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特開2024-67507BOD供給剤及びBOD供給剤の添加方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067507
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】BOD供給剤及びBOD供給剤の添加方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/00 20230101AFI20240510BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240510BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
C02F3/00 G
C02F3/34 101A
C12N1/00 F
C12N1/00 J
C12N1/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177645
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】仲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
【テーマコード(参考)】
4B065
4D040
【Fターム(参考)】
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB08
4B065CA46
4B065CA55
4D040BB05
4D040BB57
4D040BB93
(57)【要約】
【課題】安全性が高く、カーボンニュートラルにも寄与することのできるBOD供給剤を提供する。
【解決手段】廃棄飲料及び減菌剤を含有するBOD供給剤。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄飲料及び減菌剤を含有するBOD供給剤。
【請求項2】
前記廃棄飲料は複数種類の銘柄の廃棄飲料を含有する請求項1に記載のBOD供給剤。
【請求項3】
前記廃棄飲料は廃棄濃縮飲料を含有する請求項1に記載のBOD供給剤。
【請求項4】
前記減菌剤は有機酸及び有機酸塩から選択される一種類以上を含有する請求項1に記載のBOD供給剤。
【請求項5】
前記減菌剤はデヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸、及びソルビン酸塩から選択される一種類以上を含有する請求項1に記載のBOD供給剤。
【請求項6】
デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸、及びソルビン酸塩の合計質量の前記廃棄飲料に対する添加率が、300~5,000mg/Lである請求項5に記載のBOD供給剤。
【請求項7】
前記減菌剤の減菌対象に酵母が含まれる請求項1に記載のBOD供給剤。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載のBOD供給剤を、排水を生物処理法により処理する際の生物処理槽中の排水又は生物処理槽に供給される前の排水の一方又は両方に添加することを含むBOD供給剤の添加方法。
【請求項9】
請求項1~7の何れか一項に記載のBOD供給剤を、排水を硝化脱窒法により処理する際の最も下流側に位置する脱窒素槽の中段又はそれよりも上流側の何れかの一つ又は複数の過程で添加することを含むBOD供給剤の添加方法。
【請求項10】
請求項1~7の何れか一項に記載のBOD供給剤を、排水を好気性処理法により処理する際の最も下流側に位置する好気槽の中段又はそれよりも上流側の何れかの一つ又は複数の過程で添加することを含むBOD供給剤の添加方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水を生物処理法により処理する際に好適に利用できるBOD供給剤に関する。また、本発明は、排水を生物処理法により処理する際のBOD供給剤の添加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水処理において、生物処理槽を用いる生物処理法は、物理的・化学的な排水処理方法と比較し、特殊な施設や複雑な装置などを必要とせず、また活性汚泥中の生物が中心となって処理を行うこととなるため、経済的にも有利な排水処理方法として知られている。
【0003】
代表的な生物処理法の一つに、硝化脱窒法がある(図1)。本法は主に原水(排水)中に含まれるアンモニア性窒素の除去に用いられる。脱窒素槽12では脱窒菌が原水由来のBOD(Biochemical Oxygen Demand)(生物化学的酸素要求量)やメタノールを水素供与体として利用し、硝酸や亜硝酸を嫌気的に還元して窒素ガスとして大気中に放出する。硝化槽13では原水中に含まれるアンモニア性窒素を硝化細菌が硝酸や亜硝酸にまで酸化する。硝化槽13から流出する硝化液の一部は沈殿槽14に送られる。沈殿槽14では硝化液を汚泥と上澄水とに固液分離して、上澄水は処理水として放流され、一方で沈降した汚泥は余剰汚泥として系外に排出される。また、硝化槽13から流出する硝化液の一部は脱窒素槽12へと循環する。なお、循環式硝化脱窒法の場合、硝化汚泥の一部は返送汚泥として脱窒素槽12の上段に返送され、再び系内を循環することとなる。脱窒素槽12の前段に原水を貯留する貯留槽11などが設けられることもある。
【0004】
硝化脱窒法の場合、原水由来のBOD以外の水素供与体として主にメタノールが用いられるが、メタノールは使用者への安全性の観点、カーボンニュートラルの観点から好ましくない。
【0005】
その他の代表的な生物処理法の一つとして、標準活性汚泥法などの好気性処理法がある(図2)。本法では曝気槽22にエアレーションにより空気を吹き込むことで、活性汚泥中で生息する微生物を活性化させ、流入する排水中に含まれるBODを分解・資化させる。沈殿槽23では曝気槽22からの流出液を汚泥と上澄水とに固液分離する。上澄水は処理水として放流される一方で、沈降した汚泥は余剰汚泥として系外に排出される。なお、余剰汚泥の一部は返送汚泥として曝気槽22の上段に返送され、再び活性汚泥として系内を循環することとなる。曝気槽22の前段に原水を貯留する原水槽21などが設けられることもある。
【0006】
好気性処理法において、生物処理槽の新規立ち上げ時などに原水由来のBODが流入しない時期がある。また、工場の製造品目の変更や長期休暇などにより、生物処理槽に流入するBODが減少・停止することがある。BODは生物処理槽の汚泥中に含まれる微生物にとって重要な栄養源であり、例えば生物処理槽の新規立ち上げ時にBODが流入しないと、活性汚泥が形成されず本稼働を開始することが出来ない。また、工場の製造品目の変更や長期休暇などにより、生物処理槽に流入するBODが減少・停止すると微生物の活性が低下し、汚泥解体などのトラブルを引き起こす。
【0007】
このような背景の下、特許文献1(特開2013-202549号公報)には、バイオディーゼル燃料の製造工程から副生される粗製グリセリン廃液から、酸による中和処理工程、油層と水層に分ける分離工程を経て、グリセリンが含まれる水層が取り出され、これを脱窒処理における有機炭素源として添加する脱窒剤として用いることが記載されている。
【0008】
非特許文献1(北川幹夫著、「省エネと環境に配慮した産業排水処理」、日刊工業新聞社発行、2013年、p.80)には、BOD含有排水が得られない場合において、糖類の一種であるグルコース、砂糖、糖蜜などを栄養源(BOD源)として添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-202549号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】北川幹夫著、「省エネと環境に配慮した産業排水処理」、日刊工業新聞社発行、2013年、p.80
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の脱窒剤を得るには、多段の処理工程を経る必要があり、多くの課題が残る。例えば粗製グリセリン廃液は粘性が高いために酸による中和処理工程を実施する際の攪拌が容易ではなく希釈水および希釈工程を要することや、粗製グリセリン廃液の濃度が高すぎると消防法に規定する危険物第4類(引火性液体)の第3石油類に該当するため慎重に取り扱う必要があることなどが記載されている。また、粗製グリセリン廃液がアルカリ性であること、中和処理に塩酸などの酸を用いることから、製造者に対する安全性についても課題が残る。更に、これら多段工程で発生する電力量や酸による中和処理工程に用いる酸使用量などに鑑みると、カーボンニュートラルの観点からも好ましいとは言い難い。
【0012】
非特許文献1に記載のグルコース、砂糖、糖蜜などをBOD源として用いる場合、食品と競合する観点から好ましくない。すなわち、生物処理槽におけるBOD供給剤は食品規格ほどの純度は求められないため、グルコース、砂糖、糖蜜などの食品製造工程が無駄になる。このため、カーボンニュートラルの観点から好ましいとは言い難い。また、糖蜜の一部には非食用の廃糖蜜なども存在するが、廃糖蜜は高粘度であることから薬品注入ポンプなどによる取扱いが難しく、更に高温環境(夏場)では低粘度、低温環境(冬場)では高粘度といった季節間での粘度の差も課題であった。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、一側面において、安全性が高く、カーボンニュートラルにも寄与することのできるBOD供給剤を提供することを課題とする。本発明は別の一側面において、そのようなBOD供給剤の排水への添加方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、廃棄飲料をBOD供給剤として使用することが有利であることを見出した。本発明は当該知見に基づき完成したものであり、以下に例示される。
【0015】
[態様1]
廃棄飲料及び減菌剤を含有するBOD供給剤。
[態様2]
前記廃棄飲料は複数種類の銘柄の廃棄飲料を含有する態様1に記載のBOD供給剤。
[態様3]
前記廃棄飲料は廃棄濃縮飲料を含有する態様1又は2に記載のBOD供給剤。
[態様4]
前記減菌剤は有機酸及び有機酸塩から選択される一種類以上を含有する態様1~3の何れかに記載のBOD供給剤。
[態様5]
前記減菌剤はデヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸、及びソルビン酸塩から選択される一種類以上を含有する態様1~4の何れかに記載のBOD供給剤。
[態様6]
デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸、及びソルビン酸塩の合計質量の前記廃棄飲料に対する添加率が、300~5,000mg/Lである態様5に記載のBOD供給剤。
[態様7]
前記減菌剤の減菌対象に酵母が含まれる態様1~6の何れかに記載のBOD供給剤。
[態様8]
態様1~7の何れかに記載のBOD供給剤を、排水を生物処理法により処理する際の生物処理槽中の排水又は生物処理槽に供給される前の排水の一方又は両方に添加することを含むBOD供給剤の添加方法。
[態様9]
態様1~7の何れかに記載のBOD供給剤を、排水を硝化脱窒法により処理する際の最も下流側に位置する脱窒素槽の中段又はそれよりも上流側の何れかの一つ又は複数の過程で添加することを含むBOD供給剤の添加方法。
[態様10]
態様1~7の何れかに記載のBOD供給剤を、排水を好気性処理法により処理する際の最も下流側に位置する好気槽の中段又はそれよりも上流側の何れかの一つ又は複数の過程で添加することを含むBOD供給剤の添加方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態に係るBOD供給剤は、食品廃棄物の一種である廃棄飲料を主原料としているため、製造者、使用者に対する安全性が極めて高い。また、当該BOD供給剤は、廃棄飲料に減菌剤を少量添加、混合するという単純な工程のみで製造可能であり、室温でも製造可能である。このため、製造時に高エネルギーかつ多段工程を要するBOD供給剤と比較して、カーボンニュートラルの観点からも好ましい。
【0017】
更に、当該BOD供給剤は減菌剤を含有している。このため、賞味期限切れなどの理由により廃棄飲料の中などに存在し得る微生物や、製造時の混合工程で混入し得る大気中などの微生物が、増殖したりするリスクを軽減することが可能である。このため、当該BOD供給剤は、長期保存時に微生物由来のガス発生や糖類減少(BOD低下)を引き起こして品質が低下するおそれが少ない、品質安定性に優れたBOD供給剤である。
【0018】
また、本発明の好ましい実施形態に係るBOD供給剤は、粘度が低く、その温度依存性も小さい。このため、夏季~冬季を通じて薬注ポンプにより安定的に注入することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一般的な硝化脱窒法(循環式硝化脱窒法)のフロー図である。
図2】一般的な好気性処理法(標準活性汚泥法)のフロー図である。
図3】廃棄濃縮飲料2銘柄を用いた際のBOD供給剤の製造方法の一例を示すフロー図である。
図4】一般的な硝化脱窒法(循環式硝化脱窒法)に本発明に係るBOD供給剤を用いる際の添加位置の例を示す図である(A:原水、B:貯留槽前段、C:貯留槽中段、D:貯留槽後段、E:脱窒素槽前段、F:脱窒素槽中段)。
図5】一般的な好気性処理法(標準活性汚泥法)に本発明に係るBOD供給剤を用いる際の添加位置の例を示す図である(A:原水、B:原水槽前段、C:原水槽中段、D:原水槽後段、E:曝気槽前段、F:曝気槽中段)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<1.BOD供給剤>
本発明に係るBOD供給剤(以下、単に「剤」、または「供給剤」とも呼ぶ。)は、硝化脱窒処理法や好気性処理法などの生物処理法により排水を処理する際に、微生物に対する栄養源として排水に添加可能である。
【0021】
本発明の剤は、BODの供給効率、運搬面・容積の観点から、JIS K0102:2016(工場排水試験方法)に準拠して測定されるBODが50,000mg/L以上であることが好ましく、100,000mg/L以上であることがより好ましく、150,000mg/L以上であることが更により好ましい。また、本発明の剤は、低温での粘度増加や結晶析出などを抑制する観点から、JIS K0102:2016(工場排水試験方法)に規定するBODが800,000mg/L以下であることが好ましく、750,000mg/L以下であることがより好ましく、700,000mg/L以下であることが更により好ましい。従って、本発明の剤は、例えば、BODが50,000~800,000mg/Lであることが好ましく、100,000~750,000mg/Lであることがより好ましく、150,000~700,000mg/Lであることが更により好ましい。
【0022】
本発明の剤は、皮膚刺激性など作業者への安全性の理由からpHが0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、1.0以上であることが更により好ましい。本発明の剤は、雑菌汚染防止の理由からpHが8.0以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましく、7.0以下であることが更により好ましい。
【0023】
本発明の剤は、廃棄飲料及び減菌剤を含有し、典型的には液状の剤として提供される。BOD供給剤は、水で希釈してもよい。
【0024】
BOD供給剤の製造に用いることができる廃棄飲料とは在庫処分、賞味期限切れ、開封済み、異物混入などの理由により廃棄せざるを得なくなった飲料を指し、糖類、タンパク質、油脂などのBODを含んでいれば良く、限定的ではないが、炭酸飲料、果実飲料、スポーツ飲料、野菜飲料、栄養ドリンク、コーヒー、紅茶飲料、豆乳、茶系飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料の他、アルコール飲料などを挙げることができる。
【0025】
廃棄飲料の中では、糖類などのBODを豊富に含まない糖質ゼロ系の清涼飲料の廃棄飲料よりも、糖類などのBODが豊富な清涼飲料の廃棄飲料が好ましい。また、希釈せずに原液で喫飲することが想定されている原液飲料の廃棄飲料(以下、「廃棄原液飲料」という。)よりも、希釈して喫飲することが想定されている濃縮飲料の廃棄飲料(以下、「廃棄濃縮飲料」という。)の方が、BOD含有量及び運搬面・容積の観点から好ましい。濃縮飲料はポストミックスシロップとも呼ばれ、ポストミックスジュースディスペンサーにて水や炭酸水などと希釈され、消費者に提供される。濃縮飲料としては、例えば、2倍以上200倍以下、典型的には2倍以上20倍以下に希釈してから喫飲することが想定されている濃縮飲料を好適に使用可能である。
【0026】
本発明の剤は、単独の銘柄の廃棄飲料を含有してもよいが、通常は飲料製造工場より複数銘柄の廃棄飲料が排出されることが多いため、複数種類の銘柄の廃棄飲料を含有することが好ましい。また、本発明の剤は、廃棄原液飲料と廃棄濃縮飲料を組み合わせて含有してもよい。
【0027】
廃棄飲料は、2種類以上の銘柄の廃棄飲料を混合する際に雑菌が混入したり、賞味期限切れなどの理由により雑菌が増殖したりすることで雑菌汚染される。そのため、本発明の剤は減菌剤を含有する。減菌対象の微生物としては、例えば、一般細菌、酵母、糸状菌(カビ)などの微生物が挙げられるが、特に酵母に対して減菌効果を示す減菌剤が好ましい。ここで、減菌剤とは、微生物の数を減少させる効果又は微生物の増殖を抑制する効果を有する薬剤を指す。また、本発明の剤は、沈殿物析出や低温での凝集防止の観点から、JIS K0101:2017(工業用水試験方法)10,000度以下の濁度であることが好ましい。
【0028】
一実施形態において、本発明の剤は、廃棄飲料を主成分として含有することができる。本発明の剤は、高BOD保持および雑菌汚染防止の理由により、廃棄飲料を40質量%以上含有することが好ましく、60質量%以上含有することがより好ましく、80質量%以上含有することが更により好ましい。更に、本発明の剤は、薬注ポンプ閉塞リスク等のハンドリング性の観点から、低温で固化しないことが好ましい。
【0029】
減菌剤としては、限定的ではないが、例えば、乳酸、クエン酸、アジピン酸、リンゴ酸、酢酸、酢酸ナトリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸塩(例:デヒドロ酢酸ナトリウム)、ソルビン酸、ソルビン酸塩(例:ソルビン酸カリウム)、安息香酸、安息香酸塩(例:安息香酸ナトリウム)、プロピオン酸、プロピオン酸塩(例:プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム)などの有機酸および有機酸塩、エタノールなどのアルコール類、次亜塩素酸ナトリウム、クロラミン類、二酸化塩素、ヨウ素などのハロゲン類、グリシンなどの減菌作用を有するアミノ酸、グリセリン脂肪酸エステル類、ポリグリセリン脂肪酸エステル類、ショ糖脂肪酸エステル類などの乳化剤、重合リン酸塩類などのリン酸塩類、亜硝酸ナトリウムなどの無機塩類、チアミンラウリル硫酸塩などのビタミン類、香辛料、茶タンニン、プロタミン、リゾチームなどの動植物由来の天然物、ポリリジン、ナタマイシン、バクテリオシンなどの微生物由来の天然物、アクチノマイシンD、アンホテリシンB、ブレオマイシン、G418、ハイグロマイシンなどの抗生物質などが減菌剤に該当する。
本発明の一実施形態に係るBOD供給剤は、単一種類の減菌剤を含有してもよいが、複数種類の減菌剤を含有してもよい。また減菌剤と併用する方法として、塩酸や硫酸などの強酸によりpH1.0以下に調整したり、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの強アルカリによりpH8.0以上に調整したり、塩化ナトリウムなどの添加により浸透圧調整したり、グルコースや砂糖などの添加により水分活性を低下させて雑菌汚染を防止しても良い。
【0030】
減菌剤は、試薬グレードではなく工業グレードでも構わない。また、使用者の安全性が厳密に求められる場合は、食品添加物グレードでも構わない。
【0031】
減菌剤は、安価かつ少量添加で高い減菌効果を発揮するという理由から、有機酸及び有機酸塩から選択される一種類以上を含有することが好ましく、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸、及びソルビン酸塩から選択される一種類以上を含有することがより好ましく、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、及びソルビン酸カリウムから選択される一種類以上を含有することが更により好ましい。
【0032】
BOD供給剤は減菌剤を、減菌対象となる微生物に対して減菌剤としての効果を示す有効量含有すればよく、特段の制限はない。但し、減菌剤の廃棄飲料に対する添加率、特に、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸、及びソルビン酸塩の合計質量の廃棄飲料に対する添加率は、減菌効果を高めるために、廃棄飲料(L)に対する減菌剤(mg)の割合で、300mg/L以上が好ましく、350mg/L以上がより好ましく、400mg/L以上が更により好ましい。また、減菌剤の廃棄飲料に対する添加率、特に、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸、及びソルビン酸塩の合計質量の廃棄飲料に対する添加率は、コストを抑制するという理由により、廃棄飲料(L)に対する減菌剤(mg)の割合で、5,000mg/L以下が好ましく、4,000mg/L以下がより好ましく、3,000mg/L以下が更により好ましい。従って、減菌剤の廃棄飲料に対する添加率、特に、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸、及びソルビン酸塩の合計質量の廃棄飲料に対する添加率は、例えば、300~5,000mg/Lが好ましく、350~4,000mg/Lがより好ましく、400~3,000mg/Lが更により好ましい。
【0033】
BOD供給剤は、季節によらず薬注ポンプにより固化せず安定的に注入できることが好ましい。そこで、本発明の剤は好ましくは-5℃~40℃の範囲における粘度が何れも2,000,000mPas・s以下であることが好ましく、1,000,000mPas・s以下であることがより好ましく、500,000mPas・s以下であることが更により好ましい。-5℃~40℃の範囲における粘度に特段の下限は設定されないが、希釈などにより粘度を低くしようとすると供給剤中のBODが低下しやすくなり、雑菌の著しい増殖も想定される。このため、本発明の剤は-5℃~40℃の範囲における粘度が何れも0.1mPas・s以上であることが通常であり、0.2mPas・s以上であることが典型的であり、0.5mPas・s以上であることがより典型的である。本明細書において、BOD供給剤の粘度は、JIS Z8803:2011(液体の粘度測定方法)に準拠して回転粘度計により測定される。
【0034】
<2.BOD供給剤の製造方法>
本発明の剤は、廃棄飲料に減菌剤を少量添加、混合するという単純な工程のみで製造可能である。廃棄飲料と減菌剤とを混合する際の混合方法や混合順序に制限は無く、例えば廃棄飲料に減菌剤を入れてミキサーで混合するといった通常の方法で混合することができる。また、粉体の減菌剤であれば少量の水に溶解して廃棄飲料と混合することも出来る。更に、廃棄飲料が飲料製造工場のタンク内に貯蔵されており、廃棄飲料が定期的にタンク内に流入する環境であれば、減菌剤(溶解済み減菌剤を含む)をポンプなどでタンク内に注入し、廃棄飲料がタンクに流入する時の水流でタンク内の廃棄飲料と減菌剤とを攪拌させても構わない。図3には、2種類の銘柄の廃棄濃縮飲料を使用して本発明の剤を製造する方法の一例を示すフロー図が示されている。意図的に2種類以上の銘柄を混ぜる場合の他に、飲料製造工場で2種類以上の銘柄が同一槽内で廃棄されたものを使用することも可能である。
【0035】
また、混合により不溶性の沈殿物が少量発生してポンプ閉塞などの問題が発生する場合は、ろ過、澱引き、純水による希釈などを適宜行うことが可能である。また混合の際に発泡する場合は、消泡剤などを適宜添加することが可能である。混合温度に制限はなく、例えば室温混合の他、減菌剤が溶解し難ければ投げ込み式ヒーターやジャケットヒーター等を用いて適宜加温しても構わない。
【0036】
本発明の剤は、廃棄飲料と減菌剤の他に、生物処理に寄与する微生物の活性を向上させるための成分、典型的には、MLSSを増加させるための成分を含有してもよい。生物処理に寄与する微生物の活性を向上させるための成分としては、限定的ではないが、例えば、ブドウ糖、砂糖、デンプン、糖蜜などの糖質、酵母エキス、ペプトン、スキムミルクなどのタンパク質、動物油、植物油、廃油などの油脂、尿素などの窒素源、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムなどのリン源、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄などの鉄化合物、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウムなどのカルシウム化合物、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどのマグネシウム化合物、塩化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガンなどのマンガン化合物、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウムなどのケイ素化合物、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの塩素化合物、ビタミン類が挙げられる。これらの成分は1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これらの成分の廃棄飲料に対する合計添加率は、添加する成分に応じて適宜決定すればよいが、廃棄飲料(L)に対するこれらの成分(mg)の合計割合で、100,000mg/L以下であるのが一般的であり、1~10,000mg/Lであるのが典型的である。本発明の一実施形態に係るBOD供給剤はその他、微量元素などを適宜含有してもよい。
【0037】
<3.BOD供給剤の添加方法>
本発明のBOD供給剤の添加方法は一実施形態において、上記のBOD供給剤を、排水を生物処理法により処理する際の生物処理槽中の排水又は生物処理槽に供給される前の排水の一方又は両方に添加することを含む。
【0038】
生物処理法としては、限定的ではないが、例えば、循環式硝化脱窒法、ステップ式硝化脱窒法、直接脱水(前脱水)型脱窒素処理方式などの硝化脱窒法の他、標準活性汚泥法、オキシデーションディッチ法、深槽曝気法、ステップエアレーション法などの好気性活性汚泥法、好気性生物膜法、固定床型浸漬ろ床法、流動床型浸漬ろ床法、流動担体法、回転円板法などの生物膜法などの好気性処理法を挙げることができる。また、嫌気処理槽、メタン発酵槽、生物脱臭槽、コンポスト発酵槽などBOD供給が必要な槽にも適宜使用可能である。
【0039】
本発明の剤は、他のBOD源と併用しても構わない。例えば硝化脱窒法であればメタノール等との併用も可能であるし、好気性処理法であればグルコース、砂糖、液糖、糖蜜、廃糖蜜等との併用も可能である。また、本発明の剤は通常運転時の原水流入(BOD流入)がある状態で添加しても構わないし、生物処理槽の新規立ち上げ時や運転休止中など原水流入がない状態で添加しても構わない。
【0040】
排水処理の工程において、本発明の剤を添加する場所としては、添加した剤がBODの供給を必要とする槽に流入する場所であれば何れの場所でもよい。また、BOD供給剤は、1つの添加場所に限定されるのではなく、複数の添加場所に添加しても構わない。
【0041】
例えば、排水を硝化脱窒法により処理する場合、BOD供給剤を有効活用するという観点から、最も下流側に位置する脱窒素槽の中段又はそれよりも上流側の何れかの一つ又は複数の過程で添加することが好ましい。より具体的には、硝化脱窒法の1つである循環式硝化脱窒法の場合は、原水から最も下流側に位置する脱窒素槽の中段までの何れかの場所が好ましく、貯留槽の前段から最も下流側に位置する脱窒素槽前段までの何れかの場所がより好ましく、最も下流側に位置する脱窒素槽の前段が更により好ましい。
【0042】
また例えば、排水を好気性処理法により処理する場合、BOD供給剤を有効活用するという観点から、最も下流側に位置する好気槽(酸素を供給する槽を意味し、標準活性汚泥法の場合は曝気槽に相当)の中段又はそれよりも上流側の何れかの一つ又は複数の過程で添加することが好ましい。より具体的には、好気性処理法の1つである標準活性汚泥法の場合は、原水から最も下流側に位置する曝気槽の中段までの何れかの場所が好ましく、原水槽の前段から最も下流側に位置する曝気槽前段までの何れかの場所がより好ましく、最も下流側に位置する曝気槽の前段が更により好ましい。
【0043】
図4に、原水を貯留槽11、脱窒素槽12、硝化槽13、沈殿槽14を経て処理し、処理水として排出する循環式硝化脱窒法における本発明の剤の添加場所の例を示す。図4の矢印のAは原水であり、Bは貯留槽11の前段であり、Cは貯留槽11の中段であり、Dは貯留槽11の後段であり、Eは脱窒素槽12の前段であり、Fは脱窒素槽12の中段である。図4に示される矢印のA~Fの何れかの1つまたは複数の場所で添加してもよい。また、脱窒素槽12、硝化槽13の後段に更に二次脱窒素槽、二次硝化槽を設ける方法などにおいては、二次脱窒素槽中段までの1つまたは複数の場所で添加してもよい。その他、BOD供給剤は硝化液の循環ラインに添加してもよいし、返送汚泥ラインに添加してもよい。
【0044】
図5に、原水を原水槽21、曝気槽22、沈殿槽23を経て処理し、処理水として排出する標準活性汚泥法における本発明の剤の添加場所の例を示す。図5の矢印のAは原水であり、Bは原水槽21の前段であり、Cは原水槽21の中段であり、Dは原水槽21の後段であり、Eは曝気槽22の前段であり、Fは曝気槽22の中段である。図5に示される矢印のA~Fの何れかの1つまたは複数の場所で添加してもよい。その他、BOD供給剤は返送汚泥のラインに添加してもよい。
【0045】
ここで、本明細書においては、一つの槽の流入口から流出口までの水平方向の距離をLとして、流入口の座標値を0、流出口の座標値を1.0Lとすると、座標値が0以上0.3L未満の場所を槽の前段と呼び、0.3L以上0.7L未満の場所を槽の中段と呼び、0.7L以上1.0Lの場所を槽の後段と呼ぶ。
【0046】
本発明の剤は、製造されたそのままの状態で排水処理設備の排水に添加してもよく、あるいは、排水への添加前に水などと混ぜて希釈してもよい。また、供給剤のpHが中性付近から離れている場合には、排水への添加前にpHを中性付近、例えば5.0~9.0の範囲内に戻すなどしてから排水に添加してもよい。
【0047】
本発明の剤の添加方法は特に限定されず、手作業による手動添加のほか、薬注ポンプによる自動添加でもよい。不溶性の沈殿物によりポンプ閉塞などの問題が発生する場合は、攪拌機などで適宜攪拌しながら添加してもよい。また、一回添加、複数回に及ぶ間欠添加、連続添加の何れでもよい。
【0048】
本発明の剤の添加量や添加期間は特に限定されない。例えばし尿処理場においてメタノールからの切り替えを行う際、脱窒菌がメタノール資化性菌に馴養されている可能性があるため、本発明の剤を本格的に使用する数日~数カ月前から本発明の剤の添加を少量から開始し、糖類を資化可能な脱窒菌が汚泥中で優占するよう別途馴養期間を設けても良い。
【0049】
本発明の剤は、限定的ではないが、例えば、食品製造工場、化学品製造工場、機器製造工場、医薬品製造工場などの各種製造工場の排水処理施設のほか、下水処理場、し尿処理場、屠畜場、浄水場、農場などの生物処理槽を用いる排水処理施設に適用することができる。
【実施例0050】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0051】
<試験1>
炭酸飲料や果実飲料など、複数銘柄の廃棄濃縮飲料をミキサーで混合した。得られた混合液のBODをJIS K0102:2016(工場排水試験方法)に準拠して測定したところ、450,000mg/Lであった。また、この混合液の室温におけるpHは2.1であった。この混合液を100mLずつメジューム瓶に分注し、蓋を閉めて-5℃、20℃、40℃で1か月間保存した。保存開始時および保存1か月後に各種培地に植菌し、汚染微生物の菌数を測定した。
一般細菌は、標準寒天培地(ぺプトン5g/L、酵母エキス2.5g/L、グルコース1g/L、寒天15g/L、pH7.0)を用い、混合液1mLを混釈し、35℃で24時間培養し、コロニー数を計測した。
酵母は、YPD寒天培地(ぺプトン20g/L、グルコース20g/L、酵母エキス10g/L、寒天15g/L、pH無調整)を用い、混合液0.1mLを塗抹し、30℃で48時間培養し、酵母特有のコロニー(円形、直径1~5mm、立体コロニー)を計測した。
糸状菌(カビともいう)は、ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地ともいう、グルコース20g/L、ポテトエキス4g/L、寒天15g/L、pH5.6)を用い、混合液0.1mLを塗抹し、20℃で5日間培養し、糸状菌特有のコロニー(粗大、コロニー周囲が糸状で不明瞭)を計測した。
【0052】
結果を表1に示す。菌数はlog CFU/mLで表記しており、例えば1.9log CFU/mLは10の1.9乗個、すなわち1mLあたり79個のコロニー数を示す。一般細菌は、-5℃および20℃では保存開始時と比較し菌数の増減は見られなかったが、40℃保存では死滅していた。この理由として、高温により菌体が徐々にダメージを受け、結果的に死滅した可能性が推測された。
【0053】
酵母は、-5℃および40℃では保存開始時、保存1か月後共に検出されなかったが、20℃では酵母の増殖が確認された。この理由として、大気中や廃棄濃縮飲料に由来するごく微量の酵母が廃棄濃縮飲料の混合時に混入し、1か月をかけて徐々に増殖した可能性が推測された。また、20℃保存の試験区を開封すると多少のガス発生が確認されたため、酵母の呼吸により糖質などのBODが分解され、二酸化炭素などのガスが発生したと考えられた。更にYPD寒天培地で検出された酵母を顕微鏡観察したところ、酵母特有の大きさ(5~10μm)示し、一部の個体では出芽酵母の特徴である出芽が観察された。
【0054】
カビは保存開始時、保存1か月後共にいずれの温度帯でも検出されなかった。このことより、混合液を汚染する微生物は主に酵母であることが明らかとなった。
【0055】
【表1】
【0056】
<試験2>
試験1で用意した混合液の汚染微生物である酵母に減菌効果を示す減菌剤のスクリーニングを行った。混合液における酵母増殖は極めて緩慢であり、また増殖菌体数も少量である。混合液は糖度や酸度により酵母の生育が抑制されていると推測されたため、混合液を滅菌水で2倍希釈して糖度や酸度を薄めて迅速に減菌効果の評価を行った。更に、大気中や廃棄濃縮飲料中に生息する酵母はごく微量であり、初発菌数にばらつきが生じると推測されたため、試験1で得られた酵母コロニーを液体培地で純粋培養し、滅菌水で2倍希釈した混合液に意図的に植菌することとした。以下に試験手順を示す。
【0057】
300mL三角フラスコにYPD液体培地(ぺプトン20g/L、グルコース20g/L、酵母エキス10g/L、pH無調整)を100mL入れてオートクレーブした後、試験1で取得された酵母コロニーを1白金耳植菌し、150rpm、30℃で24時間振盪培養を行った。得られた培養液を遠心分離機を用いて8,000rpm、3分間遠心分離して菌体回収し、菌体を滅菌水で洗浄し、更に再度遠心分離して菌体回収し、滅菌水でOD660=30まで希釈したものを酵母懸濁液とした。
【0058】
滅菌水で2倍希釈した混合液2mLを振盪用の試験管に入れ、酵母懸濁液を1%(20μL)植菌し、更に各種減菌剤を表2に記載の添加率で添加した。有機酸および有機酸塩の減菌剤として酢酸、酢酸ナトリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムを、有機酸および有機酸塩以外の減菌剤としてエタノール、グリシン、プロタミンを試験に供した。
【0059】
2倍希釈した混合液、酵母懸濁液、各種減菌剤を添加した試験管を150rpm、30℃で3日間振盪培養し、酵母を増殖させた。培養終了後、試験1と同様にYPD寒天培地でコロニー数を計測し、減菌効果を確認した。ちなみに、培養前の酵母はいずれの試験区も6.0log CFU/mLであった。
【0060】
有機酸および有機酸塩の減菌試験の結果を表2に示す。減菌剤無添加の場合の7.6log CFU/mLを下回ると酵母の増殖が抑制されていることを意味し、6.0log CFU/mLを下回ると酵母が減少していることを意味するため、7.6log CFU/mL未満であれば廃棄濃縮飲料に含まれる酵母に対して減菌効果を発揮すると判断し、6.0log CFU/mL未満であれば廃棄濃縮飲料に含まれる酵母に対して高い減菌効果を発揮すると判断した。まず酢酸、酢酸ナトリウムは同程度の傾向を示し、1,000mg/L以上で高い減菌効果が確認された。またデヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムは酢酸、酢酸ナトリウムよりも高い効果を示し、いずれも300mg/L以上で高い減菌効果が確認された。
【0061】
【表2】
【0062】
有機酸および有機酸塩以外の減菌試験の結果を表3に示す。エタノール、グリシンは若干の減菌効果が確認されたものの5,000mg/Lを添加しても高い減菌効果は認められなかった。一方、プロタミンは1,000mg/Lで7.0log CFU/mlを下回ったことからエタノール、グリシンよりも減菌効果が高いことが確認されたが、5,000mg/L添加でも6.0log CFU/ml未満にはならなかった。
【0063】
【表3】
【0064】
以上の結果より、廃棄濃縮飲料に含まれる酵母に対して好ましい減菌効果を示す物質は有機酸および有機酸塩であり、特にデヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムが少量で高い減菌効果を示すことが明らかとなった。一方で5,000mg/Lを超える添加は大幅なコスト増に繋がり、またBOD供給剤として生物処理槽に投入した際の生物処理活性への影響も懸念されることから、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムを混合液に添加する際の添加率は300mg/L~5,000mg/Lが好ましく、350~4,000mg/Lの範囲がより好ましいと考えられた。
【0065】
<試験3>
試験1で用意した混合液にソルビン酸カリウムを500mg/L添加したものを試作BOD供給剤とし、脱窒試験に供した。以下に試験手順を示す。
【0066】
し尿処理場の脱窒素槽から採取された汚泥を1L三角フラスコに少量入れ、純水で1LにメスアップしMLSSが4,000mg/Lとなるよう調整した。室温でスターラーを用いて低速回転させて嫌気環境とし、ここに硝酸ナトリウムをNO3-Nとして10mg/Lとなるよう添加した。そして、試作BOD供給剤をBODとしてNO3-Nの3倍量(30mg-BOD/L)となるよう添加する場合(実施例)と、試作BOD供給剤を添加しない場合(比較例)の両者において、NO3-Nを経時的に測定した。NO3-Nが減少していれば汚泥中の脱窒菌がBOD供給剤を水素供与体として利用して脱窒したと見なした。
【0067】
結果を表4に示す。試作BOD供給剤無添加の試験区ではNO3-Nに変化は見られず、脱窒が進行しなかった。一方、試作BOD供給剤添加の試験区では時間と共にNO3-Nが減少し、脱窒が進行した。以上の結果より、試作BOD供給剤を硝化脱窒処理の脱窒工程で水素供与体として用いることが出来ると考えられた。
【0068】
【表4】
【0069】
<試験4>
試験3で調製した試作BOD供給剤を、好気性処理における生物処理槽の立ち上げを模倣した試験に供した。以下に試験手順を示す。
【0070】
2Lメスシリンダーに標準活性汚泥法の汚泥を種汚泥として少量入れ、純水で1LにメスアップしMLSSが1,000mg/Lとなるよう調整した。室温でエアストーンを用いて曝気を行いながら試作BOD供給剤をBOD-SS負荷として0.2kg-BOD/kg-MLSSとなるよう試作BOD供給剤を毎日0.44mL(200mg-BOD/L)添加した。曝気による水分蒸発を考慮し毎日純水で1Lにメスアップしつつ、希硫酸および水酸化ナトリウム水溶液でpHを中性付近(6.0~8.0の範囲内)に維持するとともに、経時的にMLSSを測定し、汚泥量の変化を調査した。また、比較として試作BOD供給剤を添加しない場合についても、汚泥量の変化を調査した。
【0071】
結果を表5に示す。試作BOD供給剤無添加の試験区では種汚泥に栄養源が供給されず、汚泥解体や自己消化が進行し、MLSSが低下する傾向にあった。一方、試作BOD供給剤添加の試験区ではMLSSの上昇が確認されたことから、種汚泥が試作BOD供給剤を栄養源として取り込み、汚泥形成が進行した。以上の結果より、試作BOD供給剤を好気性処理のBOD供給に用いることが出来ると考えられた。
【0072】
【表5】
<試験5>
試験3で調製した試作BOD供給剤について、-5℃、20℃、40℃で保存し、廃糖蜜との粘度比較を行った。以下に試験手順を示す。
【0073】
試作BOD供給剤および廃糖蜜を400mLずつメジューム瓶に分注し、蓋を閉めて-5℃、20℃、40℃で24時間保存し、保存温度と液温とが平衡状態となるようにした。
【0074】
保存後の試作BOD供給剤および廃糖蜜について、JIS Z8803:2011(液体の粘度測定方法)に準拠して回転粘度計により粘度を測定した。
【0075】
結果を表6に示す。試作BOD供給剤は-5℃~40℃の範囲で粘度が極めて低く、夏季~冬季を通じて薬注ポンプにより安定的に注入することが可能であると考えられた。
一方、廃糖蜜は-5℃で固化して粘度測定することが出来なかったため、そもそも寒冷地では薬注ポンプを使用できず、手投入も難航すると考えられた。以上の結果より、試作BOD供給剤は-5℃~40℃の間で粘度が極めて低く、また寒冷地でも使用可能であると考えられた。
【0076】
【表6】
【符号の説明】
【0077】
11:貯留槽
12:脱窒素槽
13:硝化槽
14:沈殿槽
21:原水槽
22:曝気槽
23:沈殿槽
図1
図2
図3
図4
図5