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特開2024-67332積層造形装置の制御情報修正方法、制御情報修正装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067332
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】積層造形装置の制御情報修正方法、制御情報修正装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20240510BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20240510BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20240510BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20240510BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240510BHJP
   B23K 9/127 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K31/00 Z
B33Y50/00
B33Y50/02
B33Y10/00
B23K9/127 509E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177320
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 朱耀
(72)【発明者】
【氏名】椋田 雄
(72)【発明者】
【氏名】椿 翔太
(57)【要約】
【課題】曲線状の造形経路においても、計画された造形形状からの逸脱を抑制できる積層造形装置の制御情報修正方法、制御情報修正装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】積層造形装置の制御情報修正方法は次の各工程を有する。造形経路及び造形経路に沿って形成されるビードのビード形状との情報を含む造形計画情報を取得する。造形計画情報とビード形状の情報に基づいて造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出する。ビード高さの偏り分布においてビード幅中心から偏って高くなる部分が存在する場合、偏って高くなる部分をビード幅中心側へ押し戻す方向にアークを放出させるトーチ傾斜角を求める。そして、トーチをトーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、造形計画情報に基づき作成された制御情報を修正する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形経路に沿って加工点を移動させながら、トーチ先端から放出されるアークにより溶融された加工材料を前記加工点の加工対象面に付加することで形成されるビードを用いて層形状を形成し、形成された前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置による前記造形経路に沿ったビード形成を制御するための制御情報を修正する積層造形装置の制御情報修正方法であって、
前記造形経路と前記ビードのビード形状の情報を含む造形計画情報を取得し、
前記造形計画情報と前記ビード形状の情報に基づいて前記造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて前記造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出し、
前記ビード高さの偏り分布においてビード幅中心から偏って高くなる部分が存在する場合、前記偏って高くなる部分を前記ビード幅中心側へ押し戻す方向に前記アークを放出させるトーチ傾斜角を求め、
前記トーチを前記トーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、前記造形計画情報に基づき作成された前記制御情報を修正する、
積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項2】
前記トーチ傾斜角は、前記造形経路の長手方向に直交する面内における前記ビードのビード高さ方向からのトーチ先端軸の傾斜角度である、
請求項1に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項3】
前記ビード高さの偏り分布は、前記造形経路の曲率と前記ビードのビード幅に基づくモデル式により算出される、
請求項1に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項4】
前記造形経路の経路上の点に対応する曲率の正負に応じて、前記トーチの傾斜方向を連続的に変化させる、
請求項3に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項5】
前記造形経路の曲率半径が前記ビード幅の半値より小さい場合と、前記造形経路の曲率半径が前記ビード幅の半値以上の場合とで、それぞれ異なる前記モデル式を用いて前記ビード高さの偏り分布を求める、
請求項3に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項6】
前記造形経路の曲率半径が前記ビード幅の半値より小さい場合に、前記造形経路に沿って形成する前記ビードへの前記加工材料の供給を、前記造形経路の曲率に応じた経路内周側の体積と経路外周側の体積との差分に応じて修正することに加えて、前記造形経路同士の接近により前記ビード同士が重なる重なり領域の体積と非重なり領域の体積との差分に応じて修正する、
請求項3から5のいずれか1項に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
【請求項7】
トーチ先端から放出されるアークにより溶融された加工材料で形成されるビードによって三次元形状を造形する積層造形装置が造形経路に沿ってビード形成する際の、前記積層造形装置を制御する制御情報を修正する制御情報修正装置であって、
前記造形経路と前記ビードのビード形状の情報を含む造形計画情報を取得する情報取得部と、
前記造形計画情報と前記ビード形状の情報に基づいて前記造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて前記造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出する偏り分布算出部と、
前記ビード高さの偏り分布においてビード幅中心から偏って高くなる部分が存在する場合、前記偏って高くなる部分を前記ビード幅中心側へ押し戻す方向に前記アークを放出させるトーチ傾斜角を求めるトーチ傾斜角設定部と、
前記トーチを前記トーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、前記造形計画情報に基づき作成された前記制御情報を修正する修正部と、
を備える制御情報修正装置。
【請求項8】
造形経路に沿って加工点を移動させながら、トーチ先端から放出されるアークにより溶融された加工材料を前記加工点の加工対象面に付加することで形成されるビードを用いて層形状を形成し、形成された前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置による前記造形経路に沿ったビード形成を制御するための制御情報を修正するプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形経路と前記ビードのビード形状の情報を含む造形計画情報を取得する手順と、
前記造形計画情報と前記ビード形状の情報に基づいて前記造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて前記造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出する手順と、
前記ビード高さの偏り分布においてビード幅中心から偏って高くなる部分が存在する場合、前記偏って高くなる部分を前記ビード幅中心側へ押し戻す方向に前記アークを放出させるトーチ傾斜角を求める手順と、
前記トーチを前記トーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、前記造形計画情報に基づき作成された前記制御情報を修正する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元形状を造形する積層造形装置の制御情報修正方法、制御情報修正装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段として3Dプリンタを用いた造形のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を造形する3Dプリンタは、レーザー又は電子ビーム、更にはアーク等の熱源を用いて、金属粉体又は金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させることで造形物を作製する。このような造形技術として、例えば特許文献1には、モールド材に沿ってビードを形成することにより、造形物を造形するビードの形状を整えながら積層し、造形物を造形することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】中国特許出願公開第110899905号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
曲線状の造形経路に沿ってビードを形成する場合、造形経路の曲率半径が小さいほど形成されるビードのビード高さ分布の偏りが顕著となる。例えば、湾曲した造形経路に沿って形成したビードは、その湾曲内側の領域ではビードを形成する材料の供給が過剰となり、湾曲外側の領域では材料の供給が不足する。その結果、形成されるビードのビード高さ分布が、湾曲内側では高く湾曲外側では低くなる傾向がある。このビード高さ分布の偏りを何も対策せず、湾曲した部分以外と同じ条件でビードを形成すると、ビードの垂れ、溶込み不足等を引き起こし、計画された造形形状からの乖離が大きくなってしまう。
【0005】
そこで本発明は、曲線状の造形経路においても、計画された造形形状からの逸脱を抑制できる積層造形装置の制御情報修正方法、制御情報修正装置及びプログラムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の構成からなる。
(1) 造形経路に沿って加工点を移動させながら、トーチ先端から放出されるアークにより溶融された加工材料を前記加工点の加工対象面に付加することで形成されるビードを用いて層形状を形成し、形成された前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置による前記造形経路に沿ったビード形成を制御するための制御情報を修正する積層造形装置の制御情報修正方法であって、
前記造形経路と前記ビードのビード形状の情報を含む造形計画情報を取得し、
前記造形計画情報と前記ビード形状の情報に基づいて前記造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて前記造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出し、
前記ビード高さの偏り分布においてビード幅中心から偏って高くなる部分が存在する場合、前記偏って高くなる部分を前記ビード幅中心側へ押し戻す方向に前記アークを放出させるトーチ傾斜角を求め、
前記トーチを前記トーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、前記造形計画情報に基づき作成された前記制御情報を修正する、
積層造形装置の制御情報修正方法。
(2) トーチ先端から放出されるアークにより溶融された加工材料で形成されるビードによって三次元形状を造形する積層造形装置が造形経路に沿ってビード形成する際の、前記積層造形装置を制御する制御情報を修正する制御情報修正装置であって、
前記造形経路と前記ビードのビード形状の情報を含む造形計画情報を取得する情報取得部と、
前記造形計画情報と前記ビード形状の情報に基づいて前記造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて前記造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出する偏り分布算出部と、
前記ビード高さの偏り分布においてビード幅中心から偏って高くなる部分が存在する場合、前記偏って高くなる部分を前記ビード幅中心側へ押し戻す方向に前記アークを放出させるトーチ傾斜角を求めるトーチ傾斜角設定部と、
前記トーチを前記トーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、前記造形計画情報に基づき作成された前記制御情報を修正する修正部と、
を備える制御情報修正装置。
(3) 造形経路に沿って加工点を移動させながら、トーチ先端から放出されるアークにより溶融された加工材料を前記加工点の加工対象面に付加することで形成されるビードを用いて層形状を形成し、形成された前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置による前記造形経路に沿ったビード形成を制御するための制御情報を修正するプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形経路と前記ビードのビード形状の情報を含む造形計画情報を取得する手順と、
前記造形計画情報と前記ビード形状の情報に基づいて前記造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて前記造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出する手順と、
前記ビード高さの偏り分布においてビード幅中心から偏って高くなる部分が存在する場合、前記偏って高くなる部分を前記ビード幅中心側へ押し戻す方向に前記アークを放出させるトーチ傾斜角を求める手順と、
前記トーチを前記トーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、前記造形計画情報に基づき作成された前記制御情報を修正する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、曲線状の造形経路においても、計画された造形形状からのずれを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
図2図2は、制御情報修正装置の機能ブロック図である。
図3図3は、制御情報の修正手順を示すフローチャートである。
図4図4は、隣接するビード間の重なりを考慮したビードモデルの一例を示す説明図である。
図5図5は、下層側へ溶接金属が垂れた形状を再現したビードモデルの一例を示す説明図である。
図6図6は、長方形のビードモデルが直線状のパスに沿って配列された様子を示す説明図である。
図7図7は、湾曲するパスに沿って配列されるビードモデルを示す説明図である。
図8図8は、湾曲したパスに沿ってビード形成した場合のビード高さ分布を示す説明図である。
図9図9は、図7に示すビードモデルのパスに直交する断面を示す説明図である。
図10図10は、パスの曲率半径がビード幅の半値未満である場合のビードモデルの重なりの様子を示す模式的な説明図である。
図11図11は、対向するビードモデル同士の重なり部を(A),(B),(C)で示す説明図である。
図12図12は、図10に示すビードモデルのパスに直交する断面を示す説明図である。
図13図13は、溶接ビードの高さの偏り分布とトーチの傾斜角との関係を示す説明図である。
図14図14は、溶接進行方向に沿って湾曲方向が変化するパスを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで示す積層造形装置は、あらかじめ定めた造形計画に基づいた造形経路に沿って加工点を移動させながら、トーチ先端から放出されるアークにより溶融された加工材料を加工点の加工対象面に付加することで形成される溶接ビード(ビード)を用いて層形状を形成し、形成された層形状を積層して三次元形状を造形する。制御情報修正装置は、前記造形計画に基づき作成された制御情報を、計画された造形形状からのずれが抑制されるように修正する。
【0010】
<積層造形装置の構成>
上記の制御情報に基づいて動作する積層造形装置の一構成例を説明する。制御情報修正装置は、制御情報を修正することで、積層造形装置の造形動作を変更させる。
【0011】
図1は、積層造形装置の全体構成を示す概略図である。積層造形装置100は、造形部11と造形制御部13とを備える。制御情報修正装置200は、造形制御部13に接続されて積層造形装置100の一部を構成してもよく、積層造形装置100とは離隔して設けられ、ネットワーク等の通信又は記憶媒体を介して造形制御部13に接続されてもよい。
【0012】
造形部11は、マニピュレータ17と、溶加材供給部19と、マニピュレータ制御部21と、熱源制御部23とを含んで構成される。
【0013】
マニピュレータ制御部21は、マニピュレータ17と熱源制御部23を制御する。マニピュレータ制御部21には不図示のコントローラが接続されて、マニピュレータ制御部21からの任意の操作がコントローラを介して操作者から指示可能となっている。
【0014】
マニピュレータ17は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ25には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ25は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。トーチ25の位置及び姿勢は、マニピュレータ17を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ17は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、先端の熱源の軸方向を任意に変化させられるものが好ましい。マニピュレータ17は、図1に示す4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボット等、種々の形態でもよい。
【0015】
トーチ25は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本構成で用いるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形対象に応じて適宜選定される。ここでは、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ25は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0016】
溶加材供給部19は、トーチ25に向けて溶加材Mを供給する。溶加材供給部19は、溶加材Mが巻回されたリール19aと、リール19aから溶加材Mを繰り出す繰り出し機構19bとを備える。溶加材Mは、繰り出し機構19bによって必要に応じて正方向又は逆方向に送られながらトーチ25へ送給される。繰り出し機構19bは、溶加材供給部19側に配置されて溶加材Mを押し出すプッシュ式に限らず、ロボットアーム等に配置されるプル式、又はプッシュ-プル式であってもよい。
【0017】
熱源制御部23は、マニピュレータ17による溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御部23は、溶加材Mを溶融、凝固させるビード形成時に供給する溶接電流及び溶接電圧を調整する。また、熱源制御部23が設定する溶接電流及び溶接電圧等の溶接条件に連動して、溶加材供給部19の溶加材供給速度が調整される。
【0018】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザーとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザーを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザーにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、形成する溶接ビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。また、溶加材Mの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼、アルミ、アルミ合金、ニッケル、ニッケル基合金など、造形物Wkの特性に応じて、用いる溶加材Mの種類が異なっていてよい。
【0019】
造形制御部13は、上記した各部を統括して制御する。
【0020】
上記した構成の積層造形装置100は、造形物Wkの造形計画に基づいて作成された造形プログラムに従って動作する。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、造形物Wkの形状、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。この造形プログラムに従って、トーチ25を移動させつつ、送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶接ビードBがベース27上に形成される。つまり、マニピュレータ制御部21は、造形制御部13から提供される所定のプログラムに基づいて、マニピュレータ17と熱源制御部23を駆動させる。マニピュレータ17は、マニピュレータ制御部21からの指令により、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ25を移動させて溶接ビードBを形成する。このようにして溶接ビードBを順次に形成、積層することで、目的とする形状の造形物Wkが得られる。
【0021】
<制御情報修正装置の構成>
図2は、制御情報修正装置200の機能ブロック図である。制御情報修正装置200は、情報取得部31と、偏り分布算出部33と、トーチ傾斜角設定部35と、修正部37とを備える。制御情報修正装置200の各部の詳細については後述するが、概略的な機能は次の通りである。
【0022】
情報取得部31は、造形経路と造形経路に沿って形成される溶接ビードのビード形状の情報を含む造形計画情報を取得する。偏り分布算出部33は、造形計画情報とビード形状の情報に基づいて造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出する。トーチ傾斜角設定部35は、ビード幅方向(造形経路の長手方向に直交する方向)の断面におけるビード高さの偏り分布を求め、ビード高さの偏り分布に応じて、アークを放出させるトーチ傾斜角を求める。修正部37は、トーチをトーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、造形計画情報に基づき作成された制御情報を修正する。
【0023】
制御情報修正装置200に入力されて修正された制御情報は、例えば、図1に示す造形制御部13に出力される。造形制御部13は、造形経路の途中の特定箇所、即ち、新たにトーチ傾斜角が設定された箇所(湾曲した造形経路の部分)に対して、トーチ姿勢を変更した造形計画に修正して、造形プログラムを作成又は更新する。そして、造形制御部13が、新たな造形プログラムに基づいて造形部11を駆動制御することで、曲線状の造形経路においても、計画された造形形状からのずれを抑制できるようになる。
【0024】
上記の制御情報修正装置200は、例えば、PC(Personal Computer)などの情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。制御情報修正装置200の各機能は、不図示の制御部が不図示の記憶装置に記憶された特定の機能を有するプログラムを読み出し、これを実行することで実現される。制御部としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)等のプロセッサ、又は専用回路等を例示できる。記憶装置としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを例示できる。
【0025】
また、制御情報修正装置200は、上記した形態のほか、前述したように、ネットワーク等を介して遠隔地から造形制御部13に接続される他のコンピュータで構成してもよい。
【0026】
次に、制御情報修正装置200による制御情報の修正手順について、図2に示す各部の構成と共に詳細に説明する。
図3は、制御情報の修正手順を示すフローチャートである。まず、情報取得部31は、
造形物Wkを造形するための溶接ビードを形成する造形経路と、形成する溶接ビードのビード形状に関する造形計画情報を取得する(S1)。造形経路については公知の方法で算出されたものでよく、例えば、CADデータ等の造形物の形状を所定厚さにスライスし、スライスされた層形状に対して、溶接ビードの形状を模したビードモデルを当てはめて求めてもよい。また、予め生成され、記憶された造形計画情報を読み込んでもよい。
【0027】
読み込む造形計画情報に含まれる造形経路(以下、パスともいう。)の情報としては、例えばパス中に含まれる点の座標情報(X,Y,Z)、隣接するパス同士のピッチd、スライスした層の厚さ(層間隔)h、各パスの積層順序、等の情報が挙げられる。
【0028】
一方、取得するビード形状の情報としては、ビードモデル、ビード幅、ビード高さ、等の形状情報が含まれる。設定されたパスに沿ってビードモデルを設定することで、線状のパスから、溶接ビードを形成する狙い位置であるトーチの移動軌跡に沿って溶接ビードを形成した場合のビード形状を推定できる。
【0029】
図4は、隣接するビード間の重なりを考慮したビードモデルの一例を示す説明図である。ここでは、溶接ビードの長手方向に直交する断面における3つのビードモデルの形状を示している。各ビードモデルは、基準となるパスPS1のビードモデルBMaの断面形状が台形であり、ビードモデルBMaにはパスPS2のビードモデルBMbが隣接して設けられ、ビードモデルBMbにはパスPS3のビードモデルBMcが隣接して設けられている。ビードモデルBMb,BMcは、図4の左側に配置されるモデルに一部をオーバーラップさせている。具体的には、ビードモデルBMb,BMcは、基本的にビードモデルBMaと同じ台形形状であり、ビードモデルBMa側とは反対側となる台形の底辺の一端を中心に、断面形状をそのまま維持しつつ、所定角度時計回りに回転させて、台形の底辺を傾斜させている。そして、ビードモデルBMbがビードモデルBMaと重なる部分はビードモデルBMaの領域とし、ビードモデルBMaに含まれないビードモデルBMbの下方領域をビードモデルBMbの領域に含ませる。同様に、ビードモデルBMcがビードモデルBMbと重なる部分はビードモデルBMbの領域とし、ビードモデルBMbに含まれないビードモデルBMcの下方領域をビードモデルBMcの領域に含ませる。
【0030】
その結果、ビードモデルBMbの形状は、ビードモデルBMaの一方の斜辺に寄り添う多角形状(5角形)となり、ビードモデルBMcの形状は、ビードモデルBMbの一方の斜辺に寄り添う多角形状(5角形)となる。このように、各ビードモデルBMa,BMb,BMcは、実際の溶接ビードの断面形状により近似した形状となる。
【0031】
図5は、下層側へ溶接金属が垂れた形状を再現したビードモデルの一例を示す説明図である。ここでは、溶接ビードの長手方向に直交する断面におけるビードモデルの形状を示している。ベース27に積層された断面形状が台形のビードモデルBM1と、ビードモデルBM1より上層のビードモデルBM2,BM3,・・・,BMn(nは層数)のうち、上層の台形のビードモデルBM2,BM3,・・・,BMnについては、底辺41の両端部に、下方へ延びる垂れ部43a,43bを追加している。垂れ部43a,43bの断面形状は、それぞれ底辺41の端部を一辺とする三角形であり、前述した溶接ビードの溶接条件と軌跡情報(パス)に応じて、その形状と面積が設定される。垂れ部43aと垂れ部43bとは、互いに同じ形状でも異なる形状でもよい。また、垂れ部43a,43bは、台形のビードモデルの底辺41の両端部に設ける以外にも、底辺41のいずれか一方の端部のみに設けてもよい。
【0032】
垂れ部43a,43bを設けたビードモデルBM2,BM3,・・・,BMnを、造形計画用のビードモデルに設定することで、溶接ビードのビード高さが、溶接ビードに生じる溶融金属の垂れ下がりによる影響が加味される。これにより、オーバーハング部などの溶接ビードの溶融金属が垂れやすい条件下でも、溶接ビードの輪郭を演算により求めた結果と実際の形状とが整合されやすくなる。
【0033】
また、ビードモデルの形状は、溶接条件に応じて決定することもできる。溶接条件としては、溶接電流、溶接電圧、トーチの移動速度(運棒速度)、溶加材の送給速度等が挙げられる。
【0034】
例えば、ビード高さLを式(1)から求め、ビード幅Lを式(2)から求めてもよい。
【0035】
【数1】
【0036】
:トーチ移動速度
:溶加材送給速度
~C:係数
~D:係数
【0037】
ビードモデルの形状は、溶接条件と、溶着断面積、ビード高さ、ビード幅等のパラメータとを関連付けて保存したデータベースから、設定される溶接条件に最も近いモデル形状を探索してもよい。また、上記したデータベースを基に近似式を作成して、その近似式を用いてモデル形状を決定してもよい。
【0038】
上記のように、ビードモデルとしては、隣接して配置されるビード同士の重なりを考慮したモデル、下層側への垂れ形状を再現したモデル等の溶接ビードを実際に積層した際に起きる現象を再現したものが望ましい。また、ビード幅とビード高さは、溶接速度、送給速度等の溶接条件と関係付けられていてもよい。
【0039】
次に、偏り分布算出部33は、取得した造形計画の情報(造形経路とビード形状の情報)から、ビード高さの偏り分布を、モデル式を用いて算出する(S2)。なお、以下の説明では、面積等の幾何学的な計算を簡単にするため、単純な長方形のビードモデルを用いることにする。
【0040】
図6は、長方形のビードモデルBMが直線状のパスPSに沿って配列された様子を示す説明図である。このビードモデルBMのビード幅をw、ビード高さをhとする。パスPSが直線状である場合、パスPSに沿って複数のビードモデルBMを順次に配置することで、パスPSに沿って造形計画通りの均質なビード形成が行える。しかし、パスPSが曲線状である場合、パスPSの曲率が大きくなる(曲率半径が小さくなる)ほど、パスPSに沿って並ぶビードモデル同士の重なりと隙間とが拡大する。
【0041】
図7は、湾曲するパスPSに沿って配列されるビードモデルBMを示す説明図である。この場合のビードモデルBMでは、曲率半径がRのパスPSの径方向内側(湾曲内側という)に、隣接するビードモデルBM同士が重なり合う重なり部45を生じ、パスPSの径方向外側(湾曲外側という)の外側に、ビードモデルBM同士の間に隙間部47を生じる。したがって、パスPSに沿って溶接ビードを形成する際、ビードモデルBMのパスPSよりも湾曲内側では、重なり部45が存在するために必要な溶着量(溶融した溶加材Mの供給量)が少なくて済む。一方、パスPSの湾曲外側では、隙間部47を埋めて連続した溶接ビードにするために溶着量を増量させる必要がある。
【0042】
図8は、湾曲したパスPSに沿ってビード形成した場合のビード高さ分布を示す説明図である。実際にパスPSに沿って形成される溶接ビードは、パスPSの長手方向に直交する方向の断面におけるビード高さの分布が、破線で示すようなビード幅wの中央位置Pを中心とする対称形状にはならない。パスPSの湾曲内側では溶着量が過剰となってビード高さが増加する。また、湾曲外側では溶着量が不足してビード高さが低くなる。その結果、溶接ビードの高さ分布は、実線で示すように湾曲内側に最大高さの位置が偏った状態となる。
【0043】
このようなビード高さの偏り分布は、以下に示すモデル式により定量的な算出が可能である。パスPSの曲率半径Rがビード幅wの半値以上である場合(R≧w/2)、パスPSの湾曲内側の領域に必要な溶着量WAinは式(3)で表せる。また、湾曲外側に必要な溶着量WAoutは式(4)で表せる。トーチを運棒して発生する溶着量は、パスPSの湾曲外側と湾曲内側とで等しく、式(5)で表せるため、実質的に、湾曲内側の積層高さhinと湾曲外側の積層高さhoutは、式(6)で表せる。
【0044】
【数2】
【0045】
図9は、図7に示すビードモデルのパスPSに直交する断面を示す説明図である。ビード幅wの一端部Pと他端部Pとの間の中央位置PがパスPSの中心位置であり、図9の中央位置Pより左側(P側)が湾曲内側、右側(P側)が湾曲外側である。ビードモデルBMの湾曲外側は、元のビード高さhより高いビード高さhoutとなり、湾曲内側は元のビード高さhより低いビード高さhinとなる。
【0046】
ビードモデルの湾曲外側領域でのビード高さhoutにおけるビード幅中心位置Moutと、湾曲内側領域でのビード高さhinにおけるビード幅中心位置Minとを結ぶ線をLsとする。この線Lsの水平面からの傾斜角θは、ビード高さの内外差(hin-hout)の式(7)から導かれる式(8)から推定できる。このように、湾曲外側の溶着量Aoutよりも、湾曲内側の溶着量Ainが多くなる。
【0047】
【数3】
【0048】
なお、ビード高さ分布の偏りについての式(5)~(8)による記述は、ビード形状を単純な幾何図形(円弧)に当てはめたものである。そのため、上記した方法に限らず、溶接ビードを模擬したモデル曲線を用意して、その曲線にフィッティングさせてもよい。最終的なビード高さの偏り分布としては、式(7)式の高低差、又は式(8)で特定される傾斜角θで表してもよい。なお、パスPSの曲率半径は、必ずしもパスPSを円形に近似する必要はなく、パスPSの一部を円弧に近似した場合の、その円弧の曲率半径Rを用いてもよい。
【0049】
また、曲率半径Rがビード幅wの半値未満(R<w/2)の場合は次のようになる。
図10は、パスの曲率半径Rがビード幅wの半値未満である場合のビードモデルBMの重なりの様子を示す模式的な説明図である。パスPSの曲率半径Rが小さいと、隣接するビードモデルBM同士の間の重なり部45と隙間部47のうち、重なり部45が多重に重なり合うことになる。
【0050】
図11は、対向するビードモデルBM同士の重なり部45を(A),(B),(C)で示す説明図である。重なり部45は、隣接するビードモデル同士の重なりと、対向するビードモデル同士との重なりとが多重に生じることになる。つまり、ビードモデルBMのパスPSの進行方向の前後だけでなく、進行方向に直交するビード幅方向においても重なりが発生する。
【0051】
この場合のビード高さの偏り分布は、前述したパスPSの曲率半径Rがビード幅wの半値以上である場合(R≧w/2)と同様の手順で算出できる。
図12は、図10に示すビードモデルのパスPSに直交する断面を示す説明図である。パスPSの湾曲内側の領域に必要な溶着量WAinは式(9)、湾曲外側に必要な溶着量WAoutは式(10)で表せる。また、トーチの運棒により発生する溶着量は、パスPSの湾曲外側と湾曲内側とで等しく、式(5)で表せるため、実質的に、湾曲内側の積層高さhinと湾曲外側の積層高さhoutは、式(11)で表せる。
【0052】
【数4】
【0053】
また、ビードモデルの湾曲外側領域でのビード高さhoutにおけるビード幅中心位置Moutと、湾曲内側領域でのビード高さhinにおける曲率半径R(PとPとの間隔)の1/2のビード幅中心位置Minとを結ぶ線をLsとする。この線Lsの水平面からの傾斜角θは、ビード高さの内外差(hin-hout)の式(12)から導かれる式(13)から推定できる。このように、湾曲外側の溶着量Aoutよりも、湾曲内側の溶着量Ainが多くなる。
【0054】
【数5】
【0055】
次に、偏り分布算出部33が上記のようにして得たビード高さの偏り分布を基にして、トーチ傾斜角設定部35は、トーチの傾斜角を設定する(S3)。
図13は、溶接ビードの高さの偏り分布とトーチ25の傾斜角との関係を示す説明図である。ビードの高さの偏り分布が、パスPSの長手方向に直交する断面において、パス中心よりも湾曲内側に最大高さ位置が偏っている場合には、上記断面内で、トーチ25をパス中心における鉛直方向から湾曲内側に所定の角度(トーチ傾斜角φ)で傾斜させるとよい。この状態でトーチ25の先端からアークを放出すると、アーク圧力Parkが湾曲内側から湾曲外側に向かう方向に作用する。これにより、溶接金属の偏りを図13に鎖線で示す偏りのない分布に修正できる。
【0056】
トーチ傾斜角φは、鉛直方向を基準に角度を大きく傾けるほど、横方向(水平方向)に働くアーク圧力Parkが大きくなる。したがって、ビード高さの偏りの程度が大きいほど、トーチ傾斜角φを大きくすればよい。
【0057】
なお、トーチ25を、溶接方向の前方へ傾けて後退角を付与する場合には、ビード幅が狭くビード高さが高くなりやすい。一方、溶接方向の後方へ傾けて前進角を付与する場合には、後退角を付与する場合と逆の傾向になりやすい。そこで、前進角又は後退角に応じてトーチ傾斜角φを調整してもよい。具体的には、ビード高さとビード幅の値を前進時又は後退時の値に設定して、前述した各式により計算すればよい。また、前進角又は後退角によらずにトーチ傾斜角φを設定してもよい。
【0058】
上記のビード高さの偏りとトーチ傾斜角φとの関係は、実験的又は解析的に対応関係を求めておき、テーブル又は演算式として記憶したデータベースを用意しておき、適宜に参照して、トーチ傾斜角φを求めてもよい。また、ビード高さの偏りとトーチ傾斜角φとの関係を機械学習によりモデル化しておき、このモデルを用いてトーチ傾斜角φを求めてもよい。
【0059】
上記したパスPSは、一定の方向に一定の曲率半径で湾曲する経路であるが、パスの形態は造形物に応じて変化する。
図14は、溶接進行方向に沿って湾曲方向が変化するパスを示す説明図である。パスPSが複数の変曲点を有してうねりを伴う場合、前述した湾曲内側と湾曲外側とが溶接進行方向に沿って入れ替わる。そのため、ビード高さの偏り分布を求める際、パスPSの湾曲の曲率半径Rを正確に求めるには、湾曲内側と湾曲外側とを正確に定義しておく必要がある。そこで、基本的には、パスPS上の任意の点を基準にして、その点を通りパスPSに近似される曲率半径の曲率円49が存在する側を湾曲内側、曲率円49が存在しない側を湾曲外側と定義する。
【0060】
次に、上記した手順で特定されたトーチ傾斜角φを積層造形装置100の制御情報に反映する(S4)。図1に示すように、積層造形装置100がトーチ25をロボットアームの先端軸に備えたマニピュレータ17である場合には、設定されたトーチ25の姿勢、即ち、このトーチ姿勢に対応するロボットアームの姿勢にする制御情報を生成する。
【0061】
具体的には、修正部37は、情報取得部31が取得した造形計画情報に基づいて作成され、マニピュレータ17の動作を設定する造形計画(造形プログラム)を、上記したトーチ姿勢にして作成又は修正する。この作成又は修正した造形計画に基づいて、造形プログラムを作成又は更新する。そして、造形制御部13が、新たに作成された造形プログラムに基づいて造形部11を駆動制御することで、曲線状の造形経路においても、計画された造形形状からのずれを抑制できるようになる。
【0062】
上記の制御情報の生成にあたっては、公知の手段を採用してもよい、例えばトーチ姿勢とマニピュレータの各関節角との関係を予め記憶しておき、その関係を基に制御情報を生成すればよい。
【0063】
また、曲率半径Rとビード幅wとの関係がR<w/2である場合、ビードモデル同士の重なり分を考慮しないと、必要な溶着量に対して過剰に溶着させることになる。したがって、パス上のR<w/2となる部位においては、造形計画で設定された溶着量を下げる修正が必要となる。
【0064】
図7に示す、半円の円周に沿ったパスPSの場合、造形計画に設定される溶着量は、ビード断面積にパス長(πR)を乗じたhwπRとなる。しかし、式(14)に示すように、湾曲内側と湾曲外側に必要な溶着量の総和は、設定される溶着量hwπRより小さい。
【0065】
そこで、溶着量が過剰にならないように造形計画を修正する。ここで、修正前の造形計画による溶加材Mの直径をdwire、溶接速度をVweld 0、溶加材供給速度をVwire 0とし、修正後の造形計画の溶接速度をVweld 1,溶加材供給速度をVwire 1とする。
修正前後でのビード断面積は一定であるため、式(15)で示す修正前のビード断面積AB0と、式(16)で示す修正後のビード断面積AB1とは等しくなる。
【0066】
【数6】
【0067】
この関係から、溶加材Mの直径が一定と仮定し、溶接速度を調整する場合には、溶接速度比(Vweld 1/Vweld 0)は式(17)となる。また、溶加材Mの直径が一定と仮定し、溶加材Mの送給速度を調整する場合には、送給速度比(Vwire 1/Vwire 0)は式(18)となる。
【0068】
【数7】
【0069】
以上のように、トーチ姿勢、溶接速度、溶加材供給速度の変更により、曲線状のパスPSを適切な溶着量で形成する造形計画を作成できる。例えば、パスPSの曲率半径Rとビード幅wとの関係がR≧w/2の場合には、トーチ傾斜φを式(8)で示した傾斜角θに応じて変更する。また、R<w/2の場合には、溶着量が更に過剰となるため、トーチ角度の変更に加え、溶接速度、溶加材供給速度の少なくとも一方を変更する。これにより、湾曲した造形経路において、算出したビードの形状がビード幅中心から偏る場合、トーチを算出した傾斜角φで傾斜させてアークを発生させ、溶接ビードの形状をビード幅中心から偏りにくくする造形計画に修正できる。その結果、計画された造形形状からの逸脱を抑制できる。また、溶接ビードの高さの偏り分布を、造形の計画段階で是正できるため、制御情報を別途にフィードバック制御する等の煩雑な制御を不要にできる。
【0070】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0071】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 造形経路に沿って加工点を移動させながら、トーチ先端から放出されるアークにより溶融された加工材料を前記加工点の加工対象面に付加することで形成されるビードを用いて層形状を形成し、形成された前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置による前記造形経路に沿ったビード形成を制御するための制御情報を修正する積層造形装置の制御情報修正方法であって、
前記造形経路と前記ビードのビード形状の情報を含む造形計画情報を取得し、
前記造形計画情報と前記ビード形状の情報に基づいて前記造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて前記造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出し、
前記ビード高さの偏り分布においてビード幅中心から偏って高くなる部分が存在する場合、前記偏って高くなる部分を前記ビード幅中心側へ押し戻す方向に前記アークを放出させるトーチ傾斜角を求め、
前記トーチを前記トーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、前記造形計画情報に基づき作成された前記制御情報を修正する、
積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、ビードの形状がビード幅中心から偏る場合に、トーチを傾斜させてアークを発生させ、ビードの形状をビード幅中心から偏りにくくする造形計画に修正することで、計画された造形形状からの逸脱を抑制できる。
【0072】
(2) 前記トーチ傾斜角は、前記造形経路の長手方向に直交する面内における前記ビードのビード高さ方向からのトーチ先端軸の傾斜角度である、(1)に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、トーチ先端軸を傾斜させることで、アークの発生方向を変更させ、アーク圧力の作用方向を自在に変更できる。
【0073】
(3) 前記ビード高さの偏り分布は、前記造形経路の曲率と前記ビードのビード幅に基づくモデル式により算出される、(1)に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、造形経路の曲率に応じてモデル式によりビード高さの偏り分布を求めた結果を、計画段階にて制御情報に波及できる。そのため、別途にフィードバック制御等を行う必要がない。
【0074】
(4) 前記造形経路の経路上の点に対応する曲率の正負に応じて、前記トーチの傾斜方向を連続的に変化させる、(3)に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、パスに沿って湾曲内側と湾曲外側とが切り替わる場合でも、パス上の各位置で湾曲内側と湾曲外側とを区別しながらトーチの傾斜角を調整できる。
【0075】
(5) 前記造形経路の曲率半径が前記ビード幅の半値より小さい場合と、前記造形経路の曲率半径が前記ビード幅の半値以上の場合とで、それぞれ異なる前記モデル式を用いて前記ビード高さの偏り分布を求める、(3)に記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、曲率半径とビード幅との関係によってビード高さの偏り分布が異なるため、それぞれの場合で異なるモデル式を使い分けることで、ビード高さの偏り分布をより正確に特定できる。
【0076】
(6) 前記造形経路の曲率半径が前記ビード幅の半値より小さい場合に、前記造形経路に沿って形成する前記ビードへの前記加工材料の供給を、前記造形経路の曲率に応じた経路内周側の体積と経路外周側の体積との差分に応じて修正することに加えて、前記造形経路同士の接近により前記ビード同士が重なる重なり領域の体積と非重なり領域の体積との差分に応じて修正する、(3)から(5)のいずれか1つに記載の積層造形装置の制御情報修正方法。
この積層造形装置の制御情報修正方法によれば、局所的にビードが過剰に盛られて計画形状から逸脱することを抑制できる。
【0077】
(7) トーチ先端から放出されるアークにより溶融された加工材料で形成されるビードによって三次元形状を造形する積層造形装置が造形経路に沿ってビード形成する際の、前記積層造形装置を制御する制御情報を修正する制御情報修正装置であって、
前記造形経路と前記ビードのビード形状の情報を含む造形計画情報を取得する情報取得部と、
前記造形計画情報と前記ビード形状の情報に基づいて前記造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて前記造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出する偏り分布算出部と、
前記ビード高さの偏り分布においてビード幅中心から偏って高くなる部分が存在する場合、前記偏って高くなる部分を前記ビード幅中心側へ押し戻す方向に前記アークを放出させるトーチ傾斜角を求めるトーチ傾斜角設定部と、
前記トーチを前記トーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、前記造形計画情報に基づき作成された前記制御情報を修正する修正部と、
を備える制御情報修正装置。
この制御情報修正装置によれば、ビードの形状がビード幅中心から偏る場合に、トーチを傾斜させてアークを発生させ、ビードの形状をビード幅中心から偏りにくくする造形計画に修正することで、計画された造形形状からの逸脱を抑制できる。
【0078】
(8) 造形経路に沿って加工点を移動させながら、トーチ先端から放出されるアークにより溶融された加工材料を前記加工点の加工対象面に付加することで形成されるビードを用いて層形状を形成し、形成された前記層形状を積層して三次元形状を造形する積層造形装置において、前記積層造形装置による前記造形経路に沿ったビード形成を制御するための制御情報を修正するプログラムであって、
コンピュータに、
前記造形経路と前記ビードのビード形状の情報を含む造形計画情報を取得する手順と、
前記造形計画情報と前記ビード形状の情報に基づいて前記造形経路の長手方向に沿って形成されるビードにおいて前記造形経路に直交する断面におけるビード高さの偏り分布を算出する手順と、
前記ビード高さの偏り分布においてビード幅中心から偏って高くなる部分が存在する場合、前記偏って高くなる部分を前記ビード幅中心側へ押し戻す方向に前記アークを放出させるトーチ傾斜角を求める手順と、
前記トーチを前記トーチ傾斜角で傾斜させた姿勢でビード形成するように、前記造形計画情報に基づき作成された前記制御情報を修正する手順と、
を実行させるためのプログラム。
このプログラムによれば、ビードの形状がビード幅中心から偏る場合に、トーチを傾斜させてアークを発生させ、ビードの形状をビード幅中心から偏りにくくする造形計画に修正することで、計画された造形形状からの逸脱を抑制できる。
【符号の説明】
【0079】
11 造形部
13 造形制御部
17 マニピュレータ
19 溶加材供給部
19a リール
19b 繰り出し機構
21 マニピュレータ制御部
23 熱源制御部
25 トーチ
27 ベース
31 情報取得部
33 偏り分布算出部
35 トーチ傾斜角設定部
37 修正部
41 底辺
43a,43b 垂れ部
45 重なり部
47 隙間部
49 曲率円
100 積層造形装置
200 制御情報修正装置
B 溶接ビード(ビード)
BM,BM1,BM2,BM3,BMa,BMb,BMc ビードモデル
PS パス
R 曲率半径
H ビード高さ
w ビード幅
M 溶加材
Wk 造形物
φ トーチ傾斜角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14