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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067538
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】養殖籠
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/55 20170101AFI20240510BHJP
【FI】
A01K61/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177701
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】520366101
【氏名又は名称】株式会社水谷精機工作所
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100224661
【弁理士】
【氏名又は名称】牧内 直征
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】水野 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 悠太
(72)【発明者】
【氏名】太田 みのり
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA22
2B104AA25
2B104AA26
2B104BA06
2B104DB05
(57)【要約】
【課題】簡易な構造でありつつ、付着物除去が容易であるとともに移動可能である養殖籠を提供する。
【解決手段】養殖籠1は、貝類の養殖籠1であって、網状部材21により形成された筒体2と、該筒体における回転軸O方向の両端部に設けられる2つの蓋部3、3と、養殖籠1をその回転軸Oを中心として回転させる回転翼4と、養殖籠1と他材を回転自在に接続する接続部材5とを有し、接続部材5は、養殖籠1における回転軸O上の両端部に設けられ、回転翼4は、平板状で、筒体2の外周面に垂直に設けられ、養殖籠1を側面視した場合における回転翼4の翼弦方向と養殖籠1の回転軸O方向とのなす角度が、0°よりも大きく90°未満の角度である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝類の養殖籠であって、
前記養殖籠は、網状部材により形成された筒体と、該筒体における回転軸方向の両端部に設けられる2つの蓋部と、前記養殖籠をその回転軸を中心として回転させる回転翼と、前記養殖籠と他材を回転自在に接続する接続部材とを有することを特徴とする養殖籠。
【請求項2】
前記接続部材は、前記養殖籠における回転軸上の両端部に設けられていることを特徴とする請求項1記載の養殖籠。
【請求項3】
前記回転翼は、平板状で、前記筒体の外周面に垂直に設けられ、
前記養殖籠を側面視した場合における前記回転翼の翼弦方向と前記養殖籠の回転軸方向とのなす角度が、0°よりも大きく90°未満の角度であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の養殖籠。
【請求項4】
前記養殖籠は、複数の前記回転翼を有する回転ユニットを前記蓋部に備え、
前記回転翼は平板状で、前記回転ユニットの外周部の枠体から中心へ向かって設けられ、
前記養殖籠を側面視した場合における前記回転翼の翼弦方向と前記養殖籠の回転軸方向とのなす角度が、0°よりも大きく90°未満の角度であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の養殖籠。
【請求項5】
複数の前記養殖籠は、前記接続部材同士が紐状部材によって接続され、海底と略平行となるように海中または海上に設けられることを特徴とする請求項2記載の養殖籠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海中で稚貝を養殖する貝類の養殖籠に関する。
【背景技術】
【0002】
貝類の養殖方法としては、筏などから吊り下げる方法(垂下式養殖法)、海に稚貝をまいて育てる方法、陸上の水槽などで育てる方法の大きく3つの方法がある。垂下式養殖法は、海を立体的に利用できるため生産性に優れることから、広く行われている。
【0003】
垂下式養殖法は、カルチ式養殖法とシングルシード式養殖法の2つに大別され、カルチ式養殖法は主に日本で行われており、シングルシード式養殖法は主に海外で行われている。例えば、カルチ式養殖法で牡蠣を養殖する場合、ホタテの殻に牡蠣の種を20~30個つけ、それをロープに連ねて海中に1~2年間沈めて養殖する。カルチ式養殖法では、牡蠣が過密になりながら成長していくため、大きさが不揃いになってしまい品質が安定しにくかったり、津波などで海が荒れた際に養殖設備の流失や破損が起こりやすかったりする。
【0004】
シングルシード式養殖法で牡蠣を養殖する場合、バスケット(養殖籠)の内部に牡蠣の稚貝一粒一粒をばらばらの状態で入れて海中に垂下して養殖する。シングルシード式養殖法では、大きさの揃った牡蠣を育てやすいこと、牡蠣に付着物がつきにくく、結果的に身の品質もよくなりやすいことなどの利点があることから、近年日本で注目されている。
【0005】
シングルシード式養殖法に用いる養殖籠として、例えば、特許文献1には、上部バスケット部分、下部バスケット部分、および少なくとも1つのドアを含み、上部および下部バスケット部分は上部および下部バスケット部分を一緒に接続するための接続手段を含む養殖籠が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国公開特許第2011/0220032号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シングルシード式養殖法を特許文献1に記載されているような養殖籠で行おうとする場合、輸入品で高価なため、設備投資の負担が大きく導入しにくい問題がある。
【0008】
また、特許文献1に記載の養殖籠の場合、貝類への付着物は減らせるものの、籠自体にはフジツボなどが時間経過とともに徐々に付着することで、籠の網目を徐々に詰まらせ、プランクトンなどを含んだ海水が出入りしにくくなる。その結果、養殖籠内部の貝類へ十分な餌が供給されず、貝類の生育に支障が出るおそれがある。そのため、養殖籠を用いる場合、高い生産性を確保するために付着物を容易に除去できることが重要である。
【0009】
さらに、養殖籠は通常一定の場所に定置されるが、赤潮や異常気象、災害の際に避難(移動)できないため被害を低減しにくい。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、簡易な構造でありつつ、付着物除去が容易であるとともに移動可能な養殖籠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の養殖籠は、貝類の養殖籠であって、上記養殖籠は、網状部材により形成された筒体と、該筒体における回転軸方向の両端部に設けられる2つの蓋部と、上記養殖籠をその回転軸を中心として回転させる回転翼と、上記養殖籠と他材を回転自在に接続する接続部材とを有することを特徴とする。
【0012】
上記接続部材は、上記養殖籠における回転軸上の両端部に設けられていることを特徴とする。
【0013】
上記回転翼は、平板状で、上記筒体の外周面に垂直に設けられ、上記養殖籠を側面視した場合における上記回転翼の翼弦方向と上記養殖籠の回転軸方向とのなす角度が、0°よりも大きく90°未満の角度であることを特徴とする。
【0014】
上記養殖籠は、複数の上記回転翼を有する回転ユニットを上記蓋部に備え、上記回転翼は平板状で、上記回転ユニットの外周部の枠体から中心へ向かって設けられ、上記養殖籠を側面視した場合における上記回転翼の翼弦方向と上記養殖籠の回転軸方向とのなす角度が、0°よりも大きく90°未満の角度であることを特徴とする。
【0015】
複数の上記養殖籠は、上記接続部材同士が紐状部材によって接続され、海底と略平行となるように海中または海上に設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の養殖籠は、網状部材により形成された筒体と、該筒体における回転軸方向の両端部に設けられる2つの蓋部と、養殖籠をその回転軸を中心として回転させる回転翼と、養殖籠と他材を回転自在に接続する接続部材とを有するので、接続部材を船などに接続して牽引した場合に養殖籠が回転軸を中心として回転する。これにより、本発明の養殖籠は、簡易な構造でありつつ、容易に付着物を除去できるとともに、養殖場所を移動できる。
【0017】
接続部材は、養殖籠における回転軸上の両端部に設けられているので、複数の養殖籠を接続し、端部の養殖籠を船などに接続して牽引することにより、各養殖籠が回転軸を中心として回転できる。これにより、付着物除去性および養殖場所の移動効率(一回の牽引で移動可能な養殖籠の個数)により優れる。
【0018】
回転翼は、平板状で、筒体の外周面に垂直に設けられ、養殖籠を側面視した場合における回転翼の翼弦方向と養殖籠の回転軸方向とのなす角度が、0°よりも大きく90°未満の角度であるので、養殖籠を船などで牽引した際に、水からの力を回転軸から遠い位置で受けることができる。その結果、養殖籠に対して回転力(モーメント)が掛かりやすく、付着物除去性により優れる。
【0019】
養殖籠は、複数の回転翼を有する回転ユニットを蓋部に備え、回転翼は平板状で、回転ユニットの外周部の枠体から中心へ向かって設けられ、養殖籠を側面視した場合における回転翼の翼弦方向と養殖籠の回転軸方向とのなす角度が、0°よりも大きく90°未満の角度であるので、養殖籠を船などで牽引した際に養殖籠が回転しやすいとともに、隣接する設備と接触しても回転翼が破損しにくい。その結果、付着物除去性に優れるとともに、複数の養殖籠をより近接させた状態で海中に設置でき、貝の生産性向上に繋がりやすい。
【0020】
複数の養殖籠は、接続部材同士が紐状部材によって接続され、海底と略平行となるように海中または海上に設けられるので、浅瀬であっても養殖でき、従来の養殖法では不適であった場所も漁場として活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の養殖籠の第1実施形態を示す図である。
図2】第1実施形態の養殖籠の側面図である。
図3】本発明の養殖籠の第2実施形態を示す図である。
図4】第2実施形態の養殖籠の側面図である。
図5】本発明の養殖籠の第3実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の養殖籠は、海中に垂下して用いられ、牡蠣、ホタテ、アサリ、ハマグリなどの貝類のシングルシード式養殖法に好適に用いることができる。
【0023】
本発明の養殖籠の第1実施形態について、図1を用いて説明する。図1は、第1実施形態の養殖籠の斜視図である。図1に示すように、養殖籠1は、網状部材21により形成された筒体2と、筒体2における回転軸O方向の両端部に設けられる2つの蓋部3、3とを有する。図1において、筒体2および蓋部3は、強度を確保するための枠体22、32を有している。筒体2および蓋部3において、網状部材21、31は、枠体22、32に取り囲まれる領域に設けられている。養殖籠1はさらに、養殖籠1をその回転軸Oを中心として回転させる回転翼4を有し、養殖籠1と他材(例えば、船に連結されたロープなどの紐状部材)を回転自在に接続する接続部材5を回転軸O上に有する。
【0024】
図1において、接続部材5は、蓋部3の中心に設けられている。接続部材5としては、例えば、内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体とを備える転がり軸受、スラスト軸受などの回転機構51を有する部材(例えば、スイベル吊り環など)を用いることができる。接続部材5は、他材との連結、脱離を自由に行える連結部52を設けることができる。連結部52としては、例えば、環状部材、外れ止め付きのフックなどを用いることができる。
【0025】
養殖籠は、上述のような簡易な構成であることにより、接続部材を船などに接続して牽引した場合に、回転軸を中心として回転できる。養殖籠が回転すると、籠内の貝は互いにぶつかり合い、貝殻表面の付着物が除去されるとともに、貝柱が太く実入りの良い貝(高品質な貝)になりやすい。なお、輸入品のバスケットの場合、貝の品質向上のための回転補助設備などの導入が必要であるところ、本発明の養殖籠を用いた場合そのような設備の導入は不要となり、コストの低減が可能である。また、船による養殖籠の移動が容易なため、養殖場所を生育環境の良い場所へと適宜変更できる。
【0026】
図1において、筒体2の形状は、回転軸O方向からの平面視において、正八角形となっている。養殖籠1の形状は、八角形に限られず、その他の多角形、略多角形、円形、楕円形などの形状にできる。筒体2の形状は、付着物除去性の観点からは、正多角形、円形などの回転軸Oを中心としてスムーズに回転しやすい形状であることが好ましい。
【0027】
筒体2の長軸(回転軸O)方向の長さは、例えば、20~150cmに設定でき、水揚げ時の作業性の観点から、30~120cmであることが好ましく、40~100cmであることがより好ましい。また、筒体2の外径は、例えば、10~100cmに設定でき、貝を取り出す際の作業性の観点から、20~80cmであることが好ましく、30~60cmであることがより好ましい。
【0028】
図1において、筒体2は網状部材21により形成される8つの面を有している。この8つの面のうち回転軸O周りの位置が互いに90°となる4つの面に回転翼4が1枚ずつ設けられている。養殖籠1が有する回転翼4の枚数は、例えば、2~16枚とできる。回転翼4の枚数は、構造の簡素化および取り扱いやすさ(軽量化)の観点から、2~8枚であることが好ましく、3~6枚であることがより好ましい。
【0029】
第1実施形態の養殖籠の有する回転翼の詳細について、図2を用いて説明する。図2は、第1実施形態の養殖籠の側面図である(接続部材については省略)。図2において、回転翼4は平板状の部材であり、筒体2の外周面に対して垂直に設けられている。なお、回転翼4は、筒体2の外周面に対して傾斜して設けられていてもよい。養殖籠1を側面視(対象とする回転翼が手前になるように側面視)した場合における回転翼4の翼弦方向Wと養殖籠1の回転軸O方向とのなす角度θは、約10°となっている。角度θは、例えば、0°よりも大きく90°未満の角度とすることができる。これにより、接続部材5に他材を接続して養殖籠1を牽引した場合に、回転翼4は養殖籠1に回転軸O周りの回転力を作用させることができる。角度θは、例えば、1~45°とすることができる。角度θは、牽引時の回転しやすさと水の抵抗抑制を両立する観点から、5~30°であることが好ましく、10~25°であることがより好ましい。なお、回転翼4は、湾曲した板状の部材であってもよい。また、回転翼4は、後述するように、筒体2以外の部材に設けられていてもよい。
【0030】
養殖籠を構成する部材は、例えば、ステンレス、アルミニウム、チタンなどの金属製、ABS樹脂(アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、EVA樹脂(エチレン・ビニルアセテート共重合体)、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)などの樹脂製、金属と樹脂との複合材料製、竹や木材などの天然素材製とすることができる。部材は、取り扱いやすさおよび耐久性の観点からは、樹脂製であることが好ましい。また、取り扱いやすさおよび環境負荷低減の観点からは、天然素材製であることが特に好ましい。さらに、持続可能な開発目標(いわゆるSDGs)の観点からは、リサイクル樹脂や、リサイクル部品を用いることが好ましい。
【0031】
網状部材は、例えば、板状部材に打ち抜き加工によりパンチ孔を形成した部材であってもよいし、ワイヤーを編んで形成した部材であってもよい。また、網状部材が樹脂製である場合、メッシュ形状が形成された射出成形体であってもよい。また、枠体は、板状や棒状の部材を組み立てたり溶接したりして製造された部材であってもよいし、樹脂製の射出成形体であってもよい。
【0032】
筒体以外の部材に回転翼が設けられた養殖籠について、図3を用いて説明する。図3は、第2実施形態の養殖籠の斜視図である。図3に示すように、第2実施形態の養殖籠1は、前後の蓋部3、3にそれぞれ回転ユニット40が設けられている。なお、回転ユニット40は、片側の蓋部3にのみ設けてもよい。回転ユニット40は、8枚の回転翼41を有している。回転翼41は、回転ユニット40の外周部の枠体42における8つの頂角から中心へ向かって延在しており、8枚の回転翼41が集合した箇所には接続部材5が設けられている。なお、回転ユニット40は、枠体42における頂角以外の箇所から中心へ向かって設けられる回転翼41を有してもよい。回転ユニット40は、例えば、回転翼41を2~32枚有することができる。なお、第2実施形態の養殖籠1において、筒体2は、網状部材21が枠体22の外側を包み込むように形成されている。
【0033】
第2実施形態の養殖籠の有する回転翼の詳細について、図4を用いて説明する。図4は、第2実施形態の養殖籠における手前側の枠体を取り除いた状態の側面図である(接続部材については省略)。図4において、回転翼41は平板状の部材であり、枠体42の所定の箇所から中心へ向かって設けられている。養殖籠1を側面視した場合における回転翼41の翼弦方向Wと養殖籠1の回転軸O方向とのなす角度θは、約20°となっている。角度θは、例えば、0°よりも大きく90°未満の角度とすることができる。角度θは、例えば、1~60°とすることができる。回転ユニット40により養殖籠1を回転させる場合、養殖籠1の外周面に回転翼を設ける場合と比べて翼弦方向Wの長さが短くなりやすい。そのため、回転力の発生と水の抵抗抑制を両立する観点から、角度θは、10~45°であることが好ましく、10~30°であることがより好ましい。また、回転翼41の枚数は、4~16枚であることが好ましく、4~8枚であることがより好ましい。
【0034】
上述のように蓋部に回転ユニットが設けられている場合、養殖籠が他の設備と接触した際などに枠体が回転翼を保護しやすく、回転翼が破損しにくい。また、回転翼が筒体に設けられた場合に比べ、養殖籠がコンパクトになりやすく、一定の領域内により多くの養殖籠を設置できる。その結果、貝の生産性向上に繋がりやすい。なお、養殖籠は、回転翼(回転ユニット)を筒体と蓋部の両方に有してもよい。貝を漁獲する際の作業性の観点からは、養殖籠は軽量であることが好ましく、養殖籠は回転翼を筒体または蓋部のいずれかに有することが好ましい。
【0035】
上述したように、筒体および蓋部には網状部材が設けられており、養殖籠の内部へプランクトンなどを含んだ海水が出入りでき、貝が籠外へ落下しないようにしている。網状部材の網目の孔径(最大内径の平均値)は、例えば、2~100mmに設定でき、貝の大きさに応じて適切な網目サイズの筒体を用いることができる。網状部材の網目の孔径は、貝に十分な海水を供給する観点から、10~80mmであることが好ましく、20~60mmであることがより好ましく、30~50mmであることがさらに好ましい。養殖籠を牽引する場合、蓋部には水の抵抗が掛かる。そのため、蓋部の網状部材は、筒体の網状部位に対して網目の孔径が1倍よりも大きいことが好ましく、2倍よりも大きいことがより好ましい。この場合、養殖籠が牽引された場合に、蓋部が水の抵抗を受けにくく、養殖場所をより容易に移動できる。なお、蓋部には、網状部材の代わりに、網目を有しない板状部材が設けられていてもよい。
【0036】
蓋部には網状部材が設けられていなくてもよい。その場合、蓋部には、上述した回転ユニットが設けられることが好ましい。これにより、回転ユニットが有する複数の回転翼によって籠内部への海水の出入りと貝の落下防止が図られるとともに、養殖籠を蓋部側から平面視した場合の開口面積が大きくなりやすい。その結果、網状部材の場合に問題となりやすい付着物による蓋部の閉塞が起こりにくくなるとともに、養殖籠を牽引する際により多くの水が籠内に流入しやすいことで、付着物除去性にも優れる。蓋部に網状部材を設けず、回転ユニットを設ける場合、回転力の発生および貝の落下防止の観点から、回転翼の枚数は、8~32枚であることが好ましく、16~32枚であることがより好ましい。
【0037】
複数の養殖籠を接続した形態について、図5を用いて説明する。図5は、第3実施形態の養殖籠の斜視図である。図5に示すように、第3実施形態の養殖籠は、複数の養殖籠1同士を接続した養殖ユニット10である。養殖籠1において、接続部材5は、養殖籠1における回転軸上の両端部にそれぞれ1つずつ設けられている。複数の養殖籠1の接続部材5同士は紐状部材6によって接続され、養殖ユニット10における末端の養殖籠1の接続部材5にも紐状部材6が締結されている。これにより、末端の養殖籠1を船などに接続して牽引することで、一度の牽引でより多くの養殖籠を移動でき、労力を低減できる。また、接続部材5は回転自在なため、接続された複数の養殖籠1を養殖場所から作業場所などへ海中を移動する際に、各養殖籠が別個に回転でき、ねじれにくいため、接続部材5などに過度な力が掛からず、耐用年数の向上に繋がりやすい。なお、接続する養殖籠1の数は、養殖場所(海域)に応じて適宜設定できる。
【0038】
図5において、3個の養殖籠1が接続されている。養殖籠1の接続個数は、例えば、2~20個とすることができる。養殖籠1の接続個数が2個よりも少ないと場所の移動時に多くの回数を往復しなければならず多大な労力を要することとなりやすい。また、20個よりも多いと船などでの移動が困難となったり、作業性が低下したりしやすい。養殖籠1の接続個数は、移動の容易性と作業性とを両立させる観点から、4~10個であることが好ましい。
【0039】
複数の養殖籠を接続した状態で養殖から漁獲まで行う場合、作業性の観点から、養殖籠同士の接続には紐状部材を用いることが好ましい。なお、連結部が外れ止め付きのフックである場合、各養殖籠における接続部材の連結部同士を直接接続してもよい。養殖籠同士の接続に紐状部材を用いた場合、各養殖籠の動きの自由度が高まり、作業性の向上に繋がる。養殖籠同士の接続に紐状部材を用いる場合、紐状部材の長さは、例えば、養殖籠の長軸方向の長さの0.01~0.5倍にできる。紐状部材の長さは、作業性と生産性を両立する観点から、養殖籠の長軸方向の長さの0.05~0.3倍であることが好ましく、0.1~0.2倍であることがより好ましい。
【0040】
養殖ユニットを用いて養殖を行う場合、養殖ユニットは、例えば、海底と略平行となるように海中または海上に設けることができる。この場合、従来のカルチ式養殖法のように上下方向に連ねて垂下する養殖法では養殖場所として不適であった浅瀬なども活用でき、地域資源の有効活用や漁獲量の増大が期待できる。養殖ユニットは、例えば、養殖籠の素材選択や養殖籠への中空部材の設置によって浮力を調整することで、海中または海上に設けることができる。この場合、養殖ユニットの両端部のうち少なくとも一方の端部を支持体へ係留することで養殖場所へ容易に設置できる。津波や台風時における設備の破損や漂流などを抑制する観点からは、養殖ユニットの両端部をそれぞれ2つの支持体へ係留することが好ましい。また、船などでの移動の際も養殖ユニット端部の付け替えを行えば牽引でき、作業性にも優れる。
【0041】
また、養殖ユニットにおける複数の養殖籠を所定の間隔で浮きや支持体から海中へ垂下させた状態で配置してもよい。接続した複数の養殖籠は、例えば、1~5個の間隔で浮きや支持体に連結して垂下することができる。本発明の養殖籠によれば、複数の養殖籠を接続して扱うことができることで1個ずつ別個に垂下させる必要がなく、作業性に優れる。
【0042】
成長した貝を籠から出して漁獲する際には、養殖籠を海中から引き揚げて、台上で各養殖籠の向きを変えるなどの作業を行うため、各養殖籠の動きにはある程度の自由度があることが好ましい。なお、接続部材は、養殖籠の回転軸上における2つの端部のうち少なくとも1つの端部に設けられていればよい。
【0043】
以上、各図などに基づき本発明の養殖籠について説明したが、本発明の構成はこれに限定されるものではない。本発明の養殖籠は、例えば、ウニやナマコなどの棘皮動物の養殖にも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の養殖籠は、簡易な構造でありつつ、付着物除去が容易であるとともに移動可能であるので、異常気象時でも安定的に生産でき、また作業負担を軽減できる。その結果、国産貝の養殖に広く利用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0045】
1 養殖籠
10 養殖ユニット
2 筒体
21 網状部材
22 枠体
3 蓋部
31 網状部材
32 枠体
4 回転翼
40 回転ユニット
41 回転翼
42 枠体
5 接続部材
51 回転機構
52 連結部
6 紐状部材
O 回転軸
、W 翼弦方向
図1
図2
図3
図4
図5