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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067333
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】造形物の製造方法および造形物
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20240510BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240510BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240510BHJP
   B23K 9/127 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B33Y10/00
B33Y80/00
B23K9/127 509D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177321
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】初田 光嶺
(57)【要約】
【課題】屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物をコンパクトに造形できる造形物の製造方法および造形物を提供する。
【解決手段】端部で開口した第1空洞部71を有する第1管部位61を造形する第1管部位造形工程と、端部で開口した第2空洞部73を有する第2管部位63を第1管部位61に対して並列に造形する第2管部位造形工程と、第1管部位61および第2管部位63の端部同士を接合して第1空洞部71と第2空洞部73とを連結する接合空洞部75を有する接合部位65を、第1空洞部71および第2空洞部73の開口部71a,73aを囲うように造形する接合部位造形工程と、を含み、第1管部位61および第2管部位63を、それぞれ独立した第1溶接ビードB1および第2溶接ビードB2で造形し、接合部位65を、一方向に平行となるように第3溶接ビードB3を積層して造形する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物を、溶接ビードを積層して造形する造形物の製造方法であって、
第1溶接ビードを積層し、端部で開口した第1空洞部を有する第1管部位を造形する第1管部位造形工程と、
第2溶接ビードを積層し、端部で開口した第2空洞部を有する第2管部位を前記第1管部位に対して並列に造形する第2管部位造形工程と、
第3溶接ビードを積層し、前記第1管部位および前記第2管部位の端部同士を接合して前記第1空洞部と前記第2空洞部とを連結する接合空洞部を有する接合部位を、前記第1空洞部および前記第2空洞部の開口部を囲うように造形する接合部位造形工程と、
を含み、
前記第1管部位および前記第2管部位を、それぞれ独立した前記第1溶接ビードおよび前記第2溶接ビードで造形し、
前記接合部位を、一方向に平行となるように前記第3溶接ビードを積層して造形する、
造形物の製造方法。
【請求項2】
前記第1管部位、前記第2管部位および前記接合部位の少なくとも一つにおいて、隣接する溶接ビード同士で溶接開始点と溶接終了点とを交互に配置させる、
請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記第1管部位および前記第2管部位の少なくとも一方を、前記接合部位によって接合する端部に向かって先細り形状に造形する、
請求項1に記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
前記第1空洞部、前記第2空洞部および前記接合空洞部に沿う溝部が形成された母材上に、前記第1溶接ビード、前記第2溶接ビードおよび前記第3溶接ビードを積層し、前記溝部を前記第1空洞部、前記第2空洞部および前記接合空洞部の一部とする、
請求項1~3のいずれか一項に記載の造形物の製造方法。
【請求項5】
前記接合部位の造形箇所において、前記溝部の深さを他の部位よりも深くする、
請求項4に記載の造形物の製造方法。
【請求項6】
屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物であって、
第1空洞部を有する第1管部位と、
第2空洞部を有し、前記第1管部位と並列に配置された第2管部位と、
前記第1管部位および前記第2管部位の間に造形され、前記第1空洞部と前記第2空洞部とを連結する接合空洞部を有する接合部位と、
を備え、
前記第1管部位および前記第2管部位は、それぞれ独立して積層された第1溶接ビードおよび第2溶接ビードからなり、
前記接合部位は、一方向に平行となるように積層された第3溶接ビードからなる、
造形物。
【請求項7】
前記第1管部位および前記第2管部位の少なくとも一方は、前記接合部位によって接合された端部に向かって先細り形状とされている、
請求項6に記載の造形物。
【請求項8】
前記第1空洞部、前記第2空洞部および前記接合空洞部に沿う溝部が形成された母材を備え、
前記母材上に、前記第1溶接ビード、前記第2溶接ビードおよび前記第3溶接ビードが積層され、前記溝部が前記第1空洞部、前記第2空洞部および前記接合空洞部の一部とされている、
請求項6または請求項7に記載の造形物。
【請求項9】
前記接合部位の造形箇所において、前記溝部の深さが他の部位よりも深くされている、
請求項8に記載の造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の製造方法および造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザーやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
特許文献1には、溶加材を溶融および凝固させた複数のビードを積層させることにより、冷却水などの冷却媒体を流す流路となる空洞部を有する造形物を造形する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-59771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図14に示すように、内部に空洞部を有する管路状部位1の途中に、冷却媒体の流れを変えるための屈曲部7を設ける場合がある。このように、管路状部位1の途中に屈曲部7を設けると、屈曲部7において、溶接ビードBの溶着量が屈曲の内側に偏り、屈曲の外側で不足してしまう。特に、図15に示すように、屈曲部7を挟んだ並列部3,5同士の間隔Gが狭いと、屈曲部7における曲がり方が急になり、屈曲の内側と外側とでの溶接ビードBの溶着量の偏りが顕著になる。したがって、管路状部位1の途中に屈曲部7を設ける場合、並列部3,5同士の間隔Gを広くしなければならず、屈曲部をコンパクトに造形することが困難であった。
【0006】
そこで本発明は、屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物をコンパクトに造形できる造形物の製造方法および造形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記構成からなる。
(1) 屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物を、溶接ビードを積層して造形する造形物の製造方法であって、
第1溶接ビードを積層し、端部で開口した第1空洞部を有する第1管部位を造形する第1管部位造形工程と、
第2溶接ビードを積層し、端部で開口した第2空洞部を有する第2管部位を前記第1管部位に対して並列に造形する第2管部位造形工程と、
第3溶接ビードを積層し、前記第1管部位および前記第2管部位の端部同士を接合して前記第1空洞部と前記第2空洞部とを連結する接合空洞部を有する接合部位を、前記第1空洞部および前記第2空洞部の開口部を囲うように造形する接合部位造形工程と、
を含み、
前記第1管部位および前記第2管部位を、それぞれ独立した前記第1溶接ビードおよび前記第2溶接ビードで造形し、
前記接合部位を、一方向に平行となるように前記第3溶接ビードを積層して造形する、
造形物の製造方法。
(2) 屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物であって、
第1空洞部を有する第1管部位と、
第2空洞部を有し、前記第1管部位と並列に配置された第2管部位と、
前記第1管部位および前記第2管部位の間に造形され、前記第1空洞部と前記第2空洞部とを連結する接合空洞部を有する接合部位と、
を備え、
前記第1管部位および前記第2管部位は、それぞれ独立して積層された第1溶接ビードおよび第2溶接ビードからなり、
前記接合部位は、一方向に平行となるように積層された第3溶接ビードからなる、
造形物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物をコンパクトに造形できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、積層造形システムの全体構成を示す概略図である。
図2図2は、造形物の一例を示す造形物の平面図である。
図3図3は、造形物の水平方向の断面図である。
図4図4は、図2におけるIV-IV断面図である。
図5図5は、図2におけるV-V断面図である。
図6図6は、造形物の造形手順を説明する造形途中の造形物の平面図である。
図7図7は、第1溶接ビードの積層の仕方を説明する積層箇所の概略縦断面図である。
図8図8は、造形物の造形手順を説明する造形途中の造形物の平面図である。
図9図9は、造形物の造形手順を説明する造形途中の造形物の平面図である。
図10図10は、変形例を説明する造形物の概略平面図である。
図11図11は、変形例における接合部位の造形の仕方を説明する第1管部位と第2管部位との間で切断した概略断面図である。
図12図12は、他の構造の造形物の斜視図である。
図13図13は、他の構造の造形物の斜視図である。
図14図14は、屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物の概略平面図である。
図15図15は、屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで示す積層造形システムは、マニピュレータに保持された溶加材(溶接ワイヤ)を熱源装置によって溶融させて溶接ビードを形成し、形成された溶接ビードを所望の形状に繰り返し積層して、溶接ビードが積層されてなる造形物を造形するものである。
【0011】
<積層造形システムの構成>
上記の積層造形システムの一構成例を説明する。
図1は、積層造形システムの全体構成を示す概略図である。
積層造形システム100は、造形制御装置15と、マニピュレータ17と、溶加材供給装置19と、マニピュレータ制御装置21と、熱源制御装置23とを含んで構成される。
【0012】
マニピュレータ制御装置21は、マニピュレータ17と、熱源制御装置23とを制御する。マニピュレータ制御装置21には不図示のコントローラが接続されて、マニピュレータ制御装置21の任意の操作がコントローラを介して操作者から指示可能となっている。
【0013】
マニピュレータ17は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ11には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ11は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。トーチ11の位置及び姿勢は、マニピュレータ17を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ17は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、先端の熱源の軸方向を任意に変化させられるものが好ましい。マニピュレータ17は、図1に示す4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボット等、種々の形態であってもよい。
【0014】
トーチ11は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本構成で用いるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG(Tungsten Inert Gas)溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形対象に応じて適宜選定される。ここでは、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ11は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。
【0015】
溶加材供給装置19は、トーチ11に向けて溶加材Mを供給する。溶加材供給装置19は、溶加材Mが巻回されたリール19aと、リール19aから溶加材Mを繰り出す繰り出し機構19bとを備える。溶加材Mは、繰り出し機構19bによって必要に応じて正方向又は逆方向に送られながらトーチ11へ送給される。繰り出し機構19bは、溶加材供給装置19側に配置されて溶加材Mを押し出すプッシュ式に限らず、ロボットアーム等に配置されるプル式、又はプッシュ-プル式であってもよい。
【0016】
熱源制御装置23は、マニピュレータ17による溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御装置23は、溶加材Mを溶融、凝固させるビード形成時に供給する溶接電流及び溶接電圧を調整する。また、熱源制御装置23が設定する溶接電流及び溶接電圧等の溶接条件に連動して、溶加材供給装置19の溶加材供給速度が調整される。
【0017】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザーとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザーを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザーにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、形成するビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。また、溶加材Mの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼、アルミ、アルミ合金、ニッケル、ニッケル基合金など、造形物Wの特性に応じて、用いる溶加材Mの種類が異なっていてよい。
【0018】
造形制御装置15は、上記した各部を統括して制御する。この造形制御装置15は、例えば、PC(Personal Computer)などの情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。造形制御装置15の各機能は、不図示の制御部が不図示の記憶装置に記憶された特定の機能を有するプログラムを読み出し、これを実行することで実現される。記憶装置としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを例示できる。また、制御部としては、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)などのプロセッサ、又は専用回路等を例示できる。造形制御装置15は、上記した形態のほか、ネットワーク等を介して積層造形システム100から遠隔から接続される他のコンピュータであってもよい。
【0019】
上記した構成の積層造形システム100は、造形物Wの積層計画に基づいて作成された造形プログラムに従って動作する。造形プログラムは、多数の命令コードにより構成され、造形物の形状、材質、入熱量等の諸条件に応じて、適宜なアルゴリズムに基づいて作成される。この造形プログラムに従って、トーチ11を移動させつつ、送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶接ビードBがベースとなる母材13上に形成される。つまり、マニピュレータ制御装置21は、造形制御装置15から提供される所定のプログラムに基づいてマニピュレータ17、熱源制御装置23を駆動させる。マニピュレータ17は、マニピュレータ制御装置21からの指令により、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ11を移動させて溶接ビードBを形成する。このようにして溶接ビードBを順次に形成、積層することで、目的とする形状の造形物Wが得られる。
【0020】
<造形物>
次に、上記の積層造形システム100によって造形する造形物Wの一例について説明する。
図2は、造形物Wの一例を示す造形物Wの平面図である。図3は、造形物Wの水平方向の断面図である。図4は、図2におけるIV-IV断面図である。図5は、図2におけるV-V断面図である。
【0021】
図2図5に示すように、本構成例に係る造形物Wは、母材13上に溶接ビードBを積層することで造形されている。つまり、造形物Wは、母材13と、この母材13上に造形された積層体51とから構成されている。
【0022】
この造形物Wは、管路状部位53を有しており、管路状部位53には、屈曲部55が設けられている。管路状部位53は、第1管部位61と、第2管部位63と、接合部位65と、を有している。
【0023】
第1管部位61及び第2管部位63は、それぞれ長尺に形成されており、互いに並列に配置されている。接合部位65は、第1管部位61と第2管部位63との間に造形されている。そして、この接合部位65によって、第1管部位61と第2管部位63とは、互いに端部同士が接合されている。
【0024】
第1管部位61は、第1溶接ビードB1を積層して造形されたもので、その内部に第1空洞部71を有している。また、この第1管部位61は、平面視において、第2管部位63と反対側である外側の壁部61aが端部へ向かって次第に第2管部位63へ向かって傾斜されている。これにより、第1管部位61は、端部へ向かって次第に窄まる先細り形状とされている。また、第1管部位61の内部の第1空洞部71は、第1管部位61の端部において、第2管部位63側である内側の壁部61bで開口されている。
【0025】
第2管部位63は、第2溶接ビードB2を積層して造形されたもので、その内部に第2空洞部73を有している。また、この第2管部位63は、平面視において、第1管部位61と反対側である外側の壁部63aが端部へ向かって次第に第1管部位61へ向かって傾斜されている。これにより、第2管部位63は、端部へ向かって次第に窄まる先細り形状とされている。また、第2管部位63の内部の第2空洞部73は、第2管部位63の端部において、第1管部位61側である内側の壁部63bで開口されている。
【0026】
このように、第1管部位61及び第2管部位63は、それぞれ独立した第1溶接ビードB1及び第2溶接ビードB2から造形されている。なお、本例では、第1管部位61及び第2管部位63は、平面視で線対称形状に造形されており、それぞれの端部において、第1空洞部71及び第2空洞部73の開口部71a,73aが対向位置に配置されている。
【0027】
接合部位65は、第3溶接ビードB3を積層して造形されたもので、その内部に接合空洞部75を有している。接合部位65は、第3溶接ビードB3が、第1空洞部71及び第2空洞部73の開口部71a,73aを囲うように、第1管部位61及び第2管部位63の長手方向に沿う一方向に平行となるように造形されている。これにより、第1管部位61及び第2管部位63の端部間には、第3溶接ビードB3によって接合空洞部75が形成され、第1空洞部71と第2空洞部73とが、接合空洞部75によって互いに連通されている。
【0028】
また、第1管部位61、第2管部位63及び接合部位65からなる積層体51が上面に造形された母材13には、溝部81が形成されている。この溝部81は、第1空洞部71、第2空洞部73及び接合空洞部75に沿って形成されている。つまり、第1溶接ビードB1、第2溶接ビードB2及び第3溶接ビードB3が母材13上に積層されることにより、溝部81が、第1空洞部71、第2空洞部73及び接合空洞部75の一部とされている。また、溝部81は、接合部位65の造形箇所において、接合空洞部75に対応する部分の深さが他の部位よりも深い深堀部81aとされている(図5参照)。
【0029】
上記構造の造形物Wでは、互いに連通された第1空洞部71、第2空洞部73及び接合空洞部75が、例えば、冷却水等の冷却媒体を流す流路とされ、この流路に冷却媒体を流すことにより、造形物Wが冷却される。
【0030】
<造形物の造形手順>
次に、上記の造形物Wの造形手順について説明する。
図6は、造形物Wの造形手順を説明する造形途中の造形物Wの平面図である。図7は、第1溶接ビードB1の積層の仕方を説明する積層箇所の概略縦断面図である。図8は、造形物Wの造形手順を説明する造形途中の造形物Wの平面図である。図9は、造形物Wの造形手順を説明する造形途中の造形物Wの平面図である。
【0031】
まず、予め溝部81を形成した母材13上に、第1溶接ビードB1及び第2溶接ビードB2を積層し、内部に第1空洞部71を有する第1管部位61及び内部に第2空洞部73を有する第2管部位63を造形する(第1管部位造形工程、第2管部位造形工程)。
【0032】
第1管部位61を造形するには、図6に示すように、第1溶接ビードB1を積層させて外側の壁部61a及び内側の壁部61bを造形し、これらの壁部61a,61bを頂部で接合させる。そして、端部において、内側の壁部61bに開口部71aが形成された第1管部位61を造形する(図4参照)。また、積層させる第1溶接ビードB1は、平面視において、端部近傍まで平行な経路に沿って形成し、端部近傍で第2管部位63側である内側へ向かって傾斜または湾曲する経路に沿って形成する。これにより、平面視において、端部へ向かって外側の壁部61aが内側へ傾斜した先細り形状の第1管部位61を造形する。なお、第1溶接ビードB1は、端部近傍で傾斜または湾曲する経路とした後に、再び平行な経路に沿わせる。これにより、第1管部位61の端部において、内側の壁部61bを平面状に造形できる。
【0033】
なお、第1管部位61を造形するにあたり、隣接する第1溶接ビードB1同士で、溶接開始点と溶接終了点とを交互に配置させるのが好ましい。このように、第1溶接ビードB1の溶接開始点と溶接終了点とを交互に入れ替えれば、隣接する第1溶接ビードB1を形成する際に、トーチ11の移動方向を逆にできる。したがって、連続して第1溶接ビードB1を積層させる際のトーチ11の移動時間を短縮でき、生産性が向上する。
【0034】
第1管部位61の壁部61aを造形する際には、図7に示すように、隣接する第1溶接ビードB1が、斜めにオーバーハングするように積層させる。なお、隣接する第1溶接ビードB1は、円弧状にオーバーハングするように積層させてもよく、積層途中に積層方向を側方へ屈曲させてオーバーハングするように積層させてもよい。
【0035】
同様に、第2管部位63を造形するには、図8に示すように、第2溶接ビードB2を積層させて外側の壁部63a及び内側の壁部63bを造形し、これらの壁部63a,63bを頂部で接合させる。そして、端部において、内側の壁部63bに開口部73aが形成された第2管部位63を造形する。また、積層させる第2溶接ビードB2は、平面視において、端部近傍まで平行な経路に沿って形成し、端部近傍で第1管部位61側である内側へ向かって傾斜または湾曲する経路に沿って形成する。これにより、平面視において、端部へ向かって外側の壁部63aが内側へ傾斜した先細り形状の第2管部位63を造形する。なお、第2溶接ビードB2は、端部近傍で傾斜または湾曲する経路とした後に、再び平行な経路に沿わせる。これにより、第2管部位63の端部において、内側の壁部63bを平面状に造形できる。
【0036】
なお、第2管部位63を造形する場合も、隣接する第2溶接ビードB2同士で、溶接開始点と溶接終了点とを交互に配置させるのが好ましい。このように、第2溶接ビードB2の溶接開始点と溶接終了点とを交互に入れ替えれば、隣接する第2溶接ビードB2を形成する際に、トーチ11の移動方向を逆にできる。したがって、連続して第2溶接ビードB2を積層させる際のトーチ11の移動時間を短縮でき、生産性が向上する。
【0037】
第2管部位63の壁部63aを造形する際にも、隣接する第2溶接ビードB2が、斜めにオーバーハングするように積層させる(図7参照)。なお、隣接する第2溶接ビードB2は、円弧状にオーバーハングするように積層させてもよく、積層途中に積層方向を側方へ屈曲させてオーバーハングするように積層させてもよい。
【0038】
第1管部位61及び第2管部位63を造形したら、図9に示すように、第1管部位61の端部と第2管部位63の端部との間に、第3溶接ビードB3を積層し、接合部位65を造形する(接合部位造形工程)。第3溶接ビードB3は、第1管部位61及び第2管部位63の第1空洞部71及び第2空洞部73の開口部71a,73aを囲うように開口部71a,73aの縁部に積層させ、それぞれ一方向に平行となるように積層させる。これにより、第1管部位61の端部と第2管部位63の端部とを接合部位65によって接合させる。そして、この接合部位65を造形することにより、接合部位65の内部には、母材13の溝部81に対応する位置に接合空洞部75が形成され、第1空洞部71と第2空洞部73とが、接合空洞部75によって互いに連通される(図3参照)。
【0039】
なお、接合部位65を造形する場合も、隣接する第3溶接ビードB3同士で、溶接開始点と溶接終了点とを交互に配置させるのが好ましい。このように、第3溶接ビードB3の溶接開始点と溶接終了点とを交互に入れ替えれば、隣接する第3溶接ビードB3を形成する際に、トーチ11の移動方向を逆にできる。したがって、連続して第3溶接ビードB3を積層させる際のトーチ11の移動時間を短縮でき、生産性が向上する。
【0040】
このように、本構成例によれば、第1管部位61及び第2管部位63を、それぞれ独立した第1溶接ビードB1及び第2溶接ビードB2で造形し、一方向に平行となるように第3溶接ビードB3を積層して造形した接合部位65によって接合させる。したがって、溶接ビードの形成方向を屈曲させて管路状部位に屈曲部を設ける場合と比べ、屈曲部55での溶着量の偏りを抑制できる。その結果、屈曲部55が設けられた管路状部位53を有する造形物Wをコンパクトに造形できる。
【0041】
しかも、第1空洞部71、第2空洞部73及び接合空洞部75に沿う溝部81が形成された母材13上に、第1溶接ビードB1、第2溶接ビードB2及び第3溶接ビードB3を積層し、溝部81を第1空洞部71、第2空洞部73及び接合空洞部75の一部とする。したがって、第1空洞部71、第2空洞部73及び接合空洞部75を有する管路状部位53の全体を溶接ビードで造形する場合と比べ、造形にかかる時間の短縮、溶加材Mの消費量の節約、造形後の切削量や研磨量の低減が図れる。
【0042】
また、接合部位65の造形箇所において、母材13の溝部81の深さが他の部位よりも深い深堀部81aを設けることにより、接合部位65における接合空洞部75の断面積を容易に確保及び調整できる。
【0043】
次に、変形例について説明する。
図10は、変形例を説明する造形物の概略平面図である。図11は、変形例における接合部位65の造形の仕方を説明する第1管部位61と第2管部位63との間で切断した概略断面図である。
【0044】
図10に示すように、変形例では、管路状部位53に設けられた屈曲部55の全体の領域Aを、第3溶接ビードB3を積層して接合部位65とする。具体的には、図11に示すように、第1溶接ビードB1及び第2溶接ビードB2を積層して第1管部位61及び第2管部位63を造形した後に、屈曲部55となる領域Aにおける一側部から第3溶接ビードB3をアーチ状に形成し、これらの第3溶接ビードB3を斜めにオーバーハングするように積層させる(図7参照)。そして、これらのアーチ状の第3溶接ビードB3を、屈曲部55となる領域における一側部から他側部にわたって繰り返し積層させることにより、屈曲部55の全体を第3溶接ビードB3からなる接合部位65とする。
【0045】
また、変形例では、第3溶接ビードB3を、既に造形した第1管部位61を構成する第1溶接ビードB1に合わせ、この第1溶接ビードB1の形成方向に沿う一方向に平行となるように造形する(図10参照)。なお、第3溶接ビードB3の形成方向は、第1溶接ビードB1の形成方向に沿う一方向に限らず、例えば、トーチ11を円滑に移動できるような範囲内で、任意の方向に平行な一方向に設定してもよい。
【0046】
なお、第3溶接ビードB3の肉厚は均一でなくてもよく、アーチの大きさを調整するために、肉厚を調整してもよい。例えば、サイズの異なるアーチを隣接して形成するために、第3溶接ビードB3の肉厚の少なくとも一部を増厚させたり減厚させたりしてもよい。
【0047】
また、変形例においても、第1管部位61、第2管部位63及び接合部位65を造形するにあたり、隣接する第1溶接ビードB1同士、第2溶接ビードB2同士及び第3溶接ビードB3同士で、溶接開始点と溶接終了点とを交互に配置させるのが好ましい。このように、第1溶接ビードB1、第2溶接ビードB2及び第3溶接ビードB3の溶接開始点と溶接終了点とを交互に入れ替えれば、トーチ11の移動方向を逆にでき(図10における矢印参照)、トーチ11の移動時間を短縮させて生産性を向上させることができる。
【0048】
なお、上記構成例では、第1空洞部71、第2空洞部73及び接合空洞部75の一部となる溝部81を母材13に形成したが、第1管部位61、第2管部位63及び接合部位65を造形して第1空洞部71、第2空洞部73及び接合空洞部75の断面積を十分に確保できれば、母材13に溝部81を形成しなくてもよい。
【0049】
また、図12に示すように、造形物としては、第1管部位61、第2管部位63及び接合部位65が断面視矩形状の造形物W1であってもよい。さらに、図13に示すように、第1管部位61と第2管部位63とを一体に造形するとともに、第1管部位61と第2管部位63との間に隔壁91を造形することにより、隔壁91によって第1空洞部71及び第2空洞部73を区画した構造の造形物W2としてもよい。
【0050】
これらの造形物W1,W2を造形する場合も、第1溶接ビードB1及び第2溶接ビードB2を長手方向(図12及び図13における矢印DB1,DB2方向)に沿って積層させて第1管部位61及び第2管部位63を造形する。その後、第3溶接ビードB3を、第1管部位61と第2管部位63との間で一方向に平行となる方向(図12及び図13における矢印DB3方向)に積層させて接合部位65を造形する。
【0051】
なお、これらの造形物W1,W2においても、第1溶接ビードB1、第2溶接ビードB2及び第3溶接ビードB3を積層させる際に、隣接する溶接ビード同士で溶接開始点と溶接終了点とを交互に配置させるのが好ましい。このようにすれば、トーチ11の移動時間を短縮でき、生産性を向上できる。
【0052】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0053】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物を、溶接ビードを積層して造形する造形物の製造方法であって、
第1溶接ビードを積層し、端部で開口した第1空洞部を有する第1管部位を造形する第1管部位造形工程と、
第2溶接ビードを積層し、端部で開口した第2空洞部を有する第2管部位を前記第1管部位に対して並列に造形する第2管部位造形工程と、
第3溶接ビードを積層し、前記第1管部位および前記第2管部位の端部同士を接合して前記第1空洞部と前記第2空洞部とを連結する接合空洞部を有する接合部位を、前記第1空洞部および前記第2空洞部の開口部を囲うように造形する接合部位造形工程と、
を含み、
前記第1管部位および前記第2管部位を、それぞれ独立した前記第1溶接ビードおよび前記第2溶接ビードで造形し、
前記接合部位を、一方向に平行となるように前記第3溶接ビードを積層して造形する、造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、第1管部位および第2管部位を、それぞれ独立した第1溶接ビードおよび第2溶接ビードで造形し、一方向に平行となるように第3溶接ビードを積層して造形した接合部位によって接合させる。したがって、溶接ビードの形成方向を屈曲させて管路状部位に屈曲部を設ける場合と比べ、屈曲部での溶着量の偏りを抑制できる。その結果、屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物をコンパクトに造形できる。
【0054】
(2) 前記第1管部位、前記第2管部位および前記接合部位の少なくとも一つにおいて、隣接する溶接ビード同士で溶接開始点と溶接終了点とを交互に配置させる、(1)に記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、溶接ビードの溶接開始点と溶接終了点とを交互に入れ替えるので、連続して溶接ビードを積層させる際のトーチの移動時間を短縮でき、生産性が向上する。
【0055】
(3) 前記第1管部位および前記第2管部位の少なくとも一方を、前記接合部位によって接合する端部に向かって先細り形状に造形する、(1)または(2)に記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、第1管部位および第2管部位の少なくとも一方を、接合部位によって接合される端部に向かって先細り形状とするので、屈曲部をコンパクトにできる。
【0056】
(4) 前記第1空洞部、前記第2空洞部および前記接合空洞部に沿う溝部が形成された母材上に、前記第1溶接ビード、前記第2溶接ビードおよび前記第3溶接ビードを積層し、前記溝部を前記第1空洞部、前記第2空洞部および前記接合空洞部の一部とする、(1)~(3)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、第1空洞部、第2空洞部および接合空洞部を有する管路状部位の全体を溶接ビードで造形する場合と比べ、造形にかかる時間の短縮、溶加材の消費量の節約、造形後の切削量や研磨量の低減が図れる。
【0057】
(5) 前記接合部位の造形箇所において、前記溝部の深さを他の部位よりも深くする、(4)に記載の造形物の製造方法。
この造形物の製造方法によれば、接合部位の造形箇所において、母材の溝部の深さを深めにすることで、接合部位における接合空洞部の断面積を容易に確保および調整できる。
【0058】
(6) 屈曲部が設けられた管路状部位を有する造形物であって、
第1空洞部を有する第1管部位と、
第2空洞部を有し、前記第1管部位と並列に配置された第2管部位と、
前記第1管部位および前記第2管部位の間に造形され、前記第1空洞部と前記第2空洞部とを連結する接合空洞部を有する接合部位と、
を備え、
前記第1管部位および前記第2管部位は、それぞれ独立して積層された第1溶接ビードおよび第2溶接ビードからなり、
前記接合部位は、一方向に平行となるように積層された第3溶接ビードからなる、造形物。
この造形物によれば、第1管部位および第2管部位が、それぞれ独立した第1溶接ビードおよび第2溶接ビードで造形され、一方向に平行となるように第3溶接ビードが積層されて造形された接合部位によって接合されている。つまり、溶接ビードの形成方向を屈曲させて管路状部位に屈曲部を設けたものと比べ、屈曲部での溶着量の偏りを抑えつつ造形でき、コンパクト化できる。
【0059】
(7) 前記第1管部位および前記第2管部位の少なくとも一方は、前記接合部位によって接合された端部に向かって先細り形状とされている、(6)に記載の造形物。
この造形物によれば、第1管部位および第2管部位の少なくとも一方が、接合部位によって接合された端部に向かって先細り形状とされているので、屈曲部をコンパクトにできる。
【0060】
(8) 前記第1空洞部、前記第2空洞部および前記接合空洞部に沿う溝部が形成された母材を備え、
前記母材上に、前記第1溶接ビード、前記第2溶接ビードおよび前記第3溶接ビードが積層され、前記溝部が前記第1空洞部、前記第2空洞部および前記接合空洞部の一部とされている、(6)または(7)に記載の造形物。
この造形物によれば、第1空洞部、第2空洞部および接合空洞部を有する管路状部位の全体を溶接ビードで造形した造形物と比べ、造形にかかる時間の短縮、溶加材の消費量の節約、造形後の切削量や研磨量の低減が図れる。
【0061】
(9) 前記接合部位の造形箇所において、前記溝部の深さが他の部位よりも深くされている、(8)に記載の造形物。
この造形物によれば、接合部位の造形箇所において、母材の溝部の深さが深めにされていることで、接合部位における接合空洞部の断面積を容易に確保および調整できる。
【符号の説明】
【0062】
13 母材
55 屈曲部
53 管路状部位
61 第1管部位
63 第2管部位
65 接合部位
71 第1空洞部
71a,73a 開口部
73 第2空洞部
75 接合空洞部
81 溝部
B 溶接ビード
B1 第1溶接ビード
B2 第2溶接ビード
B3 第3溶接ビード
W,W1,W2 造形物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15