(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067312
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】ひずみセンサ付き軸受装置および工作機械用スピンドル装置
(51)【国際特許分類】
F16C 19/52 20060101AFI20240510BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20240510BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20240510BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20240510BHJP
F16C 35/12 20060101ALI20240510BHJP
F16C 35/06 20060101ALI20240510BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
F16C19/52
B23B19/02 B
B23Q17/00 A
F16C41/00
F16C35/12
F16C35/06 Z
G01L5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177284
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】大口 耀示
(72)【発明者】
【氏名】福島 靖之
【テーマコード(参考)】
2F051
3C029
3C045
3J117
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
2F051AA11
2F051AB09
3C029EE00
3C045FD08
3C045FD13
3C045FD20
3C045FD23
3J117AA01
3J117CA04
3J117DA01
3J117DB02
3J217JA02
3J217JA24
3J217JB23
3J217JB26
3J217JB68
3J217JB84
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA77
3J701FA25
3J701FA41
3J701GA31
3J701XB03
3J701XB11
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】高い精度で軸受予圧を検出することが可能なひずみセンサ付き軸受装置を提供する。
【解決手段】外輪間座26の第1外輪30の側の端部には、第1軸方向端面52と円筒内周面50の交差部と、第1軸方向端面52と円筒外周面51の交差部のうちの一方または両方を全周にわたって切り欠く円環状の第1環状切欠き57が形成され、外輪間座26の第2外輪35の側の端部には、第2軸方向端面53と円筒内周面50の交差部と、第2軸方向端面53と円筒外周面51の交差部のうちの一方または両方を全周にわたって切り欠く円環状の第2環状切欠き58が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に間隔をおいて配置された第1軸受(24)および第2軸受(25)と、前記第1軸受(24)と前記第2軸受(25)の間に設けられた円筒状の外輪間座(26)と、前記外輪間座(26)に取り付けられたひずみセンサ(28)とを有し、
前記第1軸受(24)は、第1外輪(30)と、第1外輪(30)の径方向内側に設けられた第1内輪(31)と、第1外輪(30)と第1内輪(31)の間に組み込まれた複数の第1転動体(32)とを有し、
前記第2軸受(25)は、第2外輪(35)と、第2外輪(35)の径方向内側に設けられた第2内輪(36)と、第2外輪(35)と第2内輪(36)の間に組み込まれた複数の第2転動体(37)とを有し、
前記第1軸受(24)と前記第2軸受(25)の間には、前記第1内輪(31)、前記第1転動体(32)、前記第1外輪(30)、前記外輪間座(26)、前記第2外輪(35)、前記第2転動体(37)、前記第2内輪(36)を通って予圧が伝達するように軸方向の予圧が付与され、
前記外輪間座(26)は、円筒内周面(50)と、円筒外周面(51)と、前記円筒内周面(50)または前記円筒外周面(51)の一部を切り欠いて形成された平面状のセンサ取り付け面(54)と、前記軸方向の予圧で前記第1外輪(30)に押し付けれる第1軸方向端面(52)と、前記軸方向の予圧で前記第2外輪(35)に押し付けられる第2軸方向端面(53)とを有し、前記センサ取り付け面(54)に前記ひずみセンサ(28)が取り付けられるひずみセンサ付き軸受装置において、
前記外輪間座(26)の前記第1外輪(30)の側の端部には、前記第1軸方向端面(52)と前記円筒内周面(50)の交差部と、前記第1軸方向端面(52)と前記円筒外周面(51)の交差部のうちの一方または両方を全周にわたって切り欠く円環状の第1環状切欠き(57)が形成され、
前記外輪間座(26)の前記第2外輪(35)の側の端部には、前記第2軸方向端面(53)と前記円筒内周面(50)の交差部と、前記第2軸方向端面(53)と前記円筒外周面(51)の交差部のうちの一方または両方を全周にわたって切り欠く円環状の第2環状切欠き(58)が形成されていることを特徴とするひずみセンサ付き軸受装置。
【請求項2】
前記第1軸方向端面(52)と前記第2軸方向端面(53)とが同じ径方向位置に揃うように、前記第1環状切欠き(57)および前記第2環状切欠き(58)が形成されている、請求項1に記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【請求項3】
前記第1軸方向端面(52)の径方向幅および前記第2軸方向端面(53)の径方向幅が、前記円筒内周面(50)と前記円筒外周面(51)の間の径方向厚さの50%以下となるように、前記第1環状切欠き(57)および前記第2環状切欠き(58)が形成されている、請求項1または2に記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【請求項4】
前記第1軸方向端面(52)の径方向幅および前記第2軸方向端面(53)の径方向幅が、前記円筒内周面(50)と前記円筒外周面(51)の間の径方向厚さの20%以下となるように、前記第1環状切欠き(57)および前記第2環状切欠き(58)が形成されている、請求項1または2に記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【請求項5】
前記ひずみセンサ(28)は、前記外輪間座(26)の内周に配置されている、請求項1または2に記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【請求項6】
前記ひずみセンサは、前記外輪間座(26)の外周に配置されている、請求項1または2に記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【請求項7】
前記ひずみセンサは、前記外輪間座(26)の内周と外周の両方に配置されている、請求項1または2に記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【請求項8】
前記第1軸方向端面(52)が、前記第1外輪(30)との摩擦係数を低減させる摩擦低減処理を施した面とされ、前記第2軸方向端面(53)も、前記第2外輪(35)との摩擦係数を低減させる摩擦低減処理を施した面とされている、請求項1または2に記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載のひずみセンサ付き軸受装置(1)と、
前記ひずみセンサ付き軸受装置(1)で回転可能に支持される工作機械の主軸(2)と、
前記主軸(2)を回転駆動するモータ(4)と、を有する工作機械用スピンドル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ひずみセンサ付き軸受装置、およびそのひずみセンサ付き軸受装置を使用した工作機械用スピンドル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタや旋盤等の工作機械、その他の産業機械では、工具や加工物等の対象物が取り付けられる回転軸を回転可能に支持するスピンドル装置が用いられる。このようなスピンドル装置の使用分野において、近年、省人化や無人化のための状態監視機能の強化が求められている。
【0003】
そこで、本願の出願人は、状態監視機能の強化のニーズに応えるため、ひずみセンサ付き軸受装置を既に提案している(特許文献1)。
【0004】
特許文献1のひずみセンサ付き軸受装置は、軸方向に間隔をおいて配置された第1軸受および第2軸受と、第1軸受と第2軸受の間に設けられた円筒状の外輪間座と、外輪間座に取り付けられたひずみセンサとを有する。
【0005】
第1軸受は、第1外輪と、第1外輪の径方向内側に設けられた第1内輪と、第1外輪と第1内輪の間に組み込まれた複数の第1転動体とを有する。同様に、第2軸受は、第2外輪と、第2外輪の径方向内側に設けられた第2内輪と、第2外輪と第2内輪の間に組み込まれた複数の第2転動体とを有する。外輪間座は、第1外輪と第2外輪の間に軸方向に挟み込まれて配置されている。
【0006】
第1軸受と第2軸受の間には、第1内輪、第1転動体、第1外輪、外輪間座、第2外輪、第2転動体、第2内輪を通って予圧が伝達するように軸方向の予圧が付与されている。第1軸受は、軸方向の予圧で、第1転動体が第1外輪を押圧する径方向分力を生じるように構成されたアンギュラ玉軸受であり、第2軸受も、軸方向の予圧で、第2転動体が第2外輪を押圧する径方向分力を生じるように構成されたアンギュラ玉軸受である。
【0007】
外輪間座は、円筒内周面と、円筒外周面と、第1軸方向端面と、第2軸方向端面とを有する円筒状の部材である。第1軸方向端面は、円筒内周面と円筒外周面の間の径方向厚さと同じ幅をもつ円環状の軸直角平面であり、その軸直角平面が、軸方向の予圧で第1外輪に押し付けられている。同様に、第2軸方向端面も、円筒内周面と円筒外周面の間の径方向厚さと同じ幅をもつ円環状の軸直角平面であり、その軸直角平面が、軸方向の予圧で第2外輪に押し付けられている。
【0008】
ひずみセンサは、外輪間座の円筒内周面の一部を切り欠いて形成された平面状のセンサ取り付け面に取り付けられ、このひずみセンサの出力に基づいて、第1軸受および第2軸受の予圧荷重(以下「軸受予圧」という)を検出することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1のひずみセンサ付き軸受装置において、外輪間座の内周のひずみセンサの出力に基づいて検出される軸受予圧の大きさに誤差が生じることがあった。この誤差を無くし、高い精度で軸受予圧を検出することができれば、省人化や無人化のための状態監視の信頼性を高めることが可能となる。
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、高い精度で軸受予圧を検出することが可能なひずみセンサ付き軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の発明者らは、上記の特許文献1のひずみセンサ付き軸受装置を試作評価したところ、軸受予圧を変化させたときに、外輪間座の第1軸方向端面および第2軸方向端面が、第1外輪および第2外輪との間で径方向のすべりを生じ、そのすべりの影響で、外輪間座の第1軸方向端面および第2軸方向端面が、径方向内側寄りの位置で第1外輪および第2外輪と強く接触する場合と、径方向外側寄りの位置で第1外輪および第2外輪と強く接触する場合とが生じることが分かった。
【0013】
そして、外輪間座の第1軸方向端面および第2軸方向端面が、径方向内側寄りの位置で強く接触する場合は、軸受予圧が、主に外輪間座の内周の側を通って伝達するので、外輪間座の内周に取り付けられたひずみセンサの出力が大きくなり、逆に、外輪間座の第1軸方向端面および第2軸方向端面が、径方向外側寄りの位置で強く接触する場合は、軸受予圧が、主に外輪間座の外周の側を通って伝達するので、外輪間座の内周に取り付けられたひずみセンサの出力が小さくなる。
【0014】
このように、軸受予圧の大きさが同じでも、外輪間座の第1軸方向端面および第2軸方向端面が、径方向内側寄りの位置で強く接触する場合と、径方向外側寄りの位置で強く接触する場合とでひずみセンサの出力が同じにならず、そのことが原因で、ひずみセンサの出力に基づいて検出される軸受予圧に誤差が生じることを見出した。
【0015】
そこで、本願の発明者らは、外輪間座の第1軸方向端面および第2軸方向端面を、あらかじめ特定の狭い径方向範囲で接触する形状とすれば、ひずみセンサの出力に基づいて検出される軸受予圧の誤差を小さく抑えることができるという着想を得た。
【0016】
この着想に基づいて、この発明では、上記の課題を解決するため、以下の構成のひずみセンサ付き軸受装置を提供する。
[構成1]
軸方向に間隔をおいて配置された第1軸受および第2軸受と、前記第1軸受と前記第2軸受の間に設けられた円筒状の外輪間座と、前記外輪間座に取り付けられたひずみセンサとを有し、
前記第1軸受は、第1外輪と、第1外輪の径方向内側に設けられた第1内輪と、第1外輪と第1内輪の間に組み込まれた複数の第1転動体とを有し、
前記第2軸受は、第2外輪と、第2外輪の径方向内側に設けられた第2内輪と、第2外輪と第2内輪の間に組み込まれた複数の第2転動体とを有し、
前記第1軸受と前記第2軸受の間には、前記第1内輪、前記第1転動体、前記第1外輪、前記外輪間座、前記第2外輪、前記第2転動体、前記第2内輪を通って予圧が伝達するように軸方向の予圧が付与され、
前記外輪間座は、円筒内周面と、円筒外周面と、前記円筒内周面または前記円筒外周面の一部を切り欠いて形成された平面状のセンサ取り付け面と、前記軸方向の予圧で前記第1外輪に押し付けられる第1軸方向端面と、前記軸方向の予圧で前記第2外輪に押し付けられる第2軸方向端面とを有し、前記センサ取り付け面に前記ひずみセンサが取り付けられるひずみセンサ付き軸受装置において、
前記外輪間座の前記第1外輪の側の端部には、前記第1軸方向端面と前記円筒内周面の交差部と、前記第1軸方向端面と前記円筒外周面の交差部のうちの一方または両方を全周にわたって切り欠く円環状の第1環状切欠きが形成され、
前記外輪間座の前記第2外輪の側の端部には、前記第2軸方向端面と前記円筒内周面の交差部と、前記第2軸方向端面と前記円筒外周面の交差部のうちの一方または両方を全周にわたって切り欠く円環状の第2環状切欠きが形成されていることを特徴とするひずみセンサ付き軸受装置。
【0017】
この構成を採用すると、第1環状切欠きを設けた分、第1軸方向端面が径方向に狭くなるので、第1軸方向端面が、径方向外側寄りの位置で第1外輪と強く接触する場合と、径方向内側寄りの位置で第1外輪と強く接触する場合とで、強く接触する箇所の径方向位置の差を小さく抑えることができる。同様に、第2環状切欠きを設けた分、第2軸方向端面が径方向に狭くなるので、第2軸方向端面が、径方向外側寄りの位置で第2外輪と強く接触する場合と、径方向内側寄りの位置で第2外輪と強く接触する場合とで、強く接触する箇所の径方向位置の差を小さく抑えることができる。そのため、外輪間座の第1軸方向端面と第2軸方向端面の間において、軸受予圧の通る径方向位置が安定し、ひずみセンサの出力に誤差が生じにくくなる。その結果、高い精度で軸受予圧を検出することが可能となる。
【0018】
[構成2]
第1軸方向端面と第2軸方向端面とが同じ径方向位置に揃うように、前記第1環状切欠きおよび前記第2環状切欠きが形成されている、構成1に記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【0019】
この構成を採用すると、第1軸方向端面と第2軸方向端面とが同じ径方向位置に揃うので、外輪間座の第1軸方向端面と第2軸方向端面の間において、軸受予圧の通る径方向位置が特に安定したものとなり、ひずみセンサの出力に特に誤差が生じにくくなる。
【0020】
[構成3]
前記第1軸方向端面の径方向幅および前記第2軸方向端面の径方向幅が、前記円筒内周面と前記円筒外周面の間の径方向厚さの50%以下となるように、前記第1環状切欠きおよび前記第2環状切欠きが形成されている、構成1または2に記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【0021】
この構成を採用すると、外輪間座の第1軸方向端面と第2軸方向端面の間において、軸受予圧の通る径方向位置を効果的に安定させることが可能となる。
【0022】
[構成4]
前記第1軸方向端面の径方向幅および前記第2軸方向端面の径方向幅が、前記円筒内周面と前記円筒外周面の間の径方向厚さの20%以下となるように、前記第1環状切欠きおよび前記第2環状切欠きが形成されている、構成1または2に記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【0023】
この構成を採用すると、外輪間座の第1軸方向端面と第2軸方向端面の間において、軸受予圧の通る径方向位置を特に効果的に安定させることが可能となる。
【0024】
[構成5]
前記ひずみセンサは、前記外輪間座の内周に配置されている、構成1から4のいずれかに記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【0025】
[構成6]
前記ひずみセンサは、前記外輪間座の外周に配置されている、構成1から4のいずれかに記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【0026】
[構成7]
前記ひずみセンサは、前記外輪間座の内周と外周の両方に配置されている、構成1から4のいずれかに記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【0027】
この構成を採用すると、第1軸方向端面と第2軸方向端面の間において、軸受予圧の通る径方向位置が径方向内側または径方向外側にどの程度偏っているかを検知することが可能となる。また、外輪間座の内周に配置されたひずみセンサの出力と、外輪間座の外周に配置されたひずみセンサの出力との和をとることで、軸受予圧の通る径方向位置が径方向内側または径方向外側に偏ることによる影響を相殺し、安定した精度で軸方向の予圧荷重を検出することも可能となる。
【0028】
[構成8]
前記第1軸方向端面が、前記第1外輪との摩擦係数を低減させる摩擦低減処理を施した面とされ、前記第2軸方向端面も、前記第2外輪との摩擦係数を低減させる摩擦低減処理を施した面とされている、構成1から7のいずれかに記載のひずみセンサ付き軸受装置。
【0029】
この構成を採用すると、第1軸方向端面および第2軸方向端面に摩擦低減処理が施されているので、第1軸方向端面および第2軸方向端面の接触圧に径方向の偏りが生じにくくなる。そのため、外輪間座の第1軸方向端面と第2軸方向端面の間において、軸受予圧の通る径方向位置を特に効果的に安定させることが可能となる。
【0030】
また、この発明では、上記のひずみセンサ付き軸受装置を使用した工作機械用スピンドル装置として、以下の構成のものを併せて提供する。
[構成9]
構成1から8のいずれかに記載のひずみセンサ付き軸受装置と、
前記ひずみセンサ付き軸受装置で回転可能に支持される工作機械の主軸と、
前記主軸を回転駆動するモータと、を有する工作機械用スピンドル装置。
【0031】
この構成を採用すると、工作機械の省人化や無人化のための状態監視を安定して行なうことが可能となる。また、切削加工中の工作機械の主軸に作用する加工荷重を検出することも可能となる。
【発明の効果】
【0032】
この発明のひずみセンサ付き軸受装置は、第1環状切欠きを設けた分、第1軸方向端面が径方向に狭くなっているので、第1軸方向端面が、径方向外側寄りの位置で第1外輪と強く接触する場合と、径方向内側寄りの位置で第1外輪と強く接触する場合とで、強く接触する箇所の径方向位置の差が小さい。同様に、第2環状切欠きを設けた分、第2軸方向端面が径方向に狭くなっているので、第2軸方向端面が、径方向外側寄りの位置で第2外輪と強く接触する場合と、径方向内側寄りの位置で第2外輪と強く接触する場合とで、強く接触する箇所の径方向位置の差が小さい。そのため、外輪間座の第1軸方向端面と第2軸方向端面の間において、軸受予圧の通る径方向位置が安定しており、ひずみセンサの出力に誤差が生じにくく、高い精度で軸受予圧を検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】この発明の実施形態にかかるひずみセンサ付き軸受装置を使用した工作機械用スピンドル装置を示す断面図
【
図2】
図1のひずみセンサ付き軸受装置の近傍の拡大図
【
図5】
図4に示す第1環状切欠きおよび第2環状切欠きを外輪間座の軸方向両端の径方向外側の部分のみに形成した変形例の外輪間座を示す図
【
図6】
図4に示す第1環状切欠きおよび第2環状切欠きを外輪間座の軸方向両端の径方向内側の部分のみに形成した変形例の外輪間座を示す図
【
図7】
図3に示すひずみセンサの配置を外輪間座の内周から外周に変更した変形例の外輪間座を示す図
【
図9】
図3に示すひずみセンサを外輪間座の内周と外周の両方に設けた変形例の外輪間座を示す図
【
図11】
図4に示す第1環状切欠きおよび第2環状切欠きの変形例を示す図
【
図12】
図4に示す第1環状切欠きおよび第2環状切欠きの他の変形例を示す図
【
図13】
図4に示す外輪間座の第1軸方向端面に摩擦低減処理を施した変形例を示す第1軸方向端面の近傍の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1に、この発明の実施形態にかかるひずみセンサ付き軸受装置1(以下、単に「軸受装置1」という)を使用した工作機械用スピンドル装置を示す。このスピンドル装置は、工作機械の主軸2と、主軸2を収容する主軸ハウジング3と、主軸2を回転駆動するモータ4と、モータ4よりも軸方向前側で主軸2を回転可能に支持する実施形態の軸受装置1と、モータ4よりも軸方向後側で主軸2を回転可能に支持する後側軸受装置5とを有する。
【0035】
主軸ハウジング3は、両端が開放した中空筒状に形成されている。主軸ハウジング3は、軸方向の前側から後側に向かって順に軸受装置1とモータ4とを収容している。図では、主軸ハウジング3の軸受装置1を収容する部分と、主軸ハウジング3のモータ4を収容する部分とを継ぎ目の無い一体に形成しているが、主軸ハウジング3の軸受装置1を収容する部分と、主軸ハウジング3のモータ4を収容する部分とを別体に形成し、その両部分を連結して一体化してもよい。
【0036】
主軸2は、主軸2の前端が主軸ハウジング3の前端開口から突出した状態で主軸ハウジング3に挿入されている。主軸2の前端には、工具または加工物を把持するチャック(図示せず)が着脱可能に取り付けられるようになっている。主軸2には、工作機械のドローバー(図示せず)を軸方向に摺動可能に収容する貫通孔6が軸方向に貫通して形成されている。
【0037】
モータ4は、主軸2の外周に取り付けられたロータ7と、ロータ7に回転力を付与する環状のステータ8とを有する。ロータ7は、主軸2の外周に嵌合するロータスリーブ9と、ロータスリーブ9の外周に固定されたロータコア10とを有する。ロータコア10は、例えば、電磁鋼板の積層体である。ロータスリーブ9は、主軸2と一体回転するように主軸2に回り止めされている。ロータスリーブ9の軸方向前端は、主軸2の外周に形成された段差部11に接触し、その段差部11との接触によって軸方向に位置決めされている。
【0038】
ステータ8は、主軸ハウジング3の内周に固定されたステータコア12と、ステータコア12に周方向に間隔をおいて形成された複数のティース部分にそれぞれ巻回された電磁コイル13とを有する。電磁コイル13に通電すると、ステータコア12とロータコア10の間に働く電磁力によってロータコア10に回転力が発生し、ロータ7と主軸2が一体に回転する。ここでは、モータ4として、電力で回転力を発生する電動モータを採用したが、電動モータに代えて、圧縮空気など他の動力源で回転力を発生する方式のモータを採用することも可能である。
【0039】
後側軸受装置5は、主軸ハウジング3の後端に同軸に固定された環状の軸受支持部材14と、軸受支持部材14に組み込まれた転がり軸受15とを有する。転がり軸受15は、軸受支持部材14の内周に嵌合する外輪16と、主軸2の外周に嵌合する内輪17と、外輪16と内輪17の間に組み込まれた複数の円筒ころ18とを有する円筒ころ軸受である。
【0040】
軸受支持部材14には、外輪押さえ部材19が取り付けられている。外輪押さえ部材19は、外輪16の軸方向後端面に接触することで外輪16の軸方向位置を固定している。主軸2の外周には、内輪17を軸方向前方に押圧するナット部材20と、内輪17とナット部材20の間に組み込まれた環状のスペーサ21とが装着されている。ナット部材20は、主軸2の後端部外周に形成された雄ねじ22にねじ係合している。スペーサ21の軸方向前端面は、内輪17の軸方向後端面に接触し、スペーサ21の軸方向後端面は、ナット部材20の軸方向前端面に接触している。内輪17の軸方向前端面は、ロータスリーブ9の軸方向後端に接触している。
【0041】
軸受装置1は、主軸ハウジング3に固定された軸受支持筒23と、軸受支持筒23に軸方向に間隔をおいて組み込まれた第1軸受24および第2軸受25と、第1軸受24と第2軸受25の間に設けられた外輪間座26および内輪間座27と、外輪間座26に取り付けられたひずみセンサ28とを有する。
【0042】
図2に示すように、第1軸受24は、軸受支持筒23の内周に嵌合する第1外輪30と、第1外輪30の径方向内側に回転可能に設けられた第1内輪31と、第1外輪30と第1内輪31の間に組み込まれた複数の第1転動体32とを有する。第1転動体32は、ここでは玉である。第1外輪30の内周には、第1転動体32が転がり接触する断面円弧状の第1外輪軌道面33が設けられている。第1外輪30は、第1外輪軌道面33に対して軸方向前側の外輪肩部と軸方向後側の外輪肩部のうち、軸方向前側の外輪肩部を除去した形状の肩落とし外輪である。第1内輪31の外周には、第1転動体32が転がり接触する断面円弧状の第1内輪軌道面34が設けられている。第1内輪31は、第1転動体32が転がり接触する第1内輪軌道面34に対して軸方向前側の内輪肩部と軸方向後側の内輪肩部のうち、軸方向後側の内輪肩部を除去した形状の肩落とし内輪である。第1内輪31は、主軸2の外周に締め代をもって嵌合している。
【0043】
第2軸受25は、軸受支持筒23の内周に嵌合する第2外輪35と、第2外輪35の径方向内側に回転可能に設けられた第2内輪36と、第2外輪35と第2内輪36の間に組み込まれた複数の第2転動体37とを有する。第2転動体37は、ここでは玉である。第2外輪35の内周には、第2転動体37が転がり接触する断面円弧状の第2外輪軌道面38が設けられている。第2外輪35は、第1外輪30から軸方向後方に間隔をおいて配置され、第2内輪36も、第1内輪31から軸方向後方に間隔をおいて配置されている。第2外輪35は、第2外輪軌道面38に対して軸方向前側の外輪肩部と軸方向後側の外輪肩部のうち、軸方向後側の外輪肩部を除去した形状の肩落とし外輪である。第2内輪36の外周には、第2転動体37が転がり接触する断面円弧状の第2内輪軌道面39が設けられている。第2内輪36は、第2転動体37が転がり接触する第2内輪軌道面39に対して軸方向前側の内輪肩部と軸方向後側の内輪肩部のうち、軸方向前側の内輪肩部を除去した形状の肩落とし内輪である。第2内輪36は、主軸2の外周に締め代をもって嵌合している。
【0044】
ここで、第1軸受24は、軸方向の予圧で、第1転動体32が第1外輪30を押圧する径方向分力を生じるように構成され、同様に、第2軸受25も、軸方向の予圧で、第2転動体37が第2外輪35を押圧する径方向分力を生じるように構成されている。この実施形態では、第1軸受24は、第1内輪31と第1転動体32の接触点と、第1外輪30と第1転動体32の接触点とを結ぶ直線が、半径方向内側から半径方向外側に向かって軸方向後方に傾斜するアンギュラ玉軸受である。また、第2軸受25は、第2内輪36と第2転動体37の接触点と、第2外輪35と第2転動体37の接触点とを結ぶ直線が、半径方向内側から半径方向外側に向かって軸方向前方に傾斜するアンギュラ玉軸受である。つまり、第1軸受24と第2軸受25は、背面合わせの関係で軸方向に間隔をおいて配置された一対のアンギュラ玉軸受である。
【0045】
外輪間座26は、両端が開放した中空の筒状部材である。外輪間座26は、軸受支持筒23の内周に隙間をもって嵌合している。外輪間座26は、第1外輪30の軸方向後端面と第2外輪35の軸方向前端面との間で軸方向に挟み込まれている。
【0046】
内輪間座27も、外輪間座26と同様、両端が開放した中空の筒状部材である。内輪間座27は、主軸2の外周に隙間をもって嵌合している。内輪間座27は、第1内輪31と第2内輪36の間で軸方向に挟み込まれている。
【0047】
主軸ハウジング3の軸方向前端には、外輪押さえ部材40が固定されている。外輪押さえ部材40は、第1外輪30の軸方向前端面に接触することで第1外輪30の軸方向位置を固定している。外輪押さえ部材40は、軸受支持筒23の内周に嵌合する筒部41と、筒部41の軸方向前端から径方向外方に延びるフランジ部42とを有する。フランジ部42は、軸受支持筒23の軸方向前端面に固定されている。主軸2の軸方向前端部の外周には、第1内輪31の軸方向前方への移動を規制する段差部43が設けられている。段差部43は、第1内輪31の軸方向前端面に接触し、第1内輪31を軸方向に位置決めしている。
【0048】
主軸2の外周には、第2内輪36を軸方向前方に押圧する予圧ナット44と、第2内輪36と予圧ナット44の間に組み込まれた環状のスペーサ45とが装着されている。予圧ナット44は、主軸2の外周の段差部11(
図1参照)から軸方向前側に延びる部分に形成された雄ねじ46にねじ係合している。スペーサ45の軸方向前端面は、第2内輪36の軸方向後端面に接触し、スペーサ45の軸方向後端面は、予圧ナット44の軸方向前端面に接触している。軸受支持筒23の内周には、第2外輪35の軸方向後方への移動を規制する段差部47が設けられている。段差部47は、第2外輪35の軸方向後端面に接触し、第2外輪35を軸方向に位置決めしている。
【0049】
図1に示すように、軸受支持筒23は、主軸ハウジング3の内周に嵌合している。軸受支持筒23の外周には、軸受装置1の冷却用の冷媒が流れる冷却溝48が形成されている。冷却溝48は、軸受支持筒23の外周に軸方向に間隔をおいて形成された複数の環状溝または軸受支持筒23の外周を螺旋状に延びる螺旋溝である。
【0050】
図2に示すように、予圧ナット44は所定の力で締め付けられ、その予圧ナット44の軸力が、スペーサ45、第2内輪36、第2転動体37、第2外輪35、外輪間座26、第1外輪30、第1転動体32、第1内輪31を伝達し、段差部43で受け止められた状態となっている。すなわち、予圧ナット44の軸力により、第1軸受24と第2軸受25の間には、第1内輪31、第1転動体32、第1外輪30、外輪間座26、第2外輪35、第2転動体37、第2内輪36を順に通って予圧が伝達するように軸方向の予圧が付与された状態となっている。
【0051】
ひずみセンサ28は、外輪間座26の軸方向中央部に取り付けられている。具体的には、ひずみセンサ28は、外輪間座26の軸方向の中心位置から、外輪間座26の軸方向全長の1/4の軸方向距離の範囲内の領域にひずみセンサ28が収まるように外輪間座26に取り付けられている。
【0052】
外輪間座26は、円筒内周面50と円筒外周面51と第1軸方向端面52と第2軸方向端面53とを有する円筒状の部材である。第1軸方向端面52は、外輪間座26の軸方向前端に形成された円環状の軸直角平面であり、軸方向の予圧で第1外輪30の軸方向後端面に押し付けられている。第2軸方向端面53は、外輪間座26の軸方向後端に形成された円環状の軸直角平面であり、軸方向の予圧で第2外輪35の軸方向前端面に押し付けられている。
【0053】
図3に示すように、ひずみセンサ28は、外輪間座26の内周に周方向に間隔をおいて複数(ここでは4つ)設けられている。各ひずみセンサ28は、外輪間座26の円筒内周面50の一部を切り欠いて形成された平面状のセンサ取り付け面54に取り付けられている。センサ取り付け面54は、外輪間座26の中心線に平行な平面であり、軸方向から見て円筒内周面50よりも径方向外側に位置する。センサ取り付け面54は、ここでは、外輪間座26の内周に周方向に等間隔に形成された軸方向溝の溝底面である。
【0054】
図4に示すように、各ひずみセンサ28は、ひずみ検出部55と、ひずみ検出部55に接続された処理部56とを有する。ひずみ検出部55は、ひずみに応じて電気抵抗が変化するひずみゲージである。処理部56は、ひずみゲージの電気抵抗の変化に基づいてひずみを検出するひずみ検出回路と、その検出回路で検出されたひずみをアナログ信号からデジタル信号に変換して出力するAD変換回路とを有する。
【0055】
ここで、ひずみ検出部55は、ひずみセンサ28の取り付け位置における外輪間座26の軸方向ひずみを検出する軸方向ひずみ検出部(軸方向をひずみ検出方向として配置したひずみゲージ)と、ひずみセンサ28の取り付け位置における外輪間座26の周方向ひずみを検出する周方向ひずみ検出部(周方向をひずみ検出方向として配置したひずみゲージ)とを有するものを採用している。そして、処理部56は、軸方向ひずみ検出部で検出される軸方向ひずみと、周方向ひずみ検出部で検出される周方向ひずみとの差分(つまり、軸方向ひずみの絶対値と周方向ひずみの絶対値の和)をとり、その差分をひずみセンサ28の出力とするように構成されている。
【0056】
外輪間座26の第1外輪30(
図2参照)の側の端部には、第1軸方向端面52と円筒内周面50の交差部(
図4の外輪間座26の方形断面の左下の角部)と、第1軸方向端面52と円筒外周面51の交差部(
図4の外輪間座26の方形断面の左上の角部)とを全周にわたって切り欠く円環状の第1環状切欠き57が形成されている。同様に、外輪間座26の第2外輪35(
図2参照)の側の端部にも、第2軸方向端面53と円筒内周面50の交差部(
図4の外輪間座26の方形断面の右下の角部)と、第2軸方向端面53と円筒外周面51の交差部(
図4の外輪間座26の方形断面の右上の角部)とを全周にわたって切り欠く円環状の第2環状切欠き58が形成されている。
【0057】
第1環状切欠き57および第2環状切欠き58は、第1軸方向端面52および第2軸方向端面53からそれぞれ軸方向に落ち込んで形成された段部である。図では、分かりやすくするために、第1環状切欠き57および第2環状切欠き58の軸方向深さを誇張して示しているが、第1環状切欠き57および第2環状切欠き58の軸方向深さは、0.1mm~0.5mm程度の浅いものである。
【0058】
第1環状切欠き57および前記第2環状切欠き58は、第1軸方向端面52と第2軸方向端面53とが同じ径方向位置に揃うように形成されている。すなわち、第1軸方向端面52の径方向外端(第1軸方向端面52とその径方向外側の第1環状切欠き57との間の境界)の径方向位置と、第2軸方向端面53の径方向外端(第2軸方向端面53とその径方向外側の第2環状切欠き58との間の境界)の径方向位置が同じ径方向位置となり、かつ、第1軸方向端面52の径方向内端(第1軸方向端面52とその径方向内側の第1環状切欠き57との間の境界)の径方向位置と、第2軸方向端面53の径方向内端(第2軸方向端面53とその径方向内側の第2環状切欠き58との間の境界)の径方向位置も同じ径方向位置となるように、第1環状切欠き57および第2環状切欠き58が形成されている。
【0059】
第1環状切欠き57は、第1軸方向端面52の径方向幅が、円筒内周面50と円筒外周面51の間の径方向厚さの50%以下(好ましくは20%以下)となるように形成されている。すなわち、第1環状切欠き57の全体として径方向幅が、円筒内周面50と円筒外周面51の間の径方向厚さの50%以上(好ましくは80%以上)に設定されている。
【0060】
同様に、第2環状切欠き58は、第2軸方向端面53の径方向幅が、円筒内周面50と円筒外周面51の間の径方向厚さの50%以下(好ましくは20%以下)となるように形成されている。すなわち、第2環状切欠き58の全体として径方向幅が、円筒内周面50と円筒外周面51の間の径方向厚さの50%以上(好ましくは80%以上)に設定されている。
【0061】
図2に示す軸受装置1において、第1軸受24および第2軸受25の予圧荷重(以下「軸受予圧」という)は、スピンドル装置の運転時における主軸2の回転速度によって変化する。そして、ひずみセンサ28で検出される外輪間座26のひずみに基づいて、その軸受予圧を検出することが可能となっている。
【0062】
すなわち、スピンドル装置の運転時において、主軸2の回転速度が変化すると、第1転動体32および第2転動体37の遠心力が変化し、その遠心力の変化に応じて、第1転動体32が第1外輪軌道面33を押圧する荷重(第1軸受24の予圧荷重)および第2転動体37が第2外輪軌道面38を押圧する荷重(第2軸受25の予圧荷重)も変化する。ここで、第1外輪軌道面33および第2外輪軌道面38は、軸方向に対して傾斜した角度をもって第1転動体32および第2転動体37と接触しているので、第1転動体32が第1外輪軌道面33を押圧する荷重および第2転動体37が第2外輪軌道面38を押圧する荷重が変化すると、第1外輪30および第2外輪35から外輪間座26に負荷される軸方向の予圧荷重が変化し、外輪間座26のひずみが変化する。そのため、ひずみセンサ28で検知される外輪間座26のひずみに基づいて、第1軸受24および第2軸受25の予圧荷重(軸受予圧)を検出することが可能となっている。
【0063】
また、主軸2にモーメント荷重が作用すると、周方向に等間隔に配置された各ひずみセンサ28の位置には異なる大きさの荷重が加わる。そのため、複数のひずみセンサ28のそれぞれの出力に基づいて、切削加工中の工作機械の主軸2に作用するモーメント荷重を検知することも可能である。
【0064】
ところで、軸受予圧が増大するとき、第1外輪30は、第1転動体32から受ける径方向分力が増大することで拡径方向に弾性変形し、このとき第1外輪30と外輪間座26の接触面間には、第1外輪30が外輪間座26に対して径方向外方に相対的に移動する微小なすべりが生じる。一方、軸受予圧が減少するときは、第1外輪30は、第1転動体32から受ける径方向分力が減少することで縮径方向に弾性復元し、このとき第1外輪30と外輪間座26の接触面間には、第1外輪30が外輪間座26に対して径方向内方に相対的に移動する微小なすべりが生じる。
【0065】
同様に、軸受予圧が増大するとき、第2外輪35は、第2転動体37から受ける径方向分力が増大することで拡径方向に弾性変形し、このとき第2外輪35と外輪間座26の接触面間には、第2外輪35が外輪間座26に対して径方向外方に相対的に移動する微小なすべりが生じる。一方、軸受予圧が減少するときは、第2外輪35は、第2転動体37から受ける径方向分力が減少することで縮径方向に弾性復元し、このとき第2外輪35と外輪間座26の接触面間には、第2外輪35が外輪間座26に対して径方向内方に相対的に移動する微小なすべりが生じる。
【0066】
そして、第1外輪30と外輪間座26の接触面間や、第2外輪35と外輪間座26の接触面間に、上記の径方向のすべりが生じると、そのすべりの影響で、第1軸方向端面52および第2軸方向端面53が、径方向内側寄りの位置で第1外輪30および第2外輪35と強く接触する場合と、径方向外側寄りの位置で第1外輪30および第2外輪35と強く接触する場合とが生じる。
【0067】
ここで、
図2に示す軸受装置1において、外輪間座26の軸方向両側の端面に第1環状切欠き57および第2環状切欠き58を設けずに、第1軸方向端面52および第2軸方向端面53を、円筒内周面50と円筒外周面51の間の径方向厚さと同じ幅をもつ円環状の軸直角平面とし、その第1軸方向端面52および第2軸方向端面53を第1外輪30および第2外輪35に接触させた比較例を想定する。この比較例においては、第1軸方向端面52および第2軸方向端面53の径方向幅が広いので、第1軸方向端面52および第2軸方向端面53が、径方向内側寄りの位置で第1外輪30および第2外輪35と強く接触する場合と、径方向外側寄りの位置で第1外輪30および第2外輪35と強く接触する場合とでひずみセンサ28の出力の差が大きくなり、そのことが原因で、ひずみセンサ28の出力に基づいて検出される軸受予圧に誤差が生じるという問題がある。
【0068】
この問題に対し、この実施形態の軸受装置1では、
図4に示すように、第1環状切欠き57を設けた分、第1軸方向端面52が径方向に狭くなっているので、第1軸方向端面52が、径方向外側寄りの位置で強く接触する場合と、径方向内側寄りの位置で強く接触する場合とで、強く接触する箇所の径方向位置の差が小さい。同様に、第2環状切欠き58を設けた分、第2軸方向端面53が径方向に狭くなっているので、第2軸方向端面53が、径方向外側寄りの位置で強く接触する場合と、径方向内側寄りの位置で強く接触する場合とで、強く接触する箇所の径方向位置の差が小さい。そのため、第1軸方向端面52と第2軸方向端面53の間において、軸受予圧の通る径方向位置が安定しており、ひずみセンサ28の出力に誤差が生じにくく、高い精度で軸受予圧を検出することが可能である。
【0069】
また、この軸受装置1は、
図4に示すように、第1軸方向端面52の径方向外端および内端の径方向位置と、第2軸方向端面53の径方向外端および内端の径方向位置とが同じ径方向位置に揃っているので、外輪間座26の第1軸方向端面52と第2軸方向端面53の間において、軸受予圧の通る径方向位置が特に安定しており、ひずみセンサ28の出力の誤差を効果的に防ぐことが可能となっている。
【0070】
また、この軸受装置1は、
図4に示す第1軸方向端面52の径方向幅および第2軸方向端面53の径方向幅が、円筒内周面50と円筒外周面51の間の径方向厚さの50%以下(好ましくは20%以下)に設定されているので、外輪間座26の第1軸方向端面52と第2軸方向端面53の間において、軸受予圧の通る径方向位置を効果的に安定させることが可能となっている。
【0071】
上記実施形態では、
図4に示すように、第1軸方向端面52の径方向外側と径方向内側の両側に第1環状切欠き57を形成し、第2軸方向端面53の径方向外側と径方向内側の両側に第2環状切欠き58を形成したものを例に挙げたが、
図5に示すように、第1軸方向端面52の径方向外側と径方向内側のうち、径方向外側のみに第1環状切欠き57を形成し、第2軸方向端面53の径方向外側と径方向内側のうち、径方向外側のみに第2環状切欠き58を形成するようにしてもよく、また、
図6に示すように、第1軸方向端面52の径方向外側と径方向内側のうち、径方向内側のみに第1環状切欠き57を形成し、第2軸方向端面53の径方向外側と径方向内側のうち、径方向内側のみに第2環状切欠き58を形成するようにしてもよい。
【0072】
図5において、第1環状切欠き57は、第1軸方向端面52と円筒外周面51の交差部を全周にわたって切り欠く円環状の段部であり、第2環状切欠き58は、第2軸方向端面53と円筒外周面51の交差部を全周にわたって切り欠く円環状の段部である。第1環状切欠き57および第2環状切欠き58の軸方向深さは、0.1mm~0.5mm程度の浅いものである。
【0073】
第1環状切欠き57および第2環状切欠き58は、第1軸方向端面52と第2軸方向端面53とが同じ径方向位置に揃うように形成されている。すなわち、第1軸方向端面52の径方向外端(第1軸方向端面52と第1環状切欠き57の間の境界)の径方向位置と、第2軸方向端面53の径方向外端(第2軸方向端面53と第2環状切欠き58の間の境界)の径方向位置が同じ径方向位置となり、かつ、第1軸方向端面52の径方向内端(第1軸方向端面52と円筒内周面50の交差稜)の径方向位置と、第2軸方向端面53の径方向内端(第2軸方向端面53と円筒内周面50の交差稜)の径方向位置も同じ径方向位置となるように、第1環状切欠き57および第2環状切欠き58が形成されている。
【0074】
図6において、第1環状切欠き57は、第1軸方向端面52と円筒内周面50の交差部を全周にわたって切り欠く円環状の段部であり、第2環状切欠き58は、第2軸方向端面53と円筒内周面50の交差部を全周にわたって切り欠く円環状の段部である。第1環状切欠き57および第2環状切欠き58の軸方向深さは、0.1mm~0.5mm程度の浅いものである。
【0075】
第1環状切欠き57および第2環状切欠き58は、第1軸方向端面52と第2軸方向端面53とが同じ径方向位置に揃うように形成されている。すなわち、第1軸方向端面52の径方向外端(第1軸方向端面52と円筒外周面51の交差稜)の径方向位置と、第2軸方向端面53の径方向外端(第2軸方向端面53と円筒外周面51の交差稜)の径方向位置が同じ径方向位置となり、かつ、第1軸方向端面52の径方向内端(第1軸方向端面52と第1環状切欠き57の間の境界)の径方向位置と、第2軸方向端面53の径方向内端(第2軸方向端面53と第2環状切欠き58の間の境界)の径方向位置も同じ径方向位置となるように、第1環状切欠き57および第2環状切欠き58が形成されている。
【0076】
図5、
図6において、第1環状切欠き57は、第1軸方向端面52の径方向幅が、円筒内周面50と円筒外周面51の間の径方向厚さの50%以下(好ましくは20%以下)となるように形成されている。すなわち、第1環状切欠き57の径方向幅が、円筒内周面50と円筒外周面51の間の径方向厚さの50%以上(好ましくは80%以上)に設定されている。同様に、第2環状切欠き58も、第2軸方向端面53の径方向幅が、円筒内周面50と円筒外周面51の間の径方向厚さの50%以下(好ましくは20%以下)となるように形成されている。すなわち、第2環状切欠き58の径方向幅が、円筒内周面50と円筒外周面51の間の径方向厚さの50%以上(好ましくは80%以上)に設定されている。
【0077】
また、上記実施形態では、ひずみセンサ28を外輪間座26の内周に配置したものを例に挙げたが、
図7、
図8に示すように、ひずみセンサ28を外輪間座26の外周に配置してもよい。
【0078】
図7、
図8において、ひずみセンサ28は、外輪間座26の外周に周方向に間隔をおいて複数(ここでは4つ)設けられている。各ひずみセンサ28は、外輪間座26の円筒外周面51の一部を切り欠いて形成された平面状のセンサ取り付け面54に取り付けられている。センサ取り付け面54は、外輪間座26の中心線に平行な平面であり、軸方向から見て円筒外周面51よりも径方向内側に位置する。センサ取り付け面54は、ここでは、外輪間座26の外周に周方向に等間隔に形成された軸方向溝の溝底面である。
【0079】
また、
図9、
図10に示すように、ひずみセンサ28を外輪間座26の内周と外周の両方に配置してもよい。このようにすると、第1軸方向端面52と第2軸方向端面53の間において、軸受予圧の通る径方向位置が径方向内側または径方向外側にどの程度偏っているかを検知することが可能となる。また、外輪間座26の内周に配置されたひずみセンサ28の出力と、外輪間座26の外周に配置されたひずみセンサ28の出力との和をとることで、軸受予圧の通る径方向位置が径方向内側または径方向外側に偏ることによる影響を相殺し、安定した精度で軸方向の予圧荷重を検出することも可能となる。
【0080】
また、上記実施形態では、第1環状切欠き57および第2環状切欠き58として、
図4に示すように、第1軸方向端面52および第2軸方向端面53からそれぞれ軸方向に真っ直ぐに落ち込む段部を例に挙げたが、
図11に示すように、第1軸方向端面52および第2軸方向端面53からテーパ状に軸方向に落ち込む面取り部を採用してもよく、
図12に示すように、第1軸方向端面52および第2軸方向端面53から断面円弧状に軸方向に落ち込むフィレット部を採用してもよい。
【0081】
また、
図13に示すように、第1軸方向端面52は、第1外輪30(
図2参照)との摩擦係数を低減させる摩擦低減処理を施した面とすることができる。摩擦低減処理は、例えば、低摩擦皮膜59(フッ素樹脂皮膜など)のコーティング処理である。同様に、
図4に示す第2軸方向端面53も、第2外輪35(
図2参照)との摩擦係数を低減させる摩擦低減処理を施した面とすることができる。このようにすると、第1軸方向端面52および第2軸方向端面53の接触圧に径方向の偏りが生じにくくなる。そのため、第1軸方向端面52と第2軸方向端面53の間において、軸受予圧の通る径方向位置を特に効果的に安定させることが可能となる。
【0082】
上記実施形態では、第1軸受24および第2軸受25として、アンギュラ玉軸受を例に挙げて説明したが、第1軸受24および第2軸受25として、例えば、円すいころ軸受や深溝玉軸受など、軸方向の予圧で径方向分力を生じる他の形式の転がり軸受を採用することも可能である。
【0083】
また、上記実施形態では、ひずみセンサ28として、ひずみ検出部55と処理部56とを有するものを例に挙げたが、ひずみセンサ28は、ひずみ検出部55のみ(ひずみゲージのみ)で構成することも可能である。
【0084】
また、上記実施形態では、ひずみ検出部55は、軸方向ひずみ検出部と周方向ひずみ検出部を有するものを例に挙げたが、ひずみ検出部55は、軸方向ひずみ検出部、もしくは、周方向ひずみ検出部のみで構成することも可能である。
【0085】
また、上記実施形態では、工作機械(マシニングセンタや旋盤など)の主軸2を回転可能に支持する軸受装置1を例に挙げて説明したが、この発明は、例えば、風力発電装置の主軸など、他の装置の回転軸を回転可能に支持する軸受装置に適用することも可能である。
【0086】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
1 ひずみセンサ付き軸受装置
2 主軸
4 モータ
24 第1軸受
25 第2軸受
26 外輪間座
28 ひずみセンサ
30 第1外輪
31 第1内輪
32 第1転動体
35 第2外輪
36 第2内輪
37 第2転動体
50 円筒内周面
51 円筒外周面
52 第1軸方向端面
53 第2軸方向端面
54 センサ取り付け面
57 第1環状切欠き
58 第2環状切欠き