(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067279
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】静止電磁機器及び静止電磁機器を用いた双方向DC-DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
H01F 30/10 20060101AFI20240510BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
H01F30/10 C
H01F30/10 R
H01F27/28 123
H01F27/28 147
H01F27/28 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177230
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】栗田 直幸
(72)【発明者】
【氏名】舘村 誠
【テーマコード(参考)】
5E043
【Fターム(参考)】
5E043AA06
5E043AB05
5E043BA01
(57)【要約】
【課題】特殊な構造や工法を適用することなく、広い範囲の漏れインダクタンスを設定可能な巻線構造を持つ静止電磁機器を提供する。
【解決手段】磁性材料を環状に成形してなる単相鉄心2の第1の磁脚部2aに、第1の一次巻線11と第1の二次巻線21をスペーサ7を隔てて一定の間隔を保持しつつ重ねるように配置し、第2の磁脚部に第2の一次巻線12と第2の二次巻線を22を中心軸線B1方向にスペーサ8を隔てて一定の間隔を保持しつつ並ぶように配置した。第1及び第2の一次巻線11、12は接続手段11aで直列に接続され、第1及び第2の二次巻線21、22は接続手段21aで直列に接続される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料を環状に成形してなる単相鉄心の第1の磁脚部と第2の磁脚部に、第1および第2の一次巻線と、第1および第2の二次巻線をそれぞれ巻き、前記第1の一次巻線と前記第2の一次巻線を直列接続し、前記第1の二次巻線と前記第2の二次巻線を直列接続した静止電磁機器において、
前記第1の磁脚部には、前記第1の一次巻線と前記第1の二次巻線を、一定の間隔を保持しつつ重ねて巻回し、
前記第2の磁脚部には、前記第2の一次巻線と前記第2の二次巻線を、前記第2の磁脚部の中心軸線方向に一定の間隔を保持しつつ並べて巻回したことを特徴とする静止電磁機器。
【請求項2】
前記第1の一次巻線と前記第2の一次巻線は同一又は異なる巻き数とし、前記第1の二次巻線と前記第2の二次巻線は同一又は異なる巻き数としたことを特徴とする請求項1に記載の静止電磁機器。
【請求項3】
前記第1の磁脚部において、
前記第1の一次巻線は複数回巻かれた素線を含み、前記素線が絶縁材にて円筒状に封止され、
前記第1の二次巻線は複数回巻かれた素線を含み、絶縁材にて円筒状に封止され、
2つの前記絶縁材の間の間隙部に第1のスペーサを介在させることによって一定の間隔を保持しつつ、前記一次巻線と前記二次巻線を前記第1の磁脚部の中心線に対して同軸に整列させたことを特徴とする請求項2に記載の静止電磁機器。
【請求項4】
前記第2の磁脚部において、
前記一次巻線の前記第1の一次巻線は複数回巻かれた素線を含み、絶縁材にて封止され、
前記二次巻線の前記第1の一次巻線は複数回巻かれた素線を含み、絶縁材にて封止され、
2つの前記絶縁材の間の間隙部に第2のスペーサを介在させることによって一定の間隔を保持し、前記一次巻線と前記二次巻線を前記第2の磁脚部の中心軸線方向に並べて配置したことを特徴とする請求項3に記載の静止電磁機器。
【請求項5】
前記第1の磁脚部において、
前記第1の一次巻線と前記第1の二次巻線を構成する素線は、前記第1の磁脚部の中心線方向に対して一定の角度を持たせて整列するように前記絶縁材で封止され、
封止された前記第1の一次巻線の内周面は、前記第1の磁脚部の中心線方向に対して角度θとなるように形成され、
封止された前記第1の二次巻線の外周面は、前記内周面と平行になるように前記第1の磁脚部の中心線方向に対して角度θになるように形成され、
前記第1の一次巻線の内周面と前記第1の二次巻線の外周面の間に前記第1のスペーサを介在させることによって前記第1の一次巻線と前記第1の二次巻線を一定の間隔で保持することを特徴とする請求項4に記載の静止電磁機器。
【請求項6】
前記単相鉄心は、薄板状磁性材料を積層して構成するものであって、前記第1の磁脚部の中心線方向と直交する面、及び、前記第2の磁脚部の中心線方向と直交する面において分割された形状にて構成されることを特徴とする請求項4に記載の静止電磁機器。
【請求項7】
磁性材料を環状に成形してなり2つの磁脚部を有する単相鉄心を有し、
前記2つの磁脚部の双方に渡るように一次巻線が第1及び第2に分割して巻回され、
前記2つの磁脚部の双方に渡るように二次巻線が第1及び第2に分割して巻回され、
2つの前記磁脚部の一方側においては、前記一次巻線と二次巻線が径方向に一定の間隔を保持する状態にて重ね巻され、
2つの前記磁脚部の他方側においては、前記一次巻線と二次巻線が一定の間隔を隔てて磁脚部の中心線方向に一定の間隔をあけて並ぶように並び巻されることを特徴とする静止電磁機器。
【請求項8】
重ね巻される前記一方の磁脚部において、高圧側の前記一次巻線が外周側に配置され、低圧側の前記二次巻線が内周側に配置され、
前記一次巻線のうち前記第1の一次巻線は複数回巻かれた素線を含み、第一の絶縁材にて円筒状に封止され、
前記二次巻線のうち前記第1の二次巻線は複数回巻かれた素線を含み、第二の絶縁材にて円筒状に封止され、
前記第一及び第二の絶縁材の間にスペーサを介在させることによって前記第1の一次巻線と前記第2の二次巻線を一定の間隔にて保持することを特徴とする請求項7に記載の静止電磁機器。
【請求項9】
重ね巻される前記一方の磁脚部において、高圧側となる前記一次巻線が外周側に配置され、低圧側の一次巻線が内周側に配置されることを特徴とする請求項7に記載の静止電磁機器。
【請求項10】
前記他方の磁脚部において、並び巻される前記二次巻線の外周側に、前記一次巻線の一部を径方向に一定の間隔を保持する状態にて重ね巻きしたことを特徴とする請求項9に記載の静止電磁機器。
【請求項11】
2本の前記磁脚部のうち、一方の磁脚部に前記第1の一次巻線と前記第1の二次巻線が一定の間隔を保持しつつ重ね巻され、他方の磁脚部に前記第2の一次巻線と前記第2の二次巻線が一定の間隔を保持しつつ並び巻され、
他方の磁脚部において、前記第2の二次巻線の外周側に、第3の一次巻線を重ね巻し、
前記第1から第3の一次巻線を直列接続し、前記第1および第2の二次巻線を直列接続したことを特徴とする請求項10に記載の静止電磁機器。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の前記静止電磁機器と、
前記一次巻線に接続され、複数のスイッチング素子と一つ以上のコンデンサを有する第一のインバータ回路と、
前記二次巻線に接続され、複数のスイッチング素子と一つ以上のコンデンサを有する第二のインバータ回路と、を有し、
前記第一のインバータ回路が入力される直流から交流に変換をする際には、前記静止電磁機器によって電圧変換された交流を前記第二のインバータ回路によって直流に変換をするように制御することによって一次側から二次側へのDC-DC変換を行い、
第二のインバータ回路が入力される直流から交流に変換をする際には、前記静止電磁機器によって電圧変換された交流を前記第一のインバータ回路によって交流から直流変換をするように制御することによって二次側から一次側への逆方向のDC-DC変換を行うことを特徴とする静止電磁機器を用いた双方向DC-DCコンバータ。
【請求項13】
請求項1から請求項11のいずれ一項に記載の前記静止電磁機器を構成する巻線は、表面に絶縁材を塗布した銅、アルミニウム等の複数の細線を撚って構成されるリッツ線、または銅、アルミニウムによる薄板材を鉄心に巻回して構成したこと、を特徴とする静止電磁機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静止電磁機器に関し、スイッチング電源、電力変換器等に用いられる高周波変圧器において、その巻線構造により漏れインダクタンスを調整するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電システムや停電時の非常用蓄電池の充放電システム、さらに電気自動車への充電システムなど、直流電力を扱う送配電機器が増加しており、入力された直流電圧をインバータ回路によって交流電圧に変換し、高周波変圧器によりこれを変圧し、整流回路によりこれを直流電圧に変換して出力する、直流変換器(DC-DCコンバータ)の需要が増加している。DC-DCコンバータの用途によっては、インバータ、および整流回路を構成するスイッチング素子の動作タイミングを制御し、直流電力を双方向に送る機能が要求される。さらに、スイッチング素子で発生するスイッチング損失は、DC-DCコンバータの変換効率を低下させる原因のひとつのため、回路中のインダクタ成分Lとキャパシタ成分Cの共振現象を利用して、ゼロ電圧スイッチング、またはゼロ電流スイッチング動作を実現し、スイッチング損失を抑制することが求められる。
【0003】
DC-DCコンバータの性能向上に必要となる上記の直流電力の双方向制御機能、およびゼロ電圧スイッチング、またはゼロ電流スイッチング機能を持たせるには、高周波変圧器と直列に、適切な値のインダクタ成分Lを備える必要がある(例えば、特許文献1参照)。インダクタ成分Lは、高周波変圧器とは別にリアクトル装置等を備える方法のほか、高周波変圧器の巻線構造の工夫により、漏れインダクタンスLsを、高周波変圧器に内蔵させる方法が一般的である。前者の方法に比べて、後者の方法は部品点数が削減され、コストも低減できる。
【0004】
これに関連して、所望の漏れインダクタンスLsを備えた高周波変圧器の巻線構造に関する技術が開示されている。例えば特許文献2には、単相鉄心部の一方の磁脚部に配置される一次巻線部と、一次巻線部が配置された磁脚と同一の磁脚上であって、一次巻線部と磁気的に密となる少なくとも一つの第1の二次巻線部と、一次巻線部と磁気的に疎となる鉄心の他方の磁脚部に配置される少なくとも一つの第2の二次巻線部とを備えるトランス(静止電磁機器)の構成が開示されている。また、特許文献3には、鉄心に一次巻線と二次巻線を所要の間隔を隔てて配置するとともに、両巻線間に透磁率の低いフェライト粉モールド板をパスコアとして介装し、適切な値の漏れインダクタンスLsを得る高周波磁気漏洩変圧器の構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-103257号公報
【特許文献2】特開2013-98189号公報
【特許文献3】特開2004-39847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2で開示されている静止電磁機器は、第1の二次巻線を一次巻線と同一の磁脚に、第2の二次巻線を異なる磁脚に備え、磁気的に密となる部分と疎となる部分に分けることで、静止電磁機器の漏れインダクタンスの値Lsを制御する技術であるが、一次巻線はひとつの磁脚のみに備えた構成なので、Lsの取り得る値の範囲は、従来の構成と同等であって狭い。また、特許文献3で開示されている高周波磁気漏洩変圧器は、従来の構成に比べてLsの取り得る値の範囲が広がるが、透磁率の低い磁性材料を鉄心部に組み合わせるため、従来より余分な部材コストが必要になる。
【0007】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、広い範囲の漏れインダクタンスLsを設定可能とした静止電磁機器を提供することにある。
本発明の他の目的は、双方向DC-DCコンバータに用いるのに好適な静止電磁機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、磁性材料を環状に成形してなる単相鉄心の2本の磁脚部に第1および第2の一次巻線と第1および第2の二次巻線を巻いて、一次巻線同士および二次巻線同士を直列接続するようにした静止電磁機器において、第1の磁脚部には第1の一次巻線と第1の二次巻線を一定の間隔を保持しつつ重ねて巻回し、第2の磁脚部には第2の一次巻線と第2の二次巻線を一定の間隔を保持しつつ縦方向に並べて巻回するようにした。重ね巻される第1の磁脚部では、高圧側となる第1の一次巻線が外周側に配置され、低圧側となる第1の二次巻線が内周側に配置される。一次巻線、二次巻線はそれぞれ複数回巻かれた素線を含んで構成され、これら素線は第一の絶縁材、第二の絶縁材にて円筒状に封止される。
【0009】
本発明の他の特徴によれば、磁脚部に巻回される一次巻線、および二次巻線を構成する素線は磁脚の軸方向と平行に整列され、樹脂等の絶縁材で封止する構造とし、構造同士の間隙部に不導体で構成されるスペーサを介在させて、一定の間隔を維持するように構成した。なお、第1の磁脚部に重ねて巻回される第1の一次巻線と第1の二次巻線を構成する素線を磁脚の軸方向に対して一定の角度を持たせるように整列させ、それらを封止する樹脂等の絶縁材をテーパ状の構造とし、これらの間隙部にスペーサを介在させて、一定の間隔を保持するように構成してもよい。
【0010】
本発明の他の特徴によれば、上述の静止電磁機器と、静止電磁機器の一次巻線に接続される第一のインバータ回路と、二次巻線に接続されるインバータ回路を有し、第一のインバータ回路が入力される直流から交流に変換をする際には、静止電磁機器によって電圧変換された交流を第二のインバータ回路によって直流に変換するように制御し、第二のインバータ回路が入力される直流から交流に変換をする際には、静止電磁機器によって電圧変換された交流を第一のインバータ回路によって交流から直流変換をするように制御することによって二次側から一次側への逆方向へのDC-DC変換を行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構成によれば、様々な用途に使われるDC-DCコンバータ内の静止電磁機器(高周波変圧器)について、特殊な構造や工法を適用することなく、広い範囲の漏れインダクタンスLsを高周波変圧器に内蔵させることができる。また、従来の構造に比べて高周波変圧器の体積が抑制されるため、小形、低コスト化の効果が得られる。さらに、直流電力の双方向制御機能に好適な高周波変圧器を有する静止電磁機器が実現できるので、全体的な変換効率に優れ、電力ロスを抑制して省エネルギー化を進めた静止電磁機器及びそれを用いた双方向DC-DCコンバータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施例に係る静止電磁機器1の縦断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施例に係る静止電磁機器1の上面図である。
【
図3】本発明の第1の実施例に係る静止電磁機器1の巻線内部の構造を示す縦断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施例と従来例における、静止電磁機器1の体積と、漏れインダクタンスとの相関関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の第2の実施例に係る静止電磁機器1Aの巻線内部の構造を示す縦断面図である。
【
図6】
図5の巻線の構造を変更した変形例を示す静止電磁機器1Bの縦断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施例に係る静止電磁機器1Aの組立方法を示す模式図である。
【
図8】
図7に示した組立方法の変形例となる静止電磁機器1Cの組立方法を示す模式図である。
【
図9】本発明の第3の実施例に係る静止電磁機器1Dの縦断面図である。
【
図10】本発明の第4の実施例に係る静止電磁機器1Eの縦断面図である。
【
図11】本発明の第5の実施例を示す静止電磁機器1Fの適用例を示す図であり、インバータ回路60、70を組み合わせたDC-DCコンバータの回路図である。
【
図12】従来例1における静止電磁機器101Aの縦断面図である。
【
図13】従来例2における静止電磁機器101Bの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後左右、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【実施例0014】
本発明の第1の実施例の構成と効果について、
図1から
図4を用いて説明する。ここで第1の実施例の説明の前に、
図12および
図13を用いて従来の静止電磁機器101A、101Bの構成を説明する。
図12は、従来の静止電磁機器の鉛直面における縦断面図である。鉛直面は2つの第1の磁脚部2aと第2の磁脚部2bの中心軸を通る面である。
図12において静止電磁機器101Aは環状に成形した単相鉄心2を有し、単相鉄心2に形成される2本の磁脚部2aおよび2bの周囲に、一次巻線11と12、および二次巻線21と22がそれぞれ重ねて巻回される。本明細書では、磁脚部2aのように、磁脚部に対して近い側(内側)と遠い側(外側)に一次巻線と二次巻線を巻くことによって、磁脚部の中心軸線から径方向に見て一次巻線と二次巻線の全体が、又は一部分が重なるように巻く方法を「重ね巻」と称する。この「重ね巻」では、通常、高圧電流が流れる一次巻線11、12を磁脚部2a、2bから離れた外側に巻き、低圧電流が流れる二次巻線21、22が磁脚部2a、2bに近い内側に巻かれることが一般的である。一次巻線11と12の間は接続手段11aで接続され、一次巻線の端部は、電極14a、14bに接続される。同様に、二次巻線21と22の間は接続手段21aで接続され、二次巻線の端部は、電極24a、24bに接続される。一次巻線11と二次巻線21の間、及び、一次巻線12と二次巻線22の間には、径方向に一定のギャップ長dが備えられる。ギャップ長dは、磁脚部2a、2bの中心軸線A1、B1方向において一定になるように設定される。このように従来では、ギャップ長dの大きさにより所望の漏れインダクタンスLsを一次巻線及び二次巻線間に持たせるようにしていた。
【0015】
図13は別の従来例の静止電磁機器101Bを示す。この静止電磁機器101Bは環状に成形した単相鉄心2を有し、単相鉄心2に形成される2本の磁脚部2aおよび2bのうち、磁脚部2aの周囲に一次巻線11と二次巻線21が上下方向に隙間(ギャップd)を有するように並べて巻回され、磁脚部2bの周囲に一次巻線12と二次巻線22が上下方向に隙間(ギャップd)を有するように並べて巻回される。このように一つの磁脚部に対して中心軸線方向に見て一方側(ここでは下側)と他方側(ここでは上側)に一次巻線と二次巻線を並べて巻くことによって、磁脚部の中心軸線方向に見て一次巻線と二次巻線が非接触状態で隣接するように巻線を形成する方法を本明細書では「並び巻」と称する。2本の磁脚部2a、2bに巻回された一次巻線11、12は接続手段11aにより直列に接続され、二次巻線21、22は接続手段21aにより直列に接続される。第1の一次巻線11と第1の二次巻線21は磁脚部2aの中心軸線方向に一定のギャップ長dを有するように配置され、第2の一次巻線12と第2の二次巻線22は中心軸線B1方向に一定のギャップ長dを有するように配置される。ギャップ長さdは、周方向のどの位置においても一定になるように設定される。一次巻線11、12の端部には電極14a、14bが備えられ、二次巻線21、22の端部には電極24a、24bが備えられる。
【0016】
次に、
図1を用いて本実施例の静止電磁機器1を説明する。
図1は第1の実施例に係る静止電磁機器1の鉛直面における縦断面図である。この断面(鉛直面)は第1の磁脚部2aの中心軸線A1と第2の磁脚部2bの中心軸線B1を通る面である。静止電磁機器1は、環状に成形した単相鉄心2を有する。単相鉄心2は、薄いアモルファス、ナノ結晶材料等の薄板状磁性材料を多数積層して製造される。積層鉄心を用いることで渦電流損を小さくできる。尚、
図1では単相鉄心2の分割面の図示を省略しているが、
図1のような環状の部分に分割面が存在しない一体式の鉄心として構成しても良いし、後述の
図7、
図8にて説明するように単相鉄心2を分割形式で構成しても良い。さらには、単相鉄心2としてフェライト等の絶縁性磁性材料を粉末原料として混合・焼結・成型して製造される焼結型(セラミックス)フェライトにて構成しても良い。
【0017】
単相鉄心2に形成される第1の磁脚部2aの周囲には、第1の一次巻線11と第1の二次巻線21が重ねて巻回され(重ね巻)、第2の磁脚部2bの周囲には、第2の一次巻線12と第2の二次巻線22が中心軸線B1方向に隣接するように巻回される(並び巻)。2つの磁脚部2a、2bに渡って巻回された一次巻線11、12は接続手段11aにより直列に接続され、各巻線の他端には、電極14a、14bが設けられる。同様に、2つの磁脚部2a、2bに渡って巻回された二次巻線21、22は接続手段21aにより直列に接続され、二次巻線21、22のそれぞれの他端側(接続手段21aとは離れた側の端部)には、電極24a、24bが設けられる。
図1の模式図では接続手段11aと接続手段21aが鉄心2の内部に配線されているかのように見えるが、実際には鉄心2の外側に配線される。本実施例では、第1の一次巻線11と第2の一次巻線12は同一の巻き数又は異なる巻き数とすることができる。また、第1の二次巻線21と第2の二次巻線22は、同一の巻き数又は異なる巻き数とすることができる。接続手段11aと接続手段21aは、一次巻線と二次巻線の端部を引き出して分断せずに接続する、もしくは、分断後に再接続するようにしても良いし、接続用の配線を準備しても良いし、その他の方法で電気的に接続するようにしても良い。
【0018】
第1の磁脚部2a側において、第1の一次巻線11と第2の二次巻線21は、中心軸線A1に対して径方向に一定のギャップdを有するように配置される。第1の二次巻線21の内周面と磁脚部2aの外周面の間にも一定のギャップが形成される。また、第1の二次巻線21の内周面と第1の磁脚部2aの外周面との間も所定のギャップを有するような位置関係とされる。第2の磁脚部2b側においては、一次巻線12と二次巻線22は、中心軸線B1に対して軸方向に一定のギャップを有するように離れて配置される(重ね巻)。つまり、本実施例でいう「重ね巻」状態では、第2の磁脚部2bの中心軸B1方向において、一次巻線12と二次巻線22の位置する領域が重ならないような位置関係にある。第2の磁脚部2b側において、第2の二次巻線22と第2の一次巻線12は、中心軸線B1方向に一定のギャップdを有するように配置される。ギャップ長dは、一次巻線12の上面と二次巻線22の下面のいずれの位置においても一定になるように設定される。また、第2の二次巻線22の内周面と磁脚部2aの外周面の間、及び、第2の一次巻線12の内周面と磁脚部2aの外周面の間にも一定のギャップが形成される。
【0019】
通常、AC電源用の変圧器においては、漏れインダクタンスLsをできるだけ小さくするように構成されるので、一次巻線11と二次巻線21の間のギャップd、二次巻線21と第1の磁脚部2aの間のギャップdはできるだけ小さい方が好ましかった。AC用の変圧器では、本実施例の静止電磁機器1では、一次側巻線から二次側巻線への電磁誘導作用により変換された電圧にて二次側巻線から交流電力が出力されるという、一方向の電圧変換が行われていたためである。一方、本実施例による静止電磁機器1は、一次巻線11、12から二次巻線21、22側への交流電圧変換に加えて、二次巻線21、22側から一次巻線11、12側への逆方向の交流電圧変換を行う必要がある。そのため、漏れインダクタンスLsをできるだけ小さくするというよりも、双方向の電圧変換効率がトータルで最良になるように、一次巻線11、12と二次巻線21、22の間のギャップdを調整して、漏れインダクタンスLsが所望の大きさ(範囲内)に収まるように構成している。
【0020】
図1に示す実施例では、第1の磁脚部2a側の重ね巻によるギャップdと、第2の磁脚部2b側の並び巻によるギャップdの長さを等しくなるように設定した。しかしながら、第1の磁脚部2a側のギャップ長をd
1とし、第2の磁脚部2b側のギャップ長をd
2として、d
1とd
2を異なる値に設定して、磁脚部2a、2b毎に所望の漏れインダクタンスLsを巻線間に持たせるように設定しても良い。静止電磁機器1は、幅W、奥行D(符号は後述の
図2参照)、高さHとなるように構成される。W、H、Dの大きさは任意であるが、例えば6.6KVの交流電圧を例えば7つの静止電磁機器1を用いて、静止電磁機器1あたり380Vの2次側直流電圧に変換するような場合は、静止電磁機器1の大きさ(W、D、H)は、20~30cm程度の大きさとなる。尚、本実施例の静止電磁機器1は、その大きさや重さには制限はなく、(W、D、H)がそれぞれ20cm未満の小型のものであっても良いし、30cm以上、例えば(W、D、H)がそれぞれ1m程度の大型のものであっても良く、本発明は様々な大きさの担当鉄心2を有する静止電磁機器1に適用できる。
【0021】
図2は
図1で示す静止電磁機器1の上面図である。第2の磁脚部2b側の一次巻線12と二次巻線22は、それらの内形と外形が同一であるので、
図2の例では上面視で二次巻線22だけが見える状態にある。ここでは単相鉄心(コア)2の磁脚部2a、2bの周囲にコイルを巻く、いわゆる「外鉄形」の形状である。単相鉄心2は同一形式の薄板状磁性材料を多数積層して形成される。よって、第1の磁脚部2aと、第2の磁脚部2b部分の外形は上面視にて略長方形の断面形状とされる。第1の磁脚部2aに対して同軸に巻かれる一次巻線11、二次巻線21は円筒状であるが、単相鉄心2の外形に沿って完全な円形断面でなく、一次巻線11、二次巻線21の外周面の断面形状、及び、内周面の断面形状は長方形に近い形(略長方形)になる。同様に、第2の磁脚部2bに同軸に巻かれる一次巻線12と二次巻線22も円筒状であり、それらの外周面及び内周面の断面形状は、それぞれ略長方形になる。
【0022】
図3は、本実施例における巻線部の構造の一例を示した縦断面図である。
図3(A)は、第1の磁脚部2aに重ねて巻回された第1の一次巻線11と第1の二次巻線21の断面を示し、
図3(B)は、第2の磁脚部2bに並べて巻回された第2の一次巻線12と第2の二次巻線22を示す。第1の一次巻線11は細めの素線15が中心軸線A1(
図1参照)と平行に整列するように巻かれ、第1の二次巻線21は太めの素線25が中心軸線A1と平行に整列するように巻かれる。
図3では、素線15を2重巻きの状態、素線25を1回巻いた状態を図示してるが、第1の磁脚部2aに対して素線15、25を何重に巻くかは設計事項であって、適宜設定すれば良い。素線15および25は、表面に絶縁材を塗布した銅、アルミニウム等の複数の細線を撚って構成されるリッツ線、または銅、アルミニウム等の薄板材を鉄心に巻回するようにして形成され、巻回されたのちに樹脂等の絶縁材16、26にてそれぞれ封止される。
【0023】
静止電磁機器1の製造時には、封止された巻線11、21の間隙部にスペーサ7を介在させるようにして組み立てられる。同様にして、第2の磁脚部2b側では、素線15が巻回された第2の一次巻線12と、素線25が巻回された第2の二次巻線22がスペーサ8を介在させるようにして組み立てられる。スペーサ7、8は、電気を通さない絶縁材料によって製造され、例えば合成樹脂をリング状に一体成型することで製造できる。このようにスペーサ7、8の間の寸法を精密に制御することにより、所望の漏れインダクタンスLsを巻線間に持たせることができる。本明細書では、ギャップdとして第一の絶縁材16と第二の絶縁材26の間隔、及び、第一の絶縁材17と第二の絶縁材27の間隔として説明している。しかしながら電気的に見た場合は、ギャップdは絶縁材部分でみるのではなく素線15の端面と素線25の端面との間隔であるので、素線の位置と絶縁材の外面位置を考慮の上で、ギャップdの値を決定することになる。
【0024】
次に
図4を用いて、本実施例の静止電磁機器の体積と漏れインダクタンスLsの相関を説明する。
図4は、同一の仕様の静止電磁機器について、一次巻線と二次巻線間のギャップ長dを変化させた際の、体積と漏れインダクタンスLsの相対変化の状態を示したグラフである。破線45は
図12に示した第1の従来例の静止電磁機器101Aにおける漏れインダクタンスLsの変化状態を示す線であり、破線46は
図13に示した第2の従来例の静止電磁機器101Bにおける漏れインダクタンスLsの変化状態を示す線である。実線40が本実施例の静止電磁機器1の体積(=W×D×H)と漏れインダクタンスLsの関係を示す直線である。
【0025】
各線40、45、46上にdと記した点は、一次巻線と二次巻線のギャップ長が、絶縁耐圧を保持するために必要な最小値における点であり、2dと記した点は、ギャップ長を最小値dの2倍とした際の点である。なお、静止電磁機器の体積は、
図1および
図2に示したように、静止電磁機器1の幅W、高さH、および奥行きDの積により求めた値である。また、静止電磁機器1の漏れインダクタンスLsは、静止電磁機器1の二次巻線を短絡し、一次巻線に周波数f、実効値Iの正弦波電流を流した際に、一次巻線の電極14aと14b間に発生する電圧の実効値Vを3次元電磁界解析により求め、
Ls=V/(2πfI) … (式1)
で求めた結果である。
【0026】
第1の従来例の静止電磁機器101A(
図12参照)を構成する一次巻線と二次巻線は重ねて巻回されているので、磁気的な結合が密であり、漏れインダクタンスLsは、破線45で示したように最も小さくなる。この巻線構造で、ギャップ長dを増やすことで磁気的な結合は減少するのでLsが増加するが、同時に静止電磁機器の幅Wを増加するので、その体積が増加する。これに対して、第2の従来例の静止電磁機器101B(
図13参照)を構成する一次巻線と二次巻線は並べて巻回されているので、磁気的な結合が疎であり、漏れインダクタンスLsは、破線46で示したように最も大きくなる。この巻線構造で、ギャップ長dを増やすことで磁気的な結合はさらに減少するのでLsが増加する。一方、ギャップ長dは、一次巻線と二次巻線間の絶縁耐圧を保持するために、これ以上減らすことができず、Lsをこれより減少させることができない。破線45の特性を有する静止電磁機器101Aと破線46の特性を有する静止電磁機器101Bを見るとわかるように、静止電磁機器101A又は101Bのいずれの構造を採用するかで漏れインダクタンスLsが大きく異なる上に、ギャップ長dの変更によるそれぞれの調整範囲は限定的である。
【0027】
本実施例では、静止電磁機器の第1の磁脚部2aに、
図12で示した一次巻線11と二次巻線21を重ねて巻回する構造と、第2の磁脚部2bに、
図12に示した一次巻線12と二次巻線22を並べて巻回する構造を混在させるようにした。この構造における漏れインダクタンスLsの値は、実線40で示したように2つの従来例の中間付近の特性を有するようになる。本実施例はさらに、2つの構造を持つ第1と第2の一次巻線11、12の巻き数の比率、第1と第2の二次巻線21、22の巻き数の比率をそれぞれ変えることにより、漏れインダクタンスLsの値を調整することができる。実線40は両者の巻き数を同数とした場合であるが、
図4中に示した実線40aは、一次巻線と二次巻線を重ねて巻回した磁脚部2aと、並べて巻回した磁脚部2bの巻き数の比率を1:2とした場合の体積とLsの相関であり、実線40bは、巻き数の比率を2:1とした場合の相関である。磁気的な結合の強さが異なる2つの巻線構造の巻き数比を変えることにより、漏れインダクタンスLsの調整可能範囲が広がり、
図4中のハッチングにて示した領域41内の任意の体積範囲と漏れインダクタンスLsを持つ静止電磁機器1を設計することができる。よって本実施例による静止電磁機器1は、2つの従来例の特性45と46では設計不可能な領域を含む、広い範囲の漏れインダクタンスLsを、静止電磁機器1の体積を必要以上に大きくすることなく実現できる。
二次巻線21の絶縁材26aの外周面は、上側で外径が小さく、下側に行くにつれて外径が大きくなるような円錐面状の外形とする。そして、一次巻線11の絶縁材16aの内周面と、二次巻線21の絶縁材26aの外周面の間の間隙部にスペーサ7aを介在させた。ここでは3つのリング状のスペーサ7aを用いており、一次巻線11と二次巻線21間のギャップ長が所定の値となるようにスペーサ7aの寸法やギャップdを調整することにより、所望の漏れインダクタンスLsを巻線間に持たせるようにした。