(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067460
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】反射型位相差構造体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177552
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 圭亮
【テーマコード(参考)】
2H149
【Fターム(参考)】
2H149AB06
2H149DA02
2H149DA13
2H149FA41Y
2H149FD47
(57)【要約】
【課題】広帯域で均一な特性を有する反射型位相差構造体を提供する。
【解決手段】反射型位相差構造体100は、金属反射層102と誘電体異方構造106とを備える。誘電体スペーサ層104は、金属反射層102と誘電体異方構造106の間に挟まれる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属反射層と、
誘電体異方構造と、
前記金属反射層と前記誘電体異方構造の間に挟まれる誘電体スペーサ層と、
を備えることを特徴とする反射型位相差構造体。
【請求項2】
前記誘電体異方構造と前記誘電体スペーサ層は異なる材料であることを特徴とする請求項1に記載の反射型位相差構造体。
【請求項3】
前記誘電体異方構造と前記誘電体スペーサ層は同一材料であることを特徴とする請求項1に記載の反射型位相差構造体。
【請求項4】
前記誘電体スペーサ層の厚さは、10nm以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の反射型位相差構造体。
【請求項5】
前記誘電体スペーサ層の厚さは、100μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の反射型位相差構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、反射型位相差構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
光学分野において、光の位相制御は重要な技術である。光の位相を制御する光学部材として、1/4波長板や1/2波長板などの波長板が広く用いられる。
【0003】
物体表面に、微細加工により異方的な構造(異方構造体という)を形成することにより、位相差板の機能を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来において、反射型の位相差構造体は、使用する材料によって波長特性が決まってしまうため、広帯域で均一な特性を得ることが難しいという問題があった。
【0006】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、広帯域で均一な特性を有する反射型位相差構造体の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある態様の反射型位相差構造体は、金属反射層と、誘電体異方構造と、金属反射層と誘電体異方構造の間に挟まれる誘電体スペーサ層と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本開示のある態様によれば、広帯域で均一な特性を有する反射型位相差構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る反射型位相差構造体の斜視図である。
【
図3】比較技術に係る反射型位相差構造体の断面図である。
【
図4】
図3の反射型位相差構造体の反射率Rのシミュレーション結果を示す図である。
【
図5】
図1の反射型位相差構造体の反射率Rのシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】変形例1に係る反射型位相差構造体の断面図である。
【
図7】変形例2に係る反射型位相差構造体の断面図である。
【
図8】変形例3に係る反射型位相差構造体の断面図である。
【
図9】変形例4に係る反射型位相差構造体の断面図である。
【
図10】変形例5に係る反射型位相差構造体の断面図である。
【
図11】変形例6に係る反射型位相差構造体の斜視図である。
【
図12】変形例6に係る誘電体異方構造の設計パラメータを説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0012】
一実施形態に係る反射型位相差構造体は、金属反射層と、誘電体異方構造と、金属反射層と誘電体異方構造の間に挟まれる誘電体スペーサ層と、を備える。
【0013】
この構成によると、誘電体スペーサ層を挿入し、その材料および厚さを最適化することにより、広帯域にわたり、特性を均一化することができる。
【0014】
一実施形態において、誘電体異方構造と誘電体スペーサ層は異なる材料であってもよい。
【0015】
一実施形態において、誘電体異方構造と誘電体スペーサ層は同一材料であってもよい。
【0016】
一実施形態において、誘電体スペーサ層の厚さは、10nm以上であってもよい。
【0017】
一実施形態において、誘電体スペーサ層の厚さは、100μm以下であってもよい。
【0018】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示や発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示や発明の本質的なものであるとは限らない。
【0019】
また図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0020】
図1は、実施形態に係る反射型位相差構造体100の斜視図である。反射型位相差構造体100は、金属反射層102、誘電体スペーサ層104、誘電体異方構造106の積層構造である。
【0021】
金属反射層102の材料としては、可視域においてはAgやAlなどが好適である。近赤外を想定して設計する場合、Au,Cuなどを用いることができる。高い反射率が要求されない場合には、Cr,Ni,Feなどを用いてもよい。金属反射層102は、図示しない基材の表面や、位相差板としての機能をもたせたい別の部材の表面に形成される。
【0022】
誘電体異方構造106は、反射型位相差構造体100の面内(x-y)の互いに垂直な第1方向(x方向)と第2方向(y方向)に関して、異なる構造を有している。たとえば誘電体異方構造106は、y方向に伸び、x方向に隣接する複数のワイヤーグリッド110を有するワイヤーグリッド構造(ラインアンドスペース構造)である。誘電体異方構造106の材料は特に限定されないが、SiO2やTiO2などを用いることができる。その他、誘電体異方構造106の材料としては、MgF2、Al2O3、MgO、Y2O3,HfO2、ZrO2,Ta2O5などが例示される。
【0023】
誘電体スペーサ層104は、金属反射層102と誘電体異方構造106の間に挟まれる。本実施形態において、誘電体スペーサ層104と誘電体異方構造106は異なる材料で構成される。
【0024】
図2は、
図1の反射型位相差構造体100の断面図である。反射型位相差構造体100は、誘電体スペーサ層104の厚みdおよび材料、誘電体異方構造106の材料、ワイヤーグリッド110の断面形状、サイズの組み合わせで設計することができる。
【0025】
以上が反射型位相差構造体100の構造である。反射型位相差構造体100の利点は比較技術との対比によって明確となる。そこで、比較技術について説明する。
【0026】
図3は、比較技術に係る反射型位相差構造体200の断面図である。反射型位相差構造体200は、
図1の反射型位相差構造体100から、誘電体スペーサ層104を省略したものであり、金属反射層202の上に直接、誘電体異方構造206が形成されている。
【0027】
図4は、
図3の反射型位相差構造体200の反射率Rのシミュレーション結果を示す図である。シミュレーションは、入射角0°の光に対して行い、グリッドに沿う偏光成分をP偏光、それと垂直な偏光をS偏光としている。
【0028】
金属反射層202はAgであり、誘電体異方構造206はTiO2を想定し、波長550nmにおいて屈折率n=2.37として計算を行った。誘電体異方構造206のライン幅は20nm、スペース幅は70nmとしている。
【0029】
比較技術では、波長450nm帯域において、P偏光の反射率が、60%以下と大きく落ち込むことがわかる。この傾向は、設計パラメータを最適化しても同様であった。
【0030】
続いて、実施形態に係る反射型位相差構造体100のシミュレーション結果を説明する。
【0031】
図5は、
図1の反射型位相差構造体100の反射率Rのシミュレーション結果を示す図である。誘電体スペーサ層104の材料は、SiO
2を想定し、波長550nmにおいて屈折率n=1.46として計算を行った。
図5には、誘電体スペーサ層104の厚みdを、10nm、50nm、100nmとしたときの結果が示される。d=10nm、50nm、100nmのすべての場合において、比較技術においてみられた波長450nm付近でのP偏光の反射率が大幅に改善されていることが分かり、可視域全体にわたり、P偏光、S偏光ともに、70%以上のフラットな反射率を実現できる。
【0032】
なお誘電体スペーサ層104の最適な厚さdは、誘電体スペーサ層104と誘電体異方構造106の材料の組み合わせ、金属反射層102の材料、誘電体異方構造106の形状などに依存するが、d≦1000nmの範囲で、反射率を均一する効果が期待される。
【0033】
続いて反射型位相差構造体100の変形例を説明する。
【0034】
図6は、変形例1に係る反射型位相差構造体100Aの断面図である。変形例1においては、誘電体スペーサ層104Aと誘電体異方構造106Aが同一の材料で一体不可分に構成されている。
【0035】
実施形態では誘電体異方構造106のワイヤーグリッド110Aの断面が矩形であったが、それに限定されない。
【0036】
図7は、変形例2に係る反射型位相差構造体100Bの断面図である。変形例2において、誘電体異方構造106Bのワイヤーグリッド110Bの断面形状が三角形である。ワイヤーグリッド110Bの断面形状は台形であってもよい。
【0037】
図8は、変形例3に係る反射型位相差構造体100Cの断面図である。変形例3に示す様に、誘電体異方構造106の上側を、誘電体異方構造106とは異なる材料のパッシベーション膜108で覆ってもよい。
【0038】
図9は、変形例4に係る反射型位相差構造体100Dの断面図である。変形例4において、誘電体異方構造106Dは、x方向に近接する2本のワイヤーグリッド110のペア110Dがx方向に繰り返し形成されるダブルパターニング構造を有している。
【0039】
図10は、変形例5に係る反射型位相差構造体100Eの断面図である。変形例5では、
図9の2本のワイヤーグリッド110のペア110Eの間は、別の誘電体の充填部材112で満たされている。
【0040】
誘電体異方構造106は、ワイヤーグリッドの集合には限定されない。
【0041】
図11は、変形例6に係る反射型位相差構造体100Fの斜視図である。この変形例において誘電体異方構造106Fは、x方向およびy方向に隣接する複数のブロック114の集合である。
【0042】
図12は、変形例6に係る誘電体異方構造106Fの設計パラメータを説明する平面図である。誘電体異方構造106Fは、ブロック114のx方向の長さΔx、y方向の長さΔy、x方向のスペースd
x、y方向のスペースd
yをパラメータとして設計することができる。誘電体異方構造106Fが、異方構造であるといえるためには、Δx≠Δy、d
x≠d
yの少なくとも一方を満たしていればよい。
【符号の説明】
【0043】
100 反射型位相差構造体
102 金属反射層
104 誘電体スペーサ層
106 誘電体異方構造
108 パッシベーション膜
110 ワイヤーグリッド
112 充填部材