(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067475
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】包装用紙
(51)【国際特許分類】
B32B 29/00 20060101AFI20240510BHJP
D21H 13/14 20060101ALI20240510BHJP
D21H 13/24 20060101ALI20240510BHJP
D21H 15/10 20060101ALI20240510BHJP
D21H 27/10 20060101ALI20240510BHJP
D21H 19/18 20060101ALI20240510BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20240510BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B32B29/00
D21H13/14
D21H13/24
D21H15/10
D21H27/10
D21H19/18
D21H27/00 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177586
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 大昭
(72)【発明者】
【氏名】豊田 純也
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AA02
3E086AB01
3E086AC07
3E086BA04
3E086BA14
3E086BA15
3E086BB02
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3E086BB74
3E086CA01
4F100AJ02A
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4F100DG01A
4F100DG01C
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4F100JA13A
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4L055AA01
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4L055FA14
4L055FA19
4L055FA22
4L055FA30
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】耐水性、耐油性、ヒートシール性及び通気性を兼ね備え、少ない塗工回数により製造可能な包装用紙を提供する。
【解決手段】耐水性、耐油性及びヒートシール性を有する包装用紙であって、天然繊維と合成繊維とを混抄した混抄紙からなるヒートシール層を有し、ヒートシール層の全質量のうち、合成繊維の割合が50%以上であり、ヒートシール層の一方面にパラフィンワックスからなる塗布剤が塗布されており、塗布剤の塗布前の坪量が15.0~50.0g/m2であり、ヒートシール層のヒートシール強度が1.20N/15mm以上のものであることを特徴とする、包装用紙。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維と合成繊維とを混抄した混抄紙からなるヒートシール層を有し、
前記ヒートシール層の全質量のうち、前記合成繊維の割合が50%以上であり、
前記ヒートシール層の一方面にパラフィンワックスからなる塗布剤が塗布されており、
前記塗布剤の塗布前の坪量が15.0~50.0g/m2であり、
前記ヒートシール層のヒートシール強度が1.20N/15mm以上であることを特徴とする、包装用紙。
【請求項2】
前記パラフィンワックスの塗布量が2.0~10.0g/m2であることを特徴とする、請求項1に記載の包装用紙。
【請求項3】
前記塗布剤の塗布後の前記ヒートシール層のヒートシール強度が、前記塗布剤の塗布前の前記ヒートシール層のヒートシール強度の50%以上であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の包装用紙。
【請求項4】
JIS P 8117(2009)に準拠して測定した透気度が10~3600秒であることを特徴とする、請求項3に記載の包装用紙。
【請求項5】
前記ヒートシール層の他方面に、天然繊維を含有する原料繊維を抄紙してなる基材層が積層されていることを特徴とする、請求項3に記載の包装用紙。
【請求項6】
JAPAN TAPPI No.68に準拠して測定した撥水度がR6以上であり、
JAPAN TAPPI No.41に準拠して測定したキット値が3以上であることを特徴とする、請求項3に記載の包装用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性、耐油性、ヒートシール性及び通気性を有する包装用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等を包装する包装材としてプラスチックフィルムが広く使用されている。近年、環境への負荷低減を図るために、包装材に用いるプラスチックの減量化が進められており、プラスチックフィルムを紙素材で代替することが検討されている。しかしながら、紙素材単体では、耐水性や耐油性等が低く、ヒートシール性がないため包装材として使用しにくいという問題があった。
【0003】
そこで、紙素材にバリア性やヒートシール性を付与する手法が種々検討されている。例えば、特許文献1~3には、基紙に填料(顔料)を含有する塗工層とヒートシール性を有する樹脂を含有する塗工層とを積層することにより、基紙にバリア性とヒートシール性とを付与することが記載されている。また、特許文献4には、基紙の両面にパラフィンワックスを含有する下塗り層を設け、一方面の下塗り層上にスチレン-アクリル共重合体樹脂を含有する上塗り層を積層することにより、耐油性と通気性と備えた耐油紙が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-048970号公報
【特許文献2】特開2022-024664号公報
【特許文献3】特開2020-183593号公報
【特許文献4】特開2020-084368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3では、填料により基紙の隙間を埋めてバリア性を発現させているが、バリア性が高い代わりに通気性がないため、包装材内部の水蒸気が外部に抜けにくく、水蒸気を発生する食品の包装用途には適さない場合があった。また、填料を含む塗工層を設けるために、包装材の透明性が低く、意匠性を制限してしまうという問題もあった。更に、特許文献1~3のように2層以上の塗工層を設ける場合、製造工程が煩雑になるという問題もあった。
【0006】
また、特許文献4の耐油紙は、耐油性と通気性を有するため、水分を発生する食品の包装材の用途にも使用可能であるが、特許文献1~3と同様に複数の塗工層を設けるため、製造工程が煩雑になる。
【0007】
それ故に、本発明は、耐水性、耐油性、ヒートシール性及び通気性を兼ね備え、少ない塗工回数により製造可能な包装用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、耐水性、耐油性及びヒートシール性を有する包装用紙であって、天然繊維と合成繊維とを混抄した混抄紙からなるヒートシール層を有し、ヒートシール層の全質量のうち、合成繊維の割合が50%以上であり、ヒートシール層の一方面にパラフィンワックスからなる塗布剤が塗布されており、塗布剤の塗布前の坪量が15.0~50.0g/m2であり、ヒートシール層のヒートシール強度が1.20N/15mm以上ものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐水性、耐油性、ヒートシール性、及び通気性を兼ね備え、少ない塗工回数により製造可能な包装用紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態に係る包装用紙は、耐水性、耐油性及びヒートシール性を有するものであり、天然繊維と合成繊維とを混抄した混抄紙からなるヒートシール層を少なくとも有する。ヒートシール層の一面にはパラフィンワックスからなる塗布剤が塗布されて、耐水性及び耐油性が付与されている。包装用紙は、ヒートシール層単層であっても良いし、基材層と積層された積層体であってもよい。尚、本明細書において、「包装用紙」とは、パラフィンワックスを塗布した後の紙を指し、パラフィンワックスを塗布する前の紙を「原紙」と称する。なお、原紙で基材層とヒートシール層を積層させる場合は、ヒートシール性と耐油性を両立させる観点から、原紙の質量(坪量)のうち、基材層の割合が30~70質量%であることが好ましい。
【0011】
(基材層)
基材層としては、天然繊維、または、天然繊維と合成繊維の混合繊維を湿式抄紙した原紙を使用することができる。基材層の原料繊維のうち、天然繊維の割合は特に限定されないが、樹脂割合を低減する観点から、原料繊維の50~100質量%とすることが好ましい。
【0012】
(ヒートシール層)
ヒートシール層としては、天然繊維と合成繊維の混合繊維を湿式抄紙した原紙を使用する。ヒートシール層の原料繊維のうち、合成繊維の割合は50質量%以上、85%質量以下とする。合成繊維の割合が50質量%未満の場合、包装材に求められるヒートシール性が十分に発現しないため好ましくない。また、合成繊維の割合が85質量%を超える場合、パラフィンワックスが塗工面の裏側に抜け易くなり、耐水性及び耐油性が十分に発現しない。また、合成繊維の割合が85質量%を超える場合、ヒートシール層の隙間が大きくなると共に、パラフィンワックスの紙への染み込みが減少するため、耐水性及び耐油性が悪化する。
【0013】
(天然繊維)
天然繊維としては、例えば、クラフトパルプ、非木材パルプ、古紙パルプ、これらのパルプを組み合わせたもの等を使用することができる。
【0014】
クラフトパルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ(MP)を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0015】
非木材パルプとしては、例えば、ケナフパルプ、アバカパルプ、コットンリンターパルプ、バガスパルプ、麻パルプ、藁パルプ、竹パルプ等を単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0016】
古紙パルプとしては、例えば、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ(DIP)、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0017】
(合成繊維)
基材層に用いる合成繊維の材質は、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリビニルアルコール、ビニロン、PLA、PBS、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)、ナイロン等のポリアミド、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。合成繊維として、レーヨンやリヨセル等の再生繊維を使用しても良い。
【0018】
また、合成繊維として、芯部を鞘部が覆った芯鞘構造を有する芯鞘構造繊維を使用しても良い。芯部及び鞘部の材質としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、バイオポリエステル、バイオポリオレフィン、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)、ナイロン、アクリルからなる群から選ばれる何れかの熱可塑性樹脂を使用することができる。芯部及び鞘部は同じ樹脂であっても良いし、異なる樹脂であっても良い。また、芯部及び鞘部の一方または両方の材質が異なる2種以上の芯鞘構造繊維を混合して用いても良い。
【0019】
ヒートシール層に用いる合成繊維の材質としては、上述したもののうち、ヒートシール性を有するものを選択する。例えば、ヒートシール層用の合成繊維には、ポリエチレンや芯鞘構造繊維を好適に使用することができる。なかでも、ヒートシール層の空隙を少なくする観点から、PE繊維(ポリオレフィン多分岐繊維)を50質量%以上含むことが好ましい。
【0020】
また、原料繊維には、例えば、顔料、界面活性剤、ワックス、サイズ剤、填料、防錆剤、導電剤、消泡剤、分散剤、粘性調整剤、凝集剤、凝結剤、紙力向上成分、湿潤紙力向上剤、歩留まり向上剤、紙粉脱落防止剤、嵩高剤、増粘剤等の内添剤を内添させることができる。
【0021】
(塗布剤)
ヒートシール層に塗布する塗布剤として、パラフィンワックスを使用する。パラフィンワックスとしては、融点が45~70℃であるものを好適に使用することができ、融点が55~65℃であるものがより好ましい。包装用紙を単層のヒートシール層で構成する場合、原紙(ヒートシール層)の一方面に溶かしたパラフィンワックスを塗布する。包装用紙をヒートシール層と基材層との積層体として構成する場合、ヒートシール層の表面(基材層とは反対側の面)に溶かしたパラフィンワックスを塗布する。尚、パラフィンワックスを塗布した面が、包装用紙としての使用時に内容物に接する面となる。
【0022】
ヒートシール層に塗布されたパラフィンワックスは、ヒートシール層を構成する天然繊維及び合成繊維の隙間を埋めた状態で固化して、耐水性及び耐油性を発現し、水や油脂分のヒートシール面からの浸透を抑制する。ヒートシール層同士を突き合わせてヒートシールした際、パラフィンワックスが溶融してヒートシール層の内部の隙間に染み込み、ヒートシール層の合成繊維が表面に露出する。したがって、パラフィンワックスによってヒートシール性が阻害されない。
【0023】
尚、ヒートシール層に塗布する塗布剤には、填料(顔料)や澱粉、他の樹脂(アクリル樹脂やヒートシール性樹脂等)を含有させない。填料等の添加剤を含む塗布剤を使用した場合、添加剤がヒートシール層の隙間を埋めるため、耐水性及び耐油性を発現させることができる。しかしながら、添加剤を含む塗工層は包装用紙の通気性を低下させるため、水分を重視する食品用途の包装用紙として適さなくなる。
【0024】
(製造方法)
包装用紙を単層のヒートシール層で構成する場合、上述した原料繊維を湿式抄紙し、得られた湿紙を乾燥させることにより原紙を製造することができる。また、包装紙をヒートシール層と基材層との積層体として構成する場合、多層抄紙機を用いてヒートシール層と基材層を積層した原紙を製造することもできる。また、上述した原料繊維を湿式抄紙したヒートシール層と、ヒートシール層とは別に上述した原料繊維を湿式抄紙した基材層とを重ねて熱カレンダー処理により貼り合わせて、原紙を製造することもできる。
【0025】
カレンダー処理は、例えば、ハードニップカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダー等のカレンダー設備を用いて行うことができる。金属ロールと弾性ロールを組み合わせたカレンダー設備で乾燥工程を行っても良い。金属ロールとは、鋳鋼製であり、加熱されるカレンダーロールのことである。弾性ロールとは、コットン、エポキシ樹脂、特殊ポリエステル、アラミド等の材質からなり、非加熱側のカレンダーロールのことである。
【0026】
カレンダー処理における金属ロールの表面温度(加熱温度)は、180℃以上240℃以下であることが好ましい。金属ロールの表面温度が180℃未満の場合、合成繊維の熱融着が不十分であり、強度低下に繋がる可能性がある。また、金属ロールの表面温度が240℃を超える場合、合成繊維の融点に近づくため、熱カレンダー加工できなくなる可能性がある。
【0027】
カレンダー処理における線圧は、30kg/cm以上350kg/cm以下であることが好ましい。包装用紙の厚みの均一性を向上させる観点から、カレンダー工程の線圧は80kg/cm以上180kg/cm以下であることがより好ましい。カレンダー処理における線圧が30kg/cm未満である場合、繊維同士の接着が不十分となる可能性がある。また、線圧が350kg/cmを超える場合、繊維間の接合が破壊され、包装用紙の強度が低下する可能性がある。
【0028】
次に、ヒートシール層に溶融したパラフィンワックスからなる塗布剤を塗布し、固化させる。パラフィンワックスの塗布量は、2.0~10.0g/m2であることが好ましい。パラフィンワックスの塗布量が2.0g/m2未満の場合、耐水性及び耐油性が不足する可能性があるため好ましくない。また、パラフィンワックスの塗布量が10.0g/m2を超える場合、ヒートシール時に溶融したパラフィンワックスが多くなり、ヒートシール性を阻害してヒートシール強度が不十分となる可能性があるため、好ましくない。
【0029】
(坪量:塗布剤の塗工前)
塗布剤を塗布する前の原紙の坪量は、15.0~50.0g/m2とする。坪量は、「紙及び板紙-坪量の測定方法」JIS P8124(2011)に準拠して測定した値である。坪量が、15.0g/m2未満の場合、透気度が小さくなり、塗布剤を塗工しても耐水性及び耐油性が得られない可能性がある。また、坪量が15.0g/m2未満になると、包装用紙に求められる強度が得られない可能性がある。坪量が50.0g/m2を超える場合、剛度が高くなりすぎ、包装用紙を用いて包装を行う際の加工適性が低下する。また、ヒートシール加工時に熱の伝わりが悪くなり、ヒートシール強度が低下し、ヒートシール加工適性が低下する。尚、坪量は、原紙全体の値である。すなわち、原紙が単層のヒートシール層からなる場合は、原紙の坪量は単層のヒートシール層の坪量であり、原紙がヒートシール層と基材層との積層体である場合は、原紙の坪量は積層体全体の坪量である。
【0030】
(ヒートシール強度)
塗布剤の塗布後の包装用紙のヒートシール強度は、0.80N/15mm以上であり、1.50N/15mm以上であることが好ましい。ヒートシール強度は、包装用紙のヒートシール面同士を突き合わせて重ね、熱傾斜試験機(東洋精機製 TYPEHG-100)で温度180℃及び圧力1kgf/cm2で1秒間ヒートシールを行った後、15mm幅に裁断したサンプルを用いて、JIS P 8113に準拠した引張試験機を用いて、ヒートシールしていない両端部を引張試験機の固定具に上下固定し、T字型にしてヒートシール部分を上下に引っ張り剥離させ測定した値である。ヒートシール強度が1.20N/15mm以上であれば、包装材としての用途に適する。
【0031】
(塗布剤の塗布前後のヒートシール強度比)
下記式により求められるヒートシール強度比が50%以上であることが好ましい。ヒートシール強度比が50%以上であれば、ヒートシール層にパラフィンワックスを塗布した後もヒートシール性が維持され、包装材としての用途に適する。
ヒートシール強度比=塗布剤の塗布後の包装用紙のヒートシール強度/塗布剤の塗布前の原紙のヒートシール強度×100(%)
【0032】
(透気度)
包装用紙の透気度は、10~3600秒であることが好ましい。尚、透気度は、JIS P 8117(2009)に準拠して測定した値である。透気度の値がこの範囲内であれば、水蒸気を発生させる食品の包装用途に用いた場合に、発生した水蒸気を外部に放出させることができる。
【0033】
(撥水度、撥油度)
包装用紙の撥水度は、R6以上であることが好ましく、包装用紙の撥油度(キット値)は、3以上であることが好ましい。尚、撥水度は、JAPAN TAPPI No.68に準拠して測定したヒートシール面の値であり、撥油度は、JAPAN TAPPI No.41に準拠して測定したヒートシール面の値である。撥水度及び撥油度がこの範囲であれば、耐水性及び耐油性が良好であり、水蒸気を発生させる食品や油脂を含んだ食品の包装用途に適する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る包装用紙は、天然繊維と合成繊維とを含む原料繊維のうち、合成繊維の割合が50質量%以上であるものを抄紙してなるヒートシール層を含む原紙に、パラフィンワックスからなる塗布剤を塗布して構成される。ヒートシール性を有するヒートシール層にパラフィンワックスが塗布されていることにより、ヒートシール層の隙間が埋まり、耐水性及び耐油性が発現する。また、ヒートシール層に塗布する塗布剤は、パラフィンワックスからなり、填料等の添加剤を含まないため、ヒートシール層の隙間が添加剤によって過度に埋まらず、原紙が有する通気性が維持される。また、填料を含む塗布剤塗工した従来の包装用紙と比べて透明性に優れ、包装材としての意匠性を損なわない。また、本実施形態に係る包装用紙は、原紙の一面に塗布剤を1回塗工することにより製造可能であるため、複数回の塗工を行う従来の包装用紙と比べて製造工程及び使用原料が少なく、生産性に優れる。また、塗布剤の塗布前の原紙の坪量が15.0~50.0g/m2であるため、包装用紙に求められる強度と包装時の加工適性も良好である。
【0035】
したがって、本実施形態によれば、耐水性、耐油性、ヒートシール性及び通気性を兼ね備え、少ない塗工回数により製造可能な包装用紙を実現できる。
【実施例0036】
以下、本発明を具体的に実施した実施例を説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない
【0037】
まず、表1に示す割合でパルプ繊維及び/または合成繊維を含有する原料繊維を湿式抄紙し、乾燥させることにより、実施例1~4及び6~10、並びに、比較例1~6に係る原紙を作製した。実施例1~4及び6~10、並びに、比較例1、2、5及び6に係る原紙は、多層抄紙機を用いて抄紙した。実施例5については、表1に示す原料戦意を用いて、基材層とヒートシール層とを別々に抄紙した後、熱カレンダー処理により基材層及びヒートシール層を貼り合わせて原紙を作製した。なお、実施例1に係る原紙は、基材層の
坪量が15.85g/m2、ヒートシール層の坪量が15.85g/m2であった。
【0038】
次に、ヒートシール層の表面に表1に示す組成の塗布剤を塗布して固化させることにより、実施例1~10及び比較例1~6に係る包装用紙を得た。塗布剤に用いるパラフィンワックスとしては、日本精蝋(株)製パラフィンワックス(Paraffin Wax-135 融点59℃)を使用し、アクリル系樹脂としては、(株)第一塗料製造所製ハービルB-7を使用した。塗布剤の塗布量は、表2に示す通りとした。
【0039】
尚、表1に記載の原料繊維の配合割合及び塗布剤の配合割合は、質量基準である。PE繊維にはポリオレフィン多分岐繊維を使用した。表1に示すPET芯鞘、PP芯鞘、PLA芯鞘、PET/PE芯鞘は、それぞれ、芯部及び鞘部がPETからなる芯鞘構造繊維、芯部及び鞘部がPPからなる芯鞘構造繊維、芯部及び鞘部がPLA芯鞘からなる芯鞘構造繊維、芯部がPETからなり、鞘部がPEからなる芯鞘構造繊維を指す。また、アクリル主体繊維としては、三菱ケミカル(株)製:ボンネルM.V.P(H400)を使用した。
【0040】
【0041】
各実施例及び各比較例に係る原紙(塗布剤塗布前)及び包装用紙(塗布剤塗布後)の坪量、厚み、密度、ヒートシール強度及び透気度と、包装用紙のヒートシール面の耐油度(キット値)及び撥水度を、以下の通りに測定した。尚、表2に示す塗布剤の塗布量は、塗布剤の塗布前後の坪量の差から算出した。
(1)坪量は、JIS P 8124(2011)に準拠して測定した。
(2)厚みは、JIS P 8118(2014)に準拠し、測定圧100kPaにて測定した。
(3)密度は、JIS P 8118(2014)に準拠して測定した。
(4)ヒートシール強度は、JIS Z 0238(1998)に準拠し、包装用紙のヒートシール面同士を突き合わせて重ね、180℃、1kgf/cm2の条件で1秒間ヒートシールして得られたサンプルを用いて測定した。ヒートシール強度の測定値が、1.20N/15mmであれば、ヒートシール性ありとした。
(5)透気度は、JIS P 8117(2009)に準拠して測定した。1枚の基材で測定した数値である。
(6)撥油度(キット値)は、JAPAN TAPPI No.41に準拠して測定した。キット値が3以上であれば、耐油性ありとした。
(7)撥水度は、JAPAN TAPPI No.68に準拠して測定した。撥水度がR6以上であれば、耐水性ありとした。
【0042】
表2に、各実施例及び各比較例に係る包装用紙の評価値を示す。
【0043】
【0044】
実施例1~10に係る包装用紙はいずれも、耐水性、耐油性及びヒートシール性を有していた。また、実施例1~10に係る包装用紙の透気度が10~3600秒であり、水蒸気を発生させる食品の包装用途に適した通気性を有していた。また、塗布剤として填料等を含有しないパラフィンワックスを塗工することにより耐水性及び耐油性を発現させているため、実施例1~10に係る包装用紙は、少ない塗工回数で製造が可能であった。
【0045】
これに対して、比較例1及び2に係る包装用紙は、塗布剤として、アクリル系樹脂を含有するものを用いたため、塗布層のアクリル系樹脂がヒートシール時の温度で融けなくなり、ヒートシールを阻害するためヒートシール性が不十分となる。また、アクリル系樹脂が原紙の隙間を埋めるため、透気度が大きくなり、食品の包装用途に求められる通気性が得られなかった。
【0046】
比較例3に係る包装用紙は、ヒートシール層が合成繊維のみで抄紙され、天然繊維を含まないため、ヒートシール層の隙間が大きく、塗工面の裏側に塗布剤が抜けてしまい、耐水性及び耐油性が得られなかった。
【0047】
比較例4に係る包装紙は、天然繊維のみで抄紙したものであるため、ヒートシール性がなく、包装材の用途には適さないものであった。
【0048】
比較例5に係る包装用紙は、塗布剤の塗工前の原紙の坪量が低いため、透気度が小さく、塗工面の裏側に塗布剤が抜けてしまい、耐水性及び耐油性が得られなかった。
【0049】
比較例6に係る包装用紙は、塗布剤の塗工前の原紙の坪量が高く、パルプ繊維からなる基材層の割合も高いため、ヒートシール時の熱伝導性が悪く、同条件でのヒートシール強度が不十分であった。