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特開2024-67416腎癌又は前立腺癌の細胞増殖抑制剤、及び腎癌又は前立腺癌の上皮間葉転換抑制剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067416
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】腎癌又は前立腺癌の細胞増殖抑制剤、及び腎癌又は前立腺癌の上皮間葉転換抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4178 20060101AFI20240510BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240510BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
A61K31/4178
A61P35/00
A61P35/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177473
(22)【出願日】2022-11-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼ウェブサイト名:第70回日本化学療法学会総会 掲載アドレス: https://med-gakkai.jp/jsc2022/pro/ 掲載日:2022年4月27日 ▲2▼ウェブサイト名:第70回日本化学療法学会総会 掲載アドレスhttps://med-gakkai.jp/jsc2022/shoroku/data/shoroku.pdf 掲載日:2022年5月2日 ▲3▼集会名及びウェブサイト名:第70回日本化学療法学会総会 開催場所:長良川国際会議場(現地開催) 掲載アドレス:https://med-gakkai.jp/jsc2022/mypage/(ウェブ開催) 開催日及び掲載日:2022年6月5日(開催期間2022年6月3日~2022年6月5日) ▲4▼ウェブサイト名:第70回日本化学療法学会西日本支部総会 掲載アドレス:https://www.c-linkage.co.jp/wm-jcid2022/program.html 掲載日:2022年8月3日 ▲5▼刊行物名:第92回日本感染症学会西日本地方会学術集会 第65回日本感染症学会中日本地方会学術集会 第70回日本化学療法学会西日本支部総会 合同開催 プログラム・抄録集 発行日:2022年9月28日 ▲6▼集会名:第70回日本化学療法学会西日本支部総会 開催場所:出島メッセ長崎 開催日:2022年11月4日(開催期間2022年11月3日~2022年11月5日)
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】重村 克巳
(72)【発明者】
【氏名】大谷 亨
(72)【発明者】
【氏名】前田 光毅
(72)【発明者】
【氏名】中島 琢自
(72)【発明者】
【氏名】松尾 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】岩月 正人
(72)【発明者】
【氏名】大村 智
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC38
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】本発明は、腎癌又は前立腺癌に対する新たな治療薬を提供することである。
【解決手段】ナナオマイシンKは、腎癌又は前立腺癌の細胞増殖抑制剤及び上皮間葉転換抑制剤の有効成分としてとして有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナナオマイシンKを有効成分として含有する、腎癌の細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
ナナオマイシンKを有効成分として含有する、前立腺癌の細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
ナナオマイシンKを有効成分として含有する、腎癌の上皮間葉転換抑制剤。
【請求項4】
ナナオマイシンKを有効成分として含有する、前立腺癌の上皮間葉転換抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎癌又は前立腺癌の細胞増殖抑制剤、及び腎癌又は前立腺癌の上皮間葉転換抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は日本で最も多い癌の一つであり、高齢化社会に伴い、さらなる患者数の増加を伴っている。これまでの前立腺癌に対する分子標的薬は、前立腺癌の増悪因子である男性ホルモン(アンドロゲン)を標的にするものが多い。一方で、ホルモン抵抗性となった場合には、治療選択肢は抗がん剤しかないため、新規ターゲットを有した治療法が求められている。
【0003】
腎癌の治療は手術療法を第一選択肢とするが、転移がある場合や合併症などのために手術が困難な場合は、免疫療法や分子標的薬といった薬物療法が行われる。これらの薬物は特徴的な副作用があるため、薬物療法においては、副作用にうまく対処しながら、なるべく長期間に使用していく必要がある。副作用に対する感受性は患者により異なるため、より多くの患者に適用できるよう、薬物療法については新たな選択肢も求められている。
【0004】
Nanaomycin Kは、Streptomyces sp.K15-0591(NITE ABP-02304)が生産する化合物であることが知られており、膀胱癌細胞の上皮間葉系移行及び腫瘍の成長を阻害したことが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Scientific reports 2021 Apr28 Vol. 11 issue(1) 9217
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1には、Nanaomycin Kに、膀胱癌細胞の腫瘍の成長を阻害した報告があるが、その腫瘍成長阻害効果の程度はあくまで緩徐であり、膀胱癌細胞に対するNanaomycin Kの効果としては、むしろ上皮間葉系移行の阻害効果が特筆される。膀胱癌に対して有効な治療効果を得るためには、細胞増殖を阻害することよりも、上皮間葉系移行を阻害することが極めて重要となるため、Nanaomycin Kによる細胞増殖阻害効果が緩徐であることは、膀胱癌に対しては問題とならない。一方で、腎癌や前立腺癌に対して有効な治療効果を得るためには、細胞増殖を阻害することの方が極めて重視される。そして、膀胱癌細胞について報告されているNanaomycin Kによる腫瘍成長阻害効果の程度は、腎癌や前立腺癌に対する治療薬として有効と期待されるレベルを満たすものではない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、腎癌又は前立腺癌に対する新たな治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Nanaomycin Kが、腎癌及び前立腺癌に対して予想外の優れた細胞増殖阻害効果を奏することを見出した。さらに、Nanaomycin Kが、腎癌及び前立腺癌に対して上皮間葉転換(EMT:Epithelial Mesenchymal Transition)抑制効果を奏することも見出した。本発明は、この知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ナナオマイシンKを有効成分として含有する、腎癌の細胞増殖抑制剤。
項2. ナナオマイシンKを有効成分として含有する、前立腺癌の細胞増殖抑制剤。
項3. ナナオマイシンKを有効成分として含有する、腎癌の上皮間葉転換抑制剤。
項4. ナナオマイシンKを有効成分として含有する、前立腺癌の上皮間葉転換抑制剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、腎癌又は前立腺癌に対する新たな治療薬が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】腎癌細胞に対するナナオマイシンKによる細胞増殖抑制効果を示す。
図2】腎癌細胞に対するナナオマイシンKによる創傷治癒抑制効果を示す。
図3】腎癌細胞に対するナナオマイシンKによる創傷治癒抑制効果を示す。
図4】腎癌細胞におけるナナオマイシンKによるN cadherin及びVimentinの発現抑制効果を示す。
図5】腎癌細胞におけるナナオマイシンKによるSlugの発現抑制効果を示す。
図6】腎癌細胞におけるナナオマイシンKによるp-38及びERK1/2のリン酸化抑制効果を示す。
図7】前立腺癌細胞に対するナナオマイシンKによる細胞増殖抑制効果を示す。
図8】前立腺癌細胞に対するナナオマイシンKによる創傷治癒抑制効果を示す。
図9】前立腺癌細胞におけるナナオマイシンKによるN cadherin及びVimentinの発現抑制効果を示す。
図10】前立腺癌細胞におけるナナオマイシンKによるSlugの発現抑制効果を示す。
図11】前立腺癌細胞におけるナナオマイシンKによるp-38及びERK1/2のリン酸化抑制効果を示す。
図12】前立腺癌細胞担持マウスに対するナナオミシン投与による抗腫瘍効果を示す。
図13】膀胱癌細胞に対するナナオマイシンKによる細胞増殖抑制効果を示す。
図14】膀胱癌細胞担持マウスに対するナナオミシン投与による抗腫瘍効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.腎癌の細胞増殖抑制剤及び前立腺癌の細胞増殖抑制剤
本発明の腎癌の細胞増殖抑制剤及び前立腺癌の細胞増殖抑制剤(以下において、単に細胞増殖抑制剤とも記載する。)は、ナナオマイシンKを有効成分として含有することを特徴とする。
【0013】
有効成分
ナナオマイシンKとしては、以下の構造式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0014】
【化1】
【0015】
上記式(I)の化合物のカウンターカチオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等の、アルカリ金属イオンが挙げられ、好ましくはナトリウムイオンが挙げられる。また、上記化合物のカウンターアニオンとしては、塩化物イオン等のハロゲンイオン、及び炭酸イオン等の無機酸アニオンが挙げられ、好ましくは無機酸アニオンが挙げられ、より好ましくは炭酸イオンが挙げられる。
【0016】
さらに、ナナオマイシンKとしては、上記式(I)で示される化合物の他、上記式(I)の化合物のカルボン酸エステルも挙げられる。当該カルボン酸エステルとしては、具体的には、上記化合物と炭素数1~8のアルコールとのエステルが挙げられる。
【0017】
ナナオマイシンKは、その産生微生物(例えば、Streptomyces sp.K15-0591(NITE ABP-02304)が挙げられる。)の培養物から精製されたものであってもよいし、化学的合成法(例えば、H. Matsuo, J. Nakanishi, Y. Noguchi, K. Kitagawa, K. Shigemura, T. Sunazuka, Y. Takahashi, S. Omura, T. Nakashima, Journal of Bioscience and Bioengineering 2020, 129, 291-295.に報告されている方法が挙げられる。)による合成物であってもよい。
【0018】
本発明の細胞増殖抑制剤に含まれるナナオマイシンKの配合量については特に制限されず、当該細胞増殖抑制剤の製剤形態や具体的な用途等に応じて適宜設定されうるが、例えば40~100重量%が挙げられる。
【0019】
その他の成分
本発明の細胞増殖抑制剤は、上記有効成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、製剤形態及び用途に応じた添加剤及び/又は基剤をさらに含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、ゲル化剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、着色料、キレート剤、甘味料等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、本発明の細胞増殖抑制剤の製剤形態及び用途等に応じて適宜設定される。
【0020】
また、本発明の細胞増殖抑制剤は、上記有効成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類に応じて適宜設定される。
【0021】
製剤形態
本発明の細胞増殖抑制剤は、上記有効成分を含む限り、その形態及び性状は特に限定されない。
【0022】
本発明の細胞増殖抑制剤の投与形態としては、経口投与形態及び非経口投与形態のいずれもが含まれる。従って、本発明の感情障害改善剤は、経口剤、注射剤、点滴剤、点鼻剤等として調製されることができる。
【0023】
また、本発明の細胞増殖抑制剤の性状は、液状であってもよいし、固形状であってもよい。液状の例としては、液剤、飲料剤、乳剤、懸濁剤、酒精剤、シロップ剤、エリキシル剤、軟エキス剤等を含む)等が挙げられ、固形状の例としては、錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤(ハードカプセル及びソフトカプセルを含む)、トローチ剤、チュアブル剤、乾燥エキス剤等が挙げられる。本発明の細胞増殖抑制剤が固形状である場合、持続性又は徐放性の剤形としてもよいし、投与(摂取)時に水等と混合するようにしてもよい。
【0024】
製造方法
本発明の細胞増殖抑制剤の製造方法は、上記有効成分と、必要に応じて配合されるその他の成分とを用いて、各種形態及び性状、並びに使用目的に応じ、従来公知の通常の製剤手順に従えばよい。
【0025】
用途
本発明の細胞増殖抑制剤は、腎癌及又は前立腺癌の細胞増殖阻害を目的として用いられる。適用される腎癌としては特に限定されないが、好ましくは腎腺癌が挙げられる。
【0026】
用量
本発明の細胞増殖抑制剤の用量としては、ヒトへの用量で、ナナオマイシン量が、例えば0.001mg/日/kg以上、好ましくは0.002mg/日/kg以上、より好ましくは0.004mg/日/kg以上、さらに好ましくは0.006mg/日/kg以上、0.01mg/日/kg以上、0.02mg/日/kg以上、又は0.03mg/日/kg以上が挙げられる。当該用量の上限としては特に限定されないが、例えば0.1mg/日/kg以下、0.08mg/日/kg以下、0.06mg/日/kg以下、0.03mg/日/kg以下、0.02mg/日/kg以下、又は0.01mg/日/kg以下が挙げられる。
【0027】
本発明の細胞増殖抑制剤の投与方法は特に限定されないが、例えば、1日1回又は複数回、経口的又は非経口的に行うことができる。
【0028】
2.腎癌の上皮間葉転換抑制剤及び前立腺癌の上皮間葉転換抑制剤
本発明の腎癌の上皮間葉転換抑制剤及び前立腺癌の上皮間葉転換抑制剤(以下において、単に上皮間葉転換抑制剤とも記載する。)は、ナナオマイシンKを有効成分として含有することを特徴とする。
【0029】
本発明の上皮間葉転換抑制剤は、腎癌及又は前立腺癌の上皮間葉転換抑制を目的として用いられる。適用される腎癌としては特に限定されないが、好ましくは腎腺癌が挙げられる。
【0030】
本発明の上皮間葉転換抑制剤において、有効成分、その他の成分、製剤形態、製造方法、及び用量については、上記「1.腎癌の細胞増殖抑制剤及び前立腺癌の細胞増殖抑制剤」と同じである。
【実施例0031】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
以下において用いられたNanaomycin Kは、H. Matsuo, J. Nakanishi, Y. Noguchi, K. Kitagawa, K. Shigemura, T. Sunazuka, Y. Takahashi, S. Omura, T. Nakashima, Journal of Bioscience and Bioengineering 2020, 129, 291-295.に報告されている方法により合成した。具体的には、以下において用いられたNanaomycin Kは、上記式(I)で表される化合物の、カウンターカチオンがナトリウムイオン、カウンターアニオンが炭酸イオンのものである。
【0033】
[試験例1]腎癌細胞に対するNanaomycin Kの効果
ヒト由来腎癌細胞株であるACHN及びマウス由来腎癌細胞株であるRencaの少なくともいずれかを用い、細胞増殖分析(増殖抑制効果の確認)、創傷治癒分析(EMTにより誘発される運動能及び浸潤能の抑制効果の確認)、及びウェスタンブロット(増殖又はEMTに関連するタンパク質の発現分析)を行った。ウェスタンブロットでは、EMT 関連マーカー(N cadherin、Vimentin)、EMT 誘導転写因子(Slug)、及びMAPK 経路分子(Phospho p38、Phospho ERK1/2)の発現を調べた。N cadherinは、EMTにより発現が情報制御されるマーカーである。Vimentinは、EMTにより発現が情報制御されるマーカーである。Slugは、発現によりEMTを誘導する因子である。p38はアポトーシスに関連するMAPKシグナル経路分子である。Erk1/2は、増殖、分化に関連するMAPKシグナル経路分子である。
【0034】
[1]細胞増殖分析
96wellプレートに2,000 cells/wellで細胞(ACHN、Renca)を播種した。ウェルを2群に分け、一方に5 μg/mL TGF β(癌の悪性化因子)を添加した(n = 3)。24時間後、25 μg/mLのNanaomycin Kを含む培地と交換(n = 3)した。また、コントロールについては同濃度のDMSOを含む培地と交換した。0時間、24時間、48時間、及び72時間後のそれぞれの時点で、MTS 試薬(Promega)を添加し、4時間インキュベート後に吸光度を測定(490 nm)し、0時間時点での吸光度に対する各測定時点での吸光度の相対値(relative fold change)を導出した。結果を図1に示す。
【0035】
図1に示す通り、Nanaomycin Kは腎癌細胞の細胞増殖を有意に抑制した。後述比較試験例1における図13(膀胱癌細胞)の結果との対比からも明らかな通り、腎癌細胞に対するNanaomycin Kの細胞増殖抑制効果は各段顕著であった。
【0036】
[2]創傷治癒分析
12well プレートに100,000 cells/wellで細胞(ACHN)を播種した(n = 3)。24時間後、2群に分け、一方に5μg/mL TGFβを含む培地と交換した(n = 3)。48時間後、10μg/mL Nanaomycin Kを含む培地と交換した。また、コントロールについては同濃度のDMSOを含む培地と交換した。200μLチップを用いて創傷を付与し、創傷を経時的に評価した。結果を図2に示す。また、図2に基づく創傷治癒抑制効果(運動能、浸潤能の抑制効果)の評価のため、下記式に基づいてWound closureを導出した。Wound closureの値が小さい程、創傷治癒抑制効果(運動能、浸潤能の抑制効果)に優れていることを示す。結果を図3に示す。
【数1】
【0037】
図2及び図3に示す通り、Nanaomycin Kは、腎癌細胞に対して創傷治癒抑制効果を示した。
【0038】
[3]ウェスタンブロッティング
6well プレートに100,000 cells/wellで細胞(ACHN)を播種した。24時間後、2群に分け、一方に5 μg/mL TGFβを含む培地と交換した(n = 3)。24時間後、25μg/mL Nanaomycin Kを含む培地と交換した(n = 3)。また、コントロールについては同濃度のDMSOを含む培地と交換した。48時間後、タンパクを抽出し、以下の条件でウェスタンブロッティングを行った。結果を図4~6に示す。
【0039】
(ウェスタンブロッティング)
・サンプル調製
8M Urea Bufferで溶解した。
・サンプル濃度測定
PierceTM Coomassie (Bradford) Protein Assay Kit (Thermo Scientific)を使用した。
・SDS-PAGE
条件:200V、20 mA/ゲル、90分(定電流)
・転写
方式:ウェット式(タンク式)、メンブレン:PVDF(0.45μm)、条件:30V、90mA、960分(定電流)
・抗体
・・抗EMTマーカー抗体
Anti N cadherin(Biolegend)
Anti Vimentin(Biolegend)
・・抗EMT転写誘導因子抗体
Anti Slug(Cell Signaling Technology)
・・抗ローディングコントロール抗体
Anti β actin(Santa Cruz Biotechnology)
・・抗MAPKシグナル経路分子抗体
Anti phospho p38 MAPK (Thr180/Tyr182)(Cell Signaling Technology)
Anti phospho p44/42 MAPK (Erk1/2) (Thr202/Tyr204) (Cell Signaling Technology)
・・HRP標識二次抗体
Anti IgG (H+L chain) (Mouse) pAb HRP(MLB)
Anti IgG (H+L chain) (Rabbit) pAb HRP(MLB)
【0040】
図4に示す通り、Nanaomycin Kは腎癌細胞においてN cadherin及びVimentinの発現を抑制し、さらに、図5及び図6に示すように、Slug及びp 38, ERK1/2それぞれの発現も抑制した。このことは、Nanaomycin Kに腎癌細胞に対するEMT抑制効果が確認され、且つ当該抑制には Slug の発現抑制が関与していること、及びNanaomycin KがTGFβシグナル伝達により誘導される腎癌細胞のp 38及びERK1/2のリン酸化を阻害することで Slugの発現を抑制することを示唆する。
【0041】
[試験例2]前立腺癌細胞に対するNanaomycin Kの効果
マウス由来前立腺癌細胞株であるTRAMP C2、及びヒト由来腎癌細胞株であるLNCaPの少なくともいずれかを用い、細胞増殖分析(増殖抑制効果の確認)、創傷治癒分析(EMTにより誘発される運動能及び浸潤能の抑制効果の確認)、及びウェスタンブロット(増殖又はEMTに関連するタンパク質の発現分析)を行った。ウェスタンブロットでは、EMT 関連マーカー(N cadherin、Vimentin)、EMT 誘導転写因子(Slug)、及びMAPK 経路分子(Phospho p38、Phospho ERK1/2)の発現を調べた。N cadherinは、EMTにより発現が情報制御されるマーカーである。Vimentinは、EMTにより発現が情報制御されるマーカーである。Slugは、発現によりEMTを誘導する因子である。p38はアポトーシスに関連するMAPKシグナル経路分子である。Erk1/2は、増殖、分化に関連するMAPKシグナル経路分子である。
【0042】
[1]細胞増殖分析
96wellプレートに2,000 cells/wellで細胞(TRAMP C2)を播種した。ウェルを2群に分け、一方に5 μg/mL TGF β(癌の悪性化因子)を添加した(n = 3)。24時間後、5 μg/ mL又は25 μg/mLのNanaomycin Kを含む培地と交換(n = 3)した。また、コントロールについては同濃度のDMSOを含む培地と交換した。0時間、24時間、48時間、及び72時間後のそれぞれの時点で、MTS 試薬(Promega)を添加し、4時間インキュベート後に吸光度を測定(490 nm)し、0時間時点での吸光度に対する各測定時点での吸光度の相対値(relative fold change)を導出した。結果を図7に示す。
【0043】
図7に示す通り、Nanaomycin Kは前立腺癌細胞の細胞増殖を有意に抑制した。後述比較試験例1における図13(膀胱癌細胞)の結果との対比からも明らかな通り、前立腺癌細胞に対するNanaomycin Kの細胞増殖抑制効果は各段顕著であった。
【0044】
[2]創傷治癒分析
12well プレートに100,000 cells/wellで細胞(TRAMP C2)を播種した(n = 3)。24時間後、2群に分け、一方に5μg/mL TGFβを含む培地と交換した(n = 3)。48時間後、10μg/mL Nanaomycin Kを含む培地と交換した。また、コントロールについては同濃度のDMSOを含む培地と交換した。200μLチップを用いて創傷を付与し、創傷面積を経時的に測定した。具体的には、創傷治癒抑制効果(運動能、浸潤能の抑制効果)の評価のため、試験例1の[2]に示した式に基づいてWound closureを導出した。Wound closureの値が小さい程、創傷治癒抑制効果(運動能、浸潤能の抑制効果)に優れていることを示す。結果を図8に示す。
【0045】
図8に示す通り、Nanaomycin Kは、TGFβ媒介EMT誘導前立腺癌細胞に対して有意な創傷治癒抑制効果を示した。
【0046】
[3]ウェスタンブロッティング
6well プレートに100,000 cells/wellで細胞(TRAMP C2、LNCaP)を播種した。24時間後、2群に分け、一方に5 μg/mL TGFβを含む培地と交換した(n = 3)。24時間後、25μg/mL Nanaomycin Kを含む培地と交換した(n = 3)。また、コントロールについては同濃度のDMSOを含む培地と交換した。48時間後、タンパクを抽出し、以下の条件でウェスタンブロッティングを行った。結果を図9~11に示す。
【0047】
(ウェスタンブロッティング)
・サンプル調製
8M Urea Bufferで溶解した。
・サンプル濃度測定
PierceTM Coomassie (Bradford) Protein Assay Kit (Thermo Scientific)を使用した。
・SDS-PAGE
条件:200V、20 mA、90分(定電流)
・転写
方式:ウェット式(タンク式)、メンブレン:PVDF(0.45μm)、条件:30V、90mA、960分(定電流)
・抗体
・・抗EMTマーカー抗体
Anti N cadherin(Biolegend)
Anti Vimentin(Biolegend)
・・抗EMT転写誘導因子抗体
Anti Slug(Cell Signaling Technology)
・・抗ローディングコントロール抗体
Anti β actin(Santa Cruz Biotechnology)
・・抗MAPKシグナル経路分子抗体
Anti phospho p38 MAPK (Thr180/Tyr182)(Cell Signaling Technology)
Anti phospho p44/42 MAPK (Erk1/2) (Thr202/Tyr204) (Cell Signaling Technology)
・・HRP標識二次抗体
Anti IgG (H+L chain) (Mouse) pAb HRP(MLB)
Anti IgG (H+L chain) (Rabbit) pAb HRP(MLB)
【0048】
図9に示す通り、Nanaomycin Kは前立腺癌細胞(TRAMP C2)のN cadherin及びVimentinの発現を抑制した。また、図10に示すように、Nanaomycin Kは前立腺癌細胞(TRAMP C2)のSlugの発現を抑制した。さらに、図11に示すように、Nanaomycin Kは前立腺癌細胞(LNCaP)のp 38, ERK1/2それぞれの発現を抑制した。
【0049】
[試験例3]
C57BL/6JマウスにVitroGel 3D(The Well Bioscience)を用いてTRAMP C2を皮下移植した。腫瘍長径が10mmに到達した時点で、5mm角のSpongel(LTL phama)に、0.5又は1.0mg/body Nanaomycin Kを染みこませたものを腫瘍内に留置することで投与した(薬剤腫瘍内投与)。なお、コントロールには、Nanaomycin Kの代わりに1.0 mg/body DMSOを投与した。6日まで腫瘍サイズを毎日測定し、下記式に基づいて腫瘍径を導出した。結果を図12に示す。
【0050】
【数2】
【0051】
図12に示す通り、前立腺癌担持マウスに対し、Nanaomycin Kは抗腫瘍効果を示した。後述比較試験例2における図14(膀胱癌担持マウス)の結果との対比からも明らかな通り、前立腺癌担持マウスに対するNanaomycin Kの抗腫瘍効果は、腫瘍の増大を抑制するだけでなく腫瘍を縮小する効果も認められる点で、顕著であった。
【0052】
[比較試験例1]
細胞株として、ヒト膀胱癌培養細胞株2種(KK47、T24)それぞれを用いたことを除いて、試験例1,2の「[1]細胞増殖分析」と同様にして増殖抑制効果を確認した。結果を図13に示す。
【0053】
[比較試験例2]
細胞株として、ヒト膀胱癌培養細胞株(KK47)を用いたこと、及び投与後8日まで測定を行ったことを除いて、試験例3と同様にして抗腫瘍試験を行った。結果を図14に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14