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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067401
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】火災収束方法および火災収束ユニット
(51)【国際特許分類】
   A62C 3/00 20060101AFI20240510BHJP
   A62C 35/02 20060101ALI20240510BHJP
   B64C 19/02 20060101ALI20240510BHJP
   B64C 27/04 20060101ALI20240510BHJP
   B64C 39/02 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A62C3/00 Z
A62C35/02 A
B64C19/02
B64C27/04
B64C39/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177452
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 和秀
【テーマコード(参考)】
2E189
【Fターム(参考)】
2E189BA01
2E189FA04
(57)【要約】
【課題】火災収束方法および火災収束ユニットにおいて、火災を早期に収束可能とする。
【解決手段】火災発生現場の周囲に出入口トンネルと排出トンネルを配置する工程と、火災発生現場を不燃シートにより覆うことで空間部を形成する工程と、出入口トンネルにより外部と空間部とを連通する工程と、排出トンネルにより空間部と外部とを連通する工程と、空間部に消火剤を供給する工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災発生現場の周囲に出入口トンネルと排出トンネルを配置する工程と、
前記火災発生現場を不燃シートにより覆うことで空間部を形成する工程と、
前記出入口トンネルにより外部と前記空間部とを連通する工程と、
前記排出トンネルにより前記空間部と外部とを連通する工程と、
前記空間部に消火剤を供給する工程と、
を有する火災収束方法。
【請求項2】
前記空間部が有人であるとき、前記空間部の酸素濃度が12%から15%の範囲になるように消火剤の供給量を調整し、前記空間部が無人であるとき、前記空間部の酸素濃度が15%以下になるように消火剤の供給量を調整する、
請求項1に記載の火災収束方法。
【請求項3】
前記空間部に消火剤を供給するとき、前記空間部の気体を前記排出トンネルから外部に吸引する、
請求項2に記載の火災収束方法。
【請求項4】
搬送用無人航空機により前記不燃シートを搬送して前記火災発生現場を覆うことで前記空間部を形成する、
請求項1に記載の火災収束方法。
【請求項5】
前記不燃シートは、下部が開放されて上部が閉塞される筒形状をなす、
請求項1に記載の火災収束方法。
【請求項6】
搬送用無人走行車が消火剤ボンベを搭載し、外部から前記出入口トンネルにより前記空間部に移動し、前記消火剤ボンベを開放して前記空間部に消火剤を供給する、
請求項1に記載の火災収束方法。
【請求項7】
監視用無人航空機に酸素濃度センサが装着され、外部から前記出入口トンネルにより前記空間部に移動し、前記酸素濃度センサにより前記空間部の酸素濃度を計測して外部に送信する、
請求項1に記載の火災収束方法。
【請求項8】
火災発生現場を覆うことで空間部を形成可能な不燃シートと、
外部と前記空間部とを連通すると共に外部と前記空間部との間で各種機器を移動可能な出入口トンネルと、
前記空間部と外部とを連通すると共に前記空間部の気体を外部に排出可能な排出トンネルと、
前記空間部に消火剤を供給可能な消火剤供給装置と、
を備える火災収束ユニット。
【請求項9】
前記空間部の酸素濃度を計測する酸素濃度センサと、前記空間部の酸素濃度に基づいて前記消火剤供給装置による消火剤の供給量を調整制御する制御部とを設け、前記制御部は、前記空間部が有人であるとき、前記空間部の酸素濃度が12%から15%の範囲になるように前記消火剤供給装置を制御し、前記空間部が無人であるとき、前記空間部の酸素濃度が15%以下になるように前記消火剤供給装置を制御する、
請求項8に記載の火災収束ユニット。
【請求項10】
前記空間部の気体を前記排出トンネルにより外部に排出する吸引装置を設ける、
請求項8または請求項9に記載の火災収束ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物などの火災を早期に消火して収束させる火災収束方法および火災収束ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物で火事が発生したとき、建物に消火剤を噴射して消火する。建物に対して消火剤を噴射する設備として、消火器やスプリンクラーなどがあり、消防車による消火剤の散布も考えられる。ところが、建物に消火剤を噴射して消火すると、火元に集中して噴射することが困難となり、火災が発生していない部分にも消火剤がかかり、建物の被害が大きくなってしまう。そこで、例えば、特許文献1に記載された防消火設備は、建物の周囲に組み立て式のフレームと耐火布を用いて一時的に立体型の空間部を設け、空間部に窒素ガスを放出して酸素濃度を下げることで消火するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-13478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の防消火設備は、建物の周囲に組み立て式のフレームと耐火布を用いて一時的に立体型の空間部を設けるものである。そのため、立体型の空間部を設けるために長時間を要してしまい、建物の消火開始が遅れてしまうという課題がある。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、火災を早期に収束可能とする火災収束方法および火災収束ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の火災収束方法は、火災発生現場の周囲に出入口トンネルと排出トンネルを配置する工程と、前記火災発生現場を不燃シートにより覆うことで空間部を形成する工程と、前記出入口トンネルにより外部と前記空間部とを連通する工程と、前記排出トンネルにより前記空間部と外部とを連通する工程と、前記空間部に消火剤を供給する工程と、を有する。
【0007】
また、本開示の火災収束ユニットは、火災発生現場を覆うことで空間部を形成可能な不燃シートと、外部と前記空間部とを連通すると共に外部と前記空間部との間で各種機器を移動可能な出入口トンネルと、前記空間部と外部とを連通すると共に前記空間部の気体を外部に排出可能な排出トンネルと、前記空間部に消火剤を供給可能な消火剤供給装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の火災収束方法および火災収束ユニットによれば、火災を早期に収束することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態の火災収束ユニットを表す概略図である。
図2図2は、火災収束ユニットを表す概略斜視図である。
図3図3は、本実施形態の火災収束方法を表すフローチャートである。
図4図4は、火災収束方法を説明するための概略図である。
図5図5は、火災収束方法を説明するための概略図である。
図6図6は、火災収束方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0011】
<火災収束ユニット>
図1は、本実施形態の火災収束ユニットを表す概略図、図2は、火災収束ユニットを表す概略斜視図である。
【0012】
図1および図2に示すように、火災収束ユニット10は、建屋101で火事が発生したとき、建物の101の火災を早期に収束させるものである。このとき、火災発生現場は、火事が発生した建屋101である。但し、火災発生現場は、建屋101に限らず、車両、航空機、船舶、あるいは、森林などであってもよい。
【0013】
火災収束ユニット10は、不燃シート11と、出入口トンネル12と、排出トンネル13と、消火剤供給装置14とを備える。
【0014】
不燃シート11は、燃えない材料としての不燃膜材(例えば、ガラス繊維など)により形成されたシートであり、一定時間以上燃え抜けずに気密性を保つ。不燃シート11は、下部が開放されて上部が閉塞される円筒形状をなす。すなわち、不燃シート11は、側部と11aと天井部11bとを有し、下部に開口部11cが形成される。但し、不燃シート11は、この形状に限るものではない。不燃シート11は、例えば、下部が開放された角筒形状や三角形状などのシートであってもよく、また、単なる平板形状をなすシート、あるいは、開放部を有する球状のシート等であってもよい。
【0015】
不燃シート11は、上方から火事が発生した建屋101を覆うことで、不燃シート11と建屋101との間に空間部102を形成する。不燃シート11は、複数の搬送用ドローン(搬送用無人航空機)21により吊り上げて搬送可能であると共に、所定の位置に設置可能である。搬送用ドローン21は、不燃シート11の上部に設けられた吊具11dを介して不燃シート11を吊り上げる。例えば、不燃シート11は、折り畳まれた状態で車両(図示略)により建屋101の近傍まで搬送される。作業者は、折り畳まれた不燃シート11を広げ、搬送用ドローン21に吊具11dを介して不燃シート11に連結する。
【0016】
作業者は、複数の搬送用ドローン21を操作し、複数の搬送用ドローン21の飛行により不燃シート11を上昇させて吊り上げる。作業者は、複数の搬送用ドローン21を飛行させることで、建屋101の上方に不燃シート11を移動する。ここで、作業者は、複数の搬送用ドローン21を下降させることで不燃シート11を下降し、開口部11cを通して不燃シート11の内部に建屋101を入れ、不燃シート11により建屋101を覆う。
【0017】
なお、不燃シート11の移動は、搬送用ドローン21に限るものではない。例えば、クレーンにより不燃シート11を吊り上げて搬送し、所定の位置に設置してもよい。
【0018】
複数の搬送用ドローン21は、所定の高さでホバリングすることで、不燃シート11の円筒形状を維持する。このとき、不燃シート11は、下部が地面103に接地される。そのため、不燃シート11と建屋101と地面103との間に空間部102が形成される。この場合、不燃シート11は、全周の下部に錘を設けることで、下部が地面103に隙間なく接地されるようにしてもよい。また、不燃シート11の下部を固定具などにより地面103に固定してもよい。
【0019】
出入口トンネル12は、不燃シート11の外部と不燃シート11の内部である空間部102とを連通する。出入口トンネル12は、地面103に設置されることで、半円形状の断面をなす通路12aを形成する。但し、通路12aは、この形状に限るものではない。出入口トンネル12を介して、不燃シート11の外部と空間部102との間で各種機器を移動可能である。出入口トンネル12は、事前に建屋101の周囲の地面103に配置しておく。不燃シート11を下降して下部が出入口トンネル12の上部に接触することで、不燃シート11の下部と出入口トンネル12との隙間がなくなる。また、出入口トンネル12は、通路12aの外部側に開閉扉12bが設けられる。出入口トンネル12は、開閉扉12bを開放することで、不燃シート11の外部と空間部102とが連通する。一方、出入口トンネル12は、開閉扉12bを閉止することで、空間部102が密閉される。
【0020】
排出トンネル13は、不燃シート11の内部である空間部102と不燃シート11の外部とを連通する。排出トンネル13は、地面103に設置されることで、半円形状の断面をなす通路13aを形成する。但し、通路13aは、この形状に限るものではない。排出トンネル13は、空間部102の気体(空気)を外部に排出可能である。排出トンネル13は、事前に建屋101の周囲の地面103に配置しておく。不燃シート11を下降して下部が排出トンネル13の上部に接触することで、不燃シート11の下部と排出トンネル13との隙間がなくなる。また、排出トンネル13は、通路13aの外部側に開閉扉13bが設けられる。排出トンネル13は、開閉扉13bを開放することで、空間部102と不燃シート11の外部とが連通する。一方、排出トンネル13は、開閉扉13bを閉止することで、空間部102が密閉される。但し、開閉扉13bは空間部102の気体(空気)を外部に排出可能な逆止弁付きの扉としてもよい。
【0021】
消火剤供給装置14は、不燃シート11の内部である空間部102に消火剤を供給可能である。本実施形態にて、消火剤は、不活性ガスが好ましいが、水、強化液、泡などであってもよい。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンが適用可能であるが、2種類以上のガスを混合したものであってもよく、イナージェンガス(窒素ガス、二酸化炭素、アルゴンの混合ガス)でもよい。
【0022】
消火剤供給装置14は、消火剤を充填した消火剤ボンベである。搬送用ロボット(搬送用無人走行車)22は、消火剤供給装置(消火剤ボンベ)14を搭載して走行可能である。作業者は、搬送用ロボット22を操作して走行させ、消火剤供給装置14を搬送可能である。不燃シート11および出入口トンネル12が設置された後、消火剤供給装置14を搭載した搬送用ロボット22は、不燃シート11の外部から出入口トンネル12を通って空間部102に移動可能である。そして、作業者は、搬送用ロボット22を操作することで、消火剤供給装置14としての消火剤ボンベを開放し、窒素ガスを空間部102に供給することができる。但し、消火剤供給装置14を搭載した搬送用ロボット22は、不燃シート11設置前に空間部102となる位置に移動してもよい。
【0023】
なお、消火剤供給装置14は、消火剤ボンベに限定されるものではない。消火剤供給装置14は、消火剤ボンベと供給ホースと開閉弁により構成されていてもよい。不燃シート11の外部に消火剤ボンベを配置し、消火剤ボンベに連結された供給ホースの先端部を出入口トンネル12に配置する。そして、開閉弁を開放することで、消火剤ボンベ内の消火剤を供給ホースから出入口トンネル12を通して空間部102に供給してもよい。
【0024】
また、排出トンネル13は、吸引装置15が設けられる。吸引装置15は、空間部102の気体を排出トンネル13により外部に排出する。吸引装置15は、真空ポンプ23と、排出ホース24とを有する。真空ポンプ23は、排出トンネル13の外部側に設置される。排出ホース24は、真空ポンプ23に連結され、他方の先端部が排出トンネル13に接続される。真空ポンプ23を作動すると、吸引力が排出ホース24を通して空間部102に作用し、空間部にある空気などの気体を外部に排出することができる。なお、真空ポンプ23を含む系統に排出されるガスに含まれる煙等を除去するフィルタを設置してもよい。
【0025】
監視用ドローン(監視用無人航空機)25は、監視機器26が装着される。監視機器26は、例えば、カメラ27、酸素濃度センサ28、温度センサ29などである。作業者は、監視用ドローン25を遠隔操作して飛行させることが可能である。但し、監視用ドローン25は設定されたプログラムによる自動運転でもよい。不燃シート11および出入口トンネル12が設置された後、監視用ドローン25は、不燃シート11の外部から出入口トンネル12を通って空間部102に移動可能である。そして、作業者は、監視用ドローン25を操作することで、監視機器26を作動することができる。但し、監視機器26の作動は設定されたプログラムによる自動操作でもよい。このとき、カメラ27は、空間部102における建屋101の火災状況を撮影し、酸素濃度センサ28は、空間部102の酸素濃度を計測し、温度センサ29は、空間部102の温度を計測する。監視機器26は、撮影した空間部102の画像(または、映像)と、空間部102の酸素濃度と、空間部102の温度等の情報を外部に送信する。
【0026】
制御部31は、建屋101の近傍で、不燃シート11の外部に配置される。制御部31は、操作部32と表示部33とが接続される。また、制御部31は、監視機器26としてのカメラ27と酸素濃度センサ28と温度センサ29等からの情報を受信する。この場合、制御部31と監視機器26は、無線により各種情報(信号)を送受信する通信装置(図示略)が設けられる。
【0027】
制御部31は、コントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。操作部32は、作業者が操作可能である。操作部32は、作業者が操作することで、制御部31に対して各種の指令信号を入力可能である。操作部32は、例えば、キーボードやタッチ式のディスプレイなどである。表示部33は、制御部により処理した内容を表示する。表示部33は、例えば、モニタなどである。なお、制御部31と操作部32と表示部33は、一体であってもよいし、それぞれ別体であってもよい。但し、一連の操作あるいは操作の一部は設定されたプログラムによる自動操作でもよい。
【0028】
制御部31は、カメラ27が撮影した空間部102(建屋101)の画像が入力され、表示部33に表示させる。制御部31は、酸素濃度センサ28が計測した空間部102の酸素濃度が入力される。制御部31は、空間部102の酸素濃度に基づいて消火剤供給装置14による消火剤の供給量あるいは種類等を調整制御する。以下の具体的な説明では、制御部31は、空間部102の酸素濃度に基づいて消火剤供給装置14による消火剤の供給量調整制御するものとして説明する。制御部31は、空間部102が有人であるとき、人命を確保しつつ消火を行うために、空間部102の酸素濃度が12%から15%の範囲になるように消火剤供給装置14から空間部102に供給される窒素ガスの供給量を調整する。但し、空間部102における酸素濃度の範囲は、多少(13%から15%など)変更してもよい。また、制御部31は、空間部102が無人であるとき、空間部102の酸素濃度が15%以下になるように消火剤供給装置14から空間部102に供給される消火剤の供給量を調整する。なお、酸素濃度を15%とした根拠は、限界酸素指数が約16.5%であることから、約16.5%に対して安全側の15%とした。なお、限界酸素指数(LOI)とは、重合体の燃焼に必要な酸素の最小濃度をパーセンテージで表したものである。
【0029】
一般的に、空気中の酸素濃度は、通常21%程度であり、酸素濃度18%が人体に対する一般的な安全の下限値である。酸素濃度が16%以下になると、呼吸や脈拍が増加し、頭痛や吐き気が発生すると言われている。酸素濃度が12%以下になると、めまいや吐き気が発生すると言われ、酸素濃度が10%以下になると、顔面蒼白で意識不明となり、嘔吐すると言われている。そして、酸素濃度が8%以下になると、失神し、7分から8分以内に死亡すると言われている。酸素濃度が8%以下になると、瞬時に昏倒し、呼吸停止し、けいれんが発生して6分で死亡するものと言われている。
【0030】
そのため、制御部31は、空間部102が有人であると、空間部102の酸素濃度が12%から15%の範囲になるように窒素ガスの供給量を調整し、空間部102が無人であると、空間部102の酸素濃度が15%以下になるように消火剤の供給量を調整する。ここで、空間部102が有人であるか否かの判断は、建屋101で火事発生したときに得られた情報、または、監視用ドローン25に装着されたカメラ27による映像や集音機(マイク)からの音声等から判断する。
【0031】
制御部31は、温度センサ29が計測した空間部102の温度が入力される。制御部31は、空間部102の温度等に基づいて建屋101の火災の消火、つまり、火災の収束を判定する。制御部31は、空間部102における建屋101の火災が収束したと判定すると、消火剤供給装置14から空間部102への消火剤の供給を停止する。この場合、再燃火災を防ぐために、火災の収束を判定してから所定時間の経過後に消火剤の供給を停止することが好ましい。
【0032】
<火災収束方法>
図3は、本実施形態の火災収束方法を表すフローチャート、図4から図6は、火災収束方法を説明するための概略図である。
【0033】
図1に示すように、火災収束方法は、火災発生現場である建屋101の周囲に出入口トンネル12と排出トンネル13を配置する工程と、建屋101を不燃シート11により覆うことで空間部102を形成する工程と、出入口トンネル12により外部と空間部102とを連通する工程と、排出トンネル13により空間部102と外部とを連通する工程と、空間部102に消火剤を供給する工程とを有する。
【0034】
以下、火災収束ユニット10を用いた火災収束方法について具体的に説明する。図3および図4に示すように、ステップS11にて、建屋101にて火災104が発生すると、ステップS12にて、建屋101の内部あるいは近傍に人(生存者)がいるか否かを確認する。建屋101における人の有無の確認は、建屋101の居住者や近隣の人からの情報等を勘案して行うことが望ましい。但し、監視用ドローン25を飛行させ、監視用ドローン25を建屋101の内部に侵入させ、監視用ドローン25に装着されたカメラ27による映像等から判断してもよい。
【0035】
図3および図5に示すように、ステップS13にて、建屋101の周囲に出入口トンネル12を配置し、ステップS14にて、建屋101の周囲に排出トンネル13を配置する。このとき、排出トンネル13に吸引装置15を配置する。なお、出入口トンネル12と排出トンネル13とは、離間した位置であることが好ましい。そして、ステップS15にて、不燃シート11を用意し、不燃シート11に複数の搬送用ドローン21を連結し、複数の搬送用ドローン21を飛行させ、複数の搬送用ドローン21により不燃シート11を上昇させて吊り上げる。そして、複数の搬送用ドローン21により建屋101の上方に不燃シート11を移動し、不燃シート11を下降させることで、不燃シート11により建屋101を覆う。
【0036】
すると、図1に示すように、不燃シート11の下部が地面103に着地することで、不燃シート11と建屋101との間に空間部102が形成される。また、出入口トンネル12により外部と空間部102とが連通し、排出トンネル13により空間部102と外部とが連通する。
【0037】
図1および図3に示すように、ステップS16にて、消火剤供給装置14を搭載した搬送用ロボット22を走行させ、搬送用ロボット22を出入口トンネル12から不燃シート11の内部に侵入させ、消火剤供給装置14を空間部102に搬送する。但し、消火剤供給装置14を搭載した搬送用ロボット22は、不燃シート11の設置前に、空間部102となる位置に移動してもよい。ステップS17にて、監視機器26が装着された監視用ドローン25を飛行させ、監視用ドローン25を出入口トンネル12から不燃シート11の内部に侵入させ、監視機器26を空間部102に搬送する。そして、出入口トンネル12の開閉扉12bを閉じる。但し、監視用ドローン25は、不燃シート11の設置前に、空間部102となる位置に移動してもよい。また、監視機器26を設けなくてもよい。
【0038】
ステップS18にて、搬送用ロボット22により消火剤供給装置14としての消火剤ボンベを開放し、消火剤を空間部102に供給する。同時に、ステップS19にて、吸引装置15を作動し、空間部102の気体を外部に排出する。但し、吸引装置15の設置および作動状況に応じて省略してもよい。ステップS20にて、制御部31は、空間部102(建屋101)の内部が有人であるか否かを判定する。ここで、制御部31は、空間部102(建屋101)の内部が有人であると判定(Yes)すると、ステップS21にて、空間部102の酸素濃度設定値を12%から15%の範囲に設定する。一方、制御部31は、空間部102(建屋101)の内部が有人ではない(無人である)と判定(No)すると、ステップS22にて、空間部102の酸素濃度設定値を15%以下に設定する。
【0039】
ステップS23にて、監視機器26における酸素濃度センサ28が空間部102の酸素濃度を計測し、制御部31に出力する。ステップS24にて、制御部31は、空間部102の酸素濃度に基づいて消火剤供給装置14により消火剤の供給量を調整する。すなわち、空間部102が有人であるとき、空間部102の酸素濃度が12%から15%の範囲になるように消火剤の供給量を調整する。一方、空間部102が無人であるとき、空間部102の酸素濃度が15%以下になるように窒素ガスの供給量を調整する。但し、有人であるときであっても、救助が完了すれば、空間部102の酸素濃度が15%以下になるように消火剤の供給量を調整する。なお、救助作業は、最優先事項のため、図3に表すフローチャートに関わらず、作業可能となる任意の時点で実施するものとする。
【0040】
不燃シート11により形成された空間部102は、消火剤供給装置14により供給された消火剤により酸素濃度が低下する。また、火災に伴う燃焼によっても、酸素濃度は低下する。酸素濃度が低下して15%近傍を下回ると、火災104の燃焼限界となり、燃焼は抑制されて消火される。空間部102が有人の場合、空間部102の酸素濃度が12%から15%の範囲に維持されることで、空間部102に残された人の健康被害が抑制される。一方、空間部102が無人の場合、空間部102の酸素濃度が15%以下になることで、建屋101の火災104が早期に収束する。
【0041】
ステップS25にて、監視機器26における温度センサ29が建屋101(空間部102)の温度を計測し、制御部31に出力する。ステップS26にて、制御部31は、建屋101(空間部102)の温度等に基づいて火災104の消火を判定する。すなわち、制御部31は、建屋101の温度が予め設定された消火温度より高いと判定(No)する等により、まだ建屋101が延焼していると判定し、ステップS20に戻って処理を継続する。また、空間部102からの救助が完了しておらず、依然として有人の場合にもステップS20に戻って処理を継続する。
【0042】
一方、制御部31は、建屋101が消火されたと判定(Yes)し、且つ、救助が完了していれば、ステップS27にて、消火剤供給装置14による消火剤の供給を停止する。また、ステップS28にて、吸引装置15による空間部102の気体の排出を停止する。そして、ステップS29にて、不燃シート11、出入口トンネル12、排出トンネル13、消火剤供給装置14、吸引装置15などの各種機器の片付けを行う。
【0043】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係る火災収束方法は、火災発生現場である建屋101の周囲に出入口トンネル12と排出トンネル13を配置する工程と、建屋101を不燃シート11により覆うことで空間部102を形成する工程と、出入口トンネル12により外部と空間部102とを連通する工程と、排出トンネル13により空間部102と外部とを連通する工程と、空間部102に消火剤を供給する工程とを有する。
【0044】
第1の態様に係る火災収束方法によれば、建屋101を不燃シート11により覆うことで空間部102を形成し、出入口トンネル12を用いて各種機器を空間部102に搬入し、空間部102に消火剤を供給する一方、排出トンネル13から空間部102の気体を排出する。そのため、空間部102は、酸素濃度が低下することで建屋101の火災104が早期に消火されることとなる。その結果、建屋101の火災104を早期に収束することができる。
【0045】
第2の態様に係る火災収束方法は、第1の態様に係る火災収束方法であって、さらに、空間部102が有人であるとき、空間部102の酸素濃度が12%から15%の範囲になるように消火剤の供給量を調整し、空間部102が無人であるとき、空間部102の酸素濃度が15%以下になるように消火剤の供給量を調整する。これにより、空間部102が有人の場合、空間部102の酸素濃度が12%から15%の範囲に維持されることで、空間部102に残された人の健康被害を抑制することができる一方、空間部102が無人の場合、空間部102の酸素濃度を15%以下とすることで、建屋101の火災104を早期に収束させることができる。
【0046】
第3の態様に係る火災収束方法は、第2の態様に係る火災収束方法であって、さらに、空間部102に消火剤を供給するとき、空間部102の気体を排出トンネル13から外部に吸引する。これにより、空間部102の酸素濃度を早期に適正値に低下させることができる。
【0047】
第4の態様に係る火災収束方法は、第1の態様から第3の態様のいずれか一つに係る火災収束方法であって、さらに、搬送用ドローン(搬送用無人航空機)21により不燃シート11を搬送して建屋101を覆うことで空間部102を形成する。これにより、不燃シート11を搬送したり、建屋101を覆ったりするための大型重機の準備や設置が不要となり、作業コストおよび作業に要する時間を抑制することができる。
【0048】
第5の態様に係る火災収束方法は、第1の態様から第4の態様のいずれか一つに係る火災収束方法であって、さらに、不燃シート11は、下部が開放されて上部が閉塞される筒形状をなす。これにより、不燃シート11により効率良く建屋101を覆うことができる。但し、不燃シート11は、この形状に限るものではない。
【0049】
第6の態様に係る火災収束方法は、第1の態様から第5の態様のいずれか一つに係る火災収束方法であって、さらに、搬送用ロボット(搬送用無人走行車)22が消火剤ボンベを搭載し、外部から出入口トンネル12により空間部102に移動し、消火剤ボンベを開放して空間部102に消火剤を供給する。これにより、空間部102に消火剤を供給するための消防車などの大型の設備が不要となり、作業コストを抑制することができる。
【0050】
第7の態様に係る火災収束方法は、第1の態様から第6の態様のいずれか一つに係る火災収束方法であって、さらに、監視用ドローン(監視用無人航空機)25に酸素濃度センサ28が装着され、外部から出入口トンネル12により空間部102に移動し、酸素濃度センサ28により空間部102の酸素濃度を計測して外部に送信する。これにより、人が入れない危険な領域の環境情報を外部から知ることができ、作業効率の向上を図ることができる。
【0051】
第8の態様に係る火災収束ユニットは、火災発生現場としての建屋101を覆うことで空間部102を形成可能な不燃シート11と、外部と空間部102とを連通すると共に外部と空間部102との間で各種機器を移動可能な出入口トンネル12と、空間部102と外部とを連通すると共に空間部102の気体を外部に排出可能な排出トンネル13と、空間部102に消火剤を供給可能な消火剤供給装置14とを備える。これにより、建屋101を不燃シート11により覆うことで空間部102を形成し、出入口トンネル12を用いて各種機器を空間部102に搬入し、空間部102に消火剤を供給する一方、排出トンネル13から空間部102の気体を排出する。そのため、空間部102は、酸素濃度が低下することで建屋101の火災104が早期に消火されることとなる。その結果、建屋101の火災104を早期に収束することができる。
【0052】
第8の態様に係る火災収束ユニットによれば、建屋101を不燃シート11により覆うことで空間部102を形成し、出入口トンネル12を用いて各種機器を空間部102に搬入し、消火剤供給装置14により空間部102に消火剤を供給する一方、排出トンネル13から空間部102の気体を排出する。そのため、空間部102は、酸素濃度が低下することで建屋101の火災104が早期に消火されることとなる。その結果、建屋101の火災104を早期に収束することができる。
【0053】
第9の態様に係る火災収束ユニットは、第8の態様に係る火災収束ユニットであって、さらに、空間部102の酸素濃度を計測する酸素濃度センサ28と、空間部102の酸素濃度に基づいて消火剤供給装置14による消火剤の供給量を調整制御する制御部31とを設け、制御部31は、空間部102が有人であるとき、空間部102の酸素濃度が12%から15%の範囲になるように消火剤供給装置14を制御し、空間部102が無人であるとき、空間部102の酸素濃度が15%以下になるように消火剤供給装置14を制御する。これにより、空間部102が有人の場合、空間部102の酸素濃度が12%から15%の範囲に維持されることで、空間部102に残された人の健康被害を抑制することができる一方、空間部102が無人の場合、空間部102の酸素濃度を15%以下とすることで、建屋101の火災104を早期に収束させることができる。
【0054】
第10の態様に係る火災収束ユニットは、第8の態様または第9の態様に係る火災収束ユニットであって、さらに、空間部102の気体を排出トンネル13により外部に排出する吸引装置15を設ける。これにより、空間部102の酸素濃度を早期に適正値に低下させることができる。
【符号の説明】
【0055】
10 火災収束ユニット
11 不燃シート
12 出入口トンネル
13 排出トンネル
14 消火剤供給装置
15 吸引装置
21 搬送用ドローン(搬送用無人航空機)
22 搬送用ロボット(搬送用無人走行車)
23 真空ポンプ
24 排出ホース
25 監視用ドローン(監視用無人航空機)
26 監視機器
27 カメラ
28 酸素濃度センサ
29 温度センサ
31 制御部
32 操作部
33 表示部
101 建屋
102 空間部
103 地面
104 火災
図1
図2
図3
図4
図5
図6