(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067510
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】プレキャスト部材、プレキャスト部材と鉄筋の定着構造、及びプレキャスト部材と鉄筋の定着方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/21 20060101AFI20240510BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240510BHJP
【FI】
E04B1/21 B
E04B1/58 505A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177653
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健生
(72)【発明者】
【氏名】叶 健佑
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 航一
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AB12
2E125AC02
2E125AC07
2E125AG28
2E125BA02
2E125BA44
2E125CA82
(57)【要約】
【課題】プレキャスト部材を、車両搬送が可能で、かつ、搬送先の工事現場などで鉄筋を定着できる構造とすることである。
【解決手段】プレキャストコンクリート造の部材本体と、前記部材本体に内方され、鉄筋が挿入される鉄筋定着孔、及び該鉄筋定着孔に挿入された前記鉄筋の先端近傍に螺合される定着部材が設けられる鉄筋定着部と、前記部材本体に内方され、前記鉄筋定着孔に注入材を供給する注入設備と、を備えるプレキャスト部材であって、前記鉄筋定着部に、前記定着部材を挟んで前記鉄筋定着孔と同軸に設けられた前記鉄筋より細径の作業孔を備え、前記部材本体に、前記鉄筋の前記定着部材に対する締め込み度合いを確認する確認マークが付されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート造の部材本体と、
前記部材本体に内方され、鉄筋が挿入される鉄筋定着孔、及び該鉄筋定着孔に挿入された前記鉄筋の先端近傍に螺合される定着部材が設けられる鉄筋定着部と、
前記部材本体に内方され、前記鉄筋定着孔に注入材を供給する注入設備と、
を備えるプレキャスト部材であって、
前記鉄筋定着部に、前記定着部材を挟んで前記鉄筋定着孔と同軸に設けられた前記鉄筋より細径の作業孔を備え、
前記部材本体に、前記鉄筋の前記定着部材に対する締め込み度合いを確認する確認マークが付されていることを特徴とするプレキャスト部材。
【請求項2】
プレキャストコンクリート造の部材本体と、
前記部材本体に内方され、雄ネジ部材が接合された鉄筋が挿入される鉄筋定着孔、及び該鉄筋定着孔に挿入された前記鉄筋の先端近傍に螺合される定着部材が設けられる鉄筋定着部と、
前記部材本体に内方され、前記鉄筋定着孔に注入材を供給する注入設備と、
を備えるプレキャスト部材であって、
前記鉄筋定着部に、前記定着部材を挟んで前記鉄筋定着孔と同軸に設けられた前記鉄筋より細径の作業孔を備え、
前記定着部材に、前記雄ネジ部材に螺合する雌ネジ部を備えるリングプレートを含み、
該リングプレートの前記作業孔と対向する面に、前記定着部材を貫通した前記鉄筋の端部を収納するとともに、前記作業孔に接続する接続部材を備えることを特徴とするプレキャスト部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプレキャスト部材において、
前記部材本体に一端を埋設された先行鉄筋が、前記鉄筋定着孔と平行かつ異なる高さ位置に設けられていることを特徴とするプレキャスト部材。
【請求項4】
請求項3に記載のプレキャスト部材において、
前記先行鉄筋、及び前記鉄筋定着孔に挿入される前記鉄筋が、ともに梁主筋であることを特徴とするプレキャスト部材。
【請求項5】
請求項1に記載のプレキャスト部材と鉄筋の定着構造であって、
前記鉄筋定着孔に挿入された前記鉄筋の先端近傍が、前記確認マークを利用した締め付けにより前記定着部材に固定されているとともに、
前記鉄筋定着孔と前記鉄筋との間に注入材が充填されていることを特徴とするプレキャスト部材と鉄筋の定着構造。
【請求項6】
請求項2に記載のプレキャスト部材と鉄筋の定着構造であって、
前記鉄筋定着孔に挿入された前記鉄筋の先端近傍が、前記定着部材に螺合されているとともに、
前記鉄筋定着孔と前記鉄筋との間に注入材が充填されていることを特徴とするプレキャスト部材と鉄筋の定着構造。
【請求項7】
請求項1に記載のプレキャスト部材に鉄筋を定着するための、プレキャスト部材と鉄筋の定着方法であって、
前記鉄筋定着孔に前記鉄筋を挿入し、該鉄筋の先端と前記定着部材との位置関係を、前記作業孔を利用して目視確認する工程と、
前記確認マークを利用して、前記鉄筋を前記定着部材に締め付け固定させる工程と、
前記注入設備を利用して、注入材を前記鉄筋定着孔に注入する工程と、
を備えることを特徴とするプレキャスト部材と鉄筋の定着方法。
【請求項8】
請求項2に記載のプレキャスト部材に鉄筋を定着するための、プレキャスト部材と鉄筋の定着方法であって、
前記鉄筋定着孔に前記鉄筋を挿入し、該鉄筋の先端と前記定着部材との位置関係を、前記作業孔を利用して目視確認しつつ、前記鉄筋を前記定着部材に螺合する工程と、
前記注入設備を利用して、注入材を前記鉄筋定着孔に注入する工程と、
を備えることを特徴とするプレキャスト部材と鉄筋の定着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の構造部材などをなすプレキャスト部材、プレキャスト部材と鉄筋の定着構造、及びプレキャスト部材と鉄筋の定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の柱や梁、仕口部などをプレキャスト化し、コンクリートの現場打設を省略もしくは低減することにより、超短工期施工を実現する工法が実施されている。特に、高層建物を施工する場合、高強度のコンクリートを取り扱う場合が多く、施工計画や管理の難易度が煩雑となる。このため、高層建物などでは、プレキャスト部材を利用した施工を採用する場合が多い。
【0003】
例えば、非特許文献1には、プレキャスト造の柱部材、と梁・仕口部材を用いた高層建物の施工事例が開示されている。柱部材は、柱主筋が下向きに突出し、梁・仕口部材は、梁主筋が仕口部の側面と梁の端部各々から横向きに突出する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】叶,“オールプレキャスト化を目指した高層集合住宅の施工―LRV工法実施事例”,コンクリート工学,社団法人コンクリート工学会,2006年8月,Vol.44,No.8,pp.48-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1で開示されているようなプレキャスト部材は、工場で製作されたのち、工事現場に車両搬送されるため、道路交通法で定められている「自動車の積載制限」を超えない範囲の荷姿に収める必要がある。
【0006】
ところが、例えば仕口部を挟んだ両側に梁主筋を突出させた梁・仕口部材が必要となった場合、工場で製作することはできるが、鉄筋の突出長さによっては、上記の積載制限を超えない荷姿に収めることができず、通常の搬送方法では工事現場に出荷できない、といった課題が生じる。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、プレキャスト部材を、車両搬送が可能で、かつ、搬送先の現場で鉄筋を定着できる構造とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明のプレキャスト部材は、プレキャストコンクリート造の部材本体と、前記部材本体に内方され、鉄筋が挿入される鉄筋定着孔、及び該鉄筋定着孔に挿入された前記鉄筋の先端近傍に螺合される定着部材が設けられる鉄筋定着部と、前記部材本体に内方され、前記鉄筋定着孔に注入材を供給する注入設備と、を備えるプレキャスト部材であって、前記鉄筋定着部に、前記定着部材を挟んで前記鉄筋定着孔と同軸に設けられた前記鉄筋より細径の作業孔を備え、前記部材本体に、前記鉄筋の前記定着部材に対する締め込み度合いを確認する確認マークが付されていることを特徴とする。
【0009】
本発明のプレキャスト部材は、プレキャストコンクリート造の部材本体と、前記部材本体に内方され、雄ネジ部材が接合された鉄筋が挿入される鉄筋定着孔、及び該鉄筋定着孔に挿入された前記鉄筋の先端近傍に螺合される定着部材が設けられる鉄筋定着部と、前記部材本体に内方され、前記鉄筋定着孔に注入材を供給する注入設備と、を備えるプレキャスト部材であって、前記鉄筋定着部に、前記定着部材を挟んで前記鉄筋定着孔と同軸に設けられた前記鉄筋より細径の作業孔を備え、前記定着部材に、前記雄ネジ部材に螺合する雌ネジ部を備えるリングプレートを含み、該リングプレートの前記作業孔と対向する面に、前記定着部材を貫通した前記鉄筋の端部を収納するとともに、前記作業孔に接続する接続部材を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明のプレキャスト部材は、前記部材本体に一端を埋設された先行鉄筋が、前記鉄筋定着孔と平行かつ異なる高さ位置に設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明のプレキャスト部材は、前記先行鉄筋、及び前記鉄筋定着孔に挿入される前記鉄筋が、ともに梁主筋であることを特徴とする。
【0012】
本発明のプレキャスト部材と鉄筋の定着構造は、前記鉄筋定着孔に挿入された前記鉄筋の先端近傍が、前記確認マークを利用した締め付けにより前記定着部材に固定されているとともに、前記鉄筋定着孔と前記鉄筋との間に注入材が充填されていることを特徴とする。
【0013】
本発明のプレキャスト部材と鉄筋の定着構造は、前記鉄筋定着孔に挿入された前記鉄筋の先端近傍が、前記定着部材に螺合されているとともに、前記鉄筋定着孔と前記鉄筋との間に注入材が充填されていることを特徴とする。
【0014】
本発明のプレキャスト部材と鉄筋の定着方法は、前記鉄筋定着孔に前記鉄筋を挿入し、該鉄筋の先端と前記定着部材との位置関係を、前記作業孔を利用して目視確認する工程と、前記確認マークを利用して、前記鉄筋を前記定着部材に締め付け固定させる工程と、前記注入設備を利用して、注入材を前記鉄筋定着孔に注入する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明のプレキャスト部材と鉄筋の定着方法は、前記鉄筋定着孔に前記鉄筋を挿入し、該鉄筋の先端と前記定着部材との位置関係を、前記作業孔を利用して目視確認しつつ、前記鉄筋を前記定着部材に螺合する工程と、前記注入設備を利用して、注入材を前記鉄筋定着孔に注入する工程と、を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明のプレキャスト部材、プレキャスト部材と鉄筋の定着構造、及びプレキャスト部材と鉄筋の定着方法によれば、プレキャスト部材に鉄筋定着孔を有する鉄筋定着部を設けるとともに、鉄筋定着孔に注入材を供給する注入設備を設ける。これにより、鉄筋定着部の配置位置や数を適宜調整することで、プレキャスト部材に定着する鉄筋の位置や数を自在に調整できるとともに、工事現場やストックヤードなどの搬送先で、鉄筋をプレキャスト部材に定着する作業を容易に実施できる。
【0017】
また、プレキャスト部材と定着予定の鉄筋は、搬送時に別部材として取り扱うことができるため、プレキャスト部材を、道路交通法で定められている「自動車の積載制限」を超えない範囲の荷姿に収めることができる。これにより、通常、資材搬送などに採用されている車両を利用して、工場から現場やストックヤードなどへ搬送することができる。
【0018】
また、鉄筋定着部に、鉄筋定着孔と同軸に設けられた作業孔を備える。これにより、作業孔を、鉄筋定着孔に挿入した鉄筋の先端と定着部材との位置関係を、目視確認するための視認孔として、また、トルク式もしくは手締めにより、鉄筋を定着部材に固定する際の目視確認孔として、さらには、鉄筋定着部に注入する注入材の供給路などとして利用でき、施工性を大幅に向上できる。さらに、鉄筋定着部に設ける定着部材に、鉄筋を貫通させる貫通型や、鉄筋の先端を当接させるいわゆる標準型など、市場で一般に流通されているいずれの定着金具をも採用することができ、プレキャスト部材に高い汎用性を確保できる。
【0019】
加えて、プレキャスト部材には、鉄筋定着部と平行かつ異なる高さ位置に先行鉄筋を設けることもでき、この先行鉄筋と、鉄筋定着部に定着される鉄筋との両者に梁主筋を採用すれば、プレキャスト部材の両側にレベルの異なる梁主筋を突出させることができる。すると、レベルの異なる梁を備える柱梁架構をプレキャスト部材を利用して構築でき、コンクリートの現場打ち作業を省略もしくは大幅に削減でき、工期短縮、工費削減、及び高品質の確保に寄与することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、プレキャストコンクリート造の部材本体に、鉄筋定着孔及び定着部材を有する鉄筋定着部と、鉄筋定着孔に注入材を供給する注入設備とを設けるため、車両搬送が可能で、かつ、搬送先の現場で鉄筋を定着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施の形態における柱梁架構の概略を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における柱梁架構の構築方法を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における柱梁架構に用いる柱部材を示す図である。
【
図4】本発明の実施の形態における鉄筋定着部及び充填機構を示す図である(第1実施形態:標準型)。
【
図5】本発明の実施の形態における柱部材に鉄筋を定着する手順を示す図である(第1実施形態:標準型)。
【
図6】本発明の実施の形態における鉄筋定着部及び充填機構を示す図である(第2実施形態:貫通型:その1)。
【
図7】本発明の実施の形態における鉄筋定着部及び充填機構を示す図である(第2実施形態:貫通型:その2)。
【
図8】本発明の実施の形態における柱部材に鉄筋を定着する手順を示す図である(第2実施形態:貫通型)。
【
図9】本発明の実施の形態における柱部材の製作方法を示す図である(第2実施形態:貫通型)。
【
図10】本発明の実施の形態におけるプレキャスト部材の他の実施例(その1)を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態におけるプレキャスト部材の他の実施例(その2)を示す図である。
【
図12】本発明の実施の形態におけるプレキャスト部材の他の実施例(その2)の荷姿を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、建物の柱や梁、壁といった構造部材などに採用可能なプレキャストコンクリート造の部材に関するものである。本実施の形態では、柱梁架構を構成する柱部材を事例に挙げ、その詳細を説明する。
【0023】
≪≪柱梁架構の概略≫≫
建物の柱梁架構100は、
図1(a)の斜視図及び
図1(b)の正面図で示すように、柱Coを挟んだ両側に位置する梁Beが、異なるレベルとなるように構築されている。このような柱梁架構100を構築する場合、例えば、
図2(a)で示すような、プレキャストコンクリート造の柱部材10と梁部材80とを組立てることにより、構築することができる。
【0024】
≪柱部材の概略≫
柱部材10は、プレキャスト柱本体20と、その上端から突出した柱主筋30とを備えている。また、プレキャスト柱本体20の下端側には、柱主筋30と同軸上に配置された鉄筋挿入孔31と、これに連続する機械式継手32と、が設けられている。
【0025】
さらに、梁部材80と取り合う仕口部には、直交する2方向に梁主筋41、42が先行して、プレキャスト柱本体20の側面から突出して設けられている。そして、この仕口部であって梁主筋41、42と平行であるが異なるレベルに、複数の鉄筋定着部50が設けられている。
【0026】
鉄筋定着部50の詳細は後述するが、この鉄筋定着部50を利用して柱部材10の仕口部に、別途準備した梁主筋43を定着させて、柱部材10と梁主筋43を一体化させるこができる。なお、柱部材10には、柱主筋30及び鉄筋定着部50だけでなく、種々の補強筋が埋設されているが、本実施の形態ではこれらを省略している。また、梁主筋41、42、43は、いずれもねじ節鉄筋を採用している。
【0027】
≪梁部材の概略≫
梁部材80は、プレキャスト梁本体81と、その内方に設けた鉄筋挿入孔82及び機械式継手83と、により構成されている。プレキャスト梁本体81もプレキャスト柱本体20と同様に、種々の補強筋が埋設されているが、本実施の形態では、省略している。
【0028】
≪≪柱梁架構の構築手順≫≫
上記の柱部材10と梁部材80を利用して、
図1で示すような、柱Coを挟んだ両側に、異なるレベルの梁Beを設けた柱梁架構100を構築する手順は、次のとおりである。
【0029】
まず、
図2(a)で示すように、別途準備した梁主筋43を、鉄筋定着部50を利用して柱部材10に定着し、
図2(b)で示すように、これらを一体化する。一体化する作業は、建物施工現場やストックヤードなどで実施すればよい。なお、梁主筋43を、鉄筋定着部50を利用して柱部材10に定着する手順は、後述する。
【0030】
次に、柱部材10に梁部材80を接合する。梁部材80には、鉄筋挿入孔82及び機械式継手83が内包されている。したがって、この鉄筋挿入孔82に梁主筋43を挿入し、鉄筋挿入孔82及び機械式継手83にグラウトなどの注入材を充填して硬化ことで、柱部材10に梁部材80を接合できる。また、同様の手順で梁主筋41、42を利用して、柱部材10の仕口部における3面各々に梁部材80を接合する。
【0031】
これら作業と前後してもしくは同時に、上下に隣り合う柱部材10どうしを接合する。柱部材10には、鉄筋挿入孔31及び機械式継手32が内包されている。したがって、この鉄筋挿入孔31に柱主筋30を挿入し、鉄筋挿入孔31及び機械式継手32に注入材を充填して硬化させる。また、上方の柱部材10と下方の柱部材10との間に形成される目地部にも注入材を充填し、これを硬化させる。
【0032】
こうして、プレキャストコンクリート造の柱部材10と梁部材80とにより、
図1で示すような、レベルの異なる梁Beを含む柱梁架構100を構築できる。これにより、コンクリートの現場打ち作業を省略もしくは大幅に削減でき、工期短縮、工費削減、及び高品質の確保に寄与することが可能となる。
【0033】
これら柱部材10と梁部材80はともに、工場で製作されたのち、資材搬送に利用される車両の荷台に積載されて、工事現場やストックヤードなどに搬送される。このとき、柱部材10の出荷時の荷姿は、
図3(a)で示すように、プレキャスト柱本体20の上端から柱主筋30が突出し、また、隣り合う2つの側面から梁主筋41、42が突出した状態にあり、梁主筋43は別部材として取り扱うことができる。
【0034】
したがって、
図3(b)で示すように、プレキャスト柱本体20の4つの側面のうち、梁主筋41、42が設けられていない側面を下向きにした倒伏姿勢にして、資材搬送用車両の荷台に積載する。これにより、道路交通法で定められている「自動車の積載制限」を超えない範囲の荷姿に収めることが可能となる。
【0035】
≪≪柱部材の詳細≫≫
図2(a)及び(b)を参照して説明したように、柱部材10の仕口部には、別途準備した梁主筋43を定着し一体化するために用いる鉄筋定着部50が備えられている。また、少なくとも、梁主筋43を定着する際に用いるグラウトなどの注入材Gを供給するための注入設備60が備えられている。
【0036】
以下に、鉄筋定着部50及び注入設備60を含む柱部材10の詳細、柱部材10と梁主筋43の定着構造及び定着方法について、第1実施例及び第2実施例の2ケースを事例に挙げて、説明する。なお、鉄筋定着部50及び注入設備60を説明するため、柱主筋30以外の鉄筋は、図示を省略している。
【0037】
≪≪第1実施例:定着部材に標準型を採用する場合≫≫
≪鉄筋定着部≫
鉄筋定着部50は、
図4(a)で示すように、梁主筋41と平行かつ千鳥状に設けられている鉄筋定着孔51と、鉄筋定着孔51の先端近傍に配置された定着部材52aと、定着部材52aを挟んで鉄筋定着孔51と同軸に設けられた作業孔53と、を備える。
【0038】
≪鉄筋定着孔≫
鉄筋定着孔51は、
図4(b)及び
図5(a)で示すように、梁主筋43より大径の筒状中空部であり、で示すような、プレキャスト柱本体20に埋設されるシース管511により形成されている。シース管511は、内外面に凹凸が形成されて、プレキャスト柱本体20との付着及び注入材Gとの付着を高める形状に成形されている。そして、
図4(a)で示すように、その一端側は、定着部材52aが配置され、他端側は開口し、梁主筋43の挿入口となっている。
【0039】
≪定着部材≫
定着部材52aは、
図4(b)及び
図5(a)で示すように、鉄筋定着孔51に挿入された梁主筋43の先端近傍に装着される部材であり、筒部521と、この筒部521より断面径の大きい閉塞プレート522と、を備えている。筒部521の内周面には、梁主筋43に螺合可能な雌ネジが形成され、閉塞プレート522は、この筒部521の作業孔53側の端部を塞ぐように設けられて、梁主筋43が当接する。
【0040】
このような形状の定着部材52aは、標準型やメタルタッチタイプなどと称されて、市場で一般に取引されている定着金物を採用することができる。そして、閉塞プレート522にはその中央に、梁主筋43より十分小径の連通孔5221が形成されている。この連通孔5221に連通するようにして、作業孔53が設けられている。
【0041】
≪作業孔≫
作業孔53は、
図4(b)及び
図5(a)で示すように、梁主筋43と比較して小径の筒状中空部であり、細径パイプ531により形成されている。この作業孔53は、
図5(a)及び(b)で示すように、定着部材52aと、鉄筋定着孔51に挿入された梁主筋43の先端との位置関係を、目視確認するための機能を有している。これらの機能を実現できれば、作業孔53を形成する細径パイプ531は、いずれの素材のパイプを採用してもよい。
【0042】
≪注入設備≫
注入設備60は、
図4(a)で示すように、注入パイプ61と排出パイプ62とにより構成され、いずれも一端が鉄筋定着孔51に接続され、他端がプレキャスト柱本体20の側面に開口している。これらは、
図5(c)で示すように、注入パイプ61を介して、梁主筋43が挿入された状態の鉄筋定着孔51に注入材Gを注入し、また、排出パイプ62を介して、注入材Gの余剰分を排出させることで、鉄筋定着孔51内の充填状態を確認する設備である。
【0043】
≪確認マーク≫
そして、
図4(a)及び
図5(b)で示すように、プレキャスト柱本体20の側面であって鉄筋定着孔51の挿入口近傍に、確認マークM1が付されている。確認マークM1は、鉄筋定着孔51に挿入された梁主筋43が、定着部材52aに対して締め込み固定されていることを確認(締め込み度合いを確認)するために用いるマーキングである。
【0044】
≪≪鉄筋の定着方法及び定着構造≫≫
上記の構成を有する柱部材10に、梁主筋43を定着する手順を、
図5を参照しつつ説明する。なお、
図5では確認マークM1を、梁主筋43を鉄筋定着孔51に挿入したのちに付す場合を事例に挙げている。
【0045】
まず、
図5(a)で示すように、梁主筋43を鉄筋定着孔51に挿入し、先端部近傍を定着部材52aに装着する。装着作業は、梁主筋43を回転させて筒部521に螺合させつつ、先端が閉塞プレート522に当接するまで挿入する。
【0046】
梁主筋43の先端位置を目視確認する作業は、作業孔53を利用して行う。作業孔53は、閉塞プレート522の連通孔5221と連通しているから、例えばファイバースコープを利用すると、定着部材52a内の様子を鮮明に見ることができ、高い精度で確認作業を実施できる。
【0047】
次に、
図5(b)及び(c)で示すように、所定量のトルクを導入して梁主筋43を定着部材52aに締め付け固定する。締め付け確認は、プレキャスト柱本体20に付された確認マークM1と、これに連続して梁主筋43に付された合いマークM2を目視確認することにより行う。
【0048】
図5(b)では、梁主筋43の先端を閉塞プレート522に当接させたのち、梁主筋43の側面に合いマークM2を付すとともに、これと連続するようにして、確認マークM1をプレキャスト柱本体20に付す。その後、梁主筋43を定着部材52aに締め付け固定している。
【0049】
所定量のトルクを導入して梁主筋43を定着部材52aに締め付け固定したのち、
図5(c)で示すように、注入設備60を利用して、鉄筋定着孔51に注入材Gを注入する。注入パイプ61を介して注入した注入材Gで鉄筋定着孔51が満たされると、排出パイプ62の排出口から余剰な注入材Gが排出される。
【0050】
これを確認したところで、注入材Gの注入作業を終了する。これにより、梁主筋43は鉄筋定着部50を介してプレキャスト柱本体20に定着され、梁主筋43と柱部材10とは一体となっている。
【0051】
つまり、柱部材10の仕口部における梁主筋43の定着構造は、鉄筋定着孔51に挿入され、定着部材52aの筒部521に螺合された梁主筋43の先端が、定着部材52aの閉塞プレート522に当接している。この状態で、梁主筋43は定着部材52aに所定のトルク量で締め付け固定され、また、鉄筋定着孔51と梁主筋43との間に、注入材Gが充填されている。
【0052】
≪≪第2実施例:定着部材に貫通型を採用する場合≫≫
図6(a)で示すように、鉄筋定着部50及び注入設備60は、第1実施例と同様に、梁主筋41と平行かつ千鳥状に設けられている。
【0053】
≪鉄筋定着部≫
鉄筋定着部50を構成する、鉄筋定着孔51と作業孔53は、第1実施例と同一の形状であるため、説明を省略する。また、注入設備60も、第1実施例と同一形状であるため、説明を省略する。第1実施例と異なる点は、鉄筋定着部50に備える定着部材52bの構造と、定着部材52bと作業孔53との間に接続部材70が設けられる点である。
【0054】
≪定着部材≫
定着部材52bは、
図6(b)及び
図8(a)で示すように、鉄筋定着孔51に挿入された梁主筋43の先端近傍に装着される部材であり、鉄筋定着孔51より略大径のリングプレートよりなる。
【0055】
リングプレートよりなる定着部材52bにはその中央に、雌ネジ孔が形成されている。雌ネジ孔は、
図7(b)で示すように、梁主筋43に別途設ける雄ネジ部材431が螺号可能な形状に形成されている。このような形状の定着部材52bは、例えば円形定着板などと称されて、市場で一般に取引されている定着金物を採用することができる。また、定着部材52bを挟んだ鉄筋定着孔51の反対側に、定着部材52bと作業孔53とを接続する接続部材70が設けられている。
【0056】
≪接続部材≫
接続部材70は、
図6(b)で示すように、端部収納管71、蓋材72、副排出パイプ73を備えている。
【0057】
端部収納管71は、
図6(b)及び
図8(a)で示すように、リングプレートよりなる定着部材52bを挟んでシース管511と同軸上に設置されており、定着部材52bを貫通した梁主筋43の端部を収納可能な、断面径及び長さに形成されている。本実施の形態では、鉄筋定着孔51と同一材料で長さを変えたものを採用している。
【0058】
蓋材72は、端部収納管71の作業孔53と対向する側の端部を塞ぐように設けられ、その中央には、梁主筋43より十分小径の連通孔721が形成されている。そして、この連通孔721と作業孔53が連通している。
【0059】
副排出パイプ73は、
図8(b)で示すように、作業孔53を介して鉄筋定着孔51に注入された注入材Gの余剰分を、排出パイプ62とともに排出するパイプ材である。
図8(b)で示すように、端部収納管71の側面に接続してもよいし、
図7(a)で示すように、蓋材72に接続してもよい。
【0060】
≪鉄筋の定着方法及び定着構造≫
上記の柱部材に、梁主筋を43を定着する手順は次のとおりである。なお、梁主筋43にはその先端に、あらかじめ
図7(b)で示すように、摩擦圧接加工により雄ネジ部材431を接合しておく。
【0061】
まず、
図8(a)で示すように、梁主筋43を鉄筋定着孔51に挿入し、先端部近傍を定着部材52bに装着する。装着作業は、梁主筋43を回転させて定着部材52bの雌ネジ部に螺合させつつ、先端が定着部材52bを貫通し、端部収納管71内に到達するまで挿入する。
【0062】
梁主筋43の先端位置を目視確認する作業は、第1実施例と同様の手順で、作業孔53を利用して行う。作業孔53は、蓋材72の連通孔721と連通しているから、例えばファイバースコープを利用し、端部収納管71内の様子を確認する。
【0063】
こののち、
図8(b)で示すように、注入設備60の注入パイプ61を利用して、鉄筋定着孔51に注入材Gを注入する。鉄筋定着孔51が注入材Gで満たされると排出パイプ62の排出口から注入材Gの余剰分が排出されるから、これを確認する。また、端部収納管71内の隙間にも、作業孔53を介して注入材Gを注入する。
【0064】
このため、排出パイプ62の排出口だけでなく、接続部材70の副排出パイプ73の排出口からも注入材Gが排出されたことを確認する。これらを確認したところで、注入作業を終了する。これにより、梁主筋43は鉄筋定着部50を介してプレキャスト柱本体20に定着され、梁主筋43と柱部材10とは一体となっている。
【0065】
つまり、柱部材10の仕口部における梁主筋43の定着構造は、鉄筋定着孔51に挿入され、定着部材52bの筒部521に螺合された梁主筋43の先端が、定着部材52bのリングプレートよりなる定着部材52bを貫通し、接続部材70の端部収納管71内に位置している。この状態で、梁主筋43は定着部材52bに手締めにより締め付け固定され、また、鉄筋定着孔51及び端部収納管71と梁主筋43との間に、注入材Gが充填されている。
【0066】
上記のとおり、柱部材10は、注入設備60や接続部材70、また作業孔53などを備えることにより、工事現場やストックヤードなどの搬送先で、梁主筋43を定着する作業を容易に実施できる。
【0067】
また、第1実施例及び第2実施例で説明したように、鉄筋定着部50に設ける定着部材52a、52bに、梁主筋43を貫通させる貫通型や、梁主筋43の先端を当接させるいわゆる標準型など、市場で一般に流通されているいずれの定着金具をも採用することができ、柱部材10に、高い汎用性を確保できる。
【0068】
≪柱部材の製造方法≫
上記の鉄筋定着部50と注入設備60を備えたプレキャスト造の柱部材10は、例えば、次のような手順により製作することができる。
【0069】
図9(a)で示すように、あらかじめ組立てた型枠F内に、柱主筋30を含む必要な補強鉄筋を配筋するとともに、先行して一体に設ける梁主筋41、42の一端側を配設する。これらと同時にもしくは前後して、同じく型枠F内に、
図6~
図8を参照して説明した鉄筋定着部50、注入設備60及び接続部材70を配置する。
【0070】
例えば、鉄筋定着部50は、シース管511、定着部材52b、接続部材70及び細径パイプ531を順次接続し、シース管511及び細径パイプ531各々の型枠Fと対向する端部を、型枠Fに貫通させて設置する。これにより、シース管511内に鉄筋定着孔51が形成され、細径パイプ531内に作業孔53が形成される。
【0071】
また、接続部材70を構成する副排出パイプ73の排出口側は、型枠Fを貫通させて露出させておく。さらに、注入設備60はあらかじめ鉄筋定着部50に装着しておくとともに、注入パイプ61の注入口側と排出パイプ62の排出口側は、型枠Fを貫通させて露出させておく。
【0072】
こののち、型枠F内にコンクリートを打設して養生する。プレキャスト柱本体20に所望の強度が発現したところで脱型すると、
図9(b)で示すような柱部材10を製造できる。柱部材10は、第1実施例と同様の構成に加え、接続部材70を構成する副排出パイプ73の排出口側が、それぞれ露出した状態となっている。なお、プレキャスト柱本体20の下端には、
図2(a)を参照して説明したような、柱主筋30と同軸上に位置する鉄筋挿入孔31及び機械式継手32を形成しておくとよい。
【0073】
なお、
図7(b)を参照して説明したように、鉄筋定着孔51に挿入される梁主筋43は、摩擦圧接加工により雄ネジ部材431が接合されるため、接合部には鉄筋より大径のバリが形成される。このため、鉄筋定着孔51を形成するシース管511は、このバリより径の大きい内径を有するものを採用する。
【0074】
また、第1実施例で説明した柱部材10の製造方法は、接続部材70を省略するのみで、上記と同様の手順で製作することができる。
【0075】
本発明のプレキャスト部材、プレキャスト部材と鉄筋の定着構造、及びプレキャスト部材と鉄筋の定着方法は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0076】
例えば、本実施の形態では、プレキャスト柱本体20内にシース管511及び細径パイプ531を配置し、鉄筋定着部50に鉄筋定着孔51と作業孔53を形成した。しかし、鉄筋定着孔51と作業孔53を、シース管511及び細径パイプ531を用いることなく形成できる場合には、これらを省略してもよい。
【0077】
また、第1実施例では鉄筋定着部50に、標準型やメタルタッチタイプなどと称される定着金物を定着部材52aとして、第2実施例では鉄筋定着部50に、円形定着板などと称される定着金物を定着部材52bとして、それぞれ採用する場合を事例に挙げた。しかし、定着部材52aを用いた鉄筋定着部50と、定着部材52bを用いた鉄筋定着部50とを、混在させて柱部材10を製作してもよい。こうすると、鉄筋定着部50の配置位置の自由度を高めることが可能となり、補強筋をプレキャスト柱本体20に密に設ける場合などにも、対応することができる。
【0078】
さらに、本実施の形態では、例えば
図3を参照して説明したように、鉄筋定着部50を梁主筋41、42とともに、柱部材10に設ける場合を事例に挙げた。しかし、これに限定するものではない。
【0079】
図10(a)(b)で示すように、柱部材10に梁主筋41、42を設けず、鉄筋定着部50のみを設ける構成としてもよい。また、鉄筋定着部50は、同一高さ位置に複数を並列配置する。そして、この並列配置した複数の鉄筋定着部50の組み合わせを、異なる高さ位置にも交差して設けるなどしてもよい。
【0080】
このように、柱部材10の仕口部に設ける鉄筋定着部50の配置位置や数は適宜調整が可能であり、これにより柱部材10に定着する梁主筋43の位置や数を自在に調整することができる。また、鉄筋定着部50を設けるプレキャスト部材は、柱部材10に限定されるものではない。
【0081】
例えば、
図11(a)(b)で示すように、柱部材10の仕口部91を別部材とし、この仕口部91に梁92を一体に接続した、梁・仕口部一体部材90などを準備し、これに鉄筋定着部50を設けてもよい。ここでは、仕口部91に、並列配置した複数の鉄筋定着部50の組み合わせを、千鳥状に配置した場合を事例に挙げている。
【0082】
こうして製作した梁・仕口部一体部材90も、
図12で示すように、梁主筋43を別部材として取り扱えるため、道路交通法で定められている「自動車の積載制限」を超えない範囲の荷姿に収めることができる。したがって、通常資材搬送などに採用されている車両を利用して、工場から現場やストックヤードなどへ搬送することができる。
【符号の説明】
【0083】
100 柱梁架構
10 柱部材(プレキャスト部材)
20 プレキャスト柱本体(部材本体)
30 柱主筋
31 鉄筋挿入孔
32 機械式継手
41 梁主筋(先行鉄筋)
42 梁主筋(先行鉄筋)
43 梁主筋
431 雄ネジ部材
50 鉄筋定着部
51 鉄筋定着孔
511 シース管
52a 定着部材
52b 定着部材(リングプレート)
521 筒部
522 閉塞プレート
53 作業孔
531 細径パイプ
60 注入設備
61 注入パイプ
611 注入口
62 排出パイプ
621 排出口
70 接続部材
71 端部収納管
72 蓋材
73 副排出パイプ
80 梁部材(プレキャスト部材)
81 プレキャスト梁本体
82 鉄筋挿入孔
83 機械式継手
90 梁・仕口部一体部材
91 仕口部
92 梁
Co 柱
Be 梁
G 注入材
F 型枠
T 車両
M1 確認マーク
M2 合いマーク