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特開2024-67502有害物質処理剤及びこれを使用する廃水又は気体の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067502
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】有害物質処理剤及びこれを使用する廃水又は気体の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/06 20060101AFI20240510BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20240510BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20240510BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
B01J20/06 B
B01J20/20 D
C02F1/28 B
B01D53/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177635
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】592048970
【氏名又は名称】日鉄セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】大石 徹
【テーマコード(参考)】
4D012
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012CB12
4D012CG01
4D624AA04
4D624AB17
4D624BA06
4D624BA11
4D624BA12
4D624BA13
4D624BB01
4G066AA05B
4G066AA30B
4G066AA45B
4G066AA66B
4G066CA24
4G066CA38
4G066CA46
4G066DA01
4G066DA08
(57)【要約】
【課題】セレン、カドミウム、ヒ素、鉛化合物等重金属類や水素ガス等の有害物質を除去するための処理剤を提供すること、及びこの処理剤を用いた廃水又は気体の処理方法を提供する。
【解決手段】結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物で、(AlSiO4)Xの基本構造を有するテクト珪酸塩鉱物を必須成分とする処理剤である。結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物としては、青金石、ラピスラズリ、瑠璃、ウルトラマリン顔料、合成青金石、合成ウルトラマリン、アフガン石又は青金石と方曹達石・黝方石・藍方石との固溶体鉱物から選ばれる1種類以上の鉱物がある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物からなることを特徴とする有害物質の処理剤。
【請求項2】
結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物と補助成分を含むことを特徴とする有害物質の処理剤。
【請求項3】
前記アルミノシリケート鉱物と、酸化マグネシウム、活性多孔質珪酸カルシウム類又は活性炭を含むことを特徴とする請求項2に記載の処理剤。
【請求項4】
結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物が、(AlSiO4)Xの基本構造を有する天然又は合成のテクト珪酸塩鉱物であり、青金石、ラピスラズリ、瑠璃、ウルトラマリン顔料、合成青金石、合成ウルトラマリン、アフガン石及び青金石と方曹達石・黝方石・藍方石との固溶体鉱物から選ばれる1種又は2種類以上の鉱物であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の処理剤。
【請求項5】
活性多孔質珪酸カルシウム類が、トバモライト、ゾノライト及びカルシウムケイ酸塩水和物から選ばれる1種又は2種以上を50重量%以上含むものである請求項3に記載の処理剤。
【請求項6】
有害物質が、重金属類又は水素ガスであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の処理剤。
【請求項7】
重金属類が、セレン、ヒ素、カドミウム及び鉛から選ばれる重金属類であることを特徴とする請求項6に記載の処理剤。
【請求項8】
有害物質が、水素ガスであり、硫化水素吸着用として活性炭を含む請求項3に記載の処理剤。
【請求項9】
セレンを含む廃水に、請求項1~3のいずれかに記載の処理剤を添加、混合し、セレンを除去することを特徴とするセレン含有廃水の処理方法。
【請求項10】
水素ガスを含む気体を、請求項1~3のいずれかに記載の処理剤を充填した容器内に導入し、選択的に水素ガスを除去することを特徴とする水素ガス含有気体の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有害物質を含有する汚泥、廃水、気体等から、これを除去するための処理剤、及びこの処理剤を使用する廃水又は気体の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工事現場、化学工場、鉱山などから排出される廃水、残土、汚泥は有害物質としてのセレンを含むことがあるが、その排出にはセレン濃度を0.1mg/L以下にすることが求められている。また、カドミウム、鉛、ヒ素等の重金属類を含む場合は、その除去も求められている。また、放射性廃棄物の処理においては、これをガラス固化体等として長期保存する技術があるが、これが徐々に空気中の湿分を吸収し、これを分解して水素ガスを発生させ、ガラス固化体保存容器を破壊する恐れがあることが知られている。水素ガス自体は直接的には人体には有害ではないが、上記のような環境や密閉した室内や容器内にある有害物質を放散する危険があるので、危険物質でもあり、有害物質でもある。本明細書でいう有害物質は、このような有害又は危険物質を含む。
【0003】
有害物質としては、ヒ素、セレン、鉛、カドミウム、クロム等の重金属類が代表的に挙げられる。重金属類は水溶性の化合物又はこれを含むイオンの形で存在することがあり、特にこの処理が望まれている。このような重金属類を処理するための処理剤としては、これらを水不溶性の塩又は水酸化物とすることが可能なアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物又は酸化物や、アルカリ金属の炭酸塩又は硫酸塩等を含むものが知られている。しかし、金属カチオンの形態ではなく、セレン酸のような形態で存在する場合は、上記のような不溶化剤では除去できないことが多い。
【0004】
セレンは、自然環境中で、水に溶解して存在する場合は、主に4価の亜セレン酸と6価のセレン酸であり、両者とも安定で酸化還元が起きにくい特徴がある。また、pHが酸性になると亜セレン酸イオンとして存在しやすく、pHがアルカリ性になるとセレン酸イオンとして存在しやすく、また還元状態になるとセロ価の金属セレンとして存在する。一般にセレン化合物は溶解度が高いものが多く、亜セレン酸イオンやセレン酸イオンの処理が難しい一因となっている。
【0005】
セレン汚染土壌の不溶化処理の方法としては、水酸化鉄表面へ吸着させる方法、カルシウムやマグネシウム系の水酸化物中に物理的に封じ込める方法、セリウムやランタン等の希土類酸化物に吸着させる方法などが知られている。
【0006】
鉄塩によるセレンの不溶化処理は、塩化第一鉄や塩化第二鉄等の鉄塩薬剤を汚染土壌に混合し、セレンを不溶性の鉄塩化合物として不溶化する方法がある。亜セレン酸イオンは、鉄イオンと反応し、難溶性化合物を生成する。また、水酸化鉄の生成時にセレンが取り込まれる共沈現象や、水酸化鉄表面への吸着が同時に起こるが、セレン酸イオンの場合は進行し難い。そのため、還元力のある鉄粉等を使用して、セレン酸イオンを亜セレン酸へと還元させた後、鉄塩による不溶化をさせる方法も知られているが、有機物や硫酸塩による妨害作用を受け易い問題がある。
【0007】
一方、酸化カルシウムや酸化マグネシウム系材料、セメント等によるセレンの不溶化処理技術も知られている。この反応では、化学的な反応と同時に物理的な固化も起こるが、鉄塩による不溶化効果に比べると低く、土壌溶出量基準適合までの不溶化は難しい。
【0008】
廃水中のセレンを除去する方法として、ハイドロタルサイト鉄粉置換処理法、水酸化鉄を用いた吸着処理法、化学的不働態化法などが知られている。
化学的不働態化法は、アルカリ性水溶液と塩化鉄のような鉄の酸性塩との中和反応によって、水酸化鉄又は酸化鉄を生成させ、これと共にセレンを沈殿させる方法や、2価の鉄の酸化反応によって水酸化鉄又は酸化鉄を生成させ、これと共にセレンを沈殿させる方法がある。
【0009】
特許文献1は、酸化マグネシウムと硫化物とを含む有害重金属類汚染土壌用の処理組成物と汚染土壌の処理方法を開示する。特許文献2は、アカガネイト(β-FeOOH)を用いてセレン酸等の無機化合物の陰イオンを吸着除去する方法を開示する。特許文献3は、塩化第二鉄水溶液に消石灰を加えて生ずる沈殿物を乾燥して、ヒ素等の重金属類を除去するために有用な処理剤とすることを開示する。特許文献4は、2価の鉄をアルカリ性で緩慢に酸化して生じる還元性鉄系沈殿物を繊維に担持させた処理剤を使用して、セレン等を除去することを開示する。特許文献5は、セレン含有廃水を脱酸素したのち、2価の鉄塩とアルカリを添加して、セレンと水酸化第一鉄を共沈させることを開示する。なお、本明細書でいう除去は、無害化、不溶化又は吸着等を含む。
【0010】
また、ある種の硫化物又は多硫化物を含む処理剤で重金属類を処理する技術が知られている。特許文献6は、酸化マグネシウムと硫化カルシウムを汚染土壌と混合してクロム、セレン等の重金属を除去することを開示する。特許文献7は、多硫化カルシウムとポリシリカ鉄を重金属汚染水に添加して重金属を除去することを開示する。
【0011】
一方、結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物としては、青金石、ラピスラズリ、瑠璃、ウルトラマリン顔料、合成青金石、合成ウルトラマリン、アフガン石および又は青金石と方曹達石・黝方石・藍方石との固溶体鉱物等が知られている。例えば、特開2000-43014号公報、特表2007-537122号公報は、ラピスラズリの合成方法を開示し、非特許文献1、特公昭56-045513号公報は、ウルトラマリン顔料の合成方法を開示する。
ラジカル性硫黄は、上記鉱物の結晶の格子内や格子間に硫黄(又はアニオン)を挿入した構造で存在し、通常S-、S2 -、S3 -、S4 -、S8 -の形で存在する。瑠璃が示す特徴的な青色は、不対電子を持つラジカルアニオンS3 -によるもので、ウルトラマリン顔料はこのS3 -による発色を利用する。しかし、このようなアルミノシリケート鉱物を有害物質の処理剤として使用することについては、知られていない。
【0012】
ジチオカルバミン酸のアルカリ金属塩は、S-をラジカルアニオンとして有し、廃棄物の焼却灰中の重金属の溶出防止のためのキレート化剤として使用されていたが、処理物が徐々に分解して有害な二硫化炭素を放出するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第4712483号公報
【特許文献2】特開2019-76863号公報
【特許文献3】特開2009-233545号公報
【特許文献4】特許第4380478号公報
【特許文献5】特許第4231934号公報
【特許文献6】特許第4712483号公報
【特許文献7】特開2014-226580号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】窯業協会誌、91 (2) 1983、p53-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、セレン、ヒ素、水素等の有害物質を除去するために有用な処理剤を提供すること、及びこの処理剤を用いた廃水、気体の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物からなることを特徴とする有害物質の処理剤である。また、本発明は、結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物と補助成分を含むことを特徴とする有害物質の処理剤である。
【0017】
本発明の処理剤は、前記アルミノシリケート鉱物と、酸化マグネシウム、活性多孔質珪酸カルシウム類又は活性炭を含む混合物であることができる。
【0018】
前記結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物としては、(AlSiO4)Xの基本構造を有する天然又は合成のテクト珪酸塩鉱物であって、青金石、ラピスラズリ、瑠璃、ウルトラマリン顔料、合成青金石、合成ウルトラマリン、アフガン石及び青金石と方曹達石・黝方石・藍方石との固溶体鉱物から選ばれる1種又は2種類以上の鉱物の混合物が挙げられる。
【0019】
前記活性多孔質珪酸カルシウムとしては、トバモライト、ゾノライト及びカルシウムケイ酸塩水和物から選ばれる1種又は2種以上を50重量%以上含むものであることができる。前記活性炭は、硫化水素吸着用として含むことがよい。
【0020】
有害又は危険物質としては、セレン、ヒ素、鉛又はカドミウム等の重金属類又は水素ガスが挙げられる。
【0021】
また、本発明は、セレンを含む廃水に、前記の処理剤を添加、混合し、セレンを除去することを特徴とするセレン含有廃水の処理方法である。更に本発明は、水素ガスを含む気体を、前記の処理剤を充填した容器内に導入し、選択的に水素ガスを除去することを特徴とする水素ガス含有気体の処理方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の有害物質の処理剤(本発明の処理剤ともいう。)は共沈等の操作をせずとも、重金属類等の有害物質の除去能力が高く、廃水、汚泥、残土等の無害化処理に優れる。また、水素ガスの除去能力にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の処理剤は、結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物(アルミノシリケート鉱物又は鉱物ともいう。)からなるか、この鉱物を必須成分として含む。すなわち、本発明の処理剤は、この鉱物単独であってもよく、この鉱物と補助成分を含む混合物であってもよい。
【0024】
ラジカル性硫黄は前記したようにアニオンとして存在することができ、この場合対イオンとしてアルカリ金属イオンのようなカチオンを存在させることがよい。
この鉱物は瑠璃のような天然鉱物であってもよいが、合成品が顔料(原料)等として多量に生産されているのでそれを使用することができる。
好ましくは、(AlSiO4)Xの基本構造を有する天然又は合成のテクト珪酸塩鉱物であり、青金石、ラピスラズリ、瑠璃、ウルトラマリン顔料、合成青金石、合成ウルトラマリン、アフガン石および又は青金石と方曹達石・黝方石・藍方石との固溶体鉱物から選ばれる1種又は2種類以上の鉱物の混合物が挙げられる。
一例として、ウルトラマリンブルーの分子式は、Al6Na8O24S3Si6であり、その結晶構造については、下記ホームページで紹介されている。
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Ultramarine-Blue
【0025】
珪酸塩鉱物の結晶中に含まれるラジカル性硫黄としては、S3 -及び/又はS4 -が挙げられる。S3 -は青色を示し、S4 -はピンク色を示し、S2 -は黄色を示すので、ラジカル性硫黄の判別が可能である。このような色を有することにより、有害物質と反応してこれを除去すると色が変化又は無色となって、有害物質の除去の程度や処理剤中の有効成分残存量が判別できるという利点がある。
なお、上記ラジカル性硫黄の一部を置換して、硫酸イオン及び又は塩素イオン、水酸イオンが含まれるものとしたものでは効果が劣る。
【0026】
本発明の処理剤が上記アルミノシリケート鉱物と、補助成分含む混合物である場合、補助成分としては、処理剤の処理能力を向上させる作用を有するものや、担体成分が好ましいが、増量剤等であってもよい。
好ましくは、酸化マグネシウム、活性多孔質珪酸カルシウム類又は活性炭が挙げられる。酸化マグネシウム粉や活性多孔質珪酸カルシウム類は、吸着能や有害物質との反応性を有し除去性能を高める。また、その形状によっては、担体としての機能を奏する。特に、活性多孔質珪酸カルシウム類の粒子は、担体としての機能が優れる。
増量剤としては、炭酸カルシウム粉、炭酸マグネシウム粉、珪石粉、ゼオライト粉、珪藻土粉、高炉スラグ粉、転炉スラグ粉、セッコウ粉、セメント等が挙げられるが、吸着作用等の他の機能を有してもよい。
【0027】
活性多孔質珪酸カルシウム類としては、トバモライト、ゾノライト及びカルシウムケイ酸塩水和物から選ばれる1種又は2種以上を50重量%以上含むものが適する。好ましくは、建材用の軽量気泡コンクリート板を破砕して得られる粒である。軽量気泡コンクリート板として、建造物の解体工事等で発生する廃棄軽量気泡コンクリート板を使用すれば、廃棄物の減量にも有効である。この場合の粒の粒径は、2mm以下が好ましい。また、下限は0.05mm以上であることがよい。
【0028】
酸化マグネシウムとしては、軽焼マグネシア、焼成マグネサイト、軽焼ドロマイト、焼成ドロマイト等が使用できる。酸化マグネシウムは粉末であることがよく、粒径は325μm以下の粉末であることが好ましい。
上記活性炭としては、ヤシ殻活性炭等がある。
【0029】
本発明の処理剤は、上記アルミノシリケート鉱物を単独で使用すれば、単位重量当たりの処理能力が高い。
本発明の処理剤が、上記アルミノシリケート鉱物と補助成分を含む場合のこれらの割合は、これらの合計に対し、アルミノシリケート鉱物5~90wt%の範囲が適する。より好ましくは、アルミノシリケート鉱物10~70wt%の範囲である。
酸化マグネシウム又は活性多孔質珪酸カルシウム類を含む場合のこれらの割合は、これらの合計に対し、アルミノシリケート鉱物5~90wt%の範囲が適する。より好ましくは、アルミノシリケート鉱物10~50wt%の範囲である。残余は酸化マグネシウム粉又は活性多孔質珪酸カルシウム類であってもよく、必要に応じて増量剤、活性炭、pH調整剤等を配合してもよい。酸化マグネシウム粉と活性多孔質珪酸カルシウム類の両者を配合してもよい。しかし、活性多孔質珪酸カルシウム類は10~95wt%の範囲、酸化マグネシウムは10~95wt%の範囲がより好ましい。
【0030】
本発明の処理剤を水素ガス用の処理剤又は吸着剤として使用する場合には、微小な多孔質顆粒状に加工したアルミノシリケート鉱物と活性炭との混合物とすることがよい。活性炭の配合割合は10~90wt%の範囲が適する。より、好ましくは30~70wt%の範囲である。
【0031】
補助成分として、酸化マグネシウム、活性多孔質珪酸カルシウム類、又は活性炭等を含む処理剤は、上記アルミノシリケート鉱物と、これら補助成分の1種又は2種以上を含む原料を、乾燥状態で攪拌、混合して得ることができる。処理剤の形状や粒径には制限はないが、取扱い性や反応性の観点からは、0.1~2mmの粒子を50wt%以上含むことが好ましい。
【0032】
本発明の処理剤で処理される有害物質としては、セレン、ヒ素、鉛、カドミウム等がある。セレンはセレン酸イオンや亜セレン酸イオンとして存在することが多いが、これらに対して除去能力が優れる。
【0033】
本発明の廃水の処理方法では、重金属類を含む廃水に本発明の処理剤を添加して、攪拌するなどして接触させ、これをろ過することで、重金属類を廃水から高度に除去することができる。
【0034】
本発明の気体の処理方法では、水素ガスを含む気体を、本発明の処理剤を充填した容器内に導入することで、選択的に水素ガスを除去することができる。例えば、放射性廃棄物の処理において、ガラス固化体等とする場合、その内部に本発明の処理剤を充填又は配合しておけば、徐々に発生する水素ガスを除去することができ、ガラス固化体等の長期保存をより安全にする。
【0035】
本発明の処理剤が重金属化合物等の重金属類を除去する作用は明確ではないが、アルミノシリケート鉱物の結晶構造中に重金属イオン等が取り込まれて固定される作用と、処理剤中の硫黄ラジカルが金属又は金属イオンと反応して硫化物として不溶化する作用があると考えられる。セレン酸イオンのようなアニオンについては、硫黄ラジカルがこれを還元して不溶化すると考えられる。本発明の処理剤が水素ガスを除去する作用は、アルミノシリケート鉱物の結晶構造中に水素を取り込むことと、処理剤中の硫黄ラジカルが水素と反応して硫化水素を生成することの2つがある。そして、硫化水素は活性炭に吸着されやすいので、処理剤に活性炭を補助成分として存在させれば、これを容易に除去することができる。そして、結晶構造中に取り込まれた有害物質は、結晶構造から放出されにくいという特長を示す。
【実施例0036】
本発明を実施例により説明する。なお、部は重量部であり、%はwt%である。
【0037】
実施例1
結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物として、市販の青金石結晶(ミャンマー、モゴク鉱山産、SiO2:33.6%、Al2O3:26.6%、Na2O:17.6%、SO3:11.1%、CaO:6.9%、MgO:2.0%、K2O:1.2%、Cl:1.0%)を、乾燥、粉砕して粒径0.1mm以下、0.01mm以上に調整して処理剤1を作成した。
【0038】
実施例2
結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物として、市販のラピスラズリ鉱石の青色部分(アフガニスタン、ジャンダク鉱山産、SiO2:42.5%、CaO:17.5%、Al2O3:12.8%、MgO:9.6%、Na2O:8.9%、SO3:6.5%、K2O:0.6%、FeO:0.5%)を、乾燥、粉砕して粒径0.1mm以下、0.01mm以上に調整して処理剤2を作成した。
【0039】
実施例3
結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物として、市販の硫酸バリウムベース合成ラピスラズリ鉱石(BaO:40.6%、SO3:23.4%、SiO2:12.4%、Al2O3:7.5%、Na2O:4.9%、P2O5:4.3%、Cl:2.2%、ZnO:2.2%、CaO:0.3%、K2O:0.2%、FeO:0.2%)を、乾燥、粉砕して粒径0.1mm以下、0.01mm以上に調整して処理剤3を作成した。
【0040】
実施例4
結晶構造内にラジカル性硫黄を含むアルミノシリケート鉱物として、市販のウルトラマリンブルー顔料(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品コード217-00012)を、処理剤4とした。
【0041】
実施例5
市販の活性炭粉末試薬特級(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品コード037-02115)50部に、実施例4で得た処理材4を50部加え、スーパーミキサーを使用して混合し、処理剤5を作成した。
【0042】
実施例1~5で得られた処理剤1~5のそれぞれについて、セレンの除去試験を行った。
模擬廃水として、市販のセレン標準液(Se1000)(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品コード196-18641)を使用した。このセレン標準液を純水により1000倍希釈したセレン含有水溶液(セレン濃度:0.91mg/L)を用意した。
このセレン含有水溶液100ml中に、表1に示す処理剤を1g加え、25℃で6h攪拌して接触させてセレンの除去を行った。その後、これを穴径0.45μmのメンブレンフィルタでろ過し、ろ液中のセレン濃度を、ICP発光分光分析を用いて測定した。ろ液中のセレン濃度をまとめて表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例6
実施例1~5で得られた処理剤1~5を用い、模擬廃水として、市販のカドミウム標準液(Cd100)(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品コード030-16211)を使用した。このカドミウム標準液を純水により100倍希釈したカドミウム含有水溶液(カドミウム濃度:1.0mg/L)を用意した。このカドミウム含有水溶液100ml中に、表2に示す処理剤を1g加え、25℃で6h攪拌して接触させてカドミウムの除去を行った。その後、これを穴径0.45μmのメンブレンフィルタでろ過し、ろ液中のカドミウム濃度を、ICP発光分光分析を用いて測定した。カドミウム濃度を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例7
実施例1~5で得られた処理剤1~5を用い、模擬廃水として、市販の鉛標準液(Pb100)(富士フィルム和光純薬株式会社製、製品コード127-04301)を使用した。この鉛標準液を純水により100倍希釈した鉛含有水溶液(鉛濃度:0.95mg/L)を用意した。この鉛含有水溶液100ml中に、表3に示す処理剤を1g加え、25℃で6h攪拌して接触させて鉛の除去を行った。その後、これを穴径0.45μmのメンブレンフィルタでろ過し、ろ液中の鉛濃度を、ICP発光分光分析を用いて測定した。鉛濃度を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
実施例8
活性多孔質珪酸カルシウムとして、市販の軽量気泡コンクリート板(クリオン社製、SiO2:49.5%、CaO:35.3%、Al2O3:4.4%、Fe2O3:2.6%、SiO2/CaO比=1.4)を、乾燥、粉砕して粒径1.2mm以下、0.1mm以上に調整した珪酸カルシウム粒を使用した。この珪酸カルシウム粒80部に実施例4で得た処理剤4を20部加え、スーパーミキサーを使用して混合し、処理剤6(SiO2:46.2%、CaO:28.3%、SO3:10.3%、Al2O3:7.9%、Na2O:3.1%、Fe2O3:2.6%、K2O:0.9%、MgO:0.6%)を作成した。
【0049】
比較例1
実施例8で使用したと同じ珪酸カルシウム粒を、処理剤H1とした。
【0050】
実施例9
市販の酸化マグネシウム粉(軽焼マグネシア、丸紅プラックス社製、MgO:91.8%、CaO:1.9%、SiO2:1.7%、Al2O3:0.1%、Fe2O3:0.4%、Igloss:3.6%)を80部と、実施例4で得た処理剤4を20部とを、スーパーミキサーを使用して混合し、処理剤7(MgO:73.5%、SiO2:7.9%、SO3:5.5%、Al2O3:4.5%、Na2O:3.1%、CaO:1.6%、Fe2O3:0.4%、K2O:0.2%)を作成した。
【0051】
比較例2
実施例9で使用したと同じ酸化マグネシウム粉を、処理剤H2とした。
【0052】
実施例10
実施例8で使用したと同じ珪酸カルシウム粒40部に、実施例9で使用したと同じ酸化マグネシウム粉を40部と、実施例4で得た処理剤4を20部とを、スーパーミキサーを使用して混合し、処理剤8(MgO:37.1%、SiO2:27.1%、CaO:15.0%、SO3:7.9%、Al2O3:6.2%、Na2O:3.1%、Fe2O3:1.3%、K2O:0.5%)を作成した。
【0053】
比較例3
実施例10で使用したと同じ珪酸カルシウム粒40部と酸化マグネシウム粉40部の混合物を、処理剤H3とした。
【0054】
実施例11
市販のハイドロタルサイト系重金属吸着材(マインエースF、日鉄セメント社製、MgO:34.9%、SiO2:25.6%、CaO:18.4%、SO3:12.4%、Al2O3:4.5%、Fe2O3:1.7%)を使用し、この重金属吸着材80部と実施例1で得た処理剤1を20部とを、スーパーミキサーを使用して混合し、処理剤9(MgO:27.9%、SiO2:27.1%、SO3:15.5%、CaO:14.8%、Al2O3:8.0%、Na2O:3.1%、Fe2O3:1.5%、K2O:0.5%、)を作成した。
【0055】
比較例4
実施例11で使用したと同じハイドロタルサイト系重金属吸着材を、処理剤H4とした。
【0056】
上記実施例で得られた処理剤6~9、及び比較例で得られた処理剤H1~4について、セレンの除去試験を行った。
実施例1~5で使用したと同じセレン含有水溶液(Se:0.91mg/L)100ml中に、表4に示す処理剤1g加え、25℃で6h攪拌して接触させてセレンの除去を行った。その後、これを穴径0.45μmのメンブレンフィルタでろ過し、ろ液中のセレン濃度を、ICP発光分光分析を用いて測定した。ろ液中のセレン濃度をまとめて表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
実施例12
実施例5で得た処理剤5を用いて、常温常圧下での水素ガスの吸着量を測定したところ、水素ガス吸着量は0.015L/gであった。
【0059】
比較例5
実施例5で使用したと同じ市販の活性炭粉末試薬特級を用いて、実施例12と同様にして水素ガスの吸着量を測定したところ、水素ガス吸着量は0.00L/gであった。
【0060】
実施例14
モデル廃水として、半導体製造滓を添加したヒ素含有水溶液(ヒ素濃度:1.82 mg/L)を用意して、ヒ素の除去試験を行った。
このヒ素含有水溶液100ml中に、実施例5で得られた処理剤5を1g加え、25℃で6h攪拌して接触させてヒ素の除去を行った。その後、これを穴径0.45μmのメンブレンフィルタでろ過し、ろ液中のヒ素濃度を比色法を用いて測定した。
【0061】
比較例6
実施例5で使用したと同じ市販の活性炭粉末試薬特級を用い、実施例14と同様にしてヒ素の除去試験を行った。
【0062】
比較例7
市販の液状多硫化カルシウム重金属吸着材(株式会社サガシキ製NDアースケア)を用い、実施例14と同様にしてヒ素の除去試験を行った。
ろ液中のヒ素濃度を表5に示す。
【表5】
【0063】
実施例1~5で得た処理剤1~5について、処理剤に含まれる硫黄分等を測定又は計算した結果と、有害物質吸着又は吸収量を計算した結果を表6に示す。この表のように各重金属に対しての処理量が大きいことが判る。
【0064】
【表6】