(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000674
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】3次元造形用組成物、及び歯科用造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20231226BHJP
A61K 6/836 20200101ALI20231226BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20231226BHJP
A61C 13/087 20060101ALI20231226BHJP
A61C 13/15 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/836
A61C5/70
A61C13/087
A61C13/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099509
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】高田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】上野 貴之
【テーマコード(参考)】
4C089
4C159
【Fターム(参考)】
4C089AA02
4C089BA13
4C089BD01
4C159RR02
4C159SS04
4C159TT03
(57)【要約】
【課題】強度が高く、耐摩耗性及び機械的強度が高い3次元造形用組成物を提供する。
【解決手段】重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有する3次元造形用組成物であって、前記無機粒子は、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、加水分解することが可能な基であり、R3は、炭素数が1以上6以下の炭化水素基であり、pは2又は3であり、qは5以上13以下の整数である。)で表される化合物により表面処理されている、3次元造形用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有する3次元造形用組成物であって、
前記無機粒子は、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、加水分解することが可能な基であり、R3は、炭素数が1以上6以下の炭化水素基であり、pは2又は3であり、qは5以上13以下の整数である。)
で表される化合物により表面処理されている、
3次元造形用組成物。
【請求項2】
前記無機粒子の体積中位粒径が0.1μm以上2.0μm以下である、
請求項1に記載の3次元造形用組成物。
【請求項3】
粘度が200mPa・s以上1500mPa・s以下である、
請求項1に記載の3次元造形用組成物。
【請求項4】
歯科用造形物の3次元造形に用いられる、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の3次元造形用組成物。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の3次元造形用組成物を積層し、歯科用造形物を3次元造形する工程を含む、
歯科用造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元造形用組成物、及び歯科用造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オブジェクトを三次元造形する技術が発展しており、例えば、歯科分野においても、歯科用造形物を三次元造形する技術が知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-43793号公報
【特許文献2】特表2016-505525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3次元造形物には、3次元造形を可能にしながら、高い耐摩耗性と機械的強度が求められる。
【0005】
本発明の課題は、耐摩耗性及び機械的強度が高い3次元造形物が得られる3次元造形用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有する3次元造形用組成物であって、前記無機粒子は、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、加水分解することが可能な基であり、R3は、炭素数が1以上6以下の炭化水素基であり、pは2又は3であり、qは5以上13以下の整数である。)で表される化合物により表面処理されている、3次元造形用組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、耐摩耗性及び機械的強度が高い3次元造形物が得られる3次元造形用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0009】
<3次元造形用組成物>
本実施形態の3次元造形用組成物は、重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有する。
【0010】
[重合性単量体]
重合性単量体は、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレートが挙げられる。本明細書において、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0011】
(メタ)アクリレートとしては、例えば、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ウレタンジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート等が挙げられる。これらの中でも、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート等のウレタン基を有さない(メタ)アクリレートが好ましい。これらの(メタ)アクリレートは、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0012】
3次元造形用組成物中の重合性単量体の含有量は特に限定されないが、下限は例えば、40質量%以上が好ましく、45質量%以上がより好ましく、50質量%以上が更に好ましい。また、上限は例えば、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下が更に好ましい。
【0013】
重合性単量体の含有量が40質量%以上であると、3次元造形用組成物の粘度を低下させ、造形物の曲げ強さを向上させることができる。また、重合性単量体の含有量が80質量%以下であると、得られた3次元造形物の耐摩耗性および曲げ強さが向上する。
【0014】
[無機粒子]
無機粒子は、下記一般式(1)
【化2】
で表される化合物により表面処理されている。式(1)中、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、加水分解することが可能な基であり、R3は、炭素数が1以上6以下の炭化水素基であり、pは2又は3であり、qは5以上13以下の整数である。なお、qは、好ましくは6以上11以下の整数であり、より好ましくは7以上9以下の整数である。
【0015】
無機粒子を表面処理するための表面処理剤としては、特に限定されないが、例えば、5-メタクリロイルオキシペンチルトリメトキシシラン、6-メタクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、7-メタクリロイルオキシヘプチルトリメトキシシラン、8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9-メタクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10-メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、12-メタクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13-メタクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシラン、5-メタクリロイルオキシペンチルトリエトキシシラン、6-メタクリロイルオキシヘキシルトリエトキシシラン、7-メタクリロイルオキシヘプチルトリエトキシシラン、8-メタクリロイルオキシオクチルトリエトキシシラン、9-メタクリロイルオキシノニルトリエトキシシラン、10-メタクリロイルオキシデシルトリエトキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリエトキシシラン、12-メタクリロイルオキシドデシルトリエトキシシラン、13-メタクリロイルオキシトリデシルトリエトキシシラン、5-メタクリロイルオキシペンチルトリプロポキシシラン、6-メタクリロイルオキシヘキシルトリプロポキシシラン、7-メタクリロイルオキシヘプチルトリプロポキシシラン、8-メタクリロイルオキシオクチルトリプロポキシシラン、9-メタクリロイルオキシノニルトリプロポキシシラン、10-メタクリロイルオキシデシルトリプロポキシシラン、11-メタクリロイルオキシウンデシルトリプロポキシシラン、12-メタクリロイルオキシドデシルトリプロポキシシラン、13-メタクリロイルオキシトリデシルトリプロポキシシラン等が挙げられる。これらの表面処理剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0016】
表面処理される無機粒子としては、例えば、シリカを主成分とし、必要に応じて、重金属、ホウ素、アルミニウム等の酸化物を含有する各種ガラス類(例えば、Eガラス、バリウムガラス、ランタンガラス)、各種セラミック類、複合酸化物(例えば、シリカ-チタニア複合酸化物、シリカ-ジルコニア複合酸化物)、カオリン、粘度鉱物(例えば、モンモリロナイト)、マイカ、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0017】
また、無機粒子の体積中位粒径は、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましく、0.2μm以上1.5μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上1.0μm以下であることが更に好ましい。無機粒子の体積中位粒径が0.1μm以上であると、3次元造形用組成物の硬化体の曲げ強さの低下が抑制され、2.0μm以下であると、耐摩耗性の低下が抑制される。
【0018】
本明細書において、体積中位粒径は、体積粒度分布における中位粒径を意味する。なお、体積粒度分布は、レーザー回折・散乱法により測定することができる。
【0019】
3次元造形用組成物中の無機粒子の含有量は特に限定されないが、下限は例えば、30質量%以上が好ましく、35質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましい。また、上限は例えば、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。
【0020】
無機粒子の含有量が30質量%以上であると、3次元造形用組成物の造形物の耐摩耗性および曲げ強さを向上させることができる。また、無機粒子の含有量が60質量%以下であると、3次元造形用組成物の粘度の増加が抑制され、造形物の製造が容易となる。
【0021】
[光重合開始剤]
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルビス(2-メトキシエチル)ケタール、4,4'-ジメチルベンジル-ジメチルケタール、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4'-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0022】
3次元造形用組成物中の光重合開始剤の含有量は、特に限定されず、下限は例えば、0.01質量%以上が好ましく、0.015質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。また、上限は例えば、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
【0023】
光重合開始剤の含有量が0.01質量%以上であると、造形物の製造が容易になる。また、重合開始剤の含有量が10質量%以下であると、造形物の製造が容易になり、造形物の変色が抑制される。
【0024】
本実施形態の3次元造形用組成物は、更に、第3級アミン、重合禁止剤、紫外線吸収剤、顔料等を必要に応じて含有してもよい。
【0025】
第3級アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン等の第3級脂肪族アミン;p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキル(例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸メチル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p-ジメチルアミノ安息香酸アミル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p-ジエチルアミノ安息香酸エチル、p-ジエチルアミノ安息香酸プロピル等)、7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N,2,4,6-ペンタメチルアニリン、N,N,2,4-テトラメチルアニリン、N,N-ジエチル-2,4,6-トリメチルアニリン等の第3級芳香族アミン;等が挙げられる。
【0026】
これらの第3級アミンは、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、第3級芳香族アミンであることが好ましく、p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキルであることがより好ましい。
【0027】
3次元造形用組成物中の第3級アミンの含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは0.015質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以上1質量%以下である。3次元造形用組成物中の光第3級アミンの含有量が0.01質量%以上10質量%以下であると、3次元造形用組成物の耐摩耗性及び機械的強度が向上する。
【0028】
重合禁止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、ハイドロキノン、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-メトキシフェノール等が挙げられる。これらの重合禁止剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0029】
3次元造形用組成物中の重合禁止剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.0005質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.001質量%以上3質量%以下、更に好ましくは0.005質量%以上1質量%以下である。3次元造形用組成物中の光重合開始剤の含有量が0.0005質量%以上5質量%以下であると、3次元造形用組成物の保存安定性が向上する。
【0030】
紫外線吸収剤としては、例えば、2,5-ビス(5-tert-ブチル-2-ベンゾオキサゾリル)チオフェン、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチルフェノール、2-シアノー3,3-ジフェニルアクリル酸2―エチルヘキシル等が挙げられる。
【0031】
紫外線吸収剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られる3次元造形物のプリント性を向上させる点で2,5-ビス(5-tert-ブチル-2-ベンゾオキサゾリル)チオフェンが好ましく、3次元造形用組成物の光安定性向上の点で2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチルフェノール、2-シアノー3,3-ジフェニルアクリル酸2―エチルヘキシル等が好ましい。
【0032】
3次元造形用組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.0005質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.001質量%以上3質量%以下、更に好ましくは0.005質量%以上1質量%以下である。3次元造形用組成物中の光重合開始剤の含有量が0.0005質量%以上5質量%以下であると、3次元造形用組成物の保存安定性が向上し、得られる3次元造形物のプリント性が向上する。
【0033】
顔料としては、例えば、二酸化チタン(白色)、酸化鉄(黄色・赤色)、四酸化三鉄(黒色)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0034】
3次元造形用組成物中の顔料の含有量は、0.001質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態の3次元造形用組成物の粘度は、例えば、200mPa・s以上1500mPa・s以下が好ましく、300mPa・s以上1300mPa・s以下がより好ましく、400mPa・s以上1000mPa・s以下が更に好ましい。3次元造形用組成物の粘度が200mPa・s以上1500mPa・s以下である場合、3次元造形用組成物の造形が容易になる。ここで、粘度は、B型粘度計で測定した35℃における粘度を示す。
【0036】
本実施形態の3次元造形用組成物では、上述のように、重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有し、該無機粒子が上記一般式(1)で表される化合物により表面処理されている。これにより、本実施形態の3次元造形用組成物は、得られる3次元造形物の3次元造形を可能にしながら、耐摩耗性及び機械的強度を向上させることができる。
【0037】
本実施形態の3次元造形用組成物は、その用途が制限されるものではないが、例えば、歯科用造形物の3次元造形に用いることができる。
【0038】
3次元造形される歯科用造形物としては、特に限定されないが、例えば、クラウン、ブリッジ、インレー、アンレー、ベニヤ、暫間歯、人工歯等の歯科用補綴物が挙げられる。
【0039】
本実施形態の歯科用造形物は、歯科用造形物の3次元造形に用いられることにより、得られる歯科用造形物に、本実施形態の3次元造形用組成物で得られる効果をそのまま付与することができる。
【0040】
具体的には、本実施形態の3次元造形用組成物は、上述のように、重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有し、該無機粒子が上記一般式(1)で表される化合物により表面処理されている。そのため、このような3次元造形用組成物を用いて3次元造形された歯科用造形物は、高い耐摩耗性及び機械的強度を示すことができる。
【0041】
また、本実施形態の3次元造形用組成物は、上述のように、無機粒子の体積中位粒径が0.1μm以上2.0μm以下である。そのため、このような3次元造形用組成物を用いて3次元造形された歯科用造形物は、高い耐摩耗性及び機械的強度を維持することができる。
【0042】
また、本実施形態の3次元造形用組成物は、上述のように、粘度が200mPa・s以上1500mPa・s以下である。そのため、このような3次元造形用組成物を用いて3次元造形された歯科用造形物は、3次元造形が容易になる。
【0043】
<歯科用造形物の製造方法>
本実施形態に係る歯科用造形物の製造方法は、本実施形態の3次元造形用組成物を積層し、歯科用造形物を3次元造形する工程を含む。本実施形態の製造方法で得られる歯科用造形物は、特に限定されないが、例えば、上述の3次元造形用組成物を用いて3次元造形される歯科用補綴物が挙げられる。
【0044】
3次元造形用組成物の積層には、公知の3Dプリンタを用いることができる。3Dプリンタの方式としては、例えば、ステレオリソグラフィー(SLA)方式、デジタルライトプロセッシング(DLP)方式等が挙げられるが、DLP方式が好ましい。DLP方式の3Dプリンタの市販品としては、例えば、MAX UV(Asiga製)等が挙げられる。
【0045】
3次元造形用組成物の積層する方法としては、例えば、3次元造形用組成物が収容されている容器に対して、上面から光を照射する方法(自由液面法)、下面から光を照射する方法(規制液面法)等が挙げられる。これらの中でも、規制液面法が好ましい。
【0046】
規制液面法を用いて、歯科用造形物を製造する場合、容器の下面は、光透過性を有し、容器の下方から発射された光が、容器の下面を透過して、3次元造形用組成物に照射される。
【0047】
本実施形態の3次元造形用組成物を用いて、歯科用造形物を製造する際に、3次元造形用組成物に照射される光としては、例えば、波長が380~450nmの紫外線、可視光線等が挙げられる。
【0048】
3次元造形用組成物に照射される光の光源としては、例えば、LEDレーザー、LEDランプ、LEDプロジェクター等が挙げられる。
【0049】
なお、歯科用造形物の製造方法は、歯科用造形物を洗浄する工程、3次元造形物を後重合する工程等を更に含んでいてもよい。
【0050】
本実施形態に係る歯科用造形物の製造方法では、本実施形態の3次元造形用組成物が歯科用造形物の3次元造形に用いられることにより、得られる歯科用造形物に、本実施形態の3次元造形用組成物で得られる効果をそのまま付与することができる。
【0051】
具体的には、本実施形態の3次元造形用組成物は、上述のように、重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有し、該無機粒子が上記一般式(1)で表される化合物により表面処理されている。そのため、本実施形態に係る歯科用造形物の製造方法では、このような3次元造形用組成物を用いて3次元造形されることで、得られる歯科用造形物が高い耐摩耗性及び機械的強度を示すことができる。
【0052】
また、本実施形態の3次元造形用組成物は、上述のように、無機粒子の体積中位粒径が0.1μm以上2.0μm以下である。そのため、本実施形態に係る歯科用造形物の製造方法では、このような3次元造形用組成物を用いて3次元造形されることで、得られる歯科用造形物が高い耐摩耗性及び機械的強度を維持することができる。
【0053】
また、本実施形態の3次元造形用組成物は、上述のように、粘度が200mPa・s以上1500mPa・s以下である。そのため、本実施形態に係る歯科用造形物の製造方法では、このような3次元造形用組成物を用いて3次元造形されることで、得られる歯科用造形物の3次元造形が容易になる。
【実施例0054】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。なお、以下において、単位のない数値は、特に断りのない限り、質量基準(質量%)である。
【0055】
<無機粒子の製造>
表1に示す条件で無機粒子を製造した。
【0056】
(無機粒子A-1)
体積中位粒径(以下、平均粒径という)が0.4μmの不定形のバリウムガラス粒子G018-053(ショット社製)を、8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシランで表面処理し、平均粒径が0.4μmの無機粒子A-1を得た。
【0057】
(無機粒子A-2)
平均粒径が0.7μmの不定形のバリウムガラス粒子G018-053(ショット社製)を用いた以外は、無機粒子A-1と同様にして、平均粒径が0.7μmの無機粒子A-2を得た。
【0058】
(無機粒子A-3)
平均粒径が1.5μmの不定形のバリウムガラス粒子G018-053(ショット社製)を用いた以外は、無機粒子A-1と同様にして、平均粒径が1.5μmの無機粒子A-3を得た。
【0059】
(無機粒子B-1)
8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシランの代わりに、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを用いた以外は、無機粒子A-2と同様にして、平均粒径が0.7μmの無機粒子B-1を得た。
【0060】
(無機粒子B-2)
8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシランの代わりに、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを用いた以外は、無機粒子A-3と同様にして、平均粒径が1.5μmの無機粒子B-2を得た。
【0061】
【0062】
<3次元造形用組成物の調製>
表2に示す組成で、3次元造形用組成物を調製した。調製した3次元造形用組成物はペースト状であった。
【0063】
【0064】
なお、表2における略号は、以下の通りである。
【0065】
Biss MEPP 1:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレートBPE-100(新中村化学工業製)
Biss MEPP 2:エトキシ化ビスフェノールA-ジメタクリレートBPE-500(新中村化学工業製)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
UDMA:ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート
TPO:(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキサイド
DME:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル
BHT:2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール
Tinuvin(登録商標) P:2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチルフェノール(BASF社製)
顔料:二酸化チタン(白色)を含む顔料
【0066】
<粘度>
B型粘度計を用いて、3次元造形用組成物(ペースト状)の35℃における粘度を測定した。
【0067】
粘度の評価は、粘度が1000mPa・s以下の場合を合格(良好)とし、粘度が1000mPa・sを超える場合を不合格(不良)とした。
【0068】
<3点曲げ強度>
CADソフトウェア(Asiga製、Composer(登録商標))を用いて、2×2×25mmの試験片を設計した後、DLP方式の3Dプリンタ(Asiga製、MAX385)及び3次元造形用組成物(ペースト状)を用いて、該試験片を3次元造形した。得られた3次元造形物をイソプロパノールで十分に洗浄した後、歯科用光重合器を用いて、3次元造形物を後重合し、試験片を作製した。
【0069】
耐水研磨紙を用いて、試験片を研磨した後、37℃の水中で24時間保管した。次に、小型卓上試験機(Shimadzu製、EZ test)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minで、試験片の3点曲げ試験を実施し、機械的強度として3点曲げ強度を測定した。
【0070】
3点曲げ強度の評価は、3点曲げ強度が120MPa以上の場合を合格(良好)とし、3点曲げ強度が120MPa未満の場合を不合格(不良)とする。
【0071】
調整した3次元造形用組成物について、下記の試験を行い、評価した。評価結果を表2に示す。
【0072】
<摩耗量>
CADソフトウェア(Asiga製、Composer(登録商標))を用いて、試験片の形状に設計した後、DLP方式の3Dプリンタ(Asiga製、MAX385)及び3次元造形用ペーストを用いて、該試験片を3次元造形した。3次元造形物をイソプロパノールで十分に洗浄した後、歯科用光重合器を用いて、3次元造形物を後重合し、37℃の蒸留水中で24時間保管し、試験片を得た。
【0073】
試験片を咬摩耗試験装置(東京技研社製)に取り付け、#1000研磨紙で未重合層を研磨した後、試験前の試験体の全長を測定した。グリセリン及びポリメチルアクリレート(PMMA)(三菱レイヨン社製、アクリコンAC)を等量ずつ混練したスラリーを咬摩耗試験装置に敷き、ポリメチルアクリレート(PMMA)板に対して上下左右10万回の咬合を想定した試験を行い、該試験後の試験片の全長を測定し、試験前後の差を摩耗量とし、耐摩耗性を評価した。
【0074】
耐摩耗性の評価は、摩耗量が20μm以下の場合を合格(良好)とし、摩耗量が20μmを超える場合を不合格(不良)とした。
【0075】
表2から、重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有し、該無機粒子が8-メタクリロイルオキシオクチルトリメトキシシランで表面処理された3次元造形用組成物を用いて得られた3次元造形物は、粘度、3点曲げ強度、耐摩耗性のいずれも良好であった(実施例1~7)。
【0076】
これに対して、重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有し、該無機粒子が3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理された3次元造形用組成物を用いて3次元造形した造形物は、粘度、3点曲げ強度、耐摩耗性の少なくとも1つが不良であった(比較例1~4)。
【0077】
これらの結果から、重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有し、該無機粒子が上記一般式(1)で表される化合物により表面処理されている3次元造形用組成物は、得られる3次元造形物の3次元造形を可能にしながら、耐摩耗性及び機械的強度を向上させることができることが判った。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0079】
以上に開示された実施形態は、例えば、以下の態様を含む。
(付記1)
重合性単量体、無機粒子、及び光重合開始剤を含有する3次元造形用組成物であって、
前記無機粒子は、下記一般式(1)
【化3】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基であり、R2は、加水分解することが可能な基であり、R3は、炭素数が1以上6以下の炭化水素基であり、pは2又は3であり、qは5以上13以下の整数である。)
で表される化合物により表面処理されている、3次元造形用組成物。
(付記2)
前記無機粒子の体積中位粒径が0.1μm以上2.0μm以下である、付記1に記載の3次元造形用組成物。
(付記3)
粘度が200mPa・s以上1500mPa・s以下である、付記1又は2に記載の3次元造形用組成物。
(付記4)
歯科用造形物の3次元造形に用いられる、付記1乃至3の何れか一つに記載の3次元造形用組成物。
(付記5)
付記1乃至4の何れか一項に記載の3次元造形用組成物を積層し、歯科用造形物を3次元造形する工程を含む、歯科用造形物の製造方法。