(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067372
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/76 20060101AFI20240510BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240510BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240510BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240510BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20240510BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240510BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
H01L29/78 652R
H01L29/78 652S
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652P
H01L29/78 652N
H01L29/06 301V
H01L29/06 301G
H01L29/06 301M
H01L29/78 658A
H01L29/78 658Z
H01L29/78 655A
H01L29/78 652T
H01L29/91 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177397
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鹿児山 陽平
(57)【要約】 (修正有)
【課題】炭化珪素半導体装置及び炭化珪素半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】炭化珪素からなり、おもて面にエピタキシャル領域を有する半導体基板10を備える炭化珪素半導体装置100であって、半導体基板に設けられた活性部110と、活性部の外周に設けられた耐圧構造部120と、耐圧構造部の外周に設けられた素子分離部130と、を備える。素子分離部は、エピタキシャル領域の上面にpoly-SiCからなる多形構造部132を有する。炭化珪素半導体装置の製造方法は、炭化珪素からなる半導体基板を設ける段階と、半導体基板に活性部を設ける段階と、活性部の外周に耐圧構造部を設ける段階と、耐圧構造部の外周に素子分離部を設ける段階と、素子分離部において、半導体基板のエピタキシャル領域の上面にpoly-SiCからなる多形構造部を設ける段階と、を備える。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなり、おもて面にエピタキシャル領域を有する半導体基板を備える炭化珪素半導体装置であって、
前記半導体基板に設けられた活性部と、
前記半導体基板において、前記活性部の外周に設けられた耐圧構造部と、
前記半導体基板において、前記耐圧構造部の外周に設けられた素子分離部と、
を備え、
前記素子分離部は、前記エピタキシャル領域の上面にpoly-SiCからなる多形構造部を有する、
炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記多形構造部は、前記半導体基板の結晶構造と異なる結晶構造を有する、
請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記多形構造部の結晶構造は、4H-SiC、6H-SiCまたは3C-SiCを含む、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記多形構造部は、前記半導体基板の深さ方向において、0よりも大きく、前記エピタキシャル領域の厚みの50%以下の厚みを有する、
請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記多形構造部は、前記半導体基板の深さ方向において、前記エピタキシャル領域の上面から5μm以下の厚みを有する、請求項4に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記炭化珪素半導体装置は、ウエハから個片化された炭化珪素半導体チップであって、
前記多形構造部は、前記炭化珪素半導体チップの第1端辺と、前記第1端辺と対向する第2端辺と、に設けられる、
請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項7】
前記第1端辺および前記第2端辺の延伸方向は、前記半導体基板の[11-20]方向である、請求項6に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項8】
前記炭化珪素半導体装置は、ウエハから個片化された炭化珪素半導体チップであって、
前記多形構造部は、前記炭化珪素半導体チップの4辺に設けられる、
請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項9】
前記多形構造部は、前記炭化珪素半導体チップの端辺上に位置する、請求項6から8のいずれか一項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項10】
炭化珪素からなる半導体基板を設ける段階と、
前記半導体基板に活性部を設ける段階と、
前記活性部の外周に耐圧構造部を設ける段階と、
前記耐圧構造部の外周に素子分離部を設ける段階と、
前記素子分離部において、前記半導体基板のエピタキシャル領域の上面にpoly-SiCからなる多形構造部を設ける段階と、
を備える、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記多形構造部を設ける段階の後に、前記半導体基板を活性化アニールする段階を備える、請求項10に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記活性化アニールする段階は、前記半導体基板を設ける段階の後で、最初に前記半導体基板を1500℃以上で活性化アニールする段階を含む、請求項11に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記多形構造部を設ける段階の前に、前記半導体基板にアラインメントマークを形成する段階を備える、請求項10に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記多形構造部を設ける段階は、前記エピタキシャル領域の上面へのレーザ照射によって前記多形構造部を形成する段階を含む、請求項10から13のいずれか一項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記レーザ照射によって前記多形構造部を形成する段階は、前記半導体基板の[11-20]方向に沿ってレーザ照射する段階を含む、請求項14に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記レーザ照射によって前記多形構造部を形成する段階は、前記半導体基板の[1-100]方向に沿ってレーザ照射する段階を含む、請求項15に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「切断面の内部方向に歪が発生することを抑制することで、長時間使用しても、信頼性が低下することのない炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法」が記載されている。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特許第6953876号公報
[非特許文献]
[非特許文献1] 本明拓也、高橋尚也、山田洋平、池野順一、"SiCのダメージレスレーザ加工"、2015年度精密工学会秋季大会学術講演会講演論文集、精密工学会、2015年8月20日、p.191-192
[非特許文献2] 角田陽、"355nm偏光UVレーザによる単結晶SiC面のナノレベル加工"、天田財団研究概要報告書・国際交流報告書、天田財団、2012年3月、第24号、p.236-239
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様においては、炭化珪素からなり、おもて面にエピタキシャル領域を有する半導体基板を備える炭化珪素半導体装置であって、前記半導体基板に設けられた活性部と、前記半導体基板において、前記活性部の外周に設けられた耐圧構造部と、前記半導体基板において、前記耐圧構造部の外周に設けられた素子分離部と、を備え、前記素子分離部は、前記エピタキシャル領域の上面にpoly-SiCからなる多形構造部を有する、炭化珪素半導体装置を提供する。
【0004】
前記炭化珪素半導体装置において、前記多形構造部は、前記半導体基板の結晶構造と異なる結晶構造を有してよい。
【0005】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置において、前記多形構造部の結晶構造は、4H-SiC、6H-SiCまたは3C-SiCを含んでよい。
【0006】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置において、前記多形構造部は、前記半導体基板の深さ方向において、0よりも大きく、前記エピタキシャル領域の厚みの50%以下の厚みを有してよい。
【0007】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置において、前記多形構造部は、前記半導体基板の深さ方向において、前記エピタキシャル領域の上面から5μm以下の厚みを有してよい。
【0008】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置は、ウエハから個片化された炭化珪素半導体チップであってよい。前記多形構造部は、前記炭化珪素半導体チップの第1端辺と、前記第1端辺と対向する第2端辺と、に設けられてよい。
【0009】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置において、前記第1端辺および前記第2端辺の延伸方向は、前記半導体基板の[11-20]方向であってよい。
【0010】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置において、前記炭化珪素半導体装置は、ウエハから個片化された炭化珪素半導体チップであってよい。前記多形構造部は、前記炭化珪素半導体チップの4辺に設けられてよい。
【0011】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置において、前記多形構造部は、前記炭化珪素半導体チップの端辺上に位置してよい。
【0012】
本発明の第2の態様においては、炭化珪素からなる半導体基板を設ける段階と、前記半導体基板に活性部を設ける段階と、前記活性部の外周に耐圧構造部を設ける段階と、前記耐圧構造部の外周に素子分離部を設ける段階と、前記素子分離部において、前記半導体基板のエピタキシャル領域の上面にpoly-SiCからなる多形構造部を設ける段階と、を備える、炭化珪素半導体装置の製造方法を提供する。
【0013】
前記炭化珪素半導体装置の製造方法において、前記多形構造部を設ける段階の後に、前記半導体基板を活性化アニールする段階を備えてよい。
【0014】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置の製造方法において、前記活性化アニールする段階は、前記半導体基板を設ける段階の後で、最初に前記半導体基板を1500℃以上で活性化アニールする段階を含んでよい。
【0015】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置の製造方法において、前記多形構造部を設ける段階の前に、前記半導体基板にアラインメントマークを形成する段階を備えてよい。
【0016】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置の製造方法において、前記多形構造部を設ける段階は、前記エピタキシャル領域の上面へのレーザ照射によって前記多形構造部を形成する段階を含んでよい。
【0017】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置の製造方法において、前記レーザ照射によって前記多形構造部を形成する段階は、前記半導体基板の[11-20]方向に沿ってレーザ照射する段階を含んでよい。
【0018】
上記いずれかの炭化珪素半導体装置の製造方法において、前記レーザ照射によって前記多形構造部を形成する段階は、前記半導体基板の[1-100]方向に沿ってレーザ照射する段階を含んでよい。
【0019】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】炭化珪素半導体装置100の上面図の一例を示す。
【
図1B】
図1Aで示した炭化珪素半導体装置100のPQRS領域の拡大図の一例を示す。
【
図1C】炭化珪素半導体チップ100aの上面図の一例を示す。
【
図3】
図1Bで示した炭化珪素半導体装置100のA-A'断面図の一例を示す。
【
図4A】
図1Bで示した炭化珪素半導体装置100のB-B'断面図の一例を示す。
【
図4B】
図1Bで示した炭化珪素半導体装置100のB-B'断面図の変形例を示す。
【
図5A】炭化珪素半導体装置100の上面図の変形例を示す。
【
図5B】
図5Aで示した炭化珪素半導体装置100のPQRS領域の拡大図の一例を示す。
【
図5C】炭化珪素半導体チップ100aの上面図の変形例を示す。
【
図6A】炭化珪素半導体装置100の製造プロセスのフローチャートの一例を示す。
【
図6B】炭化珪素半導体装置100の製造プロセスのフローチャートの変形例を示す。
【
図6C】炭化珪素半導体装置100の製造プロセスのフローチャートの変形例を示す。
【
図6D】炭化珪素半導体装置100の製造プロセスのフローチャートの変形例を示す。
【
図8A】炭化珪素半導体装置100における界面転位76の伸長阻止過程の一例を示す。
【
図8B】比較例に係る炭化珪素半導体装置における界面転位76の形成過程の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0022】
本明細書においては、半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」、「おもて」、「裏」の方向は重力方向、または、半導体装置の実装時における基板等への取り付け方向に限定されない。
【0023】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。本明細書では、半導体基板の上面と平行な面をXY面とし、半導体基板の深さ方向をZ軸とする。
【0024】
各実施例においては、第1導電型をN型、第2導電型をP型とした例を示しているが、第1導電型をP型、第2導電型をN型としてもよい。この場合、各実施例における基板、層、領域等の導電型は、それぞれ逆の極性となる。
【0025】
本明細書では、NまたはPを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、NやPに付す+および-は、それぞれ、それが付されていない層や領域よりも高ドーピング濃度および低ドーピング濃度であることを意味する。
【0026】
図1Aは、炭化珪素半導体装置100の上面図の一例を示す。炭化珪素半導体装置100は、半導体基板10を有し、半導体基板10において、活性部110と、耐圧構造部120と、素子分離部130と、多形構造部132と、を備える。炭化珪素半導体装置100は、半導体基板10において、アラインメントマーク150と、オリエンテーションフラット152を備えてよい。
【0027】
半導体基板10は、炭化珪素からなる。半導体基板10は、半導体基板10のおもて面11にエピタキシャル領域20を有してよい。半導体基板10のおもて面11およびエピタキシャル領域20については、後述する。半導体基板10のおもて面11およびエピタキシャル領域20は、
図1Aには図示されていない。一例として、半導体基板10の結晶構造は、4H-SiCである。
図1Aにおいて、X軸は炭化珪素からなる半導体基板10の[11-20]方向であってよく、Y軸は半導体基板10の[1-100]方向であってよく、Z軸は半導体基板10の[000-1]方向であってよい。
【0028】
活性部110は、半導体基板10に設けられる。活性部110は、炭化珪素半導体装置100の動作時に、主電流が流れる領域であってよい。一例として、活性部110は、絶縁ゲート型電界効果トランジスタ(MOSFET)構造を有するが、これに限定されない。本例の炭化珪素半導体装置100は、22個の活性部110を有しているが、ウエハ状態の炭化珪素半導体装置100に設けられる活性部110の数は、21個以下であってよく、23個以上であってよい。ウエハ状態の炭化珪素半導体装置100に設けられる活性部110の数は、ウエハ状態の炭化珪素半導体装置100を個片化するためのチップサイズ等に基づいて、適宜設計されてよい。
【0029】
耐圧構造部120は、半導体基板10において、活性部110の外周に設けられる。耐圧構造部120は、半導体基板10の上面側の電界集中を緩和してよい。一例として、耐圧構造部120は、接合終端(Junction Termination Extension、JTE)構造を有する。別の例として、耐圧構造部120は、ガードリング、フィールドプレート、リサーフおよびこれらを組み合わせた構造を有してよい。
【0030】
素子分離部130は、半導体基板10において、耐圧構造部120の外周に設けられる。素子分離部130は、ウエハ状態の炭化珪素半導体装置100が個片化された場合の各チップに設けられる活性部110および耐圧構造部120のそれぞれを分離する領域であってよい。すなわち、素子分離部130は、
図1Aに示すように、X軸方向に隣接する耐圧構造部120を離間する領域であってよく、Y軸方向に隣接する耐圧構造部120を離間する領域であってよい。または、素子分離部130は、半導体基板10において、活性部110および耐圧構造部120が設けられた領域以外の領域であってよい。
【0031】
耐圧構造部120と素子分離部130との境界は、耐圧構造部120の構造の端部によって定義されてよい。すなわち、耐圧構造部120が有する構造のうち、活性部110を中心として最も外側に設けられた構造の端部をもって、耐圧構造部120と素子分離部130との境界としてよい。耐圧構造部120の構造、および、耐圧構造部120と素子分離部130との境界の詳細については、後述する。
【0032】
素子分離部130は、poly-SiCからなる多形構造部132を有する。多形構造部132は、半導体基板10の結晶構造と異なる結晶構造を有してよい。半導体基板10の結晶構造が4H-SiCである場合、多形構造部132の結晶構造は、4H-SiC以外の構造を含んでよい。すなわち、多形構造部132の結晶構造は、4H-SiC、6H-SiCまたは3C-SiCを含んでよい。
【0033】
本例の多形構造部132は、X軸方向に平行に設けられている。多形構造部132は、半導体基板10の[11-20]方向に平行に設けられてよい。多形構造部132は、Y軸方向に隣接する耐圧構造部120が離間したすべての領域に設けられてよい。本例の炭化珪素半導体装置100においては、Y軸方向に最大で5つの活性部110および耐圧構造部120が設けられているため、少なくとも4つの多形構造部132が設けられている。多形構造部132は、最外側に位置する活性部110および耐圧構造部120のさらに外側に設けられてよい。本例の炭化珪素半導体装置100においては、多形構造部132が、最外側に位置する活性部110および耐圧構造部120のさらに外側に設けられているため、6つの多形構造部132が設けられている。
【0034】
多形構造部132が半導体基板10の[11-20]方向に設けられることによって、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中で発生する界面転位の伸長を阻止することができる。炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中で発生する界面転位は、半導体基板10の[1-100]方向に伸長する。多形構造部132が半導体基板10の結晶構造と異なる結晶構造を有することにより、多形構造部132においては、半導体基板10の[1-100]方向に相当する結晶方位が存在しないため、界面転位の伸長を阻止することができる。結果として、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中で界面転位が発生した場合においても、界面転位の伸長が多形構造部132でせき止められるため、界面転位の伸長により使用不能となる炭化珪素半導体チップの個数を低減することができる。炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中における界面転位の形成過程の詳細については、後述する。
【0035】
アラインメントマーク150は、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスにおける位置合わせに用いるためのマークである。アラインメントマーク150は、当業者に用いられる通常の方法により形成されることができる。本例のアラインメントマーク150は、半導体基板10上に4箇所設けられているが、これに限定されない。
【0036】
オリエンテーションフラット152は、半導体基板10の結晶方位の判別および/または位置合わせを容易にするためにウエハの外周に設けられるフラットな面である。一例として、オリエンテーションフラット152は、半導体基板10の[11-20]方向と平行に設けられる。半導体基板10の[1-100]方向と平行な他のオリエンテーションフラットがさらに設けられてよい。
【0037】
炭化珪素半導体装置100は、高電圧および/または大電流を制御するパワー半導体装置であってよい。一例として、炭化珪素半導体装置100は、MOSFETである。炭化珪素半導体装置100は、Pinダイオードであってよく、IGBTであってよい。炭化珪素半導体装置100は、ウエハ状態であってよく、個片化されたチップ状態であってよい。
【0038】
図1Bは、
図1Aで示した炭化珪素半導体装置100のPQRS領域の拡大図の一例を示す。破線で示された両矢印は、ウエハ状態の炭化珪素半導体装置100を個片化するためのダイシング領域134を表す。
【0039】
多形構造部132の延伸方向であるX軸方向に延伸するダイシング領域134は、多形構造部132に包含されてよい。多形構造部132の幅は、多形構造部132の延伸方向に延伸するダイシング領域134の幅よりも大きくてよく、該ダイシング領域134の両端は、多形構造部132の両端の内側にあってよい。すなわち、多形構造部132の延伸方向においては、炭化珪素半導体装置100は、多形構造部132の少なくとも一部をダイシングすることによって個片化されてよい。
【0040】
多形構造部132の延伸方向と垂直方向であるY軸方向に延伸するダイシング領域134の幅は、特に限定されない。一例として、多形構造部132の延伸方向と垂直方向に延伸するダイシング領域134の幅は、多形構造部132の延伸方向に延伸するダイシング領域134の幅と略同一であってよい。
【0041】
図1Cは、炭化珪素半導体チップ100aの上面図の一例を示す。炭化珪素半導体チップ100aは、個片化された状態の炭化珪素半導体装置100であってよい。炭化珪素半導体チップ100aは、半導体基板10を有し、半導体基板10において、活性部110と、耐圧構造部120と、素子分離部130と、多形構造部132とを備える。
【0042】
多形構造部132は、炭化珪素半導体チップ100aの第1端辺136と、第1端辺136と対向する第2端辺138と、に設けられる。第1端辺136および第2端辺138の延伸方向は、半導体基板10の[11-20]方向であってよい。多形構造部132は、炭化珪素半導体チップ100aの端辺上に位置してよい。
【0043】
図2は、活性部110の断面図の一例を示す。活性部110は、第1高濃度ベース領域13と、第2高濃度ベース領域14と、ベース領域15と、コンタクト領域16と、ソース領域18と、エピタキシャル領域20と、基底領域30と、絶縁膜38と、ゲートトレンチ部40と、バリアメタル50と、ソース電極52と、ドレイン電極54とを有する。第1高濃度ベース領域13と、第2高濃度ベース領域14と、ベース領域15と、コンタクト領域16と、ソース領域18と、エピタキシャル領域20と、基底領域30とは、半導体基板10の内部に設けられる。
【0044】
本例の活性部110は、トレンチ型MOSFET構造を有するが、これに限定されない。活性部110は、Pinダイオード構造を有してよく、IGBT構造を有してよい。活性部110は、
図2に示されるMOSFET構造を繰り返し有してよい。すなわち、活性部110は、
図2に示されるMOSFET構造が、例えばY軸方向に一定間隔で繰り返し設けられる構造であってよい。
【0045】
基底領域30は、半導体基板10の裏面12に設けられた第1導電型の領域である。基底領域30は、一例としてN+型である。基底領域30は、N+型の炭化珪素からなる炭化珪素基板であってよい。
【0046】
エピタキシャル領域20は、バッファ領域24と、第1ドリフト領域26と、第2ドリフト領域28とを含む。エピタキシャル領域20は、基底領域30の上方に炭化珪素をエピタキシャル成長させることによって設けられてよい。エピタキシャル領域20の下面22は、基底領域30の上面に接して設けられてよい。
【0047】
バッファ領域24は、基底領域30の上方に設けられた第1導電型の領域である。バッファ領域24は、一例としてN+型である。バッファ領域24は、N型のドーパントをドーピングしながら、炭化珪素をエピタキシャル成長させることによって設けられてよい。N型のドーパントは、一例として窒素原子である。
【0048】
第1ドリフト領域26は、バッファ領域24の上方に設けられた第1導電型の領域である。第1ドリフト領域26は、一例としてN-型である。第1ドリフト領域26は、N型のドーパントをドーピングしながら、炭化珪素をエピタキシャル成長させることによって設けられてよい。N型のドーパントは、一例として窒素原子である。第1ドリフト領域26のドーピング濃度は、バッファ領域24のドーピング濃度よりも低くてよい。
【0049】
第2ドリフト領域28は、第1ドリフト領域26の上方に設けられた第1導電型の領域である。第2ドリフト領域28は、一例としてN型である。第2ドリフト領域28は、N型のドーパントをドーピングしながら、炭化珪素をエピタキシャル成長させることによって設けられてよい。N型のドーパントは、一例として窒素原子である。別の例として、第2ドリフト領域28は、第1ドリフト領域26のドーピング濃度と同一の濃度で形成された後、N型のドーパントを注入することによって形成されてよい。第2ドリフト領域28のドーピング濃度は、第1ドリフト領域26のドーピング濃度よりも高くてよく、バッファ領域24のドーピング濃度よりも低くてよい。
【0050】
第1高濃度ベース領域13は、エピタキシャル領域20の上面21側に設けられた第2導電型の領域である。第1高濃度ベース領域13は、一例としてP+型である。第1高濃度ベース領域13は、第2ドリフト領域28を、第1ドリフト領域26の上方全面に形成した後、所望の開口部を有する酸化膜をマスクとして、P型のドーパントを注入することによって設けられてよい。P型のドーパントは、一例としてアルミニウム原子である。
【0051】
第2高濃度ベース領域14は、第1ドリフト領域26の上方に設けられた第2導電型の領域である。第2高濃度ベース領域14は、一例としてP型である。第2高濃度ベース領域14は、第2ドリフト領域28を、第1ドリフト領域26の上方全面に形成した後、所望の開口部を有する酸化膜をマスクとして、P型のドーパントを注入することによって設けられてよく、後述するゲートトレンチ部40の形成過程において、エッチングされてよい。P型のドーパントは、一例としてアルミニウム原子である。別の例として、第2高濃度ベース領域14は、第2ドリフト領域28を、第1ドリフト領域26の上方全面に所望の高さまで形成した後、所望の開口部を有する酸化膜をマスクとして、P型のドーパントを注入することによって設けられてよく、その後、第2高濃度ベース領域14の上方に、第2ドリフト領域28がさらに形成されてよい。
【0052】
ベース領域15は、エピタキシャル領域20の上方に設けられた第2導電型の領域である。ベース領域15は、一例としてP型である。ベース領域15は、P型のドーパントをドーピングしながら、エピタキシャル領域20の上方に炭化珪素をエピタキシャル成長させることによって設けられてよい。P型のドーパントは、一例としてアルミニウム原子である。
【0053】
コンタクト領域16は、ベース領域15の上方に設けられた第2導電型の領域である。コンタクト領域16は、一例としてP+型である。コンタクト領域16は、所望の開口部を有する酸化膜をマスクとして、ベース領域15の上面側の一部にP型のドーパントを注入することによって設けられてよい。P型のドーパントは、一例としてアルミニウム原子である。
【0054】
ソース領域18は、ベース領域15の上方に設けられた第1導電型の領域である。ソース領域18は、一例としてN+型である。ソース領域18は、所望の開口部を有する酸化膜をマスクとして、ベース領域15の上面側の一部にN型のドーパントを注入することによって設けられてよい。N型のドーパントは、一例として窒素原子である。別の例として、ソース領域18は、N型のドーパントをドーピングしながら、ベース領域15の上方に炭化珪素をエピタキシャル成長させることによって設けられてよい。
【0055】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面11に設けられる。ゲートトレンチ部40は、ベース領域15を貫通して第2ドリフト領域28に達して設けられてよい。ゲートトレンチ部40がベース領域15を貫通するとは、ベース領域15を形成してからゲートトレンチ部40を形成する順序で製造されたものに限定されない。ゲートトレンチ部40を形成した後に、ゲートトレンチ部40の側壁にベース領域15を形成したものも、ゲートトレンチ部40がベース領域15を貫通したものに含まれる。ゲートトレンチ部40の底部は、第2高濃度ベース領域14と接して設けられてよい。
【0056】
ゲートトレンチ部40は、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチ部40の内壁を覆って形成される。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチ部40の内壁の半導体を酸化することで形成されてよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチ部40の内部において、ゲート絶縁膜42よりも内側に形成される。ゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ゲートトレンチ部40は、半導体基板10のおもて面11において絶縁膜38によって覆われる。
【0057】
バリアメタル50は、絶縁膜38を覆うように設けられる。バリアメタル50の材料は、チタンまたは窒化チタンを含んでよい。
【0058】
ソース電極52は、絶縁膜38を挟んで、半導体基板10の上方に設けられる。ソース電極52は、金属を含む材料で形成される。ソース電極52の少なくとも一部の領域は、アルミニウム(Al)等の金属、または、アルミニウム‐シリコン合金(AlSi)、アルミニウム‐シリコン‐銅合金(AlSiCu)等の金属合金で形成されてよい。
【0059】
ドレイン電極54は、半導体基板10の裏面12に形成される。ドレイン電極54は、金属等の導電材料で形成される。
【0060】
以上のように、活性部110は、トレンチ型MOSFET構造を有してよい。活性部110の各構成要素について、その製造方法の例を述べたが、活性部110の製造方法は、上記の方法に限定されない。活性部110は、当業者によって用いられる通常の方法により製造されることができる。
【0061】
図3は、
図1Bで示した炭化珪素半導体装置100のA-A'断面図の一例を示す。本例の耐圧構造部120は、段差部60と、電界緩和領域62と、接合終端領域64とを有する。すなわち、本例の耐圧構造部120は、接合終端構造を有する。
【0062】
段差部60は、ベース領域15の外周に設けられる。段差部60は、半導体基板10の深さ方向において、ベース領域15の底面よりも深い位置まで設けられてよい。段差部60は、半導体基板10のおもて面11とエピタキシャル領域20の上面21とを接続してよい。すなわち、活性部110を中心として段差部60の端部よりも外側の耐圧構造部120、および、素子分離部130において、半導体基板10のおもて面11とエピタキシャル領域20の上面21とは、一致してよい。
【0063】
電界緩和領域62は、段差部60の端部近傍において第1高濃度ベース領域13と接して設けられ、第1ドリフト領域26の上方に設けられる、第2導電型の領域である。電界緩和領域62は、一例としてP型である。電界緩和領域62は、P型のドーパントを注入することによって設けられてよい。P型のドーパントは、一例としてアルミニウム原子である。電界緩和領域62のドーピング濃度は、第1高濃度ベース領域13のドーピング濃度よりも低くてよい。
【0064】
接合終端領域64は、第1ドリフト領域26の上方において電界緩和領域62と接して設けられる第2導電型の領域である。接合終端領域64は、一例としてP-型である。接合終端領域64は、P型のドーパントを注入することによって設けられてよい。P型のドーパントは、一例としてアルミニウム原子である。接合終端領域64のドーピング濃度は、電界緩和領域62のドーピング濃度よりも低くてよい。
【0065】
第1高濃度ベース領域13のドーピング濃度よりも電界緩和領域62および接合終端領域64のドーピング濃度を低くすることで、炭化珪素半導体装置100の耐圧を高くすることができる。
【0066】
耐圧構造部120と素子分離部130との境界は、耐圧構造部120の構造の端部によって定義されてよい。耐圧構造部120が有する構造のうち、活性部110を中心として最も外側に設けられた構造の端部をもって、耐圧構造部120と素子分離部130との境界としてよい。すなわち、接合終端領域64の端部が耐圧構造部120と素子分離部130との境界であってよい。
【0067】
以上のように、耐圧構造部120は、接合終端構造を有してよい。耐圧構造部120の各構成要素について、その製造方法の例を述べたが、耐圧構造部120の製造方法は、上記の方法に限定されない。耐圧構造部120は、当業者によって用いられる通常の方法により製造されることができる。
【0068】
図4Aは、
図1Bで示した炭化珪素半導体装置100のB-B'断面図の一例を示す。
図4Aの断面図は、素子分離部130の一部の断面図である。素子分離部130において、半導体基板10は、半導体基板10のおもて面11にエピタキシャル領域20を有する。すなわち、半導体基板10のおもて面11とエピタキシャル領域20の上面21とは、一致する。素子分離部130は、エピタキシャル領域20の上面にpoly-SiCからなる多形構造部132を有する。
【0069】
多形構造部132は、エピタキシャル領域20の上面21へのレーザ照射によって形成されてよい。多形構造部132がレーザ照射によって形成される場合、半導体基板10の[11-20]方向に沿ってレーザ照射してよい。すなわち、多形構造部132は、半導体基板10の[11-20]方向に延伸して設けられてよい。本例において、多形構造部132は、紙面に垂直なX軸方向に延伸して設けられる。多形構造部132がレーザ照射によって形成される場合、4H-SiCの結晶構造を有するエピタキシャル領域20のうちレーザが照射された部分の結晶構造が変化し、4H-SiC、6H-SiCまたは3C-SiCの結晶構造を含む多形構造部132が形成されてよい。
【0070】
多形構造部132は、半導体基板10の深さ方向において、0よりも大きく、エピタキシャル領域20の厚みの50%以下の厚みを有してよい。すなわち、多形構造部132の厚みTpは、0よりも大きく、エピタキシャル領域20の厚みTeの50%以下であってよい。また、多形構造部132は、半導体基板10の深さ方向において、エピタキシャル領域20の上面21から5μm以下の厚みを有してよい。すなわち、多形構造部132の厚みTpは、エピタキシャル領域20の上面21から5μm以下であってよい。多形構造部132の厚みTpをエピタキシャル領域20の厚みTeと比較して薄くすることで、多形構造部132が設けられることによって半導体基板10が破損する可能性を低減することができる。
【0071】
多形構造部132の幅は、ダイシング領域134の幅よりも広くてよく、ダイシング領域134の両端は、多形構造部132の両端の内側に設けられてよい。したがって、ウエハ状態の炭化珪素半導体装置100が個片化された場合、チップ状態の炭化珪素半導体装置100の端辺に多形構造部132が残存してよい。ダイシング領域の幅は、一例として100μmである。
【0072】
多形構造部132が半導体基板10の[11-20]方向に設けられることによって、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中で発生する界面転位の伸長を阻止することができる。炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中で発生する界面転位は、半導体基板10の[1-100]方向に伸長する。多形構造部132が半導体基板10の結晶構造と異なる結晶構造を有することにより、多形構造部132においては、半導体基板10の[1-100]方向に相当する結晶方位が存在しないため、界面転位の伸長を阻止することができる。結果として、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中で界面転位が発生した場合においても、界面転位の伸長が多形構造部132でせき止められるため、界面転位の伸長により使用不能となる炭化珪素半導体チップの個数を低減することができる。炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中における界面転位の形成過程の詳細については、後述する。
【0073】
図4Bは、
図1Bで示した炭化珪素半導体装置100のB-B'断面図の変形例を示す。本例において、多形構造部132は、Y軸方向に離間して2つ設けられている点で、
図4Aの例と相違する。それ以外の特徴については、
図4Aの例と同じであってよい。
【0074】
本例の多形構造部132は、ダイシング領域134の外側に、ダイシング領域134の両端とそれぞれ接して設けられている。この場合においても、ウエハ状態の炭化珪素半導体装置100が個片化された場合、チップ状態の炭化珪素半導体装置100の端辺に多形構造部132が残存してよい。すなわち、
図4Aおよび
図4Bのいずれの例においても、ウエハ状態の炭化珪素半導体装置100が個片化された場合、
図1Cに示す炭化珪素半導体装置100aが得られてよい。
【0075】
図5Aは、炭化珪素半導体装置100の上面図の変形例を示す。本例の多形構造部132は、X軸方向およびY軸方向に設けられている点で、
図1Aの例と相違する。それ以外の特徴については、
図1Aの例と同じであってよい。
【0076】
多形構造部132は、X軸方向およびY軸方向に延伸して設けられてよい。すなわち、多形構造部132は、半導体基板10の[11-20]方向および[1-100]方向に延伸して設けられてよい。多形構造部132が半導体基板10の[11-20]方向および[1-100]方向に延伸して設けられることで、多形構造部132が半導体基板10の[11-20]方向のみに延伸して設けられる場合と比較して、炭化珪素半導体装置100の製造工程中に生じる半導体基板10内の応力分布の偏りを改善することができ、応力による破損を抑制することができる。半導体基板10の[11-20]方向に延伸する多形構造部132の幅と、半導体基板10の[1-100]方向に延伸する多形構造部132の幅とは、略同一であってよい。
【0077】
図5Bは、
図5Aで示した炭化珪素半導体装置100のPQRS領域の拡大図の一例を示す。
【0078】
X軸およびY軸のいずれの方向においても、多形構造部132の幅は、ダイシング領域134の幅よりも大きくてよく、ダイシング領域134の両端は、多形構造部132の両端の内側にあってよい。すなわち、炭化珪素半導体装置100は、多形構造部132の少なくとも一部をダイシングすることによって個片化されてよい。
【0079】
図5Cは、炭化珪素半導体チップ100aの上面図の変形例を示す。本例の多形構造部132は、X軸方向およびY軸方向に設けられている点で、
図1Cの例と相違する。それ以外の特徴については、
図1Cの例と同じであってよい。
【0080】
多形構造部132は、炭化珪素半導体チップ100aの4辺に設けられてよい。すなわち、多形構造部132は、半導体基板10の[11-20]方向に設けられてよく、半導体基板10の[1-100]方向に設けられてよい。多形構造部132は、炭化珪素半導体チップ100aの端辺上に位置してよい。
【0081】
図6Aは、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスのフローチャートの一例を示す。本例は、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスのフローチャートの一例を示しており、これに限定されない。
【0082】
S100では、炭化珪素からなる半導体基板10を設ける。半導体基板10の結晶構造は、4H-SiCであってよく、半導体基板10の主面は、半導体基板10の[000-1]方向と垂直であってよい。
【0083】
S102では、半導体基板10にアラインメントマーク150を形成する。アラインメントマーク150の形成方法は、特に限定されず、当業者によって用いられる通常の方法により形成されることができる。
【0084】
S104では、半導体基板10のエピタキシャル領域20の上面21にpoly-SiCからなる多形構造部132を設ける。多形構造部132を設ける段階は、エピタキシャル領域20の上面21へのレーザ照射によって多形構造部132を形成する段階を含んでよい。多形構造部132がレーザ照射によって形成される場合、4H-SiCの結晶構造を有するエピタキシャル領域20のうちレーザが照射された部分の結晶構造が変化し、4H-SiC、6H-SiCまたは3C-SiCの結晶構造を含む多形構造部132が形成されてよい。
【0085】
多形構造部132を設けるためのレーザの波長は、300nm以上、600nm以下であってよい。一例として、レーザの波長は、352nmである。多形構造部132を設けるためのレーザのパルス幅は、1ps以上、100ps以下であってよい。一例として、レーザのパルス幅は、15psである。多形構造部132を設けるためのレーザのビーム径は、10μm以上、1mm以下であってよい。一例として、レーザのビーム径は、10μmである。多形構造部132を設けるためのレーザの発振周波数は、1MHz以上、300MHz以下であってよい。一例として、レーザの発振周波数は100MHzである。多形構造部132を設けるためのレーザのエネルギー密度は、1mJ/cm2以上、100mJ/cm2以下であってよい。一例として、レーザのエネルギー密度は20mJ/cm2である。多形構造部132を設けるためのレーザの走査速度は、1000μm/s以上、5000μm/s以下であってよい。一例として、レーザの走査速度は2000μm/sである。多形構造部132を設けるためのレーザ照射の各条件は上記に限定されず、多形構造部132が形成されるための適切な条件が適宜選択されてよい。
【0086】
レーザ照射によって多形構造部132を形成する段階は、半導体基板10の[11-20]方向に沿ってレーザ照射する段階を含んでよい。多形構造部132が半導体基板10の[11-20]方向に設けられることによって、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中で発生する界面転位の伸長を阻止することができる。炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中で発生する界面転位は、半導体基板10の[1-100]方向に伸長する。多形構造部132が半導体基板10の結晶構造と異なる結晶構造を有することにより、多形構造部132においては、半導体基板10の[1-100]方向に相当する結晶方位が存在しないため、界面転位の伸長を阻止することができる。結果として、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中で界面転位が発生した場合においても、界面転位の伸長が多形構造部132でせき止められるため、界面転位の伸長により使用不能となる炭化珪素半導体チップの個数を低減することができる。炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中における界面転位の形成過程の詳細については、後述する。
【0087】
レーザ照射によって多形構造部132を形成する段階は、半導体基板10の[1-100]方向に沿ってレーザ照射する段階を含んでよい。多形構造部132が半導体基板10の[11-20]方向および[1-100]方向に延伸して設けられることで、多形構造部132が半導体基板10の[11-20]方向のみに延伸して設けられる場合と比較して、炭化珪素半導体装置100の製造工程中に生じる応力に対する耐性を向上することができる。
【0088】
半導体基板にアラインメントマーク150を形成する段階(S102)は、多形構造部132を設ける段階(S104)の前であってよいが、これに限定されない。アラインメントマーク150を形成した後に多形構造部132を形成することで、多形構造部132の正確な位置合わせをすることができる。
【0089】
S106では、半導体基板10に活性部110を設ける。また、活性部110の外周に耐圧構造部120を設ける。活性部110はMOSFET構造を有してよく、耐圧構造部120は、接合終端構造を有してよいが、これに限定されない。活性部110および耐圧構造部120は、当業者によって用いられる通常の方法により製造されることができる。
【0090】
耐圧構造部120の外周に素子分離部130を設ける。素子分離部130を設ける段階は、活性部110および/または耐圧構造部120を設ける段階であってよい。すなわち、素子分離部130は、半導体基板10において、活性部110および耐圧構造部120が設けられた領域以外の領域であってよく、半導体基板10に活性部110および耐圧構造部120が設けられることにより、活性部110および耐圧構造部120が設けられた領域以外の領域である素子分離部130が設けられてよい。
【0091】
半導体基板10のエピタキシャル領域20の上面21にpoly-SiCからなる多形構造部132を設ける段階は、素子分離部130において、半導体基板10のエピタキシャル領域20の上面21にpoly-SiCからなる多形構造部132を設ける段階であってよい。多形構造部132が素子分離部130において設けられることは、素子分離部130が設けられた後に、多形構造部132が設けられる順序で製造されることに限定されない。多形構造部132が設けられた後に、多形構造部132を包含する領域に素子分離部130が設けられることも、多形構造部132が素子分離部130において設けられることに含まれる。
【0092】
S108では、多形構造部132を設ける段階(S104)の後に、半導体基板10を活性化アニールする。活性化アニールする段階は、半導体基板10を設ける段階(S100)の後で、最初に半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階を含んでよい。炭化珪素半導体装置100の製造プロセスにおいては、半導体基板10に注入されたイオンを固定化するためのアニール処理が複数含まれてよい。炭化珪素半導体装置100の製造プロセスにおいては、多形構造部132を設ける段階(S104)の前においてもアニールする段階が含まれてもよい。この場合、多形構造部132を設ける段階(S104)の前に行われるアニール処理のアニール温度は1500℃未満であることが好ましい。すなわち、半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階は、多形構造部132を設ける段階(S104)の後に初めて行われることが好ましい。
【0093】
炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中で発生する界面転位は、半導体基板10が加熱されて高温になることで、可動状態になる。界面転位が可動状態にある場合に、半導体基板10に応力がくわわると、界面転位が半導体基板10の[1-100]方向に伸長する。したがって、半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階の前に多形構造部132を設けることで、可動状態になった界面転位が伸長した場合も、多形構造部132によって界面転位の伸長を阻止することができる。これにより、界面転位の伸長により使用不能となる炭化珪素半導体チップの個数を低減することができる。炭化珪素半導体装置100の製造プロセスの途中における界面転位の形成過程の詳細については、後述する。
【0094】
図6Bは、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスのフローチャートの変形例を示す。本例のフローチャートは、活性部110および耐圧構造部120を設ける段階(S204)の後で、多形構造部132を設ける段階(S206)を備える点で、
図6Aの例と相違する。それ以外の特徴については、
図6Aの例と同じであってよい。すなわち、多形構造部132を設ける段階(S206)の後に、半導体基板10を活性化アニールする段階(S208)を備えてよく、活性化アニールする段階(S208)は、半導体基板10を設ける段階(S200)の後で、最初に半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階を含んでよい。半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階の前に多形構造部132を設けることで、可動状態になった界面転位が伸長した場合も、多形構造部132によって界面転位の伸長を阻止することができる。
【0095】
図6Cは、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスのフローチャートの変形例を示す。本例のフローチャートは、活性部110および耐圧構造部120を設ける段階(S304)の途中で、多形構造部132を設ける段階(S306)を備える点で、
図6Aおよび
図6Bの例と相違する。それ以外の特徴については、
図6Aおよび
図6Bの例と同じであってよい。すなわち、多形構造部132を設ける段階(S306)の後に、半導体基板10を活性化アニールする段階(S308)を備えてよく、活性化アニールする段階(S308)は、半導体基板10を設ける段階(S300)の後で、最初に半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階を含んでよい。半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階の前に多形構造部132を設けることで、可動状態になった界面転位が伸長した場合も、多形構造部132によって界面転位の伸長を阻止することができる。
【0096】
多形構造部132を設ける段階(S306)は、活性部110および耐圧構造部120を設ける段階(S304)の途中で行われてよい。すなわち、多形構造部132を設ける段階(S306)は、第2ドリフト領域28を設ける段階の前または後に行われてよく、第1高濃度ベース領域13を設ける段階の前または後に行われてよく、第2高濃度ベース領域14を設ける段階の前または後に行われてよく、ベース領域15を設ける段階の前または後に行われてよく、コンタクト領域16を設ける段階の前または後に行われてよく、ソース領域18を設ける段階の前または後に行われてよい。
【0097】
図6Dは、炭化珪素半導体装置100の製造プロセスのフローチャートの変形例を示す。本例のフローチャートは、アラインメントマークを形成する段階(S404)の前に、多形構造部132を設ける段階(S402)を備える点で、
図6Aから
図6Cの例と相違する。それ以外の特徴については、
図6Aから
図6Cの例と同じであってよい。すなわち、多形構造部132を設ける段階(S402)の後に、半導体基板10を活性化アニールする段階(S408)を備えてよく、活性化アニールする段階(S408)は、半導体基板10を設ける段階(S400)の後で、最初に半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階を含んでよい。半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階の前に多形構造部132を設けることで、可動状態になった界面転位が伸長した場合も、多形構造部132によって界面転位の伸長を阻止することができる。
【0098】
アラインメントマークを形成する段階(S404)の前に、多形構造部132を設ける(S402)場合、多形構造部132を形成するための位置合わせは、半導体基板10のオリエンテーションフラット152を用いて行われてよい。
【0099】
以上のように、本願の炭化珪素半導体装置100の製造方法は、多形構造部132を設ける段階を備えることを特徴とする。多形構造部132を設ける段階の順序は自由に変更することができる。多形構造部132を設ける段階は、最初に半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階の前であってよい。半導体基板10を1500℃以上で活性化アニールする段階の前に多形構造部132を設けることで、可動状態になった界面転位が伸長した場合も、多形構造部132によって界面転位の伸長を阻止することができる。
【0100】
図7は、界面転位76の形成過程の一例を示す。S500では、基底領域30の上方にエピタキシャル成長によってエピタキシャル領域20を形成する工程で、基底面70上に、基底面転位72が形成される。S502では、半導体基板10に1500℃以上の高温処理が施されると、基底面転位72が可動状態となり、基底面転位72の両端が貫通刃状転位74に変換されることで固定され、エピタキシャル領域20中をスライドし、エピタキシャル領域20の上面21付近で止まり、界面転位76が形成される。その後、S504では、半導体基板10に応力が加わることによって、界面転位76が半導体基板10の[1-100]方向に伸長する。界面転位76の伸長は、ウエハ状態の炭化珪素半導体装置100において、個片化された場合の炭化珪素半導体チップサイズの3チップ以上、5チップ以下の長さにわたるおそれがある。
【0101】
図8Aは、炭化珪素半導体装置100における界面転位76の伸長阻止過程の一例を示す。S502でエピタキシャル領域20の上面21付近に界面転位76が形成される。本例では、ウエハ状態の炭化珪素半導体装置100のうち、個片化された場合に炭化珪素半導体チップ100aとなる領域に、界面転位76が形成される例を示す。S504で界面転位76が伸長すると、炭化珪素半導体チップ100aと炭化珪素半導体チップ100bとの境界に設けられた多形構造部132によって、界面転位76の伸長が阻止される。したがって、本例の炭化珪素半導体装置100は、界面転位76の伸長方向である半導体基板10の[1-100]方向と垂直な方向である[11-20]方向に延伸する多形構造部132を設けることで、界面転位76の伸長を阻止し、炭化珪素半導体チップ100bにまで界面転位76が伸長することを妨げることで、界面転位76の伸長により使用不能となる炭化珪素半導体チップの個数を低減することができる。
【0102】
図8Bは、比較例に係る炭化珪素半導体装置における界面転位76の形成過程の一例を示す。比較例に係る炭化珪素半導体装置においては、多形構造部132が設けられていないため、界面転位76の伸長を阻止することができず、界面転位76の伸長により、炭化珪素半導体チップ100bも使用不能となってしまうおそれがある。
【0103】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0104】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0105】
10 半導体基板、11 半導体基板10のおもて面、12 半導体基板10の裏面、13 第1高濃度ベース領域、14 第2高濃度ベース領域、15 ベース領域、16 コンタクト領域、18 ソース領域、20 エピタキシャル領域、21 エピタキシャル領域20の上面、22 エピタキシャル領域20の下面、24 バッファ領域、26 第1ドリフト領域、28 第2ドリフト領域、30 基底領域、38 絶縁膜、40 ゲートトレンチ部、42 ゲート絶縁膜、44 ゲート導電部、50 バリアメタル、52 ソース電極、54 ドレイン電極、60 段差部、62 電界緩和領域、64 接合終端領域、70 基底面、72 基底面転位、74 貫通刃状転位、76 界面転位、100 炭化珪素半導体装置、110 活性部、120 耐圧構造部、130 素子分離部、132 多形構造部、134 ダイシング領域、136 第1端辺、138 第2端辺、150 アラインメントマーク、152 オリエンテーションフラット