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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067516
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/10 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
H05B6/10 311
H05B6/10 331
H05B6/10 371
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177661
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】梅谷 和弘
(72)【発明者】
【氏名】川原 翔太
(72)【発明者】
【氏名】三宅 大樹
(72)【発明者】
【氏名】石原 將貴
(72)【発明者】
【氏名】平木 英治
(72)【発明者】
【氏名】市川 周一
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】桝田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】石原 拓也
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB23
3K059AB24
3K059AB28
3K059AD05
3K059CD55
3K059CD74
(57)【要約】
【課題】被加熱物の外周部と中心部との間の温度偏差を小さくできる誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】本発明による誘導加熱装置は、一実施形態において、導体100が所定の軸線AL周りに巻回された誘導加熱コイル10と、軸線ALが延びる方向に関して誘導加熱コイル10の軸端部102か又は軸端部102の外側に配置された軟磁性材110を含む、部材11と、誘導加熱コイル10及び部材11の内側に配置され、誘導加熱コイル10からの磁束による誘導加熱によって加熱可能に構成された被加熱物2と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体が所定の軸線周りに巻回された誘導加熱コイルと、
前記軸線が延びる方向に関して前記誘導加熱コイルの軸端部か又は前記軸端部の外側に配置された軟磁性材を含む、部材と、
前記誘導加熱コイル及び前記部材の内側に配置され、前記誘導加熱コイルからの磁束による誘導加熱によって加熱可能に構成された被加熱物と、
を備えている、
誘導加熱装置。
【請求項2】
前記被加熱物は、前記軸線が延びる方向に流れる流体の流路を形成する、
請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記部材は、複数の貫通孔を有する板状の軟磁性材を有することで前記被加熱物とともに前記流路を形成する、
請求項2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記軸線に直交する面における前記貫通孔の最大幅は、前記軸線が延びる方向に係る前記誘導加熱コイルの長さの85%以下である、
請求項3に記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記誘導加熱コイルは、前記軸線が延びる方向の両側に開口部を有し、
前記部材は、少なくとも一方の前記開口部の少なくとも一部を覆うように配置されている、
請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項6】
前記誘導加熱コイルは、前記軸線が延びる方向の両側に開口部を有し、
前記部材は、前記誘導加熱コイルの一方の開口部を覆う第1部材と、前記誘導加熱コイルの他方の開口部を覆う第2部材とを有している、
請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項7】
前記誘導加熱コイルの背部の少なくとも一部を覆うように配置された軟磁性材料で構成された背部壁
をさらに備えている、
請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項8】
前記背部壁は、前記誘導加熱コイルの端部において前記部材と接続されている、
請求項7に記載の誘導加熱装置。
【請求項9】
前記誘導加熱コイルは、前記軸線が延びる方向の両側に開口部を有し、
前記部材は、前記開口部の外縁から中心部に向かってそれぞれ延在された複数の棒状の軟磁性材を含む、
請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項10】
前記複数の棒状の軟磁性材は、前記開口部の前記外縁側に位置する外端と、前記開口部の前記中心部側に位置する内端とを有しており、
前記外端の断面積は、前記内端の断面積より大きい、
請求項9に記載の誘導加熱装置。
【請求項11】
前記複数の棒状の軟磁性材間の最大間隔は、前記軸線が延びる方向に係る前記誘導加熱コイルの長さの85%以下である、
請求項9に記載の誘導加熱装置。
【請求項12】
前記軟磁性材の比透磁率が80以上である、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項13】
前記軟磁性材の抵抗率が10Ωcm以上である、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項14】
前記軟磁性材のキュリー点が250℃以上である、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項15】
前記軟磁性材は、前記軸線に直交する方向に並べて配置された複数の軟磁性材ブロックを有しており、
前記部材は、前記複数の軟磁性材ブロックを支持する支持材をさらに含む、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項16】
前記被加熱物の透磁率をμc(H/m)とし、前記誘導加熱コイルの巻数をNとし、前記誘導加熱コイルに流れる電流をI(A)とし、前記被加熱物の断面積をSc(m2)とし、前記軸線が延びる方向における前記被加熱物の長さをLc(m)とし、前記部材に含まれる前記軟磁性材の総断面積をSm(m2)とし、前記軟磁性材の飽和磁束密度をBms(T)としたとき、前記軟磁性材の総断面積Smが{(μcNISc)/Lcm}<Bmsを満たすように設定されている、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項17】
前記被加熱物が、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造部を有するハニカム構造体である、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【請求項18】
前記ハニカム構造体の一部もしくは全体が、磁性材料を有して成る、
請求項17に記載の誘導加熱装置。
【請求項19】
直流電源と、
前記直流電源からの直流電力を交流電力に変換するためのインバータと、
前記インバータと前記誘導加熱コイルとに接続され、前記インバータの交流電力の電流を増幅して前記誘導加熱コイルに供給する変圧器と
を有する電源回路
をさらに備えている、
請求項1から11までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば下記の非特許文献1に示されているように、電磁誘導により被加熱物を加熱する誘導加熱が知られている。誘導加熱は、磁性材料及び/又は導電材料を含む被加熱物の近傍に誘導加熱コイルを配置し、その誘導加熱コイルの近傍に磁界を発生させることで行われる。
【0003】
誘導加熱コイルは、例えば銅パイプ及び平角線等の導体が所定の軸線周りに巻回されることで形成され得る。例えば柱状の被加熱物を加熱するとき、被加熱物の外周に誘導加熱コイルが配置され得る。磁界は、誘導加熱コイルに電流を流すことで発生され得る。誘導加熱コイルに流す電流は、高周波インバータからの交流電流を変圧器により増幅することにより得られる大電流であり得る。誘導加熱は、被加熱物を非接触で加熱できることから、熱伝導性の悪い材料を加熱する場合、及び熱接触が容易でない条件で対象物を加熱する場合に特に有用である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】一般社団法人日本エレクトロヒートセンター編「新訂版 エレクトロヒートハンドブック」オーム社 2019年4月10日発行(第263頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような誘導加熱コイルの内側に被加熱物を配置するとき、誘導加熱コイルに近い被加熱物の外周部に磁束が集中しやすく、被加熱物の外周部と中心部との間に温度偏差が生じやすい。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、被加熱物の外周部と中心部との間の温度偏差を小さくできる誘導加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1項.本発明は、一実施形態において、導体が所定の軸線周りに巻回された誘導加熱コイルと、軸線が延びる方向に関して誘導加熱コイルの軸端部か又は軸端部の外側に配置された軟磁性材を含む、部材と、誘導加熱コイル及び部材の内側に配置され、誘導加熱コイルからの磁束による誘導加熱によって加熱可能に構成された被加熱物と、を備えている、誘導加熱装置に関する。
【0008】
第2項.本発明は、被加熱物は、軸線が延びる方向に流れる流体の流路を形成する、第1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0009】
第3項.本発明は、部材は、複数の貫通孔を有する板状の軟磁性材を有することで被加熱物とともに流路を形成する、第2項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0010】
第4項.本発明は、軸線に直交する面における貫通孔の最大幅は、軸線が延びる方向に係る誘導加熱コイルの長さの85%以下である、第3項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0011】
第5項.本発明は、誘導加熱コイルは、軸線が延びる方向の両側に開口部を有し、部材は、少なくとも一方の開口部の少なくとも一部を覆うように配置されている、第1項から第4項までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0012】
第6項.本発明は、誘導加熱コイルは、軸線が延びる方向の両側に開口部を有し、部材は、誘導加熱コイルの一方の開口部を覆う第1部材と、誘導加熱コイルの他方の開口部を覆う第2部材とを有している、第1項から第5項までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0013】
第7項.本発明は、誘導加熱コイルの背部の少なくとも一部を覆うように配置された軟磁性材料で構成された背部壁をさらに備えている、第1項から第6項までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0014】
第8項.本発明は、背部壁は、誘導加熱コイルの端部において部材と接続されている、第7項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0015】
第9項.本発明は、誘導加熱コイルは、軸線が延びる方向の両側に開口部を有し、部材は、開口部の外縁から中心部に向かってそれぞれ延在された複数の棒状の軟磁性材を含む、第1項から第8項までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0016】
第10項.本発明は、複数の棒状の軟磁性材は、開口部の外縁側に位置する外端と、開口部の中心部側に位置する内端とを有しており、外端の断面積は、内端の断面積より大きい、第9項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0017】
第11項.本発明は、複数の棒状の軟磁性材間の最大間隔は、軸線が延びる方向に係る誘導加熱コイルの長さの85%以下である、第9項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0018】
第12項.本発明は、軟磁性材の比透磁率が80以上である、第1項から第11項までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0019】
第13項.本発明は、軟磁性材の抵抗率が10Ωcm以上である、第1項から第12項までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0020】
第14項.本発明は、軟磁性材のキュリー点が250℃以上である、第1項から第13項までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0021】
第15項.本発明は、軟磁性材は、軸線に直交する方向に並べて配置された複数の軟磁性材ブロックを有しており、部材は、複数の軟磁性材ブロックを支持する支持材をさらに含む、第1項から第14項までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0022】
第16項.本発明は、被加熱物の透磁率をμc(H/m)とし、誘導加熱コイルの巻数をNとし、誘導加熱コイルに流れる電流をI(A)とし、被加熱物の断面積をSc(m2)とし、軸線が延びる方向における被加熱物の長さをLc(m)とし、部材に含まれる軟磁性材の総断面積をSm(m2)とし、軟磁性材の飽和磁束密度をBms(T)としたとき、軟磁性材の総断面積Smが{(μcNISc)/Lcm}<Bmsを満たすように設定されている、第1項から第15項までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0023】
第17項.本発明は、被加熱物が、外周壁と、外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造部を有するハニカム構造体である、第1項から第16項までのいずれか一項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0024】
第18項.本発明は、ハニカム構造体の一部もしくは全体が、磁性材料を有して成る、第17項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【0025】
第19項.本発明は、直流電源と、直流電源からの直流電力を交流電力に変換するためのインバータと、インバータと誘導加熱コイルとに接続され、インバータの交流電力の電流を増幅して誘導加熱コイルに供給する変圧器とを有する電源回路をさらに備えている、第1項から第18項までのいずれか1項に記載の誘導加熱装置に関していてよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の誘導加熱装置の一実施形態によれば、被加熱物の外周部と中心部との間の温度偏差を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態による誘導加熱装置を示す斜視断面図である。
図2図1の領域IIを拡大して示す斜視断面図である。
図3図1の電源回路の一例を示す回路図である。
図4図1の軟磁性材の第1変形例を示す斜視図である。
図5図1の軟磁性材の第2変形例を示す斜視断面図である。
図6図1の軟磁性材の第3変形例を示す斜視断面図である。
図7図6の誘導加熱装置の断面図である。
図8図7の誘導加熱装置を示す平面図である。
図9図7の磁束φが流れる磁気回路を示す回路図である。
図10】誘導加熱コイルの長さに対する軟磁性材の最大間隔の比率と被加熱部の加熱ムラとの関係を示すグラフである。
図11図7の軟磁性材を示す斜視図である。
図12図1の被加熱物の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0029】
図1は本発明の実施の形態による誘導加熱装置を示す斜視断面図であり、図2図1の領域IIを拡大して示す斜視断面図であり、図3図1の電源回路3の一例を示す回路図である。図1は、軸線ALを含む面により誘導加熱装置を半分に切断した状態を示している。
【0030】
図1及び図2に示す誘導加熱装置は、誘導加熱により被加熱物2を加熱することができるように構成された装置である。本実施の形態の誘導加熱装置は、誘導加熱コイルユニット1、被加熱物2、電源回路3及びキャン4を有している。
【0031】
誘導加熱コイルユニット1は、誘導加熱コイル10と、部材11と、を備えている。
【0032】
誘導加熱コイル10は、導体100が所定の軸線AL周りに巻回されたものである。図1及び図2では、軸線ALが延びる方向に係る幅よりも軸線ALに直交する方向に係る厚みが薄いシート状の導体100が、円筒に沿って巻回された態様を示している。しかしながら、導体100の形状は図示の態様に限定されず、例えば矩形若しくは正方形断面又は円形断面等の他の形状の導体100が使用されてよい。軸線ALに直交する方向は、誘導加熱コイル10又は被加熱物2の径方向又は幅方向と同義であり得る。導体100の断面は、中実であってもよいし、中空(管状)であってもよい。また、導体100の巻回態様も図示の態様に限定されず、例えば角筒等の他の形に沿って導体100が巻回されてもよい。
【0033】
誘導加熱コイル10には、引出線101を介して電源回路3が接続されている。電源回路3から誘導加熱コイル10に交流電流が供給されることで、誘導加熱コイル10の近傍に磁束が生じる。
【0034】
限定はされないが、電源回路3は、図3に示す構成を有することができる。すなわち、図3に示すように、電源回路3は、直流電源30、インバータ31、変圧器32及び共振用コンデンサ33を含むことができる。直流電源30からの直流電力がインバータ31にて交流電力に変換される。変圧器32は、インバータ31に接続された一次コイル32aと、共振用コンデンサ33及び誘導加熱コイル10に接続された二次コイル32bとを有している。一次コイル32a及び二次コイル32bの巻数比はN:1とされている。Nは1よりも大きな数であり、変圧器32は、交流電力の電流を増幅することができる。共振用コンデンサ33の容量は、電源回路3の共振周波数を調整するように設定されている。誘導加熱コイル10は、共振用コンデンサ33に直列に接続される。二次コイル32bの両端には、誘導加熱コイル10及び共振用コンデンサ33の直列接続体が接続され得る。
【0035】
部材11は、軸線ALが延びる方向に関して誘導加熱コイル10の軸端部102か又は軸端部102の外側に配置された軟磁性材110を含む。図1及び図2は、軸線ALが延びる方向に関して誘導加熱コイル10の軸端部102の外側に部材11が配置されている態様を示している。しかしながら、上述のように部材11は、軸線ALが延びる方向に関して誘導加熱コイル10の軸端部102と同じ位置に配置されてもよい。また、図1及び図2は、軸線ALが延びる方向に関して誘導加熱コイル10の両端に部材11が配置される態様を示している。しかしながら、誘導加熱コイル10の一方の端部のみに部材11が配置されていてもよい。
【0036】
被加熱物2は、誘導加熱により加熱されることが意図された部材である。被加熱物2は、磁性材料及び/又は導電材料を含むことができる。磁性材料及び/又は導電材料は、被加熱物2の全体又は一部を構成し得る。被加熱物2の形状は、任意であり、図1に示すように柱状であってよい。柱状とは、軸方向に所定の厚みを有する立体形状と理解できる。被加熱物2の軸方向長さと被加熱物2の端面の直径又は幅との比(アスペクト比)は任意である。柱状には、被加熱物2の軸方向長さが端面の直径又は幅よりも短い形状(偏平形状)も含まれていてよい。被加熱物2の断面の形状は、任意であり、図1及び図2に示すように円形であってもよいし、多角形等の他の形状であってもよい。被加熱物2の軸方向は軸線ALと平行であってよく、被加熱物2の中心軸は軸線ALと同軸であってよい。
【0037】
被加熱物2は、誘導加熱コイル10及び部材11の内側に配置されている。誘導加熱コイル10は被加熱物2の外周に位置し、部材11は被加熱物2の端部の外側に位置している。被加熱物2は、電源回路3から誘導加熱コイル10に交流電流が供給された際の誘導加熱コイル10からの磁束による誘導加熱によって加熱可能に構成されている。
【0038】
ここで、誘導加熱コイル10からの磁束は誘導加熱コイル10に近い被加熱物2の外周部に集中しやすく、被加熱物2の外周部と中心部との間に温度偏差が生じやすい。しかしながら、本実施の形態の誘導加熱装置では、上述のように配置された軟磁性材110を含む部材11が設けられている。部材11(より具体的には軟磁性材110)は、軸線ALに直交する方向に関して誘導加熱コイル10からの磁束を導体100側から軸線ALに向かって誘導する。これにより、誘導加熱コイル10からの磁束が被加熱物2の外周部に集中することを回避でき、被加熱物2の外周部と中心部との間の温度偏差を小さくすることができる。軟磁性材110を含む部材11は、外周部と中心部との間の温度偏差が大きくなりやすい大径の被加熱物2(例えば半径が60mm以上の被加熱物2)に特に有用である。部材11は、機能的な観点から磁束誘導部材等と称してよい。
【0039】
キャン4は、誘導加熱コイルユニット1及び被加熱物2を外側から囲うものである。キャン4は、軸線ALに直交する方向に関する誘導加熱コイルユニット1及び被加熱物2の外周に配置された外周壁40と、軸線ALに係る外周壁40の端部から軸線ALに直交する方向に係る内側に延出された端壁41とを有している。外周壁40には、引出線101を引き出すための開口部40aが設けられている。端壁41は、軸線ALに沿って誘導加熱装置を見たときに少なくとも誘導加熱コイル10を覆うように延在されている。端壁41の先端は、軸線ALに直交する方向に関して被加熱物2の外縁と同位置に配置され得る。
【0040】
被加熱物2は、軸線ALが延びる方向に流れる流体の流路を形成することができる。限定はされないが、後述のように被加熱物2はハニカム構造体であってよく、流体は排気ガスであり得る。
【0041】
部材11は、複数の貫通孔110aを有する板状の軟磁性材110を有することで被加熱物2とともに流路を形成してよい。貫通孔110aは、軸線ALが延びる方向に流れる流体の通過を許容する空間又は隙間であり得る。貫通孔110aは、軟磁性材110によって縁どられていてもよいし、互いに離間して配置された軟磁性材110の間及び軟磁性材110と周囲の部材との間の空間又は隙間であってもよい。図示の軟磁性材110は、格子状又は網状に配置された複数の直線部110bと、それら直線部110bの間に配置された複数の貫通孔110aとを有している。複数の貫通孔110aは、軸線ALに直交する面内において互いに直交する第1方向及び第2方向に互いに離間して配置されているとともに、軸線ALに沿って見たときに矩形の外形を有している。軸線ALは、軟磁性材110の板厚方向に延びている。
【0042】
軟磁性材110は、任意の構成により支持することができる。図示の態様では、軟磁性材110は、外端110cが端壁部12に接続されることで支持されている。しかしながら、例えばキャン4又は被加熱物2等の他の部材によって支持されてよい。また、誘導加熱コイル10の軸端部102に軟磁性材110を配置する場合、誘導加熱コイル10と軟磁性材110とを樹脂により一体成型する等の方法をとってよい。
【0043】
軸線ALに直交する面における貫通孔110aの最大幅は、軸線ALが延びる方向に係る誘導加熱コイル10の長さの85%以下であってよい。図示のように貫通孔110aが矩形であるとき、貫通孔110aの最大幅は貫通孔110aの対角線の長さであり得る。貫通孔110aの最大幅が誘導加熱コイル10の長さの85%以下であることで、被加熱物2の中心部に磁束を誘導できる。
【0044】
誘導加熱コイル10は、軸線ALが延びる方向の両側に開口部を有している。開口部は、誘導加熱コイル10の軸端部102によって縁どられる空間であり得る。図1及び図2に示す態様では開口部は円形の空間であり得る。被加熱物2は、開口部を通して誘導加熱コイル10の内部に挿入され得る。部材11は、少なくとも一方の開口部の少なくとも一部を覆うように配置されている。図示の部材11(軟磁性材110)は、全体として円板状に形成されており、開口部の全体を覆うように配置されている。換言すると、軸線ALに沿って見たとき、誘導加熱コイル10の開口部の全体に部材11が重なっている。図示の態様において、軸線ALに直交する方向における部材11の幅(部材11の直径)は、同方向における開口部の幅(開口部の直径)と実質的に等しい。例えば部材11の幅が開口部の幅の90%~110%であるときそれらが実質的に等しいと理解してよい。部材11は開口部と同軸に配置され得る。部材11の幅は、開口部の幅よりも大きいか又は小さくてもよい。部材11の幅が開口部の幅よりも小さいとき、部材11は開口部の一部のみを覆う。このとき、部材11は、開口部と同軸に配置されてもよいし、片寄った位置に配置されてもよい。部材11が開口部とは異なる外形を有していてもよい。
【0045】
上述のように、本実施の形態の部材11は、誘導加熱コイル10の両端に配置されている。誘導加熱コイル10の一方の開口部を覆う部材11を第1部材と呼び、誘導加熱コイルの他方の開口部を覆う部材11を第2部材と呼ぶことができる。
【0046】
誘導加熱コイルユニット1は、誘導加熱コイル10を囲う端壁部12及び背部壁13の少なくとも一方を有していてよい。端壁部12は、誘導加熱コイル10の軸方向両側の軸端部102の少なくとも一部を覆うように配置されている。背部壁13は、誘導加熱コイル10の背部の少なくとも一部を覆うように配置されている。背部は、軸線ALに直交する方向に係る誘導加熱コイル10の一対の側部のうち、被加熱物2から離れた側の側部(外周面)である。図示の態様では、端壁部12は円環状部材によって構成されており、背部壁13は端壁部12間に配置された円筒状部材によって構成されている。背部壁13の軸端は端壁部12に接触されているか又は接続されていてよい。
【0047】
端壁部12及び背部壁13は、磁性材料で構成されていてよい。磁性材料は、軟磁性材料であり得る。磁性材料で構成された端壁部12が、誘導加熱コイル10の軸方向両側の軸端部102の少なくとも一部を覆うように配置されていることで、誘導加熱コイル10の磁束を端壁部12に引き寄せることができ、誘導加熱コイル10の軸端部102における磁束の集中を抑え、軸端部102における誘導加熱コイル10の極端な発熱を抑えることができる。また、磁性材料で構成された背部壁13が、誘導加熱コイル10の背部の少なくとも一部を覆うように配置されていることで、背部における誘導加熱コイル10の発熱を抑制できる。
【0048】
軟磁性材110の外端110cは、端壁部12との間の空隙ができるだけ小さくなるように配置されていることが好ましく、端壁部12に接触して配置されていることがより好ましい。これは、より確実に外側の磁束を内側に誘導できるようにするためである。
【0049】
背部壁13は、誘導加熱コイル10の端部において部材11と接続されていてよい。本実施の形態では、軟磁性材110の外端110cが端壁部12の内縁に接触されており、背部壁13は端壁部12を通して部材11に接続されている。端壁部12及び背部壁13は、誘導加熱コイル10の一方の端部側に配置された部材11(第1部材)と、誘導加熱コイル10の他方の端部側に配置された部材11(第2部材)とを接続する接続部材としての機能も有していてよい。
【0050】
部材11の軟磁性材110の比透磁率(真空の透磁率μ0に対する軟磁性材110の透磁率μの比)が80以上であることが好ましい。比透磁率が80以上であることで、軟磁性材110が誘導加熱コイル10の磁束を導体100側から軸線ALに向かってより確実に誘導でき、より確実に被加熱物2の外周部と中心部との間の温度偏差を小さくすることができる。軟磁性材110の比透磁率の上限値は、磁束誘導の観点からは特に制限はないが、工業的な用途の観点では10,000が目安となる。
【0051】
軟磁性材110の抵抗率が10Ωcm以上であることが好ましい。抵抗率が10Ωcm以上であることで、軟磁性材110における損失を小さくでき、より確実に被加熱物2の外周部と中心部との間の温度偏差を小さくすることができる。軟磁性材110の抵抗率の上限値は、損失低減の観点からは特に制限はないが、工業的な用途の観点では1010Ωcmが目安となる。
【0052】
軟磁性材110のキュリー点が250℃以上であることが好ましい。キュリー点が250℃以上であることで、高温下でも軟磁性材110の磁束誘導を実現でき、より確実に被加熱物2の外周部と中心部との間の温度偏差を小さくすることができる。この構成は、後述のように高温ガス(内燃機関の排気ガス)の流れに軟磁性材110が晒される実施形態において特に有用である。特に、高温ガスの流れ方向に係る上流側に配置される軟磁性材110のキュリー点が250℃以上であることが好ましい。
【0053】
軟磁性材110の材料としては、限定はされないが、例えば、フェライト、センダスト及びカルボニル鉄等を用いることができる。
【0054】
次に、図4は、図1の軟磁性材110の第1変形例を示す斜視図である。部材11の軟磁性材110は、図1図2及び図3に示すように中実構造を有していてもよいが、図4に示すような構造をとってもよい。すなわち、図4に示すように、軟磁性材110は、軸線ALに直交する方向に並べて配置された複数の軟磁性材ブロック110eを有していてよい。また、部材11は、複数の軟磁性材ブロック110eを支持する支持材111をさらに含んでいてよい。軟磁性材ブロック110e及び支持材111を用いる形態は、軟磁性材110を構成する材料の機械的強度が低く、長手状の軟磁性材110を形成することが難しい場合に特に有用である。
【0055】
軟磁性材ブロック110eは、互いに隣接されていることが好ましい。軟磁性材ブロック110eは、軟磁性材ブロック110eのそれぞれが、上述した比透磁率等の数値範囲を満たすことが好ましい。板状の軟磁性材110は、複数の軟磁性材ブロック110eが並べて配置されることで形成されてよい。図では軟磁性材ブロック110eが直方体であるように示しているが、軟磁性材ブロック110eの形状は任意である。異なる形状の複数種の軟磁性材ブロック110eが使用されてもよい。
【0056】
限定はされないが、支持材111は、一対の側壁111aと、それら側壁111aの一端を接続する端壁111bとを有する断面コ字状の部材とされていてよい。支持材111は側壁111a及び端壁111bによって区画される溝111cを有しており、その溝111c内に軟磁性材ブロック110eが配置され得る。軸線ALが延びる方向に関して、端壁111bは被加熱物2から離れた側に配置されてよく、溝111cの開口から露出された軟磁性材ブロック110eの面が被加熱物2に対向されてよい。軸線ALに直交する方向(支持材111の長手方向)に関して、溝111cの両端は開口されてよく、その開口から軟磁性材ブロック110eが露出されていてよい。例えばシリコーン、フッ素系有機樹脂又はアルミナシリケート系の無機接着剤等の耐熱性の封止材(図示せず)によって支持材111及び軟磁性材ブロック110eが一体化されている。
【0057】
支持材111の材料は、例えば機械的強度及び電気導電率を鑑みて軟磁性材ブロック110eの磁束を誘導する機能を妨げないか否か等の種々の観点から選択できる。支持材111の材料としては、例えばSUS430等の金属を用いることができる。
【0058】
次に、図5は、図1の軟磁性材110の第2変形例を示す斜視断面図である。貫通孔110aの形状及び配置は任意に変更可能である。図5に示すように貫通孔110aは、円形であってよい。貫通孔110aは、軸線ALが通る位置(中心位置)及び/又は互いに直径が異なる複数の同心円に沿って配置され得る。同心円の中心位置は軸線ALが通る位置であってよい。その他については、上記と同様である。
【0059】
次に、図6は、図1の軟磁性材110の第3変形例を示す斜視断面図である。図6に示すように、部材11は、誘導加熱コイル10の開口部の外縁から中心部に向かってそれぞれ延在された複数の棒状の軟磁性材110を含んでいてよい。図6では、複数本の軟磁性材110が放射状に配置されている態様を示している。換言すると、複数本の軟磁性材110が、導体100の巻回方向WDに互いに間隔を置いて、軸線ALに直交する方向に関して導体100側から軸線ALに向かってそれぞれ延在されている。
【0060】
部材11(すなわち軟磁性材110)は、軸線ALに直交する方向に関して導体100側から軸線ALに向かって延在されている。図6に示す態様のように部材11が軸線ALに到達していなくてもよいし、部材11が軸線ALに到達していてもよい。換言すると、軟磁性材110の内端110dは、図示のように互いに非接触とされていてもよいし、互いに接触されていてもよい。また、軟磁性材110の内端110dが他の部材によって互いに連結されていてもよい。内端110dを連結する部材は、例えば環状体等の形状をとることができ、軟磁性材によって構成されていてよい。
【0061】
複数の棒状の軟磁性材110は、誘導加熱コイル10の開口部の外縁側に位置する外端110cと、開口部の中心部側に位置する内端110dとを有している。外端110cの断面積は、内端110dの断面積より大きくてよい。すなわち、図6において一点鎖線で示すように、軟磁性材110は、内端110d側に比べて外端110c側が幅広に形成されていてよい。外端110c側が幅広であることで、より確実に磁束を誘導できる。
【0062】
複数の棒状の軟磁性材110間の最大間隔は、軸線ALが延びる方向に係る誘導加熱コイル10の長さの85%以下であることが好ましい。図示のように軟磁性材110が放射状に配置されているとき、最大間隔は、巻回方向WDに隣り合う軟磁性材110の外端110c間の間隔であり得る。軟磁性材110の外端110cが被加熱物2の外縁と同位置であるか又は被加熱物2の外縁よりも径方向外方にあるとき、被加熱物2の半径をr(m)として軟磁性材110間の角度間隔θ(rad)とすると、軟磁性材110の最大間隔をrθ(r×θ)とみなしてよい。軟磁性材110間の最大間隔が誘導加熱コイル10の長さの85%以下であることで、被加熱物2の中心部に磁束を誘導できる。その他については、上記と同様である。
【0063】
次に、図7図6の誘導加熱装置の断面図であり、図8図7の誘導加熱装置を示す平面図であり、図9図7の磁束φが流れる磁気回路を示す回路図である。なお、図7は軸線ALを含む面により誘導加熱装置を半分に切断した状態を示している。また、図7及び図8ではキャン4を省略している。
【0064】
図7のように誘導加熱装置を断面で見たとき、誘導加熱コイル10からの磁束φは、端壁部12及び背部壁13(接続部材)、一方の端部に配置された部材11(軟磁性材110)(第1部材)、被加熱物2並びに他方の端部に配置された部材11(第2部材)を通る。一方、図8のように誘導加熱装置を平面で見たとき、磁束φは、部材11の軟磁性材110のみならず、軟磁性材110間の被加熱物2も通る。磁束φは、軟磁性材110を通る第1磁束φ1と、軟磁性材110間の被加熱物2を通る第2磁束φ2とを含む。
【0065】
このような磁束φの流れを図9に示す磁気回路で表すことができる。第1磁束φ1の経路には、被加熱物2の磁気抵抗Rcが設けられている。一方、第2磁束φ2の経路には、被加熱物2の磁気抵抗Rcに加えて、空気の磁気抵抗Raが設けられている。被加熱物2の磁気抵抗Rcは、軸線ALが延びる方向における誘導加熱コイル10の長さLc(m)を変数として表すことができる。空気の磁気抵抗Raは、軟磁性材110間の距離を変数として表すことができる。特に軟磁性材110が放射状に配置されているとき、軟磁性材110間の距離は被加熱物2の半径r(m)と、軟磁性材110間の角度間隔θ(rad)とを変数として表すことができる。上述のように軟磁性材110の最大間隔をrθ(r×θ)とみなしてよい。なお、端壁部12、背部壁13及び部材11が十分に大きな透磁率を有していることから、端壁部12、背部壁13及び部材11の磁気抵抗は0として扱っている。
【0066】
上述のように第1磁束φ1の経路と第2磁束φ2の経路とで磁気抵抗に差があるため、軟磁性材110の直下と軟磁性材110間とで磁束φによる加熱量(磁束φによって生じる磁界の二乗値)に差が生じる。詳細には、軟磁性材110の直下に比べて、軟磁性材110間の加熱量が小さくなる傾向にある。
【0067】
図10は、誘導加熱コイル10の長さLcに対する軟磁性材110の最大間隔rθの比率(rθ/Lc)と被加熱物2の加熱ムラとの関係を示すグラフである。図10の横軸は、誘導加熱コイル10の長さLcに対する軟磁性材110の最大間隔rθの比率(rθ/Lc)である。図10の縦軸は被加熱物2の加熱ムラであり、加熱ムラは、軟磁性材110の直下位置の加熱量H1と軟磁性材110がない位置での加熱量H2との比率(H2/H1)を意味する。
【0068】
図中、黒丸のプロットは、誘導加熱コイル10の長さLcを一定としつつ、軟磁性材110間の最大間隔rθを変化させたときの比率rθ/Lcと加熱ムラとの関係を表す。図10に示すように、比率rθ/Lcが小さいほど、加熱ムラは1に近づく。すなわち、比率rθ/Lcほど、軟磁性材110の直下位置の加熱量H1と軟磁性材110がない位置での加熱量H2との差異が小さくなる。比率rθ/Lcが0.85以下であるとき(すなわち、軟磁性材110間の最大間隔rθが、軸線ALが延びる方向における誘導加熱コイル10の長さLcの85%以下であるとき)、加熱ムラを20%以下に抑えることができる。このことから、軟磁性材110間の最大間隔rθが誘導加熱コイル10の長さLcの85%以下(rθ/Lc≦0.85)であることが好ましい。このことは、図6のように軟磁性材110が放射状に配置される場合のみならず、図1及び図5に示すように軟磁性材110が複数の貫通孔110aを有する板状である場合にも同じことが言える。軟磁性材110が板状であるとき貫通孔110aの最大幅(貫通孔110aの対角線)が誘導加熱コイル10の長さLcの85%以下であることが好ましい。
【0069】
次に、図11は、図7の軟磁性材110を示す斜視図である。図7及び図11を参照しながら、部材11に含まれる軟磁性材110の総断面積Sm(m2)の好適な範囲について説明する。
【0070】
まず、被加熱物2内部の磁界が均一であると仮定して、図7の磁束φの経路においてアンペールの法則を適応することにより、以下の式(1)の関係を導き出すことができる。
NI=Hcc+Hm+Hw・・・式(1)
ここで、Nは誘導加熱コイル10の巻数であり、I(A)は誘導加熱コイル10を流れる電流であり、Hc(T)は被加熱物2内部の磁界であり、Lc(m)は軸線ALが延びる方向における被加熱物2の長さであり、Hm(T)は部材11に含まれる軟磁性材110内部の磁界であり、Hw(T)は端壁部12及び背部壁13内部の磁界である。
【0071】
軟磁性材110、端壁部12及び背部壁13の透磁率が十分に大きいため、Hm及びHwを0と近似できる。このため、式(1)から以下の式(2)を得ることができる。
NI=Hcc・・・式(2)
【0072】
被加熱物2を流れる磁束φは、磁束密度と磁界の関係(B=μH)から以下の式(3)で表すことができる。
φ=BSc=μccπr2・・・式(3)
ここで、μc(H/m)は被加熱物2の透磁率であり、Sc及びπr2(m2)は被加熱物2の断面積であり、r(m)は被加熱物2の半径である。
【0073】
式(2)及び式(3)から、以下の式(4)を得ることができる。
φ=(μcNIπr2)/Lc・・・式(4)
この式(4)で表される磁束φが部材11に含まれる軟磁性材110にも流れる。
【0074】
このため、部材11に含まれる軟磁性材110の磁束密度Bmは、以下の式(5)によって表すことができる。
m=(μcNIπr2)/Lcm・・・式(5)
ここで、Sm(m2)は部材11に含まれる軟磁性材110の総断面積である。複数本の軟磁性材110が設けられているとき、図11に示される1つの軟磁性材110の断面積S1(m2)に軟磁性材110の本数nを乗じることで、Sm(=S1×n)を算出できる。軟磁性材110の断面積S1は軟磁性材110の端面の面積であってもよい。
【0075】
軟磁性材110の総断面積Smは、式(5)のBmが軟磁性材110の飽和磁束密度Bms(T)を超えないように、すなわち{(μcNISc)/Lcm}<Bmsを満たすように設定されていることが好ましい。総断面積Smがこのように設定されていることで、部材11に含まれる軟磁性材110で磁気飽和が起きることが回避できる。
【0076】
次に、図12は、図1の被加熱物2の一例を示す斜視図である。図12に示すように、被加熱物2は、外周壁20と、外周壁20の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで延びる流路を形成する複数のセル21aを区画形成する隔壁21とを有するハニカム構造部を有するハニカム構造体であってよい。被加熱物2がハニカム構造体であるとき、被加熱物2の軸方向はセル21aの延伸方向であり得る。ハニカム構造体は、例えば車両等の排気ガスを浄化するための触媒を担持する触媒担持体であり得る。
【0077】
外周壁20及び隔壁21の材質については特に制限はないが、通常は、セラミックス材料で形成される。例えば、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、アルミナ、珪素-炭化珪素系複合材料、炭化珪素-コージェライト系複合材料、特に珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とする焼結体が挙げられる。本明細書において「炭化珪素系」とは、外周壁20及び隔壁21が炭化珪素を、外周壁20及び隔壁21全体の50質量%以上含有していることを意味する。外周壁20及び隔壁21が珪素-炭化珪素複合材を主成分とするというのは、外周壁20及び隔壁21が珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、外周壁20及び隔壁21全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。また、外周壁20及び隔壁21が炭化珪素を主成分とするというのは外周壁20及び隔壁21が炭化珪素(合計質量)を、外周壁20及び隔壁21全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0078】
好ましくは、外周壁20及び隔壁21は、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、及び、アルミナからなる群から選択される少なくとも1つのセラミックス材料で形成される。
【0079】
ハニカム構造体のセル形状は特に限定されないが、ハニカム構造体の中心軸に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。好ましくは、多角形である。
【0080】
ハニカム構造体の隔壁21の厚さは、0.05~0.50mmであることが好ましく、製造の容易さの点で、0.10~0.45mmであることが更に好ましい。例えば、0.05mm以上であると、ハニカム構造体の強度がより向上し、0.50mm以下であると、圧力損失を小さくすることができる。なお、この隔壁21の厚さは、中心軸方向断面を顕微鏡観察する方法で測定した平均値である。
【0081】
隔壁21の気孔率は、20~70%であることが好ましい。隔壁21の気孔率は、製造の容易さの点で、20%以上が好ましく、70%以下であると、ハニカム構造体の強度を維持できる。
【0082】
隔壁21の平均細孔径は、2~30μmであることが好ましく、5~25μmであることが更に好ましい。隔壁21の平均細孔径が、2μm以上であると、製造が容易になり、30μm以下であると、ハニカム構造体の強度を維持できる。なお、本明細書において、「平均細孔径」、「気孔率」というときには、水銀圧入法により測定した平均細孔径、気孔率を意味するものとする。
【0083】
ハニカム構造体のセル密度は、特に制限はないが、5~150セル/cm2の範囲であることが好ましく、5~100セル/cm2の範囲であることがより好ましく、31~80セル/cm2の範囲であることが更に好ましい。
【0084】
ハニカム構造体の外形は、特に限定されないが、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。
【0085】
このようなハニカム構造体は、セラミックス原料を含有する坏土を、一方の端面から他方の端面まで延びて流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁を有するハニカム状に成形して、ハニカム成形体を形成し、このハニカム成形体を、乾燥した後に焼成することによって作製される。そして、得られたハニカム構造体を、本実施形態のハニカム構造体に用いる場合には、外周壁をハニカム構造体と一体的に押し出してそのまま外周壁として使用してもよいし、成形又は焼成後に、ハニカム構造体の外周を研削して所定形状とし、この外周を研削したハニカム構造体に、コーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよい。なお、本実施形態においては、例えば、ハニカム構造体の最外周を研削せずに、外周を有したハニカム構造体を用い、この外周を有するハニカム構造体の外周面(即ち、ハニカム構造体の外周の更に外側)に、更に、上記コーティング材を塗布して、外周コーティングを形成してもよい。即ち、前者の場合には、ハニカム構造体の外周面には、コーティング材からなる外周コーティングのみが最外周に位置する外周壁となる。一方、後者の場合には、ハニカム構造体の外周面に、更にコーティング材からなる外周コーティングが積層された、最外周に位置する、二層構造の外周壁が形成される。外周壁をハニカム構造部と一体的に押し出してそのまま焼成し、外周の加工無しに、外周壁として使用してもよい。
【0086】
ハニカム構造体は、隔壁21が一体的に形成された一体型のハニカム構造体に限定されることはなく、例えば、セラミックス製の隔壁を有し、隔壁によって流体の流路となる複数のセルが区画形成された柱状のハニカムセグメントが、接合材層を介して複数個組み合わされた構造を有するハニカム構造体(接合型ハニカム構造体)であってもよい。
【0087】
ハニカム構造体の一部もしくは全体が、磁性材料を有して成ってよい。ハニカム構造体が磁性材料を有する態様は任意である。例えば、磁性材料は、(1)外周壁20及び隔壁21の少なくとも一方の表面に設けられたコート層、(2)ハニカム構造体の一方及び他方の少なくとも端面においてセル21aを目封じする目封じ部、(3)セル21aに充填される構造体、及び/又は(4)ハニカム構造体の一方及び他方の少なくとも端面に設けられた溝部に埋め込まれた環状体に含まれていてよい。
【0088】
磁性材料は、例えば、板状、棒状、リング状、ワイヤ状、または繊維状のものを用いることができる。なお、本発明では、棒状の磁性材料とワイヤ状の磁性材料とは、長さ方向に垂直な断面の直径が0.8mm以上のものを棒状とし、0.8mm未満のものをワイヤ状として区別している。
【0089】
磁性材料をセル21aに充填する場合、またセル21aに目封じする場合、これら形状の磁性材料を、セル21aの形状に合わせて適宜使用することができる。磁性材料は、1つのセル21aに複数個が集合して充填されていてもよく、1個だけが充填されていてもよい。
【0090】
磁性材料をコート層として設ける場合、コート層は、磁性材料の粉体が分散した固着材を含む。固着材としては、ケイ酸、ホウ酸、又はホウケイ酸を含むガラス、結晶化ガラス、セラミックス、または、その他の酸化物を含む、ガラス、結晶化ガラス、セラミックス等を用いることができる。
【0091】
磁性材料を充填材として設ける場合、縦横に隣接するセル21aに関し、磁性材料は、1セルおきに配置されて千鳥状を構成していてもよく、2セル、3セル等の複数セルおきに配置されてもよく、連続して配置されていてもよい。磁性材料の充填材が充填されたセル21aの数、または配置等は制限されず、必要に応じて適宜設計することができる。加熱の効果を高める観点からは、磁性材料の充填材が充填されたセル21aの数を増やした方が良いが、圧力損失を下げる観点からはできるだけ減らした方が良い。
【0092】
充填材は、磁性材料と結合材または接着材料とで複合化した組成物で構成されていてもよい。結合材としては、例えば金属又はガラスを主成分とする材料が挙げられる。接着材料としては、シリカ又はアルミナを主成分とする材料が挙げられる。結合材または接着材料に加え、有機物又は無機物を更に含有してもよい。充填材は、ハニカム構造体の一方の端面から他方の端面まで全てに渡って充填されていてもよい。また、ハニカム構造体の一方の端面から、セル21aの途中まで充填されていてもよい。
【0093】
磁性材料の種類としては、例えば、残部Co-20質量%Fe、残部Co-25質量%Ni-4質量%Fe、残部Fe-15~35質量%Co、残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo、残部Fe-49質量%Co-2質量%V、残部Fe-18質量%Co-10質量%Cr-2質量%Mo-1質量%Al、残部Fe-27質量%Co-1質量%Nb、残部Fe-20質量%Co-1質量%Cr-2質量%V、残部Fe-35質量%Co-1質量%Cr、純コバルト、純鉄、電磁軟鉄、残部Fe-0.1~0.5質量%Mn、残部Fe-3質量%Si、残部Fe-6.5質量%Si、残部Fe-18質量%Cr、残部Fe-16質量%Cr-8質量%Al、残部Ni-13質量%Fe-5.3質量%Mo、残部Fe-45質量%Ni、残部Fe-10質量%Si-5質量%Al、残部Fe-36質量%Ni、残部Fe-45質量%Ni、残部Fe-35質量%Cr、残部Fe-13質量%Cr-2質量%Si、残部Fe-20質量%Cr-2質量%Si-2質量%Mo、残部Fe-20質量%Co-1質量%V、残部Fe-13質量%Cr-2質量%Si、残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo等が挙げられる。
【0094】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと理解される。
【符号の説明】
【0095】
10 :誘導加熱コイル
100 :導体
102 :軸端部
11 :部材
110 :軟磁性材
110e :軟磁性材ブロック
111 :支持材
2 :被加熱物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12