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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067508
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】蓄電デバイス電極用分散剤組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240510BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240510BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177649
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】赤木 隆一
(72)【発明者】
【氏名】井樋 昭人
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA02
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA08
5H050EA28
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】一態様において、電解液に対する分散剤の溶解性が低く、低粘度でハンドリング性が良好な導電材スラリーの作製を可能とし、且つ、集電体へ密着性が高い塗膜の形成を可能とする、蓄電デバイス正極用分散剤組成物を提供する。
【解決手段】本開示の蓄電デバイス正極用分散剤組成物は、共重合体(A)と無機または有機アルカリ成分(B)と有機溶媒(C)とを含み、共重合体(A)は、全単位の合計100質量%に対して、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iを30質量%以上99質量%以下、(メタ)アクリルアミドに由来する単位IIを1質量%以上0質量%以下含み、共重合体(A)とアルカリ成分(B)との質量比率(B)/(A)が0.2以上2.0以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(A)と、無機または有機アルカリ成分(B)と、有機溶媒(C)とを含み、
前記共重合体(A)は、全単位の合計100質量%に対して、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iを30質量%以上99質量%以下、(メタ)アクリルアミドに由来する単位IIを1質量%以上70質量%以下含み、
前記共重合体(A)と無機または有機アルカリ成分(B)との質量比率(B)/(A)が0.2以上2.0以下である、蓄電デバイス電極用分散剤組成物。
【請求項2】
前記アルカリ成分(B)が、有機アミンである、請求項1に記載の蓄電デバイス電極用分散剤組成物。
【請求項3】
前記有機アミンが、下記式(1)で示されるアミン化合物(i)およびアミン化合物(ii)から選ばれる1種または2種以上の有機アミンであり、
前記アミン化合物(ii)は、第2級脂肪族アミン、第3級脂肪族アミン、第2級芳香族アミン、第3級芳香族アミンおよび複素環式アミンから選ばれる少なくとも1種で、沸点が200℃以下の、アミン化合物である、請求項1または2に記載の蓄電デバイス電極用分散剤組成物。
【化1】
上記式(1)中、R1は下記式(2)で表される基を示し、R2は水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は-CH2CH2-OHを示す。下記式(2)中、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子、メチル基又は-CH2OHを示す
【化2】
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス電極用分散剤組成物と、炭素材料系導電材(D)とを含有する、炭素材料系導電材スラリー。
【請求項5】
前記炭素材料系導電材(D)がカーボンナノチューブである、請求項4に記載の炭素材料系導電材スラリー。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブの外径は10nm以下である、請求項5に記載の炭素材料系導電材スラリー。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス電極用分散剤組成物と、正極活物質と、炭素材料系導電材(D)と、結着剤とを含む、蓄電デバイス用正極ペースト。
【請求項8】
請求項7に記載の蓄電デバイス用正極ペーストを、集電体に塗工した後、乾燥することを含む、正極塗膜の製造方法。
【請求項9】
共重合体(A)と、無機または有機アルカリ成分(B)と、有機溶媒(C)とを含む混合溶液を加熱処理する工程を含み、
前記共重合体(A)は、全単位の合計100質量%に対して、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iを30質量%以上99質量%以下、(メタ)アクリルアミドに由来する単位IIを1質量%以上70質量%以下含み、
前記混合溶液における、前記共重合体(A)と無機または有機アルカリ成分(B)との質量比率(B)/(A)が0.2以上2.0以下である、蓄電デバイス電極用分散剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス電極用分散剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化抑制の観点から二酸化炭素を排出しない電気自動車の開発が盛んに行われている。電気自動車には、ガソリン車に比べて、走行距離が短く、バッテリーの充電に時間がかかるという課題がある。充電時間を短くするためには、正極中での電子の移動速度を速める必要がある。現在、非水電解質電池用の正極には、導電助剤(導電材)として、炭素材料が使用されているが、導電材が有機溶媒に分散された導電材スラリーにおいて、導電材の分散性が良好であることは、正極において良好な導電パスを形成する上で重要である。
【0003】
特許文献1は、密着性および導電性の高い電極膜を得ることを目的として、非水電解質二次電池用導電材分散体の調製に用いられる、分散剤(C)を開示している。分散剤(C)は、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位、ならびに活性水素基含有モノマー、塩基性モノマー、および(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1種以上のモノマー単位を含む共重合体であり、前記共重合体中、前記(メタ)アクリロニトリルに由来する単位を40~99質量%含み、重量平均分子量が5000~50000である。
【0004】
特許文献2は、分散性および保存安定性に優れる分散体を提供することを目的として、当該分散体の調製に使用される分散剤を開示している。当該分散剤は、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位、ならびに活性水素基含有モノマー、塩基性モノマー、および(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなる群より選択される1種以上のモノマー単位を含む共重合体であり、前記共重合体中、前記(メタ)アクリロニトリルに由来する単位を40~99質量%含み、重量平均分子量が50,000を超えて200,000以下である。
【0005】
特許文献3は、ピール強度および耐粉落ち性に優れ、且つ、電気化学素子に高いレート特性を発揮させ得る電極合材層を形成可能な電気化学素子電極用バインダー組成物を提供することを目的として、当該組成物の調製に使用される結着剤を開示している。特許文献3は、当該結着剤の1成分として、アクリルニトリル単位を93質量%、アクリルアミドを1質量%含むポリアクリロニトリル共重合体(PAN1)、アクリルニトリル単位を65質量%、アクリルアミドを1質量%含むポリアクリロニトリル共重合体(PAN2)を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-187991号公報
【特許文献2】特開2021-115523号公報
【特許文献3】WO2020/004332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1や特許文献2に開示の分散剤の使用には、炭素材料系導電材の分散溶媒への分散工程において、粘度が高く、特に、スラリーの温度が高くなるに伴いスラリーが顕著に増粘するという問題がある。スラリーの粘度が高いと、分散効率が低下しCNT等の炭素材料系導電材の解繊が進まず、当該スラリーを用いて形成される電極の抵抗値が高くなる。そのため、スラリーを調製する際には、溶媒を追加添加する等の方法で粘度を下げて分散効率を改善することが必要となる。
また、電極の低抵抗化のためには、正極塗膜(正極合材層とも呼ばれる)の集電体に対する密着性がより高いこと、分散剤の電解液に対する溶解性が低いことも望まれる。分散剤の電解液に対する溶解性が高いと、電解液に溶出した分散剤によってセパレーターに目詰まりが生じ、これが抵抗の増大や、放電容量維持率の低下の原因となるからである。
【0008】
そこで、本開示は、一態様において、電解液に対する分散剤の溶解性が低く、低粘度でハンドリング性が良好な導電材スラリーの作製を可能とし、且つ、集電体へ密着性が高い塗膜の形成を可能とする、蓄電デバイス正極用分散剤組成物を提供する。
また、本開示は、一態様において、前記蓄電デバイス正極用分散剤組成物を含む、炭素材料系導電材スラリーまたは蓄電デバイス用正極ペーストを提供する。
また、本開示は、前記蓄電デバイス用正極ペーストを用いて形成される蓄電デバイス正極塗膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、一態様において、
共重合体(A)と、無機または有機アルカリ成分(B)と、有機溶媒(C)とを含み、
前記共重合体(A)は、全単位の合計100質量%に対して、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iを30質量%以上99質量%以下、(メタ)アクリルアミドに由来する単位IIを1質量%以上70質量%以下含み、
前記共重合体(A)と無機または有機アルカリ成分(B)との質量比率(B)/(A)が0.2以上2.0以下である、蓄電デバイス電極用分散剤組成物に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス電極用分散剤組成物と、炭素材料系導電材(D)とを含有する、炭素材料系導電材スラリーに関する。
【0011】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス電極用分散剤組成物と、正極活物質と、炭素材料系導電材と、結着剤とを含む、蓄電デバイス用正極ペーストに関する。
【0012】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス用正極ペーストを、集電体に塗工した後、乾燥することを含む、蓄電デバイス用正極塗膜の製造方法に関する。
【0013】
本開示は、一態様において、本開示の蓄電デバイス電極用分散剤組成物の製造方法であり、
共重合体(A)と、無機または有機アルカリ成分(B)と、有機溶媒(C)とを含む混合溶液を加熱処理する工程を含み、
前記共重合体(A)は、全単位の合計100質量%に対して、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iを30質量%以上99質量%以下、(メタ)アクリルアミドに由来する単位IIを1質量%以上70質量%以下含み、
前記混合溶液における、前記共重合体(A)と無機または有機アルカリ成分(B)との質量比率(B)/(A)が0.2以上2.0以下である、蓄電デバイス電極用分散剤組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、一態様において、電解液に対する分散剤の溶解性が低く、低粘度でハンドリング性が良好な導電材スラリーの作製を可能とし、且つ、集電体へ密着性が高い塗膜の形成を可能とする、蓄電デバイス正極用分散剤組成物を提供できる。
また、本開示によれば、一態様において、低粘度でハンドリング性が良好な炭素材料系導電材スラリーを提供できる。
また、本開示によれば、一態様において、集電体へ密着性が高く、低抵抗な、正極塗膜の形成を可能とする、蓄電デバイス用正極ペーストを提供できる。
また、本開示によれば、一態様において、集電体へ密着性が高く、塗膜抵抗値が低い、蓄電デバイス用正極塗膜を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[蓄電デバイス電極用分散剤組成物]
本開示は、特定の共重合体(A)を分散剤として含み、且つ、特定の共重合体(A)と特定のアルカリ成分(B)とが、特定の質量割合で共存することにより、電解液に対する分散剤の溶解性が低く、低粘度でハンドリング性が良好な導電材スラリーの作製を可能とし、且つ、集電体へ密着性が高い塗膜の形成を可能とする、蓄電デバイス正極用分散剤組成物(以下、「本開示の分散剤組成物」とも言う)を提供できる、という知見に基づく。
【0016】
本開示は、一態様において、共重合体(A)と、無機または有機アルカリ成分(B)(以下「本開示のアルカリ成分(B)」と略称する場合もある。)と、有機溶媒(C)とを含む蓄電デバイス電極用分散剤組成物に関する。前記共重合体(A)は、全単位の合計100質量%に対して、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iを30質量%以上99質量%以下、(メタ)アクリルアミドに由来する単位IIを1質量%以上70質量%以下含む共重合体(以下「本開示の共重合体(A)」と略称する場合もある。)であり、前記単位Iのニトリル基の一部が環状構造へ変性しており、本開示の共重合体(A)と本開示のアルカリ成分(B)との質量比率(B)/(A)が0.2以上2.0以下である。
【0017】
本開示の分散剤組成物を用いることで、低粘度でハンドリング性が良好な本開示の炭素材料系導電材スラリー(以下、「本開示の導電材スラリー」ともいう)を調製できる。また、本開示の分散剤組成物を用いることで、集電体へ密着性が高い塗膜の形成を可能とする本開示の蓄電デバイス用正極ペースト(以下、「本開示の正極ペースト」ともいう)を調製できる。また、本開示の分散剤組成物を含む本開示の正極ペーストを用いることで、塗膜抵抗値の低い正極塗膜や、放電容量維持率が高い蓄電デバイスを製造できる。
【0018】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細については明らかではないが、以下のように推察される。
本開示の共重合体(A)の全単位のうちの(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iは、そのニトリル(CN)基が有するπ電子と炭素材料系導電材(以下「導電材」と略称する場合もある。)のπ電子との相互作用により導電材に吸着するので、導電材の分散に寄与する成分であると考えられる。さらに、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iは、集電体への吸着力も高い。一方、(メタ)アクリルアミドに由来する単位IIは、電解液に対して不溶な成分であるので、電解液への共重合体(A)の溶解を抑制し、容量維持率の低下抑制に寄与する。
このような前記共重合体(A)と前記アルカリ成分(B)とが共存すると、前記(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iのうちの一部のニトリル基は、当該アルカリ成分(B)との反応で環状構造へと変性し、分散剤組成物中の有機溶媒に対する単位Iの不溶性が高まることが確認できている。また、前記環状構造は複数のπ電子を持つため、前記環状構造と導電材とのπ-π相互作用により、共重合体(A)の導電材に対する吸着能が強化される。また、前記ニトリル基の前記環状構造への変性により、前記共重合体(A)の集電体への吸着性も向上するので、正極塗膜の集電体に対するピール強度の向上、延いては、正極塗膜の低抵抗化および放電容量維持率の低下抑制に寄与するものと推察される。
しかし、前記アルカリ成分(B)が分散剤組成物中に過剰に含まれると、共重合体(A)が不溶化し過ぎて凝集し、組成物の安定性が損なわれる。
本開示では、特定の共重合体(A)と特定のアルカリ成分(B)との混合比率(B)/(A)を質量比率で0.2~2.0とすることで、ニトリル基の環状構造への変性による、単位Iの電解液への不溶化と導電材や集電体への吸着力の向上が適度に行われ、その結果、前記共重合体(A)の電解液に対する低い溶解性、導電性スラリー調製時の粘度上昇の抑制、および正極塗膜の集電体へ高い密着性の両立が可能となっているものと推察される。
尚、詳細な機構は不明であるが、『高分子化学19,653(1962)』等の記述を参照すれば、アルカリ成分(B)の添加による分散剤組成物の着色により、前記環状構造の存在を確認でき、具体的には、NMR又は赤外分光分析にて確認できる。
【0019】
[共重合体(A)]
(単位I)
本開示の共重合体(A)の全単位のうちの(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iは、導電材の表面に吸着する成分として作用する。前記単位Iは、導電性スラリー調製時の粘度上昇の抑制の観点から、前記共重合体(A)の全単位の合計100質量%に対して、30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、そして、電解液への共重合体(A)の溶解を抑制する観点から、99質量%以下、好ましくは90質量%以下である。尚、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iには、下記式(3)で表される単位のみならず、環状構造へ変性したものも含まれる。
【0020】
【化1】
【0021】
(単位II)
本開示の共重合体(A)の全単位のうちの(メタ)アクリルアミドに由来する単位IIは、下記式(2)により表される。単位IIは、側鎖にアミド基を有するため、電解液への溶解性が低い。そのため、電解液への分散剤(共重合体(A))の溶出が少ない正極塗膜を形成でき、その結果、充放電の繰り返しに伴う放電容量維持率が高い蓄電デバイスを得ることができる。
【0022】
【化2】
【0023】
前記単位IIは、電解液への共重合体(A)の溶解抑制及び共重合体(A)の重合に用いられる溶媒(以下「重合溶媒」と略称する。)への溶解性の確保の観点から、前記共重合体(A)の全単位の合計100質量%に対して、1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは12質量%以上であり、同様の観点から、50質量%以下、好ましくは25質量%以下、好ましくは18質量%以下である。
【0024】
尚、共重合体(A)の全単位中における単位Iの含有量は、重合に用いるモノマー全量に対するモノマーIの使用量の割合とみなすことができる。モノマーIは、共重合体(A)を合成するにあたり、単位Iを与えるモノマーである。また、共重合体(A)の全単位中における単位IIの含有量は、重合に用いるモノマー全量に対するモノマーIIの使用量の割合とみなすことができる。モノマーIIは、共重合体(A)を合成するにあたり、単位IIを与えるモノマーである。
【0025】
前記共重合体(A)は、モノマーIおよびモノマーII以外のその他のモノマー(以下「モノマーIII」と称する。)に由来の単位IIIを更に含んでいてもよい。モノマーIIIとしては、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートまたはこれらモノマーのカプロラクトン付加物(付加モル数は1~5)等のヒドロキシル基含有モノマー;、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ダイマー、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルフタレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタレート、エチレンオキサイド変性コハク酸(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、及び無水マレイン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸等の酸無水物基含有モノマーの単官能アルコール付加体等のカルボキシル基含有モノマーが挙げられる。これらの中でも、導電材の分散性向上及び分散剤(共重合体(A))への単位Iの導入の容易性の観点から、メタクリル酸(MAA)、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート及びベヘニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種が好ましく、メタクリル酸(MAA)、ステアリル(メタ)アクリレート及びベヘニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、メタクリル酸(MAA)、ステアリルメタクリレート(SMA)及びベヘニルメタクリレート(BeMA)から選ばれる少なくとも1種が更に好ましく、ステアリルメタクリレートが更に好ましい。
【0026】
本開示の共重合体(A)における各単位の配列はブロックでもランダムでもよいが、過度な環状構造への変性を防ぎ反応を制御する観点から、ランダムが好ましい。
【0027】
共重合体(A)(分散剤)の重量平均分子量は、導電材の分散性向上と重合溶媒に対する分散剤の溶解性の観点から、好ましくは5000以上、より好ましくは7000以上、更に好ましくは1万以上であり、そして、同様の観点から、好ましくは50万以下、より好ましくは20万以下、更に好ましくは10万以下である。本開示において、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した値であり、測定条件の詳細は実施例に示す通りである。
【0028】
本開示の分散剤組成物中の共重合体(A)の含有量は、有効に炭素材料系導電材を分散する観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上であり、そして、後工程での配合の自由度を確保する観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0029】
(共重合体(A)の合成方法)
共重合体(A)の合成方法は特に限定されず、通常の(メタ)アクリル酸エステル類、及びビニルモノマーの重合に使用される方法が用いられる。共重合体(A)の合成方法としては、例えば、フリーラジカル重合法、リビングラジカル重合法、アニオン重合法、リビングアニオン重合法等が挙げられる。例えば、フリーラジカル重合法を用いる場合は、モノマーI、モノマーII、及び必要に応じてモノマーIIIを含むモノマー成分を溶液重合法で重合させる等の公知の方法で得ることができる。
【0030】
重合溶媒としては、例えば炭化水素(ヘキサン、ヘプタン)、芳香族系炭化水素(トルエン、キシレン等)、低級アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル)、N-メチル-2-ピロリドン等の有機溶媒を使用できるが、正極ペーストの調製時に結着剤を溶解できる、N-メチル-2-ピロリドンが好ましい。
【0031】
溶媒量は、モノマー全量に対する質量比で、0.5~10倍量が好ましい。前記重合に用いられる重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を用いることができ、例えばアゾ系重合開始剤、ヒドロ過酸化物類、過酸化ジアルキル類、過酸化ジアシル類、ケトンぺルオキシド類等が挙げられる。重合開始剤量は、モノマー成分全量に対し、0.01モル%以上が好ましく、0.05モル%以上がより好ましく、0.1モル%以上が更に好ましく、そして、5モル%以下が好ましく、4モル%以下がより好ましく、3モル%以下が更に好ましい。重合反応は、窒素気流下、40℃以上180℃以下の温度範囲で行うのが好ましく、反応時間は0.5時間以上20時間以下が好ましい。また、前記重合の際、公知の連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、例えば、イソプロピルアルコールや、メルカプトエタノール等のメルカプト化合物が挙げられる。
【0032】
[無機または有機アルカリ成分(B)]
本開示の分散剤組成物に含まれる、アルカリ成分(B)のうち、無機アルカリ成分としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。有機アルカリ成分としては、有機アミンが挙げられる。有機アミンとしては、好ましくは下記式(1)で示されるアミン化合物(i)およびアミン化合物(ii)から選ばれる1種または2種以上の有機アミンであり、前記アミン化合物(ii)は、好ましくは脂肪族アミン、芳香族アミンおよび複素環式アミンから選ばれる少なくとも1種の沸点が200℃以下のアミン化合物である。これらのアミン化合物については、当該アミン化合物に由来のカチオンと導電材に由来のπ電子とが相互作用(カチオン-π相互作用)がしやすいと考えられる。また、当該アミン化合物は、導電材表面において前記“カチオン-π”相互作用により、導電材同士のπ-π相互作用を遮断し、導電材スラリーの粘度を低減するので好ましい。
【0033】
【化3】
【0034】
(アミン化合物(i))
上記式(1)中、R1は下記式(2)で表される基を示し、R2は水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は-CH2CH2-OHを示す。下記式(2)中、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子、メチル基又は-CH2OHを示す。
【0035】
【化4】
【0036】
上記式(1)で表されるアミン化合物(1級又は2級アミン)(i)が、式(1)中のHが炭素原子に置換された3級アミンに比べ優れるのは、立体障害が小さく、前記カチオン-π相互作用がしやすくなるからであると考えられる。1級又は2級アミンを示す式(1)において、R2は、粘度低下の観点から、水素原子(1級アミン)、炭素数1~4のアルキル基(2級アミン)又は-CH2CH2-OH(2級アミン)が好ましく、水素原子、炭素数1のアルキル基(メチル基)又は炭素数2のアルキル基(エチル基)がより好ましい。水素原子、メチル基又はエチル基による立体障害は小さいため、前記カチオン-π相互作用がしやすくなると考えられる。
【0037】
上記式(2)において、R3、R4、R5及びR6は、同一又は異なって、粘度低下の観点から、水素原子又はメチル基が好ましい。水素原子又はメチル基は立体障害が小さく、前記カチオン-π相互作用がしやすくなると考えられる。
【0038】
有機アルカリ成分(B)(アミン化合物(i))としては、一又は複数の実施形態において、好ましくは、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、2-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、1-アミノ-2ープロパノール、2-アミノ1,3、プロパンジオール、及びジエタノールアミンから選ばれる1種以上の化合物が挙げられ、これらのなかでも、導電材の分散性向上と正極ペーストの低粘度を両立する観点から、より好ましくは、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)、1-アミノ-2ープロパノール、及びジエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)から選ばれる少なくとも1種である。
【0039】
(アミン化合物(ii))
アミン化合物(ii)は、導電材に対する相互作用、吸着性の観点から、脂肪族アミン、芳香族アミンおよび複素環式アミンから選ばれる少なくとも1種であり、好ましくは、第2級脂肪族アミン、第3級脂肪族アミン、第2級芳香族アミン、第3級芳香族アミンおよび複素環式アミンから選ばれる少なくとも1種である。そして、アミン化合物(ii)の沸点は、200℃以下であるが、正極ペーストの溶媒の沸点以下であることが好ましく、正極ペーストの溶媒として多用されているN-メチルピロリドン(NMP)の沸点(沸点202℃)以下であることがより好ましく、NMPの再利用の観点から、190℃以下が更に好ましい。アミン化合物(ii)の沸点の下限は、取り扱い性の観点から100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。
【0040】
アミン化合物は、導電材表面において“カチオン-π”相互作用により、導電材同士のπ-π相互作用を遮断し、スラリー粘度を低減するが、正極塗膜中に電気絶縁性のアミン化合物が残留すると、正極塗膜の抵抗値や、リチウムイオン電池等の蓄電デバイスの放電容量維持率の低下の原因となる。そのため、本開示では、アルカリ成分(B)として、正極ペーストで主に使用される溶剤NMP(沸点202℃)よりも低沸点であり且つアミド化しない第3級脂肪族アミン、1級芳香族アミン、2級芳香族アミン、3級芳香族アミン、若しくは複素環式アミン、又は大きな立体障害によりアミド化しにくい、第2級の脂肪族アミン、1級芳香族アミン、2級芳香族アミン、3級芳香族アミン、若しくは複素環式アミンを使用しており、これにより、塗膜の乾燥時に溶剤とともにアミン化合物も良好に揮発され、アミド化合物の添加に起因する上記抵抗値の上昇が抑制され、放電容量維持率の低下が抑制されているものと推察される。
【0041】
アミン化合物(ii)としては、ジブチルアミン(以下カッコ内の数値は沸点:159℃)、ジヘキシルアミン(同193℃)、N-メチルシクロヘキシルアミン(同148℃)、N-エチルシクロヘキシルアミン(同164℃)等の第2級の脂肪族アミン;トリプロピルアミン(同156℃)、ジメチルオクチルアミン(同195℃)、ジメチルシクロへキシルアミン(同160℃)等の第3級の脂肪族アミン;ベンジルアミン(同185℃)等の第1級の芳香族アミン;N-メチルベンジルアミン(同186℃)、N-モノメチルアニリン(同196℃)等の第2級の芳香族アミン;N,N-ジメチルベンジルアミン(同183℃)、N,N-ジメチルアニリン(同194℃)、N,N-ジメチル-o-トルイジン(同186℃)等の第3級の芳香族アミン;N-メチルモルホリン(同116℃)、N-エチルモルホリン(同135℃)、4-イソブチルモルホリン(同167℃)等の複素環式アミン等から選ばれる1種以上のアミン化合物が挙げられる。これらの中でも、導電材の分散性向上と、導電性スラリーや正極ペーストの低粘度化と、正極塗膜の抵抗値の低下および蓄電デバイスの放電容量維持率の低下抑制の両立の観点から、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、トリプロピルアミン、N-メチルシクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、N-メチルベンジルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N-メチルモルホリンおよびN-エチルモルホリンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、トリプロピルアミン、ジヘキシルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N-メチルベンジルアミン、ベンジルアミンおよびN-エチルモルホリンから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、トリプロピルアミン、ジヘキシルアミン、ベンジルアミンおよびN-エチルモルホリンから選ばれる少なくとも1種が更に好ましく、ジヘキシルアミン、ベンジルアミンおよびN-エチルモルホリンから選ばれる少なくとも1種が更により好ましい。
【0042】
前記共重合体(A)と前記アルカリ成分(B)との質量比率(B)/(A)は、導電材の分散性向上と、導電性スラリーや正極ペーストの低粘度化と、正極塗膜の抵抗値の低下および蓄電デバイスの放電容量維持率の低下抑制の両立の観点から、0.2以上であり、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.6以上であり、同様の観点から、分散剤組成物の安定性の確保の観点から、2.0以下である。
【0043】
本開示の分散剤組成物中の本開示のアルカリ成分(B)の含有量は、一又は複数の実施形態において、導電材スラリー及び正極ペーストの低粘度化の観点、および有効にニトリル基の環状化変性を行う観点から、共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、更に好ましくは70質量部以上であり、そして、共重合体(A)の溶解性の観点、ニトリル基の環状化変性の制御の観点から、共重合体(A)100質量部に対して、200質量部以下である。
【0044】
[有機溶媒(C)]
本開示の分散剤組成物に含まれる有機溶媒(C)としては、正極ペーストに含まれる結着剤(バインダー樹脂)を溶解できるものが好ましい。有機溶媒(C)としては、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、1-ブタノール(n-ブタノール)、2-メチル-1-プロパノール(イソブタノール)、2-ブタノール(sec-ブタノール)、1-メチル-2-プロパノール(tert-ブタノール)、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、またはオクタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、またはヘキシレングリコールなどのグリコール類;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、またはソルビトールなどの多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、またはテトラエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、またはシクロペンタノンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類等が挙げられる。有機溶媒(C)は1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0045】
本開示の分散剤組成物中の有機溶媒(C)の含有量は、一又は複数の実施形態において、共重合体(A)の溶解性の観点およびアルカリ成分(B)の溶解性の観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは85質量%以上であり、そして、有効に炭素材料系導電材を分散する観点から、98質量%以下が好ましい。
【0046】
本開示の分散剤組成物は、本開示の効果が妨げられない範囲で、その他の成分を更に含んでもよい。その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、中和剤、消泡剤、防腐剤、脱水剤、防錆剤、可塑剤、結着剤(共重合体(A)とは異なる構造のバインダー樹脂)等が挙げられる。
【0047】
[蓄電デバイス用分散剤組成物の製造方法]
本開示の分散剤組成物の製造方法は、共重合体(A)と、アルカリ成分(B)と、有機溶媒(C)と、必要に応じて添加される任意成分とを混合し、共重合体(A)とアルカリ成分(B)とを有機溶媒(C)に混合する工程を含む。共重合体(A)の製造で用いられる重合溶媒を揮発させて得られた乾燥状態で有機溶媒(C)に添加してもよいが、前記重合溶媒と上記有機溶媒(C)とが、例えば同じであれば、前記共重合体(A)が重合溶媒に溶解されたポリマー溶液の状態で他の成分と混合されてもよい。
【0048】
ニトリル基の環状構造への変性は室温(25℃)でも行えるが、加熱するほうが変性化促進の観点から好ましい。故に、本開示の分散剤組成物の製造方法は、好ましくは、本開示の共重合体(A)と、前記アルカリ成分(B)と、有機溶媒(C)とを含む混合溶液を、加熱処理する工程を含む。前記共重合体(A)は、全単位の合計100質量%に対して、(メタ)アクリロニトリルに由来する単位Iを30質量%以上99質量%以下、(メタ)アクリルアミドに由来する構成IIを1質量%以上70質量%以下含む共重合体である。前記加熱処理前の前記混合溶液における、前記共重合体(A)と前記アルカリ成分(B)との質量比率(B)/(A)は0.05以上2.0以下である。加熱処理の加熱温度は、変性化促進の観点から、好ましくは25℃以上、より好ましくは50℃以上であり、アルカリ成分(B)および有機溶媒(C)の揮発抑制の観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。加熱処理の加熱時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは24時間以下、より好ましくは12時間以下である。
【0049】
[蓄電デバイス用導電材スラリー]
本開示は、一態様において、炭素材料系導電材(D)(以下、「導電材」と略称する場合もある。)と、本開示の分散剤組成物とを含有する、蓄電デバイス用導電材スラリー(以下、「本開示の導電材スラリー」ともいう)に関する。本態様における本開示の分散剤組成物の好ましい形態は上述のとおりである。本開示の導電材スラリーは、一又は複数の実施形態において、本開示の共重合体(A)、本開示のアルカリ成分(B)、有機溶媒(C)、および後述する導電材(D)を含む。
【0050】
[炭素材料系導電材(D)]
本開示の導電材(D)としては、一又は複数の実施形態において、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と表記することもある)、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン等が挙げられ、これらの中でも、高い導電性を実現する観点から、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、およびグラフェンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、同様の観点から、カーボンナノチューブ又はグラフェンがより好ましく、カーボンナノチューブがより好ましい。導電材(D)は、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0051】
(カーボンナノチューブ)
導電材(D)として使用できるCNTの平均直径は、特に限定されず、CNTの分散性向上及び導電性向上の観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、更に好ましくは3nm以上、更により好ましくは5nm以上、更により好ましくは5nm以上であり、同様の観点から、好ましくは100nm以下、より好ましくは70nm以下、更に好ましくは50nm以下、更により好ましくは10nm以下である。本開示において、CNTの平均直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)により測定できる。
【0052】
本開示において、CNTとは、複数のカーボンナノチューブを含む総体を意味する。導電材スラリーの製造に用いられるCNTの形態は、特に限定されず、例えば、複数のCNTがそれぞれ独立した形態でもよいし、複数のCNTが束状あるいは絡まり合うなどの形態でもよいし、これらの形態の混合物もよい。CNTは、導電性と分散性を両立するために、層数または直径が異なる2種以上のCNTの混合物であってもよい。CNTは、CNTの製造におけるプロセス由来の不純物(例えば、触媒やアモルファスカーボン)を含み得る。
【0053】
導電材(D)として使用できるCNTとしては、例えば、Nanocyl社のNC-7000(以下数値は平均直径、9.5nm)、NX7100(10nm)、Cnano社のFT6100(9nm)、FT-6110(9nm)、FT-6120(9nm)、FT-7000(9nm)、FT-7010(9nm)、FT-7320(9nm)、FT-9000(12.5nm)、FT-9100(12.5nm)、FT-9110(12.5nm)、FT-9200(19nm)、FT-9220(19nm)、Cabot Performance material(Shenzhen)社のHCNTs4(4.5nm)、CNTs5(7.5nm)、HCNTs5(7.5nm)、GCNTs5(7.5nm)、HCNTs10(15nm)、CNTs20(25nm)、CNTs40(40nm)、韓国CNT社のCTUBE170(13.5nm)、CTUBE199(8nm)、CTUBE298(10nm)、Kumho社のK-Nanos100P(11.5nm)、LG Chem社のCP-1001M(12.5nm)、BT-1003M(12.5nm)、Nano Tech Port社の3003(10nm)、3021(20nm)、JEIO社のJENOTUBE8S(6.8nm)、OCSIAL社のTUBALL(1.6nm)等が挙げられる。
2種類のCNTを使用する場合の組み合わせとしては、例えば、Cabot Performance material(Shenzhen)社のCNTs40(40nm)とHCNTs4(4.5nm)又はHCNTs5(7.5nm)との組合せ、CNTs40(40nm)とGCNTs5(7.5nm)との組合せ、CNTs40(40nm)とCnano社のFT-7010(9nm)との組合せ、CNTs40(40nm)とFT-9100(12.5nm)との組合せ、CNTs40(40nm)とLG Chem社BT-1003M(12.5nm)との組合せ等が挙げられる。
【0054】
(カーボンブラック)
導電材(D)として使用できるカーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。カーボンブラックの酸化処理は、カーボンブラックを空気中で高温処理し、または硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理することより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理である。これらの処理は、カーボンブラックの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンブラックの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンブラックの使用が好ましい。
【0055】
導電材(D)として使用できるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子同士の接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)は、好ましくは20m2/g以上、より好ましくは50m2/g以上、更に好ましくは100m2/g以上であり、そして、好ましくは1500m2/g以下、より好ましくは1000m2/g以下、更に好ましくは800m2/g以下である。
【0056】
導電材(D)として使用できるカーボンブラックの一次粒子径(直径)は、導電性の観点から、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、そして、1000nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。本開示において、カーボンブラックの一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0057】
(グラフェン)
導電材(D)として使用できるグラフェンとは、一般には、sp2混成炭素原子が六角形のハニカム格子を形成し、原子1個分の厚みをもつ二次元シート(単層グラフェン)を指すが、本開示においては、単層グラフェンが積層した薄片上の形態を持つ物質も含めてグラフェンと呼ぶことにする。
【0058】
導電材(D)として使用できるグラフェンの厚みについて、特に制限は無いが、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下である。グラフェン層に平行な方向の大きさについて、特に制限はないが、正極における良好な導電性を確保する観点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.7μm以上、更に好ましくは1μm以上である。ここで、グラフェン層に平行な方向の大きさとは、グラフェンの面方向に垂直な方向から観察したときの最大径と最小径の平均を言う。
【0059】
≪導電材スラリー中の導電材(D)の含有量≫
本開示の導電材スラリー中の導電材(D)の含有量は、正極ペーストの濃度調整の利便性向上の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、更により好ましくは3質量%以上であり、そして、導電材スラリーを取り扱いやすい粘度とする観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である。
【0060】
≪導電材スラリー中の共重合体(A)の含有量≫
本開示の導電材スラリー中の共重合体(A)の含有量は、導電材(D)の分散性向上の観点から、導電材(D)100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは5質量部以上であり、そして、高導電性の観点から、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは200質量部以下、更に好ましくは100質量部、更により好ましくは50質量部以下である。
【0061】
≪導電材スラリー中のアルカリ成分(B)の含有量≫
本開示の導電材スラリー中のアルカリ成分(B)の含有量は、炭素材料系導電材の分散性向上の観点から、炭素材料系導電材(D)100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、5質量部以上が更に好ましく、10質量部以上が更により好ましく、そして、高導電性の観点から、500質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、50質量部以下が更に好ましく、30質量部以下が更により好ましい。
【0062】
[導電材スラリーの製造方法]
本開示の導電材スラリーは、一又は複数の実施形態において、本開示の共重合体(A)と、本開示のアルカリ成分(B)と、前記導電材(D)と、有機溶媒と、必要に応じて添加される任意成分を、混合分散機を用いて混合し、各成分を分散させることにより調製できる。前記有機溶媒としては、上述した本開示の分散剤組成物の調製に用いることができる有機溶媒(C)と同様のものが挙げられる。
【0063】
前記混合分散機としては、例えば、超音波ホモジナイザー、振動ミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバー、及びペイントシェーカー等から選ばれる少なくとも1種が挙げられるが、分散均一性という理由から、メディア撹拌型分散機が好ましい。
【0064】
メディア撹拌型分散機とは、粉砕室内でビーズに回転運動を与えビーズ間の衝突やせん断力により対象物を微細化するが、その際、発熱を伴う。ビーズ素材は、主にガラス、アルミナ、そしてジルコニアが使用されるが、ビーズの硬度、スラリーへの不純物混入を避ける観点から、ジルコニアが好ましい。ビーズの粒径については大きな対象物であれば大粒径が好ましく、目的粒径が微細になるほど小粒径が好ましい。導電材の分散においては0.1mm~20mmのビーズが好ましい。粉砕室内に投入するビーズ量つまり充填率は、粉砕室内体積に対し50%以上90%以下が好ましく、分散効率、発熱の観点から60%以上80%以下が好ましい。ビーズに与える回転運動つまり周速は、分散効率の観点から好ましくは5m/s以上、より好ましくは7m/s以上、発熱の観点から好ましくは16m/s以下、より好ましくは14m/s以下である。導電材スラリーはタンクからポンプを介して分散機に送られ、高速で撹拌しているビーズにて分散されてタンクへと戻される。これを繰り返すことでスラリーを循環し、分散処理が行える。本開示の導電材スラリーの製造方法は、一態様において、共重合体(A)と、アルカリ成分(B)と、導電材(D)と、有機溶媒と、必要に応じて添加される任意成分を含む混合物中の各成分を、メディア撹拌型分散機を用いて分散させてスラリーとする工程を含み、前記工程において、分散途中の混合物(粗分散液)を、メディア撹拌型分散機から容器(タンク)へ送り、当該粗分散液をタンクからポンプを介して前記メディア撹拌型分散機へ送って分散処理し、これを複数回繰り返して、導電材スラリーを得る。
【0065】
本開示の導電材スラリーの製造方法において、導電材スラリーの構成成分のうちの一部成分を混合してから、それを残余と混合してもよいし、各成分は、全量を一度に投入せずに、各々、複数回に分けて投入してもよい。例えば、本開示の分散剤組成物を調製してから、当該分散剤組成物と、導電材(D)と必要に応じて追加の有機溶媒等の他の成分とを混合し、各成分を分散させてもよい。導電材(D)は乾燥状態で、他の成分と混合してもよいし有機溶媒と混合してから、他の成分と混合してもよい。
【0066】
[蓄電デバイス用正極ペースト]
本開示は、一態様において、本開示の共重合体(A)、本開示のアルカリ成分(B)、導電材(D)、正極活物質、結着剤、および有機溶媒、を含む蓄電デバイス用正極ペーストに関する。本開示の正極ペーストは、一又は複数の実施形態において、本開示の分散剤組成物または本開示の導電材スラリーを含有する。本開示の正極ペーストは、電解液に対する溶解性が低く、導電材の分散を良好とする、共重合体(A)を分散剤として含む本開示の導電材スラリーまたは本開示の分散剤組成物を用いて調製されるので、本開示の正極ペーストを用いて形成される蓄電デバイス用正極において、低い体積抵抗値と、高い放電容量維持率との両立が行える。
【0067】
本開示の正極ペーストに含まれる、共重合体(A)、アルカリ成分(B)、有機溶媒(C)、導電材(D)、分散剤組成物、導電材スラリーの好ましい形態は上述のとおりである。本開示の正極ペーストには、一又は複数の実施形態において、炭素材料系導電材(D)以外の導電材が更に含まれていてもよい。炭素材料系導電材(D)以外の導電材としては、ポリアニリン等の導電性ポリマー等が挙げられる。
【0068】
(正極活物質)
正極活物質としては、無機化合物であれば特に制限はなく、例えば、オリビン構造を有する化合物やリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。オリビン構造を有する化合物としては、一般式LixM1sPO4(但し、M1は3d遷移金属、0≦x≦2、0.8≦s≦1.2)で表される化合物を例示できる。オリビン構造を有する化合物は、非晶質炭素等を被覆して用いてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物としては、スピネル構造を有するリチウムマンガン酸化物、層状構造を有し一般式LixMO2-δ(但し、Mは遷移金属、0.4≦x≦1.2、0≦δ≦0.5)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。前記リチウム遷移金属複合酸化物は、さらに、Al、Mn、Fe、Ni、Co、Cr、Ti、Zn、P、Bから選ばれる一種又は二種以上の元素を含有していてもよい。前記遷移金属Mとしては、Co、Ni又はMnを含むものとすることができる。
【0069】
≪正極ペースト中の正極活物質の含有量≫
本開示の正極ペースト中の正極活物質の含有量は、正極ペーストが集電体に塗布するのに適した粘度に応じて調整することができる限り、特に制限はないが、エネルギー密度の観点と正極ペーストの安定性の観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0070】
本開示の正極ペーストの全固形分における正極活物質の含有量について、特に制限はない。本開示の正極ペーストの全固形分における正極活物質の含有量は、従来公知の正極ペーストの全固形分におけるそれと同じであってもよく、蓄電デバイスのエネルギー密度を高度に保つためには、90.0質量%以上が好ましく、正極合材層の導電性や塗膜性を担保するためには、99.9質量%以下が好ましい。
【0071】
(結着剤(バインダー樹脂))
結着剤(バインダー樹脂)としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル等単独で、あるいは混合して用いることができる。
【0072】
≪正極ペースト中の結着剤の含有量≫
本開示の正極ペースト中の結着剤の含有量は、正極合材層の塗膜性や集電体との結着性の観点から、0.05質量%以上が好ましく、蓄電デバイスのエネルギー密度を高度に保つ観点からは10質量%以下が好ましい。
【0073】
≪正極ペースト中の共重合体(A)の含有量≫
本開示の正極ペースト中の共重合体(A)の含有量は、正極合材層の低抵抗化の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.03質量%以上がさらに好ましく、そして、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。
【0074】
≪正極ペースト中のアルカリ成分(B)の含有量≫
本開示の正極ペースト中のアルカリ成分(B)の含有量は、正極ペーストの固形分濃度を高くする観点、及び粘度低下の観点から、好ましくは0.012質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であり、そして、アルカリ成分(B)の有機溶媒への溶解性と正極ペーストの安定性の観点から、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0075】
≪正極ペースト中の導電材(D)の含有量≫
本開示の正極ペーストの導電材(D)の含有量は、正極合材層の導電性の観点から、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブいずれの場合も、0.01質量%以上が好ましい。多層カーボンナノチューブの場合、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、そして、蓄電デバイスのエネルギー密度を高度に保つ観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。
【0076】
本開示の正極ペーストは、一又は複数の実施形態において、正極活物質、本開示の導電材スラリー、結着剤(バインダー樹脂)、及び固形分調整等のための溶媒(追加溶媒)等を、混合及び攪拌して、製造することができる。このほかの分散剤や機能性材料等を添加しても良い。上記溶媒(追加溶媒)としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非水系溶媒あるいは水等が使用できる。また、本開示の正極ペーストの製造においては、上記溶媒(追加溶媒)としては非水系溶媒を使用することが好ましく、なかでも、NMPを使用することがより好ましい。混合や攪拌にはプラネタリミキサー、ビーズミル、ジェットミル等を用いることができ、また、これらを併用することもできる。
【0077】
本開示の正極ペーストは、正極ペーストの製造に用いる全成分のうちの一部成分をプレミックスしてから、それを残余と混合することもできる。また、各成分は、全量を一度に投入せずに、複数回に分けて投入しても良い。これにより、攪拌装置の機械的な負荷を抑えることができる。
【0078】
本開示の正極ペーストの固形分濃度や、正極活物質の量、結着剤の量、導電材スラリーの量、添加剤成分の添加量、溶媒の量は、正極ペーストを集電体に塗布するのに適した粘度に応じて調整することができる。乾燥性の観点からは溶媒の量が少ないほうが好ましいが、正極合材層(正極塗膜)の均一性や表面の平滑性の観点から、正極ペーストの粘度が高すぎないことが好ましい。一方で、乾燥抑制の観点、及び正極合材層の充分な膜厚を得る観点から、正極ペーストの粘度が低すぎないことが好ましい。
【0079】
本開示の正極ペーストは、製造効率の観点からは高濃度であると好ましいが、著しい粘度の増加は作業性の観点から好ましくない。添加剤の添加により、高濃度を保ちつつ、好ましい粘度範囲を保つことができる。
【0080】
[正極ペーストの製造方法]
本開示の正極ペーストの製造方法は、導電材、正極活物質、溶媒、結着剤及び本開示の分散剤組成物を混合する工程を含む。各成分は任意の順で混合しても良い。本開示の正極ペーストの製造方法は、一又は複数の実施形態において、好ましくは本開示の導電材スラリーと結着剤と溶媒と正極活物質とを混合する工程を含む。各成分は任意の順に混合してもよい。また、一又は複数の実施形態において、本開示の導電材スラリーと溶媒と結着剤とを混合し、これらが均質になるまで分散したのち、正極活物質を混合し、これらが均質になるまで攪拌することにより正極ペーストを得る方法が挙げられるが、これら成分の添加順序はこの限りではない。
【0081】
尚、本開示の分散剤組成物、導電材スラリー、及び正極ペーストは、各々、本開示の効果が妨げられない範囲で、その他の成分を更に含んでもよい。その他の成分としては、例えば、酸化防止剤、中和剤、消泡剤、防腐剤、脱水剤、防錆剤、可塑剤、結着剤等が挙げられる。
【0082】
[正極塗膜又は蓄電デバイス用正極の製造方法]
本開示は、一態様において、本開示の正極ペーストを用いた正極塗膜又は蓄電デバイス用正極の製造方法に関する。本態様は、本開示の正極ペーストを、集電体に塗工した後、乾燥することを含む。本態様において、本開示の正極ペーストの好ましい形態は上述のとおりである。本開示の正極塗膜又は蓄電デバイス用正極の製造方法において、本開示の正極ペーストを用いること以外は、従来から公知の方法により正極塗膜又は蓄電デバイス用正極を製造できる。
【0083】
正極塗膜又は蓄電デバイス用正極は、例えば、上記の正極ペーストをアルミニウム箔等の集電体に塗工し、これを乾燥して作製する。正極塗膜の密度を上げるために、プレス機により圧密化を行うこともできる。正極ペーストの塗工には、ダイヘッド、コンマリバースロール、ダイレクトロール、グラビアロール等を用いることができる。塗工後の乾燥は、加温、エアフロー、赤外線照射等を単独あるいは組み合わせて行うことができる。塗工後の乾燥は、乾燥時間を経ることにより、正極ペースト中のアルカリ成分(B)、有機溶媒(C)および追加溶媒が正極ペースト中に存在できなくなる温度で行う。乾燥温度は、乾燥が行われる環境下(気圧下)において、バインダー樹脂の熱分解温度以下であれば特に制限はないが、好ましくはアルカリ成分(B)の沸点以上の温度、より好ましくは有機溶媒(C)および追加溶媒の沸点以下の温度である。具体的には、常圧下で、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上であり、そして、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下である。乾燥時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは20分以上であり、そして、好ましくは90分以下、より好ましくは60分以下である。正極のプレスは、ロールプレス機等により、行うことができる。
【0084】
以下、本開示の実施例及び比較例を示すが、本開示はこれに限定されるものではない。
【0085】
1.各パラメータの測定方法
[ポリマーの重量平均分子量の測定]
ポリマーの重量平均分子量は、GPC法により測定した。詳細な条件は以下の通りである。
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
カラム:α-M + α-M(東ソー社製)
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率
溶離液:60mmol/LのH3PO4及び50mmol/LのLiBrのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液
流速:1mL/min
検量線に用いる標準試料 :ポリスチレン
試料溶液:共重合体の固形分を0.5wt%含有するDMF溶液
試料溶液の注入量:100μL
【0086】
[電解液溶解性]
分散剤(共重合体)の電解液への溶解性を確認する目的で、電解液に使用される溶媒への溶解率を測定した。得られた共重合体溶液をシャーレに入れ、140℃、窒素気流下にて12時間以上減圧乾燥した。得られた共重合体1gにエチレンカーボネートとジエチレンカーボネートとの混合溶媒(体積比50/50)9gを添加し、10%懸濁液を調製した。得られた懸濁液を40℃、1時間静置した。その後、0.5μmのPTFEフィルターでろ過し、溶解していない共重合体を除去した。ろ過した溶液を140℃、減圧、窒素気流下で乾燥することで、混合溶媒に溶解した共重合体の質量を測定した。以下の式より、電解液溶解性として、混合溶媒への溶解率を求めた。得られた溶解率(%)を表1及び表2に電解液溶解性として示す。
【0087】
【数1】
【0088】
[導電材スラリーの粘度測定]
導電材スラリーの25℃の時の粘度、及び50℃の時の粘度は、それぞれ、Anton Paar社のMCR302レオメーターに、コンプレートCP50を装着し、せん断速度10s-1で粘度測定を開始し、5分後の粘度を記録し、それを表1及び表2に示した。
【0089】
[ピール強度]
ピール強度を評価するための試験はJIS S0237:2009に準じて行った。
具体的には、正極ペーストを200μmのアプリケーターを使用してアルミ箔に塗工、乾燥し正極塗膜を作成した。これを3.3g/cm3の電極密度になるようプレスした。次に、この塗膜を2cm×7cmに切断し正極電極とし、その裏面(アルミ箔の正極塗膜と接した面の反対面)を7cm×15cm×1mmのステンレス板に両面テープで貼り付け固定した。正極塗膜の表面に幅2cmのアルミテープ(NITTO TAPE)を貼り付け、引っ張り強度測定試験機で180°の角度で速度100mm/minで引っ張り、得られた数値をピール強度とした。
【0090】
[正極塗膜(正極合材層)の体積抵抗値の測定]
正極ペーストを、ポリエステルフィルムに垂らし、100μmのアプリケーターで均一に塗工した。この塗工したポリエステルフィルムを100℃で1時間乾燥し厚み40μmの正極合材層(正極塗膜)を得た。
PSPプローブを装着したLoresta-GP(三菱ケミカルアナリテック製)にて限界電圧10vにて体積抵抗値を測定した。その結果は表1及び表2に示した。
【0091】
[負極]
まず、負極を製造した。具体的には、負極活物質用に市販されるグラファイト94.8質量部と、アセチレンブラック1.7質量部と、SBR(スチレンブタジエンゴム)2重量部およびCMC(カルボキシメチルセルロース)1.5質量部を混合した。引き続き、この混合物に溶剤である蒸溜水を添加することによってスラリーを製造した。ドクターブレードを利用して前記スラリーを約100μm厚さで電解銅箔表面上に塗布し、120℃で乾燥させた後ロールプレス工程を遂行することによって負極を製造した。
【0092】
[正極]
後述する正極ペースト1~16を、各々、厚さ20μmのアルミホイルの両面に塗布した後、乾燥させることによって正極を製造した。
【0093】
[電解液]
エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)を1:1の重量比で混合した非水性有機溶媒に溶質としてLiPF6を1M溶解させたものを電解液として調製した。
【0094】
[放電容量維持率]
このように製造された負極、正極、および電解液でコイン電池を製造し、電池特性(レート特性5C)を測定した。具体的には、電池を25℃の環境下で下記の条件に従い0.2Cで4.2Vまで充電し、その後0.2Cで3Vになるまで放電し放電容量を求めた。次いで5Cの放電容量を同様にして求め、0.2Cの放電容量を基準に5Cの放電容量維持率を求めた。結果は表1及び表2に示した。
(充電条件)
0.2C CC-CV4.2V(0.02C Cut off)
(放電条件)
0.2,0.5,1,3,4,5,10C CC(3V Cut off)
5Cの放電容量維持率(%)=(5Cの放電容量/0.2Cの放電容量)×100
【0095】
2.分散剤組成物の調製
[分散剤組成物1の調製]
分散剤組成物1の調製に使用する共重合体1は以下の操作で得た。
下記の滴下用モノマー溶液と滴下用開始剤溶液を作製した。滴下用モノマー溶液は、その調製に使用するモノマー量に対し1倍量のNMPで前記モノマーを希釈して調製した。
具体的には、99gのAN(モノマーI)と1gのMAAm(モノマーII)に対して、100gのNMPを添加して、滴下用モノマー溶液を調製した。
滴下用開始剤溶液としては、1.6gのV-65B(重合開始剤)と16gのNMP(溶媒)と混合して得たものを用いた。
【0096】
次に、還流管、攪拌機、温度計、窒素導入管、及び滴下漏斗を取り付けたセパラブルフラスコ内を1時間以上窒素置換した。その後、滴下用モノマー溶液と滴下用開始剤溶液を、各々、70℃のフラスコ内に120分で滴下した。滴下終了後、更に槽内を70℃に維持しながら1時間撹拌した。その後、フラスコ内を75℃まで昇温し、更に1時間撹拌した。次いで、80gのNMP(溶媒)を追加し、希釈を行うことで、共重合体1の35.1質量%溶液を得た。その不揮発分は35.2質量%で、共重合体1の重量平均分子量は36500であった。
【0097】
次に、前記共重合体1の35.1質量%溶液4.3g(共重合体1の固形分が1.5g)に89.2gのNMP(溶媒)を追加し、さらに、1.5gの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)を添加して、混合溶液を得、当該混合溶液の液温を80℃に維持しながら12時間放置するという加熱処理を行って、表1に示した組成の分散剤組成物1(表1では「組成物1」と表示、以下同様。)を得た。分散剤組成物1は、着色しており、波長620nmに吸収を確認した。
【0098】
[分散剤組成物2の調整]
分散剤組成物2の調製に使用する共重合体2は以下の操作で得た。
下記の滴下用モノマー溶液1~3と滴下用開始剤溶液を作製した。滴下用モノマー溶液1~3は、各々、滴下用モノマー溶液の調製に使用するモノマー量に対し1倍量又は2倍量のNMPで前記モノマーを希釈して調製した。
滴下用モノマー溶液1:40gのSMA(モノマーIII)と40gのNMP(溶媒)からなる混合溶液
滴下用モノマー溶液2:40gのAN(モノマーI)と40gのNMPからなる混合溶液
滴下用モノマー溶液3:20gのMAAm(モノマーII)と40gのNMPからなる混合溶液
滴下用開始剤溶液:1.6gのV-65B(重合開始剤)と16gのNMP(溶媒)からなる混合溶液
【0099】
次に、還流管、攪拌機、温度計、窒素導入管、及び滴下漏斗を取り付けたセパラブルフラスコ内を1時間以上窒素置換した。その後、滴下用モノマー溶液1~3、及び滴下用開始剤溶液を、各々、70℃のフラスコ内に120分かけて滴下した。滴下終了後、更に槽内を70℃に維持しながら1時間撹拌した。その後、フラスコ内を75℃まで昇温し、更に1時間撹拌した。次いで、49gのNMP(溶媒)を追加し、希釈を行うことで、共重合体2の35.1質量%溶液を得た。その不揮発分は35.2質量%で、共重合体2の重量平均分子量は38500であった。
【0100】
次に、前記共重合体2の35.1質量%溶液4.3g(共重合体2の固形分が1.5g)に89.2gのNMP(溶媒)を追加し、さらに0.75gの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)を添加して、混合溶液を得、当該混合溶液の液温を80℃に維持しながら12時間放置するという加熱処理を行って、表1に示した組成の分散剤組成物2を得た。分散剤樹脂組成物2は、着色しており、波長620nmに吸収を確認した。
【0101】
[分散剤組成物3~9、11~15の調製]
滴下用モノマー溶液1~3の量、アルカリ成分(B)の種類を変更して、各々、表1~2に示した組成の分散剤組成物3~9、11~15を調製した。混合溶液の加熱処理の条件は、表1及び表2に記載の通りとした。尚、共重合体1~5、7、8を各々含む共重合体溶液の濃度は、いずれも35.1質量%とした。
【0102】
[分散剤組成物10の調整]
滴下用モノマー溶液1に代えて、下記の滴下用モノマー4を使用したこと以外は、共重合体2と同様の滴下用モノマーを使用し、各モノマーの量を表1に示すように変更し、追加したNMP(溶媒)を39gに変更して共重合体6を合成した。共重合体の種類が異なること以外は、分散剤組成物2の調整と同様にして、表1に示した組成の分散剤組成物10を調製した。
滴下用モノマー溶液4:20gのMAA(モノマーIII)と40gのNMPからなる混合溶液
【0103】
3.導電材スラリーの調製
分散剤組成物1~15と、導電材と、追加溶媒(NMP)とを、均一に混合し、導電材スラリー1~15を得た(表1では、「導電材スラリー1」は「スラリー1」と表示、以下同様。)。
【0104】
具体的には、実施例1を例示すれば、導電材200gと分散剤組成物1を3800g、を室温にて混合し、粗分散液を調製した。得られた粗分散液を、メディア撹拌型分散機(ダイノーミルKDL-PILOT型1.4 シンマルエンタープライゼス社製)に流量300g/分で通した。なお、分散装置の条件は、平均直径0.5mmのジルコニアビーズを充填率70%、周速10m/sとした。分散機を通過した粗分散液を容器に回収する一方、その容器から再度分散機に送液した。再度分散機に送液する前の分散機を通過して出てくる液温度は約50℃に達していた。このような液循環を3時間行い、導電材スラリー1を得た。
【0105】
表1および表2に示す組成となるように、分散剤組成物の種類、導電材の種類およびその使用量を、適宜へ変更したこと以外は、導電材スラリー1と同様にして、導電材スラリー2~15を調整した。
【0106】
4.正極ペーストの調製
表1及び表2に示す導電材スラリー1~15と、正極活物質と、バインダー溶液と、NMP(追加溶媒)とを、均一に混合し、正極ペーストを得た。
具体的には、実施例1を例示すれば、導電材スラリー1を0.61g、NMP2.51g、バインダー溶液としてPVDF(8%)NMP溶液(KFポリマーL#7208、株式会社クレハ製)1.9gを、50mlのサンプルビンに秤取り、スパーテルで均一にかき混ぜた。その後、正極活物質としてNCM523(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム、日本化学製)12gを添加し、再度スパーテルで均一になるまでかき混ぜた。さらに自転公転ミキサー(AR-100 株式会社 シンキー製)で5分間撹拌し、実施例1の正極ペースト1を得た。
【0107】
導電材スラリー1に代えて、導電材スラリー2~15を用いたこと以外は、実施例1の正極ペースト1と同様にして、正極ペースト2~15(実施例2~10、比較例1~5)を調整した。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
表1及び表2から分かるように、分散剤組成物2(実施例2)と分散剤組成物12(比較例2)との比較から、共重合体(A)に対するアルカリ成分(B)の添加量が少なく質量比率(B)/(A)が0.2未満であると、環状構造へ変性するニトリル基の量が少なくて、共重合体の導電材に対する吸着力が不十分となり、分散性が悪く、スラリーの粘度が高かった。そのため、比較例2における体積抵抗値は、実施例2のそれよりも顕著に高かった。
一方、分散剤組成物14(比較例4)では、共重合体(A)に対するアルカリ成分(B)の添加量が多すぎ、質量比率(B)/(A)が2.0を超えているので、共重合体が不溶化し凝集した。
【0111】
共重合体(A)を分散剤として含む実施例では、単位Iの含有量が少ない共重合体7を分散剤として含む比較例3よりも、導電材スラリーの粘度が低く、ピール強度が高く、体積抵抗値が顕著に低く、放電容量維持率も高かった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本開示の分散剤組成物は、炭素材料系導電材を良好に分散させることができ、結果、導電材スラリーおよび正極ペーストの低粘度化を可能とする。そして、本開示の分散剤を、導電材ペーストや正極ペーストの調製に用いれば、導電材スラリーおよび正極ペーストの粘度も低く、正極塗膜の低抵抗化に寄与しうる。