乱する光Lを検出し第1の電気信号に変換するフォトダイオード14と、第1の電気信号を交流増幅し復調して得た第2の電気信号を基に、体液の血球10の密度を算出する演算手段20を備える。
【実施例0039】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
【0040】
<第1の実験>
ヘマトクリット値が50.8%で、赤血球の濃度が7.71×10/mLであることが外部機関による計測で判明したラットの血液を用意した。蛍光測定用キュベットに入れた生理食塩水2mLにラットの血液を1μL加えて希釈サンプルを調製し、希釈サンプルを入れた蛍光測定用キュベットの側壁に発光ダイオードの光を照射し、蛍光測定用キュベットの真下に配置したフォトダイオードから出力される第1の電気信号を交流増幅し復調して第2の電気信号を得るという処理を5回繰り返した。
【0041】
即ち、生理食塩水2mLにラットの血液を1μL加えた第1の希釈サンプル、第1の希釈サンプルにラットの血液を1μL加えた第2の希釈サンプル、第2の希釈サンプルにラットの血液を1μL加えた第3の希釈サンプル、第3の希釈サンプルにラットの血液を1μL加えた第4の希釈サンプル、及び、第4の希釈サンプルにラットの血液を1μL加えた第5の希釈サンプルのそれぞれについて順次測定し、フォトダイオードが検出した光の強さに相当する第2の電気信号を得た。また、生理食塩水のみからなるサンプルについても同様の処理によって、フォトダイオードから出力される電気信号を計測した。
【0042】
第1の実験及び後述する第2の実験では、発光ダイオード、蛍光測定用キュベット及びフォトダイオードを遮光環境下に配し、発光ダイオードに対して、6.4mAの直流電流と、ピークトゥピーク値が9.1mAで周波数が259Hzの方形波の交流電流を重ね合わせた電流を通電した。但し、これらの直流電流の大きさ及び交流電流のピークトゥピーク値は回路図から算出した値である。また、第1、第2の実験では共に、発光ダイオードにOptSupply LimitedのOSDR3133A(発光波長640nm)を用い、フォトダイオードに浜松フォトニクス株式会社のフォトICダイオードS7183を用い、蛍光測定用キュベットとして日本石英硝子株式会社の石英硝子セルT-3-UV-10を用いた。
【0043】
計測結果を図5(A)に示す。図5(A)において、縦軸は第2の電気信号の大きさである。1μLのラットの血液には、7.71×10個の赤血球が含まれていたため、それが2mLの生理食塩水に分散した第1の希釈サンプルの赤血球の密度は3.85×10/mLであった。横軸は、生理食塩水のみのサンプル及び第1~第5の希釈サンプルの赤血球の密度を示し、0が生理食塩水のみのサンプルに対応し、1~5がそれぞれ第1~第5の希釈サンプルに対応する。
図5(A)における縦軸の値yと横軸の値xは、y=6.3776x+0.5907の一次関数の関係にあり、その決定係数はR=0.9967であった。
【0044】
<第2の実験>
白血球の密度が外部機関でのコールタカウンタ法によってそれぞれ計測された4つの乳用牛の生乳(以下、単に「生乳」と言う)を用意した。4つの生乳の白血球の密度はそれぞれ、340万個/mL、100万個/mL、67万個/mL、12万個/mLであった。各生乳について、遠心分離用容器(eppendorf社製のEPPENDORF TUBES(r)5.0mL)に0.5mLの生乳及び5mLの生理食塩水を入れ遠心分離した後、遠心分離容器内の沈殿分画以外の分画をスポイトで取り除き、その後、遠心分離用容器に更に5mLの生理食塩水を入れて遠心分離し、遠心分離用容器内の沈降分画以外の分画を除去して沈降分画のみを残し、3mLの生理食塩水を加えて希釈サンプルを調製した。これによって、それぞれ白血球の密度が異なる合計4つの希釈サンプルを得た。この希釈サンプルを光散乱測定用キュベットに移して光散乱測定に供した。
【0045】
その4つの希釈サンプルそれぞれについて、希釈サンプルを入れたキュベットの側壁に発光ダイオードの光を照射し、キュベットの真下に配置したフォトダイオードから出力される第1の電気信号を交流増幅し復調して第2の電気信号を得た。
計測結果を図5(B)に示す。図5(B)において、縦軸は第2の電気信号の大きさを示し、横軸は、各生乳の白血球の密度から求めた各希釈サンプルの白血球の密度を示す。
図5(B)における縦軸の値yと横軸の値xは、y=0.1231x-0.3265の一次関数の関係にあり、その決定係数はR=0.9995であった。
【0046】
なお、岩城硝子株式会社のDisposable Culture Tube(code 9832-1310 外径13mm、長さ100mm)を用いて、希釈サンプル11の調製から希釈サンプル11を用いた生乳の白血球の密度の導出までの処理が可能なことを実験によって確認した。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、体液は人の血液以外の血液でもよく、乳用牛の生乳以外の生乳であってもよい。また、発光ダイオードの光を照射する容器の中で体液を希釈して希釈サンプルを調製することもできる。更に、容器の底部に発光ダイオードの光を照射し容器の側壁から容器外に出る光をフォトダイオードで受光するようにすることや、容器の側壁に発光ダイオードの光を照射し容器の側壁(光を照射する領域とは異なる領域)から容器外に出る光をフォトダイオードで受光するようにすることができる。
【符号の説明】
【0048】
10:血球、11:希釈サンプル、12:容器、13:発光ダイオード、14:フォトダイオード、15:電源回路、16:増幅回路、17:検波回路、18:記録器、19:演算回路、20:演算手段、50:体液測定装置、L:光
図1
図2
図3
図4
図5