(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067370
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】遺体保冷方法及び装置と、遺体保冷用の保冷剤
(51)【国際特許分類】
A61G 17/04 20060101AFI20240510BHJP
A01N 1/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A61G17/04 C
A01N1/02
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177393
(22)【出願日】2022-11-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-20
(71)【出願人】
【識別番号】398073123
【氏名又は名称】株式会社ニューシステムテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100104514
【弁理士】
【氏名又は名称】森 泰比古
(72)【発明者】
【氏名】吉田 栄樹
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011CA01
4H011CB03
4H011CC01
4H011CD06
(57)【要約】
【課題】遺体を適切な冷却状態で長期間保存可能とする。
【解決手段】遺体保冷装置1は、装置本体10から伸びるホース15の先端に接続された冷却部材30と、幅方向5区画の保冷ジェル封入部を柔軟な連結部で連結してなる保冷剤70とを備える。予め0℃前後に冷やした保冷剤70を保冷剤カバー60に収納しポケット62に温度センサ40を差し込んで保持させ、ポケット側を下にした状態で遺体Wの腹部上面に載せ、その上に冷却部30を載せてコンプレッサ110を運転する。コンプレッサ110は、温度センサ40の温度計測値が、設定温度に対して所定の温度収束範囲に収まる様に駆動・停止される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺体の腹部に置いた保冷剤の上に冷媒循環型の冷却部材を載置し、前記保冷剤を介して遺体を保冷するための方法であって、以下の手順を採用したことを特徴とする遺体保冷方法。
(手順1A)前記保冷剤として、冷却ジェルを封入する細長い封入部を幅方向に複数個並べた状態となる様に柔軟性を有する連結部で連結したものを準備し、予め0℃前後に冷やしておき、前記複数個の封入部を前記遺体の身長方向に沿わせる様に置くこと。
(手順1B)前記保冷剤及び前記冷却部材を前記遺体の上に置く際に、当該保冷剤の表面中央付近の温度を計測できる様に、前記保冷剤と、前記遺体若しくは前記冷却部材との間に挟み込む様に温度センサを設置すること。
(手順1C)前記冷却部材に対して冷媒を循環させるコンプレッサの駆動と停止を切り換えることにより、前記温度センサの計測値が所望の設定温度に対してプラスマイナス所定範囲内となる様に温度制御を実行すること。
【請求項2】
遺体の上に載置する保冷剤を、当該保冷剤の上に載置する冷媒循環型の冷却部材によって保冷する様に構成すると共に、さらに、以下の構成を備えることを特徴とする遺体保冷装置。
(2A)前記保冷剤は、冷却ジェルを封入する細長い封入部を幅方向に複数個並べた状態となる様に柔軟性を有する連結部で連結したものであること。
(2B)前記冷却部材に対して冷媒を循環させるホースに対して冷媒を循環させるコンプレッサの駆動・停止を制御する制御回路と、当該制御回路に対して温度制御条件を入力する入力手段とを備えていること。
(2C)先端に温度センサを備え、前記制御回路に対して計測信号を入力するための信号線であって、前記保冷剤の表面中央部の温度を検出可能とする様に、前記ホースに沿って配線された信号線を備えていること。
(2D)前記入力手段は、前記温度制御条件として前記保冷剤の表面中央部における設定温度及び当該設定温度に対してプラス側及びマイナス側に所定の温度収束範囲を入力し得る様に構成されていること。
(2E)前記制御回路は、前記コンプレッサの駆動と停止とを切り換えることにより、前記信号線を介して入力される温度検出値を、前記温度収束範囲内となる様にする温度制御を実行する様に構成されていること。
【請求項3】
さらに、以下の構成を備えることを特徴とする請求項2に記載の遺体保冷装置。
(3)前記保冷剤を、少なくとも一方の面の中央部に前記温度センサを収納するポケットを備える保冷剤カバーに収納する様に構成したこと。
【請求項4】
さらに、以下の構成を備えることを特徴とする請求項3に記載の遺体保冷装置。
(4A)前記冷却部材は、上面中央に先端へ伸びるトンネル部を有する上カバーを含む全体を布製の冷却部材カバーで覆われ、前記ホースは、断熱用のウレタンシートが巻き付けられると共に、筒状の保護カバーで覆われていること。
(4B)前記信号線は、前記ウレタンシートに保持されると共に前記トンネル部に差し通されて前記冷却部材の先端部から下面側へと取り回された上で外に引き出され、前記保冷剤カバーのポケットに前記温度センサを挿入した状態で前記遺体との間に挟み込んだ状態に設置可能な長さを有していること。
【請求項5】
以下の構成を備えることを特徴とする遺体保冷用の保冷剤。
(5)冷却ジェルを封入する細長い封入部を幅方向に複数個並べた状態となる様に柔軟性を有する連結部で連結したものであって、少なくとも一方面の中央部に温度センサ収納用のポケットを備える保冷剤カバーに収納されていること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体を保冷するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人口に対して火葬設備が少ない首都圏では火葬待ち7~10日ともいわれ、「火葬難民」の問題が発生している。また、欧米では90%以上といわれる「エンバーミング処置」の要望が我が国においても高まっている。このため、長期間にわたり遺体の腐敗等を防止する必要があり、一般的なドライアイス冷却による低温火傷や使用量増加に伴うCO2低減への逆行といった各種問題が指摘されている。
【0003】
これに対し、「冷媒を循環させ、冷媒蒸気を圧縮し、凝縮させた冷媒を膨張させ、蒸発させる際、気化熱を被冷却物体から奪うことを繰り返し行わせることによって、被冷却物体を冷却する冷凍機を備えた冷却装置であって、被冷却物体である遺体に当てる、プラスチックス製袋に封入した不凍液、その不凍液を介して遺体を冷却するところの、冷媒を通す中空状冷却板、その冷却板の裏面を覆うところのポリウレタン等よりなる断熱材、及びその断熱材を前記冷却板に留めるポリ塩ビ板等よりなるカバーよりなる冷却器を備えてなるもの(特許文献1)」や、「遺体に接する遺体接触面が設けられた冷却器と、冷媒を圧縮する圧縮機と、冷媒が通過する流路を構成する流路構成体と、を備え、流路構成体は、遺体接触面に設けられる吸熱用管路と、冷媒を吸熱用管路に送り込む送出管と、毛細管と、を有し、毛細管は、吸熱用管路と送出管との間に構成された冷却装置(特許文献2)」の提案がなされている。これら特許文献1,2の技術によれば、ドライアイスを多用することなく遺体を冷却保存することができると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-52182号公報(要約,
図1)
【特許文献2】特開2020-195740号公報(要約,
図1,
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術は、不凍液を収容した一つの袋体を遺体に密着させるため、予め冷やして固くなったものだと遺体との間に浮き上がりが生じることから、柔らかい常温のものを用いる必要があり、保冷状態に保つまでに時間がかかったり、十分な保冷ができなかったりする問題がある。これに対し、特許文献2の技術は、冷却器を直接遺体に接触させる構成であるため、遺体を冷やし過ぎてしまうという問題がある。この様に、特許文献1,2の技術は、遺体が十分に冷やされなかったり、逆に冷やされ過ぎるといった問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、遺体を適切な冷却状態で長期間保存可能とし、火葬難民問題の解決やエンバーミング要望への適確な対応を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明の遺体保冷方法は、遺体の腹部に置いた保冷剤の上に冷媒循環型の冷却部材を載置し、前記保冷剤を介して遺体を保冷するための方法であって、以下の手順を採用したことを特徴とする。
(手順1A)前記保冷剤として、冷却ジェルを封入する細長い封入部を幅方向に複数個並べた状態となる様に柔軟性を有する連結部で連結したものを準備し、予め0℃前後に冷やしておき、前記複数個の封入部を前記遺体の身長方向に沿わせる様に置くこと。
(手順1B)前記保冷剤及び前記冷却部材を前記遺体の上に置く際に、当該保冷剤の表面中央付近の温度を計測できる様に、前記保冷剤と、前記遺体若しくは前記冷却部材との間に挟み込む様に温度センサを設置すること。
(手順1C)前記冷却部材に対して冷媒を循環させるコンプレッサの駆動と停止を切り換えることにより、前記温度センサの計測値が所望の設定温度に対してプラスマイナス所定範囲内となる様に温度制御を実行すること。
【0008】
本発明の遺体保冷方法によれば、(手順1A)に記載した保冷剤を遺体の上に置くことにより、各袋体を浮き上がることなく設置することができる。また、冷却ジェルを用いているので、予め0℃前後に冷やしても凍結状態になりにくく、仮に凍結に近い状態であっても、袋体と袋体の間の連結部は柔軟性を持っているから、浮き上がりを生じることがない。また、保冷剤は予め0℃前後に冷やしてあるので、設置当初はコンプレッサを駆動しなくても遺体を徐々に冷却することができる。そして、(手順1B),(手順1C)の様に温度制御を実行することで、保冷剤の表面中央付近の温度を所望の設定温度に対して低すぎることなく、高すぎることなく維持することができる。
【0009】
また、上記目的を達成するためになされた本発明の遺体保冷装置は、遺体の上に載置する保冷剤を、当該保冷剤の上に載置する冷媒循環型の冷却部材によって保冷する様に構成すると共に、さらに、以下の構成を備えることを特徴とする。
(2A)前記保冷剤は、冷却ジェルを封入する細長い封入部を幅方向に複数個並べた状態となる様に柔軟性を有する連結部で連結したものであること。
(2B)前記冷却部材に対して冷媒を循環させるホースに対して冷媒を循環させるコンプレッサの駆動・停止を制御する制御回路と、当該制御回路に対して温度制御条件を入力する入力手段とを備えていること。
(2C)先端に温度センサを備え、前記制御回路に対して計測信号を入力するための信号線であって、前記保冷剤の表面中央部の温度を検出可能とする様に、前記ホースに沿って配線された信号線を備えていること。
(2D)前記入力手段は、前記温度制御条件として前記保冷剤の表面中央部における設定温度及び当該設定温度に対してプラス側及びマイナス側に所定の温度収束範囲を入力し得る様に構成されていること。
(2E)前記制御回路は、前記コンプレッサの駆動と停止とを切り換えることにより、前記信号線を介して入力される温度検出値を、前記温度収束範囲内となる様にする温度制御を実行する様に構成されていること。
【0010】
本発明の遺体保冷装置によれば、遺体の上に保冷剤を設置する際に各袋体を遺体の身長方向に沿わせる様に置けば、予め凍結に近い状態とした保冷剤であっても、袋体と袋体の間の連結部が柔軟性を持っているから浮き上がりを生じることがないので、0℃前後に冷やしておいた保冷剤を設置することが可能である。従って、予め0℃前後に冷やしておいた保冷剤を用いれば、設置当初はコンプレッサを駆動しなくても遺体を徐々に冷却することができる。そして、保冷剤の上に冷却部材を設置する際に、ホースに沿って配線された信号線を、保冷剤と、遺体若しくは冷却部材との間で、保冷剤の中央付近に先端の温度センサを挟み込む様に設置した後の適切な時期に制御回路による温度制御を開始させれば、保冷剤の表面中央部の温度を設定温度に対してプラス側及びマイナス側に所定の温度収束範囲に維持する温度制御が開始され、遺体の上に設置した保冷剤の表面中央付近の温度を所望の設定温度に対して低すぎることなく、高すぎることなく維持することができる。この結果、本発明の遺体保冷装置によれば、先の述べた本発明の遺体保冷方法を適確に実行することが可能となる。
【0011】
ここで、本発明の遺体保冷装置は、さらに、以下の構成をも備えたものとすることができる。
(3)前記保冷剤を、少なくとも一方の面の中央部に前記温度センサを収納するポケットを備える保冷剤カバーに収納する様に構成したこと。
【0012】
この遺体保冷装置によれば、温度センサを保冷剤の表面中央付近の温度を計測可能な位置に適確に保持することができる。例えば、(a)温度センサを収納したポケットを下面とする様に保冷剤を設置すれば、温度センサを保冷剤と遺体との間に適確に挟み込むことができ、(b)温度センサを収納したポケットを上面とする様に保冷剤を設置すれば、温度センサを保冷剤と冷却部材との間に適確に挟み込むことができる。なお、信号線は、(a)(b)の様な挟み込みを実施可能な長さとしておけばよい。
【0013】
この遺体保冷装置は、さらに、以下の構成をも備えたものとすることができる。
(4A)前記冷却部材は、上面中央に先端へ伸びるトンネル部を有する上カバーを含む全体を布製の冷却部材カバーで覆われ、前記ホースは、断熱用のウレタンシートが巻き付けられると共に、筒状の保護カバーで覆われていること。
(4B)前記信号線は、前記ウレタンシートに保持されると共に前記トンネル部に差し通されて前記冷却部材の先端部から下面側へと取り回された上で外に引き出され、前記保冷剤カバーのポケットに前記温度センサを挿入した状態で前記遺体との間に挟み込んだ状態に設置可能な長さを有していること。
【0014】
この遺体保冷装置によれば、保護カバー及びトンネル部によって保護した状態で信号線を配線し、かつ、上述の(a)の状態の挟み込みを適確に実施することができる。そして、冷却部材カバーを冷却材に被せることにより、結露を防止する等の作用・効果を発揮させることもできる。
【0015】
また、上記目的を達成するためになされた本発明の遺体保冷用の保冷剤は、以下の構成を備えることを特徴とする。
(5)冷却ジェルを封入する細長い封入部を幅方向に複数個並べた状態となる様に柔軟性を有する連結部で連結したものであって、少なくとも一方面の中央部に温度センサ収納用のポケットを備える保冷剤カバーに収納されていること。
【0016】
この遺体保冷用の保冷剤によれば、遺体の上に設置する際に各袋体を遺体の身長方向に沿わせる様に置けば、予め凍結に近い状態とした保冷剤であっても、袋体と袋体の間の連結部が柔軟性を持っているから浮き上がりを生じることがないので、0℃前後に冷やしておいた保冷剤を設置することが可能である。また、少なくとも一方の面の中央部に温度センサ収納用のポケットを備える保冷剤カバーに収納してあるので、保冷剤の表面中央付近の温度を計測する様に温度センサを適確に設置することができる。これにより、上述した本発明方法を適確に実施することができると共に、衛生面からも好ましい保冷剤となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、遺体を適切な冷却状態にて長期間保存可能となり、火葬難民問題の解決やエンバーミング要望への適確な対応を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例1を遺体保冷装置を示し、(A)は全体を示す斜視図、(B)は使用状態の横断面図、(C)は使用状態の縦断面図、(D)はホースの断面図である。
【
図2】実施例1の遺体保冷装置の冷却部を示し、(A)は下面から見た斜視図、(B)は上面から見た斜視図である。
【
図3】実施例1の遺体保冷装置の保冷部材を示し、(A)は袋体の下面図、(B)は袋体の上面図、(D)は冷却ジェルの正面図、(E)は袋体に冷却ジェルを収納する様子を示す説明図、(E)は冷却ジェルを収納した袋体に温度センサを装着する様子を示す説明図、(F)は温度センサを装着した保冷部材の下面図である。
【
図4】実施例1の遺体保冷装置を示し、(A)は制御系統のブロック図、(B)は操作パネルの上面図、(C)は温度制御処理のフローチャートである。
【
図5】実施例1の遺体保冷装置における保冷機能を例示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態について実施例で説明する。
【実施例0020】
実施例1の遺体保冷装置1は、
図1(A)に示す様に、装置本体10と、装置本体10から伸びるホース15と、ホース15の先端に接続された冷却部材30と、冷却部材30を覆う冷却部材カバー50と、保冷剤70及びこれを収納する保冷剤カバー60とを備えている。また、冷却部材30からは温度センサ40が伸ばされ、保冷剤カバー60には温度センサ40を差し込んで保持するポケット62が、下面側ほぼ中央に備えられている。冷却部材カバー50及び保冷剤カバー60の開口部内側には、それぞれ面ファスナ53,63が備えられている。
【0021】
本体10には、R134aを冷媒とするコンプレッサ110が収納され、上面には持ち運び用の取っ手11が、側面にはフィルタ12を交換可能に装着するためのフィルタ挿入枠13が備えられている。また、本体10の上面には操作パネル20が備えられている。なお、装置本体10の他の側面にはファンの吹き出し口や電源との接続部及び主電源スイッチ等が備えられている。
【0022】
遺体保冷装置1は、
図1(B),(C)に示す様に、十分に冷やした保冷剤70を保冷剤カバー60に収納し、この保冷剤カバー60のポケット62に温度センサ40を差し込んで保持させ、ポケット側を下にした状態で遺体Wの腹部上面に載せ、その上に冷却部30を載せてコンプレッサ110を運転する。このとき、冷却部材30には冷却部材カバー50が被されている。
【0023】
この際、
図1(C)に示す様に、冷却部材カバー50の開放端の面ファスナー53を部分的に開いておき、そこから信号線41を引き出し、温度センサ40を保冷剤カバー60のポケット62へと収納する。
【0024】
ホース15は、
図1(D)に示す様に、中心に冷媒往路16aを、その周囲にハニカム状の筒穴からなる冷媒復路16bを備える多重構造チューブ16の外側にウレタンシート17を巻き付けて断熱し、さらに外側を筒状の保護カバー18で覆ったものとなっている。多重構造チューブ16は、
図1(C)に示す様に、専用コネクタ36を介して冷却部材30に接続されている。
【0025】
温度センサ40の信号線41は、
図1(C),(D)に示す様に、ウレタンシート17に保持された状態で保護カバー18の内側を通って装置本体10へと接続される。この結果、運転中の装置本体10には、遺体Wと保冷剤70との間に挟まれた状態の温度センサ40が計測した温度が信号線41を介して入力されることとなる。
【0026】
冷却部材30は、
図2(A),(B)に示す様に、冷媒循環路32を形成した金属板31の上面側を発泡ポリウレタンで断熱し、さらにその上からプラスチック製カバー34を被せてネジ止め固定して組み立てられている。なお、金属板31はプレス加工によって冷媒循環路32を形成した2枚の金属板を冷媒循環用の銅管を挟み込む様にして接合してある。
【0027】
金属板31の先端中央には矩形の切り欠き部分(図示略)が形成されており、
図3(A)に示す様に、この切り欠き部分は、温度センサ40の信号線41を外部に引き出すための穴があけられた蓋体33で塞がれている。なお、本実施例においては、金属板31及び蓋体33の下面には塗装が施されている。
【0028】
プラスチック製カバー34の上面中央には、
図3(B)に示す様に、カマボコ状のトンネル部35が形成されている。温度センサ40の信号線41は、このトンネル部35を介してホース15側へと取り回され、
図1(D)に示した様に、ウレタンシート17に保持された状態で多重構造チューブ16に沿って装置本体10へと保護カバー18の内側に配線される。
【0029】
保冷剤カバー60は、
図3(A),(B)に示す様に、二つ折りした不織布シートの両サイドをヒートシールした袋体61の下面側中央に不織布製のポケット62をヒートシールしたものである。保冷剤70は、
図3(C)に示す様に、二つ折りしたプラスチックシートの両サイド及び両サイド間の所定位置をヒートシールして幅方向5区画のジェル封入部71~75を形成し、それぞれに保冷ジェルを充填した後、開口部をヒートシールしたものである。この保冷剤70を、
図3(D)に示す様に、保冷剤カバー60の開口側から袋体61の内部に挿入し、面ファスナ63で開口側を閉じた状態とする。このとき、保冷剤70は予め冷凍庫などで所定温度に冷却したものを用いる。
【0030】
冷却した保冷剤70を保冷剤カバー60に収納したら、
図3(E)に示す様に、温度センサ40をポケット62内に収納する。温度センサ40の先端は、
図3(F)に示す様に、保冷剤70の中央の区画73の真ん中当たりにおいてポケット62に収納された状態となる。これにより、実施例の遺体保冷装置1を使用する際には、
図1(B),(C)に示した様に、温度センサ40を、保冷剤70の中央において遺体Wとの間に挟み込んだ状態で温度計測を行うことができる。
【0031】
次に、本実施例の遺体保冷装置1の制御系統等について説明する。
図4(A)に示す様に、装置本体10には、操作パネル20及び温度センサ40からの信号を入力し、操作パネル20及びコンプレッサ10へと信号を出力する制御回路100が備えられている。
【0032】
操作パネル20は、
図4(B)に示す様に、電源スイッチ21、設定スイッチ22、温度設定スイッチ23,24、及びモニタ25を備えている。電源スイッチ21を押下することにより、制御回路100を介してコンプレッサ110へと起動指令が出力され、コンプレッサ110が動き始める。このとき、モニタ25には、現在の設定温度T0が表示される。設定温度T0を調整するときは、温度設定スイッチ23,24を用いる。「+」表記のスイッチ23を押下すると設定温度が上がり、「-」表記のスイッチ24を押下すると設定温度が下がる。温度設定スイッチ23,24の操作による設定温度T0の変更はモニタ25に表示される。モニタ25の表示が所望の温度になったところで設定スイッチ22を押下し、設定温度T0を確定させる。本実施例ではデフォルトにおける設定温度T0を+5℃としてあり、温度設定スイッチ23,24を押下する毎に1℃刻みで設定温度T0をアップ/ダウンすることができる様に構成してある。
【0033】
制御回路100は、操作パネル20の設定スイッチ22が押下されると、
図4(C)に示す温度制御処理を開始する。なお、この温度制御処理を開始する前提として、操作パネル20の電源スイッチ21が押下される必要がある。
【0034】
制御回路100は、設定温度T0を読み込んで記憶すると共に(S110)、温度センサ40から入力されるセンサ温度T1を読み込む(S120)。そして、T1をT0と比較し、T1≦T0-2℃となっているか否かを判定する(S130)。「YES」と判定された場合は、コンプレッサ110に対して停止指令を出力する(S140)。
【0035】
一方、S130の判定が「NO」の場合は、S140をパスして、T1≧T0+2℃となっているか否かを判定する(S150)。「YES」と判定された場合は、コンプレッサ110に対して駆動指令を出力する(S160)。
【0036】
次に、制御回路100は、温度設定T0が変更されたか否かを判定する(S170)。S170において「NO」の判定である場合はS120へ戻り、「YES」の判定の場合はS110へ戻る。なお、S150の判定が「NO」の場合は、S160をパスしてS170へ進む。S170の判定を適時実行するのは、運転開始後の環境温度の変化などに応じてユーザーが設定温度を変更する場合があるからである。
【0037】
制御回路100は、操作パネル20の電源スイッチ21が再び押下されてオフの指令がなされるまで、上述の温度制御処理を実行し続ける。
【0038】
次に、水を入れたポリケースを遺体Wに見立て、
図1(B),(C)の如く装置を設置し、ポリケース内の水温を10℃にて長時間維持し続けることを目標として設定温度T0=5℃として実験を行った。この実験結果を
図5のグラフに示す。グラフの横軸は1目盛90分である。
【0039】
実験に先立ち、予め冷凍庫で0℃に冷やした保冷剤70を用いた。また、実験は約26℃の室内において行った。実験中は、ジェル中心温度(Tj)、ポリケース内の水温(Tw)、環境温度(Ta)、及びコンプレッサ側面温度(Tc)等を計測した。
【0040】
実験開始時点では、十分に冷えた保冷剤70によってポリケース表面温度(Tp)が一旦下がっていることが分かる。この実験では、時刻t1に装置の運転を開始した結果、コンプレッサ側面温度(Tc)が急激に上昇し、これと呼応する様に、ジェル中心温度(Tj)、及びポリケース内の水温(Tw)が下降を開始した。これは、運転開始直後はS130=NO、S150=YESと判定されるためである。
【0041】
その後、時刻t2にコンプレッサ側面温度(Tc)が下降しているのは、コンプレッサの運転が停止されたことを表している。これは、ジェル中心温度(Tj)が十分低下している様に、S130=YES、S150=NOの判定に切り替わったことを示している。以後、時刻t3にコンプレッサ駆動、時刻t4にコンプレッサ停止、時刻t5にコンプレッサ駆動、時刻t6にコンプレッサ停止、・・・と、ジェル中心温度(Tj)の上昇と下降が繰り返される。そして、時刻t7を少し経過した辺りで、ポリケース内の水温(Tw)が10℃にサチュレートしていることが分かる。また、時刻t5以降においては、30分~45分の範囲でコンプレッサの駆動と停止が繰り返されていることも分かる。
【0042】
こうして、コンプレッサの駆動と停止が一定のパターンになる辺りから、遺体Wに見立てたポリケース内の水温(Tw)は、12℃付近まで下がり、時刻t7を少し経過した後は、長時間に渡って10℃を維持できているということも確認できる。
【0043】
以上の実験結果より、次の事柄が確認できる。
(イ)予め0℃前後に冷やした保冷剤を保冷剤カバーに収納し、保冷剤の中心の表面温度を計測する様に温度センサを設置し、当該保冷剤の上に冷媒循環型の冷却部材を載置し、温度センサの検出するセンサ温度が設定温度に対して所定範囲内となる様にコンプレッサの駆動と停止とを切り換える遺体保冷方法は、保冷剤を設定温度付近にサチュレートさせた状態を長時間にわたって維持することができる。
(ロ)特に、温度センサによる計測位置を遺体と保冷剤との間の位置とすることで(イ)の作用・効果を容易に発揮させることができる。
【0044】
なお、本実施例では、温度センサを保冷剤と遺体の間に設置したが、温度センサを保冷剤と冷却部材の間に設置することも可能である。
【0045】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内においてさらに種々の形態で実施することができる。
1・・・遺体保冷装置、10・・・装置本体、11・・・取っ手、12・・・フィルタ、13・・・フィルタ挿入枠、15・・・ホース、16・・・多重構造チューブ、16a・・・冷媒往路、16b・・・冷媒復路、17・・・ウレタンシート、18・・・保護カバー、20・・・操作パネル、21・・・電源スイッチ、22・・・設定スイッチ、23,24・・・温度設定スイッチ、25・・・モニタ、30・・・冷却部材、31・・・金属板、32・・・冷媒循環路、33・・・蓋体、34・・・プラスチック製カバー、35・・・トンネル部、36・・・専用コネクタ、40・・・温度センサ、41・・・信号線、50・・・冷却部材カバー、53・・・面ファスナ、60・・・保冷剤カバー、61・・・袋体、62・・・ポケット、63・・・面ファスナ、70・・・保冷剤、71~75・・・ジェル封入部、100・・・制御回路、110・・・コンプレッサ、W・・・遺体。
遺体の腹部に置いた保冷剤の上に冷媒循環型の冷却部材を載置し、前記保冷剤を介して遺体を保冷するための方法であって、以下の手順を採用したことを特徴とする遺体保冷方法。
(手順1A)前記保冷剤として、2枚重ねのプラスチックシートの両サイド及び両サイド間の所定位置をヒートシールすることにより、冷却ジェルを封入する細長い封入部を幅方向に複数個並べた状態となる様に連結したものを準備し、予め0℃前後に冷やしておき、前記複数個の封入部を前記遺体の身長方向に沿わせる様に置くこと。
(手順1B)前記保冷剤及び前記冷却部材を前記遺体の上に置く際に、当該保冷剤の表面中央付近の温度を計測できる様に、前記保冷剤と、前記遺体若しくは前記冷却部材との間に挟み込む様に温度センサを設置すること。
(手順1C)前記冷却部材に対して冷媒を循環させるコンプレッサの駆動と停止を切り換えることにより、前記温度センサの計測値が所望の設定温度に対してプラスマイナス所定範囲内となる様に温度制御を実行すること。
遺体の上に載置する保冷剤を、当該保冷剤の上に載置する冷媒循環型の冷却部材によって保冷する様に構成すると共に、さらに、以下の構成を備えることを特徴とする遺体保冷装置。
(2A)前記保冷剤は、2枚重ねのプラスチックシートの両サイド及び両サイド間の所定位置をヒートシールすることにより、冷却ジェルを封入する細長い封入部を幅方向に複数個並べた状態となる様に連結したものであること。
(2B)前記冷却部材に対して冷媒を循環させるホースに対して冷媒を循環させるコンプレッサの駆動・停止を制御する制御回路と、当該制御回路に対して温度制御条件を入力する入力手段とを備えていること。
(2C)先端に温度センサを備え、前記制御回路に対して計測信号を入力するための信号線であって、前記保冷剤の表面中央部の温度を検出可能とする様に、前記ホースに沿って配線された信号線を備えていること。
(2D)前記入力手段は、前記温度制御条件として前記保冷剤の表面中央部における設定温度及び当該設定温度に対してプラス側及びマイナス側に所定の温度収束範囲を入力し得る様に構成されていること。
(2E)前記制御回路は、前記コンプレッサの駆動と停止とを切り換えることにより、前記信号線を介して入力される温度検出値を、前記温度収束範囲内となる様にする温度制御を実行する様に構成されていること。
また、上記目的を達成するためになされた本発明の遺体保冷装置は、遺体の上に載置する保冷剤を、当該保冷剤の上に載置する冷媒循環型の冷却部材によって保冷する様に構成すると共に、さらに、以下の構成を備えることを特徴とする。
(2A)前記保冷剤は、2枚重ねのプラスチックシートの両サイド及び両サイド間の所定位置をヒートシールすることにより、冷却ジェルを封入する細長い封入部を幅方向に複数個並べた状態となる様に連結したものであること。
(2B)前記冷却部材に対して冷媒を循環させるホースに対して冷媒を循環させるコンプレッサの駆動・停止を制御する制御回路と、当該制御回路に対して温度制御条件を入力する入力手段とを備えていること。
(2C)先端に温度センサを備え、前記制御回路に対して計測信号を入力するための信号線であって、前記保冷剤の表面中央部の温度を検出可能とする様に、前記ホースに沿って配線された信号線を備えていること。
(2D)前記入力手段は、前記温度制御条件として前記保冷剤の表面中央部における設定温度及び当該設定温度に対してプラス側及びマイナス側に所定の温度収束範囲を入力し得る様に構成されていること。
(2E)前記制御回路は、前記コンプレッサの駆動と停止とを切り換えることにより、前記信号線を介して入力される温度検出値を、前記温度収束範囲内となる様にする温度制御を実行する様に構成されていること。