(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000675
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】防護柵用ワイヤー
(51)【国際特許分類】
E01F 15/06 20060101AFI20231226BHJP
D07B 1/04 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
E01F15/06
D07B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099510
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】富樫 宏介
(72)【発明者】
【氏名】中山 武俊
(72)【発明者】
【氏名】細川 穂奈美
【テーマコード(参考)】
2D101
3B153
【Fターム(参考)】
2D101CA06
2D101DA05
2D101FA24
2D101FA25
2D101FA27
2D101GA23
3B153AA33
3B153AA42
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3B153BB01
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3B153DD26
3B153EE15
3B153FF01
3B153GG01
(57)【要約】
【課題】軽量で取り扱いやすく、荷重をかけた際にたわみが少なく、かつ高い視認性を有しているため、特に可動式防護柵用として好適に用いられるワイヤーを提供する。
【解決手段】強化繊維の束に樹脂が含侵してなる繊維強化樹脂材料製の芯線と、前記芯線の全長を被覆する着色層と、前記着色層を少なくとも一部被覆する再帰反射層とを有し、20kN荷重をかけた際の伸び率が0.8%以下である、防護柵用ワイヤーが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維の束に樹脂が含侵してなる繊維強化樹脂材料製の芯線と、前記芯線の全長を被覆する着色層と、前記着色層を少なくとも一部被覆する再帰反射層とを有し、20kN荷重をかけた際の伸び率が0.8%以下である、防護柵用ワイヤー。
【請求項2】
前記芯線が繊維強化樹脂製の素線を撚りあわせた形態であり、かつ前記着色層の断面が略円形である、請求項1に記載の防護柵用ワイヤー。
【請求項3】
前記着色層の60°光沢度が35以上である、請求項1または請求項2に記載の防護柵用ワイヤー
【請求項4】
前記着色層のデュロメータ硬さ(タイプA)が50以上90以下である、請求項1または請求項2に記載の防護柵用ワイヤー。
【請求項5】
JIS K5600-5-6(1999)に規定される付着性(クロスカット法)に準じて評価した前記再帰反射層の付着性が6点以上である、請求項1または請求項2に記載の防護柵用ワイヤー。
【請求項6】
前記強化繊維の束に含侵させる樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1または請求項2に記載の防護柵用ワイヤー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は防護柵用ワイヤーに関する。
【背景技術】
【0002】
人や乗り物などが危険地帯に侵入してしまうことを防いだり、人流や交通を整理する分離帯として、支柱などの支持体の間をワイヤーやロープなどを張り渡す方式の防護柵が用いられている。
【0003】
ワイヤー方式の防護柵の中には、ワイヤーの両端部を固定している支持体が地面からせり上がったり、天井から降下してきたりすることにより、防護柵を随意に設置、収納可能な可動式防護柵も利用されている。
【0004】
空中にワイヤーが張り渡されていることを人に認識させるため、例えば特許文献1では、外側周囲において、反射塗料及び再帰反射用ガラスビーズの双方を配設したことによる光の顕著な散乱及び再帰反射が可能なロープ状部材が提案されている。
【0005】
しかし従来のワイヤーなどの両端を単純に固定しただけでは、ワイヤーなどの自重による懸垂、人の寄りかかり、可動式防護柵の場合には上下動に伴う慣性によって、ワイヤーがたわんだり振動したりして、ワイヤーなどの切断や、振動するワイヤーなどに接触した人が怪我をしてしまう恐れがあるため、ワイヤーなどのたわみは極力発生しない事が要求される。
【0006】
ワイヤーなどのたわみを極力抑えるため、ワイヤーなどにあらかじめ引張張力(プレテンション)を与えた状態で支持体に固定する方法が取られているが、必用されるプレテンションはかなり大きなもので、従来の繊維を撚り合わせて作られた綱などを用いた場合は、プレテンションに耐えきれず破断してしまう。
【0007】
また、ステンレスワイヤーなどを用いた場合には、プレテンションには耐えられるものの、ワイヤーに垂直な方向に力を加えられるとたわみやすい性質を有する。そのためさらに強力なプレテンションを導入する必要があるが、特に可動式防護柵の場合には、導入できるプレテンションの大きさには限界がある。そもそもステンレス製のワイヤーは重くたわみやすく、重さは取付作業の際に取り扱いが難しいという課題の原因にもなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって本発明では、上記課題を解決し、軽量で取り扱いやすく、荷重をかけた際にたわみが少なく、かつ高い視認性を有しているため、特に可動式防護柵用として好適に用いられるワイヤーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記の(1)~(6)の防護柵用ワイヤーである。
【0011】
(1)強化繊維の束に樹脂が含侵してなる繊維強化樹脂材料製の芯線と、前記芯線の全長を被覆する着色層と、前記着色層を少なくとも一部被覆する再帰反射層とを有し、20kN荷重をかけた際の伸び率が0.8%以下である、防護柵用ワイヤー。
【0012】
(2)前記芯線が繊維強化樹脂製の素線を撚りあわせた形態であり、かつ前記着色層の断面が略円形であるとよい。
【0013】
(3)前記着色層の60°光沢度が35以上であるとよい。
【0014】
(4)前記着色層のデュロメータ硬さ(タイプA)が50以上90以下であるとよい。
【0015】
(5)JIS K5600-5-6(1999)に規定される付着性(クロスカット法)に準じて評価した前記再帰反射層の付着性が6点以上であるとよい。
【0016】
(6)前記強化繊維の束に含侵させる樹脂が熱可塑性樹脂であるとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の防護柵用ワイヤーは、軽量で取り扱いやすく、荷重をかけた際にたわみが少なく、かつ高い視認性を有しているため、特に可動式防護柵用ワイヤーとして好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えうることはもちろんである。
【0019】
本実施の形態にかかる防護柵用ワイヤーは、強化繊維の束に樹脂が含侵してなる繊維強化樹脂材料製の芯線と、前記芯線の全長を被覆する着色層と、前記着色層を少なくとも一部被覆する再帰反射層とを有し、20kN荷重をかけた際の伸び率が0.8%以下である、防護柵用ワイヤーである。
【0020】
<芯線>
本実施の形態にかかる芯線は、強化繊維の束に樹脂が含侵してなる繊維強化樹脂材料製である。
【0021】
本実施の形態にかかる防護柵用ワイヤーは、強化繊維の束を芯線として有する。本実施の形態における強化繊維の素材としては特に限定されないが、無機繊維、有機繊維、またはこれらを複合して用いることができる。具体的には、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維、バサルト繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維などが挙げられる。軽量でかつヤング率が高く、後述するワイヤーに必用な伸び率を比較的細い芯線でも達成できるとの観点から、炭素繊維、バサルト繊維が好ましい。
【0022】
本実施の形態にかかる強化繊維の束は、長さ方向に引き揃えた強化繊維を複数本(通常、数千本から数十万本)束ねた強化繊維を用いる。束ねる本数は、得られるワイヤーの太さや強度などを勘案し、適宜選択すればよい。具体的には1000本以上150000本以下である。束ねる本数が1000本以上であれば、芯線の強度を十分に確保しやすく、束ねる本数が150000本以下であれば、強化繊維の束の中心部まで十分に樹脂を含侵させられやすく、繊維強化樹脂製材料としての強度を十分に発現させられやすい。なお、炭素繊維メーカーから購入した炭素繊維の束を、さらに複数本撚り合わせたものを強化繊維の束として用いる場合には、合計の強化繊維の本数が強化繊維の束の本数となる。
【0023】
本実施の形態にかかる芯線は、前記強化繊維の束に樹脂が含浸してなる繊維強化樹脂製の芯線である。強化繊維の束に樹脂を含浸させることにより、強化繊維の束を一体化し、芯線としての強度を発現させる。
【0024】
本実施の形態における強化繊維の束に含浸する樹脂(マトリックス樹脂)としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、またはこれらを複合して用いることができる。具体的には、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、(メタ)アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリサルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルイミド、非晶ポリアリレート、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、ノボラック、レゾール樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂などが挙げられる。プリプレグ(樹脂が半硬化状態の繊維強化樹脂)の保管に注意を要しない点、靭性が高くて折れたり割れたりしにくい点、後に被覆する着色層を構成する樹脂と溶融接着して接着性が高められる点で熱可塑性樹脂を用いるのが好ましい。寸法安定性、耐候性、耐水性といった観点からは、フェノキシ樹脂またはエポキシ樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂であることから、フェノキシ樹脂が最も好ましい。なお、フェノキシ樹脂とは、分子が直鎖状、または熱可塑性を失わない程度の低い架橋密度や分岐を有するエポキシ樹脂を指す。
【0025】
後述する通り、前記芯線はその全長を着色層によって被覆される。ヒドロキシル基やアミノ基などの活性水素を有する樹脂をマトリックス樹脂として用いれば、着色層を構成する樹脂との間に架橋を形成し、芯線と、芯線を被覆する着色層との接着性を向上させるため好ましい。具体的には、フェノキシ樹脂、ポリウレタン、ノボラック、レゾール樹脂などである。
【0026】
前記マトリックス樹脂を強化繊維の束に含浸させる方法は特に限定されない。具体的には、熱可塑性樹脂を加熱溶融させ強化繊維の束に付与する方法、Bステージ(半硬化)状態の熱硬化性樹脂を強化繊維の束に付与する方法、比較的分子量が低く粘度が低いモノマーやオリゴマーなどを強化繊維の束に付与後、重合させ硬化する方法(現場重合法)などが挙げられる。強化繊維の束の内部にまで均一に樹脂を含浸させ、繊維強化樹脂の強度を十分に発現させる観点から、現場重合法により強化繊維の束に樹脂を含浸させることが好ましい。なお、強化繊維の束に樹脂を付与する方法としては、強化繊維の束を樹脂中に浸漬したり、樹脂を刷毛やコーターで塗布したり、離型材上に製膜したフィルムやローラーから強化繊維の束へ転写したりなど、公知の方法で行えばよい。
【0027】
さらに、使用した樹脂の特性に合わせ、加熱、加湿、活性エネルギー線の照射、養生といった硬化や重合など必要な化学反応を促進させる工程を加えてもよい。
【0028】
本実施の形態にかかる防護柵用ワイヤーは、20kN荷重をかけた際の伸び率が0.8%以下の伸びにくいワイヤーである。また、本実施の形態にかかる防護柵用ワイヤーは、少なくとも繊維強化樹脂製の芯線、着色層、そして一部には再帰反射層を有する複層構造を有する。とは言え、実質的にワイヤーの伸びにくさを決定する要因は繊維強化樹脂製の芯線となる。ここで、20kN荷重をかけた際の伸び率が0.8%以下の伸びにくいワイヤーを得るためには、ある程度の太さの強化繊維の束を用いる必要があるが、前述したとおり、単純に強化繊維の束を太くすると、強化繊維の束の中心部まで十分に樹脂を含侵させにくくなり、太くするだけでは所望の伸びにくさを達成できなかったり、過剰に芯線が太くなり重量の増加のコストの増加につながったり、かえって破断しやすくなったりする。そのため、強化繊維の束にマトリックス樹脂を含侵させた素線を複数本撚り合わせて芯線として用いるのが好ましい。撚り合わせる素線の本数は上記伸びにくさを達成できるよう適宜調整すればよいが、例えば7本、19本、37本など、撚り線の断面が円形に近くなる本数を選択するのが好ましい。後述するが、素線を撚り合わせて用いる場合には、防護柵用ワイヤーの断面が略円形となるよう、着色層の断面が略円形とするのが好ましい。
【0029】
<着色層>
本実施の形態にかかる防護柵用ワイヤーは、前記芯線の全長を被覆する着色層を有する。本実施の形態における着色層を構成する樹脂としては、顔料や染料などの着色剤が均一に分散できるものであれば特に限定されない。芯線を被覆する加工が行いやすいという観点から、熱可塑性樹脂を用いるのが好ましい。具体的には、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、(メタ)アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、非晶質ポリアリレート、ポリアセタール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0030】
また、防護柵用ワイヤーの断面が略円形となるよう、着色層の断面を略円形とするのが好ましい。防護柵用ワイヤーの断面が着色層によって略円形とされることにより、人に触られたり、荷物がぶつかったりなど外力が加えられた際、再帰反射層が剥がれにくくなる。また特に、芯線が繊維強化樹脂製の素線を撚りあわせた形態であり、可動式防護柵用ワイヤーとして用いる場合には、上下に動くワイヤーに人が接触する事故の際、撚りによってワイヤー表面に形成された綱状の凹凸が人体を擦過することとなるため、着色層でワイヤーの断面を略円形とすれば、事故の際のダメージを緩和できる。
【0031】
本実施の形態にかかる着色層は、デュロメータ硬さ(タイプA)が50以上90以下であるとよい。後述する再帰反射層を吹き付け法により設ける場合において、着色層のデュロメータ硬さが90以下であると、吹き付けられた再帰反射材が適度に着色層の表面に食い込み、付着性を向上させることができる。また、着色層のデュロメータ硬さが50以上であることにより、再帰反射材が着色層に埋没してしまうことを防ぎ、入射した光を反射する能力(再起反射効率)を十分に確保しやすい効果、および下地の適度な硬さによる付着性を確保しやすい効果が発揮される。より好ましい範囲は60以上80以下である。具体的には、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリビニルアルコールが挙げられ、耐久性の高さ、加工のしやすさの観点から、軟質ポリ塩化ビニルが好ましく用いられる。これら以外の樹脂であっても、可塑剤の添加や架橋、加硫の程度の調節、分子鎖の分岐の程度の調節などでデュロメータ硬さを適宜調節して用いればよい。
【0032】
なお、着色層のデュロメータ硬さ(タイプA)は、JIS K6253-3(2012)に準拠して、タイプAのデュロメータを使用して測定できる。
【0033】
また、本実施の形態にかかる着色層は、60°光沢度が35以上であるとよい。60°光沢度が35以上であることにより、着色層そのものの視認性と、再帰反射効率とを向上させられる。より好ましい60°光沢度は45以上である。着色層の60°光沢度を調節する方法として、着色層の表面が平滑となるよう、鏡面仕上げされた型を用いて着色層による芯線の被覆を行えばよい。
【0034】
なお、着色層の60°光沢度は、JIS K5600-4-7(1999)に準拠した光沢計を用いて測定できる。
【0035】
着色層の着色に用いられる着色剤としては、着色層を構成する樹脂と均一に分散できるものであれば特に限定されないが、色相が黄色、橙、赤といった警戒色であり、彩度が高い方が、より視認性が高められて好ましい。
【0036】
前記着色層を前記芯線の全長を被覆するように形成する方法は、特に限定されない。具体的には、溶剤希釈や加熱溶融などで流動性を与えた着色層用の樹脂を準備し、前記流動する樹脂を浸漬、塗布、噴射などにより芯線に与え、必要であれば成型した後に乾燥や冷却などをすればよい。生産性が高い点、着色層の断面を略円形に賦形できる点から、押出成形機を用いて芯線に溶融樹脂を付与し、略円形の型(サイジングダイ)を用いた引抜成形により断面を略円形とするのがよい。さらに、サイジングダイ内側を鏡面仕上げしておくことにより、着色層の光沢度を高められるためより好ましい。
【0037】
<再帰反射層>
本実施の形態にかかる防護柵用ワイヤーは、前記着色層を少なくとも一部被覆する再帰反射層を有する。本実施の形態における再帰反射層は、少なくとも再帰反射材と、再帰反射材を着色層に固定する樹脂(バインダー)とを含む。
【0038】
本実施の形態における再帰反射材の素材としては、ポリスチレンやアクリル樹脂などの透明樹脂製のビーズや、ガラスビーズなどが挙げられる。なお、ビーズとは球形で透明の粒子を指す。耐候性が高いこと、屈折率が高く再帰反射効率が高いこと、外力によって変形しにくく、再帰反射効率を維持しやすいとの観点から、ガラスビーズであることが好ましい。ガラスビーズを用いる場合には、ガラスの屈折率が1.8以上2.2以下であると、再帰反射効率が高く好ましい。
【0039】
ビーズのメジアン径(D50)は30μm以上200μm以下が好ましい。D50が30μm以上であることにより再帰反射効率を十分高められ、D50が200μm以下であることにより、再帰反射材が剥がれ落ちにくくなる。より好ましい範囲は50μm以上130μm以下である。なおD50は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0040】
さらに再帰反射材には、部分的に反射膜を形成しておいてもよい。反射膜を有する再帰反射材を用いることにより、再帰反射効率を高めることができる。再帰反射材に形成される反射膜としては、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、銀、スズなどの金属やこれらの金属酸化物を再帰反射材に蒸着させることで形成できる。
【0041】
本実施の形態における再帰反射層中の樹脂(バインダー)の素材としては、透明でかつ着色層に再帰反射材を固定できるものであれば特に限定されない。具体的には、ポリエチレンなどのポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、(メタ)アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、天然ゴム、ABS樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。耐候性と付着性が高いとの観点から、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタンが好ましく、ウレタン変性された(メタ)アクリル樹脂がより好ましい。
【0042】
さらにバインダー中には、薄片状の反射材が含まれていてもよい。バインダー中に薄片状の反射材が含まれていることにより、再帰反射効率を高めることができる。薄片状の反射材としては、マイカ、マイカを酸化チタンなどで被覆した薄片状粒子、アルミニウムなど前述した金属または金属酸化物の薄片状粒子などが挙げられる。
【0043】
前記再帰反射層は、着色層の少なくとも一部を被覆していればよい。例えば、着色層の全周を全長にわたって被覆していてもよいし、着色層を全長にわたって半面だけを被覆していてもよいし、着色層の全周を被覆した再帰反射層が飛び飛びに配置されていてもよい。
【0044】
前記着色層を前記再帰反射層で被覆する方法は特に限定されない。具体的には、再帰反射材を含むバインダーを塗料として準備し、前記塗料を浸漬、塗布、噴霧などで着色層に与える方法、バインダーを先に前記方法で着色層に与えた後、バインダーが硬化する前に再帰反射材を吹き付ける方法、離型材上にあらかじめ再帰反射材とバインダーと、必要であれば別途の接着剤とが積層されたフィルムを準備しておき、バインダーまたは接着剤を介して着色層に貼り付ける方法などが挙げられる。再帰反射材が最表面に整列し、再帰反射効率を高めやすいとの観点から、再帰反射材を後から吹き付ける方法、フィルムを貼り付ける方法が好ましく、生産性が高いとの観点から、再帰反射材を後から吹き付ける方法がより好ましい。
【0045】
また、着色層とバインダーとの付着性を高めるため、着色層表面に対し濡れ性向上加工やプライマーの塗布を行ってもよい。濡れ性向上加工としては、火炎処理やイトロ処理、コロナ処理やバインダーと相性が良いガス雰囲気下でのプラズマ処理などが挙げられる。プライマーとしては、着色層と再帰反射層の素材によって適宜選択すればよいが、例えば、ポリブタジエンなどの共役ジエン系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アルキド樹脂などが挙げられる。
【0046】
<防護柵用ワイヤー>
本実施の形態にかかる防護柵用ワイヤーは、20kN荷重をかけた際の伸び率が0.8%以下である。20kN荷重をかけた際の伸び率が0.8%以下であることにより、ワイヤーの自重による懸垂、人の寄りかかり、可動式防護柵の場合には上下動に伴う慣性によって、ワイヤーがたわんだり振動したりすることを抑制できる。本実施の形態にかかる防護柵用ワイヤーを用いれば、十分にたわみや振動を抑えつつ、導入するプレテンションを小さくして支持体にかかる負担を軽減できたり、支持体と支持体の間隔(張り渡すワイヤーの長さ)を長く取ることができたりする。さらに軽量であるため、取付作業の際の取り扱いが容易で、作業者への負担軽減や工期の短縮に寄与できる。20kN荷重をかけた際の伸び率は0.6%以下がより好ましい。下限は特に限定されないが、コストや、ワイヤーの太さや重さが過剰に大きくならない0.2%以上であればよい。
【0047】
また、本実施の形態にかかる防護用ワイヤーは、JIS K5600-5-6(1999)に規定される付着性(クロスカット法)に準じて評価した前記再帰反射層の付着性が6点以上にすることができる。前記付着性が6点以上であれば、人に触れられたり、荷物などが衝突したりした場合においても、十分に再帰反射層が剥がれにくい。前記付着性は8点以上であるとより好ましい。
【0048】
なお前記付着性は、平坦な基材上に着色層と再帰反射層を防護柵用ワイヤーを製造する際と同様にして積層した試験片を用いて評価する。