(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067329
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】電気分解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 9/60 20210101AFI20240510BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20240510BHJP
C25B 15/06 20060101ALI20240510BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240510BHJP
C25B 1/23 20210101ALI20240510BHJP
【FI】
C25B9/60
C25B9/19
C25B15/06
C25B15/08 302
C25B1/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177315
(22)【出願日】2022-11-04
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、環境省、二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環社会モデル構築促進事業「人工光合成技術を用いた電解による地域のCO2資源化検討事業」委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松野 雄史
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021CA01
4K021CA08
4K021CA09
4K021CA10
4K021CA11
4K021DB05
(57)【要約】
【課題】不導体製の機器や配管等の使用を減らした上で、電解液や極性溶媒等の液体に基づく電流のリークを抑制することを可能にした電気分解装置を提供する。
【解決手段】実施形態の電気分解装置1は、第1電極室2、第2電極室3、及び隔膜15を備える電気分解セル4と、ガス供給部5と、電解液供給部8と、電解液及び生成ガス排出配管10と、気液分離器11と、電解液タンク12と、高濃度電解液タンク16と、高濃度電解液供給装置17と、極性溶媒供給装置19と、電解液供給配管9、14とを具備する。電解液及び生成ガス排出配管10と気液分離器11と液体排出配管13と電解液タンク12と電解液供給装置8と電解液供給配管9、14は不導体で構成され、高濃度電解液供給装置17及び極性溶媒供給装置19は、電解液タンク12の気相部から高濃度電解液及び極性溶媒を供給するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極が配置され、ガスが供給される第1電極室と、第2電極が配置され、電解液が供給される第2電極室と、前記第1電極室と前記第2電極室とを分離するように配置された隔膜とを備え、前記ガス及び前記電解液を電気分解する電気分解セルと、
前記第1電極室にガスを供給するガス供給部と、
前記第2電極室に電解液を供給する電解液供給部と、
前記第1の電極室で生成された生成ガスを排出する生成ガス排出配管と、
前記第2の電極室で生成された生成ガスを含む電解液を排出する電解液及び生成ガス排出配管と、
前記電解液及び生成ガス排出配管に接続された気液分離器と、
前記気液分離器から前記電解液を含む液体排出する液体排出配管と、
前記液体排出配管に接続され、前記電解液を収容する電解液タンクと、
前記電解液より電解質濃度が高い高濃度電解液を収容する高濃度電解液タンクと、
前記高濃度電解液を前記高濃度電解液タンクから前記電解液タンクに供給する高濃度電解液供給装置と、
前記電解液タンクに極性溶媒を供給する極性溶媒供給装置と、
前記電解液供給装置により前記電解液を前記電解液タンクから前記第2電極室に供給する電解液供給配管と
を具備する電気分解装置であって、
前記電解液及び生成ガス排出配管と前記気液分離器と前記液体排出配管と前記電解液タンクと前記電解液供給装置と前記電解液供給配管は不導体で構成されており、
前記高濃度電解液供給装置及び前記極性溶媒供給装置は、前記電解液タンクの気相部から前記高濃度電解液及び前記極性溶媒を供給するように構成されている、電気分解装置。
【請求項2】
前記電解液タンクは、垂直方向に対して斜め上方に開口された微細孔集合体とじょうろ底面とを有し、前記気相部に配置されたじょうろ部を備え、
前記高濃度電解液供給装置及び前記極性溶媒供給装置は、前記高濃度電解液及び前記極性溶媒を前記じょうろ部に供給するように構成され、
前記高濃度電解液及び前記極性溶媒は、前記じょうろ部の前記微細孔集合体を介して斜め上方に放出される、請求項1に記載の電気分解装置。
【請求項3】
前記じょうろ部は、前記微細孔集合体から斜め上方に放出される前記高濃度電解液又は前記極性溶媒が、表面張力により液滴となるように構成される、請求項2に記載の電気分解装置。
【請求項4】
前記じょうろ部は、前記微細孔集合体の下部及び上部が閉塞され、前記じょうろ底面に沿って水平方向に延びるひさし部と前記ひさし部の先端に設けられた壁部とを備える、請求項2に記載の電気分解装置。
【請求項5】
前記ひさし部には微細孔の集合体が設けられている、請求項4に記載の電気分解装置。
【請求項6】
前記じょうろ部は、垂直方向に伸びる直管型パイプと、垂直方向に対して斜め上方を向くエルボ継手とを備え、前記エルボ継手は前記微細孔集合体を有する、請求項2に記載の電気分解装置。
【請求項7】
前記じょうろ部は、さらに、前記エルボ継手の周囲に巻き付けて固定された微細孔集合壁を備える、請求項6に記載の電気分解装置。
【請求項8】
前記じょうろ部における前記直管型パイプの管径は、前記エルボ継手の先端側の管径より細く、前記微細孔集合壁により溜めることができる液体の容積は、液体がたまる長さの半分の長さの前記直管型パイプの容積より多い、請求項7に記載の電気分解装置。
【請求項9】
前記気液分離器は、気相部に設けられた貯液部と、前記貯液部の底面に設けられた前記じょうろ部と、前記貯液部の下方の気相部に設けられ、前記じょうろ部から放出される液体を受ける受液部とを備える、請求項2に記載の電気分解装置。
【請求項10】
さらに、前記気液分離器に配管を介して接続された熱交換器を具備し、
前記熱交換器は、前記じょうろ部を介して前記電解液タンクの気相部に接続された配管を有し、かつ導体で構成されている、請求項9に記載の電気分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電気分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気分解(以下、電解とも記す)は、化合物に電圧又は電位をかけることにより、陰極(カソード)で還元反応、陽極(アノード)で酸化反応を起こして、化合物を化学分解する方法である。一般的に、電気分解セルスタックの通電時において、電解液を通じて電極から離れた機器まで電流がリークしてしまう。機器の接液部が良導体の場合は、機器が劣化してしまい、長期間にわたって耐久性を維持することができない。このため、従来の電気分解セルスタックでは1年未満の短期間でのメンテナンス作業が必要となるだけでなく、金属イオン等が機器から溶出してしまい、電解液と共に不純物である金属イオン等を電気分解セルスタックに供給してしまい、電気分解セルスタックの性能低下要因となる。
【0003】
メンテナンス頻度や電気分解セルスタックへの不純物の混入を低減するために、樹脂材料やセラミックス材料等の不導体を、機器の接液部や電解液を流す配管に採用することが検討されている。しかしながら、樹脂材料やセラミックス材料、特に樹脂材料は、高温高圧環境下では使用できないため、不導体を接液部に用いた機器は一般的ではなく、高コストとなる。電気分解装置の低コスト化、高温高圧下での高耐久性化のために、不導体を接液部に用いた機器の利用を減らすことが求められている。
【0004】
例えば、電気分解によって電解液を構成するイオン性物質や極性溶媒が消費される場合、イオン性物質の割合が多い高濃度電解液や極性溶媒を補充する必要がある。イオン性物質は電気分解セルスタックで電気化学反応により積極的に消費されなくても、析出等により徐々に消費されていく。また、イオン性物質を含む電解液を廃棄すると、コストがかかるだけでなく、環境負荷もある。このようなことから、電解液の循環系統に電解液を収容する電解液タンクを設け、電解液タンクにイオン性物質の割合が高い高濃度電解液や極性溶媒を補充することが行われている。この場合、電解液の循環系統は電流のリーク経路となるため、不導体製の機器等の使用を減らした上で、電解液や極性溶媒等の液体に基づく電流のリークを抑制することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、不導体製の機器や配管等の使用を減らした上で、電解液や極性溶媒等の液体に基づく電流のリークを抑制することを可能にした電気分解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の電気分解装置は、第1電極が配置され、ガスが供給される第1電極室と、第2電極が配置され、電解液が供給される第2電極室と、前記第1電極室と前記第2電極室とを分離するように配置された隔膜とを備え、前記ガス及び前記電解液を電気分解する電気分解セルと、前記第1電極室にガスを供給するガス供給部と、前記第2電極室に電解液を供給する電解液供給部と、前記第1の電極室で生成された生成ガスを排出する生成ガス排出配管と、前記第2の電極室で生成された生成ガスを含む電解液を排出する電解液及び生成ガス排出配管と、前記電解液及び生成ガス排出配管に接続された気液分離器と、前記気液分離器から前記電解液を含む液体を排出する液体排出配管と、前記液体排出配管に接続され、前記電解液を収容する電解液タンクと、前記電解液より電解質濃度が高い高濃度電解液を収容する高濃度電解液タンクと、前記高濃度電解液を前記高濃度電解液タンクから前記電解液タンクに供給する高濃度電解液供給装置と、前記電解液タンクに極性溶媒を供給する極性溶媒供給装置と、前記電解液供給装置により前記電解液を前記電解液タンクから前記第2電極室に供給する電解液供給配管とを具備する。実施形態の電気分解装置において、前記電解液及び生成ガス排出配管と前記気液分離器と前記液体排出配管と前記電解液タンクと前記電解液供給装置と前記電解液供給配管は不導体で構成されており、前記高濃度電解液供給装置及び前記極性溶媒供給装置は、前記電解液タンクの気相部から前記高濃度電解液及び前記極性溶媒を供給するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態の電気分解装置を示す図である。
【
図2】第2の実施形態の電気分解装置における電解液タンクの液体供給部としてのじょうろ部を示す図である。
【
図3】第3の実施形態における電解液タンクのじょうろ部を示す図である。
【
図4】第4の実施形態における電解液タンクのじょうろ部を示す図である。
【
図5】第5の実施形態における電解液タンクのじょうろ部を示す図である。
【
図6】第6の実施形態における電解液タンクのじょうろ部を示す図である。
【
図7】第7の実施形態における気液分離器及びその内部に設けられたじょうろ部の第1の例を示す図である。
【
図8】第7の実施形態の電気分解装置を示す図である。
【
図9】第7の実施形態における気液分離器及びその内部に設けられたじょうろ部の第2の例を示す図である。
【
図10】第8の実施形態の電気分解装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の電気分解装置について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0010】
図1は本発明の第1の実施形態による電気分解装置を示す図である。ここでは、電気分解装置として、二酸化炭素(CO
2)を電気分解して一酸化炭素(CO)等の炭素化合物を生成する二酸化炭素電解還元装置について説明する。ただし、実施形態の電解装置はこれに限定されるものではなく、水(H
2O)の電気分解装置等であってもよい。
【0011】
図1に示す電気分解装置1は、カソード室2とアノード室3とを有する電気分解セル4と、二酸化炭素含有ガスを供給する二酸化炭素供給装置5と、電気分解セル4のカソード室2に二酸化炭素含有ガスを供給する二酸化炭素供給配管6と、カソード室2の生成ガス排出口に接続された第1生成ガス排出配管7と、電解液を供給する電解液供給装置8と、電気分解セル4のアノード室3に電解液を供給する電解液供給下流配管9と、アノード室3の電解液及び生成物の排出口に接続された電解液及び生成ガス排出配管(第2生成ガス排出配管)10と、電解液及び生成ガス排出配管10に接続された気液分離器11と、電解液を収容する電解液タンク12と、気液分離器11から電解液タンク12に電解液を含む液体を排出する液体排出配管13と、電解液タンク12から電解液供給装置8に電解液を供給する電解液供給上流配管14を備える。
【0012】
電気分解セル4は、カソード室(第1電極室)2とアノード室(第2電極室)3とこれらを分離するように配置された隔膜(セパレータ)15とを備えている。カソード室(第1電極室)2には、図示を省略したカソード(還元電極)が配置されている。アノード室(第2電極室)2には、図示を省略したアノード(酸化電極)が配置されている。電気分解セル4は、複数のセルを積層した電気分解セルスタックとして使用されることが一般的である。カソード(還元電極)は、二酸化炭素(CO2)を還元して炭素化合物を生成するための触媒を含んでいる。アノード(酸化電極)は、水(H2O)を酸化して酸素(O2)を生成するための触媒を含んでいる。
【0013】
カソード及びアノードは、図示を省略した電源に接続されている。電源は電気分解セル4に酸化還元反応を生起する電力を投入するものであって、カソード及びアノードと電気的に接続される。電源から供給される電気エネルギーを用いて、カソードによる還元反応及びアノードによる酸化反応が行われる。電源とカソードとの間、及び電源とアノードとの間は、例えば配線で接続されている。電気分解セル4と電源との間には、必要に応じてインバータ、コンバータ、電池等の電気機器を設置してもよい。電気分解セル4の駆動方式は、定電圧方式でもよいし、定電流方式でもよい。
【0014】
電源は、通常の商用電源や電池等であってもよいし、また再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換して供給する電源であってもよい。このような電源の例としては、風力、水力、地熱、潮汐力等の運動エネルギー又は位置エネルギーを電気エネルギーに変換する電源、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子を有する太陽電池のような電源、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池や蓄電池等の電源、音等の振動エネルギーを電気エネルギーに変換する電源等が挙げられる。
【0015】
電解液タンク12に収容され、アノード室3に供給される電解液としては、例えば任意の電解質(イオン性物質)を含む水溶液を用いることができる。電解液が電解質として含むイオン性物質としては、水酸化物イオン(OH-)、水素イオン(H+)、カリウムイオン(K+)、ナトリウムイオン(Na+)、リチウムイオン(Li+)、セシウムイオン(Cs+)、カルシウムイオン(Ca2+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl-)、硝酸イオン(NO3
-)、リン酸イオン(PO4
2-)、ホウ酸イオン(BO3
3-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
2-)等が挙げられる。
【0016】
電解液のイオン性物質が、水酸化物イオン(OH-)、水素イオン(H+)、カリウムイオン(K+)、リチウムイオン(Li+)、炭酸水素イオン(HCO3
- )の場合には、良導体のステンレス、例えばSUS304、SUS316、SUS316L等であっても、腐食せず不純物を溶出しない。電解液のイオン性物質が、水酸化物イオン(OH-)、水素イオン(H+)、カリウムイオン(K+)、ナトリウムイオン(Na+)、塩化物イオン(Cl-)、硝酸イオン(NO3
-)、リン酸イオン(PO4
3-)、ホウ酸イオン(BO3
3-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)の場合には、良導体のチタンやチタン合金であっても、腐食せず不純物を溶出しない。
【0017】
電解液タンク12の周辺には、アノード室3に供給される電解液よりもイオン性物質の濃度が高い高濃度電解液が収容された高濃度電解液タンク16と、高濃度電解液タンク16から高濃度電解液を電解液タンク12に供給する高濃度電解液供給装置17と、電解液タンク12に接続され、高濃度電解液タンク16から電解液タンク12に向けて高濃度電解液が流れる高濃度電解液供給配管18と、水等の極性溶媒を電解液タンク12に供給する極性溶媒供給装置19と、電解液タンク12に接続され、極性溶媒供給装置19から電解液タンク12に向けて極性溶媒が流れる極性溶媒供給配管20が配置されている。
【0018】
電解液タンク12は電解液を貯留し、極性溶媒と高濃度電解液が供給される。電解液タンク12は、極性溶媒と高濃度電解液を混合しても電解液の大きな濃度変化が下流の電気分解セル2に及ばないようにしている。電解液タンク12及び気液分離器11は、電気分解セル4からのリーク電流が到達するため、これらを不導体で構成することにより、電気分解セル4の性能低下を抑制している。不導体で構成しない場合、リーク電流によって電気化学反応が導体で発生し、金属イオン等が電解液に溶出し、金属イオン等が電気分解セルのカソードやアノードの触媒に付着する等して電気分解セルが劣化する。すなわち、電解液供給装置8と電解液供給下流配管9と気液分離器11と電解液及び生成ガス排出配管10と電解液タンク12と液体排出配管13と電解液供給上流配管14は、不導体で構成されている。電気分解セル4、気液分離器11、及び電解液タンク12を介して電解液を循環させる循環系統は、不導体で構成されている。これによって、電気分解セル4への通電時において、電解液の循環系統による電解液を通じて電極2、3から離れた機器への電流のリークを抑制している。
【0019】
高濃度電解液供給装置17は、高濃度電解液供給配管18を介して高濃度電解液を電解液タンク12に供給する。高濃度電解液供給配管18は、電解液タンク12の気相部Lから高濃度電解液を電解液タンク12に供給するように配置されている。すなわち、高濃度電解液供給配管18は電解液タンク12の液相部Lに接触していない。極性溶媒供給装置19は、極性溶媒供給配管20を介して極性溶媒を電解液タンク12に供給する。極性溶媒供給配管20は、電解液タンク12の気相部Lから極性溶媒を電解液タンク12に供給するように構成されている。すなわち、極性溶媒供給配管20は電解液タンク12の液相部Lに接触していない。従って、高濃度電解液タンク16、高濃度電解液供給装置17、高濃度電解液供給配管18、極性溶媒供給装置19、及び極性溶媒供給配管20は、不導体で構成することなく、電極2、3からのリーク電流が到達することを抑制される。すなわち、高濃度電解液や極性溶媒等の液体を十分に少ない流量で供給する場合、電解液タンク12の気相部Gから液滴として液体を供給することになる。液滴として供給すると、電解液タンク12が不導体で構成されている場合には、電気の通じる経路がないため、電解液タンク12の上流と電解液タンク12の内部に貯留された電解液(液体)との間が絶縁される。この際、電解液タンク12内の気相部Gの表面は、電解液をはじく素材で構成され、電解液で覆われていないことが好ましい。
【0020】
気液分離器11には、電解液及び生成ガス排出配管10を介して電解液及びアノード室3で生成された酸素(O2)等の生成ガスが供給される。気液分離器11に供給された電解液及び生成ガスは、重力により生成ガスと液体とに分離(気液分離)される。分離された電解液は、液体排出配管13を介して電解液タンク12に送られる。分離された酸素(O2)等の生成ガスは、生成ガス排出配管21を介して外部に放出されたり、もしくは酸素(O2)等の生成ガスを利用する場合には、タンク等に貯蔵される。
【0021】
次に、第1の実施形態の電気分解装置1による二酸化炭素の電解還元について述べる。電気分解セル4のアノードとカソード間に電源装置(図示しない)から電圧を印加する。電源装置により電気分解セル4に電気を通電することによって、カソード室2に供給された二酸化炭素(CO2)が還元されて一酸化炭素(CO)等のガスが生成される。二酸化炭素(CO2)を還元して水酸化物イオン(OH-)を生成する場合の反応過程は以下の通りである。アノードとカソードとの間に電源装置から電流を供給すると、カソード付近において、下記の式(1)に示すように、水(H2O)と二酸化炭素(CO2)が還元されて、一酸化炭素(CO)と水酸化物イオン(OH-)とが生成される。水酸化物イオン(OH-)は隔膜15を介してアノード付近に拡散し、下記の式(2)に示すように、水酸化物イオン(OH-)が酸化されて酸素(O2)が生成される。
2CO2+2H2O+4e- → 2CO+4OH- …(1)
4OH- → 2H2O+O2+4e- …(2)
【0022】
電解液はイオン性物質と極性溶媒の混合溶液である。
図1に示す電気分解セル4は、カソード室2にガスを流し、アノード室3に電解液を流すように構成されている。電気分解セル2は、ガスをアノード室3に流すと共に、電解液をカソード室2に流し、カソード室3に気液分離器11を接続する構成としてもよい。電解液のイオン性物質としては、例えば水酸化物イオン(OH
-)、水素イオン(H
+)、カリウムイオン(K
+)、リチウムイオン(Li
+)、及び炭酸水素イオン(HCO
3)からなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0023】
電解液中のイオン性物質や極性溶媒は、電気分解セル4の動作により消費されたり、また電気化学反応により積極的に消費されなくても、析出等により徐々に消費されていく。そこで、電解液のイオン性物質の濃度を計測するため、接液部が樹脂でも計測できる電磁誘導式の電気電導度計を設置することが好ましい。電磁誘導式電気電導度計は、コイルが樹脂で覆われており、励磁コイルと検出コイルの間を流れる誘導電流に比例する検出コイルの電圧を測定することによって、電気伝導率を計測することができる。電気伝導度計は図示しないが、電解液供給上流配管14又は電解液供給下流配管9のいずれかに設置することが好ましい。電気分解セル4の上流で電解液のイオン性物質の濃度を計測することが望ましい。電気分解セル4の上流である電解液供給上流配管20で計測したほうが、イオン性物質の濃度をより早く計測できるため、極性溶媒供給装置19や高濃度電解液供給装置17の制御応答性を高めることが可能になる。
【0024】
極性溶媒供給装置19は、例えば水道水とイオン交換樹脂を含む配管を備え、水道圧で水道水をイオン交換樹脂でろ過した純水を供給するように構成される。また、極性溶媒供給装置19は、イオン交換樹脂でろ過されて電気電導度が1.0μS/cm以下の純水や蒸留水をタンクに溜めて、そこからポンプ等で純水や蒸留水を供給するような構成を有していてもよい。カソード及びアノードの劣化を防ぐために、純水の電気電導度は1.0μS/cm以下であることが好ましい。
【0025】
制御装置(図示しない)は、電気分解装置1の運転を制御する制御中枢として機能する。制御装置は、例えばCPU、記憶装置、入出力装置等を備えるマイクロコンピュータ等で構成される。制御装置は、電気分解装置1に設けられた、図示しない各種のセンサからの信号を読み込む。また、読み込んだ各種信号、並びに予め内部に保有する制御ロジック(プログラム)に基づいて、電源装置(図示しない)、二酸化炭素含有ガス供給装置5、電解液供給装置8、高濃度電解液供給装置17、極性溶媒供給装置19等の電気分解装置1の各構成要素に指令を送る。このようにして、制御装置は電気分解装置1の運転/停止に必要なすべての動作を統括管理して制御する。
【0026】
二酸化炭素含有ガス供給装置5、二酸化炭素供給配管6、生成ガス排出配管7、生成ガス排出配管21等の液体が存在しない配管や機器は、SUS304やSUS316L等の導電性のステンレス材料で構成してもよい。上記したような機器や配管を導電性材料で構成しても、電気分解セル4からのリーク電流によって、電解液に起因するステンレス材料の腐食やそれによる不純物の溶出等を生じることがなく、電気分解セル4へ不純物が混入して電気分解セル4が劣化するおそれがない。一方、電解液供給装置8、電解液供給下流配管9、電解液及び生成ガス排出配管10、気液分離器11、電解液タンク12、液体排出配管13、電解液供給上流配管14は電解液等の液体が存在するため、ポリプロピレン(polypropylene:PP)、ポリエチレン(polyethylene:PE)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride:PVC)等の樹脂材料、酸化アルミニウム焼結体や窒化ケイ素焼結体等のセラミックス材料等で構成される。
【0027】
カソード側の生成ガス排出配管7には、可燃性ガスである一酸化炭素(CO)等が流れるため、気密性のよい配管を用いると共に、配管や機器との間はフランジ、シールテープを用いたねじ込み継手、スウェージロック(Swagelok)継手、ブイロック継手(例えば、フジキン社製V-lok継手)等を用いて接続することが好ましい。さらに、静電気の発生を防ぐため、配管はアースに接続することが好ましい。接続部のシール材、フランジのパッキンやシールテープ等は導電性が無いため、配管や機器との間に渡配線を形成し、水素が流れる配管や機器はアースに接続できるようにすることが好ましい。太い配管の中心に細い配管を接続すると、細い配管の穴が開いているところまで太い配管内に凝縮水が滞留し、凝縮水の流れが不規則になる。これらはガスの供給を不規則にしたり、対流によって配管に錆びを発生させるおそれがある。太い配管に細い配管を接続する場合には、偏心レデューサーを用いて、上流で発生した凝縮水が滞留することなく、下流の細い配管に流れ込むようにすることが好ましい。
【0028】
第1の実施形態の電気分解装置1においては、不導体製の電解液タンク12及びその気相部Gによって、高濃度電解液と電解液とを絶縁している。高濃度電解液は電解液タンク12の電解液に接液していないため、高濃度電解液配管18から濃度勾配によって、イオン性物質が電解液タンク12に拡散することを防ぐことができる。同じく、不導体製の電解液タンク12及びその気相部Gによって、極性溶媒と電解液とを絶縁することができる。極性溶媒は電解液タンク12の電解液に接液していない。
【0029】
高濃度電解液は電解液と絶縁されているため、高濃度電解液タンク16と高濃度電解液供給装置17と高濃度電解液配管18を不導体で構成しなくても、リーク電流により劣化することがなく、低コスト化及び高温高圧下における高耐久性化を実現することができる。高濃度電解液配管18から濃度勾配によるイオン性物質の電解液タンク12への拡散も抑制できるため、電解液タンク12内の電解質の濃度を制御しやすくなる。極性溶媒は電解液と絶縁されているため、極性溶媒供給装置19と極性溶媒供給配管20を不導体製にしなくても、リーク電流によって劣化することはなく、低コスト化および高温高圧における高耐久性化を実現することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の電気分解装置は、電解液タンク12の内部構成が第1の実施形態と異なることを除いて、全体構成は
図1に示した電気分解装置1と同様である。ここでは、第1の実施形態との違いについて、
図2を参照して説明する。電解液タンク12の違いを除いて、電気分解装置の全体構成は
図1に示した通りであり、電気分解セル4のアノード室3と気液分離器11と電解液タンク12との間を電解液が循環するように構成されており、電気分解セル4のカソード室2には二酸化炭素供給装置5から二酸化炭素含有ガスが供給される。これら各部の構成は第1の実施形態と同様である。
【0031】
第2の実施形態の電解液タンク12は、
図2に示すように、給液部としてじょうろ部22を備えている。じょうろ部22は、電解液タンク12の気相部Gに設置されている。じょうろ部22は、じょうろ底面23を有する液溜め部24と、液溜め部24の水平方向先端に設けられた微細孔集合体25を有する液止め板26とを備えている。微細孔集合体25は、数ミリ程度の直径の孔(例えば0.3mm以上4mm以下程度の孔)を液止め板26に形成する(開口する)ことにより構成されている。微細孔集合体25を有する液止め板26は、例えばステンレス製のパンチングメタルで構成される。微細孔集合体25には、ステンレスのような金属板、ナイロンやプロピレン等の樹脂板にパンチング加工を施したパンチング板を用いてもよい。高濃度電解液供給配管18及び極性溶媒供給配管20は、じょうろ部22を介して、高濃度電解液又は極性溶媒を電解液タンク12に供給するように構成されている。微細孔集合体25は、垂直方向に対して斜め上方に液体を放出できるような角度、例えば45度方向に開口されている。第2の実施形態の高濃度電解液供給配管18及び極性溶媒供給配管20の場合は、高濃度電解液供給配管18及び極性溶媒供給配管20が電気分解セル4と電解液を介して導通していないため、じょうろ部22を構成する部材、すなわち接液部を含む全ての部材は、導体及び不導体のどちらで形成してもよい。
【0032】
電解液タンク12に供給される高濃度電解液又は極性溶媒の液体は、じょうろ部22に供給され、液溜め部24に溜められた後、液圧で微細孔集合体25から斜め上方に放出される。この際、放出速度はじょうろ部22、さらにその上の配管の液位(高低差)に応じた重力や水道圧又は高濃度電解液供給装置17の吐出圧等の関数となる。水道圧はイオン交換樹脂への通水により圧力損失が発生し、極性溶媒供給配管20での圧力が大気圧と同じゼロkPaであり、かつ流速ゼロの最低速度の場合を考えると、水タンクに水が溜まっている状態と同じである。この場合、微細孔集合体25から放出される水の速度V1は、ベルヌーイの式より下記の式(3)で表される。
V1=(2gH)1/2 …(3)
(式中、gは重力加速度9.81m/s2、Hは微細孔集合体25の上端から液体が充填されている高濃度電解液供給配管18又は極性溶媒供給配管20の垂直方向の最上部までの高低差である。)
【0033】
実際には、高濃度電解液供給配管18又は極性溶媒供給配管20における圧力は大気圧以上であるため、V1は式(3)の値より速くなる。微細孔集合体25から斜め上方に液体を放出した場合、重力によって垂直方向の速さが減少すると、表面張力によって液体が液滴Dとなり、液滴Dとして電解液タンク12の液相部Lに落下する。従って、高濃度電解液又は極性溶媒は、気相部Gで液相部Lから絶縁することができる。高濃度電解液供給装置17及び高濃度電解液配管18、さらに極性溶媒供給装置19及び極性溶媒供給配管20を不導体で構成することなく、電解液を介するリーク電流により劣化することがなく、低コスト化及び高温高圧下における高耐久性化を実現することができる。
【0034】
上記した微細孔集合体25から斜め上方に液体を放出し、液体を液滴Dとすることにより、気相部Gで絶縁する効果は、極性溶媒供給装置19及び極性溶媒供給配管20に限らず、高濃度電解液供給装置17及び高濃度電解液配管18についても同様に得ることができる。高濃度電解液供給装置17及び高濃度電解液配管18と極性溶媒供給装置19及び極性溶媒供給配管20のいずれについても、液体を液滴Dとすることによって、それらを不導体で構成することなく、低コスト化及び高温高圧下における高耐久性化を実現することができる。すなわち、高濃度電解液及び極性溶媒と電解液との間を絶縁することができる。液体排出配管13に適用した場合、電解液同士の間で絶縁することができる。
【0035】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の電気分解装置は、電解液タンク12に設けるじょうろ部22の構成が第2の実施形態と異なることを除いて、第2の実施形態と同様な構成を有している。従って、電気分解装置の全体構成は
図1に示した電気分解装置1と同様である。第3の実施形態のじょうろ部22においては、
図3に示すように、微細孔集合体25の上端部25aと下端部25bが閉塞されている。さらに、微細孔集合体25の下側には、じょうろ底面23に沿って水平方向に延びるひさし部27と、ひさし部27の先端側の微細孔集合体25を超える位置に設けられた壁部28とを備える。ひさし部27と壁部28との間はシールされており、隙間はない。
【0036】
壁部28は、液滴Dにならないと超えることができない。例えば、斜め上方への質点の放出においては、45度が最も遠くまで放出できる。最高到達点は初速Vの場合、2V2/(4×g)(gは重力加速度9.81m/s2である。)であることが知られている。実施形態2に記載のベルヌーイの式から導出される水の速度V1(=(2gH)1/2)を利用すると最高到達点はH/2となるため、壁部28の垂直方向の高さはH/2以上とする。
【0037】
実施形態3において、じょうろ部22への液体の供給が停止すると、微細孔集合体25から液体の放出が止まるまで、液体の放出速度が遅くなり続け、やがて液滴とはならなくなり、微細孔集合体25の下端から垂れ落ちる。垂れ落ちている間は絶縁性が低下する。ただし、液滴Dにならないと超えることができない壁部28があるため、ひさし部27と壁部28によって、壁部28を超えることができない液体を溜めることができる。
【0038】
液滴Dにならないと超えることができない壁部28とひさし部27が存在するため、これらにより壁部28を超えることができない液体を溜めることができる。じょうろ部22への液体の供給が停止し、微細孔集合体25の下端から垂れ落ちる状態になっても、ひさし部27と壁部28に液体を溜めることができる。従って、気相部Gによる絶縁性を高めることができる。高濃度電解液配管18及び極性溶媒供給配管20を不導体で構成しなくても、リーク電流による劣化を抑制することができる。従って、低コスト化及び高温高圧下における高耐久性化を実現することができる。
【0039】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の電気分解装置は、電解液タンク12に設けるじょうろ部22の構成が第3の実施形態と異なることを除いて、第3の実施形態と同様な構成を有している。従って、電気分解装置の全体構成は
図1に示した電気分解装置1と同様である。第4の実施形態のじょうろ部22においては、
図4に示すように、ひさし部27に微細孔集合体25と同様な微細孔が設けられている。
図4に示すひさし部27は、微細孔集合ひさし部27Aである。微細孔集合ひさし部27Aには、ステンレスのような金属板、ナイロンやプロピレン等の樹脂板にパンチング加工を施したパンチング板を用いることができる。微細孔集合ひさし部27Aは、和紙や焼結金属のような細かい孔を多数有する膜やメッシュ材等を利用してもよい。
【0040】
第4の実施形態においては、完全にシールされた第3の実施形態のひさし部27と異なり、数ミリ程度の微細孔が設けられた微細孔集合ひさし部27Aを用いているため、微細孔集合ひさし部27Aに溜まった液体を重力により液滴として滴下することができる。このように、微細孔集合体25まで液体が溜まったときに、微細孔集合ひさし部27Aから重力で液体が液滴として滴下されるため、液体を溜めることなくことなく排液することができる。排液されたら、液体が微細孔集合体25よりも上から再度注液された場合に、微細孔集合体25から勢いよく液体を放出することができ、液体は液滴となって、気相部Gで絶縁される。そのため、高濃度電解液配管18及び極性溶媒供給配管20を不導体で構成しなくても、リーク電流による劣化を抑制することができる。従って、低コスト化及び高温高圧下における高耐久性化を実現することができる。
【0041】
(第5の実施形態)
第5の実施形態の電気分解装置は、電解液タンク12に設けるじょうろ部22の構成が第4の実施形態と異なることを除いて、第4の実施形態と同様な構成を有している。従って、電気分解装置の全体構成は
図1に示した電気分解装置1と同様である。第5の実施形態のじょうろ部22は、
図5に示すように、垂直方向に伸びる直管型のパイプ29と、パイプ29の先端に接続された90度エルボ継手30と、90度エルボ継手30の先端に接続された45度エルボ継手31とで構成されている。45度エルボ継手31の先端には、微細孔集合体25が設けられていると共に、その周囲に微細孔集合壁32が巻き付けられて固定されている。微細孔集合壁32は、一旦側の直径が収束して狭まるように巻き付けられている。微細孔集合壁32は、45度エルボ継手31の太さよりも細くならないように調整されている。垂直方向下部は微細孔集合壁32の開口が広くなるように設置することが好ましい。微細孔集合壁32と45度エルボ継手31との間はシールされており、液体を溜めることができるようにしている。なお、垂直方向斜め上方に吐出する継手であればよいため、90度エルボ継手30を省いてもよく、45度エルボ継手31に代えて30度エルボ継手等を用いてもよい。微細孔集合壁32は設置されていなくてもよい。第5の実施形態のじょうろ部22は、垂直方向に伸びる直管型のパイプ29と、パイプ29の先端に接続された90度エルボ継手30と、90度エルボ継手30の先端に接続され、その先端に微細孔集合体25が設けられた45度エルボ継手31とで構成されていてもよい。
【0042】
第5の実施形態においては、微細孔集合ひさし部27Aと壁部28の機能を、微細孔集合壁32に置き換えている。微細孔集合壁32によれば、それを超えることができない液体を溜めることができ、そこに溜まった状態から重力で液体を液滴として落下させることができる。じょうろ部22をじょうろ底面23と微細孔集合体25で構成する代わりに、垂直方向に伸びるパイプ29と90度エルボ継手30と45度エルボ継手31と微細孔集合壁32とで構成することによって、電解液タンク12に供給される高濃度電解液又は極性溶媒をじょうろ部22に溜めると共に、微細孔集合壁32から放出することができる。電解液タンク12の壁面等にじょうろ底面23や微細孔集合体25を溶着や溝等で固定し、液体が溜まるほどの密閉シールをするにはコストがかかるが、パイプ29、90度エルボ継手30、及び45度エルボ継手31自体は安価であるだけでなく、固定や液体が溜まるほどの密閉シールを安価に実施することができる。
【0043】
(第6の実施形態)
第6の実施形態の電気分解装置は、電解液タンク12に設けるじょうろ部22の構成が第5の実施形態と異なることを除いて、第5の実施形態と同様な構成を有している。従って、電気分解装置の全体構成は
図1に示した電気分解装置1と同様である。第6の実施形態のじょうろ部22においては、
図6に示すように、パイプ29の管径D1は45度エルボ継手31の管径D2より細く、微細孔集合壁30が溜めることができる容積Mは、液体が溜まる水平長さの半分の長さのパイプ29の容積Nよりも多い。90度エルボ継手30は異径エルボであり、45度エルボ継手31と接続するほうの配管径を太くしてもよい。
【0044】
パイプ29の高低差の重力により液体が放出されるが、液体を放出できるのは高低差の2倍の長さまであるため、液体が微細孔集合壁31に溜まってしまう。第6の実施形態のように、質点を45度で放出した場合が最も遠くまで放出できる。最高到達点は初速Vの場合、2V2/(4×g)(gは重力加速度9.81m/s2である。)であることが知られている。実施形態2に記載のベルヌーイの式から導出される水の速度V1(=(2gH)1/2)を利用すると、最高到達点はH/2となる。つまり、微細孔集合壁32の水平方向長さの半分の高さ以上のパイプ27内の液体しか微細孔集合壁32を超えることができない。微細孔集合壁32が溜めることができる容積Mは、液体が溜まる水平長さの半分の長さのパイプ29の容積Nよりも多いため、微細孔集合壁32を超えられない液体は全て微細孔集合壁32に溜めることができ、微細孔集合壁32からあふれて連続体として落下することはない。溜まった液体は微細孔集合壁32から液滴として滴下される。
【0045】
パイプ29への液体の供給が停止し、微細孔集合壁32の下端から垂れ落ちた場合においても、気相部Gで絶縁することができる。高濃度電解液配管18及び極性溶媒供給配管20を不導体で構成しなくても、リーク電流による劣化を抑制することができる。従って、低コスト化及び高温高圧下における高耐久性化を実現することができる。
【0046】
(第7の実施形態)
第7の実施形態の電気分解装置は、電解液タンク12に設けるじょうろ部22の構成及び気液分離器11から電解液タンク12までの構成が異なること、微細孔集合壁32を有さないこと、を除いて、第6の実施形態と同様な構成を有している。
図7はじょうろ構造を有する気液分離器11を示している。第7の実施形態における気液分離器11は、その内部に設けられた貯液部33と、貯液部33の底面に設けられたじょうろ部22とを備える。じょうろ部22は、例えば微細孔集合壁32を有さないことを除いて、第5の実施形態と同様な構成を有している。貯液部33の上方は気相部G1とされており、そのような気相部G1に電解液及び生成ガス排出配管10が接続されている。電解液及び生成ガス排出配管10から供給される電解液と生成ガスは、気相部G1で気液分離される。分離された電解液は、貯液部33に溜められる。
【0047】
貯液部33は、垂直方向下側の貯液部底面33aと貯液部壁33bとにより構成され、各々シールされて液体がこぼれないようにされている。じょうろ部22は貯液部底面33aに設けられており、じょうろ部22から放出される電解液は気液分離器11の底面に設けられた受液部34で受け止められる。気液分離器11の内部に設けられたじょうろ部22を構成する部材の接液部はすべて不導体である。
図8に示すように、気液分離器11の受液部34は、熱交換器35に接続されている。電解液を空冷ラジエータや潜熱空冷ラジエータを利用して冷却するために、電解液の流路に熱交換器35が設置されている。
【0048】
熱交換器35を単に気液分離器に接続した場合、電気分解セル4からのリーク電流が気液分離器に到達することから、リーク電流による不純物の溶出を防ぐために、不導体製の熱交換器を利用して電気分解セル4の性能低下を抑制する必要がある。ただし、不導体は一般的に熱伝導率が低く、熱交換性能が悪いため、SUS製等の良導体製の熱交換器よりも、はるかに大きく、非常に高コストとなる。また、接液部が不導体であると、圧力や温度に使用限度があり、接液部が不導体製の機器はコストが高い場合が多い。このような点に対して、上記した貯液部33にじょうろ部22を設けた気液分離器11の場合、じょうろ部22は垂直方向斜め上方に液体を吐出させ、垂直方向上方への速度を減少させたときに液体を表面張力により液滴とし、じょうろ部22の内部の液体と受液部34で受けた液体とを絶縁することができる。この現象を利用して、気液分離器11内で液滴を作り、電気分解セル4からのリーク電流を気液分離器11内で絶縁することによって、熱交換器35を導体で構成することができる。
【0049】
第7の実施形態の電気分解装置1は、
図8に示すように、内部にじょうろ部22を備える気液分離器10と熱交換器33と電解液タンク12が配管13、36により接続されている。配管36の電解液タンク12との接続部には、じょうろ部(
図8では図示せず)を設けている。配管36の電解液タンク12との接続部に設けるじょうろ部は、第2ないし第6の実施形態で述べたじょうろ部を適用することができる。第7の実施形態の電気分解装置1においては、じょうろ部を2個使用することによって、じょうろ部間に配置する熱交換器35をその前後の電解液から絶縁することができ、熱交換器35を導体で構成することができる。従って、一般的な小型で安価な金属製の熱交換器35を利用することが可能になり、高温高圧下におけるの高耐久性化を実現することができる。熱交換器35及び配管13、36は導体で構成されている。気液分離器10及び電解液タンク12に設けるじょうろ部は、導体及び不導体のどちらで構成してもよい。
【0050】
上述したように、内部にじょうろ部22を備える気液分離器11とじょうろ部を備える電解液タンク12とを適用することによって、その前後において電解液を気相部及び生成された液滴により絶縁することができる。従って、じょうろ部22を備える気液分離器11とじょうろ部を備える電解液タンク12との間に配置された熱交換器35を導体で構成することができる。従って、一般的な小型で安価な金属製の熱交換器35を利用することが可能になり、高温高圧下における高耐久性化を実現することができる。
【0051】
第7の実施形態においては、熱交換器35と気液分離器11との間に、
図9に示すように、さらに流量調整弁37と液位計38を設けてもよい。液位計38は、受液部34の液位を測定するように設置されており、その周囲には防波壁39が設けられている。受液部34に所定の液位の電解液が溜まっていることを液位計38で確認し、電解液の液位が低い場合は流量調整弁37の開度を小さくし、電解液の液位が高い場合は流量調整弁37の開度を大きくする。電解液供給装置8が供給する流量に応じて流量調整弁37の開度を調整してもよい。これらによって、電解液タンク12のじょうろ部と受液部34の配管13は電解液で満たされ、電解液タンク12のじょうろ部と受液部34の高低差を利用して、電解液タンク12のじょうろ部から電解液が放出され、液滴を作ることができる。従って、電気分解セル4と電解液タンク12のじょうろ部の間で絶縁を取ることができる。
【0052】
さらに、貯液部33に隣接して微細孔集合体を備える受け皿を配置してもよい。これによって、微細孔集合体25に異物が詰まって電解液が十分に流れなくなってしまった場合に、液面位置が受液部34よりも高い位置にある異常を水位計38が検知することができ、微細孔集合体25のメンテナンスの必要性を検知することが可能になる。
【0053】
なお、流量調整弁37や水位計38で制御しなくても、配管に溜まる電解液の水位が低くなれば、電解液タンク12のじょうろ部の電解液にかかる重力が少なくなるので、電解液タンク12のじょうろ部からの吐出量が減って、配管に水が溜まりやすくなる。これによって、配管内に液体が溜まる状況を維持できるため、じょうろ部や配管の圧損の調整によっては流量調整弁37が不要となる。
【0054】
(第8の実施形態)
第8の実施形態の電気分解装置は、
図10に示すように、内部にじょうろ部22を備える気液分離器11と熱交換器35とじょうろ部(
図10では図示せず)を備える電気的分離槽40と電解液タンク12が配管13、36、41により接続されている。電気的分離槽40は、例えば
図7に示した気液分離器11と同様な構成を有している。それら以外は、第7の実施形態と同様な構成を有している。電気的分離槽40に設けるじょうろ部は、第2ないし第7の実施形態で述べたじょうろ部を適用することができる。熱交換器35及び配管13、36は導体で構成されている。電気的分離槽40の壁面は不導体で構成されているが、その内部のじょうろ部は導体及び不導体のどちらで構成してもよい。
【0055】
上述したように、内部にじょうろ部22を備える気液分離器10とじょうろ部を備える電気的分離槽40とを適用することによって、その前後において電解液を気相部及び生成された液滴により絶縁することができる。従って、じょうろ部22を備える気液分離器10とじょうろ部を備える電気的分離槽40との間に配置された熱交換器35を導体で構成することができる。従って、一般的な小型で安価な金属製の熱交換器35を利用することが可能になり、高温高圧下におけるの高耐久性化を実現することができる。
【0056】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
1…電気分解装置、2…カソード室、3…アノード室、4…電気分解セル、5…二酸化炭素供給装置、6…二酸化炭素供給配管、7…第1生成ガス排出配管、8…電解液供給装置、9…電解液供給下流配管、10…電解液及び生成ガス排出配管(第2生成ガス排出配管)、11…気液分離器、12…電解液タンク、13…液体排出配管、14…電解液供給上流配管、16…高濃度電解液タンク、17…高濃度電解液供給装置、18…高濃度電解液供給配管、19…極性溶媒供給装置、20…極性溶媒供給配管、22…じょうろ、23…じょうろ底面、24…液溜め部、25…微細孔集合体、26…液止め板、27…ひさし部、27A…微細孔集合ひさし部、28…壁部、29…直管型パイプ、30…90度エルボ継手、31…45度エルボ継手、33…貯液部、34…受液部、35…熱交換器、37…流量調整弁、38…水位計、G…気相部、L…液相部。