(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067304
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】検体中のVanin-1タンパク質をイムノクロマトグラフィーにより測定する方法、及び検査器具
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240510BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240510BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 521
C07K16/18 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177267
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細畑 圭子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 真司
(72)【発明者】
【氏名】金 徳男
(72)【発明者】
【氏名】西村 研吾
(72)【発明者】
【氏名】井上 創太
(72)【発明者】
【氏名】米田 圭三
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】本発明は、より短時間でVanin-1タンパク質を測定可能な、イムノクロマトグラフィーを用いた測定系を低試供することを課題とする。
【解決手段】検体中のVanin-1タンパク質をイムノクロマトグラフィーにより測定する方法であって、検体と抗体とを接触させることと、
検査ストリップ上で抗体とVanin-1タンパク質との複合体を測定することを含み、
検出粒子として、NanoAct(登録商標)、又は金コロイドを使用する、方法により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中のVanin-1タンパク質をイムノクロマトグラフィーにより測定する方法であって、
検体と抗体とを接触させることと、
検査ストリップ上で抗体とVanin-1タンパク質との複合体を測定することを含み、
抗体として、配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの
第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、
第229番目のバリンから第379番目のアラニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、又は
第389番目のバリンから第497番目のアルギニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体を単独、又は前記抗体を組み合わせて使用し、
検出粒子として、NanoAct(登録商標)、又は金コロイドを使用する、
方法。
【請求項2】
捕捉抗体として、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、又は
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第229番目のバリンから第379番目のアラニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体を使用し、
検出抗体として、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、又は
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第389番目のバリンから第497番目のアルギニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体
を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
測定が、定性的測定、半定量的測定又は定量的測定である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
検体が尿である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
測定に基づいて取得された測定値が基準値以上であるとき、尿を採取した被検者が腎疾患を有することを示唆する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
検体と検出粒子を標識した検出抗体を含む測定試料を浸透させる、又は検体もしくは検体の希釈液を浸透させる第1の部分と、捕捉抗体が固相化された第2の部分を有する検査ストリップを備えた、検体中のVanin-1タンパク質をイムノクロマトグラフィーにより測定するための検査器具であって、
第2の部分は第1の部分と重ならず、
捕捉抗体は、
抗体として、配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの
第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、
第229番目のバリンから第379番目のアラニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、又は
第389番目のバリンから第497番目のアルギニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、である
検査器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、検体中のVanin-1タンパク質をイムノクロマトグラフィーにより測定する方法、及び検査器具が開示される。
【背景技術】
【0002】
尿中のVanin-1は、シスプラチンによる腎障害(非特許文献1)、高血圧患者における腎機能低下に伴って上昇すること(非特許文献2)が報告されている腎機能マーカーである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K. Hosohata et al., Toxicology, 2016;359-360:71-75
【非特許文献2】K. Hosohata et al., J Clin Hypertens. 2021;23:1316-1321.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1及び2では、ELISA法を用いてVanin-1タンパク質を測定している。
本発明は、より短時間でVanin-1タンパク質を測定可能な、イムノクロマトグラフィーを用いた測定系を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
項1.検体中のVanin-1タンパク質をイムノクロマトグラフィーにより測定する方法であって、
検体と抗体とを接触させることと、
検査ストリップ上で抗体とVanin-1タンパク質との複合体を測定することを含み、
抗体として、配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの
第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、
第229番目のバリンから第379番目のアラニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、又は
第389番目のバリンから第497番目のアルギニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体を単独、又は前記抗体を組み合わせて使用し、
検出粒子として、NanoAct(登録商標)、又は金コロイドを使用する、
方法。
項2.捕捉抗体として、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、又は
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第229番目のバリンから第379番目のアラニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体を使用し、
検出抗体として、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、又は
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第389番目のバリンから第497番目のアルギニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体
を使用する、項1に記載の方法。
項3.測定が、定性的測定、半定量的測定又は定量的測定である、項1に記載の方法。
項4.検体が尿である、項1に記載の方法。
項5.測定に基づいて取得された測定値が基準値以上であるとき、尿を採取した被検者が腎疾患を有することを示唆する、項4に記載の方法。
項6.検体と検出粒子を標識した検出抗体を含む測定試料を浸透させる、又は検体もしくは検体の希釈液を浸透させる第1の部分と、捕捉抗体が固相化された第2の部分を有する検査ストリップを備えた、検体中のVanin-1タンパク質をイムノクロマトグラフィーにより測定するための検査器具であって、
第2の部分は第1の部分と重ならず、
捕捉抗体は、
抗体として、配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの
第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、
第229番目のバリンから第379番目のアラニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、又は
第389番目のバリンから第497番目のアルギニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、である
検査器具。
【発明の効果】
【0006】
より短時間でVanin-1タンパク質を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(A)検査器具の外観を示す。(B)検査器具の別形態の外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.測定方法
Vanin-1タンパク質をイムノクロマトグラフィーにより測定する方法(以下、「測定方法」と称することがある)に関する。
測定方法は、検体と抗体とを接触させることと、検査ストリップ上で抗体とVanin-1タンパク質との複合体を測定することを含む。
【0009】
Vanin-1タンパク質(以下、単に「Vanin-1」と称することがある)は、ヒトの場合、National Center for Biotechnology Information (NCBI) Reference Sequence: NP_004657.2として登録されているタンパク質であり、配列番号1で表されるポリペプチドである。
イムノクロマトグラフィーは、検査ストリップ上で、抗原や抗体を測定する方法である。
【0010】
イムノクロマトグラフィー法により検体中の抗原を測定する場合、はじめに検体と検出抗体を混合した測定試料を調製する。検体と検出抗体の混合は、pH6.0~8.5程度のバッファー内で行うことができる。バッファーは、Tris-buffer等を挙げることができる。また、バッファーは、終濃度で0.5~2.0%程度のTriton(登録商標)-X、Tween(登録商標)-20等の界面活性剤、終濃度で0.05%~2.0%程度のウシ血清アルブミン(BSA)等を含んでいてもよい。
検出抗体には、抗原抗体の複合体の存在を可視化するための検出粒子が標識されている。
【0011】
続いて、捕捉抗体が固相化されている検査ストリップの捕捉抗体が固相化されていない部分に測定試料を浸透させる。測定試料に抗原と検出抗体の複合体が存在していれば、捕捉抗体を固相化した部分に抗原と検出抗体の複合体が固定化される。固定化に伴う検出粒子の濃縮に伴って抗原と検出抗体の複合体が可視化される。
【0012】
あるいは、あらかじめ検出粒子を標識した検出抗体を塗布するか又は浸透させ、検出抗体が塗布/浸透した部分よりも液体の流れの下流となる部分に捕捉抗体を固相化した検査ストリップを準備する。検体、又は検体とバッファーの混合液を検出抗体が塗布/浸透した部分よりも液体の流れの上流となる部分に浸透させる。検体に抗原が含まれる場合、検査ストリップに浸透していく過程において、検出抗体と接触し、抗原と検出抗体の複合体が形成される。複合体は、検体、又は検体とバッファーの混合液の浸透していく流れにしたがって検査ストリップ上を流れ、固相化した捕捉抗体に固定化される。固定化に伴う検出粒子の濃縮に伴って抗原と検出抗体の複合体が可視化される。
【0013】
イムノクロマトグラフィーに用いる抗体は、Vanin-1タンパク質を検出できる抗体である限り制限されない。ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
【0014】
抗体として、例えば、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第1番目のメチオニンから第350番目のバリンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、Anti-VNN1/Vanin-1 抗体:ab231056:abcam等)、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第22番目のグルタミンから第192番目のリシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、Anti-VNN1 Antibody抗体:PB10106:Boster Biological Technology等)、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチド(Recombinant Vanin-1 (VNN1):RPC598Hu01:CLOUD-CLONE CORP.等)を抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、Polyclonal antibody to Vanin1 (VNN1):PAC598Hu01:CLOUD-CLONE CORP.;Monoclonal antibody to Vanin1 (VNN1) :MAC598Hu22(Clone No. C4):CLOUD-CLONE CORP.等)、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第229番目のバリンから第379番目のアラニンまでの配列を有するポリペプチド(Recombinant Vanin-1 (VNN1):RPC598Hu02:CLOUD-CLONE CORP.等)を抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、Polyclonal antibody to Vanin1 (VNN1):PAC598Hu02:CLOUD-CLONE CORP.等)、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第232番目のイソロイシンから第427番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、Anti-VNN1/Vanin-1 抗体:ab96171:abcam等)、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第232番目のイソロイシンから第457番目のアスパラギン酸までの配列を有するポリペプチドを抗原として投与された動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、VNN1 Polyclonal Antibody:PA5-22335:Thermo Fischer等)、又は
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第298番目のリシンから第397番目のイソロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与された動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、VNN1 Monoclonal Antibody:H00008876-M05(Clone No. 2B10):Thermo Fischer等)、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第300番目のロイシンから第415番目のアラニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与された動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、Anti VNN1 Polyclonal Antibody:LS-B15409:LifeSpan Biosciences, Inc.等)、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第300番目のロイシンから第500番目のメチオニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、Anti-VNN1/Vanin-1 抗体:ab205912:abcam等)、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第302番目のセリンから第513番目のトリプトファンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、VNN1 Polyclonal antibody抗体:21745-1-AP:Proteintech Group, Inc.等)、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第389番目のバリンから第497番目のアルギニンまでの配列を有するポリペプチド(Recombinant Vanin-1 (VNN1):RPC598Hu03:CLOUD-CLONE CORP.等)を抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、Polyclonal antibody to Vanin1 (VNN1):PAC598Hu03:CLOUD-CLONE CORP.等)、及び
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第1番目のメチオニンから第513番目のトリプトファンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与された動物から取得された抗Vanin-1抗体(例えば、VNN1 Polyclonal Antibody:PA5-75160:Thermo Fischer等)、
を単独、又は前記抗体を組み合わせて使用することができる。
上記抗体は、捕捉抗体としても、検出抗体を構成する抗体としても使用することができる。
【0015】
上記抗体を取得するために抗原を接種される動物は制限されない。例えば、ウサギ、マウス、ラット、モルモット(ギニアピッグ)、ヤギ、ブタ、ラクダ等を挙げることができる。
【0016】
捕捉抗体として、
配列番号1で表されるVanin-1ポリペプチドの第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、又は
第229番目のバリンから第379番目のアラニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体
を使用することが好ましい。
【0017】
検出抗体を構成する抗体として、
第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体、又は
第389番目のバリンから第497番目のアルギニンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体
を使用することが好ましい。
第36番目のロイシンから第223番目のロイシンまでの配列を有するポリペプチドを抗原として投与した動物から取得された抗Vanin-1抗体同士を組み合わせて使用する場合、捕捉抗体を構成する抗体としてポリクローナル抗体を使用し、検出抗体としてモノクローナル抗体クローンC4抗体を使用することができる。
【0018】
検出粒子は、イムノクロマトグラフィーで、抗原と検出抗体の複合体を検出できる限り制限されない。例えば、体外診断薬用標識粒子NanoAct(登録商標)(旭化成株式会社、以下、単に「NanoAct」と称することがある)、金コロイド粒子を使用することができる。NanoActの色は特に制限されない。金コロイド粒子の粒子径は5~400nm程度であるが、中でも20nm~60nmが好ましい。
【0019】
検査ストリップについては、次項で詳細に説明する。
【0020】
被検者は、腎機能低下や腎障害等の腎疾患を有する者であっても有さない者であってもよい。
【0021】
検体として、尿、血液試料(全血、血清、血漿)、腹水等を挙げることができる。尿は自然尿、蓄尿、カテーテル尿、膀胱や腎臓の穿刺尿等であってもよい。
【0022】
前記測定は、Vanin-1が検体中に存在するかいなかを判定する定性的な測定であってもよい。定性的な測定の場合、検査ストリップ上の検出粒子の濃縮の有無を目視で判定し、検体中のVanin-1の有無を判定することができる。また、イムノクロマトリーダー(C10066-10、浜松ホトニクス)を使って、検出粒子の濃縮の有無を判定してもよい。
【0023】
また、前記測定は、検体中のVanin-1濃度の半定量的な測定であってもよい。半定量的な測定とは、検査ストリップ上の検出粒子の濃縮によって生じる色の濃さに応じて検体中のVanin-1の濃度を「無」、「低度」、「中等度」、「高度」のように判定する方法である。判定は、目視で行ってもよく、リーダーを使用してもよい。
【0024】
また、前記測定は、検体中のVanin-1濃度の定量的な測定であってもよい。定量的な測定とは、検査ストリップ上において検出粒子の濃縮によって生じる色の濃さをリーダー等によって計測し、計測値に基づいて、Vanin-1の濃度を定量化する方法である。定量の場合、例えば、検査ストリップ上で検出抗体を固相化している箇所の色の濃さの計測値(実測値)と検出抗体を固相化していない箇所の色の濃さの計測値(バックグラウンド値)を取得し、実測値からバックグラウンド値を差し引いた値、もしくは実測値をバックグラウンド値で除した値を正規化値として取得する。また、別途Vanin-1の濃度が既知の標準試料を用いて同様に測定し正規化値を得て、標準試料正規化値とVanin-1の濃度との間で回帰式(検量線)を作成する。被検者検体の正規化値を回帰式に当てはめ検体中のVanin-1濃度の測定値とすることができる。
【0025】
また、尿中のVanin-1濃度の測定値は、血中クレアチニン濃度や、クレアチニンクリアランス値等で補正を行ってもよいが、行わなくてもよい。尿が必要以上に薄くないかを確認するため、尿の浸透圧等を同時に測定してもよい。尿浸透圧は、試験紙法、氷点降下法等で測定が可能である。これらの試験により、尿浸透圧が基準範囲外の時には、尿浸透圧に基づいてVanin-1濃度の測定値を補正し、尿浸透圧が基準範囲内の時には、Vanin-1濃度の測定値を補正しないとしてもよい。
【0026】
尿を検体とする場合であって、前記検体中のVanin-1濃度の測定値が基準値以上であるとき、尿を採取した被検者が腎疾患を有することを示唆する。
【0027】
腎疾患には、腎機能低下又は腎障害等が含まれ得る。特に尿中Vanin-1濃度は、推定糸球体濾過率(eGFR)が変動するよりも早く増加する傾向があるため、推定糸球体濾過率(eGFR)が正常な被検者であっても、尿中Vanin-1濃度を測定することによって、より早く腎疾患を検出可能となる。
【0028】
Vanin-1の基準値は、腎疾患を有する被検者と有さない被検者を判別するための値であり、例えば、腎疾患を有する被検者と有さない被検者の検体中のVanin-1の測定値から得られるROC(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)曲線解析によって求められる感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などの指標に基づいて適宜設定することができる。また、基準値は、腎疾患を有さない被検者のVanin-1の測定値の平均値、中央値、最大値、第3四分位等としてもよい。基準値は、腎疾患を有する被検者のVanin-1の測定値の最小値、第1四分位としてもよい。
【0029】
2.検査器具
(1)第1の実施形態
図1(A)を用いて、検体中のVanin-1タンパク質をイムノクロマトグラフィーにより測定するための検査器具1について説明する。この実施形態は、あらかじめ検体と検出抗体を含む測定試料を調製し、測定試料を検査ストリップ11にアプライする形態である。
本項で使用する用語であって、上記1.において使用されている用語は、上記1.の説明をここに援用する。
検査器具1は、検査ストリップ11を備える。
検査ストリップ11は、少なくとも第1の部分13と第2の部分14を備える。
第1の部分13は、検体と検出粒子を標識した検出抗体を含む測定試料を浸透させる部分である。第2の部分14は捕捉抗体を固相化する部分である。第1の部分13と第2の部分14は重ならない。また、第1の部分13と第2の部分14は0.5 cm~2 cm程度離れていることが好ましい。
【0030】
検査ストリップ11は、ニトロセルロース、セルロース混合エステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ガラス繊維、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の膜性素材から構成される。
【0031】
第1の部分13に浸透した測定試料は、
図1(A)に示す矢印の方向に向かって膜性素材に浸透し流れを作る。測定試料中にVanin-1と検出抗体の複合体が存在する場合、第2の部分14に固相化された捕捉抗体とさらなる複合体を形成し、第2の部分14にVanin-1と検出抗体の複合体が固定化される。固定化に伴う検出粒子の濃縮に伴って抗原と検出抗体の複合体が可視化される。
【0032】
任意ではあるが、
図1(A)に示すように、検査ストリップ11は、検査が正しく行われていることを示す、陽性コントロール抗体を固相化した部分16を備えていてもよい。陽性コントロール抗体は、検出抗体を構成する抗体を捕捉することができる、抗イムノグロブリン抗体等である。例えば、検出抗体を構成する抗体がウサギで作製されたものである場合、陽性コントロール抗体は、抗ウサギイムノグロブリン抗体、抗ウサギIgG抗体となる。陽性コントロール抗体を固相化した部分16は、第1の部分13と第2の部分14とは重ならない。
【0033】
このような陽性コントロール抗体を固相化した部分16を設けることにより、Vanin-1と検出抗体の複合体が存在せず第2の部分14に検出粒子の濃縮が認められなかったとしても、陽性コントロール抗体固相化部分16に検出粒子の濃縮が認められれば、少なくとも検出抗体は第2の部分14を通過しており、検査自体は成立していたと判定することができる。すなわち、第2の部分14に検出粒子の濃縮が認められず、陽性コントロール抗体を固相化した部分16に検出粒子の濃縮が認められれば、測定試料に含まれるVanin-1は検出限界以下であった、もしくはVanin-1は存在していなかったと判定することができる。
また、任意ではあるが、検査器具1は、検査ストリップ11を担持するケース12を備えていてもよい。
【0034】
(2)第2の実施形態
図1(B)を用いて、検体中のVanin-1タンパク質をイムノクロマトグラフィーにより測定するための検査器具2について説明する。この実施形態は、検査ストリップ21に検出抗体が塗布、又は浸透されている。
本項で使用する用語であって、上記1.において使用されている用語は、上記1.の説明をここに援用する。
検査器具2は、検査ストリップ21を備える。
検査ストリップ21は、少なくとも第1の部分23と第2の部分24を備える。第1の部分23と第2の部分24は重ならない。
第1の部分23には、尿、又は尿の希釈液を浸透させる。
第2の部分24は、検査器具1における第2の部分14に対応する。
【0035】
また、任意の部分である陽性コントロール抗体を固相化した部分26及びケース22は、それぞれ、検査器具1における陽性コントロール抗体を固相化した部分16及びケース12に対応する。
【0036】
検査器具2における第3の部分25には、検出抗体が塗布または浸透されている。ここで、検出抗体は液体の流れにしたがって移動しなければならないため、捕捉抗体や陽性コントロール抗体のように固相化はされていない。
【0037】
第1の部分23に尿、又は尿の希釈液を浸透させると、これらは検査ストリップ23に浸透し、はじめに検出抗体と接触する。尿中にVanin-1が存在していれば、第3の部分25に存在している検出抗体と反応し、第2の部分24に固相化された捕捉抗体に捕捉され、固定化される。
【実施例0038】
以下に実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は、実施例に限定して解釈されるものではない。
【0039】
I.実施例1
1.抗体
図2に示す4種類の市販の抗体液を使用した。アミコン遠心式限外濾過フィルター(UFC510024; メルク; 分画分子量100kD)をチューブにセットし、各抗体液を3回に分けてアミコンフィルターユニットに添加し、1回ずつの遠心を行った。フロースルー液を捨て、1×TBSバッファーをアミコンフィルターユニットに添加し、抗体を溶出した。
抗体濃度をPierce BCA Protein Assay kitを使用して測定し、各抗体液の濃度を1 mg/mLに調整した。
【0040】
以下、
図2に示す抗体液PAC598Hu01を「01」と、抗体液PAC598Hu02を「02」と、抗体液PAC598Hu03を「03」と、抗体液MAC598Hu22を「M」と略記する。
【0041】
2.抗体の標識
2-1.NanoAct標識
(1)試薬
検出粒子:NanoAct 青(旭化成社)BL2CAA001 Lot; BL2QFLRCV
標識バッファー:100mM Tris-HCl (pH7.0-9.0)
ブロッキング液:1% Casein, 50 mM Tris-HCl (pH9.0)
洗浄液:50 mM Tris-HCl(pH9.0)
乾燥液(保存液):0.2% Casein, 15% Sucrose, 50 mM Tris-HCl(pH9.0)
検体希釈液:0.9% TritonX100, 0.1% BSA, 100mM Tris-HCl (pH 8.5)
【0042】
(2)方法
i. 5mLのProtein LoBind(登録商標)チューブに、1% NanoAct 青 40μLと標識バッファー 360μLを添加し混合した。その混合液に、1 mg/mLに調整した抗体液40μLを添加し、Vortexミキサーで攪拌した。
ii. 前記i.で調製した混合液を37℃にて、120分間インキュベーターでインキュベートした。
iii. インキュベーションが終了した混合液にブロッキング液を4.8 mL添加し、Vortexミキサーで攪拌した。
iv. 前記iii.で調製した混合液を37℃にて120分間インキュベーターでインキュベートした。
v. 上記ivにおいてインキュベーションが終了した混合液を、15000g, 15分間、 20℃の条件で遠心し、上清を除去した。
vi. 上記v.の沈渣に洗浄バッファーを4.8 mLを添加し、超音波を照射し、沈渣を分散させた。
vii. 上記viの分散液を、15000g, 15分間、 20℃の条件で遠心し、上清を除去した。
viii. 上記vii.の沈渣に保存バッファー82μLを添加し、超音波を照射し、沈渣を分散させた。
ix. 上記viii.の分散液をNanoAct標識抗体液として冷蔵保存した。
【0043】
2-2.金コロイド標識
(1)試薬
粒子:金コロイド (40 nm) GOLD COLLOID, BBI Solutions, EM.GC40,
BATCH 20040072
100-150μLの金コロイド原液に50μLの10 mM Tris-HCl (pH 8.0)を
加えた。
抗体:10 mM Tris-HCl (pH 8.0)で抗体液を希釈し0.2 mg/mLに調整した。
1%BSA(pH8.0)溶液:10 mM Tris-HCl (pH 8.0)に1%w/vとなるようにBSAを
添加した。
1%PEG:PEG(20000) 100 mgに9.9 gの水を添加した。
BSA-PEG混合液:1%BSA(pH8.0)溶液と1%PEG溶液を9:1の割合で混合し、
調製した。
金コロイド保存液:50 mgのトレハロース二水和物に1%BSA(pH8.0)溶液1 mL
を添加し、調製した。
【0044】
(2)方法
i. 1.5mLチューブに金コロイド溶液と抗体液(0.2 mg/mL)を容積比で1.5:1となるように加え、Vortexミキサーで攪拌した。01、及び02は200 μLの抗体液使用し、03、及びMは100 μLの抗体液を使用した。攪拌後の金コロイドと抗体の混合液を室温で15分間静置した。
ii. 上記i. にて静置が終了した後の金コロイドと抗体の混合液に1%BSA-PEG混合液を0.4 mL加え、Vortexミキサーで攪拌した後、室温で15分間静置した。
iii. 上記ii. にて静置が終了した後の混合液を、8,000g (7,000 rpm)で10分間遠心し、上清を除去した。
iv. 上記iiiの沈渣にBSA-PEG混合液を1 mL加え、Vortexミキサーで沈渣を分散させた。その後15分間静置した。
v. 上記iv.の分散液に、金コロイド保存液を加えて、再分散させた。01、及び02の抗体を含む分散液には金コロイド保存液を200μL添加し、03及びMの抗体を含む分散液には金コロイド保存液を100μL添加した。
vi. 上記v.の再分散液を金コロイド標識抗体液として冷蔵保存した。
【0045】
3.スポット法(簡易イムノクロマト法)での測定
(1)試薬
抗原液:抗原としてRecombinant Vanin-1 (VNN1) RPC598Hu04
(vanin-1 Gln22~Gly491 with N-terminal His Tag)(CLOUD-CLONE CORP社)を使用した。
抗原は、後述する抗体希釈液を用いて希釈した。
抗体液:上記1.において1 mg/mLに調整した各抗体液を使用した。
検体希釈液:Tris-buffer(TritonX-100 0.9%、BSA 0.1%含有)
標識抗体液:上記2-1.(2)において作成したNanoAct標識抗体液、又は上記2-2.(2)において作製した金コロイド標識抗体液を使用した。
【0046】
(2)スポット法による抗原の測定
以下の方法により、スポット法(簡易イムノクロマト法)に基づく測定系を構築した。測定は、抗体液と各標識抗体の組み合わせについて独立して3回行った。
i. ニトロセルロースメンブレン製の無担持ストリップに0.5 μLの01、02、03、Mの抗体液をそれぞれ滴下し、45℃にて30分間インキュベートし抗体を固相化した。
ii. 96穴プレートの各ウェルに、各標識抗体を3 μLずつ滴下した。
【0047】
iii. 検体希釈液で各濃度(100 ng/mL、10 ng/mL、1 ng/mLに希釈した抗原希釈液20 μLを標識抗体を滴下したウェルに添加した後、ピペッティングにより混和した。またblankとして、標識抗体を滴下したウェルに検体希釈液を20μL加えて混和した。
iv. ストリップを入れ、10分後に目視判定にてスポットの有無を確認した。
【0048】
4.結果
測定結果を
図3に示す。
図3には、NanoActを標識した場合、金コロイドを標識した場合における各捕捉抗体と検出抗体の組み合わせにおける目視判定結果を示す。目視にてスポットが視認できたものを「+」、視認できなかったものを「-」とした。
【0049】
NanoActの場合、抗原の濃度に応じて1ng/mLまで目視判定可能であるのは、捕捉抗体01と検出抗体03またはMの組み合わせ、または捕捉抗体02と検出抗体01の組み合わせであった。
【0050】
金コロイドの場合、抗原の濃度に応じて1ng/mLまで目視判定可能であるのは、捕捉抗体01と検出抗体Mの組み合わせ、または捕捉抗体Mと検出抗体01の組み合わせであった。
【0051】
II.実施例2
実施例1と同様の方法で、捕捉抗体に01を用い、検出抗体にNanoAct標識および金コロイド標識した抗体Mを用いた。尿試料に各濃度(100 ng/mL、10 ng/mL、1 ng/mL)となるように抗原をスパイクした検体液20 μLを、標識抗体を滴下したウェルに添加した後、ピペッティングにより混和した。またblankとして、標識抗体を滴下したウェルに抗原をスパイクしていない尿試料を20μL加えて混和した。ストリップを入れ、10分後にリーダー(C10066-10、浜松ホトニクス)で吸光度を測定した。
【0052】
測定結果を
図4に示す。
いずれの条件も尿試料からの検出が可能であった。金コロイドを用いた場合は、1ng/mLまでの測定が可能であった。