(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067376
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法、抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法、及び抗炎症剤又は免疫疾患治療剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20240510BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240510BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20240510BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20240510BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240510BHJP
A61K 31/728 20060101ALN20240510BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61P29/00
A61K35/28
A61K38/20
A61P37/02
A61K31/728
【審査請求】未請求
【請求項の数】27
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177406
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】村松 和明
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BA30
4B065BB18
4B065BD38
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
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4C084NA05
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4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB111
4C084ZB112
4C086AA01
4C086AA02
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4C086MA01
4C086MA04
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087CA04
4C087DA32
4C087NA05
4C087ZB07
4C087ZB11
(57)【要約】
【課題】間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法を提供する。
【解決手段】間葉系幹細胞に分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させることを含む、間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法が提供される。また、間葉系幹細胞に分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させ、間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させることを含む、抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法が提供される。さらに、分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩に接触した間葉系幹細胞を含む、抗炎症剤又は免疫疾患治療剤が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞に分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させることを含む、間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸及び/又はその塩が、ポリグルタミル基で修飾された修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリグルタミル基がγ-ポリグルタミル基である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ヒアルロン酸の一構成単位に含まれるポリグルタミル基の数が0.0015以上0.5以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記抗炎症性サイトカインが抗炎症性インターロイキンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記抗炎症性インターロイキンがIL-10である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
間葉系幹細胞に分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させ、前記間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させることを含む、抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法。
【請求項8】
前記ヒアルロン酸及び/又はその塩が、ポリグルタミル基で修飾された修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリグルタミル基がγ-ポリグルタミル基である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ヒアルロン酸の一構成単位に含まれるポリグルタミル基の数が0.0015以上0.5以下である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記抗炎症性サイトカインが抗炎症性インターロイキンである、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記抗炎症性インターロイキンがIL-10である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記間葉系幹細胞が、炎症を有する患者に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記免疫疾患が移植片対宿主病である、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記間葉系幹細胞に前記分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させることが、前記間葉系幹細胞が接着培養されている間に実施される、請求項7に記載の方法。
【請求項16】
前記間葉系幹細胞に前記分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させた後、前記間葉系幹細胞を溶液中に浮遊させることをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記間葉系幹細胞が発現した抗炎症性サイトカインを回収することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩に接触した間葉系幹細胞を含む、抗炎症剤又は免疫疾患治療剤。
【請求項19】
前記ヒアルロン酸及び/又はその塩が、ポリグルタミル基で修飾された修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩である、請求項18に記載の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤。
【請求項20】
前記ポリグルタミル基がγ-ポリグルタミル基である、請求項19に記載の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤。
【請求項21】
ヒアルロン酸の一構成単位に含まれるポリグルタミル基の数が0.0015以上0.5以下である、請求項19に記載の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤。
【請求項22】
前記間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量が亢進している、請求項18に記載の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤。
【請求項23】
前記抗炎症性サイトカインが抗炎症性インターロイキンである、請求項22に記載の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤。
【請求項24】
前記抗炎症性インターロイキンがIL-10である、請求項23に記載の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤。
【請求項25】
炎症を有する患者に投与される、請求項18に記載の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤。
【請求項26】
前記免疫疾患が移植片対宿主病である、請求項18に記載の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤。
【請求項27】
前記間葉系幹細胞が溶液中に浮遊している、請求項18に記載の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法、抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法、及び抗炎症剤又は免疫疾患治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、多分化能を有する体性幹細胞であり、脂肪、臍帯、骨髄、及び滑膜等に存在する。間葉系幹細胞は、神経細胞、肝細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、及び血管内皮細胞等に分化することができる。そのため、間葉系幹細胞を、中枢神経系、肝臓、骨、関節、筋肉、及び心臓等の再生医療に応用する研究が進められている(例えば、特許文献1から4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5993113号公報
【特許文献2】特許第6867726号公報
【特許文献3】国際公開第2015/016357号
【特許文献4】特表2010-505764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法、抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法、及び抗炎症剤又は免疫疾患治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の態様に係る間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法は、間葉系幹細胞に分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させることを含む。
【0006】
上記の間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法において、ヒアルロン酸及び/又はその塩が、ポリグルタミル基で修飾された修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩であってもよい。
【0007】
上記の間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法において、ポリグルタミル基がγ-ポリグルタミル基であってもよい。
【0008】
上記の間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法において、ヒアルロン酸の一構成単位に含まれるポリグルタミル基の数が0.0015以上0.5以下であってもよい。
【0009】
上記の間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法において、抗炎症性サイトカインが抗炎症性インターロイキンであってもよい。
【0010】
上記の間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法において、抗炎症性インターロイキンがIL-10であってもよい。
【0011】
本発明の態様に係る抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法は、間葉系幹細胞に分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させ、間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させることを含む。
【0012】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法において、ヒアルロン酸及び/又はその塩が、ポリグルタミル基で修飾された修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩であってもよい。
【0013】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法において、ポリグルタミル基がγ-ポリグルタミル基であってもよい。
【0014】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法において、ヒアルロン酸の一構成単位に含まれるポリグルタミル基の数が0.0015以上0.5以下であってもよい。
【0015】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法において、抗炎症性サイトカインが抗炎症性インターロイキンであってもよい。
【0016】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法において、抗炎症性インターロイキンがIL-10であってもよい。
【0017】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法において、間葉系幹細胞が、炎症を有する患者に投与されてもよい。
【0018】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法において、免疫疾患が移植片対宿主病であってもよい。
【0019】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法において、間葉系幹細胞に分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させることが、間葉系幹細胞が接着培養されている間に実施されてもよい。
【0020】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法が、間葉系幹細胞に分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させた後、間葉系幹細胞を溶液中に浮遊させることをさらに含んでいてもよい。
【0021】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法が、間葉系幹細胞が発現した抗炎症性サイトカインを回収することをさらに含んでいてもよい。
【0022】
本発明の態様に係る抗炎症剤又は免疫疾患治療剤は、分子量が700,000以上であるヒアルロン酸及び/又はその塩に接触した間葉系幹細胞を含む。
【0023】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤において、ヒアルロン酸及び/又はその塩が、ポリグルタミル基で修飾された修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩であってもよい。
【0024】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤において、ポリグルタミル基がγ-ポリグルタミル基であってもよい。
【0025】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤において、ヒアルロン酸の一構成単位に含まれるポリグルタミル基の数が0.0015以上0.5以下であってもよい。
【0026】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤において、間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量が亢進していてもよい。
【0027】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤において、抗炎症性サイトカインが抗炎症性インターロイキンであってもよい。
【0028】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤において、抗炎症性インターロイキンがIL-10であってもよい。
【0029】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤において、炎症を有する患者に投与されてもよい。
【0030】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤において、免疫疾患が移植片対宿主病であってもよい。
【0031】
上記の抗炎症剤又は免疫疾患治療剤において、間葉系幹細胞が溶液中に浮遊していてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法、抗炎症剤又は免疫疾患治療剤の製造方法、及び抗炎症剤又は免疫疾患治療剤を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施例に係る細胞のIL-10のmRNAの発現量を示すゲルの写真である。
【
図2】実施例に係る細胞のIL-10のmRNAの発現量を示すゲルの写真である。
【
図3】実施例に係る細胞のIL-10のmRNAの発現量を示すゲルの写真である。
【
図4】実施例に係る細胞のIL-10のmRNAの発現量を示すゲルの写真である。
【
図5】参考例に係る間葉系幹細胞の分化能を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。本開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。
【0035】
本実施形態に係る間葉系幹細胞(MSC)の抗炎症性サイトカインの発現量を亢進させる方法は、間葉系幹細胞に分子量が700,000以上である高分子量のヒアルロン酸及び/又はその塩を接触させることを含む。以下、ヒアルロン酸及び/又はその塩を、単に「ヒアルロン酸」という場合がある。
【0036】
間葉系幹細胞は、ヒト由来であってもよいし、非ヒト動物由来であってもよい。間葉系幹細胞をヒトに投与する場合は、間葉系幹細胞はヒト由来であることが好ましい。
【0037】
ヒアルロン酸は、N-アセチル-D-グルコサミン及びD-グルクロン酸の2糖による繰り返し構造からなる直鎖の多糖である。ヒアルロン酸の由来は特に制限されないが、例えば、ストレプトコッカス属やラクトコッカス属等の乳酸菌由来、鶏冠由来、及びヒト由来等が挙げられる。
【0038】
ヒアルロン酸のカウンターイオンの有無については、特に限定されず、例えば、遊離型、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、及びアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0039】
ヒアルロン酸及び/又はその塩が、ポリグルタミル基で修飾された修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩であってもよい。以下、修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩を、単に「修飾ヒアルロン酸」という場合がある。
【0040】
修飾ヒアルロン酸においては、下記化学式(1)で示すように、γ-ポリグルタミル基(以下、単に「γ-PGA」ともいう。)のようなポリグルタミル基がヒアルロン酸に結合している。ポリグルタミル基は、L-ポリグルタミル基であってもよい。修飾ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸を、水溶性カップリング剤及び/又はカップリング補助剤を用いて、ポリグルタミン酸と反応させて得ることができる。理論に拘束されるものではないが、ポリグルタミル基の立体障壁は、ヒアルロニダーゼ等の分解酵素がヒアルロン酸を分解することを抑制するものと考えられる。
【化1】
【0041】
ポリグルタミン酸は、最終的に生体内で代謝可能な安全な物質であるものの、例えば体内にはポリグルタミン酸を基質とする直接的な分解酵素が存在しない部位があり得ること、ポリペプチドは抗原対象となりやすいこと、修飾後もヒアルロン酸の粘弾特性等の物理化学的特性に大きな変化を与えないことが好ましいこと、修飾後もヒアルロン酸の生理活性を維持させることが好ましいこと等に鑑み、修飾ヒアルロン酸の製造に用いられるポリグルタミン酸は、低分子型であることが好ましい。そのため、ポリグルタミン酸の分子量は、750以上20,000以下であり、750以上10,000以下であることが好ましく、1,000以上5,000以下であることがより好ましい。
【0042】
ヒアルロン酸にポリグルタミン酸を導入する際の水溶性カップリング剤及び/又はカップリング補助剤としては、例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDAC)などの水溶性カルボジイミドが使用可能である。カルボジイミドは、カルボキシル基とアミンを結合させることが可能である。また、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)又はその水溶性類似体(スルホ-NHS)を用いて、カルボキシル基にNHSエステルを導入した後、アミンと結合させてもよい。
【0043】
あるいは、ヒアルロン酸のN-アセチルグルコサミンのアセチルアミノ基を脱アセチル化してアミノ基に変換し、当該アミノ基と、ポリグルタミン酸のカルボキシル基とをアミド結合させることによっても、ヒアルロン酸をポリグルタミル基で修飾することが可能である。
【0044】
また、修飾ヒアルロン酸の製造方法においては、凍結乾燥により修飾ヒアルロン酸の粉末を得る工程をさらに含むことができる。あるいは、修飾ヒアルロン酸にアルコールを添加して、沈殿物を得る工程をさらに含むことができる。ここで、アルコールとしては、例えば、メタノール、及びエタノールが挙げられ、エタノールが好ましい。修飾ヒアルロン酸にアルコールを添加して、修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩の沈殿物を得ることにより、残存する試薬と分離した修飾ヒアルロン酸を得ることができる。また、修飾ヒアルロン酸の純度を、水中での透析等によりさらに上げることができる。
【0045】
修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩においては、ヒアルロン酸の一構成単位に含まれるポリグルタミル基の数が0.0015以上0.5以下であることが好ましく、0.002以上0.5以下であることがより好ましく、0.01以上0.2以下であることがよりさらに好ましい。ここで、「ヒアルロン酸の一構成単位」とは、グルクロン酸とN-アセチルグルコサミンとの二糖からなる一構成単位を意味する。
【0046】
修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩において、ヒアルロン酸の一構成単位に含まれるポリグルタミル基の数が0.0015以上0.5以下であることにより、ヒアルロニダーゼ等の分解酵素に対する分解抵抗性が得られ、かつ、ヒアルロン酸が本来有する生理活性を維持しやすい傾向にある。
【0047】
修飾ヒアルロン酸及び/又はその塩において、ヒアルロン酸の一構成単位に含まれるポリグルタミル基の数は、ビシンコニン酸(BCA:Bicinchoninic acid)法や、1H-NMRスペクトル解析によって同定することができる。
【0048】
ヒアルロン酸及び修飾ヒアルロン酸の分子量の下限は、700,000以上であり、725,000以上、750,000以上、775,000以上、800,000以上、1,000,000以上、1,500,000以上、又は2,000,000以上であってもよい。ヒアルロン酸及び修飾ヒアルロン酸の分子量の上限は、特に限定されないが、10,000,000,000以下、8,000,000,000以下、6,000,000,000以下、4,000,000,000以下、3,000,000,000以下、あるいは2,500,000,000以下が挙げられる。なお、分子量は平均分子量であってもよい。また、分子量が異なるヒアルロン酸を2種以上混合して用いてもよい。
【0049】
ヒアルロン酸及び修飾ヒアルロン酸の平均分子量は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーと多角度光散乱検出器を組み合わせる方法(SEC/MALS、例えば、「国立医薬品食品衛生研究所告」,2003年,121巻,p.30-33)やMorgan-Elson法とCarbazol硫酸法の組み合わせ等により求めることができる(特開2009-155486号公報参照)。以下、「修飾ヒアルロン酸」を、単に「ヒアルロン酸」という場合がある。
【0050】
間葉系幹細胞にヒアルロン酸を接触させる方法は、特に限定されない。例えば、培地中で間葉系幹細胞が培養されている場合、培地にヒアルロン酸を添加すればよい。培地におけるヒアルロン酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.3mg/mL以上、0.4mg/mL以上、0.5mg/mL以上、0.7mg/mL以上、0.9mg/mL以上、あるいは1.0mg/mL以上である。また、培地におけるヒアルロン酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、1000mg/mL以下、500mg/mL以下、あるいは100mg/mL以下である。間葉系幹細胞にヒアルロン酸を接触させる時間は、特に限定されないが、例えば、30分以上、60分以上、90分以上、120分以上、150分以上、あるいは180分以上である。また、間葉系幹細胞にヒアルロン酸を接触させる時間は、特に限定されないが、4日以下、3日以下、2日以下、あるいは1日以下である。
【0051】
分子量が700,000以上のヒアルロン酸に接触した間葉系幹細胞においては、抗炎症性サイトカインの発現量が亢進される。抗炎症性サイトカインは、例えば、IL-10、IL-12、IL-22、IL-37、IL-38、TGF-βである。間葉系幹細胞にヒアルロン酸に接触させた後に、培地から分子量が700,000以上のヒアルロン酸を除去したり、分子量が700,000以上のヒアルロン酸を含まない培地中で間葉系幹細胞を培養したりしても、間葉系幹細胞における抗炎症性サイトカインの発現量の亢進は維持される。
【0052】
培養器で接着培養されている間葉系幹細胞を酵素処理等により培養器から剥離すると、間葉系幹細胞の性質が変化する場合がある。しかし、接着培養されている間葉系幹細胞に分子量が700,000以上のヒアルロン酸を接触させた後に、間葉系幹細胞を培養器から剥離し、分子量が700,000以上のヒアルロン酸を含まない溶液中に懸濁して浮遊させた後においても、間葉系幹細胞における抗炎症性サイトカインの発現量の亢進は維持される。
【0053】
分子量が700,000以上のヒアルロン酸に接触した間葉系幹細胞が浮遊している溶液を体内に投与すると、体内において間葉系幹細胞が抗炎症性サイトカインを産生する。したがって、分子量が700,000以上のヒアルロン酸に接触した間葉系幹細胞は、抗炎症性サイトカインの投与を必要とする炎症又は免疫疾患の治療剤等の再生医療用治療薬として使用可能である。免疫疾患の例としては、骨髄移植の術後に生じるステロイド抵抗性の移植片対宿主病(GVHD)が挙げられるが、特に限定されない。
【0054】
間葉系幹細胞の患者への投与形態は特に限定されないが、静脈注射及び局所注射が例として挙げられる。患者に投与される間葉系幹細胞が含まれる溶液は、緩衝液であってもよいし、生理的食塩水であってもよい。間葉系幹細胞を患者に投与する際、溶液は、分子量が700,000以上のヒアルロン酸を含まなくともよい。また、間葉系幹細胞が発現した抗炎症性サイトカインを回収し、回収した抗炎症性サイトカインを患者に投与してもよい。
【0055】
間葉系幹細胞は、分子量が700,000以上のヒアルロン酸に接触していなくとも、体内の炎症性サイトカインに反応すると、抗炎症性サイトカインを産生する。しかし、分子量が700,000以上のヒアルロン酸に接触していない間葉系幹細胞を体内に投与しても、体内の炎症性サイトカインに反応してから抗炎症性サイトカインを産生するまで時間がかかるという問題がある。これに対し、分子量が700,000以上のヒアルロン酸に接触した間葉系幹細胞を体内に投与すると、体内に投与されてすぐに間葉系幹細胞は抗炎症性サイトカインを産生する。また、分子量が700,000以上のヒアルロン酸に接触した間葉系幹細胞は、体内の炎症性サイトカインに反応すると、抗炎症性サイトカインの産生をさらに増大させる。そのため、分子量が700,000以上のヒアルロン酸に接触した間葉系幹細胞は、抗炎症性サイトカインの投与が急がれる疾患の治療に有効である。
【0056】
また、本実施形態に係る方法によれば、人体に有害な物質や、オフターゲット変異のおそれがあるCrisper/Cas9システムなどの遺伝子編集技術を用いることなく、間葉系幹細胞の抗炎症性サイトカインの発現量を安全に亢進させることが可能である。
【0057】
以下、実施例及び比較例により本実施形態をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例0058】
(実施例1)
ラット骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)を1から2回継代培養した後、24ウェルプレートの各ウェルに、5×104個/cm2の細胞を播種した。培地には、10%ウシ胎児血清含有DMEM-LGを使用した。ウェルに細胞が接着したことを確認した後、炎症性サイトカインであるTNF-αの存在/非存在下で、1mg/mLのヒアルロン酸を培地に添加した後、37℃で3時間、細胞を培養した。ヒアルロン酸としては、分子量5000のヒアルロン酸、分子量100,000のヒアルロン酸、分子量800,000のヒアルロン酸、分子量2,000,000のヒアルロン酸、及び分子量1,500から5,000のγ-ポリグルタミル基で修飾されたヒアルロン酸(修飾前の分子量2,000,000)を用いた。
【0059】
その後、RNA抽出試薬(ISOGEN II、ニッポンジーン)を用いて、各細胞からRNAを抽出し、RNAの濃度を測定した。さらに、逆転写酵素を用いて、各細胞由来の同一量のRNAからcDNAを合成した。次に、特異的プライマーを用いて、cDNAから対象遺伝子の増幅を行なった後、アガロースゲル電気泳動法を用いてバンドを解析した。
【0060】
その結果、
図1及び
図2に示すように、分子量が800,000以上のヒアルロン酸を添加された細胞において、IL-10のmRNAの発現が亢進していることが確認された。また、TNF-αの存在下の細胞のほうが、TNF-αの非存在下の細胞と比較して、IL-10のmRNAの発現が亢進されていることが確認された。
【0061】
(実施例2)
ヒアルロン酸として分子量2,000,000のヒアルロン酸及びγ-ポリグルタミル基で修飾されたヒアルロン酸(修飾前の分子量2,000,000)を用い、濃度を変えた以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、
図3に示すように、ヒアルロン酸の濃度に依存して、IL-10のmRNAの発現が亢進していることが確認された。また、分子量2,000,000のヒアルロン酸より、γ-ポリグルタミル基で修飾されたヒアルロン酸(修飾前の分子量2,000,000)の方が、低濃度でIL-10のmRNAの発現を亢進させることが確認された。
【0062】
(実施例3)
ヒアルロン酸として分子量2,000,000のヒアルロン酸及びγ-ポリグルタミル基で修飾されたヒアルロン酸(修飾前の分子量2,000,000)を用い、実施例1と同様に、細胞が接着しているウェル中の培地に、TNF-αの存在/非存在下で、1mg/mLのヒアルロン酸を添加した後、37℃で24時間、細胞を培養した。その後、トリプシンを用いて、細胞をウェルから剥がし、ヒアルロン酸及びサイトカインを含まない新鮮な培地中に細胞を懸濁し、培地中に細胞を1時間浮遊させた。実施例1と同様の方法により、ウェルから剥がす前の細胞と、培地中に浮遊させた細胞のそれぞれにおけるIL-10のmRNAの発現を分析したところ、
図4に示すように、培地中に浮遊している細胞において、IL-10のmRNAの発現の亢進が維持されていることが確認された。
【0063】
(参考例)
実施例1から3で用いた細胞を骨芽細胞に分化させたところ、
図5に示すように、アリザリンレッド(Alizarin Red S染色キット、フナコシ)で染色され、骨芽細胞に分化したことが確認された。また、実施例1から3で用いた細胞を脂肪細胞に分化させたところ、
図5に示すように、オイルレッドOで染色され、脂肪細胞に分化したことが確認された。したがって、実施例1から3で用いた細胞は、分化能を有することが示された。