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  • 特開-光ニューラルネットワーク装置 図1
  • 特開-光ニューラルネットワーク装置 図2
  • 特開-光ニューラルネットワーク装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067337
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】光ニューラルネットワーク装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/516 20130101AFI20240510BHJP
   H04B 10/80 20130101ALI20240510BHJP
【FI】
H04B10/516
H04B10/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177325
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 英明
(72)【発明者】
【氏名】管 貴志
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AB00
5K102AD01
5K102AD04
5K102AH02
5K102AH26
5K102AK02
5K102AK03
5K102AK04
5K102AK05
5K102MA01
5K102MB04
5K102MC06
5K102MD01
5K102MD03
5K102PA01
5K102PA02
5K102PA04
5K102PA07
5K102PB01
5K102PH01
5K102PH13
5K102PH14
5K102PH46
5K102RB01
(57)【要約】
【課題】光ニューラルネットワーク装置の入力データのデータ量を大きくする技術を提供する。
【解決手段】光ニューラルネットワーク装置は、キャリア光を生成する光源と、入力データに基づき前記キャリア光を直交周波数多重変調することで、変調光を生成する変調手段と、前記変調光を増幅する増幅手段と、前記増幅手段による増幅後の前記変調光を伝搬する非線形媒体と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア光を生成する光源と、
入力データに基づき前記キャリア光を直交周波数多重変調することで、変調光を生成する変調手段と、
前記変調光を増幅する増幅手段と、
前記増幅手段による増幅後の前記変調光を伝搬する非線形媒体と、
を備えている光ニューラルネットワーク装置。
【請求項2】
前記非線形媒体は、分散平坦化ファイバ、分散シフトファイバ、分散減少ファイバ及びシリコン基板に形成された細線導波路の内の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の光ニューラルネットワーク装置。
【請求項3】
前記非線形媒体を伝搬した前記変調光の各周波数成分に対して異なる伝搬遅延を与える遅延手段をさらに備えている、請求項1に記載の光ニューラルネットワーク装置。
【請求項4】
前記遅延手段は、シングルモードファイバ、分散補償ファイバ、ファイバグレーティング及び導波路型分散補償器の内の少なくとも1つを含む、請求項3に記載の光ニューラルネットワーク装置。
【請求項5】
前記変調手段は、
前記入力データに基づきディスクリートマルチトーン信号を生成する生成手段と、
前記キャリア光を前記ディスクリートマルチトーン信号に基づき直交変調することで前記変調光を生成する直交変調手段と、
を備えている、請求項1に記載の光ニューラルネットワーク装置。
【請求項6】
前記生成手段は、前記ディスクリートマルチトーン信号をヒルベルト変換した変換信号を生成し、
前記直交変調手段は、前記キャリア光を前記ディスクリートマルチトーン信号に基づき強度変調した第1強度変調光と、前記キャリア光を前記変換信号に基づき強度変調した第2強度変調光と、を合波することで前記変調光を生成する、請求項5に記載の光ニューラルネットワーク装置。
【請求項7】
前記非線形媒体を伝搬した前記変調光を処理して出力データを出力する処理手段をさらに備えている、請求項1から6のいずれか1項に記載の光ニューラルネットワーク装置。
【請求項8】
前記処理手段は、前記変調光の周波数成分又は前記変調光を光電変換して得た電気信号の周波数成分を解析することで前記出力データを出力する、請求項7に記載の光ニューラルネットワーク装置。
【請求項9】
前記変調手段は、前記出力データにさらに基づき前記キャリア光を前記直交周波数多重変調する、請求項7に記載の光ニューラルネットワーク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ニューラルネットワークをハードウェア的に実現する光ニューラルネットワーク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ニューラルネットワーク(以下、NNと表記する)をハードウェア的に実現する光NN装置を開示している。以下、特許文献1が開示する構成の概要について述べる。光NN装置は、スーパーコンティニューム(SC)光を生成するSC光源を備えている。SC光とは、帯域幅が非常に広いパルス信号である。また、光NN装置は、スペクトラル変調器を備えている。スペクトラル変調器は、入力される光(特許文献1ではSC光)の各周波数成分のレベルを入力データに応じて変化させることで変調光を生成する。スペクトラル変調器が生成する変調光は、非線形媒体を介してスペクトロメータに入力される。非線形媒体における非線形光学効果により、変調光の周波数成分間の干渉が生じ、これにより、ニューロン間の結合が実現される。非線形媒体を通過した変調光の各周波数成分は、各ニューロンからの出力に対応する。スペクトロメータは、非線形媒体を通過した変調光の周波数成分を解析する。この解析結果は、光NN装置のアプリケーション、例えば、"分類"等に使用される。
【0003】
スペクトラル変調器は、例えば、回折格子等により、入力される光を周波数成分に応じて空間的に分離し、LCoS(Liquid crystal on silicon)等の液晶デバイスにより各周波数成分の光に個別の減衰を与え、その後、各周波数成分の光を合波することで実現され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0311532号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1の構成において、光NN装置への入力データのデータ量、つまり、光NN装置において生成される変調光の1シンボルで搬送できるデータ量は、スペクトラル変調器における光の分解数、つまり、スペクトラル変調器において分離する周波数成分の数に依存する。例えば、光の分解数がXであり、1つの周波数成分の光でYビットの情報を搬送できるものとすると、入力データは、最大(X×Y)ビットとし得る。したがって、光NN装置への入力データのデータ量を大きくするには、スペクトラル変調器の分解数を大きくしなければならない。
【0006】
しかしながら、スペクトラル変調器は、空間的な光を処理するデバイスを有するため、現実的なスペクトラル変調器のサイズを考慮すると、光の分解数の最大値は制限される。一例として、現在利用可能なスペクトラル変調器の分解数Xは、500程度である。
【0007】
本開示は、光ニューラルネットワーク装置の入力データのデータ量を大きくする技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様によると、光ニューラルネットワーク装置は、キャリア光を生成する光源と、入力データに基づき前記キャリア光を直交周波数多重変調することで、変調光を生成する変調手段と、前記変調光を増幅する増幅手段と、前記増幅手段による増幅後の前記変調光を伝搬する非線形媒体と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によると、光ニューラルネットワーク装置の入力データのデータ量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態による光ニューラルネットワーク装置の構成図。
図2】一実施形態による変調光の説明図。
図3】一実施形態による光ニューラルネットワーク装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうちの二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態による光NN装置の構成図である。光源1は、キャリア光を生成して直交変調器(IQ変調器)2に出力する。以下の説明においてはキャリア光を連続光とする。しかしながら、キャリア光は、連続光を時間的にオン・オフしたパルス光であっても良い。キャリア光としてパルス光を使用する場合、光源1は、少なくとも入力データが入力されている期間にはキャリア光を出力する様に構成される。
【0013】
演算部3は、入力データに基づき、DMT(ディスクリートマルチトーン)信号を生成する。DMT信号は、正の周波数のサブキャリア(ビン)にデータ値に対応する複素値を設定し、かつ、負の周波数のビンそれぞれに、対応する正の周波数のビンに設定した複素値の共役複素値を設定して離散逆フーリエ変換を行うことで得られる。本実施形態では、例えば、あらかじめ基準となる振幅値(基準値)を決めておき、各ビンの振幅と基準値との偏差をデータ値に対応させるものとする。しかしながら、各ビンの振幅値をデータ値に対応させるものであっても良い。いずれにしても、各ビンは、強度変調される。
【0014】
演算部3は、IQ変調器2の同相(I)ポートにDMT信号を出力し、直交相(Q)ポートにDMT信号をヒルベルト変換した信号を出力する。IQ変調器2は、Iポート及びQポートに入力された信号に基づき直交変調(IQ変調)を行って変調光を出力する。より詳しくは、IQ変調器2は、光源1からのキャリア光を二分岐し、それぞれをIポートに入力された信号及びQポートに入力された信号で強度変調する。2つの強度変調された光の位相をπ/2だけ異ならせて合波することでIQ変調器2は変調光を生成する。DMT信号と、当該DMT信号をヒルベルト変換した信号とに基づきIQ変調を行うことで、DMT信号の負の周波数成分は相殺され、正の周波数のビンに設定した複素値を搬送する複数のサブキャリアを有するOFDM変調光が得られる。図2は、本実施形態によるOFDM変調光の例を示している。周波数軸上の各縦線がサブキャリアに対応し、サブキャリアの振幅と基準値との偏差がデータ値に対応する。なお、OFDM変調光(以下、単に、変調光と表記する。)を生成する構成は図1に示す構成に限定されず、任意の構成を使用し得る。
【0015】
図1に戻り、増幅器4は、変調光を増幅する。増幅器4は、変調光の全周波数帯域を増幅可能な任意の光増幅器であり、例えば、エルビームドープファイバ増幅器(EDFA)やラマン増幅器であり得る。増幅器4は、増幅した変調光を非線形媒体5に出力する。
【0016】
非線形媒体5は、変調光に対して非線形光学効果を生じさせる媒体である。非線形光学効果は、例えば、自己位相変調、相互位相変調、四光波混合、ラマン散乱等である。非線形媒体5としては、例えば、分散平坦化ファイバ(DFF)、分散シフトファイバ(DSF)、分散減少ファイバ(DDF)等を利用することができる。さらに、非線形媒体5としては、シリコン基板に形成された細線導波路を使用することができる。変調光のスペクトラムは、非線形光学効果の影響により大きく広がる。非線形媒体5が出力する変調光の各周波数成分(波長成分)は、元の変調光の各周波数成分の結合によるものであり、各周波数成分がニューロンに該当する。
【0017】
処理部6は、非線形媒体5で非線形光学効果を受けた変調光を処理し、光NN装置のアプリケーションに応じた出力データを出力する。光NN装置のアプリケーションは、例えば、予測、分類等である。なお、処理部6が行う処理で使用する各係数(重み)は、光NN装置の学習時に決定される。例えば、処理部6は、入力される変調光の周波数成分のレベルをスペクトロメータ(スペクトラムアナライザ)で解析し、各周波数成分のレベルの値を処理することで出力データを出力し得る。また、例えば、処理部6は、入力される変調光を電気信号に光電変換し、電気信号の周波数成分のレベルをスペクトロメータ(スペクトラムアナライザ)で解析し、各周波数成分のレベルの値を処理することで出力データを出力し得る。
【0018】
なお、非線形媒体5と処理部6との間にオプションの分散媒体を設けることができる。分散媒体は、変調光の周波数成分に応じて異なる遅延を与える媒体である。分散媒体4としては、例えば、シングルモードファイバ(SMF)、分散補償ファイバ(DCF)、ファイバグレーティング、導波路型分散補償器等を利用することができる。分散媒体を伝搬させることで、変調光の各周波数成分は、波長分散に応じてミキシングされる。
【0019】
以上、本実施形態による光NN装置では、光OFDM変調を使用する。例えば、DMTにおいては、8000程度のビンを使用してデータを送信するものが実用化されている。ここで、ビンの数は、スペクトラル変調器を使用する場合の上述した分解数Xに対応する。したがって、本実施形態の構成により、光ニューラルネットワーク装置の入力データのデータ量を大きくすることができる。
【0020】
<第二実施形態>
続いて、第二実施形態について第一実施形態との相違点を中心に説明する。図3は、本実施形態による光NN装置の構成図である。本実施形態において、処理部6は、出力データを演算部3にも出力する。演算部3は、DMT信号の総てのビンの内の一部のビン、例えば、1つのビンを出力データで変調し、残りのビンを入力データで変調する。出力データを再帰的に入力側にフィードバックすることで、光NN装置を予測等に使用することができる。
【0021】
以上の構成により、光ニューラルネットワーク装置の入力データのデータ量を大きくすることができるしたがって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1:光源、2:直交変調器、3:演算部、4:増幅器、5:非線形媒体
図1
図2
図3