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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006740
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】エアフィルターおよび空気浄化設備
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/08 20060101AFI20240110BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20240110BHJP
   F24F 8/167 20210101ALI20240110BHJP
【FI】
B01D39/08 Z
A61L9/00 C
F24F8/167
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107917
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】金法 順正
(72)【発明者】
【氏名】浜口 裕香
【テーマコード(参考)】
4C180
4D019
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA16
4C180BB08
4C180CC03
4C180CC15
4C180DD09
4C180EA06X
4C180EA07X
4C180EA26X
4C180EA27X
4C180EA28X
4C180EA30X
4C180EA33X
4C180EA34X
4C180HH05
4D019AA01
4D019BA04
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB02
4D019BC07
4D019BC11
4D019BD01
4D019BD02
4D019CA02
4D019DA03
4D019DA08
(57)【要約】
【課題】長寿命で、圧力損失が小さく、オイルミストを捕集する能力に優れるエアフィルター、および前記エアフィルターを備えた空気浄化設備を提供する。
【解決手段】2以上の開口部を有する経編地からなる表地と、開口部を有さず式(1)で求められるCF値が450以上900以下の組織の経編地からなる裏地と、前記表地と前記裏地とを連結する連結糸とで構成される二重構造編地からなるエアフィルターが提供される。
式(1):CF=(DC1/2+DW1/2)×F
DC:裏地のコース密度(個/2.54cm)
DW:裏地のウェール密度(個/2.54cm)
F:裏地の糸の繊度(dtex)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の開口部を有する経編地からなる表地と、
開口部を有さず、下記の式(1)で求められるCF値が450以上900以下の組織の経編地からなる裏地と、
前記表地と前記裏地を連結する連結糸とから構成される二重構造編地からなる、エアフィルター。
CF=(DC1/2+DW1/2)×F (1)
(但し、式中、DCは裏地のコース密度(個/2.54cm)、DWは裏地のウェール密度(個/2.54cm)、Fは裏地の糸の繊度(dtex)を表す。)
【請求項2】
前記連結糸の繊度が7dtex以上40dtex以下である、請求項1に記載のエアフィルター。
【請求項3】
前記表地の開口率が25%以上60%以下である、請求項1に記載のエアフィルター。
【請求項4】
光触媒が繊維表面に付着している、請求項1に記載のエアフィルター。
【請求項5】
前記二重構造編地を構成する繊維が1.4倍以上延伸されているポリエステル糸である、請求項1に記載のエアフィルター。
【請求項6】
前記ポリエステル糸に防炎剤が吸尽されている、請求項5に記載のエアフィルター。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のエアフィルターが少なくとも1箇所に設置され、前記エアフィルターの表地が風上側に向けて配置されている、空気浄化設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルター、およびそのエアフィルターを備えた空気浄化設備に関する。
【背景技術】
【0002】
機械が稼働している環境、切削加工が行われている環境、加熱調理が行われている環境等のオイルミストが飛散している環境では、排気設備や空気浄化設備を用いて、その環境(室内)の空気を浄化している。具体的には、排気設備や空気浄化設備を用いて、オイルミストを含む空気を吸引して集塵機構に導き、集塵機構を通してオイルミスト等が除去された清浄な空気を外界へ排気したり、室内へ返送したりしている。オイルミストは、機械の稼動時の潤滑油、切削加工時の切削油、加熱調理の際の調理油等に由来する。排気設備としては、ドラフトチャンバーや換気扇等が用いられている。空気浄化設備としては、空気清浄機等が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0003】
集塵機構としては、例えば、空気中からオイルミストやほこり等のエアロゾルをろ過するエアフィルター方式、放電極の作用で帯電したエアロゾルを集塵極に静電引力で吸着する電気集塵方式、強力な旋回気流を発生させ遠心力でエアロゾルを除去するサイクロン方式、吸引した空気を水等の吸着媒に通すことでエアロゾルを除去するスクラバー方式等が挙げられる。エアフィルター方式は、他の方式と組み合わせて、粗塵を除去する補助的な役割を担っている場合も多い。
【0004】
大規模な工場等では、工場建設の段階で、電気集塵機、サイクロン集塵機、スクラバー等の空気浄化設備が設置される。飲食店等の比較的小規模な施設の場合、前記の空気浄化設備のような大型設備を導入すると、初期投資が大幅にかさむ。そのため、空気浄化設備としては、比較的簡易に設置でき、メンテナンスも容易なエアフィルター方式の集塵機構を備えたものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-32503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
飲食店等の空気の浄化が不十分であると、店内に食品の臭気がこもったり、近隣に臭気を拡散させたりしてしまう。そのため、エアフィルター方式の集塵機構では、高性能なエアフィルターを用いる必要がある。
【0007】
エアフィルターを選定する際の基準としては、長寿命であること、圧力損失が小さいこと、発生するエアロゾルを効率よく捕集できること等が挙げられる。しかしながら、このような基準を全て満たす高性能なエアフィルターは高価であった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、長寿命で、圧力損失が小さく、オイルミストを捕集する能力に優れるエアフィルター、およびそのエアフィルターを備えた空気浄化設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1]2以上の開口部を有する経編地からなる表地と、
開口部を有さず、下記の式(1)で求められるCF値が450以上900以下の組織の経編地からなる裏地と、
前記表地と前記裏地を連結する連結糸とから構成される二重構造編地からなる、エアフィルター。
CF=(DC1/2+DW1/2)×F (1)
(但し、式中、DCは裏地のコース密度(個/2.54cm)、DWは裏地のウェール密度(個/2.54cm)、Fは裏地の糸の繊度(dtex)を表す。)
[2]前記連結糸の繊度が7dtex以上40dtex以下である、[1]に記載のエアフィルター。
[3]前記表地の開口率が25%以上60%以下である、[1]に記載のエアフィルター。
[4]光触媒が繊維表面に付着している、[1]に記載のエアフィルター。
[5]前記二重構造編地を構成する繊維が1.4倍以上延伸されているポリエステル糸である、[1]に記載のエアフィルター。
[6]前記ポリエステル糸に防炎剤が吸尽されている、[5]に記載のエアフィルター。
[7][1]~[6]のいずれかに記載のエアフィルターが少なくとも1箇所に設置され、前記エアフィルターの表地が風上側に向けて配置されている、空気浄化設備。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長寿命で、圧力損失が小さく、オイルミストを捕集する能力に優れるエアフィルター、およびそのエアフィルターを備えた空気浄化設備を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のエアフィルターおよび空気浄化設備の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
[エアフィルター]
本発明の一実施形態に係るエアフィルターは、2以上の開口部を有する経編地からなる表地と、開口部を有さず、下記の式(1)で求められるCF値が450以上900以下の組織の経編地からなる裏地と、前記表地と前記裏地を連結する連結糸とから構成される二重構造編地からなる、エアフィルターである。
【0013】
CF=(DC1/2+DW1/2)×F (1)
(但し、式中、DCは裏地のコース密度(個/2.54cm)、DWは裏地のウェール密度(個/2.54cm)、Fは裏地の糸の繊度(dtex)を表す。)
【0014】
本実施形態のエアフィルターは、2以上の開口部を有する経編地からなる表地と、開口部を有さない経編地からなる裏地と、前記表地と前記裏地とを連結する連結糸とから構成される二重構造編地からなる。開口部は、表地となる経編地を貫通している。
【0015】
二重構造編地を構成する各部分の繊維は、特に限定されない。前記繊維としては、例えば、綿や麻等の天然繊維、ガラス繊維やバサルト繊維等の無機繊維、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、ジアセテートやトリアセテート等の半合成繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等の合成繊維等が挙げられる。これらの繊維は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。すなわち、これらの繊維は、混繊、混紡、交編したものであってもよい。
【0016】
比較的安価であること、化学的に安定であること、洗濯等のメンテナンスが容易であること等から、前記繊維としては、ポリオレフィン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維が好ましい。後述する消臭加工や防炎加工を行いやすいことから、ポリエステル繊維がより好ましい。さらに、加熱調理機の近傍でも使用できる耐熱性を有することから、1.4倍以上延伸されているポリエステル繊維(1.4倍以上延伸されているポリエステル糸)が特に好ましい。より高い耐熱性を与えるため、1.5倍以上延伸されているポリエステル繊維(1.5倍以上延伸されているポリエステル糸)が最も好ましい。
【0017】
また、二重構造編地を構成する糸は、短繊維であってもよく、長繊維であってもよい。長繊維である場合、モノフィラメント糸であってもよく、マルチフィラメント糸であってもよい。表面積が大きく、オイルミストの捕集能力が高くなることから、短繊維またはマルチフィラメント糸が好ましく、仮撚り加工やタスラン加工等の糸に嵩だかさを与えた加工糸がさらに好ましい。
【0018】
本実施形態のエアフィルターは、例えば、平面上に開口部が整列している経編地、凹凸面上に開口部が整列している経編地、平面上に開口部がランダムに存在する経編地、または凹凸面上に開口部がランダムに存在する経編地からなる表地を有する。表地は、最も粗い篩としての役割と、後述する連結糸を立設させる役割を担う。
【0019】
表地を構成する経編地に用いられる糸の繊度は、特に限定されないが、圧力損失およびオイルミストの捕集能力とのバランスの観点から、40dtex以上200dtex以下が好ましく、70dtex以上200dtex以下がより好ましい。前記繊度が前記下限値以上であることにより、オイルミストの捕集能力を高くすることができるとともに、フィルター前後に発生する気圧差に起因する変形を抑えやすい剛性を、二重構造編地に与えることができる。前記繊度が前記上限値以下であることにより、圧力損失を小さくすることができる。
【0020】
寸法が比較的安定しており、編地の切断箇所からほつれが発生しにくい経編地であればその組織は特に限定されない。経編地の組織は、トリコット編、ミラニーズ編、ラッセル編、変化組織のいずれでもよい。二重構造編地を単一工程で編成できることから、ダブルラッセル編地が好ましい。
【0021】
本実施形態における表地を構成する経編地は、平面上に整列している開口部を有することが好ましい。ここで、本発明において「平面上に開口部が整列している」とは、コース方向やウェール方向に一定のパターンで周期的に繰り返し開口部が形成されていることを指す。平面上に開口部が整列していることにより、エアフィルターを交換する際、長尺で製造した二重構造編地の任意の個所を適宜の大きさに切り出すだけでエアフィルターとして用いることができる。そのため、頻繁にエアフィルターを交換する場合でも、エアフィルターの取り扱いが容易になる。
【0022】
表地を構成する経編地に、平面上に整列した開口部を形成する方法としては、例えば、公知のメッシュ構造を有する編地の編成方法が用いられる。例えば、ベースとなる編地(以下、「ベース編地」と言うこともある。)を構成する糸に対し、前記ベース編地とは異なる所定のパターンで挿入糸を挿入しながら一体的に編成し、ベース編地の糸が挿入糸で複数本拘束されている部分と拘束されていない部分とを周期的に形成する。
【0023】
開口部の形状は特に限定されず、例えば、円形、菱形、六角形等のいずれでもよい。また、開口部の大きさは特に限定されないが、生産性の観点、圧力損失とオイルミストの捕集能力とのバランスの観点から、0.7mm以上3.0mm以下が好ましく、0.9mm以上2.0mm以下がより好ましい。開口部の大きさが前記下限値以上であることにより、圧力損失を小さくすることができる。開口部の大きさが前記上限値以下であることにより、オイルミストを捕集する能力や剛性を高くすることができるとともに、連結糸を立設させやすくできる。
なお、開口部の大きさとは、開口部の最長の直線部分(最大長径)を意味する。
【0024】
また、表地の開口率は、単位面積(m)当たり、25%以上60%以下が好ましく、35%以上50%以下がより好ましい。ここで、表地の開口率とは、表地の表面において開口部が占める面積の割合を指す。表地の開口率が前記下限値以上であることにより、エアフィルターの圧力損失を小さくすることができる。表地の開口率が前記上限値以下であることにより、オイルミストの捕集能力を高くすることができる。表地の開口率は、開口部の形成パターンや開口部の大きさなどにより適宜調整すればよい。
【0025】
表地となる経編地の単位面積(平方インチ:in)当たりの開口部の数は、表地の開口率が上述する範囲内となるように調整されるが、50個/in以上250個/in以下が好ましく、100個/in以上200個/in以下がより好ましい。開口部の数が前記下限値以上であることにより、圧力損失を小さくすることができる。開口部の数が前記上限値以下であることにより、オイルミストを捕集する能力や剛性を高くすることができるとともに、連結糸を立設させやすくできる。
【0026】
本実施形態のエアフィルターは、開口部を有さず、下記の式(1)で求められるCF値が450以上900以下の組織の経編地からなる裏地を有する。裏地は、粒子径の小さなオイルミストを捕集する役割を担う。
【0027】
CF=(DC1/2+DW1/2)×F (1)
(但し、式中、DCは裏地のコース密度(個/2.54cm)、DWは裏地のウェール密度(個/2.54cm)、Fは裏地の糸の繊度(dtex)を表す。)
【0028】
前記CF値は、経編地に用いられる糸の繊度と編密度(コース方向およびウェール方向それぞれの単位長さ(2.54cm)当たりのループの個数)から決定される値である。CF値が高いほど糸が密に詰まった経編地となる。
CF値は、450以上900以下であり、550以上800以下が好ましい。CF値が前記下限値以上であることにより、オイルミストの捕集能力を高くすることができる。CF値が前記上限値以下であることにより、エアフィルターの圧力損失を小さくすることができる。CF値は、経編地の編成に用いる糸の繊度、編設計、テンターでの編密度の調整により、上記範囲内となるようにすればよい。
【0029】
裏地を構成する経編地に用いられる糸の繊度は、編密度との関係でCF値が前記範囲内となれば特に限定されないが、圧力損失およびオイルミストの捕集能力とのバランスの観点から、20dtex以上90dtex以下が好ましい。また、後述する毛細管現象を利用してフィルターの寿命を長くするため、前記経編地に用いられる糸の繊度は、連結糸の繊度よりも大きい繊度であるとよい。
【0030】
裏地の経編地の組織は、表地の経編地の組織と同様であるが、二重構造編地を単一工程で編成できることから、ダブルラッセル編地が好ましい。
【0031】
本実施形態のエアフィルターは、前記表地と前記裏地とを連結する連結糸を有する。連結糸は、表地を構成する糸と裏地を構成する糸とに交絡しながら、表地と裏地とを往復するように編み込まれている。これにより、連結糸は、表地と裏地との間に立設する姿勢で柱状に存在している。連結糸は、立設することによって、裏地よりも目の粗い篩としての役割と、裏地で捕集されたオイルを連結糸の間に毛細管現象によって吸い上げる役割とを果たす。篩としての役割により、エアフィルターに断面方向に密度勾配を与える作用が働く。オイルを吸い上げる役割により、オイルによって目詰まりした裏地を回復させる作用が働く。これらの作用により、エアフィルターの寿命を長くする効果が得られる。
【0032】
連結糸に用いられる糸の繊度は、7dtex以上40dtex以下が好ましく、10dtex以上35dtex以下がより好ましい。前記繊度が前記下限値以上であることにより、フィルターに厚みを与え、断面方向の密度勾配を与える作用と、毛細管現象によって吸い上げられたオイルを逃がすスペースが確保でき、目詰まりした裏地の回復作用がより強く発現され、エアフィルターの寿命をより長くできる。前記繊度が前記上限値以下であることにより、毛細管現象を強く発現させ、エアフィルターの寿命を長くできる。
【0033】
二重構造編地全体の坪量は、60g/m以上400g/m以下が好ましく、100g/m以上300g/m以下がより好ましい。二重構造編地全体の坪量が前記下限値以上であることにより、オイルミストを捕集する能力や剛性を高くすることができる。二重構造編地全体の坪量が前記上限値以下であることにより、圧力損失を小さくすることができる。
【0034】
本実施形態のエアフィルターは、本発明の目的を逸脱しない範囲で、消臭加工、防炎加工、防カビ加工、抗菌加工、抗ウイルス加工、防汚加工、撥水加工、吸水加工、着色等の加工が施されていてもよい。特に飲食店で使用されるエアフィルターは、様々な食品から、様々な臭気物質が発散される環境下で使用されるため、消臭加工が行われていることが好ましい。さらに、加熱調理機の近傍で使用される場合、オイルミストへの着火や粉塵爆発等の事故で炎に曝される可能性があるため、防炎加工が行われていることが好ましい。
【0035】
消臭加工に用いられる消臭剤としては、例えば、メソポーラスシリカやゼオライト等の多孔質体、硫酸アルミニウムや酸化亜鉛等の両性物質、銀や銅等の貴金属およびそれらを多孔質体などに担持した粒子、酸化チタンや酸化タングステン等の光触媒等が挙げられる。特に、加熱された食品から飛散するオイルミスト中には、脂質が高温で酸化して生成される2-ノネナールを初めとするアルデヒド類やケトン類が多く含まれている。アルデヒド類等を効率的に分解、消臭できる消臭剤としては、光触媒を用いることが好ましい。中でも、太陽光や室内灯に多く含まれる400nm以上の波長の光で励起され、臭気物質を分解できる可視光応答型光触媒を用いることがより好ましい。光触媒としては、具体的には、窒素ドープ型酸化チタンや酸化タングステン等が挙げられる。
【0036】
消臭剤と臭気成分が衝突することにより、消臭作用が働く。そのため、消臭加工は、二重構造編地の繊維表面に消臭剤を付着させる方法が好ましい。繊維表面に消臭剤を付着させる方法としては、例えば、消臭剤と、必要に応じてバインダー等の助剤とを水に溶解または分散させた処理液を作製し、浸漬、噴霧または塗付等で二重構造編地に処理液を付与し、脱水や乾燥させる方法が挙げられる。なお、バインダーを併用する場合、熱処理や活性エネルギー線照射による架橋促進、湿熱処理によるグラフト重合等を行ってもよい。複数種の消臭剤を繊維表面に付着させる場合、次の(1)または(2)の加工のいずれか一方を行う。(1)複数種の消臭剤が添加された処理液を準備し、その処理液を繊維表面に付着させることにより、複数種の消臭剤を一括して繊維表面に付着させる加工。(2)互いに異なる消臭剤が添加された処理液を複数準備し、それぞれの処理液を段階的に繊維表面に付着させることにより、複数種の消臭剤を段階的に繊維表面に付着させる加工。
【0037】
防炎加工に用いられる防炎剤としては、例えば、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン等のハロゲン系防炎剤、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート等のリン系防炎剤、三酸化アンチモンや水酸化アルミニウム等の金属酸化物や金属水酸化物等の防炎剤が挙げられる。
【0038】
防炎加工としては、例えば、防炎剤を繊維へ練り込む方法、防炎剤を繊維へ吸尽させる方法、防炎剤を繊維表面に付着させる方法等が挙げられる。十分な量の防炎剤を糸に付与しやすい観点から、ポリエステル糸に対して防炎剤を吸尽させる方法が好ましい。具体的には、ハロゲン系防炎剤やリン系防炎剤を水に分散させた処理液を準備し、ポリエステル糸からなる二重構造編地を前記処理液中に浸漬し、圧力容器中で120℃~140℃に加熱して吸尽させ、脱水や乾燥させる方法が挙げられる。
【0039】
本実施の形態のエアフィルターは、二重構造編地として編み立てられたままのフラットな状態でエアフィルターとして用いてもよく、エンボス加工、プリーツ加工、コルゲート加工等で二重構造編地に立体形状を与え、表面積を向上させた形態で用いてもよい。
【0040】
本実施形態のエアフィルターは、2以上の開口部を有する経編地からなる表地と、開口部を有さず、上記の式(1)で求められるCF値が450以上900以下の組織の経編地からなる裏地と、前記表地と前記裏地を連結する連結糸とから構成される二重構造編地からなるため、長寿命で、圧力損失が小さく、オイルミストを捕集する能力に優れる。
【0041】
[空気浄化設備]
本発明の一実施形態に係る空気浄化設備は、本発明の一実施形態に係るエアフィルターが少なくとも1箇所に設置され、前記エアフィルターの表地が風上側に向けて配置されている、空気浄化設備である。本実施形態の空気浄化設備は、少なくともオイルミストを空気と共に吸引できる機構と、少なくとも1箇所エアフィルターを設置できる機構と、を有する設備であることが好ましい。本実施形態の空気浄化設備は、具体的には、ドラフトチャンバーや換気扇と、それらに接続されている煙突や排気ダクト、空気清浄機等が挙げられる。
【0042】
本実施形態の空気浄化設備は、前記エアフィルターが少なくとも1箇所に設置されている。前記エアフィルターを設置する場所は、特に限定されない。前記エアフィルターを設置する場所としては、例えば、排気ファンの直前、排気ファンの直後、排気ダクトの途中、排気ダクトの排気口等が挙げられる。二重構造編地の繊維表面に光触媒が付着しているエアフィルターを用いる場合、光触媒を励起させるための光源を併設してもよい。特に可視光応答型光触媒が繊維表面に付着している場合、太陽光や室内灯の光が届く位置に、エアフィルターを設置することが好ましい。
また、前記エアフィルターと他の集塵機構とを組み合わせてもよい。
【0043】
また、エアフィルターの設置個所は、1箇所であってもよく、複数個所であってもよい。また、前記エアフィルターは、他のエアフィルターと組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本実施形態の空気浄化設備では、前記エアフィルターの表地が風上側に向けて配置されている。風上側から順に表地、連結糸、裏地と配置されることにより、エアフィルターの密度勾配が粗い側から細かい側へと空気が送られるため、エアフィルターの寿命を長くすることができる。
【0045】
本実施形態の空気浄化設備は、上述の実施形態のエアフィルターが少なくとも1箇所に設置され、前記エアフィルターの表地が風上側に向けて配置されているため、エアフィルターにおける圧力損失が小さく、オイルミストを捕集する能力に優れる。
【実施例0046】
以下、実施例、比較例および参考例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例、比較例および参考例における各評価項目の各種特性等の測定および評価は、次の方法で行った。
【0047】
<初期の圧力損失>
JIS T9001:2021「医療用マスク及び一般用マスクの性能要件及び試験方法」に準じて、初期のエアフィルターの圧力損失を測定した。初期の圧力損失が小さいほど、省エネルギー型のエアフィルターであると言える。
【0048】
<負荷試験後の圧力損失>
試験体(エアフィルター)を21cm×21cmの枠体に嵌め込んで、試験体の面方向が所定の方向となるように、真空ポンプの吸引口に、前記枠体を設置した。日本コンタミネーションサービス株式会社製のPAO発生器:TDA-4B Liteを用いて、ポリアルファオレフィン(PAO)の多分散エアロゾルを20g/h発生させ、エアフィルターの面風速が2m/sとなるように真空ポンプを作動させて、多分散エアロゾルを吸引した。この状態で1時間経過後、初期の圧力損失の測定と同様にして、負荷試験後のエアフィルターの圧力損失を測定した。負荷試験後の圧力損失が小さいほど、寿命が長いエアフィルターであると言える。
【0049】
<熱処理後の圧力損失>
試験片(エアフィルター)を170℃の熱風オーブン中に2時間静置して熱処理した後、初期の圧力損失の測定と同様にして、熱処理後のエアフィルターの圧力損失を測定した。熱処理前後の圧力損失の変化が小さいほど、170℃における耐熱性が高いエアフィルターであると言える。
【0050】
<粒子捕集率>
負荷試験と同様にして発生させた多分散PAOを、エアフィルターを挟んで真空ポンプにより吸引した。東京ダイレック株式会社製ハンドヘルドパーティクルカウンター :AeroTrak9303を用いて、エアフィルターの前後における粒子径が2.0μmの粒子数、粒子径が1.0μmの粒子数、粒子径が0.5μmの粒子数をそれぞれ測定した。エアフィルターの直後の粒子数をエアフィルターの直前の粒子数で除し、それぞれの粒子径の粒子捕集率を算出した。フライヤーやグリドルにて加熱調理する際に発生するオイルミストは、粒子径が0.5μm~2.0μmのものが多いことから、粒子捕集率が高いほど、オイルミストを捕集する能力に優れるエアフィルターであると言える。
【0051】
<臭気の確認>
40cm×40cmに切り出した試験体(エアフィルター)を枠体に嵌め込んで、小松マテーレ株式会社内の食堂の排気口に、試験体の面方向が所定の方向となるように、前記枠体を設置した。昼間の営業時間中に20代~40代の評価者10人に、臭いが気になるか否かを聴取し、気になると回答した人数を数えた。気になると回答した人数が少ないほど、食品の臭いを捕集する能力に優れる空気浄化設備であると言える。
【0052】
[実施例1]
ラッセル編み機を用い、平面上に開口部が整列している経編地からなる表地と、開口部を有さない経編地からなる裏地と、前記表地と前記裏地を連結する連結糸とから構成される二重構造編地を編み立てた。
表地を構成する経編地は、仮撚り加工時に1.6倍に延伸した繊度110dtexのポリエステル(PE)加工糸を用いて編成した。
裏地を構成する経編地は、仮撚り加工時に1.6倍に延伸した繊度56dtexのポリエステル加工糸を用いて編成した。
連結糸としては、1.6倍に延伸された繊度22dtexのポリエステルモノフィラメント糸を用いた。
最後に190℃のテンターにて、二重構造編地のヒートセットを行い、編密度の調整をすることにより、エアフィルターとして用いるダブルラッセル組織の二重構造編地を得た。
得られた二重構造編地の各種特性を表1に示す。表地を風上側に向けて設置し、エアフィルターとして用いた際の各種評価結果を表2に示す。
【0053】
[実施例2、実施例3、比較例1、比較例2]
裏地の組織のCF値(糸の繊度および編密度)を変えたこと以外は実施例1と同様にして、二重構造編地を得た。
得られた二重構造編地の各種特性を表1に示す。表地を風上側に向けて設置し、二重構造編地をエアフィルターとして用いた際の各種評価結果を表2に示す。
【0054】
[実施例4]
二重構造編地を構成する各部分の繊維の素材全てをポリプロピレン(PP)に変更したこと、連結糸の繊度を6dtexとしたこと、ヒートセットの温度を130℃としたこと以外は実施例1と同様にして、二重構造編地を得た。
得られた二重構造編地の各種特性を表1に示す。表地を風上側に向けて設置し、二重構造編地をエアフィルターとして用いた際の各種評価結果を表2に示す。
【0055】
[実施例5]
連結糸として1.3倍に延伸された繊度65dtexのポリエステルモノフィラメント糸を用いたこと、ヒートセットの温度を150℃としたこと以外は実施例1と同様にして二重構造編地を得た。
得られた二重構造編地の各種特性を表1に示す。表地を風上側に向けて設置し、二重構造編地をエアフィルターとして用いた際の各種評価結果を表2に示す。
【0056】
[実施例6、実施例7]
表地の開口率を変えたこと以外は実施例1と同様にして、二重構造編地を得た。
得られた二重構造編地の各種特性を表1に示す。表地を風上側に向けて設置し、二重構造編地をエアフィルターとして用いた際の各種評価結果を表2に示す。
【0057】
[実施例8]
実施例1で得られた二重構造編地を、可視光応答型酸化タングステン系光触媒1.0%、およびシリコーン系バインダー0.08%の水分散液に浸漬した。その後、二重構造編地を脱水および乾燥し、再度、190℃のテンターにて、二重構造編地のヒートセットを行い、編密度を調整することにより、光触媒が繊維表面に付着している、エアフィルターとして用いるダブルラッセル組織の二重構造編地を得た。
得られた二重構造編地の各種特性を表1に示す。表地を風上側に向けて設置し、二重構造編地をエアフィルターとして用いた際の各種評価結果を表2に示す。
【0058】
[比較例3]
ラッセル編み機を用い、仮撚り加工時に1.6倍に延伸した繊度56dtexのポリエステル加工糸を用いて開口部を有さない経編地を編み立てた。
最後に190℃のテンターにて、経編地のヒートセットを行い、編密度の調整をすることにより、エアフィルターとして用いるシングルラッセル組織の単層の編地を得た。
得られた単層の編地の各種特性を表1に示す。表地を風上側に向けて設置し、単層の編地をエアフィルターとして用いた際の各種評価結果を表2に示す。
【0059】
[参考例1]
実施例1で得られた二重構造編地を、裏地を風上側に向けて設置した。
二重構造編地の各種特性を表1に示す。裏地を風上側に向けて設置し、二重構造編地をエアフィルターとして用いた際の各種評価結果を表2に示す。
【0060】
[参考例2]
日本バイリーン株式会社製の、断面方向に密度勾配構造を有する不織布からなるエアフィルターである、フィレドン(登録商標)エアフィルター:PS/600Nについて、各種特性を表1に示す。エアフィルターとして用いた際の各種評価結果を表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示す結果から、実施例1~実施例8のエアフィルターは、初期の圧力損失が小さく、負荷試験後の圧力損失が小さく、粒子捕集率が高く、前記エアフィルターを備えた空気浄化設備は、食品の臭いを捕集する能力に優れることが分かった。
一方、比較例1のエアフィルターは、粒子捕集率が低く、前記エアフィルターを備えた空気浄化設備は、食品の臭いを捕集する能力に劣ることが分かった。
比較例2のエアフィルターは、初期の圧力損失が高く、負荷試験後の圧力損失が高いことが分かった。
比較例3のエアフィルターは、初期の圧力損失が低いものの、負荷試験後の圧力損失が高いことが分かった。
参考例1の空気浄化設備は、エアフィルターの初期の圧力損失が低いものの、負荷試験後の圧力損失が高く、エアフィルター本来の寿命の長さを発揮できていなことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のエアフィルターは、長寿命で、圧力損失が小さく、オイルミストを捕集する能力に優れるため、その産業利用可能性は大である。